説明

α−シリルジフルオロメチルカルボニル化合物の製造方法

【課題】医農薬の重要な中間体に成り得るα−シリルジフルオロメチルカルボニル化合物の実用的な製造方法を提供する。
【解決手段】カルボニル化合物のα位プロトンを塩基で脱プロトン化し、トリフルオロメチルシラン類と反応させることにより、α−シリルジフルオロメチルカルボニル化合物を製造することができる。この様な反応形式は、従来一切報告されていない。また、トリフルオロメチルシラン類は、大量規模で入手でき比較的安価である。さらに、従来の炭素求核剤を用いる反応と比べると、高価な触媒を必要とせず目的物を主生成物として得ることができる。最後に、得られるα−シリルジフルオロメチルカルボニル化合物は新規化合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α−シリルジフルオロメチルカルボニル化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明で対象とするα−シリルジフルオロメチルカルボニル化合物は、医農薬の重要な中間体に成り得る。本発明の製造方法はトリフルオロメチルシラン類を求電子剤として用いることに特徴があり、フッ素原子の1つがフッ化物イオンの形で脱離基として働く。類似の置換反応として非特許文献1から4が知られているが、脱離基に対応する部位や反応形式が異なる。また、本発明で得られるα−シリルジフルオロメチルカルボニル化合物は新規化合物である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Journal of Organic Chemistry(米国),2003年,第68巻,p.4457〜4463
【非特許文献2】Journal of the American Chemical Society(米国),1997年,第119巻,p.1572〜1581
【非特許文献3】Journal of Organometallic Chemistry(米国),1990年,第381巻,p.315〜320
【非特許文献4】Journal of Organometallic Chemistry(米国),1981年,第212巻,p.145〜153
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、医農薬の重要な中間体に成り得るα−シリルジフルオロメチルカルボニル化合物の実用的な製造方法を提供することにある。
【0005】
非特許文献1から4では、脱離基に対応する部位がフェニルスルホニル基、塩素原子や臭素原子であり(本発明で対象とするフッ素原子は知られていない)、これらの部位を有するジフルオロメチルシラン類の入手が必ずしも容易ではなかった。さらに、導入される部位や反応形式の観点からシリル化、ダイマー化やヒドリド還元に限られていた。グリニャール試薬が炭素求核剤として働く可能性も示されているが(ダイマー化の副反応として)、本発明で対象とするカルボニル化合物の金属エノラートを炭素求核剤として用いる反応例は知られていない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、カルボニル化合物のα位プロトンを塩基で脱プロトン化し、トリフルオロメチルシラン類と反応させることにより、α−シリルジフルオロメチルカルボニル化合物が製造できることを見出した。また、トリフルオロメチルシラン類としてはトリメチル(トリフルオロメチル)シランが好ましく、入手が容易である。さらに、カルボニル化合物としてラクトンまたはラクタム類、且つトリフルオロメチルシラン類としてトリメチル(トリフルオロメチル)シランを用いて反応を行うことが特に好ましく、α−トリメチルシリルジフルオロメチル化を良好に行うことができる。最後に、得られるα−シリルジフルオロメチルカルボニル化合物は新規化合物である。α−シリルジフルオロメチルカルボニル化合物としてはα−トリメチルシリルジフルオロメチルラクトンまたはラクタム類が好ましく、医農薬の特に重要な中間体に成り得る。
【0007】
すなわち、本発明は[発明1]から[発明5]を含み、α−シリルジフルオロメチルカルボニル化合物の実用的な製造方法を提供する。
【0008】
[発明1]
一般式[1]:
【化1】

【0009】
[一般式[1]中、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基または置換芳香環基を表し、Xは水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基、置換芳香環基、NR、ORまたはSRを表す。RおよびRはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基、置換芳香環基またはアミノ保護基を表し、RおよびRは水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基または置換芳香環基を表す。RとR、または、RもしくはRとXとは、直接にもしくはそれぞれ任意の炭素原子同士で、または、窒素原子、酸素原子もしくは硫黄原子を介して、共有結合により環状構造を採ることもある。]
で示されるカルボニル化合物のα位プロトンを塩基で脱プロトン化し、一般式[2]:
【化2】

【0010】
[一般式[2]中、R、RおよびRはそれぞれ独立にアルキル基または芳香環基を表す。]
で示されるトリフルオロメチルシラン類と反応させることにより、一般式[3]:
【化3】

【0011】
[一般式[3]中、R、R、X、R、RおよびRは前記と同じである。]
で示されるα−シリルジフルオロメチルカルボニル化合物を製造する方法。
【0012】
[発明2]
一般式[2]で示されるトリフルオロメチルシラン類がトリメチル(トリフルオロメチル)シランであることを特徴とする、発明1に記載の方法。
【0013】
[発明3]
一般式[4]:
【化4】

【0014】
[一般式[4]中、R10はアルキル基、置換アルキル基、芳香環基または置換芳香環基を表し、Yは酸素原子またはNR12を表し、nは0、1、2または3の整数を表す。R12はアミノ保護基を表す。R11が、β、γ、δまたはε位の炭素原子上に任意の数で置換することもでき、それぞれ独立にハロゲン原子、低級アルキル基、低級ハロアルキル基、低級アルコキシ基、低級ハロアルコキシ基、シアノ基、低級アルコキシカルボニル基、芳香環基、カルボキシル基の保護体、アミノ基の保護体またはヒドロキシル基の保護体を表す。]
で示されるラクトンまたはラクタム類のα位プロトンを塩基で脱プロトン化し、一般式[5]:
【化5】

【0015】
[一般式[5]中、Meはメチル基を表す。]
で示されるトリメチル(トリフルオロメチル)シランと反応させることにより、一般式[6]:
【化6】

【0016】
[一般式[6]中、R10、Y、n、R11およびMeは前記と同じである。]
で示されるα−トリメチルシリルジフルオロメチルラクトンまたはラクタム類を製造する方法。
【0017】
[発明4]
一般式[3]:
【化7】

【0018】
[一般式[3]中、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基または置換芳香環基を表し、Xは水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基、置換芳香環基、NR、ORまたはSRを表す。RおよびRはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基、置換芳香環基またはアミノ保護基を表し、RおよびRは水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基または置換芳香環基を表す。RとR、または、RもしくはRとXとは、直接にもしくはそれぞれ任意の炭素原子同士で、または、窒素原子、酸素原子もしくは硫黄原子を介して、共有結合により環状構造を採ることもある。R、RおよびRはそれぞれ独立にアルキル基または芳香環基を表す。]
で示されるα−シリルジフルオロメチルカルボニル化合物。
【0019】
[発明5]
一般式[6]:
【化8】

【0020】
[一般式[6]中、R10はアルキル基、置換アルキル基、芳香環基または置換芳香環基を表し、Yは酸素原子またはNR12を表し、nは0、1、2または3の整数を表す。R12はアミノ保護基を表す。R11が、β、γ、δまたはε位の炭素原子上に任意の数で置換することもでき、それぞれ独立にハロゲン原子、低級アルキル基、低級ハロアルキル基、低級アルコキシ基、低級ハロアルコキシ基、シアノ基、低級アルコキシカルボニル基、芳香環基、カルボキシル基の保護体、アミノ基の保護体またはヒドロキシル基の保護体を表す。Meはメチル基を表す。]
で示されるα−トリメチルシリルジフルオロメチルラクトンまたはラクタム類。
【発明の効果】
【0021】
本発明で開示する製造方法、具体的にはトリフルオロメチルシラン類を求電子剤、且つカルボニル化合物のα位プロトンを塩基で脱プロトン化した金属エノラートを求核剤とするα−シリルジフルオロメチル化は、従来一切報告されていない。本発明で用いるトリフルオロメチルシラン類は、大量規模で入手でき比較的安価である。また、本発明で用いる求核剤も炭素求核剤であるが、グリニャール試薬の場合とは異なり、高価な触媒[銀(I)塩]を必要とせず、目的物を主生成物として得ることができる。さらに、得られる新規化合物のα−シリルジフルオロメチルカルボニル化合物は、シリル基を足掛かりにして種々の変換反応を行うことができる。
【0022】
この様に、本発明は、従来技術の問題点を解決した、医農薬の重要な中間体に成り得るα−シリルジフルオロメチルカルボニル化合物の実用的な製造方法を提供するものである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明のα−シリルジフルオロメチルカルボニル化合物の製造方法について詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。
【0024】
一般式[1]で示されるカルボニル化合物のRおよびRは、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基または置換芳香環基を表す。該アルキル基は、炭素数1から18の、直鎖状もしくは分枝状の鎖式または環式(炭素数3以上の場合)のものである。該芳香環基は、炭素数1から18の、フェニル基、ナフチル基およびアントリル基等の芳香族炭化水素基、またはピロリル基(窒素保護体も含む)、ピリジル基、フリル基、チエニル基、インドリル基(窒素保護体も含む)、キノリル基、ベンゾフリル基およびベンゾチエニル基等の窒素原子、酸素原子もしくは硫黄原子等のヘテロ原子を含む芳香族複素環基である。該置換アルキル基および置換芳香環基は、それぞれ上記のアルキル基および芳香環基の、任意の炭素原子または窒素原子上に、任意の数および任意の組み合わせで、置換基を有する。係る置換基としては、フッ素、塩素および臭素等のハロゲン原子、メチル基、エチル基およびプロピル基等の低級アルキル基、フルオロメチル基、クロロメチル基およびブロモメチル基等の低級ハロアルキル基、メトキシ基、エトキシ基およびプロポキシ基等の低級アルコキシ基、フルオロメトキシ基、クロロメトキシ基およびブロモメトキシ基等の低級ハロアルコキシ基、シアノ基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基およびプロポキシカルボニル基等の低級アルコキシカルボニル基、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピロリル基(窒素保護体も含む)、ピリジル基、フリル基、チエニル基、インドリル基(窒素保護体も含む)、キノリル基、ベンゾフリル基およびベンゾチエニル基等の芳香環基、カルボキシル基の保護体、アミノ基の保護体、ならびにヒドロキシル基の保護体等が挙げられる。なお、本明細書において、"低級"とは、炭素数1から6の、直鎖状もしくは分枝状の鎖式または環式(炭素数3以上の場合)であるものを意味する。また、上記の“係る置換基としては”の芳香環基には、ハロゲン原子、低級アルキル基、低級ハロアルキル基、低級アルコキシ基、低級ハロアルコキシ基、シアノ基、低級アルコキシカルボニル基、カルボキシル基の保護体、アミノ基の保護体およびヒドロキシル基の保護体等が置換することもできる。さらに、ピロリル基、インドリル基、カルボキシル基、アミノ基およびヒドロキシル基の保護基は、Protective Groups in Organic Synthesis,Third Edition,1999,John Wiley & Sons,Inc.等に記載された保護基である。その中でもアルキル基、置換アルキル基、芳香環基および置換芳香環基が好ましい。
【0025】
一般式[1]で示されるカルボニル化合物のXは、水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基、置換芳香環基、NR、ORまたはSRを表す。該アルキル基、置換アルキル基、芳香環基および置換芳香環基は、一般式[1]で示されるカルボニル化合物のRおよびRにおいて記載したアルキル基、置換アルキル基、芳香環基および置換芳香環基と同じである。RおよびRは、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基、置換芳香環基またはアミノ保護基を表す。該アルキル基、置換アルキル基、芳香環基および置換芳香環基は、一般式[1]で示されるカルボニル化合物のRおよびRにおいて記載したアルキル基、置換アルキル基、芳香環基および置換芳香環基と同じであり、該アミノ保護基は、上記の保護基の参考図書(Protective Groups in Organic Synthesis,Third Edition,1999,John Wiley & Sons,Inc.)等に記載された保護基である。RおよびRは、水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基または置換芳香環基を表す。該アルキル基、置換アルキル基、芳香環基および置換芳香環基は、一般式[1]で示されるカルボニル化合物のRおよびRにおいて記載したアルキル基、置換アルキル基、芳香環基および置換芳香環基と同じである。
【0026】
一般式[1]で示されるカルボニル化合物のRとR、または、RもしくはRとXとは、直接にもしくはそれぞれ任意の炭素原子同士で、または、窒素原子、酸素原子もしくは硫黄原子を介して、共有結合により環状構造を採ることもある。その中でも、RもしくはRとXとが共有結合によりラクトンまたはラクタムを形成する原料基質が好ましい(発明3の原料基質)。
【0027】
一般式[1]で示されるカルボニル化合物の中でも、一般式[4]で示されるラクトンまたはラクタム類が好ましい。カルボニル化合物は文献[例えば、Tetrahedron Letters(オランダ),2005年,第46巻,p.4847〜4850等]記載の方法を参考にして比較的容易に製造することができる。また、カルボニル化合物の多くが市販されている。
【0028】
一般式[4]で示されるラクトンまたはラクタム類のR10は、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基または置換芳香環基を表す。該アルキル基、置換アルキル基、芳香環基および置換芳香環基は、一般式[1]で示されるカルボニル化合物のRおよびRにおいて記載したアルキル基、置換アルキル基、芳香環基および置換芳香環基と同じである。その中でもアルキル基および置換アルキル基が好ましい。
【0029】
一般式[4]で示されるラクトンまたはラクタム類のYは、酸素原子またはNR12を表す。R12はアミノ保護基を表し、該アミノ保護基は、上記の保護基の参考図書等に記載された保護基である。その中でもtert−ブトキシカルボニル基(Boc)、ベンジルオキシカルボニル基(Cbz)、パラトルエンスルホニル基(Ts)、オルトニトロベンゼンスルホニル基およびパラニトロベンゼンスルホニル基(Ns)が好ましく、tert−ブトキシカルボニル基およびパラトルエンスルホニル基が特に好ましい。
【0030】
一般式[4]で示されるラクトンまたはラクタム類のnは、0、1、2または3の整数を表す。その中でも0、1および2が好ましく、1および2が特に好ましい。
【0031】
一般式[4]で示されるラクトンまたはラクタム類では、R11が、β、γ、δまたはε位の炭素原子上に任意の数で置換することもでき、それぞれ独立にハロゲン原子、低級アルキル基、低級ハロアルキル基、低級アルコキシ基、低級ハロアルコキシ基、シアノ基、低級アルコキシカルボニル基、芳香環基、カルボキシル基の保護体、アミノ基の保護体またはヒドロキシル基の保護体を表す。該ハロゲン原子、低級アルキル基、低級ハロアルキル基、低級アルコキシ基、低級ハロアルコキシ基、低級アルコキシカルボニル基、芳香環基、カルボキシル基の保護体、アミノ基の保護体およびヒドロキシル基の保護体は、一般式[1]で示されるカルボニル化合物のRおよびRの“係る置換基としては”において記載したハロゲン原子、低級アルキル基、低級ハロアルキル基、低級アルコキシ基、低級ハロアルコキシ基、低級アルコキシカルボニル基、芳香環基、カルボキシル基の保護体、アミノ基の保護体およびヒドロキシル基の保護体と同じである。その中でもハロゲン原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、低級アルコキシカルボニル基、芳香環基、カルボキシル基の保護体、アミノ基の保護体およびヒドロキシル基の保護体が好ましい。
【0032】
塩基としては、n−ブチルリチウム(この塩基を用いる場合は、一般式[1]で示されるカルボニル化合物を有機合成における一般的な方法で予めトリメチルシリルエノールエーテルに誘導しておく)、リチウムジイソプロピルアミド(LDA;この塩基を用いる場合は、脱プロトン化で副生したジイソプロピルアミンを減圧留去した後でトリフルオロメチルシラン類と反応させる)、リチウムジシクロヘキシルアミド、リチウム2,2,6,6−テトラメチルピペリジド(LTMP)、リチウムビス(トリメチルシリル)アミド(LiHMDS)、ナトリウムビス(トリメチルシリル)アミド(NaHMDS)、カリウムビス(トリメチルシリル)アミド[KHMDS;この塩基を用いる場合は、脱プロトン化で生成したカリウムエノラートをLiNTf(Tfはトリフルオロメタンスルホニル基を表す)等の低配位性の配位子を有するリチウム塩でリチウムエノラートに変換した後でトリフルオロメチルシラン類と反応させる]、リチウムビス(ジメチルフェニルシリル)アミド(LTDDS)等が挙げられる。その中でもn−ブチルリチウム、リチウムジイソプロピルアミド、リチウム2,2,6,6−テトラメチルピペリジド、リチウムビス(トリメチルシリル)アミドおよびリチウムビス(ジメチルフェニルシリル)アミドが好ましく、リチウム2,2,6,6−テトラメチルピペリジド、リチウムビス(トリメチルシリル)アミドおよびリチウムビス(ジメチルフェニルシリル)アミドが特に好ましい。
【0033】
塩基の使用量は、一般式[1]で示されるカルボニル化合物(または一般式[4]で示されるラクトンまたはラクタム類)1molに対して0.7mol以上を用いれば良く、0.8〜30molが好ましく、0.9〜10molが特に好ましい。
【0034】
一般式[2]で示されるトリフルオロメチルシラン類のR、RおよびRは、それぞれ独立にアルキル基または芳香環基を表す。該アルキル基および芳香環基は、一般式[1]で示されるカルボニル化合物のRおよびRにおいて記載したアルキル基および芳香環基と同じである。その中でもアルキル基が好ましく、R、RおよびRが全てメチル基のものが特に好ましい[発明2および3のトリメチル(トリフルオロメチル)シラン]。トリフルオロメチルシラン類は文献[例えば、非特許文献1等]記載の方法を参考にして比較的容易に製造することができる。また、好適なトリメチル(トリフルオロメチル)シランはアルドリッチ(Aldrich、2009−2010カタログ)から市販されている。
【0035】
一般式[2]で示されるトリフルオロメチルシラン類[または一般式[5]で示されるトリメチル(トリフルオロメチル)シラン]の使用量は、一般式[1]で示されるカルボニル化合物(または一般式[4]で示されるラクトンまたはラクタム類)1molに対して0.7mol以上を用いれば良く、0.8〜50molが好ましく、0.9〜30molが特に好ましい。
【0036】
反応溶媒としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタンおよびビス(2−メトキシエチル)エーテル等のエーテル系が挙げられる。その中でもテトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、tert−ブチルメチルエーテルおよび1,2−ジメトキシエタンが好ましく、テトラヒドロフランおよび2−メチルテトラヒドロフランが特に好ましい。これらの反応溶媒は単独でまたは組み合わせて用いることができる。塩基の調製時または調製溶液にn−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶媒やトルエン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒が含まれる場合もあるが、所望の反応は殆ど影響を受けることなく良好に進行する。
【0037】
反応溶媒の使用量は、一般式[1]で示されるカルボニル化合物(または一般式[4]で示されるラクトンまたはラクタム類)1molに対して0.01L(リットル)以上を用いれば良く、0.05〜20Lが好ましく、0.1〜10Lが特に好ましい。
【0038】
脱プロトン化後のトリフルオロメチルシラン類[またはトリメチル(トリフルオロメチル)シランとの反応温度は、−150〜+150℃の範囲で行えば良く、−125〜+125℃が好ましく、−100〜+100℃が特に好ましい。脱プロトン化の反応温度も上記と同じである。トリフルオロメチルシラン類[またはトリメチル(トリフルオロメチル)シラン]の沸点は比較的低いため[例えば、好適なトリメチル(トリフルオロメチル)シランは54〜55℃]、耐圧容器を用いて反応を行うこともできる。
【0039】
脱プロトン化後のトリフルオロメチルシラン類[またはトリメチル(トリフルオロメチル)シラン]との反応時間は、48時間以内で行えば良く、カルボニル化合物(またはラクトンまたはラクタム類)の金属エノラート、トリフルオロメチルシラン類[またはトリメチル(トリフルオロメチル)シラン]および反応条件等により異なるため、ガスクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、液体クロマトグラフィーおよび核磁気共鳴(NMR)等の分析手段により反応の進行状況をモニターし、カルボニル化合物(またはラクトンまたはラクタム類)の金属エノラートの消費が殆ど停止した時点を終点とすることが好ましい。脱プロトン化の反応時間は通常12時間以内で行えば良い。
【0040】
後処理は、反応終了液に対して有機合成における一般的な操作を行うことにより、目的とする一般式[3]で示されるα−シリルジフルオロメチルカルボニル化合物(または一般式[6]で示されるα−トリメチルシリルジフルオロメチルラクトンまたはラクタム類)を得ることができる。原料基質であるカルボニル化合物のR、RおよびX、ラクトンまたはラクタム類のR10、Y、nおよびR11、トリフルオロメチルシラン類のR、RおよびR、ならびにトリメチル(トリフルオロメチル)シランの全てのMeは、反応を通して変化しない。収率は、反応系中に予め加えた含フッ素内部標準物質を基準として、反応終了液を19F−NMRで内部標準法により定量して算出するのが簡便である。本発明の製造方法では、脱シリルプロトン化したα−ジフルオロメチルカルボニル化合物を副生するが、好適な反応条件を採用することにより副生量を低減することができる。粗生成物は、必要に応じて活性炭処理、蒸留、再結晶およびカラムクロマトグラフィー等の操作により高い化学純度に精製することができる。
【0041】
[実施例]
以下、実施例により本発明の実施の形態を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。Bn、TsおよびMeは、それぞれ順に、ベンジル基、パラトルエンスルホニル基、メチル基の略記号である。
【実施例1】
【0042】
アルゴン雰囲気下、下記式:
【化9】

【0043】
で示されるラクタム類30mg(0.091mmol、1.0eq)のテトラヒドロフラン溶液[溶媒使用量0.18mL(2.0L/mol)と、含フッ素内部標準物質(α,α,α−トリフルオロトルエン)0.010mL(0.081mmol)を含む]に、リチウムビス(トリメチルシリル)アミド32mg(0.19mmol、2.1eq)を室温で加え、同温度で5分間攪拌した。反応混合液にトリメチル(トリフルオロメチル)シラン(CFSiMe)0.13mL(0.88mmol、9.7eq)を−78℃で加え、同温度で30分間攪拌した。反応終了液を19F−NMRで内部標準法により定量したところ、下記式:
【化10】

【0044】
で示されるα−トリメチルシリルジフルオロメチルラクタム類(目的生成物)が0.054mmolと、下記式:
【化11】

【0045】
で示されるα−ジフルオロメチルラクタム類(副生成物)が0.016mmol含まれていた。収率は、それぞれ59%(目的生成物)、18%(副生成物)であった。反応終了液に水を加え、酢酸エチルで抽出し、回収水層を酢酸エチルで再抽出し、回収有機層を合わせて水で洗浄し、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧濃縮し、真空乾燥することにより、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n−ヘキサン:酢酸エチル=95:5)で精製することにより、目的生成物を単離し、TLC Rf、H−NMR、13C−NMR、19F−NMR、IRおよびHRMSを測定し、構造を決定した。
【0046】
TLC Rf0.50(n−ヘキサン:テトラヒドロフラン=2:1).
H−NMR(300MHz,CDCl)δ7.84(d,J=8.1Hz,2H),7.34(d,J=8.1Hz,1H),7.19−7.14(m,2H),7.08−7.03(m,2H),6.91−6.90(m,2H),3.68−3.59(m,1H),3.33(d,J=13.3Hz,1H),2.97−2.89(m,1H),2.60(d,J=13.3Hz,1H),2.47(s,3H),2.47−2.34(m,1H),1.95−1.86(m,1H),0.18(s,9H).
13C−NMR(75MHz,CDCl)δ172.3(q,JC−F=7.5Hz),145.1,135.0,134.9,130.1,129.5,128.6,128.4,127.1,59.4(t,JC−F=19.7Hz),44.7,37.3(t,JC−F=6.1Hz),21.8(t,JC−F=5.8Hz),21.7,−2.5(t,JC−F=3Hz).
19F−NMR(282MHz,CDCl)δ112.5(d,J=329.7Hz),114.2(d,329.7Hz).
IR(neat)2960,2924,2854,1731,1493,1366,1253,1028,813,750cm−1
HRMS(FAB)calcd for C2226Si[M−H]m/z=450.13707,found:450.13495.
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明で対象とするα−シリルジフルオロメチルカルボニル化合物は、医農薬の重要な中間体に成り得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式[1]:
【化1】

[一般式[1]中、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基または置換芳香環基を表し、Xは水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基、置換芳香環基、NR、ORまたはSRを表す。RおよびRはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基、置換芳香環基またはアミノ保護基を表し、RおよびRは水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基または置換芳香環基を表す。RとR、または、RもしくはRとXとは、直接にもしくはそれぞれ任意の炭素原子同士で、または、窒素原子、酸素原子もしくは硫黄原子を介して、共有結合により環状構造を採ることもある。]
で示されるカルボニル化合物のα位プロトンを塩基で脱プロトン化し、一般式[2]:
【化2】

[一般式[2]中、R、RおよびRはそれぞれ独立にアルキル基または芳香環基を表す。]
で示されるトリフルオロメチルシラン類と反応させることにより、一般式[3]:
【化3】

[一般式[3]中、R、R、X、R、RおよびRは前記と同じである。]
で示されるα−シリルジフルオロメチルカルボニル化合物を製造する方法。
【請求項2】
一般式[2]で示されるトリフルオロメチルシラン類がトリメチル(トリフルオロメチル)シランであることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
一般式[4]:
【化4】

[一般式[4]中、R10はアルキル基、置換アルキル基、芳香環基または置換芳香環基を表し、Yは酸素原子またはNR12を表し、nは0、1、2または3の整数を表す。R12はアミノ保護基を表す。R11が、β、γ、δまたはε位の炭素原子上に任意の数で置換することもでき、それぞれ独立にハロゲン原子、低級アルキル基、低級ハロアルキル基、低級アルコキシ基、低級ハロアルコキシ基、シアノ基、低級アルコキシカルボニル基、芳香環基、カルボキシル基の保護体、アミノ基の保護体またはヒドロキシル基の保護体を表す。]
で示されるラクトンまたはラクタム類のα位プロトンを塩基で脱プロトン化し、一般式[5]:
【化5】

[一般式[5]中、Meはメチル基を表す。]
で示されるトリメチル(トリフルオロメチル)シランと反応させることにより、一般式[6]:
【化6】

[一般式[6]中、R10、Y、n、R11およびMeは前記と同じである。]
で示されるα−トリメチルシリルジフルオロメチルラクトンまたはラクタム類を製造する方法。
【請求項4】
一般式[3]:
【化7】

[一般式[3]中、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基または置換芳香環基を表し、Xは水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基、置換芳香環基、NR、ORまたはSRを表す。RおよびRはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基、置換芳香環基またはアミノ保護基を表し、RおよびRは水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基または置換芳香環基を表す。RとR、または、RもしくはRとXとは、直接にもしくはそれぞれ任意の炭素原子同士で、または、窒素原子、酸素原子もしくは硫黄原子を介して、共有結合により環状構造を採ることもある。R、RおよびRはそれぞれ独立にアルキル基または芳香環基を表す。]
で示されるα−シリルジフルオロメチルカルボニル化合物。
【請求項5】
一般式[6]:
【化8】

[一般式[6]中、R10はアルキル基、置換アルキル基、芳香環基または置換芳香環基を表し、Yは酸素原子またはNR12を表し、nは0、1、2または3の整数を表す。R12はアミノ保護基を表す。R11が、β、γ、δまたはε位の炭素原子上に任意の数で置換することもでき、それぞれ独立にハロゲン原子、低級アルキル基、低級ハロアルキル基、低級アルコキシ基、低級ハロアルコキシ基、シアノ基、低級アルコキシカルボニル基、芳香環基、カルボキシル基の保護体、アミノ基の保護体またはヒドロキシル基の保護体を表す。Meはメチル基を表す。]
で示されるα−トリメチルシリルジフルオロメチルラクトンまたはラクタム類。

【公開番号】特開2012−140374(P2012−140374A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−294357(P2010−294357)
【出願日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】