説明

かしめ固定方式の支持ピン及びこれを取り付けたフラットディスプレイパネル用バックプレート

【課題】板状のワークにかしめ固定される支持ピン(スタッドピン)において、取り付け強度を向上しつつ、かしめ工程でバリが発生することを防止する。
【手段】支持ピン1は、ワークSの穴S1に嵌まる嵌入部2と、嵌入部2の一端に設けたフランジ部3と、嵌入部2の他端に設けた突出軸5とを備えており、嵌入部2の端面箇所に、環状凹所6を形成することによって断面三角形状のかしめ部4が形成されている。嵌入部2の軸方向の長さL1はワークSの板厚寸法T1よりも長くなっている。ダイ7とパンチ8を使用したかしめ工程において、かしめ部4の先端が当初からワークSから露出していることにより、かしめ部4の一部が外向きに拡がるように変形することの方向性が付与され、これにより、かしめ部4の一部がバリ化することを防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、主として板材同士を略平行な姿勢に保持することに使用されるかしめ固定方式の支持ピン(スタッドピン)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、画像を表示するディスプレイとして、ブラウン管方式に代わってプラズマディスプレイパネルや液晶ディスプレイパネルが主流になりつつあり、また、有機EL方式等の他の方式のフラットディスプレイパネルの実用化も近づいている。これらフラットディスプレイパネルの特長の一つは大型化が容易なことであり、テレビ受像機はフラットディスプレイパネルの出現によって大型化が著しく進んでいる。
【0003】
このディスプレイパネルはその種類を問わず表示部を支持する部材が必要であり、小型のディスプレイパネルの場合は、例えば特許文献1に開示されているように樹脂製のハウジングを支持部材としているが、ディスプレイパネルがある程度以上に大型化すると、樹脂製のハウジングのみでは強度や剛性を確保し難くなる。そこで、図7(A)に示すように、カバーで囲われた内部又は背面箇所に鋼板やアルミ板のような金属板からなるバックプレヒト(バックプレート)Sを配置し、このバックプレートSによってディスプレイパネルPとしての強度・剛性を確保することが行われている。
【0004】
そして、図7(B)に示すように、バックプレートSに多数の金属製支持ピン20を突設し、この支持ピン20を使用して回路基板Pをかしめ付け等の方法でバックプレートSに取り付けることが行われている。
【0005】
そして、このバックプレートSに取付け得る支持ピン20の形態として、特許文献2,3に記載されているように、軸の一端部にフランジ部を形成すると共に、軸のうちフランジ部に近接した付け根箇所に環状溝を形成したものがあり、フランジ部を花びら形のような非円形に形成して、フランジ部をワークの肉厚部内にめり込ませると共に、ワークの内周部をピンの環状溝に入り込ませるようにしたものがある。更に、他の従来技術として特許文献4,5も存在している。
【特許文献1】特開平11−338371号公報
【特許文献2】特開2004−316784号公報
【特許文献3】特開2003−322128号公報
【特許文献4】特開平7−269537号公報
【特許文献5】特開2004−197762号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
支持ピンは一般に線材を材料として製造されるが、特許文献2,3,4の支持ピンを製造するに際しては、フランジの形成はヘッダーを使用して加工することになる一方、環状溝はローリング又は切削によって形成せねばならず、このため、加工工数が増えてコストが嵩むという問題があった。
【0007】
また、支持ピンをバックプレートSに取り付けるにおいては、支持ピンの突出部を筒状のダイ(治具)に嵌めた状態でフランジ部をパンチで強圧することになるが、いずれの文献の支持ピンも、ダイの内周と支持ピンの突出部との間には若干の隙間が存在することから、取付け工程においてバックプレート又は支持ピンの縁部がバリ化して隙間に入り込んで、ダイから支持ピンが抜け難くなることがあった。
【0008】
本願発明は、このような現状を改善することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決すべく、本願発明者は試作と実験を繰り返し、請求項1,2の構成に至った。請求項1,2の発明の支持ピンは、共通した構成として、ワークに空けられた穴に嵌まる嵌入部と、前記嵌入部に一体に連続していると共にワークの一方の面に重なるフランジ部と、前記嵌入部のうちフランジ部と反対側の部位に一体に形成されたかしめ部と、前記嵌入部のうちフランジと反対側の部位に一体に設けた突出軸とを備えており、前記突出軸は嵌入部よりも小径であり、軸方向の挟圧により、前記フランジがワークにめり込むと共に前記かしめ部が潰れ変形してワークに固定されるようになっている。
【0010】
そして、請求項1の発明では、構成の特徴として、前記嵌入部の端面に、環状凹所を、底部よりも開口面の箇所の溝幅が大きい状態に形成することにより、嵌入部の端面箇所に、半径方向の肉厚が付け根よりも先端側において薄くなっている前記かしめ部を形成しており、かつ、前記フランジの下面からかしめ部の先端までの寸法をワークの厚さ寸法よりも大きい寸法に設定している。
【0011】
他方、請求項2の発明は、構成の特徴として、前記嵌入部の端面に、環状凹所を、底部よりも開口面の箇所の溝幅が大きい状態に形成することにより、嵌入部の端面箇所に、半径方向の肉厚が付け根よりも先端側において薄くなっている前記かしめ部を形成しており、かつ、前記環状凹所は、平坦状の底面を有する略台形状に形成されており、更に、フランジの頂面から凹所の底面までの寸法をワークの厚さ寸法よりも小さい寸法に設定している。
【0012】
本願発明は、請求項1又は2に記載した支持ピンが取り付けられているフラットディスプレイ用バックプレートも含んでいる。
【発明の効果】
【0013】
本願発明の支持ピンの取り付け方法は従来品と同様であり、突出軸が嵌まる筒状のダイでワークを支持した状態でフランジ部をパンチで強圧することにより、フランジ部と嵌入部とかしめ部とに軸方向の力を作用させて、かしめ部を変形させると共に、フランジをワークにめり込ませる。
【0014】
そして、請求項1のように構成すると、嵌入部をワークの穴に挿入してフランジをワークの一方の面に重ねた状態で、かしめ部の縁部がワークの他方の面から露出する。このため、取り付け工程においてかしめ部には当初から押圧力が作用しており、これにより、かしめ部は、その一部が半径外側に拡がると共に凹所を埋めるような状態に潰れ変形して、バリ化が発生することを防止できる。
【0015】
他方、請求項2のように構成すると、凹所に平坦な谷部が存在することにより、つぶれ変形したかしめ部を凹所にしっかりと吸収することができ、これまたかしめ部にバリが発生することを防止できる。
【0016】
このように、本願発明の支持ピンは、ワークへの取り付け工程においてバリの発生を防止できることにより、取り付け後におけるダイからの引き抜きを支障なく行うことができる。従って、ワークへの支持ピンの取り付けを能率よく行えると共に、支持ピン付きワーク(製品)の不良率を著しく低下させることができる。
【0017】
また、ディスプレイパネル用バックプレートにバリが残っていると、バリが離脱して製品に悪影響(例えば回路基板に落下してショートするという悪影響)を与えるといった虞があるが、本願発明の支持ピンを取り付けてバックプレートを構成すると、支持ピンの取り付けに起因したバリの発生はないため、最終製品(ディスプレイパネル)の品質向上にも貢献できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は大画面のディスプレイパネル用バックプレートに取り付ける支持ピンに適用している(勿論、他の種々のワークに使用できる)。
【0019】
(1).構造の説明
支持ピン1の構造は図1及び図2に示されている。図1のうち(A)は支持ピン1の一部破断正面図、図1(B)は図1(A)の底面図、(C)は要部及びバックプレート(ワーク)Sの一部破断拡大図、図2は支持ピン1の取り付け工程を示す図である。
【0020】
支持ピン1はアルミや鋼等の金属丸棒を素材として製造されており、バックプレートSの穴S1に嵌まる嵌入部2と、嵌入部2に一体に連続していると共にバックプレートSの一方の面に重なる多数のフランジ部3と、嵌入部2のうちフランジ部3と反対側の部位に一体に形成されたかしめ部4と、嵌入部2よりも小径の突出軸5とを備えており、各フランジ3は軸方向から見て略半円状に形成されていて群全体として花びら形に形成されているが、三角形や台形等の形状でもよい。
【0021】
かしめ部4は、嵌入部4の端面に環状凹所6を形成することによって形成されている。この場合、環状凹所6は、その内周面は突出軸5の外周面と一致し、かつ、底面6aは平坦面とし、更に、溝幅はフランジ3から遠ざかるほど広がるように設定している。換言すると、環状凹所6は断面略台形状になっている。
【0022】
従って、かしめ部4の半径方向の肉厚tは、フランジ部3に近い付け根部において最も大きくて、フランジ部3から遠い先端側において最も薄くなるように徐々に変化している。直截に述べると、本実施形態では、かしめ部4は断面三角形状(直角三角形状)に形成されている(先端に平坦部を有する断面台形状であってもよい)。なお、環状凹所6の内周径と突出軸5の外径とは多少相違していてもよい。また、かしめ部4の内面の断面形状のプロフィールは湾曲していたり、階段状に変化していたりしても良い。
【0023】
図2(B)に示すように、嵌入部2の長さ寸法L1はバックプレートSの板厚寸法T1よりも若干の寸法E1だけ大きい寸法になっている。寸法E1の具体的な数値としては、0.1〜0.5mm程度でよい。
【0024】
図1(C)に示すように、フランジ3の頂面から環状凹所6の底面までの寸法L2はバックプレートSの板厚Tよりも若干の寸法E2だけ小さい寸法になっているが、L2=Tでも良い。フランジ部3の厚さ寸法はT2、かしめ部4の軸方向の突出寸法はL3で表示している。
【0025】
嵌入部2の長さ寸法L1とフランジ部3の厚さ寸法さ寸法T2とを足した寸法は、バックプレートSの板厚寸法T1よりも大きい。従って、仮にフランジ3のみがバックプレートSに完全にめり込んでいる状態を想定すると、かしめ部4は部分的にバックプレートSからはみ出している(従って、かしめ部4はつぶれ変形するかしめ代が確実に確保されている)。
【0026】
支持ピン1は切削加工によって製造することも可能であるが、製造能率の点からは、ヘッダー又はダイスを用いたフォーミング加工で製造するのが好適である。また、支持ピン1に回路基板等の部材を取り付けるための手段として、突出軸5にはその端面に開口した雌ねじ穴5aを形成している(従って、基板は突出軸5の端面にビスで固定される)。
【0027】
支持ピン1をバックプレートSに取り付ける方法は従来と同様であり、図2に示すように、突出軸5が嵌まる筒状のダイ7でバックプレートSを支持し、その状態でフランジ部5をパンチ8で強圧することにより、フランジ部5をバックプレートSの肉厚部内にめり込ませると共に、かしめ部4を潰し変形させる。なお、ダイ7はベースプレート9に固定されている。なお、図2以下の図ではフランジ部3は簡略して表示している。
【0028】
図3ではかしめ工程において各部が変形する様子を示している。すなわち、支持ピン1をセットした状態でかしめ部4の先端部がバックプレートSから部分的に突出(露出)しているため、かしめ工程(挟圧工程)の初期において、図3(A)のようにかしめ部4の先端部が潰れるが、かしめ部4は図において下端が幅狭の断面略三角形であるため、かしめ部4は、その先端部が半径外側に逃げるような状態になる。つまり、かしめ部4は、その一部が半径外側に逃げるように、潰れ変形の方向性が付与される。
【0029】
そして、更に挟圧されると、フランジ部3がバックプレートSにめり込みつつ、かしめ部4は環状凹所6を塞ぐと共にバックプレートSにめり込むように潰れ変形していき、最終的には図5に示すように、フランジ部3とかしめ部4とが完全にめり込む(フランジ部3及びかしめ部4とも、例えば0.1mm程度の厚さで僅かながら突出していることがあるが、勿論、このような程度は許容範囲内である))。
【0030】
以上のように、本願発明では、かしめ部4の一部が半径外側に広がり変形することが確実ならしめられることと、かしめ部4が環状凹所6に吸収されてダイ7の内径部に逃げないこととにより、バリの発生を確実に防止して、図5(A)に示すように取り付け後において支持ピン1をダイ7から確実に抜き取ることができるのである。なお、図4に一点鎖線て示すように、ダイ7の開口縁に面取り部7aを形成しておいても良い。
【0031】
ところで、ダイ7の内周面と突出軸5との間にはわずかの寸法ながら隙間10があるため、仮にかしめ部4の端面がフラットであると、図5(B)の比較例に示すように、かしめ部4の一部が隙間10に入り込んでバリ4aとなり、このためダイ7が抜けなくなったり、ディスプレイパネルD等に製品化した後にバリ4aが剥がれ落ちて悪影響を与える虞がある。
【0032】
また、特許文献4,5のものをバックプレートSに適用すると、図6の比較例に示すように、支持ピン1′をバックプレートSにセットした状態でかしめ部4がバックプレートSの穴S1に入り込んでいるが、この構成では、挟圧工程において、バックプレートSの内径部が環状凹所6に向けて逃げ変形することにより、かしめ部4は半径外向きには拡がらずに半径内向きに逃げるように変形するのみであり(かしめ工程では、かしめ部やバックプレートSの肉は逃げ場所を求めて環状凹所6に逃げる傾向を呈する)、このため、かしめ部4の一部がバリ4aとなって、ダイ7と突出軸5との間の隙間10に入り込む現象が多発すると解される。
【0033】
更に述べると、特許文献5,6は、かしめ部4を断面三角形に形成していることが、却ってバリ化を助長していると言える。これに対して実施形態では、かしめ部4をバックプレートSの裏面から突出させるたことと、環状凹所6に平坦部6aを形成してかしめ部4を突出軸5からできるだけ離したこととの相乗効果により、バリの発生を確実に防止して取り付け後の支持ピン1の抜き取りを容易ならしめることができると共に、かしめ部4がフランジ状に潰れることで取り付け強度も格段にアップできるのである。
【0034】
なお、支持ピン1を使用してバックプレートSに回路基板Pを取り付ける方法として、ビス止めすることには限らず、突出軸5の先端部に雄ねじを形成しておいて、これにねじ込まれるナットで固定する方法や、突出軸5の先端部をかしめ広げて固定する方法など、各種の方法を採用できる。なお、支持ピン1は単なるスペーサとして機能させることも可能である。
【0035】
(2).その他
本願発明は、上記の実施形態の他にも様々に具体化することができる。例えば突出軸は2段階や3段階で外径が変わるように形成することも可能である。フランジ部は必ずしも花びら形に形成する必要はなく、単なる円形に形成するなど、用途によって形状を選択したら良い。また、フランジ部は皿ビスの頭のような形状など、様々の断面形状に形成することができる。
【0036】
また、環状凹所の断面形状は台形状には限らず、その底面が緩く湾曲した状態であっても良い。請求項1では環状凹所は三角形状であっても良く、他方、請求項2では、嵌入部の長さはワークの板厚と略同じであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】支持ピンの形態を示す図である。
【図2】支持ピンの取付け工程を示す図である。
【図3】かしめ工程の作用を示す図である。
【図4】取り付け後の一部破断正面図である。
【図5】(A)は抜き取り工程を示す図、(B)は比較例を示す図である。
【図6】他の比較例を示す図である。
【図7】ディスプレイパネルの概略部である。
【符号の説明】
【0038】
1 支持ピン
2 嵌入部
3 フランジ部
4 かしめ部
5 突出軸
6 環状凹所
6a 平坦状の底面
7 ダイ
8 パンチ
S ワークの一例としてのディスプレイパネル用バックプレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークに空けられた穴に嵌まる嵌入部と、前記嵌入部に一体に連続していると共にワークの一方の面に重なるフランジ部と、前記嵌入部のうちフランジ部と反対側の部位に一体に形成されたかしめ部と、前記嵌入部のうちフランジと反対側の部位に一体に設けた突出軸とを備えており、前記突出軸は嵌入部よりも小径であり、軸方向の挟圧により、前記フランジがワークにめり込むと共に前記かしめ部が潰れ変形してワークに固定されるようになっている支持ピンであって、
前記嵌入部の端面に、環状凹所を、底部よりも開口面の箇所の溝幅が大きい状態に形成することにより、嵌入部の端面箇所に、半径方向の肉厚が付け根よりも先端側において薄くなっている前記かしめ部を形成しており、かつ、前記フランジの下面からかしめ部の先端までの寸法をワークの厚さ寸法よりも大きい寸法に設定している、
かしめ固定方式の支持ピン。
【請求項2】
ワークに空けられた穴に嵌まる嵌入部と、前記嵌入部に一体に連続していると共にワークの一方の面に重なるフランジ部と、前記嵌入部のうちフランジ部と反対側の部位に一体に形成されたかしめ部と、前記嵌入部のうちフランジと反対側の部位に一体に設けた突出軸とを備えており、前記突出軸は嵌入部よりも小径であり、軸方向の挟圧により、前記フランジがワークにめり込むと共に前記かしめ部が潰れ変形してワークに固定されるようになっている支持ピンであって、
前記嵌入部の端面に、環状凹所を、底部よりも開口面の箇所の溝幅が大きい状態に形成することにより、嵌入部の端面箇所に、半径方向の肉厚が付け根よりも先端側において薄くなっている前記かしめ部を形成しており、かつ、前記環状凹所は、平坦状の底面を有する略台形状に形成されており、更に、フランジの頂面から凹所の底面までの寸法をワークの厚さ寸法よりも小さい寸法に設定している、
かしめ固定方式の支持ピン。
【請求項3】
請求項1又は2に記載した支持ピンを取り付けている、
フラットディスプレイパネル用のバックプレート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−16986(P2007−16986A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−314513(P2005−314513)
【出願日】平成17年10月28日(2005.10.28)
【特許番号】特許第3834054号(P3834054)
【特許公報発行日】平成18年10月18日(2006.10.18)
【出願人】(599036565)
【Fターム(参考)】