説明

αvβ5インテグリンに関連する疾患の処置および予防のための方法および組成物

本発明は、αvβ5インテグリンとの結合を阻止することによる、αvβ5インテグリンに関連する疾患の処置および予防のための組成物および方法を提供する。特に、αvβ5インテグリンに特異的な抗体は、セプシスの予防、処置、および逆転のために有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2009年7月24日出願の米国仮出願第61/228,416号に基づく優先権を主張し、その開示は参照によりその全体が組み入れられる。
【0002】
連邦政府によって後援された研究開発の下でなされた発明に対する権利に関する記述
この研究は、一部分、NIH Ro1 HL083950「インテグリンαvβ5による血管透過性の調節」により支持された。政府は、本発明における一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
セプシス症候群は、感染性生物と、宿主の免疫応答、炎症応答、および凝固応答との間の複雑な相互作用により開始した炎症カスケードの激化に起因する(Hotchkiss and Karl(2003) N Engl J Med 348:138(非特許文献1))。TNF-αおよびトロンビンを含む、セプシス中に上昇する炎症性アゴニストは、内皮単層における透過性を増加させる。全身性の血管透過性の増加によって、血管外コンパートメントへの液体および溶質の再分布が起こり、血液量減少、血液濃縮、および止血がもたらされる。
【0004】
1年に650,000例を超えるセプシスが診断され、死亡率は20〜50パーセントであるため、セプシスは、非冠動脈集中治療室に入院した患者における最も一般的な死因となっている。(複数の細胞型、炎症性メディエーター、および凝固因子が関与している)宿主応答が、セプシス関連の死亡率を決定することは、一般に認められているが、臨床試験は、効果的な治療標的を同定することに概して失敗している。セプシスの発症および維持の根底にある分子的機序が十分に理解されておらず、これらの重症疾患症候群のための効果的な薬理学的標的は同定されていない。
【0005】
上に示されたように、セプシスは、炎症カスケードの激化に応答して増加した血管透過性を特徴とする。溶質は、傍細胞経路を介して、または受容体により媒介される経細胞輸送によって内皮関門を通過する(Michel(1992) Am Rev Respir Dis 146:S32;Renkin(1985) J Appl Physiol 58:315(非特許文献2))。現在の一般的なコンセンサスは、傍細胞経路が、急性炎症性疾患状態において見られる血管透過性の増加を主として担うということである(Groeneveld(2002) Vascul Pharmacol 39:247(非特許文献3);Bernard et al.(1994) Am J Respir Crit Care Med 149:818(非特許文献4))。一つの高頻度に引用されるモデルは、細胞骨格力と接着性細胞-細胞力と細胞-マトリックス力との間の競合のバランスが崩れることにより、傍細胞間隙が形成されることを示唆している。このモデルにおいては、細胞骨格の糸状(F)-アクチンが、細胞間結合と接着斑との間でアクトミオシンにより生成された張力を伝達する形態学的に明瞭なストレスファイバーへと重合する。接着斑(FA)は、アクチン細胞骨格を細胞外マトリックス(ECM)と連結し、インテグリンの結合およびクラスター形成の部位へシグナル伝達タンパク質を局在させる、大きな高分子集合体である。
【0006】
本開示は、インテグリンαvβ5およびαvβ3が、炎症性アゴニストに応答して起こる内皮関門機能の重要な調節因子であることを明らかにする。驚くべきことに、これらの密接に関連しているインテグリンは、透過性を誘導する細胞骨格構造(αvβ5およびアクチンストレスファイバー)および関門を強化する細胞骨格構造(αvβ3および表層アクチン)の差別的な組織化をもたらす反対の細胞機序を支持する。本発明者らは、セプシスにおける血管透過性の調節における、インテグリンαvβ5およびαvβ3の予想外に明瞭な役割を、本発明において報告する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Hotchkiss and Karl(2003) N Engl J Med 348:138
【非特許文献2】Michel(1992) Am Rev Respir Dis 146:S32;Renkin(1985) J Appl Physiol 58:315
【非特許文献3】Groeneveld(2002) Vascul Pharmacol 39:247
【非特許文献4】Bernard et al.(1994) Am J Respir Crit Care Med 149:818
【発明の概要】
【0008】
本発明は、セプシスのような、αvβ5インテグリンが関与している疾患を処置するかまたは予防するための組成物および方法を提供する。
【0009】
いくつかの態様において、本発明は、哺乳動物対象(例えば、ヒト、サル、もしくはチンパンジーのような霊長類;イヌ;ネコ;またはウマ、ウシ、もしくはヒツジのような家畜)におけるセプシスの処置、逆転、または予防の方法を提供する。αvβ5インテグリンのアンタゴニストの治療的な量または予防的な量が対象に投与される。
【0010】
いくつかの態様において、アンタゴニストは、αvβ5インテグリンの活性または発現を阻害する薬剤である。いくつかの態様において、薬剤は、αvβ5特異抗体、αvβ5インテグリンの低分子阻害剤、またはアンチセンス分子のようなαvβ5インテグリンのポリヌクレオチド阻害剤より選択される。いくつかの態様において、薬剤は、αvβ3、β3、αvβ6、β6、αvβ8、またはβ8のうちの少なくとも一つの活性または発現を阻害しない。
【0011】
いくつかの態様において、アンタゴニストは、抗体または抗体断片、例えば、キメラ抗体またはヒト化抗体、scFv、Fab、または(Fab')2である。いくつかの態様において、抗体は、αvβ3インテグリンと有意に結合しないか、またはαvβ3インテグリンへのリガンドの結合を有意に阻止しない。いくつかの態様において、抗体は、αvβ3、β3、αvβ6、β6、αvβ8、またはβ8のうちの少なくとも一つと有意に結合しない。いくつかの態様において、抗体は、αvβ3、β3、αvβ6、β6、αvβ8、またはβ8と有意に結合しない。
【0012】
いくつかの態様において、抗体は、αvβ5インテグリンへの特異的な結合について、ALULA(ATCC寄託番号PTA-5817の下で寄託されたハイブリドーマにより産生される抗体)と特異的に競合する。いくつかの態様において、抗体は、ALULAと同一のαvβ5インテグリンのエピトープと結合する。いくつかの態様において、抗体は、ALULAのCDRに由来し、実質的に類似したCDRアミノ酸配列を有する(例えば、ALULAのCDRにおいて、90、95、97、98、99、または100%の同一性)。いくつかの態様において、抗体は、ALULA V領域のアミノ酸配列に実質的に類似したV領域を含む(例えば、ALULAのV領域において、90、95、96、97、98、99、または100%の同一性)。抗体は、ALULA自体、ヒト化ALULA、キメラALULA、例えば、ALULAのscFv、Fab、および(Fab')2を含む、ALULAの断片、またはαvβ5インテグリンとの結合についてALULAと競合する別の抗体であり得る。
【0013】
いくつかの態様において、方法は、αvβ5インテグリンに特異的な抗体を含む薬学的組成物の投与を含み、αvβ3インテグリンと結合する抗体またはアンタゴニストの投与は含まない。
【0014】
本発明の方法は、セプシスを有するかまたはセプシス発症のリスクを有する個体の処置のために有用である。投与は、静脈内または腹腔内であり得るが、これらに限定されない。投与は、単独治療であってもよいし、または典型的な実務と同様に、セプシスに関連した合併症の処置もしくは予防を目的とした他の治療薬、例えば、静脈内輸液、昇圧薬、外科的介入、抗生物質、活性化プロテインC、インスリン、GM-CSF、TGFβ経路阻害剤、β-2アゴニスト、利尿剤、αvβ5インテグリンのアンタゴニスト、αvβ5インテグリンと特異的に結合する第二の抗体、αvβ6インテグリンのアンタゴニスト、血管収縮薬、および変力薬(例えば、フェニレフリン、ノルエピネフリン、ドーパミン、ドブタミン)と併用されてもよい。
【0015】
本発明のさらなる態様は、セプシスの処置のための薬剤を同定する方法を提供する。いくつかの態様において、方法は、複数の薬剤をαvβ5インテグリンと接触させる工程、αvβ5インテグリンへのリガンドの結合について競合する薬剤を選択する工程、および選択された薬剤のセプシスに対する効果を決定する工程を含む。いくつかの態様において、方法は、複数の薬剤をαvβ5インテグリンと接触させる工程、αvβ5への結合についてALULAと競合する薬剤を選択する工程、および選択された薬剤のセプシスに対する効果を決定する工程を含む。いくつかの態様において、方法は、αvβ3と結合する薬剤を排除する工程をさらに含む。いくつかの態様において、抗体は、αvβ3、β3、αvβ6、β6、αvβ8、またはβ8と有意に結合しない。セプシスに対する効果を有する薬剤は、セプシスの処置のための薬剤として同定される。複数の薬剤は、複数の抗体であり得る。リガンドは、例えば、ALULAを含む、抗体であってもよいし、またはビトロネクチン、フィブロネクチン、オステオポンチン、テネイシンC、もしくはアデノウイルスのペントンベースであってもよい。
【0016】
本発明のこれらおよびその他の態様は、以下の詳細な説明により、さらに例示される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1Aは、ヒト肺動脈内皮細胞(HPAEC)におけるアゴニストにより誘導される透過性は、αvβ5の抗体による阻害により減弱し、αvβ3の抗体による阻害により増強される。トランズウェル(Transwell)(登録商標)上の血清枯渇コンフルエントHPAEC単層を、αvβ3抗体およびαvβ5抗体(抗αvβ3 Abおよび抗αvβ5 Ab)(10μg/ml)、または対照(10μg/ml)抗体(Ab)と共にインキュベートし、1時間後、VEGF(30ng/ml)、TGF-β(10ng/ml)、またはトロンビン(10U/ml)により刺激した。アピカルウェルにC14-アルブミントレーサーをアプライし、その後、1時間後に、バソラテラルウェル内容物を収集し、シンチレーション測定(カウント毎分)(CPM)を行うことにより、経内皮漏出を決定した。示されたデータは、平均値+/-標準誤差(n=3)である。図1Bは、αvβ3およびαvβ5は接着斑に共局在する。HPAECのコンフルエント単層を固定し、透過性化し、αvβ3特異抗体およびαvβ5特異抗体(続いて、Alex488標識二次抗体およびローダミン標識二次抗体)により染色した。インテグリンαvβ3およびαvβ5を、それぞれ、緑色および赤色に偽着色し、Image Pro(登録商標)ソフトウェアを使用して融合した。図1CおよびDは、αvβ5はトロンビンにより誘導されるストレスファイバー形成を優先的に支持し、αvβ3はS1Pにより誘導される表層アクチン形成を優先的に支持する。HPAECのコンフルエント単層を、1時間、アイソタイプ対照抗体(対照Ab)、αvβ3抗体、またはαvβ5抗体(10μg/ml)のいずれかにより前処理し、次いで、トロンビン(10U/ml、10分間)またはS1P(0.5μM、10分間)により刺激した。次いで、細胞を固定し、透過性化し、ローダミン-ファロイジンにより染色した。図1Eは、αvβ3阻止は、トロンビンにより誘導される透過性に対するS1Pによる保護を克服する。トランズウェル(登録商標)上の血清枯渇コンフルエントHPAEC単層を、αvβ3抗体またはアイソタイプ対照抗体(10μg/ml)および/またはS1P(0.5μM)と共にインキュベートし、1時間後、トロンビンにより刺激した。アピカルウェルにC14-アルブミントレーサーをアプライし、続いて、1時間後に、バソラテラルウェル内容物を収集し、シンチレーション測定(カウント毎分)(CPM)を行うことにより、経内皮漏出を決定した。示されたデータは、平均値+/-標準誤差(n=3)である。
【図2】β3ノックアウトマウスは、LPSにより誘導されるALIのモデルにおいて、肺水腫形成の増加を有する。体重および性別をマッチさせたβ3ノックアウトマウスおよび野生型マウスに、50μg LPSを含む50μlの水、対、50μlの水媒体対照、または10mg/kg、対、等量の水対照を気管内投与するか(A)、または10mg/kgをi.p.投与した(B)。LPSまたは水の投与の5日後、エバンスブルー色素を後眼窩に投与し、2時間後、肺灌流および全肺採集を行った。血管外エバンスブルーをホルムアミドにより抽出し、分光測光(560nm)により測定した。全肺の乾燥重量当たりの分光測光単位(g-1)として測定されたエバンスブルー血管外漏出。示されたデータは、平均値+/-標準誤差(n=10)である。
【図3】図3Aは、β3ノックアウトマウスは、i.p.LPSにより誘導されるセプシスモデルにおいて、野生型対照と比較して、死亡率の増加を有する。体重および性別をマッチさせたβ3ノックアウトマウスおよび野生型対照マウスに、i.p.注射により10mg/kgのLPSを投与した。カプランマイヤー生存分析により分析されたデータ、ログランク検定による群間の差p=0.0044。図3Bは、β3ノックアウトマウスは、LPSのi.p.注射(10mg/kg)の後、腸間膜血管の周囲にFITC-BSAトレーサーの局所的な血管外漏出を有する。内皮漏出の部位は、マウスを安楽死させる1時間前に、後眼窩に注射された(生理食塩水中30mg/kg)FITC標識BSA(90ミクロンサイズ、Sigma)を使用することにより顕微鏡で同定された。腸間膜および小腸を、血管系を破壊しないように注意して一塊として採集した。腸間膜ホールマウントを調製し、固定した(Baluk et al.(1999) Br J Pharmacol 126:522)。Leica DM5000B顕微鏡を使用して、局所的なFITC血管外漏出の区域として、漏出の部位を同定した。図3Cは、β3ノックアウトマウスは、LPSのi.p.注射(10mg/kg)の後、小腸および腸間膜、ならびに結腸において、125I-BSAトレーサーの血管外漏出の増加を有する。体重および性別をマッチさせたβ3ノックアウトマウスおよび野生型対照マウスに、i.p.注射により10mg/kgのLPSを投与した。30時間後、0.5μCi 125I-BSAを後眼窩注射により投与した。2時間後、マウスを安楽死させ、小腸および腸間膜、ならびに結腸を採集し、全カウント毎分(CPM)について分析した。示されたデータは平均値+/-標準誤差(各群n=6)である。β3ノックアウト、対、野生型対照:小腸/腸間膜についてはp=0.034、結腸についてはp=0.042。図3Dは、ヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)におけるアゴニストにより誘導される透過性は、αvβ3の抗体による阻害により増強される。トランズウェル(登録商標)上の血清枯渇コンフルエントHUVEC単層を、抗αvβ3抗体および対照抗体(Ab)(10μg/ml)と共にインキュベートし、1時間後、VEGF(30ng/ml)、TGF-β(10ng/ml)、またはトロンビン(10U/ml)により刺激した。示されたデータは平均値+/-標準誤差(各群n=3)である。対照Ab、対、抗αvβ3 Ab:生理食塩水についてはp=0.972、VEGFについてはp=0.033、トロンビンについてはp=0.041、TGF-βについてはp=0.029。図3Eは、β3ノックアウトマウスは、LPS(10mg/kg)の腹腔内注射の後、血液濃縮を示す。β3ノックアウトマウスおよび野生型対照マウスへのLPSのi.p.投与の36時間後、下大静脈穿刺を介して血液を採取し、ヘマトクリットレベルを測定した。示されたデータは平均値+/-標準誤差(各群n=6)である。
【図4】図4Aは、β5ノックアウトマウスは、セプシスの腹腔内LPSモデル(13mg/kg)において、死亡率の低下を有する。体重および性別をマッチさせたβ5ノックアウトマウスおよび野生型対照マウスに、i.p.注射により13mg/kgのLPSを投与した。カプランマイヤー生存分析により分析されたデータ、ログランク検定による群間の差p=0.0007。図4Bは、β5ノックアウトマウスは、野生型対照と比較して、LPS(13mg/kg)の腹腔内注射の後の、腸間膜血管の周囲のFITC-BSAトレーサーの血管外漏出を減少させた。内皮漏出の部位は、マウスを安楽死させる1時間前に、後眼窩に注射された(生理食塩水中30mg/kg)FTIC標識BSA(90ミクロンサイズ、Sigma)を使用することにより、顕微鏡で同定された。腸間膜および小腸を、血管系を破壊しないように注意して一塊として採集した。腸間膜ホールマウントを調製し固定した(Baluk et al.(1999) Br J Pharmacol 126:522)。Leica DM5000B顕微鏡を使用して、局所的なFITC血管外漏出の区域として、漏出の部位を同定した。図4Cは、αvβ5阻止抗体の投与は、野生型対照と比較して、LPSにより誘導されるセプシス(13mg/kg)における、死亡までの時間を増加させた。体重および性別をマッチさせた野生型マウスに、i.p.注射により13mg/kgのLPSを投与した。LPS注射の24時間後、マウスを、αvβ5抗体またはアイソタイプ対照抗体のいずれかの後眼窩注射のためランダム化した。カプランマイヤー生存分析により分析されたデータ、ログランク検定による群間の差p=0.0124。
【図5】αvβ5阻止抗体の投与は、対照と比較して、盲腸結紮穿刺(CLP)により誘導されるセプシスにおける、死亡までの増加を時間させた。体重および性別をマッチさせた野生型マウスをCLP術に供した。腹部切開の手術および閉鎖の後、マウスを、αvβ5抗体またはアイソタイプ対照抗体のいずれかの後眼窩注射のためランダム化した。カプランマイヤー生存分析により分析されたデータ、ログランク検定による群間の差p=0.0427。
【発明を実施するための形態】
【0018】
発明の詳細な説明
I. 序論
本発明は、αvβ5インテグリンと結合する薬剤による動物の処置が、セプシスの症状を低下させるという驚くべき発見に、一部分、基づく。本発明者らは、αvβ5インテグリンと結合する抗体が、αvβ5インテグリンへのリガンドの結合を阻止することを証明した。より具体的には、αvβ5インテグリンの結合の阻止は、セプシスの重度を低下させることができる。αvβ5阻止抗体の投与が実際にセプシスを逆転させるため、当結果は著しい。標準的なセプシス治療薬は、一般に、例えば、抗生物質または抗炎症剤の使用により、セプシスを予防しようとする。一般的に、敗血症性反応の急性の性質は、緊急かつ侵襲性の医学的介入を必要とし;標準的な治療薬は効果的でない。従って、本発明は、αvβ5のアンタゴニストを、効果的な量、対象に投与することによる、対象におけるセプシスの処置、予防、または逆転の方法を提供する。
【0019】
本発明は、αvβ5インテグリンと相互作用する薬剤を同定し、セプシスを処置する能力について、それらを試験することにより、セプシスの処置のための新たな薬剤を同定する方法も提供する。
【0020】
II. 定義
「αvβ5アンタゴニスト」とは、αvβ5インテグリン上の利用可能なリガンド結合部位について、αvβ5リガンドと競合する任意の薬剤である。αvβ5アンタゴニストには、αvβ5もしくはβ5と特異的に結合する薬剤、またはαvβ5インテグリンの活性もしくは発現を阻害することができる薬剤が含まれる。例には、抗体、低分子阻害剤、ならびにポリヌクレオチド阻害剤(例えば、アンチセンスおよびsiRNA)が含まれる。
【0021】
「αvβ5インテグリン」は、とりわけ、細胞-細胞相互作用、細胞-細胞外マトリックス(ECM)相互作用、および細胞-病原体相互作用を媒介する、非共有結合的に会合したα/βヘテロ二量体を含む、接着分子のファミリーのメンバーである。αvβ5は、β5サブユニットを含有している唯一のインテグリンである。αvβ5は、RGDペプチド配列を認識し、ビトロネクチンと結合し(例えば、Hynes,Cell 69:11-25(1992)を参照のこと)、発作、心筋梗塞、癌(即ち、血管形成)、および眼血管新生疾患を含む、複数の障害に関係付けられている(例えば、Friedlander et al.,Science 270(5241):1500-2(1995);Friedlander et al.,PNAS USA 93(18):9764-9(1996);Elicieri et al.,J.Cell Biol.157(10:149-159(2002);Heba et al.,J.Vasc.Res.38(3):288-300(2001);Soeki et al.,Cardiology 93(3):168-74(2000);およびLi et al.,Am.J.Physiol.270(5 Pt 2):H1803-11(1996)を参照のこと)。αvおよびβ5は、両方とも、配列決定され、特徴決定されている(例えば、それぞれ、Hynes,1992(前記)および米国特許第5,527,679号を参照のこと)。従って、αvβ5インテグリンの活性には、RGDおよびビトロネクチンとの結合、ならびに細胞-細胞相互作用、細胞-ECM相互作用、および細胞-病原体相互作用の媒介が含まれるが、これらに限定されない。
【0022】
セプシスは、全身に存在する急性炎症の証拠、例えば、発熱および異常な白血球数を特徴とする。セプシスは、時に細菌感染により引き起こされ、従って、細菌感染の症状自体も指標となり得る。従って、セプシスのリスクを有する個体には、感染、特に、重症感染に罹患している個体、または過去にセプシスを経験したことがある個体が含まれる。
【0023】
敗血症性反応においては、免疫系が感染に対して反応し、組織傷害および代謝変化を引き起こし得る。この応答の外向きの身体症状には、高い心拍数(毎分90拍超)、高い呼吸数(毎分20回超)、白血球(WBC)数の上昇(12,000超)、および体温の上昇または低下(36℃未満または38℃超)が高頻度に含まれる。免疫学的応答は、急性期タンパク質の広範囲の活性化を引き起こし、次いで、それらが、血管系および臓器に対して傷害を引き起こす。極端な症例は、死をもたらす。任意の疾患または障害と同様に、医学分野の当業者は、セプシスを最適に認識し診断することができる。当業者は、「セプシス」が絶対的な用語ではなく、全身性炎症反応症候群、重症セプシス、および敗血症性ショックをさすために使用され得ることも認識するであろう。
【0024】
αvβ5インテグリンアンタゴニストの「治療的な用量」、「治療的な量」、「治療的に効果的な量」、または「効果的な量」とは、患者における、例えば、セプシスを含む、αvβ5インテグリンに関連する疾患の症状を予防するか、軽減するか、緩和するか、またはその重度を低下させるアンタゴニストの量である。
【0025】
本明細書において使用されるように、「処置する」および「予防する」という用語は、絶対的な用語ではないものとする。処置とは、発症の遅延、症状の寛解、患者の生存率の改善、組織傷害の低下等をさすことができる。実際、いくつかの態様において、本発明による処置は、疾患の逆転をもたらすことができる。同様に、予防とは、発症の遅延、または情況に依っては、症状の重度の低下をさすことができる。処置の効果は、処置を受けていない個体もしくは個体のプール、または同一患者、例えば、処置前の同一患者と比較され得る。
【0026】
「対象」という用語は、処置について考慮される任意の個体をさすために本明細書において広く使用される。典型的には、対象は、ヒトまたはその他の何らかの哺乳動物である。
【0027】
「抗体」という用語は、抗原と特異的に結合し、認識する、免疫グロブリン遺伝子またはその機能的断片によりコードされたポリペプチドをさす。認識されている免疫グロブリン遺伝子には、κ、λ、α、γ、δ、ε、およびμ定常領域遺伝子、ならびに無数の免疫グロブリン可変領域遺伝子が含まれる。軽鎖は、κまたはλのいずれかとして分類される。重鎖は、γ、μ、α、δ、またはεとして分類され、それらが、免疫グロブリンクラスIgG、IgM、IgA、IgD、およびIgEをそれぞれ定義する。
【0028】
例示的な免疫グロブリン(抗体)構造単位は四量体を含む。四各量体は、ポリペプチド鎖の二つの同一の対から構成され、各対は、一つの「軽鎖」(約25kDa)および一つの「重鎖」(約50〜70kDa)を有する。各鎖のN末端が、抗原認識を主として担う約100〜110またはそれ以上のアミノ酸の可変領域を定義する。「可変重鎖」、「VH」、または「VH」という用語は、Fv、scFv、dsFv、またはFabを含む、免疫グロブリン重鎖の可変領域をさし;「可変軽鎖」、「VL」、または「VL」という用語は、Fv、scFv、dsFv、またはFabを含む、免疫グロブリン軽鎖の可変領域をさす。
【0029】
抗体の機能的断片の例には、完全抗体分子、Fv、単鎖Fv(scFv)、相補性決定領域(CDR)、VL(軽鎖可変領域)、VH(重鎖可変領域)、Fab、F(ab)2'、およびそれらの任意の組み合わせのような抗体断片、または標的抗原と結合することができる免疫グロブリンペプチドのその他の任意の機能的部分が含まれるが、これらに限定されない(例えば、FUNDAMENTAL IMMUNOLOGY(Paul ed.,4th ed.2001)を参照のこと)。当業者により認識されるように、多様な方法、例えば、ペプシンのような酵素による完全抗体の消化;または新規合成により、様々な抗体断片が入手され得る。抗体断片は、化学的に、または組換えDNA方法論を使用することにより、新規に合成されることが多い。従って、抗体という用語には、本明細書において使用されるように、完全抗体の修飾により作製された抗体断片、または組換えDNA方法論を使用して新規に合成されたもの(例えば、単鎖Fv)、またはファージディスプレイライブラリーを使用して同定されたもの(例えば、McCafferty et al.,(1990) Nature 348:552を参照のこと)が含まれる。「抗体」という用語には、二価分子または二重特異性分子、ジアボディ(diabodies)、トリアボディ(triabodies)、およびテトラボディ(tetrabodies)も含まれる。二価分子および二重特異性分子は、例えば、Kostelny et al.(1992) J.Immunol.148:1547、Pack and Pluckthun(1992) Biochemistry 31:1579、Hollinger et al.(1993),PNAS.USA 90:6444、Gruber et al.(1994) J Immunol.152:5368、Zhu et al.(1997) Protein Sci.6:781、Hu et al.(1996) Cancer Res.56:3055、Adams et al.(1993) Cancer Res.53:4026、およびMcCartney,et al.(1995) Protein Eng.8:301に記載されている。
【0030】
「単鎖Fv(scFv)」または「単鎖抗体」とは、scFv抗体のVH領域およびVL領域が、二鎖抗体に見出されるものと類似した抗原結合部位を作出するよう折り畳まれた単鎖を構成しているタンパク質をさす。scFv抗体を作成する方法は、例えば、Ward et al.,Exp Hematol.(5):660-4(1993);およびVaughan et al.,Nat Biotechnol.14(3):309-14(1996)に記載されている。単鎖Fv(scFv)抗体は、50アミノ酸以下、一般に40アミノ酸以下、好ましくは30アミノ酸以下、より好ましくは20アミノ酸以下の長さのペプチドリンカーを任意で含む。いくつかの態様において、ペプチドリンカーは、配列Gly-Gly-Gly-Gly-Serのコンカテマー、例えば、2個、3個、4個、5個、または6個のそのような配列のコンカテマーである。しかしながら、リンカー内にいくつかのアミノ酸置換が作成されてもよいことが認識されるべきである。例えば、グリシンがバリンに置換されてもよい。付加的なペプチドリンカーおよびそれらの使用は、当技術分野において周知である。例えば、Huston et al.,Proc.Nat'l Acad.Sci.USA 8:5879(1988);Bird et al.,Science 242:4236(1988);Glockshuber et al.,Biochemistry 29:1362(1990);米国特許第4,946,778号、米国特許第5,132,405号、およびStemmer et al.,Biotechniques 14:256-265(1993)を参照のこと。
【0031】
本明細書において使用されるように、「キメラ抗体」とは、(a)抗原結合部位(可変領域)が、異なるかもしくは改変されたクラス、エフェクター機能、および/もしくは種の定常領域、もしくはキメラ抗体に新たな特性を付与する完全に異なる分子、例えば、酵素、毒素、ホルモン、増殖因子、薬物等に連結されるよう、定常領域もしくはその一部分が改変、置換、もしくは交換されている免疫グロブリン分子;または(b)可変領域もしくはその一部分が、異なるかもしくは改変された抗原特異性を有する可変領域もしくはその一部分;もしくは別の種からの、もしくは別の抗体クラスもしくはサブクラスからの対応する配列により、改変、置換、もしくは交換されている免疫グロブリン分子をさす。
【0032】
本明細書において使用されるように、「ヒト化抗体」とは、ドナー抗体からのCDRが、ヒトフレームワーク配列へ移植されている免疫グロブリン分子をさす。ヒト化抗体は、フレームワーク配列にドナー起源の残基を含んでいてもよい。ヒト化抗体は、ヒト免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部分を含んでいてもよい。ヒト化抗体は、レシピエント抗体にも、インポートされたCDRまたはフレームワークの配列にも見出されない残基を含んでいてもよい。ヒト化は、抗体の「超ヒト化(superhumanizing)」(Tan et al.,J .Immunol.169:1119,2002)または「リサーフェイシング(resurfacing)」(例えば、Staelens et al.,Mol.Immunol.43:1243,2006;およびRoguska et al.,Proc.Natl Acad.Sci USA 91:969,1994)のような技術を含む、当技術分野において公知の方法(例えば、Jones et al.,Nature 321:522-525;1986;Riechmann et al.,Nature 332:323-327,1988;Verhoeyen et al.,Science 239:1534-1536,1988);Presta,Curr.Op.Struct.Biol.2:593-596,1992;米国特許第4,816,567号)を使用して実施され得る。
【0033】
本明細書において使用されるように、「V領域」とは、フレームワーク1(F1)、相補性決定領域1(CDR1)、F2、CDR2、およびF3のセグメントを含む抗体可変領域ドメインをさし、B細胞分化中に重鎖および軽鎖のV領域遺伝子の再編成の結果としてVセグメントに追加されるセグメントCDR3およびF4を含む。「Vセグメント」とは、本明細書において使用されるように、V遺伝子によりコードされるV領域(重鎖または軽鎖)の領域をさす。重鎖可変領域のVセグメントは、FR1-CDR1-FR2-CDR2およびFR3をコードする。本発明の目的のため、軽鎖可変領域のVセグメントは、FR3を通ってCDR3まで拡張されるものとして定義される。
【0034】
本明細書において使用されるように、「Jセグメント」という用語は、CDR3のC末端部分およびFR4を含む、コードされた可変領域の部分配列をさす。内在性Jセグメントは、免疫グロブリンJ遺伝子によりコードされる。
【0035】
本明細書において使用されるように、「相補性決定領域(CDR)」とは、軽鎖および重鎖の可変領域により確立された4個の「フレームワーク」領域に介在する各鎖内の3個の超可変領域のうちの1個をさす。CDRは、抗原のエピトープとの結合を主として担う。各鎖のCDRは、典型的には、N末端から順に番号付けられたCDR1、CDR2、およびCDR3と呼ばれ、典型的には、特定のCDRが位置している鎖によっても同定される。従って、例えば、VH CDR3は、それが見出される抗体の重鎖の可変ドメインに位置しており、VL CDR1は、それが見出される抗体の軽鎖の可変ドメインに由来するCDR1である。
【0036】
異なる軽鎖または重鎖のフレームワーク領域の配列は、種内で比較的保存されている。構成している軽鎖および重鎖のフレームワーク領域の組み合わせである、抗体のフレームワーク領域は、三次元空間においてCDRを位置付け、整列化するよう機能している。従って、V領域内のCDRの位置は、抗体間で比較的保存されている。
【0037】
CDRおよびフレームワーク領域のアミノ酸配列および位置は、当技術分野における様々な周知の定義、例えば、Kabat、Chothia、国際ImMunoGeneTicsデータベース(IMGT)、およびAbMを使用して決定され得る(例えば、Johnson et al.(前記);Chothia & Lesk,1987,Canonical structures for the hypervariable regions of immunoglobulins.J.Mol.Biol.196,901-917;Chothia C.et al.,1989,Conformations of immunoglobulin hypervariable regions.Nature 342,877-883;Chothia C.et al.,1992,structural repertoire of the human VH segments J.Mol.Biol.227,799-817;Al-Lazikani et al.,J.Mol.Biol 1997,273(4)を参照のこと)。抗原結合部位の定義は、Ruiz et al.,IMGT,the international ImMunoGeneTics database.Nucleic Acids Res.,28,219-221(2000);およびLefranc,M.-P.IMGT,the international ImMunoGeneTics database.Nucleic Acids Res.Jan 1 ;29(1):207-9(2001);MacCallum et al,Antibody-antigen interactions:Contact analysis and binding site topography,J.Mol.Biol,262(5),732-745(1996);およびMartin et al,Proc.Natl Acad.Sci.USA,86,9268-9272(1989);Martin,et al,Methods Enzymol.,203,121-153,(1991);Pedersen et al,Immunomethods,1,126,(1992);およびRees et al,In Sternberg M.J.E.(ed.),Protein Structure Prediction.Oxford University Press,Oxford,141-172 1996)にも記載されている。
【0038】
「と特異的に(または有意にまたは選択的に)結合する」という語句は、所定のタンパク質またはペプチドをさす場合、タンパク質およびその他の生物学の不均一な集団の存在下で、タンパク質の存在を決定する結合反応をさす。従って、指定されたイムノアッセイ条件の下で、特定された抗体は、特定のタンパク質(例えば、αvβ5インテグリン、β5、またはそれらの一部分)と結合し、試料中のその他のタンパク質とは有意な量で結合しない。そのような条件の下での、抗体との特異的な結合は、特定のタンパク質に対する特異性について選択される抗体を必要とするかもしれない。例えば、αvβ5インテグリンまたはβ5ポリペプチドに対して産生された抗体は、そのタンパク質と特異的に免疫反応性であり、その他のタンパク質とは免疫反応性でない抗体を入手するため、さらに選択され得る。いくつかの態様において、特異抗体は、タンパク質の多形異型、例えば、関心対象の配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、または99%同一のタンパク質とも結合するであろう。いくつかの態様において、本発明の抗体は、αvβ3またはβ3と有意に結合することなく、αvβ5上またはβ5上のエピトープと特異的に結合するよう選択される。いくつかの態様において、αvβ5特異抗体は、αvβ6、β6、β8、またはαvβ8と有意に結合しない。
【0039】
当業者は、「特異的な」または「有意な」結合が、絶対的な用語ではないことを理解するであろう。例えば、抗体が特定のエピトープと有意に結合しない場合、それは、その抗体が産生されたエピトープと比較して、少なくとも5倍、8倍、10倍、20倍、50倍、80倍、または100倍低下した親和性で結合する。例えば、αvβ5特異抗体は、αvβ5に対する親和性の20%未満、10%未満、5%未満、1%未満、0.5%未満、0.1%未満、0.05%未満、0.01%未満、またはそれ以下の親和性でαvβ3、αvβ6、またはαvβ8と結合する場合、αvβ3、αvβ6、またはαvβ8と有意に結合しない。結合親和性は、当技術分野において公知の技術、例えば、ELISAを使用して決定され得る。親和性は、解離定数(KdまたはKD)として表され得る。比較的高いKdは、より低い親和性を示す。従って、例えば、αvβ5に対するαvβ5特異抗体のKdは、典型的には、別のタンパク質に対するαvβ5特異抗体のKdより少なくとも5倍、8倍、10倍、15倍、20倍、50倍、100倍、500倍、または1000倍低いであろう。当業者は、非特異的結合を示し、相対結合レベルを比較するための対照を設計する方法を理解するであろう。
【0040】
特定のタンパク質と特異的に免疫反応性の抗体を選択するため、多様なイムノアッセイフォーマットが使用され得る。例えば、固相ELISAイムノアッセイ、ウエスタンブロット、または免疫組織化学が、タンパク質と特異的に免疫反応性のモノクローナル抗体を選択するためにルーチンに使用されている。特異的な免疫反応性を決定するために使用され得るイムノアッセイのフォーマットおよび条件の説明については、Harlow and Lane Antibodies,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Publications,NY(1988)を参照のこと。典型的には、特異的なまたは選択的な反応は、バックグラウンドシグナルまたはノイズの少なくとも2倍であり、より典型的には、バックグラウンドの10〜100倍より大きいであろう。
【0041】
結合について「特異的に競合する」薬剤は、抗体のポリペプチドとの特異的な結合を低下させる。当技術分野において公知の競合結合アッセイ(例えば、Harlow and Lane(前記)を参照のこと)のいずれかを使用して、第二の抗体の抗原との結合が、第一の抗体の存在下で、少なくとも30%、一般的には、少なくとも約40%、50%、60%、75%、または少なくとも約90%低下する場合、第一の抗体は、第二の抗体の結合を競合的に阻害すると見なされる。
【0042】
「平衡解離定数」または略して「親和性」(KdまたはKD)という用語は、解離速度定数(kd、時間-1)を結合速度定数(ka、時間-1M-1)により割ったものをさす。平衡解離定数は、当技術分野において公知の任意の方法を使用して測定され得る。高い親和性を有する抗体は、37℃で実施された表面プラズモン共鳴分析により決定される、約10nM未満の一価親和性を有し、約500pMまたは約50pM未満の一価親和性を有することが多い。いくつかの態様において、本発明の抗体は、500pM未満、典型的には、約100pM未満、またはさらには25pM未満の(表面プラズモン共鳴を使用して測定される)親和性を有する。
【0043】
「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」という用語は、アミノ酸残基のポリマーをさすため、本明細書において交換可能に使用される。それらの用語は、天然に存在するアミノ酸ポリマーおよび天然には存在しないアミノ酸ポリマーのみならず、1個または複数個のアミノ酸残基が、対応する天然に存在するアミノ酸の人工的な化学的模倣体であるアミノ酸ポリマーにも当てはまる。本明細書において使用されるように、それらの用語には、アミノ酸残基が共有結合性のペプチド結合により連結されている、全長タンパク質(即ち、抗原)を含む、任意の長さのアミノ酸鎖が包含される。
【0044】
「アミノ酸」という用語は、天然に存在するアミノ酸および合成アミノ酸、ならびに天然に存在するアミノ酸に類似した様式で機能するアミノ酸類似体およびアミノ酸模倣体をさす。天然に存在するアミノ酸とは、遺伝暗号によりコードされたもの、ならびに後に修飾されたそれらのアミノ酸、例えば、ヒドロキシプロリン、γ-カルボキシグルタミン酸、およびO-ホスホセリンである。アミノ酸類似体とは、天然に存在するアミノ酸と同一の基本化学構造、即ち、水素に結合したα炭素、カルボキシル基、アミノ基、およびR基を有する化合物、例えば、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウムをさす。そのような類似体は、修飾されたR基(例えば、ノルロイシン)または修飾されたペプチド骨格を有するが、天然に存在するアミノ酸と同一の基本化学構造を保持している。「アミノ酸模倣体」とは、アミノ酸の一般化学構造とは異なる構造を有するが、天然に存在するアミノ酸に類似した様式で機能する化学的化合物をさす。
【0045】
アミノ酸は、本明細書において、一般的に公知の3文字記号またはIUPAC-IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより推奨された1文字記号のいずれかにより言及され得る。ヌクレオチドも、同様に、一般的に認められている1文字コードにより言及され得る。
【0046】
「ペプチドミメティック」および「模倣体」という用語は、本発明のαvβ5アンタゴニストの実質的に同一の構造的特徴および機能的特徴を有する合成化学的化合物をさす。ペプチド類似体は、鋳型ペプチドのものと類似した特性を有する非ペプチド薬物として製薬産業において一般的に使用されている。非ペプチド化合物のこれらの型は、「ペプチド模倣体」または「ペプチドミメティック」と名付けられている(例えば、Fauchere,J.Adv.Drug Res.15:29(1986);Veber and Freidinger TINS p.392(1985);およびEvans et al.J.Med.Chem.30:1229(1987)を参照のこと)。治療的に有用なペプチドに構造的に類似しているペプチド模倣体は、同等のまたは増強された治療的または予防的な効果を生ずるために使用され得る。一般に、ペプチドミメティックは、天然に存在するαvβ5リガンドのようなパラダイムポリペプチド(即ち、生物学的または薬理学的な活性を有するポリペプチド)に構造的に類似しているが、例えば、-CH2NH-、-CH2S-、-CH2-CH2-、-CH=CH-(シスおよびトランス)、-COCH2-、-CH(OH)CH2-、および-CH2SO-からなる群より選択される結合に任意で置換された1個または複数個のペプチド結合を有する。模倣体は、アミノ酸の非天然合成類似体から完全に構成されていてもよいし、または、一部、天然のペプチドアミノ酸、一部、非天然のアミノ酸類似体のキメラ分子であってもよい。そのような置換が模倣体の構造および/または活性を実質的に改変しない限り、模倣体には、任意の量の天然のアミノ酸の保存的置換が組み入れられていてもよい。
【0047】
本明細書において使用されるように、「核酸」および「ポリヌクレオチド」という用語は、交換可能に使用される。「ポリヌクレオチド」という用語の使用には、オリゴヌクレオチド(即ち、短いポリヌクレオチド)が含まれる。この用語は、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、および天然に存在する異型もさし、例えば、非限定的に、ホスホロチオエート、ホスホロアミド酸、メチルホスホン酸、キラル-メチルホスホン酸、2-O-メチルリボヌクレオチド、ペプチド核酸(PNA)等のような、合成のかつ/または天然には存在しない(即ち、核酸アナログまたは修飾された骨格残基もしくは結合を含む)核酸もさすことができる。他に示されない限り、特定の核酸配列には、明示的に示された配列のみならず、それらの保存的に修飾された異型(例えば、縮重コドン置換)および相補配列も暗に包含される。具体的には、縮重コドン置換は、1個または複数個の選択された(または全ての)コドンの3番目の位置が、混合塩基および/またはデオキシイノシン残基に置換された配列を生成することにより達成され得る(例えば、Batzer et al.,Nucleic Acid Res.19:5081(1991);Ohtsuka et al.,J.Biol.Chem.260:2605-2608(1985);およびCassol et al.(1992);Rossolini et al.,Mol.Cell.Probes 8:91-98(1994)を参照のこと)。
【0048】
「siRNA」または「RNAi」とは、siRNAが遺伝子または標的遺伝子と同一の細胞において発現された時に遺伝子または標的遺伝子の発現を低下させるかまたは阻害する能力を有する二本鎖RNAを形成する核酸をさす(例えば、Bass,Nature,411,428-429(2001);Elbashir et al.,Nature,411,494-498(2001);WO00/44895;WO01/36646;WO99/32619;WO00/01846;WO01/29058;WO99/07409;およびWO00/44914を参照のこと)。従って、「siRNA」とは、相補鎖により形成された二本鎖RNAをさす。二本鎖分子を形成するためにハイブリダイズするsiRNAの相補的な部分は、典型的には、実質的なまたは完全な同一性を有する。一つの態様において、siRNAとは、標的遺伝子との実質的なまたは完全な同一性を有し、二本鎖siRNAを形成する核酸をさす。siRNAの配列は、全長標的遺伝子に相当してもよいし、またはその部分配列に相当してもよい。典型的には、siRNAは、少なくとも約15〜50ヌクレオチド長である(例えば、二本鎖siRNAの相補配列は各々15〜50ヌクレオチド長であり、二本鎖siRNAは約15〜50塩基対長、好ましくは、約20〜30塩基ヌクレオチド長、好ましくは、約20〜25ヌクレオチド長、例えば、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、または30ヌクレオチド長である)。
【0049】
「サイレンシング」または「ダウンレギュレーション」とは、干渉RNAもしくはその他の核酸配列の非存在下で検出される正常レベルと比較した、標的配列、即ち、RNAiにより標的とされた配列の転写および/もしくは翻訳の検出可能な減少、または標的配列もしくは標的タンパク質の量もしくは活性の減少をさす。検出可能な減少は、5%または10%と小さくてもよいし、または80%、90%、または100%と高くてもよい。より典型的には、検出可能な減少は、20%、30%、40%、50%、60%、または70%からの範囲である。
【0050】
III. αvβ5活性の阻害
本発明は、αvβ5インテグリンとのリガンドの結合を阻害することにより、例えば、セプシスのような、αvβ5インテグリンが関与している疾患を処置するかまたは予防する方法を提供する。αvβ5インテグリンの発現またはαvβ5インテグリンへのリガンドの結合を阻害する任意の方法が、本発明の方法により、αvβ5インテグリンが関与している疾患を処置するために使用され得る。例えば、αvβ5インテグリンと特異的に結合する抗体、β5サブユニットと特異的に結合する抗体、αvβ5インテグリンのリガンド、ならびにそのようなリガンドのペプチド、非ペプチド、およびペプチドミメティック類似体が、αvβ5インテグリンとの結合を阻害し、従って、αvβ5が関与している疾患を処置するかまたは予防するために使用され得る。さらに、β5の発現を阻害するポリヌクレオチド(例えば、siRNA分子、アンチセンス配列等)が、セプシスのような、αvβ5インテグリンが関与している疾患を処置するかまたは予防するために使用され得る。
【0051】
インテグリンサブユニットは複雑な結合性を有し、異なる二量体パートナーとも結合するし、異なるリガンドとも結合する。異なる二量体対は、リガンドおよび組織の異なるセットと結合することができるが、それらのセットはオーバーラップしていることが多い。例えば、αvサブユニットは、いくつかのβインテグリンサブユニット、例えば、β1、β3、β5、β6、およびβ8と対形成することができる。αvβ5インテグリンは、変動する親和性で、例えば、βIg-h3、ビトロネクチン、オステオポンチン、CXCL4等と結合する。αvβ1、αvβ3、およびαvβ5インテグリンは、例えば、動静脈奇形および脳の海綿状奇形において、オーバーラップする組織結合パターンを有し得る(Seker et al.(2006)Neurosurgery 58:159-68)。オステオポンチンは、変動する親和性で、α5β1、αvβ3、αvβ5、α9β1、およびαvβ6と結合するリガンドの例である。Sdc-1(シンデカン-1)、ビトロネクチン、およびフィブロネクチンも、複数のインテグリン対と結合する。
【0052】
従って、特定のインテグリン対の間には類似の局在または明らかな結合重複性が存在し得るが、本明細書に例示されるように、違いも明白に存在する。インテグリンは、機能的に交換可能ではなく、従って、特定のインテグリンのモジュレーターは、交換可能な機能を有するとは予想されない。さらに、リガンドの複雑な結合性、および変動する結合親和性のため、特定のリガンドを標的とすることによって、インテグリンとのその相互作用は、予測可能にまたは完全には標的とされない。
【0053】
この点に関して、抗体は、非常に大きな特異性のため、特定のインテグリンを標的とするために特に有用である。抗体は、特定の標的に対して産生され得、標的上の独特の三次元エピトープを認識する(特異的に結合する)。
【0054】
A. αvβ5抗体アンタゴニスト
αvβ5インテグリンまたはαvβ5インテグリンのβ5サブユニットと特異的に結合する抗体は、セプシスを処置するかまたは予防するために使用され得る。抗体は、他のリガンドと、αvβ5インテグリンまたはαvβ5インテグリンのβ5サブユニットとの結合について競合することもできる。適当な抗体には、モノクローナル抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、および抗体断片(即ち、Fv、Fab、(Fab')2、またはscFv)が含まれるが、これらに限定されない。いくつかの態様において、本発明の抗体は、他のインテグリン、例えば、αvβ3、αvβ6、またはαvβ8とは結合しない。いくつかの態様において、本発明の抗体には、ALULA、およびαvβ5結合についてALULAと競合する抗体、ならびにそれらのキメラ型および断片型が含まれる。
【0055】
本明細書において証明されるように、インテグリンαvβ3およびαvβ5は、セプシス反応において反対の作用を有する。αvβ5に特異的な抗体は、二つの異なるマウスセプシスモデルにおいて生存を効果的に延長し、αvβ3に対する抗体は生存を実際に低下させる。同様に、β5欠損マウスは、より軽度のセプシス反応(例えば、血管透過性および血管外漏出の低下)により、より良好に生存し、β3欠損マウスは、より重度のセプシス反応(例えば、血管透過性および血管外漏出の増加)を示した。
【0056】
セプシスの処置のため、本発明は、αvβ3とは有意に結合せず、αvβ5と特異的に結合する抗体を提供する。いくつかの例において、抗体はβ3、β6、またはβ8インテグリンとは結合しない。結合は、典型的には、種内で比較され、例えば、抗体がヒトαvβ5に特異的である場合、それはヒトのβ3、β6、またはβ8インテグリンと有意に結合しない。いくつかの態様において、抗体は、αvβ3に対する極めて低い親和性を有し、例えば、0.1mM超のKDを有する。抗体は、β5、β5と対形成した時にのみ存在するαvのエピトープ、またはαvおよびβ5の部分を含むエピトープを特異的に標的とすることができる。いくつかの態様において、αvβ5特異抗体は、血管透過性を促進するリガンドとのαvβ5の相互作用を阻害する。
【0057】
αvβ5を特異的に検出し、β3、β6、またはβ8は検出しない抗体は、本明細書に記載された標準的な技術を使用して検出され得る。例示的なアミノ酸配列についてのGenbankアクセッション番号には、マウスおよびヒトのβ3(O54890およびP05106.2)、マウスおよびヒトのβ5(P11688およびP18084)、マウスおよびヒトのβ6(Q9Z0T9およびP18564.2)、ならびにマウスおよびヒトのβ8(P26012およびQOVBDO)が含まれる。その他の種、例えば、非ヒト霊長類、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ等についてのインテグリン配列も、公に入手可能である。
【0058】
αvβ5を特異的に検出し、β3、β6、またはβ8インテグリンは検出しない抗体とは、特定の種からのインテグリンタンパク質の結合をさす。例えば、本発明に係る抗体が、ヒトαvβ5に特異的であって、β3、β6、またはβ8インテグリンサブユニットには特異的でない場合、それはヒトのβ3、β6、またはβ8と有意に結合しない。
【0059】
いくつかの態様において、αvβ5インテグリンと結合する(ATCC(10801 University Blvd.Manassas,VA 20110-2209)に2004年2月13日になされたATCC寄託番号PTA-5817の下で寄託されたハイブリドーマにより産生される)モノクローナル抗体ALULAが、セプシスを含む、αvβ5インテグリンが関与している疾患を処置するかまたは予防するために使用される。いくつかの態様において、ヒト化ALULAもしくはキメラALULA、ALULA抗体断片、またはαvβ5インテグリンもしくはαvβ5インテグリンのβ5サブユニットへの結合についてALULAと競合するモノクローナル抗体が、セプシスを処置するために使用される。αvβ5インテグリンへの結合について競合する抗体は、ALULAのCDR配列またはV領域配列を使用して導出され得る。いくつかの態様において、競合抗体は、ALULAと競合する抗体についてスクリーニングすることにより同定され得る。
【0060】
ALULAはαvβ5インテグリンと結合し、ALULAの哺乳動物対象への投与は、対象においてセプシスの重度を低下させる。いくつかの態様において、ALULAはαvβ5に特異的なマウスIgG2bアイソタイプモノクローナル抗体である。いくつかの態様において、ALULAのαvβ5結合断片、例えば、Fab'領域、またはALULAのCDRを保持しているヒト化Fab'領域、またはαvβ5と結合する類似配列が使用される。ALULAは、β3、β6、またはβ8インテグリンを含むエピトープとは有意に結合しない(Su et al.(2007) Am J Respir Cell Mol Biol 36:377)。ALULAは、当技術分野において一般的な技術を使用して、キメラ化またはヒト化され得る。
【0061】
モノクローナル抗体は、当業者に周知の様々な技術により入手される。簡単に説明すると、所望の抗原により免疫感作された動物からの脾細胞が、一般的には、骨髄腫細胞との融合により、不死化される(例えば、Kohler & Milstein,Eur.J.Immunol.6:511-519(1976)を参照のこと)。不死化の別の方法には、エプスタインバーウイルス、癌遺伝子、もしくはレトロウイルスによる形質転換、または当技術分野において周知のその他の方法が含まれる。単一の不死化された細胞から発生するコロニーが、抗原に対する所望の特異性および親和性を有する抗体の産生についてスクリーニングされ、そのような細胞により産生されるモノクローナル抗体の収量は、脊椎動物宿主の腹腔への注射を含む、様々な技術により増強され得る。あるいは、Huse et al.,Science 246:1275-1281(1989)により概説された一般プロトコルに従って、ヒトB細胞に由来するDNAライブラリーをスクリーニングすることにより、モノクローナル抗体またはそれらの結合断片をコードするDNA配列を単離することも可能である。
【0062】
モノクローナル抗体は、収集され、イムノアッセイ、例えば、固体支持体上に固定化された免疫原による固相イムノアッセイにおいて、免疫原に対して力価決定される。モノクローナル抗体は、一般的に、少なくとも約0.1mM、より一般的には、少なくとも約1μMのKdで結合し、1nM以下のKdで結合するよう設計され得ることが多い。
【0063】
例示的な態様において、ウサギまたはマウスのような動物が、αvβ5ポリペプチド、またはそのようなポリペプチドをコードする核酸構築物により免疫感作される。免疫感作の結果として産生された抗体は、標準的な方法を使用して単離され得る。
【0064】
本発明の免疫グロブリン(それらの結合断片およびその他の誘導体を含む)は、トランスフェクトされた細胞(例えば、骨髄腫細胞もしくはハイブリドーマ細胞のような不死化された真核細胞)、または周知の方法により抗体を産生することができるマウス、ラット、ウサギ、もしくはその他の脊椎動物における発現を含む、多様な組換えDNA技術により、容易に作製され得る。DNA配列の適当な起源細胞ならびに免疫グロブリンの発現および分泌のための宿主細胞は、American Type Culture Collection(Catalogue of Cell Lines and Hybridomas,Fifth edition(1985)Rockville,Md)のような多数の起源から入手され得る。
【0065】
いくつかの態様において、抗体は、ヒト化抗体、即ち、非ヒト抗体の反応性を保持しているが、ヒトにおける免疫原性が比較的低い抗体である。これは、例えば、αvβ5インテグリンに特異的な非ヒトCDR領域を保持し、抗体の残りの部分をヒトカウンターパートに置換することにより達成され得る。例えば、Morrison et al.,PNAS USA,81:6851-6855(1984);Morrison and Oi,Adv.Immunol,44:65-92(1988);Verhoeyen et al.,Science,239:1534-1536(1988);Padlan,Molec.Immun.,28:489-498(1991);Padlan,Molec.Immun.,31(3):169-217(1994)を参照のこと。抗体をヒト化するための技術は、当技術分野において周知であり、例えば、米国特許第4,816,567号;第5,530,101号;第5,859,205号;第5,585,089号;第5,693,761号;第5,693,762号;第5,777,085号;第6,180,370号;第6,210,671号;および第6,329,511号;WO87/02671;EP特許出願第0173494号;Jones et al.(1986)Nature 321:522;ならびにVerhoyen et al.(1988)Science 239:1534に記載されている。ヒト化抗体は、さらに、例えば、Winter and Milstein(1991)Nature 349:293に記載されている。例えば、ヒト化免疫グロブリンフレームワーク領域をコードする第一の配列、および所望の免疫グロブリン相補性決定領域をコードする第二の配列セットを含むポリヌクレオチドが、合成により、または適切なcDNAセグメントおよびゲノムDNAセグメントを組み合わせることにより作製され得る。ヒト定常領域DNA配列は、多様なヒト細胞から周知の手法に従って単離され得る。本発明の免疫グロブリンを作製するためのCDRは、同様に、αvβ5インテグリンと特異的に結合することができるモノクローナル抗体(例えば、ALULA、またはαvβ5インテグリンへの特異的な結合についてALULAと競合する抗体)に由来するであろう。
【0066】
いくつかの場合において、ヒトフレームワークへのCDRの移動は、ヒト化抗体についての特異性の損失をもたらす。これらの場合においては、抗体のヒト部分のフレームワーク領域へ、逆突然変異を導入することができる。逆突然変異を作成する方法は、当技術分野において周知であり、例えば、Co et al.,PNAS USA 88;2269-2273(1991)およびWO90/07861に記載されている。
【0067】
αvβ5特異抗体は、可変領域の全部または大部分が保持されており、定常領域が置換されているようなキメラであってもよい。一例としてALULAを使用すると、αvβ5インテグリン結合活性を保有しているマウス可変領域が、ヒト定常領域、または獣医学的処置において使用するための別の哺乳動物からの定常領域と組み合わせられる。
【0068】
いくつかの態様において、抗体は、Fab、F(ab')2、Fv、またはscFvのような抗体断片である。抗体断片は、化学的消化(例えば、パパインまたはペプシン)および組換え法を含む、当技術分野において公知の任意の手段を使用して生成され得る。組換え核酸を単離し調製する方法は、当業者に公知である(Sambrook et al.,Molecular Cloning.A Laboratory Manual(2d ed.1989);Ausubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology(1995)を参照のこと)。抗体は、大腸菌、その他の細菌宿主、酵母、ならびにCOS、CHO、およびHeLa細胞株のような様々な高等真核細胞、ならびに骨髄腫細胞株を含む、多様な宿主細胞において発現させられ得る。
【0069】
本発明の一つの態様は、αvβ5インテグリンへの特異的な結合についてALULAと競合する抗体を同定する方法を提供する。
【0070】
競合結合アッセイが、αvβ5インテグリンへの特異的な結合についてALULAと競合する抗体を同定するために使用され得る。当技術分野において公知の多数の競合結合アッセイのうちの任意のものが、同一抗原に対する二つの抗体の競合を測定するために使用され得る。簡単に説明すると、異なる抗体の、別の抗体の結合を阻害する能力が、試験される。例えば、抗体は、サンドイッチELISAアッセイを使用して、それらが結合するエピトープにより差別化され得る。これは、ウェルの表面をコーティングするために捕獲抗体を使用することにより実施される。次いで、飽和濃度未満の濃度のタグ付き抗原が、捕獲表面に添加される。このタンパク質は、特異的な抗体:エピトープ相互作用を通して抗体と結合するであろう。洗浄後、検出可能モエティ(例えば、HRP)に共有結合で連結された第二の抗体(標識された抗体は、検出抗体として定義される)が、ELISAに添加される。この抗体は、捕獲抗体と同一のエピトープを認識するのであれば、その特定のエピトープがもはや結合のために利用可能でないため、標的タンパク質と結合することができないであろう。しかしながら、この第二の抗体は、標的タンパク質上の異なるエピトープを認識するのであれば、結合することができ、関連基質を使用して、活性(従って、結合した抗体)のレベルを定量化することにより、この結合が検出され得る。バックグラウンドは、単一の抗体を捕獲抗体および検出抗体の両方として使用することにより定義され、最大シグナルは抗原特異抗体による捕獲、および抗原上のタグに対する抗体による検出により確立され得る。バックグラウンドおよび最大シグナルを参照として使用することにより、抗体は、エピトープ特異性を決定するために対で査定され得る。
【0071】
上記のアッセイのうちの任意のものを使用して、第二の抗体の抗原との結合が、第一の抗体の存在下で、少なくとも30%、一般的に少なくとも約40%、50%、60%、または75%、しばしば、少なくとも約90%低下する場合、第一の抗体は、第二の抗体の結合を競合的に阻害すると見なされる。
【0072】
B. αvβ5インテグリンの発現の阻害
上述のように、本発明は、αvβ5インテグリンとのリガンドの結合の阻止が、セプシスの重度を低下させるという驚くべき発見に基づく。例えば、下記実施例に記載されるように、本発明者らは、β5-/-マウス、およびαvβ5アンタゴニスト抗体により処置されたマウスが、セプシスモデルにおいて、改善された生存を有することを証明した。αvβ3に対する抗体アンタゴニストは、実際、有害であり、敗血症性応答を悪化させた。
【0073】
従って、転写または翻訳のレベルでβ5インテグリン遺伝子の発現に特異的に干渉するヌクレオチド配列が、セプシスを処置するかまたは予防するために使用され得る。このアプローチは、例えば、siRNAによりmRNAの分解を誘導するかまたはアンチセンス核酸によりmRNAを遮蔽することにより、特定の変異型mRNAの転写または翻訳を阻止するため、siRNAおよび/またはアンチセンスオリゴヌクレオチドを利用することができる。いくつかの態様において、siRNAまたはアンチセンス構築物は、β3サブユニットの発現を有意に阻止しない。
【0074】
1. siRNA
β5遺伝子に相当する二本鎖siRNAは、β5 mRNA転写物の分解を誘導することにより、αvβ5インテグリンの転写および/または翻訳をサイレンシングし、従って、αvβ5インテグリンの発現を防止することにより、セプシスを処置するかまたは予防するために使用され得る。siRNAは、典型的には、約5〜約100ヌクレオチド長、より典型的には、約10〜約50ヌクレオチド長、最も典型的には、約15〜約30ヌクレオチド長である。siRNA分子およびそれらを生成する方法は、例えば、Bass,2001,Nature,411,428-429;Elbashir et al.,2001,Nature,411,494-498;WO00/44895;WO01/36646;WO99/32619;WO00/01846;WO01/29058;WO99/07409;およびWO00/44914に記載されている。(例えば、ヘアピン二重鎖として)dsRNAまたはsiRNAを転写するDNA分子も、RNAiを提供する。dsRNAを転写するためのDNA分子は、米国特許第6,573,099号、ならびに米国特許出願公開第2002/0160393号および第2003/0027783号、ならびにTuschl and Borkhardt,Molecular Interventions,2:158(2002)に開示されている。例えば、Genbankアクセッション番号:AK054968;BF588784;BE208820;BE207859;またはBE206567に示された核酸配列に特異的にハイブリダイズするdsRNAオリゴヌクレオチドが、本発明の方法において使用され得る。干渉RNAの非存在下で検出される症状と比較した、セプシス症状の重度の減少が、siRNAの効力をモニタリングするために使用され得る。
【0075】
siRNAは、siRNAの注射、吸入、または経口摂取を含む、当技術分野において公知の任意の手段を使用して、対象に送達され得る。siRNAの別の適当な送達系は、例えば、高分子複合体、ナノカプセル、マイクロスフェア、ビーズ、ならびに水中油型エマルション、ミセル、混合型ミセル、およびリポソームを含む、脂質に基づく系のようなコロイド分散系である。本発明の好ましいコロイド系はリポソームである。リポソームとは、インビトロおよびインビボで、送達媒体として有用な人工膜小胞である。リポソーム内の、RNAおよびDNAを含む核酸は、生物学的に活性な型で細胞に送達され得る(Fraley,et al.,Trends Biochem.Sci.,6:77,1981)。リポソームは、当技術分野において公知の任意の手段を使用して、特定の細胞型または組織にターゲティングされ得る。
【0076】
2. アンチセンスオリゴヌクレオチド
β5ポリペプチドをコードする核酸配列に特異的にハイブリダイズするアンチセンスオリゴヌクレオチドも、αvβ5インテグリンの転写および/または翻訳をサイレンシングし、従って、セプシスを処置するかまたは予防するために使用され得る。例えば、Genbankアクセッション番号:BF588784(ヒト);BE208820(ヒト);BE207859(ヒト);BE206567(ヒト);NM_002213(ヒト);BC006541(ヒト);NM_174679(ウシ);AF468059(ウシ);NM_010580(マウス);BC058246(マウス);XM_147237(マウス);AF022111(マウス);AF022110(マウス);AF043257(マウス);AF043256(マウス);およびS58644(ラット)に示された核酸配列に特異的にハイブリダイズするアンチセンスオリゴヌクレオチドが、本発明の方法において使用され得る。アンチセンス核酸の非存在下で検出される症状と比較した、セプシス症状の重度の減少が、アンチセンス核酸の効力をモニタリングするために使用され得る。
【0077】
アンチセンス核酸とは、特定のmRNA分子の少なくとも一部分に相補的なDNA分子またはRNA分子である(例えば、Weintraub,Scientific American,262:40(1990)を参照のこと)。典型的には、合成アンチセンスオリゴヌクレオチドは、一般に、15〜25塩基長である。アンチセンス核酸は、天然に存在するヌクレオチド、または、例えば、ホスホロチオエート、メチルホスホン酸、アノマー糖リン酸、骨格修飾型ヌクレオチドのような修飾型ヌクレオチドを含み得る。
【0078】
細胞内で、アンチセンス核酸は、対応するmRNAにハイブリダイズして、二本鎖分子を形成する。細胞は二本鎖であるmRNAを翻訳しないため、アンチセンス核酸は、mRNAの翻訳に干渉する。約15ヌクレオチドのアンチセンスオリゴマーが好ましいが、それは、それらが、容易に合成され、標的ヌクレオチド変異体産生細胞へ導入された時に、より大きな分子より問題を引き起こす可能性が低いためである。遺伝子のインビトロ翻訳を阻害するためのアンチセンス法の使用は、当技術分野において周知である(Marcus-Sakura,Anal.Biochem.,172:289,(1988))。一般的ではないが、DNAに直接結合するアンチセンス分子も使用され得る。
【0079】
β5インテグリン遺伝子に特異的なアンチセンスポリヌクレオチドの送達は、例えば、ポリヌクレオチドの直接注射、吸入、または摂取を含む、当技術分野において公知の任意の手段を使用して達成され得る。さらに、アンチセンスポリヌクレオチドは、組換え発現ベクター(例えば、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、もしくはレトロウイルスに基づくウイルスベクター)、または本明細書に記載されるようなコロイド分散系(例えば、リポソーム)を使用して送達されてもよい。
【0080】
IV. 付加的なαvβ5アンタゴニストの同定
αvβ5インテグリンの付加的なアンタゴニストは、米国出願第20050226865号に見出され得、または当業者に周知の方法に従って容易に同定され得る。アンタゴニストについてのスクリーニングのための一つの便利な方法は、可能性のあるアンタゴニストの、インテグリンと公知のリガンドとの結合について競合する能力を測定することを含む。例えば、ビトロネクチン、フィブロネクチン、オステオポンチン、テネイシンC、およびアデノウイルスのペントンベースは、αvβ5インテグリンの可能性のあるアンタゴニストを同定するための競合アッセイにおいて使用され得る、αvβ5インテグリンの公知のリガンドである。アミノ酸配列RGDを含むその他のポリペプチドも、競合アッセイにおいて使用され得る。さらに、αvβ5インテグリンと結合するモノクローナル抗体およびそれらの断片が、αvβ5インテグリンの付加的なアンタゴニストについてスクリーニングするために使用され得る。いくつかの態様において、ALULA、およびαvβ5への結合についてALULAと競合する抗体が、αvβ5インテグリンの付加的なアンタゴニストについてスクリーニングするために使用される。
【0081】
競合アッセイは、当技術分野において周知である。典型的には、(例えば、増加する量の、αvβ5インテグリンについての可能性のある競合リガンドの存在下で)αvβ5インテグリンとの結合の差が測定され得るように、αvβ5インテグリンのリガンド、またはαvβ5インテグリンへのリガンドの結合について競合する抗体(例えば、ALULA)が、標識される。リガンドは、天然に存在するリガンドであってもよいし、合成リガンドであってもよい。競合アッセイは、可能性のある競合アンタゴニストの親和性を示す。
【0082】
細胞、例えば、哺乳動物細胞、特に、ヒト細胞におけるαvβ5インテグリンの特定のトポロジーの活性または機能のレベルをモジュレートする薬剤を同定するため、多数の異なるスクリーニングプロトコルが利用され得る。一般に、スクリーニング法は、例えば、αvβ5インテグリンとの結合による、またはαvβ5インテグリンに特異的な抗体(例えば、ALULA)もしくはリガンド(例えば、ビトロネクチン、フィブロネクチン、オステオポンチン、テネイシンC、アデノウイルスのペントンベース)のαvβ5インテグリンとの結合の防止による、αvβ5と相互作用する薬剤を同定するための複数の薬剤のスクリーニングを含む。
【0083】
αvβ5インテグリンと結合することができる薬剤についてスクリーニングすることにより、予備スクリーニングが実施され得るが、それは、そのように同定された薬剤のうちの少なくともいくつかは、αvβ5インテグリンアンタゴニストである可能性が高いためである。結合アッセイは、一般的に、αvβ5インテグリンを一つまたは複数の試験薬剤と接触させ、αvβ5インテグリンと試験薬剤とが結合複合体を形成するために十分な時間を置くことを含む。形成された結合複合体は、多数の確立されている分析技術のうちの任意のものを使用して検出され得る。タンパク質結合アッセイには、免疫組織化学的結合アッセイ、フローサイトメトリー、またはその他のアッセイが含まれるが、これらに限定されない。そのようなアッセイにおいて利用されるαvβ5インテグリンは、天然に発現されたものであってもよいし、クローニングされてもよいし、または合成されてもよい。
【0084】
本発明のスクリーニング法は、インビトロアッセイまたは細胞に基づくアッセイとして実施され得る。細胞に基づくアッセイは、αvβ5インテグリンが発現される任意の細胞において実施され得る。細胞に基づくアッセイは、薬剤の結合または薬剤によるαvβ5インテグリン活性のモジュレーションについてスクリーニングするためのαvβ5インテグリンを含有している完全細胞または細胞画分を含み得る。当業者は、内在性αvβ5インテグリンを含有していない細胞においてαvβ5インテグリンを発現させてもよいことを認識するであろう。適当な細胞に基づくアッセイは、例えば、DePaola et al.,Annals of Biomedical Engineering 29:1-9(2001)に記載されている。
【0085】
αvβ5インテグリンと相互作用することが一次的に同定された薬剤は、明白な活性をバリデートするために、さらに試験され得る。好ましくは、そのような研究は、下記実施例に記載されるような、適当な細胞に基づくセプシスモデルまたはセプシス動物モデルを用いて実施される。そのような方法の基本的なフォーマットは、一次スクリーニングにおいて同定されたリード化合物を、モデルとして役立つ動物に投与し、次いで、実際に、セプシスが寛解されるか否かを決定することを含む。バリデーション研究において一般に利用される動物モデルは、任意の種類の哺乳動物である。適当な動物の具体例には、霊長類(例えば、チンパンジー、サル等)およびげっ歯類(例えば、マウス、ラット、モルモット、ウサギ等)が含まれるが、これらに限定されない。
【0086】
αvβ5インテグリンの可能性のあるアンタゴニストであると判定された薬剤は、任意の低分子化学的化合物、またはポリペプチド、糖、核酸、もしくは脂質のような生物学的実体であり得る。あるいは、モジュレーターは、αvβ5インテグリンまたはαvβ5インテグリンリガンドの遺伝学的に改変されたバージョンであり得る。本質的に任意の化学的化合物が、本発明のアッセイにおいて可能性のあるモジュレーターまたはリガンドとして使用され得るが、水性溶液または有機(特に、DMSOに基づく)溶液に溶解し得る化合物が使用されることが最も多い。アッセイは、アッセイ工程を自動化し、任意の便利な起源からの化合物をアッセイに提供することにより、大きなケミカルライブラリーをスクリーニングするために設計され、典型的には、平行に(例えば、ロボットアッセイでマイクロタイタープレート上のマイクロタイターフォーマットで)実行される。
【0087】
一つの態様において、ハイスループットスクリーニング法は、多数の可能性のある治療用化合物(可能性のあるモジュレーターまたはリガンド化合物)を含有しているコンビナトリアルケミカルライブラリーまたはペプチドライブラリーを準備することを含む。次いで、所望の特徴的な活性を示すライブラリーメンバー(特定の化学種またはサブクラス)を同定するため、本明細書に記載されるような一つまたは複数のアッセイにおいて、そのような「コンビナトリアルケミカルライブラリー」または「リガンドライブラリー」がスクリーニングされる。そのようにして同定された化合物は、従来の「リード化合物」として役立つこともできるし、またはそれ自体、可能性のある治療薬もしくは実際の治療薬として使用されてもよい。
【0088】
コンビナトリアルケミカルライブラリーは、試薬のような多数の化学的な「ビルディングブロック」を組み合わせることにより、化学合成または生物学的合成のいずれかにより生成された、多様な化学的化合物の集合である。例えば、ポリペプチドライブラリーのような直鎖状コンビナトリアルケミカルライブラリーは、所定の化合物長(即ち、ポリペプチド化合物内のアミノ酸の数)についてのあらゆる可能な方式で、化学的ビルディングブロック(アミノ酸)のセットを組み合わせることにより形成される。化学的ビルディングブロックのそのようなコンビナトリアル混合を通して、数百万種の化学的化合物が合成され得る。
【0089】
コンビナトリアルケミカルライブラリーの調製およびスクリーニングは、当業者に周知である。そのようなコンビナトリアルケミカルライブラリーには、ペプチドライブラリー(例えば、米国特許第5,010,175号、Furka,Int.J.Pept.Prot.Res.37:487-493(1991)、およびHoughton et al.,Nature 354:84-88(1991)を参照のこと)が含まれるが、これに限定されない。化学的多様性ライブラリーを生成するためのその他の化学も使用され得る。そのような化学には、ペプトイド(例えば、PCT公開番号WO91/19735)、コードされたペプチド(例えば、PCT公開WO93/20242)、ランダムバイオオリゴマー(例えば、PCT公開番号WO92/00091)、ベンゾジアゼピン類(例えば、米国特許第5,288,514号)、ヒダントイン類、ベンゾジアゼピン類、およびジペプチドのようなダイバーソマー(diversomers)(Hobbs et al.,Proc.Nat.Acad.Sci.USA 90:6909-6913(1993))、ビニログ性(vinylogous)ポリペプチド(Hagihara et al.,J.Amer.Chem.Soc.114:6568(1992))、グルコース足場を有する非ペプチド性ペプチドミメティック(Hirschmann et al.,J.Amer.Chem.Soc.114:9217-9218(1992))、低分子化合物ライブラリーの相似有機合成(Chen et al.,J.Amer.Chem.Soc.116:2661(1994))、オリゴカルバメート(Cho et al,Science 261:1303(1993))、および/またはペプチジルホスホネート(Campbell et al.,J.Org.Chem.59:658(1994))、核酸ライブラリー(Ausubel、Berger、およびSambrook(全て前記)を参照のこと)、ペプチド核酸ライブラリー(例えば、米国特許第5,539,083号を参照のこと)、抗体ライブラリー(例えば、Vaughn et al.,Nature Biotechnology,14(3):309-314(1996)およびPCT/US96/10287を参照のこと)、炭水化物ライブラリー(例えば、Liang et al.,Science,274:1520-1522(1996)および米国特許第5,593,853号を参照のこと)、低分子有機分子ライブラリー(例えば、ベンゾジアゼピン類、Baum C&EN,Jan 18,page 33(1993);イソプレノイド類、米国特許第5,569,588号;チアゾリジノン類およびメタチアゾナン類、米国特許第5,549,974号;ピロリジン類、米国特許第5,525,735号および第5,519,134号;モルホリノ化合物、米国特許第5,506,337号;ベンゾジアゼピン類、第5,288,514号等を参照のこと)が含まれるが、これらに限定されない。
【0090】
コンビナトリアルライブラリーの調製のための装置は、市販されている(例えば、ECIS TM(Applied BioPhysics Inc.,Troy,NY)、MPS、390 MPS(Advanced Chem Tech,Louisville KY)、Symphony(Rainin,Woburn,MA)、433A(Applied Biosystems,Foster City,CA)、9050 Plus(Millipore,Bedford,MA)を参照のこと)。さらに、コンビナトリアルライブラリー自体も、多数、市販されている(例えば、ComGenex(Princeton,N.J.)、Tripos,Inc.(St.Louis,MO)、3D Pharmaceuticals(Exton,PA)、Martek Biosciences(Columbia,MD)等を参照のこと)。
【0091】
V. 治療的処置
上述のように、本発明は、αvβ5インテグリンのアンタゴニストを含む組成物も提供する。本発明の組成物は、セプシスを含む、αvβ5インテグリンが関与している疾患を処置するかまたは予防するために提供され得る。
【0092】
一つの態様において、本発明の組成物(例えば、ALULA、ヒト化ALULA、ALULA断片、またはαvβ5への結合についてALULAと競合する抗体を含む組成物)は、セプシスを有するかまたはセプシス発症のリスクを有する対象においてセプシスを処置するかまたは予防するために提供され得る。例えば、感染病原体に曝されたことがある対象は、そのような曝露の後に処置される可能性が高く、セプシスのリスクを有する患者は、予防的にかつ/または治療的に処置され得る。セプシスのリスクを有する患者の例には、急性誤嚥を有する患者、細菌性セプシスの症状を示す患者、血液培養物がグラム陽性菌もしくはグラム陰性菌について陽性である患者、膵炎を有する患者、または出血性ショック患者が含まれる。
【0093】
本発明の組成物は、単回投与されてもよいし、複数回投与されてもよいし、またはある期間(例えば、2、3、4、5、6日、もしくは1〜3週間、またはそれ以上)、定期的に(例えば、毎日)投与されてもよい。
【0094】
本発明の組成物は、例えば、注射(例えば、静脈内、腹腔内、皮下、筋肉内、もしくは皮内)、吸入、経皮適用、直腸投与、または経口投与を含む、当技術分野において公知の任意の経路を使用して、αvβ5の結合を阻止するため、哺乳動物対象に直接投与され得る。
【0095】
本発明の薬学的組成物は、薬学的に許容される担体を含み得る。薬学的に許容される担体は、一部分、投与される特定の組成物によっても、組成物を投与するために使用される特定の方法によっても決定される。従って、本発明の薬学的組成物の多様な適当な製剤が存在する(例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences,17th ed.,1989を参照のこと)。
【0096】
本発明の組成物は、単独で、または他の適当な成分と組み合わせられて、吸入を介して投与されるエアロゾル製剤にされてもよい(即ち、「噴霧」されてもよい)。エアロゾル製剤は、ジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素等のような、加圧された許容される噴霧剤の中に置かれ得る。
【0097】
投与に適した製剤には、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、および製剤を等張にする溶質を含有していてもよい、水性および非水性の溶液、等張無菌溶液、ならびに懸濁化剤、可溶化剤、濃化剤、安定剤、および保存剤を含んでいてもよい水性および非水性の無菌懸濁物が含まれる。本発明の実務において、組成物は、例えば、経口的に、経鼻的に、局所的に、静脈内に、腹腔内に、またはくも膜下腔内に、投与され得る。化合物の製剤は、アンプルおよびバイアルのような、単位用量または多用量の密封容器で提示され得る。溶液および懸濁物は、以前に記載された種類の無菌の粉末、顆粒、および錠剤から調製され得る。モジュレーターは、調理済みの食物または薬物の一部として投与されてもよい。
【0098】
経口投与に適した製剤には、以下のものが含まれ得る:(a)水、生理食塩水、またはPEG400のような希釈剤に懸濁した、効果的な量のパッケージングされた核酸のような、液体溶液;(b)液体、固形物、顆粒、またはゼラチンとして、予定された量の活性成分を各々含有している、カプセル、サシェ(sachets)、または錠剤;(c)適切な液体による懸濁物;および(d)適当なエマルション。錠剤形は、乳糖、ショ糖、マンニトール、ソルビトール、リン酸カルシウム、コーンスターチ、ジャガイモデンプン、微晶質セルロース、ゼラチン、コロイド状二酸化ケイ素、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、およびその他の賦形剤、着色剤、増量剤、結合剤、希釈剤、緩衝剤、湿潤剤、保存剤、風味剤、色素、崩壊剤、および薬学的に適合性の担体のうちの一つまたは複数を含むことができる。ロゼンジ形は、風味剤、例えば、ショ糖の中に活性成分を含み、トローチは、ゼラチンおよびグリセリンまたはショ糖およびアラビアゴムのような不活性基剤の中に活性成分を含み、エマルション、ゲル等は、活性成分に加えて、当技術分野において公知の担体を含有している。
【0099】
本発明の情況において患者に投与される用量は、対象における有益な応答、例えば、肺毛細管静水圧の低下、肺内の液体の低下、肺内の液体貯留の速度の低下、またはそれらの組み合わせを経時的にもたらすのに十分なものであるべきである。患者のための最適の用量レベルは、利用される特定のモジュレーターの効力、患者の年齢、体重、身体活動、および食事、他の薬物との可能性のある組み合わせ、ならびにセプシスの重度を含む、多様な要因に依るであろう。用量のサイズは、特定の対象における特定の化合物またはベクターの投与に伴う有害な副作用の存在、性質、および程度によっても決定されるであろう。
【0100】
投与されるαvβ5インテグリンのアンタゴニストの効果的な量を決定するため、医師は、循環血漿中のアンタゴニストのレベルおよびアンタゴニストの毒性を評価することができる。一般に、典型的な対象のためのアンタゴニストの用量当量は、約1ng/kg〜10mg/kgである。
【0101】
投与のため、αvβ5インテグリンのアンタゴニストは、アンタゴニストのLD50、ならびに集団の健康および対象の健康全体が受ける様々な濃度のアンタゴニストの副作用により決定される速度で投与され得る。投与は、単回で達成されてもよいし、または数回に分けて用量で達成されてもよい。
【0102】
VI. 組み合わせ治療
いくつかの態様において、αvβ5インテグリンのアンタゴニストは、セプシスを処置するかまたは予防するための第二の治療剤と共に投与される。例えば、αvβ5インテグリンのアンタゴニスト(例えば、ALULA、ヒト化ALULA、ALULA断片、またはαvβ5についてALULAと競合する抗体)は、例えば、抗生物質、スタチン、ステロイド、活性化プロテインC、利尿剤、血管収縮薬、または変力薬を含む、セプシスのための標準的な処置のうちの任意のものと共に投与され得る。さらに、αvβ5インテグリンのアンタゴニストは、セプシスに関係している代謝経路を標的とする薬剤と共に投与されてもよい。例えば、αvβ5インテグリンのアンタゴニストは、TGFβ経路阻害剤、活性化プロテインC、GM-CSF、αvβ5インテグリンまたはβ5と特異的に結合する抗体、αvβ5インテグリンの第二のアンタゴニスト、αvβ6インテグリンと特異的に結合する抗体、αvβ6インテグリンのアンタゴニスト、トロンビン受容体アンタゴニスト、抗トロンビン剤、rhoキナーゼ阻害剤、ならびに、例えば、本明細書に記載されたアンチセンスオリゴヌクレオチドおよびsiRNAを含む、αvβ5インテグリンの発現を阻害する核酸と共に投与され得る。
【0103】
スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害剤)には、例えば、シンバスタチンまたはアトルバスタチンが含まれる。抗生物質治療は、一般的であり、特定の感染を特異的に標的とするために医療従事者により最適に選択され得る。例示的な抗生物質には、例えば、ペニシリン、エリスロマイシン、環式リポペプチド(ダプトマイシン)、グリシルサイクリン類(チゲサイクリン)、およびオキサゾリジノン類(リネゾリド)が含まれる。
【0104】
適当なTGFβ経路阻害剤には、例えば、Ling et al.,J.Amer.Soc.Nephrol.14:377-388(2003)、McCormick et al.,J.Immunol.163:5693-5699(1999)、およびCordeiro,Curr.Opin.Mol.Ther.5(2):199-203(2003)に記載されたようなTGF-β抗体(TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3を特異的に阻止するもの、またはそれらの任意の組み合わせを含む);例えば、DaCosta Bayfield,Mol.Pharmacol.65(3):744-52(2004)、Laping,Curr.Opin.Pharmacol.3(2):204-8(2003)、Laping,Mol.Pharmacol.62(1):58-64(2002)に記載されたようなII型TGF-β受容体阻害剤またはI型TGF-β受容体キナーゼ阻害剤;例えば、Pittet,J.Clin.Invest.107:1537-1544(2001);Wang et al.,Exp Lung Res.28(6):405-17(2002)、およびWang,Thorax 54(9):805-12(1999)に記載されたような可溶性II型TGF-β受容体;例えば、Zhang,J.Invest.Dermatol.121(4):713-9(2003)に記載されたような可溶性潜伏関連ペプチド;例えば、Crawford et al.,Cell 93:1159-1170(1998)、Riberiro et al.,J.Biol.Chem.274:13586-13593(1999)、およびSchultz-Cherry et al.,J.Biol.Chem.269:26775-26782(1994)に記載されたようなトロンボスポンジンI阻害剤が、例えば、含まれる。適当なβ-2アゴニストには、例えば、アルブテロール、ビトルテロール、ホルモテロール、イソプロテレノール、レバルブテロール(levalbuterol)、メタプロテレノール、ピルブテロール、サルメテロール、およびテルブタリンが含まれる。
【0105】
さらに、αvβ5インテグリンのアンタゴニストは、米国特許公開第20020004042号に記載されたようなβ2アドレナリン作用性受容体、ならびに、例えば、公開された米国特許出願第2000/40019206号、第2004/0019037号、第2004/0019035号、第2004/0018192号、第2004/0010023号、第2003/0181440号、第2003/0171271号、第2003/0139398号、第2002/0037889号、第2002/0077321号、および第2002/0072500号に記載されたようなαvβ5インテグリンの低分子阻害剤と組み合わせて投与され得る。
【0106】
αvβ5インテグリンのアンタゴニスト(例えば、ALULA、ヒト化ALULA、キメラALULA、ALULA断片、またはαvβ5結合についてALULAと競合する抗体)および第二の治療剤は、同時にまたは連続的に投与され得る。例えば、αvβ5インテグリンのアンタゴニストがまず投与され、続いて、第二の治療剤が投与されてもよい。あるいは、第二の治療剤がまず投与され、続いて、αvβ5インテグリンのアンタゴニストが投与されてもよい。いくつかの場合において、αvβ5インテグリンのアンタゴニストおよび第二の治療剤は、同一の製剤で投与される。その他の場合において、αvβ5インテグリンのアンタゴニストおよび第二の治療剤は、異なる製剤で投与される。αvβ5インテグリンのアンタゴニストおよび第二の治療剤が異なる製剤で投与される場合、それらの投与は、同時であってもよいし、または連続的であってもよい。
【0107】
投与のため、αvβ5インテグリンのアンタゴニストおよび第二の治療剤は、アンタゴニストおよび第二の治療剤の組み合わせLD50、ならびに集団の健康および対象の健康全体が受ける様々な濃度のアンタゴニストおよび第二の治療剤の副作用により決定される速度で投与され得る。いくつかの場合において、αvβ5インテグリンのアンタゴニストおよび第二の治療剤は、各々、治療的な用量未満の用量または治療的な用量で投与される。
【実施例】
【0108】
実施例1:材料および方法
試薬および抗体:LPS(List Pharmaceuticals)、VEGFおよびTGF-β(R & D Systems)、トロンビン(Amersham Biosciences)。マウス抗ヒトαvβ3抗体(クローンLM609)(Chemicon)およびマウスIgG1アイソタイプ対照(Upstate)。マウス抗マウス/ヒトαvβ5抗体(ALULA)、Amha Atakilitの厚意(Su et al.2007 Am J Respir Cell Mol Biol 36:377)およびC7(抗ウシLDL受容体IgG2bアイソタイプ対照(ATCC)。125I標識ウシ血清アルブミン(BSA)(Jeanatope ISO-TEX Diagnostics)、14C-BSA)(Perkin-Elmer)。スフィンゴシン1-リン酸(S1P)(Sigma)。
【0109】
細胞培養:ヒト肺動脈内皮細胞(HPAEC)およびヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)は、EGM-2(商標)培地(Clonetics,Lonza)において製造業者のプロトコルに従って培養され維持された。
【0110】
経内皮アルブミン流出のアッセイ:細胞を、1ウェル当たり75,000個で、6.5mmのコラーゲンによりコーティングされたPFTE膜Costarトランズウェル(Fisher Scientific)に播種し、コンフルエンスになるまで培養した。細胞を、本文に記載されるような抗体および試薬と共にインキュベートした。その後、14C-BSA(0.005μCi)(Perkin-Elmer)を各上方コンパートメントに37℃で1時間アプライし、その後、下方コンパートメントからの内容物を収集し、LS 6500 Multi-Purpose Scintillation Counter(Beckman)により測定した。ベースラインにおけるトレーサーの>97%を保持している単層のみを研究した。
【0111】
アクチン細胞骨格染色:細胞を、4日間、コンフルエンスになるまで、コラーゲンによりコーティングされたカバーガラス上で培養した。細胞は血清枯渇細胞(12h)であり、本文に記載されるような抗体および試薬により前処理された。次いで、細胞を10分間3.7%パラホルムアルデヒドにより固定し、0.5%トリトンX-100により透過性化し、次いで、ローダミンファロイジン(Molecular Probes)により染色し、マウントし、落射蛍光について装備されたLeica DM5000B顕微鏡を使用して画像化した。
【0112】
β3サブユニットノックアウトマウス、β5サブユニットノックアウトマウス、およびWTマウス:129/sv背景のβ3サブユニットノックアウトマウスおよびβ5サブユニットノックアウトマウス、ならびにWTマウスは、当研究室で交配され、維持された。全ての実験を、体重20g(+/- 2g)の年齢および体重をマッチさせた雌マウスを用いて実施した。
【0113】
腹腔内(i.p.)LPSセプシスモデル:水で1mg/mlに希釈したLPS(List Pharmaceuticals)を、10mg/kgまたは13mg/kgの用量でi.p.注射した。
【0114】
臓器血管外透過性アッセイ:それぞれの敗血症性傷害の適用の後の予定された時点(i.p.LPSについてはおよそ36時間)で、0.5μCiの125I-BSAを後眼窩に注射し、2時間循環させた。2時間後、マウスを安楽死させ、125Iのカウント毎分(CPM)の個々の査定のため、臓器を採集した(Wizard(登録商標)γカウンター、PerkinElmer)。採集された臓器には、小腸/腸間膜、結腸が含まれた。肺血管透過性は、本発明者らの以前の方法(Su et al.2007 Am J Respir Cell Mol Biol 36:377)に記載されたような血管外血漿当量(extravascular plasma equivalents)(EVPE)を測定するための方法を使用して、同時に査定されるであろう。
【0115】
腸間膜血漿漏出のFITC-BSAによる位置決定:マウスを安楽死させる2時間前に、FITC標識BSA(90S Sigma FD70S、25mg/mlストック)を後眼窩に注射(100mg/kg)することにより、内皮漏出の部位を顕微鏡で同定した。腸間膜および小腸を血管系を破壊しないように一塊として注意して採集した。腸間膜ホールマウントを調製し、4%パラホルムアルデヒドおよびPBS 0.3%トリトンにより固定した(Baluk et al.(1999) Br J Pharmacol 126:522)。Leica DM5000B顕微鏡を使用して、局所的なFITC血管外漏出の区域として、漏出の部位を同定した。
【0116】
骨髄再生:6〜8週齢のドナーマウス(β3ノックアウト系統または野生型系統のいずれか)を、イソフルラン過剰投与および頚部脱臼により安楽死させた。骨髄細胞を四肢長骨の遠端から採集し、IMDM 20%ウシ胎仔血清培地に懸濁させた。照射された(1,100RAD、およそ8分)マウスへ、1〜3×106細胞/レシピエントを尾静脈により注射した。
【0117】
照射されたマウスを、手法後6週間、ネオマイシン/ポリマイシン(polymycin)水により処理した。骨髄生着を、血小板上のβ3発現についてのフローサイトメトリーにより決定した。
【0118】
マウス血小板の単離およびβ3発現の査定:下大静脈穿刺によりマウスから血液を収集し、ACD(Sigma)を含むWalsh緩衝液(NaCl 137nM、KCl 2.7nM、MgCl2.6H2O 1.0mM、NaH2PO4.H2O 3.3mM、HEPES 3.8mM、グルコース0.1%、BSA 0.1%、pH7.4)を含有しているチューブに添加した。10単位のアピラーゼ+0.75ulのPGE1を添加し、懸濁させた後、遠心分離(5分間200g)を行った。血漿リッチな血漿を除去し、2.0μlアピラーゼおよび0.75ul PGE1を添加した後、遠心分離(5分間700g)を行った。次いで、ペレット化された血小板を、β3抗体(eBioscience抗マウスCD61クローン2C9.G3、16-0611-81)と共にインキュベートし、抗ハムスターPE二次抗体(Jackson Labs)により標識し、フローサイトメトリー(FACSort,Beckton Dickinson)により処理した。
【0119】
ヘマトクリット測定:下大静脈穿刺を介して血液を入手し、ミクロヘマトクリットキャピラリーチューブへ吸引し、微量遠心機(Unico C MH30)においてスピンした。
【0120】
実施例2:ヒト肺動脈内皮細胞(HPAEC)におけるアゴニストにより誘導される透過性は、αvβ5の抗体による阻害により減弱し、αvβ3の抗体による阻害により増強される。
HPAECを、インテグリンαvβ5およびαvβ3に特異的な機能阻止抗体により処理し、水腫形成性アゴニストにより誘導される透過性に対する効果を観察した。トランズウェルで培養されたコンフルエント単層を横切るC14-BSA流出を測定することにより、内皮透過性を決定した。αvβ5を阻害する抗体は、VEGF、TGF-β、およびトロンビンに対する透過性増加応答を減弱させた。対照的に、αvβ3を阻害する抗体は、これらのアゴニストの各々に対する透過性応答を増強した(図1A)。
【0121】
実施例3:αvβ3およびαvβ5は接着斑に共局在する。
アゴニストにより誘導される透過性に対するαvβ5およびαvβ3の阻止の反対の効果を考慮して、本発明者らは、これらの機能的な違いが差別的な細胞分布に関連しているか否かを査定するため、HPAEC内のαvβ5およびαvβ3の位置を免疫細胞化学的に決定した。驚くべきことに、両方のインテグリンが、共通の接着斑部位に概して共局在していた(図1B)。
【0122】
実施例4:αvβ5はトロンビンにより誘導されるストレスファイバー形成を優先的に支持し、αvβ3はS1Pにより誘導される表層アクチン形成を優先的に支持する。
共通の接着斑を占めているにも関わらず、αvβ5およびαvβ3が、観察された機能的な効果と一致する様式で、アクチン組織化の差別的なパターンを支持することができるか否かを本発明者らは試験した。トロンビンは、内皮透過性誘導特性について広範囲に研究されている凝血原セリンプロテアーゼである。トロンビンは、RhoAを活性化し、F-アクチンをストレスファイバーへと組織化する複雑なシグナル伝達経路を開始させるよう、PAR1 Gタンパク質共役型受容体(GPCR)を通してシグナル伝達する。スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)は、膜リン脂質スフィンゴミエリンの分解により産生される脂質である。S1P1受容体の活性化は、PAR1とは対照的に、内皮関門防御応答を誘発する。S1P1活性化は、p110αホスホイノシチド3-キナーゼ(PI3K)依存性の、カベオリンリッチなミクロドメインへのTiam-1の動員、およびRac1の活性化をもたらし、それにより、表層に分布した束、即ち、「表層」アクチンへのアクチンの再組織化を誘導する。
【0123】
本発明者らは、トロンビンおよびS1PのHPAECに対する機能的かつ形態学的に明瞭な効果に対する、αvβ5およびαvβ3の抗体による阻止の効果を調査した。αvβ5阻止は、トロンビンにより処理されたHPAECにおけるストレスファイバー形成を減弱させた。インテグリンαvβ3阻止抗体には効果がなかった(図1C)。対照的に、S1Pにより誘導される表層アクチン形成は、αvβ5抗体により影響を受けなかったが、αvβ3抗体により減弱した(図1D)。
【0124】
実施例5:αvβ3阻止は、トロンビンにより誘導される透過性に対するS1Pによる防御を克服する。
本発明者らは、次に、S1Pにより誘導される関門防御応答に対するαvβ3阻止の効果を研究した。αvβ3またはアイソタイプ対照抗体により前処理し、次いで、S1Pにより処理したHPAECを、増加する用量のトロンビンにより刺激した。αvβ3抗体による前処理は、S1Pに対する関門防御応答を克服し、アイソタイプ対照により前処理された細胞と比較して、トロンビンに対する超透過性応答を引き起こした(図1E)。
【0125】
実施例6:β3ノックアウトマウスは、LPSにより誘導される急性肺障害(ALI)のモデルにおいて、肺水腫形成の増加を有する。
機能阻止αvβ5抗体は、急性肺障害(ALI)の虚血-灌流モデルにおいて、肺水腫形成を減弱させ、αvβ5抗体により処理されたマウスおよびβ5サブユニットノックアウトマウスは、ALIの人工呼吸器により誘導されるモデルにおいて、肺水腫形成から防御される(Su et al.(2007) Am J Respir Cell Mol Biol 36:377)。αvβ3阻止により見られた超透過性内皮応答がALIのモデルにおいて関連するか否かを決定するため、本発明者らは、β3ノックアウトマウス、対、野生型対照において、気管内LPS投与(図2A)および腹腔内(i.p.)LPS投与(図2B)の後、肺血管透過性を測定した。これらのモデルの各々において、本発明者らは、β3ノックアウト群における肺エバンスブルー血管外漏出の有意な増加を見出された。
【0126】
β5欠損の防御効果が、LPSにより誘導されるALIのモデルにも当てはまるか否かを決定するため、本発明者らは、β5ノックアウトマウス、対、野生型マウスにおいて、気管内LPS投与およびi.p.LPS投与の後、肺におけるエバンスブルー血管外漏出を測定した。予備結果は、β5ノックアウトマウスが、LPSにより誘導されるALIのモデルにおいて、肺水腫形成の減少を有することを示す。体重および性別をマッチさせたβ5ノックアウトマウスおよび野生型マウスに、50μg LPSを含む50μl水、対、50μl水媒体対照、または10mg/kg i.p.を投与した。
【0127】
実施例7:β3ノックアウトマウスは、i.p.LPSにより誘導されるセプシスにおいて、野生型対照と比較して、死亡率の増加を有する。
本発明者らは、αvβ3機能の損失が、全身性セプシスのモデルにおいて超透過性内皮応答を増強するか否かを決定することとした。i.p.LPSにより誘導される腹膜セプシスモデルにおいて、本発明者らは、β3ノックアウトマウスが、野生型対照と比較して、死亡率の増加を有することを見出した(図3A)。
【0128】
実施例8:β3ノックアウトマウスは、LPSのi.p.注射の後、腸間膜血管の周囲にFITC-BSAトレーサーの局所的な血管外漏出を有する。
β3欠損におけるLPSにより誘導される死亡率の増加が、全身性血管透過性の増加に関連しているか否かを決定するため、本発明者らは、FITC-BSA血管トレーサーを注射し、2時間後、ホールマウント画像化のため完全な小腸および腸間膜を採集した。FITC蛍光により強調された完全な血管を、顕微鏡検により観察した。本発明者らは、β3ノックアウトマウスが、i.p.LPS投与(10mg/kg)の後、WT対照と比較して、局所的な腸間膜血管トレーサーの血管外漏出の増加を有することを見出した(図3B)。
【0129】
実施例9:β3ノックアウトマウスは、LPSのi.p.注射(10mg/kg)の後、小腸/腸間膜および結腸への125I-BSA血管外漏出の増加を有する。
この超透過性応答を定量化するため、本発明者らは、125I-BSA血管内トレーサーを注射し、2時間後、腸間膜/小腸および結腸を一塊として採集した。臓器全体を全カウント毎分(CPM)について分析し、血清カウントに対してノーマライズした。本発明者らは、WTマウスと比較して、β3ノックアウトマウスにおいて、腸間膜/小腸および結腸の両方に、125I-BSAトレーサーの有意な増加が存在することを見出した(図3C)。
【0130】
実施例10:ヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)におけるアゴニストにより誘導される透過性は、αvβ3の抗体による阻害により増強される。
αvβ3阻止による内皮超透過性応答が、全身の血管に由来する内皮細胞において関連しているか否かを決定するため、本発明者らは、αvβ3阻止抗体によりHUVECを前処理し、水腫形成性アゴニストにより誘導される透過性に対するその効果を研究した。トランズウェルで培養されたコンフルエント単層を横切るC14-BSA流出を測定することにより、内皮透過性を決定した。本発明者らは、HPAECの場合と同様に、αvβ3を阻害する抗体が、HUVECにおいても、VEGF、TGF-β、およびトロンビンに対する透過性増加応答を増強することを見出した(図3D)。
【0131】
実施例11:β3ノックアウトマウスはi.p.LPSの後に血液濃縮を示す。
インテグリンβ3サブユニット(CD61)は、αv(CD51)サブユニットおよびαIIb(CD41)サブユニットの両方と会合する。αIIbβ3は血小板上の主要なインテグリンであり、血小板の活性化、凝集、および機能を調節する。血小板機能異常および可能性のある出血という交絡因子を解明するため、本発明者らは、ヘマトクリットに対するi.p.LPS投与(10mg/kg)の効果を測定した。本発明者らは、β3ノックアウトマウスがヘマトクリットの有意な増加を有することを見出し、このことから、有意な出血を否定する、血管透過性の増加および血漿の血管外漏出についての証拠が提供された(図3E)。
【0132】
実施例12:β5ノックアウトマウスは、i.p.LPSセプシスモデルにおいて、生存率の増加を有する。
αvβ5の阻止および欠損は、アゴニストにより誘導される透過性に対する防御を付与する。本発明者らの当研究は、αvβ5およびαvβ3が血管透過性に対して反対の調節効果を有すること、そしてβ3ノックアウトマウスが、LPSにより誘導されるセプシスにおいて、血管透過性および死亡率の増加を有することを示す。i.p.LPSにより誘導される腹膜セプシスモデルにおいて、本発明者らは、β5ノックアウトマウスが野生型対照と比較して生存率の増加を有することを見出した(図4A)。結果は、αvβ5欠損が血管透過性およびそれに関連したセプシスの有害な効果を低下させたことを証明している。
【0133】
実施例13:β5ノックアウトマウスは、LPSのi.p.注射の後、腸間膜血管の周囲のFITC-BSAトレーサーの局所的な血管外漏出の減少を有する。
β5欠損により関門防御応答が起こるか否かをi.p.LPSにより決定するため、本発明者らは、FITC-BSA血管トレーサーを注射し、2時間後、ホールマウント画像化のため、完全な小腸および腸間膜を採集した。FITC蛍光により強調された完全な血管を、顕微鏡検により観察した。本発明者らは、β5ノックアウトマウスが、i.p.LPS投与(13mg/kg)の後、野生型対照と比較して、局所的な腸間膜血管トレーサーの血管外漏出の減少を有することを見出した(図4B)。
【0134】
実施例14:αvβ5阻止抗体の投与は、i.p.LPSにより誘導されるセプシスにおいて、野生型対照と比較して、死亡までの増加を時間させる。
i.p.LPS(13mg/kg)投与の24時間後、野生型マウスは、セプシス症候群と診断された危篤状態の患者と相似の病的状態となる。この時点で、マウスをαvβ5阻止抗体、対、アイソタイプ対照抗体により処理した。本発明者らは、αvβ5阻止抗体により処理されたマウスが、アイソタイプ対照により処理されたマウスと比較して、死亡までの時間の有意な増加を有することを見出した(図4C)。
【0135】
これらの結果は、αvβ5阻止抗体の投与が実際にセプシスを逆転させるため、著しい。一般的に、敗血症性反応の急性の性質は、緊急の集中的な医学的介入、例えば、人工呼吸、透析、静脈内輸液、および抗生物質を必要とする。
【0136】
実施例15:αvβ5阻止抗体の投与は、セプシスの盲腸結紮穿刺(CLP)モデルにおいて、野生型対照と比較して、死亡までの時間を増加させる。
αvβ5阻止抗体のセプシスを逆転させる能力をさらに調査するため、本発明者らは、盲腸結紮穿刺術を実施し、続いて、ALULA αvβ5抗体および対照(C7)抗体を投与した。CLPは、多微生物性腹膜セプシスを研究するために使用される標準的なげっ歯類モデルである(例えば、Rittirsch et al.(2009) Nat.Protocols 4:31-36を参照のこと)。簡単に説明すると、手術は、盲腸の先端と回盲弁との間の50%の距離での盲腸の結紮、それに続く、23ゲージ針による遠位盲腸の完全穿刺を含んでいる。大便の小さなビーズ(複数の細菌種の内在性の起源)が、穿刺部位を通して表出する。盲腸の穿孔は、細菌性腹膜炎をもたらし、続いて、炎症応答の全身性の活性化およびセプシスをもたらし、最終的には死亡をもたらす。
【0137】
本発明者らは、対照抗体またはαvβ5抗体により処理するため10匹ずつランダム化した20匹のマウスにおいてCLP術を実施した。CLP術を実施し、腹部切開部を閉じた後、後眼窩神経叢注射を通してαvβ5抗体または対照抗体を単回静脈内(iv)投与した。図5に示されるように、死亡率を記録した(時間の単位はhである)。
【0138】
結果は、LPS実施例からのものを確認した。再び、αvβ5阻止抗体の投与は、生存を有意に改善し、マウスの80%が10日を超えて生存した。対照的に、対照抗体により処理されたマウスの40%のみが生存した。従って、細菌感染への曝露の後ですらαvβ5阻止抗体の投与は、セプシスおよび死亡の可能性を低下させるのに十分であった。
【0139】
上記の実施例は、本発明の範囲を限定するためではなく、本発明を例示するために提供されている。本発明のその他の変形は、当業者には容易に明白になり、添付の特許請求の範囲に包含される。本明細書において引用された全ての刊行物、データベース、特許、特許出願、およびアクセッション番号は、参照により全ての目的のためその全体が本明細書に組み入れられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象においてセプシスを処置するかまたは予防する方法であって、該方法が、αvβ5インテグリンに特異的な抗体の治療的な量を該対象に投与する工程を含み、該抗体が、αvβ5インテグリンへのリガンドの結合を特異的に阻害し、かつαvβ3、β3、αvβ6、β6、αvβ8、またはβ8のうちの少なくとも一つと有意に結合しない、方法。
【請求項2】
抗体がαvβ3、β3、αvβ6、β6、αvβ8、またはβ8のいずれとも有意に結合しない、請求項1記載の方法。
【請求項3】
抗体がキメラ抗体またはヒト化抗体である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
リガンドが、ビトロネクチン、フィブロネクチン、オステオポンチン、テネイシンC、およびアデノウイルスのペントンベースからなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
抗体が、αvβ5インテグリンへの特異的な結合について、ATCC寄託番号PTA-5817のハイブリドーマにより産生されるALULA抗体と競合する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
抗体がALULAの相補性決定領域を含む、請求項5記載の方法。
【請求項7】
抗体がヒト化ALULAまたはキメラALULAである、請求項5記載の方法。
【請求項8】
抗体がALULAである、請求項5記載の方法。
【請求項9】
投与が腹腔内または静脈内である、請求項1記載の方法。
【請求項10】
対象がヒトである、請求項1記載の方法。
【請求項11】
対象がセプシスを有する、請求項1記載の方法。
【請求項12】
対象がセプシス発症のリスクを有する、請求項1記載の方法。
【請求項13】
セプシスを処置するかまたは予防するための第二の治療剤を前記対象に投与する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項14】
第二の治療剤が、抗生物質、スタチン、ステロイド、活性化プロテインC、TGFβ経路阻害剤、GM-CSF、利尿剤、αvβ5インテグリンのアンタゴニスト、αvβ5インテグリンと特異的に結合する第二の抗体、αvβ6インテグリンのアンタゴニスト、血管収縮薬、および変力薬からなる群より選択される、請求項13記載の方法。
【請求項15】
対象においてセプシスを処置するかまたは予防する方法であって、αvβ5インテグリンの活性または発現を特異的に阻害するが、αvβ3、β3、αvβ6、β6、αvβ8、またはβ8のうちの少なくとも一つの活性または発現を有意に阻害しない薬剤の治療的な量を投与することにより、対象においてαvβ5インテグリンの活性または発現を阻害する工程を含む、方法。
【請求項16】
前記薬剤が、αvβ5インテグリンアンタゴニスト、αvβ5インテグリンの低分子阻害剤、およびβ5サブユニットの発現を阻害するポリヌクレオチドからなる群より選択される、請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記薬剤が、αvβ5インテグリンに特異的な抗体およびαvβ5インテグリンの低分子阻害剤より選択される、請求項15記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−500269(P2013−500269A)
【公表日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−521872(P2012−521872)
【出願日】平成22年7月26日(2010.7.26)
【国際出願番号】PCT/US2010/043211
【国際公開番号】WO2011/011775
【国際公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(506115514)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア (87)
【Fターム(参考)】