説明

あぶらとり紙およびその製造方法

【課題】柔らかさおよび肌触り感の双方が向上したあぶらとり紙を提供する。
【解決手段】コットンパルプ繊維とその他のパルプ繊維とを叩解して各材料がまんべんなく混合された紙料を生成し(工程1)、この紙料を抄紙する(工程2)。さらに抄紙により生成された紙に柔軟剤を外添することによってパルプ繊維に柔軟剤を染みこませる(工程3)。この後は紙の水分を蒸発させて(工程4)、所要のサイズに裁断する(工程5)。これらの工程により、コットンパルプ繊維が全体にまんべんなく混在して、肌触りが向上すると共に、柔軟剤により柔らかさが高められたあぶらとり紙が完成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧直しなどの際に、顔面の皮脂や汗を取り除くために使用されるあぶらとり紙に関する。
【背景技術】
【0002】
あぶらとり紙は、顔面の皮脂が分泌した箇所に押し当てられることにより皮脂を吸収する機能を有するもので、皮脂の分泌が盛んな世代を中心に、広く利用されている。また、最近では男性の利用者も増え、汗をぬぐう目的に利用される場合もある。
【0003】
あぶらとり紙は、一般的な抄紙技術により量産することができるが、そのような方法で生産された製品には硬い感触のものが多く、使いごごちが良いとは言えない。
【0004】
上記の問題に着目し、柔らかさを高めたあぶらとり紙がいくつか開発されている。
たとえば、特許文献1には、絹の屑糸から生成した絹繊維パルプを植物性繊維パルプに混ぜ合わせた紙料を抄紙することにより、破れにくく、柔らかさが高められたあぶらとり紙を生産できることが記載されている。また、特許文献2には、竹パルプを含む植物性繊維パルプを原料として、填料を添加しない抄紙を実施することにより、あぶらとり紙の柔らさや皮脂の吸収力が高められることが記載されている(特許文献2を参照)。また特許文献3には、クレープ加工を施すことにより、柔軟性や肌へのフィット感を高めたあぶらとり紙を生成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−139755号公報
【特許文献2】特許第4415168号公報
【特許文献3】特開2001−145517号公報
【特許文献4】特開2006−169689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の発明者は、柔軟剤を用いてあぶらとり紙の柔らかさを高めることを検討した。
柔軟剤は、ティッシュペーパーの柔軟性を高める目的で使用されており(上記の特許文献4を参照)、あぶらとり紙においても、柔軟剤を外添することによって、ある程度は紙を柔らくできることを、実験により確認することができた。
【0007】
しかし、パルプ繊維のみを用いた従来製品に柔軟剤を外添しても、肌が弱い人や高級感を重視する人が要望する柔らかさを実現するまでには至らなかった。また、紙の柔らかさを高めただけでは、必ずしも肌触りを良くすることはできないことも確認された。
【0008】
本発明は上記の問題点に着目し、柔らかさおよび肌触り感の双方が向上したあぶらとり紙を提供することを、課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によるあぶらとり紙は、コットンパルプ繊維とその他のパルプ繊維とがまんべんなく混合されて形成されると共に、各パルプ繊維に柔軟剤を浸透させた構成である。
【0010】
上記のあぶらとり紙は、コットンパルプ繊維とその他のパルプ繊維とを叩解して各繊維がまんべんなく混合された紙料を生成する工程と、生成された紙料を抄紙する工程と、抄紙により生成された紙に柔軟剤を外添することにより各パルプ繊維に柔軟剤を浸透させる工程と、外添後の紙の全面に熱ロールを当接させることにより紙の水分を蒸発させる工程とを実行することにより、製作することができる。
【0011】
上記のコットンパルプ繊維は、綿花から採取された新品の綿をほぐして短く切断したものから抽出することができる。ただし、紡績工程などで生じた廃棄対象の綿(落ち綿)を利用すれば、資源を有効に活用でき、生産コストを下げることができる。
【0012】
コットンパルプ以外のパルプ材料としては、木材パルプのほか、マニラ麻など、あぶらとり紙で一般に使用されることの多い非木材パルプを使用することができる。また木材パルプおよび非木材パルプの双方を所定の割合で使用してもよい。
【0013】
紙料を生成する工程では、たとえば各パルプ繊維を種毎に磨砕および叩解した後に、各繊維をまんべんなく混合する。または、各パルプ繊維を種毎に磨砕した後に混合し、叩解してもよい。
また、この工程においては、パルプ繊維に適当な量の填料や染料などを加えて混ぜ合わせたものを、紙料としてもよい。
【0014】
生成された紙料を抄紙する工程は、一般的な構成の抄紙機により実施することができる。この工程により、コットンパルプ繊維が全体にまんべんなく混在した紙が生成される。この紙は、コットンパルプ繊維を含まない紙よりも柔らかく、肌触りの良いものとなる。
さらに上記の紙に柔軟剤を外添すると、柔軟剤は各パルプ繊維に染み込むが、特にコットンパルプ繊維には柔軟剤が染み込みやすく、コットンパルプ繊維の柔らかさがより一層高められる。よって紙全体の柔らかさを、コットンパルプ繊維を含まない紙に柔軟剤を外添した場合よりも大幅に高めることができる。
【0015】
この後、熱ロールにより乾燥させた紙を所要の大きさに切断することにより、あぶらとり紙が完成する。このあぶらとり紙を顔面にあてると、紙全体に混在するコットンパルプ繊維により良好な肌触りを得ることができる。また、上記のとおり、紙全体の柔らかさが高められるので、肌への刺激が少なく、使いごごちの良いあぶらとり紙となる。
【0016】
本発明によるあぶらとり紙の好ましい一実施形態では、紙全体に対するコットンパルプ繊維の質量比を約30%としている。この質量比によれば、あぶらとり紙としての使用に耐える強度が確保されると共に柔らかさが大幅に高められることが、実験により確認された。
【発明の効果】
【0017】
本発明によるあぶらとり紙には、柔軟剤により柔らかさの増したコットンパルプ繊維がまんべんなく混在しているので、柔らさの度合いが高められると共に、使用時の肌触りが大幅に向上する。よって、肌への刺激が少なく、使いごごちの良いあぶらとり紙を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】あぶらとり紙の製造で実施される工程を示すフローチャートである。
【図2】工程3および工程4を実施する塗工機の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明によるあぶらとり紙の製造で実施される工程を示す。
この図1を参照して説明すると、まず、最初の工程1において、コットンパルプ繊維を含む紙料を生成する。具体的には、コットンパルプ繊維およびその他のパルプ繊維を磨砕および叩解した後に、各繊維および填料や染料などの添加物をミキシング装置に投入し、十分に混ぜ合わせる。
【0020】
コットンパルプ以外のパルプ材料としては、木材パルプ(針葉樹パルプまたは広葉樹パルプ)のほか、マニラ麻、亜麻、ケナフ、竹、バナナ繊維などの非木材パルプを使用することができる。また、発明者により、オレンジなどの柑橘類から抽出した繊維を使用することも可能であることが、確認されている。
【0021】
木材パルプに関しては、紙の柔らかさを高めるために広葉樹パルプを使用してもよいが、十分な柔らかさを確保できる量のコットンパルプ繊維が導入されるのであれば、紙の強度を確保するために針葉樹パルプを使用するのが望ましい。ただし、針葉樹パルプと広葉樹パルプとを混合して使用してもよい。
また、木材パルプのほかに、皮脂の吸収力を高める機能を有する非木材パルプ(マニラ麻や竹など)を使用するのが望ましい。
【0022】
工程2では、工程1により生成された紙料を抄紙機に投入して、紙を形成する。抄紙機は一般的な構成のもので、抄紙網の上に紙料を広げて水気を切り、ウェットシートを生成する処理部(ワイヤーパート)、ウエットシートを押圧して脱水する処理部(プレスパート)、脱水後のウェットシートを乾燥する処理部(ドライヤーパート)が含まれる。これらの処理部による処理が順に実施されることにより、コットンパルプ繊維を全体にまんべんなく混在させた紙が出来上がる。
【0023】
工程3では、生成された紙の全面に柔軟剤を外添する。工程4では、外添後の紙を乾燥させる。これらの工程3および4は、図2に示すような構成の塗工機により実施される。
【0024】
この塗工機には、液状の柔軟剤が充填されたトレー10、ピックアップロール11、バックアップロール12、3個の熱ロール21,22,23、エンボスロール30、および複数のガイドロール40が含まれる。なお、熱ロールの数は3個に限定されるものではない。
【0025】
ピックアップロール11は、下半分がトレー10内の柔軟剤に浸された状態で回転しており、その上方にバックアップロール12が配備される。処理対象の紙シートSは、これらのロール11,12の間に導かれ、柔軟剤が付着したピックアップロール12の表面に接触する。これにより紙シートSの表面に柔軟剤が塗布される。
【0026】
柔軟剤としては、本実施例では、セラミドとソルビトールFとを一対一の割合で混合したものを使用するが、これに限らず、多価アルコール、ポリエチレングリコールなど、柔軟性を高める機能を有する他の薬品を使用することもできる。
【0027】
各熱ロール21,22,23には蒸気が供給され、その供給量によって80度から140度までの範囲で温度を調整することができる。第1の熱ロール21はエンボスロール30に対向配備され、これらのロール21,30の間に柔軟剤塗布後の紙シートSが導かれる。エンボスロール30は図示しない移動機構により紙シートSに押し付けられ、これにより紙シートSの表面にエンボス加工が施される。エンボス加工後の紙シートSは、第2および第3の熱ロール22,23を順に通過し、その間にシートSの撓みなどが矯正されると共に、シートS内の水分が蒸発する。処理後の紙シートSは、図示しない巻き取り機構により巻き取られる。図2中の100は、紙シートSの巻き取りにより形成された紙ロールである。
【0028】
上記の工程3において塗布された柔軟剤は、紙シートSのパルプ繊維に染み込む。工程4により紙シートの水分が蒸発しても、柔軟剤の成分はパルプ繊維にとどまるので、パルプ繊維は工程3を実施する前よりも柔らかくなる。特にコットンパルプ繊維には柔軟剤が染み込みやすいので、コットンパルプ繊維はより一層柔らかくなり、あぶらとり紙全体の柔らかさの度合いも高められる。
【0029】
なお、図2の例では、工程4に紙シートSのエンボス加工が含まれているが、これは必須の処理ではない。しかし、エンボス加工を実施することによって、完成体の紙の表面が肌の凹凸になじみやすくなり、毛穴への付着力が高められ、皮脂の吸収力や肌触りを向上することができる。
【0030】
また工程4では、必ずしも紙シートを完全に乾燥させる必要はなく、熱ロールの数や温度を調整することによって、若干の水分を含む状態で仕上げるようにしてもよい。
【0031】
図1に参照を戻す。最後の工程5では、工程3および工程4を終えた紙シートSを、裁断機により所要のサイズに裁断する。これによりあぶらとり紙が完成する。
【0032】
つぎに、上記の製造方法を適用したあぶらとり紙の具体例をその試験の結果と共に説明する。
この実施例では、以下の材料を用いて工程1を実施することにより紙料を生産した。
<パルプ材料>
マニラ麻 41.0質量%
針葉樹パルプ 29.0質量%
コットンパルプ 30.0質量%
<添加物>
マイクロタルク 10.0質量%
染料 0.23質量%
(いずれもパルプ材料に対する比率である。)
【0033】
なお、コットンパルプ繊維に関して、この実施例では、化粧用のコットンパフを生産する現場で通常は廃棄される短繊維の切れ端を集め、これらをさらに細かく粉砕したものを叩解した。
【0034】
さらに、生産された紙料に対して工程2を実施することにより紙を生産し、この紙に対して工程3,4,5を順に実施した。なお、工程3では、柔軟剤として、グリセリンおよびソルビトールFを1:1の比率で混合し、さらにユズセラミドBを微少量添加したものを使用した。
【0035】
上記の方法により製作したあぶらとり紙(以下、「柔軟剤添加サンプル」という。)のほか、材料は上記と同様であるが工程3,4を実施せずに製作したあぶらとり紙(以下、「柔軟剤無添加サンプル」という。)を対象に、各種の実験を実施した。その実験結果をまとめたものを、表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
上記のとおり、坪量、厚さ、密度、引っ張り強さ、湿潤引っ張り強さに関しては、それぞれJIS準拠の試験を実施した。
また、柔らかさに関しては、熊谷理器工業株式会社製のハンドルオメーターを用いて、「衛生用薄葉紙の柔らかさ試験方法(J TAPPI No.34)」に基づく試験を実施した。この試験は、6.35mm幅の隙間を空けた受け板の上に100mm四方にカットされたサンプルをセットし、サンプルを隙間に押し込む際にかかる抵抗力を計測するもので、試験結果を表す数値が小さいほど柔らかさの度合いが高いことが示される。
【0038】
表1には示していないが、発明者が開発した別製品(オレンジの絞りかすから抽出した繊維を主原料とするもので、コットンパルプ繊維は含まれず、柔軟剤も塗布されていない。)で、坪量21.5g/m,厚み27.2μmのサンプルについて、同様の柔らかさ試験を実施したところ、縦方向の数値が209mN、横方向の数値が55mNという結果を得た。この別製品は、表1に示す柔軟剤無添加サンプルとは坪量や厚みが異なるが、その違いを考慮しても、柔軟剤無添加サンプルの方が柔らかさの度合いが高いと言える。この違いは、柔軟剤無添加サンプルにはコットンパルプ繊維が全体にまんべんなく混在していることに起因すると思われる。
【0039】
本実施例の柔軟剤添加サンプルは、強度を確保するために、柔軟剤無添加サンプルより厚く形成されている。しかしながら、表1の柔らかさ試験の結果に示すとおり、柔らかさの度合いは、縦、横のいずれの方向でも柔軟剤添加サンプルの方が高くなった。一般に、紙の厚みが増すほど柔らかさの度合いは低下することを参酌すると、厚手の柔軟剤添加サンプルの方が薄手の柔軟剤無添加サンプルより柔らかいという結果が得られたのは、各パルプ繊維、特にコットンパルプ繊維への柔軟剤の作用に依るところが大きいと思われる。
【0040】
ちなみに、上述した別製品に対し、柔軟剤を外添する工程および乾燥工程を実施して、坪量20.3g/m,厚み37.2μmのサンプルを生成し、同様の柔らかさ試験を行ったところ、縦方向の数値は158mN、横方向の数値は41mNであった。当該サンプルと上記の柔軟剤添加サンプルとでは厚みや坪量の値が異なるが、その差違を考慮しても、コットンパルプ繊維を使用した柔軟剤添加サンプルの方が、コットンパルプ繊維を含まずに柔軟剤を外添したものよりも柔らかさの度合いが高いと言える。
【0041】
上記のとおり、本実施例による柔軟剤添加サンプルは、当該サンプルと同じ材料で柔軟剤が外添されなかったサンプルやコットンパルプ繊維を含まない材料により生成されて柔軟剤が外添されたサンプルよりも柔らかくなることが判明した。また、引っ張り強さや湿潤引っ張り強さの試験結果によれば、柔軟剤添加サンプルでは柔軟剤無添加サンプルより強度が低下しているが、特許文献3に開示されているJIS P−8113準拠の試験結果よりも強い強度が得られていることが判明した。よって、柔軟剤添加サンプルでも、あぶらとり紙として使用するための強度は十分に確保されているものと思われる。
【符号の説明】
【0042】
S 紙シート
10 柔軟剤のトレー
11 ピックアップロール
12 バックアップロール
21,22,23 熱ロール
100 紙ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コットンパルプ繊維とその他のパルプ繊維とがまんべんなく混合されて形成されると共に、各パルプ繊維に柔軟剤を浸透させて成る、あぶらとり紙。
【請求項2】
紙全体に対するコットンパルプ繊維の質量比を約30%とする請求項1に記載されたあぶらとり紙。
【請求項3】
コットンパルプ繊維とその他のパルプ繊維とを叩解して各繊維がまんべんなく混合された紙料を生成する工程と、生成された紙料を抄紙する工程と、抄紙により生成された紙に柔軟剤を外添することにより各パルプ繊維に柔軟剤を浸透させる工程と、外添後の紙の全面に熱ロールを当接させることにより紙の水分を蒸発させる工程とを、実行することを特徴とするあぶらとり紙の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−152349(P2012−152349A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13376(P2011−13376)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(504116065)株式会社 吉井商店 (2)
【Fターム(参考)】