説明

かぶれ防止皮膚用粘着シ―ト

【課題】 かぶれ起こす性質の抑制された皮膚用粘着シートを提供すること。
【解決手段】 皮膚用粘着シートであって、粘着剤表面にナトリウムイオン源、炭酸水素イオン源、塩素イオン源及びマグネシウムイオン源、及び/又は銀イオン源を均一に担持させてあることを特徴とする、かぶれ防止皮膚用粘着シート。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、敏感な皮膚に長時間貼付した場合でも皮膚がかぶれることの極めて少ない粘着シートに関する。
【0002】
【従来の技術】種々のタイプの絆創膏、パップ剤など、粘着剤層によって皮膚面に直接貼付して用いる様々な製品がある。それらの製品(以下、一括して「皮膚用粘着シート」という。)を皮膚に粘着固定するための粘着剤としては、従来より種々のものが知られており、主なものとして、天然ゴム系粘着剤、及びガラス転移点(Tg)の低い合成樹脂系のものがある。皮膚が敏感な者の場合、貼付シートを長時間貼付するとかぶれが生じ易いという問題があり、近年は、刺激性の比較的低い粘着剤としてアクリル系粘着剤の使用が広がりつつある。
【0003】しかしながら、アクリル系粘着剤等の比較的低刺激性とされる粘着剤でも、皮膚面に長時間適用されるとやはりかぶれを生じる場合の少なくないことが知られている。とりわけ、アトピー体質者その他、刺激に対して特に敏感な皮膚の場合には、皮膚用粘着シートを比較的短期間貼付しただけでもかぶれを起こし易く、その結果痒みや発赤を生じて、同一部位への当該製品の連続適用が困難になることが多い。例えば身体表面の、いわゆる「つぼ」等に何らかの物理的作用(磁力、化学的刺激など)を及ぼす目的で用いられる皮膚用粘着シートの場合、貼付部位は必然的に限定されており、他の部位に製品を貼付したのでは意味をなさないこととなるため、同一部位に持続的に又は反復的に製品を貼付できるよう、かぶれを起こす性質を極力抑える改良が粘着剤について求められている。また経皮吸収により薬物を全身的に作用させることを目的とした、経皮吸収製剤、例えばニトログリセリンパッチ等の貼付剤についても、長期間ないし無期限の薬剤使用が必要なため、貼付剤によってかぶれを生じたのでは、新たな貼付部位の選択が次第に困難となり、治療に支障を来たすこととなる。従って、この場合も、かぶれを起こす性質を極力抑える改良がなされた粘着剤の使用が必要である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】このような状況を背景として、本発明は、粘着剤によるかぶれを有効に防止することを目的とし、より具体的には、かぶれ起こす性質の抑制された皮膚用粘着シートを提供することを目的とする。
【0005】本発明者は、皮膚用粘着シートによる皮膚のかぶれを防止する方法につき検討していたところ、特定のイオン源を粘着剤表面に担持させることにより、皮膚のかぶれに対し優れた防止効果が得られることを見出した。すなわち、粘着剤表面に適度の濃度のナトリウムイオン源、炭酸水素イオン源、塩素イオン源及びマグネシウムイオン源、及び/又は銀イオン源を担持させることにより、それらを担持させない粘着剤に比して皮膚のかぶれが防止ないし顕著に抑制されることを見出し、更に検討を加えて本発明を完成させた。
【0006】
【課題を解決するための手段】すなわち本発明は、皮膚用粘着シートであって、粘着剤表面にナトリウムイオン源、炭酸水素イオン源、塩素イオン源及びマグネシウムイオン源、及び/又は銀イオン源を均一に担持させてあることを特徴とする、かぶれ防止皮膚用粘着シートを提供する。
【0007】上記ナトリウムイオン源、炭酸水素イオン源、塩素イオン源及びマグネシウムイオン源としては、簡便には塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム及び塩化マグネシウムの形で粘着剤表面に担持させておけばよく、銀イオン源としては銀微粒子(銀のみからなる微粒子又は担体微粒子に銀を担持させた微粒子)を粘着剤表面に担持させておけばよい。
【0008】従って本発明は、上記かぶれ防止皮膚用粘着シートであって、ナトリウムイオン源、炭酸水素イオン源、塩素イオン源及びマグネシウムイオン源が、塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム及び塩化マグネシウムの混合物よりなり、銀イオン源が銀微粒子よりなることを特徴とするシートをも提供する。
【0009】また、厳密な境界ではないものの、粘着シート表面の塩化ナトリウムの好ましい分布量範囲は200〜1200μg/cm2であり、更に好ましくは400〜800μg/cm2である。炭酸水素ナトリウムについては、好ましい分布量範囲は200〜1200μg/cm2であり、更に好ましくは400〜800μg/cm2である。また、塩化マグネシウムについては、好ましい分布量範囲は15〜120μg/cm2であり、更に好ましくは30〜60μg/cm2である。
【0010】従って本発明は、塩化ナトリウムが200〜1200μg/cm2、炭酸水素ナトリウムが200〜1200μg/cm2、及び塩化マグネシウムが15〜120μg/cm2の範囲で該粘着剤表面に担持されていることを特徴とするかぶれ防止皮膚用粘着シートをも提供する。
【0011】また、粘着剤表面に担持された銀微粒子の分布量範囲は、厳密な境界ではないが、銀自体の量として1〜350μg/cm2であることが好ましく、5〜200μg/cm2であることが更に好ましい。
【0012】従って本発明はまた、上記粘着シートであって、粘着剤表面における銀微粒子の分布量が、銀自体の量として、1〜350μg/cm2であることを特徴とするかぶれ防止皮膚用粘着シートをも提供する。
【0013】銀微粒子は、放出された銀イオンが皮膚表面にできるだけ均一に分布するよう、粘着剤表面に細かい粒子のものを均一に担持すればよく、そのためには平均粒子径は、厳密な境界ではないが、5nm〜50μm程度であればよい。
【0014】従って本発明は更に、銀微粒子の平均粒径が5nm〜50μmであるかぶれ防止皮膚用粘着シートをも提供する。
【0015】
【発明の実施の形態】本発明は、ゴム系、アクリル系など種々のタイプの粘着剤による皮膚用粘着シートにおいて実施することができ、何れのタイプでもかぶれの発生を防止又は抑制するのに有効である。粘着剤表面にナトリウムイオン源、炭酸水素イオン源、塩素イオン源及びマグネシウムイオン源、及び/又は銀イオン源を均一に担持させる方法は、特に限定されない。最初にこれらイオン源を含まない従来の皮膚用粘着シートを慣用の方法で作製し、後からその粘着剤表面に、微細な粉末粒子等の形でこれらのイオン源を粘着させてもよく、又は予めこれらのイオン源を混入した粘着剤を用いることによって、粘着剤表面に(及び粘着剤内部に)これらのイオン源を担持した皮膚用粘着シートを製造してもよい。また、これらイオン源(塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、塩化マグネシウム、銀微粒子)を後から粘着剤表面に粘着させる場合も、これらイオン源として微細な粉末粒子を粘着剤表面に直接接触させて粘着させてもよく、又はこれらイオン源を水などの蒸発可能な媒質の少量に添加して溶解及び/又は分散させ、得られた溶液又は懸濁液を皮膚用粘着シートの粘着剤表面に接触させつつ媒質を蒸発させることによって、各イオン源を粘着剤表面に析出・粘着させてもよい。これに関しナトリウムイオン、炭酸水素イオン、塩素イオン及びマグネシウムイオン全てを好適なバランスで含んだ水溶液として、和歌山県橋本市神野々字谷中垣内898番地より産出の温泉水が、特に好ましい例として挙げられる。
【0016】銀微粒子としては、銀のみからなる微粒子でもよく、又は、適宜の担体微粒子の表面若しくは外部と通じた細孔等に銀をコーティングその他により担持させた微粒子でもよい。微細な粒子であればそれ以外特に限定はなく、市販の銀粉末を用いても、市販の銀コロイドを用いてもよい。銀粉末の一例としては、純銀粉末(粒径28μm:中塚金属箔粉工業(株)製)が、銀コロイドの一例としては「アトミーボール(ATOMY BALL)」(担体微粒子に銀がコーティングされている:粒径10nm:触媒化成工業株式会社製)が挙げられる。
【0017】なお、各微粒子の表面積は粒子径の2乗に比例し、対してその体積は粒子径の3乗に比例するから、単位体積又は単位重量の粉末を構成する微粒子の総表面積は粒子径に反比例する。銀微粒子からの銀イオンの発生は使用した微粒子の総面積に比例すると考えられるから、粒子径の小さい微粒子を用いれば、同じ総面積従って同じ効果を得るに必要な微粒子の使用量も、粒子径に比例して少なくすることができる。
【0018】かぶれの防止には、ナトリウムイオン源、炭酸水素イオン源、塩素イオン源及びマグネシウムイオン源の一部ではなく全てが粘着剤表面に担持されていることが特に好ましく、それによって、これらのイオン源の一部を用いるよりも優れたかぶれ防止作用が発揮できる。また銀イオン源である銀微粒子は、ナトリウムイオン源、炭酸水素イオン源、塩素イオン源及びマグネシウムイオン源と一緒に粘着剤表面に担持されていることが好ましいが、銀イオン源のみでもかぶれ防止作用は発揮できる。これらのイオン源がかぶれ防止作用を表わすメカニズムについては現在のところ明らかでない。なお、銀イオン源を含む場合は、貼付面における銀イオンによる抗菌効果も期待でき、創傷、擦傷等への貼付には特に適している。
【0019】
【実施例】以下、代表的な実施例及びその試験結果を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明が当該実施例に限定されることは意図しない。
【0020】<実施例1> 塩類担持粘着シート内径(直径)8.7cmのシャーレに温泉水(和歌山県橋本市神野々字谷中垣内898番地より産出)2mLを入れ、水面に天然ゴム系の粘着剤を備えた、多数の通気孔を有する直径23mmの円形の絆創膏「エポレック」(TDK株式会社製)2枚を、粘着面を下に向けて浮かべた。水面に熱風を約10分間吹き付けて水分を蒸発、乾燥させることによりシャーレ表面及びシール粘着面に温泉水固形成分を一様に析出させた。温泉水固形成分の付着した粘着シートをシャーレから取り出して本発明のかぶれ防止皮膚用粘着シートとした。用いた温泉水に含有される主要成分は次の通りであり、水分の蒸発により、不揮発性の主成分として塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム及び塩化マグネシウムがシートの粘着面に析出し付着していることは明らかである。
【0021】(温泉水主成分)
ナトリウムイオン・・・・・475mEq/L炭酸水素イオン・・・・・・201mEq/L塩素イオン・・・・・・・・324mEq/Lマグネシウムイオン・・・・・28mEq/L溶存二酸化炭素・・・・・・・68mmol/L
【0022】当該温泉水についての上記イオンの含有量より、含有される塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム及び塩化マグネシウムのおよその濃度を計算すると、次の通りである。
塩化ナトリウム・・・・・・・16.9g/L炭酸水素ナトリウム・・・・・16.0g/L塩化マグネシウム・・・・・・・1.3g/L
【0023】これらの値(g/L)とシャーレ内側の底面積((8.7/2)2×3.14=59.4cm2)とから、シールの粘着面(及びシャーレ表面)に析出した塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、塩化マグネシウムの量を計算すると、次の通りである。
塩化ナトリウム・・・・・・・・570μg/cm2炭酸水素ナトリウム・・・・・・539μg/cm2塩化マグネシウム・・・・・・・・44μg/cm2
【0024】<実施例2> 銀微粒子担持粘着シート内径(直径)8.7cmのシャーレに水道水2mLを入れ、水面に純銀粉末(粒径28μm:中塚金属箔粉工業株式会社製)10mgを添加した。銀微粒子を水に一様に分散させ、水面に天然ゴム系の粘着剤を備えた、多数の通気孔を有する直径23mmの円形の絆創膏「エポレック」(TDK株式会社製)2枚を、粘着面を下に向けて浮かべた。水面に熱風を約10分間吹き付けて水分を蒸発、乾燥させることによりシャーレ表面及びシール粘着面に銀微粒子を一様に付着させた。銀微粒子の付着した粘着シートをシャーレから取り出して本発明のかぶれ防止皮膚用粘着シートとした。使用した銀微粒子の量とシャーレ内側の底面積(59.4cm2)とから、シールの粘着面(及びシャーレ表面)に付着した銀微粒子の量を計算すると、168μg/ cm2である。
【0025】<実施例3> 塩類及び銀微粒子担持粘着シート内径(直径)8.7cmのシャーレに温泉水(和歌山県橋本市神野々字谷中垣内898番地より産出)2mLを入れ、水面に純銀粉末(粒径28μm:中塚金属箔粉工業株式会社製)10mgを添加した。銀微粒子を水に一様に分散させ、水面に天然ゴム系の粘着剤を備えた、多数の通気孔を有する直径23mmの円形の絆創膏「エポレック」(TDK株式会社製)2枚を、粘着面を下に向けて浮かべた。水面に熱風を約10分間吹き付けて水分を蒸発、乾燥させることにより、シャーレ表面及びシール粘着面に温泉水固形成分及び銀微粒子を一様に付着させた。温泉水固形成分及び銀微粒子の付着した粘着シートをシャーレから取り出して本発明のかぶれ防止皮膚用粘着シートとした。
【0026】<比較例1> 実施例1〜3において用いたのと同じ絆創膏「エポレック」(TDK株式会社製)をそのまま皮膚かぶれ試験の比較対照として用いた。
【0027】<比較例2>内径(直径)8.7cmのシャーレに水道水2mLを入れた。水面に、上記実施例1〜3及び比較例1において用いたのと同じ絆創膏「エポレック」(TDK株式会社製)2枚を、粘着面を下に向けて浮かべた。水面に熱風を約10分間吹き付けて水分を蒸発、乾燥させた後、粘着シートをシャーレから取り出して、皮膚かぶれ試験の比較対照として用いた。
【0028】<皮膚かぶれ試験>粘着シールに対して過敏な男女被験者の腕及び腹部の皮膚を用い、実施例1〜3の方法で作製した粘着シート及び比較例1、2による粘着シートを皮膚にそれぞれ24時間にわたって貼付し、かゆみの有無及び強さを自己評価し、更に、期間の最後に粘着シートを剥がした後の貼付部位の皮膚の発赤等かぶれの有無及び程度を評価した。
【0029】その結果、比較例1及び2の何れも貼付後12時間頃までに強いかゆみを生じ、24時間後の貼付部位の皮膚には発赤等かぶれの状態が明らかに見られた。これに対して、実施例1〜3のいずれの粘着シートでも、かゆみは殆どないし全く感じられず、24時間後の貼付部位の皮膚にも、発赤等かぶれの状態は、比較例1、2に比して僅かしか認められなかった。また実施例1〜3のうちでは、実施例3が最も優れていた。なお、シートの粘着力の強さは、各実施例及び比較例共に同等であり、実施例で行なった処置による粘着力の低下はなかった。
【0030】
【発明の効果】本発明は、かぶれを生じる可能性の少ない皮膚用粘着シートを提供することができ、それにより、従来かぶれのために貼付剤の使用が困難であった患者でも、使用を可能にすることができ、また、かぶれを生じることなく使用期間を延ばすことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】皮膚用粘着シートであって、粘着剤表面にナトリウムイオン源、炭酸水素イオン源、塩素イオン源及びマグネシウムイオン源、及び/又は銀イオン源を均一に担持させてあることを特徴とする、かぶれ防止皮膚用粘着シート。
【請求項2】ナトリウムイオン源、炭酸水素イオン源、塩素イオン源及びマグネシウムイオン源が、塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム及び塩化マグネシウムの混合物よりなり、銀イオン源が銀微粒子よりなることを特徴とする、請求項1のかぶれ防止皮膚用粘着シート。
【請求項3】塩化ナトリウムが200〜1200μg/cm2、炭酸水素ナトリウムが200〜1200μg/cm2、及び塩化マグネシウムが15〜120μg/cm2の分布量で該粘着剤表面に担持されていることを特徴とする、請求項2のかぶれ防止皮膚用粘着シート。
【請求項4】粘着剤表面における銀微粒子の分布量が、銀自体の量として、1〜350μg/cm2であることを特徴とする、請求項2又は3のかぶれ防止皮膚用粘着シート。
【請求項5】銀微粒子の平均粒径が5nm〜50μmである、請求項2ないし4の何れかのかぶれ防止皮膚用粘着シート。

【公開番号】特開2000−201968(P2000−201968A)
【公開日】平成12年7月25日(2000.7.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−8867
【出願日】平成11年1月18日(1999.1.18)
【出願人】(399004762)
【出願人】(399004751)株式会社重岡 (1)
【出願人】(399004773)ユーストーリー株式会社 (1)
【Fターム(参考)】