説明

β−グルコシダーゼ産生菌、β−グルコシダーゼ及びその製造方法、セルロース系物質の分解方法、並びにセルロース系物質分解物及び有機酸の製造方法

【課題】酵素活性が高いβ−グルコシダーゼを産生する菌株、セルロース系物質分解物の生産効率に優れるβ−グルコシダーゼ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】ペニシリウム・ピノフィラム(Penicillium pinophilum)Y−02株(受託番号:NITE P−678)又はその変異株を用いて、β−グルコシダーゼを製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素活性が高いβ−グルコシダーゼを産生するβ−グルコシダーゼ産生菌に関する。本発明は、セルロース系物質分解物(特にグルコース)の生産効率、特に酸性条件下での生産効率に優れるβ−グルコシダーゼ及びその製造方法に関する。本発明は、上記β−グルコシダーゼ又はβ−グルコシダーゼ産生菌を用いたセルロース系物質の分解方法、並びにセルロース系物質分解物及び有機酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油代替資源として、糖・デンプンを原料としたバイオエタノール・バイオプラスチックが注目されている。特にバイオエタノールは、石油代替資源の観点と共に、地球温暖化防止対策の観点からも重視されている。アメリカでは代表的な農産物であるサトウキビからのエタノール製造が進められている。しかし、サトウキビ等の農産物は食料資源である。バイオエタノールの原料としてサトウキビ等の農産物を用いることは、食料資源の減少という問題を生じさせる。よって、農産物に代えて、木質系バイオマスを原料とするバイオエタノール・バイオプラスチックの製造が求められている。
【0003】
木質系バイオマスの中心はセルロースである。バイオエタノール・バイオプラスチックの原料として使用するためには、セルロースを加水分解してグルコースとする必要がある。この方法として、セルラーゼを用いる方法が主流となっている。従来、微生物が産生するセルラーゼが利用されている。非特許文献1及び2には、トリコデルマ(Trichoderm)属に属する微生物が生産するセルラーゼは、セルロース分解力が高いことが記載されている。特許文献1には、強酸性条件下でセルロース分解活性を示すトリコデルマ属に属する微生物が記載されている。特許文献2〜4には、セルラーゼ産生菌として、アクレモニウム(Acremonium)属に属する微生物及びフミコラ(Humicola)属に属する微生物が記載されている。
【0004】
バイオプラスチックの原料として用いられている乳酸は、グルコースを用いた乳酸発酵により得ることができる。従来、セルロースをセルラーゼにより加水分解してグルコースを得て、このグルコースを用いた乳酸発酵により、乳酸を得ている。特許文献5には、セルロースを含む培地にセルラーゼを添加することによりセルロースを糖化すると共に、得られたグルコースを用いて乳酸発酵する方法が記載されている。特許文献6には、多糖類を分解して単糖類を生成させる分解酵素をコードするポリヌクレオチドと、有機酸生産に関連する酵素をそれぞれコードする第2のポリヌクレオチドと、を備え、多糖類を炭素源として利用して有機酸を生産する微生物を用いて、乳酸発酵する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−319040号公報
【特許文献2】特開昭55−84098公報
【特許文献3】特開2008−271927号公報
【特許文献4】特開昭59−198974公報
【特許文献5】特開2004−89177号公報
【特許文献6】特開2006−42719号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Applied Microbiol., 16, 419(1968)
【非特許文献2】J.Ferment. Technol., 54, 267(1976)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、トリコデルマ属に属する微生物が生産するセルラーゼは、セルロース分解力が高い反面、グルコース生産効率が低い。そこで、セルロース分解力、特にグルコース生産効率が高いセルラーゼが求められている。また、セルロースをセルラーゼにより加水分解して得られたグルコースを用いて、乳酸発酵により乳酸を得る方法では、生成した乳酸により培地のpHが低下し、セルラーゼ活性が阻害されやすい。よって、低pHでも十分なセルラーゼ活性を有するセルラーゼが求められている。
【0008】
本発明は、酵素活性が高いβ−グルコシダーゼを産生するβ−グルコシダーゼ産生菌を提供することを目的とする。本発明は、セルロース系物質分解物(特にグルコース)の生産効率、特に酸性条件下での生産効率に優れるβ−グルコシダーゼ及びその製造方法を提供することを目的とする。本発明は、上記β−グルコシダーゼ又はβ−グルコシダーゼ産生菌を用いたセルロース系物質の分解方法、並びにセルロース系物質分解物及び有機酸の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下に示す通りである。
〔1〕ペニシリウム・ピノフィラム(Penicillium pinophilum)Y−02株(受託番号:NITE P−678)又はその変異株であるβ−グルコシダーゼ産生菌。
〔2〕上記〔1〕記載のβ−グルコシダーゼ産生菌を培養することにより得られるβ−グルコシダーゼ。
〔3〕上記〔1〕記載のβ−グルコシダーゼ産生菌を培養するβ−グルコシダーゼの製造方法。
〔4〕上記〔1〕記載のβ−グルコシダーゼ産生菌又は上記〔2〕記載のβ−グルコシダーゼを用いて、セルロース系物質を分解するセルロース系物質の分解方法。
〔5〕上記〔1〕記載のβ−グルコシダーゼ産生菌又は上記〔2〕記載のβ−グルコシダーゼを用いて、セルロース系物質を分解し、セルロース系物質分解物を得るセルロース系物質分解物の製造方法。
〔6〕上記培地のpHが2〜6である上記〔5〕記載のセルロース系物質分解物の製造方法。
〔7〕以下の(1)又は(2)の工程を備える有機酸の製造方法。
(1)セルロース系物質を含む培地で、上記〔1〕記載のβ−グルコシダーゼ産生菌及び有機酸産生菌を培養する工程。
(2)上記〔2〕記載のβ−グルコシダーゼ及びセルロース系物質を含む培地で、有機酸産生菌を培養する工程。
〔8〕上記培地のpHが2〜6である上記〔7〕記載の有機酸の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のβ−グルコシダーゼ産生菌は、β−グルコシダーゼ産生能が高い。本発明のβ−グルコシダーゼは、β−グルコシダーゼ活性、特に酸性条件でのβ−グルコシダーゼ活性に優れ、セルロース系物質分解物、特にグルコースの生産効率に優れる。本発明のセルロース系物質の分解方法及びセルロース系物質分解物の製造方法によれば、従来よりも効率的にセルロース系物質を分解し、セルロース系物質分解物を得ることができる。本発明の有機酸の製造方法によれば、従来よりも効率的にセルロース系物質から有機酸を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】Y−02株のITS1領域の塩基配列を示す図である。
【図2】実施例(酵素活性の測定I)のβグルコシダーゼ活性、セロビアーゼ活性、及びアビセラーゼ活性の測定結果を示すグラフである。
【図3】実施例(酵素活性の測定I)のβグルコシダーゼ活性の測定結果(pHを変化させた場合)を示すグラフである。
【図4】実施例(酵素活性の測定I)のβグルコシダーゼ活性の測定結果(温度を変化させた場合)を示すグラフである。
【図5】実施例(酵素活性の測定II)のβグルコシダーゼ活性、アビセラーゼ活性、及びCMCase活性の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(1)β−グルコシダーゼ産生菌
本発明のβ−グルコシダーゼ産生菌(Y−02株)は、ペニシリウム・ピノフィラム(Penicillium pinohpilum)に属する。該菌株は、本発明者が新たに分離した菌株である。Y−02株は、2008年11月19日付で、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東一丁目1番3号 中央6)に寄託された(受託番号:NITE P−678)。Y−02株の菌学的性質については後述する。
【0013】
本発明のβ−グルコシダーゼ産生菌は、自然的又は人為的な変異手段(例えば、ニトロソグアニジン等の化学物質による処理、遺伝子組換え、並びにX線及び紫外線の照射)により、菌学的性質を変異させた変異株でもよい。
【0014】
(2)β−グルコシダーゼ
β−グルコシダーゼ(EC3.2.1.21)は、セロオリゴ糖、セロビオース及びβグルコシドに作用し、非還元末端からグルコースを遊離する酵素である。セロビオースを特によく加水分解するβ−グルコシダーゼは、セロビアーゼと呼ばれる。本発明のβ−グルコシダーゼは、β−グルコシダーゼ活性、特に酸性条件でのβ−グルコシダーゼ活性に優れ、セルロース系物質分解物、特にグルコースの生産効率に優れる。上記酸性条件とは、具体的にはpH0〜7.0未満、好ましくは1〜6、更に好ましくは2〜6、更に好ましくは2〜5である。また、本発明のβ−グルコシダーゼがβ−グルコシダーゼ活性を示す温度範囲には特に限定はない。該温度範囲は通常0〜75℃、好ましくは10〜70℃、更に好ましくは20〜70℃、より好ましくは30〜65℃である。
【0015】
本発明のβ−グルコシダーゼの形態には特に限定はない。該β−グルコシダーゼは、上記β−グルコシダーゼ産生菌を培養して得られる培養上清それ自体でもよい。上記β−グルコシダーゼは、タンパク質精製に用いられる公知の方法により該培養上清から精製した精製物でもよい。上記β−グルコシダーゼは、この精製物を適宜の溶媒に分散又は溶解させた液状物でもよい。上記β−グルコシダーゼは、種々の担体により固定化されていてもよい。固定化の方法及び担体についての詳細は後述の説明が妥当する。
【0016】
(3)β−グルコシダーゼの製造方法
本発明のβ−グルコシダーゼ産生菌を培養する条件及び方法は、本発明のβ−グルコシダーゼを得ることができる限り特に限定はない。通常は、培地上で上記β−グルコシダーゼ産生菌を培養することにより、上記β−グルコシダーゼを製造する。
【0017】
上記培地の内容には限定はない。上記培地は通常は液体培地であるが、低濃度の寒天を加えた半流動培地でもよく、固形培地でもよい。上記培地のpHも特に限定はない。上記培地のpHは酸性条件(pH0〜7.0未満、好ましくは1〜6、更に好ましくは2〜6、更に好ましくは2〜5)とすることができる。上記培地のpHが上記範囲内であると、他の雑菌の混入を抑制することができるので好ましい。
【0018】
上記培地の組成にも特に限定はない。上記培地には、例えば、炭素源、窒素源(有機又は無機窒素源。より具体的には、例えば、硫酸アンモニウム及び塩化アンモニウム等のアンモニウム塩、硝酸カルシウム等の硝酸塩等が挙げられる。)、その他の無機塩類(硫酸マグネシウム、硫酸銅、塩化カルシウム、及びリン酸2水素カリウム等)を含めることができる。上記培地は、ペプトン、酵母エキス及び大豆加水分解物等の天然栄養源を含めることができる。上記培地は、pH緩衝剤(例えば、炭酸カルシウム、リン酸アンモニウム、水酸化ナトリウム)を含んでいてもよい。上記培地としてより具体的には、例えば、炭素源、リン酸水素2アンモニウム、リン酸2水素カリウム、硫酸マグネシウム、酵母エキスを含む培地が挙げられる。該培地は更に上記天然栄養源を含んでいてもよい。
【0019】
上記β−グルコシダーゼ産生菌(又は菌含有液)は、上記培地に直接添加することができる。また、上記β−グルコシダーゼ産生菌として、種々の担体により固定化された菌を用いることができる。担体に固定化された上記β−グルコシダーゼ産生菌を用いると、連続発酵が可能であり、また、上記β−グルコシダーゼ産生菌の投入・回収工程が不要となるので好ましい。上記固定化の方法には特に限定はなく、公知の方法によって固定することができる。該方法として具体的には、例えば、包括法、物理的吸着法、及び共有結合法が挙げられる。
【0020】
上記担体として、従来から微生物及び酵素の固定に用いられている各種の有機・無機材料を用いることができる。上記担体として具体的には、例えば、無機材料(粒状活性炭、破砕活性炭、木炭、ゼオライト、雲母、砂粒、並びにシリカゲル等の多孔質セラミックス等)、樹脂(高分子)材料(光硬化性樹脂、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリアクリルアミド、ポリエステル、ポリプロピレン、寒天、アルギン酸、カラギーナン、セルロース、デキストラン、アガロース、及びイオン交換樹脂等)が挙げられる。上記担体は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
上記培養の条件は、上記β−グルコシダーゼ産生菌を培養して本発明のβ−グルコシダーゼを得ることができる限り特に限定はない。例えば、培養温度は通常20〜40℃、好ましくは25〜35℃である。また、培養時間は通常48時間〜30日、好ましくは1〜25日、更に好ましくは5日〜20日である。上記培養は、通気攪拌等により好気的に行うことが好ましいが、これに限定はされない。
【0022】
本発明では、上記培養により得られた培養液から上記β−グルコシダーゼ産生菌を除去する工程を備えていてもよい。該工程として具体的には、例えば、遠心分離及びろ過等の公知の方法が挙げられる。
【0023】
本発明では、得られたβ−グルコシダーゼを精製する工程を備えていてもよい。該精製方法については特に限定はなく、タンパク質精製に用いられる公知の方法の1つ又は複数の組み合わせが挙げられる。上記精製方法として具体的には、例えば、硫安塩析、有機溶媒(エタノール、メタノール、アセトン等)による沈殿分離、クロマトグラフィー(イオン交換クロマトグラフィー、等電点クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、吸着カラムクロマトグラフィー、基質または抗体などを利用したアフィニティークロマトグラフィー及び逆相カラムクロマトグラフィー等)、並びにろ過処理(精密ろ過、限外ろ過及び逆浸透ろ過等)が挙げられる。
【0024】
(4)セルロース系物質の分解方法及びセルロース系物質分解物の製造方法
上記セルロース系物質は、セルロースの他、セルロースの部分分解物及び他成分と結合したセルロースも含む。また、上記セルロース系物質として、上記セルロース系物質を含む各種素材を用いることができる。該素材は天然由来の素材でもよく、合成品でもよい。上記素材としては、例えば、上記セルロース系物質を含む植物が挙げられる。上記素材として具体的には、例えば、天然繊維品(綿及び麻等)、再生繊維品(レーヨン、キュプラ、アセテート及びリヨセル等)、並びに農産廃棄物(稲わら、籾殻、及び木材チップ等)が挙げられる。
【0025】
上記セルロースは、グルコースがβ−1,4−グルコシド結合により重合した構造を有する高分子である限り、その構造に特に限定はない。上記セルロースの質量平均重合度は通常51以上、好ましくは100以上、更に好ましくは400〜50,000である。上記セルロースは誘導体でもよい。該誘導体として具体的には、カルボキシメチル化(CMC等)、アルデヒド化、又はエステル化された誘導体が挙げられる。上記セルロースは、結晶性セルロース(アビセル及び綿繊維糖)でもよく、非結晶性セルロースでもよい。また、上記セルロースは、植物由来でも、真菌由来でも、細菌由来でもよい。
【0026】
上記セルロース部分分解物は、上記セルロース中のβ−1,4結合のうちの一部が開裂して生成する生成物を意味する。上記セルロース部分分解物として具体的には、例えば、セロビオース及びセロオリゴ糖並びにこれらの誘導体が挙げられる。該セロオリゴ糖は、グルコースがβ−1,4結合により重合した少糖類である。上記セロオリゴ糖の重合度は通常3〜50である。上記セロオリゴ糖として具体的には、例えば、セロペンタオース、セロトリオース、セロヘキサオース及びセロテトラオースが挙げられる。
【0027】
上記他成分と結合したセルロースは、セルロースに他成分が結合した物質である限り、その種類及び構造には特に限定はない。上記他成分は糖(例えば、β−グルコース以外の糖)でもよく、非糖化合物でもよい。上記他成分と結合したセルロースとして具体的には、例えば、ヘミセルロース、ペクチン質及びリグニンの1種又は2種以上と結合したセルロース(植物細胞壁等)及びβ−グルコシドが挙げられる。該β−グルコシドは、グルコースが非糖化合物と結合した配糖体を言う。上記β−グルコシドとして具体的には、例えば、p−ニトロフェニルグルコシド、グリチルリチン酸、ステビオシド、フラボノイド配糖体、アルブチン、及びサポニンが挙げられる。
【0028】
本発明において、「分解」とは、上記セルロース系物質中のβ−1,4結合のうちの一部が開裂することを意味する。上記「分解」によって生成する分解物の種類及び構造には特に限定はない。
【0029】
本発明の製造方法において、上記セルロース系物質分解物は、原料である上記セルロース系物質中のβ−1,4結合のうちの一部が開裂して生成する分解物である限り、その種類及び構造には特に限定はない。上記セルロース系物質分解物として具体的には、糖類及び糖と結合した非糖化合物(アグリコン)が挙げられる。即ち、本発明の製造方法は、糖類の製造方法又はアグリコンの製造方法として利用することができる。
【0030】
上記糖類としては、例えば、グルコース、セロビオース及びセロオリゴ糖並びにこれらの誘導体が挙げられる。該セロオリゴ糖は、グルコースがβ−1,4結合により重合した少糖類である。上記セロオリゴ糖の重合度は通常3〜50である。上記セロオリゴ糖として具体的には、例えば、セロペンタオース、セロトリオース、セロヘキサオース、及びセロテトラオースが挙げられる。本発明のセルラーゼは、上記のように、特にβグルコシダーゼ活性に優れている。よって、上記糖類として好ましくはグルコースが挙げられる。
【0031】
上記β−グルコシダーゼとして、上記β−グルコシダーゼ産生菌を培養して得られる培養上清を用いることができる。
【0032】
上記β−グルコシダーゼ産生菌及び上記β−グルコシダーゼは、上記培地に直接添加することができる。また、上記β−グルコシダーゼ産生菌及び上記β−グルコシダーゼは、種々の担体により固定化されていてもよい。例えば、担体に固定化された上記β−グルコシダーゼ産生菌を用いると、連続発酵が可能であり、また、上記β−グルコシダーゼ産生菌の投入・回収工程が不要となるので好ましい。上記固定化の方法には特に限定はない。上記β−グルコシダーゼ産生菌及び上記β−グルコシダーゼは、公知の方法によって固定することができる。該方法して具体的には、例えば、包括法、物理的吸着法、及び共有結合法が挙げられる。
【0033】
上記担体として、従来から微生物及び酵素の固定に用いられている各種の有機・無機材料を用いることができる。上記担体として具体的には、例えば、無機材料(粒状活性炭、破砕活性炭、木炭、ゼオライト、雲母、砂粒、並びにシリカゲル等の多孔質セラミックス等)、樹脂(高分子)材料(光硬化性樹脂、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリアクリルアミド、ポリエステル、ポリプロピレン、寒天、アルギン酸、カラギーナン、セルロース、デキストラン、アガロース、及びイオン交換樹脂等)が挙げられる。上記担体は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
本発明の具体的態様は、本発明のβ−グルコシダーゼ産生菌又はβ−グルコシダーゼを用いて、セルロース系物質を分解することができる限り、特に限定はない。本発明の具体的態様としては、例えば、適当な媒体中で上記セルロース系物質と上記β−グルコシダーゼとを共存させて、上記β−グルコシダーゼを作用させたり、あるいは上記β−グルコシダーゼ産生菌を上記セルロース系物質存在下で培養することが挙げられる。上記セルロース系物質存在下とは、上記β−グルコシダーゼ産生菌を培養する培地中に、上記セルロース系物質が添加されていることを意味する。
【0035】
上記セルロース系物質と上記β−グルコシダーゼとを共存させて、上記β−グルコシダーゼを作用させる場合、上記媒体の内容及び反応条件には特に限定はない。例えば、適当な緩衝液に上記セルロース系物質及び上記β−グルコシダーゼ(又は上記β−グルコシダーゼ産生菌を培養して得られる培養上清)を添加して反応させることができる。上記媒体のpHも特に限定はない。上記培地のpHは酸性条件(pH0〜7.0未満、好ましくは1〜6、更に好ましくは2〜6、更に好ましくは2〜5)とすることができる。上記培地のpHが上記範囲内であると、他の雑菌の混入を抑制することができるので好ましい。上記反応の温度は通常0〜75℃、好ましくは10〜70℃、更に好ましくは20〜70℃、より好ましくは30〜65℃である。上記反応の時間は通常1〜5時間である。
【0036】
上記β−グルコシダーゼ産生菌を上記セルロース系物質存在下で培養する場合、該培地の内容には限定はない。上記培地は通常は液体培地であるが、低濃度の寒天を加えた半流動培地でもよく、固形培地でもよい。上記培地のpHは、セルロース系物質を分解することができる限り特に限定はない。上記β−グルコシダーゼ産生菌から得られる上記β−グルコシダーゼは、酸性条件下でセルロースを分解する性質を有する。よって、上記培地のpHは、酸性条件(pH0〜7.0未満、好ましくは1〜6、更に好ましくは2〜6、更に好ましくは2〜5)とすることができる。上記培地のpHが上記範囲内であると、他の雑菌の混入を抑制することができるので好ましい。
【0037】
上記培地のpHが「酸性条件」であるとは、少なくとも上記β−グルコシダーゼ産生菌を培養することにより、セルロース系物質を分解する際のpHが酸性条件であればよい。従って、上記培地の調製直後からpHが上記酸性条件である必要はなく、培地に上記β−グルコシダーゼ産生菌又は上記β−グルコシダーゼを添加した後、酸性条件としてもよい。また、上記培養を開始した後、酸性条件としてもよい。
【0038】
上記培養の条件には特に限定はない。上記培養の条件として具体的には、例えば、本発明のβ−グルコシダーゼの製造方法の項で説明した条件が挙げられる。また、培養中、上記セルロース系物質を適宜補充してもよい。
【0039】
本発明では、上記培養により得られた培養液から上記β−グルコシダーゼ産生菌を除去する工程を備えていてもよい。該工程として具体的には、例えば、遠心分離及びろ過等の公知の方法が挙げられる。
【0040】
本発明によれば、基質である上記セルロース系物質が分解されて、上記セルロース系物質分解物(糖類及びアグリコン)が得られる。本発明では、上記セルロース系物質分解物を含む培養物をそのまま他の用途に用いてもよい。また、本発明では、得られた上記セルロース系物質分解物を分離精製してもよい。該分離精製方法については特に限定はなく、公知の分離精製方法(HPLC法及び結晶化法等)が挙げられる。
【0041】
(5)有機酸の製造方法
上記有機酸の種類及び構造には特に限定はない。上記有機酸として具体的には、例えば、乳酸、酢酸、プロピオン酸、クエン酸、フマール酸、リンゴ酸、コハク酸、グルコン酸、α−ケトグルタール酸、イタコン酸及びコウジ酸が挙げられる。上記有機酸は1種単独でもよく、2種以上でもよい。即ち、本発明によれば、1種又は2種以上の有機酸を得ることができる。
【0042】
上記有機酸産生菌は1種のみ用いてもよく、2種以上を用いてもよい。また、上記有機酸生産菌の種類には特に限定はない。上記有機酸産生菌としては例えば、乳酸菌(糖を分解して乳酸を生産する菌の総称)が挙げられる。上記乳酸菌は1種又は2種以上用いることができる。上記乳酸菌として具体的には、例えば、ストレプトコッカス(Streptococcus)属菌、ラクトバチルス(Lactobacillu)属菌(L.delbrueckii、L.acidophilus、L.casei等)、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属、リューコノストック(Leuconostoc)属、ペディオコッカス(Pediococcus)属、ラクトコッカス(Lactococcus)属、及びエンテロコッカス(Enterococcus)属に属する菌の1種又は2種以上が挙げられる。
【0043】
乳酸菌以外の上記有機酸生産菌としては、例えば、ペニシリウム属菌、アセトバクター属、及びグルコノバクター属菌が挙げられる。上記ペニシリウム属菌は主にクエン酸を生産する。上記アセトバクター属菌は主に酢酸を生産する、上記グルコノバクター属菌は主にグルコン酸を生産する。
【0044】
上記セルロース系物質の内容は、本発明のセルロース系物質の分解方法及びセルロース系物質分解物の製造方法での説明が妥当する。
【0045】
本発明の第1の有機酸の製造方法では、セルロース系物質を含む培地で本発明のβ−グルコシダーゼ産生菌と有機酸生産菌とを培養する。「β−グルコシダーゼ産生菌と有機酸生産菌とを培養」とは、最初に上記β−グルコシダーゼ産生菌を培養し、次いで、上記有機酸生産菌を培養する場合の他、上記β−グルコシダーゼ産生菌及び上記有機酸生産菌を共培養する場合も含む。上記共培養とは、培養期間の少なくとも一部において、上記β−グルコシダーゼ産生菌と有機酸生産菌とが、同じ培地中で互いを排除することなく生育(増殖)していることを意味する。
【0046】
本発明において、上記β−グルコシダーゼ産生菌、上記有機酸生産菌及び上記β−グルコシダーゼは、上記培地に直接添加することができる。また、上記β−グルコシダーゼ産生菌、上記有機酸生産菌及び上記β−グルコシダーゼは、種々の担体により固定化されていてもよい。例えば、担体に固定化された菌体を用いると、連続発酵が可能であり、また、菌体の投入・回収工程が不要となるので好ましい。上記固定化の方法及び担体には特に限定はなく、本発明のセルロース系物質の分解方法及びセルロース系物質分解物の製造方法での説明が妥当する。
【0047】
本発明において、上記培地の種類・組成は、目的とする有機酸を得ることができる限り特に限定はない。上記培地は固体培地でもよく、液体培地でもよい。
【0048】
上記培地のpHは、有機酸産生菌を培養して有機酸を得ることができる限り特に限定はない。上記のように、本発明のβ−グルコシダーゼは、酸性条件下でもセルロース分解活性(β−グルコシダーゼ活性)を有する。よって、上記培地のpHは、通常0〜7.0未満、好ましくは1〜6、更に好ましくは1.5〜6、更に好ましくは2〜5、より好ましくは2〜4である。また、上記培地のpHが0〜3.0であれば、雑菌汚染を防ぐことができるので好ましい。尚、上記培地は、培養当初より酸性条件である必要はない。上記培地は、少なくとも有機酸が生じる段階で上記範囲内であればよい。また、上記培地のpHを上記範囲とする方法には特に限定はない。上記培地のpHは、適宜酸性物質を添加して調整してもよい。また、生じる有機酸により上記範囲となる場合も含む。
【0049】
本発明において、上記培養の条件には特に限定はない。上記培養の条件は必要に応じて種々調整することができる。上記培養の条件としては、例えば、本発明のセルロース系物質の分解方法及びセルロース系物質分解物の製造方法での説明が挙げられる。また、培養中、上記セルロース系物質を適宜補充してもよい。
【0050】
本発明では、上記培養により得られた培養液から上記β−グルコシダーゼ産生菌を除去する工程を備えていてもよい。該工程として具体的には、例えば、遠心分離及びろ過等の公知の方法が挙げられる。また、本発明では、得られた有機酸を分離精製する工程を備えていてもよい。該分離精製方法については特に限定はなく、公知の分離精製方法(HPLC法及び結晶化法等)が挙げられる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明について、実施例を挙げて具体的に説明する。尚、本発明は、これらの実施例に何ら制約されない。
【0052】
(1)β−グルコシダーゼ産生菌の単離
リン酸水素2アンモニウム0.3g、リン酸2水素カリウム0.3g、硫酸マグネシウム0.02g、酵母エキス0.001g、及び結晶セルロース1gを水道水に溶解し、希硫酸を用いて pH3に調整した。更に水道水を加えて全量を100mlとし、オートクレーブ滅菌することにより、分離培地を調製した。
【0053】
神奈川県内から採取した土壌数10mgを上記分離培地(100ml)を含む滅菌した500ml三角フラスコに入れ、30℃、120rpmで好気的に2〜3週間培養した。菌が成育し、上記分離培地中のセルロース粒子の明らかな減少が目視により観察され、培養上清中に高いβグルコシダーゼ活性が認められた三角フラスコから培養液を採取した。次いで、常法に従い、ポテトデキストロース寒天培地を用いて30℃で培養して、菌を分離した。
【0054】
分離した菌をそれぞれ上記分離培地(100ml)を含む滅菌した500ml三角フラスコに接種し、30℃、120rpmで好気的に2週間培養した。菌が成育し、上記分離培地中のセルロース粒子の明らかな減少が目視により観察され、培養上清中に高いβグルコシダーゼ活性が認められた三角フラスコから培養液を採取した。次いで、常法に従い、ポテトデキストロース寒天培地を用いて、30℃で菌の純化を実施した。ポテトデキストロース寒天培地上で生育した菌について、顕微鏡により形態観察した。この菌は、気中菌糸から発生した分生子柄の先端にペニシリを有する糸状菌であった。
【0055】
分離した糸状菌を、ツァペックイースト寒天培地及びマルトエキス寒天培地に接種し、25℃で1週間培養後の生育形態を観察した。ツァペックイースト寒天培地上のコロニーは直径30mm、薄い密な菌糸のマットを形成し、表面はビロード状、平坦であった。コロニー色は白〜硫黄色、コロニー裏面の色は白であった。可溶性色素の生産はなかった。分生子はコロニーの全面に着生し、液滴の生成はなかった。
【0056】
一方、マルトエキス寒天培地上のコロニーは40mm、厚く密な菌糸のマットを形成し、表面はビロード状、中央がわずかに盛り上がっていた。コロニー色は黄色で中心部は赤みがかっていた。コロニー裏面の色は黄茶色で中心部は赤みがかっていた。可溶性色素の生産はなかった。分生子はコロニーの全面に着生し、液滴の生成はなかった。また、マルトエキス寒天培地での培養で、分生子柄は気中菌糸から発生した。分生子柄の長さは200〜300μmであった。分生子柄の先端には二輪生のペニシリを単生し、フィアライドはアンプル型であった。分生子の形状は亜球形から長円形で、長さは1.5〜2.5μmであった。分生子はフィアライドの先端に連結して着生し、表面は平滑であった。
【0057】
分離した糸状菌から常法により抽出した核酸を鋳型とし、PCRによりITS1領域(18SrRNAと5.8SrRNA間のスペーサー領域)の塩基配列約250bpを増幅し、ダイデオキシ法によりその塩基配列を決定した(図1)。得られたITS1領域の塩基配列を、検索プログラムBLASTを用いて国際塩基配列データベースにより検索した。その結果、上記ITS1領域の塩基配列は、ペニシリウム・ピノフィラム(Penicillium pinohpilum)のITS1領域の塩基配列とよく一致していた。
【0058】
以上の試験結果を元に、分離した糸状菌の同定を行った。分離した糸状菌の形態学的性質は、Pitt(Pitt、J.I.著 「The genus Penicillium and its telemorphic states,Eupenicillium and Talaromyces」 Academic press. (1979年)に記載されているペニシリウム・ピノフィラムの形態学性質と一致した。また、上記のように、分離した糸状菌のITS1領域の塩基配列は、ペニシリウム・ピノフィラムのITS1領域の塩基配列とよく一致していた。
【0059】
分離した糸状菌と公知のペニシリウム・ピノフィラム(NBRC6345)とを、同じ条件でポテトデキストロース寒天培地上で培養した。その結果、分離した糸状菌では表面が緑色であり、裏面がクリーム色であった。一方、NBRC6345は、表面が白色であり、裏面がオレンジ色であり、両者は外観上明確に区別された。また、後述のように、分離した糸状菌とNBRC6345とでは、培養上清のβ−グルコシダーゼ活性が大きく異なっていた(図5参照)。
【0060】
以上の結果より、分離した糸状菌は、ペニシリウム・ピノフィラムの新菌種であると判断した。本発明者らは、本菌をペニシリウム・ピノフィラムY−02株と命名し、2008年11月19日付で、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託した(受託番号:NITE P−678)。
【0061】
(2)培養上清の採取
希硫酸を用いて、培地((NHHPO:0.3%、KHPO:0.3%、MgSO・7HO:0.02%、酵母エキス:0.1%、ポリペプトン:1%、結晶セルロース:3%、水道水)のpHを3に調整し、酵素生産培地を調製した。この酵素生産培地にY−02株の胞子懸濁液を接種し、30℃、120rpmで2週間振とう培養した。得られた培養物を20000rpmで10分間遠心分離して、培養上清を採取した。
【0062】
(3)酵素活性の測定I
上記(2)で得られた培養上清(以下、単に「培養上清」という。)のβグルコシダーゼ活性及びセロビアーゼ活性を、市販のセルラーゼ(トリコデルマ・リーセイ由来「GC220」、アスペルギルス・ニガー由来「セルラーゼAアマノ3」及びトリコデルマ属由来「バイオヒットLL」)の活性と比較した。各活性値は、1分間に1μmolの糖還元末端又はグルコースを生じさせる能力を1U(ユニット)として示した。その結果を図2〜図4に示す。
【0063】
上記培養上清のタンパク質量は、バイオラッド社製「Quick startプロテインアッセイ」をマニュアルに準拠して使用して測定した。スタンダードとして、同社製「Quick start BSAスタンダードセット」を使用した。
【0064】
(3−A)セロビアーゼ活性の測定
緩衝液にセロビオースを10mg溶解させたセロビオース溶解液及び上記培養液を合わせて1mlになるように、滅菌済み2mlディスポーザブルチューブに分注した。その後、ディスポーザブルチューブを40℃のウォーターバスに浸漬して、糖化反応を行った。反応時間は2時間とした。糖化反応終了後、ディスポーザブルチューブを90〜100℃で5分間保持し、検体中の酵素を失活させた。得られた検体中のグルコース濃度を、臨床検査試薬である「テストワコーCII」を利用して測定し、酵素活性を計算した。
【0065】
(3−B)アビセラーゼ活性測定
滅菌済み2mlディスポーザブルチューブに結晶セルロース10mgを分取した。次いで、使用する緩衝液及び上記培養上清を合わせて1mlになるよう分注した。その後、ディスポーザブルチューブを所定温度のウォーターバスに浸漬して、酵素反応を行った。反応時間は2時間とした。酵素反応終了後、ディスポーザブルチューブを90〜100℃で5分間保持し、検体中の酵素を失活させた。得られた検体中の糖還元末端濃度を、ソモジーネルソン法により測定し、酵素活性を計算した。
【0066】
尚、上記ソモジーネルソン法は、和光純薬社製ソモジー試薬及びネルソン試薬を使用して行った。ソモジー試薬100μL及び上記培養上清100μLを混合し、ふたをした試験管内で沸騰水浴中に10分間保持した。その後、試験管を氷水にて急冷して、ネルソン試薬を100μL添加混合して発色させた。次いで、蒸留水2mLを加え、15分後に660nmの吸光度を測定した。
【0067】
(3−C)βグルコシダーゼ活性測定法(pNPG法)
試験管に、緩衝液0.5〜0.75ml及び20mMp−ニトロフェニルβ−D−グルコピラノシド(pNPG)溶液0.25mlを混合し、所定温度で約5分間予備加温した。次いで、上記培養上清を0.5〜0.001mL添加して(最終容量1mLになるように添加して)、反応を開始した。正確に所定時間反応させた後、0.2MNaCO溶液1mLを添加して発色させ、400nmの吸光度を測定した。ブランク(上記培養上清に代えて蒸留水を使用)との差(ΔOD)から、以下の式より活性を計算した。
酵素活性(U/mL)=ΔOD×0.0295×希釈倍率×(反応時間(分)÷15)
【0068】
尚、上記βグルコシダーゼ活性と反応系のpHとの関係を調べるため、反応系のpHを1〜6まで変化させて同様の測定を行った(図3)。また、上記βグルコシダーゼ活性と反応温度との関係を調べるため、反応温度を40〜80℃まで変化させて同様の測定を行った(図4)
【0069】
(4)酵素活性の測定II
上記(3)と同じ手順で、上記培養上清のβグルコシダーゼ活性、アビセラーゼ活性、及びCMCase活性(セロビオース溶解液の代わりに、緩衝液にカルボキシメチルセルロースを5mg溶解させたCMC溶解液を用いる他は、上記アビセラーゼ活性測定と同様の手順で測定した。)を、公知のペニシリウム・ピノフィラム(NBRC6345)の活性と比較した。その結果を図5に示す。
【0070】
(5)結果
Y−02株の培養上清は、公知のセルラーゼと比べて、低pHで優れたβ−グルコシダーゼ活性を有していた(図2)。また、上記培養上清は、公知のセルラーゼと比べて、低pH領域(pH1〜6)のいずれにおいても、優れたβ−グルコシダーゼ活性を有していた(図3)。更に、上記培養上清は、公知のセルラーゼと比べて、40〜80℃の温度領域のいずれにおいても、優れたβ−グルコシダーゼ活性を有していた(図4)。この結果より、本発明のβ−グルコシダーゼ産生菌が産生したβ−グルコシダーゼは、グルコース生産効率、特に酸性条件下でのグルコース生産効率に優れることが分かる。
【0071】
また、Y−02株の培養上清は、公知のペニシリウム・ピノフィラム(NBRC6345)と比べて、約2倍のβ−グルコシダーゼ活性を示した。一方、アビセラーゼ活性及びCMCase活性は、両者で差異が認められなかった(図5)。この結果より、Y−02株は、公知のペニシリウム・ピノフィラムと比べて、特にβ−グルコシダーゼの産生能に優れていることが分かる。
【0072】
尚、本発明は、上記実施例に限らず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更した実施例とすることができる。
【受託番号】
【0073】
NITE P−678

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペニシリウム・ピノフィラム(Penicillium pinophilum)Y−02株(受託番号:NITE P−678)又はその変異株であるβ−グルコシダーゼ産生菌。
【請求項2】
請求項1記載のβ−グルコシダーゼ産生菌を培養することにより得られるβ−グルコシダーゼ。
【請求項3】
請求項1記載のβ−グルコシダーゼ産生菌を培養するβ−グルコシダーゼの製造方法。
【請求項4】
請求項1記載のβ−グルコシダーゼ産生菌又は請求項2記載のβ−グルコシダーゼを用いて、セルロース系物質を分解するセルロース系物質の分解方法。
【請求項5】
請求項1記載のβ−グルコシダーゼ産生菌又は請求項2記載のβ−グルコシダーゼを用いて、セルロース系物質を分解し、セルロース系物質分解物を得るセルロース系物質分解物の製造方法。
【請求項6】
上記培地のpHが2〜6である請求項5記載のセルロース系物質分解物の製造方法。
【請求項7】
以下の(1)又は(2)の工程を備える有機酸の製造方法。
(1)セルロース系物質を含む培地で、請求項1記載のβ−グルコシダーゼ産生菌及び有機酸産生菌を培養する工程。
(2)請求項2記載のβ−グルコシダーゼ及びセルロース系物質を含む培地で、有機酸産生菌を培養する工程。
【請求項8】
上記培地のpHが2〜6である請求項7記載の有機酸の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−187603(P2010−187603A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−35832(P2009−35832)
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【出願人】(000115083)ユシロ化学工業株式会社 (69)
【Fターム(参考)】