説明

α−グルコシダーゼB、α−グルコシダーゼB遺伝子、該α−グルコシダーゼB遺伝子を含むベクター、該ベクターを組み込んだ形質転換体、α−グルコシダーゼBの製造方法

【課題】高い糖転移活性を有するα−グルコシダーゼの製造方法を提供する。
【解決手段】特定な配列のアミノ酸配列を有するα−グルコシダーゼB、該α−グルコシダーゼBをコードするα−グルコシダーゼB遺伝子、特定な配列の塩基配列を有するα−グルコシダーゼB遺伝子、該α−グルコシダーゼB遺伝子を含むベクター、該ベクターを組み込んだ形質転換体、該形質転換体を培養してα−グルコシダーゼを得るα−グルコシダーゼの製造方法。本発明のα−グルコシダーゼBは、特に菌体外酵素として得られることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い糖転移活性を有するα−グルコシダーゼB、該α−グルコシダーゼBをコードするα−グルコシダーゼB遺伝子、該α−グルコシダーゼB遺伝子を含むベクター、該ベクターを組み込んだ形質転換体、および該形質転換体を培養してα−グルコシダーゼBを得るα−グルコシダーゼBの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、α−グルコシダーゼは、マルトースおよびオリゴ糖の非還元末端のグルコシル基をグルコースまたはオリゴ糖の6位または3位の水酸基に転移する活性(糖転移活性)を持つ酵素であり、動物、植物および微生物に広く分布する。澱粉工業において製造されるイソマルトオリゴ糖は、清酒、味噌、醤油等に少量含まれ、旨味を与える天然の食品成分として知られ、また人体の腸内に常在するビフィズス菌等の有用細菌に対する増殖促進効果や、歯に対する抗う蝕効果等の機能を有する非常に重要な糖類である。イソマルトオリゴ糖は、α−グルコシダーゼの作用により製造される。
【0003】
特許文献1には、α−グルコシダーゼを高生産する能力を有するアスペルギルス・オリゼーの育種を目的とし、特定の制限酵素切断地図で規定されるアスペルギルス・オリゼーから単離したα−グルコシダーゼ遺伝子、およびこれを含むアスペルギルス・オリゼーのベクター、該ベクターをアスペルギルス・オリゼーに移入して得られる形質転換体、該形質転換体を培養するα−グルコシダーゼの製造法が提案されている。
【0004】
特許文献2には、アスペルギルス・オリゼーのα−グルコシダーゼ遺伝子(agdA)のプロモーターの転写活性の増大および炭素源に対する依存性の排除が可能なエンハンサーDNA塩基配列として、配列−CGGNNATTTA−を含有するエンハンサーDNA塩基配列が提案されている。
【0005】
特許文献3には、目的のタンパク質をコードする遺伝子を導入した際に当該遺伝子の発現を効率的に高めることが可能な宿主微生物の提供を目的とし、真菌類に属しかつ主たるイソマルトース生成酵素の遺伝子を欠損した微生物、さらに、α−グルコシダーゼB遺伝子が欠損したアスペルギルス・ニードランスが提案されている。
【0006】
特許文献4には、アスペルギルス属糸状菌セルフクローニング株の効率的な生産方法の提供を目的として、niaD、argB、sC、ptrA、pyrG、amdS、オーレオバシジン耐性遺伝子、ベノミル耐性遺伝子およびハイグロマイシン耐性遺伝子からなる群より選ばれるアスペルギルス属糸状菌(A)種由来のマーカー遺伝子と、アスペルギルス属糸状菌(A)の目的遺伝子発現カセットとを含む環状ヌクレオチドおよびこれを用いたアスペルギルス属糸状菌のセルフクローニング株の製造方法が提案されている。
【0007】
また、非特許文献1には、アスペルギルス・ニードランス(Aspergillus Nidulans)から得られ、高い糖転移活性を有するα−グルコシダーゼB(agdB)の存在が報告されている。
【0008】
アスペルギルス・オリゼーはタンパク質生産能に優れ、アスペルギルス・オリゼーの生産するα−グルコシダーゼは、イソマルトース、イソマルトトリオース、コウジビオース、パノース等のオリゴ糖を生成するため、該α−グルコシダーゼの利用は産業界において重要であり、さらに高い糖転移活性を有するα−グルコシダーゼの探索、検討が行なわれているが、満足できるレベルの高い糖転移活性を有するα−グルコシダーゼは得られていないのが現状である。
【特許文献1】特開平6−62868号公報
【特許文献2】特開平9−9968号公報
【特許文献3】特開2004−141029号公報
【特許文献4】特開2004−329143号公報
【非特許文献1】”Novel α−Glucosidase from Aspergillus nidulans with Strong Transglycosylation Activity”(Applied and Environmental Microbiology,Mar.2002,p.1250−1256)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、高い糖転移活性を有するα−グルコシダーゼ、該α−グルコシダーゼをコードするα−グルコシダーゼ遺伝子、該α−グルコシダーゼ遺伝子を含むベクター、該ベクターを組み込んだ形質転換体、該形質転換体を培養してα−グルコシダーゼを得るα−グルコシダーゼの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、配列番号1のアミノ酸配列を有するα−グルコシダーゼBに関する。
本発明はまた、上記のα−グルコシダーゼBをコードするα−グルコシダーゼB遺伝子に関する。
【0011】
本発明はまた、配列番号2の塩基配列を有するα-グルコシダーゼB遺伝子に関する。
本発明はまた、上記のα−グルコシダーゼB遺伝子を含む、ベクターに関する。
【0012】
本発明はまた、上記のベクターが組み込まれ、アスペルギルス・オリゼーMIBA1002(受託番号NITE P−214)である、形質転換体に関する。
【0013】
本発明はまた、上記の形質転換体を培養する培養工程と、該培養工程で得られた培養物からα−グルコシダーゼBを採取する採取工程とを含む、α−グルコシダーゼBの製造方法に関する。
【0014】
本発明はまた、上記の採取工程において、α−グルコシダーゼBが少なくとも菌体外酵素として採取される、α-グルコシダーゼBの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、α−グルコシダーゼとして特に高い糖転移活性を有するα−グルコシダーゼB、該α−グルコシダーゼBをコードするα−グルコシダーゼB遺伝子、該α−グルコシダーゼB遺伝子を含むベクター、該ベクターを組み込んだ形質転換体、および該形質転換体を培養してα−グルコシダーゼBを得るα−グルコシダーゼBの製造方法を提供することができる。また、本発明の形質転換体によれば、高い糖転移活性を有するα−グルコシダーゼBを特に菌体外酵素として多量に生産することができるため、生産されたα−グルコシダーゼBをより効率良く利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
<α−グルコシダーゼB>
本発明の発明者らは、特定のアミノ酸配列を有するα−グルコシダーゼBが、α−グルコシダーゼとして極めて高い糖転移活性を有することを見出し、本発明を完成した。本発明は、配列番号1のアミノ酸配列を有するα−グルコシダーゼBに関する。
【0017】
配列番号1のアミノ酸配列を有するα−グルコシダーゼBは、α−グルコシダーゼとして極めて高い糖転移活性を有する。
【0018】
本発明における「糖転移活性」とは、マルトースおよびオリゴ糖の非還元末端のグルコシル基をグルコースまたはオリゴ糖の6位または3位の水酸基に転移する活性を意味する。このような糖転移活性は、たとえば、糖化力分別定量キット(たとえばキッコーマン製)を用い、基質である4−ニトロフェニル−α−D−グルコシドに粗酵素液を添加して37℃で反応させた後、Na2CO3を加えることにより反応を停止させ、反応中に遊離してくる4−ニトロフェノールを400nmの吸光度の上昇により測定される値を指標として評価することができる。
【0019】
より具体的には、たとえば上記の糖化力分別定量キットを用いた測定における活性または比活性の値を指標として糖転移活性を評価することができる。ここで、活性の値は、上記の測定において1分間に1μmolの基質を糖転移させる酵素量を1U(ユニット)としたときの、粗酵素液1ml当たりの酵素量(単位:U/ml)として与えられ、上記の「比活性」の値は、上記の測定において1分間に1μmolの基質を糖転移させる酵素量を1U(ユニット)としたときの、タンパク質1mg当たりの酵素量(単位:U/mg)として与えられる。
【0020】
本発明に係るα−グルコシダーゼBは、上記の方法で測定される活性として0.012U/ml以上、さらに0.080U/ml以上の活性を有することが好ましい。該活性が0.012U/ml以上、特に0.080U/ml以上である場合、α−グルコシダーゼBは高い糖転移活性を有し、該α−グルコシダーゼBを用いることによって、たとえばイソマルトオリゴ糖等を効率的に生産することができる。α−グルコシダーゼBの活性は高いほど好ましいが、たとえば0.200U/ml程度であれば十分に高い糖転移活性を有する。
【0021】
本発明のα−グルコシダーゼBは、微生物由来でも人工的な合成により得られたものでも良い。目的のアミノ酸配列を有するα−グルコシダーゼBが簡便に得られる点では、アスペルギルス・オリゼー由来であることが好ましい。配列番号1のアミノ酸配列を有するα−グルコシダーゼBは、当業者であれば、公知の方法にて、過度な試行錯誤や複雑高度な実験を行なうことなく、人工的に合成することが可能である。
【0022】
<α−グルコシダーゼB遺伝子>
本発明はまた、本発明のα−グルコシダーゼBをコードする、α−グルコシダーゼB遺伝子に関する。本発明のα−グルコシダーゼB遺伝子は、一本鎖、二本鎖のいずれであってもよく、またDNA、RNAのいずれであってもよい。α−グルコシダーゼB遺伝子がDNAである場合、本発明のα−グルコシダーゼBをコードする構造遺伝子を含んでいることが好ましい。またこの場合、上記構造遺伝子はエキソンとして含まれ、上記構造遺伝子以外の塩基配列がイントロンとして含まれていても良い。
【0023】
本発明のα−グルコシダーゼB遺伝子は、微生物由来でも人工的な合成により得られたものでも良い。目的の塩基配列を有するα−グルコシダーゼB遺伝子が簡便に得られる点では、アスペルギルス・オリゼー由来であることが好ましい。本発明のα−グルコシダーゼB遺伝子は、当業者であれば、たとえばDNA合成機を用いて、公知の方法にて過度な試行錯誤や複雑高度な実験を行なうことなく、人工的に合成することが可能である。
【0024】
本発明のα−グルコシダーゼB遺伝子は、特に配列番号2の塩基配列を有するα−グルコシダーゼB遺伝子であることができる。配列番号2の塩基配列を有するα−グルコシダーゼB遺伝子は配列番号1のアミノ酸配列を有するα−グルコシダーゼBをコードする。
【0025】
また、配列番号2の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列であって、かつ、同一条件下でこれらの配列がコードするα−グルコシダーゼBと同等の糖転移活性のα−グルコシダーゼBをコードする機能を有する塩基配列も本発明の範囲内に含まれる。ここでストリンジェントな条件としては、通常のサザンハイブリダイゼーションの洗浄条件が挙げられ、たとえば、一次洗浄バッファー(0.5×SSC、0.4%SDS)中、55℃で10分間振とうし、新しい該一次洗浄バッファー中で再び55℃で10分間振とうした後、二次洗浄バッファー(2×SSC)中、室温で5分間振とうし、新しい該二次洗浄バッファー中で再び室温で5分間振とうする条件が挙げられる。
【0026】
以下に、本発明のα−グルコシダーゼB遺伝子の作製法として、配列番号2の塩基配列を有するα−グルコシダーゼB遺伝子を得るための具体的な手順の一例を説明する。上述したように本発明のα−グルコシダーゼB遺伝子は、微生物由来でも人工的な合成により得られたものでも良いが、以下では、供与体としてアスペルギルス・オリゼーを用いる場合について説明する。なお、以下に示した手順において特に言及しない操作については、適宜常法が適用され得る。また、適宜常法にて追加または代替の手順が採用され得る。
【0027】
(1)染色体DNAの抽出
供与体として用いるアスペルギルス・オリゼー菌株としては、たとえばRIB40等が例示できる。
【0028】
菌株からの染色体DNAの抽出はたとえば下記のような方法で行なうことができる。アスペルギルス・オリゼーの分生胞子1白金耳を、たとえばデキストリン・ペプトン培地に接種して振とう培養した後、得られた菌体をガラスフィルターで集め、滅菌水で洗浄する。次にこの菌体の水分をろ紙等により除去した後、あらかじめ冷却した乳鉢を用いて液体窒素中ですりつぶす方法等により菌体を破砕する。得られた菌体破砕物を、たとえばTE溶液に懸濁させた後、溶菌溶液を加えて緩やかに撹拌した後、37℃程度で30分間程度放置する。得られた溶菌液を冷却遠心分離等により遠心分離した後、上清を回収する。
【0029】
この上清をたとえば等量のフェノール・クロロホルム・イソアミルアルコール混合液で2回処理する方法によって、夾雑するタンパク質を除去した後、冷エタノールを加えてDNAを沈殿させる。得られた沈殿物をRNアーゼを含むTE溶液に緩やかに溶解させて、たとえば37℃で30分間程度反応させる。
【0030】
反応後の溶液をたとえばフェノール・クロロホルム・イソアミルアルコール処理した後、冷エタノールを添加し、生じた染色体DNAをパスツールピペットで巻き取る。巻き取った染色体DNAを乾燥した後、TE溶液に溶解させ、染色体DNA溶液を調製する。
【0031】
(2)染色体ジーンライブラリーの作製
上記のような方法で抽出した染色体DNAから、アスペルギルス・オリゼーの染色体ジーンライブラリーを作製する。
【0032】
上記で得られた染色体DNAからの染色体ジーンライブラリーの作製は常法により行なうことができる。たとえば、染色体DNAを制限酵素BamH Iで処理することによって部分分解して得た染色体ゲノムをアガロース電気泳動で分離した後、約5.5kbp付近のゲルを切り出し、DNA断片を得る。このDNA断片をファージλに挿入して染色体ジーンライブラリーを作製することができる。
【0033】
(3)クローニング
上記の染色体ジーンライブラリーに保存されたファージのプラークを形成した後、プラークハイブリダイゼーションによりα−グルコシダーゼB遺伝子を含むクローンを選択する。用いるプローブは、α−グルコシダーゼB遺伝子の一部についてPCR増幅を行なうことで取得できる。
【0034】
アスペルギルス・ニードランスの前述の非特許文献1に記載される共通保存配列(アミノ酸配列)を参考に、揺らぎの少ない部分にて縮重(degenerate)プライマーを作製し、アスペルギルス・オリゼーの染色体ゲノムを鋳型にネストPCR(nested PCR)を行ない、約900bpのPCR断片を取得し、プローブとすることができる。
【0035】
このような縮重プライマーとしては、たとえば、プライマーSP1(5‘−TGGATHGAYATGAAYGARCC−3’)(配列番号3)、プライマーASP2(5‘−TGRTCNCKRAARAANGTRTA−3’)(配列番号4)、およびプライマーASP3(5‘−CCNCCRAANCCRCANACRTC−3’)(配列番号5)を設計できる。
【0036】
なお上記の配列において、HはA,C,Tのいずれかを、YはCまたはTを、RはAまたはGを、KはGまたはTを、NはA,C,G,Tのいずれかを、それぞれ表す。
【0037】
上記で得た染色体ライブラリーからのα−グルコシダーゼB遺伝子の単離は、たとえば以下のように行なうことができる。ハイブリダイゼーションによって得られたプラーク中に挿入されているアスペルギルス・オリゼー由来のDNAを含む断片をPCR増幅により得る。プラークベクター内のマルチクローニングサイトの両隣に存在するT7およびT3のプロモーター配列と、プローブの3’末端側の配列とを用い増幅する。
【0038】
PCR産物についてシーケンスを行ない、得られた結果につきNCBIのBLAST検索を行なう。これにより、本発明のα−グルコシダーゼB遺伝子の全長を決定することができる。
【0039】
<ベクター>
本発明は、上述した本発明のα−グルコシダーゼB遺伝子を含むベクターも提供する。本発明のベクターは、これを導入した形質転換体においてα−グルコシダーゼBを産生させ得るものであれば特に制限されるものではない。たとえば染色体、エピソーム、ウイルスに由来するベクター(たとえば、細菌プラスミド由来、酵母プラスミド由来、SV40などのパポバウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、鶏痘ウイルス、仮性狂犬病ウイルス、レトロウイルス由来のベクターなど)、バクテリオファージ由来、トランスポゾン由来、およびこれらの組合せに由来するベクター(コスミドベクターなど)に、従来公知の遺伝子工学的手法にて上述した本発明のα−グルコシダーゼB遺伝子を組み込んだベクターを挙げることができる。
【0040】
本発明のベクターは、通常、組み込んだα−グルコシダーゼB遺伝子の上流側に、プロモータ配列を有するものを用いる。プロモータ配列としては、サイトメガロウイルス(CMV)プロモータ、β−アクチンプロモータ、メタロチオネインIIAプロモータ、SV40Eプロモータ、SRαプロモータ、麹菌のエノラーゼ遺伝子の改良型プロモータ、などが挙げられるが、本発明のα−グルコシダーゼBがアスペルギルス・オリゼー由来である場合にはセルフクローニングが可能である点で麹菌のエノラーゼ遺伝子の改良型プロモータを用いることが好ましい。本発明のベクターは、所望のプロモータ配列が予め組み込まれたものを用いてもよいし、従来公知の遺伝子工学的手法にてα−グルコシダーゼB遺伝子の上流側に組み込んでもよい。
【0041】
本発明のベクターの好適な具体例としては、niaD遺伝子をマーカーに持つpNEN142の他、argBマーカー、pirGマーカー、ピリジアミノマーカーなどを持つベクターに該α−グルコシダーゼB遺伝子を挿入することによって得られたベクターを挙げることができる。たとえば図1は、pNEN142の制限酵素切断地図を示す図であり、図2は、本発明のベクターの例としてのpNEN−agdBの制限酵素切断地図を示す図である。図2は、一例として、3kbpのagdB−ORF(α−グルコシダーゼB遺伝子のオープンリーディングフォーム)が挿入された12.3kbpのベクターpNEN−agdBの例について示しているが、本発明のベクターはこれに限定されるものではない。
【0042】
<形質転換体>
本発明はまた、上述した本発明のベクターが組み込まれた形質転換体も提供する。本発明の形質転換体は、本発明のベクターを適切な宿主に常法にて組み込むことにより得ることができる。ベクターを組み込む宿主は限定されるものではなく、たとえばアルペルギルス・オリゼー、アスペルギルス・ニガー、アスペルギルス・カウチ、アスペルギルス・ソヤなどを挙げることができる。中でも、α−グルコシダーゼB産生能、特に菌体外酵素としてのα−グルコシダーゼB産生能が高い点でアスペルギルス・オリゼーが好ましく用いられる。宿主のアスペルギルス・オリゼーとしては、通常のアスペルギルス・オリゼー(ピリジアミンマーカー優性)、アスペルギルス・オリゼーRIB40等のniaD欠損株、が好ましく用いられる。
【0043】
上述したα−グルコシダーゼB産生能を有する形質転換体としては、たとえば本発明者が作製し、アスペルギルス・オリゼーMIBA 1002(Aspergillus oryzae MIBA 1002)と命名された形質転換体を挙げることができる。かかる形質転換体アスペルギルス・オリゼーMIBA 1002は新規なものであるため、微生物工業技術研究所に寄託した(受託番号:NITE P−214)。
【0044】
<α−グルコシダーゼBの製造方法>
本発明においては、上記で得られた形質転換体を培養する培養工程と、該培養工程で得られた培養物からα−グルコシダーゼBを採取する採取工程と、を含む方法によりα−グルコシダーゼBを製造することができる。典型的には、まず、培養工程において、本発明の形質転換体を、たとえばデキストリンを炭素源とする培地等の培地中で、たとえば3〜8日間程度培養し、育成された菌株を培養物として回収する。次に、採取工程において該培養物のろ過、破砕等を行なうことにより、α−グルコシダーゼBを採取する。この場合、培養物をろ過して得たろ液を、菌体外酵素を含む菌体外粗酵素液として回収し、ろ過後の残渣をさらに破砕して、菌体内酵素を含む菌体内粗酵素液として回収する方法等が好ましく採用され得る。
【0045】
特に、アスペルギルス・オリゼーを宿主とする本発明の形質転換体を用いる場合には、α−グルコシダーゼBを多量の菌体外酵素として採取できる点で好ましい。この場合、上記の採取工程において、たとえば培養物をろ過して得たろ液を菌体外粗酵素液として回収する方法等によって、α−グルコシダーゼBを少なくとも菌体外酵素として回収することができる。α−グルコシダーゼBを菌体外酵素として得ることにより、たとえば食品用途においてオリゴ糖を生成させる際等、本発明の種々の適用態様において、生産されたα−グルコシダーゼBを効率的に利用することが可能である。
【0046】
なお、本発明のα−グルコシダーゼBの製造方法のその他の工程については従来公知の手法を適宜好ましく採用することができる。
【0047】
[実施例]
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお以下の「%」の記載は特記がない限り質量%を意味する。
【0048】
<実施例1>
(染色体ジーンライブラリーの作製)
アスペルギルス・オリゼー菌株から、下記の手順で染色体DNAを抽出した。すなわち、アスペルギルス・オリゼーRIB40株の分生胞子1白金耳をデキストリン・ペプトン培地(2%デキストリン、1%ペプトン、0.5%KH2PO4、0.1%NaNO3、0.05%MgSO4、7H2O)100mlに接種し、30℃で2日間振とう培養し、得られた菌体を3G1ガラスフィルターに集め、滅菌水で洗浄した。
【0049】
次に、この菌体の水分を濾紙により除去した後、あらかじめ−80℃に冷却した乳鉢を用いて液体窒素中ですりつぶした。この菌体粉砕物をTE溶液(10mM、トリス−HCl、1mMEDTA、pH8.0)に懸濁させた後、溶菌溶液(0.5%SDS、50mMEDTA)を等量加えて緩やかに撹拌した後、37℃で30分間放置した。得られた溶菌液を3000rpmで10分間冷却遠心分離した後、上清を取得した。その上清を等量のフェノール・クロロホルム・イソアミルアルコール混合液で2回処理して、夾雑するタンパク質を除去した後、2.5倍容の冷エタノールを加え、DNAを沈殿させた。得られた沈殿物を0.1mg/mlのRNアーゼを含むTE溶液に緩やかに溶解して、37℃で30分間反応させた。反応後の溶液をフェノール・クロロホルム・イソアミルアルコール処理した後、2.5倍容の冷アルコールを添加し、生じた染色体DNAをパスツールピペットで巻き取った。巻き取ったDNAを乾燥した後、TE溶液に溶解し、染色体DNA溶液を調製した。
【0050】
上記で得たアスペルギルス・オリゼーの染色体DNAを、制限酵素BamH Iを用い、37℃で2時間反応させて消化した。アガロース電気泳動で分離した後、サザンハイブリダイゼーションを行なった。なおサザンハイブリダイゼーションには、アマシャムバイオサイエンス(株)製のキット「AlkPhos Direct」を用い、一連の操作は、該キットに付属するプロトコールに従って常法にて行なった。パーオキシダーゼが触媒するルミノールの酸化反応によるケミルミネセンスを検出するという原理を応用したアマシャムバイオサイエンス(株)のECL検出システムにより、バンドの検出を行なった。
【0051】
用いたプローブは、下記に示すネストPCRにより得た。アスペルギルス・オリゼーと同属であるアスペルギルス・ニードランスの、前述の非特許文献1に記載される共通保存配列(アミノ酸配列)を参考に、揺らぎの少ない部分にて、縮重プライマーSP1(5‘−TGGATHGAYATGAAYGARCC−3’)(配列番号3)、プライマーASP2(5‘−TGRTCNCKRAARAANGTRTA−3’)(配列番号4)、およびプライマーASP3(5‘−CCNCCRAANCCRCANACRTC−3’)(配列番号5)を設計した。
【0052】
なお上記の配列において、HはA,C,Tのいずれかを、YはCまたはTを、RはAまたはGを、NはA,C,G,Tのいずれかを、それぞれ表す。
【0053】
上記のアスペルギルス・オリゼーの染色体DNAとプライマーSP1、およびプライマーASP3、さらに、得たPCR産物とプライマーSP1およびプライマーASP2とでネストPCRを行ない、プローブとなる約800bpのPCR断片を取得した。
【0054】
サザンハイブリダイゼーションの検出結果としては、約5.5kbpのサイズのバンドが検出された。
【0055】
アスペルギルス・オリゼーの染色体DNAを、制限酵素BamH Iで再度消化し、アガロース電気泳動で分離した後、約5.5kbp付近のゲルを切り出し、断片を回収した。
【0056】
回収した断片をファージλDASH IIのBamH I部位にT4リガーゼを用いて連結し、得られたファージDNAをin vitroパッケージングキット(ギガパックゴールド(東洋紡績(株)製))を用いてパッケージングした後、E.coli LE392にトランスフェクションし、染色体DNAのジーンライブラリーを作製した。
【0057】
(クローニング)
上記で作製した染色体DNAのジーンライブラリーに保存されたファージのプラークを形成した後、プラークハイブリダイゼーションにより、α−グルコシダーゼB遺伝子を含むクローンの選択を行なった。なおプラークハイブリダイゼーションにはアマシャムバイオサイエンス(株)製のキット「ECL Direct」を用い、一連の操作は、該キットに付属するプロトコールに準じて常法にて行なった。なお、プローブ濃度は10ng/ml、ハイブリダイゼーション時間は4時間、フィルムへの露光時間は1時間にそれぞれ設定し、培地にはプロトコールに記載されるクロラムフェニコールに代えてアンピシリンを添加し、培養およびリンスを行なった後のディスクの乾燥条件としてはプロトコールに記載される風乾に代えて80℃でインキュベートにて乾燥する条件を採用した。プラークハイブリダイゼーションに用いたプローブとしては前述の染色体ジーンライブラリーの作製において用いたのと同じものを用いた。その結果、数個のプラークが検出できた。
【0058】
(α−グルコシダーゼB遺伝子の塩基配列の決定)
上記で得られたプラークの中に挿入されているアスペルギルス・オリゼー由来のDNAを含む断片を下記のようにPCRにて増幅させた。プラークベクター内のクローニングサイトの隣に存在するT7およびT3のプロモーター配列と、プローブの3’末端側、5‘末端側、の配列とを用いてPCRを行なった。
【0059】
増幅したPCR断片について、BigDye Terminator v1.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems製)を用いてシーケンスを行ない、ベクターに挿入されている塩基配列を決定したところ、配列表に記載された配列番号2の塩基配列が得られた。また、配列番号2の塩基配列によってコードされるα−グルコシダーゼBのアミノ酸配列として、配列表の配列番号1に記載されたアミノ酸配列が決定された。
【0060】
上記の塩基配列についてホモロジー検索をした結果、アスペルギルス・ニードランス由来のα−グルコシダーゼB遺伝子とのホモロジーは、NCBIのFASTによる塩基配列の検索で81%、NCBIのBLASTによるアミノ酸配列の検索で80%の相同性が認められた。これより、アスペルギルス・ニードランスのα−グルコシダーゼB遺伝子と同様の遺伝子がアルペルギルス・オリゼーにも存在することが分かった。また、ベクターに挿入されているDNA断片は、α−グルコシダーゼB遺伝子全長を含んでいることが分かった。
【0061】
<実施例2>
(活性アスペルギルス・オリゼーのα−グルコシダーゼBを分泌産生するためのアスペルギルス・オリゼーで機能するベクターの構築)
α−グルコシダーゼB遺伝子の構造遺伝子部分は下記の方法で取得した。
【0062】
上記で得たDNA断片を含むプラークより、スタートコドンおよびNot I配列を含むプライマーと、ストップコドンおよびXba I配列を含むプライマーとを用いてPCRを行ない、構造遺伝子をPCR断片として取得した。
【0063】
得られたPCR断片を、Minetoki.t ”Development of high expression system with the improved promotor using the cis−acting element in Aspergillus species” J.Biol.Macromol.,3(3)89−96(2003)に記載される、アスペルギルス・オリゼーで複製可能なベクターpNEN142により、以下の方法で連結した。用いたpNEN142の制限酵素切断地図は図1に示す通りである。
【0064】
まず、上記のPCR断片の10μgを、Not I、Xba I制限酵素で二重消化した後、0.8%アガロース電気泳動にかけて分離した3kbpの断片をゲルから切り取り、そのゲル片からジーンクリーンキット(バイオ101社製)を用いてTE溶液(10mM トリス−HCl、1mM EDTA、pH8.0)に回収した。
【0065】
一方、pNEN142をNot I、Xba I制限酵素で二重消化した後、小牛腸のアルカリフォスファターゼ(CIAP)で処理し、5‘末端のリン酸基を除去して、pNEN142の自己連結を防ぎながら上記の5.5kbpのDNA断片とT4リガーゼを用いて連結してベクターpNEN142−agdBを作製した。得られたベクターpNEN142−agdBの制限酵素切断地図は図2に示す通りである。
【0066】
<実施例3>
(活性アスペルギルス・オリゼーのα−グルコシダーゼBを多量に分泌生産するアスペルギルス・オリゼー形質転換体の作製)
上記で得たベクターpNEN142−agdBに挿入されている3kbpのアスペルギルス・オリゼー由来のDNA断片には、α−グルコシダーゼBを発現分泌生産するのに必要な情報が含まれていると予想される。そこで、次のようにpNEN142−agdBのアスペルギルス・オリゼーへの移入を行なった。
【0067】
アスペルギルス・オリゼーの硝酸還元酵素遺伝子欠損株(niaD-株)をデキストリン・ペプトン培地(2%デキストリン、1%ポリペプトン、0.5%KH2PO4、0.05%MgSO4・7H2O)にて、30℃で2日間振とう培養した後、得られた菌糸を無菌水で洗浄した。
【0068】
この菌糸を、細胞壁溶解液(10mMリン酸緩衝液、0.8MNaCl、20mg/mlヤタラーゼ(宝酒造(株)製))に懸濁し、30℃で3時間振とうすることによりプロトプラスト化を図った。
【0069】
得られたプロトプラストをガラスフィルター3G3でろ過することにより、残存する菌糸を除去した。
【0070】
次に、このプロトプラストを、0.8MNaClで2回洗浄した後、形質転換溶液1(0.8MNaCl、10mMCaCl2、50mM トリス−HCl(pH7.5))に、2.5×106個/mlになるように懸濁させ、懸濁液を調製した。この懸濁液に、1/4容の形質転換溶液2(40%(w/v)ポリエチレングリコール4000、50mMCaCl2、50mM トリス−HCl(pH7.5))、1/100容のジメチルスルホキシドを添加してコンピテントセルを調製した。
【0071】
上記で得たコンピテントセル0.1ml(2.0×107個)に、pNEN142−agdB10μgを加え、氷中で30分間放置した後、1mlの形質転換溶液2を加えよく混合した後、室温で20分間放置した。これを10mlの形質転換溶液1で洗浄した後、0.8MNaClを含むデキストリン・ツァペック・ドックス培地(2%デキストリン、0.3%NaNO3、2%KCl、0.1%KH2PO4、0.05%MgSO4・7H2O、0.002%FeSO4、pH5.5)の平板上に塗布し、その上に0.8MNaClを含む0.6%寒天を重層して30℃で培養した。pNEN142−agdBは、硝酸還元酵素遺伝子(niaD)を含んでおり、最小培地(デキストリン・ツァペック・ドックス培地)で生育可能な形質転換体を取得した。
【0072】
該形質転換体は、アスペルギルス・オリゼーMIBA1002(Aspergillus oryzae MIBA1002)と命名し、微生物工業技術研究所に寄託した。受託番号は、「NITE P−214」である。
【0073】
得られた形質転換体のα−グルコシダーゼBの活性および比活性を、後述の実施例4において記載する方法により測定した。結果についても後述する。
【0074】
<実施例4>
(アスペルギルス・オリゼーの形質転換体を用いた液体培養によるα−グルコシダーゼBの生産)
実施例3で得た形質転換体の分生胞子を、100mlの培地(2%デキストリン、1%ポリペプトン、0.1%KH2PO4、0.05%MgSO4・7H2O、pH5.5)に、2.5×106個接種し、30℃で1〜9日間振とう培養した。得られた培養物は、3GIガラスフィルターでろ過し、ろ液は菌体外粗酵素液として、また菌体は超純水で洗浄し、バッファー(50mM NaH2PO4(pH7.0)、10mM EDTA 0.1%TritonX−100、0.1% N−ラウロイルサルコシンナトリウム塩、10mM β−メルカプトエタノール)中で、ホモジナイザーで破砕、遠心分離した上清を菌体内粗酵素液とした。下記の方法で糖転移活性およびSDS−PAGEの評価を行なった。
【0075】
(糖転移活性の評価)
上記の1〜9日培養後のそれぞれの培養物から得た菌体内粗酵素液および菌体外粗酵素液の各粗酵素液につき、α−グルコシダーゼBの糖転移活性を測定した。
【0076】
測定は、糖化力分別定量キット(キッコーマン)を用いて行なった。基質である4−ニトロフェニル−α−D−グルコシドに上記の各粗酵素液を添加して37℃で反応させた後、Na2CO3を加えることにより反応を停止させ、反応中に遊離してくる4−ニトロフェノールを400nmの吸光度の上昇により測定し、α−グルコシダーゼBの活性(U/ml)を測定した。また、3日培養後および8日培養後の培養物については、比活性(U/mg)も測定した。なお、1分間に1μmolの基質を糖転移させる酵素量を1U(ユニット)とした。上記の活性の値は、粗酵素液1ml当たりの酵素量(U/ml)として与えられ、上記の比活性の値は、タンパク質1mg当たりの酵素量(U/mg)として与えられる。
【0077】
(SDS−PAGE(ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動)の評価)
上記の8日培養後の培養物から得た菌体外粗酵素液につき、SDS−PAGEの評価を行なった。
【0078】
評価は、ラエムリ(Laemmli)の方法(”Cleavage of Structural Proteins during the Assembly of the Head ofBacteriophage T4”Nature,Vol.227,680(1970))で行ない、電気泳動後のゲルはクマシーブリリアントブルーR250を用いて染色した。これを、粗酵素液セントリカットU−20(倉敷紡績(株)製)を用いて濃縮した。
【0079】
<比較例1>
実施例3の形質転換体に代えて親株であるアスペルギルス・オリゼーRIB40を用いた他は実施例4と同様の方法で菌体を培養した。実施例4と同様の方法で1〜9日培養後のそれぞれの培養物から菌体内粗酵素液および菌体外粗酵素液を調製した。
【0080】
上記の菌体内粗酵素液および菌体外粗酵素液について糖転移活性の測定を行ない、8日培養後の培養物から得た菌体外粗酵素液についてSDS−PAGEの評価を行なった。
【0081】
実施例4および比較例1における、1〜9日培養後の菌体内酵素の活性を表1に、1〜9日培養後の菌体外酵素の活性を表2に、3日培養後の菌体内酵素の糖転移活性を表3に、8日培養後の菌体内酵素および菌体外酵素の糖転移活性を表4に、それぞれ示す。
【0082】
【表1】

【0083】
【表2】

【0084】
【表3】

【0085】
【表4】

【0086】
表1および表2に示す結果から、本発明の形質転換体のα−グルコシダーゼBの生産性は、親株に比べて顕著に向上していることが分かる。特に、表3に示す結果から、培養3日後において、本発明の形質転換体の菌体内酵素としてのα−グルコシダーゼBの生産性は、活性、比活性ともに、親株の約11倍に増加したことが分かる。また、表4に示す結果から、培養8日後において、本発明の形質転換体の菌体内酵素としてのα−グルコシダーゼBの生産性は、活性で親株の7.5倍、比活性で親株の6.8倍に増加したことが分かり、さらに、菌体外酵素としてのα−グルコシダーゼBの生産性は、親株と比較して、活性が4.2倍、比活性が約2.4倍に増加したことが分かる。また、表4に示す結果から、実施例4における1g菌体当りの酵素量に占める菌体外酵素の割合は68.45%であり、本発明の形質転換体を用いた液体培養において多量の菌体外酵素を得ることが可能であることが分かる。
【0087】
図3は、実施例4および比較例1における8日培養後の菌体外酵素のSDS−PAGEの結果を示す図である。図3中、(1)は実施例4の結果、(2)は比較例1の結果を示している。図3に示すように、実施例4においては、分子量78,000付近および分子量63,000付近の比較例1にはないタンパク質が出現していた。図3に示す結果から、実施例4においては、α−グルコシダーゼBに相当する分子量のタンパク質が多量に分泌生産され、なおかつ、夾雑酵素も少なく高純度であることが分かる。
【0088】
これらの結果から、本発明のα−グルコシダーゼB遺伝子を含むベクターを移入した形質転換体を用いることにより、高い糖転移活性を有するα−グルコシダーゼBを多量かつ高純度で生産することが可能であり、特に、α−グルコシダーゼBを菌体外酵素として多量に得ることが可能であることが分かる。
【0089】
<実施例5>
(アスペルギルス・オリゼーの形質転換体のふすま培養によるα−グルコシダーゼBの生産)
前述したように、本発明のα−グルコシダーゼB遺伝子を含むベクターを移入した形質転換体の液体培養において菌体外酵素を多量に得ることができることが確認できたため、より良い培養条件を検討するため、該形質転換体のふすま培養を行なった。
【0090】
実施例3で得た形質転換体の分生胞子を、ふすま培地(小麦ふすま5g、H2O5ml)に2.5×106個接種し、30℃で5日間静置培養した。培養物1gに対し、10mlの酢酸バッファー(pH5.0)で、3時間抽出した。
【0091】
抽出後、3G1ガラスフィルターでろ過し、ろ液は菌体外粗酵素液として、また菌体は、超純水で洗浄した後、バッファー(50mM NaH2PO4(pH7.0)、10mM EDTA、0.1% TritonX−100、0.1% N−ラウロイルサルコシンナトリウム塩、10mM β−メルカプトエタノール)中でホモジナイザーで破砕、遠心分離し、上清を菌体内粗酵素液とした。糖転移活性の測定は、実施例4と同様に行なった。結果を表5に示す。
【0092】
【表5】

【0093】
表5に示すように、ふすま培養における菌体内酵素、菌体外酵素の糖転移活性の比較を行なった結果、ふすま1g当りの酵素量に占める菌体外酵素の割合は約86%(0.587U/g)であった。表5に示す結果から、本発明のα−グルコシダーゼB遺伝子を含むベクターを移入した形質転換体を用いることにより、ふすま培養によってもα−グルコシダーゼBを多量に生産でき、特に菌体外酵素として多量のα−グルコシダーゼBが得られることが分かる。
【0094】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明において生産されるα−グルコシダーゼBを用いて、たとえば、イソマルトオリゴ糖を効率的に生産し、清酒、味噌、醤油等の旨味成分として利用できる他、ビフィズス菌の増殖、抗う蝕等の用途にも利用できる。さらに、本発明のα−グルコシダーゼB遺伝子が組み込まれた組換え体DNAを含むアスペルギルス・オリゼーの形質転換体は、多量のα−グルコシダーゼBを特に菌体外酵素として生産できるため、該形質転換体を用いて製麹した麹を利用することによって、イソマルトース、イソマルトトリオース、コウジビオース等のオリゴ糖を効率良く生成することができ、該オリゴ糖は、食品や化粧品等に対して好適に適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】pNEN142の制限酵素切断地図を示す図である。
【図2】本発明のベクターの例としてのpNEN−agdBの制限酵素切断地図を示す図である。
【図3】実施例4および比較例1における8日培養後の菌体外酵素のSDS−PAGEの結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1のアミノ酸配列を有するα−グルコシダーゼB。
【請求項2】
請求項1に記載のα−グルコシダーゼBをコードするα−グルコシダーゼB遺伝子。
【請求項3】
配列番号2の塩基配列を有するα-グルコシダーゼB遺伝子。
【請求項4】
請求項2または3に記載のα−グルコシダーゼB遺伝子を含む、ベクター。
【請求項5】
請求項4に記載のベクターが組み込まれ、アスペルギルス・オリゼーMIBA 1002(受託番号NITE P−214)である、形質転換体。
【請求項6】
請求項5に記載の形質転換体を培養する培養工程と、
前記培養工程で得られた培養物からα−グルコシダーゼBを採取する採取工程と、
を含む、α−グルコシダーゼBの製造方法。
【請求項7】
前記採取工程において、前記α−グルコシダーゼBが少なくとも菌体外酵素として採取される、請求項6に記載のα-グルコシダーゼBの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−72956(P2008−72956A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−255936(P2006−255936)
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(599125249)学校法人武庫川学院 (24)
【出願人】(593165487)学校法人金沢工業大学 (202)
【Fターム(参考)】