説明

自動変速機の検査方法および自動変速機の検査装置

【課題】作業効率を向上する自動変速機の製造方法を提供する。
【解決手段】油圧センサ11によって検出した自動変速機10の油圧が、規格内に入っている場合に、現在検査している自動変速機10よりも前に油圧が規格内であると判定された、所定数の自動変速機10の油圧に基づいて算出される第1しきい値および第2しきい値と、検出する油圧と、を比較し、第1しきい値よりも小さい、または第2しきい値よりも大きい場合に、受信部3に第1警告情報を送信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動変速機の検査方法および自動変速機の検査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動変速機が正常に作動するかどうか検査を行う場合に、検出値と基準値とを比較するものが特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開平6−300668号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、自動変速機は、多くの部品を組み付けて構成されており、各部品はそれぞれ精密な寸法に基づいて製造されている。しかし、部品において許容寸法の中で寸法が大きい部品が多く使用された場合、または許容寸法の中で寸法が小さい部品が多く使用された場合では、各自動変速機においては、検出値が異なるため、基準値として一定の幅を持たせている。つまり、良品の自動変速機であっても、検出値にバラツキが生じるため、基準値として上限値と下限値とを設定し、検出値がその間に入っている場合には、その自動変速機は良品であると判断される。
【0004】
しかし、種類が異なる自動変速機で用いる部品によっては、部品の寸法がわずかに異なっていることがある。そのため、部品の寸法がわずかに異なる部品が組み付けられた場合には、自動変速機の検査を行った場合に、検出した値が上限値と下限値との間に入ることも考えられる。
【0005】
このような部品が組み付けられた自動変速機は、異なる性能テストを行った場合に検出されることになるが、その間の他の行程が無駄になり、作業効率が悪くなる、といった問題点がある。
【0006】
本発明はこのような問題点を解決するために発明されたもので、検出値が基準値の規格内に入っている場合でも、異なる部品が含まれている可能性がある自動変速機を正確に検出することで、作業効率を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、自動変速機の動作状況が所定の範囲内であれば良品と判断する自動変速機の検査方法において、自動変速機の動作状況を示す値を検出する検出行程と、検出行程によって検出した値が、規格値内にあるかどうか判定する第1判定行程と、過去に検査した自動変速機で良品判断された所定数の検出値に基づいて、規格値の下限値よりも大きい第1しきい値と、規格値の上限値よりも小さい第2しきい値とを設定する設定行程と、検出行程によって検出した値が、第1しきい値よりも大きく、かつ第2しきい値よりも小さい場合に良品と判断する良品判断工程と、検出行程によって検出した値が、規格値内であるが、第1しきい値よりも小さい、または第2しきい値よりも大きい場合に、警告を行う警告発生行程と、を備える。
【0008】
また、自動変速機の動作状況が所定の範囲内であれば良品と判断する自動変速機の検査装置において、自動変速機の動作状況を示す値を検出する検出手段と、検出手段によって検出した値が、規格値内にあるかどうか判定する第1判定手段と、過去に検査した自動変速機で良品判断された所定数の検出値に基づいて、規格値の下限値よりも大きい第1しきい値と、規格値の上限値よりも小さい第2しきい値とを設定する設定手段と、検出手段によって検出した値が、第1しきい値よりも大きく、かつ第2しきい値よりも小さい場合に良品と判断する良品判断工程と、検出手段によって検出した値が、規格値内であるが、第1しきい値よりも小さい、または第2しきい値よりも大きい場合に、警告を行う警告発生手段と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、動作状況を示す値が、規格内に入っている場合でも、動作状況を示す値が第1しきい値よりも小さい、または第2しきい値よりも大きい場合には、警告を行うことで、例えば異なる種類の自動変速機で使用する部品が組み込まれているおそれがある場合には、そのような自動変速機を正確に検出することで、このような自動変速機が他の行程へ移ることを防止することができ、作業効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の実施形態について図1を用いて説明する。図1は、自動変速機の動作を確認するシステムのブロック図である。
【0011】
このシステムは、自動変速機10の動作確認を行う検査部1と、検査部1によって検出された油圧データを処理する処理部2と、処理部2から処理結果を受信する受信部3と、を備える。
【0012】
検査部1は、自動変速機10を動作させたときの油圧(動作状況を示す値)を検出する油圧センサ(検出手段)11を備える。検査部1は、設定された油圧を自動変速機10に給排して変速段を切り替えた場合に、各変速段における油圧、および変速段切り替え時の油圧の変化を油圧センサ11で検出する。油圧センサ11は、自動変速機10の動作を確認するために必要な箇所にそれぞれ設けられる。なお、ここでは変速段を有する自動変速機10について説明を行うが、変速段を有する自動変速機10に限られることはなく、無段変速機における動作を検査することも可能である。
【0013】
処理部2は、第1処理部12と第2処理部13とを備える。第1処理部12は、油圧センサ11によって検出した油圧を読み取り、油圧が予め設定された規格(第1規格)内に入っているかどうか判定する。第2処理部13は、自動変速機10を再検査する必要があるかどうかを判定する。第1処理部12と第2処理部13は、自動変速機10の油圧が規格内に入っていない場合、または自動変速機10を再検査する必要があると判定した場合に、受信部3に警告情報を送信する。
【0014】
受信部3は、処理部2によって出された警告情報を受信し、表示させる。受信部3は、例えば検査部1に取り付けられた警告灯、担当者が携帯可能な小型の受信機(携帯電話など)、システムを管理するパーソナルコンピューターである。これによって、自動変速機10の油圧が規格内に入っていない場合、または自動変速機10が正常に動作しないおそれがある場合に、警告を行う。
【0015】
次に本実施形態のシステムについて図2のフローチャートを用いて説明する。
【0016】
ステップS1(検出行程)では、検査部1において自動変速機10を動作させて、油圧センサ11によって、自動変速機10の設定された箇所の油圧を検出する。
【0017】
ステップS2では、検出した油圧を第1処理部12に送る。
【0018】
ステップS3(第1判定行程)では、第1処理部12によって、油圧が規格の下限値よりも大きく、かつ規格の上限値よりも小さいかどうか判定する。つまり、油圧が規格内に入っているかどうか判定する。油圧が規格内に入っている場合にはステップS4へ進み、油圧が規格内に入っていない場合にはステップS8へ進む(ステップS3は第1判定手段を構成する)。
【0019】
ステップS4(設定行程)では、第1しきい値と第2しきい値とを設定する。第1しきい値は、規格の下限値よりも大きく、かつ規格の上限値よりも低い値である。また、第2しきい値は、第1しきい値よりも大きく、規格の上限値よりも小さい値である。第1しきい値と第2しきい値とは、検査を行った自動変速機10であって、良品となった所定数の自動変速機10の油圧を用い、標準偏差の定数倍によって算出される。本実施形態では、所定数の自動変速機10の油圧の平均値から、標準偏差の4倍となる値(4σ)を減算して第1しきい値を算出する。また、所定数の自動変速機10の油圧の平均値から、標準偏差の4倍となる値を加算して第2のしきい値を算出する。なお、所定数は予め設定された数である(ステップS4は設定手段を構成する)。
【0020】
自動変速機10は連続した作業行程によって製造されているが、自動変速機10を構成する部品を製造する製造装置で使用する部材の摩耗などによって、自動変速機10の各部品の寸法は、製造装置に起因する傾向が生じる。例えば、部品に孔をあける製造装置においてはドリルの摩耗により、部品の孔の径は小さくなる傾向となる。この実施形態では、第1しきい値と第2しきい値とを、このような傾向を考慮して設定する。つまり、現在判定を行っている自動変速機10に使用される部品の製造状況を考慮して、第1しきい値と第2しきい値とを更新する。これによって、検出された油圧が規格内で変動した場合に、それが、部品の製造装置に起因するものなのか、それとも異なる部品が組み込まれたことなどに起因するものなのか、といった判定を行うことが可能となる。
【0021】
なお、4σを用いて第1しきい値と第2しきい値とを設定しているが、所定数個分の自動変速機の油圧の平均値に、一定の値を加算、減算することによって、第1しきい値と第2しきい値とを算出してもよい。また、第1しきい値または第2しきい値が規格の上限値、または下限値を超えた場合には、警告を受信部3に送信してもよい。
【0022】
ステップS5では、第2処理部13によって、油圧を、ステップS4によって更新した第1しきい値および第2しきい値と比較する。そして、油圧が第1しきい値よりも大きく、かつ第2しきい値よりも小さい場合、つまり、油圧が第1しきい値と第2しきい値との間に入っている場合には、ステップS6へ進む。一方、油圧が第1しきい値よりも小さい場合、または第2しきい値よりも大きい場合には、ステップS7へ進む。
【0023】
ステップS5においては、自動変速機10に異なる自動変速機の部品が組み付けられているおそれがないかどうか、または部品の一部に不具合が生じているおそれがないかどうか、を判定する。自動変速機10の部品の一部に、仕様が異なる他の自動変速機の部品が組み付けられた場合、または部品の一部に僅かな不具合が生じている場合には、油圧は規格内入ることもあるが、本実施形態では、油圧を第1しきい値、または第2しきい値と比較することで、このような自動変速機10を正確に検出することができる。
【0024】
ステップS6(良品判断工程)では、油圧が第1しきい値と第2しきい値との間に入っており、自動変速機10の油圧が正常であるので、自動変速機10が良品であると判断する(ステップS6が良品判断手段を構成する)。
【0025】
ステップS7では、自動変速機10の部品の一部に、仕様が異なる他の自動変速機の部品が組み込まれているおそれ、または僅かな不具合を生じている部品が組み込まれているおそれがあり、自動変速機10に何らかの不具合が生じる可能性があり、再検査が必要であると判定して、第1警告情報を受信部3に送信する。
【0026】
第1警告情報を受信した受信部3では、警告ランプを点灯させ、また受信機などに警告内容を表示させる。このような自動変速機10については、再度検査を行い、または分解検査などを行うことで、仕様が異なる他の部品が組み込まれていないかどうか、または一部に不具合が生じている部品が含まれていないかどうか、を検査し、自動変速機10の動作確認を行う。これによって、不良のない自動変速機10を製造することができる。また、このような自動変速機10が他の行程に進むのを防止し、作業効率を向上させることができる。
【0027】
ステップS3において、油圧が規格内ではないと判定されると、ステップ8では、自動変速機10が正常に動作しておらず、不良品であると判定して、第2警告情報を受信部3に送信する。これによって、不良品の自動変速機10を判断判定することができる。
【0028】
以上により、自動変速機10の部品の一部に、仕様が異なる他の自動変速機の部品が組み込まれているおそれがある場合、または僅かな不具合を生じている部品が組み込まれているおそれがある場合に、このような自動変速機10を正確に判断することができる。
【0029】
ここで、本実施形態におけるシステムによって検出した油圧の検査結果を図3に示す。図3は、自動変速機10の所定箇所の油圧を油圧センサ11によって検出し、処理をおこなった結果であり、横軸に自動変速機10の個数を示し、縦軸に油圧を示す。図3中のA部とB部とにおいては、油圧が規格内に入っているが、油圧が第2しきい値よりも大きくなっている。このような油圧を示す自動変速機10においては、規格上は良品となっているが、仕様が異なる他の自動変速機の部品が組み込まれているおそれ、または僅かな不具合を生じている部品が組み込まれているおそれがあると判断し、再度検査を行うことで、不良のない自動変速機10を製造することができる。
【0030】
なお、上記方法は、各油圧検出箇所についてそれぞれ行われる。また、この実施形態では自動変速機10の油圧を検査する場合について説明を行ったが、自動変速機10の油圧に限られることはなく、例えば自動変速機10のギア比の検査など、自動変速機10の動作確認を検査する各行程で使用することができる。
【0031】
本発明の実施形態の効果について説明する。
【0032】
自動変速機10の油圧を油圧センサ11によって検出し、検出した油圧が規格内に入っており、さらに検出した油圧が第1しきい値よりも小さく、または第2しきい値よりも大きい場合に、第1警告を出力することで、自動変速機10に仕様が異なる部品が組み込まれている可能性がある場合、または不具合が生じている部品が組み込まれている可能性がある場合に、このような自動変速機10を正確に検出することができる。また、このような自動変速機10が他の行程に進むのを防止し、作業効率を向上させることができる。
【0033】
また、第1しきい値と第2しきい値とを、良品である所定数の自動変速機10の油圧に基づいて設定する。これによって、検出された油圧が規格内で変動した場合に、それが、部品の製造装置に起因するものなのか、それとも異なる部品が組み込まれたことなどに起因するものなのか、といった判断を行うことが可能となる。
【0034】
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内でなしうるさまざまな変更、改良が含まれることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施形態のシステムを示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態のシステムのフローチャートである。
【図3】本発明を用いた場合の油圧検査の結果を示す図である。
【符号の説明】
【0036】
1 検査部
2 処理部
3 受信部
10 自動変速機
11 油圧センサ(検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動変速機の動作状況が所定の範囲内であれば良品と判断する自動変速機の検査方法において、
前記自動変速機の動作状況を示す値を検出する検出行程と、
前記検出行程によって検出した値が、規格値内にあるかどうか判定する第1判定行程と、
過去に検査した自動変速機で良品判断された所定数の検出値に基づいて、前記規格値の下限値よりも大きい第1しきい値と、前記規格値の上限値よりも小さい第2しきい値とを設定する設定行程と、
前記検出行程によって検出した値が、前記第1しきい値よりも大きく、かつ前記第2しきい値よりも小さい場合に良品と判断する良品判断工程と、
前記検出行程によって検出した値が、前記規格値内であるが、前記第1しきい値よりも小さい、または前記第2しきい値よりも大きい場合に、警告を行う警告発生行程と、を備えることを特徴とする自動変速機の検査方法。
【請求項2】
自動変速機の動作状況が所定の範囲内であれば良品と判断する自動変速機の検査装置において、
前記自動変速機の動作状況を示す値を検出する検出手段と、
前記検出手段によって検出した値が、規格値内にあるかどうか判定する第1判定手段と、
過去に検査した自動変速機で良品判断された所定数の検出値に基づいて、前記規格値の下限値よりも大きい第1しきい値と、前記規格値の上限値よりも小さい第2しきい値とを設定する設定手段と、
前記検出手段によって検出した値が、前記第1しきい値よりも大きく、かつ前記第2しきい値よりも小さい場合に良品と判断する良品判断工程と、
前記検出手段によって検出した値が、前記規格値内であるが、前記第1しきい値よりも小さい、または前記第2しきい値よりも大きい場合に、警告を行う警告発生手段と、を備えることを特徴とする自動変速機の検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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