説明

ω−アルコキシペルオキシカルボン酸を含有する殺菌用組成物

【課題】内視鏡等の医療用機器を短時間で殺菌可能でありかつ低臭気である組成物の有効成分として使用可能な新規化合物、及び該化合物を含む組成物の提供。
【解決手段】一般式(I)
【化1】


(式中、R1は置換もしくは無置換のC1−C10のアルキル基、又は置換もしくは無置換のC6−C10のアリール基であり、Lは置換もしくは無置換のC2−C12の2価の連結基であり、R1とLは結合して環を形成してもよい)で表されるペルオキシカルボン酸、及び該ペルオキシカルボン酸を含有する水性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は殺菌用組成物に関する。より具体的には、本発明は内視鏡等の医療用機器の殺菌に適した殺菌用水性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
内視鏡等の医療用機器は、使い捨てにできず、患者に直接接触することから、より安全な殺菌を施して次の診療等に用いる必要がある。しかし、特に規模の小さい病院では1つの機器を短時間で使い回すことが多い。そのため、医療用機器の殺菌に用いる組成物としては、幅広い微生物を死滅させる作用を有し、かつ短時間で医療用機器を殺菌できる組成物が望まれている。また、安全性の観点から、該組成物中の化合物等の量は可能な限り少ないことが望まれる。
【0003】
従来、内視鏡等の医療用機器の洗浄及び殺菌用組成物としては、市販品として、グルタルアルデヒド等のアルデヒドを有効成分とする組成物が知られている。しかし、グルタルアルデヒドについては、芽胞に対する殺菌作用が弱いことやアレルギーの原因となることが近年指摘されている。
【0004】
また、過酢酸を有効成分とする殺菌用組成物も知られているが、過酢酸は過酸由来の刺激臭があり、酢酸臭も強いため、実際に消毒薬として取扱う場合には作業者への負荷が大きいことに加え換気等の対応が必須である。さらに、ペルオキシプロピオン酸の様な脂肪族ペルオキシカルボン酸も有効な殺菌性を示すことがJ.Hyg.Epid.Microbiol.Immun.,9,220-226(1965)(非特許文献1)に報告されているが、これら脂肪族ペルオキシカルボン酸にも不快臭があるという問題がある。脂肪族ペルオキシカルボン酸の不快臭は炭素数が大きくなる程弱くなり、直鎖の場合、炭素数11以上で殆ど臭気はなくなるが、水に対し不溶性であるという別の問題がある。従って、医療用機器の殺菌に適した水性組成物にできないという問題点がある。
【0005】
脂肪族ペルオキシカルボン酸の不快臭を解決するための方法としては、例えば特開平8−67667号公報(特許文献1)には2価カルボン酸のペルオキシカルボン酸が開示されている。しかし本発明者らの実験結果では、その抗菌活性は過酢酸には及ばないことがわかっている。更に、特表平10−501805号公報(特許文献2)にはエステル基を含有するペルオキシカルボン酸が、過酢酸同等の抗菌活性を示すことが開示されている。しかしペルオキシカルボン酸を合成する際には、水溶液中で反応の触媒として硫酸等の強酸を使用するため、エステル基部分が加水分解するという問題がある。
【0006】
また、J.Molecular Catalysis B:Enzymatic, 19-20,499-505(2002)(非特許文献2)に開示されているペルオキシメトキシ酢酸は、抗菌活性が過酢酸より弱いことが報告されている。更に、日本化学雑誌、87巻、476-479(1966)(非特許文献3)には、ペルオキシクロロ酢酸の様にペルオキシカルボン酸の2位を電子吸引性基で置換すると化合物の安定性が低下することが報告されており、2位を電子吸引性のメトキシ基で置換したペルオキシメトキシ酢酸は安定性が過酢酸より悪いことが予測される。以上のように、過酢酸の臭気を低減させる試みは、抗菌活性、製剤適性の面で実用化に至っていない。
【0007】
一方、化合物の面からは、3位にアルコキシ基を含有する脂肪族ペルオキシカルボン酸についてはこれまで報告がなく、その殺菌活性についても知られていない。特表2000−505136号公報(特許文献3)にはY−Ra−COOOH(Y:HO(CH2CH2O)n(n:1〜40の整数)、Ra:C1〜30のアルキレン基)で表されるペルオキシカルボン酸が開示されているが、Yはエチレンオキサイド基に限定されており、該公報はYがヒドロキシアルキルオキシ基である化合物について開示しているのみである。また該公報には殺菌作用に関するデータは開示されていない。また前記J.Molecular Catalysis B:Enzymatic, 19-20,499-505(2002)(非特許文献2)にはペルオキシメトキシ酢酸の報告はあるが、3位にアルコキシ基を含有する脂肪族ペルオキシカルボン酸についての記載はない。
【特許文献1】特開平8−67667号公報
【特許文献2】特表平10−501805号公報
【特許文献3】特表2000−505136号公報
【非特許文献1】J.Hyg.Epid.Microbiol.Immun.,9,220-226(1965)
【非特許文献2】J.Molecular Catalysis B:Enzymatic, 19-20,499-505(2002)
【非特許文献3】日本化学雑誌、87巻、476-479(1966)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、不快臭のないペルオキシカルボン酸、及び該ペルオキシカルボン酸を含む殺菌用水性組成物を提供することを目的とする。本発明の組成物は好ましくは内視鏡等の医療用機器の殺菌に使用される。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究を行い、新規なω−アルコキシペルオキシカルボン酸を提供するとともに、該ω−アルコキシペルオキシカルボン酸が、不快臭がなく且つ優れた殺菌作用を示すことを見出した。本発明はこれらの知見を基に完成されたものである。
【0010】
すなわち本発明は、
一般式(I):
【化1】

(式中、R1は置換もしくは無置換のC1−C10のアルキル基(但し置換基としてOH基
を有する置換基は除く)、又は置換もしくは無置換のC6−C10のアリール基を示し、Lは置換もしくは無置換のC2−C12の2価の連結基を示し、R1とLは結合して環を形成してもよい)で表されるペルオキシカルボン酸を提供するものである。
【0011】
本発明の好ましい態様によれば、LがCHR11−L12(式中、R11は水素原子又はC1〜C4の置換もしくは無置換のアルキル基を示し、L12は置換もしくは無置換のC1−C11の2価の連結基を示す)で表される上記のペルオキシカルボン酸、及びR1が無置換のC1−C4のアルキル基である上記いずれかのペルオキシカルボン酸が提供される。
【0012】
本発明はまた、一般式(II)又は(III):
【化2】


(式中、R2、R3、R4、及びR5は各々独立に水素、C1−C4アルキル基、C1−C4のアルコキシ基又はC1−C4アルコキシ置換C1−C4アルキル基を示し、L2は置換もしくは無置換のC1−C9アルキレン基、又は置換もしくは無置換のC6−C9アリーレン基を示し、L1は置換もしくは無置換のC1−C10の2価の連結基を示す)で表されるペルオキシカルボン酸を提供するものである。
【0013】
本発明の好ましい態様によれば、L1がCHR12−L13(R12は水素原子又はC1〜C4の置換もしくは無置換のアルキル基を示し、L13は置換もしくは無置換のC1−C9の2価の連結基を示す)である上記のペルオキシカルボン酸;R2、R3、R4、及びR5が各々独立に水素、C1−C4のアルキル基、又はC1−C4アルコキシ置換C1−C4アルキル基であり、L2がC1−C2の無置換のアルキレン基である上記いずれかのペルオキシカルボン酸;R2、R3、R4、及びR5が水素である該ペルオキシカルボン酸が提供される。
【0014】
本発明はさらに、一般式(IV)又は(V):
【化3】


(式中、R2、R3、R4、及びR5は各々独立に水素、C1−C4のアルキル基、C1−C4のアルコキシ基、又はC1−C4アルコキシ置換C1−C4アルキル基を示し、L2は置換もしくは無置換のC1〜C9のアルキレン基、又は置換もしくは無置換のC6〜C9のアリーレン基を示す)で表されるペルオキシカルボン酸を提供するものである。
【0015】
本発明の好ましい態様によれば、R2、R3、R4、及びR5は各々独立に水素、C1−C4のアルキル基、又はC1−C4アルコキシ置換C1−C4アルキル基であり、L2が無置換のC1−C3のアルキレン基である上記のペルオキシカルボン酸;R2が水素である上記いずれかのペルオキシカルボン酸;R2、R3、及びR4が水素である上記いずれかのペルオキシカルボン酸;R5がメチル基である該ペルオキシカルボン酸;L2がメチレン基である上記いずれかのペルオキシカルボン酸;R2、R3、R4、及びR5が水素である上記いずれかのペルオキシカルボン酸;L2がメチレン基である該ペルオキシカルボン酸;R4がC1−C4アルコキシ置換メチル基である上記いずれかのペルオキシカルボン酸;R5がメチル基である該ペルオキシカルボン酸が提供される。
【0016】
本発明の別の観点からは、上記いずれかのペルオキシカルボン酸を含む水性組成物が提供される。本発明の好ましい態様によれば、さらに過酸化水素を含む該水性組成物;上記いずれかのペルオキシカルボン酸、該ペルオキシカルボン酸に対応するカルボン酸、及び過酸化水素水を含む水性組成物;ペルオキシカルボン酸の濃度が0.1〜2000mMの範囲である上記いずれかの水性組成物;ペルオキシカルボン酸の濃度が化学的又は電気化学的原理に基づくインジケータによって確認されることを特徴とする該水性組成物;過酸化水素の濃度が3〜6000mMの範囲である上記いずれかの水性組成物;ペルオキシカルボン酸の濃度が1〜15質量%、該ペルオキシカルボン酸に対応するカルボン酸の濃度が10〜50質量%、及び過酸化水素水の濃度が1〜15質量%である上記水性組成物;ペルオキシカルボン酸の濃度が1〜15質量%、該ペルオキシカルボン酸に対応するカルボン酸の濃度が10〜50質量%、及び過酸化水素水の濃度が1〜15質量%であり、かつ該ペルオキシカルボン酸と過酸化水素の濃度の合計が25質量%以下であり、該ペルオキシカルボン酸と該カルボン酸の濃度の合計が50質量%以下である上記の水性組成物;ペルオキシカルボン酸の濃度が化学的又は電気化学的原理に基づくインジケータによって確認されることを特徴とする上記の水性組成物;pHが2以上4.5以下の範囲である、上記いずれかの水性組成物が提供される。さらに好ましい態様としてさらに腐食防止剤、pH調整剤、金属封鎖剤、安定化剤、及び界面活性剤からなる群から選ばれる1以上の添加剤を含む上記いずれかの水性組成物が提供される。
【0017】
本発明の別の観点からは、上記いずれかの水性組成物を調製するための乾燥形態の組成物が提供される。本発明のさらに別の観点からは、上記いずれかの組成物を含有する殺菌剤;医療用機器の殺菌剤である該殺菌剤;及び、医療用機器が内視鏡である該殺菌剤が提供される。
【0018】
本発明のさらに別の観点からは、上記いずれかの水性組成物を調製するためのカルボン酸を含有する組成物と過酸化水素を含有する水性組成物とを含むキット;上記の水性組成物と、腐食防止剤、pH調整剤、金属封鎖剤、安定化剤及び界面活性剤からなる群から選択される1種以上を含有する組成物とを含むキット;殺菌剤として提供される上記いずれかのキット;医療用機器の殺菌剤として提供される該キット;及び医療用機器が内視鏡である該キットが提供される。本発明のさらに別の観点からは、上記いずれかのペルオキシカルボン酸の製造方法であって、酸触媒を使用することを特徴とする方法が提供される。
【0019】
本発明のさらに別の観点からは、殺菌対象物を、上記いずれかの水性組成物と接触させる工程を含む殺菌方法;複数回使用した上記いずれかの記載の水性組成物に該使用前の該水性組成物のペルオキシカルボン酸濃度の1.5〜200倍の濃度で該ペルオキシカルボン酸を含有する組成物を添加して調製した水性組成物に、殺菌対象物を接触させる工程を含む殺菌方法;前記水性組成物と接触させる工程の前に殺菌対象物を洗浄する工程をさらに含む上記の殺菌方法;前記水性組成物と接触させる工程の後に殺菌対象物を洗浄又は乾燥する工程をさらに含む上記の殺菌方法;上記いずれかの水性組成物を常温以下、好ましくは10℃以下で保存する方法;上記いずれかのキットを常温以下、好ましくは10℃以下で保存する方法;上記いずれかの水性組成物中のペルオキシカルボン酸を不活性化処理した後に、該水性組成物を廃棄する方法;上記いずれかのキット中のペルオキシカルボン酸を不活性化処理した後に、該キットを廃棄する方法;ポリエチレン製容器に充填された形態の上記いずれかの水性組成物が提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、新規化合物であるω−アルコキシペルオキシカルボン酸が提供される。また、該新規化合物を含み、内視鏡等の医療用機器を短時間で殺菌可能な不快臭のない組成物が提供される。本発明の組成物は、特に芽胞、例えばBacillus subtilisに対しても短時間で充分な殺菌が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
1で示される無置換のC1−C10のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、2−エチルヘキシル基などを挙げることができる。R1で示されるC1−C10のアルキル基は置換基を有していてもよいが、置換基としてOH基を有する置換基(水酸基、カルボキシ基、ヒドロペルオキシ基、及びヒドロペルオキシカルボニル基など)は除く。R1で示されるC1−C10のアルキル基の置換基としては、ハロゲン原子、アルコキシ基、又はアルキルスルホニル基などを挙げることができる。
1で示されるC6−C10の無置換のアリール基としてはフェニル基を挙げることができる。R1で示されるC6−C10の無置換のアリール基は置換基を有していてもよく、置換基としてはアルキル基、アルコキシ基、スルホニル基、水酸基、カルボキシル基などを挙げることができる。
【0022】
1としては、C1〜C4の置換若しくは無置換のアルキル基が好ましく、C1〜C4の無置換のアルキル基がより好ましい。R1が示すC1−C4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、又はtert−ブチル基などを挙げることができる。R1として、最も好ましくはメチル基、エチル基であるが、これらに限定される事はない。
【0023】
一般式(I)において、Lは置換もしくは無置換の炭素数2−12の2価の連結基を表す。置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、水酸基、アルコキシ置換アルキル基、カルボキシル基などを挙げる事ができる。また、連結基中に例えば酸素原子、窒素原子などの炭素以外の分子を含んでもよい。Lとしては、CHR11−L12(R11は水素原子又はC1〜C4の置換もしくは無置換のアルキル基を示し、L12は置換もしくは無置換のC1−C11の2価の連結基を示す)が好ましい例として挙げられる。このとき、L12としては置換または無置換のC1−C4の2価の連結基が好ましく、置換または無置換のメチレン基がより好ましく、メチレン基又はメチル基置換メチレン基(CH(CH3))がさらに好ましく、メチレン基が最も好ましい。
一般式(II)、(III)、又は(V)において、L1は、置換もしくは無置換のC1−C10の2価の連結基を表す。置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、水酸基、アルコキシ置換アルキル基、カルボキシル基などを挙げる事ができる。また、連結基中に例えば酸素原子、窒素原子などの炭素以外の分子を含んでもよい。L1としては、CHR12−L13(R12は水素原子又はC1〜C4の置換もしくは無置換のアルキル基を示し、L13は置換もしくは無置換のC1−C9の2価の連結基を示す)が好ましい例として挙げられる。このとき、L13としては置換または無置換のC1−C4の2価の連結基が好ましく、置換または無置換のメチレン基がより好ましく、メチレン基又はメチル基置換メチレン基(CH(CH3))がさらに好ましく、メチレン基が最も好ましい。
【0024】
2、R3、R4、又はR5が示すC1−C4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、又はtert−ブチル基などを挙げることができ、好ましくはメチル基を挙げることができるが、これらに限定されない。R2、R3、R4、又はR5が示すC1−C4アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、又はブトキシ基などを挙げることができ、好ましくはメトキシ基、エトキシ基を挙げることができるが、これらに限定されない。R2、R3、R4、又はR5が示すC1−C4アルコキシ置換C1−C4アルキル基としては、メトキシメチル基、エトキシメチル基、プロポキシメチル基、ブトキシメチル基、又はエトキシエチル基などを挙げることができ、好ましくはメトキシメチル基、エトキシメチル基を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0025】
一般式(III)又は(V)において、L2が表す2価の連結基としては、置換又は無置換のC1−C9のアルキレン基が好ましく、置換又は無置換のC1−C3のアルキレン基がより好ましく、C1−C3の無置換のアルキレン基がさらに好ましい。L2が示すC1−C3の無置換のアルキレン基として好ましくは、メチレン基、エチレン基を挙げることができ、より好ましくはメチレン基である。
【0026】
本発明のペルオキシカルボン酸は、置換基の種類により、1個又は2個の不斉炭素を有する場合がある。1個又は2個の不斉炭素に基づく光学的に純粋な任意の光学異性体、上記の光学異性体の任意の混合物、ラセミ体、2個の不斉炭素に基づくジアステレオ異性体、上記ジアステレオ異性体の任意の混合物などは、いずれも本発明の範囲に包含される。更に、本発明のペルオキシカルボン酸は、水和物又は溶媒和物として存在する場合もあるが、これらの物質も本発明の範囲に包含される。
【0027】
本発明のペルオキシカルボン酸の具体例を以下に示すが、本発明は下記に限定されることはない。
【0028】
【化4】

【0029】
【化5】

【0030】
【化6】

【0031】
【化7】

【0032】
【化8】

【0033】
【化9】

【0034】
【化10】

【0035】
本発明のペルオキシカルボン酸は、Organic peroxides, vol.I, pp 313-474(Daniel Swern, John Wiley & Sons, Inc., New York, 1970)などに記載されている公知のペルオキシカルボン酸の合成方法に準じて合成することができる。具体的には、例えばカルボン酸と過酸化水素との反応により合成することができる。また、カルボン酸と過酸化水素との反応においては、反応の触媒として強酸を用いることが効果的である。この強酸としては、硫酸、リン酸などを用いることができるが、スルホン酸基を有する強酸性イオン交換樹脂や、ナフィオンなどの固体酸触媒を用いることもできる。
【0036】
上記ペルオキシカルボン酸の合成で用いられるカルボン酸としては、市販のカルボン酸を用いることができるが、適宜公知の方法により合成したカルボン酸を用いることもできる。例えば3−アルコキシプロピオン酸は、J.Am.Chem.Soc., 70,1004(1948)に記載されている様にβ−プロピオラクトンとアルコールとの反応や、J.Am.Chem.Soc., 69,2967(1947),77,754(1955)に記載されている様に、アクリル酸エステルとアルコキサイドとの反応で得られる3−アルコキシプロピオン酸エステルの加水分解によって合成することが可能である。
また、3位よりカルボニル基から遠い位置がアルコキシ置換されたカルボン酸はJ.Org.Chem., 59,2253(1994)に記載されている様にβ〜δ−ラクトンとアルコールとの反応により合成する事が可能である。
【0037】
本発明の水性組成物は、上述のペルオキシカルボン酸の1種又は2種以上を含む。なお本明細書において、「水性組成物」とは水を含む溶液状態の組成物を意味する。本発明の水性組成物中のペルオキシカルボン酸の濃度は0.1 mM以上2000 mM以下であり、好ましくは1mM以上200 mM以下であり、更に好ましくは40 mM以上120 mM以下であればよい。
【0038】
また、本発明の水性組成物は、上述のペルオキシカルボン酸のほかに、該ペルオキシカルボン酸に対応するカルボン酸及び/又は過酸化水素を含んでいてもよい。本明細書において、ペルオキシカルボン酸に対応するカルボン酸とは、該ペルオキシカルボン酸のペルオキシカルボキシル基がカルボキシル基である化合物を意味する。この場合、本発明の水性組成物中のペルオキシカルボン酸に対応するカルボン酸の濃度は0.1 mM以上 2000 mM以下であり、好ましくは1 mM以上 200 mM以下であり、更に好ましくは 40 mM以上200 mM以下であればよい。また、過酸化水素の濃度は3 mM以上 6000 mM以下であり、好ましくは10 mM以上 1000 mM以下であり、更に好ましくは 30 mM以上600 mM以下であればよい。本発明の水性組成物はペルオキシカルボン酸の濃度が1 mM以上200 mM以下であり、過酸化水素の濃度が10 mM以上1000 mM以下であることが好ましい。
【0039】
本発明の水性組成物は、例えば殺菌剤として使用する際に、ペルオキシカルボン酸等の各成分が上述の濃度になるように調製すればよい。過酸化水素とカルボン酸よりペルオキシカルボン酸が生成することは、古くから知られている。この反応は、カルボン酸、過酸化水素、ペルオキシカルボン酸、及び水との平衡反応として進行し、過酸化水素もしくはカルボン酸の濃度を高くするほど高濃度のペルオキシカルボン酸が生成する。例えば、90質量%の過酸化水素を、過酸化水素の1.5倍モルの酢酸と混合すると、過酢酸45質量%、酢酸35質量%、過酸化水素6質量%、水14質量%の平衡混合液が得られる(kirk-Othmer Encyclopedia of chem.Tech. Inst, Suppl. P662(1957))。
【0040】
本発明の水性組成物は、上記の成分のほかに1又は2以上の添加剤を含んでいてもよい。添加剤の例としては、腐食防止剤、可溶化剤、pH調整剤、金属封鎖剤、安定化剤、界面活性剤、及び再付着防止剤等が挙げられる。
【0041】
腐食防止剤としては、殺菌される医療機器の材質に適した剤を選択すればよく、例えば、1,2,3-ベンゾトリアゾールと、低級アルキルベンゾトリアゾール、ヒドロキシベンゾトリアゾール、低級アルキルヒドロキシベンゾトリアゾール、カルボキシベンゾトリアゾール、低級アルキルカルボキシベンゾトリアゾール、ベンズイミダゾール、低級アルキルベンズイミダゾール、ヒドロキシベンズイミダゾール、低級アルキルヒドロキシベンズイミダゾール、カルボキシベンズイミダゾール、低級アルキルカルボキシベンズイミダゾール、メルカプトベンゾチアゾール、低級アルキルメルカプトベンゾチアゾール、ヒドロキシメルカプトベンゾチアゾール、低級アルキルヒドロキシメルカプトベンゾチアゾール、カルボキシメルカプトベンゾチアゾール、低級アルキルカルボキシメルカプトベンゾチアゾール、グルコン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸ブチル、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、ソルビトール、エリスリトール、リン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、ピロリン酸テトラナトリウム、モリブデン酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、クロム酸塩、及びホウ酸塩から選択される1種又は2種以上の化合物とを組み合わせた剤等が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書において、「低級アルキル」という用語は、1個から6個の炭素原子を有する直鎖又は分枝鎖の飽和又は不飽和の炭化水素基を意味する。
【0042】
銅、黄銅、青銅、又は多金属系を含む機器等を処理するために本発明の組成物が使用される場合には、1,2,3-ベンゾトリアゾール及び1種又はそれ以上の低級アルキルベンゾトリアゾール、ヒドロキシベンゾトリアゾール、低級アルキルヒドロキシベンゾトリアゾール、モリブデン酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、クロム酸塩、ホウ酸塩、及びこれらの混合物である腐食防止剤が好ましく用いられる。1,2,3-ベンゾトリアゾール、モリブデン酸ナトリウム、及び亜硝酸ナトリウムを含む腐食防止剤が特に好ましく用いられる。炭素鋼及びステンレス鋼を含む機器等を処理するために本発明の組成物が使用される場合には、例えば、安息香酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、及びモリブデン酸ナトリウムなどを含む腐食防止剤が好ましく用いられる。炭素鋼及び/又はステンレス鋼を含む機器等を処理するために本発明の組成物が使用される場合には、例えば、硝酸ナトリウム及び/又はモリブデン酸ナトリウムを含む腐食防止剤が好ましく用いられる。本発明の水性組成物中に存在する腐食防止剤の総量は、組成物の総質量に対して、典型的には、0.1質量%から約30質量%である。1,2,3-ベンゾトリアゾールの量は、好ましくは0.1質量%から約3.0質量%であり、より好ましくは0.5質量%から約2.0質量%である。
【0043】
腐食防止剤がペルオキシカルボン酸を含む本発明の水性組成物に難溶である場合には、本発明の組成物はさらにアルキレングリコールのなどの可溶化剤を含んでもよい。本明細書において、「アルキレングリコール」という用語は、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジアルキレングリコール(例えば、ジエチレングリコール)、トリアルキレングリコール(例えば、トリエチレングリコール)、ならびに対応するそれらのモノ-及びジアルキルエーテルなどのグリコールをいう。ここでこのアルキルエーテルは、1個から6個の炭素原子を有する低級アルキルエーテル(例えば、メチル、エチル、又はプロピルエーテル)である。特に好ましくは、本発明組成物は可溶化剤としてプロピレングリコールを含み、またこのプロピレングリコールは本発明組成物に腐食防止剤の約3倍から10倍の濃度で含まれていることが好ましい。例えば、本発明の水性組成物中に約1質量%で含まれる1,2,3-ベンゾトリアゾールに対してプロピレングリコールが本発明の水性組成物中に約3.5質量%から6.5質量%で含まれていることが好ましい。
【0044】
pH調整剤としては、本発明組成物に適合しかつ環境に適合するような酸、例えば、クエン酸、酢酸、酒石酸、リンゴ酸、乳酸、グリコール酸、コハク酸、グルタル酸、又はアジピン酸等の有機酸及びその塩、リン酸、硫酸等の無機酸及びその塩、水酸化アンモニウム又は水酸化アルカリ金属等の塩基を用いることができる。もっとも本発明で用いることができるpH調整剤はこれらに限定されない。本発明組成物中のpH調整剤の濃度は組成物の総質量に対して、20質量%以下が好ましく、特に0.1質量%〜10質量%が好ましい。
【0045】
本発明の組成物は、任意の成分として重金属イオン封鎖剤を含有することが好ましい。本明細書において重金属イオン封鎖剤とは、重金属イオンを封鎖(キレート)する作用を行う成分を意味し、これらの成分がカルシウム及びマグネシウムのキレート化能力を有する場合でも、鉄、マンガン、及び銅のような重金属イオンとより選択的に結合する成分を意味する。重金属イオン封鎖剤は通常本発明の組成物中に組成物の総質量に対して0.005質量%〜20質量%、好ましくは0.1質量%〜10質量%、さらに好ましくは0.25質量%〜7.5質量%、最も好ましくは0.5質量%〜5質量%のレベルで存在する。本発明の組成物に添加するのに適した重金属イオン封鎖剤としては、有機ホスホン酸塩、例えば、アミノアルキレンポリ(アルキレンホスホン酸塩)、アルカリ金属エタン1−ヒドロキシジホスホン酸塩、及びニトリロトリメチレンホスホン酸塩が挙げられる。上記の中で好ましいのは、アミノトリ(メチレンホスホン酸塩)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸塩)、エチレンジアミントリ(メチレンホスホン酸塩)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸塩)、ヘキサメチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、及びヒドロキシ−エチレン1,1二ホスホン酸塩である。
【0046】
本発明の組成物に添加するのに好ましい他の重金属イオン封鎖剤としては、ニトリロ三酢酸及びポリアミノカルボン酸、例えばエチレンジアミノ四酢酸、エチレントリアミン五酢酸、エチレンジアミン二コハク酸、エチレンジアミン二グルタル酸、2−ヒドロキシプロピレンジアミン二コハク酸、又はこれらいずれかの塩が挙げられる。特に好ましいのはエチレンジアミン−N,N'−二コハク酸(EDDS)もしくはアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウムもしくはこれらの置換アンモニウム塩、又はこれらの混合物である。
【0047】
本発明の組成物に添加するのに好ましい他の重金属イオン封鎖剤としては、例えば、欧州特許公開第317,542号公報及び欧州特許公開第399,133号公報の各明細書に記載されている2−ヒドロキシエチル二酢酸又はグリセリルイミノ二酢酸のようなイミノ二酢酸誘導体、欧州特許公開第516,102号公報に記載されているイミノ二酢酸−N−2−ヒドロキシプロピルスルホン酸及びアスパラギン酸N−カルボキシメチルN−2−ヒドロキシプロピル−3−スルホン酸封鎖剤、並びに欧州特許公開第509,382号公報に記載されているβ−アラニン−N,N'−二酢酸、アスパラギン酸−N,N'−二酢酸、アスパラギン酸−N−モノ酢酸、及びイミノ二コハク酸封鎖剤が挙げられる。欧州特許公開第476,257号公報には適するアミノ基剤の封鎖剤が記載されている。欧州特許公開第510,331号公報にはコラーゲン、ケラチン、又はカゼインから誘導した適する封鎖剤が記載されている。欧州特許公開第528,859号公報には適するアルキルイミノ二酢酸封鎖剤が記載されている。二ピコリン酸及び2−ホスホノブタン−1,2,4−三カルボン酸も好適である。グリシンアミド−N,N'−二コハク酸(GADS)、エチレンジアミン−N,N'−二グルタル酸(EDDG)及び2−ヒドロキシプロピレンジアミン−N,N'−二コハク酸(HPDDS)もまた好適である。もっとも、本発明の組成物に添加するのに適した重金属イオン封鎖剤は上記の例示に限定されない。
【0048】
安定化剤としては公知の安定化剤を用いればよく、リン酸塩、8-ヒドロキシキノリン、スズ酸、スルホレン、スルホラン、スルホキシド、スルホン、スルホン酸などが挙げられる。本発明の組成物において、リン酸塩が好ましい安定化剤である。好ましくは、本発明の組成物は組成物の総質量に対して約0.001質量%から約0.5質量%のリン酸塩を含む。上記リン酸塩は、オルトリン酸ナトリウム塩、オルトリン酸カリウム塩、ピロリン酸ナトリウム塩、ピロリン酸カリウム塩、ポリリン酸ナトリウム塩、ポリリン酸カリウム塩、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0049】
また本発明の組成物は任意に組成物の総質量に対して約30質量%までの界面活性剤を含んでいてもよい。界面活性剤としては、酸性水性媒体中でペルオキシカルボン酸、過酸化水素の存在下で酸化及び分解に対して安定な界面活性剤を使用することができ、好ましくは、酸化され易い界面活性剤は避ける。適切な界面活性剤は、非イオン性、アニオン性、両性、又はカチオン性の界面活性剤から選択することができる。本発明の組成物に添加するのに好ましい界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤が挙げられ、具体的には、ポリエチレン/ポリプロピレンブロックポリマー型界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル型界面活性剤、ポリオキシエチレンエーテル型界面活性剤、及びポリオキシエチレンソルビタン型界面活性剤等が挙げられるが。本発明の組成物に添加される界面活性剤はこれらに限定されない。
【0050】
再付着防止剤としては、医療器具から脱離した汚れ等を液中に懸濁した状態に保つ機能を有するものを使用することができる。例えば、有機性の水溶性コロイド(例えば、デンプン、ゼラチン、デンプンのエーテルカルボン酸又はエーテルスルホン酸の塩、セルロース、セルロースエーテル、セルロースのエーテルカルボン酸もしくはエーテルスルホン酸の塩、又はセルロースもしくはデンプンの酸性硫酸エステルの塩)などを用いることができる。酸性基を含む水溶性ポリアミドも好ましく用いることができる。さらに上記以外のデンプン誘導体、例えばアルデヒドデンプンも使用することができる。もっとも、本発明の組成物に添加される再付着防止剤はこれらの例示に限定されない。再付着防止剤としては、再付着防止剤として例示された上記の化合物からなる群から選択される1種又は2種以上を用いることができる。本発明の水性組成物中の再付着防止剤の濃度は、組成物の総質量に対して5質量%以下が好ましく、特に2質量%以下が好ましい。
【0051】
本明細書において用いられる「殺菌」という用語には、「洗浄」、「消毒」、及び「抗菌」などの意味が含まれる。ペルオキシカルボン酸の濃度及び医療用機器との接触時間等の条件を検討することにより、本発明の水性組成物を用いた医療用機器の「滅菌」も可能である。本発明の水性組成物により、特に高い抵抗性を有する細菌である芽胞、例えばBacillus subtilisも短時間で死滅させることが可能である。本明細書において用いられる「殺菌剤」との用語は、主として化学的作用により種々の微生物に対して殺菌作用を発揮する殺菌剤を意味し、Spauldingによって分類された高水準、中水準、低水準のいずれの殺菌剤も含まれる。なお、Spauldingは、主として増殖型の一般細菌を殺すことができる殺菌剤を低水準(低度)、抵抗力の強い結核菌まで殺すことができる殺菌剤を中水準(中度)、最も抵抗力の強い細菌芽胞までを殺すことができる殺菌剤を高水準(高度)と分類している。本発明の水性組成物を含有する殺菌剤の用途は特に限定されず、液体または固体の殺菌のほか、汚染された気相の殺菌に用いることができる。気相中の汚染物質等は、本発明の水性組成物の希薄溶液を噴霧することにより、または気体を本発明の水性組成物の浴中を通して泡立たせることにより、処理することができる。
【0052】
本発明の水性組成物により殺菌可能な液体としては、例えば、微生物汚染された水性物質、例えば、再循環プロセス水または廃棄前の水性流出液からなるプロセス水及び流出液などが挙げられる。そのようなプロセス水及び流出液は、多くの産業において発生し、バクテリア、藻類、イーストで汚染されていることがあり、またよりまれであるがウイルスによって汚染されていることがある。また、汚染プロセス水は植物及び動物物質の処理につきものである。このようなプロセス水及び流出液が発生する産業としては特に限定されるものではないが、例えば、紙及びパルプ産業、食品処理産業(例えば、砂糖精製産業、醸造、ワイン製造、及びアルコール蒸留産業)などが挙げられる。そのほか、わら処理からの流出液、下水処理場からの排水(例えば、部分処理または単にろ過された下水の、海に延びる管路による排水)、食肉処理工場、動物性脂肪精製事業、及び家畜の飼育からの排水が例示できる。本発明の水性組成物により殺菌可能な液体としては、他に園芸産業における灌漑水や、水耕栽培における水性肥料や循環水、水産業における養殖用水などが挙げられ、また、別の重要な本発明の水性組成物により殺菌可能な液体としては、産業において生じる冷却水、あるいは大きな建物(例えばホテル、事務所、及び病院)に設置された空調装置から生じる冷却水が挙げられる。本発明の水性組成物は、非水性液体物質、例えば切削油の殺菌処理にも使用することができる。
【0053】
本発明の水性組成物は、収穫された植物又は植物生成物(例えば、種子、球茎、塊茎、果物、及び野菜)の消毒に使用することができる。あるいは、本発明の水性組成物は、成長中の植物、特に収穫物が成長中の植物(例えば穀草、葉野菜、サラダ用野菜作物、根菜、豆類、液果、カンキツ類、及び堅果)の処理に使用することができる。さらにまた、容易に理解されるように、本発明の水性組成物は、必要であれば、これが使用される他の目的、たとえば漂白においてもまたは洗濯作業における漂白添加剤としても使用することができる。
【0054】
また本発明の水性組成物は、固体、例えば硬質表面を有する物、または食品処理、動物飼育、園芸、仕出し、家庭もしくは病院環境において再使用を意図する汚染物品の消毒にも使用することができる。硬質表面を有する物としては、金属、木材、セラミックス、ガラス、繊維、及びプラスチックから製造された物が挙げられ、食品パッケージ、コンタクトレンズ、作業台、壁、床、衛生陶器、プール、プラント、衣料、シーツ、カバー類または装置、容器、工具、機械、プラントと配管などが含まれる。病院環境において再使用を意図する汚染物品としては、種々の医療機器、例えばレンズ装着の装置類、内視鏡類、メスやカテーテルなどの外科手術用器具、産科・泌尿器科用器具、麻酔装置類、人工呼吸装置類、人工透析装置類、歯科用器具またはその補助的器具、注射筒、体温計、プラスチック器具などが挙げられ、本発明の水性組成物は、特に短時間での殺菌を要する歯科機器や医療外科用機器、例えば、内視鏡の殺菌に適している。容易に理解されるように、そのような硬質表面を有する物であってかつ小さめの物品は本発明の水性組成物の溶液に浸漬させるのが便利であることが多く、またより大規模の用途の場合には、噴霧または類似の散布手段がより容易に使用できる。このような殺菌法は、吸湿性の材料例えば汚染されたリネンまたは特に汚れた赤ん坊用のオムツ(しばしばテリータオル地で作られる)の消毒方法として用いることもできる。
【0055】
本発明の水性組成物を用いた殺菌方法は上述のように、特に限定されないが、例えば殺菌対象物を本発明の水性組成物に浸漬させることによって両者を接触させて殺菌する方法が好ましい。該浸漬においては水性組成物を攪拌してもよく、殺菌対象物を振とうしてもよく、自動洗浄機を用いてもよい。また「内視鏡の洗浄・消毒に関するガイドライン」第2版においても推奨されているように、用手洗浄の後に自動洗浄機を用いてもよい。自動洗浄機は特に限定されないが、市販のものを用いることができる。また、該浸漬前又は該浸漬後に殺菌対象物の洗浄工程を含めてもよく、浸漬の後に殺菌対象物を滅菌ガーゼ等で拭う又はドライヤー等により乾燥させる工程等を含めてもよい。本明細書において用いられる「洗浄」とは殺菌対象物の付着物を低減させる行為を意味する。洗浄に用いるものは特に限定されないが、水、アルカリ洗剤、中性洗剤、アルコール洗剤、酵素洗剤、超音波洗浄などを用いることが好ましい。殺菌時の温度は特に限定されないが、0℃以上であることが好ましく、常温で用いることがさらに好ましい。常温とは、日常生活における気温範囲内の温度であり、例えば病院等の施設内では一般的に15〜25℃程度である。また、本発明の水性組成物は必要に応じて常温以上の温度で用いることも可能である。該接触時間は15秒程度以上であれば特に制限はないが、好ましくは20分以下、さらに好ましくは10分以下、特に好ましくは5分以下である。さらに、殺菌対象物との接触は1回でもよく、2回以上繰り返して殺菌を行うことも可能である。
【0056】
本発明の水性組成物は殺菌剤として繰り返し使用が可能である。また、複数回の使用によって、該水性組成物中の有効成分である本発明のペルオキシカルボン酸濃度が低下した場合には、本発明のペルオキシカルボン酸濃度を高濃度(例えば該使用前の該水性組成物のペルオキシカルボン酸濃度の1.5〜200倍の濃度)で含む水性組成物をさらに添加することによって有効成分濃度を上昇させて、引き続き殺菌剤として使用することが可能である。
【0057】
本発明の水性組成物は殺菌剤としてそのまま提供することもできるが、一般式(I)、(II)、(III)、(IV)、又は(V)で表されるペルオキシカルボン酸に対応するカルボン酸を含む水性組成物と、過酸化水素を含む水性組成物とをキットとして提供し、使用に際し混合し使用することもでき、必要に応じて混合物を水で希釈後に使用することもできる。また、一般式((I)、(II)、(III)、(IV)、又は(V)で表されるペルオキシカルボン酸及び前記添加物を乾燥形態で提供し、使用に際して水性溶媒に溶解することもできる。
【0058】
さらに、本発明の水性組成物は、一般式(I)、(II)、(III)、(IV)、又は(V)で表されるペルオキシカルボン酸、該ペルオキシカルボン酸に対応するカルボン酸及び過酸化水素を含む水性組成物(以下「第1の試薬」という)と、腐食防止剤、pH調整剤、金属封鎖剤、安定化剤、及び界面活性剤からなる群から選択される1種以上を含有する組成物(以下「第2の試薬」という)とを含むキットとして提供し、使用に際し混合し使用することもでき、必要に応じて混合物を水で希釈後に使用することもできる。また、第1及び第2の試薬以外に必要に応じて他の試薬を混合してもよい。
【0059】
本発明の水性組成物は殺菌剤としてそのまま提供することもできるが、他の殺菌剤と組み合わせて使用することもできる。例えば、他の殺菌剤と混合して用いることができ、必要に応じて混合物を水で希釈後に使用することもできる。又は本発明の水性組成物を用いた殺菌の前後に他の殺菌剤での処理を加えてもよい。本発明の殺菌用水性組成物と組み合わせる殺菌剤は特に限定されないが、例えば過酢酸、過酸化水素水、グルタルアルデヒド、オルトフタルアルデヒド、消毒用エタノールなどが好ましく、特に過酢酸と過酸化水素水が好ましい。
【0060】
上記第1の試薬は、1〜15質量%の本発明のペルオキシカルボン酸、10〜50質量%の該ペルオキシカルボン酸に対応するカルボン酸、及び1〜15質量%の過酸化水素水を含むことが好ましく、3〜13質量%の本発明のペルオキシカルボン酸、20〜50質量%の該ペルオキシカルボン酸に対応するカルボン酸、3〜15質量%の過酸化水素を含むことがより好ましく、5〜11質量%の本発明のペルオキシカルボン酸、20〜40質量%の該ペルオキシカルボン酸に対応するカルボン酸、5〜15質量%の過酸化水素を含むことがさらに好ましい。
【0061】
さらに上記第1の試薬は、1〜15質量%の本発明のペルオキシカルボン酸、10〜50質量%の該ペルオキシカルボン酸に対応するカルボン酸、1〜15質量%の過酸化水素を含み、かつ該ペルオキシカルボン酸と過酸化水素の合計が25質量%以下であり、該ペルオキシカルボン酸と該カルボン酸の合計が50質量%以下であることが好ましく、3〜13質量%の本発明のペルオキシカルボン酸、20〜50質量%の該ペルオキシカルボン酸に対応するカルボン酸、3〜15質量%の過酸化水素を含み、かつ該ペルオキシカルボン酸と過酸化水素の合計が25質量%以下であり、該ペルオキシカルボン酸と該カルボン酸の合計が50質量%以下であることが好ましく、上記第1の試薬が、5〜11質量%の本発明のペルオキシカルボン酸、20〜40質量%の該ペルオキシカルボン酸に対応するカルボン酸、5〜15質量%の過酸化水素を含み、かつ該ペルオキシカルボン酸と過酸化水素の合計が25質量%以下であり、該ペルオキシカルボン酸と該カルボン酸の合計が45質量%以下であることがさらに好ましい。
【0062】
上記第1の試薬と第2の試薬を混合し水で希釈して使用する場合、pH2未満では、酸触媒によりペルオキシカルボン酸から対応するカルボン酸への平衡移動が加速され、その結果、ペルオキシカルボン酸の濃度の減衰が著しくなり、連続して使用できる期間が短くなってしまう。また、カルボン酸の解離定数が通常4付近である為、pHが5以上になるとカルボン酸が解離しカルボン酸の塩となりカルボン酸濃度が低下する為、その結果、ペルオキシカルボン酸からカルボン酸への平衡移動を加速する懸念がある。従って、該第1の試薬と第2の試薬を混合し、水等の溶媒で希釈した後の水性組成物のpHは2〜4.5の範囲であることが好ましい。pHの調整には、前述の調整剤、具体的には本発明組成物に適合しかつ環境に適合するような酸、例えば、クエン酸、酢酸、酒石酸、リンゴ酸、乳酸、グリコール酸、コハク酸、グルタル酸、又はアジピン酸等の有機酸及びその塩、リン酸、硫酸等の無機酸及びその塩、水酸化アンモニウム又は水酸化アルカリ金属等の塩基を用いることができる。
【0063】
本発明の水性組成物などにおけるペルオキシカルボン酸の濃度につき、測定方法は特に限定されないが、化学的又は電気化学的原理に基づくインジケータを用いる方法が好ましい。化学的原理に基づく方法としては酸化還元による発色やpHによる発色を利用した測定方法が挙げられ、電気化学的原理に基づく方法としてはパルス電流測定や溶液の抵抗測定、電位差電流測定などを用いた方法が挙げられる。
【0064】
本発明のペルオキシカルボン酸、水性組成物、又は殺菌剤の廃棄方法は特に限定されないが、大量の水で希釈することで化学平衡の移動によりペルオキシカルボン酸が対応するカルボン酸に変化するため、環境に対して低負荷の状態で廃棄することができる。また、本発明のペルオキシカルボン酸、水性組成物、又は殺菌剤を不活性化処理の後に廃棄することも可能である。不活性化処理とは、ペルオキシカルボン酸量を減少させる処理のことであり、その方法は特に限定されないが、例えば還元剤等による処理、紫外線の照射、高pH化処理、又は超音波照射などの手法が挙げられる。
【0065】
本発明のペルオキシカルボン酸を保管する容器は特に限定されないが、ペルオキシカルボン酸と反応しない容器が好ましく、例えば本発明のペルオキシカルボン酸を含む水性組成物が殺菌剤等として市場に提供される際にはポリエチレン製容器に充填された形態で提供されることが好ましい。
【実施例】
【0066】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0067】
例1:3−メトキシペルオキシプロピオン酸(化合物1)の合成
3−メトキシプロピオン酸2.82 mL(30 mmol)に50%過酸化水素水2.58 mL(45 mmol)を加え、室温で3日間放置した。B.Dudleyらの方法(Analyst,87,653-657(1962))に従ってヨウ化カリウム/チオ硫酸ナトリウム滴定を実施し、3日後の3−メトキシペルオキシプロピオン酸及び過酸化水素濃度を決定した。
結果 3−メトキシペルオキシプロピオン酸; 157 mM
過酸化水素濃度; 7872 mM
【0068】
例2:3−エトキシペルオキシプロピオン酸(化合物2)の合成
3−エトキシプロピオン酸3.38 mL(30 mmol)に50%過酸化水素水2.58 mL(45 mmol)を加え、室温で3日間放置した。例1と同様の方法で3日後の3−エトキシペルオキシプロピオン酸及び過酸化水素濃度を決定した。
結果 3−エトキシペルオキシプロピオン酸; 162 mM
過酸化水素濃度; 7787 mM
【0069】
例3:酸触媒を使用した各種ペルオキシカルボン酸の合成及び得られた水性組成物中のペルオキシカルボン酸濃度
a) 化合物1(3−メトキシペルオキシプロピオン酸)の合成
3−メトキシプロピオン酸46 mL(490 mmol)に50%過酸化水素水42.4 mL(735 mmol)及び濃硫酸0.52 mL(9.8 mmol)を加え、室温で10日間放置した。例1と同様の方法で10日後の3−メトキシペルオキシプロピオン酸及び過酸化水素濃度を決定した。
結果 3−メトキシペルオキシプロピオン酸; 1800 mM
過酸化水素濃度; 6000 mM
b) 化合物2(3−エトキシペルオキシプロピオン酸)の合成
3−エトキシプロピオン酸261.9g (2220 mmol)に50%過酸化水素水192 mL(3330 mmol)及び濃硫酸2.36 mL(44 mmol)を加え、室温で10日間放置した。例1と同様の方法で10日後の3−エトキシペルオキシプロピオン酸及び過酸化水素濃度を決定した。
結果 3−エトキシペルオキシプロピオン酸; 1700 mM
過酸化水素濃度; 5500 mM
c)化合物3の合成
3−プロポキシプロピオン酸25.0g(189 mmol)、50%過酸化水素水16.4 mL(284 mmol)、濃硫酸0.5 mL(9.4 mmol)を加え、室温で4日間放置した。例1と同様のヨウ化カリウム/チオ硫酸ナトリウム滴定を実施し、4日後のペルオキシカルボン酸(3)(化合物3)濃度を決定した。
結果 ペルオキシカルボン酸(3); 1.6M
d)化合物5の合成
3−(1−メチルエトキシ)プロピオン酸4.0 mL(30 mmol)、50%過酸化水素水2.6 mL(45 mmol)、濃硫酸16μL(0.3 mmol)を加え、室温で7日間放置した。例1と同様のヨウ化カリウム/チオ硫酸ナトリウム滴定を実施し、7日後のペルオキシカルボン酸(5)(化合物5)濃度を決定した。
結果 ペルオキシカルボン酸(5); 1.4M
e)化合物19の合成
テトラヒドロフラン−3−カルボン酸3.8 mL(40 mmol)に50%過酸化水素水3.4 mL(60 mmol)を加え、室温で4日間放置した。例1と同様のヨウ化カリウム/チオ硫酸ナトリウム滴定を実施し、4日後のペルオキシカルボン酸(19)(化合物19)濃度を決定した。
結果 ペルオキシカルボン酸(19); 0.6M
【0070】
f)化合物24の合成
4−エトキシブタン酸1.32g(10 mmol)、50%過酸化水素水0.86 mL(15 mmol)、濃硫酸5μL(0.1 mmol)を加え、室温で3日間放置した。例1と同様のヨウ化カリウム/チオ硫酸ナトリウム滴定を実施し、3日後のペルオキシカルボン酸(24)(化合物24)濃度を決定した。
結果 ペルオキシカルボン酸(24); 1.4M
g)化合物25の合成
5−メトキシペンタン酸3.0g(23 mmol)、50%過酸化水素水1.96 mL(34 mmol)、濃硫酸24μL(0.5 mmol)を加え、室温で6日間放置した。例1と同様のヨウ化カリウム/チオ硫酸ナトリウム滴定を実施し、6日後のペルオキシカルボン酸(25)(化合物25)濃度を決定した。
結果 ペルオキシカルボン酸(25); 1.8M
h)化合物26の合成
5−エトキシペンタン酸5.0g(34 mmol)、50%過酸化水素水3.0 mL(51 mmol)、濃硫酸18μL(0.3 mmol)を加え、室温で4日間放置した。例1と同様のヨウ化カリウム/チオ硫酸ナトリウム滴定を実施し、4日後のペルオキシカルボン酸(26)(化合物26)濃度を決定した。
結果 ペルオキシカルボン酸(26); 1.5M
【0071】
i)化合物27の合成
6−メトキシヘキサン酸5.0g(34 mmol)、50%過酸化水素水3.0 mL(51 mmol)、濃硫酸18μL(0.3 mmol)を加え、室温で4日間放置した。例1と同様のヨウ化カリウム/チオ硫酸ナトリウム滴定を実施し、4日後のペルオキシカルボン酸(27)(化合物27)濃度を決定した。
結果 ペルオキシカルボン酸(27); 1.6M
j)化合物28の合成
2−(2−クロロエトキシ)プロピオン酸4.6g(30 mmol)、50%過酸化水素水2.6 mL(45 mmol)、濃硫酸16μLを加え、室温で2日間放置した。例1と同様のヨウ化カリウム/チオ硫酸ナトリウム滴定を実施し、2日後のペルオキシカルボン酸(28)(化合物28)濃度を決定した。
結果 ペルオキシカルボン酸(28); 126mM
k)化合物35の合成
4−メトキシ−4−メチルブタン酸5.0g(38 mmol)、50%過酸化水素水3.3 mL(57 mmol)、濃硫酸20μL(0.4 mmol)を加え、室温で4日間放置した。例1と同様のヨウ化カリウム/チオ硫酸ナトリウム滴定を実施し、4日後のペルオキシカルボン酸(35)(化合物35)濃度を決定した。
結果 ペルオキシカルボン酸(35); 1.7M
l)化合物36の合成
4−エキシ−4−メチルブタン酸5.0g(34 mmol)、50%過酸化水素水3.0mL(51 mmol)、濃硫酸18μL(0.3 mmol)を加え、室温で4日間放置した。例1と同様のヨウ化カリウム/チオ硫酸ナトリウム滴定を実施し、4日後のペルオキシカルボン酸(36)(化合物36)濃度を決定した。
結果 ペルオキシカルボン酸(36); 1.3M
【0072】
例4:抗微生物活性評価方法
本発明組成物の芽胞に対する抗微生物活性を評価した。
厚生労働省通知 衛乳第10号(平成8年1月29日)の芽胞原液調製法を参考にBacillus subtilis IFO3134の芽胞を調製した。具体的にはBacillus subtilis IFO3134をNutient Agar(Difco)上で1週間、37℃で培養し、約90 %の芽胞形成率を確認した。この菌を滅菌水3 mLに懸濁し、振とうしながら(160 rpm)、65℃で30分間加熱処理し栄養型を死滅させた。これを遠心分離(3000 rpm)した後、上清を捨て滅菌水3 mLを加え芽胞原液とした。この芽胞原液を1.1×109 cfu/mLになる様に調整し、以下の抗微生物活性評価に供した。
【0073】
抗微生物活性評価は坂上らの方法(J. Antibact. Antifung. Agents.、26巻、605〜601ページ、1998年)に従って実施した。具体的には、0.2μmのフィルター濾過を行った各サンプル水溶液225μLに前記方法により調製した芽胞懸濁液 25μLを加え、25℃で一定時間反応させた(混合後菌濃度:1.1×108 cfu/mL)。この水溶液から2μLをサンプリングし、2 mLのSCDLP培地(日水製薬)に加え160 rpm、37℃で48時間培養し菌の生育の有無を調べた。また、同反応液25μLを0.1Nチオ硫酸ナトリウム、1%カタラーゼの混合水溶液225μLに添加しペルオキシカルボン酸及び過酸化水素を不活性化した後、SCDLP寒天培地(日水製薬、25 mL/シャーレ)に100μLをまき、37℃で48時間培養後にコロニーの形成を目視で観察した。
【0074】
例1、例2、例3−c、例3−f、及び例3−jにて調製した溶液をそれぞれペルオキシカルボン酸濃度が40 mMになる様に注射用蒸留水(光製薬)で希釈し、各々組成物1、組成物2、組成物3、組成物24、及び組成物28とした。これらについて前記方法に従い抗菌活性を評価した。結果を表1に示す。また、これらの希釈溶液に含有される濃度以上の過酸化水素水単独での抗菌活性についても別途評価した結果を合わせて表1に示した。
【0075】
【表1】

【0076】
なお、表中+は液体培養での菌体増殖または寒天培養でのコロニー形成が認められたこと、−は液体培養での菌体増殖または寒天培養でのコロニー形成が認められなかったことを示す。
【0077】
比較例1
例4と同様に過酢酸(濃度 40 mM)組成物であるアセサイド(サラヤ株式会社製)について抗菌活性評価を行った。結果を表2に示す。

【表2】

【0078】
比較例2
例4と同様に下記比較化合物について実施した結果、その抗菌活性は組成物1及び組成物2等には及ばない事がわかった。
【0079】
【化11】

【0080】
上記の結果より、本発明の化合物、ペルオキシアルコキシカルボン酸は過酢酸と同等レベルの強い抗菌活性を示すことがわかった。また、特表2000−505136号公報に記載の請求範囲内である末端に水酸基を有する比較化合物では、本発明の新規ペルオキシアルコキシカルボン酸に比べ、抗菌活性が低下する事がわかった。さらに、過酢酸には過酸由来の刺激臭があり、また酢酸臭が強いため、実際に消毒薬として取扱う場合には作業者への負荷が大きく、換気等の対応が必須であったが、ω−アルコキシペルオキシカルボン酸には殆ど臭いがないため、作業者は医療用具の消毒を負荷なく実施可能である。
【0081】
例5:安定性評価1
安定性評価方法
カルボン酸(30 mmol)と50%過酸化水素水(45 mmol)を混合し、発生する過酸濃度を例1と同様のヨウ化カリウム/チオ硫酸ナトリウム滴定により一定期間毎に定量した。カルボン酸としては3−メトキシプロピオン酸と3−エキシプロピオン酸を用い、比較対象としてはメトキシ酢酸を用いた。測定結果を表3に示す。
【0082】
【表3】

なお、表中の数値は組成物中の過酸濃度(mM)を示す。
【0083】
表3からわかる様に、2位にアルコキシ基を有するペルオキシメトキシ酢酸は、過酸濃度が時間経過と共に顕著に減少する事が確認され、ペルオキシメトキシ酢酸は不安定である事がわかった。一方、本発明の化合物であるペルオキシ−3−メトキシプロピオン酸及びペルオキシ−3−エキシプロピオン酸では、過酸量の減少は認められなかった。
【0084】
例6:安定性評価2:pH依存性
前述した化合物3の合成により得られたペルオキシカルボン酸1.6Mの水性組成物100mlに水50mlを加えて希釈し、25℃で7日間静置した後に例1と同様のヨウ化カリウム/チオ硫酸ナトリウム滴定により定量した。
・化合物3(ペルオキシ−3−プロポキシプロピオン酸);0.46M
・過酸化水素 ;3.6M
本水性組成物をペルオキシカルボン酸濃度が80mMになるように水で希釈し、pH1.7、pH3.0、及びpH5.0の3溶液を調製して、例1と同様のヨウ化カリウム/チオ硫酸ナトリウム滴定により一定期間ごとにペルオキシカルボン酸濃度を定量した。なお、pHの調整はリン酸水素二カリウムの添加によって行った。ペルオキシカルボン酸濃度につき80mMを100%としてペルオキシカルボン酸濃度の変化を示したグラフを図1に示す。
図1から分かるように、pHが2未満もしくは5以上ではペルオキシカルボン酸の濃度低下速度が大きく、保存安定性に懸念が生じるのに対し、pH3.0の溶液は有意に高い保存安定性を示した。
【0085】
例7:危険物第5類評価.
前述した化合物3の合成により得られたペルオキシカルボン酸1.6Mの水性組成物100mlと水50mlを希釈混合し、25℃で14日間静置した。この溶液をさらに4℃で10日間保管したものを例1と同様のヨウ化カリウム/チオ硫酸ナトリウム滴定により定量した。
・化合物3(過3−プロポキシプロピオン酸);0.49M
・過酸化水素 ;3.9M
上記の滴定結果に基づき、この水性組成物の組成を解析すると、
・化合物3(過3−プロポキシプロピオン酸);7%w/w
・過酸化水素 ;13%w/w
・3−プロポキシプロピオン酸 ;32%w/w
・水 ;48%w/w
であることが分かった。
この水性組成物について消防法危険物第5類の判定試験を行ったところ、熱分析試験では「危険性無し」、圧力容器試験では「ランク3」となり、消防法危険物第5類には非該当であることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】異なるpHの水性組成物中におけるペルオキシカルボン酸の濃度の変化をプロットした図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I):
【化1】

(式中、R1は置換もしくは無置換のC1−C10のアルキル基(但し置換基としてOH基を有する置換基は除く)、又は置換もしくは無置換のC6−C10のアリール基を示し、Lは置換もしくは無置換のC2−C12の2価の連結基を示し、R1とLは結合して環を形成してもよい)で表されるペルオキシカルボン酸。
【請求項2】
LがCHR11−L12(式中、R11は水素原子又はC1〜C4の置換もしくは無置換のアルキル基を示し、L12は置換もしくは無置換のC1−C11の2価の連結基を示す)で表される請求項1に記載のペルオキシカルボン酸。
【請求項3】
1が無置換のC1−C4のアルキル基である請求項1又は2に記載のペルオキシカルボン酸。
【請求項4】
一般式(II)又は(III):
【化2】


(式中、R2、R3、R4、及びR5は各々独立に水素、C1−C4アルキル基、C1−C4のアルコキシ基又はC1−C4アルコキシ置換C1−C4アルキル基を示し、L2は置換もしくは無置換のC1−C9アルキレン基、又は置換もしくは無置換のC6−C9アリーレン基を示し、L1は置換もしくは無置換のC1−C10の2価の連結基を示す)で表されるペルオキシカルボン酸。
【請求項5】
1がCHR12−L13(R12は水素原子又はC1〜C4の置換もしくは無置換のアルキル基を示し、L13は置換もしくは無置換のC1−C9の2価の連結基を示す)である請求項4に記載のペルオキシカルボン酸。
【請求項6】
2、R3、R4、及びR5が各々独立に水素、C1−C4のアルキル基、又はC1−C4アルコキシ置換C1−C4アルキル基であり、L2がC1−C2の無置換のアルキレン基である請求項4または5に記載のペルオキシカルボン酸。
【請求項7】
2、R3、R4、及びR5が水素である請求項6に記載のペルオキシカルボン酸。
【請求項8】
一般式(IV)または(V):
【化3】


(式中、R2、R3、R4、及びR5は各々独立に水素、C1−C4のアルキル基、C1−C4のアルコキシ基、又はC1−C4アルコキシ置換C1−C4アルキル基を示し、L2は置換もしくは無置換のC1−C9のアルキレン基、又は置換もしくは無置換のC6−C9のアリーレン基を示す)で表されるペルオキシカルボン酸。
【請求項9】
2、R3、R4、及びR5は各々独立に水素、C1−C4のアルキル基、又はC1−C4アルコキシ置換C1−C4アルキル基であり、L2が無置換のC1−C3のアルキレン基である請求項8に記載のペルオキシカルボン酸。
【請求項10】
2が水素である請求項8又は9に記載のペルオキシカルボン酸。
【請求項11】
2、R3、及びR4が水素である請求項8又は9に記載のペルオキシカルボン酸。
【請求項12】
5がメチル基である請求項11に記載のペルオキシカルボン酸。
【請求項13】
2がメチレン基である請求項11又は12に記載のペルオキシカルボン酸。
【請求項14】
2、R3、R4、及びR5が水素である請求項8又は9に記載のペルオキシカルボン酸。
【請求項15】
2がメチレン基である請求項14に記載のペルオキシカルボン酸。
【請求項16】
4がC1−C4アルコキシ置換メチル基である請求項8又は9に記載のペルオキシカルボン酸。
【請求項17】
5がメチル基である請求項16に記載のペルオキシカルボン酸。
【請求項18】
請求項1から17のいずれか1項に記載のペルオキシカルボン酸を含む水性組成物。
【請求項19】
さらに過酸化水素を含む請求項18に記載の水性組成物。
【請求項20】
請求項1から17のいずれか1項に記載のペルオキシカルボン酸、該ペルオキシカルボン酸に対応するカルボン酸、及び過酸化水素水を含む水性組成物。
【請求項21】
ペルオキシカルボン酸の濃度が0.1〜2000mMの範囲である請求項18〜20のいずれか1項に記載の水性組成物。
【請求項22】
ペルオキシカルボン酸の濃度が化学的又は電気化学的原理に基づくインジケータによって確認されることを特徴とする請求項21に記載の水性組成物。
【請求項23】
過酸化水素の濃度が3〜6000mMの範囲である、請求項19〜22のいずれか1項に記載の水性組成物。
【請求項24】
ペルオキシカルボン酸の濃度が1〜15質量%、該ペルオキシカルボン酸に対応するカルボン酸の濃度が10〜50質量%、及び過酸化水素水の濃度が1〜15質量%である請求項20に記載の水性組成物。
【請求項25】
ペルオキシカルボン酸の濃度が1〜15質量%、該ペルオキシカルボン酸に対応するカルボン酸の濃度が10〜50質量%、及び過酸化水素水の濃度が1〜15質量%であり、かつ該ペルオキシカルボン酸と過酸化水素の濃度の合計が25質量%以下であり、該ペルオキシカルボン酸と該カルボン酸の濃度の合計が50質量%以下である請求項20に記載の水性組成物。
【請求項26】
ペルオキシカルボン酸の濃度が化学的又は電気化学的原理に基づくインジケータによって確認されることを特徴とする請求項24又は25に記載の水性組成物。
【請求項27】
pHが2以上4.5以下の範囲である、請求項18〜26のいずれか1項に記載の水性組成物。
【請求項28】
腐食防止剤を含有する請求項18〜27のいずれか一項に記載の水性組成物。
【請求項29】
pH調整剤を含有する請求項18〜28のいずれか一項に記載の水性組成物。
【請求項30】
金属封鎖剤を含有する請求項18〜29のいずれか一項に記載の水性組成物。
【請求項31】
安定化剤を含有する請求項18〜30のいずれか一項に記載の水性組成物。
【請求項32】
界面活性剤を含有する請求項18〜31のいずれか一項に記載の水性組成物。
【請求項33】
請求項18〜32のいずれか一項に記載の水性組成物を調製するための乾燥形態の組成物。
【請求項34】
請求項18〜33のいずれか一項に記載の組成物を含有する殺菌剤。
【請求項35】
医療用機器の殺菌剤である請求項34に記載の殺菌剤。
【請求項36】
医療用機器が内視鏡である請求項35に記載の殺菌剤。
【請求項37】
請求項18〜32のいずれか一項に記載の水性組成物を調製するための、カルボン酸を含有する組成物と過酸化水素を含有する水性組成物とを含むキット。
【請求項38】
請求項18〜27のいずれか一項に記載の水性組成物と、腐食防止剤、pH調整剤、金属封鎖剤、安定化剤及び界面活性剤からなる群から選択される1種以上を含有する組成物とを含むキット。
【請求項39】
殺菌剤として提供される請求項37又は38に記載のキット。
【請求項40】
医療用機器の殺菌剤として提供される請求項39に記載のキット。
【請求項41】
医療用機器が内視鏡である請求項40に記載のキット。
【請求項42】
請求項1〜17のいずれか一項に記載のペルオキシカルボン酸の製造方法であって、酸触媒を使用することを特徴とする方法。
【請求項43】
殺菌対象物を、請求項18〜32のいずれか一項に記載の水性組成物と接触させる工程を含む殺菌方法。
【請求項44】
複数回使用した請求項18〜32のいずれか一項に記載の水性組成物に該使用前の該水性組成物のペルオキシカルボン酸濃度の1.5〜200倍の濃度で該ペルオキシカルボン酸を含有する組成物を添加して調製した水性組成物に、殺菌対象物を接触させる工程を含む殺菌方法。
【請求項45】
前記水性組成物と接触させる工程の前に殺菌対象物を洗浄する工程をさらに含む請求項43又は44に記載の殺菌方法。
【請求項46】
前記水性組成物と接触させる工程の後に殺菌対象物を洗浄又は乾燥する工程をさらに含む請求項43〜45のいずれか一項に記載の殺菌方法。
【請求項47】
請求項18〜32のいずれか一項に記載の水性組成物を常温以下で保存する方法。
【請求項48】
請求項18〜32のいずれか一項に記載の水性組成物を10℃以下で保存する方法。
【請求項49】
請求項37〜41のいずれか一項に記載のキットを常温以下で保存する方法。
【請求項50】
請求項37〜41のいずれか一項に記載のキットを10℃以下で保存する方法。
【請求項51】
請求項18〜32のいずれか一項に記載の水性組成物中のペルオキシカルボン酸を不活性化処理した後に、該水性組成物を廃棄する方法。
【請求項52】
請求項37〜41のいずれか一項に記載のキット中のペルオキシカルボン酸を不活性化処理した後に、該キットを廃棄する方法。
【請求項53】
ポリエチレン製容器に充填された形態の請求項18〜32のいずれか一項に記載の水性組成物。



【公表番号】特表2008−531462(P2008−531462A)
【公表日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−523468(P2006−523468)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【国際出願番号】PCT/JP2005/024160
【国際公開番号】WO2006/068306
【国際公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(000005201)富士フイルムホールディングス株式会社 (7,609)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】