β−1,3−グルカンに対する優先性を有する防御的抗グルカン抗体
【課題】感染に対する、詳細には微生物感染に対する治療的な免疫応答を誘導するためのさらに良好かつより良好なモノクローナル抗体を提供する。
【解決手段】β−1,3−グルカンに結合するモノクローナル抗体、この抗体を生成するハイブリドーマ細胞株、この抗体を含む組成物、ならびに微生物感染の処置、特にCandida albicansおよびAspergillus fumigatis感染に対する処置のためにこのような抗体を用いる方法。該抗体は、β−1,6−グルカンに特異的ではない。
【解決手段】β−1,3−グルカンに結合するモノクローナル抗体、この抗体を生成するハイブリドーマ細胞株、この抗体を含む組成物、ならびに微生物感染の処置、特にCandida albicansおよびAspergillus fumigatis感染に対する処置のためにこのような抗体を用いる方法。該抗体は、β−1,6−グルカンに特異的ではない。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に引用される全ての文書は、その全体が参照によって援用される。
【0002】
(技術分野)
本発明は、詳細には真菌感染および疾患の処置における、モノクローナル抗体および治療におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
真菌感染は、いくつかの臨床設定において、詳細には、免疫無防備状態の患者において蔓延している。抗真菌剤、詳細にはアゾールに対する耐性の出現は、これらの真菌に対する治療的および予防的なワクチン接種において関心が増大している(非特許文献1[参考文献1])。真菌の病原体のうちでCandida albicansは、最も流行性のうちの1つである。この生物体は、ヒトでの広範な日和見感染の重要な因子の1つであり、正常な患者および免疫無防備状態の患者の両方で見出されるカンジダ症を生じる。
【0004】
真菌に対する首尾よい宿主防御にとって細胞免疫が重要である医学的方法論の分野では広範なコンセンサスがある(非特許文献2[参考文献2])が、2つの主要な真菌病原体(C.albicansおよびC.neoformans)に対する防御における体液性免疫の潜在的な有効性が注目を集めている(非特許文献3[参考文献3])。C.neofoemansについては、莢膜のグルクロノオキシロマンナン(glucuronoxylomannan)に対する抗体が、感染の動物モデルにおいて防御を媒介することが示されている。C.albicansにとって、細胞表面のマンノタンパク質は、C.albicansの主要な抗原性成分であり、そして、マンナン、プロテアーゼおよび熱ショックタンパク質に対する抗体は、感染に対する防御に関連している。他のワクチン候補物としては以下が挙げられる:アスパルチルプロテイナーゼ(Sap2)ファミリーのメンバー;65kDaのマンノタンパク質(MP65)(非特許文献4[参考文献4]);ホスホマンナン細胞壁複合体から単離された接着分子(特許文献1、特許文献2[参考文献5]);Candidaのホスホマンナン複合体のマンナン部分由来のエピトープを模倣するペプチド(特許文献3、特許文献4[参考文献6]);および溶血素(ヘモリシン)様タンパク質(特許文献5[参考文献7])。
グルカンは、とりわけ真菌の細胞壁で見出されるグルコース含有ポリサッカライドである。α−グルカンは、グルコースサブユニットの間に一つ以上のα結合を含み、そしてβグルカンは、グルコースサブユニットの間に一つ以上のβ結合を含む。代表的な真菌の細胞壁のなかでは、β−1,3−グルカンミクロフィブリルが織り合わされ、キチンのミクロフィブリルと架橋されて、内部骨格層を形成するが、外層は、β−1,6−グルカンおよびマンノタンパク質から構成されて、キチンおよびβ−1,3−グルカンを介して内層に結合される。
C.albicansでは、細胞壁の50〜70%が、β−1,3−およびβ−1,6−グルカンから構成される。C.alobicansのβ−1,6−グルカンに対する防御的な抗体は、マウスで生成されている(特許文献6[参考文献8])。抗β−1,6−グルカン抗体がマンノタンパク質枯渇C.albicans細胞を用いてイディオタイプのワクチン接種によって惹起されたマウスは、C.albicansによる全身的なチャレンジに対してある程度の防御を有することが示された。さらに、これらの抗β−1,6−グルカン抗体で受動的に免疫されたマウスは、C.albicansに対する防御のレベルの上昇を示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5,578,309号明細書
【特許文献2】国際公開第95/31998号パンフレット
【特許文献3】米国特許第6,309,642号明細書
【特許文献4】国際公開第98/23287号パンフレット
【特許文献5】国際公開第01/51517号パンフレット
【特許文献6】国際公開第03/097091号パンフレット
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Deepe,Clin.Microbiol.Rev.,1997年,第10巻,p.585−596
【非特許文献2】Polonelliら,Med Mycol,2000年,第38巻,補遺1,p.281−292
【非特許文献3】Casadevall,Infect.Immun.,1995年,第63巻,p.4211−4218
【非特許文献4】Cassone,Nippon Ishinkin Gakkai Zasshi,2000年,第41巻,第4号,p.219
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
感染に対する、詳細には微生物感染に対する治療的な免疫応答を誘導するためのさらに良好かつより良好なモノクローナル抗体を提供することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の開示)
β−1,3−グルカンは、多くの微生物の細胞壁成分であるが、天然では免疫原として劣る。従って、抗−β1,3−グルカン抗体は、治療における用途については以前には特に考慮されてはいない。上記で考察したとおり、抗−β−1,6−グルカン抗体は、真菌チャンレンジに対してある程度の防御を提供することが公知である。本発明者らは、抗−β−1,3−グルカン抗体が、抗−β−1,6−グルカン抗体よりも真菌のチャレンジに対して有効性であり得ることを発見している。
【0009】
従って、本発明は、β−1,3−グルカンを検出しかつそれに結合するモノクローナル抗体、この抗体を生成するハイブリドーマ細胞株、および微生物感染、詳細には、Candida albicansまたはAspergillus fumigatis感染に対する処置のためにこのような抗体を用いる方法に関する。本発明の抗体は、β−1,6−グルカンに特異的ではない。
本発明は例えば、以下の項目を提供する:
(項目1)
微生物性病原体による感染に対して哺乳動物を防御し得るモノクローナル抗体であって、該病原体がβ−1,3−グルカンおよびβ−1,6−グルカンを含む細胞壁を有し、該モノクローナル抗体が該β−1,6−グルカンよりも該β−1,3−グルカンに優先的な結合を示す、モノクローナル抗体。
(項目2)
前記抗体が、配列番号4、6、8、10、12および14の1つ以上から選択されるアミノ酸配列を有する1つ以上のCDRを含む、項目1に記載の抗体。
(項目3)
前記抗体が、配列番号1および/または配列番号2の可変ドメイン配列を有する、項目1に記載の抗体。
(項目4)
前記抗体がヒト抗体もしくはヒト化抗体であるか、またはキメラ抗体である、項目1〜3のいずれか1項に記載の抗体
(項目5)
前記抗体が単鎖抗体である、項目1〜3のいずれか1項に記載の抗体。
(項目6)
前記抗体が微生物病原体に対する微生物活性を有する、項目1〜5のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体。
(項目7)
前記微生物病原体が:Candida;Cryptococcus;Enterococcus;Streptococcus;Leishmania;Acanthamoeba種;Aspergillus種;Pneumocystis種;Mycobacterium種;Pseudomonas種;Staphylococcus種;Salmonella種;Coccidioides;Trichophyton;Blastomyces;Histoplasma;Paracoccidioides;PythiumnまたはEscherichiaである、項目6に記載のモノクローナル抗体。
(項目8)
前記微生物がC.albicansである、項目7に記載のモノクローナル抗体。
(項目9)
前記微生物がA.fumigatusである、項目7に記載のモノクローナル抗体。
(項目10)
医薬としての使用のための項目1〜9のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体。
(項目11)
項目1〜9のいずれか1項に記載の抗体を発現するハイブリドーマ。
(項目12)
項目1〜9のいずれか1項に記載の抗体をコードする核酸。
(項目13)
項目12の核酸を含む発現ベクター。
(項目14)
項目12の発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
(項目15)
項目1〜9のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体および薬学的に受容可能なキャリアを含む薬学的組成物。
(項目16)
抗真菌薬をさらに含む、項目15に記載の組成物。
(項目17)
微生物感染に対して患者を防御する方法であって、項目15に記載の薬学的組成物を該患者に投与する工程を包含する、方法。
(項目18)
微生物感染に対する患者の防御のための医薬の製造における、項目1〜9のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体の使用。
(項目19)
前記患者が、ヒト患者、女性患者、妊娠中の患者、免疫無防備状態の患者もしくは免疫抑制された患者であるか、または抗生物質治療もしくは化学療法を受けている患者であるか、全身的な微生物感染を有する患者であるか、静脈内カテーテルを留置している患者であるか、HIV;AIDS;好中球減少;以前の真菌コロニー形成;糖尿病;白血病;リンパ腫:火傷;浸軟;口腔感染を有する患者であるか;以前に血液透析を受けた患者であるかもしくは器官移植を受けている患者である、項目17に記載の方法、あるいは項目18に記載の使用。
(項目20)
アスペルギルス症、クリプトコックス症、皮膚真菌症、スポロトリクス症および他の皮下真菌症、ブラストミセス症、ヒストプラスマ症、コクシジオイデス真菌症、パラコクシジオイドミコーシス、ニューモシスティス症、鵞口瘡、結核、ミコバクテリア症、呼吸器感染、猩紅熱、肺炎、膿痂疹、リウマチ熱、セプシス、敗血症、皮膚および内蔵のリーシュマニア症、角膜アカントアメーバ症、角膜炎、嚢胞性線維症、腸チフス、胃腸炎および溶血性尿毒症症候群に対する防御のための、項目17に記載の方法、または項目18に記載の使用。
(項目21)
カンジダ症に対する防御のための、項目17に記載の方法、または項目18に記載の使用。
【0010】
(本発明の抗体)
本発明は、微生物病原体による感染に対して哺乳動物を防御し得るモノクローナル抗体を提供する。この病原体は、β−1,3−グルカンおよびβ−1,6−グルカンを含む細胞壁を有し、そしてこのモノクローナル抗体は、β−1,6−グルカンよりもβ−1,3−グルカンに優先的な結合を示す。この抗体は好ましくは、殺菌性の活性を有する。本発明はまた、これらのモノクローナル抗体のフラグメント、詳細には、この抗体の抗原結合活性を保持するフラグメントを提供する。
【0011】
β−1,6−グルカンよりもβ−1,3−グルカンに優先的な結合を示す抗体は、もし同じ条件下であれば、β−1,6−グルカンとよりもβ−1,3−グルカンとより強力に結合する(例えば、間接的なELISA試験において光学密度(OD)読み取りとして測定した場合)。示差的な反応性は、例えば、一定の抗体濃度をスカラー濃度の抗原(β−1,3−グルカンおよびβ−1,6−グルカン)とともにインキュベートすることによって決定され得る。等価なOD読み取りを得るためには、アフィニティーの低い抗原ほど高い濃度が必要である(例えば、≧10×、>100×)。
【0012】
あるいは、競合阻害ELISA実験を用いて、異なる結合を決定してもよい。例えば、各々の抗体を細胞壁グリカンと反応させ、そしてβ−1,3−グルカンまたはβ−1,6−グルカンのいずれかを可溶性相の競合因子として添加する。例えば、細胞壁グリカンに対する抗体結合の50%阻害を生じるのに必要な遊離のβ−1,3−グルカンの濃度が、同じ細胞壁グリカンに対する抗体結合の50%阻害を生じるのに必要な遊離のβ−1,6−グルカンの濃度よりも10分の1未満である場合、抗体はβ−1,6−グルカンよりもβ−1,3−グルカンに優先的な結合を示す。
【0013】
C.albicansについては、細胞壁グリカンは好ましくは、「GG−zym」可溶性グルカン抗原である[8]。これらは、(i)精製されたβ−1,3−グルカンおよびβ−1,6−グルカンを得るために真菌細胞壁の熱アルカリ−酸抽出を反復することによりグルカンのゴーストを調製すること、ならびに(ii)このゴーストをβ−1,3−グルカナーゼを用いて37℃で1時間消化することによって、得られる。このグリカンは、阻害試験のために固定され得る。
【0014】
「モノクローナル抗体(monoclonal antibody)」という用語は、利用可能な任意の種々の人工的な抗体および抗体由来タンパク質、例えば、ヒト抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、単一ドメインの抗体、単鎖Fv(scFV)抗体、モノクローナルオリゴ抗体(oligobody)、二量体または三量体の抗体フラグメントもしくは構築物、ミニ抗体(minibody)または該当の抗原に結合するそれらの機能的なフラグメントを包含する。
【0015】
天然の抗体分子では、2つの重鎖および2つの軽鎖がある。各々の重鎖および各々の軽鎖は、そのN末端で可変ドメインを有する。各々の可変ドメインは、3つの相補性決定領域(CDR)が交互に存在する4つのフレームワーク領域(FR)から構成される。可変ドメインにおける残基は、Kabatらによって考案されたシステムに従って適宜番号付けされる[9]。このKabat残基命名は、アミノ酸残基の直線の番号付けと常に直接対応するのではなく、直線的なアミノ酸配列は、厳密なKabat番号付けによりもすくないかまたは追加のアミノ酸を含んでもよい。これは、フレームワークでもCDRでもよいが、基本的な可変ドメイン構造の、構造成分の短縮またはそれへの挿入に相当し得る。
【0016】
本発明の好ましい抗体は2G8(配列番号1および2)である。2G8の重鎖可変ドメイン(配列番号2)は、残基23〜30(CDR−H1、配列番号4)、残基48〜55(CDR−H2、配列番号6)および残基94〜102(CDR−H3、配列番号8)に位置するCDRを含む。2G8の軽鎖可変ドメイン(配列番号1)は、残基27〜37(CDR−L1、配列番号10)、残基55〜58(CDR−L2、配列番号12)および残基94〜102(CDR−L3、配列番号14)に位置するCDRを含む。
【0017】
βグルカンに特異性を有し、かつ2G8由来のCDRの一つ以上(例えば、1、2、3、4、5、または6)を含む抗体も、一つ以上(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15)のフレームワーク残基が他のアミノ酸で置換される2G8の誘導体と同様に好ましい。N末端またはC末端で2G8または誘導体を含む融合タンパク質も有用である。2G8 CDRは、1、2、3または4つのアミノ酸残基を必要に応じて各々が含んでもよい。
【0018】
好ましくは、本発明の抗体の重鎖は、配列番号3、5および7によってコードされる一つ以上(例えば、1、2または3)のCDRを含む。好ましくは、本発明の抗体の軽鎖は、配列番号9、11および13によってコードされるCDRの一つ以上(例えば、1、2、または3)を含む。
【0019】
抗体2G8は、マウス由来である。ヒトにおける非特異的な抗マウス免疫応答を回避するために、本発明の抗体は好ましくはヒト化またはキメラ抗体である[例えば、引用文献10および11]。代替的には、完全ヒト抗体を用いてもよい。
【0020】
キメラ抗体では、非ヒト定常領域をヒト定常領域によって置換するが、可変領域は非ヒトのままである。ヒト化抗体は、例えば以下を含む種々の方法によって達成され得る:(1)非ヒト抗体由来の一つ以上のフレームワーク残基の選択的なさらなる移入(「ヒト化(humanizing)」)を伴う、ヒトフレームワーク上への非ヒト可変領域由来の相補性決定領域(CDR)のグラフティング(grafting)(「CDR−グラフティング」);(2)非ヒト可変ドメイン全体を移植するが、ただし、表面残基の置換によってヒト様表面を用いてそれらを「クローキング、覆い隠すこと(cloaking)」「ベニヤリング(veneering)」。本発明では、ヒト化抗体としては、CDRグラフティング、ヒト化および可変領域のベニヤリングによって得られる抗体が挙げられる[例えば、引用文献12〜18]。
【0021】
ヒト化抗体または完全ヒト抗体はまた、ヒト免疫グロブリン遺伝子座を含むように操作されているトランスジェニック動物を用いて生成されてもよい。例えば、引用文献19は、ヒトIg遺伝子座を有するトランスジェニック動物であって、内因性の重鎖および軽鎖の遺伝子の不活性化に起因して機能的な内因性の免疫グロブリンを生じない動物を開示している。引用文献20はまた、免疫原に対する免疫応答を増大し得るトランスジェニック非霊長類哺乳動物宿主を開示しており、ここでこの抗体は、霊長類の定常領域および/または可変領域を有し、この内因性の免疫グロブリンコード遺伝子座は、置換されるかまたは不活性である。引用文献21は、定常領域または可変領域の全てまたは一部を置換して改変された抗体分子を形成するためなどの、哺乳動物における免疫グロブリン遺伝子座を改変するためのCre/Lox系の使用を開示している。引用文献22は、不活性化された内因性のIg遺伝子座および機能的なヒトIg遺伝子座を有する非ヒト哺乳動物宿主を開示する。引用文献23は、トランスジェニックマウスを作成する方法を開示しているが、このマウスは内因性の重鎖を欠き、そして一つ以上の異種定常領域を含む内因性の免疫グロブリン遺伝子座を発現する。
【0022】
抗体は通常2つの別々の鎖を有するが、軽鎖および重鎖の可変ドメインが、リンカーによって結合されて単一のポリペプチド鎖を生じる、単鎖抗体(「sFv」)を用いることが好ましい。scFvを調製するためのキットは、市販されており、そして抗リガンドscFvが本発明での使用のための好ましい第二の配列である。単一のドメイン抗体はまた、ラクダ科の動物もしくはサメ類から[24]、またはラクダ化(camelisation)によって得ることができる[25]。
【0023】
sFvポリペプチドは、共有結合されたVH−VLヘテロ二量体であって、これは、ペプチドコードリンカーによって連結されたVH−およびVLコード遺伝子を含む遺伝子融合物から発現される[26]。抗原結合部位の構造と実質的に類似である三次元構造に折り畳む、天然には会合されているが化学的に分離された軽鎖および重鎖のポリペプチド鎖を抗体V領域からsFv分子への変換する、化学的構造(リンカー)を識別および開発するための多くの方法が記載されている。例えば、引用文献27〜29を参照のこと。このsFv分子は、当該分野で記載された方法を用いて生成され得る。設計基準は、1つの鎖のC末端と他の鎖のN末端との間の距離にまたがる適切な長さを決定する工程を包含しており、ここでは、このリンカーは一般に、巻くこともなく、二次構造を形成することもない、小型親水性アミノ酸残基から形成される。このような方法は、当該分野で記載されている[例えば、引用文献27〜29]。適切なリンカーは一般に、グリシンおよびセリン残基の交互のセットのポリペプチド鎖を含み、そして可溶性を向上するために挿入されたグルタミン酸およびリジン残基を含んでもよい。
【0024】
「ミニ−抗体(mini−antibody)」または「ミニ抗体(minibody)」はまた、本発明での用途を見出す。ミニ抗体は、ヒンジ領域によってsFvから隔てられた、C末端でオリゴマー化ドメインを含むsFvポリペプチド鎖である[30]。このオリゴマー化ドメインは、自己会合αらせん、例えば、ロイシンジッパーを含み、これはさらなるジスフルフィド結合によってさらに安定化され得る。このオリゴマー化ドメインは、機能的な結合タンパク質へのポリペプチドのインビボ折り畳みを容易にすると考えられるプロセスである、膜を横切る方向性の折り畳みと適合するように設計される。一般には、ミニ抗体は、当該分野で周知の組み換え方法を用いて生成される。例えば、引用文献30および31を参照のこと。
【0025】
「オリゴ抗体(oligobody)」はまた、本発明での用途を見出す。オリゴ抗体は、合成の抗体である。これらの試薬の特異性は、ウェスタンブロット分析および免疫組織化学によって実証されている。それらは、いくつかの所望される特性を有する、すなわち、それらの生成は免疫系と独立しているので、2〜3日で調製可能であり、精製された標的タンパク質を必要としない[32]。オリゴ抗体は、当該分野で周知の組み換え方法を用いて生成される[33]。
【0026】
本発明の抗体は、好ましくは中和抗体であり、すなわち、それらは、病原体(例えば、C.albicans)が宿主における感染を開始および/または永続させる能力を中和し得る。この抗体は好ましくは、10−9M未満の濃度で中和し得る(例えば、10−10M、10−11M、10−12Mまたはそれ未満)。
【0027】
抗体は、当業者に周知の技術を用いて生成される[例えば、引用文献34〜39]。モノクローナル抗体は一般には、KohlerおよびMilstein(1975)[40]の方法またはその変法を用いて調製される。代表的には、マウスまたはラットは、上記のように免疫される。ウサギを用いてもよい。しかし、血清を抽出するために動物を採血するよりも、脾臓(および必要に応じていくつかの大きいリンパ節)を取り出して、単一の細胞に解離させる。必要に応じて、抗原でコーティングされたプレートまたはウェルに対して細胞懸濁液を適用することによって、脾細胞をスクリーニングしてもよい(非特異的な接着細胞の除去後)。抗原に特異的な膜結合免疫グロブリンを発現するB細胞は、プレートに結合し、そして懸濁液の残りとともに洗い流されることはない。次いで、得られたB細胞または全ての解離された脾細胞を骨髄腫細胞と融合するように誘導して、ハイブリドーマを形成し、選択培地(例えば、ヒポキサンチン・アミノプテリン・チミジン培地「HAT」)中で培養する。得られたハイブリドーマを、限界希釈法によってプレートして、免疫抗原に特異的に結合する(かつ未関連の抗原には結合しない)抗体の産生についてアッセイする。次いで、選択されたモノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマをインビトロにおいて(例えば、組織培養ボトルまたは中空ファイバーリアクターにおいて)、またはインビボにおいて(例えば、マウスの腹水として)のいずれかで培養する。
【0028】
本発明はまた、本発明の抗体を発現するハイブリドーマを提供する。このハイブリドーマは、種々の方法において、例えば、モノクローナル抗体の供給源として、または引き続く組み換え発現のための抗体遺伝子のクローニングのために本発明のモノクローナル抗体をコードする核酸(DNAまたはmRNA)の供給源として用いられ得る。
【0029】
本発明の抗体は、任意の適切な方法によって(例えば、組み換え発現によって)生成され得る。組み換え供給源由来の発現は、B細胞またはハイブリドーマからの発現よりも薬学的な目的のため、例えば、安定性、再現性、培養の容易さなどの理由のためには一般的である。
【0030】
本発明は、目的の抗体をコードする一つ以上の核酸分子(例えば、重鎖および軽鎖の遺伝子)を調製するための方法を提供し、この方法は、以下の工程を包含する:(i)上記のような本発明の抗体を発現するハイブリドーマを調製する工程と;(ii)目的の抗体をコードする核酸をこのハイブリドーマから得る工程。本発明はまた、目的の抗体をコードする核酸配列を得るための方法を提供し、この方法は、以下の工程を包含する:(i)本発明に従ってハイブリドーマを調製する工程と;(ii)本発明の抗体をコードする、ハイブリドーマ由来の核酸を配列決定する工程。
【0031】
従って、本発明はまた、組み換え細胞を調製するための方法を提供し、この方法は以下の工程を包含する:(i)上記のような本発明の抗体を発現するハイブリドーマを調製する工程と;(ii)一つ以上の核酸(例えば、重鎖および/または軽鎖の遺伝子)をこのハイブリドーマから得る工程と;(iii)この核酸を発現ベクターに挿入する工程と;(iv)この発現ベクターを用いてこの発現宿主を形質転換して、その宿主における目的の抗体の発現を可能にさせる工程と。
【0032】
同様に、本発明はまた、組み換え細胞を調製するための方法を提供し、この方法は、以下の工程を包含する:(i)上記のような本発明の抗体を発現するハイブリドーマを調製する工程と;(ii)目的の抗体をコードする、このハイブリドーマ由来の核酸(単数または複数)を配列決定する工程と;(iii)工程(ii)からの配列情報を用いて、発現ベクターに挿入するための核酸(単数または複数)を調製する工程と;(iv)この発現ベクターを用いて発現宿主を形質転換して、その宿主において目的の抗体の発現を可能にする工程と。
【0033】
抗体の鎖の2つ以上をコードする核酸配列を含む、単一の発現ベクターを構築してもよい。例えば、重鎖および軽鎖をコードする核酸配列は、同じ発現ベクター上の異なる部分に挿入されてもよい。あるいは、各々の鎖をコードする核酸配列は、個々に発現ベクターに挿入されてもよく、その結果、各々が特定の鎖をコードする多数の構築された発現ベクターが生成される。好ましくは、この配列が挿入されている発現ベクターが適している。
【0034】
次いで、本発明の形質転換された細胞を、発現および培養の目的のために用いてもよい。それらは、大規模な薬学的な製造のための抗体の発現のために特に有用である。それらはまた、薬学的組成物の活性な成分として用いられてもよい。任意の適切な培養技術を用いてもよく、これには、限定はしないが、静置培養、ローラーボトル培養、腹水、中空ファイバー型バイオリアクターカートリッジ、モジュラーミニ発酵槽、攪拌タンク、マイクロキャリア培養、セラミックコア灌流などが挙げられる。
【0035】
ハイブリドーマから免疫グロブリン遺伝子を得て配列決定するための方法は、当該分野において周知である。例えば、引用文献41の第4章を参照のこと。
【0036】
発現宿主は好ましくは、真核生物細胞であり、これには、酵母および動物の細胞、特に哺乳動物細胞(例えば、CHO細胞、ヒト細胞、例えば、PER.C6(Crucell[42])またはHKB−11(Bayer;[43,44])細胞、骨髄腫細胞[45、46]など)、ならびに植物の細胞が挙げられる。好ましい発現宿主は、本発明の抗体をグシコリシル化し得、詳細には、ヒトにおいてそれ自体が免疫原性ではない炭水化物構造を有する。無血清培地中で増殖し得る発現宿主が好ましい。動物由来の生成物の存在なしで、培養物中で増殖し得る発現宿主が好ましい。
【0037】
発現宿主を培養して、細胞株を得てもよい。
【0038】
β−1,3−グルカン抗原を認識する能力を保持している抗体フラグメントも、本発明の範囲内に包含される。インタクトな抗体分子の免疫学的結合特性を示し得る抗原結合部位を含む多数の抗体フラグメントが当該分野で公知である。例えば、機能的な抗体フラグメントは、抗原結合を担わない定常領域を、例えば、ペプシンを用いて抗体分子から切断してF(ab’)2フラグメントを生成することによって生成され得る。これらのフラグメントは、2つの抗原結合部位を含むが、重鎖の各々から定常領域の一部を欠く。同様に、必要に応じて、単一の抗原結合部位を含むFabフラグメントを、例えば、パパインでのモノクローナル抗体の消化によって生成してもよい。重鎖および軽鎖の可変領域のみを含む機能的フラグメントはまた、免疫グロブリン分子の組み換え生成または優先的なタンパク質分解性切断のような標準的な技術を用いて生成され得る。これらのフラグメントはFvとして公知である。例えば、引用文献47〜49を参照のこと。
【0039】
慣習的でない方法を用いても、本発明の抗体を生成し、同定することが可能である。例えば、ファージディスプレイライブラリーを、本発明の抗体についてスクリーニングしてもよい[50〜53]。
【0040】
モノクローナル抗体は、それらで検出される個々のポリペプチドまたは他の抗原の同定および精製において得に有用である。本発明のモノクローナル抗体は、それらが、イムノアッセイ、ラジオイムノアッセイ(RIA)、または酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)における試薬として使用され得るという点でさらに有用性を有する。これらの適用では、抗体は、放射性同位体、蛍光分子または酵素のような分析的に検出可能な試薬で標識され得る。例えば、本発明のモノクローナル抗体は、カンジダ症またはアスペルギルス症に罹患している患者において循環中のβ−1,3−グルカンを検出するために用いられ得る[54]。
【0041】
本発明の抗体は、処置部位への送達のために薬物に対して結合されてもよいし、またはガン細胞のような目的の細胞を含む部位の画像化を容易にするために検出可能標識に結合されてもよい。薬物および検出可能標識へ抗体を結合させるための方法は、検出可能な標識を用いる画像化のための方法と同様に当該分野で周知である。
【0042】
本発明の抗体は、固体支持体に結合されてもよい。
【0043】
本発明の抗体は、アイソタイプIgA,または好ましくはIgG、すなわち、αまたはγ重鎖であってもよい。IgGアイソタイプでは、抗体は、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4サブクラスであってもよい。本発明の抗体は、κ軽鎖またはλ軽鎖を有し得る。
【0044】
(殺菌活性)
本発明のモノクローナル抗体は好ましくは、殺菌活性を有する。
【0045】
好ましくは、このモノクローナル抗体は、抗真菌活性および/または抗細菌活性を有する。抗細菌活性は、グラム陰性またはグラム陽性の細菌に対するものであり得る。
【0046】
より好ましくは、このモノクローナル抗体は、グルカンベースの細胞壁を有する微生物に対して活性を有する。
【0047】
より好ましくは、このモノクローナル抗体は、β−1,3−結合オリゴ糖細胞壁を含む微生物に対して活性を有する。
【0048】
最も好ましくは、このモノクローナル抗体は、Candida albicansに対するおよび/またはAspergillus fumigatisに対する活性を有する。
【0049】
(薬学的組成物)
製剤の活性成分としてのモノクローナル抗体の使用は現在広範であり、これには、製品であるHerceptinTM(transtuzumab)、RituxanTM、CampathTM、RemicadeTM、ReoProTM、MylotargTM、ZevalinTM、Omalizumab、SynagisTM(Palivizumab)、ZenapaxTM(daclizumab)などが挙げられる。これらは、ヒト自己抗原を認識する抗体(例えば、HerceptinTMはHer2マーカーを認識する)および病原体由来の抗原を認識する抗体(例えば、SynagisTMは呼吸器合胞体ウイルス由来の抗原を認識する)を含む。
【0050】
本発明は、(1)本発明のモノクローナル抗体および(2)薬学的に受容可能なキャリアを含む薬学的組成物を提供する。
【0051】
本発明は、製剤を調製する方法を提供し、この方法は、以下の工程を包含する:(i)本発明のモノクローナル抗体を調製する工程と;(ii)この精製された抗体を一つ以上の薬学的に受容可能なキャリアとを混合する工程と。
【0052】
この組成物は好ましくは、抗グルカン抗体の防御有効性を阻害する抗体を実質的に含まない。例えば、グルカンが真菌のβ−1,3−グルカンであれば、その組成物は好ましくは、実質的に非グルカン細胞壁成分に対する抗体、例えば、抗マンノタンパク質抗体を実質的に含まない。
【0053】
成分(1)は、組成物における活性成分であり、これは治療上有効な量、すなわち、患者における微生物/ウイルスの増殖および/または生存を阻害するのに十分な量、そして好ましくは、微生物感染を排除するのに十分な量で存在する。所定の患者についての正確な有効量は、そのサイズおよび健康度、性質および感染の程度、ならびに投与のために選択される組成物または組成物の組み合わせに依存する。有効量は、慣用的な実験によって決定されてもよく、そして臨床家の判断の範囲内である。本発明の目的のためには、有効な用量は一般には、投与される個体において、本発明の組成物の約0.01mg/kg〜約5mg/kg、または約0.01mg/kg〜約50mg/kg、または約0.05mg/kg〜約10mg/kgである。公知の抗体製剤では、これに関する手引きが得られ、例えば、HerceptinTMは、溶液1mlあたり21mg/mlの静脈内注入によって投与され、ここでは体重1kgあたり4mgという初期ローディング用量および体重1kgあたり2mgという毎週の維持用量である;RituxanTMは、毎週、例えば、375mg/m2で投与される;など。ポリペプチド、抗体および核酸に基づく薬学的組成物は、当該分野で周知である。ポリペプチドは、塩および/またはエステルの形態で組成物に含まれてもよい。
【0054】
キャリア(2)とは、その組成物を投与される患者に有害な抗体の生成をそれ自体が誘導せず、かつ過度の毒性なしに投与され得る任意の物質であり得る。適切なキャリアは、大型の緩徐に代謝される高分子、例えば、タンパク質、ポリサッカライド、ポリアクチック酸(polyactic acid)、ポリグリコール酸、ポリマーアミノ酸、アミノ酸コポリマーおよび不活性なウイルス粒子であってもよい。このようなキャリアは、当業者に周知である。薬学的に受容可能なキャリアとしては、液体、例えば、水、生理食塩水、グリセロールおよびエタノールを挙げることができる。補助物質、例えば、湿潤剤または乳化剤、pH緩衝化物質などもこのようなビヒクルに存在してもよい。リポソームは適切なキャリアである。薬学的なキャリアの詳しい考察は引用文献55に利用可能である。
【0055】
本発明の薬学的組成物はまた、例えば、微生物との接触が予想され、かつ感染の確立が予防されるべき状況において予防的に用いられてもよい。例えば、この組成物は、手術の前に投与されてもよい。
【0056】
本発明の抗体を含む本発明の組成物では、この抗体は好ましくは、この組成物における総タンパク質の少なくとも50重量%(例えば、60%、70%、80%、90%、95%、97%、98%、99%またはそれ以上)までを構成する。従ってこの抗体は精製型である。
【0057】
微生物感染は、抗体の種々の領域に影響し、従って本発明の組成物は種々の形態で調製され得る。例えば、この組成物は、注射用として、液体の溶液または懸濁液として調製されてもよい。注射の前の液体ビヒクル中における溶液にまたは懸濁液において適切な固体型もまた調製され得る(例えば、防腐剤を含む滅菌水での再構成のための、凍結乾燥された組成物、例えば、SynagisTMおよびHerceptinTM)。この組成物は、例えば、軟膏、クリームまたは粉末のような局所投与のために調製され得る。この組成物は、経口投与のために、例えば、錠剤もしくはカプセルとして、またはシロップ(必要に応じて香味付けされた)として調製されてもよい。この組成物は、肺投与のために、例えば、微細な粉末またはスプレーを用いるインヘイラーとして、調製されてもよい。この組成物は、坐剤または膣坐薬として調製されてもよい。この組成物は、鼻、耳または眼の投与のために、例えば、液滴として、スプレーとして、または粉末として調製されてもよい[例えば、56]。この組成物は、うがい薬に含まれてもよい。この組成物は凍結乾燥されてもよい。
【0058】
この薬学的組成物は好ましくは無菌である。これは好ましくは発熱物質を含まない。これは好ましくは、例えば、pH6〜pH8の間で、一般には約pH7で緩衝化される。好ましくは、この組成物は、ヒトと実質的に等張性である。
【0059】
本発明はまた、本発明の薬学的組成物を含む送達デバイスを提供する。このデバイスは、例えば、シリンジまたはインヘイラーであってもよい。
【0060】
本発明の組成物は、公知の抗真菌剤と組み合わせて用いられ得る。適切な抗真菌剤としては、限定はしないが、アゾール(例えば、フルコナゾール、イトラコナゾール)、ポリエン(例えば、アンホテリシンB)、フルシトシンおよびスクアレンエポキシダーゼインヒビター(例えば、テルビナフィン(terbinafine))が挙げられる[また引用文献57を参照のこと]。組成物はまた、公知の抗ウイルス剤、例えば、HIVプロテアーゼインヒビター、2’,3’−ジデオキシヌクレオシド(例えば、DDC、DDI)、3’−アジド−2’,3’−ジデオキシヌクレオシド(AZT)、3’−フルオロ−2’,3’−ジデオキシヌクレオシド(FLT)、2’,3’−ジデヒドロ−2’,3’−ジデオキシヌクレオシド(例えば、D4C、D4T)およびその炭素環誘導体(例えば、カルボビル)、2’−フルオロ−アラ−2’,3’−ジデオキシヌクレオシド、1,3−ジオキソラン誘導体(例えば、2’,3’−ジデオキシ−3’−チオシチジン)、オキセタノシンアナログおよびその炭素環誘導体(例えば、シクロバット−G(cyclobut−G))および9−(2−ホスホニルメトキシエチル)アデニン(PMEA)および9−(3−フルオロ−2−ホスホニルメトキシプロピル)アデニン(FPMPA)誘導体、テトラヒドロ−イミダゾール[4,5,1−jk][1,4]−ベンゾジアゼピン−2(1H)オン(TIBO)、1−[(2−ヒドロキシエトキシ)−メチル]−6−(フェニルチオ)チオミン(HEPT)、ジピリド[3,2−b:2’,3’−e]−[1,4]ジアゼピン−6−オン(ネビラピン)およびピリジン−2(1H)オン誘導体、3TCなどと組み合わせて用いられてもよい。
【0061】
(医学的処置および用途)
この抗体は、予防的であって、微生物感染および/または疾患に対する防御を提供する。
【0062】
従って、本発明は、医薬としての使用のための本発明のモノクローナル抗体を提供する。本発明はまた、微生物感染から患者を防御するための方法を提供し、この方法は、本発明の薬学的組成物を患者に投与する工程を包含する。本発明はまた、微生物感染および/または疾患の予防のための医薬の製造における本発明のモノクローナル抗体の使用を提供する。
【0063】
防御的な方法において使用されるのと同様に、抗体はまた、既存の微生物感染および/または疾患を処置するために用いられ得る。
【0064】
従って、本発明はまた、微生物感染に罹患している患者を処置するための方法を提供し、この方法は、本発明の薬学的組成物を患者に投与する工程を包含する。本発明はまた、患者を処置するための医薬の製造における本発明のモノクローナル抗体の使用を提供する。
【0065】
この微生物は、真菌であっても細菌であってもよく、その例は以下に記載される。
【0066】
患者は好ましくは、ヒト、特に女性である。ヒトは成体であっても小児であってもよい。
【0067】
本発明の抗体は特に、妊娠している;免疫無防備状態の/免疫抑制された(T細胞欠乏)患者;または抗生物質の治療もしくは化学療法を受けている患者における微生物感染の処置のために有用である。本発明の抗体はまた、全身的な微生物感染;静脈内カテーテルを留置しているか;HIV;AIDS;好中球減少症;以前の真菌コロニー形成;糖尿病;白血病;リンパ腫;火傷;浸軟;口腔感染を有する患者、および以前に血液透析を受けているか、または器官移植を受けている患者における微生物感染を処置するために有用である。
【0068】
これらの用途および方法は特に、Candida種、例えば、C.albicans;Cryptococcus種、例えば、C.neoformans;Enterococcus種、例えば、E.faecalis;Streptococcus種、例えば、S.pneumoniae、S.mutans,S.agalactiaeおよびS.pyrogenes;Leishmania種、例えば、L.majorおよびL.infantum;Acanthamoeba種、例えば、A.castellanti;Aspergillus種、例えば、A.fumigatusおよびA.flavus;Pneumocystis種、例えば、P.carinii;Mycobacterium種、例えば、M.tuberculosis;Pseudomonas種、例えば、P.aeruginosa;Staphylococcus種、例えば、S.aureus;Salmonella種、例えば、S.typhimurium;Coccidioides種、例えば、C.immitis;Trichophyton種、例えば、T.verrucosum;Blastomyces種、例えば、B.dermatidis;Histoplasma種、例えば、H.capsulatum;Paracoccidioides種、例えば、P.brasiliensis;Pythiumn種、例えば、P.insidiosum;およびEscherichia種、例えば、E.coliの感染を処置するために有用である。
【0069】
この用途および方法は特に、限定はしないが、以下を含む疾患を処置するために有用である:カンジダ症、アスペルギルス症、クリプトコックス症、真菌性皮膚疾患、スポロトリクス症(sporothrychosis)、および他の皮下真菌症、ブラストミセス症、ヒストプラスマ症、コクシジオイデス真菌症、パラコクシジオイドミコーシス、ニューモシスティス症、鵞口瘡、結核、ミコバクテリア症、呼吸器感染、猩紅熱、肺炎、膿痂疹、リウマチ熱、セプシス(sepsis)、敗血症(septicaemia)、皮膚および内蔵のリーシュマニア症、角膜アカントアメーバ症、角膜炎、嚢胞性線維症、腸チフス、胃腸炎および溶血性尿毒症症候群。抗C.albicans活性は、AIDS患者における感染を処置するために特に有用である。
【0070】
処置の有効性は、本発明の薬学的組成物の投与後の微生物感染をモニタリングすることによって試験され得る。
【0071】
本発明の組成物は一般に、患者に対して直接投与される。直接送達は、非経口注入によって(例えば、皮下、腹腔内、静脈内、筋肉内、または組織の間質腔に)、または直腸、経口、経膣、局所、経皮パッチ、眼、鼻、耳または肺の投与によって達成され得る。注射または経鼻投与が好ましい。組成物中の活性成分は、抗体分子であることが理解される。従って、胃腸菅における分解に対して影響を受けやすい。従って、この組成物が、胃腸菅を用いる経路によって投与されるべきである場合、この組成物は、抗体を分解から保護するが、一旦、胃腸菅から吸収されれば抗体を放出する因子を含む必要がある。
【0072】
投薬処置は、単回投与スケジュールまたは複数回投与スケジュールであってもよい。
【0073】
治療目的のためにモノクローナル抗体を送達する代わりとして、目的のモノクローナル抗体(またはその活性なフラグメント)をコードする核酸(代表的にはDNA)を、その核酸がインサイチュで被検体において発現されて所望の治療効果が獲得できるように、その被検体に送達することが可能である。適切な遺伝子治療および核酸送達ベクターは当該分野で公知である。
【0074】
(全般)
「含む、包含する(comprising)」という用語は、「含む、包含する、が挙げられる(including)」および「〜からなる、構成される(consisting)」を包含し、例えば、Xを「含む(comprising)」組成物は、排他的にXから構成されてもよいし、または何か追加で含んでもよい、例えば、X+Y。「実質的に(substantially)」という用語は、「完全に(completely)」を排除しない、例えば、Yを「実質的に含まない(substantially free)」組成物は、Yを完全に含まなくてもよい。必要に応じて、「実質的に(substantially)」という用語は、本発明の定義から省略され得る。
数字的な値xに関して「約(about)」という用語は、例えば、x±10%を意味する。
本発明が、2つの鎖(重鎖および軽鎖)を有する抗体をいう場合、本発明はまた、必要に応じて、お互いから別々の個々の鎖を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】図1は、IgG 2G8およびIgM 1E12 mAbに対する推定の競合リガンドを用いる阻害ELISA試験の結果を示す。阻害パーセントの値は、試験された4つの用量で各々の推定インヒビターについて示されており、そしてそのグラフは、同様の結果の2つの代表的な実験の1つを示している。
【図2】図2は、化学的に規定されたβ−1,3−およびβ−1,6−標準物を用いる阻害ELISA試験の結果を示す。グラフの値は、試験した3つの用量で各々のインヒビターについて測定された阻害パーセントの範囲であって、同様の結果を得た2つのうちの代表的な実験を示す。
【図3】図3は、別個のプラスチック吸着グルカン抗原に対するIgG mAb 2G8およびIgMコントロールmAbの結合を決定するための実験の結果を示す。
【図4】図4は、異なる分子構造を有するβ−グルカン化合物によるGG−Zymに対するmAb結合の阻害を決定するための実験の結果を示す。y軸はELISA反応性の阻害%を示す。x軸は、遊離のインヒビター(mg/ml)の濃度を示す。白抜きの丸は、IgMコントロールmAb;黒塗りの丸は2G8 IgG mAbを示す。遊離の相のインヒビターは以下である:(A)ラミナリン(laminarin);(B)プスツリン(pustulin);および(C)S.cerevisiae由来のβグルカン。
【図5】図5は、同じ抗原に対する結合について競合するIgGおよびIgM mAbによる能力を決定するための実験の結果を示す。y軸は、プラスチック吸着抗原への結合を示す(OD405nm)。x軸は、競合因子mAbの濃度を示す(ng/ml)。白抜きの丸は、mAb 2G8の存在下におけるIgMコントロールmAbの結合を示し;黒塗りの丸は、IgMコントロールmAbの存在下における2G8 IgG mAbの結合を示す。
【図6】C.albicans細胞上の2G8およびIgMコントロールのグルカンエピトープの間接的な免疫蛍光局在化を示す。この図は、2つの独立した実験における2G8およびコントロールのmAbについて観察された反応性のパターンを示す。パネルaおよびbにおける挿入は、対応するパネルの同じ顕微鏡視野の位相差局面を示す。パネルc、d、e、f、g、hにおける挿入は、免疫蛍光染色パターンの詳細を示す。倍率×1000。
【図7】図7は、播種性カンジダ症のマウス実験モデルにおける2G8およびIgMコントロールmAbのi.p.(腹腔内)投与後のCD2F1マウスの腎臓における真菌負荷を示す。
【図8】図8は、C.albicansの致死静脈内(i.v.)チャレンジ後にβグルカンmAbの単回投与を与えたマウスの示された時間での生存パーセントを示す。
【図9】図9は、以下の間接的な免疫蛍光染色を示す:(a,d)単離されたC.albicansのβグルカン細胞壁のゴースト;(b,e)C.albicansの芽管;(c,f)C.albicansの菌糸フィラメント;(g)A.fumigatusの出芽した分生子;(h,i)A.fumigatusの菌糸。
【図10】以下に対して惹起された血清の存在下におけるC.albicansの増殖後のCFUの数を示す:(白)アジュバントのみ;(灰色)CRMキャリアのみ;または(黒)ラミナリン。
【図11】図11は、(白)2G8、または(黒)抗CRMモノクローナル抗体の0.25、0.1または0.05mg/mlでの増殖後のCFU減少を示す。
【図12】図12は、3Hグルコース取り込みアッセイによって評価した場合の、A.fumigatusのインビトロ増殖に対する抗Lam−CRMまたはコントロールの抗CRM血清の効果を示す。
【図13】図13は、Lam−CRM結合体またはCRMのいずれかを用いて免疫された後の、A.fumigatusでの静脈内チャレンジで生存しているマウスの数を示す。
【発明を実施するための形態】
【0076】
(発明を実施するための形態)
(1.ハイブリドーマ生成およびモノクローナル抗体精製)
2匹の雌性Balb/cマウス(Harlan)を、C.albicansの細胞壁から精製したβグルカン調製物とジフテリア遺伝的ドキソイドCRM197との間の複合糖質のマウス1匹あたり15μgのポリサッカライド(25μタンパク質/マウスに相当する)を用いて免疫した(GG−Zymプール1−CRM 197結合体;[8])。
【0077】
この結合体を、完全フロイントアジュバント中で皮下に1回、そしてアジュバントなしで1週の間隔で腹腔内に2回投与した。最終の追加(ブースト)用量(5μgポリサッカライド/マウス)を注入の4日前に静脈内に与えた。
【0078】
免疫されたマウスの脾細胞を、標準的な技術によってマウスの系統X63−Ag8 653の骨髄腫細胞と1:1の比で融合させて、ハイブリドーマを標準的なプロトコールに従って選択した([58]も参照のこと)。培養上清を、C.albicansグルカン精製抽出物GG−Zymまたは標準的なグルカン化合物(ラミナリン、プスツラン(pustulan))をコーティング抗原として、そしてアルカリホスファターゼ−結合体化ヤギ、多価抗マウス免疫グロブリン抗体(Sigma)を二次抗体として用いて、間接的なELISA[59]によって、抗体生成についてスクリーニングした。
【0079】
抗グルカン抗体分泌ハイブリドーマ培養物を限界希釈によって2回クローニングして、引き続き、10%のウシ胎仔血清(Hyclone)、1mlあたり100Uのペニシリン、1mlあたり100μgのストレプトマイシン、1mMのピルビン酸ナトリウムおよび2mMのL−グルタミン(Hyclone)を補充したRPMI 1640(Hyclone)中でインビトロで増殖した。
【0080】
多数の安定なハイブリドーマをこの手順によって得た。それによって生成されたモノクローナル抗体(mAb)を、硫酸アンモニウム沈殿、その後の遠心分離およびPBSに対する沈殿の大規模な透析によって培養上清から精製してもよい。沈殿したmAbの精製は、SDS−PAGEとそれに続くクマーシーブルー染色によって評価した。mAb調製の力価は、種々のグルカン抗原に対する間接的なELISAによって決定して、負のコントロール(緩衝液のみ)について得られた少なくとも2回の吸光度を与える抗体の最高希釈として規定した。
【0081】
(2.免疫グロブリンのクラスおよびアイソタイプの決定)
目的の1つのハイブリドーマを「2G8」と命名した。2G8は、そのSDS−PAGEプロフィールならびにアフィニティー単離された、アルカリホスファターゼ結合体化ヤギ抗マウス?鎖抗体(Sigma)でのELISAおよびウェスタンブロットアッセイにおける反応性に従って、IgGクラスとされた。アフィニティー精製された、ビオチン結合体化抗マウスIgG1、IgG2a、IgG2bまたはIgG3モノクローナル抗体(BD−Pharmingen)とのELISA反応性によって、IgG mAb 2G8がIgG2bアイソタイプに属することが示された。第二の抗体(1E12)は同様にIgMクラスに帰せられた。1E12は、後者の実験におけるコントロールとして機能した。
【0082】
(3.モノクローナル抗体の可変領域の配列決定)
2G8抗体およびコントロールのIgM抗体のVLおよびVH領域の配列を決定した。各々のV領域は、1つのフレームワーク領域におけるCDR1、CDR2およびCDR3として示された3つのCDRを含む。mRNAは、2G8およびコントロールのIgMを発現するハイブリドーマ細胞から抽出し、そして対応するcDNAをGAP−DH遺伝子の増幅を通じて合成した。VLおよびVH遺伝子を増幅して、その生成物をアガロースゲル電気泳動によって抽出した。次いで、VHおよびVL領域をプラスミドベクターpCR−BluntII−TOPOにクローニングした。細菌株Top10をこのプラスミドベクターで形質転換して、形質転換体を分析した。次いで、DNAを抽出して配列決定した。
【0083】
2G8の重鎖および軽鎖の可変領域の配列を配列番号1および配列番号2とする。これらの配列内のCDRを配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11および配列番号13とする。同じ可変領域の配列がIE12 IgMに見出された。
【0084】
(4.IgG mAb 2G8およびIgMコントロールmAbの特異性)
mAbによって好まれるエピトープの性質を検討するために、未分画のGG−Zym抗原を固相試薬として、そして別個のグルカンまたはC.albicans由来の非グルカン細胞壁画分、または標準的なグルカン化合物を、遊離相のmAbリガンドとしてGG−Zym抗原との競合反応において使用する阻害ELISA試験を、本発明者らは考案した。推定のmAbリガンドのいくつかがプラスチックに対して効率的に吸着することができない可能性によって、このアプローチを選択した。
【0085】
推定のインヒビターを、PBS中で適切なmAb希釈になるまで50、10、5および1μg/mlの濃度で添加して、室温で一晩インキュベートした。次いで、この反応混合物を、GG−Zymでコーティングされた二連のウェルに添加した(炭酸緩衝液中で50μg/ml)。次いで、ホスファターゼ結合体化抗マウスIgGおよび抗マウスIgM抗体(Sigma)を、それぞれ、mAb 2G8およびIgMコントロール抗体についての二次試薬として用いて、以前に報告[60]されたようにELISA試験を行った。種々の遊離の相のmAbリガンドによる阻害パーセントを、推定のインヒビターを含むウェルからのO.D.405nmと、インヒビターなしのウェルからのO.D.405nm(異なる実験においては通常0.8〜0.65におよぶ)とを比較することによって算出した。負のコントロールのウェル(緩衝液のみ)からの読み取り値を全てのO.D.値から差引きした。
【0086】
図1に示されるとおり、C.albicansからの総マンノタンパク質(mannoprotein)(MP)抽出物のような競合リガンドとしての非グルカン真菌画分の使用、または真菌によって分泌されるMPの調製、またはグルカンと同様のβ高次構造を有する特定の細胞壁マンナン部分(β1,2マンナン)は、GG−Zym画分をともなう2G8またはIgMコントロールmAbの連結の、有意でないかまたは極めて弱い阻害しか生じなかった。これはまた、非βグルカン化合物であるセロペンタオースが競合リガンドとして用いられる場合に生じた。これによって、β高次構造も、グルコース残基の配列の単なる存在もそれ自体ではmAb認識および連結に十分でないことが示される。
【0087】
逆に、GG−Zym画分をインヒビターとして用いた場合、両方のmAbの反応性の実質的な阻害(1または50μg/mlの濃度で用いた場合、それぞれ、mAb 2G8およびIgMコントロールmAbについて、0〜65および10〜87パーセントの阻害)が、そして酵母のSaccharomyces cerevisiaeからの市販のβグルカン調製によるほぼ完全な阻害(1または50μg/mlの濃度で用いた場合、それぞれ、mAb 2G8およびIgMコントロールmAbについて、64〜90および91〜100パーセントの阻害)が観察された。βグルカンの市販の真菌でない調製物(オオムギβグルカン)は、両方のmAbについての競合リガンドとしてほぼ完全に無効であった。
【0088】
全体として、これらの結果によって、mAb 2G8およびIgMコントロールmAbはβグルカン抽出物に特異的に含まれるエピトープを認識したことが示された。mAb反応性に対して弱い阻害性効果を発揮するC.albicans由来の総MP画分は、少量のβグルカンを含むことが報告されている[61]。さらに、mAbの特性は、免疫抗原の供給源であるC.albicans由来のβグルカンに限定されないが、真菌グルカンの公知の構造的な相同性に従って、他の酵母種由来のグルカンに拡張される。これは、真菌の細胞壁において重要なβグルカン分子を発現する多くの他の真菌病原体の制御について意味がある(下を参照のこと)。
【0089】
(5.2G8およびIgMコントロールmAbによって認識されるエピトープの化学的性質)
化学的に規定された標準物β−1,3およびβ−1,6グルカンの使用によって、上記の同じELISA阻害試験を用いて、mAbエピトープの化学的な性質をより正確に規定した。詳細には、Laminaria digitata由来の十分特徴付けられた調製物であるラミナリン(Sigma)を用いたが、これは、ほとんどが2〜3の短いβ−1,6−連結側鎖、および重合化の程度が異なる(2〜7)一連の直線状β−1,3−連結ラミナリオリゴサッカライド(laminarioligosaccharides)を有するβ−1,3−連結グルコース残基によって構成されている。Umbilicaria パピュローサ(papullosa)およびゲンチオビオース(gentiobiose)由来の標準的な直線状β−1,6−連結グルカン(β−D−Glc−(1,6)−D−Glc)であるPustulan(CalbioChem)もアッセイした。GG−Zym抗原、GG−Zymプール1およびGG−Zymプール2からゲル濾過によって分離した2つの小画分もこれらの実験に含まれた。
【0090】
適切なmAb希釈物は、インヒビターを50、10または5μg/mlで用いて一晩反応させ、次いでGG−Zymでコーティングした二連のウェルに添加した。次いで、ホスファターゼ結合体化抗マウスIgGおよび抗マウスIgM抗体(Sigma)を、それぞれ、mAb 2G8およびIgMコントロールmAbについての二次試薬として用いてELISA試験を行った。種々の遊離相mAbリガンドによる阻害パーセントは前のように算出した。
【0091】
これらの物質で行った代表的なELISA阻害試験からの結果を図2に示す。
【0092】
これらの実験では、2つのmAbは、ラミナリンおよびプスツラン(pustulan)に対して別個の結合優先性を示した。実際、mAb 2G8の反応性はラミナリンとの事前インキュベーションによってほぼ完全に廃された(5および50μg/mlで、それぞれ38および89パーセント阻害)が、プスツランでは完全ではなかった。反対に、プスツランは、IgMコントロールmAbの好適なリガンドであったが、ただしラミナリンはそうではなかった(5および50μg/mlで、それぞれ24パーセントおよび90パーセントの阻害)
従ってmAb、 2G8は、β−1,3立体配置においてグルカンに優先的に結合すると結論されたが、コントロールのIgM mAbは、β−1,6立体配置においてグルカンに結合優先性を示した。β−1,3グルカンに対するmAb 2G8の優先的な結合は、化学的に規定されたβ−1,3−連結オリゴサッカライド(4〜7のDP)がまた、mAb 2G8連結について効率的に競合し得るが、それらはIgM mAbコントロールによっては認識されないという観察によって確認された。しかし、DPが低い(2または3)β−1,3立体配置のオリゴサッカライドはmAb非特異的な弱い阻害性効果を発揮し得るが、β−1,6−連結ゲンチオビオースではできないということがまた観察された。β−1,3立体配置における低分子は、低い親和性および特異性を通じて両方のmAbによって認識され得ることがこれによって示唆された。
【0093】
この後者の観察はまた、GG−Zymの小画分プール2は、この小画分が、小型のβ−1,3オリゴサッカライドと優勢なDP3との混合物であるので、両方のmAbの反応性に影響が弱かったという事実を説明することに寄与し得る[62]。対照的に、プール1小画分は、β−1,6−連結鎖によって主に構成されたその構造とよく一致して、IgMコントロールmAbに明確に高い親和性を示した。
【0094】
(6.別個のプラスチック吸着グルカン抗原に対するIgG mAb 2G8およびIgMコントロールmAbの結合)
GG−Zym、プスツランまたはラミナリンでコーティングしたELISAプレートを、漸減する量の2G8またはコントロールのmAb(合成の、タンパク質なしの培地における培養上清からの、精製された、硫酸アンモニウム沈殿調製物)と反応させて、特定の抗マウスIgMまたはIgG、AP結合体化二次抗体、続いて酵素基質を用いて発色させた。図3は、このmAbを、示されたような、別個のグルカン抗原と反応させることによって生成されたO.D.405nmの吸収読み取りを示す。
【0095】
図3に示されるとおり、2G8およびコントロールのmAbは、異なる分子形状のグルカン分子へ向かう異なる親和性を示した。詳細には、IgMコントロールmAbは、IgG mAb 2G8に比較して、優先的にβ(1−6)グルカンに結合する。約3.0ng/mlのIgMコントロールmAbは、パスツランとの反応の際に、0.5というO.D.405nm値を生じたが、同じO.D.読み取り値を得るには少なくとも100ng/mlのIgG 2G8 mAbが必要であった。さらに、IgG 2G8 mAbは優先的にβ(1−3)グルカンに結合する。なぜなら、この抗原に対して同じレベルの結合を得るために必要な約10ng/mlのIgM mAbに比べて、わずか0.04ng/mlで、ラミナリンとの反応によって1.0というO.D.を生じることができたからである。コントロールとして2つのmAbをまたGG−Zym、C.albicansからのβ(1−6)およびβ(1−3)グルカン含有調製物に対する結合について試験し、そして期待どおり、mAbは、両方の高次構造を含む複合グルカン画分との反応の際に、重複する結合曲線を示した。
【0096】
(7.別個の分子構造を有するβグルカン化合物によるGG−ZymへのmAb結合の阻害)
本発明者らは、さらに、ELISA阻害実験を行うことによって、異なる高次構造のグルカン分子について2つのmAbの親和性を検討した。固定濃度のmAbを、漸増濃度のラミナリン、プスツランまたはS.cerevisiae由来のβグルカン存在下においてプラスチック固定されたGG−Zymと反応させた。これらの遊離相のリガンドがmAb結合についてGG−Zymと競合する能力を、インヒビターの存在下で得たO.D.405nmの読み取り値と、インヒビターの非存在下で測定した値とを比較することによって評価した。結果をELISA反応性の阻害パーセントとして表した。
【0097】
この実験では、両方のmAbとも、プスツラン(β−1,6グルカン)またはラミナリン(β−1,3グルカン)のいずれかの高用量の存在下でGG−Zymに対して有意に減少した結合を示したことが示され、これによって任意の高次構造のグルカン抗原を認識するそれらの基本能力が確認された(図4)。他方では、用量応答に基づいて、β−1,6およびβ−1,3グルカンがGG−Zymに対するmAb結合と競合する能力は、図4における阻害曲線の反対のプロフィールによって示されるように、IgMとIgGのmAbの間で大きく異なった。実際、ELISAの50パーセント阻害用量(ID50)、すなわち、非競合のmAb読み取り値についてO.D.405nmの50%減少を生じる競合因子リガンドの用量は、IgG mAbに競合的に結合するために用いられる場合、それぞれ、ラミナリンおよびプスツランについて0.01および2.0mg/mlであったが、それらは、コントロールのIgM mAbに競合的に結合するために用いられる場合は、2.0および0.05mg/mlであった。
【0098】
(8.IgGおよびIgM mAbによる、同じ抗原に対する結合について競合する能力)
プラスチック結合したラミナリンまたはプラスチンを固定量の任意の2つのmAbおよび異なるアイソタイプのそのmAb対応物の漸減する濃度を含む混合物と反応させた。IgGの結合またはIgM mAbの結合を、AP結合体化した抗マウスIgGまたはIgM抗体との適切な二次反応によって明らかにした。
【0099】
図5は、種々の用量の対応するmAbの非存在下(白抜きの記号)または存在下(黒塗り記号)において、各々のmAbによって生成されるO.D.405読み取りを示す。このコントロールIgM mAbは、より大きい親和性を有する抗原性基質であるプスツランとの反応の際だけでなく、親和性の低下している抗原であるラミナリンとの反応の際でさえIgG mAbを追放する顕著な能力を示した。
【0100】
(9.C.albicans細胞上でのmAb 2G8およびIgMコントロールのmAbエピトープの発現)
未処理の、生きた酵母細胞(a、e)または芽管(b、f)、ジチオスレイトールおよびプロテイナーゼK(c、g)およびC.albicansから精製したグルカンゴーストで処置した酵母細胞を、顕微鏡スライド上にスポットして、mAb 2G8(a、b、c、d)またはコントロールのIgM mAb(e、f、g、h)と反応させた。mAb連結は、フルオレセインイソチオシアネート結合体抗マウスIgGまたはIgM抗体(Sigma)で明らかにして、Leitz Diaplan蛍光顕微鏡で観察した。
【0101】
生きた、インタクトな酵母または芽管細胞の免疫蛍光染色によって、mAb 2G8エピトープが、インビトロ培養されたCandida細胞において細胞表面上では発現されなかったことが実証された(図6、a、b)。酵母および芽管の両方の表面がコントロールのIgM mAbと陽性に反応した(図6、e、f)が、均一ではなかった。コントロールのIgM mAbの優先的なエピトープは、酵母細胞の特定のゾーンにおいて特に顕著であり、明らかに出芽痕に相当し、そして出芽上である。芽管では、IgMコントロールmAbは、母の酵母細胞と突出する菌糸フィラメントとの間の一次隔壁、および菌糸フィラメント自体の特定の領域を特定の強度で染色すると思われた(図6、e、fおよび比較上の挿入)。ジチオスレイトールおよびプロテイナーゼKでの処置であって、表在性の、マンノタンパク質の、細胞壁層を除去することが公知である処置によって、酵母細胞はコントロールのIgM mAbと均一に反応性にされて、またいくつかのmAb 2G8反応性細胞壁成分を露出した(図6、c、g)。両方のmAbとも、精製されたグルカンのゴースト、すなわち、強力な熱アルカリおよび酸の抽出によって可溶性の外壁および内部細胞壁および細胞質成分を枯渇した細胞との強力かつ匹敵する強度の反応性を示した(図6、d、h)。
【0102】
mAb 2G8は細胞内壁層に拘束された構成を優先的に認識したが、コントロールのIgM mAbは細胞壁全体にまたがるエピトープを優先的に認識したと結論できる。これは、β−1,3およびβ−1,6グルカンについてのmAbの提唱された異なる優先度と、そして酵母の細胞壁の微細な構造的機構に対する現在の知識と一致している[63]。詳細には、コントロールのIgM mAb優先のβ−1,6グルカンエピトープが表面発現されるという知見は、β−1,6−連結したグルカン部分がCandida細胞壁の表在性のカプセル様マンノタンパク質層と緊密に内部接続されるという知見と調和している[63]。
【0103】
(10.2G8は播種性の実験的カンジダ症に対して防御し得るが、コントロールのIgM抗グルカンmAbは防御できない)
抗βグルカン抗体は、グルカン露出Candida細胞でのワクチン接種によって誘導される播種性Candida感染に対する防御に対して有意に寄与し得ることが示唆されている[59]。本発明の抗グルカンmAbは、播種性カンジダ症のマウスモデルにおいてアッセイされた。
【0104】
CD2F1マウスには、等価な抗グルカン力価およびタンパク質含量の2G8またはコントロールのIgM精製mAb調製物の単回の腹腔内(i.p.)投与(0.5ml)を与え、続いて、2時間後に、C.albicansの致死量未満のi.v.チャレンジを行った。
【0105】
Aでは、3匹のマウスの群に、mAb 2G8またはコントロールのIgMの0.5mlの精製された調製物を用いて、またはPBSのみ(コントロール)を用いて腹腔内(i.p.)注射した。Bでは、マウスに、0.25mlのPBSで希釈した各々のmAbの0.25ml、またはその2つの混合物(全部で0.5ml)を与えた。C.albicansの5×105個の細胞を、動物に2時間後に静脈内(i.v.)にチャレンジした。
【0106】
チャレンジの2日後、その動物を屠殺して、腎臓における真菌の負荷を古典的なCFUの羅列によって評価して、コントロールのPBS処置したマウスと比較した防御を決定した。3つの独立した実験からの結果を図7、パネルaに示す。データは、各々の群で測定したCFUカウントの加重平均+SEに相当する。アスタリスクは、コントロール群と比較した(両側スチューデントt検定)統計的に有意な相違(*P<0.05および**P<0.001)を示す。
【0107】
これらのインビボ実験、および単回のmAb投与の使用の周知でかつ期待された変動にかかわらず、mAb 2G8を投与されている動物は、コントロールのIgM mAbを投与されている動物、または緩衝液のみで処置したコントロールの動物よりもその腎臓において真菌細胞が有意に少なかったということが見出された。1実験では、マウス腎臓のCandidaコロニー形成は、mAb処置によって実質的に無効にされた。興味深いことに、コントロールのIgM mAbは対照的な真菌の侵入においては完全に無効であった。なぜなら処置されたマウスは常にその腎臓においてCFUカウントを示し、これはコントロール群において測定したカウントに匹敵するかまたは高くさえあったからである。
【0108】
別の実験では、動物は、両方のmAbを、半分の強度で、投与され、そして防御能力は、単独の半分の強度のmAbと比較された(図7、パネルb)。興味深いことに、コントロールのIgM mAbは、それ自体によって防御を付与できないだけでなく、また抗β―1−3 mAbによって付与された防御を無効にもし得る。これは、引用文献64で示唆されたようないくつかの抗細胞表面特性について抗体をブロックするという提唱された役割と一致している。
【0109】
2G8 mAbによって発揮された防御活性をさらに検討するために、致死量の真菌チャレンジ後のmAb処置マウスの生存もモニターした。予備実験(図8)では、マウス(1群あたり7匹)に、図7の実験と同じ用量の精製されたmAbまたはPBSのみ(コントロール)をi.p.投与した。2時間後、動物に106個の細胞のC.albicansを静脈内チャレンジした。チャレンジの2時間前のmAb 2G8の単回のi.p.注射によってマウスの生存は、コントロールのIgM mAbによる防御効果の完全な欠失と対照的に、有意に延長された。
【0110】
(11.2G8は、AspergillusおよびCandidaに結合して、真菌の増殖を阻害する)
抗ラミナリン血清および2G8 mAbを以下の免疫蛍光染色のために用いた:(i)C.albicansの単離されたβグルカン細胞壁ゴースト;(ii)C.albicansの芽管;(iii)C.albicansの菌糸フィラメント;(iv)A.fumigatusの出芽した分生子;および(v)A.fumigatusの菌糸。結果を図9に示す。パネル(a)、(b)、(c)、(g)および(h)は、抗ラミナリン血清を用いた結果を示す;パネル(d)、(e)、(f)および(i)は、2G8を用いる結果を示す。このように両方の抗体調製物ともが、真菌サンプルの全てに結合する。
【0111】
さらに、C.albicansおよびA.fumigatusのインビトロ増殖は、抗βグルカン抗体によって有意に制限され、そしてLam−CRMワクチン接種はA.fumigatusでの全身的なチャレンジに対して供されたマウスの生存を有意に延長する。
【0112】
図10Aは、まるごとまたは1:10希釈された抗Lam−CRMまたはコントロールの血清の存在下で一晩増殖したC.albicans培養物におけるCFUの数を示しており、そして抗グルカン血清はコントロールに比較して増殖を有意に減少する。
【0113】
図11は、2G8 mAbによる、またはコントロールの抗CRM mAbによるC.albicans CFU減少の用量応答を示す。2G8は、0.25および0.1mg/mlでの有意に良好なCFUの減少を示す。
【0114】
図12は、3Hグルコース組み込みアッセイによって評価した場合の、A.fumigatusのインビトロ増殖に対する抗Lam−CRMおよびコントロールの抗CRMの効果を示す。
【0115】
図13は、Lam−CRM結合体またはCRMのいずれかで免疫した後のA.fumigatusでの静脈内チャレンジを生存するマウスの数を示す。
【0116】
本発明は、例示のために記載されただけであって、本発明の範囲および趣旨の範囲内におさまったままで改変がなされ得ることが理解される。
【0117】
(参考文献(これらの内容は本明細書中で参考として援用される))
【0118】
【化1】
【0119】
【化2】
(配列表)
【0120】
【化3】
【技術分野】
【0001】
本明細書に引用される全ての文書は、その全体が参照によって援用される。
【0002】
(技術分野)
本発明は、詳細には真菌感染および疾患の処置における、モノクローナル抗体および治療におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
真菌感染は、いくつかの臨床設定において、詳細には、免疫無防備状態の患者において蔓延している。抗真菌剤、詳細にはアゾールに対する耐性の出現は、これらの真菌に対する治療的および予防的なワクチン接種において関心が増大している(非特許文献1[参考文献1])。真菌の病原体のうちでCandida albicansは、最も流行性のうちの1つである。この生物体は、ヒトでの広範な日和見感染の重要な因子の1つであり、正常な患者および免疫無防備状態の患者の両方で見出されるカンジダ症を生じる。
【0004】
真菌に対する首尾よい宿主防御にとって細胞免疫が重要である医学的方法論の分野では広範なコンセンサスがある(非特許文献2[参考文献2])が、2つの主要な真菌病原体(C.albicansおよびC.neoformans)に対する防御における体液性免疫の潜在的な有効性が注目を集めている(非特許文献3[参考文献3])。C.neofoemansについては、莢膜のグルクロノオキシロマンナン(glucuronoxylomannan)に対する抗体が、感染の動物モデルにおいて防御を媒介することが示されている。C.albicansにとって、細胞表面のマンノタンパク質は、C.albicansの主要な抗原性成分であり、そして、マンナン、プロテアーゼおよび熱ショックタンパク質に対する抗体は、感染に対する防御に関連している。他のワクチン候補物としては以下が挙げられる:アスパルチルプロテイナーゼ(Sap2)ファミリーのメンバー;65kDaのマンノタンパク質(MP65)(非特許文献4[参考文献4]);ホスホマンナン細胞壁複合体から単離された接着分子(特許文献1、特許文献2[参考文献5]);Candidaのホスホマンナン複合体のマンナン部分由来のエピトープを模倣するペプチド(特許文献3、特許文献4[参考文献6]);および溶血素(ヘモリシン)様タンパク質(特許文献5[参考文献7])。
グルカンは、とりわけ真菌の細胞壁で見出されるグルコース含有ポリサッカライドである。α−グルカンは、グルコースサブユニットの間に一つ以上のα結合を含み、そしてβグルカンは、グルコースサブユニットの間に一つ以上のβ結合を含む。代表的な真菌の細胞壁のなかでは、β−1,3−グルカンミクロフィブリルが織り合わされ、キチンのミクロフィブリルと架橋されて、内部骨格層を形成するが、外層は、β−1,6−グルカンおよびマンノタンパク質から構成されて、キチンおよびβ−1,3−グルカンを介して内層に結合される。
C.albicansでは、細胞壁の50〜70%が、β−1,3−およびβ−1,6−グルカンから構成される。C.alobicansのβ−1,6−グルカンに対する防御的な抗体は、マウスで生成されている(特許文献6[参考文献8])。抗β−1,6−グルカン抗体がマンノタンパク質枯渇C.albicans細胞を用いてイディオタイプのワクチン接種によって惹起されたマウスは、C.albicansによる全身的なチャレンジに対してある程度の防御を有することが示された。さらに、これらの抗β−1,6−グルカン抗体で受動的に免疫されたマウスは、C.albicansに対する防御のレベルの上昇を示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5,578,309号明細書
【特許文献2】国際公開第95/31998号パンフレット
【特許文献3】米国特許第6,309,642号明細書
【特許文献4】国際公開第98/23287号パンフレット
【特許文献5】国際公開第01/51517号パンフレット
【特許文献6】国際公開第03/097091号パンフレット
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Deepe,Clin.Microbiol.Rev.,1997年,第10巻,p.585−596
【非特許文献2】Polonelliら,Med Mycol,2000年,第38巻,補遺1,p.281−292
【非特許文献3】Casadevall,Infect.Immun.,1995年,第63巻,p.4211−4218
【非特許文献4】Cassone,Nippon Ishinkin Gakkai Zasshi,2000年,第41巻,第4号,p.219
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
感染に対する、詳細には微生物感染に対する治療的な免疫応答を誘導するためのさらに良好かつより良好なモノクローナル抗体を提供することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の開示)
β−1,3−グルカンは、多くの微生物の細胞壁成分であるが、天然では免疫原として劣る。従って、抗−β1,3−グルカン抗体は、治療における用途については以前には特に考慮されてはいない。上記で考察したとおり、抗−β−1,6−グルカン抗体は、真菌チャンレンジに対してある程度の防御を提供することが公知である。本発明者らは、抗−β−1,3−グルカン抗体が、抗−β−1,6−グルカン抗体よりも真菌のチャレンジに対して有効性であり得ることを発見している。
【0009】
従って、本発明は、β−1,3−グルカンを検出しかつそれに結合するモノクローナル抗体、この抗体を生成するハイブリドーマ細胞株、および微生物感染、詳細には、Candida albicansまたはAspergillus fumigatis感染に対する処置のためにこのような抗体を用いる方法に関する。本発明の抗体は、β−1,6−グルカンに特異的ではない。
本発明は例えば、以下の項目を提供する:
(項目1)
微生物性病原体による感染に対して哺乳動物を防御し得るモノクローナル抗体であって、該病原体がβ−1,3−グルカンおよびβ−1,6−グルカンを含む細胞壁を有し、該モノクローナル抗体が該β−1,6−グルカンよりも該β−1,3−グルカンに優先的な結合を示す、モノクローナル抗体。
(項目2)
前記抗体が、配列番号4、6、8、10、12および14の1つ以上から選択されるアミノ酸配列を有する1つ以上のCDRを含む、項目1に記載の抗体。
(項目3)
前記抗体が、配列番号1および/または配列番号2の可変ドメイン配列を有する、項目1に記載の抗体。
(項目4)
前記抗体がヒト抗体もしくはヒト化抗体であるか、またはキメラ抗体である、項目1〜3のいずれか1項に記載の抗体
(項目5)
前記抗体が単鎖抗体である、項目1〜3のいずれか1項に記載の抗体。
(項目6)
前記抗体が微生物病原体に対する微生物活性を有する、項目1〜5のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体。
(項目7)
前記微生物病原体が:Candida;Cryptococcus;Enterococcus;Streptococcus;Leishmania;Acanthamoeba種;Aspergillus種;Pneumocystis種;Mycobacterium種;Pseudomonas種;Staphylococcus種;Salmonella種;Coccidioides;Trichophyton;Blastomyces;Histoplasma;Paracoccidioides;PythiumnまたはEscherichiaである、項目6に記載のモノクローナル抗体。
(項目8)
前記微生物がC.albicansである、項目7に記載のモノクローナル抗体。
(項目9)
前記微生物がA.fumigatusである、項目7に記載のモノクローナル抗体。
(項目10)
医薬としての使用のための項目1〜9のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体。
(項目11)
項目1〜9のいずれか1項に記載の抗体を発現するハイブリドーマ。
(項目12)
項目1〜9のいずれか1項に記載の抗体をコードする核酸。
(項目13)
項目12の核酸を含む発現ベクター。
(項目14)
項目12の発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
(項目15)
項目1〜9のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体および薬学的に受容可能なキャリアを含む薬学的組成物。
(項目16)
抗真菌薬をさらに含む、項目15に記載の組成物。
(項目17)
微生物感染に対して患者を防御する方法であって、項目15に記載の薬学的組成物を該患者に投与する工程を包含する、方法。
(項目18)
微生物感染に対する患者の防御のための医薬の製造における、項目1〜9のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体の使用。
(項目19)
前記患者が、ヒト患者、女性患者、妊娠中の患者、免疫無防備状態の患者もしくは免疫抑制された患者であるか、または抗生物質治療もしくは化学療法を受けている患者であるか、全身的な微生物感染を有する患者であるか、静脈内カテーテルを留置している患者であるか、HIV;AIDS;好中球減少;以前の真菌コロニー形成;糖尿病;白血病;リンパ腫:火傷;浸軟;口腔感染を有する患者であるか;以前に血液透析を受けた患者であるかもしくは器官移植を受けている患者である、項目17に記載の方法、あるいは項目18に記載の使用。
(項目20)
アスペルギルス症、クリプトコックス症、皮膚真菌症、スポロトリクス症および他の皮下真菌症、ブラストミセス症、ヒストプラスマ症、コクシジオイデス真菌症、パラコクシジオイドミコーシス、ニューモシスティス症、鵞口瘡、結核、ミコバクテリア症、呼吸器感染、猩紅熱、肺炎、膿痂疹、リウマチ熱、セプシス、敗血症、皮膚および内蔵のリーシュマニア症、角膜アカントアメーバ症、角膜炎、嚢胞性線維症、腸チフス、胃腸炎および溶血性尿毒症症候群に対する防御のための、項目17に記載の方法、または項目18に記載の使用。
(項目21)
カンジダ症に対する防御のための、項目17に記載の方法、または項目18に記載の使用。
【0010】
(本発明の抗体)
本発明は、微生物病原体による感染に対して哺乳動物を防御し得るモノクローナル抗体を提供する。この病原体は、β−1,3−グルカンおよびβ−1,6−グルカンを含む細胞壁を有し、そしてこのモノクローナル抗体は、β−1,6−グルカンよりもβ−1,3−グルカンに優先的な結合を示す。この抗体は好ましくは、殺菌性の活性を有する。本発明はまた、これらのモノクローナル抗体のフラグメント、詳細には、この抗体の抗原結合活性を保持するフラグメントを提供する。
【0011】
β−1,6−グルカンよりもβ−1,3−グルカンに優先的な結合を示す抗体は、もし同じ条件下であれば、β−1,6−グルカンとよりもβ−1,3−グルカンとより強力に結合する(例えば、間接的なELISA試験において光学密度(OD)読み取りとして測定した場合)。示差的な反応性は、例えば、一定の抗体濃度をスカラー濃度の抗原(β−1,3−グルカンおよびβ−1,6−グルカン)とともにインキュベートすることによって決定され得る。等価なOD読み取りを得るためには、アフィニティーの低い抗原ほど高い濃度が必要である(例えば、≧10×、>100×)。
【0012】
あるいは、競合阻害ELISA実験を用いて、異なる結合を決定してもよい。例えば、各々の抗体を細胞壁グリカンと反応させ、そしてβ−1,3−グルカンまたはβ−1,6−グルカンのいずれかを可溶性相の競合因子として添加する。例えば、細胞壁グリカンに対する抗体結合の50%阻害を生じるのに必要な遊離のβ−1,3−グルカンの濃度が、同じ細胞壁グリカンに対する抗体結合の50%阻害を生じるのに必要な遊離のβ−1,6−グルカンの濃度よりも10分の1未満である場合、抗体はβ−1,6−グルカンよりもβ−1,3−グルカンに優先的な結合を示す。
【0013】
C.albicansについては、細胞壁グリカンは好ましくは、「GG−zym」可溶性グルカン抗原である[8]。これらは、(i)精製されたβ−1,3−グルカンおよびβ−1,6−グルカンを得るために真菌細胞壁の熱アルカリ−酸抽出を反復することによりグルカンのゴーストを調製すること、ならびに(ii)このゴーストをβ−1,3−グルカナーゼを用いて37℃で1時間消化することによって、得られる。このグリカンは、阻害試験のために固定され得る。
【0014】
「モノクローナル抗体(monoclonal antibody)」という用語は、利用可能な任意の種々の人工的な抗体および抗体由来タンパク質、例えば、ヒト抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、単一ドメインの抗体、単鎖Fv(scFV)抗体、モノクローナルオリゴ抗体(oligobody)、二量体または三量体の抗体フラグメントもしくは構築物、ミニ抗体(minibody)または該当の抗原に結合するそれらの機能的なフラグメントを包含する。
【0015】
天然の抗体分子では、2つの重鎖および2つの軽鎖がある。各々の重鎖および各々の軽鎖は、そのN末端で可変ドメインを有する。各々の可変ドメインは、3つの相補性決定領域(CDR)が交互に存在する4つのフレームワーク領域(FR)から構成される。可変ドメインにおける残基は、Kabatらによって考案されたシステムに従って適宜番号付けされる[9]。このKabat残基命名は、アミノ酸残基の直線の番号付けと常に直接対応するのではなく、直線的なアミノ酸配列は、厳密なKabat番号付けによりもすくないかまたは追加のアミノ酸を含んでもよい。これは、フレームワークでもCDRでもよいが、基本的な可変ドメイン構造の、構造成分の短縮またはそれへの挿入に相当し得る。
【0016】
本発明の好ましい抗体は2G8(配列番号1および2)である。2G8の重鎖可変ドメイン(配列番号2)は、残基23〜30(CDR−H1、配列番号4)、残基48〜55(CDR−H2、配列番号6)および残基94〜102(CDR−H3、配列番号8)に位置するCDRを含む。2G8の軽鎖可変ドメイン(配列番号1)は、残基27〜37(CDR−L1、配列番号10)、残基55〜58(CDR−L2、配列番号12)および残基94〜102(CDR−L3、配列番号14)に位置するCDRを含む。
【0017】
βグルカンに特異性を有し、かつ2G8由来のCDRの一つ以上(例えば、1、2、3、4、5、または6)を含む抗体も、一つ以上(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15)のフレームワーク残基が他のアミノ酸で置換される2G8の誘導体と同様に好ましい。N末端またはC末端で2G8または誘導体を含む融合タンパク質も有用である。2G8 CDRは、1、2、3または4つのアミノ酸残基を必要に応じて各々が含んでもよい。
【0018】
好ましくは、本発明の抗体の重鎖は、配列番号3、5および7によってコードされる一つ以上(例えば、1、2または3)のCDRを含む。好ましくは、本発明の抗体の軽鎖は、配列番号9、11および13によってコードされるCDRの一つ以上(例えば、1、2、または3)を含む。
【0019】
抗体2G8は、マウス由来である。ヒトにおける非特異的な抗マウス免疫応答を回避するために、本発明の抗体は好ましくはヒト化またはキメラ抗体である[例えば、引用文献10および11]。代替的には、完全ヒト抗体を用いてもよい。
【0020】
キメラ抗体では、非ヒト定常領域をヒト定常領域によって置換するが、可変領域は非ヒトのままである。ヒト化抗体は、例えば以下を含む種々の方法によって達成され得る:(1)非ヒト抗体由来の一つ以上のフレームワーク残基の選択的なさらなる移入(「ヒト化(humanizing)」)を伴う、ヒトフレームワーク上への非ヒト可変領域由来の相補性決定領域(CDR)のグラフティング(grafting)(「CDR−グラフティング」);(2)非ヒト可変ドメイン全体を移植するが、ただし、表面残基の置換によってヒト様表面を用いてそれらを「クローキング、覆い隠すこと(cloaking)」「ベニヤリング(veneering)」。本発明では、ヒト化抗体としては、CDRグラフティング、ヒト化および可変領域のベニヤリングによって得られる抗体が挙げられる[例えば、引用文献12〜18]。
【0021】
ヒト化抗体または完全ヒト抗体はまた、ヒト免疫グロブリン遺伝子座を含むように操作されているトランスジェニック動物を用いて生成されてもよい。例えば、引用文献19は、ヒトIg遺伝子座を有するトランスジェニック動物であって、内因性の重鎖および軽鎖の遺伝子の不活性化に起因して機能的な内因性の免疫グロブリンを生じない動物を開示している。引用文献20はまた、免疫原に対する免疫応答を増大し得るトランスジェニック非霊長類哺乳動物宿主を開示しており、ここでこの抗体は、霊長類の定常領域および/または可変領域を有し、この内因性の免疫グロブリンコード遺伝子座は、置換されるかまたは不活性である。引用文献21は、定常領域または可変領域の全てまたは一部を置換して改変された抗体分子を形成するためなどの、哺乳動物における免疫グロブリン遺伝子座を改変するためのCre/Lox系の使用を開示している。引用文献22は、不活性化された内因性のIg遺伝子座および機能的なヒトIg遺伝子座を有する非ヒト哺乳動物宿主を開示する。引用文献23は、トランスジェニックマウスを作成する方法を開示しているが、このマウスは内因性の重鎖を欠き、そして一つ以上の異種定常領域を含む内因性の免疫グロブリン遺伝子座を発現する。
【0022】
抗体は通常2つの別々の鎖を有するが、軽鎖および重鎖の可変ドメインが、リンカーによって結合されて単一のポリペプチド鎖を生じる、単鎖抗体(「sFv」)を用いることが好ましい。scFvを調製するためのキットは、市販されており、そして抗リガンドscFvが本発明での使用のための好ましい第二の配列である。単一のドメイン抗体はまた、ラクダ科の動物もしくはサメ類から[24]、またはラクダ化(camelisation)によって得ることができる[25]。
【0023】
sFvポリペプチドは、共有結合されたVH−VLヘテロ二量体であって、これは、ペプチドコードリンカーによって連結されたVH−およびVLコード遺伝子を含む遺伝子融合物から発現される[26]。抗原結合部位の構造と実質的に類似である三次元構造に折り畳む、天然には会合されているが化学的に分離された軽鎖および重鎖のポリペプチド鎖を抗体V領域からsFv分子への変換する、化学的構造(リンカー)を識別および開発するための多くの方法が記載されている。例えば、引用文献27〜29を参照のこと。このsFv分子は、当該分野で記載された方法を用いて生成され得る。設計基準は、1つの鎖のC末端と他の鎖のN末端との間の距離にまたがる適切な長さを決定する工程を包含しており、ここでは、このリンカーは一般に、巻くこともなく、二次構造を形成することもない、小型親水性アミノ酸残基から形成される。このような方法は、当該分野で記載されている[例えば、引用文献27〜29]。適切なリンカーは一般に、グリシンおよびセリン残基の交互のセットのポリペプチド鎖を含み、そして可溶性を向上するために挿入されたグルタミン酸およびリジン残基を含んでもよい。
【0024】
「ミニ−抗体(mini−antibody)」または「ミニ抗体(minibody)」はまた、本発明での用途を見出す。ミニ抗体は、ヒンジ領域によってsFvから隔てられた、C末端でオリゴマー化ドメインを含むsFvポリペプチド鎖である[30]。このオリゴマー化ドメインは、自己会合αらせん、例えば、ロイシンジッパーを含み、これはさらなるジスフルフィド結合によってさらに安定化され得る。このオリゴマー化ドメインは、機能的な結合タンパク質へのポリペプチドのインビボ折り畳みを容易にすると考えられるプロセスである、膜を横切る方向性の折り畳みと適合するように設計される。一般には、ミニ抗体は、当該分野で周知の組み換え方法を用いて生成される。例えば、引用文献30および31を参照のこと。
【0025】
「オリゴ抗体(oligobody)」はまた、本発明での用途を見出す。オリゴ抗体は、合成の抗体である。これらの試薬の特異性は、ウェスタンブロット分析および免疫組織化学によって実証されている。それらは、いくつかの所望される特性を有する、すなわち、それらの生成は免疫系と独立しているので、2〜3日で調製可能であり、精製された標的タンパク質を必要としない[32]。オリゴ抗体は、当該分野で周知の組み換え方法を用いて生成される[33]。
【0026】
本発明の抗体は、好ましくは中和抗体であり、すなわち、それらは、病原体(例えば、C.albicans)が宿主における感染を開始および/または永続させる能力を中和し得る。この抗体は好ましくは、10−9M未満の濃度で中和し得る(例えば、10−10M、10−11M、10−12Mまたはそれ未満)。
【0027】
抗体は、当業者に周知の技術を用いて生成される[例えば、引用文献34〜39]。モノクローナル抗体は一般には、KohlerおよびMilstein(1975)[40]の方法またはその変法を用いて調製される。代表的には、マウスまたはラットは、上記のように免疫される。ウサギを用いてもよい。しかし、血清を抽出するために動物を採血するよりも、脾臓(および必要に応じていくつかの大きいリンパ節)を取り出して、単一の細胞に解離させる。必要に応じて、抗原でコーティングされたプレートまたはウェルに対して細胞懸濁液を適用することによって、脾細胞をスクリーニングしてもよい(非特異的な接着細胞の除去後)。抗原に特異的な膜結合免疫グロブリンを発現するB細胞は、プレートに結合し、そして懸濁液の残りとともに洗い流されることはない。次いで、得られたB細胞または全ての解離された脾細胞を骨髄腫細胞と融合するように誘導して、ハイブリドーマを形成し、選択培地(例えば、ヒポキサンチン・アミノプテリン・チミジン培地「HAT」)中で培養する。得られたハイブリドーマを、限界希釈法によってプレートして、免疫抗原に特異的に結合する(かつ未関連の抗原には結合しない)抗体の産生についてアッセイする。次いで、選択されたモノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマをインビトロにおいて(例えば、組織培養ボトルまたは中空ファイバーリアクターにおいて)、またはインビボにおいて(例えば、マウスの腹水として)のいずれかで培養する。
【0028】
本発明はまた、本発明の抗体を発現するハイブリドーマを提供する。このハイブリドーマは、種々の方法において、例えば、モノクローナル抗体の供給源として、または引き続く組み換え発現のための抗体遺伝子のクローニングのために本発明のモノクローナル抗体をコードする核酸(DNAまたはmRNA)の供給源として用いられ得る。
【0029】
本発明の抗体は、任意の適切な方法によって(例えば、組み換え発現によって)生成され得る。組み換え供給源由来の発現は、B細胞またはハイブリドーマからの発現よりも薬学的な目的のため、例えば、安定性、再現性、培養の容易さなどの理由のためには一般的である。
【0030】
本発明は、目的の抗体をコードする一つ以上の核酸分子(例えば、重鎖および軽鎖の遺伝子)を調製するための方法を提供し、この方法は、以下の工程を包含する:(i)上記のような本発明の抗体を発現するハイブリドーマを調製する工程と;(ii)目的の抗体をコードする核酸をこのハイブリドーマから得る工程。本発明はまた、目的の抗体をコードする核酸配列を得るための方法を提供し、この方法は、以下の工程を包含する:(i)本発明に従ってハイブリドーマを調製する工程と;(ii)本発明の抗体をコードする、ハイブリドーマ由来の核酸を配列決定する工程。
【0031】
従って、本発明はまた、組み換え細胞を調製するための方法を提供し、この方法は以下の工程を包含する:(i)上記のような本発明の抗体を発現するハイブリドーマを調製する工程と;(ii)一つ以上の核酸(例えば、重鎖および/または軽鎖の遺伝子)をこのハイブリドーマから得る工程と;(iii)この核酸を発現ベクターに挿入する工程と;(iv)この発現ベクターを用いてこの発現宿主を形質転換して、その宿主における目的の抗体の発現を可能にさせる工程と。
【0032】
同様に、本発明はまた、組み換え細胞を調製するための方法を提供し、この方法は、以下の工程を包含する:(i)上記のような本発明の抗体を発現するハイブリドーマを調製する工程と;(ii)目的の抗体をコードする、このハイブリドーマ由来の核酸(単数または複数)を配列決定する工程と;(iii)工程(ii)からの配列情報を用いて、発現ベクターに挿入するための核酸(単数または複数)を調製する工程と;(iv)この発現ベクターを用いて発現宿主を形質転換して、その宿主において目的の抗体の発現を可能にする工程と。
【0033】
抗体の鎖の2つ以上をコードする核酸配列を含む、単一の発現ベクターを構築してもよい。例えば、重鎖および軽鎖をコードする核酸配列は、同じ発現ベクター上の異なる部分に挿入されてもよい。あるいは、各々の鎖をコードする核酸配列は、個々に発現ベクターに挿入されてもよく、その結果、各々が特定の鎖をコードする多数の構築された発現ベクターが生成される。好ましくは、この配列が挿入されている発現ベクターが適している。
【0034】
次いで、本発明の形質転換された細胞を、発現および培養の目的のために用いてもよい。それらは、大規模な薬学的な製造のための抗体の発現のために特に有用である。それらはまた、薬学的組成物の活性な成分として用いられてもよい。任意の適切な培養技術を用いてもよく、これには、限定はしないが、静置培養、ローラーボトル培養、腹水、中空ファイバー型バイオリアクターカートリッジ、モジュラーミニ発酵槽、攪拌タンク、マイクロキャリア培養、セラミックコア灌流などが挙げられる。
【0035】
ハイブリドーマから免疫グロブリン遺伝子を得て配列決定するための方法は、当該分野において周知である。例えば、引用文献41の第4章を参照のこと。
【0036】
発現宿主は好ましくは、真核生物細胞であり、これには、酵母および動物の細胞、特に哺乳動物細胞(例えば、CHO細胞、ヒト細胞、例えば、PER.C6(Crucell[42])またはHKB−11(Bayer;[43,44])細胞、骨髄腫細胞[45、46]など)、ならびに植物の細胞が挙げられる。好ましい発現宿主は、本発明の抗体をグシコリシル化し得、詳細には、ヒトにおいてそれ自体が免疫原性ではない炭水化物構造を有する。無血清培地中で増殖し得る発現宿主が好ましい。動物由来の生成物の存在なしで、培養物中で増殖し得る発現宿主が好ましい。
【0037】
発現宿主を培養して、細胞株を得てもよい。
【0038】
β−1,3−グルカン抗原を認識する能力を保持している抗体フラグメントも、本発明の範囲内に包含される。インタクトな抗体分子の免疫学的結合特性を示し得る抗原結合部位を含む多数の抗体フラグメントが当該分野で公知である。例えば、機能的な抗体フラグメントは、抗原結合を担わない定常領域を、例えば、ペプシンを用いて抗体分子から切断してF(ab’)2フラグメントを生成することによって生成され得る。これらのフラグメントは、2つの抗原結合部位を含むが、重鎖の各々から定常領域の一部を欠く。同様に、必要に応じて、単一の抗原結合部位を含むFabフラグメントを、例えば、パパインでのモノクローナル抗体の消化によって生成してもよい。重鎖および軽鎖の可変領域のみを含む機能的フラグメントはまた、免疫グロブリン分子の組み換え生成または優先的なタンパク質分解性切断のような標準的な技術を用いて生成され得る。これらのフラグメントはFvとして公知である。例えば、引用文献47〜49を参照のこと。
【0039】
慣習的でない方法を用いても、本発明の抗体を生成し、同定することが可能である。例えば、ファージディスプレイライブラリーを、本発明の抗体についてスクリーニングしてもよい[50〜53]。
【0040】
モノクローナル抗体は、それらで検出される個々のポリペプチドまたは他の抗原の同定および精製において得に有用である。本発明のモノクローナル抗体は、それらが、イムノアッセイ、ラジオイムノアッセイ(RIA)、または酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)における試薬として使用され得るという点でさらに有用性を有する。これらの適用では、抗体は、放射性同位体、蛍光分子または酵素のような分析的に検出可能な試薬で標識され得る。例えば、本発明のモノクローナル抗体は、カンジダ症またはアスペルギルス症に罹患している患者において循環中のβ−1,3−グルカンを検出するために用いられ得る[54]。
【0041】
本発明の抗体は、処置部位への送達のために薬物に対して結合されてもよいし、またはガン細胞のような目的の細胞を含む部位の画像化を容易にするために検出可能標識に結合されてもよい。薬物および検出可能標識へ抗体を結合させるための方法は、検出可能な標識を用いる画像化のための方法と同様に当該分野で周知である。
【0042】
本発明の抗体は、固体支持体に結合されてもよい。
【0043】
本発明の抗体は、アイソタイプIgA,または好ましくはIgG、すなわち、αまたはγ重鎖であってもよい。IgGアイソタイプでは、抗体は、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4サブクラスであってもよい。本発明の抗体は、κ軽鎖またはλ軽鎖を有し得る。
【0044】
(殺菌活性)
本発明のモノクローナル抗体は好ましくは、殺菌活性を有する。
【0045】
好ましくは、このモノクローナル抗体は、抗真菌活性および/または抗細菌活性を有する。抗細菌活性は、グラム陰性またはグラム陽性の細菌に対するものであり得る。
【0046】
より好ましくは、このモノクローナル抗体は、グルカンベースの細胞壁を有する微生物に対して活性を有する。
【0047】
より好ましくは、このモノクローナル抗体は、β−1,3−結合オリゴ糖細胞壁を含む微生物に対して活性を有する。
【0048】
最も好ましくは、このモノクローナル抗体は、Candida albicansに対するおよび/またはAspergillus fumigatisに対する活性を有する。
【0049】
(薬学的組成物)
製剤の活性成分としてのモノクローナル抗体の使用は現在広範であり、これには、製品であるHerceptinTM(transtuzumab)、RituxanTM、CampathTM、RemicadeTM、ReoProTM、MylotargTM、ZevalinTM、Omalizumab、SynagisTM(Palivizumab)、ZenapaxTM(daclizumab)などが挙げられる。これらは、ヒト自己抗原を認識する抗体(例えば、HerceptinTMはHer2マーカーを認識する)および病原体由来の抗原を認識する抗体(例えば、SynagisTMは呼吸器合胞体ウイルス由来の抗原を認識する)を含む。
【0050】
本発明は、(1)本発明のモノクローナル抗体および(2)薬学的に受容可能なキャリアを含む薬学的組成物を提供する。
【0051】
本発明は、製剤を調製する方法を提供し、この方法は、以下の工程を包含する:(i)本発明のモノクローナル抗体を調製する工程と;(ii)この精製された抗体を一つ以上の薬学的に受容可能なキャリアとを混合する工程と。
【0052】
この組成物は好ましくは、抗グルカン抗体の防御有効性を阻害する抗体を実質的に含まない。例えば、グルカンが真菌のβ−1,3−グルカンであれば、その組成物は好ましくは、実質的に非グルカン細胞壁成分に対する抗体、例えば、抗マンノタンパク質抗体を実質的に含まない。
【0053】
成分(1)は、組成物における活性成分であり、これは治療上有効な量、すなわち、患者における微生物/ウイルスの増殖および/または生存を阻害するのに十分な量、そして好ましくは、微生物感染を排除するのに十分な量で存在する。所定の患者についての正確な有効量は、そのサイズおよび健康度、性質および感染の程度、ならびに投与のために選択される組成物または組成物の組み合わせに依存する。有効量は、慣用的な実験によって決定されてもよく、そして臨床家の判断の範囲内である。本発明の目的のためには、有効な用量は一般には、投与される個体において、本発明の組成物の約0.01mg/kg〜約5mg/kg、または約0.01mg/kg〜約50mg/kg、または約0.05mg/kg〜約10mg/kgである。公知の抗体製剤では、これに関する手引きが得られ、例えば、HerceptinTMは、溶液1mlあたり21mg/mlの静脈内注入によって投与され、ここでは体重1kgあたり4mgという初期ローディング用量および体重1kgあたり2mgという毎週の維持用量である;RituxanTMは、毎週、例えば、375mg/m2で投与される;など。ポリペプチド、抗体および核酸に基づく薬学的組成物は、当該分野で周知である。ポリペプチドは、塩および/またはエステルの形態で組成物に含まれてもよい。
【0054】
キャリア(2)とは、その組成物を投与される患者に有害な抗体の生成をそれ自体が誘導せず、かつ過度の毒性なしに投与され得る任意の物質であり得る。適切なキャリアは、大型の緩徐に代謝される高分子、例えば、タンパク質、ポリサッカライド、ポリアクチック酸(polyactic acid)、ポリグリコール酸、ポリマーアミノ酸、アミノ酸コポリマーおよび不活性なウイルス粒子であってもよい。このようなキャリアは、当業者に周知である。薬学的に受容可能なキャリアとしては、液体、例えば、水、生理食塩水、グリセロールおよびエタノールを挙げることができる。補助物質、例えば、湿潤剤または乳化剤、pH緩衝化物質などもこのようなビヒクルに存在してもよい。リポソームは適切なキャリアである。薬学的なキャリアの詳しい考察は引用文献55に利用可能である。
【0055】
本発明の薬学的組成物はまた、例えば、微生物との接触が予想され、かつ感染の確立が予防されるべき状況において予防的に用いられてもよい。例えば、この組成物は、手術の前に投与されてもよい。
【0056】
本発明の抗体を含む本発明の組成物では、この抗体は好ましくは、この組成物における総タンパク質の少なくとも50重量%(例えば、60%、70%、80%、90%、95%、97%、98%、99%またはそれ以上)までを構成する。従ってこの抗体は精製型である。
【0057】
微生物感染は、抗体の種々の領域に影響し、従って本発明の組成物は種々の形態で調製され得る。例えば、この組成物は、注射用として、液体の溶液または懸濁液として調製されてもよい。注射の前の液体ビヒクル中における溶液にまたは懸濁液において適切な固体型もまた調製され得る(例えば、防腐剤を含む滅菌水での再構成のための、凍結乾燥された組成物、例えば、SynagisTMおよびHerceptinTM)。この組成物は、例えば、軟膏、クリームまたは粉末のような局所投与のために調製され得る。この組成物は、経口投与のために、例えば、錠剤もしくはカプセルとして、またはシロップ(必要に応じて香味付けされた)として調製されてもよい。この組成物は、肺投与のために、例えば、微細な粉末またはスプレーを用いるインヘイラーとして、調製されてもよい。この組成物は、坐剤または膣坐薬として調製されてもよい。この組成物は、鼻、耳または眼の投与のために、例えば、液滴として、スプレーとして、または粉末として調製されてもよい[例えば、56]。この組成物は、うがい薬に含まれてもよい。この組成物は凍結乾燥されてもよい。
【0058】
この薬学的組成物は好ましくは無菌である。これは好ましくは発熱物質を含まない。これは好ましくは、例えば、pH6〜pH8の間で、一般には約pH7で緩衝化される。好ましくは、この組成物は、ヒトと実質的に等張性である。
【0059】
本発明はまた、本発明の薬学的組成物を含む送達デバイスを提供する。このデバイスは、例えば、シリンジまたはインヘイラーであってもよい。
【0060】
本発明の組成物は、公知の抗真菌剤と組み合わせて用いられ得る。適切な抗真菌剤としては、限定はしないが、アゾール(例えば、フルコナゾール、イトラコナゾール)、ポリエン(例えば、アンホテリシンB)、フルシトシンおよびスクアレンエポキシダーゼインヒビター(例えば、テルビナフィン(terbinafine))が挙げられる[また引用文献57を参照のこと]。組成物はまた、公知の抗ウイルス剤、例えば、HIVプロテアーゼインヒビター、2’,3’−ジデオキシヌクレオシド(例えば、DDC、DDI)、3’−アジド−2’,3’−ジデオキシヌクレオシド(AZT)、3’−フルオロ−2’,3’−ジデオキシヌクレオシド(FLT)、2’,3’−ジデヒドロ−2’,3’−ジデオキシヌクレオシド(例えば、D4C、D4T)およびその炭素環誘導体(例えば、カルボビル)、2’−フルオロ−アラ−2’,3’−ジデオキシヌクレオシド、1,3−ジオキソラン誘導体(例えば、2’,3’−ジデオキシ−3’−チオシチジン)、オキセタノシンアナログおよびその炭素環誘導体(例えば、シクロバット−G(cyclobut−G))および9−(2−ホスホニルメトキシエチル)アデニン(PMEA)および9−(3−フルオロ−2−ホスホニルメトキシプロピル)アデニン(FPMPA)誘導体、テトラヒドロ−イミダゾール[4,5,1−jk][1,4]−ベンゾジアゼピン−2(1H)オン(TIBO)、1−[(2−ヒドロキシエトキシ)−メチル]−6−(フェニルチオ)チオミン(HEPT)、ジピリド[3,2−b:2’,3’−e]−[1,4]ジアゼピン−6−オン(ネビラピン)およびピリジン−2(1H)オン誘導体、3TCなどと組み合わせて用いられてもよい。
【0061】
(医学的処置および用途)
この抗体は、予防的であって、微生物感染および/または疾患に対する防御を提供する。
【0062】
従って、本発明は、医薬としての使用のための本発明のモノクローナル抗体を提供する。本発明はまた、微生物感染から患者を防御するための方法を提供し、この方法は、本発明の薬学的組成物を患者に投与する工程を包含する。本発明はまた、微生物感染および/または疾患の予防のための医薬の製造における本発明のモノクローナル抗体の使用を提供する。
【0063】
防御的な方法において使用されるのと同様に、抗体はまた、既存の微生物感染および/または疾患を処置するために用いられ得る。
【0064】
従って、本発明はまた、微生物感染に罹患している患者を処置するための方法を提供し、この方法は、本発明の薬学的組成物を患者に投与する工程を包含する。本発明はまた、患者を処置するための医薬の製造における本発明のモノクローナル抗体の使用を提供する。
【0065】
この微生物は、真菌であっても細菌であってもよく、その例は以下に記載される。
【0066】
患者は好ましくは、ヒト、特に女性である。ヒトは成体であっても小児であってもよい。
【0067】
本発明の抗体は特に、妊娠している;免疫無防備状態の/免疫抑制された(T細胞欠乏)患者;または抗生物質の治療もしくは化学療法を受けている患者における微生物感染の処置のために有用である。本発明の抗体はまた、全身的な微生物感染;静脈内カテーテルを留置しているか;HIV;AIDS;好中球減少症;以前の真菌コロニー形成;糖尿病;白血病;リンパ腫;火傷;浸軟;口腔感染を有する患者、および以前に血液透析を受けているか、または器官移植を受けている患者における微生物感染を処置するために有用である。
【0068】
これらの用途および方法は特に、Candida種、例えば、C.albicans;Cryptococcus種、例えば、C.neoformans;Enterococcus種、例えば、E.faecalis;Streptococcus種、例えば、S.pneumoniae、S.mutans,S.agalactiaeおよびS.pyrogenes;Leishmania種、例えば、L.majorおよびL.infantum;Acanthamoeba種、例えば、A.castellanti;Aspergillus種、例えば、A.fumigatusおよびA.flavus;Pneumocystis種、例えば、P.carinii;Mycobacterium種、例えば、M.tuberculosis;Pseudomonas種、例えば、P.aeruginosa;Staphylococcus種、例えば、S.aureus;Salmonella種、例えば、S.typhimurium;Coccidioides種、例えば、C.immitis;Trichophyton種、例えば、T.verrucosum;Blastomyces種、例えば、B.dermatidis;Histoplasma種、例えば、H.capsulatum;Paracoccidioides種、例えば、P.brasiliensis;Pythiumn種、例えば、P.insidiosum;およびEscherichia種、例えば、E.coliの感染を処置するために有用である。
【0069】
この用途および方法は特に、限定はしないが、以下を含む疾患を処置するために有用である:カンジダ症、アスペルギルス症、クリプトコックス症、真菌性皮膚疾患、スポロトリクス症(sporothrychosis)、および他の皮下真菌症、ブラストミセス症、ヒストプラスマ症、コクシジオイデス真菌症、パラコクシジオイドミコーシス、ニューモシスティス症、鵞口瘡、結核、ミコバクテリア症、呼吸器感染、猩紅熱、肺炎、膿痂疹、リウマチ熱、セプシス(sepsis)、敗血症(septicaemia)、皮膚および内蔵のリーシュマニア症、角膜アカントアメーバ症、角膜炎、嚢胞性線維症、腸チフス、胃腸炎および溶血性尿毒症症候群。抗C.albicans活性は、AIDS患者における感染を処置するために特に有用である。
【0070】
処置の有効性は、本発明の薬学的組成物の投与後の微生物感染をモニタリングすることによって試験され得る。
【0071】
本発明の組成物は一般に、患者に対して直接投与される。直接送達は、非経口注入によって(例えば、皮下、腹腔内、静脈内、筋肉内、または組織の間質腔に)、または直腸、経口、経膣、局所、経皮パッチ、眼、鼻、耳または肺の投与によって達成され得る。注射または経鼻投与が好ましい。組成物中の活性成分は、抗体分子であることが理解される。従って、胃腸菅における分解に対して影響を受けやすい。従って、この組成物が、胃腸菅を用いる経路によって投与されるべきである場合、この組成物は、抗体を分解から保護するが、一旦、胃腸菅から吸収されれば抗体を放出する因子を含む必要がある。
【0072】
投薬処置は、単回投与スケジュールまたは複数回投与スケジュールであってもよい。
【0073】
治療目的のためにモノクローナル抗体を送達する代わりとして、目的のモノクローナル抗体(またはその活性なフラグメント)をコードする核酸(代表的にはDNA)を、その核酸がインサイチュで被検体において発現されて所望の治療効果が獲得できるように、その被検体に送達することが可能である。適切な遺伝子治療および核酸送達ベクターは当該分野で公知である。
【0074】
(全般)
「含む、包含する(comprising)」という用語は、「含む、包含する、が挙げられる(including)」および「〜からなる、構成される(consisting)」を包含し、例えば、Xを「含む(comprising)」組成物は、排他的にXから構成されてもよいし、または何か追加で含んでもよい、例えば、X+Y。「実質的に(substantially)」という用語は、「完全に(completely)」を排除しない、例えば、Yを「実質的に含まない(substantially free)」組成物は、Yを完全に含まなくてもよい。必要に応じて、「実質的に(substantially)」という用語は、本発明の定義から省略され得る。
数字的な値xに関して「約(about)」という用語は、例えば、x±10%を意味する。
本発明が、2つの鎖(重鎖および軽鎖)を有する抗体をいう場合、本発明はまた、必要に応じて、お互いから別々の個々の鎖を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】図1は、IgG 2G8およびIgM 1E12 mAbに対する推定の競合リガンドを用いる阻害ELISA試験の結果を示す。阻害パーセントの値は、試験された4つの用量で各々の推定インヒビターについて示されており、そしてそのグラフは、同様の結果の2つの代表的な実験の1つを示している。
【図2】図2は、化学的に規定されたβ−1,3−およびβ−1,6−標準物を用いる阻害ELISA試験の結果を示す。グラフの値は、試験した3つの用量で各々のインヒビターについて測定された阻害パーセントの範囲であって、同様の結果を得た2つのうちの代表的な実験を示す。
【図3】図3は、別個のプラスチック吸着グルカン抗原に対するIgG mAb 2G8およびIgMコントロールmAbの結合を決定するための実験の結果を示す。
【図4】図4は、異なる分子構造を有するβ−グルカン化合物によるGG−Zymに対するmAb結合の阻害を決定するための実験の結果を示す。y軸はELISA反応性の阻害%を示す。x軸は、遊離のインヒビター(mg/ml)の濃度を示す。白抜きの丸は、IgMコントロールmAb;黒塗りの丸は2G8 IgG mAbを示す。遊離の相のインヒビターは以下である:(A)ラミナリン(laminarin);(B)プスツリン(pustulin);および(C)S.cerevisiae由来のβグルカン。
【図5】図5は、同じ抗原に対する結合について競合するIgGおよびIgM mAbによる能力を決定するための実験の結果を示す。y軸は、プラスチック吸着抗原への結合を示す(OD405nm)。x軸は、競合因子mAbの濃度を示す(ng/ml)。白抜きの丸は、mAb 2G8の存在下におけるIgMコントロールmAbの結合を示し;黒塗りの丸は、IgMコントロールmAbの存在下における2G8 IgG mAbの結合を示す。
【図6】C.albicans細胞上の2G8およびIgMコントロールのグルカンエピトープの間接的な免疫蛍光局在化を示す。この図は、2つの独立した実験における2G8およびコントロールのmAbについて観察された反応性のパターンを示す。パネルaおよびbにおける挿入は、対応するパネルの同じ顕微鏡視野の位相差局面を示す。パネルc、d、e、f、g、hにおける挿入は、免疫蛍光染色パターンの詳細を示す。倍率×1000。
【図7】図7は、播種性カンジダ症のマウス実験モデルにおける2G8およびIgMコントロールmAbのi.p.(腹腔内)投与後のCD2F1マウスの腎臓における真菌負荷を示す。
【図8】図8は、C.albicansの致死静脈内(i.v.)チャレンジ後にβグルカンmAbの単回投与を与えたマウスの示された時間での生存パーセントを示す。
【図9】図9は、以下の間接的な免疫蛍光染色を示す:(a,d)単離されたC.albicansのβグルカン細胞壁のゴースト;(b,e)C.albicansの芽管;(c,f)C.albicansの菌糸フィラメント;(g)A.fumigatusの出芽した分生子;(h,i)A.fumigatusの菌糸。
【図10】以下に対して惹起された血清の存在下におけるC.albicansの増殖後のCFUの数を示す:(白)アジュバントのみ;(灰色)CRMキャリアのみ;または(黒)ラミナリン。
【図11】図11は、(白)2G8、または(黒)抗CRMモノクローナル抗体の0.25、0.1または0.05mg/mlでの増殖後のCFU減少を示す。
【図12】図12は、3Hグルコース取り込みアッセイによって評価した場合の、A.fumigatusのインビトロ増殖に対する抗Lam−CRMまたはコントロールの抗CRM血清の効果を示す。
【図13】図13は、Lam−CRM結合体またはCRMのいずれかを用いて免疫された後の、A.fumigatusでの静脈内チャレンジで生存しているマウスの数を示す。
【発明を実施するための形態】
【0076】
(発明を実施するための形態)
(1.ハイブリドーマ生成およびモノクローナル抗体精製)
2匹の雌性Balb/cマウス(Harlan)を、C.albicansの細胞壁から精製したβグルカン調製物とジフテリア遺伝的ドキソイドCRM197との間の複合糖質のマウス1匹あたり15μgのポリサッカライド(25μタンパク質/マウスに相当する)を用いて免疫した(GG−Zymプール1−CRM 197結合体;[8])。
【0077】
この結合体を、完全フロイントアジュバント中で皮下に1回、そしてアジュバントなしで1週の間隔で腹腔内に2回投与した。最終の追加(ブースト)用量(5μgポリサッカライド/マウス)を注入の4日前に静脈内に与えた。
【0078】
免疫されたマウスの脾細胞を、標準的な技術によってマウスの系統X63−Ag8 653の骨髄腫細胞と1:1の比で融合させて、ハイブリドーマを標準的なプロトコールに従って選択した([58]も参照のこと)。培養上清を、C.albicansグルカン精製抽出物GG−Zymまたは標準的なグルカン化合物(ラミナリン、プスツラン(pustulan))をコーティング抗原として、そしてアルカリホスファターゼ−結合体化ヤギ、多価抗マウス免疫グロブリン抗体(Sigma)を二次抗体として用いて、間接的なELISA[59]によって、抗体生成についてスクリーニングした。
【0079】
抗グルカン抗体分泌ハイブリドーマ培養物を限界希釈によって2回クローニングして、引き続き、10%のウシ胎仔血清(Hyclone)、1mlあたり100Uのペニシリン、1mlあたり100μgのストレプトマイシン、1mMのピルビン酸ナトリウムおよび2mMのL−グルタミン(Hyclone)を補充したRPMI 1640(Hyclone)中でインビトロで増殖した。
【0080】
多数の安定なハイブリドーマをこの手順によって得た。それによって生成されたモノクローナル抗体(mAb)を、硫酸アンモニウム沈殿、その後の遠心分離およびPBSに対する沈殿の大規模な透析によって培養上清から精製してもよい。沈殿したmAbの精製は、SDS−PAGEとそれに続くクマーシーブルー染色によって評価した。mAb調製の力価は、種々のグルカン抗原に対する間接的なELISAによって決定して、負のコントロール(緩衝液のみ)について得られた少なくとも2回の吸光度を与える抗体の最高希釈として規定した。
【0081】
(2.免疫グロブリンのクラスおよびアイソタイプの決定)
目的の1つのハイブリドーマを「2G8」と命名した。2G8は、そのSDS−PAGEプロフィールならびにアフィニティー単離された、アルカリホスファターゼ結合体化ヤギ抗マウス?鎖抗体(Sigma)でのELISAおよびウェスタンブロットアッセイにおける反応性に従って、IgGクラスとされた。アフィニティー精製された、ビオチン結合体化抗マウスIgG1、IgG2a、IgG2bまたはIgG3モノクローナル抗体(BD−Pharmingen)とのELISA反応性によって、IgG mAb 2G8がIgG2bアイソタイプに属することが示された。第二の抗体(1E12)は同様にIgMクラスに帰せられた。1E12は、後者の実験におけるコントロールとして機能した。
【0082】
(3.モノクローナル抗体の可変領域の配列決定)
2G8抗体およびコントロールのIgM抗体のVLおよびVH領域の配列を決定した。各々のV領域は、1つのフレームワーク領域におけるCDR1、CDR2およびCDR3として示された3つのCDRを含む。mRNAは、2G8およびコントロールのIgMを発現するハイブリドーマ細胞から抽出し、そして対応するcDNAをGAP−DH遺伝子の増幅を通じて合成した。VLおよびVH遺伝子を増幅して、その生成物をアガロースゲル電気泳動によって抽出した。次いで、VHおよびVL領域をプラスミドベクターpCR−BluntII−TOPOにクローニングした。細菌株Top10をこのプラスミドベクターで形質転換して、形質転換体を分析した。次いで、DNAを抽出して配列決定した。
【0083】
2G8の重鎖および軽鎖の可変領域の配列を配列番号1および配列番号2とする。これらの配列内のCDRを配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11および配列番号13とする。同じ可変領域の配列がIE12 IgMに見出された。
【0084】
(4.IgG mAb 2G8およびIgMコントロールmAbの特異性)
mAbによって好まれるエピトープの性質を検討するために、未分画のGG−Zym抗原を固相試薬として、そして別個のグルカンまたはC.albicans由来の非グルカン細胞壁画分、または標準的なグルカン化合物を、遊離相のmAbリガンドとしてGG−Zym抗原との競合反応において使用する阻害ELISA試験を、本発明者らは考案した。推定のmAbリガンドのいくつかがプラスチックに対して効率的に吸着することができない可能性によって、このアプローチを選択した。
【0085】
推定のインヒビターを、PBS中で適切なmAb希釈になるまで50、10、5および1μg/mlの濃度で添加して、室温で一晩インキュベートした。次いで、この反応混合物を、GG−Zymでコーティングされた二連のウェルに添加した(炭酸緩衝液中で50μg/ml)。次いで、ホスファターゼ結合体化抗マウスIgGおよび抗マウスIgM抗体(Sigma)を、それぞれ、mAb 2G8およびIgMコントロール抗体についての二次試薬として用いて、以前に報告[60]されたようにELISA試験を行った。種々の遊離の相のmAbリガンドによる阻害パーセントを、推定のインヒビターを含むウェルからのO.D.405nmと、インヒビターなしのウェルからのO.D.405nm(異なる実験においては通常0.8〜0.65におよぶ)とを比較することによって算出した。負のコントロールのウェル(緩衝液のみ)からの読み取り値を全てのO.D.値から差引きした。
【0086】
図1に示されるとおり、C.albicansからの総マンノタンパク質(mannoprotein)(MP)抽出物のような競合リガンドとしての非グルカン真菌画分の使用、または真菌によって分泌されるMPの調製、またはグルカンと同様のβ高次構造を有する特定の細胞壁マンナン部分(β1,2マンナン)は、GG−Zym画分をともなう2G8またはIgMコントロールmAbの連結の、有意でないかまたは極めて弱い阻害しか生じなかった。これはまた、非βグルカン化合物であるセロペンタオースが競合リガンドとして用いられる場合に生じた。これによって、β高次構造も、グルコース残基の配列の単なる存在もそれ自体ではmAb認識および連結に十分でないことが示される。
【0087】
逆に、GG−Zym画分をインヒビターとして用いた場合、両方のmAbの反応性の実質的な阻害(1または50μg/mlの濃度で用いた場合、それぞれ、mAb 2G8およびIgMコントロールmAbについて、0〜65および10〜87パーセントの阻害)が、そして酵母のSaccharomyces cerevisiaeからの市販のβグルカン調製によるほぼ完全な阻害(1または50μg/mlの濃度で用いた場合、それぞれ、mAb 2G8およびIgMコントロールmAbについて、64〜90および91〜100パーセントの阻害)が観察された。βグルカンの市販の真菌でない調製物(オオムギβグルカン)は、両方のmAbについての競合リガンドとしてほぼ完全に無効であった。
【0088】
全体として、これらの結果によって、mAb 2G8およびIgMコントロールmAbはβグルカン抽出物に特異的に含まれるエピトープを認識したことが示された。mAb反応性に対して弱い阻害性効果を発揮するC.albicans由来の総MP画分は、少量のβグルカンを含むことが報告されている[61]。さらに、mAbの特性は、免疫抗原の供給源であるC.albicans由来のβグルカンに限定されないが、真菌グルカンの公知の構造的な相同性に従って、他の酵母種由来のグルカンに拡張される。これは、真菌の細胞壁において重要なβグルカン分子を発現する多くの他の真菌病原体の制御について意味がある(下を参照のこと)。
【0089】
(5.2G8およびIgMコントロールmAbによって認識されるエピトープの化学的性質)
化学的に規定された標準物β−1,3およびβ−1,6グルカンの使用によって、上記の同じELISA阻害試験を用いて、mAbエピトープの化学的な性質をより正確に規定した。詳細には、Laminaria digitata由来の十分特徴付けられた調製物であるラミナリン(Sigma)を用いたが、これは、ほとんどが2〜3の短いβ−1,6−連結側鎖、および重合化の程度が異なる(2〜7)一連の直線状β−1,3−連結ラミナリオリゴサッカライド(laminarioligosaccharides)を有するβ−1,3−連結グルコース残基によって構成されている。Umbilicaria パピュローサ(papullosa)およびゲンチオビオース(gentiobiose)由来の標準的な直線状β−1,6−連結グルカン(β−D−Glc−(1,6)−D−Glc)であるPustulan(CalbioChem)もアッセイした。GG−Zym抗原、GG−Zymプール1およびGG−Zymプール2からゲル濾過によって分離した2つの小画分もこれらの実験に含まれた。
【0090】
適切なmAb希釈物は、インヒビターを50、10または5μg/mlで用いて一晩反応させ、次いでGG−Zymでコーティングした二連のウェルに添加した。次いで、ホスファターゼ結合体化抗マウスIgGおよび抗マウスIgM抗体(Sigma)を、それぞれ、mAb 2G8およびIgMコントロールmAbについての二次試薬として用いてELISA試験を行った。種々の遊離相mAbリガンドによる阻害パーセントは前のように算出した。
【0091】
これらの物質で行った代表的なELISA阻害試験からの結果を図2に示す。
【0092】
これらの実験では、2つのmAbは、ラミナリンおよびプスツラン(pustulan)に対して別個の結合優先性を示した。実際、mAb 2G8の反応性はラミナリンとの事前インキュベーションによってほぼ完全に廃された(5および50μg/mlで、それぞれ38および89パーセント阻害)が、プスツランでは完全ではなかった。反対に、プスツランは、IgMコントロールmAbの好適なリガンドであったが、ただしラミナリンはそうではなかった(5および50μg/mlで、それぞれ24パーセントおよび90パーセントの阻害)
従ってmAb、 2G8は、β−1,3立体配置においてグルカンに優先的に結合すると結論されたが、コントロールのIgM mAbは、β−1,6立体配置においてグルカンに結合優先性を示した。β−1,3グルカンに対するmAb 2G8の優先的な結合は、化学的に規定されたβ−1,3−連結オリゴサッカライド(4〜7のDP)がまた、mAb 2G8連結について効率的に競合し得るが、それらはIgM mAbコントロールによっては認識されないという観察によって確認された。しかし、DPが低い(2または3)β−1,3立体配置のオリゴサッカライドはmAb非特異的な弱い阻害性効果を発揮し得るが、β−1,6−連結ゲンチオビオースではできないということがまた観察された。β−1,3立体配置における低分子は、低い親和性および特異性を通じて両方のmAbによって認識され得ることがこれによって示唆された。
【0093】
この後者の観察はまた、GG−Zymの小画分プール2は、この小画分が、小型のβ−1,3オリゴサッカライドと優勢なDP3との混合物であるので、両方のmAbの反応性に影響が弱かったという事実を説明することに寄与し得る[62]。対照的に、プール1小画分は、β−1,6−連結鎖によって主に構成されたその構造とよく一致して、IgMコントロールmAbに明確に高い親和性を示した。
【0094】
(6.別個のプラスチック吸着グルカン抗原に対するIgG mAb 2G8およびIgMコントロールmAbの結合)
GG−Zym、プスツランまたはラミナリンでコーティングしたELISAプレートを、漸減する量の2G8またはコントロールのmAb(合成の、タンパク質なしの培地における培養上清からの、精製された、硫酸アンモニウム沈殿調製物)と反応させて、特定の抗マウスIgMまたはIgG、AP結合体化二次抗体、続いて酵素基質を用いて発色させた。図3は、このmAbを、示されたような、別個のグルカン抗原と反応させることによって生成されたO.D.405nmの吸収読み取りを示す。
【0095】
図3に示されるとおり、2G8およびコントロールのmAbは、異なる分子形状のグルカン分子へ向かう異なる親和性を示した。詳細には、IgMコントロールmAbは、IgG mAb 2G8に比較して、優先的にβ(1−6)グルカンに結合する。約3.0ng/mlのIgMコントロールmAbは、パスツランとの反応の際に、0.5というO.D.405nm値を生じたが、同じO.D.読み取り値を得るには少なくとも100ng/mlのIgG 2G8 mAbが必要であった。さらに、IgG 2G8 mAbは優先的にβ(1−3)グルカンに結合する。なぜなら、この抗原に対して同じレベルの結合を得るために必要な約10ng/mlのIgM mAbに比べて、わずか0.04ng/mlで、ラミナリンとの反応によって1.0というO.D.を生じることができたからである。コントロールとして2つのmAbをまたGG−Zym、C.albicansからのβ(1−6)およびβ(1−3)グルカン含有調製物に対する結合について試験し、そして期待どおり、mAbは、両方の高次構造を含む複合グルカン画分との反応の際に、重複する結合曲線を示した。
【0096】
(7.別個の分子構造を有するβグルカン化合物によるGG−ZymへのmAb結合の阻害)
本発明者らは、さらに、ELISA阻害実験を行うことによって、異なる高次構造のグルカン分子について2つのmAbの親和性を検討した。固定濃度のmAbを、漸増濃度のラミナリン、プスツランまたはS.cerevisiae由来のβグルカン存在下においてプラスチック固定されたGG−Zymと反応させた。これらの遊離相のリガンドがmAb結合についてGG−Zymと競合する能力を、インヒビターの存在下で得たO.D.405nmの読み取り値と、インヒビターの非存在下で測定した値とを比較することによって評価した。結果をELISA反応性の阻害パーセントとして表した。
【0097】
この実験では、両方のmAbとも、プスツラン(β−1,6グルカン)またはラミナリン(β−1,3グルカン)のいずれかの高用量の存在下でGG−Zymに対して有意に減少した結合を示したことが示され、これによって任意の高次構造のグルカン抗原を認識するそれらの基本能力が確認された(図4)。他方では、用量応答に基づいて、β−1,6およびβ−1,3グルカンがGG−Zymに対するmAb結合と競合する能力は、図4における阻害曲線の反対のプロフィールによって示されるように、IgMとIgGのmAbの間で大きく異なった。実際、ELISAの50パーセント阻害用量(ID50)、すなわち、非競合のmAb読み取り値についてO.D.405nmの50%減少を生じる競合因子リガンドの用量は、IgG mAbに競合的に結合するために用いられる場合、それぞれ、ラミナリンおよびプスツランについて0.01および2.0mg/mlであったが、それらは、コントロールのIgM mAbに競合的に結合するために用いられる場合は、2.0および0.05mg/mlであった。
【0098】
(8.IgGおよびIgM mAbによる、同じ抗原に対する結合について競合する能力)
プラスチック結合したラミナリンまたはプラスチンを固定量の任意の2つのmAbおよび異なるアイソタイプのそのmAb対応物の漸減する濃度を含む混合物と反応させた。IgGの結合またはIgM mAbの結合を、AP結合体化した抗マウスIgGまたはIgM抗体との適切な二次反応によって明らかにした。
【0099】
図5は、種々の用量の対応するmAbの非存在下(白抜きの記号)または存在下(黒塗り記号)において、各々のmAbによって生成されるO.D.405読み取りを示す。このコントロールIgM mAbは、より大きい親和性を有する抗原性基質であるプスツランとの反応の際だけでなく、親和性の低下している抗原であるラミナリンとの反応の際でさえIgG mAbを追放する顕著な能力を示した。
【0100】
(9.C.albicans細胞上でのmAb 2G8およびIgMコントロールのmAbエピトープの発現)
未処理の、生きた酵母細胞(a、e)または芽管(b、f)、ジチオスレイトールおよびプロテイナーゼK(c、g)およびC.albicansから精製したグルカンゴーストで処置した酵母細胞を、顕微鏡スライド上にスポットして、mAb 2G8(a、b、c、d)またはコントロールのIgM mAb(e、f、g、h)と反応させた。mAb連結は、フルオレセインイソチオシアネート結合体抗マウスIgGまたはIgM抗体(Sigma)で明らかにして、Leitz Diaplan蛍光顕微鏡で観察した。
【0101】
生きた、インタクトな酵母または芽管細胞の免疫蛍光染色によって、mAb 2G8エピトープが、インビトロ培養されたCandida細胞において細胞表面上では発現されなかったことが実証された(図6、a、b)。酵母および芽管の両方の表面がコントロールのIgM mAbと陽性に反応した(図6、e、f)が、均一ではなかった。コントロールのIgM mAbの優先的なエピトープは、酵母細胞の特定のゾーンにおいて特に顕著であり、明らかに出芽痕に相当し、そして出芽上である。芽管では、IgMコントロールmAbは、母の酵母細胞と突出する菌糸フィラメントとの間の一次隔壁、および菌糸フィラメント自体の特定の領域を特定の強度で染色すると思われた(図6、e、fおよび比較上の挿入)。ジチオスレイトールおよびプロテイナーゼKでの処置であって、表在性の、マンノタンパク質の、細胞壁層を除去することが公知である処置によって、酵母細胞はコントロールのIgM mAbと均一に反応性にされて、またいくつかのmAb 2G8反応性細胞壁成分を露出した(図6、c、g)。両方のmAbとも、精製されたグルカンのゴースト、すなわち、強力な熱アルカリおよび酸の抽出によって可溶性の外壁および内部細胞壁および細胞質成分を枯渇した細胞との強力かつ匹敵する強度の反応性を示した(図6、d、h)。
【0102】
mAb 2G8は細胞内壁層に拘束された構成を優先的に認識したが、コントロールのIgM mAbは細胞壁全体にまたがるエピトープを優先的に認識したと結論できる。これは、β−1,3およびβ−1,6グルカンについてのmAbの提唱された異なる優先度と、そして酵母の細胞壁の微細な構造的機構に対する現在の知識と一致している[63]。詳細には、コントロールのIgM mAb優先のβ−1,6グルカンエピトープが表面発現されるという知見は、β−1,6−連結したグルカン部分がCandida細胞壁の表在性のカプセル様マンノタンパク質層と緊密に内部接続されるという知見と調和している[63]。
【0103】
(10.2G8は播種性の実験的カンジダ症に対して防御し得るが、コントロールのIgM抗グルカンmAbは防御できない)
抗βグルカン抗体は、グルカン露出Candida細胞でのワクチン接種によって誘導される播種性Candida感染に対する防御に対して有意に寄与し得ることが示唆されている[59]。本発明の抗グルカンmAbは、播種性カンジダ症のマウスモデルにおいてアッセイされた。
【0104】
CD2F1マウスには、等価な抗グルカン力価およびタンパク質含量の2G8またはコントロールのIgM精製mAb調製物の単回の腹腔内(i.p.)投与(0.5ml)を与え、続いて、2時間後に、C.albicansの致死量未満のi.v.チャレンジを行った。
【0105】
Aでは、3匹のマウスの群に、mAb 2G8またはコントロールのIgMの0.5mlの精製された調製物を用いて、またはPBSのみ(コントロール)を用いて腹腔内(i.p.)注射した。Bでは、マウスに、0.25mlのPBSで希釈した各々のmAbの0.25ml、またはその2つの混合物(全部で0.5ml)を与えた。C.albicansの5×105個の細胞を、動物に2時間後に静脈内(i.v.)にチャレンジした。
【0106】
チャレンジの2日後、その動物を屠殺して、腎臓における真菌の負荷を古典的なCFUの羅列によって評価して、コントロールのPBS処置したマウスと比較した防御を決定した。3つの独立した実験からの結果を図7、パネルaに示す。データは、各々の群で測定したCFUカウントの加重平均+SEに相当する。アスタリスクは、コントロール群と比較した(両側スチューデントt検定)統計的に有意な相違(*P<0.05および**P<0.001)を示す。
【0107】
これらのインビボ実験、および単回のmAb投与の使用の周知でかつ期待された変動にかかわらず、mAb 2G8を投与されている動物は、コントロールのIgM mAbを投与されている動物、または緩衝液のみで処置したコントロールの動物よりもその腎臓において真菌細胞が有意に少なかったということが見出された。1実験では、マウス腎臓のCandidaコロニー形成は、mAb処置によって実質的に無効にされた。興味深いことに、コントロールのIgM mAbは対照的な真菌の侵入においては完全に無効であった。なぜなら処置されたマウスは常にその腎臓においてCFUカウントを示し、これはコントロール群において測定したカウントに匹敵するかまたは高くさえあったからである。
【0108】
別の実験では、動物は、両方のmAbを、半分の強度で、投与され、そして防御能力は、単独の半分の強度のmAbと比較された(図7、パネルb)。興味深いことに、コントロールのIgM mAbは、それ自体によって防御を付与できないだけでなく、また抗β―1−3 mAbによって付与された防御を無効にもし得る。これは、引用文献64で示唆されたようないくつかの抗細胞表面特性について抗体をブロックするという提唱された役割と一致している。
【0109】
2G8 mAbによって発揮された防御活性をさらに検討するために、致死量の真菌チャレンジ後のmAb処置マウスの生存もモニターした。予備実験(図8)では、マウス(1群あたり7匹)に、図7の実験と同じ用量の精製されたmAbまたはPBSのみ(コントロール)をi.p.投与した。2時間後、動物に106個の細胞のC.albicansを静脈内チャレンジした。チャレンジの2時間前のmAb 2G8の単回のi.p.注射によってマウスの生存は、コントロールのIgM mAbによる防御効果の完全な欠失と対照的に、有意に延長された。
【0110】
(11.2G8は、AspergillusおよびCandidaに結合して、真菌の増殖を阻害する)
抗ラミナリン血清および2G8 mAbを以下の免疫蛍光染色のために用いた:(i)C.albicansの単離されたβグルカン細胞壁ゴースト;(ii)C.albicansの芽管;(iii)C.albicansの菌糸フィラメント;(iv)A.fumigatusの出芽した分生子;および(v)A.fumigatusの菌糸。結果を図9に示す。パネル(a)、(b)、(c)、(g)および(h)は、抗ラミナリン血清を用いた結果を示す;パネル(d)、(e)、(f)および(i)は、2G8を用いる結果を示す。このように両方の抗体調製物ともが、真菌サンプルの全てに結合する。
【0111】
さらに、C.albicansおよびA.fumigatusのインビトロ増殖は、抗βグルカン抗体によって有意に制限され、そしてLam−CRMワクチン接種はA.fumigatusでの全身的なチャレンジに対して供されたマウスの生存を有意に延長する。
【0112】
図10Aは、まるごとまたは1:10希釈された抗Lam−CRMまたはコントロールの血清の存在下で一晩増殖したC.albicans培養物におけるCFUの数を示しており、そして抗グルカン血清はコントロールに比較して増殖を有意に減少する。
【0113】
図11は、2G8 mAbによる、またはコントロールの抗CRM mAbによるC.albicans CFU減少の用量応答を示す。2G8は、0.25および0.1mg/mlでの有意に良好なCFUの減少を示す。
【0114】
図12は、3Hグルコース組み込みアッセイによって評価した場合の、A.fumigatusのインビトロ増殖に対する抗Lam−CRMおよびコントロールの抗CRMの効果を示す。
【0115】
図13は、Lam−CRM結合体またはCRMのいずれかで免疫した後のA.fumigatusでの静脈内チャレンジを生存するマウスの数を示す。
【0116】
本発明は、例示のために記載されただけであって、本発明の範囲および趣旨の範囲内におさまったままで改変がなされ得ることが理解される。
【0117】
(参考文献(これらの内容は本明細書中で参考として援用される))
【0118】
【化1】
【0119】
【化2】
(配列表)
【0120】
【化3】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書中に記載の発明。
【請求項1】
明細書中に記載の発明。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−244828(P2011−244828A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−168831(P2011−168831)
【出願日】平成23年8月1日(2011.8.1)
【分割の表示】特願2007−531873(P2007−531873)の分割
【原出願日】平成17年9月14日(2005.9.14)
【出願人】(507083423)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168831(P2011−168831)
【出願日】平成23年8月1日(2011.8.1)
【分割の表示】特願2007−531873(P2007−531873)の分割
【原出願日】平成17年9月14日(2005.9.14)
【出願人】(507083423)
【Fターム(参考)】
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