説明

π共役ラジカル高分子

【課題】高温領域にキュリー点を有し、磁気特性に優れて再現性も高い有機強磁性体であるπ共役ラジカル高分子を提供する。
【解決手段】一般式(1)


(式中のmは1又は2、nは1以上の整数。)で表されるπ共役ラジカル高分子とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、π共役ビラジカルユニットの繰り返し構造を主鎖に有するπ共役ラジカル高分子に関し、特に、磁気記録材料、スピントロニクス材料などの電気電子分野、ドラッグデリバリーシステム(DDS)などの医療分野、電磁波シールド材料などの通信分野などに好適に利用することができる有機強磁性高分子に適用可能なπ共役ラジカル高分子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機ラジカル分子を規則的に並べることにより金属イオンを含まない純粋な有機物質でありながら強磁性を発現する有機強磁性体の探索研究が行われている。
例えば、p−ニトロフェニルニトロニルニトロキシドのβ相結晶は、0.65K以下の温度領域で強磁性を示す(非特許文献1参照)。また、フラーレンC60とテトラキスジメチルアミノエチレンの混晶は、16.1K以下の温度領域で強磁性を示す(非特許文献2参照)。さらに、86K以下の温度領域で強磁性を示すジチアゾリルラジカル誘導体の結晶も報告されている(非特許文献3参照)。
しかしながら、これらはいずれも磁性発現温度が極めて低く、加工性などに問題点があった。
磁性材料分野において、金属イオンを含まない純粋な有機化合物からなる有機強磁性材料を室温で利用できる技術は知られていない。
【0003】
有機化合物の強磁性体は、1991年に世界で最初に発見されたp−ニトロフェニルニトロニルニトロキシドの分子性結晶を初めとして、複数の安定局在ラジカルを導入した有機化合物が報告されている。p−ニトロフェニルニトロニルニトロキシドが強磁性体へ転移する転移点は0.65Kであり、有機強磁性材料として実用化するのは難しい。p−ニトロフェニルニトロニルニトロキシド以降、複数の有機強磁性分子結晶が開発されたが、強磁性体へ転移するキュリー点は極低温での発現に留まっている。
【0004】
一方、高スピン有機化合物の分野では、1961年の多重項カルベンの発見を機に、1分子内に多数の電子スピンを整列させたπ共役ラジカル高分子の開発が盛んに行われている。分子性結晶の有機磁性体とは相反し、300Kの高温領域において強磁性を発現する化合物が複数確認されている。しかしながら、磁気特性の再現性に乏しく、その発現機構は詳細に検討されるには到っていない。
【0005】
上記のように、従来の有機強磁性体は、局在ラジカルを配向させた分子性結晶が大部分を占めているが、極低温領域でしか強磁性を発現しないことから産業的に有用な磁性材料への応用はできず、一方、高スピン有機高分子としては、多数の電子スピンを整列させたπ共役ラジカル高分子が精力的に研究されているが、磁性発現機構、および磁気特性の再現性に乏しい。
従って、高温領域にキュリー点を有し、磁気特性に優れて再現性も高い有機強磁性体が求められている。
【非特許文献1】Chem. Phys. Lett., 186, 401, 1991
【非特許文献2】Science, 253, 301, 1991
【非特許文献3】Angew. Chem. Int. Ed. Engl., 35, 2533, 1996
【非特許文献4】J. Phys. Chem. B, 109, 19448, 2005
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、高温領域にキュリー点を有し、磁気特性に優れて再現性も高い有機強磁性体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記一般式(1)で表されるπ共役ラジカル高分子を提供する。
【0008】
【化1】

【0009】
式(1)中、R、R、R’およびR’は置換又は無置換のアリール基を示し、置換されたアリール基の場合の置換基は、炭素数1〜20のアルキル基、及び、炭素数1〜20のアルコキシル基から選ばれる基であり、R、R、R’およびR’は同一もしくは異なっており、RおよびR’は水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、あるいは、置換又は無置換のアリール基を示し、置換されたアリール基の場合の置換基は、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシル基、及び、ホルミル基から選ばれる基であり、RおよびR’は同一もしくは異なっており、mは1又は2であり、nは1以上の整数である。
【0010】
また、本発明は、下記一般式(2)で表されるπ共役ラジカル高分子を提供する。
【0011】
【化2】

【0012】
式(2)中、R、R、R’およびR’は置換又は無置換のアリール基を示し、置換されたアリール基の場合の置換基は、炭素数1〜20のアルキル基、及び、炭素数1〜20のアルコキシル基から選ばれる基であり、R、R、R’およびR’は同一もしくは異なっており、Rは、水素原子、あるいは、置換又は無置換のアリール基を示し、置換されたアリール基の場合の置換基は、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシル基、及び、ホルミル基から選ばれる基であり、mは1又は2であり、nは1以上の整数である。
【0013】
また、本発明は、下記一般式(3)で表されるπ共役ラジカル高分子を提供する。
【0014】
【化3】

【0015】
式(3)中、R、R、R’およびR’は置換又は無置換のアリール基を示し、置換されたアリール基の場合の置換基は、炭素数1〜20のアルキル基、及び、炭素数1〜20のアルコキシル基から選ばれる基であり、R、R、R’およびR’は同一もしくは異なっており、mは1又は2であり、nは1以上の整数である。
【0016】
上記の本発明のπ共役ラジカル高分子は、好適には、磁気記録材料、電磁波遮断材料、透明磁性薄膜材料、又は、薄膜トランジスタ材料に用いられる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高温領域にキュリー点を有し、磁気特性に優れて再現性も高い有機強磁性体であるπ共役ラジカル高分子を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明に係る有機強磁性体であるπ共役ラジカル高分子の実施の形態について説明する。
【0019】
本実施形態に係るπ共役ラジカル高分子は、下記一般式(1)、(2)あるいは(3)で表される。
【0020】
【化4】

【0021】
式(1)中、R、R、R’およびR’は置換又は無置換のアリール基を示し、置換されたアリール基の場合の置換基は、炭素数1〜20のアルキル基、及び、炭素数1〜20のアルコキシル基から選ばれる基であり、R、R、R’およびR’は同一もしくは異なっており、RおよびR’は水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、あるいは、置換又は無置換のアリール基を示し、置換されたアリール基の場合の置換基は、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシル基、及び、ホルミル基から選ばれる基であり、RおよびR’は同一もしくは異なっており、mは1又は2であり、nは1以上の整数である。
【0022】
【化5】

【0023】
式(2)中、R、R、R’およびR’は置換又は無置換のアリール基を示し、置換されたアリール基の場合の置換基は、炭素数1〜20のアルキル基、及び、炭素数1〜20のアルコキシル基から選ばれる基であり、R、R、R’およびR’は同一もしくは異なっており、Rは、水素原子、あるいは、置換又は無置換のアリール基を示し、置換されたアリール基の場合の置換基は、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシル基、及び、ホルミル基から選ばれる基であり、mは1又は2であり、nは1以上の整数である。
【0024】
【化6】

【0025】
式(3)中、R、R、R’およびR’は置換又は無置換のアリール基を示し、置換されたアリール基の場合の置換基は、炭素数1〜20のアルキル基、及び、炭素数1〜20のアルコキシル基から選ばれる基であり、R、R、R’およびR’は同一もしくは異なっており、mは1又は2であり、nは1以上の整数である。
【0026】
本発明者らは、高スピン有機高分子に着目し、非局在ビラジカル分子である1,4−ビス(4,5−ジフェニル−2H−イミダゾリル−2−イリデン)−2,5シクロヘキサジエン(以下、BDPI−2Yと表現する場合もある。)を繰り返し構造とした新規なπ共役ラジカル高分子を合成し、その磁気特性を検討した。
【0027】
これまでに開発されてきた高分子磁性体は、高分子の主鎖又は側鎖に局在ラジカル部位を導入した化合物が大部分であることから、非局在ラジカルユニットを主鎖の繰り返し構造としたπ共役ラジカル高分子の磁気特性は非常に興味深い。
【0028】
上記の検討の結果、本実施形態に係るπ共役ビラジカル高分子は、300Kにおいて強磁性成分を有していることをみいだし、異なる分子量分布の高分子試料においても同温度で強磁性を示した。得られた磁気特性から主鎖に複数の非局在ラジカルを配した高分子主鎖構造が新たな磁気特性を提供することが確認された。
【0029】
また、デコキシル基を有するビスベンジル誘導体とテレフタルアルデヒドのイミダゾール環の縮合環化反応を利用して、提供する有機強磁性高分子の前駆体が容易に得られることが確認された。
さらに、得られた有機強磁性高分子前駆体を酸化することで、適切な有機溶媒に可溶であることが確認された。
【0030】
上記一般式(1)、(2)または(3)で表されるπ共役ラジカル高分子を製造する方法としては、例えば、テレフタルアルデヒドおよび置換または無置換のビスベンジルを原料としたイミダゾール縮合環化反応により、ポリ[ビス(ジフェニルイミダゾリル)ベンゼン]化合物を形成し、次に、上記のポリ[ビス(ジフェニルイミダゾリル)ベンゼン]化合物を酸化処理する。
【0031】
以下、本実施形態に係る発明π共役ラジカル高分子の製造方法についてさらに詳細に説明する。
本実施形態に係る有機強磁性体であるπ共役ラジカル高分子である、ポリ[1,4ビス(4,5−ジフェニル−2H−イミダゾリル−2−イリデン)−2,5−シクロヘキサジエン](以下、ポリ−BDPI−2Yと表現する場合もある。)は、前駆体であるポリ[1,4−ビス(4,5−ジフェニルイミダゾリル−2)ベンゼン](以下、ポリ−BDPI−2Yロフィンと表現する場合もある。)を塩基性条件下のフェリシアン化カリウムを用いた酸化反応により製造することができる(一般式(4))。
ポリ−BDPI−2Yがポリ−BDPI−2Yロフィンの酸化生成物であるため、提供するポリ−BDPI−2Yの重合度(n)はポリ−BDPI−2Yロフィンと同程度である。
【0032】
【化7】

【0033】
前記一般式(1)、(2)、(3)で表されるポリ−BDPI−2Yの前駆体ポリ−BDPI−2Yロフィンの製造には、一般的に公知なイミダゾール縮合環化反応を用いることが可能である。一例として、一般式(5)で表される1,3,5−トリフェニルイミダゾールの製造方法を示す。
【0034】
【化8】

【0035】
イミダゾール縮合環化反応を用いた応用例として、一般式(6)で表される1,4−ビス(2,5−ジフェニルイミダゾリル−4)ベンゼン(以下、BDPI−4Yロフィンと表現する場合もある。)の製造方法が報告されている(非特許文献4参照)。
【0036】
【化9】

【0037】
本実施形態に係る有機強磁性体であるπ共役ラジカル高分子は、前記した製造方法に準じて、各々適宜に化学修飾したテレフタルアルデヒドおよびビスベンジルから合成される有機強磁性高分子前駆体を経て製造することが可能である(一般式(7))。
【0038】
【化10】

【0039】
前記一般式(7)で表される反応過程で得られる有機強磁性高分子前駆体は、一般式(8)、(9)、(10)に示す3種類の末端構造を有する高分子群である。
得られる3種類の末端構造は下記方法で適切に処理することが可能である。
【0040】
【化11】

【0041】
前記一般式(8)、(9)、(10)の末端部位の化学処理について説明する。一般式(8)は末端部位にホルミル基を有しているため、適宜に化学修飾したベンジルを前記一般式(5)で示されるイミダゾール縮合反応により処理することが可能である。一般式(10)は末端部位にジケトン部位を有しているため、適宜に化学修飾したベンズアルデヒドを前記一般式(5)で示されるイミダゾール縮合反応により処理することが可能である。一般式(9)は末端部位にホルミル基、ジケトン部位を各々有していることから、一般式(8)および(10)に用いた方法を組み合わせることで処理することが可能である。
【0042】
本実施形態に係る有機強磁性体であるπ共役ラジカル高分子は、高温領域にキュリー点を有し、磁気特性に優れて再現性も高い有機強磁性体である。
本実施形態の有機強磁性体であるπ共役ラジカル高分子磁気記録材料、電磁波遮断材料、透明磁性薄膜材料、又は、薄膜トランジスタ材料に好ましく用いることができる。
【0043】
本実施形態の有機強磁性体であるπ共役ラジカル高分子の製造方法は、高温領域にキュリー点を有し、磁気特性に優れて再現性も高い有機強磁性体を製造可能であり、適宜に化学修飾したテレフタルアルデヒドと1,4−ビスベンジルのイミダゾール縮合環化反応を利用した重合反応であるため、テレフタルアルデヒドと1,4−ビスベンジルの組み合わせにより、製造が容易である。
【0044】
<実施例>
本発明を実施例に基づき詳細に説明する。なお、本発明の実施例は、本発明の理解を容易にするために代表的な化合物の製造方法を説明したものである。本発明はこれだけに限定されるものではない。
【0045】
<実施例1>
ポリ−BDPI−2Y(前記一般式(1)におけるn=9)の製造方法
内容積25mlのナスフラスコにテレフタルアルデヒド40.0mg(0.290mmol)と酢酸アンモニウム800mg(10.4mmol)を酢酸10.0mlに溶解させ、95℃で30分間攪拌した。攪拌後、1,4−ビス[(4−デシロキシフェニル)グリオキサリル]ベンゼン100mg(0.150mmol)を同温度条件で加え、攪拌を続けた。4時間後、1,4−ビス[(4−デシロキシフェニル)グリオキサリル]ベンゼン100mg(0.150mmol)を同条件で加え、95℃で180時間反応を行うと、反応溶液中に黄色固体が析出した。この反応溶液を吸引ろ過し、黄色固体をイオン交換水で洗浄することで精製し、ポリ−BDPI−2Yロフィン(n=9)を収量93.0mg、収率45%で得た。ゲルパーミエーションクロマトグラフィーより、重量平均分子量7500および、分子量分布1.52を算出した。
【0046】
次に、窒素置換した500mlナスフラスコにポリ−BDPI−2Y(n=9)55.9mgを加え、ベンゼン200mlに溶解させ、室温で攪拌した。30分後、水酸化カリウム水溶液150ml(0.260mol/l)とフェリシアン化カリウム水溶液50.0ml(0.103mol/l)を加え、さらに5時間攪拌した。反応溶液を1000ml分液ロートに移し替え、ベンゼン相を抽出した。抽出したベンゼン溶液をイオン交換水(200ml×10)で洗浄し、ポリ−BDPI−2Y(n=9)の青色固体を収量36.1mg、収率65%で得た。
【0047】
ポリ−BDPI−2Y(一般式(1)におけるn=9)の磁化測定
カンタムデザイン社製のSQUID磁束計を用いて、300Kで磁化の磁場強度依存性を測定したところ、磁化曲線が強磁性体に特徴的なS字型となり、かつヒステリシスが観測された(図1)。保磁力は40Oe、残留磁化は8.26×10−4emu/gを示した。
【0048】
2Kから300Kの温度領域で、磁化の温度依存性を測定した結果を図2に示す。磁場強度500Oeで、FC(磁場中冷却磁化)及びZFC(零磁場冷却磁化)を測定したところ、FCとZFCが交わるキュリー点が100Kに観測された。
【0049】
磁化の温度依存性の測定結果(図2)から得られたキュリー点(100K)以下の温度範囲である40Kで、磁化の磁場強度依存性を測定した結果を図3に示す。前記300Kでの磁化の磁場強度依存性の測定結果と同様に、40Kでも磁化曲線が強磁性体に特徴的なS字型となり、かつヒステリシスが観測された。保磁力は40Oe、残留磁化は1.40×10−3emu/gを示した。
【0050】
キュリー点(100K)前後において、強磁性を示すヒステリシスが得られたことで、実施例1のポリ−BDPI−2Y(前記一般式(1)におけるn=9)には複数の異なる強磁性成分が含まれている。
【0051】
<実施例2>
ポリ−BDPI−2Y(前記一般式(1)におけるn=5)の合成
内容積25mlのナスフラスコにテレフタルアルデヒド120mg(0.900mmol)と酢酸アンモニウム2.40g(31.2mmol)を酢酸25.0mlに溶解させ、95℃で30分間攪拌した。攪拌後、1,4−ビス[(4−デシロキシフェニル)グリオキサリル]ベンゼン50.0mg(0.0750mmol)を4時問おきに同温度条件で4度加え、攪拌を続けた。20時間反応を行うと、反応溶液中に黄色固体が析出した。この反応溶液を吸引ろ過し、黄色固体をイオン交換水で洗浄することで精製し、ポリ−BDPI−2Yロフィン(n=5)を収量251mg、収率62%で得た。ゲルパーミエーションクロマトグラフィーより、重量平均分子量4100および、分子量分布1.29を算出した。
【0052】
実施例1の条件に基づき、ポリ−BDPI−2Yロフィン(n=5)150.0mgを酸化することでポリ−BDPI−2Y(n=5)の青色固体を収量75.0mg、収率50%で得た。ポリ−BDPI−2Y(n=5)の青色固体は、実施例1と同様に3種類の末端構造(前記一般式(1)、(2)、(3))を有する高分子群である。
【0053】
ポリ−BDPI−2Y(前記一般式(1)におけるn=5)の磁化測定
300Kで磁化の磁場強度依存性を測定したところ、磁化曲線が強磁性体に特徴的なS字型となり、かつヒステリシスが観測された(図4)。保磁力は10Oe、残留磁化は4.32×10−5emu/gを示した。
【0054】
2Kから300Kの温度領域で、磁化の温度依存性を測定した結果を図5に示す。磁場強度150Oeで、FC(磁場中冷却磁化)及びZFC(零磁場冷却磁化)を測定したところ、FCとZFCが交わる点(強磁性体への転移点)が150Kに観測された。
【0055】
磁化の温度依存性の測定結果(図5)から得られたキュリー点(150K)以下の温度範囲である50Kで、磁化の磁場強度依存性を測定した結果を図6に示す。前記300Kでの磁化の磁場強度依存性の測定結果と同様に、50Kでも磁化曲線が強磁性体に特徴的なS字型となり、かつヒステリシスが観測された。保磁力は25Oe、残留磁化は4.28×10−5emu/gを示した。
【0056】
キュリー点(150K)前後において、強磁性を示すヒステリシスが得られたことで、実施例2のポリ−BDPI−2Y(前記一般式(1)におけるn=5)には複数の異なる強磁性成分が含まれている。
【0057】
<実施例3>
実施例2で得られたポリ−BDPI−2Y(前記一般式(1)におけるn=5)のベンゼン溶液を用いて、スピンコート法により石英基板もしくはガラス基板等への製膜が可能である。石英基板上にスピンコート法を用いて作成した高分子薄膜の吸収スペクトルを図7に示す。
【0058】
本発明は、上記の実施形態に限定されない。
例えば、置換基の炭素数は1〜20の範囲で変更可能であり、また、π共役ラジカル高分子の重合度(n)について実施例に記載のもの以外にも適用可能である。
その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の有機強磁性高分子は、従来報告されている有機強磁性体と比較して、高いキュリー点を有し、磁化の優れた再現性を有しているため、磁気記録材料、スピントロニクス材料、ドラッグデリバリーシステム、あるいは電磁波シールド材料等への幅広い応用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】図1は実施例1のポリ−BDPI−2Y(前記一般式(1)におけるn=9)の300Kでの磁化の磁場依存特性である。
【図2】図2は実施例1のポリ−BDPI−2Y(前記一般式(1)におけるn=9)の磁場強度500Oeでの磁化の温度依存特性である。
【図3】図3は実施例1のポリ−BDPI−2Y(前記一般式(1)におけるn=9)の40Kでの磁化の磁場依存特性である。
【図4】図4は実施例2のポリ−BDPI−2Y(前記一般式(1)におけるn=5)の300Kでの磁化の磁場依存特性である。
【図5】図5は実施例2のポリ−BDPI−2Y(前記一般式(1)におけるn=5)の磁場強度150Oe磁化の温度依存特性である。
【図6】図6は実施例2のポリ−BDPI−2Y(前記一般式(1)におけるn=5)の50Kでの磁化の磁場依存特性である。
【図7】図7は実施例2のポリ−BDPI−2Y(前記一般式(1)におけるn=5)の薄膜試料の可視分光吸収スペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

(式(1)中、R、R、R’およびR’は置換又は無置換のアリール基を示し、置換されたアリール基の場合の置換基は、炭素数1〜20のアルキル基、及び、炭素数1〜20のアルコキシル基から選ばれる基であり、R、R、R’およびR’は同一もしくは異なっており、RおよびR’は水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、あるいは、置換又は無置換のアリール基を示し、置換されたアリール基の場合の置換基は、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシル基、及び、ホルミル基から選ばれる基であり、RおよびR’は同一もしくは異なっており、mは1又は2であり、nは1以上の整数である)
で表されるπ共役ラジカル高分子。
【請求項2】
下記一般式(2)
【化2】

(式(2)中、R、R、R’およびR’は置換又は無置換のアリール基を示し、置換されたアリール基の場合の置換基は、炭素数1〜20のアルキル基、及び、炭素数1〜20のアルコキシル基から選ばれる基であり、R、R、R’およびR’は同一もしくは異なっており、Rは、水素原子、あるいは、置換又は無置換のアリール基を示し、置換されたアリール基の場合の置換基は、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシル基、及び、ホルミル基から選ばれる基であり、mは1又は2であり、nは1以上の整数である)
で表されるπ共役ラジカル高分子。
【請求項3】
下記一般式(3)
【化3】

(式(3)中、R、R、R’およびR’は置換又は無置換のアリール基を示し、置換されたアリール基の場合の置換基は、炭素数1〜20のアルキル基、及び、炭素数1〜20のアルコキシル基から選ばれる基であり、R、R、R’およびR’は同一もしくは異なっており、mは1又は2であり、nは1以上の整数である)
で表されるπ共役ラジカル高分子。
【請求項4】
磁気記録材料、電磁波遮断材料、透明磁性薄膜材料、又は、薄膜トランジスタ材料に用いられる
請求項1〜3に記載のπ共役ラジカル高分子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−173788(P2009−173788A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−14714(P2008−14714)
【出願日】平成20年1月25日(2008.1.25)
【出願人】(800000080)タマティーエルオー株式会社 (255)
【Fターム(参考)】