説明

γ−アミノ酪酸の簡易迅速測定方法

【課題】食品原料或いは食品中に含まれるGABA(γ−アミノ酪酸)を、食品原料或いは食品の製造現場等においても簡易、迅速に、しかも正確に定量することが可能なGABAの簡易迅速測定方法を提供すること。
【解決手段】GABA含有試料を、α−ケトグルタル酸の存在下、GABA−T(γ−アミノ酪酸トランスアミナーゼ)単一の酵素活性を有する酵素を作用させて、GABA特異的に酵素反応をさせ、生成するグルタミン酸を測定することにより、試料中のGABA含有量を測定する。本発明において、GABA−T単一の酵素活性を有する酵素として作用させて、GABA特異的に酵素反応をさせる酵素としては、遺伝子組換によって調製されたGABA−Tを挙げることができる。本発明のGABAの簡易迅速測定方法は、食品原料或いは食品中に含まれるGABAを、食品原料或いは食品の製造現場等においても簡易、迅速に、しかも正確に定量することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中のγ−アミノ酪酸(GABA)量を、γ−アミノ酪酸トランスアミナーゼ(γ−アミノ酪酸アミノ基転移酵素:GABA−T)を用いて、簡易、迅速に、しかも正確に測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
GABAは哺乳類の中枢神経系における代表的な抑制系の神経伝達物質であり、生理作用として、血圧降下作用、精神安定作用、腎機能活性化作用などが知られており、最近注目されることが多い物質である。GABAは各種発酵生産物や穀物などに比較的多く含まれており、それらを原料として用いた各種食品が開発され、市販されている。
【0003】
このGABAを機能性成分として利用する際には、他の機能性成分同様その含有量を規格して当該機能を担保する必要があることもあり、各種分析方法により定量分析が行われている。分析法の代表的なものとしては、アミノ酸分析計を使用する方法やオルトフタルアルデヒド(OPA)で誘導体化を行なってから蛍光−HPLCで分析する方法が知られている(特開2004−45174号公報)。これらの方法は、正確な定量分析が可能である一方、他のアミノ酸やペプチドとも反応し、GABAのみを特異的に測定することが難しいという問題があり、更に、高額で精密な機器を使用することから、食品原料或いは食品の製造現場で手軽に簡単に分析するためには不向きであるという問題がある。
【0004】
最近この問題を解決すべく、食品中のGABA(γ−アミノ酪酸)を、特異的にかつ簡便、迅速に測定する方法として、国際農林水産業研究センターにおいて、GABase(GABAアミノ基転移酵素(GABA−T)とコハク酸セミアルデヒド脱水素酵素(SSADH)の混合酵素)の作用を利用して測定できるGABAの簡易迅速定量法が開発されている。この方法は、試料にGABA−T、α−ケトグルタル酸及びNADP+を加えて反応後、生成したNADPHの還元で、WST−8(赤色)を還元して生じる水溶性ホルマザン(黄色)の吸光度測定を行うことにより、食品中のGABAを測定するものである。すなわち、この測定法は、GABAとα−ケトグルタル酸のGABA−Tによる酵素反応によって生じるコハク酸セミアルデヒドを測定することにより、食品中のGABAを特異的に定量するものである。
【0005】
食品中のGABAを測定するその他の方法として、GABase(GABA−T)の作用で生成するNADPHを検出する試みとして、固定化酵素を用いたフロースルー型蛍光検出器を用いたGABA含量を定量しようとする試み(Analytica Chimica Acta 546, 154−160, 2005)がある。しかしながら、これの分析において直接的あるいは間接的な分析対象となるNADPHは、生体内反応の多くの酸化還元酵素の補酵素であるため、試料中の夾雑酵素の影響を受ける可能性が高く、定量値に悪影響を与えることが危惧される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−45174号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Analytica Chimica Acta 546, 154-160, 2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、食品原料或いは食品中に含まれるGABA(γ−アミノ酪酸)を、食品原料或いは食品の製造現場等においても簡易、迅速に、しかも正確に定量することが可能なGABAの簡易迅速測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討する中で、GABAとα−ケトグルタル酸のGABA−T(γ−アミノ酪酸トランスアミナーゼ:γ−アミノ酪酸アミノ基転移酵素)による酵素反応を利用し、かかる酵素反応に用いる酵素としてGABA−T単一の酵素活性を有する酵素として作用できる酵素を用いることにより、GABA(γ−アミノ酪酸)とα−ケトグルタル酸の酵素反応の結果生じたグルタミン酸を直接定量することによって、GABA含量の簡易、迅速に、しかも正確に定量することが可能であることを見出し本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、GABA含有試料を、α−ケトグルタル酸の存在下、GABA−T単一の酵素活性を有する酵素を作用させて、GABA特異的に酵素反応をさせ、生成するグルタミン酸を測定することにより、試料中のGABA含有量を測定することを特徴とするγ−アミノ酪酸の簡易迅速測定方法からなる。本発明において、GABA−T単一の酵素活性を有する酵素として作用させて、GABA特異的に酵素反応をさせる酵素としては、遺伝子組換によってγ−アミノ酪酸トランスアミナーゼ遺伝子を発現することによって調製されたGABA−T(以下、「遺伝子組換によって調製されたGABA−T」という)を挙げることができる。
【0011】
GABAを、α−ケトグルタル酸の存在下で、GABA−Tによって酵素反応させて、グルタミン酸を生成する反応はよく知られている酵素反応であり、飲食品中に含有されるGABAの定量に際して、かかる酵素反応によって生成されるグルタミン酸量を測定して、飲食品中に含有されるGABAの定量を行うことが考えられる。しかしながら、微生物や植物のような天然物から調製される酵素は、GABA特異的に反応させることが難しく、他の酵素反応によって生成されるグルタミン酸との区別をつけることが難しい。したがって、例えば、前記国際農林水産業研究センターの方法では、GABAとα−ケトグルタル酸をGABA−Tによって反応させる酵素反応において、α−ケトグルタル酸から生成されるコハク酸セミアルデヒドを、セミアルデヒド脱水素酵素(SSADH)によって変換する還元反応を利用する方法により、GABA及びα−ケトグルタル酸の反応にかかわったGABAを測定し、飲食品中に含まれるGABAを特異的に測定する方法が採られている。
【0012】
しかしながら、上記のとおり、本発明において、遺伝子組換によって調製されたGABA−Tのような、GABA−T単一の酵素活性を有する酵素として作用できる酵素を用いることにより、GABAとα−ケトグルタル酸の酵素反応の結果生じたグルタミン酸を特異的に測定することができ、該グルタミン酸を直接定量することによって、試料中のGABA含量を簡易、迅速に、しかも正確に定量することが可能になる。
【0013】
本発明においては、GABA含有試料を、α−ケトグルタル酸の存在下、GABA−Tと作用させるに先だって、予め、試料中に含まれるグルタミン酸を測定し、該グルタミン酸量を、酵素反応の後に測定されたグルタミン酸量から差し引くことにより、GABAとα−ケトグルタル酸の酵素反応の前に、試料中に含まれていたグルタミン酸量を測定値から消去することができる。本発明においては、GABAの定量を、グルタミン酸のL−グルタミン酸オキシダーゼ反応を利用した比色定量法、又はグルタミン酸のL−グルタミン酸脱水素酵素反応を利用した比色定量法によって測定することができる。
【0014】
すなわち本発明は、(1)γ−アミノ酪酸含有試料を、α−ケトグルタル酸の存在下、γ−アミノ酪酸トランスアミナーゼ単一の酵素活性を有する酵素を作用させて、γ−アミノ酪酸特異的に酵素反応をさせ、生成するグルタミン酸を測定することにより、試料中のγ−アミノ酪酸量を測定することを特徴とするγ−アミノ酪酸の簡易迅速測定方法や、(2)γ−アミノ酪酸トランスアミナーゼ単一の酵素活性を有する酵素を作用させて、γ−アミノ酪酸特異的に酵素反応させるために用いる酵素が、遺伝子組換によってγ−アミノ酪酸トランスアミナーゼ遺伝子を発現することによって調製されたγ−アミノ酪酸トランスアミナーゼであることを特徴とする上記(1)記載のγ−アミノ酪酸の簡易迅速測定方法や、(3)γ−アミノ酪酸含有試料を、α−ケトグルタル酸の存在下、γ−アミノ酪酸トランスアミナーゼと作用させるに先だって、予め、試料中に含まれるグルタミン酸を測定し、該グルタミン酸量を、酵素反応の後に測定されたグルタミン酸量から差し引くことを特徴とする上記(1)又は(2)記載のγ−アミノ酪酸の簡易迅速測定方法や、(4)グルタミン酸の定量を、グルタミン酸のL−グルタミン酸オキシダーゼ反応を利用した比色定量法、又はグルタミン酸のL−グルタミン酸脱水素酵素反応を利用した比色定量法によって測定するものであることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか記載のγ−アミノ酪酸の簡易迅速測定方法からなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、食品原料或いは食品中に含まれるGABA(γ−アミノ酪酸)を、食品原料或いは食品の製造現場等においても簡易、迅速に、しかも正確に定量することが可能なGABAの簡易迅速測定方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のγ−アミノ酪酸の簡易迅速測定方法を用いたGABAの定量の実施例において、GABA濃度とOD600nmの吸光度の相関について示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、GABA含有試料を、α−ケトグルタル酸の存在下、遺伝子組換によって調製されたGABA−TのようなGABA−T単一の酵素活性を有する酵素を作用させて、GABA特異的に酵素反応をさせ、生成するグルタミン酸を測定することにより、試料中のGABA含有量を測定することを特徴とするγ−アミノ酪酸の簡易迅速測定方法からなる。
【0018】
本発明のGABAの簡易迅速測定方法が適用される試料(検体)としては、GABAを含む試料であればいずれでも良く、特に限定されない。例えば、発酵培養液、粉体、血清、血漿などの生体試料が挙げられる。本発明の酵素と試料は溶液状態で接触させることが好ましく、そのためには固体試料等では、予め水等の適当な溶媒によってGABAを抽出しておくことが望ましい。その際、GABAが抽出されやすいように試料の粉砕、攪拌等を適宜実施すればよい。また、溶液調製の際に生じた沈殿物等の不純物は通常の方法(例えば、遠心分離、ろ過など)により除去しておくことが望ましい。さらに定量に影響を与えるマトリックス物質が存在する際には、吸着カラム、イオン交換カラム、限外ろ過によりあらかじめ除去しておくことが望ましい。
【0019】
本発明の測定方法において、L−グルタミン酸を含む試料であれば、予めL−グルタミン酸量を定量し、試料から生成されたグルタミン酸量から差し引くことにより、GABAから生じたグルタミン酸量を正確に算出することができる。また、酵素未添加、酵素の加熱失活等により、GABA−Tとの未反応液をL−グルタミン酸量を定量する方法のブランク液として用いることで当初から含まれていたグルタミン酸含量についての影響をなくすことも可能である。L−グルタミン酸量を定量する方法は酵素法、又は、HPLCを用いる方法などが挙げられるが特に限定されないが、グルタミン酸のL−グルタミン酸オキシダーゼ反応を利用した比色定量法、又はグルタミン酸のL−グルタミン酸脱水素酵素反応を利用した比色定量法を、L−グルタミン酸量の好ましい定量方法として挙げることができる。
【0020】
[GABA−T遺伝子の組換え]
本発明で使用するGABA−Tは、遺伝子組換によって調製された酵素が用いられる。ここで用いられるGABA−T遺伝子は、特に限定されるものではなく、GABA−T活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を好適に用いることができる。遺伝子情報はDDBJ等の遺伝子データベースから入手することができる。また、任意の生物から該活性を有する遺伝子をクローニングしても良い。遺伝子源として、例えば、大腸菌(Escherichia coli)、酵母(出芽酵母Saccharomyces cerevisiae)、動物(ヒト)等を挙げることができる。GABA−T活性を有していれば、アミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくは挿入されたアミノ酸配列を含んでいてもよい(J. Bacteriol., 172(12), 7035-7042, 1990;Nucleic Acids Res., 18(10), 3049, 1990)。
【0021】
本発明で使用するGABA−Tは、GABA−T発現ベクターを生産する形質転換体によって生産される。形質転換体の作製方法(生産方法)は特に限定されないが、発現ベクターを宿主に導入して形質転換する方法が挙げられる。ここで用いられる宿主細胞は、特に限定されるものではなく、従来公知の各種細胞を好適に用いることができる。具体的には、例えば、大腸菌(Escherichia coli)等の細菌、酵母(出芽酵母Saccharomyces cerevisiae、分裂酵母Schizosaccharomyces pombe)、動物細胞等を挙げることができる。宿主の取り扱いや宿主の形質転換体を得る際に行う必要な操作については、J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis (Ed.), Molecular cloning, a laboratory manual (3rd edition), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (2001); F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J. G. Seidman, J. A. Smith, K. Struhl (Ed.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Ltd.などの標準的なプロトコール集に記載の方法、或いはそれを修飾したり、改変した方法を用いることができる。
【0022】
本発明において、遺伝子組換によるGABA−T調製に用いる発現ベクターは、通常、宿主細胞内で転写可能なプロモーター、該プロモーターに結合したGABA−T遺伝子、及び転写終結シグナルを構成要素として含む発現カセットを含む。発現ベクターの作製方法としては、プラスミド、ファージ、またはコスミドなどを用いる方法が挙げられるが特に限定されない。ベクターの具体的な種類は特に限定されず、宿主細胞中で発現可能なベクターが適宜選択され得る。すなわち、宿主細胞の種類に応じて、確実に本発明のポリヌクレオチドを発現させるために適宜発現制御配列を選択して用いればよい。
【0023】
具体的には、導入されるべき宿主の種類に依存して、発現制御領域(例えば、プロモーター、ターミネーター、および/または複製起点等)を含有する。細菌用発現ベクターのプロモーターとしては、慣用的なプロモーター(例えば、T7ファージプロモーター、trcプロモーター、tacプロモーター、lacプロモーター等)が使用され、酵母用プロモーターとしては、例えば、グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼプロモーター、PH05プロモーター等が挙げられ、糸状菌用プロモーターとしては、例えば、アミラーゼ、trpC等が挙げられる。また動物細胞宿主用プロモーターとしては、ウイルス性プロモーター(例えば、SV40初期プロモーター、SV40後期プロモーター等)が挙げられる。発現ベクターは、少なくとも1つの選択マーカーを含むことが好ましい。このようなマーカーとしては薬剤耐性マーカー(アンピシリン耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子、ジェネチシン(G418)耐性遺伝子)、栄養要求性遺伝子相補マーカー(ura3、Leu2)、銅耐性遺伝子(CUP1)などが利用可能である。
【0024】
培地及び培養方法は、宿主の種類と組み換えベクター中の発現制御配列によって適当なものを選べばよい。例えば、宿主が大腸菌BL21株であり、発現制御配列がlacプロモーターである場合、IPTGを含有する液体培地で培養することにより効率よく生産させることができる。
【0025】
[GABA−Tの生産]
上記形質転換体の培養物からGABA−Tを調製することができる。ここで、培養物とは、培養液、培養菌体若しくは培養細胞、又は、培養菌体若しくは培養細胞の破砕物のいずれをも意味する。本発明のタンパク質の分離・精製は、通常の方法に従って行うことができる。
具体的には、培養菌体内もしくは培養細胞内に蓄積される場合には、培養後、通常の方法(例えば、超音波、リゾチーム、凍結融解など)で菌体もしくは細胞を破砕した後、通常の方法(例えば、遠心分離、ろ過など)により本発明のタンパク質の粗抽出液を得ることができる。
【0026】
本発明のタンパク質が培養液中に蓄積される場合には、培養終了後、通常の方法(例えば、遠心分離、ろ過など)により菌体もしくは細胞と培養上清とを分離することにより、本発明のタンパク質を含む培養上清を得ることができる。このようにして得られた抽出液もしくは培養上清中に含まれる本発明のタンパク質の精製は、通常の分離・精製方法に従って行うことができる。分離・精製方法としては、例えば、硫酸アンモニウム沈殿、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、透析法、限外ろ過法などを単独で、または適宜組み合わせて用いることができる。
【0027】
分離、精製した酵素溶液は、常法に従い、必要に応じてグリセロール、アルブミン等の安定剤を添加、あるいは無添加で、室温あるいは低温下で保存できる。凍結状態あるいは凍結乾燥状態でも保存できる。使用時には適宜、緩衝液などで所定の濃度に希釈、溶解して用いることができる。
【0028】
[GABA−Tの活性測定]
GABA−Tの活性はGABAを基質としてα−ケトグルタル酸の存在下において、グルタミン酸を生成させ、生成したグルタミン酸の定量値から求める。例えば、大腸菌GABA−Tの場合、pH7.5、30℃で1分間に1μmolのグルタミン酸を生成させる活性を1Uと定義し、10mMリン酸ナトリウムバッファー(pH7.5)に、一定量のGABAとαーケトグルタル酸を添加した上で、測定対象となる酵素溶液を添加して30℃30分間反応させ、反応液のグルタミン酸の定量値から活性を求める。
【0029】
グルタミン酸の定量については、市販の酵素キット(ヤマサ社製ヤマサL−グルタミン酸測定キット、ロッシュ社製F−キット・L−グルタミン酸)が挙げられる。ヤマサL−グルタミン酸測定キットは、グルタミン酸をL−グルタミン酸オキシダーゼで反応した際に生じる過酸化水素を4−アミノアンチピリンとDAOSを基質とするパーオキシダーゼ反応で青色色素に導き、これを比色定量するものである。F−キット・L−グルタミン酸は、グルタミン酸をL−グルタミン酸脱水素酵素で反応した際に生じるNADHをINTを基質とするジアフォラーゼ反応で赤色色素に導き、これを比色定量するものである。
【0030】
[GABAの定量]
本発明のGABAの定量は、試料中のGABAにGABA−Tをα−ケトグルタル酸の存在下において作用させ、生成されたグルタミン酸を定量することを特徴とする。より具体的には、(1)GABAとGABA−Tの反応を行った後に、その反応液をグルタミン酸定量反応に供する方法、及び(2)GABAとGABA−Tの反応とグルタミン酸定量反応を同時に進行させる方法が可能である。試料に本発明のGABA−Tを反応する場合の条件(酵素の添加量、反応時間・温度、pH条件等)は、基質に対して十分進行し、基質量に応じた活性が検出できれば良く、試料の状態、使用する酵素の種類に応じて適宜設定すればよい。反応に使用する緩衝液として、リン酸緩衝液、グリシン緩衝液、トリス塩酸緩衝液、グッド緩衝液、ホウ酸緩衝液等の、通常使用されるものを用いることができる。グルタミン酸の定量については、前述の通り、市販の酵素キット(ヤマサ社製ヤマサL−グルタミン酸測定キット、ロッシュ社製F−キット・L−グルタミン酸)が挙げられる。
【0031】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0032】
[GABA−T発現プラスミドの構築]
大腸菌GABA−T発現プラスミドを構築した。大腸菌GABA−Tをコードする遺伝子配列は登録番号AB200321の配列を参照した。大腸菌DH5α株(BioDynamics Laboratory)よりPrepMan Ultra Reagent(アプライドバイオシステムズ社)を用いて、ゲノムDNAを調製した。得られたDNAを鋳型として、DNAプライマー(GA-Nd5:5’-AAACATATGAGCAACAATGAATTCCATCAGCGTCG-3’(配列表の配列番号1)、GA-H3:5’-AACTCGAGTTAGTGGTGGTGGTGGTGGTGATCGCTCAGCGCATCCTGCAAAATTTTCATTGC-3’( 配列表の配列番号2))を用いて、94℃30秒、55℃30秒、72℃90秒間の反応を30サイクル行う条件にてPCR反応を行った。なお、GA−Nd5プライマーには5’端側にはNdeI認識配列、GA−H3プライマーにはC末端側のHisタグをコードする配列を有し、3’端側にはXhoI認識配列がそれぞれ付加されるようにして作製した。
【0033】
アガロースゲル電気泳動後、PCRで増幅されたGABA−T遺伝子を含む約1.2kbのDNA断片をillustra GFX PCR Purification Kit(GEヘルスケア)で単離した。単離したDNA断片はTOPO−TAクローニングキット(Invitrogen社)を用いてpCR 2.1−TOPOにクローニングした。組み換えプラスミドDNAはQIAprep Spin Miniprep Kit(QUIAGEN社)を用いて調製した。BigDye Terminator v1.1 Cycle Sequencing Kit(アプライドバイオシステムズ社)を用いてDNAシーケンシング反応を行ない、正しい配列を有するクローン(pCR−GABATH)を取得した。pCR−GABATHから1.2kbのNdeI−XhoI DNA断片を切り出し、pET22b(タカラバイオ社)のNdeI−XhoI間に導入し、発現プラスミドpET−GABATHを構築した。
【0034】
[GABA−Tの生産と精製]
pET−GABATHを大腸菌BL21(DE3)株(タカラバイオ社)に形質転換した。得られた菌株をアンピシリン、Overnight Express Autoinduction System1(Novagen)を含むLB培地200mlで37℃16時間培養した。遠心分離で菌体を集菌し、菌体からB−PER 6×His Fusion protein Purification Kit(Thermo SCENTIFIC社)を用いて、C末端にHisタグを有するGABA−Tを含む画分を調製した。GABA−T活性の確認のために、酵素溶液0.01mlを含む0.1mlの系で10mM リン酸ナトリウムバッファー(pH7.5)、1000ppm α−ケトグルタル酸、250ppm GABAから構成される反応液で30℃30分間反応させた。反応後、0.05mlをヤマサL−グルタミン酸測定キット反応液0.5mlと室温で20分間反応させ、600nmの吸光度を測定した。
【0035】
[GABAの定量(1)]
GABA−Tの活性の定義はGABAを基質として、pH7.5、30℃で1分間に1μmolのグルタミン酸を生成させる酵素活性を1Uとする。0.1mlの系で10mMリン酸ナトリウムバッファー(pH7.5)、1000ppm α−ケトグルタル酸、0〜250ppm GABA、2U/ml GABA−Tから構成される反応液で30℃30分間反応させた。反応後、0.05mlをヤマサL−グルタミン酸測定キット反応液0.5mlと室温で20分間反応させ、600nmの吸光度を測定した。結果を、図1(GABA濃度とOD600の相関図)に示す。図1に示されるようにGABA濃度とOD600には高い相関が見られた。
【0036】
2種類の純度のGABA粉体試料の純度を測定した。試料を水に溶解し、10mMリン酸ナトリウムバッファー(pH7.5)、1000ppm α−ケトグルタル酸、62.5ppm試料、2U/ml GABA−Tから構成される反応液で30℃30分間反応させた。
【0037】
反応後、0.05mlをヤマサL−グルタミン酸測定キット反応液0.5mlと室温で20分間反応させ、600nmの吸光度を測定した。標準化合物を用いた上記検量線にて試料中のGABA量を定量し、純度を算出した。HPLC分析法と本発明での分析結果を以下に示す。本手法でHPLC分析と同等の分析が可能であることが示された。
<試料A>:HPLC:97.7重量%;本発明方法:99.3±4.2重量%
<試料B>:HPLC:87.5重量%;本発明方法:89.5±2.4重量%
【0038】
[GABAの定量(2)]
0.1mlの系で10mM リン酸ナトリウムバッファー(pH7.5)、1000ppm α−ケトグルタル酸、0〜250ppm GABA、2U/ml GABA−Tから構成される反応液に1mlのヤマサL−グルタミン酸測定キット反応液を混合し、30℃30分間反応させた。600nmの吸光度を測定した結果、本方法でも前記の方法同様、GABA濃度とOD600には高い相関が見られた。この結果からGABAとGABA−Tの反応とグルタミン酸定量反応を同時に進行させる方法が可能であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、食品原料或いは食品中に含まれるGABA(γ−アミノ酪酸)を、食品原料或いは食品の製造現場等においても簡易、迅速に、しかも正確に定量することが可能なGABAの簡易迅速測定方法を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
γ−アミノ酪酸含有試料を、α−ケトグルタル酸の存在下、γ−アミノ酪酸トランスアミナーゼ単一の酵素活性を有する酵素を作用させて、γ−アミノ酪酸特異的に酵素反応をさせ、生成するグルタミン酸を測定することにより、試料中のγ−アミノ酪酸量を測定することを特徴とするγ−アミノ酪酸の簡易迅速測定方法。
【請求項2】
γ−アミノ酪酸トランスアミナーゼ単一の酵素活性を有する酵素を作用させて、γ−アミノ酪酸特異的に酵素反応させるために用いる酵素が、遺伝子組換によってγ−アミノ酪酸トランスアミナーゼ遺伝子を発現することによって調製されたγ−アミノ酪酸トランスアミナーゼであることを特徴とする請求項1記載のγ−アミノ酪酸の簡易迅速測定方法。
【請求項3】
γ−アミノ酪酸含有試料を、α−ケトグルタル酸の存在下、γ−アミノ酪酸トランスアミナーゼと作用させるに先だって、予め、試料中に含まれるグルタミン酸を測定し、該グルタミン酸量を、酵素反応の後に測定されたグルタミン酸量から差し引くことを特徴とする請求項1又は2記載のγ−アミノ酪酸の簡易迅速測定方法。
【請求項4】
グルタミン酸の定量を、グルタミン酸のL−グルタミン酸オキシダーゼ反応を利用した比色定量法、又はグルタミン酸のL−グルタミン酸脱水素酵素反応を利用した比色定量法によって測定するものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載のγ−アミノ酪酸の簡易迅速測定方法。


【図1】
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【公開番号】特開2011−130688(P2011−130688A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291462(P2009−291462)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000253503)キリンホールディングス株式会社 (247)
【Fターム(参考)】