説明

銅系材料の腐食抑制剤と該腐食抑制剤を含有する潤滑油

【目的】 銅系材料の腐食抑制剤と該腐食抑制剤を含有する潤滑油の提供
【構成】 含酸素有機化合物を含有した潤滑剤に起因する銅系材料の蟻の巣状腐食に対する抑制剤であって、尿素系及び/ 又はチオ尿素系有機化合物からなることを特徴とする腐食抑制剤および該腐食抑制剤を含有する潤滑剤。
【効果】 含酸素有機化合物を含有し、銅系材料に対して水との反応により蟻の巣状腐食を生じ易い潤滑油に対して、銅系材料に対する蟻の巣状腐食性を効果的に防止できる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、銅系材料の蟻の巣状腐食抑制剤と該抑制剤を含んだ潤滑油に関するものであり、特に、空調冷凍機器等の配管に用いられる銅管の曲げ加工、拡管加工そして引伸し加工等に使用される潤滑油に起因して生じる銅系材料の蟻の巣状腐食について、その腐食抑制剤と該腐食抑制剤を含んだ潤滑油に関する。
【0002】
【従来の技術】銅系材料は、その加工性、熱伝導性、電気伝導性等より各種用途に用いられているが、家庭用ルームエアコン等の空調冷凍機器には熱伝導性を高めるため銅管が広く用いられている。近年、このような中空材の銅管において原因不明の貫通事故が発生しその対策が問題となっていた。この種の事故が生じた銅管を調査した結果、腐食によって貫通事故が発生したことが明らかになった。この腐食の特徴的な点は腐食孔の表面開口が目視では見い出せない程小さく、例えば10μm 以下であるのに対して、腐食孔内部は、トンネル状に腐食孔が深さ方向に多数形成されていることであり、この腐食形態があたかも蟻の巣のように見えることから蟻の巣状腐食もしくは異常形態腐食と呼ばれている。
【0003】銅管の腐食は、一般に、潰食、孔食および腐食疲労などに分類されているが、上記蟻の巣状腐食は従来の腐食の形態とは全く異なる形態の腐食である。蟻の巣状腐食では、腐食孔近傍表面は、赤褐色に変色した程度であり、銅配管内面に生じた孔食のように食孔を覆う緑青色の腐食生成物は表面には認められない。従来、確認されているのは、銅管の断面観察においてトンネル状の腐食孔壁面に認められる腐食生成物が亜酸化銅であることがX線回折分析等の結果明らかになっているだけであり、代表的な腐食原因物質である塩素、フッ素、イオウも検出されず、腐食媒も特定されていないのが現状である。因みに、上記蟻の巣状腐食は空調機器の組立時の検査では見出されず、一定期間製品を保管した後の出荷時の製品検査やユーザーの使用初期に発見されることが多い。従って、蟻の巣状腐食は製品の組立後短期間に進行し、貫通に至るものと考えられる。例えば0.35mmの肉厚の銅管が3ヶ月以内に貫通事故を起こす実例もある。
【0004】銅管の蟻の巣状腐食に関する従来の研究としては、山内等が伸銅技術研究会誌(1983年)22巻に投稿した論文「銅管の異常形態腐食について」があり、この報告では、蟻の巣状腐食の腐食媒として脱脂洗浄剤である塩素系有機溶剤の分解生成物質の可能性を指摘している。また一方その後、蟻酸により銅管の蟻の巣状腐食が再現されることが確認されている。しかし、塩素系有機溶剤が水と反応して加水分解しても蟻酸は生成されず、更に本発明者の研究によると、塩素系有機溶剤による脱脂洗浄工程を受けない銅管においても蟻の巣状腐食による貫通事故が見つかっている。
【0005】そこで本発明者は、塩素系有機溶剤も蟻の巣状腐食の原因物質の1種と考えられるが、この他に、共通の腐食原因物質として潤滑油に着目した。即ち、潤滑油は、塩素系有機溶剤の使用の有無に拘わらず銅管加工に広く用いられており、しかも潤滑油は各種の有機物質で構成されるため、その加水分解生成物から蟻の巣状腐食の原因となる蟻酸も生成するのではないかと考えた。
【0006】
【従来技術の課題】銅管の蟻の巣状腐食は、空調機器伝熱管や冷媒配管などに見い出される割合が高い。特にアルミフィンの装着された熱交換器ユニット内の銅管において蟻の巣状腐食の発生する割合が高いことが本発明者の事例解析で判明した。この用途に用いられる銅管は、銅管メーカーで伸管加工、光輝焼鈍を経た軟質材で熱交換器加工メーカーに出荷されるが、出荷される銅管は、オージェ分析等の高精度微量分析機器でその表面を分析しても大気吸着量に相当するカーボン量が検出されるのみであり、潤滑油等の汚雑物質が全く認められないレベルまで洗浄されている。熱交換器加工メーカーは、銅管メーカーから受入れた銅管に潤滑油を塗着させた後、銅管の切断、口付け部の拡管加工やアルミフィン固定用のボール拡管等を施した後にアルミフィンを銅管に固定して熱交換器を組立てる。この時に用いられる潤滑油は、アルミフィンプレス油を転用したものや、マシン油あるいは冷凍機油等であり、基本的には銅系材料専用の潤滑油ではなく、銅系材料専用の潤滑油は販売されていないのが実状である。
【0007】熱交換器の組立ての際に用いられている潤滑油は、一般的には有機塩素溶剤で洗浄されることが多いが、熱交換器内の銅配管はS字状に繰返し曲げられているため、銅配管内の潤滑油を完全に洗浄するのは不可能であり、多少なりとも潤滑油が銅配管に残留しているのが実情である。また、最近では環境汚染を防止するため塩素系有機溶剤の使用が規制されており、これに伴って従来用いられていた不揮発性潤滑油に代えて洗浄不要の自己揮発性潤滑油の使用が増加しつつある。従って、銅配管に潤滑油が残留するケースが一層多くなっている。
【0008】本発明者は多数の潤滑剤(7社、20種の製品)について、後述する実施例と同様の方法により、銅管の蟻の巣状腐食の再現試験を試みた。その結果、17種の潤滑剤について上記蟻の巣状腐食を再現することに成功し、蟻の巣状腐食の原因が潤滑剤であることを見出した。この結果の一例を図1に示す。図1は市販の潤滑油に銅管を3ケ月浸漬して蟻の巣状腐食が発生した金属組織を示す顕微鏡写真(倍率100倍)である。また、蟻の巣状腐食を生じた潤滑剤は、水と反応して蟻酸あるいは酢酸を生成することがイオンクロマトグラフ分析によって確認された。更にこれらの潤滑剤には何れも共通成分として含酸素有機化合物、即ち、エステル、エーテル、高級アルコール等が含まれていることが機器分析により明らかにされた。これらの化合物は水と加水分解して低分子量のアルコール、アルデヒドを生成することが知られており、従って、潤滑剤に含まれる含酸素有機化合物が上記蟻の巣状腐食の原因物質の1つであることが予想された。
【0009】本発明者は上記知見に基づき、潤滑剤の分解生成物であるメチルアルコール、ホルムアルデヒド、蟻酸のC1 化合物、およびエチルアルコール、アセトアルデヒド、酢酸のC2 化合物に注目し、これらの単一化合物を用いて銅管の蟻の巣状腐食の再現を試みたところ、何れの化合物についても蟻の巣状腐食が発生した。なお、この一例を図2に示す。図2はアセトアルデヒドに銅管を1ケ月浸漬して蟻の巣状腐食が発生した金属組織を示す顕微鏡写真(倍率200倍)である。また上記腐食再現試験における侵蝕深さに基づく腐食の相対的な強さは次の通りであった。なお酢酸の場合は腐食形態が孔食的である。
ホルムアルデヒド>蟻酸>メチルアルコール=アセトアルデヒド>エチルアルコール>酢酸
【0010】以上のように、銅系材料に見られる蟻の巣状腐食の主な原因物質は、潤滑剤に含まれる含酸素有機物の分解生成物であるアルデヒド、カルボン酸、アルコールであり、なかでもアルデヒドが最も強い腐食性を有することが判明した。これらの物質は、例えばアルコールは酸化されてアルデヒドになり、またカルボン酸はアルデヒドの酸化によって生成するなど、何れもアルデヒド基(−CHO基)が関与することから、蟻の巣状腐食にはアルデヒド基の還元性が強く影響していること明らかである。従来、腐食原因として最も一般的に考えられるのは酸の存在である。ところが蟻の巣状腐食は前述の如く、アルデヒド基等の還元性物質の存在が大きな影響を与えており、単に酸性物質の存在に止まらず還元性物質の存在が重要である点が従来の腐食機構と大きく相違する。
【0011】蟻の巣状腐食は、滴状に付着した水滴を媒体にして進む酸素濃淡電池型の湿式腐食であり、水滴中の溶存酸素を仲立ちとして腐食が進行する。具体的には、蟻の巣状腐食特有の腐食孔内部におけるトンネル状の侵食は、トンネル状腐食孔先端のアノード部に還元性の−CHO基が作用して腐食孔先端は常に活性を維持し、アノードとなってCuの溶出を生じ、これを繰り返す結果、腐食孔が一方向に延びたトンネル状の侵食が生ずると考えられる。また一方、腐食孔の壁面には厚い亜酸化銅膜が認められる。これは、トンネル状腐食孔の壁面において溶存酸素の還元によるカソード反応が進むと考えられ、従って腐食が進み腐食孔がトンネル状に深くなるに従い、カソード部が増大して侵食速度は加速度的に増大すると考えられる。以上のような腐食反応が起こるため、他の腐食には例を見ない侵食速度で腐食が進行し、0.35mmの肉厚の銅管が僅か3ヶ月程度で貫通事故に至ると考えられる。また、腐食媒が、これまでに多くの研究者による各種高精度分析機器を用いた調査にもかかわらず特定できないのも、腐食媒が前述したアルコール、アルデヒド、カルボン酸であるとすれば、その蒸発性、水溶性より理解できる。
【0012】
【発明の解決課題】以上述べたように銅系材料の蟻の巣状腐食は潤滑油が原因であるが、従来は腐食メカニズムが不明であり、従って、その腐食抑制剤として有効な物質は見出されておらず、その原因物質である潤滑油も全く改善されていない。しかも、前述の如く、蟻の巣状腐食は従来の単なる酸腐食と異なり、アルデヒドなどの還元物質が大きく関与しており、このため従来の腐食抑制剤として知られている物質をそのまま転用しても殆ど腐食抑制効果がない。例えば、従来用いられているアルコール系腐食抑制剤は蟻の巣状腐食においてはむしろ腐食原因物質であり全く効果がない。また潤滑油には種々の目的で各種添加剤が添加されることがある。例えば潤滑油の分解防止のためフェノール系の酸化防止剤が添加されたり、金属の腐食防止のため、アントラキノン系の金属不活性剤や、スルホネート系の腐食防止剤が添加されることがある。そこでこれらの物質について後述する実施例と同様な実験条件で蟻の巣状腐食に対する腐食抑制効果を試験した。試験には添加剤として、フェノール系では、2.6-ジ-tert-ブチル−p−クレゾール、アントラキノン系では、1.4 −ジオキシアントラキノン、スルホネート系では、Na- スルホネートを用いたが、いずれもりん脱酸銅管の蟻の巣腐食抑制には効果を示さなかった。このように、従来その腐食メカニズムが不明であった蟻の巣状腐食について、本発明はその有効な腐食抑制物質を提供することを目的とし、腐食の原因である潤滑油について腐食抑制効果を有する改良された潤滑油を提供することを目的とする。
【0013】本発明者は銅系材料の蟻の巣状腐食について、その腐食メカニズムを追求し、従来、腐食抑制効果を有するものと考えられていたアルデヒドなどの還元物質がむしろ腐食原因であることを解明し、この知見に基づき、多数の化合物について検討した結果、顕著な腐食抑制効果を有する化合物を見出した。またこの化合物を潤滑油に添加することにより、銅系材料の蟻の巣状腐食について優れた腐食抑制効果を有する潤滑油が得られた。
【0014】
【課題の解決手段】即ち、本発明によれば、含酸素有機化合物を含有した潤滑剤に起因する銅系材料の蟻の巣状腐食に対する抑制剤であって、尿素系及び/ 又はチオ尿素系有機化合物からなることを特徴とする腐食抑制剤が提供される。さらに本発明によれば、含酸素有機化合物を含有した銅系材料の加工用潤滑油であって、銅系材料の蟻の巣状腐食に対する抑制剤である尿素系及び/ 又はチオ尿素系有機化合物からなる腐食抑制剤を含有することを特徴とする潤滑油が提供される。
【0015】前記尿素系及び/ 又はチオ尿素系有機腐食抑制剤として特に好適なものは次の一般式に示されるものである。
R−NH−CO−NH2 (式中、Rは水素原子、アルキル基、フェニル基、ナフチル基、アルキルフェニル基、またはアセチル基)
1 −NH−CO−NH−R2 (式中、R1 、R2 はアルキル基、フェニル基、ナフチル基、アルキルフェニル基、またはアセチル基)
R−NH−CS−NH2 (式中、Rは水素原子、アルキル基、フェニル基、ナフチル基、アルキルフェニル基、またはアセチル基)
1 −NH−CS−NH−R2 (式中、R1 、R2 は上に定義したとおり)
【0016】この尿素系及び/ 又はチオ尿素系有機化合物は、銅系表面に優先的に吸着して局部的腐食を防止するとともに、エステル、エーテル等の含酸素有機化合物の加水分解反応自体を抑制し、蟻の巣状腐食の発生、成長を抑制する。
【0017】上記尿素系及び/ 又はチオ尿素系有機化合物の代表的な具体例を以下に示す。
【化1】


【化2】


【化3】


【化4】


また次式( 化5) に示すN-トリメチルシリルフェニル尿素のように複雑な結合基を有した尿素化合物、或いは、より多くのアミノ基を有する1-フェニルセミカルバジド(C6 5 NHNHCONH2 )なども有効である。
【化5】


【0018】前記尿素系及び/ 又はチオ尿素系有機腐食抑制剤の潤滑油に対する添加量としては、潤滑油中に含まれる含酸素有機化合物量の影響を受け、また潤滑油の用いられる環境条件によって影響を受けるため、一律に定め難いが、0.01〜50g/l の範囲が好ましい。0.01g/l 以下では蟻の巣状腐食の抑制効果が小さく、また50g/l を越えてもそれ以上の改善効果を期待できず、むしろ潤滑油本来の機能が低下するので好ましくない。
【0019】また、前記尿素系及び/ 又はチオ尿素系有機腐食抑制剤は、潤滑油に対して溶解性を有しているのが望ましく、潤滑油には少くとも0.005g/l 以上溶解していることが、潤滑油の分解、防止効果及び銅系材料への吸着性からみて好ましい。
【0020】更に銅系材料の蟻の巣状腐食は、水を媒体して生ずる腐食であるため、前記尿素系及び/ 又はチオ尿素系有機腐食抑制剤は、水に対する溶解性も有していることが、蟻の巣状腐食の抑制の点から好ましく、充分な抑制効果を発揮するためにも水に対して0.005g/100ml 以上の溶解性を有していることが望ましい。
【0021】本発明の尿素系及び/ 又はチオ尿素系有機腐食抑制剤を添加した潤滑油は以下の効果を有する。
(1) 有機腐食抑制剤を含んでいるため、潤滑油の水に対する安定性が向上し、蟻の巣状腐食の腐食媒である低分子量のアルコール、アルデヒド、蟻酸の生成が抑制される。
(2) 潤滑油中の有機腐食抑制剤が銅系材料表面の活性点に優先的に吸着し、銅系材料自体が水と直接々触するのを防ぐとともに、銅系材料の表面安定性を高めて腐食を抑制する。
(3) 有機腐食抑制剤は、潤滑油に対する溶解性を有するため、潤滑油の劣化防止効果が高い。
(4) 有機腐食抑制剤は水に対する溶解性を有しているため、潤滑油の分解劣化によって生じた腐食媒が、潤滑油から水中に溶け出て腐食作用に参加するのに対して、有機腐食抑制剤も潤滑油中から水中へ溶け込んで、銅系材料表面に吸着して表面を保護するとともに腐食媒と反応してその腐食活動を抑制する。
【0022】或る種の潤滑油は、自己揮発性を有し、外気温の変化によって蒸発凝縮を繰り返し、本来塗布された部分と異なる部位において潤滑油の凝集を生ずることがあり、これら自己揮発性の潤滑油による蟻の巣状腐食を抑制するためには、有機腐食抑制剤が潤滑油中の腐食性蒸発部分と同様な蒸発挙動を示すのが好ましく、常温で或る程度の気化性を有しているのが好ましい。また不揮発性の潤滑油については不揮発性の腐食抑制剤が好ましい。本発明の有機腐食抑制剤は潤滑油の上記性質に応じて適宜選択される。
【0023】次に本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。銅系材料としては、φ9.52×0.35×300mm のりん脱酸銅管OL材(JISH3300、C1220T-OL )を腐食試験に用いた。りん脱酸銅管はアセトン中で超音波洗浄し、充分清浄化した後、乾燥し、試験材とした。この清浄化したりん脱酸銅管の片端をシリコン栓で密栓し、銅管内には腐食液を1ml注入した後、他端をシリコン栓で密栓した後、管をよく振り、管内面に腐食液すなわち潤滑油を付着させた。
【0024】腐食液の作製方法は、次の通りである。潤滑油としては、発明者の実施した蟻の巣状腐食再現試験の中で最も大きな蟻の巣状腐食を生じた自己揮発性潤滑油(商品名OAK50-5 )、また比較的蟻の巣状腐食を起こし難かった不揮発性潤滑油(商品名OAK11-b )、更に潤滑油の構成々分の代表としてポリプロピレングリコールを選択した。そしてこれら潤滑油に第1表〜第3表に示す尿素系及び/ 又はチオ尿素系有機腐食抑制剤を所定量添加した後に良く攪拌し、有機腐食抑制剤の潤滑油中への溶解を図った後、メスピペットで0.5ml の有機腐食抑制剤入りの潤滑油をりん脱酸銅管内に注入し、別のメスピペットで引続いて0.5ml の純水をりん脱酸銅管内に注入し、実施例の腐食液1mlとした。比較例の腐食液についても、有機腐食抑制剤を添加しない以外は実施例と同じ方法により調製した。
【0025】次に腐食液の注入されたりん脱酸銅管(管長 300mm)を恒温水槽に、長手方向に立て水中に半分浸漬して保持した。恒温水槽には25℃で12時間、40℃で12時間の1日1サイクルの条件で温度変化を与え、これによりりん脱酸銅管に昼夜の温度サイクルを模擬した加熱、冷却を加え蟻の巣状腐食の生じ易い環境条件を形成した。試験期間は、自己揮発性潤滑油(商品名OAK50-5 )とポリプロピレングリコールを含む腐食液については1ヶ月、不揮発性潤滑油(商品名OAK11-b )については3ヶ月とした。
【0026】試験終了後、りん脱酸銅管を恒温水槽より取り出し、銅管を長手方向に2分割した後、断面研磨、光学顕微鏡観察を行って銅管の蟻の巣状腐食の侵食深さを計測した。これらの結果を第1表から第2表に示す。また比較例1について試料の顕微鏡断面写真を図3に示す。尚、蟻の巣状腐食は、銅管内面の赤色斑点状腐食部下に存在するので、この部分の断面研磨、検鏡により容易に見つけることができる。第1表から第2表に示すように、本発明の尿素系及び/ 又はチオ尿素系有機腐食抑制剤は、潤滑油による蟻の巣状腐食に対して顕著な腐食防止及び抑制効果を有する。一方、本発明の腐食抑制剤を用いない比較例においては、図3に示すように典型的な蟻の巣状腐食が発生している。
【0027】銅ニッケル合金管(9-1 キュプロ JIS C7060)について、上記実施例と同様に方法により、自己揮発性潤滑油(商品名OAK50-5 )に本発明の有機腐食抑制剤を添加したものと、添加しないものについて腐食試験を行った。この結果を表3に示す。この結果から明らかなように、銅合金に対しても本発明の有機腐食抑制剤を添加した潤滑油では蟻の巣状腐食が全く発生せず、優れた腐食防止ないし腐食抑制効果が確認された。
【0028】更に、これらの尿素系及び/ 又はチオ尿素系有機腐食抑制剤は、潤滑油に添加して用いる態様に限らず、銅系材料表面に予め塗布した後、潤滑油と接触させても潤滑油による蟻の巣状腐食に対してほぼ同様な抑制効果を発揮する。
【0029】
【発明の効果】このように本発明によれば、含酸素有機化合物を含有し、銅系材料に対して水との反応により蟻の巣状腐食を生じ易い潤滑油でも、尿素系及び/ 又はチオ尿素系有機腐食抑制剤を含有させることにより、銅系材料に対する蟻の巣状腐食性を効果的に防止できる。またこの有機腐食抑制剤を銅系材料の表面に塗布することにより同様の腐食抑制効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 市販の潤滑油に銅管を3ケ月浸漬して蟻の巣状腐食が発生した金属組織を示す顕微鏡写真(倍率100倍)。
【図2】 アセトアルデヒドに銅管を1ケ月浸漬して蟻の巣状腐食が発生した金属組織を示す顕微鏡写真(倍率200倍)。
【図3】 比較例1の蟻の巣状腐食が発生した金属組織を示す顕微鏡写真(倍率200倍)。
【表1】


【表2】


【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】 含酸素有機化合物を含有した潤滑剤に起因する銅系材料の蟻の巣状腐食に対する抑制剤であって、尿素系及び/ 又はチオ尿素系有機化合物からなることを特徴とする腐食抑制剤。
【請求項2】 請求項1の腐食抑制剤であって、次の一般式で表わされる尿素系及び/ 又はチオ尿素系有機化合物からなる腐食抑制剤。
R−NH−CO−NH2 (式中、Rは水素原子、アルキル基、フェニル基、ナフチル基、アルキルフェニル基、またはアセチル基)
1 −NH−CO−NH−R2 (式中、R1 、R2 はアルキル基、フェニル基、ナフチル基、アルキルフェニル基、またはアセチル基)
R−NH−CS−NH2 (式中、Rは水素原子、アルキル基、フェニル基、ナフチル基、アルキルフェニル基、またはアセチル基)
1 −NH−CS−NH−R2 (式中、R1 、R2 は上に定義したとおり)
【請求項3】 含酸素有機化合物を含有した銅系材料の加工用潤滑油であって、銅系材料の蟻の巣状腐食に対する抑制剤である尿素系及び/ 又はチオ尿素系有機化合物からなる腐食抑制剤を含有することを特徴とする潤滑油。
【請求項4】 含酸素有機化合物を含有した銅系材料の加工用潤滑油であって、請求項2の一般式で示される尿素系及び/ 又はチオ尿素系有機化合物からなる腐食抑制剤を少なくとも1種又は2種以上含有することを特徴とする潤滑油。
【請求項5】 上記有機腐食抑制剤を0.01〜50 g/l含有することを特徴とする請求項3または4の銅系材料の加工用潤滑油。
【請求項6】 上記有機腐食抑制剤が潤滑油に少なくとも0.005 g/l以上溶解していることを特徴とする請求項3、4または5の銅系材料の加工用潤滑油。
【請求項7】 上記有機腐食抑制剤が水に対して少なくとも0.005 g/100ml以上の溶解性を有していることを特徴とする請求項3、4、5または6の銅系材料の加工用潤滑油。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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