説明

α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートの製造方法

【課題】環化重合し、主鎖等に環構造を有する重合体を与えることができる有用な単量体であるα−(アリルオキシメチル)アクリレート等のα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートの製品を工業的精製方法によって高純度で製造する方法を提供する。
【解決手段】本発明は、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを反応に使用して、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを製造する方法であって、上記製造方法は、反応により得られた反応溶液中の、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを誘導体化して蒸留する工程を含むα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートの製造方法に関する。より詳しくは、エンジニアリングプラスチック、光学材料、レジスト材料等の様々な分野において、硬化性樹脂組成物、色材分散組成物等の製造原料として好適に用いることができるα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環構造を主鎖等に有する重合体(樹脂)は、環構造に起因して耐久性、特に優れた耐熱性を発揮するため、そのような特性が要求される技術分野、例えば、エンジニアリングプラスチック、光学材料、レジスト材料等の様々な分野での利用が期待される有用な材料として注目されている。
このような樹脂を得るための従来の方法としては、環構造を有する単量体を重縮合又は付加重合により連結する方法や、環構造を有さない単量体を付加重合と同時に環化させながら重合する方法がある。中でも、付加重合と同時に環化させながら重合して環構造を有する重合体を得る方法は、予め環構造を有する単量体を調製したうえで重合を行う手法とは異なった新たな製法を提供するものであることから、環構造を有する重合体が利用される様々な技術分野において、そのような製法の利用が期待されるところである。なお、いずれの方法においても、付加重合による方法は、二重結合等の不飽和結合を有する単量体を重合することになるが、一般的に分子量調整が容易であり、また温和な条件で様々なビニルモノマーを共重合させることが可能であるため、用途に応じた物性調整や様々な機能の付与がしやすい。そのため、高度でかつ多様な機能を求められる光学材料やレジスト材料等の用途向けの樹脂の合成方法として検討されている。
【0003】
ところで、重合時に環化する単量体は、一般的に付加重合に用いられる単量体とは異なって、特殊な単量体であると認識されている。このような単量体として、1つの分子内にアクリロイル基とアリルエーテル基等の2つの不飽和基を有するα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートがある。この特殊な単量体は例えば下記構造を有し、重合時に環化反応が進行し、環構造を有する重合体を生成することになる。括弧内に反応式におけるラジカル重合の機構を例示する。
【0004】
【化1】

【0005】
このように、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートやそれに類する構造をもつ単量体は、環化重合し、主鎖等に環構造を有する重合体を与えることができる有用な単量体であるといえるが、特殊な単量体であるがゆえに、その製法や特性を検討した文献は極僅かであるというのが現状である。
【0006】
そのような中で、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル等とエチルアルコール等とを反応させて対応するα−(エトキシメチル)アクリル酸メチル等のアリルエーテル化合物を製造する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。この方法においては、アクリロイル基の二重結合における2位の炭素原子にエトキシメチル基等が結合した構造を有するアリルエーテル化合物を製造することになるが、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを生成することについての言及はない。
【0007】
従来のα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートの製法に関しては、特定のジアルキル2,2′−[オキシビス(メチレン)]ビスアクリレート類と、活性水素基含有化合物とを反応させるα位置換アクリレート類の製造方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。活性水素基含有化合物としてヒドロキシ基含有化合物類が記載され、その一つにアリルアルコールが例示されている。これによれば、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを製造することが可能である。また特定のアクリル酸エステル類と、ヒドロキシ基含有化合物とを反応させるアリルエーテル類の製造方法が開示されている(例えば、特許文献3参照)。更に、α−(ハロメチル)アクリレートより製造する方法として、α−(クロロメチル)アクリル酸エチルよりα−(アリルオキシエチル)アクリル酸エチルを製造する方法が開示されている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3943180号明細書(第1、3頁)
【特許文献2】特開2005−239610号公報(第1、3頁)
【特許文献3】特開平8−325200号公報(第2、8頁)
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】ロバート・D・トンプソン(Robert D. Thompson)他、マクロモレキュールズ(Macromolecules)、1992年、第25巻、p.6455−6459
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のように環化重合という特異的な重合をするα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートは、一般的なアクリル系単量体とは違った特殊な単量体であるがゆえに、そのような単量体として工業的に有効に利用することができるようにするための製造方法や精製方法がこれまで検討されていなかった。
本発明者等は、このα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートにおいて、α位の二重結合炭素原子に不飽和結合を含む基を有するという構造上の特徴にともない、その製造方法や精製方法に新たな課題があることを見つけ出したものである。
すなわち、1つの分子内にアクリロイル基とアリルエーテル基等の不飽和アルコキシ基とを有するα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートは、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを反応に使用し、これとヒドロキシ基に不飽和結合を導入するための化合物とを反応させて製造することができるが、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートが反応後に残存することになる。通常の工業的な製造工程においては、化学製品を製造するために蒸留等の精製工程を行うことになるが、この蒸留の際に、反応溶液(反応後の溶液)中のα位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートに対して、目的生成物であるα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートがヒドロキシ基に不飽和結合を有する基が導入されているという構造上の違いがあるだけであり、ヒドロキシ基と不飽和結合(特にアリル基)とが同じような沸点となる構造であることに起因して分離が困難となる。そのため、通常の精製方法を実施しただけでは、純度の低いα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートしか得られないこととなる。なお、上述したα−(ハロメチル)アクリレートより製造する方法においては、α−(ハロメチル)アクリレートと生成物であるα−(アリルオキシメチル)アクリレートとの間に充分な沸点差があり、蒸留精製により分離することができ、本発明のような課題がなかった。ただ、それにもかかわらず、蒸留後も純度96%と高純度化することはできなかった。また、ハロゲンを使用するために環境に悪い上に、高価なα−(ハロメチル)アクリレートを用いるものであった。
また、例えば、同様にα位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートとしてα−(ヒドロキシメチル)アクリレートを反応に使用し、これとメタノールとを反応させてα位の置換基に二重結合を含まないα−(メトキシメチル)アクリレートを合成する際には、α−(ヒドロキシメチル)アクリレートと生成物であるα−(メトキシメチル)アクリレートとの間に充分な沸点差があり、蒸留精製により分離することが容易に可能であり、本発明のような課題がなかった。
このことから、α位に不飽和結合含有有機基をもつα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートの製造方法や精製方法においては、特有の課題があったといえる。
【0011】
ところで、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートとしてα−(ヒドロキシメチル)アクリレートを用い、ヒドロキシ基に不飽和結合を導入するための化合物としてアリルアルコールを用いる場合、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートとしてα−(アリルオキシメチル)アクリレートが得られ、これは環化重合という特異的な重合において特に有用な単量体であるが、この場合、反応溶液中のα位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートと目的生成物であるα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートとの沸点差が最も近くなり、特に蒸留精製が困難となる。
例えば、下記反応式に示されるように、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルとアリルアルコールとを反応させてα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルを製造することができるが、反応後のα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル収率は反応前のα−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルに対して60モル%である。α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル転化率は88モル%であり、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルが12モル%残存することになる。ここで残存したα−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルを反応により得られた反応溶液から蒸留により除去することが困難となる。
【0012】
【化2】

【0013】
このように、特殊な単量体であるがゆえに、その製法や特性を検討した文献はほとんど見当たらないという中で、α−(アリルオキシメチル)アクリレート等のα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを環化重合の原料として有効に利用するためや、高品質な環化重合用化学製品を効率的に工業生産するための検討が待たれるところであった。
本発明は上記現状に鑑みてなされたものであり、環化重合し、主鎖等に環構造を有する重合体を与えることができる有用な単量体であるα−(アリルオキシメチル)アクリレート等のα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートの製品を工業的精製方法によって高純度で製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートの製法に関して、上述した課題を解決するための手段を種々検討したところ、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを反応に使用してα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを生成させた後、反応溶液中に残存したα位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを他の化合物に変換(誘導体化)し、蒸留することによって、反応溶液中のα位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートと目的生成物であるα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートとを分離することが可能となり、高純度化することができることを見出し、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。本発明によれば、高純度化された環化重合用原料単量体としてのα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを通常の工業的精製手法を用いて得ることができるという、工業的に技術的意義が大きく、際立って優れた効果を奏することができる。
【0015】
これに対して、従来の技術水準を示す文献においては、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを反応に使用してα−(アリルオキシメチル)アクリレート等のα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを製造するに際して、蒸留等の精製方法を工夫したものはまったく見当たらない。また、上記アクリレートを反応に使用してα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートという2つの種類の異なった不飽和基をもつ特殊な構造の単量体を製造するということに特定する開示はない。上記アクリレートを使用する製造方法においては、重合性二重結合を有する単量体を製造する一般的な製法が開示されているに過ぎないといえる。例えば、上述したアリルエーテル化合物を製造する方法を開示した文献には、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートについての言及はなく、重合性二重結合を有する単量体の一般的な製法が開示されているに過ぎないものである。また、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを反応に使用したものではないが、α位置換アクリレート類の製造方法を開示した文献においても、α−(アリルオキシメチル)アクリレートを調製し得る原料が1つの例示として挙げられているだけである。
なお、α位置換アクリレート類の製造方法が開示された文献においては、当該文献に記された実施例1において精製工程として水洗が行われ、また、アリルエーテル類の製造方法が開示された文献においては、当該文献に記された実施例1等において精製工程として洗浄・抽出が行われたことが記載されている。しかしながら、これらの精製手法は、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを反応に使用してα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを製造する方法において、反応により得られた反応溶液中のα位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを除くための有効な手法とはならないものと考えられる。例えば、後述する実施例、比較例を見ても分かるように、通常は触媒除去を主な目的に水洗を実施するものである。比較例より、水洗工程を行っても蒸留前にはα位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートが残存しており(例えば、反応液中のα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル652gに対して、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルが85g含まれていたのに対し、比較例1の水洗工程後においては、α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル291gに対して、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル34gが残存しており、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルが充分に除去されていないといえる)、このような精製手法がα位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを除去する有効な手段となっていないことを証明している。
【0016】
すなわち本発明は、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを反応に使用して、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを製造する方法であって、上記製造方法は、反応により得られた反応溶液中の、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを誘導体化して蒸留する工程を含むα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートの製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0017】
本発明は、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを反応に使用して、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを製造する方法である。
上記「α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを反応に使用」するとは、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートの合成において、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを経由することをいい、当該α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを経由する製法に本発明を適用することになる。α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートの製造において、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを経由する方法は工業的に有用であるが、本発明はその際に生じる精製上の問題点を解消しようとするものである。
上記α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを経由してα−(不飽和アルコキシメチル)アクリレートを合成して製造する方法については、後に詳述する。
【0018】
本発明の製造方法は、言い換えれば、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを原料及び/又は中間体としてα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを製造する方法である。
本発明の製造方法においては、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを原料として合成するか、他の原料を用いてα位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを中間体として生成させて合成するか、又は、これらを組み合わせて合成することになる。
【0019】
上記α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートは、アクリレート中のカルボニル基に結合したα位の炭素原子、言い換えると、アクリレート中の二重結合を構成するα位の炭素原子にヒドロキシアルキル基が結合した構造を有するが、該ヒドロキシアルキル基としては、炭素数1〜10のアルキル基をもち、該アルキル基は置換基を有していてもよい。好ましくは、α−(ヒドロキシメチル)アクリレートを原料及び/又は中間体とすることである。
また生成物である上記α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートは、アクリレート中の二重結合を構成するα位の炭素原子に不飽和結合を有するアルコキシアルキル基が結合した構造を有するが、該不飽和結合を有するアルコキシアルキル基としては、炭素数1〜10のアルコキシ基及び炭素数1〜10のアルキル基をもち、該アルコキシ基及びアルキル基は置換基を有していてもよい。好ましくは、α−(アリルオキシメチル)アクリレートである。
なお、本明細書中、ヒドロキシアルキル基やアルコキシアルキル基等は、ヒドロキシ基やアルコキシ基が2価のアルキレン基に結合した1価の基となっていることから、ヒドロキシアルキレン基、アルコキシアルキレン基等と標記してもよいものであるが、アルキル基にヒドロキシ基やアルコキシ基が結合したかたちで1価の基になっているとも考えられるため、ヒドロキシアルキル基、アルコキシアルキル基等と標記している。また、不飽和結合を有するアルコキシアルキル基のアルコキシ基についても、アルコキシ基に不飽和結合が結合したかたちで1価の基になっているとも考えられるため、そのように標記している。
【0020】
上記製造方法は、反応により得られた反応溶液中の、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを誘導体化して蒸留する工程を含む。反応により得られた反応溶液とは、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを合成する反応により得られた溶液(反応後の溶液)をいう。
上記のようにα位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを経由してα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを合成して製造する場合、反応により得られた反応溶液中の、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを工業的製造工程において完全に転化させることは実質的にはできない。すなわち、反応に使用したα位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートのすべてがα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートに転化されるわけではない。そのため、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートの合成後に得られた反応溶液中にα位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートが残存することになり、このα位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを除去するための精製工程を行うことになる。この精製工程においては、通常では触媒や副生成物等の不純物も除去されるように操作することになる。
この際に、本発明の製造方法においては、反応により得られた反応溶液中の、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを誘導体化して蒸留することになるが、本発明の効果が際立って発揮されるのは、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートとしてα−(ヒドロキシメチル)アクリレートを用いる場合である。
なお、上記製造方法は、言い換えれば、未反応原料及び/又は未反応中間体を誘導体化して蒸留する工程を含むものである。
【0021】
このように、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを誘導体化するにあたっては、誘導体化剤を用いて誘導体化することが好適である。誘導体化においては、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートがもつ官能基である、ヒドロキシ基、カルボン酸エステルの部分(−COOR)、二重結合の部分のうち、ヒドロキシ基に誘導体化剤である化合物を付加反応させることが好ましい。ヒドロキシ基との反応が容易であり、また、カルボン酸エステルの部分(−COOR)や二重結合の部分を誘導体化しようとする場合、これらの部分は生成物であるα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートにも存在することから、反応によって生じた生成物の中からα位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートだけを誘導体化することが困難であるからである。なお、上記Rは、エステル基を構成する一価の有機基を表し、その好ましい形態は後述する通りである。
したがって、誘導体化剤としては、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートがもつヒドロキシ基と反応する化合物の中から適宜選択すればよいが、好ましくは、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートの誘導体と目的生成物であるα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートとの沸点差が蒸留精製する際に充分に分別できる程度まで大きくすることができる化合物を選択することである。
【0022】
上記誘導体化の条件は、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートのヒドロキシ基と誘導体化剤とを反応させてα位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレート誘導体を生成させる場合、そのような反応においてα位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレート量を減少させることができる反応温度、反応時間、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレート量又は反応液中に含まれるヒドロキシ基量に対する誘導体化剤量を適宜選択すればよい。また、ヒドロキシ基と誘導体化剤とを反応させる際に触媒を用いることが反応を促進するために有効である場合には、触媒を用いて誘導体化することが好ましい。ここで用いた触媒も後の水洗、蒸留等の精製工程によって充分に除去することができる。
上記誘導体化におけるα位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートの低減量に関して、反応終了後、誘導体化処理前のα位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレート量を100質量%とすると、誘導体化処理後のα位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートの質量%(残存率)は、例えば0.001〜50質量%とすることができる。より好ましい誘導体化処理後のα位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートの質量%(残存率)は、0.01〜40質量%であり、更に好ましくは、0.1〜30質量%である。
【0023】
本発明における蒸留工程は、上記誘導体化処理後に本発明の技術分野において用いることができる蒸留方法を実施する工程であればよく、蒸留条件は、上記反応溶液中の、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを誘導体化して得られた誘導体が充分に取り除かれるように適宜設定すればよい。
また触媒や副生成物等の不純物も充分に取り除かれるようにすることが好ましい。蒸留溶剤、共沸溶媒を用いてもよい。なお、蒸留精製により目的生成物以外のものが留去されるようにしてもよく、目的生成物が留去されるようにしてもよい。
上記蒸留条件としては、常圧下又は減圧下で行うことになるが、通常は減圧下で行うことが好ましい。減圧条件としては、上限が30kPa以下であることが好ましく、10kPa以下がより好ましい。また下限が0.01kPa以上であることが好ましく、0.1kPa以上がより好ましい。蒸留温度条件としては、蒸留溶剤等によって適宜設定すればよいが、上限が150℃以下であることが好ましく、120℃以下がより好ましい。また下限が30℃以上であることが好ましく、40℃以上がより好ましい。蒸留工程は、工業的には通常、蒸留塔を用いて行うことになるが、塔頂温度をこのような温度範囲に設定することが好適である。
更に、上記蒸留工程は、低沸成分を留去する工程を前もって行ってもよく、沸点の違ういくつかの成分を低沸分から高沸分へ順に段階的に留去するようにしてもよい。蒸留工程はまた、精製工程の一環として行われてもよく、蒸留以外の精製方法、例えば、洗浄、抽出等の少なくとも1つを蒸留工程の前及び/又は後に行ってもよい。
【0024】
本発明のα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートの製造方法における好ましい形態としては、(1)α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートと不飽和基含有アルコールとを反応させて得た反応溶液中のα位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを誘導体化し、蒸留する工程を含む形態、(2)α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートとしてα−(ヒドロキシメチル)アクリレートを反応させ、不飽和基含有アルコールがアリルアルコールを必須とする形態、(3)酸無水物類、イソシアネート類、無水リン酸類及びエポキシド類からなる群より選択される少なくとも1種の誘導体化剤を用いて誘導体化する形態が挙げられる。
これらの好ましい形態(構成要件)は、いずれか一つの構成要件を満たすようにしてもよいし、2つ又はそれ以上の構成要件を組み合わせて満たすようにしてもよい。
以下では、これら好ましい形態について順に説明する。
【0025】
上記(1)α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートと不飽和基含有アルコールとを反応させて得た反応溶液中のα位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを誘導体化し、蒸留する工程を含む形態においては、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートと不飽和基含有アルコールとを反応させて反応溶液(反応後の溶液)を得ることになる。この反応において、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートにおけるヒドロキシ基が結合したアルキル基の炭素原子に、不飽和基含有アルコールのヒドロキシ基における活性水素原子が脱離した残基が結合してα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを生成するものと考えられる。
【0026】
上記(2)α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートとしてα−(ヒドロキシメチル)アクリレートを反応させ、不飽和基含有アルコールがアリルアルコールを必須とする形態においては、α−(ヒドロキシメチル)アクリレートの二重結合におけるα位炭素原子に結合した炭素原子に、不飽和基含有アルコールのヒドロキシ基における活性水素原子が脱離した残基が結合してα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを生成するものと考えられる。
このように、本発明においては、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートとしてα−(ヒドロキシメチル)アクリレートを反応させることが好ましい。また、不飽和基含有アルコールとしてアリルアルコールを必須とすることが好ましい。これら2つを組み合わせたのが上記好ましい形態である。
上記不飽和基含有アルコールがアリルアルコールを必須とするとは、不飽和基含有アルコールの一部又は全部がアリルアルコールであればよく、好ましくは、アリルアルコールを不飽和基含有アルコールの主成分とすること、実質的に不飽和基含有アルコールとしてアリルアルコールだけを用いることである。本明細書中において必須とするとは、このような意味である。
上記α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートと不飽和基含有アルコールとを反応させてα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを得る場合、反応溶液中のα位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートとα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートとの沸点差は、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートとしてα−(ヒドロキシメチル)アクリレートを用い、不飽和基含有アルコールとしてアリルアルコールを用いる場合が最も近似することとなる。そのため、生成物から未反応原料及び/又は未反応中間体を除去するために蒸留精製するときに両者を分離することができない又は特に困難になる。そのような場合に本発明を適用すれば、環化重合という特異的な重合において特に有用な単量体であるα−(アリルオキシメチル)アクリレートを高純度で得ることができるという際立った効果を発揮することになる。
また本発明の製造方法における特に好ましい形態は、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートが実質的にα−(ヒドロキシメチル)アクリレートであって、不飽和基含有アルコールが実質的にアリルアルコールである形態である。
【0027】
上記(3)酸無水物類、イソシアネート類、無水リン酸類及びエポキシド類からなる群より選択される少なくとも1種の誘導体化剤を用いて誘導体化する形態においては、上記反応溶液(反応後の溶液)中のα位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートに対して、(i)酸無水物類を反応させて誘導体化して蒸留する工程、(ii)イソシアネート類を反応させて誘導体化して蒸留する工程、(iii)無水リン酸類を反応させて誘導体化して蒸留する工程、(iv)エポキシド類を反応させて誘導体化して蒸留する工程のいずれかの工程を単独で行ってもよく、又は、それらの2以上の工程を組み合わせて行ってもよい。通常では、(i)〜(iv)のいずれかの工程を単独で行えばよい。これらの反応工程は、後述するように酸触媒やアミン触媒を用いることが好ましい。
上記誘導体化における好ましい形態は、上記反応溶液中のα位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを誘導体化する際の反応性がよく、また、工業的製法への適応性がよいという点から好適である。
中でも、上記誘導体化剤が、酸無水物及び/又はイソシアネート類を必須とする形態、すなわち、上記好ましい形態における誘導体化剤の中でも、酸無水物及び/又はイソシアネート類を用いる形態が特に好適である。このような形態においては、誘導体化における反応時間の点で有利である。また、未反応原料及び/又は未反応中間体であるα位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートの残存率の低減にもより効果的である。
【0028】
上記好ましい形態においては、酸無水物類、イソシアネート類、無水リン酸類、エポキシド類が有する反応性基である酸無水物基(−CO−O−CO−)、イソシアネート(NCO)基、無水リン酸(P10)の活性部位、エポキシ基が反応溶液中のα位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートのヒドロキシ基に反応し、これらの化合物における反応性基以外の構造部位が原料及び/又は中間体であるα位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートが有する官能基(二重結合、アクリル酸エステル部位等)に反応しない又は反応しにくい化合物であることが好ましい。これらの化合物の好ましい例は、下記のとおりである。
【0029】
上記酸無水物類としては、例えば、下記一般式(A);
【0030】
【化3】

【0031】
(式中、R及びR′は、同一又は異なって、置換基を有していてもよい炭素数1〜15のアルキル基、炭素数2〜15のアルケニル基、炭素数2〜15のアルキニル基、炭素数6〜15のアリール基、炭素数5〜15のシクロアルキル基又は炭素数7〜15のアリールアルキル基を表す。R及びR′は、結合して環構造を形成していてもよい。)で表されるものであることが好ましい。一般式(A)において、これらの基は、いずれも置換基を有していてもよい。R及びR′の炭素数の上限は、12以下であることが好ましく、8以下がより好ましい。また、R及びR′の種類の好ましい形態としては、アルキル基又はアリール基である。
上記置換基としては、ハロゲン原子、ジアルキル基、アミノ基、ニトロ基、カルボニル基、カルボキシル基、アルコキシ基、アセトキシ基、水酸基、メルカプト基、スルホン基等が好適である。
上記酸無水物類の化合物名としては、例えば、無水酢酸、無水アジピン酸、無水コハク酸、無水セバシン酸、無水アゼライン酸、無水グルタル酸、無水プロピオン酸、無水マレイン酸等の脂肪族カルボン無水物;無水フタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水ピロメリット酸、無水安息香酸等の芳香族カルボン酸無水物等が好適である。中でも、無水フタル酸、無水酢酸が特に好ましい。
【0032】
上記イソシアネート類としては、例えば、下記一般式(B);
【0033】
【化4】

【0034】
(式中、Rは、置換基を有していてもよい炭素数1〜15のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、炭素数5〜15のシクロアルキル基又は炭素数7〜15のアリールアルキル基を表す。)で表される化合物であることが好ましい。一般式(B)において、これらの基は、いずれも置換基を有していてもよい。Rの炭素数の上限は、12以下であることが好ましく、8以下がより好ましい。また、Rの種類の好ましい形態としては、アルキル基又はアリール基である。
上記置換基としては、ハロゲン原子、ジアルキル基、アミノ基、ニトロ基、カルボニル基、カルボキシル基、アルコキシ基、アセトキシ基、水酸基、メルカプト基、スルホン基等が好適である。
このようなイソシアネート類の化合物名としては、例えば、メチルイソシアネート、エチルイソシアネート、プロピルイソシアネート、ブチルイソシアネート、ヘキシルイソシアネート等の単官能性脂肪族イソシアネート類;シクロヘキシルイソシアネート等の単官能性環状イソシアネート類;フェニルイソシアネート等の単官能性芳香族イソシアネート類;へキサメチレンジイソシアネート、トリメチルへキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート等の二官能性芳香族イソシアネート類;イソホロンジイソシアネート、ジシクロへキシルメタンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート等の二官能性環状イソシアネート類;トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、テトラメチレンキシリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の二官能性芳香族イソシアネート類等が好適である。中でも、芳香族イソシアネート類が好ましい。より好ましくは、単官能性芳香族イソシアネート類であり、更に好ましくは、フェニルイソシアネートである。
【0035】
上記無水リン酸類としては、例えば、無水リン酸(P10)以外にリン酸、亜リン酸、縮合リン酸及びこれらの金属塩の1種又は2種以上を含んでいてもよいが、無水リン酸の含有量が多いものであることが好ましい。したがって、無水リン酸類100質量%に対して、無水リン酸を60質量%以上含むもの、70質量%以上含むもの、80質量%以上含むもの、90質量%以上含むもの、実質的に無水リン酸だけによって構成されるものが好適であり、無水リン酸の含有量が多いものがより好適である。
【0036】
上記エポキシド類としては、例えば、下記一般式(C);
【0037】
【化5】

【0038】
(式中、Rは、水素原子、炭素数1〜15のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、炭素数5〜15のシクロアルキル基又は炭素数7〜15のアリールアルキル基を表す。)で表される化合物であることが好ましい。一般式(C)において、これらの基は、いずれも置換基を有していてもよい。Rの炭素数の上限は、12以下であることが好ましく、8以下がより好ましい。また、Rの種類の好ましい形態としては、アルキル基である。
上記置換基としては、ハロゲン原子、ジアルキル基、アミノ基、ニトロ基、カルボニル基、カルボキシル基、アルコキシ基、アセトキシ基、水酸基、メルカプト基、スルホン基等が好適である。
このようなエポキシド類の化合物名としては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、シクロヘキセンオキシド等が好適である。中でも、プロピレンオキシドが特に好ましい。
【0039】
上記好ましい形態における誘導体化工程の一例を下記反応式(i)〜(iv)に示す。
【0040】
【化6】

【0041】
上記誘導体化工程における反応条件については、触媒の種類やモル比、反応温度や時間等を適宜設定すればよいが、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートとしてα−(ヒドロキシメチル)アクリレートを用い、不飽和基含有アルコールとしてアリルアルコールを用いる場合の好ましい誘導体化条件の一例を示すと下記のようになる。なお、これら誘導体化条件は、どのようなα位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートや不飽和基含有アルコールに対しても適用できるが、特にα−(ヒドロキシメチル)アクリレートやアリルアルコールを用いる場合に対して好適である。
【0042】
上記反応工程(i)に関して、酸無水物の使用量は反応液中のヒドロキシ基量に対して0.1〜5.0当量であることが好ましい。また、触媒としては例えば酸触媒又はアミン触媒を用いることが好適であり、触媒量は、反応液中のヒドロキシ基量に対して0.1〜50モル%であることが好ましい。反応温度は10〜80℃であることが好ましい。より好ましくは30〜70℃である。反応時間は反応の進行によって適宜設定すればよいが、例えば0.1〜8時間であることが好ましい。
上記反応工程(ii)に関して、イソシアネートの使用量はイソシアネート基量が反応液中のヒドロキシ基量に対して0.1〜5.0当量であることが好ましい。また、触媒としては例えば酸触媒又はアミン触媒を用いることが好適であり、触媒量は、反応液中のヒドロキシ基量に対して0.1〜50モル%であることが好ましい。反応温度は10〜80℃であることが好ましい。より好ましくは30℃〜70℃である。反応時間は反応の進行によって適宜設定すればよいが、例えば0.1〜8時間であることが好ましい。
上記反応工程(iii)に関して、無水リン酸類の使用量は反応液中のヒドロキシ基量に対して0.1〜5.0当量であることが好ましい。また、触媒としては例えば酸触媒又はアミン触媒を用いることが好適であり、触媒量は、反応液中のヒドロキシ基量に対して0.1〜50モル%であることが好ましい。反応温度は10〜80℃であることが好ましい。より好ましくは30℃〜70℃である。反応時間は反応の進行によって適宜設定すればよいが、例えば0.1〜16時間であることが好ましい。
上記反応工程(iv)に関して、エポキシド類の使用量は反応液中のヒドロキシ基量に対して0.1〜5.0当量であることが好ましい。また、触媒としては例えば酸触媒又はアミン触媒を用いることが好適であり、触媒量は、反応液中のヒドロキシ基量に対して0.1〜50モル%であることが好ましい。反応温度は10〜80℃であることが好ましい。
より好ましくは30℃〜70℃である。反応時間は反応の進行によって適宜設定すればよいが、例えば0.1〜16時間であることが好ましい。
【0043】
上記誘導体化の反応工程において、酸触媒としては、オニウム塩、スルホン化合物、スルホン酸エステル化合物、スルホンイミド化合物、ジアゾメタン化合物、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等の有機酸;塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸が好適なものとして挙げられる。中でも、無機酸がより好ましく、硫酸が更に好ましい。
上述したように誘導体化時におけるアミン触媒としては、3級アミンだけではなく、1級アミン、2級アミンやピリジン等の芳香族アミン等も使用可能である。上記α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを合成する反応には通常3級アミンを用いるので、そのまま反応液中のアミン(3級アミン)を触媒として誘導体化してもよく、後に触媒としてアミンを加えてから誘導体化してもよい。
反応液中のアミン(3級アミン)を触媒として誘導体化する場合においては、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートの生成において用いた3級アミン触媒を誘導体化工程においても用いることができる。3級アミン触媒の好ましい例については、後に詳述する。
【0044】
以下に、本発明におけるα位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを使用してα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを合成する反応の更に好ましい原料、反応条件等について詳述する。
本発明のα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートの製法としては、上記α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートとして下記一般式(1);
【0045】
【化7】

【0046】
(式中、Rは、炭素数1〜30の有機基を表す。)で表されるα−(ヒドロキシメチル)アクリレートと、不飽和基含有アルコールとして下記一般式(2);
【0047】
【化8】

【0048】
で表されるアリルアルコールとを反応させ、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートとして下記一般式(3);
【0049】
【化9】

【0050】
(式中、Rは、炭素数1〜30の有機基を表す。)で表されるα−(アリルオキシメチル)アクリレートを得る形態が好適なものとして挙げられる。当該形態においては、α−(ヒドロキシメチル)アクリレートが反応原料及び/又は反応中間体として用いられ、それとアリルアルコールとが反応してα−(アリルオキシメチル)アクリレートを得ることになる。
【0051】
このようなα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートの製造方法としては、(1)アクリル酸エステルとパラホルムアルデヒドとを反応させてα−(ヒドロキシメチル)アクリレートを得る工程、(2)α−(ヒドロキシメチル)アクリレートから2,2′−〔オキシビス(メチレン)〕ビスアクリレートを得る工程、(3)2,2′−〔オキシビス(メチレン)〕ビスアクリレートにアリルアルコールを反応させてα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートとα−(ヒドロキシメチル)アクリレートとを生成させる工程の(1)〜(3)の反応工程を行う方法が好適に挙げられる。これら反応工程はいずれも後述するアミン系触媒を用いることが好ましい。
上記反応工程のうち、上記(2)の反応工程と上記(3)の反応工程とを組み合わせて、α−(ヒドロキシメチル)アクリレートにアリルアルコールを反応させてα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートとα−(ヒドロキシメチル)アクリレートとを生成させる工程を行うことも好適である。また、直接的には上記好ましい形態にはならないが、上記(3)の反応工程だけによることも好ましい。
上記(1)〜(3)の反応工程を行う場合や上記(2)及び(3)の反応工程を行う場合、それらの工程は連続した一連の工程として行ってもよく、それらの工程を別個に行ってもよい。すなわち、各工程においてα−(ヒドロキシメチル)アクリレートや2,2′−〔オキシビス(メチレン)〕ビスアクリレートを中間体として生成させて反応させてもよく、反応原料として添加して反応させてもよい。また、上記反応工程においては、目的物であるα−(アリルオキシメチル)アクリレートとともにα−(ヒドロキシメチル)アクリレートが生成するが、当該α−(ヒドロキシメチル)アクリレートはα−(アリルオキシメチル)アクリレートを得るための原料として再利用することができる。
【0052】
なお、上記反応工程において、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートとしてα−(ヒドロキシメチル)アクリレート、不飽和基含有アルコールとしてアリルアルコールを用いてα−(アリルオキシメチル)アクリレートを得ているが、上述したようにα位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートと不飽和基含有アルコールと反応させてα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを得る反応においては、未反応原料及び/又は未反応中間体としてα位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートが残存することから、そのような反応によってα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを得るための製造方法すべてに本発明を適用することができるものである。
【0053】
上記反応工程(1)〜(3)の一例を下記反応式(1)〜(3)に示す。
この反応式は、上記一般式(1)で表されるα−(ヒドロキシメチル)アクリレートとして、Rがメチル基であり、また、後述するアミン系触媒として、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(本明細書中、ジアザビシクロオクタン、又は、DABCOともいう。)を用いた場合を表している。
【0054】
【化10】

【0055】
上記反応工程(1)〜(3)における反応条件については、これらの工程を一連の工程として実施する場合、これらの工程を別個に実施する場合において、使用原料のモル比、触媒の種類やモル比、反応温度や時間等を適宜設定すればよいが、好ましい反応条件の一例を示すと下記のようになる。
上記反応工程(1)に関して、アクリル酸メチルに対するパラホルムアルデヒドのモル比としては0.05〜20とすることが好適である。反応温度としてはアクリル酸メチルやα−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの重合反応を抑制するために、10〜150℃が好適である。反応時間は、反応の進行速度によって適宜設定すればよい。
上記反応工程(2)に関して、反応温度としては、10〜150℃が好適である。
上記反応工程(3)に関して、2,2′−[オキシビス(メチレン)]ビスアクリル酸メチルに対するアリルアルコールの使用量としては、2,2′−[オキシビス(メチレン)]ビスアクリル酸メチル/アリルアルコールのモル比を0.05〜20とすることが好適である。反応温度としては、10〜150℃が好適である。
これらの反応工程におけるアミン系触媒の使用量については後述する。
なお、アクリル酸メチル、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2,2′−[オキシビス(メチレン)]ビスアクリル酸メチル、α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルの重合を抑制するために、重合禁止剤や分子状酸素を用いることが好ましい。
【0056】
上記α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートとしてのα−(ヒドロキシメチル)アクリレートは、上記一般式(1)で表されるものであることが好ましい。
上記一般式(1)中、上記Rは、エステル基を構成する1価の有機基であり、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、また、環状であってもよい。好ましい炭素数は、1〜18であり、より好ましくは、1〜12であり、更に好ましくは、1〜8である。有機基としては、例えば、鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、脂環式炭化水素基又は芳香族炭化水素基であることが好ましい。これらの基は、置換基を有していてもよく、すなわち、これらの基を構成する炭素原子に結合する水素原子の少なくとも一部を置換基で置き換えた置換鎖状飽和炭化水素基、置換鎖状不飽和炭化水素基、置換脂環式炭化水素基又は置換芳香族炭化水素基であってもよい。中でも、置換基を有していてもよい鎖状飽和炭化水素基が好ましい。
【0057】
上記鎖状飽和炭化水素基としては、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、s−ブチル、t−ブチル、n−アミル、s−アミル、t−アミル、n−ヘキシル、s−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、s−オクチル、t−オクチル、2−エチルヘキシル、カプリル、ノニル、デシル、ウンデシル、ラウリル、トリデシル、ミリスチル、ペンタデシル、セチル、ヘプタデシル、ステアリル、ノナデシル、エイコシル、セリル、メリシル等の基が好適である。
また鎖状飽和炭化水素基を構成する炭素原子に結合する水素原子の少なくとも一部をアルコキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子等で置換したものであってもよく、例えば、アルコキシ基置換鎖状飽和炭化水素基、ヒドロキシ置換鎖状飽和炭化水素基、ハロゲン置換鎖状飽和炭化水素基等が好適なものとして挙げられる。
上記アルコキシ置換鎖状飽和炭化水素基としては、例えばメトキシエチル、メトキシエトキシエチル、メトキシエトキシエトキシエチル、3−メトキシブチル、エトキシエチル、エトキシエトキシエチル、フェノキシエチル、フェノキシエトキシエチル等の基が好適なものとして挙げられる。上記ヒドロキシ置換鎖状飽和炭化水素基としては、例えばヒドロキシエチル、ヒドロキシプロピル、ヒドロキシブチル等の基が好適なものとして挙げられる。上記ハロゲン置換鎖状飽和炭化水素基としては、ハロゲン原子がフッ素原子又は塩素原子であることが好ましく、例えばフルオロエチル、ジフルオロエチル、クロロエチル、ジクロロエチル、ブロモエチル、ジブロモエチル等の基が好適なものとして挙げられる。
【0058】
上記鎖状不飽和炭化水素基としては、ビニル、アリル、メタリル、クロチル、プロパギル等の基が好適なものとして挙げられる。また鎖状不飽和炭化水素基を構成する炭素原子に結合する水素原子の少なくとも一部をアルコキシ基、ヒドロキシ基やハロゲン原子等で置き換えた置換鎖状不飽和炭化水素基であってもよい。
上記脂環式炭化水素基としては、シクロペンチル、シクロヘキシル、4−メチルシクロヘキシル、4−t−ブチルシクロヘキシル、トリシクロデカニル、イソボルニル、アダマンチル、ジシクロペンタジエニル等の基が好適なものとして挙げられる。これについても、構成する炭素原子に結合する水素原子の少なくとも一部をアルコキシ基、ヒドロキシ基やハロゲン原子等で置き換えた置換脂環式炭化水素基であってもよい。
【0059】
上記芳香族炭化水素基としては、フェニル、メチルフェニル、ジメチルフェニル、トリメチルフェニル、4−t−ブチルフェニル、ベンジル、ジフェニルメチル、ジフェニルエチル、トリフェニルメチル、シンナミル、ナフチル、アントラニル等の基が好適なものとして挙げられる。これについても、構成する炭素原子に結合する水素原子の少なくとも一部をアルコキシ基、ヒドロキシ基やハロゲン原子等で置き換えた置換芳香族炭化水素基であってもよい。
【0060】
上記不飽和基含有アルコールとしては、不飽和基を有するアルコールであって、炭素数が1〜18のアルコールを例示することができる。不飽和基としては、ビニル基、アリル基、メタリル基、クロチル基、プロパルギル基、1,1−ジメチル−2−プロペニル基、2−メチル−2−ブテニル基、3−メチル−2−ブテニル基、3−メチル−3−ブテニル基、2−メチル−3−ブテニル基等が挙げられる。
本発明においては、不飽和基含有アルコールとして、不飽和基がアリル基であるアリルアルコールを用いることが好ましい。この場合に上記のように反応溶液中のα位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートと目的生成物であるα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートとの沸点差が最も小さくなるが、誘導体化によって分別が可能となり、容易となる。すなわち、本発明の効果を最大限に発揮することができる。
【0061】
上記α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートとしてのα−(アリルオキシメチル)アクリレートは、上記一般式(3)で表されるものであることが好ましい。
一般式(3)におけるRの好ましい形態等は、上述した一般式(1)中のRの好ましい形態と同様である。
【0062】
上記α−(アリルオキシメチル)アクリレートの化合物名としては、例えば、下記のとおりである。
α−アリルオキシメチルアクリル酸メチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸エチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸n−プロピル、α−アリルオキシメチルアクリル酸i−プロピル、α−アリルオキシメチルアクリル酸n−ブチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸s−ブチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸t−ブチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸n−アミル、α−アリルオキシメチルアクリル酸s−アミル、α−アリルオキシメチルアクリル酸t−アミル、α−アリルオキシメチルアクリル酸n−ヘキシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸s−ヘキシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸n−ヘプチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸n−オクチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸s−オクチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸t−オクチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸2−エチルヘキシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸カプリル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ノニル、α−アリルオキシメチルアクリル酸デシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ウンデシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ラウリル、α−アリルオキシメチルアクリル酸トリデシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ミリスチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ペンタデシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸セチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ヘプタデシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ステアリル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ノナデシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸エイコシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸セリル、α−アリルオキシメチルアクリル酸メリシル等の鎖状飽和炭化水素基含有α−(アリルオキシメチル)アクリレート。
【0063】
α−アリルオキシメチルアクリル酸メトキシエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸メトキシエトキシエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸メトキシエトキシエトキシエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸3−メトキシブチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸エトキシエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸エトキシエトキシエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸フェノキシエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸フェノキシエトキシエチル等のアルコキシ置換鎖状飽和炭化水素基含有α−(アリルオキシメチル)アクリレート;α−アリルオキシメチルアクリル酸ヒドロキシエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ヒドロキシプロピル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ヒドロキシブチル等のヒドロキシ置換鎖状飽和炭化水素基含有α−(アリルオキシメチル)アクリレート;α−アリルオキシメチルアクリル酸フルオロエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ジフルオロエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸クロロエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ジクロロエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ブロモエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ジブロモエチル等のハロゲン置換鎖状飽和炭化水素基含有α−(アリルオキシメチル)アクリレート。
【0064】
α−アリルオキシメチルアクリル酸ビニル、α−アリルオキシメチルアクリル酸アリル、α−アリルオキシメチルアクリル酸メタリル、α−アリルオキシメチルアクリル酸クロチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸プロパギル等の鎖状不飽和炭化水素基含有α−(アリルオキシメチル)アクリレート;α−アリルオキシメチルアクリル酸シクロペンチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸シクロヘキシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸4−メチルシクロヘキシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸トリシクロデカニル、α−アリルオキシメチルアクリル酸イソボルニル、α−アリルオキシメチルアクリル酸アダマンチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ジシクロペンタジエニル等の脂環式炭化水素基含有α−(アリルオキシメチル)アクリレート;α−アリルオキシメチルアクリル酸フェニル、α−アリルオキシメチルアクリル酸メチルフェニル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ジメチルフェニル、α−アリルオキシメチルアクリル酸トリメチルフェニル、α−アリルオキシメチルアクリル酸4−t−ブチルフェニル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ベンジル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ジフェニルメチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ジフェニルエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸トリフェニルメチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸シンナミル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ナフチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸アントラニル等の芳香族炭化水素基含有α−(アリルオキシメチル)アクリレート。
なお、本発明のα−(アリルオキシメチル)アクリレートは、1種のα−(アリルオキシメチル)アクリレートだけを含むものであってもよく、複数種のα−(アリルオキシメチル)アクリレートを含むものであってもよい。
【0065】
上記アミン系触媒としては、1級アミン化合物、2級アミン化合物、3級アミン化合物が挙げられるが、上記反応工程のいずれも3級アミン化合物、すなわち、3級アミン触媒を用いることが好ましい。上記反応工程においては、通常は3級アミン触媒を用いることになる。このようなアミン系触媒を用いることにより、副反応を低減し、高純度のα−(アリルオキシメチル)アクリレート組成物を効率よく製造することが可能となる。
【0066】
上記3級アミン触媒としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリn−ブチルアミン、ジメチルエチルアミン、ジメチルn−ブチルアミン等のモノアミン化合物;トリエチレンジアミン、テトラメチルエチレンジアミン、テトラメチルプロピレンジアミン、テトラメチルブチレンジアミン等のジアミン化合物;1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン等の環状構造含有アミン化合物;DB−U(商品名、サンアプロ社製)、ダイヤイオンWA−10(商品名、三菱化学社製)、ダウエックスMWA−1(商品名、ダウ・ケミカル社製)、アンバーライトIRA−68(商品名、ローム・アンド・ハース社製)等の弱塩基性イオン交換樹脂等が好適なものとして挙げられる。これら触媒は、一種類のみを用いてもよく、また二種類以上を適宜混合してもよい。
中でも、モノアミン化合物及び/又は環状構造含有アミン化合物が好ましい。より好ましくは、トリメチルアミン及び/又は1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンである。
【0067】
上記アミン系触媒の使用量としては、例えば、α−(ヒドロキシメチル)アクリレート100モル%に対して、0.01〜50モル%であることが好ましい。0.01モル%未満であると、触媒活性が充分発揮されず、反応時間が長くなり過ぎ、α−(アリルオキシメチル)アクリレートを効率的に製造することができなくなるおそれがある。また、50モル%を超えると、触媒量の増加に比例した、反応時間短縮等の触媒効果のさらなる向上は望めず、添加した触媒の一部が無駄になり、経済的に不利となるおそれがある。より好ましくは、0.5〜20モル%である。
上記反応工程(1)〜(3)において、これらの工程を一連の工程として実施する場合には、上記のようにアミン系触媒の使用量を設定すればよいが、これらの各工程を別個に実施する場合におけるアミン系触媒の最適量としては、上記反応工程(1)におけるパラホルムアルデヒド100モル%に対して、0.01〜50モル%であることが好適である。上記反応工程(2)におけるα−(ヒドロキシメチル)アクリレート100モル%に対して、0.01〜50モル%であることが好適である。上記反応工程(3)における2,2′−[オキシビス(メチレン)]ビスアクリレート100モル%に対して、0.01〜50モル%であることが好適である。
【0068】
本発明の製造方法によって得られるα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートは、環化重合することによりテトラヒドロフラン環(THF環)等の環構造を主鎖等に有する環構造含有重合体を与えるものである。このような環構造含有重合体は、環構造に起因して耐熱性に優れる一方で、テトラヒドロフラン環の両隣にメチレン基などのアルキレン基を有することに起因して高い柔軟性を発現し、また、相溶性や溶剤溶解性に優れるという性能を発揮することができるものである。
本発明は、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを原料及び/又は中間体としてα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを得る反応における未反応原料及び/又は未反応中間体を誘導体化して蒸留する工程を含む精製方法でもある。上記精製方法の好ましい形態は、上述した本発明の製造方法における好ましい形態と同様である。
【0069】
また用途としては、接着剤、粘着剤、歯科材料、光学部材、情報記録材料、光ファイバー用材料、カラーフィルターレジスト、ソルダーレジスト、めっきレジスト、絶縁体、封止剤、インクジェットインク、印刷インク、塗料、注型材料、化粧板、WPC(ウッドプラスチックコンビネーション)、被覆剤、感光性樹脂板、ドライフィルム、ライニング剤、土木建築材料、パテ、補修材、床材、舗装材ゲルコート、オーバーコート、ハンドレイアップ・スプレーアップ、引抜成形・フィラメントワインディング・SMC(シートモールディングコンパウンド)・BMC(バルクモールディングコンパウンド)等の成形材料、高分子固体電解質等が好適に挙げられ、環構造を主鎖等に有する環構造含有重合体を与える単量体組成物として広範囲に利用することができるものである。
【0070】
なお、本発明のα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートは、上述のように付加重合と同時に環化しながら重合して環構造を主鎖等に有する重合体を与えることができるが、この環化重合については、文献に示されており、例えばα−(アリルオキシメチル)アクリレート等の1,6−ジエン類をラジカル重合反応により重合し、5員環、6員環構造等を有する重合体を得る方法が示されている。例えば、ツダタカシ(Takashi Tsuda)、ロン・J・マサイアス(Lon J.Mathias)、POLYMER、1994年、第35巻、p.3317−3328、ロバート・D・トンプソン(Rovert D.Thompson)、ウィリアム・L・ジャレット(William L.Jarrett)、ロン・J・マサイアス(Lon J.Mathias)、マクロモレキュールズ(Macromolecules)、1992年、第25巻、p.6455−6459、及び、漆崎美智遠(Michio Urushisaki)他、マクロモレキュールズ(Macromolecules)、1999年、第32巻、p.322−327が挙げられる。これらの文献において、環化重合する単量体の有用性が示されているといえる。
本発明の製造方法における上記環化重合の態様としては、α−(アリルオキシメチル)アクリレートの場合は、下記反応式で表されるように主鎖等に5員環及び/又は6員環構造を有する重合体を与えることになる。
【0071】
【化11】

【発明の効果】
【0072】
本発明のα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートの製造方法は、残存した原料及び/又は中間体であるα位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを他の化合物に変換(誘導体化)することによって、蒸留による分離が可能となり、高純度なα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを工業的に得ることができるという際立って優れた効果を奏することができる。
【発明を実施するための形態】
【0073】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0074】
評価方法
(反応転化率、収率及び純度)
反応の転化率、収率及び純度については、ガスクロマトグラフ(6890N(商品名)、Agilent Technologies製、キャピラリーカラム DB−WAX(商品名);長さ30m×内径0.25mm、膜厚0.5μm)を使用して測定し、事前に作成した検量線を使用して求めた。
【0075】
反応例(製造例1)
攪拌機、冷却管、温度計、ガス吹き込み管および油浴を備えた2Lの4つ口フラスコに、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル813g、触媒として1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン39g、重合禁止剤としてヒドロキノンモノメチルエーテル0.4g、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル0.4gを仕込んだ。その後、反応液に空気を吹き込みながら、反応液を100℃に昇温し、10kPaの減圧下、生成する水を留去しながら2時間反応させた。その後、常圧下、2時間かけてアリルアルコール610gと触媒の1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン39gを滴下し、さらに12時間反応させた。反応後ガスクロマトグラフィーを用いて測定したところ、α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルの収率がα−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルに対し60モル%、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの転化率が88%であった。次に残存しているアリルアルコールを減圧下(操作圧力7kPa)、単蒸留で留出させて、反応液1139gを得た。この反応液にはα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル652g、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル85g、触媒として1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン30gが含まれていた。
【0076】
実施例1
上記反応例より得られた反応液371gに誘導体化剤として無水酢酸87gを1時間かけて滴下して加え、50℃で2時間攪拌した。この反応液458g中のα−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルは2gとなった。その後、水で洗浄し触媒を除いた後、蒸留装置(理論段数13段)を用い、減圧下(操作圧力2kPa)、蒸留による精製を行った。蒸留前の反応液は450gで、α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルが256g、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルが1g、α−(アセトキシメチル)アクリル酸メチルが30g含まれていた。蒸留後、α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルを99.3質量%、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルを0.2質量%含む製品を192g得ることができた。
【0077】
比較例1
上記反応例より得られた反応液に誘導体化工程を行わず、水で洗浄した後、蒸留による精製を実施例1と同条件で行った。蒸留前の反応液は439gで、α−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルが291g、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルが34g含まれていた。蒸留後、得られた製品226gにはα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルが88.5質量%、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルが10.1質量%含まれていた。
【0078】
比較例2
上記反応例においてアリルアルコールの代わりにメタノールを用いて、同様の反応をおこなった。その反応液に誘導体化工程を行わず、水で洗浄した後、蒸留による精製を実施例1と同条件で行った。蒸留前の反応液は445gで、α−(メトキシメチル)アクリル酸メチルが304g、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルが21g含まれていた。
蒸留後、α−(メトキシメチル)アクリル酸メチルを99.5質量%、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルを0.1質量%含む製品を245g得ることができた。
【0079】
実施例2
実施例1と同様に、上記製造例1より得られた反応液50gに誘導体化剤として無水フタル酸30gを1時間かけて加え、50℃で2時間攪拌した。反応液中のα−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルは0.9gとなった。その後、実施例1と同様の工程を行いα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルを98.6質量%、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルを1.3質量%含む製品を得ることができた。
【0080】
実施例3
実施例1と同様に、上記製造例1より得られた反応液50gに誘導体化剤としてフェニルイソシアネート24gを1時間かけて加え、50℃で2時間攪拌した。反応液中のα−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルは0.1gとなった。その後、実施例1と同様の工程を行いα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルを99.5質量%、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルを0.1質量%含む製品を得ることができた。
【0081】
実施例4
実施例1と同様に、上記製造例1より得られた反応液50gに誘導体化剤としてプロピレンオキシド12gを1時間かけて加え、50℃で6時間攪拌した。反応液中のα−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルは1.4gとなった。その後、実施例1と同様の工程を行いα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルを97.5質量%、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルを2.4質量%含む製品を得ることができた。
【0082】
実施例5
実施例1と同様に、上記製造例1より得られた反応液50gに誘導体化剤として無水リン酸14gを1時間かけて加え、50℃で6時間攪拌した。反応液中のα−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルは1.5gとなった。その後、実施例1と同様の工程を行いα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルを97.2質量%、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルを2.7質量%含む製品を得ることができた。
下記表中、添加量(当量)は、反応液中のヒドロキシ基量に対する当量をいう。
【0083】
【表1】

【0084】
なお、上述した実施例及び比較例では、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルを反応に使用してα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルを調製しているが、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを反応に使用して、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを製造する形態である限り、反応により得られた反応液(反応後の溶液)中のα位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートに対して、目的生成物であるα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートがヒドロキシ基に不飽和結合を有する基が導入されているという構造上の違いがあるだけであり、ヒドロキシ基と不飽和アルコキシ基とが同じような沸点となる構造であれば、これらの分離が困難となるといった問題を生じさせる機構は同様である。したがって、本発明の製造方法を上述した工程を含むものとすれば、本発明の有利な効果を発現することは確実であるといえる。上述した実施例及び比較例においては、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートとしてα−(ヒドロキシメチル)アクリレートを反応させ、不飽和基含有アルコールがアリルアルコールを必須としてα−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルを調製する場合が示されているが、これによって本発明の有利な効果が立証され、また、明細書に記載された本発明の構成によって奏される作用機構を合わせて考えれば、本発明の技術的意義が裏付けられているといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを反応に使用して、α−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートを製造する方法であって、
該製造方法は、反応により得られた反応溶液中の、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを誘導体化して蒸留する工程を含むことを特徴とするα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートの製造方法。
【請求項2】
前記製造方法は、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートと不飽和基含有アルコールとを反応させて得た反応溶液中のα位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートを誘導体化し、蒸留する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載のα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートの製造方法。
【請求項3】
前記製造方法は、α位にヒドロキシアルキル基を有するアクリレートとしてα−(ヒドロキシメチル)アクリレートを反応させ、不飽和基含有アルコールがアリルアルコールを必須とすることを特徴とする請求項2に記載のα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートの製造方法。
【請求項4】
前記製造方法は、酸無水物類、イソシアネート類、無水リン酸類及びエポキシド類からなる群より選択される少なくとも1種の誘導体化剤を用いて誘導体化することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のα−(不飽和アルコキシアルキル)アクリレートの製造方法。

【公開番号】特開2010−235546(P2010−235546A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−87220(P2009−87220)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】