説明

αアミラーゼを使用した無糖パンの製造方法

【課題】砂糖を使用しない製パン方法であっても良好な食感で製品ボリュームが十分出せるパンの製造方法を提供すること。
【解決手段】イーストを含まず、小麦粉、αアミラーゼ及び水を含む原料を使用して前生地を10℃から55℃に捏ね上げ、この前生地を10℃から55℃で1時間から24時間保温し、その後この前生地にイースト及び残余の資材を混合し混捏してパン生地にし、これを発酵、焼成する製パン方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、αアミラーゼを使用した無糖パンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
砂糖は主要な製パン原料としてイーストの栄養源、フレーバー、色づけ、老化防止、味付けなどの目的で各種のパンに使用されている。
砂糖を加えないパンとしてフランスパンや無糖中種法による無糖パンが知られているがこれらは砂糖を使用していないため製品ボリュームが出難いという問題があった。
砂糖を使用しないパンでは、小麦粉中のαアミラーゼにより生成される麦芽糖をイーストの栄養源としているが、これを補うためαアミラーゼを添加することが行われている。
例えば、小麦粉を主材とし、これにドライイースト、αアミラーゼ、小麦でんぷん及び適量の水を配合して攪拌混合した後、所定の短時間発酵させて中種を生成しこの発酵終了中種にトレハロース、ショートニング及びその他の製パン原料と水を配合して攪拌混合した後、所定時間発酵させてパン生地とし次いでパン生地を所定量分取し成型後焼成するパンの製造方法が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−345392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、砂糖を使用しない製パン方法であっても良好な食感で製品ボリュームが十分出せるパンの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは前記の目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、生地調製を2段階に分け、最初の段階でαアミラーゼを配合し、かつイーストを配合しない前生地を調製し、次の段階でこの前生地にイースト及び残余の資材を混合してパン生地を調製する工程を採用することで良好な食感で十分な製品ボリュームの無糖パンを得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
従って、本発明は、イーストを含まず、小麦粉、αアミラーゼ及び水を含む原料を使用して前生地を10℃から55℃に捏ね上げ、この前生地を10℃から55℃で1時間から24時間保温し、その後この前生地にイースト及び残余の資材を混合し混捏してパン生地にし、これを発酵、焼成する製パン方法である。
本発明の製パン方法は、従来の中種製パン方法と類似する部分があるが、本発明では、中種生地に相当する前生地にイーストを使用しないところに特徴がある。
本発明では、αアミラーゼを配合し、かつイーストを配合しない前生地をまず調製し、後からイースト及び残余の資材を加えて混捏しパン生地を調製することで無糖パンでも十分な製品ボリュームを得ることが可能となった。
【発明の効果】
【0006】
本発明の製パン方法により良好な食感で十分な製品ボリュームの無糖パンを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の無糖パンとはイーストを使用し砂糖を使用しない製パン方法より得られるパンをいい、例えば、食パン、フランスパン、イーストドーナツなどを挙げることができる。
使用できる原料は砂糖を除く従来の中種製パン方法により製造されていた原料であれば特に限定なく使用できる。
例えば、イーストフード、粉乳、食塩、ガム類、穀粉、澱粉、色素、フレーバー、糖類(砂糖を除く)、油脂類、グルテン、卵類、膨張剤などが使用できる。
【0008】
本発明の製パン方法は、従来の中種製パン方法を基礎とするが、イーストを前生地に配合しないところに特徴がある。
本発明の前生地は、少なくとも使用する全小麦粉の20質量%以上90質量%以下の小麦粉、前生地に使用する小麦粉100質量部に対して1U(ユニット)以上1500U以下のαアミラーゼ、水40〜60質量部を混捏して生地とする。
本発明において使用できる小麦粉として、強力小麦粉の他、中力小麦粉、薄力小麦粉、デュラム小麦粉、全粒粉などが挙げられ、これらは適宜混合して使用することができる。
本発明において使用できるαアミラーゼとしては、食品に使用可能なαアミラーゼであれば限定なく使用でき、例えば、動物、植物、微生物由来のものが使用可能であり、穀類またはかび由来のものが酵素の失活温度が高いという観点で好ましい。
これらは、市販されているものが使用可能であり、単独または2種以上を混合して使用することができる。
酵素力価は、40℃、30分間に10mgのグルコースに相当する還元力の増加をもたらす酵素量を1U(ユニット)とする。
その他、前生地に配合できる資材として、澱粉、食塩、糖類(砂糖を除く)などが挙げられる。
【0009】
本発明の前生地の混捏方法は従来の中種生地製パン法の中種生地を得る方法と同様でよい。
例えば、低速2分間、高速2分間ミキシングする。
ただし、捏上温度は、酵素活性を利用するため10℃以上55℃以下とする。
捏上温度が10℃未満では酵素の至適温度以下で反応が進みにくく不適となる。
捏上温度が55℃を超えると、酵素が失活するため、不適となる。
【0010】
この前生地を10℃以上55℃以下で1時間から24時間保温する。
保温温度が10℃未満では酵素反応が極めて小さくなり不適となる。
保温温度が55℃を超えると、酵素反応が失活するため、不適となる。
また、保温時間が1時間未満では酵素反応が不十分となり不適となる。
また、保温時間が24時間超えると酵素反応過多となり、生地がだれるため不適となる。
【0011】
保温した前生地に残余の資材を加えパン生地とする。
このとき必要であれば、加水して生地の状態を調整する。
この混捏方法は従来の中種生地製パン法の本捏と同様でよい。
例えば、低速2分間、中速3分間ミキシングした後、油脂を加え、低速1分間、中速3分間、高速12分間ミキシングを行う。
このパン生地を従来の中種生地製パン法と同様にして、分割、成型、ホイロ、焼成して無糖パンを得ることができる。
【実施例】
【0012】
以下本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1〜7、比較例1〜2]生地の捏上温度検証試験
[前生地の調製]
小麦粉70質量部、αアミラーゼ剤1質量部(4.03U)、水40質量部を、10qt縦型ミキサーを使用して低速2分間、高速2分間ミキシングし表1に示す捏上温度の前生地を得た。
捏上温度の調整はミキシングに使用する水の温度によって行った。
この前生地を、温度35℃、湿度70%で6時間保温した。
【0013】
[パン生地の調製]
前記保温した前生地に、小麦粉30質量部、水5質量部、全卵10質量部、ベーキングパウダー1質量部、食塩1.5質量部、脱脂粉乳1質量部、生イースト4質量部を加え
低速2分間、中速4分間ミキシングし、ショートニング10質量部を加え低速2分間、中速3分間、高速3分間ミキシングして捏上温度27℃のパン生地を得た。
このパン生地をワンローフ型に収容し、38℃、湿度80%で75%までホイロをとった後、200℃で35分間焼成して食パンを得た。
【0014】
[対照]
対照として従来の中種製パン方法のようにイーストを前生地に配合して試験を行った。
試験方法は、上記試験例1において、生イースト4質量部を前生地に加えた以外は試験例1と同様にして行った。
【0015】
[評価試験]
得られた食パンを冷却後、ビニール袋に包装し、翌日スライサーでスライスし、以下の評価基準で10名のパネラーにより評価を行った。
[食感の評価基準]
5点 食感が柔らかく、口溶けも良い。
4点 食感がやや柔らかく、口溶け良い
3点 普通
2点 食感が硬く、やや口溶け悪い。
1点 硬く、口溶け悪い。
なお、生地比容積は菜種種子置換法で測定した。
結果を表1に示す。
【0016】
【表1】

【0017】
実施例3、実施例4、実施例5は特に良好であった。
実施例7は、製品ボリュームは従来方法と同程度であったが食感では優っていた。
比較例1、比較例2は、食感及び製品ボリュームが劣り満足できる製品ではなかった。
【0018】
[実施例8〜13、比較例3〜4]前生地保温温度の検証試験
[前生地の調製]
小麦粉70質量部、αアミラーゼ剤1質量部(4.03U)、水40質量部を、10qt縦型ミキサーを使用して低速2分間、高速2分間ミキシングし捏上温度30℃の前生地を得た。
この前生地を、表2に示す保温温度、湿度70%で6時間保温した。
[パン生地の調製]
前記保温した前生地に、小麦粉30質量部、水5質量部、全卵10質量部、ベーキングパウダー1質量部、食塩1.5質量部、脱脂粉乳1質量部、生イースト4質量部を加え
低速2分間、中速4分間ミキシングし、ショートニング10質量部を加え低速2分間、中速3分間、高速3分間ミキシングして捏上温度27℃のパン生地を得た。
このパン生地をワンローフ型に収容し、38℃、湿度80%で75%までホイロをとった後、200℃で35分間焼成し食パンを得た。
この食パンを実施例1と同様にして評価を行った。
結果を表2に示す。
【0019】
【表2】

【0020】
実施例10、実施例11は特に良好であった。
実施例13は、食感はそれほど優れてはいなかったが製品ボリュームは良好であった。
比較例3、比較例4は、食感及び製品ボリュームが劣り満足できる製品ではなかった。
【0021】
[実施例14〜18、比較例5〜6]保管時間検証試験
[前生地の調製]
小麦粉70質量部、αアミラーゼ剤1質量部(4.03U)、水40質量部を、10qt縦型ミキサーを使用して低速2分間、高速2分間ミキシングし捏上温度30℃の前生地を得た。
この前生地を、温度35℃で、湿度70%で0.5時間から25時間保温した。
[本捏生地の調製]
前記保温した前生地に、小麦粉30質量部、水5質量部、全卵10質量部、ベーキングパウダー1質量部、食塩1.5質量部、脱脂粉乳1質量部、生イースト4質量部を加え
低速2分間、中速4分間ミキシングし、ショートニング10質量部を加え低速2分間、中速3分間、高速3分間ミキシングして捏上温度27℃のパン生地を得た。
このパン生地をワンローフ型に収容し、38℃、湿度80%で75%までホイロをとった後、200℃で35分間焼成し食パンを得た。
この食パンを実施例1と同様にして評価を行った。
結果を表3に示す。
【0022】
【表3】

【0023】
実施例15、実施例16は特に良好であった。
実施例18は、食感はそれほど優れてはいなかったが製品ボリュームは良好であった。
比較例5、比較例6は、食感及び製品ボリュームが劣り満足できる製品ではなかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
イーストを含まず、小麦粉、αアミラーゼ及び水を含む原料を使用して前生地を10℃から55℃に捏ね上げ、この前生地を10℃から55℃で1時間から24時間保温し、その後この前生地にイースト及び残余の資材を混合し混捏してパン生地にし、これを発酵、焼成する製パン方法。
【請求項2】
原料に砂糖を使用しない請求項1に記載の製パン方法。