説明

立体選択的方法およびカンプトテシンの結晶形態

【課題】7位でO-置換されたアルキルオキシムを有するカンプトテシン誘導体の単一の E、Z異性体をそれぞれ、特にE 異性体を導く立体選択的方法を提供すること。
【解決手段】7-[(E)-t-ブチルオキシイミノメチル]-カンプトテシンの立体選択的調製方法を提供する。適当な異なる溶媒混合物中で行われるさらなる溶解および沈降工程の付加により、4つの新しいギマテカンの結晶形態が同一の立体選択的方法を用いることにより得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、7-[(E)-t-ブチルオキシイミノメチル]-カンプトテシン (ギマテカン(gimatecan)としても知られる)の立体選択的調製方法に関する。適当な異なる溶媒混合物において行われるさらなる溶解および沈降工程を付加すると、3つの新しい結晶形態のギマテカンが同一の立体選択的方法を用いることによって得られる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
カンプトテシンは、Nyssaceae科の樹木 Camptoteca acuminata(これは、中国由来の植物である)からWall et al. (J. Am. Chem. Soc. 88、3888-3890 (1966))により最初に単離されたアルカロイドである。該分子は環Eにラクトンを有する五環式構造からなり、これは細胞傷害性に必須である。該薬剤は広範な、特に、結腸腫瘍、その他の固形腫瘍および白血病に対して抗腫瘍活性を示し、最初の臨床試験は70年代初期に行われた。
【0003】
カンプトテシン (CPT)は水溶性が低いため臨床試験の準備のため、National Cancer Institute (NCI)は水溶性のナトリウム塩を調製した(NSC100880)。フェーズIおよびIIの臨床試験は、該化合物によって示された高い毒性によって完了しなかった(出血性膀胱炎、胃腸毒性、例えば、悪心、嘔吐、下痢、および骨髄抑制、特に白血球減少症および血小板減少症)。
【0004】
その後、多くのCPTアナログが毒性が低く水溶性が高い化合物を得るために合成された。2つの薬剤が上市されており、イリノテカン(CPT-11、Upjohnによって商標Camptosarとして上市)およびトポテカン(商標HymcamptaminまたはThycantinとして Smith Kline & Beechamにより上市)が挙げられる。
【0005】
今日までに同定されてきたすべての誘導体は細胞傷害性に必須な5つの環を有する親構造を含む。第一の環に対する修飾は、例えば、上記薬剤の場合、水溶性を上昇させ、薬剤の高い耐容性を可能とすることが示されている。
【0006】
特許出願 WO97/31003は、7、9および10位にて置換されたカンプトテシン誘導体を開示する。7位は以下の置換基を与える: -CN、-CH(CN)-R4、-CH=C(CN)-R4、-CH2-CH=C(CN)-R4、- C(=NOH)-NH2、-CH=C(NO2)-R4、-CH(CH2NO2)-R4、5-テトラゾリル、2- (4,5-ジヒドロキサゾリル)、1,2,4-オキサジアゾリジン-3-イル- 5-オン、ここでR4は水素、炭素原子数1〜6の直鎖状または分枝状 アルキル、ニトリル、カルボキシアルコキシ。
【0007】
これら化合物のなかで、最良のものは7-ニトリル (7-CN)であると判明し、以下これをCPT 83と称するが、非小細胞肺癌 (non-SCLC、H-460) に対する細胞毒性活性を有する。この腫瘍株は内因的に細胞毒性療法に耐性であり、標的酵素の過剰発現にもかかわらず中程度にのみトポイソメラーゼI阻害剤に応答性である。CPT 83は参照化合物としてのトポテカンよりも活性が高く、全体的にそれは耐用性の観点においてさえより良好な薬理学的プロファイルを与え、またより良好な治療係数を与える。
【0008】
CPT 83は7-ヒドロキシメチルカンプトテシンからカンプトテシン 7-アルデヒドへの酸化、カンプトテシン 7-アルデヒドのオキシムへの変換、そして最後のニトリルへの変換を含む合成経路により調製される。
【0009】
出発化合物および中間体はSawada et al.、Chem. Pharm. Bull.、39、5272 (1991)に開示されている。この論文は1981年優先権のパテントファミリー、例えば1982公開の欧州特許出願 EP 0056692を引用している。これら刊行物においてカンプトテシン 7-アルデヒドおよびそのオキシムがとりわけ記載されている。
【0010】
これら誘導体の有用性は7-ヒドロキシメチルカンプトテシンから出発して毒性の低い抗腫瘍活性を有する化合物を提供することである。Chem. Pharm. Bull. 39、5272 (1991)に公表された論文において、著者らは、カンプトテシンと比較して、上記特許出願においては予測されていなかった7-アルキルおよび7-アシルオキシメチル誘導体が、マウス白血病 L1210株に対してより活性の化合物であることを示し、一方、極性の高い7-置換を有する化合物、例えば、ヒドラゾンおよびオキシム - CH(=NOH)においてはカンプトテシンと比較して常に活性が低いことが観察されたことを示した。
【0011】
特許出願 EP1044977およびDallavalle S. et al.、J. Med. Chem. 2001、44、3264-3274において、7位にてO-置換されたアルキルオキシムを有し、参照トポテカンの化合物よりも高い抗腫瘍活性を備えたカンプトテシン誘導体が記載された。さらにイミノ基を7位に有するこれらカンプトテシン誘導体はまた、改善した治療係数を示す。これら化合物のなかで1つの好ましい分子は7-t-ブトキシイミノメチルカンプトテシン (CPT 184)であると示された。この分子をEP1044977および上記Dallavalleの論文に記載のように調製する場合、2つのEおよびZ 異性体の8:2比の混合物がエタノールおよびピリジンを含む溶媒混合物から得られる。
【0012】
7位でO-置換されたアルキルオキシムを有するカンプトテシン誘導体を得るための上記文献に記載のいずれの方法によっても、オキシムまたはアルキルオキシムの2つのEおよびZ 異性体の混合物が得られる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
それゆえ、単一の E、Z異性体をそれぞれ、特にE 異性体を導く立体選択的方法を利用できるようにすることが望ましい。
【0014】
古典的および新規の多くの薬剤が発見され、その「好適な」結晶形態として上市されてきたが、それらの可能性のある多形形態については徹底的にスクリーニングされたことはなかった。固相化学の最近の技術的進展により、今までみられなかった新しい多形形態を見いだすことが可能となっている。新規多形形態はしばしば治療上の利点をもたらすことができ、医薬業界の新しい挑戦の一つを表しうる。実際、多形性、即ち分子が2以上の結晶性配置に結晶化する能力は、薬剤の有効期間、溶解度、製剤特性、および加工特性に顕著な効果を有しうる。より深刻には、薬剤の作用は、薬剤分子の多形性によって影響を受けうる。異なる多形は異なる体内への取り込み速度を有し得、望まれるよりもより低いまたはより高い生理活性を導きうる。極端な場合には、望ましくない多形は毒性でさえあり得る。製造工程での未知の多形形態の発生は製薬会社に甚大な影響を与えうる。それゆえ 結晶性生成物の製剤に関与する研究者は、正しい性質を有する多形を選択し、その他の多形の望ましくない結晶化といった問題を予知する能力を有することが重要である。驚くべきことに、非常に多数の医薬が多形性の現象を示す。バルビツール酸の70%、スルホンアミドの60%およびステロイドの23%が異なる多形形態で存在する。
【0015】
有機化合物における多形性の問題は一般的に Caira、M. R. "Crystalline Polymorphism of Organic Compounds"、Topics in Current Chemistry、Springler、Berlin、DE、Vol. 198、1998、pages 163-208に概説されている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
ギマテカンの結晶化研究の実施により本出願人は請求の範囲に記載の発明をするに至った。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図 1は、左に7-[(E)-t-ブチルオキシイミノメチル]-カンプトテシン (ギマテカン)の構造式および右に7-[(Z)-t-ブチルオキシイミノメチル]-カンプトテシンの構造式を報告する。
【図2】図 2は、7-[(E)-t-ブチルオキシイミノメチル]-カンプトテシン (ギマテカン)の結晶形態 IのX線回折パターンを報告する。
【図3】図 3は、7-[(E)-t-ブチルオキシイミノメチル]-カンプトテシン (ギマテカン)の結晶形態 IIのX線回折パターンを報告する。
【図4】図 4は、7-[(E)-t-ブチルオキシイミノメチル]-カンプトテシン (ギマテカン)の結晶形態 IIIのX線回折パターンを報告する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
発明の詳細な説明
本発明者らはこのたび驚くべきことに、7-[(E)-t-ブチルオキシイミノメチル]-カンプトテシン (ギマテカンとしても知られる)の立体選択的調製方法を見いだした。本発明者らはまた、Z 異性体からE 異性体への完全な変換を行うことが可能であることも見いだした。明瞭にするために、2つの異性体の構造式を図 1に示す。
【0019】
さらに、本発明者らはこの生成物は異なる結晶形態で存在し得、これらの形態は同一の立体選択的方法を用いてさらなる溶解および沈降工程を適当な異なる溶媒混合物中にて行うことを加えることにより得られることも見いだした。
【0020】
それゆえ本発明の主な目的は、7-ホルミル-カンプトテシンのアセタールとO-t-ブチルヒドロキシルアミン ヒドロクロリドとの極性プロトン性または非プロトン性有機溶媒中、好ましくは 酸性条件下 (pH<7)での反応を含む7-[(E)-t-ブチルオキシイミノメチル]-カンプトテシンの立体選択的調製方法である。実際、Z 異性体の量は加えた塩基(例えばピリジン)の量に比例することが見いだされた。それゆえ 本発明の方法は有機塩基の非存在下、特に、ピリジンの非存在下で行わなければならない。
【0021】
上記方法の異なる態様及び改変が本発明に含まれる。
【0022】
好ましくは、極性プロトン性または非プロトン性有機溶媒は、アルコール、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノールである。より好ましくは、それはエタノールまたはメタノールである。
【0023】
pHは好ましくは酸性であるが、無機塩基の添加によってより高い値としてもよい(7に近くてよいが、7未満)。 好ましくは、無機塩基は水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムである。好ましくは、無機塩基はヒドロキシルアミン ヒドロクロリドに対してモル比0.5-0.9:1にて添加する。
【0024】
7-ホルミル-カンプトテシンのアセタールはジアルキルアセタールであり、好ましくは メチルまたはエチルアセタールである。
【0025】
反応温度は通常室温から溶媒の沸点の間とする。
【0026】
反応の最後に、沈殿を反応混合物から、例えばろ過により単離する。
【0027】
本発明の方法によると、E 異性体は常にZ 異性体に対して少なくとも 95:5の比で得られる。実施例では、本発明の方法によりZ 異性体に対してE 異性体を99.8:0.2の比までにて得られることを示す。
【0028】
本発明の好ましい態様によると、上記方法は、例えば 、ジクロロメタン中に先に得られた沈殿を溶解する工程、共溶媒を添加する工程、得られた溶液を濃縮する工程およびそうして得られた生成物を結晶化する工程をさらに含む。
【0029】
用いる共溶媒に応じて、異なる結晶形態が以下のようにして得られる。
【0030】
これら異なる結晶形態は本発明のさらなる目的である。
【0031】
【表1】

【0032】
アセトンを共溶媒として使用すると、ギマテカンの結晶形態 Iが得られ、これは図 2に示すような、CuK-α 1 X-線による照射により得られる粉末 X線回折パターンにより特徴づけられる。
【0033】
この形態の特徴的な主な回折ピークを以下の表に示す:
【表2】

【0034】
エタノールまたはメタノールを共溶媒として使用すると、ギマテカンの結晶形態IIIが得られ、これは図 4に示すような、CuK-α 1 X-線による照射により得られる粉末X線回折パターンにより特徴づけられる。この形態の特徴的な主な回折ピークを以下の表に示す:
【表3】

【0035】
酢酸エチル、トルエン、n-ブチルクロリド、メチル t-ブチルエーテルまたはヘキサンを共溶媒として使用すると、ギマテカンの結晶形態IIが得られ、これは図 3に示すような、 CuK-α 1 X-線による照射により得られる粉末 X線回折パターンにより特徴づけられる。この形態の特徴的な主な回折ピークを以下の表に示す:
【表4】

【0036】
これら新規なギマテカンの結晶形態I、IIおよびIIIは 本発明のさらなる目的である。ギマテカンの結晶形態 Iが好ましい。
【0037】
ギマテカンの非晶質形態 Iは本発明のさらなる目的である。
【0038】
本発明の別の目的は、ギマテカンの結晶形態 I、II、IIIのいずれか、またはその混合物の、医薬、特に、細胞増殖によって起こるか細胞増殖によって悪化する病理状態の治療用医薬の調製のための使用である。
【0039】
本発明のさらなる目的は、組成物、特に、少なくとも1つの上記結晶形態を活性成分として含む医薬組成物であり、該医薬組成物は少なくとも1つの医薬上許容される担体および/または希釈剤を混合して含む。さらに、本発明の医薬組成物は1以上の医薬上許容される賦形剤を含んでいてもよい。
【0040】
ギマテカンは抗増殖活性を示し、それゆえその結晶形態はその治療活性のために有用であり、医薬組成物に製剤されるのに好適とされる物理化学的性質を有する。
【0041】
医薬組成物は少なくとも1つのギマテカンの上記結晶形態を、例えば有意な治療効果、特に抗腫瘍効果を生じる量にて含む。本発明に含まれる組成物は常套的なものであり、医薬分野で通常用いられている方法により得られる。所望の投与経路に応じて、組成物は固体または液体形態であり、経口、非経口、静脈内経路に好適なものである。本発明による組成物は、活性成分とともに、少なくとも医薬上許容される媒体または賦形剤を含む。製剤補助剤(co-adjuvant)、例えば可溶化剤、分散剤、懸濁剤、乳化剤も特に有用であり得る。
【0042】
ギマテカンの上記結晶形態は、その他の活性成分、例えばその他の抗腫瘍薬と別々の形態でも、単一の投与形態でも、組み合わせて用いることが出来る。
【0043】
本発明によるギマテカンの上記結晶形態は、肺腫瘍、例えば非小細胞肺腫瘍、結腸直腸腫瘍、前立腺腫瘍、神経膠腫において抗腫瘍活性を有する医薬として有用である。
【0044】
細胞毒性活性は細胞毒性能力の評価方法として抗増殖活性試験を用いてヒト腫瘍細胞の細胞システムにおいてアッセイされる。
【0045】
本発明のこれらおよびその他の目的は以下の実施例も参照してより詳細に説明する。
【0046】
以下の実施例によりさらに本発明を説明する。
【実施例】
【0047】
イントロダクション
実施例 1および 2は出発物質として7-ホルミル-カンプトテシンジメチルアセタールを用いる7-[(E)-t-ブチルオキシイミノメチル]-カンプトテシンの合成について扱う。
【0048】
実施例3および4はE 異性体を与える条件下で出発物質として7-ホルミル-カンプトテシンを用いる7-[(E)-t-ブチルオキシイミノメチル]-カンプトテシンの合成を報告する。この群のすべての反応は実施例1および2に報告する反応より速く、アセタールの加水分解がおそらくアルデヒドからオキシムを与える反応よりも遅いことを示す。
【0049】
実施例 5はZ 異性体からE 異性体への変換を報告する。
【0050】
実施例 6は、7-[(E)-t-ブチルオキシイミノメチル]-カンプトテシン (ギマテカン)について得られ得る、異なる(多形の) 結晶形態の合成および特徴決定を報告する。
【0051】
HPLC:分析は自動インジェクター (注入容量 5 μl)を備えた4つのポンプ(quaternary pump) (Waters Alliance 2690)および260 nmで作動するUV検出器(Waters 2487)を備え、ソフトウェアWaters 「Empower Pro」により制御される装置で行った。
【0052】
C18 逆相カラム (Symmetry C18; 75x4.6mm Waters)を用い直線溶出グラジエント (以下の表参照)にて、1.0 ml/分の流速で行った。
グラジエントプログラム
A:H2O/CH3CN 60/40 (v/v)
B:H2O/CH3CN 30/70 (v/v)
【表5】

【0053】
7-[(E)-tert-ブチルオキシイミノメチル]-カンプトテシンの保持時間は12 分であり、Z-異性体の保持時間は 8 分である。
【0054】
実施例 1
7-ホルミルカンプトテシン-ジメチルアセタールからの7-[(E)-tert-ブチルオキシイミノメチル]-カンプトテシンの調製
7-ホルミル-カンプトテシン-ジメチルアセタール (500mg; 1.2mmol)およびO-tert-ブチルヒドロキシルアミンヒドロクロリド (372mg; 2.9mmol) をマグネティックスターラーと冷却管とを備えた遮光した3首フラスコ中の95% エタノール (12.5 ml)に添加した。混合物を還流して4時間加熱した。HPLC 分析によりE:Z 比 99.8:0.2が示された。
粗生成物を反応混合物から沈殿として得、ろ過により単離した。ジクロロメタン-メタノール 95:5で溶出するシリカゲル (20g)でのクロマトグラフィー精製後、ギマテカン (460mg)を黄色粉末として得た (収率: 87%)。
【0055】
実施例 2
7-ホルミルカンプトテシン-ジメチルアセタールからの7-[(E)-tert-ブチルオキシイミノメチル]-カンプトテシンの調製
7-ホルミル-カンプトテシン-ジメチルアセタール (500mg; 1.2mmol)、O-tert-ブチルヒドロキシルアミンヒドロクロリド (372mg; 2.9mmol)および水酸化ナトリウム (59mg; 1.47mmol) を、マグネティックスターラーおよび冷却管を備えた遮光した3首フラスコ中の95% エタノール (12.5 ml) に添加した。混合物を還流して24時間加熱した。HPLC 分析により E:Z 比 98.8:1.2が示された。 粗生成物を反応混合物から沈殿として得、ろ過により単離した。ジクロロメタン-メタノール 95:5で溶出するシリカゲル (20g)でのクロマトグラフィー精製後、ギマテカンを黄色粉末として得た(収率: 80%)。
【0056】
実施例 3 (参照実施例)
7-ホルミルカンプトテシンからの7-[(E)-tert-ブチルオキシイミノメチル]-カンプトテシンの調製
7-ホルミル-カンプトテシン (500mg; 1.33mmol)、O-tert-ブチルヒドロキシルアミン ヒドロクロリド (417mg; 3.3mmol)および水酸化ナトリウム (67mg; 1.65mmol) を、マグネティックスターラーおよび冷却管を備えた遮光した3首フラスコ中の95% エタノール (12.5 ml) に添加した。
混合物を還流して2時間加熱した。HPLC 分析によりE:Z 比 97.4:2.6が示された。粗生成物を反応混合物から沈殿として得、ろ過により単離した。ジクロロメタン-メタノール 95:5で溶出するシリカゲル (20g)でのクロマトグラフィー精製後、ギマテカン (480mg)を黄色粉末として得た(収率: 80%)。
【0057】
実施例 4 (参照実施例)
7-ホルミルカンプトテシンからの7-[(E)-tert-ブチルオキシイミノメチル]-カンプトテシンの調製
7-ホルミル-カンプトテシン (500mg; 1.33 mmol)、O-tert-ブチルヒドロキシルアミン ヒドロクロリド (417mg; 3.3mmol)および水酸化ナトリウム (120mg; 3mmol) をマグネティックスターラーおよび冷却管を備えた遮光した3首フラスコ中の95% エタノール (12.5 ml) に添加した。
混合物を還流して2時間加熱した。HPLC 分析により E:Z 比 95.5が示された。粗生成物を反応混合物から沈殿として得、ろ過により単離した。ジクロロメタン-メタノール 95:5で溶出するシリカゲル (20g)でのクロマトグラフィー精製後、ギマテカン (550 mg) を黄色粉末として得た(収率: 93%)。
【0058】
実施例 5
異性体変換
7-[(Z)-tert-ブチルオキシイミノメチル]-カンプトテシン (100 mg)をジクロロメタン (30 ml)に溶解した。 塩酸 (0.2 ml)を室温で添加し、混合物を125 W Hg 高圧UVランプでの照射に1時間供した。HPLC 分析によりZ-異性体が完全にE-異性体に変換したことが示された。
【0059】
実施例 6
結晶化研究
7-[(E)-tert-ブチルオキシイミノメチル]-カンプトテシン (2.5g) をジクロロメタン (500 ml)に溶解した。共溶媒 (500 ml)を溶液に添加し、ロータベーパー(rotavapor)により、混合物を40℃で体積250 mlとなるまで濃縮した。
【0060】
懸濁液を室温で30 分間撹拌して維持し、形成した固体を20 mlの共溶媒で2回洗浄することによってろ過した。50℃のオーブンで減圧下で一晩おいた後、2.1 gの生成物を得た。
【0061】
用いた共溶媒は以下のものであった: アセトン、エタノール、メタノール、酢酸エチル、トルエン、n-ブチルクロリド、メチル tert-ブチルエーテル、およびヘキサン。
【0062】
得られた結晶をX線粉末回折法により分析した。ディフラクトグラム(diffractogram)を20-50 mgの粉末について、(002) グラファイト結晶により単色にされた(monochromated) CuK-α 照射源、ソレルススリット(Sollers slits)および狭い(0.3°) 発散および受入開口を備えたSiemens D-500 コンピュータ制御回折計を用いて得た。散乱角の信頼限界は、± 0.5 2-θ(Theta)である。
【0063】
アセトンを共溶媒として用いて得られたサンプル(形態I)は以下の結果を与えた。
【0064】
X線粉末 ディフラクトグラムは結晶性物質に特徴的である。この形態の特徴的な主な回折ピークを以下の表に示す:
【表6】

【0065】
エタノールまたはメタノールを共溶媒として用いて得られたサンプル (形態III)は以下の結果を与えた。
【0066】
X線粉末 ディフラクトグラムは結晶性物質に特徴的である。この形態の特徴的な主な回折ピークを以下の表に示す:
【表7】

【0067】
酢酸エチル、トルエン、n-ブチルクロリド、メチル t-ブチルエーテルまたはヘキサンを共溶媒として用いて得られた サンプル(形態II)は以下の結果を与えた。
【0068】
X線粉末 ディフラクトグラムは結晶性物質に特徴的である。この形態の特徴的な主な回折ピークを以下の表に示す:
【表8】

【0069】
ギマテカンのこれら結晶形態をさらに特徴決定するために、同じサンプルをIR 分光法により調べた。以下の表は3つの形態に特徴的なピーク (cm-1) を示す。
【表9】

* 同じデータが、トルエン、n-ブチルクロリド、メチル t-ブチルエーテルまたはヘキサンから得られた形態についても観察されている。
** 同じデータがメタノールから得られた形態についても観察されている。
IRスペクトルは1% KBrペレット上で4 cm-1 にてPerkin Elmer Spectrum 1000 FT-IR で収集した。
【0070】
図面の簡単な説明
図 1は、左に7-[(E)-t-ブチルオキシイミノメチル]-カンプトテシン (ギマテカン)の構造式および右に7-[(Z)-t-ブチルオキシイミノメチル]-カンプトテシンの構造式を報告する。
【0071】
図 2は、7-[(E)-t-ブチルオキシイミノメチル]-カンプトテシン (ギマテカン)の結晶形態 IのX線回折パターンを報告する。
【0072】
図 3は、7-[(E)-t-ブチルオキシイミノメチル]-カンプトテシン (ギマテカン)の結晶形態 IIのX線回折パターンを報告する。
【0073】
図 4は、7-[(E)-t-ブチルオキシイミノメチル]-カンプトテシン (ギマテカン)の結晶形態 IIIのX線回折パターンを報告する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
7-ホルミル-カンプトテシンのアセタールとO-t-ブチルヒドロキシルアミンヒドロクロリドとを、エタノールおよびメタノールからなる群より選択される極性有機溶媒中で、酸性条件において反応させることを含む、7-[(E)-t-ブチルオキシイミノメチル]-カンプトテシンの立体選択的調製方法。
【請求項2】
無機塩基をO-t-ブチルヒドロキシルアミンヒドロクロリドに対して0.5-0.9:1のモル比にて反応媒体に添加する、請求項1の方法。
【請求項3】
無機塩基が水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムである、請求項2の方法。
【請求項4】
7-ホルミル-カンプトテシンのアセタールがジアルキルアセタールである請求項1または2の方法。
【請求項5】
7-ホルミル-カンプトテシンのアセタールがジメチルまたはジエチルアセタールである請求項4の方法。
【請求項6】
反応温度が室温と溶媒の沸点との間に維持される請求項1〜3いずれかの方法。
【請求項7】
反応の最後に沈殿を反応混合物から単離する請求項1〜3いずれかの方法。
【請求項8】
沈殿を反応混合物からろ過により単離する請求項7の方法。
【請求項9】
沈殿をジクロロメタンに溶解する工程、アセトン、トルエン、n-ブチルクロリド、メチル-t-ブチルエーテルまたはヘキサン、酢酸エチル、エタノールおよびメタノールからなる群より選択される共溶媒を添加する工程、次いで、得られた溶液を濃縮する工程および反応生成物を沈殿させて結晶化させる工程をさらに含む、請求項8の方法。
【請求項10】
共溶媒がアセトンである請求項9の方法によって得られ得る 7-[(E)-t-ブチルオキシイミノメチル]-カンプトテシンの結晶形態であって、X線回折において以下の表に示すものと実質的に同一のX線回折ピークを示す、結晶形態:


【請求項11】
以下に示すものと実質的に同一のX線回折パターンを有する請求項10の結晶形態:


【請求項12】
共溶媒がトルエン、n-ブチルクロリド、メチル-t-ブチルエーテル、ヘキサンおよび酢酸エチルからなる群より選択される請求項9の方法によって得られ得る 7-[(E)-t-ブチルオキシイミノメチル]-カンプトテシンの結晶形態であって、X線回折において以下の表に示すものと実質的に同一のX線回折ピークを示す、結晶形態:


【請求項13】
以下に示すものと実質的に同一のX線回折パターンを有する請求項12の結晶形態:


【請求項14】
共溶媒がエタノールおよびメタノールからなる群より選択される請求項9の方法によって得られ得る 7-[(E)-t-ブチルオキシイミノメチル]-カンプトテシンの結晶形態であって、X線回折において以下の表に示すものと実質的に同一のX線回折ピークを示す、結晶形態:


【請求項15】
以下に示すものと実質的に同一のX線回折パターンを有する請求項14の結晶形態:


【請求項16】
請求項10−15のいずれかの結晶形態を含む医薬組成物。
【請求項17】
(a)医薬上許容される担体または希釈剤、および
(b)1以上の医薬上許容される賦形剤
をさらに含む、請求項16の医薬組成物。
【請求項18】
経口投与に好適な投薬形態である請求項17の医薬組成物。
【請求項19】
錠剤、カプセルまたは液剤から選択される投薬形態である請求項17または18の医薬組成物。
【請求項20】
腫瘍疾患の治療のための医薬の調製のための、請求項10−15のいずれかの結晶形態の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−67629(P2013−67629A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−247587(P2012−247587)
【出願日】平成24年11月9日(2012.11.9)
【分割の表示】特願2007−547467(P2007−547467)の分割
【原出願日】平成17年12月16日(2005.12.16)
【出願人】(591043248)シグマ−タウ・インドゥストリエ・ファルマチェウチケ・リウニテ・ソシエタ・ペル・アチオニ (92)
【氏名又は名称原語表記】SIGMA−TAU INDUSTRIE FARMACEUTICHE RIUNITE SOCIETA PER AZIONI
【Fターム(参考)】