説明

濃度測定装置および濃度測定方法

【課題】電極の回転速度を上げることに伴う検知極清浄効果の低下を抑制可能な濃度測定装置および濃度測定方法を提供する。
【解決手段】濃度測定装置1は、試料液通路部20及び回転電極30を持つ検出部10を含む。試料液通路部20は、フローセル21と、フローセル21の凹部内に位置する研磨材22と、凹部内にて研磨材22の下方に位置し、上下方向に貫通する貫通穴23aを有する浮力材23と、浮力材23の貫通穴23aに挿入されて浮力材23の回り止めとして機能するガイドピン24と、を備えている。回転電極30は、電極ボディ31と、電極ボディ31に保持されて駆動回転する検知極32と、電極ボディ31に配設された対極33と、を備えている。濃度測定装置1は、検知極32と対極33との間に流れる酸化還元電流を計測して試料液の測定対象成分の濃度に変換する変換器40を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料液中に検知極を挿入して試料液中の測定対象成分濃度に対応する電解電流又は検知極電位を計測する濃度測定装置及び濃度測定方法に関するものである。さらに詳しくは、試料液中の挟雑物質等に関わらず、安定してポーラログラフ方式又はガルバニ電池方式の酸化還元電流(電解電流)計測や酸化還元電位(検知極電位)計測が可能な濃度測定装置及び濃度測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、残留塩素、溶存オゾン、塩素要求量、二酸化塩素等の測定を目的として、ポーラログラフ方式又はガルバニ電池方式の酸化還元電流測定装置が用いられている。これらの測定方式は、試料液に、白金、金などの貴金属やグラシーカーボンなどからなる検知極と、検知極に対して充分に大きい表面積をもつ銀などからなる対極とを浸漬し、両極間の間に適当な一定電圧を印加して検知極近傍において測定対象成分の電解還元(又は酸化)を起こさせることで電解電流を得、これを測定することにより所定成分の濃度を求めるものである。
この電解電流は、拡散による物質移動のために試料液と濃度勾配を生じている薄い層(拡散層)の中において、検知極表面に運ばれた測定対象成分が酸化還元されるときに流れる電流であり、拡散電流とも呼ばれる。測定対象成分の濃度に応じた拡散電流を得るためには、拡散層が常に新しく入れ替わるようにしなければならない。
このため、試料液を検知極表面に対して相対的に流動させることが行われている。試料液を検知極表面に対して相対的に流動させるには、検知極を具備した検知極支持体をモータで回転または振動(歳差運動)する電極(以下「回転電極」という。)を用いる方式がある。
【0003】
このような方式では、試料液の通常の流速よりもはるかに大きい線速度で回転電極が回転(振動)する。このため、試料液の流速とは無関係に安定な拡散層を得ることができ、試料液の流速の変動による測定値への影響が生じにくい。
しかし、検知極表面には、対極で生成される電解物質や試料液中の挟雑物等の汚れが付着しやすく、これらの汚れが付着すると、検知極と対極の間に流れる電流値が減少し、測定対象成分の濃度指示値の低下を招く。
このため、従来から、研磨ビーズが収納されたキャップを回転電極に装着し、研磨ビーズの中で回転電極を回転(振動)させることで、一定の線速度を得るとともに、検知極を研磨して汚れの付着を防止し、安定した測定を行うことができるようにしている(特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平6−30764号公報
【特許文献2】特開2002−90339号公報
【特許文献3】特開2004−340762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、安定な拡散層を得るために回転電極の回転(振動)速度を上げていくと、研磨ビーズが飛散して清浄化効果が低下したり、検知極近傍の試料液が回転電極と共に移動してしまい、見かけ上、試料液が動いていないのと同じこととなって安定した拡散層が得られなくなったりする。その結果、電極出力が小さくなったり、電極の応答速度が遅くなり測定が不安定になったりするという不具合が生じ得る。
【0006】
本発明は、以上のような技術的課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、回転電極の回転(振動)速度を上げても、検知極の清浄効果が低下せず、また、安定した拡散層を得ることが可能な濃度測定装置および濃度測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的のもと、本発明が適用される濃度測定装置は、試料液中に検知極を挿入して当該試料液の測定対象成分濃度に対応する電解電流または検知極電位を計測する濃度測定装置であって、回転または振動する支持体の下端面に前記検知極が設けられると共に、当該検知極の下方に位置して当該検知極を研磨する研磨材と、前記研磨材を前記検知極に浮力をもって押し付ける浮力押し付け手段と、を備えることを特徴とするものである。
【0008】
ここで、前記浮力押し付け手段は、前記研磨材の下方に位置する浮力材により構成されることを特徴とすることができる。また、前記浮力押し付け手段は、前記研磨材を浮力のある材質で形成することにより構成されることを特徴とすることができる。さらに、前記研磨材が前記支持体の回転または振動に連動して回転することを規制する回転規制手段をさらに備えることを特徴とすることができる。
【0009】
また、本発明が適用される濃度測定方法は、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の濃度測定装置を用いて、試料液の測定対象成分濃度に対応する電解電流または検知極電位を計測することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、回転電極の回転(振動)速度を上げても、検知極の清浄効果が低下せず、また、安定した拡散層を得ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施の形態に係る濃度測定装置の構成を説明する図である。
【図2】図1の濃度測定装置の横断面図である。
【図3】第1の変形例の構成を説明する図である。
【図4】図3の線IV−IVによる断面図である。
【図5】第2の変形例を説明する図である。
【図6】第3の変形例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本実施の形態に係る濃度測定装置1について説明する。
図1は、本実施の形態に係る濃度測定装置1の構成を説明する図であり、説明の便宜上、部分的に縦断面にて示している。
図1に示すように、濃度測定装置1は、検出部10および変換器40を含んで構成されている。この検出部10は、測定する試料液の通路を備える試料液通路部20と、試料液中の測定対象成分の濃度に応じた拡散電流を検出するための手段を備える回転電極30と、を有する。また、変換器40は、検出部10が有する回転電極30の出力値を演算して試料液の測定対象成分の濃度に変換するものである。
より具体的には、試料液通路部20には上方に開口する凹部が形成され、この凹部に回転電極30の下側部分が挿入され、そして、これら試料液通路部20と回転電極30とが互いに一体的に固定されている。
【0013】
濃度測定装置1の回転電極30は、長手形状の電極ボディ31と、電極ボディ31に保持されてモータ32aの駆動力により回転または振動をする検知極32と、電極ボディ31に配設された対極33と、を備えている。この検知極32は、モータ32aから下方に突出する回転シャフト32bの回転軸(略垂直軸)32c上に取り付けられ、あるいは、回転軸32cに対して例えば3度傾斜して取り付けられている検知極支持体32dの下端面に配置されており、これによって検知極32の回転ないし振動(歳差運動、すりこぎ動作)が実現される。
なお、検知極32は、例えば金、白金、合金、グラシーカーボン等で形成することが考えられ、また、対極33は、例えば白金、銀/塩化銀等で形成することが考えられる。
【0014】
濃度測定装置1の変換器40は、電解電流を計測する場合、検知極32と対極33との間に所定の一定電圧を付与する加電圧機構および電流計が設けられる。ここにいう加電圧機構は、具体的には所定の電圧に設定可能な電源である。ここで、印加される所定の印加電圧の値にはゼロも含まれる。この場合、電流計を介して検知極と対極とを繋ぐ単なる配線によって加電圧機構を構成することができる。一般的には、印加電圧がゼロでない場合はポーラログラフ方式と呼ばれ、印加電圧がゼロの場合はガルバニ電池方式と呼ばれる。両方式とも、被還元物質等が一定の厚さの拡散層と呼ばれる層の中において、濃度勾配による自然拡散によってのみ検知極表面に運ばれ、その表面で酸化還元されるときに流れる拡散電流(酸化還元電流)を捉える点において共通しており、本質的な差違はない。
また、変換器40は、検知極電位を計測する場合、電圧計が設けられる。
変換器40にはさらに、計測した電解電流又は検知極電位を測定対象成分の濃度に換算する濃度換算回路が設けられる。また、計測した電解電流又は検知極電位、換算した濃度等を表示及び/又は出力する機能を有している。
なお、測定原理に応じて、試料液に試薬や希釈液等を適宜添加しておくことが考えられる。
【0015】
濃度測定装置1の試料液通路部20は、上方に開口する凹部が形成されているフローセル21と、フローセル21の凹部内に位置する研磨材22と、フローセル21の凹部内にて研磨材22の下方に位置し、上下方向に直線的に貫通する貫通穴23aを有する浮力材23と、を備えている。また、試料液通路部20は、浮力材23の貫通穴23aに挿入されて浮力材23の回り止めとして機能するガイドピン24と、フローセル21と回転電極30の電極ボディ31との間の空間を水密に閉鎖するためのシール部材25と、を備えている。浮力材23は、浮力押し付け手段の一例である。
研磨材22は、検知極32の表面を研磨し清浄化するためのものであり、試料液がしみ出す透過性のものである。研磨材22は、例えば多孔質の樹脂などにより形成されている。研磨材22は、浮力材23に固着される。このため、ガイドピン24は、浮力材23のみならず、研磨材22の回り止めも行う。ガイドピン24は、回転規制手段の一例である。なお、ガイドピン24は、回り止めの作用を実現すべく、少なくとも2つ配設することになる。
【0016】
浮力材23は、浮き輪ないしフロート(float)として機能するものであり、試料液通路部20の凹部が試料液で満たされたときには研磨材22を上方に押し上げるように作用し、結果として、常に研磨材22の上面22aが検知極32の下面に接触する。なお、研磨材22を浮力のある材質で構成することも考えられる。
さらに説明すると、フローセル21には、凹部に連通する流入口21aおよび流出口21bが形成されている。流入口21aは凹部の下側に位置し、また、流出口21bは凹部の上側に位置する。すなわち、流入口21aから流入した試料液は、主に浮力材23の貫通穴23aを通って凹部を上昇した後に研磨材22を透過し、流出口21bから流出する。このような試料液の上方に向かう流れ(試料液の水圧)は、研磨材22を上方に押し上げるという作用を奏するものであり、浮力材23による浮力と共に、研磨材22の上面22aを常に検知極32の下面に押し付けることが可能になる。
【0017】
図2は、図1の濃度測定装置1の横断面図であり、(a)は、検知極支持体32dが回転軸32cに対して傾斜して取り付けられている場合における図1の線IIa−IIaによる断面図であり、(b)は図1の線IIb−IIbによる横断面図である。
図2の(a)に示すように、検知極支持体32dが歳差運動(すりこぎ動作)をすると、研磨材22の上面22aにおいて回転軸32cの回りを円を描くように振れ回る(矢印A参照)。このため、検知極支持体32dが回転軸32c上に取り付けられている場合と比べ、検知極32が接触する研磨材22の上面22aの領域がより広くなる。
ここで、検知極32が浮力材23の浮力等によって研磨材22に常に接触している状態では、モータ32aの駆動力により検知極支持体32dを歳差運動(すりこぎ動作)させることで、透水性の研磨材22により検知極32の研磨および清浄化が行われる際に、検知極32がより広い領域にて研磨材22に接触することになる。このため、研磨材22の摩耗や変形等に起因する研磨効果の低下を防止することが可能になる。
【0018】
図2の(b)に示すように、浮力材23の貫通穴23aは中心寄りに2つ形成され、また、2つの貫通穴23aの各々にガイドピン24が挿入される。このような2本のガイドピン24により、研磨材22の上面22aに接触する検知極支持体32dが回転または振動(歳差運動)することに伴って浮力材23および研磨材22が回転することを規制している。
付言すると、これら2つの貫通穴23aは、検知極32が接触する研磨材22の上面22aの領域(図2の(a)参照)に対応する位置に形成されることが好ましい。また、試料液は、主に浮力材23の貫通穴23aとガイドピン24との間の空間を流れる。なお、貫通穴23aをガイドピン24の数よりも多い数を設け、ガイドピン24が挿入されない貫通穴23aを試料液の通路としてのみ用いることも考えられる。
【0019】
このように、本実施の形態によれば、回転電極の回転(振動)速度を高くしても研磨材による検知極清浄効果の低下を抑制することが可能になる。また、回転電極の回転(振動)速度を高くしても安定した拡散層を得られる仕組みとすることが可能になる。
【0020】
上述した本実施の形態について種々の変形例が考えられる。なお、以下説明する種々の変形例は、本実施の形態の場合と共通する構成を有することから、共通する個所には同じ符号を用い、その説明を省略することがある。
図3は、第1の変形例の構成を説明する図であり、図4は、図3の線IV−IVによる断面図である。図3は図1に対応するものであり、図4は図2に対応するものである。
図3に示すように、第1の変形例に係る濃度測定装置1は、浮力材23の貫通穴23aに挿入されるガイドピン24(図1参照)を備えていない。また、図4に示すように、第1の変形例に係る濃度測定装置1では、フローセル21に内周面の横断面が矩形形状の凹部を形成し、かつ、浮力材23の外周面の横断面が矩形形状になるように形成している。
すなわち、上述の本実施の形態では、ガイドピン24は、浮力材23の貫通穴23aに挿入されることで浮力材23の回転止めとして作用するが(図2の(b)参照)、第1の変形例では、フローセル21の凹部の内周面と浮力材23の外周面とを互いに対応する矩形形状とすることにより浮力材23の回転止めとしている(図4参照)。なお、浮力材23の貫通穴23aは、試料液が流れる流路として用いられる。
第1の変形例によれば、構成を簡略化することが可能になる。
【0021】
図5は、第2の変形例の構成を説明する図である。図5は図1または図3に対応するものである。
図5に示すように、第2の変形例に係る濃度測定装置1は、研磨材22自身が浮力を有するものであり、このために、浮力材23(図1参照)を備えていない。すなわち、研磨材22自身による浮力により、研磨材22の上面22aを常に検知極32の下面に押し付けている。この場合の研磨材22は、浮力押し付け手段の一例である。
【0022】
研磨材22は、比較的軽量のケース51に収容されている。このケース51は、ガイドピン24と係合する穴51aが底部に形成されている。付言すると、試料液が主に、ケース51の穴51aから研磨材22の上面22aに供給される。
第2の変形例によれば、構成を簡略化することが可能になる。
【0023】
なお、第2の変形例に上述の第1の変形例を適用することも考えられる。すなわち、第1の変形例のようにガイドピン24(図1参照)を省略すると共に、第2の変形例のように浮力材23(図1参照)を省略し、さらにケース51(図5参照)をも省略する構成である。この場合には、フローセル21の凹部の内周面と研磨材22の外周面とを互いに対応する矩形形状とすることにより研磨材22の回転止めとする。
また、貫通穴23aおよびガイドピン24を互いに対応する矩形形状とすることや、十字形状とすることにより、研磨材22の回転止めとすることも考えられる。
【0024】
図6は、第3の変形例の構成を説明する図である。同図は、濃度測定装置1の検知極支持体32dが回転軸32cに対して傾斜して取り付けられている場合における研磨材22周辺を拡大して示す断面図である。
図6に示すように、第3の変形例に係る濃度測定装置1では、研磨材22の上面22aに窪み形状部61が形成されている。この窪み形状部61は、すり鉢状に形成されている。かかる窪み形状部61により、歳差運動をする検知極支持体32dの下端面に設けられた検知極32が研磨材22の上面22aに接触する際に、より確実に接触させることが可能になり、また、検知極32の下面と上面22aとの接触面積をより広く確保することが可能になる。
このように、第3の変形例によれば、検知極32と研磨材22との接触がより確実になると共に、接触面積をより広く確保することが可能になる。
【符号の説明】
【0025】
1…濃度測定装置、10…検出部、20…試料液通路部、21…フローセル、22…研磨材、22a…上面、23…浮力材、23a…貫通穴、24…ガイドピン、25…シール部材、30…回転電極、31…電極ボディ、32…検知極、32a…モータ、32b…回転シャフト、32c…回転軸、32d…検知極支持体、33…対極、40…変換器、51…ケース、51a…穴、61…窪み形状部、A…矢印

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料液中に検知極を挿入して当該試料液の測定対象成分濃度に対応する電解電流または検知極電位を計測する濃度測定装置であって、
回転または振動する支持体の下端面に前記検知極が設けられると共に、当該検知極の下方に位置して当該検知極を研磨する研磨材と、
前記研磨材を前記検知極に浮力をもって押し付ける浮力押し付け手段と、
を備えることを特徴とする濃度測定装置。
【請求項2】
前記浮力押し付け手段は、前記研磨材の下方に位置する浮力材により構成されることを特徴とする請求項1に記載の濃度測定装置。
【請求項3】
前記浮力押し付け手段は、前記研磨材を浮力のある材質で形成することにより構成されることを特徴とする請求項1に記載の濃度測定装置。
【請求項4】
前記研磨材が前記支持体の回転または振動に連動して回転することを規制する回転規制手段をさらに備えることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の濃度測定装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の濃度測定装置を用いて、試料液の測定対象成分濃度に対応する電解電流または検知極電位を計測することを特徴とする濃度測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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