説明

α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩濃縮物の製造方法

【課題】α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩含有ペーストからの濃縮物の製造を、回転薄膜蒸発機を用いて効率よく行う方法を提供する。
【解決手段】(1)23質量%〜32質量%の水分含量を有するα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩含有ペーストを、回転薄膜蒸発機を用いて薄膜ペースト流とし、工程(2)で得られる混合ペーストの水分含量が8質量%〜16質量%となるように濃縮して、濃縮薄膜ペースト流を得る工程、
(2)濃縮薄膜ペースト流を合流し、薄膜の表面部分と内部とを混合して、混合ペーストを得る工程、
(3)混合ペーストを、回転薄膜蒸発機を用いて薄膜ペースト流とし、更に濃縮して、5質量%以下の水分含量を有するα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩濃縮物を得る工程
を含む、α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩濃縮物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、界面活性剤として種々の用途に用いることができるα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩濃縮物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩は、洗浄剤の有効成分(界面活性剤)として知られている物質である。α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩は、一般的に、α−スルホ脂肪酸アルキルエステルをアルカリ物質で中和することによって製造される。中和工程はα−スルホ脂肪酸ジアルカリ塩の副生を抑制する為、溶媒存在下或いは低濃度のアルカリ水溶液を用いて行われ、かつ、水が副生するので、α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩は液相成分を含んだペーストとして得られる。
一方、最終製品である洗浄剤としての利便性を考慮して、α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩含有ペーストを濃縮物とすることが求められている。
α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩濃縮物の製造方法として、回転薄膜蒸発機を用いる方法(特許文献1〜3)や、フラッシュ蒸発機を用いる方法(特許文献4)が知られている。
また、薄膜蒸発機を用いた濃縮に先立ち、マイクロ波照射装置やフラッシュ蒸発機等を用いて予備濃縮を行う方法も知られている(特許文献5〜8)。
その他、アルキルグリコシド等α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩以外の界面活性剤溶液を2段階で濃縮する方法(特許文献9〜11)も知られている。
【0003】
【特許文献1】特開平11−5999号公報
【特許文献2】特開平5−331496号公報
【特許文献3】特開平2−222498号公報
【特許文献4】特開平8−164301号公報
【特許文献5】特開2002−129194号公報
【特許文献6】特開2003−82395号公報
【特許文献7】特開平9−143500号公報
【特許文献8】特開平10−88197号公報
【特許文献9】特開平4−99789号公報
【特許文献10】特開平4−99790号公報
【特許文献11】特開平6−184600号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
回転薄膜蒸発機を用いる方法は、従来の噴霧乾燥を用いる方法と比較して製造効率等で優れる方法である。しかし、α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩含有ペーストから低水分含量(例えば、水分含量5質量%以下)の濃縮物を製造する場合、製造効率の点で満足のいくものではない。特に、商業規模での生産では、超大型若しくは機器点数の多い濃縮装置が必要され、設備投資面で懸念がある。
したがって、本発明は、α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩含有ペーストからの濃縮物の製造を、回転薄膜蒸発機を用いて効率よく行う方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明者等は鋭意検討を重ねたところ、回転薄膜蒸発機を用いたα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩含有ペーストの濃縮に関して下記の知見を見出した。
(1)α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩含有ペーストの水分含量が17質量%〜20質量%になると、ペースト粘度が急激に増加して、ペーストからの水分蒸発量(濃縮効率)が著しく低下すること。
(2)回転薄膜蒸発機で生成する薄膜ペースト流の表面部分と内部とで水分含量が異なること。
かかる知見に基づいて、更に検討を重ねたところ、薄膜ペースト流の水分含量が所定の値に達するまで濃縮されたときに、回転薄膜蒸発機から薄膜ペースト流を取り出して混合し、得られた混合物を回転薄膜蒸発機で更に濃縮すると、濃縮物の製造効率が向上することを見出した。本発明は、この知見に基づいてなされたものである。
すなわち、本発明は、
(1)23質量%〜32質量%の水分含量を有するα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩含有ペーストを、回転薄膜蒸発機を用いて薄膜ペースト流とし、工程(2)で得られる混合ペーストの水分含量が8質量%〜16質量%となるように濃縮して、濃縮薄膜ペースト流を得る工程、
(2)濃縮薄膜ペースト流を合流させ、薄膜の表面部分と内部とを混合して、混合ペーストを得る工程、
(3)混合ペーストを、回転薄膜蒸発機を用いて薄膜ペースト流とし、更に濃縮して、5質量%以下の水分含量を有するα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩濃縮物を得る工程
を含むことを特徴とする、α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩濃縮物の製造方法
に関するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の製造方法は、後述する実施例で示されるように、特別な装置を用いることなしにα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩濃縮物を効率よく製造することができる。したがって、洗浄剤の有効成分(界面活性剤)の製造に有利に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明について詳細に説明する。
工程(1)について
α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩とは、一般式:R1CH(SO3M)COOR2(式中、R1は炭素数6〜24の直鎖又は分岐したアルキル基又はアルケニル基であり、R2は炭素数1〜6の直鎖又は分岐したアルキル基であり、Mは対イオンである。)で示される化合物をいう。
1の炭素数は好ましくは8〜18、特に好ましくは12〜16である。R1の炭素数が12〜16であると、洗浄力が高く、粉体加工性が良好であり、かつ保存時の臭気発生が少ないα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩を得ることができる。R1としては、ミリスチルやパルミチルやステアリル等があげられる。
2としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピルやブチル等があげられる。
Mとしては、Na、K、Ca、Mg、アンモニウム、有機アンモニウム等の対イオンを形成し得るカチオンがあげられる。

α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩は、牛脂やパ−ム油等の天然物から公知の方法にしたがい誘導したものでよく、公知の方法にしたがい合成したものであってもよい。
本発明では、単一種類のα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩を単独で用いてもよく、複数種類のα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩を組み合わせて使用してもよい。
【0008】
α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩含有ペーストとは、上述のα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩が液体中に溶解されたものをいう。液体成分としては、水、アルコールや過酸化水素等があげられる。
一般的には、α−スルホ脂肪酸アルキルエステルを溶媒中、アルカリ物質で中和して得られるα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩溶液を、本発明のα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩含有ペーストとして用いる。
中和に用いる溶媒としては、炭素数1〜12の直鎖又は分岐したアルキルの一価又は多価アルコールがあげられる。具体例としてはメタノールやエタノール等があげられる。また、アルカリ物質としては、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物及びエタノールアミン、金属炭酸塩、金属炭酸水素塩等があげられる。
ペーストには、上述の中和反応の副生物であるα−スルホ脂肪酸ジナトリウム塩や不純物である硫酸メチル、硫酸ナトリウム等が含まれていてもよい。
【0009】
本発明に用いるα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩含有ペーストの水分含量は23質量%〜32質量%、好ましくは24質量%〜28質量%、特に好ましくは25質量%〜28質量%である。ペーストの水分含量が23〜32質量%であると、回転薄膜蒸発機を用いてペーストを濃縮する際に良好なハンドリング性を得ることができる。
ペーストの水分含量はカールフィッシャー法にしたがい測定することができる。具体的には、京都電子工業(株)カールフィッシャー水分計MKC-210を用い、大気温度下でサンプル10〜100mgをカールフィッシャ試薬に溶解させて、常法に従い測定を行った。電極反応の終了に伴い、測定を自動的に停止した。投入サンプル量をカールフィッシャー水分計のタッチパネルに入力して水分量を算出した。
【0010】
23〜32質量%の水分含量を有するα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩含有ペーストを、回転薄膜蒸発機を用いて濃縮する。
回転薄膜蒸発機とは、ケーシングと該ケーシングの内壁に沿って回転する回転羽根とを有する蒸発機をいう。回転薄膜蒸発機に導入されたα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩含有ペーストは、回転羽根の遠心力によりケーシング内壁上で強制的に薄膜化され、薄膜ペースト流としてケーシング内壁上を移動する。ケーシング内壁は加熱されており、その上を移動する薄膜ペースト流から液相成分が蒸発することにより、濃縮が行われる。ケーシング内壁の加熱は、回転薄膜蒸発機のケーシング外壁を覆うジャケットに水蒸気を供給することで行う。
回転薄膜蒸発機としては、薄膜ペースト流が蒸発機の上部から下部に向かって移動する薄膜流下式の回転薄膜蒸発機と、薄膜ペースト流が蒸発機の下部から上部に向かって移動する薄膜上昇式の回転薄膜蒸発機(回転巻き上げ式薄膜蒸発機とも呼ばれる)とがあげられる。薄膜流下式の回転薄膜蒸発機の具体例としては、日立製作所(株)製コントロや神鋼パンテック(株)製エクセバ、桜製作所エバオレータ等があげられる。薄膜上昇式の回転薄膜蒸発機の具体例としては、(株)オカドラ製サイクロンドライヤー等があげられる。
【0011】
濃縮効率を高めるために、回転薄膜蒸発機(ケーシング)の内部を減圧状態にすることが好ましい。減圧度は好ましくは0.01MPa〜0.09MPa、より好ましくは0.01〜0.04MPaである。
【0012】
ケーシング内壁の加熱温度は、後述する水分含量を達成することができる温度であれば特に制限されないが、例えば、加熱媒体(例えば、水蒸気やオイル)が流れるジャケットをケーシングの外側に装着することによって加熱する場合、加熱媒体の温度で好ましくは100℃〜150℃、より好ましくは110℃〜140℃である。
【0013】
回転羽根の回転数は、先端周速として5m/sec〜30m/sec、好ましくは8m/sec〜15m/sec、より好ましくは11m/sec〜13m/secである。回転羽根の先端周速が5m/sec〜30m/secであると、濃縮に好適な厚さの薄膜ペースト流をケーシング内壁上に形成することができる。
【0014】
ケーシング内壁と回転羽根先端とのクリアランスは0.5mm〜15mm、好ましくは0.5mm〜12mm、より好ましくは2mm〜8mmである。クリアランスが0.5mm〜15mmであると、濃縮に好適な厚さの薄膜ペースト流をケーシング内壁上に形成することができる。
【0015】
工程(1)では、後述する工程(2)で得られる混合ペーストの水分含量が8質量%〜16質量%、好ましくは12質量%〜16質量%、特に好ましくは14質量%〜16質量%となるように濃縮を行う。工程(1)の濃縮を、工程(2)で得られる混合ペーストの水分含量が8質量%〜16質量%となるように行うと、薄膜ペースト流の一部の水分含量が17質量%〜20質量%となりペースト粘度が上昇することによるハンドリング性及び濃縮効率の低下を抑制することができる。
特に、工程(1)の濃縮を、工程(2)で得られる混合ペーストの水分含量が14質量%〜16質量%となるように行い、かつ、工程(1)及び後述の工程(3)(更なる濃縮工程)の回転薄膜蒸発機の操作条件(加熱媒体温度、減圧度及び回転羽根の回転数)を同一にすると、工程(1)の処理量と工程(3)での処理量とを同等にすることができ、製造方法全体としての効率を向上させることができる。
また、出発原料としてアルコールを含むペーストを用いた場合、本工程によりそのアルコール分をほとんど除去することができるので、排水設備を簡略化することができる。
上述の水分含量は、α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩含有ペーストの水分含量に応じて、ペースト流量、ケーシング内の減圧度、ケーシング内壁の加熱温度(加熱媒体温度)や回転羽根の回転数を適宜調節することにより達成することができる。特に、ペースト流量の調節が好ましく行われ、その後必要に応じて、ケーシング内の減圧度、ケーシング内壁の加熱温度、回転羽根の回転数の調節を行う。
【0016】
工程(2)について
工程(1)で得られた濃縮薄膜ペースト流を合流させ、薄膜の表面部分と内部とを混合して、混合ペーストを得る。混合により、ペースト内の水分含量が均一になる。得られた混合ペーストの水分含量は8質量%〜16質量%となっており、濃縮効率の低下が起こる水分含量(17質量%〜20質量%)よりも低くなっている。したがって、この混合ペーストを、回転薄膜蒸発機による更なる濃縮(工程(3))に用いた場合、濃縮を効率よく行うことができる。
混合ペーストの水分含量は、工程(1)で言及したカールフィッシャー法にしたがい測定することができる。
混合ペーストの温度は好ましくは70℃〜110℃、より好ましくは75℃〜100℃であることが取り扱いやすい粘度である点で好ましい。
混合手段としては、均一な混合ペーストを得ることのできる手段であれば特に制限なく使用することができるが、例えば一般的な混合装置やポンプ等を用いることができる。ここでいうペースト流とは薄膜蒸発機内を流れるペーストのことであり、表面部分は薄膜蒸発機内で形成される薄膜ペーストの薄膜蒸発機内気相部と接触する面、内部とは薄膜蒸発機内で形成される薄膜ペーストの薄膜蒸発機内気相部と接触しない面のことである。
【0017】
工程(3)について
工程(2)で得られた混合ペーストを、回転薄膜蒸発機を用いて薄膜ペースト流として、更に濃縮して、5質量%以下の水分含量を有するα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩濃縮物を製造する。
工程(3)で使用することができる回転薄膜蒸発機の種類並びにその操作条件(減圧度、ケーシング内壁の加熱温度、回転羽根の回転数及びケーシング内壁と回転羽根先端とのクリアランス)は、工程(1)で説明したものと同様である。
工程(1)及び(3)は、1つの回転薄膜蒸発機を用いて行ってもよく、別個の回転薄膜蒸発機を用いて行ってもよい。製造方法全体としての効率の観点からは、工程(1)及び(3)を別個の回転薄膜蒸発機を用いて行うことが好ましい。
工程(1)及び(3)を別個の回転薄膜蒸発機を用いて行う場合、同一種類の回転薄膜蒸発機を用いて行ってもよく、各工程を異なる種類の回転薄膜蒸発機を用いて行ってもよい(例えば、工程(1)を薄膜上昇式で行い、工程(3)を薄膜流下式で行う)。
工程(3)の回転薄膜蒸発機の操作条件を、工程(1)の回転薄膜蒸発機の操作条件と同一にすると、製造方法全体としての効率を向上させることができるので好ましい。ここでいう回転薄膜蒸発機の操作条件とは、ペースト流量、回転薄膜蒸発機の加熱媒体温度、減圧度及び回転羽根の回転数からなる群より選ばれる1以上の条件である。
工程(3)は、生成物であるα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩濃縮物の水分含量が5質量%以下、好ましくは4質量%以下、特に好ましくは3質量%以下となるまで行う。濃縮物の水分含量が5質量%以下であると、粉体加工性が良好な濃縮物を得ることができる。
上述の水分含量は、混合ペーストの水分含量に応じてペースト流量、回転薄膜蒸発機のケーシング内の減圧度やケーシング内壁の加熱温度、回転羽根の回転数を適宜調節することにより達成することができる。特に、ペースト流量の調節が好ましく行われ、その後必要に応じて、ケーシング内の減圧度、ケーシング内壁の加熱温度、回転羽根の回転数の調節を行う。ペースト流量の範囲としては、工程(1)では100kg/(m2・hr)〜300kg/(m2・hr)、工程(3)では200kg/(m2・hr) 〜700kg/(m2・hr)が好ましい。尚、ペースト流量単位「kg/(m2・hr)」における単位「m2」は、ケーシング内壁の伝熱面積である。
【0018】
水分含量が5質量%以下であるα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩濃縮物は50℃以下で固体状である。この濃縮物は、当該技術分野における周知の手段、例えば、冷却及び粉砕を用いて粉末とすることができる。
α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩濃縮物(及びその粉末)は洗浄剤の有効成分(界面活性剤)として広範囲の用途に使用できる。例えば、衣類用や台所用の洗浄剤組成物として好適に使用することができる。
【0019】
本発明は特定の理論に限定されるものではないが、本発明の製造方法が従来の方法と比較して製造効率に優れるのは下記の理由であると考えられる。薄膜ペースト流の混合なしに濃縮を続ける従来の方法では、薄膜ペースト流の一部の水分含量が17質量%〜20質量%となりペースト粘度が増加すると、その部分が水分蒸発の律速因子となるため濃縮物の製造効率は低く抑えられていた。一方、本発明では、薄膜ペースト流を混合することによりかかる律速因子を破壊しつつ、かつ、混合後のペーストの水分含量を17質量%〜20質量%よりも低くすることにより、混合ペーストの更なる濃縮工程における水分蒸発の低下を回避している。これにより、製造効率が向上するものと考えられる。
以下に実施例を示して具体的に説明するが、本発明は実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0020】
後述の実施例及び比較例では、下記の組成を有するα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩含有ペーストを使用した。

【0021】
[実施例1〜7]
工程(1)
表1記載の水分含量を有するα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩含有ペーストを、回転羽根を有する薄膜流下式の回転薄膜蒸発機(機器の名称:日立製作所(株)製コントロ)(ケーシング内壁の伝熱面積:0.5m2、内径:205mm、ケーシング内壁と回転羽根先端とのクリアランス:2mm〜4mm、日立(株)製)へ表1に示す流量で導入し、薄膜ペースト流とし、表1に示した加熱媒体温度及び減圧度、回転羽根回転数(先端周速)にて濃縮して、濃縮薄膜ペースト流を得た。
工程(2)
回転薄膜蒸発機から取り出した濃縮薄膜ペースト流を合流させ、薄膜の表面部分と内部とを兵神装備(株)製モーノポンプを用いて混合して、表1に示す水分含量及び温度を有する混合ペーストを得た。
工程(3)
得られた混合ペーストを、工程(1)と同様の回転薄膜蒸発機へ表1に示す流量で再度導入し、薄膜ペースト流とし、表1に示した加熱媒体温度及び減圧度にて更に濃縮して、表1に示す水分含量及び温度を有するα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩濃縮物を得た。
本実施例でいう加熱媒体温度は、回転薄膜蒸発機のケーシング外壁を覆うジャケットに供給する水蒸気の温度である。ジャケットへの水蒸気の供給は、ジャケット入口と出口の温度が同一になるように行った(以下の実施例及び比較例についても同様)。また、減圧度は、ケーシング内部を真空ポンプ(神港精機(株)製封液循環式真空ポンプ)で減圧することにより調整した。
また、各種ペースト及び濃縮物の水分含量は、京都電子工業(株)カールフィッシャー水分計MKC-210を用いて、15〜25℃でサンプル10〜100mgをカールフィッシャ試薬に完全溶解させて、測定を開始した。電極反応の終了に伴い、測定を自動的に停止した。投入サンプル量をカールフィッシャー水分計のタッチパネルに入力して水分量を算出した。
(以下の実施例及び比較例についても同様)。
【0022】
[実施例8]
工程(1)
表1記載の水分含量を有するα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩含有ペーストを、12m/secの先端周速で回転している回転羽根を有する薄膜上昇式の回転薄膜蒸発機(機器の名称:サイクロンドライヤー)(ケーシング内壁の伝熱面積:1.0m2、内径:650mm、ケーシング内壁と回転羽根先端とのクリアランス:4mm〜10mm、(株)オカドラ製)へ表1に示す仕込量で導入し、薄膜ペースト流とし、表1に示した加熱媒体温度及び減圧度にて濃縮して、約20分後に濃縮薄膜ペースト流を得た。
工程(2)
回転薄膜蒸発機から取り出した濃縮薄膜ペースト流を合流させ、薄膜の表面部分と内部とを兵神装備(株)製モーノポンプを用いて混合して、表1に示す水分含量及び温度を有する混合ペーストを得た。
工程(3)
得られた混合ペーストを、実施例1〜7で使用した薄膜流下式の回転薄膜蒸発機へ表1に示す流量で再度導入し、薄膜ペースト流とし、表1に示した加熱媒体温度及び減圧度にて更に濃縮して、表1に示す水分含量及び温度を有するα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩濃縮物を得た。
【0023】
表1

ペーストの水分含量[質量%]
蒸発機入口におけるペーストの流量[kg/m2・hr]
減圧度(工程(1)及び(3)共通)[MPa]
加熱媒体温度(工程(1)及び(3)共通)[℃]
回転羽根回転数(工程(1)及び(3)共通)[rpm]
先端周速(工程(1)及び(3)共通)[m/s]
蒸発機出口における濃縮ペーストの流量[kg/m2・hr]
混合ペーストの温度[℃]
混合ペーストの水分含量[質量%]
蒸発機入口における混合ペーストの流量[kg/m2・hr]
蒸発機出口における濃縮物の流量[kg/m2・hr]
濃縮物の温度[℃]
濃縮物の水分含量[質量%]

※1実施例8工程(1)のみペースト仕込量[kg]
※2実施例8工程(1)のみ濃縮ペースト仕上量[kg]
【0024】
[実施例9〜14]
実施例1〜7の欄に記載の手順を、表2に示す濃縮条件を用いたことを除いて繰り返し、表2に示す水分含量及び温度を有するα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩濃縮物を得た。
【0025】
表2

ペーストの水分含量[質量%]
蒸発機入口におけるペーストの流量[kg/m2・hr]
減圧度(工程(1)及び(3)共通)[MPa]
加熱媒体温度(工程(1)及び(3)共通)[℃]
回転羽根回転数(工程(1)及び(3)共通)[rpm]
先端周速(工程(1)及び(3)共通)[m/s]
蒸発機出口における濃縮ペーストの流量[kg/m2・hr]
混合ペーストの温度[℃]
混合ペーストの水分含量[質量%]
蒸発機入口における混合ペーストの流量[kg/m2・hr]
蒸発機出口における濃縮物の流量[kg/m2・hr]
濃縮物の温度[℃]
濃縮物の水分含量[質量%]
【0026】
[比較例1〜3]
工程(1)
表3記載の水分含量を有するα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩含有ペーストを、回転羽根を有する薄膜流下式の回転薄膜蒸発機(機器の名称:日立製作所(株)製コントロ)(ケーシング内壁の伝熱面積:0.5m2、内径:205mm、ケーシング内壁と回転羽根先端とのクリアランス:2mm〜4mm、日立(株)製)へ表3に示す流量で導入し、薄膜ペースト流とし、表3に示した加熱媒体温度及び減圧度、回転羽根回転数(先端周速)にて濃縮して、濃縮薄膜ペースト流を得た。
工程(2)
回転薄膜蒸発機から取り出した濃縮薄膜ペースト流を合流させ、薄膜の表面部分と内部とを兵神装備(株)製モーノポンプを用いて混合して、表3に示す水分含量及び温度を有する混合ペーストを得た。
工程(3)
得られた混合ペーストを、工程(1)と同様の回転薄膜蒸発機へ表3に示す流量で再度導入し、薄膜ペースト流とし、表3に示した加熱媒体温度及び減圧度にて更に濃縮して、表3に示す水分含量及び温度を有するα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩濃縮物を得た。比較例1〜3では、工程(2)で得られる混合ペーストの水分含量が本発明の範囲外であった。
【0027】
[比較例4]
表3記載の水分含量を有するα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩含有ペーストを、回転羽根を有する薄膜流下式の回転薄膜蒸発機(機器の名称:日立製作所(株)製コントロ)(ケーシング内壁の伝熱面積:0.5m2、内径:205mm、ケーシング内壁と回転羽根先端とのクリアランス:2mm〜4mm、日立(株)製)2機へ、それぞれ表3に示す流量で導入し、薄膜ペースト流とし、表3に示した加熱媒体温度及び減圧度、回転羽根回転数(先端周速)にて濃縮し、各蒸発機から得られた濃縮物を合体して表3に示す水分含量及び温度を有するα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩濃縮物を得た。比較例4では、本発明の工程(2)及び(3)に該当する工程を行わなかった。
【0028】
[比較例5]
工程(1)
表3記載の水分含量を有するα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩含有ペーストを、回転羽根を有する薄膜流下式の回転薄膜蒸発機(機器の名称:日立製作所(株)製コントロ)(ケーシング内壁の伝熱面積:0.5m2、内径:205mm、ケーシング内壁と回転羽根先端とのクリアランス:2mm〜4mm、日立(株)製)へ表3に示す流量で導入し、薄膜ペースト流とし、表3に示した加熱媒体温度及び減圧度、回転羽根回転数(先端周速)にて濃縮して、濃縮薄膜ペースト流を得た。
工程(2)
回転薄膜蒸発機から取り出した濃縮薄膜ペースト流を合流させ、薄膜の表面部分と内部とを兵神装備(株)製モーノポンプを用いて混合して、表3に示す水分含量及び温度を有する混合ペーストを得た。
工程(3)
得られた混合ペーストを、12m/secの先端周速で回転している回転羽根を有する薄膜上昇式の回転薄膜蒸発機(機器の名称:(株)オカドラ製サイクロンドライヤー)(ケーシング内壁の伝熱面積:1.0m2、内径:650mm、ケーシング内壁と回転羽根先端とのクリアランス:4mm〜10mm、(株)オカドラ製)へ表3に示す流量で再度導入し、薄膜ペースト流とし、表3に示した加熱媒体温度及び減圧度にて更に濃縮して、表3に示す水分含量及び温度を有するα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩濃縮物を得た。
比較例5では、工程(2)で得られる混合ペーストの水分含量が本発明の範囲外であった。
【0029】
[比較例6]
表3記載の水分含量を有するα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩含有ペーストを、蒸発能力6kg‐H2O/m2・hrの加圧フラッシュ蒸発装置(日本耐圧ガラス社製)へ供給し、ペースト温度条件103〜110℃で濃縮を行った。
得られた濃縮ペーストを、回転羽根を有する薄膜流下式の回転薄膜蒸発機(機器の名称:日立製作所(株)製コントロ)(ケーシング内壁の伝熱面積:0.5m2、内径:205mm、ケーシング内壁と回転羽根先端とのクリアランス:2mm〜4mm、日立(株)製)へ表3に示す流量で導入し、薄膜ペースト流とし、表3に示した加熱媒体温度及び減圧度、回転羽根回転数(先端周速)にて濃縮して、表3に示す水分含量及び温度を有するα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩濃縮物を得た。
比較例6は、工程(1)を、回転薄膜蒸発機を用いて行っていない。また、工程(2)も行っていない。
【0030】
表3

ペーストの水分含量[質量%]
蒸発機入口におけるペーストの流量[kg/m2・hr]
減圧度(工程(1)及び(3)共通)[MPa]
加熱媒体温度(工程(1)及び(3)共通)[℃]
回転羽根回転数(工程(1)及び(3)共通)[rpm]
先端周速(工程(1)及び(3)共通)[m/s]
蒸発機出口における濃縮ペーストの流量[kg/m2・hr]
混合ペーストの温度[℃]
混合ペーストの水分含量[質量%]
蒸発機入口における混合ペーストの流量[kg/m2・hr]
蒸発機出口における濃縮物の流量[kg/m2・hr]
濃縮物の温度[℃]
濃縮物の水分含量[質量%]

※1加圧フラッシュ蒸発装置から取り出した濃縮ペーストの水分含量
※2蒸発機入口における濃縮ペーストの流量
※3比較例5工程(3)のみペースト仕込量[kg]
※4比較例5工程(3)のみ濃縮ペースト仕上量[kg]
【0031】
[実施例15〜16]
下記の組成を有するα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩含有ペーストを実施例15で使用した。

【0032】
下記の組成を有するα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩含有ペーストを実施例16で使用した。

実施例15及び16では、実施例1〜7の欄に記載の手順を、表4に示す濃縮条件を用いたことを除いて繰り返し、表4に示す水分含量及び温度を有するα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩濃縮物を得た。










【0033】
表4

ペーストの水分含量[質量%]
蒸発機入口におけるペーストの流量[kg/m2・hr]
減圧度(工程(1)及び(3)共通)[MPa]
加熱媒体温度(工程(1)及び(3)共通)[℃]
回転羽根回転数(工程(1)及び(3)共通)[rpm]
先端周速(工程(1)及び(3)共通)[m/s]
蒸発機出口における濃縮ペーストの流量[kg/m2・hr]
混合ペーストの温度[℃]
混合ペーストの水分含量[質量%]
蒸発機入口における混合ペーストの流量[kg/m2・hr]
蒸発機出口における濃縮物の流量[kg/m2・hr]
濃縮物の温度[℃]
濃縮物の水分含量[質量%]
【0034】
実施例及び比較例の製造効率の評価
実施例及び比較例の製造方法の効率を、水分蒸発能力を指標にして評価した。水分蒸発能力とは、回転薄膜蒸発機のケーシング内壁の伝熱面積1m2あたり1時間で蒸発した水分量をいう。この値が高い程、水分蒸発が効率よく行われたこと、すなわち、α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩含有ペーストからの濃縮物の製造が効率よく行われたことを意味する。
水分蒸発能力は以下の式にしたがって算出した。結果を表5に示す。


【0035】
【数1】


A:工程(1)の蒸発機入口におけるペースト流量[kg/m2・hr]
B:α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩含有ペーストの水分含量[質量%]
C:α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩濃縮物の水分含量[質量%]































【0036】
表5

【0037】
表5の結果は、比較例1〜6よりも実施例1〜16の水分蒸発能力が高く、α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩含有ペーストからの濃縮物の製造が効率よく行われたことを示している。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、洗浄剤の有効成分(界面活性剤)を製造する方法として利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)23質量%〜32質量%の水分含量を有するα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩含有ペーストを、回転薄膜蒸発機を用いて薄膜ペースト流とし、工程(2)で得られる混合ペーストの水分含量が8質量%〜16質量%となるように濃縮して、濃縮薄膜ペースト流を得る工程、
(2)濃縮薄膜ペースト流を合流させ、薄膜の表面部分と内部とを混合して、混合ペーストを得る工程、
(3)混合ペーストを、回転薄膜蒸発機を用いて薄膜ペースト流とし、更に濃縮して、5質量%以下の水分含量を有するα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩濃縮物を得る工程
を含むことを特徴とする、α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩濃縮物の製造方法。
【請求項2】
工程(2)で得られる混合ペーストの水分含量が14質量%〜16質量%となるように工程(1)で濃縮を行う、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
工程(1)及び(3)を、回転薄膜蒸発機の同一の操作条件を用いて行う、請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
回転薄膜蒸発機の操作条件が、ペースト流量、回転薄膜蒸発機の加熱媒体温度、減圧度及び回転羽根の回転数からなる群より選ばれる1以上の条件である、請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
回転薄膜蒸発機が、薄膜上昇式の回転薄膜蒸発機又は薄膜流下式の回転薄膜蒸発機である、請求項1〜4のいずれか1項記載の製造方法。

【公開番号】特開2008−179627(P2008−179627A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−334897(P2007−334897)
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】