説明

β2ミクログロブリンおよびその遺伝子、抗β2ミクログロブリン抗体、ならびに、ネコ腎症の診断用キット、診断方法

【課題】ネコ由来のβ2ミクログロブリンに特異的な抗体を提供し、さらにはそれを用いることでネコの腎症を迅速かつ簡便に診断できる方法、キットを提供する。
【解決手段】特定のアミノ酸配列を有するタンパク質、ならびに、当該タンパク質をコードする構造遺伝子であって、特定の塩基配列を有する構造遺伝子。ネコ由来β2ミクログロブリンに特異的に結合する抗体であって、好ましくは、上記タンパク質を抗原とし、細胞株Mouse-Mouse hybridomaβ2-m mAb1(受領番号:FERM AP-21879)または細胞株Mouse-Mouse hybridomaβ2-m mAb2(受領番号:FERM AP-21880)により産生されたものである抗体。上記抗体を含むネコ腎症の診断用キット、ならびに、上記抗体を用いたネコ腎症の診断方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネコに由来するβ2ミクログロブリンおよびそれをコードする遺伝子に関する。また本発明は、ネコに由来するβ2ミクログロブリンに対する抗体およびそれを用いたネコ腎症の診断用キット、診断方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
近年、少子化に伴い、ペットを飼う世帯は増加の一途をたどっている。しかしながら、ペットの性質に即した飼い方がなされていないケースも少なくはない。特に、偏食の結果、ペットが糖尿病などの成人病的症状を引き起こしてしまい、ペットを獣医に通院させるケースまで見られる。
【0003】
このような現状から、近年はペットの診断に関する事業が拡大しつつある。仮に、ペットの腎症を早期に発見することができれば、獣医師は、飼い主によるペットの飼い方、特に食事の与え方について改善を指導できるようになる。一般に、腎症のマーカーの1つとして、β2ミクログロブリン(β2-m)が挙げられる。
【0004】
β2ミクログロブリンは、たとえばヒト由来の場合には、ヒトの全身の細胞で産生されており、細胞内外の環境変化にはほとんど影響を受けないで一定の産生量で細胞外に分泌され、近年では、糖尿病性腎症などの早期診断の指標として有用であるとする報告例がみられる
しかしながら、ネコ由来のβ2ミクログロブリンに関しては、当該タンパクに特異的な抗体が存在しないどころ、当該タンパクのアミノ酸配列すら解明されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Journal of Veterinary Internal Medicine. 22(5): 1111-1117, 2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、ネコ由来のβ2ミクログロブリンに特異的な抗体を提供し、さらにはそれを用いることでネコの腎症を迅速かつ簡便に診断できる方法、キットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意研究の結果、ネコの遺伝子の中でβ2ミクログロブリンをコードする構造遺伝子を初めて特定し、当該構造遺伝子からネコ由来のβ2ミクログロブリンを発現させ、そのアミノ酸配列も解析した。さらにはネコ由来β2ミクログロブリンに特異的な抗体を作製し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0008】
本発明は、配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有するタンパク質を提供する。
本発明はまた、上述した本発明のタンパク質をコードする構造遺伝子についても提供する。本発明の構造遺伝子は、配列番号2で表わされる塩基配列を有することが好ましい。
【0009】
本発明はさらに、ネコ由来β2ミクログロブリンに特異的に結合する抗体についても提供する。本発明の抗体は、上述した本発明のタンパク質を抗原として、細胞株Mouse-Mouse hybridoma β2-m mAb1(受領番号:FERM AP-21879)または細胞株Mouse-Mouse hybridoma β2-m mAb2(受領番号:FERM AP-21880)により産生されたものであることが、好ましい。
【0010】
本発明は、上述した本発明の抗体を含むネコ腎症の診断用キットについても提供する。
本発明は、上述した本発明の抗体を用いたネコ腎症の診断方法についても提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来と比較して格段に迅速かつ簡便にネコ腎症を診断することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】ネコ由来のβ2-mのアミノ酸配列を、既に知られているヒト、ウマ、ウシ、ブタ、マウス、サルおよびラットのβ2-mのアミノ酸配列と比較して示す図である。
【図2】ネコ由来のβ2-m遺伝子のcDNAの塩基配列を、既に知られているヒト、ウマ、ウシ、ブタ、マウス、サルおよびラットのβ2-m遺伝子の塩基配列と比較して示す図である。
【図3】実験例3におけるネコのnativeなβ2-mに対する抗体A、Bの特異性の実験結果を示す写真である。
【図4】抗体A, Bを用いて、1匹の健常なネコと3匹の慢性腎疾患のネコの尿中のβ2-mの定量を行った結果を示すグラフである。
【図5】実験例1におけるfirst-strand cDNAのPCRの結果を示す電気泳動写真である。
【図6】実験例1で使用したキットによって合成できるcDNAとプライマーとの位置関係を模式的に示す図である。
【図7】図7(a)は、上流側プライマー2とUniversal Primer A Mixにより増幅されたcDNAをアガロースゲル電気泳動で分析した結果を示す写真であり、図7(b)は、nested-PCR後に電気泳動で分析した結果を示す写真である。
【図8】実験例1で使用したキットによって合成できるcDNAとプライマーとの位置関係を模式的に示す図である。
【図9】実験例1における5’RACE−PCRの結果を示す電気泳動写真である。
【図10】実験例2において、アニーリング温度を変えた条件でPCRを行い、電気泳動を行った結果を示す写真である。
【図11】実験例2において、形質転換された大腸菌から抽出したpcDNA-F β2-mをアガロースゲル電気泳動した結果を示す写真である。
【図12】実験例2において、pcDNA-F β2-mのシークエンス解析結果を模式的に示す図である。
【図13】実験例2におけるSDS−PAGEの結果を示す写真である。
【図14】実験例2における、GST融合タンパク溶液の尿素濃度ごとのクロマトグラムを模式的に示す図である。
【図15】実験例2において、各尿素濃度のリガンド結合分画について、SDS−PAGEで比較した結果を示す写真である。
【図16】実験例2おいて、リガンド結合分画に各濃度でDTTを添加し、透析した後、PreScission Proteaseを反応させた結果を示す写真である。
【図17】実験例2におけるHPLCのクロマトグラムを模式的に示す図である。
【図18】HPLC後の各分画についてのSDS−PAGEの結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明によれば、配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有するタンパク質が提供される。本発明者は、ネコの遺伝子の中でβ2ミクログロブリンをコードする構造遺伝子(本明細書中において「β2-m遺伝子」と呼称する。)を初めて特定し、当該β2-m遺伝子によりネコ由来のβ2ミクログロブリン(本明細書中において「β2-m」と呼称する。)のアミノ酸配列も初めて解析した。配列番号1に示されるアミノ酸配列を有する本発明のタンパク質が、今回、本発明者によって初めてアミノ酸配列が特定されたネコ由来のβ2ミクログロブリンである。
【0014】
ここで、図1は、配列番号1で表わされる本発明のタンパク質(ネコのβ2-m)のアミノ酸配列を、既に知られているヒト、ウマ、ウシ、ブタ、マウス、サルおよびラットのβ2-mのアミノ酸配列と比較して示す図である。図1中、四角で囲っている部分は、各動物種間で共通するアミノ酸配列である。配列番号1で表わされる本発明のタンパク質のアミノ酸数は全長で118個であり、ヒト、サル、マウスおよびラットの119個、ウマ、ウシおよびブタの118個と極めて近似した値である。詳細は実験例2において後述するが、本発明のタンパク質のアミノ酸配列は、他動物種のβ2-mのアミノ酸配列との平均相同性は72.8%であり、他動物種(ヒト、ウマ、ウシ、ブタ、マウス、サルおよびラット)間のβ2-mのアミノ酸配列の平均相同性は66.8%であることからすると、本発明のタンパク質はネコ由来のβ2-mであると考えられる。
【0015】
本発明のネコ由来のβ2-mは、人工的な合成により好適に得ることができる。今回、本発明者は、ネコ由来β2-mの構造遺伝子(β2-m遺伝子)の塩基配列(配列番号2で表わされる塩基配列)を初めて見出した。本発明は、ネコ由来β2ミクログロブリンをコードする構造遺伝子についても提供するものであり、この構造遺伝子は、配列番号2で表わされる塩基配列を有することが、好ましい。すなわち、本発明の構造遺伝子は、配列番号2で表わされる塩基配列をエキソンとして含んでいるのであれば、上記以外の塩基配列をイントロンとして含んでいてもよい。
【0016】
ここで、図2は、配列番号2で表わされる本発明の構造遺伝子(ネコのβ2-m遺伝子)を、既に知られているヒト、ウマ、ウシ、ブタ、マウス、サルおよびラットのβ2-m遺伝子の塩基配列と比較して示す図である。図2中、四角で囲っている部分は、各動物種間で共通する塩基配列である。β2-m遺伝子の核酸長は、ヒト、サル、マウスおよびラットが360 base、ウマ、ウシおよびブタでは357 baseであったのに対し、配列番号2で表わされる本発明のネコのβ2-m遺伝子ではその長さは357 baseであった。また、配列番号2で表わされる本発明のネコのβ2-m遺伝子の塩基配列と他動物種のβ2-m遺伝子の塩基配列との相同性は平均で72.9%であり、他動物種(ヒト、ウマ、ウシ、ブタ、マウス、サルおよびラット)間のβ2-m遺伝子の塩基配列の平均相同性は72.8%であることからすると、本発明の構造遺伝子はネコ由来のβ2-m遺伝子であると考えられる。
【0017】
本発明は、ネコ由来のβ2-mに特異的に結合する新規な抗体についても提供する。本発明者は、詳細は実験例3にて後述するように、上述した本発明のネコ由来のβ2-m遺伝子からネコ由来のβ2-mを発現させ、これを抗原として抗体を産生し得る細胞を作製した。このような細胞株は新規なものであり、出願人らは、今回、平成21年12月1日付けで独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託を行った(受領番号:FERM AP-21879、FERM AP-21880)。
【0018】
本発明の抗体は、好ましくは、上述した本発明のタンパク質を抗原として、細胞株Mouse-Mouse hybridoma β2-m mAb1(受領番号:FERM AP-21879)または細胞株Mouse-Mouse hybridoma β2-m mAb2(受領番号:FERM AP-21880)により産生されたものである。ここで、図3は、ネコのnativeなβ2-mに対し本発明の抗体が特異的に結合した実験結果を示す写真である。詳細は実験例3として後述するが、図3に示される抗体Aは細胞株Mouse-Mouse hybridoma β2-m mAb1(受領番号:FERM AP-21879)により産生されたIgG1のκ鎖のアイソタイプのモノクローナル抗体であり、抗体Bは細胞株Mouse-Mouse hybridoma β2-m mAb2(受領番号:FERM AP-21880)により産生されたIgG2bのκ鎖のアイソタイプの抗体である。図3に示されるように、本発明の抗体は、ネコのnativeなβ2-mに対し特異的に結合し得るものであることが分かる。また図4は、本発明の抗体A, Bを用いて、1匹の健常なネコと3匹の慢性腎疾患のネコの尿中のβ2-mの定量を行った結果を示すグラフである。詳細は実験例3にて後述するが、図4から、本発明の抗体A,Bは、健常なネコの尿に対しては殆ど反応せず、慢性腎疾患のネコには3匹とも反応を示すことが分かる。このことから、慢性腎疾患のネコの尿には、β2-mが多く含まれていることが示唆される上、本発明の抗体がネコの腎症の診断に利用できることが理解できる。
【0019】
本発明は、さらに上述した本発明の抗体を利用したネコ腎症の診断方法、診断キットについても提供するものである。本発明の抗体は、ネコ腎症のマーカーであるβ2-mに特異的に結合し得るものであるため、たとえばネコの尿をサンプルとして用いて、当該ネコが腎症に罹っているか否か、従来と比較して迅速かつ簡便に診断することが可能となる。本発明の診断キットは、本発明の抗体以外に、たとえばウェル、色原性基質溶液、反応停止液、洗浄液、標準溶液などを含むことができる。
【0020】
<実験例>
以下、実験例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0021】
<実験例1:β2-m遺伝子の特定>
(1)供試動物
本実験例においては、実験動物施設にて維持されている血液生化学および尿生化学検査において異常が認められない、10歳齢の雄の日本ネコ1頭を使用した。このネコの飼養条件は、12時間昼、12時間夜とし猫用ケージにて飼育し、1日1回の給餌による自由採食、自由飲水とした。
【0022】
(2)ネコ白血球からのTotal RNAの抽出
まず、EDTA採血管を用いて供試動物の外頸静脈からネコ血液を採取した。採血された5mlの血液をコニカルチューブに移し、3000×rpmで5分間遠心後、バフィーコート(白血球層)を分離させた。次に、QIAamp RNA Blood Kit(QIAGEN)を用いて、添付のプロトコールに従ってTotal RNAを抽出した。得られたTotal RNAは使用時まで4℃で保存した。
【0023】
次に、Oligotex(商標)-dT30 Super mRNA Purification Kit(タカラバイオ株式会社)を用いて、添付のプロトコルに従ってTotal RNAからmRNAを分離精製した。具体的には、まず、60μlのTotal RNAを70μlの2×Binding Bufferおよび14μlのOligotex(商標)-dT30と混和した後、サーマルクライマー(PC801、ASTEC)で70℃、3分間加温した。加温後、mRNAとOligotex(商標)-dT30 Superとのハイブリダイゼーションを室温、10分間放置により行った。反応溶液の入ったカラムを15700×gで5分間遠心分離し、Wash Buffer 350μlで懸濁後、付属のスピンカラムセットのカップに移し、15700×gで30秒間遠心分離し、再びWash Buffer 350μlで懸濁後、15700×gで30秒間遠心分離した。カラム内のOligotex(商標)-dT30を、あらかじめ70℃に加温されたRNase free H2O 30μlで懸濁し、付属の新しいスピンカラム用遠心チューブを用いてmRNAを溶出させた。この操作を2回繰り返し、得られた溶液をmRNA溶液とした。
【0024】
次に、得られたmRNA溶液から、中間配列と3'末端の配列決定のためにSMART(商標)RACE cDNA Amplification Kit(クローンテック)を用い、5'末端の配列決定のためにCapFishing(商標)Full-length cDNA Premix Kit(Seegene)を用い、添付のプロトコールに従ってfirst-strand cDNAを作製した。
【0025】
(3)ネコ由来β2-m遺伝子の中間領域の塩基配列の決定
明らかにされている動物種の塩基配列より相同性の高い領域でGenetyx-Win version 7.1(ソフトウェア開発株式会社)を用いて、以下の塩基配列を有するネコ由来β2-m遺伝子の特異的プライマーを設計した。
【0026】
・上流側プライマー1:5'-GGAAAGTCAAATAACCTGAA-3'(配列番号3)
・下流側プライマー1:5'-TCTCGATCCCACTTAACTATC-3'(配列番号4)
このように設計された上流側プライマー1および下流側プライマー1を用い、first-strand cDNAをTaKaRa PCR Kit(タカラバイオ株式会社)を用い、添付のプロトコールに従ってPCRで増幅させた。具体的には、0.2mlのPCRチューブに作製したFirst-strand cDNAを1μl、10×PCR Bufferを2μl、25mM MgClを2μl、8mM dNTPを2μl、5units/ml AmpliTaq Gold(EC2.7.7.7,Applied Biosystems)を0.1μl、10pmol/μlの遺伝子特異的primersense primer、antisense primerをそれぞれ1mlをdistilled water(dH2O)で20μlに調整し、Mastercycler Gradient(Eppendorf)を用い目的のcDNAを増幅させた。増幅は95℃で10分間を1サイクル、95℃で1分間、65℃1分間、72℃3分間を35サイクル、72℃30秒間を1サイクルで行った。
【0027】
増幅したcDNA断片の確認のため、アガロース(SIGMA)を1×TAE(40mM Tris-HCl、40mM酢酸、1mM EDTA、pH8.0)に1%または2%の割合で溶解した。PCR産物18μlとローディングバッファー2μlを混合し泳動用試料とした。泳動バッファーには1×TAEを用い、電気泳動装置(ミューピッド-3、コスモバイオ)で100V定電圧、30分間通電して電気泳動を行った。電気泳動終了後のアガロースゲルを100ng/mlのエチジウムブロマイド(BIO-RAD)溶液により15分間染色し、Epi-Light(FA500、 アイシンコスモス研究所)を用いて撮影した。図5は、上流側プライマー1および下流側プライマー1を用いたPCR法によって増幅したcDNAをアガロースゲル電気泳動で分析した結果を示す写真である。240bp付近にバンドが確認できたものの、スメア状の泳動像が見られた。そこで、このPCR産物をクローニングした後、塩基配列の解析を行った。
【0028】
TOPO(商標) TA Cloning Kit(Invitrogen)を用い、添付のプロトコールに従ってライゲーションは行った。具体的には、まず、0.5mlのPCRチューブに、15ng/μlに調整したPCR溶液(Salt Solution 2M NaCl、60mM MgCl2)を2μl、ベクタープラスミド(pCR2.1-TOPO)を1μl、dH2Oを1μl加え、22.5℃で30分間反応させた。
【0029】
次に、One Shot Chemical Transformation Kit(Invitrogen)を用い、添付のプロトコールに従ってトランスフォーメーションを行った。具体的には、まず、ライゲーション反応液をTOP 10 E.Coliの入ったチューブに2μl加え、氷上に30分間放置した後、42℃で30秒間加温し、直ちに氷冷した。さらにSOC培地250μlを加え、37℃で60分間培養した後、100mg/mlのX-Gal(タカラバイオ株式会社)を1プレートあたり20μl塗布したLB寒天平板培地に50μlづつ接種し、コンラージ棒で均一に延ばして37℃で18時間培養した。なお、LB寒天平板培地は、LB AGAR(GIBCO BRL(商標))3.2mgに100mlの超純水を加え、l21℃15分間のオートクレーブにて滅菌後、アンピシリンを0.05mg/mlの割合で加え、直径9cmのシャーレ中で固めて作製した。
【0030】
次に、QIAprep(商標) Spin Miniprep Kit(QIAGEN)を用い、添付のプロトコールに従ってプラスミド抽出を行った。目的のDNA断片の挿入が確認できたTOP 10 E.Coliコロニーをできる限り滅菌爪楊枝でとり、10mMのLB液体培地に接種し、37℃で18時間振盪培養した。その後、15000×gで10分間遠心分離し、上清を捨て、TOP 10 E.Coliペレットを得た。このTOP 10 E.Coliを250μlのTOP 10 E.Coli浮遊バッファー(P1 Buffer)に再浮遊し、1.5μlチューブに移した。P2 Buffer(アルカリ溶菌バッファー)を250μl加え、ゆっくり転倒混和して溶菌させた後、5分以内に中性化バッファー(N3 Buffer)を加え溶菌を停止させた。10000×gで10分間遠心分離した後、上清を2mlチューブにセットしたスピンカラムに移し、10000×gで1分間遠心分離した。遠心上清液を捨てた後、スピンカラムに500μlのプロパノール含有グアニジン塩酸塩バッファー(PB Buffer)を加え、10000×gで1分間遠心洗浄を行い、さらに750μlのエタノール含有脱塩バッファー(PE Buffer)で同様の遠心洗浄を行った。チューブを新しいものに換えた後、50 μlのdH2Oをスピンカラム中央に滴下し、10000×gで1分間遠心分離を行い、プラスミド溶液を得た。TOP 10 E.Coliの培養に使用したLB液体培地は、LB(GIBCO BRL(商標))2mgに100mlの超純水に加え、l21℃15分間オートクレーブにて滅菌した後、アンピシリンを0.05mg/mlの割合で加え作製した。
【0031】
(4)cDNA全体における塩基配列の解析
ABI PRISM(登録商標)BigDye(商標)Terminator Cycle Seqencing Ready Reaction Kit(Applied Biosystems)を使用し、添付のプロトコールに従い塩基配列決定用のサンプルを作製した。0.2mlのPCRチューブに、濃度を300ng/μlに調整した抽出プラスミドを1μl、Terminator Ready Reaction Mix(fluorescein donor dye、6-carboxy fluorescein)を8μl、dH2Oを10.68μl 、10pmol/μlのM13FおよびM13R primerを0.32μl加えサーマルサイクラーを用いてPCR反応を行った。PCR反応は、96℃10秒間、50℃5秒間、60℃4分間を25サイクル繰り返して行った。
【0032】
反応終了後、反応液を1.5mlのチューブに移し、75%イソプロピルアルコールを60μl加え、軽く混和して20分間放置した後、20000×gで20分間遠心分離した。上清を全て捨て、再度75%イソプロピルアルコールを250μl加え、20000×gで10分間遠心分離した後、沈渣の水分を蒸発させた。得られたPCR産物を20μlのTemplate Suspension Reagent(TSR、Applied Biosystems)で完全に溶解後、95℃で2分間変性処理した。塩基配列の解析は、ABI Prism 310 genetic Analyzer(Applied Biosystems)を用いて塩基配列の解析を行った。得られた塩基配列データを解析ソフトであるGENETYX-MAC ver.8.0(Software Development)を用いて、cDNAの塩基配列を決定した。
【0033】
PCR産物をクローニングした後、塩基配列を解析した結果、配列番号5に示されるような塩基配列が得られた。この配列とヒト、ウマ、ウシ、ブタおよびマウスのβ2-m cDNAの塩基配列とを比較し、また、この配列の各動物に対する相同性を分析したところ、それぞれの相同性は、75.3%、80.0%、77.1%、79.6%、69.1%であったところから、β2-m cDNAの中間配列であると決定した。
【0034】
(5)3'-Rapid amplification of cDNA ends(RACE)-Neasted PCR法
SMART(商標) RACE cDNA Amplification Kit から作成したFirst-strand cDNA を用いて、3'-RACE-Neasted PCR法を行った。Primerの設計は、得られた中間配列により、それぞれ以下の塩基配列を有する特異的な上流側プライマー2および上流側プライマー3を作製した。さらに、Nested-PCR用の下流側プライマー3をヒト、マウス、ラット、ウシ、ブタ、サル、ラットの塩基配列より相同性の高い領域で作成した(図6)。
【0035】
・上流側プライマー2:5'-GGGTTCCACCCACCAACAATTCAAAT-3'(配列番号6)
・上流側プライマー3:5'-TGGTCCACACCGAA-3'(配列番号7)
・下流側プライマー3:5'-GAAAATATGAAATACGTGTATT-3'(配列番号8)
First PCRは、上流側プライマー2とUniversal Primer A Mix(UPM:クローンテック)(5'-AAGCAGTGGTATCAACGCAGAGG-3'(配列番号9))を用いて行い、続いてSecond Nested-PCRは、上流側プライマー3と下流側プライマー3の組み合わせで行った。PCR条件は、95℃で10分間を1サイクル、95℃で1分間、65℃で1分間、72℃で3分間を35サイクル、72℃で30秒間を1サイクルで行った。
【0036】
(6)3'RACE法およびnested-PCRより得られたcDNAの解析
図7(a)は、上流側プライマー2とUniversal Primer A Mixにより増幅されたcDNAをアガロースゲル電気泳動で分析した結果を示す写真である。図7(a)に示されるように、電気泳動像では複数のバンドが確認されたので、このcDNAをテンプレートとして、上流側プライマー3および下流側プライマー3を用い、nested-PCRを行った。図7(b)は、nested-PCR後に電気泳動で分析した結果を示す写真である。結果、図7(b)に示されるように、上流側プライマー2とUniversal Primer A Mixではバンドが確認されず、上流側プライマー3および下流側プライマー3を用いて増幅したcDNAの電気泳動像では約220bp付近と100bp以下の位置にバンドが確認された。そこで、約220bp付近に確認されたPCR産物をクローニングした後、塩基配列を解析した結果、配列番号10に示す塩基配列であることが分かった。得られたcDNAの塩基配列と各種ヒト、ウマ、ウシ、ブタおよびマウスのβ2-m cDNA配列と各動物の相同性を分析したところ、それぞれの相同性は、75.3%、80.0%、77.1%、79.6%、69.1%であり、ネコ由来β2-m遺伝子の3’端塩基配列が明らかになった。
【0037】
(7)5'-Rapid amplification of cDNA ends(RACE) PCR法
CapFishing(商標) Full-length cDNA Premix Kit(Seegene)を用いて、5'-RACE PCR法を行った。上述した方法で濃縮乾燥されたmRNAは、5mM dNTP 4μl、10mM dT-adaptor 2μlおよびDEPC-treated water 4.5μlで溶解混和され、恒温槽にて75℃3分間の加温に引き続き氷上で2分間急冷した後、5倍濃度のRT Buffer 4μl、0.1M DTT 1μl、CapFishing(商標)solution 1μl、BSA(1mg/ml)2μl、RNase inhibitor(40IU/μl)0.5μlおよびReverse transcriptase(200IU/μl)1μlを加え、サーマルサイクラー(ASTEC PC801)を用いて42℃で1時間インキュベートした。続いて、その反応液に、予め75℃の恒温槽で3分間加温の後氷上で2分間急冷された3mlのCapFishing(商標) adaptorおよび0.3mlのReverse transcriptase(200IU/μl)を添加し、再びサーマルサイクラーで42℃30分間、70℃15分間、94℃5分間加温された。94℃5分間加温後、反応液は氷上で2分間急冷後、DEPC-treated water 180μlを加え、First-strand cDNAとした。保存されたFirst-strand cDNAをアニーリング温度70℃にてPCRした。使用した下流側プライマー4としては、中間配列の解析で決定された塩基配列を基に以下の塩基配列を有するように設計した。また、上流側プライマーとしては、CapFishing(商標) Full-length cDNA Premix Kit(Seegene)の10mM 5’RACE(Rapid amplification of cDNA ends)プライマーを使用した(図8)。
【0038】
・下流側プライマー4:5'-GTGTGGACCAGAAGATAGAAAGTCC-3'(配列番号11)
・5’RACEプライマー:5'-GTCTACCAGGCATTCGCTTCAT-3'(配列番号12)
アガロース電気泳動によりPCR産物の理論長付近に出現したバンドを確認後、バンドの出現状態によってアニーリング温度を理想的な条件に調整した。アガロース電気泳動にて、単一のバンドとして確認されたものをDNA試料としてクローニングを行い、プラスミド抽出DNAを抽出後、挿入DNAの塩基配列が決定された。塩基配列決定にはABI PRISM BigDye(商標) Terminator Cycle Sequencing Ready Reaction Kit(Applied Biosystems)を用い、添付のプロトコールに従って処理した。
【0039】
(8)5’RACE法のアガロースゲル電気泳動像の分析
PCRでのアニーリング温度を75℃に設定し、5’RACE法を行った。PCR産物のアガロースゲル電気泳動を行ったところ、バンドが出現しなかったため、アニーリング温度を70℃に下げ、再度5’RACE法を行った。ここで図9は、5’RACE法のアガロースゲル電気泳動の結果を示す写真であり、レーン1〜3は、アニーリング温度をそれぞれ75℃、71℃、70℃とした場合の結果である。図9に示されるように、目的の約350bp付近にバンドは現れたもののスメア状となったため、アニーリング温度を71℃に上昇させたところ、バンドは再び現れなかった。したがって、5’RACEプライマーおよび下流側プライマー3を用いて作製された5’RACE-PCRの条件の適正アニーリング温度は70℃とされ、クローニングの後、塩基配列を決定した。塩基配列を解析した結果、配列番号13に示す塩基配列であることが分かった。得られた塩基配列と、ヒト、ウマ、ウシ、ブタ、マウス、サルおよびラットのβ2-mのcDNAの塩基配列に対する相同性を分析した結果、それぞれの相同性は、74.4%、78.3%、78.3%、78.3%、69.3%、72.7%および69.3%であった。そこで、この配列を5’端配列と決定した。
【0040】
(9)得られたcDNA全体における塩基配列の解析
以上より得られた塩基配列を基に配列全体を構築した(配列番号2)。図2は、得られたネコのβ2-m遺伝子のcDNAの塩基配列を、既に知られているヒト、ウマ、ウシ、ブタ、マウス、サルおよびラットのβ2-m遺伝子の塩基配列と比較して示す図である。図中、互いに共通する塩基配列部分を四角で囲んで示している。cDNA長はヒト、サル、マウス、およびラットで360 base、ウマ、ウシ、およびブタで357 baseであったのに対し、今回得られた配列番号2で示されたネコのcDNAではその長さは357 baseであった。また、他動物種(ヒト、ウマ、ウシ、ブタ、マウス、サルおよびラット)間のβ2-m cDNA塩基配列の相同性は、平均72.9%であるのに対し(表1)、今回得られた塩基配列と他動物種とのそれぞれの相同性は、73.4%、76.7%、74.5%、76.5%、67.3%、71.2%、および68.1%であり、平均の相同性は72.5%であった(表2)。このことから、得られた塩基配列はネコのβ2-m遺伝子であることが明らかになった。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
<実験例2:ネコ由来β2-mの合成>
(1)ネコ由来β2-mのアミノ酸配列の解析
実験例1で得られたネコ由来のβ2-m遺伝子の塩基配列(配列番号2)からアミノ酸配列を翻訳し、ネコ由来のβ2-mのアミノ酸配列(配列番号1)を解析した。図1は、得られたネコのβ2-mのアミノ酸配列を、既に知られているヒト、ウマ、ウシ、ブタ、マウス、サルおよびラットのβ2-mのアミノ酸配列と比較して示す図である。配列番号1で表わされる本発明のタンパク質のアミノ酸数は全長で118個であり、ヒト、サル、マウスおよびラットの119個、ウマ、ウシおよびブタの118個と極めて近似した値であった。また、他動物種(ヒト、ウマ、ウシ、ブタ、マウス、サル、およびラット)間のβ2-mのアミノ酸配列の相同性の平均が72.8%であった(表3)。また、今回得られた塩基配列をアミノ酸に翻訳した配列と他動物種のβ2-mのアミノ酸配列とが比較されたところ、それぞれの相同性は、65.3%、72.6%、68.4%、74.4%、60.8%、63.6%および62.7%であり、平均の相同性は66.8%であった(表4)。したがって、得られたアミノ酸配列はネコ由来のβ2-mであることが明らかになった。
【0044】
【表3】

【0045】
【表4】

【0046】
(2)プライマーの設計
得られたネコβ2-mのmRNAの塩基配列から、Genetyx-Win version 5.1(ソフトウェア開発株式会社)を用いてプライマーを設計した。ベクターとしてpGEX-6P-1(GEヘルスケアバイオサイエンス)を用いるため、上流側プライマーの5’末端にBam HI、下流側プライマーの5’末端に Sal Iの制限酵素認識配列を加え、それぞれ以下の塩基配列となるように作製した。なお、NはT、A、CまたはGを示している。
【0047】
・上流側プライマー:5'-NNNGGATCCGTCCAGCATTCCAAAGGTTCAGGT-3'(配列番号14)
・上流側プライマー:5'-NNNGTCGACTTACATGTCTCGATCCCACTTAACGACCTT-3'(配列番号15)
(3)PCR法
上述のfirst strand cDNA 4μl、GoTaqR Green Master Mix(Promega)12.5μl、上流側プライマー1μl、下流側プライマー1μlおよびRNase free H2O 6.5μlをPCRチューブ内で混和し、サーマルクライマーを用いてPCRを行った。PCRの条件は95℃2分間加温後、95℃で45秒間、primer pairのアニーリング温度で45秒間、72℃で1分間のサイクルを35サイクル、その後72℃で7分間のプログラムとした。また、PCRの最適な条件を見つけるため、アニーリング温度の検討を行った。アニーリング温度が、77.5℃で行ったRT-PCRでは、目的とするβ2-m cDNAと思われる約300bpのバンドの他に約50bpのバンドが出現した。ここで、図10は、アニーリング温度を変えた条件でPCRを行い、2% アガロースゲルで電気泳動を行った結果を示す写真であり、レーン1〜3はそれぞれアニーリング温度を77.5℃、80℃、85℃とした場合、レーン4、5はプライマーの添加量を変えた場合である。この約50bpのバンドは、アニーリング温度が77.5℃、80℃および85℃と高くなるにつれて減少したが、消失しなかった。したがって、アニーリング温度を85℃に設定しプライマーの添加量を変え、レーン5ではプライマーの添加量を半分に落としたところ、約50bpのバンドが少なくなり、β2-m cDNAのバンドと思われる約300bpのほぼ単一なバンドのPCR産物が得られ、ベクタープラスミドへの挿入cDNAとした。
【0048】
(4)ゲルからのDNA抽出
QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用いて、添付のプロトコールに従ってゲルからのDNA抽出を行った。アガロースゲルの目的のDNAバンドを切り出し、ゲルの重量を測定した。切り出したゲルを、3倍量のQGバッファーを添加され50℃の恒温槽(TR-2A、ASONE)内で10分間加温し、ゲルを完全に溶解させた後、ゲルと同量のイソプロパノールを加え、よく混和させた。DNA溶液を、キットに付属のカラムのセットされた2mlのコレクションチューブに加え、室温で13400×g、1分間遠心分離した。その後、コレクションチューブ内の濾液を捨てた後、再びカラムに0.75mlのPEバッファーを添加し、室温で15700×g、1分間遠心分離にて洗浄後、濾液を除去し、さらに1分間遠心分離した。その後、カラムを新しい1.5mlのマイクロチューブにセットし、EBバッファー 50μlを加えた後、室温で1分間放置し、15700×gで1分間の遠心分離により抽出液を回収し、得られた溶液をDNA抽出溶液とした。
【0049】
(5)PCR産物の濃縮
DNA抽出溶液をフェノールと等量混合後、15700×gで5分間遠心分離後、核酸を含む水層を分離した。その水層に、クロロホルムを等量混合し、15700×gで5分間遠心分離させた後、上清を分離した。次に分離後の溶液は、2.5倍量の100%エタノールが加えられ−80℃で30分静置し、その後15700×gで5分間遠心分離、上清を除去し、沈渣を得た。沈渣に70%エタノールを添加し、15700×gで5分間遠心分離後、上清を除去し、PCR産物の濃縮試料とした。
【0050】
(6)β2-m cDNA組み込みベクターの作成および大腸菌の形質転換法
PCR産物の濃縮試料を、BamHI(タカラバイオ株式会社)5μl、SalI(タカラバイオ株式会社)5μl、H.Buffer(500mM Tris-HCl、pH7.5、100mM MgCl2、10mM Dithiothreitol、1000mM NaCl)5μlおよびRNase free H2O 35μlに混和させた。また、pGEX6P-1 5μl(2.5μg)を、BamHI 5μl、SalI 5μl、 H.Buffer 5μlおよびRNase free H2O 30μlと混和させた。各溶液を、37℃で1晩インキュベートすることで制限酵素処理を施した後、アガロースゲル電気泳動を行い、QIAquick Gel Extraction Kitを使用して、各DNAバンドの抽出を行った。ライゲーションはDNA Ligation Kit(タカラバイオ株式会社)を用いて行った。すなわち、5μlのLigation Mixと1μlの制限酵素処理されたβ2-m cDNA溶液および4μlのpGEX6P-1が混和され、16℃で1晩静置された。そして、この反応溶液を用いて、β2-m cDNAのトランスフェクションを行った。反応溶液2.5μlを、E.coli JM109 Competent Cells(タカラバイオ株式会社)25μlに添加し氷上で30分間静置させ、次に42℃の恒温槽で45秒間Heat-Shockを与え、直ちに2分間氷冷後SOC培地(2%tryptone、0.5% Yeast extract、10mM NaCl、2.5mM KCl、10mM MgSO4、10mM MgCl2、20mM glucose)250μlを緩やかに加え、37℃1時間保温された。β2-m cDNAトランスフェクト溶液100μlをアンピシリン加LB培地にそれぞれ塗布し、37℃で1晩静置後、コロニーを釣菌し、アンピシリン加LB液体培地1.2mlに混和後、37℃で1晩培養した。培養後の液体培地を13400×gで1分間遠心分離後、上清を完全に除去し、得られた沈渣からプラスミド抽出を行った。
【0051】
(7)プラスミド抽出
QIAPrep Spin Mini Kit50(QIAGEN)を用い、添付のプロトコールに従ってプラスミド抽出を行った。具体的には、まず、上述の得られた沈渣を、buffer P1 250μlで溶解させた後、buffer P2 250μl を添加し、その後緩やかに転倒混和させることで溶菌させた。中性化N3 buffer 350μlの添加により溶菌反応を停止させた後、15700×gで10分間遠心分離し、上清を付属のカラム付きコレクションチューブに添加した。カラムを、5900×gで1分間遠心分離した後、濾液を除去し、Binding Buffer 500μlを加えた。続いて、9300×gで1分間遠心洗浄後、濾液を除去し、エタノール含有脱塩buffer 750μlを加え、9300×gで1分間遠心洗浄後、新しいチューブに移した。カラムのメンブレンに、Elution Buffer 50μlを添加し、9300×gで1分間遠心分離後、プラスミド抽出溶液を得、このプラスミドをpcDNA-F β2-mとし、アガロースゲル電気泳動法により確認した。図11は、形質転換された大腸菌から抽出したpcDNA-F β2-mをアガロースゲル電気泳動した結果を示す写真である。図11において、レーン1、2は、それぞれ制限酵素(BamHIおよびSal1)で処理されたプラスミド(pGEX6p-1)およびβ2-m cDNAであり、レーン3はpcDNA-F β2-m、レーン4はpcDNA-F β2-mを制限酵素(BamHIおよびSal1)で処理した試料についての結果を示している。図11に示されるように、約3000bpに太いバンドが、約8000bp、約5000bpおよび約2000bpに薄いバンドが確認された。また、抽出後のpcDNA-F β2-mをBamH1およびSal1で制限酵素処理を行った試料を泳動したレーン4では、約5000bpと約300bpのバンドが確認された。この約5000bpと約300bpの二つのバンドは、形質導入前のβ2-m cDNAおよびpGEX6P-1の泳動結果と比較するとほぼ同じ分子量のバンドであった。また、pcDNA-F β2-mのサブクローニングの成否は、T7プライマーを用いてDye Deoxy Terminator Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)およびApplied Biosystems 3130xl Genetic Analyzer(Applied Biosystems)を使用したシークエンス解析により行った。図12は、pcDNA-F β-2mのシークエンス解析結果を模式的に示す図である。図12に示す結果から、組み込んだβ2-m cDNAの塩基配列が正しくベクターに組み込まれていたことが確認された。
【0052】
(8)GST融合タンパク発現の確認
トランスフェクトされた大腸菌を、37℃、1晩LB培地で培養後、100μlをIsopropl-β-D-thiogalactopyranoside(IPTG:0.1mM)20μlと混和させ、37℃で約2時間振盪培養(BR40-LF、TAITEC)した。振盪培養後の大腸菌溶液を、15700×gで1分間遠心分離後、上清を除去し、沈渣に可溶化液(50mM Tris-HCl 50μl、1×RIPA Lysis Buffer(Up State)100μl、Protease Inhibitor 140μl、H2O 710μl)30μlを加え可溶化後、15700×gで5分遠心分離し、上清と沈渣に分けた。上清30μlに、2×SB溶液(2% SDS、40% Glycerol、0.6% BPB、25mM Tris-HCl Buffer(pH6.8、20℃))30μl、2ME 1μlを加え、95℃で3分間加温した。沈渣に、SB溶液20μlを加え、超音波破砕機(UR-20P、TOMY SEIKO CO,LTD)で5秒間破砕後、95℃で3分間加温した。その後、上清および沈渣について、SDS−PAGEにてGST融合タンパク質発現の確認およびGST融合タンパクの大腸菌での溶解性を確認した。GST融合タンパク誘導発現後に得られた大腸菌をソニケーションし、遠心分離して得られた上清および沈渣について、SDS−PAGEにて泳動させた。図13は、SDS−PAGEの結果を示す写真であり、レーン1は上清、レーン2は沈渣についての結果を示している。GST融合タンパクの分子量は、約37kDaであり、上清には顕著なバンドの確認はできなかったが、沈渣では、明瞭な太いバンドが確認された。そのため、GST融合タンパクは、不溶性画分に発現したことが確認された。
【0053】
(9)SDS−PAGE法
コンパクトPAGE(AE-7300、ATTO)を用いてLaemmliの方法に準拠し、これに以下に示す修正を加えてSDS−PAGEを実施した。具体的には、分離ゲルの組成は、15%acrylamide、0.2% N,N-methylene-bis-acrylamide、0.1% SDS、375mM Tris-HCl buffer(pH8.8, 20℃)とした。ゲルは2・4連ゲル作製器(AE-7344、ATTO)を用いて作製した。電極緩衝液の組成は、0.1% SDS、129mM glycine、25mM Tris(pH8.3、20℃)とした。泳動用試料(SB)の組成は、1% SDS、20%glycerol、0.3% BPB、12.5mM Tris-HCl Buffer(pH6.8、20℃)とした。また、マーカーとして、プレステインドSDS−PAGEスタンダード(Broad)マーカー(BIO-RAD)もしくはSDS−PAGEスタンダード(Broad)マーカー(BIO-RAD)が用いられた。泳動は、Tris-Gly/PAGE Highモードで30分泳動させた後、Tris-Gly/PAGE Lowモードにして、下部イオン界面をゲル下端から1〜2mm上方の位置に移動したときに終了した。SDS−PAGE終了後のゲルには、Oakley法に準拠した銀染色法を施した。すなわち、ゲルを30% ethanol、10% acetic acid溶液にて固定後、洗浄し、20 % ethanolに5分間2回浸漬させた。20% ethanol除去後、5% glutaraldehyde溶液にて4分間反応させ、純水で洗浄後、20% ethanolに4分間2回浸漬させた。その後、純水で洗浄し、アンモニア性硝酸銀溶液にて5分間反応させ、純水で洗浄後、0.005% citric acid、0.019% formaldehyde溶液で発色させた。発色確認後のゲルは、20% ethanol、10% acetic acid溶液にて5分間固定させ、20% ethanolに5分間2回浸漬後、写真を撮影した。なお、銀染色法はすべて遮光条件下にて実施した。
【0054】
(10)GST融合タンパク質の発現誘導と単離
GST融合タンパク質の発現が確認された大腸菌をアンピシリン加LB寒天培地に塗布し、コロニーを釣菌後、3mlのアンピシリン加LB液体培地に加え1晩37℃で振盪培養した。続いて、その培養液3mlをアンピシリン加LB液体培地250mlに加え、37℃で約150分振盪培養後、0.1mM IPTG 2.5mlを添加し、約2時間、37℃で振盪培養したGST融合タンパク質のタンパク発現後のタンパク組成を分析した。GST融合タンパク発現誘導後の培養液を6000×gで15分間遠心分離した沈渣に、20mlの0.5mM EDTA、0.4M NaCl、5mM MgCl2、5%グリセロール、0.5mM phenylmethylsulfonyl fluoride(PMSF)、1mM dithiothreitol(DTT)および1mg/mlリゾチーム加50mM Tris-HCl(pH8.0)を懸濁させ、4℃で1時間静置後、凍結融解を2回行った。続いて、Nonidet P-40を0.5%添加し、超音波破砕機で20秒間×5回破砕後、9300×gで20分間遠心分離し、上清を除去し、沈渣を得た。得られた沈渣を、10mlの8M Urea、0.5mM DTT加Phosphate buffer saline(PBS:140mM NaCl、2.7mM KCl、10mM Na2PO4、1.8mM KH2PO4、pH 7.3)に再懸濁後4℃で1時間静置し、9000×gで20分間遠心分離し、上清を得た。この上清をGST融合タンパク溶液とした。
【0055】
(11)アフイニティークロマトグラフィー法
20mlのGST融合タンパク溶液を0.5M Urea 加PBSで平衡化させたGSTrap HP columnカラム(GE ヘルスケアバイオサイエンス)にペリスタポンプ(SJ-1211L、ATTO)を用い、流速0.3ml/minで添加した。なお、カラムに添加するGST融合タンパク溶液について、尿素濃度の違いによるカラムへのGST融合タンパクの吸着量の比較を行った。カラムを、0.5M Urea加PBSで洗浄後、10mM reduced glutathione、1M Urea 加50mM Tris-HCl(pH8.0)で溶出させた。GST融合タンパク溶出液の吸光度を紫外部吸光度モニター(AC-5100L、ATTO)を用いて吸光波長220nmでモニターし、記録計(R-01A、RIKADENKI)で記録した。得られたGST融合タンパク溶出液2mlを、濃度が1mMになるようにDTTを添加し混和後、分子量13kDaカットの透析膜(UC30-32-100、三光純薬株式会社)に入れ、150mM NaCl、1mM EDTA加50mM Tris-HCl(pH7.5)2Lを用いて約6時間透析した。尿素濃度の違い(2M、1Mおよび0.5M)によるGST融合タンパク質のHiTrap affinity columnへの結合量の比較を行った。各尿素濃度のGST融合タンパク溶液のクロマトグラムを図14(a)、(b)、(c)にそれぞれ示す。図14(a)、(b)、(c)は、それぞれ、尿素濃度2M、1Mおよび0.5Mのタンパク試料を用いたクロマトグラムを示している。各クロマトグラムは、前半部分に試料添加による吸光度変化が見られ、洗浄バッファーの添加により吸光度が減少した。その後、溶出バッファー添加によりシャープなピークが確認されたが、尿素濃度の減少に伴い吸光度の増加がみられ、尿素濃度0.5Mで最もシャープな分画が観察された。各尿素濃度のリガンド結合分画について、SDS−PAGEで比較した結果を図15に示す。図15において、レーン1は図14(c)で得られたリガンド結合分画、レーン2は図14(b)で得られたリガンド結合分画、レーン3は図14(a)で得られたリガンド結合分画についての結果が示されている。図15に示されるように、尿素濃度が高くなるに従いGST融合タンパク質の結合量の減少が確認され、尿素濃度0.5Mで行ったアフィニティークロマトグラフィーのリガンド結合分画(図14(c)で得られたもの)(以下、「C4分画」と呼称する)を以下の実験で用いた。
【0056】
(12)プロテアーゼ処理
透析後のGST融合タンパク溶出液について、DC Protein Assay(Bio-Rad)を用いてタンパク定量を行い、タンパク量200μgに対し、PreScission Protease(GE ヘルスケアバイオサイエンス)を1μl添加して混和させた後、4℃で6時間以上反応させ、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)用の試料とした。PreScission Protease反応に及ぼす透析およびDTTの効果について検討を行った。また、C4分画を用いてPreScission Protease活性に与えるDTT濃度の影響を検討した。C4分画に最終濃度1mM、2.5mMおよび5mMになるようにDTTを添加し、透析後、PreScission Proteaseを反応させた結果を図16に示す。図16において、レーン1は1mM DTTを添加した場合、レーン2は2.5mM DTTを添加した場合、レーン3は5mM DTTを添加した場合をそれぞれ示している。いずれの濃度のDDT添加においても約11kDaのβ2-mのバンドは認められたが、1mMのDTT添加では約15kDaのバンドの消失、2.5mMおよび5mMのDTT添加では、β2-mのバンド以外に約13kDaのバンドが確認された。上記の結果より、次の精製ステップである高速液体クロマトグラフィー法(HPLC)では、1mMのDDTを添加したC4分画を透析後にPreScission Protease処理した試料を用いた。
【0057】
(13)HPLC法
HPLCシステムは、システムコントローラー(SCL-10A VP、Shimadzu)、送液ユニット(LC-10AD VP、Shimadzu)、紫外部分光高度計(SPD-10A VP、Shimadzu)、カラムオーブン(CTO-10A VP、Shimadzu)および脱気ユニット(DGU-14A、Shimadzu)から構成され、カラムはMightysilRP-18 GP250-4.6(Cat.No.25415-96、関東化学)を使用した。HPLCの分離条件は、移動相の流速を1ml/min、試料添加量は400μlとし0.1%Trifluoroacetic Acid(TFA)溶液で平衡化させカラムを0.1%TFA加acetonitrile溶液を用いて、acetonitrile濃度0〜80%のライナーグラジエントで行った。なお、溶出液は、吸光波長220nmで吸光度をモニターし、検出されたピークを分取し、濃縮遠心機(CC-181、TOMY)にて1時間遠心分離後、凍結乾燥機(FDU-540、EYELA)にて乾燥させた後−20℃で保存した。また、溶出された各分画のタンパクを、SDS−PAGE法により分析した。図17は、HPLCのクロマトグラムを模式的に示す図である。プロテアーゼ処理後のC4分画は、主に5つの分画として溶出された。これらの5つの分画は溶出された順にC4a、C4b、C4c、C4dおよびC4eとし、SDS−PAGEにより分析した。図18は、HPLC後の各分画についてのSDS−PAGEの結果を示す写真である。図18に示すように、C4a分画ではバンドが確認されず、C4b分画では約11kDaのバンドが、C4c分画では約11 kDa、約25kDa、約27kDaのバンドが、C4d分画では約11kDa、約27 kDaのバンドが、C4e分画では約27kDaのバンドが確認された。目的とするβ2-mと思われるタンパク質は、C4b分画において単一のバンドとして検出された。また、C4b分画の溶出時のacetonitrile濃度は39.5%であった。この溶出液を組み換えネコβ2-mとして、濃縮遠心し、凍結乾燥後、−80℃で保存した。
【0058】
<実験例3:抗体産生ハイブリドーマ、抗rFeβ2-m抗体の作製>
実験例2で合成したタンパクを組み替え型ネコβ2-m(rFeβ2-m)の抗原としてモノクローナル抗体を作製するにあたり、まずは抗体産生ハイブリドーマを作製した。
【0059】
(1)抗体産生ハイブリドーマの作製
(1−1)免疫法
免疫法は、精製rFeβ2-mを抗原としてBalb/cマウスの後肢肉球(footpad)の皮下に注射することにより行った。免疫は5日間隔で4回行い、初回から第3回目までの免疫は抗原溶液100μl(1mg/ml)とアジュバントを等量混合させてエマルジョン化させた抗原液200μl(50μg/foot)を、また、最終免疫では抗原溶液20μl(10μg/foot)のみを用いて行った。また、アジュバントは初回免疫ではAdjuvant Complete Freund(和光純薬工業株式会社)を、第2回目から3回目の免疫ではAdjuvant Incomplete Freund(和光純薬工業株式会社)を用いた。
【0060】
(1−2)細胞融合
最終免疫から3日後、膝窩リンパ節を摘出し、リンパ球を回収後、GenomONE-CF(石原産業株式会社)を用いて、細胞融合を行った。また、ミエローマ細胞としてはP3X63-Ag8.653(大日本住友製薬株式会社)を用いた。融合方法は添付のプロトコールに従って行った。具体的には、まず、リンパ球とミエローマ細胞とを細胞数が5:1の比率になるように混合し、1000rpm、4℃で5分間遠心した後、上清を除去した。そこに、氷冷した融合用緩衝液をリンパ球108cellsあたり1ml添加し、均一に懸濁した後、氷冷したHVJ-Envelope懸濁液を細胞混合液1mlあたり25μl添加した。細胞懸濁液を氷上で5分間静置した後、1000rpm、4℃5分間遠心し、上清を除去せずに細胞がペレット化した状態のまま37℃で15分間インキュベートした。
【0061】
インキュベート終了後、37℃に加温した増殖用培地をリンパ球108cells当たり50ml加え、懸濁後、96穴プレート(96 Well Cell Culture Plate:Greiner bio-one)に100μl/wellで播種した。なお、増殖用培地としてRPMI1640(Invitrogen)にペニシリンG(PG;明治製薬株式会社)10万IU/ml、ストレプトマイシン(SM;明治製薬株式会社)100mg/ml、7.5% Bri Clone(IL-6、ヒト、ブライクローン;Cat. No. BR-001、大日本住友製薬株式会社)、10% 非働化ウシ胎仔血清(FBS;株式会社ニチレイ)を加えたものを用い、添加、懸濁の際は穏やかに操作した。24時間培養後、培養培地を上記の増殖用培地に2% HAT(Invitrogen)を添加したHAT培地に交換した。
【0062】
(2)抗体産生ハイブリドーマのスクリーニング
得られたハイブリドーマについて、細胞融合から1週間後にELISA法を用いた一次スクリーニングを行い、この結果、反応陽性となったwellのハイブリドーマのみをWestern blotting法を用いた二次スクリーニングで確認した。
【0063】
(2−1)一次スクリーニング
rFeβ2-mを抗原としたELISA法を用いて、抗体産生ハイブリドーマの一次スクリーニングを行った。ELISAプレートとしては、96 Well ELISA Microplate(Greiner bio-one)を使用した。また、プレートの洗浄には自動洗浄機(Auto Mini Washer AMW-8、バイオテック株式会社)を用い、洗浄液としてはPBS(1.37M NaCl、27mM KCl、100mM Na2HPO4、18mM KH2PO4、pH7.4、25℃)を使用した。固相として、PBSで3μg/mlに調整したrFeβ2-mを50μl/wellでプレートに添加し、4℃で一晩反応させた。固相反応終了後、プレートの抗原液を捨て、ブロッキング液として0.5% Bovine Serum Albumin(BSA;和光純薬工業株式会社)を添加したPBSを150μl/wellで加え、37℃で60分間反応させた。ブロッキング反応終了後、プレートを1回洗浄し、一次抗体として各ハイブリドーマ培養の培養上清を50μl/wellで加え、37℃で60分間反応させた。一次抗体反応終了後、プレートを1回洗浄し、二次抗体として0.1% BSAを添加したPBSで1000倍に希釈したペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体(SIGMA-ALDRICH)を50μl/wellで加え、37℃で60分間反応させた。二次抗体反応終了後、プレートを3回洗浄し、基質液として0.04% o-フェニレンジアミン、0.04% H2O2を添加したPBSを150μl/wellで加え、室温、遮光下で30〜60分間反応された。基質反応終了後、3M H2SO4を反応停止液として50μl/wellで加え、1分間振盪後、Microplate Reader(Model 550、BIO-RAD)で波長490nmにおける吸光度を測定した。吸光度の高かった陽性wellの細胞を、24穴プレート(24 Well Cell Culture Plate;Greiner bio-one)に移して培養した。
【0064】
(2−2)二次スクリーニング
rFeβ2-mを抗原としたWestern blotting法で確認し、抗体産生ハイブリドーマの二次スクリーニングを行った。Lowryの方法に基づき、DC Protein Assay Kit(BIO-RAD)を用いて、Microplate Readerで波長655nmにおける吸光度を測定し、タンパク質を定量した。検量線はBSAを用いて作製した。Western blotting法はTowbinらの方法に準拠し、以下のように実施した。転写膜はポリビニリデンジフルオリド(PVDF)膜(BIO-RAD)を使用した。PVDF膜は100% methanolに10秒間、さらに転写用電極buffer(25mM Tris-HCl(pH8.3、20℃)、192mM glycine、5% methanol)に30分間浸潤し、泳動に供した。転写装置の組み立ては、陽極電極板上に下から順に濾紙(BIO-RAD)、PVDF膜、SDS−PAGE終了後のゲル、濾紙を重層し、その上に陰極電極板を固定した。なお、濾紙は予め電極bufferに2〜3分浸しておいた。転写条件は1.9mA/cm2の定電流で60分間とした。転写終了後のPVDF膜は10mM Tris-HCl(pH7.5、20℃)、140mM NaCl、0.01% Tween20(TBST)に0.5% BSAを加え、室温で60分間振盪し、ブロッキング操作を行った。ブロッキング終了後、TBSTで5分間、2回振盪洗浄し、一次抗体として細胞の培養上清を用い、室温で90分振盪反応させた。一次抗体反応終了後、TBSTで5分間、2回振盪洗浄した後、TBSTで1000倍希釈したペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体を、室温で60分間振盪反応させた。二次抗体反応終了後、TBSTで5分間、2回振盪洗浄し、0.06% 3,3-diaminobenzidine tetra-hydrochloride、0.03% H2O2、50mM Tris-HCl(pH7.6、20℃)を基質反応液として使用し、1〜5分間反応させた。基質反応終了後、水洗し反応を停止させた後、乾燥して保存した。反応陽性を示したハイブリドーマについては後述する限界希釈法によりクローニングを行った。
【0065】
(3)クローニング
ハイブリドーマのクローニングには限界希釈法を用いた。具体的には、スクリーニング後のハイブリドーマを2cells/100μlとなるようにHAT培地で希釈し、100μl/wellで96穴プレートに播種した。ハイブリドーマはセミコンフルエントになったところで24穴プレートに拡大培養し、再びセミコンフルエントになるまで培養した後、二次スクリーニングと同様にrFeβ2-mを抗原としたWestern blotting法で確認した。このクローニング操作を2回行った。また、ハイブリドーマを長期間継代培養することにより抗体産生能が減少するのを防ぐため、クローニング毎に細胞凍結保存液(セルバンカー(BLC-1)、十慈フィールド株式会社)を用いて保存した。
【0066】
(4)抗体産生ハイブリドーマの大量培養および抗rFeβ2-m・mAbの採取と精製
クローニングが終了したハイブリドーマを、浮遊細胞培養フラスコ(フィルタートップSCフラスコ250ml 75cm2;Greiner bio-one)を用いて大量培養した。なお、培養は37℃、5% CO2、5日間、CO2インキュベーター(十慈フィールド株式会社)で行い、培地としてはHAT培地を用いた。大量培養されたハイブリドーマを無血清RPMIで懸濁し、ヌードマウス(Balb/c-nu)の腹腔内に2×107cells/headで投与した。投与してから10〜20日後、腹水を採取した。ヌードマウスから採取した腹水を室温で1時間、あるいは4℃で一晩静置した後、3000rpm、4℃で5分間遠心し、腹水中のフィブリン、ハイブリドーマ、赤血球などを除去した。分離した上清を50%の硫安で塩析させた。具体的には、氷上で撹拌しながら上清と等量の飽和硫酸アンモニウム溶液を徐々に滴下し、滴下後さらに1時間撹拌した。これを10000rpm、4℃で10分間遠心し、沈殿物を20mM リン酸ナトリウムbuffer(pH7.0)に溶解した。塩析後のグロブリン溶液を、20mM リン酸ナトリウムbuffer(pH7.0)で平衡化したSephadex G-25 Fine(GEヘルスケアバイオサイエンス)カラム(内径1.5cm、長さ30cm)を用いて脱塩した。クロマトグラフィーの流速をペリスタポンプ(SJ-1211L、ATTO)で0.5ml/minに調節した。脱塩後のグロブリン溶液を、エコカラム(内径2.5cm、長さ10.0cm:BIO-RAD)に充填したProtein G Sepharose 4 Fast Flow(GEヘルスケアバイオサイエンス)を用いたアフィニティークロマトグラフィー法により精製した。具体的には、脱塩後のグロブリン溶液を20mM リン酸ナトリウムbuffer(pH7.0)で平衡化されたカラムに流速0.5ml/minで添加し、その後カラムを100mM glycine(pH3.0)で溶出させた。溶出液は直ちに10分の1量の1M Tris-HCl(pH9.0)で中和した。精製後の溶出液を50mM 酢酸アンモニウム(pH7.0)で平衡化させたSephadex G-25 Fineカラム(内径2cm、長さ30cm)で脱塩させた後、Freeze Dryer(FDU540、EYELA東京理化器械株式会社)を用いて凍結乾燥し、−20℃で保存した。
【0067】
(5)アイソタイプの決定
Mouse Monoclonal Isotyping Kit(コスモバイオ株式会社)を用い、方法は添付のプロトコールに従って、得られた抗rFeβ2-m・mAbのアイソタイプの決定を行った。具体的には、抗rFeβ2-m・mAbサンプルをdevelopment tubeに150μl加え、室温で30秒間インキュベートした後、撹拌した。そこに、isotyping stripを入れ、さらに室温で10〜15分間インキュベートした後、classとsubclassを読み取った。抗rFeβ2-m・mAbサンプルとしては、2回目のクローニングが終了したハイブリドーマの培養上清を1% BSAを添加したPBSで10倍に希釈したものを用いた。モノクローナル抗体は2種類得られ、一方の抗体AのアイソタイプはIgG1のκ鎖、もう一方の抗体BのアイソタイプはIgG2bのκ鎖であった。
【0068】
(6)ネコのnativeなβ2-mに対する特異性
抗体A、Bについて、慢性腎疾患(Chronic Kidney disease:CKD)のネコの尿タンパクを抗原としたWestern blotting法を用いて、ネコのnativeなβ2-mに対する特異性を確認した。なお、比較のため、上述したようにして精製したrFeβ2-mを抗原として同様の実験を行った。Western blotting法は上述の方法と同様に実施した。ただし、SDS−PAGEの泳動用尿タンパクサンプルは、ネコの尿タンパクを2-MercaptoethanolでSS結合が切断したものを用いた。図3は、ネコのnativeなβ2-mに対する抗体A、Bの特異性の実験結果を示す写真であり、それぞれレーン1はrFeβ2-m、レーン2はCKDネコの尿タンパクを示している。図3に示されるように、抗体A、Bともに、nativeなβ2-mとも特異的に反応することが確認された。CKDネコの尿中のβ2-mが、精製したrFeβ2-mよりも高分子量であったのは、CKDネコの尿中のβ2-mが糖と結合しているためであると考えられる。
【0069】
(7)ネコ腎症診断の検討
上述した抗体A、Bを用いたサンドイッチ法により、1匹の健常なネコと3匹の慢性腎疾患のネコの尿中のβ2-mの定量を行った。具体的には、抗体Aを0.5mg/wellで固相し、ブロッキングした後、1匹の健常なネコと3匹の慢性腎疾患のネコの尿をそれぞれ2時間反応させた。洗浄後、ビオチン標識した抗体Bを2時間反応させた後、アビジンペルオキシダーゼを1時間反応させ、tetramethylbenzidineを用いて基質反応を行い、450nmにおける吸光度の測定を行った。図4はその結果を示すグラフであり、縦軸は尿中のβ2-m濃度(ng/ml)である。図4から明らかなように、本発明の抗体A,Bは、健常なネコの尿に対しては殆ど反応せず、慢性腎疾患のネコには3匹とも反応を示した。この結果から、慢性腎疾患のネコの尿には、β2-mが多く含まれていることが示唆される上、本発明の抗体がネコの腎症の診断に利用できることが示唆された。
【0070】
今回開示された実施の形態および実験例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有するタンパク質。
【請求項2】
請求項1に記載のタンパク質をコードする構造遺伝子。
【請求項3】
配列番号2で表わされる塩基配列を有する構造遺伝子。
【請求項4】
ネコ由来β2ミクログロブリンに特異的に結合する抗体。
【請求項5】
請求項1に記載されたタンパク質を抗原とし、細胞株Mouse-Mouse hybridoma β2-m mAb1(受領番号:FERM AP-21879)により産生されたものである、請求項4に記載の抗体。
【請求項6】
請求項1に記載されたタンパク質を抗原とし、細胞株Mouse-Mouse hybridoma β2-m mAb2(受領番号:FERM AP-21880)により産生されたものである、請求項4に記載の抗体。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれかに記載の抗体を含む、ネコ腎症の診断用キット。
【請求項8】
請求項4〜6のいずれかに記載の抗体を用いた、ネコ腎症の診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図6】
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【図8】
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【図12】
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【図14】
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【図17】
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【図3】
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【図5】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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【図15】
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【図16】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−125268(P2011−125268A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−286712(P2009−286712)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(598041566)学校法人北里研究所 (180)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【Fターム(参考)】