説明

小麦ふすま微粉の製造方法及び小麦ふすま微粉を含む食品

【課題】 小麦ふすまは様々な栄養素を多く含むが、食味が劣るため、これまで主に飼料として利用されるか廃棄の対象でしかなかった。そこで、本発明は、小麦ふすまの食味を改善することにより、各種栄養素を多く含む小麦ふすまの各種加工食品への添加を容易にすることを目的とする。
【解決手段】 本発明は、メカノケミカル効果を有する媒体ミルを用いて小麦ふすまを粉砕することを特徴とする、成分が非晶質化した小麦ふすま微粉の製造方法を提供する。また、小麦ふすまのザラつき感がなくなるだけでなく、雑味の原因となる水溶性タンパク質の溶出や臭い成分の放散が抑制されて食味が顕著に向上した、前記製造方法によって得られた小麦ふすま微粉を提供する。また、前記小麦ふすま微粉を用いた各種加工食品を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メカノケミカル効果を有する媒体ミルで小麦ふすまを粉砕することを特徴とする小麦ふすま微粉の製造方法、;前記製造方法によって得られる成分が非晶質化した小麦ふすま微粉、;および前記小麦ふすま微粉を含む加工食品、;に関する。
【背景技術】
【0002】
小麦粉製造の際に生じる小麦ふすまは、原料の約20%を占め、国内発生量は年間約190万tと言われているが、食味が劣るため、ほとんど食用に用いられず、主に飼料として利用されている。
しかし、小麦ふすまには、食物繊維や各種ミネラル、ビタミン、抗酸化成分(フェルラ酸など)が豊富に含まれるため(非特許文献1〜4参照)、食用に適するよう加工できれば、農産廃棄物の減少のみならず、国民の食生活の向上にもつながる。
また、小麦ふすまから食物繊維やフェルラ酸を抽出する方法(非特許文献2〜4参照)も報告されているが、実際にサプリメントとして利用は未だほとんどされていない。
そこで、小麦ふすまの食味を改善することにより、各種加工食品への添加が可能となる技術開発が求められている。
【0003】
小麦ふすまの食味改善方法としてはこれまでに、100〜180℃で焙煎後、粒径50〜500μm(平均粒子径150μm)へ粉砕する方法(特許文献1参照)、粒径20〜200μm(平均粒子径80μm)へ微粉砕する方法(特許文献2参照)、脱脂後に焙煎し粉砕する方法(特許文献3参照)、ふすまに水や穀粉、澱粉を加えて挽臼式で粉砕する方法(特許文献4参照)などが報告されている。
しかし、これら従来の方法では、以下のような欠点や問題点が存在する。
まず、特許文献1及び3の方法では、焙煎工程があるため、褐変によって見栄えが劣り、小麦ふすまに含まれる有用成分も分解する恐れがある。
また、特許文献1及び2の方法では、微粉の平均粒子径が大きいため、食感にザラつきが残る。
また、特許文献3の方法では、脱脂工程とその後の溶媒除去工程が煩雑なうえ、脂溶性の有用成分が除去される。
また、特許文献4の方法では、ペースト状で提供されるため、流通させるには、再乾燥させるか、冷凍保蔵する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−204411号公報
【特許文献2】特開平5−304915号公報
【特許文献3】特開平11−103800号公報
【特許文献4】特許3228906号公報
【特許文献5】特開2008−212025号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「小麦とその加工」建常社、第2刷、261〜265頁、1989年
【非特許文献2】日本食物繊維研究会誌、4巻、9〜16頁、2000年
【非特許文献3】日本食品科学工学会誌、55巻、245〜249頁、2008年
【非特許文献4】Food Science and Technological Research、14巻、553〜556頁、2008年
【非特許文献5】Journal of Applied Glycoscience、56巻、71〜76頁、2009年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明では、食味が顕著に向上し、なおかつ有用成分が保持された小麦ふすま加工技術を開発することを目的とする。
また、本発明では、当該小麦ふすまを含む様々な加工食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、小麦ふすまを、メカノケミカル効果を有する媒体ミルを用いて所定条件で粉砕することにより、成分が非晶質化した小麦ふすま微粉が得られることを見出した。
そして、当該処理を行った小麦ふすま微粉では、従来の小麦ふすまと比べて、舌ざわりが良くなるだけでなく、雑味の原因となる水溶性タンパク質の溶出や、独特の臭いの放散が抑えられるため、食味が顕著に向上することを見出した。
また、当該小麦ふすま微粉の製造工程では、焙煎や抽出工程がないため、ビタミンやミネラル、食物繊維、フェルラ酸などの機能性成分の分解や流亡の恐れもない。
【0008】
なお、媒体ミルを用いた粉砕例としてはこれまでに、カニ殻等に含まれるキチンを分解した例(特許文献5参照)や、稲ワラを粉砕して酵素による糖化効率を高めた例(非特許文献5参照)は知られているが、穀類等を当該媒体ミルで粉砕することで、成分が非晶質化されて食味が顕著に向上することは一切知られていない。
【0009】
本発明は、これらの知見に基づいてなされたものである。
即ち、〔請求項1〕に係る本発明は、原料である小麦ふすまを、メカノケミカル効果を有する媒体ミルを用いて、100℃以下の条件下において、平均粒子径を20μm以下、かつ水溶性タンパク質の抽出率が未粉砕と比べ70%以下になるように粉砕することを特徴とする、小麦ふすま微粉の製造方法、に関するものである。
また、〔請求項2〕に係る本発明は、原料である小麦ふすまを、メカノケミカル効果を有する媒体ミルを用いて、100℃以下の条件下において、カオリン中石英成分の無定形化度が30%以上になる条件で粉砕することを特徴とする、小麦ふすま微粉の製造方法、に関するものである。
また、〔請求項3〕に係る本発明は、前記メカノケミカル効果を有する媒体ミルが、媒体ボールミルである、請求項1又は2に記載の小麦ふすま微粉の製造方法、に関するものである。
また、〔請求項4〕に係る本発明は、前記媒体ボールミルが、コンバージミルである、請求項3に記載の小麦ふすま微粉の製造方法、に関するものである。
また、〔請求項5〕に係る本発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法によって得られた、含有成分が非晶質化した小麦ふすま微粉、に関するものである。
また、〔請求項6〕に係る本発明は、請求項5に記載の小麦ふすま微粉を含む加工食品、に関するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、各種有用成分の分解や流亡がいずれもなく、且つ、ザラつき感や褐変、雑味の原因となる水溶性タンパク質の溶出や不快臭の放散も少ない、食味が顕著に向上した小麦ふすまを提供することが可能となる。
これにより、本発明では、小麦ふすまを食することが容易になるだけでなく、小麦ふすまを様々な加工食品へ添加することが可能となり、小麦ふすまに豊富に含まれる機能性成分、各種ビタミン、ミネラル、食物繊維などを多く含む食品の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】(A):コンバージミルにおいて、矢印の方向に回転運転中の高速回転容器の横断面図を示す図である。(B):コンバージミル(真壁技研社製)の写真像図である。
【図2】実施例1において、コンバージミルを用いて製造された小麦ふすま微粉(試料4)の粒度分布を示す図である。
【図3】実施例2において、小麦ふすま微粉(試料1-6)から水抽出されたタンパク質の電気泳動像を示す図である。なお、各レーンの記号は、M:分子量マーカー、1:試料1(未粉砕)、2:試料2(10分間粉砕)、3:試料3(20分間粉砕)、4:試料4(30分間粉砕)、5:試料5(60分間粉砕)、6:試料6(120分間粉砕)、を示す。
【図4】実施例3において、X線回折測定して得られた回折角-散乱強度プロット図形を示す図である。(A):小麦ふすま微粉(試料4)の測定結果を示す図である。(B):自動乳鉢を用いて製造された小麦ふすま粉末(試料7)の測定結果を示す図である。
【図5】実施例4において、各粉砕時間(0-120分)におけるカオリンのX線回折強度のパターンを示す図である。
【図6】実施例4において、各粉砕時間(0-120分)におけるカオリン中石英成分の無定型化度と、小麦ふすま微粉タンパク質の水抽出率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、メカノケミカル効果を有する媒体ミルを用いて所定の条件にて小麦ふすまを粉砕することを特徴とする、小麦ふすま微粉の製造方法に関する。
【0013】
〔小麦ふすま微粉砕工程〕
・小麦ふすま
本発明で原料として用いる小麦ふすまは、一般的な小麦粉製造の際に生じるふすまであれば、如何なるものでも用いることができる。
ここで小麦ふすまとは、小麦粉の精白過程で分離される頴果の表層部分(胚芽、外皮)を指すものである。また、胚乳部分が混入したものであっても用いることができる。
また、特に小麦の種類は限定されものではなく、コムギ属(Triticum)に属する植物であれば、如何なる種、品種、系統のものも用いることができる。
例えば、T. aestivum(普通コムギ、パンコムギ)、T. compactum(クラブコムギ、密穂コムギ)、T. durum(デュラムコムギ、マカロニコムギ)、などに属するものを挙げることができる。
【0014】
・メカノケミカル効果を有する媒体ミル
本発明の微粉砕工程に用いる微粉砕機は、メカノケミカル効果を有する媒体ミルであれば如何なるものも用いることができる。
ここで、メカノケミカル効果とは、対象である固体の粉砕時の物理的衝撃の一部を化学エネルギーに転換させて、当該固体の物理化学的特性を変化させる効果を指す。
このような性質を有する微粉砕機として具体的には、媒体ボールミル(粉砕用ボールを用いたミル)である転動式ボールミル、遊星ボールミル、コンバージミルなどを挙げることができる。また、振動式ミルも挙げることができる。
本発明においては、これらの中でもメカノケミカル効果の発現が顕著である媒体ボールミルを好適に用いることができる。また、特に好ましくは、エネルギー集中型の媒体ボールミルであるコンバージミルが好適である。
【0015】
ここで、コンバージミルとは、特許第3486682号および特許第3533526号に記載の原理に基づく高速粉体反応装置を指すものである。
コンバージミルについて、図1Aの説明図に沿って説明する。図1Aに示すように、コンバージミルの装置主要部は、回転する円筒型容器である高速回転容器1(粉砕容器)と、その内部の上部に配置される固定ガイドベーン2とを設けた単純な構造になっている。
この容器の中に粉砕用媒体ボール3と原料とを投入し、高速回転容器1を高速回転させると、粉砕用媒体ボール3と原料粉体は固定ガイドベーン2によってその運動方向を変えられ、粉砕用媒体ボール3は衝突部6(MA点)に向かう。一方、原料粉体の一部はガイドベーンと容器内壁とのクリアランス(約0.5mm)を通過し、容器内壁に粉体層4が形成される。
従って、衝突部6(MA点)においては、容器内壁の粉体層と固定ガイドベーンによって方向を変えられた粉砕用媒体ボールが1点で集中的に衝突することとなる。
粉砕用媒体ボールが有する運動エネルギーを極めて効率的に粉体に与えて微粒子化することが可能となる。
また、容器内壁の粉体層4の形成は容器からの不純物混入を防止する効果もある。
【0016】
・粉砕条件
本発明で用いる粉砕用媒体ボールとしては、クロム鋼球、ジルコニア球、アルミナ球、ガラス球、などを用いることができる。特には、クロム鋼球、ジルコニア球を用いることが望ましい。
なお、球の直径は、通常の使用範囲のものを採用することができるが、例えば、5〜10mmのものを用いることができる。
また、球の数についても特に限定はないが、例えば、粉砕する原料と同じ体積となるだけの数を用いることができる。
【0017】
ドラム内の温度としては、100℃以下、好ましくは30〜80℃で行うことが望ましい。必要に応じて、ドラムを冷却して行うことが望ましい。
また、ドラムの回転数についても、通常の範囲(例えば、100〜10,000rpm、好ましくは500〜8,000rpm)で行うことができる。
また、粉砕時間としては、非晶質化度及び平均粒子径が、以下の範囲にある小麦ふすま微粉になるような時間を採用することができる。
【0018】
〔小麦ふすま微粉〕
・メカノケミカル効果による成分非晶質化
本発明では、上記微粉砕工程を経ることによって、メカノケミカル効果により成分が非晶質化された小麦ふすま微粉を得られる。
ここで非晶質(amorphous)とは、結晶のような長距離秩序はないが短距離秩序はある物質の状態を指すものである。通常の結晶状態や水溶性の状態とは、物性の点で大きく異なる性質を示す。
【0019】
本発明の小麦ふすま微粉は、成分が非晶質化されることによって、雑味成分(特に水溶性タンパク質)や独特の臭い成分が小麦ふすま微粉に封じ込まれるため、小麦ふすまの食味が顕著に向上したものとなる。
また、上記粉砕工程では、小麦ふすまに含まれる様々な有用な成分(例えば、フェラル酸等の機能性成分、ビタミン、ミネラル、食物繊維など)の分解や流亡が起こらないため、これら有用成分を保持させることが可能となる。
なお、通常の粉砕機(気流粉砕機やジェットミル等)を用いて微粉を調製した場合、メカノケミカル効果の発現を期待することができず、成分を非晶質化させることができない。
【0020】
・水溶性タンパク質水抽出率からの非晶質化度の推定
本発明の小麦ふすま微粉では、このように成分が非晶質化することによって、水溶性タンパク質の水抽出率が未粉砕のものと比べて低下したものとなる。
従って、本発明では、水溶性タンパク質の水抽出を指標とすることによって、小麦ふすま微粉の非晶質化の度合いを推定することが可能となる。
【0021】
本発明の小麦ふすま微粉として好適な成分非晶質化度のものとしては、水溶性タンパク質の抽出率が、同条件で抽出した場合の未粉砕のものと比べて70%以下、好ましくは60%以下、さらには54%以下、のものを挙げることができる。
従って、上記微粉砕工程における粉砕時間としては、水溶性タンパク質の抽出率が当該範囲になるような時間を行うことが望ましい。
なお、水溶性タンパク質の抽出方法および定量方法は公知の方法を用いて行うことができるが、例えばブラッドフォード法を用いて、タンパク質を定量することができる。
【0022】
・外部標準物質を用いた非晶質化度の推定
なお、水溶性タンパク質の抽出率は、粉砕時の熱変性の度合いによって変化するため、小麦ふすま微粉を製造する度毎に、水溶性タンパク質の水抽出および定量を行うことを要する。
そこで本発明では、予め、粉砕性能を評価する外部標準物質を粉砕した際のメカノケミカル効果による物性変化を測定しておくことで、同じ条件で粉砕した際の小麦ふすま微粉の成分非晶質化度を推定することが可能となる。
【0023】
ここで外部標準物質としては、媒体ミルで非晶質化が可能な物質であり、粉砕性能を評価できる物質であれば特に限定されない。例えば、カオリン(例えば、石英成分を含む試薬用カオリン)、タルク、水酸化アルミニウムなどの無機化合物、;キチン、セルロースなどの有機化合物、;を挙げることができる。
具体的に、本発明では、カオリン中の石英成分の無定形化度(=無機物の場合に用いる非晶質化度と同義の用語)を測定しておき、同じ条件で粉砕した際のタンパク質の水抽出率との相関関係から、小麦成分の非晶質化度を推定することができる。
ここで、カオリンは、カオリナイトが主成分の粘土鉱物で、カオリナイト(Al2Si2O5(OH)4)の他ハロイサイト、石英(SiO2)などを含むものである。
【0024】
カオリン中の石英成分の無定形化度は以下の式(1)で定義される。なお、以下の式において、「It」は、前記媒体ミルを用いて粉砕後のカオリン中石英成分の2θ=26.6度のピーク強度を示す。また、「I0」は、未粉砕のカオリン中石英成分の2θ=26.6度のピーク強度を示す。
【0025】
【数1】

【0026】
本発明の小麦ふすま微粉として好適な成分非晶質化度のものとしては、カオリン中の石英成分の無定形化度が、未粉砕のものと比べて30%以上(水溶性タンパク質水抽出率70%以下に相当)、好ましくは50%以上(水溶性タンパク質水抽出率60%以下に相当)、さらには78%以上(水溶性タンパク質水抽出率54%以下に相当)となる条件で、小麦ふすまを粉砕したものを挙げることができる。
従って、上記微粉砕工程における粉砕時間としては、カオリン中の石英成分の無定形化度が当該範囲になるような時間を行うことが望ましい。
【0027】
・平均粒子径
本発明の小麦ふすま微粉としては、平均粒子径(メジアン径)が20μm以下、好ましくは10μm以下であることが望ましい。
本発明の小麦ふすま微粉は、従来の小麦ふすまと比べて、舌触りのザラつき感が解消されたものとすることができる。
従って、上記微粉砕工程における粉砕時間としては、当該所定の範囲の平均粒子径になる条件で、微粉砕を行うことが好ましい。
なお、平均粒子径の測定は、公知の方法を用いて行うことができるが、例えば、メタノールを分散媒として、レーザー回折・散乱法の原理による粒度分布測定装置を用いて測定することができる。
【0028】
〔加工食品への応用〕
本発明の小麦ふすま微粉は、従来の小麦ふすまと比べて、食味が顕著に向上し、且つ、機能性成分も保持されたものである。従って、他の材料と配合(例えば1〜50%)することによって、様々な加工食品の製造に好適に用いることができる。
特に、小麦粉を主原料とする加工食品に用いることができる。具体的には、パン、麺類、カップケーキやクッキーなどの菓子類、ピザ生地、餃子の皮、お好み焼き粉、てんぷら粉、からあげ粉など、に用いることができる。
また、小麦粉を主原料としない各種加工食品にも用いることができる。例えば、各種スープ類やごはんのふりかけに、用いることができる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明の範囲はこれらにより限定されるものではない。
【0030】
〔実施例1〕 小麦ふすま微粉の製造
(1)コンバージミルを用いた粉砕
メカノケミカル効果を有する媒体ボールミルを用いて、小麦ふすま微粉を調製した。
まず、ビューラー社のテストミルを用いて小麦ふすまを得た。そして、特許第3486682号および特許第3533526号に記載の原理に基づくコンバージミル(真壁技研社製)のドラム(容量1000mL)(図1A,B参照)に、当該小麦ふすま30gと、媒体ボールとしてクロム鋼球(直径5mm)700gを投入し、回転数800rpmで、表1に示す各時間(0〜120分間)粉砕することによって、小麦ふすま微粉を調製した。
【0031】
(2)粉砕時間と粒子径の相関
得られた小麦ふすま微粉について、各粉砕時間における平均粒子径を測定した。結果を表1に示す。
その結果、粉砕を20分間以上(試料3-6)、特には60分間以上(試料5-6)行うことで、平均粒子径が大幅に減少することが示された。なお、未粉砕のもの(試料1)については、フレーク状の断片を多く含み、不均一なため、測定できなかった。
また、30分間粉砕した小麦ふすま微粉(試料4)については、粒子径の分布を図2に示した。
その結果、当該粒子径は、2〜62μmの範囲に分布し、平均粒子径(メジアン径)は9.6μmであった。
【0032】
【表1】

【0033】
〔実施例2〕 水溶性タンパク質水抽出効率からの非晶質化度の推定
(1)小麦ふすま微粉からの水溶性タンパク質抽出
本発明の小麦ふすま微粉について、粉砕時間とタンパク質抽出率の関係を調べた。
まず、実施例1で得られた小麦ふすま微粉(試料1-5)各100mgに、10倍量(重量比)の蒸留水を加えて懸濁し、室温で1時間静置した。その後に再び懸濁してから、遠心(10,000×g、5分間)して上清を回収し、小麦ふすま水抽出液とした。
当該水抽出液に含まれるタンパク質の定量は、ブラッドフォード法の原理に基づくクイックスタートプロテインアッセイ(バイオラッド社)を用いて行った。なお、標準タンパク質には、ウシ血清アルブミンを用いた。結果を表2に示す。
【0034】
その結果、20分間以上の粉砕によって得られた小麦ふすま微粉(試料3-5)では、未粉砕のもの(試料1)と比べて、タンパク質の抽出率が70%以下に低下した。また、30分間以上の粉砕(試料4-5)によって60%以下に低下し、60分以上の粉砕(試料5)で55%以下に低下した。
なお、一般的な方法で微粉砕した場合には、重量当たりの表面積が増えるためにタンパク質が抽出されやすくなるが、本発明の小麦ふすま微粉では逆に、雑味の原因となる水溶性タンパク質が抽出されにくくなることが示された。
【0035】
【表2】

【0036】
(2)電気泳動パターン
次に、水抽出されたタンパク質の分子量パターンを明らかにするため、タンパク質のゲル電気泳動を行った。
実施例1で得られた小麦ふすま微粉(試料1-6)について、上記(1)と同様にして小麦ふすま水抽出液を得た。そして、当該水抽出液各2μLずつを等容量の「Tris SDS-β-MEサンプル処理液」(コスモバイオ社)と混合後、95℃で5分間熱処理してから、10〜20%アクリルアミドゲル(オリエンタルインスツルメンツ社)、0.1%SDSを含む192mM Tris - 25mM glycine bufferを用いて電気泳動し、「2D-銀染色試薬・II」(コスモバイオ社)によりタンパク質を染色検出した。結果を図3に示す。
【0037】
その結果、コンバージミルで20分間以上粉砕した小麦ふすま微粉(試料3-6)の水抽出液では、未粉砕(試料1)と比べ、全般にタンパク質のバンドが薄くなっており、上記のブラッドフォード法によるタンパク質の定量結果に符合した。
なお、タンパク質のバンドが特に低分子側にシフトしていないことから、コンバージミルによる微粉砕によって、小麦ふすまに含まれるタンパク質が分解されたのではなく、タンパク質が全般に抽出されにくくなっていることが示された。
【0038】
〔実施例3〕 小麦ふすま微粉のX線回析
実施例1で得られた小麦ふすま微粉(試料4)について、X線回折装置「JDX-3530」(日本電子株式会社製)を用いて小麦ふすま微粉に含まれる成分の結晶化状態を測定した。X線にはCu-Kα線を用い、管電流30mA、管電圧30kVの設定条件で測定した。
X線回折測定で得られた回折角-散乱強度プロット図形(X線回折(XRD)パターン)の一例を図4Aに示す。
なお、比較対照として、小麦ふすまを自動乳鉢で60分間処理したもの(試料7:単に乳鉢で粉末化したもの)の結晶化状態を、同様にして測定した
。結果を図4Bに示す。
【0039】
その結果、自動乳鉢で調製した小麦ふすま粉末(図4B:比較対象)では、複数のピークが認められるのに対して、本発明の小麦ふすま微粉(図4A:本発明)ではそれらのピークはほとんど消失していることが示された。
このことから、本発明の小麦ふすま微粉では、成分が非晶質化していることが確認された。
【0040】
〔実施例4〕 外部標準物質を用いた非晶質化度の推定
小麦ふすまには様々な成分が含まれているため、それら成分の非晶質化度を定量的に示すことは困難である。そこで、外部標準物質としてカオリンを採用し、カオリン中の石英成分の無定型化度の値から、小麦ふすま微粉成分非晶質化度を推定すること試みた。
【0041】
(1)カオリン中石英成分の無定形化度
実施例1と全く同じ粉砕条件(コンバージミルを用いて10〜120分間粉砕する条件)にてカオリン(関東化学製)を粉砕した。そして、X線回折装置「JDX-3530」(日本電子株式会社製)を用いてそのX線回析強度を測定することにより、カオリン中石英成分の無定形化度を算出した。
各粉砕時間におけるカオリンのX線回折強度のパターンを図5に示す。また、各粉砕時間におけるカオリン中石英成分(2θ=26.6度)のピーク強度からの無定形化度を表3に表す。
その結果、カオリン中石英成分の無定形化度は、粉砕時間と共に増加することが示された。特に20分間までは急激に増加し、30分間、60分間、120分間と増加速度は徐々に緩やかになることが示された。また、60分間の粉砕によって、約80%が無定形化することが示された。
【0042】
【表3】

【0043】
(2)無定形化度と成分非晶質化度との相関
次に、各粉砕時間において2θ=26.6度のピーク強度から算出したカオリン中石英成分の無定形化度と、小麦ふすま微粉タンパク質の水抽出率(成分の非晶質化度を表す指数)の関係をプロットした。結果を図6に示す。
その結果、カオリン中石英成分の無定形化度と、小麦ふすま微粉成分の非晶質化度には相関関係が見られることが示された。
【0044】
例えば、無定形化度が41.2%以上になるような条件(試料C)で粉砕を行うことで、タンパク質抽出率が67%以下になるように成分が非晶質化した小麦ふすま微粉(試料3)、が得られることが示された。
また、このグラフが示す相関関係から、無定形化度が30%以上になるような条件で粉砕を行うことで、タンパク質抽出率が70%以下になるように成分が非晶質化した小麦ふすま微粉、が得られることが示唆された。
また、無定形化度が50%以上になるような条件で粉砕を行うことで、タンパク質抽出率が60%以下になるように成分が非晶質化した小麦ふすま微粉、が得られることが示唆された。
【0045】
〔実施例5〕 小麦ふすま微粉の抗酸化性
小麦ふすまには、フェルラ酸などの抗酸化性成分が含まれることが知られている。そこで、本発明の小麦ふすま微粉について、DPPH法により抗酸化性を測定した。
【0046】
実施例1で得られた小麦ふすま微粉(試料4)1gと95%エタノール10mLを混合し、80℃で30分間抽出した。その後遠心して上清を回収し、小麦ふすまエタノール抽出液を得た。
次いで、96穴マイクロプレートの各ウェルに、50%エタノールで希釈した上記エタノール抽出液100μL、0.2MのMES緩衝液(pH 6.0)50μL、0.8mMのDPPHエタノール溶液50μLを添加混合し、室温に20分間静置後の520nmの吸光度を測定した。
なお、抗酸化値は、標準的な抗酸化性物質であるトロロックス量に換算して求めた。結果を表4に示す。
【0047】
その結果、本発明の小麦ふすま微粉(試料4)の抗酸化値は、未粉砕小麦ふすま(試料1)と同等であったことから、コンバージミル処理による抗酸化性の低下が起こらないことが示された。
【0048】
【表4】

【0049】
〔実施例6〕 小麦ふすま微粉を用いたカップケーキの製造
実施例1で得られた小麦ふすま微粉(試料4)を、市販薄力粉に対し重量比で20%混合した。そして、砂糖、無塩バター、卵、ベーキングパウダーと混合してから、容器に小分けし、180℃のオーブンで15分焼くことで、カップケーキを製造した(ケーキ1)。
また、対象として、小麦ふすまを全く用いずに、同様にして通常のカップケーキを製造した(ケーキ2)。
また、比較対照として、未粉砕の小麦ふすま(試料1)を用いて、同様にしてカップケーキを製造した(ケーキ3)。
【0050】
その結果、小麦ふすま微粉を加えて製造した場合(ケーキ1:本発明)、小麦ふすま微粉を加えない通常のもの(ケーキ2:対照)と比べて、ケーキの膨らみに遜色がなかった。また、味や香りの点では、むしろ通常のものよりも評価が高かった。
一方、未粉砕の小麦ふすまを加えた場合(ケーキ3:比較対象)、独特の臭いが強く、評価が低かった。
【0051】
【表5】

【0052】
〔実施例7〕 小麦ふすま微粉を用いたクッキーの製造
実施例1で得られた小麦ふすま微粉(試料4)を、市販薄力粉に対し重量比で10%混合した。そして、砂糖、無塩バター、卵と混合してから、冷凍室内に10分間置いた後、適当な大きさに切断してから、170℃のオーブンで19分焼くことで、クッキーを製造した(クッキー1)。
また、対象として、小麦ふすまを全く用いずに、同様にして通常のクッキーを製造した(クッキー2)。
【0053】
その結果、小麦ふすま微粉を加えて製造した場合(クッキー1:本発明)、小麦ふすま微粉を加えない通常のもの(クッキー2:対照)と比べ、味や香りが適度にあり、評価が高かった。
【0054】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によって、食味が顕著に向上し且つ有用成分が保持された小麦ふすま微粉を製造することが可能になる。
これにより、本発明は、従来は飼料や廃棄の対象であった小麦ふすまを、各種加工食品に利用することが可能とし、農産廃棄物の減少に貢献することが期待される。また、国民の食生活向上にも貢献することが期待される。
【符号の説明】
【0056】
1: 高速回転容器
2: 固定ガイドベーン
3: 粉砕用媒体ボール
4: 粉体層
5: ボールと粉体の飛程域
6: 衝突部(MA点)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料である小麦ふすまを、メカノケミカル効果を有する媒体ミルを用いて、100℃以下の条件下において、平均粒子径を20μm以下、かつ水溶性タンパク質の抽出率が未粉砕と比べ70%以下になるように粉砕することを特徴とする、小麦ふすま微粉の製造方法。
【請求項2】
原料である小麦ふすまを、メカノケミカル効果を有する媒体ミルを用いて、100℃以下の条件下において、カオリン中石英成分の無定形化度が30%以上になる条件で粉砕することを特徴とする、小麦ふすま微粉の製造方法。
【請求項3】
前記メカノケミカル効果を有する媒体ミルが、媒体ボールミルである、請求項1又は2に記載の小麦ふすま微粉の製造方法。
【請求項4】
前記媒体ボールミルが、コンバージミルである、請求項3に記載の小麦ふすま微粉の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法によって得られた、含有成分が非晶質化した小麦ふすま微粉。
【請求項6】
請求項5に記載の小麦ふすま微粉を含む加工食品。

【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−254024(P2012−254024A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127439(P2011−127439)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】