がん抑制的マイクロRNAを含む腫瘍増殖抑制剤
【課題】腫瘍増殖抑制剤として有効なマイクロRNAを見出し、新たな腫瘍増殖抑制剤および癌治療用医薬組成物を提供することにある。
【解決手段】配列表の配列番号1〜19で示される塩基配列を有するマイクロRNAの少なくとも1種を有効成分として含有する腫瘍増殖抑制剤。配列表の配列番号1〜5で示される塩基配列を有するマイクロRNAの少なくとも1種を有効成分として含有する膵がん増殖抑制剤。配列表の配列番号5〜19で示される塩基配列を有するマイクロRNAの少なくとも1種を有効成分として含有する大腸癌増殖抑制剤。これらの腫瘍増殖抑制剤を含有する癌治療用医薬組成物。
【解決手段】配列表の配列番号1〜19で示される塩基配列を有するマイクロRNAの少なくとも1種を有効成分として含有する腫瘍増殖抑制剤。配列表の配列番号1〜5で示される塩基配列を有するマイクロRNAの少なくとも1種を有効成分として含有する膵がん増殖抑制剤。配列表の配列番号5〜19で示される塩基配列を有するマイクロRNAの少なくとも1種を有効成分として含有する大腸癌増殖抑制剤。これらの腫瘍増殖抑制剤を含有する癌治療用医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がん抑制的マイクロRNAを有効成分として含む腫瘍増殖抑制剤に関する。より詳しくは、膵がん抑制的マイクロRNAまたは大腸がん抑制的マイクロRNAを有効成分として含む腫瘍増殖抑制剤に関する。さらに本発明は、この腫瘍増殖抑制剤を含む癌治療用医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロRNAは約22塩基の蛋白質非翻訳RNA(small non-coding RNA)であり、ヒトには約1000種類存在する事が示唆されている。近年、マイクロRNAは生体内でさまざまな遺伝子の発現抑制を行う分子として注目されている。ゲノム上には各マイクロRNA遺伝子の領域が存在し、RNAポリメラーゼIIによって転写され、約数百塩基のマイクロRNA初期転写産物が形成される。マイクロRNA初期転写産物は核内でDrosha、細胞質内でDicerと呼ばれる2種類のRNase III酵素によってプロセシングされ、成熟マイクロRNAが形成される。成熟マイクロRNAは制御タンパク質複合体(RNA-induced silencing complex, RISC)と協調しつつ、相補的配列をもつ複数のターゲット遺伝子のmRNAと相互作用し、遺伝子の発現を抑制する事が知られている(非特許文献1)。
【0003】
いくつかのマイクロRNAはがんを含めたヒト疾患との関連が示唆されている。特にがんとマイクロRNAの関係に関して、様々な臓器において正常組織とがん組織で多くのマイクロRNAの発現様式が異なる事から、発がん過程へのマイクロRNA発現異常の関与が強く示唆されている(非特許文献2-4)。近年、腫瘍抑制的あるいは発がん促進的マイクロRNAの存在が示唆されている(非特許文献5-7)。腫瘍抑制的マイクロRNAとして、miR-15とmiR-16はアポトーシス抑制因子であるBCL2の発現を抑制する事によってヒト巨核球細胞にアポトーシスを誘導する事が報告されている(非特許文献8)。Let-7は、ヒト肺がんならびに子宮がん細胞株において、がん遺伝子Rasの発現を抑制的に調節する事が知られている(非特許文献9)。また、miR-143とmiR-145はヒト大腸がん組織での発現低下が認められるが、その生物学的意義は未だ不明である(非特許文献10)。一方、発がん促進的マイクロRNAとして、miR-17-92クラスターは転写因子c-Mycと協調して、マウスにB細胞型リンパ腫を誘発させる事が報告されている(非特許文献11)。また、miR-21の発現低下はヒト膠芽腫細胞株にアポトーシスを誘導する事が知られている(非特許文献12)。以上より、腫瘍抑制的マイクロRNAの発現低下あるいは発がん促進的マイクロRNAの発現上昇がヒト発がん過程に関与している可能性が強く示唆されている。
【0004】
miRNAを用いた癌の予後判定方法、癌の遺伝子治療ベクター及び癌治療用医薬組成物も提案されている(特許文献1)。特定の塩基配列を含むDNAから転写されるmiRNA、pre-miRNA及びpri-miRNAからなる群から選択されるいずれか1つを有効成分として含有する癌治療用医薬組成物が記載されている(請求項15)。
【0005】
さらに、本発明者らは、腫瘍抑制的マイクロRNAの探索を目的として、腫瘍抑制遺伝子p53の活性化に伴って発現が誘導されるマイクロRNAの同定を試み、マイクロRNA34a(miR-34a)が、複数の大腸癌細胞に対して増殖抑制効果を示すことを見いだしてその結果を特許出願した(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−192484号公報
【特許文献2】特開2008−239596号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Bartel DP, マイクロRNA:遺伝学的特性、生物学的特性、メカニズムと機能(MicroRNAs: Genomics, Biogenesis, Mechanism, and Function), Cell, 2004年, 116巻, p.281-297
【非特許文献2】Lu J, Getz G, Miska EAら, マイクロRNA発現プロファイルがヒトがん組織を分類する(MicroRNA expression profiles classify human cancers), Nature, 2005年, 435巻, p.834-838
【非特許文献3】Volinia S, Calin GA, Liu CG, Ambs Sら, ヒトがん組織におけるマイクロRNAの発現形式はがん関連遺伝子のターゲットを明らかにする(A microRNA expression signature of human solid tumors defines cancer gene targets), Proc Natl Acad Sci USA, 2006年, 103巻, p.2257-2261
【非特許文献4】Calin GA, Croce CM, ヒトがん組織に特徴的なマイクロRNA(MicroRNA signatures in human cancers), Nature Rev Cancer, 2006年, 6巻, p.857-866
【非特許文献5】Esquela-Kerscher A, Slack FJ, がんマイクロRNA遺伝子−がん組織において役割をもったマイクロRNA(Oncomirs−microRNAs with a role in cancer), Nature Rev Cancer, 2006年, 6巻, p.259-269
【非特許文献6】Kent OA, Mendell JT, がんパズルにおける小さなピース:腫瘍抑制的及び発がん促進的microRNAs(A small piece in the cancer puzzle: microRNAs as tumor suppressors and oncogenes), Oncogene, 2006年, 25巻, p.6188-6196
【非特許文献7】Zhang B, Pan X, Cobb GP, Anderson TA, 発がん促進的及び腫瘍抑制的マイクロRNAs(MicroRNAs as oncogenes and tumor suppressors), Dev Biol, 2007年, 302巻, p.1-12
【非特許文献8】Cimmino A, Calin GA, Fabbri M, Iorio MVら, miR-15とmiR-16はBCL2をターゲットとしてアポトーシスを誘導する(miR-15 and miR-16 induce apoptosis by targeting BCL2), Proc Natl Acad Sci USA, 2005年, 102巻, p.13944-13949
【非特許文献9】Johnson SM, Grosshans H, Shingara J, Byrom Mら, RASはlet-7マイクロRNAファミリーによって調節されている(RAS is regulated by the let-7 microRNA family), Cell, 2005年, 120巻, p.635-647
【非特許文献10】Michael MZ, O'Connor SM, van Holst Pellekaan NG, Young GP, James RJ, 大腸がん組織において発現が低下しているマイクロRNA(Reduced accumulation of specific microRNAs in colorectal neoplasia), Mol Cancer Res, 2003年, 1巻, p.882-891
【非特許文献11】He L, Thomson JM, Hemann MT, Hernando-Monge Eら, ヒトがん遺伝子としてのマイクロRNAポリシストロン(A microRNA polycistron as a potential human oncogene), Nature, 2005年, 435巻, p.828-833
【非特許文献12】Chan JA, Krichevsky AM, Kosik KS, microRNA-21はヒトグリオブラストーマ細胞株において抗アポトーシス因子となる(MicroRNA-21 is an antiapoptotic factor in human glioblastoma cells), Cancer Res, 2005年, 65巻, p.6029-6033
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記非特許文献1〜12に記載のように、腫瘍抑制的マイクロRNAの発現低下あるいは発がん促進的マイクロRNAの発現上昇がヒト発がん過程に関与している可能性が強く示唆されているが、実際に腫瘍抑制的マイクロRNAを用いた腫瘍増殖抑制剤は記載されていない。
【0009】
また、特許文献1に記載の発明では、マイクロRNAを直接用いる方法ではなく、マイクロRNAを転写によって作成しえるDNAを用いるものである。また、特許文献1は、マイクロRNAを転写によって作成し得るDNAを用いて、マイクロRNAによる癌治療についてのデータは含んでおらず、実際に腫瘍抑制的マイクロRNAを用いた腫瘍増殖抑制剤は記載されていない。
【0010】
特許文献2には、miR-34aを有効成分として含有する腫瘍増殖抑制剤が記載されている。しかし、マイクロRNAは数百種類存在することが知られているにもかかわらず、有効なマイクロRNAとして明らかにされたのは miR-34aのみである。
【0011】
そこで、本発明の目的は、miR-34a以外の腫瘍増殖抑制剤として有効なマイクロRNAを見出し、新たな腫瘍増殖抑制剤および癌治療用医薬組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、miR-34a以外の腫瘍増殖抑制剤として有効なマイクロRNAを見出すべく、マイクロRNAの機能スクリーニング方法を新たに開発した。この方法により、15種類の大腸がん抑制的マイクロRNAを新たに発見し、さらに5種類の膵がん抑制的マイクロRNAを新たに発見した。この発見に基づいて、マイクロRNAを有効成分として含有する腫瘍増殖抑制剤および癌治療用医薬組成物を完成した。
【0013】
本発明は以下のとおりである。
[1]
配列表の配列番号1〜19で示される塩基配列を有するマイクロRNAの少なくとも1種を有効成分として含有する腫瘍増殖抑制剤。
[2]
配列表の配列番号1〜5で示される塩基配列を有するマイクロRNAの少なくとも1種を有効成分として含有し、腫瘍が膵がんである[1]に記載の腫瘍増殖抑制剤。
[3]
配列表の配列番号5〜19で示される塩基配列を有するマイクロRNAの少なくとも1種を有効成分として含有し、腫瘍が大腸癌である[1]に記載の腫瘍増殖抑制剤。
[4]
配列表の配列番号6で示される塩基配列を有するマイクロRNAmiR-22を有効成分として含有し、腫瘍が大腸癌である[1]に記載の腫瘍増殖抑制剤。
[5]
前記マイクロRNAは、相補的な塩基配列を有するRNAまたはDNAとからなる二本鎖の前駆体である[1]〜[4]のいずれかに記載の腫瘍増殖抑制剤。
[6]
相補的な塩基配列を有するRNAが修飾されたRNAである[5]に記載の腫瘍増殖抑制剤。
[7]
キャリアーとして、アテロコラーゲンをさらに含有する[1]〜[6]のいずれか1項に記載の腫瘍増殖抑制剤。
[8]
マイクロRNAとアテロコラーゲンとの質量混合比が1:99〜99:1の範囲である[7]に記載の腫瘍増殖抑制剤。
[9]
[1]〜[8]のいずれか1項に記載の腫瘍増殖抑制剤を含有する癌治療用医薬組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、膵がんおよび/または大腸癌細胞に対して増殖抑制効果を示す、腫瘍細胞増殖抑制剤および癌治療用医薬組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1で同定された5種類のマイクロRNAを個別にすい臓がん細胞株へ導入し、継時的に細胞数を計測することにより、細胞増殖抑制効果の確認を行った結果を示す。
【図2】実施例2で同定された16種類のマイクロRNAを大腸癌細胞株HCT 116に個別に導入し、5日間培養後の顕微鏡観察像を示す。
【図3】実施例2で同定された16種類のマイクロRNAを大腸癌p53変異型SW480細胞へ個別に導入し、5日間培養後の顕微鏡観察像を示す。
【図4a】実施例2で得られた定量的RT-PCR法の結果(miR-22、miR-101、miR-30c、miR-345)を示す。
【図4b】実施例2で得られた定量的RT-PCR法の結果( miR-193b)を示す。
【図5】実施例2で得られたイッムノブロット解析の結果を示す。
【図6】実施例2で得られた細胞周期の解析の結果を示す。
【図7】実施例3で得られた、miR-22によるp2 13'非翻訳領域(3'UTR)を介した発現抑制結果を示す。
【図8】実施例3で得られた、miR-22によるp53依存的p21発現誘導の抑制結果を示す。
【図9】実施例3で得られた、miR-22によるがん細胞の抗がん剤感受性増大効果を示す結果を示す。
【図10】実施例3で得られた、miR-22のp53依存的発現上昇結果を示す。
【図11】実施例3で得られた、miR-22のストレスに対する活性化様式結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[マイクロRNAの機能スクリーニング方法]
本発明者らは、上記のように、miR-34a以外の腫瘍増殖抑制剤として有効なマイクロRNAを見出すべく、マイクロRNAの機能スクリーニング方法を新たに開発した。マイクロRNAの機能スクリーニング方法は、がん抑制的なマイクロRNAを効率よく同定するだけでなく、がん促進的なマイクロRNAを効率よく同定することができる。この系は、全部で数百種類あるヒトやマウス等のマイクロRNAのそれぞれが、(i)ある注目する形質(例:細胞増殖、転移など)に関して(ii)促進的か抑制的か、に関して比較的短時間で同定することもできる。前者に関しては、知りたい形質について実験者自身が決定し、ふさわしい実験系を構築する。後者に関しては、マイクロRNAが導入された細胞数の増加(がん促進的)、減少(がん抑制的)の変化を、マイクロアレイを用いて検出する。具体的な方法を以下に挙げる。
【0017】
[1]マイクロRNA前駆体発現ウイルスライブラリーの使用:それぞれがマイクロRNAの前駆体(500〜600塩基対程度)を発現するウイルスを混合したもの(ライブラリー)を使用する。マイクロRNAの機能を個別に調べてゆくのではなく、数百種類のマイクロRNA発現ウイルスベクターが混合されたライブラリーを使用することで、比較的短時間で大量のマイクロRNAの機能スクリーニングが可能となる。また、ウイルスライブラリーによる発現系を用いた事で、合成マイクロRNAを用いた場合に比較して、多様な形質に関して評価可能である。なお、今回、系の構築に当っては米国System Biosciences社のLenti-mirTM Virus Libraryを使用したが、「マイクロRNA前駆体の500〜600bpを発現するウイルスライブラリー」であれば原理的に代用可能である。
【0018】
[2]マイクロRNA前駆体を検出するマイクロアレイの設計:500〜600bp程度のマイクロRNA前駆体に特異的にハイブリダイゼーションするプローブの設計。あるマイクロRNAが導入された細胞数の相対量を、ラベル化したマイクロRNA前駆体の蛍光強度として検出する。このために、数百あるマイクロRNA前駆体(ウイルスベクターからの転写産物としてそれぞれ500〜600bp程度)のそれぞれと相補的に結合するオリゴヌクレオチドプローブを設計した。マイクロRNA前駆体の検出は、後述の通り、ゲノムに組み込まれた状態からPCRで増幅するため、相補的な二本鎖としてラベル化される。このため、オリゴヌクレオチドプローブは、各前駆体のsenseならびにantisenseの双方に設計した。今回、系の構築に当っては米国Agilent Technologies社のeArrayソフトウェアを用いて、60bpのオリゴヌクレオチドプローブを設計した。このプローブを、同社のマイクロアレイ上に、複数回のreplicateを設けて搭載した。
【0019】
上記[1]、[2]の組み合わせにより、機能スクリーニングが可能となる。とくに、細胞増殖や転移など、注目する形質を負に制御するマイクロRNAに関しては、この組み合わせによる機能スクリーニングでなければ同定は不可能である。
【0020】
スクリーニングの実際
(1)ウイルスライブラリーを細胞に感染させ、マイクロRNAを導入する。注目する形質に関して、比較したい細胞サンプルから、それぞれゲノムDNAを抽出する。
(2)PCR法により、マイクロRNA前駆体近傍部分のみ増幅する。
(3)増幅されたマイクロRNA前駆体を、蛍光ラベル化する。
(4)マイクロアレイ上にハイブリダイゼーションさせた後、レーザースキャナーならびに数値化ソフトウェアにより、蛍光強度を測定する。
(5)注目する形質の変化を、蛍光強度比として同定する。
【0021】
[すい臓がん細胞株の増殖を抑制するマイクロRNA分子の同定]
実施例において詳細に記載するが、すい臓がん細胞株MIA PaCa-2へ、マイクロRNAライブラリーを導入し、一定期間培養したのち、ドロップアウトクローンの同定を行った。その結果、すい臓がん細胞株の増殖を抑制する5種類のマイクロRNA分子(配列番号1〜5)を同定した。以下にマイクロRNAのリストを示す(表1)。
【0022】
【表1】
【0023】
[大腸癌細胞株の増殖を抑制するマイクロRNA分子の同定]
実施例において詳細に記載するが、大腸癌細胞株HCT 116とSW480へマイクロRNA発現レンチウイルスライブラリーを感染させ、一定期間培養した。感染直後と一定期間培養した細胞のそれぞれからゲノムDNAを回収し、染色体に組み込まれたウイルス断片(マイクロRNAの前駆体配列を含む)をPCR法にて増幅した。これらを鋳型としてラベル化反応をしたのち、カスタムデザインしたマイクロアレイによって、ウイルス由来のマイクロRNA遺伝子のコピー数を定量した。細胞増殖を抑制するマイクロRNAを単離することを目的としているため、感染直後の細胞では存在し、一定期間培養したのちにそのコピー数が減少する、いわゆるドロップアウトクローンの同定を行った。その結果、16種類のマイクロRNAが大腸癌細胞株の増殖を強く抑制することが判明した。以下にそのマイクロRNAのリストを示す(表2)。但し、miR-34aは特許文献2に大腸癌細胞株の増殖を抑制するマイクロRNAとして記載したものである。また、miR-532(配列番号5)は、上記において、すい臓がん細胞株の増殖を抑制するマイクロRNA分子としても同定されたマイクロRNA である。miR-34aおよびmiR-532を除くmiR-22、miR-30cからmiR-601、miR-605の14種類のマイクロRNAを配列番号6〜19とした。
【0024】
【表2】
【0025】
マイクロRNA(miRNA)は、miRNA遺伝子から、まず数百から数千ヌクレオチドの長さの1次転写産物が合成される。核内においてマイクロプロセッサーと呼ばれるタンパク質ー酵素複合体によって切断され、約60〜70ヌクレオチドのヘヤピン型前駆体miRNAとなる。エクスポーチン5により核から細胞質へ移行したのち、Dicerと呼ばれるリボヌクレアーゼIIIによって更に消化され、19〜24ヌクレオチドの成熟したmiRNAとなる。成熟したmiRNAは、RNA干渉(RNAi)の制御因子であるArgonauteタンパク質と共に複合体(RNA-induced silencing complex, RISC)を形成し機能する。
【0026】
本発明における配列表の配列番号1〜19で示される塩基配列を有するマイクロRNAは、以下の配列を有し、いずれも成熟した一本鎖のmiRNAである。
【0027】
miR-22: AAGCUGCCAGUUGAAGAACUGU (配列番号6)
miR-30c: UGUAAACAUCCUACACUCUCAGC (配列番号7)
miR-34a: UGGCAGUGUCUUAGCUGGUUGUU (配列番号2)
miR-101: UACAGUACUGUGAUAACUGAA (配列番号8)
miR-124: UAAGGCACGCGGUGAAUGCC (配列番号9)
miR-145: GUCCAGUUUUCCCAGGAAUCCCU (配列番号10)
miR-146b: UGAGAACUGAAUUCCAUAGGCU (配列番号11)
miR-193b: AACUGGCCCUCAAAGUCCCGCU (配列番号12)
miR-206: UGGAAUGUAAGGAAGUGUGUGG (配列番号13)
miR-218: UUGUGCUUGAUCUAACCAUGU (配列番号14)
miR-345: GCUGACUCCUAGUCCAGGGCUC (配列番号15)
miR-424: CAGCAGCAAUUCAUGUUUUGAA (配列番号16)
miR-532: CAUGCCUUGAGUGUAGGACCGU (配列番号5)
miR-551b: GCGACCCAUACUUGGUUUCAG (配列番号17)
miR-601: UGGUCUAGGAUUGUUGGAGGAG (配列番号18)
miR-605: UAAAUCCCAUGGUGCCUUCUCCU (配列番号19)
miR-29b: UAGCACCAUUUGAAAUCAGUGUU (配列番号1)
miR-222: AGCUACAUCUGGCUACUGGGU (配列番号3)
miR-224: CAAGUCACUAGUGGUUCCGUU (配列番号4)
【0028】
miRNAの作用機序は、miRNAの配列と部分相補的な配列を有するメッセンジャーRNA(標的mRNA)とmiRNAを含むRISCとの複合体形成に始まり、標的mRNA上でのリボソームによるタンパク質合成(翻訳過程)の阻害、さらにはP-bodyと呼ばれる細胞内構造体によるmRNAの分解である。本発明においては、miRNAが、腫瘍細胞の増殖亢進にかかわるmRNAの翻訳を抑制し、細胞内のがん抑制ネットワークを活性化することにより腫瘍細胞の増殖を抑制し、細胞死を誘導していることが分かっている(実施例2参照)。
【0029】
miRNAは、相補的な塩基配列を有するRNAとからなる二本鎖の前駆体であることもできる。二本鎖の前駆体は、細胞内で、熱力学的に不安定な端から二本鎖が解けて、成熟した一本鎖のmiRNAとなり、腫瘍細胞の増殖抑制効果を発揮する。
【0030】
相補的な塩基配列を有するRNAは、相補的な塩基配列を有するRNAであること以外に、相補的な塩基配列を有するRNAの一部の核酸が修飾されたRNAであることもできる。そのような修飾をすることで、二本鎖の前駆体の安定性等を向上させることができる。修飾の例としては、例えば2-O(2-メトキシ)エチル−修飾を挙げることができる。
【0031】
本発明の腫瘍増殖抑制剤は、miRNAを細胞内に移送するためのキャリアーを含むことができる。そのようなキャリアーとしては、siRNAを含む種々のRNA用のキャリアーを挙げることができ、例えば、アテロコラーゲンをキャリアーとして挙げることができる。さらに、キャリアーとしては、アテロコラーゲン以外にリポソームなどの既知のデリバリー担体を用いることができる。
【0032】
アテロコラーゲンは、酵素可溶化コラーゲンであり、コラーゲンをペプシン処理することでテロペプチド部分が分解されて得られるポリペプチドである。コラーゲンは、その種類、由来、型等特に制限はない。アテロコラーゲン に加えて、その修飾物も用いることができる。修飾物としては、側鎖アミノ基、カルボキシル基の化学修飾、あるいは化学的・物理的架橋物を用いることができる。また、由来として、ウシ、ブタ、ウマ、ヒト等の哺乳動物、鳥、魚類を由来とするいずれのコラーゲンも用いることが可能であるが、細胞が培養される温度で変化しない熱安定性を持つことが望ましい。具体的には、哺乳動物、鳥由来のコラーゲンが望ましく、若しくはそれらの遺伝子組み換えにより得られたコラーゲンが望ましい。コラーゲンの型については、特に制限はないが、入手の容易さよりI、II、III型などを使用することができる。
【0033】
miRNAとアテロコラーゲンとの質量混合比は複合体の長径が100nm前後である事等を考慮して適宜決定でき、例えば、1:99〜99:1の範囲であることができる。好ましくは10:90〜90:10、より好ましくは30:70〜70:30の範囲で混合することができる。
【0034】
本発明の腫瘍増殖抑制剤は、配列表の配列番号1〜5で示される塩基配列を有するマイクロRNAの少なくとも1種を有効成分として含有するものは、膵がんの腫瘍増殖抑制剤として有効である。本発明の腫瘍増殖抑制剤は、配列番号1〜5で示される塩基配列を有するマイクロRNAの2種以上を有効成分として含有することもできる。
【0035】
また、本発明の腫瘍増殖抑制剤は、配列表の配列番号5〜19で示される塩基配列を有するマイクロRNAの少なくとも1種を有効成分として含有するものは、大腸癌の腫瘍増殖抑制剤として有効である。本発明の腫瘍増殖抑制剤は、配列番号5〜19で示される塩基配列を有するマイクロRNAの2種以上を有効成分として含有することもできる。
【0036】
miR-22による高効率アポトーシス誘導機構
miR-22(配列番号6)を単独で、大腸がん細胞株へ導入することによりアポトーシスを誘導できる(実施例2参照)が、この作用はがん抑制遺伝子p53が野生型の細胞で特に効率よく誘導される。このメカニズムを明らかにするために、miR-22の標的遺伝子の探索を行った(詳細は実施例3参照)。
【0037】
その結果、miR-22がp21を抑制することが明らかとなった。p21は、p53により誘導され、細胞周期を停止させる機能を有するがん抑制遺伝子と考えられてきたが、この機能の反面、p21の誘導はアポトーシスを抑制することが知られている。近年、p21はがん抑制遺伝子としての機能ばかりではなく、がん遺伝子として機能することも明らかとなってきており、p53の活性化を誘導し、p21の発現を誘導しない小分子化合物のスクリーニングと抗がん剤への応用が精力的に世界中で行われているが、未だ、効果的なものは単離されていない。
【0038】
miR-22は、p21 mRNAの3'非翻訳領域に存在するmiR-22認識配列を介して、p21の翻訳を抑制している(図7)。また、細胞に抗がん剤を添加した後に、p53によって誘導されるp21の発現を強く抑制することが明らかとなった(図8)。また、がん細胞に対して、miR-22を導入することにより、抗がん剤への感受性が亢進し、低い濃度の抗がん剤で効率よくがん細胞をアポトーシスへ導くことが可能であることが判明した(図9)。また、miR-22はがん抑制因子p53により直接発現制御を受けることを見出した(図10)。興味深いことに、miR-22のp53による発現制御は、がん細胞にアポトーシスを誘導する濃度の抗がん剤や細胞傷害性ストレスの時にのみ認められた(図11)。これらの結果から、miR-22は、細胞がアポトーシスにより死を選択する際に発現上昇し、p21の発現抑制を介して効率よく細胞死へと誘導する“分子スウィッチ”の役割を果たしている可能性が強く示唆された。また、70%の大腸がん患者では、染色体のmiR-22遺伝子座が高頻度に片アリル欠損していることも確認した。この結果は、miR-22が大腸がんのがん抑制遺伝子である可能性を強く示すと考えられる。
【0039】
miR-22は、大腸発がんにおいてがん抑制因子として機能し、患者で遺伝子座の欠損及び発現低下を示すことから、miR-22を腫瘍組織へ導入することによる、抗腫瘍剤として理想的な核酸分子である。
【0040】
さらに、miR-22はp53変異型のがん細胞株において、細胞周期停止を強く誘導することが明らかとなっている(実施例2参照)。このことは、抗がん剤に対する感受性の亢進に寄与する可能性を示しており、応用範囲の広い抗腫瘍剤の開発候補として有用である。
【0041】
本発明は、上記本発明の腫瘍増殖抑制剤を含有する癌治療用医薬組成物も包含する。
【0042】
本発明に係る癌治療用医薬組成物においては、miRNAの含量は、例えば、100〜500mg、より好ましくは300〜500mgであることが望ましい。さらに本発明に係るmiRNAを有効成分として含有する癌治療用医薬組成物の投与量は、癌患者の病期、年齢、体重等により適宜調節することができ、例えば、100〜500mg、より好ましくは300〜500mgであることが望ましい。かかる投与量を1〜10回、より好ましくは5〜10回投与することが望ましい。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【0044】
参考例
マイクロRNA前駆体を検出するカスタムマイクロアレイの作成
1)使用するヒトマイクロRNA前駆体発現レンチウイルスライブラリーの配列を、公的データベース(miRBase,Ensembl,PubMed)より入手した。
2)これらの配列に対して、プローブ配列設計ソフトウェア(eArray,Agilent社)を用いて、60bpのオリゴヌクレオチドプローブ候補を設計した。この候補と、ヒトマイクロRNA前駆体の配列全体をBlastにて相同性検索を行い、特異性の低いプローブについては同ソフトウェアにて設計しなおした。
3)このプローブ配列を持つカスタムマイクロアレイを作成する(Agilent社)。同一のプローブは、複数箇所へ配置した。
【0045】
実施例1
膵がん抑制的マイクロRNAのスクリーニング
1)445種類のヒトマイクロRNA前駆体を発現するレンチウイルスライブラリー(Lenti-miR Virus Library, SBI社)を、ヒト膵がん細胞株MIA PaCa-2に感染させ、培地皿で培養した。細胞株へ感染したレンチウイルスのゲノムは、細胞株のゲノムへと組み込まれ、導入したマイクロRNA前駆体を発現した。
【0046】
2)培養皿で細胞が増殖したら、このうちの1/8をとり新しい培養皿で培養した(継代)。継代を9回程度繰り返した。継代の際には、使用しなかった残りの7/8の細胞を液体窒素中に保存した。
【0047】
3)感染直後の細胞サンプル(P0)と、9回継代後の細胞サンプル(P9)からそれぞれDNAを抽出した。このDNAは細胞株ゲノムと、レンチウイルス感染により導入したレンチウイルスゲノムの混合物であった。
【0048】
4)このDNAを鋳型としてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行い、レンチウイルス感染により導入したマイクロRNA前駆体DNAを含む部分を選択的に増幅させた。PCRにより鋳型中のマイクロRNA前駆体比が変化することを最小限にするために、PCRは同一の鋳型DNAを用いて4本のチューブで独立に行い、PCR後にこれを混合した。
・PCRのプライマー配列;
forward primer: 5'-GCC TGG AGA CGC CAT CCA CGC TG-3'(配列番号20); reverse primer: 5'-GAT GTG CGC TCT GCC CAC TGA C-3'(配列番号21)
・PCRのプログラム:{94℃, 3分}→{(94℃, 35秒 → 65℃, 35秒 → 72℃, 1分)×25回}→{72℃, 7分}→ 4℃
【0049】
5)以下5)〜9)は、市販のオリゴヌクレオチドCGHアレイのプロトコール・試薬キットを流用する。PCR産物を鋳型として、市販のラベル化キットを用いて酵素的に蛍光色素で標識した(Genomic DNA Enzymatic Labeling Kit, Agilent社)。すなわち、P0、P9のPCR産物を鋳型として、それぞれCy3 dCTP、Cy5-dCTP にてExo-Klenow酵素を用いて蛍光標識されたDNAを合成した。
【0050】
6)市販のフィルターにて、ラベル化されたDNAを回収した(YM-30フィルター、ミリポア社)。
【0051】
7)Cy3、 Cy5にてラベル化標識されたP0、P9のPCR産物を混合し、1で作成したカスタムアレイ上に乗せ、65℃で24時間ハイブリダイゼーションした。
【0052】
8)Wash Buffer1、Wash Buffer2にてアレイを洗浄した(Agilent社)。レーザースキャナーにてアレイをスキャンし、数値化ソフト(FeatureExtraction Software, Agilent社)を用いて傾向強度比(log2(Cy5/Cy3))を算出した。
【0053】
9)表計算ソフトウェアにて、同一のマイクロRNA前駆体の蛍光強度比の平均を算出した。蛍光強度比の平均の大きいものから小さいものへと並べた。
【0054】
10)ヒト膵がん細胞株MIA PaCa-2へ導入し、蛍光強度比が10-1以下となる、すなわち増殖を強く抑制する5つのマイクロRNAとしてマイクロRNA-222、-224、-29b、-34a、-532(配列番号1〜5)を同定した。
【0055】
【表3】
【0056】
また、これらのマイクロRNAを個別にすい臓がん細胞株へ導入し、継時的に細胞数を計測することにより、細胞増殖抑制効果の確認を行った(図1)。図1に示すように、候補マイクロRNAは、いずれも、すい臓がん細胞株の増殖を強く抑制することが判明した。
【0057】
実施例2
大腸がん抑制的マイクロRNAの同定
1)ヒト大腸がん細胞株HCT 116及びSW480細胞へ、レンチウイルスmiRNA発現ライブラリーを感染させ、一定期間培養した。継代培養を繰り返し、各継代毎に細胞を凍結保存し、DNA調製用とした。感染直後及び9回継代培養後の細胞から、ゲノムDNAを調製し、PCRにより細胞集団に組み込まれたレンチウイルス由来のmiRNA遺伝子領域を増幅した。以後の実験操作は上記実施例1の方法と同じである。蛍光強度比が10-1以下となるクローンを候補として抽出した。
【0058】
以下の表に示す16種類のマイクロRNAが大腸がん細胞株の増殖を有意に抑制する候補として抽出された。
【0059】
【表4】
【0060】
2)候補マイクロRNAの絞り込み
上記の方法により抽出した、候補miRNAの細胞増殖抑制効果を検討するため、HCT116及びSW480細胞へ、22塩基の成熟型合成miRNA(Applied Biosystems社、Pre-miRNA)を導入し、3〜5日間培養した。一定期間培養したのちに、顕微鏡下で細胞増殖抑制効果を評価した(図2)。細胞増殖抑制効果は、negative control miRNAを導入した細胞に対し、候補miRNAを導入した細胞の形態及び細胞数により評価した。特に増殖抑制効果が顕著であるものに対しては、MTS法により細胞増殖に及ぼす影響を定量的に評価した。
【0061】
表4に示すマイクロRNAを大腸癌細胞株HCT 116へ個別に導入し、5日間培養後の顕微鏡観察像である図2の結果から、miR-22, 34a, 101, 124, 193b, 206, 424, 532, 601, 605は強い細胞死誘導活性を有することが分かる。
【0062】
表4に示すマイクロRNAをp53変異型SW480大腸癌細胞へ個別に導入し、5日間培養後の顕微鏡観察像である図3の結果から、上記の増殖抑制効果は、p53野生型のHCT 116細胞のみならず、p53変異型SW480細胞でも認められた。
【0063】
図2と図3を見比べてみると、miR-345はp53変異型の細胞株で強い効果が認められる。また、miR-124も同様の傾向が認められた。一方、miR-22, 101, 601は両細胞株に対して、強い細胞死の誘導効果を有することがわかる。
【0064】
3)ヒト大腸がん検体における候補miRNAの発現
miR-22、miR-101、miR-30c、miR-345、 miR-193bの大腸がん検体における発現を調べるために、24検体のヒト大腸がん組織における発現を定量的RT-PCR法で評価した。24症例の大腸がん手術検体及び同一個体由来の非がん部から、総RNAを調製し、定量的PCR法により、がん組織における当該miRNAの発現量を定量した。定量的RT-PCR法は、Applied Biosystems社のTaqMan miRNA 発現定量システムを用いて行った。結果を図4aおよび4bに示す(発現はがん部/非がん部、での相対定量により表示)。
【0065】
治療薬への応用に際しては、正常組織で発現しており、がん組織で著しい発現低下を示す分子が好ましい。候補miRNAのうち3種類(miR-22、miR-101、miR-30c)の発現が半数以上の大腸癌検体で認められた。また、miR-345およびmiR-193bについても、大腸癌検体で発現低下が認められた。
【0066】
4)治療薬候補miRNAの機能
がん臨床検体を用いた発現解析から、50%以上の大腸癌検体で発現低下を示した、miR-22、miR-101、miR-30cに関して、これらmiRNAを導入することによる細胞内遺伝子発現変化の解析を行った。大腸がん細胞株HCT 116へmiR-22、miR-101、miR-30cの成熟型miRNAを単独で導入し(Apllied Biosystems 社、pre-miR)、3日間培養したのち、遺伝子発現解析をAgilent社の発現解析アレイを用いて行った。同様に各々のmiRNAをHCT 116細胞へ導入し、3日間培養した細胞からタンパク質を調製し、イッムノブロット解析のサンプルとした。さらに、同様の方法で候補miRNAを導入した細胞を用いて細胞周期の解析を行った。
【0067】
マイクロアレイ解析から、miR-22、miR-101、miR-30cを導入することにより、がん抑制因子p53と関連する細胞内シグナル伝達系が活性化することが判明した。図5には、当該miRNAによりp53及びp53関連因子(p21、NOXA、LATS2)の発現が亢進することをイムノブロット法で検出したものを示す。また、図6に示す結果から、miR-22及びmiR-101を導入したがん細胞はアポトーシス誘導により細胞増殖が抑制されていることも判明した。一方、miR-30cは細胞周期の停止を誘導していることが分かった。これらの結果から、これら3つのmiRNAは、腫瘍抑制因子群を活性化することにより細胞増殖を抑制していることが分かった。
【0068】
以上の結果を以下にまとめる。
表4中には、特許文献2に記載したがん抑制的miRNAであるmiR-34aが含まれていた。miR-34aを除く、miR-22〜miR-424、 miR-551b〜miR-605は配列番号6〜19に示す。miR-532(配列番号5)は、前述のようにヒト膵がん細胞株の増殖も抑制する。miR-22、miR-30c、miR-101、miR-345、miR-193bについては、強い細胞増殖抑制効果を示した。また、この効果は代表的ながん抑制因子であるp53の変異した細胞株でも認められた。したがって、miR-22、miR-30c、miR-101、miR-345、miR-193bについては、抗腫瘍薬の成分としては、広範な大腸癌へ応用できると考えられる。
【0069】
また、これらのmiRNAは、ヒト大腸癌検体で発現が低下しているものが多いことが分かった。特にmiR-22、miR-30c、miR-101に関しては、おおよそ半数の検体において共通して発現低下していることが判明した。これらの結果から、この3種類のmiRNAに関しては、治療薬成分としての有用性が特に高いと考えられる。
【0070】
上記で単離したマイクロRNA分子において、大腸がんとすい臓がんで共通する分子はmiR-34aとmiR-532のみであり、その他は共通するものはなかった。実験には、同じライブラリーと検出方法を用いていることから、マイクロRNAの機能は組織(細胞)に特異的であることが強く示唆される。すなわち、miR-532以外は、大腸がんまたはすい臓がん特異的に抗増殖効果を示すマイクロRNAである。この事実は、miR-532以外は、他の細胞への影響が少ない(すなわち副作用の少ない)治療薬を提供できる可能性を示すものである。
【0071】
実施例3
実験方法
miR-22標的遺伝子の同定:大腸がん細胞株HCT 116へ、miRNAの制御因子の一つであるAGO2を恒常的に発現させる細胞株を樹立した。導入したAGO2は、HAタグを付加することにより、HA抗体を用いた解析が可能となる。HCT116-AGO2細胞へ、miR-22及びネガティブコントロールmiRNAを導入し、24時間培養した。細胞抽出液を調製し、抗HA抗体を用いてAGO2を免疫沈降した。免疫沈降物から、RNAを常法に従い調製し、カラムにより精製した後、マイクロアレイ解析を行った。サイクリン依存性キナーゼインヒビターp21を同定した。
【0072】
miR-22によるp21発現抑制の測定
P21の3'非翻訳領域を挿入したルシフェラーゼレポーター遺伝子を構築した。このレポータープラスミドとmiR-22をがん細胞へ、常法により導入し、24時間培養した後、ルシフェラーゼの活性を測定した。内在性コントロールの測定値を基準にし、miR-22によるp21非翻訳領域を介した発現抑制効果を示した。結果を図7に示す。
【0073】
図7は、HCT 116 細胞へp21 mRNAの3'UTR領域を挿入したルシフェラーゼレポータープラスミドとネガティブコントロールmiRNA(NC)またはmiR-22(22)を導入し、ルシフェラーゼ活性を測定した結果である。グラフは相対的活性値を示す。図7では、miR-22が結合する領域に変異を導入したp21 3'UTRを連結したルシフェラーゼレポータープラスミドを用いた場合は、miR-22による抑制活性が減弱していることが分かる。
【0074】
miR-22によるp21発現誘導の抑制効果
miR-22及びネガティブコントロールmiRNAを大腸がん細胞、HCT116へリポフェクション法により導入し、2日間培養した後、細胞を抗がん剤であるアドリアマイシンで処理し、継時的に細胞抽出液を調製した。イッムノブロット法により、p21の発現を確認した。結果を図8に示す。
【0075】
大腸がん細胞株HCT 116細胞へ、miR-22及びネガティブコントロールmiRNA(miR-NC)を導入し、48時間培養した後、抗がん剤であるアドリアマイシン(ADR)を添加した。細胞抽出液を図に示した時間で継時的に調製し、イッムノブロット法でp21の発現誘導を解析した。miR-NCを導入した細胞では、ADR添加後、p53が活性化され、それに伴ってp21の発現が誘導されることが分かる。一方、miR-22を導入した細胞では、p21の発現が強く抑制されていることが分かる。GAPDHは、電気泳動の際、等量のタンパク質が得移動されているか否かを示す内在性コントロールとして用いている。
【0076】
miR-22によるがん細胞の抗がん剤感受性の増大
HCT 116 細胞へ、miR-22及びコントロールmiRNAを上記方法により導入し、一晩培養した。細胞を低濃度のアドリアマイシンで処理し、一晩培養した後、死細胞をフローサイトメトリー(FACS)で検出した。細胞死の判定はPI染色によるDNA検出パターンの変化により判断した。また、アポトーシスに伴って切断される細胞内タンパク質PARP-1の検出も同時に行った。結果を図9に示す。
【0077】
HCT 116細胞を低濃度のアドリアマイシン(ADR)で処理し、24時間培養した後、フローサイトメーターで細胞死を検出した。右上のパネルに示すように、低濃度のADR処理では、細胞死は起こらず、細胞周期の停止が誘導されていることが分かる。一方、miR-22のみを導入した細胞は、弱いアポトーシスが誘導されている(左下パネル)。miR-22と低濃度のADRを両方処理した細胞は、明らかな細胞死を誘導し、細胞周期のパターンが大きく乱れていることが確認された(右下パネル)
【0078】
miR-22のp53依存的発現上昇の解析
HCT 116 細胞をアドリアマイシンで処理し、24時間培養後、細胞内の総RNAを調製した。総RNA16ngを用いて、TaqManリアルタイムPCR法によりmiR-22の発現を定量した。結果を図10に示す。
【0079】
HCT 116大腸がん細胞を、抗がん剤であるアドリアマイシンで処理し、一晩培養した後、総RNAを調製した。miR-22はTaqManリアルタイムPCR法により定量した。miR-22はアドリアマイシン処理後、p53野生型細胞で顕著に発現上昇することが分かる。一方、p53を欠損した細胞では、その発現誘導は認められないことから、miR-22はp53依存的に発現誘導されることが判明した。
【0080】
miR-22の発現調節機構の解析
HCT 116 細胞を低濃度及び高濃度のアドリアマイシンで処理し、継時的にRNAを回収し、リアルタイムPCR法によりmiR-22及びp21 mRNAを定量した。同時に、細胞抽出液を調製し、イムノブロット法によりp53、p21を検出し、アポトーシスのマーカーであるPARP-1の切断を確認した。結果を図11に示す。
【0081】
HCT 116細胞を低濃度のADRで処理すると細胞周期の停止が誘導される。この時、p21のmRNA及びタンパク質レベルの急激な上昇が認められる。一方、高い濃度のADRで処理した細胞では、処理後10時間あたりから細胞死が認められるようになる。この時、miR-22はp21mRNAと同様のキネティックスで発現誘導されることが分かる。興味深いことは、高濃度ADRで36時間培養した細胞では、p21 mRNAの発現量が上昇しているにもかかわらず、タンパク質レベルはほとんど変化しないことが分かった。この時、miR-22の発現は上昇している。これらの結果から、miR-22は、細胞がアポトーシスを選択する際に発現誘導される可能性が考えられる。
【0082】
まとめ
miR-22の抗腫瘍細胞増殖活性について、分子レベルでの新たな知見を記した。miR-22が標的とするp21は、古典的に細胞周期の亢進を抑制するがん抑制遺伝子として考えられてきた。近年、p21はアポトーシスを抑制し、細胞の生存に深く関連することや、がん幹細胞におけるp21の重要性が報告されている。抗がん剤としては、p53の活性化を誘導し、p21の活性化を伴わない小分子化合物が効果的である事が報告されている。即ち、p53活性化とp21の抑制を同時に引き起こすと細胞死を効率よく誘導される。miR-22は、内在性に発現するsmall non-coding RNAであり、内在性因子がp53の活性化に伴ってp21の発現を抑制することができる。これは、抗がん剤の効果を増感するばかりではなく、副作用の低減化に大きく貢献できる分子である事を示している。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、マイクロRNAによる細胞増殖抑制による癌治療の分野に有用である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、がん抑制的マイクロRNAを有効成分として含む腫瘍増殖抑制剤に関する。より詳しくは、膵がん抑制的マイクロRNAまたは大腸がん抑制的マイクロRNAを有効成分として含む腫瘍増殖抑制剤に関する。さらに本発明は、この腫瘍増殖抑制剤を含む癌治療用医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロRNAは約22塩基の蛋白質非翻訳RNA(small non-coding RNA)であり、ヒトには約1000種類存在する事が示唆されている。近年、マイクロRNAは生体内でさまざまな遺伝子の発現抑制を行う分子として注目されている。ゲノム上には各マイクロRNA遺伝子の領域が存在し、RNAポリメラーゼIIによって転写され、約数百塩基のマイクロRNA初期転写産物が形成される。マイクロRNA初期転写産物は核内でDrosha、細胞質内でDicerと呼ばれる2種類のRNase III酵素によってプロセシングされ、成熟マイクロRNAが形成される。成熟マイクロRNAは制御タンパク質複合体(RNA-induced silencing complex, RISC)と協調しつつ、相補的配列をもつ複数のターゲット遺伝子のmRNAと相互作用し、遺伝子の発現を抑制する事が知られている(非特許文献1)。
【0003】
いくつかのマイクロRNAはがんを含めたヒト疾患との関連が示唆されている。特にがんとマイクロRNAの関係に関して、様々な臓器において正常組織とがん組織で多くのマイクロRNAの発現様式が異なる事から、発がん過程へのマイクロRNA発現異常の関与が強く示唆されている(非特許文献2-4)。近年、腫瘍抑制的あるいは発がん促進的マイクロRNAの存在が示唆されている(非特許文献5-7)。腫瘍抑制的マイクロRNAとして、miR-15とmiR-16はアポトーシス抑制因子であるBCL2の発現を抑制する事によってヒト巨核球細胞にアポトーシスを誘導する事が報告されている(非特許文献8)。Let-7は、ヒト肺がんならびに子宮がん細胞株において、がん遺伝子Rasの発現を抑制的に調節する事が知られている(非特許文献9)。また、miR-143とmiR-145はヒト大腸がん組織での発現低下が認められるが、その生物学的意義は未だ不明である(非特許文献10)。一方、発がん促進的マイクロRNAとして、miR-17-92クラスターは転写因子c-Mycと協調して、マウスにB細胞型リンパ腫を誘発させる事が報告されている(非特許文献11)。また、miR-21の発現低下はヒト膠芽腫細胞株にアポトーシスを誘導する事が知られている(非特許文献12)。以上より、腫瘍抑制的マイクロRNAの発現低下あるいは発がん促進的マイクロRNAの発現上昇がヒト発がん過程に関与している可能性が強く示唆されている。
【0004】
miRNAを用いた癌の予後判定方法、癌の遺伝子治療ベクター及び癌治療用医薬組成物も提案されている(特許文献1)。特定の塩基配列を含むDNAから転写されるmiRNA、pre-miRNA及びpri-miRNAからなる群から選択されるいずれか1つを有効成分として含有する癌治療用医薬組成物が記載されている(請求項15)。
【0005】
さらに、本発明者らは、腫瘍抑制的マイクロRNAの探索を目的として、腫瘍抑制遺伝子p53の活性化に伴って発現が誘導されるマイクロRNAの同定を試み、マイクロRNA34a(miR-34a)が、複数の大腸癌細胞に対して増殖抑制効果を示すことを見いだしてその結果を特許出願した(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−192484号公報
【特許文献2】特開2008−239596号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Bartel DP, マイクロRNA:遺伝学的特性、生物学的特性、メカニズムと機能(MicroRNAs: Genomics, Biogenesis, Mechanism, and Function), Cell, 2004年, 116巻, p.281-297
【非特許文献2】Lu J, Getz G, Miska EAら, マイクロRNA発現プロファイルがヒトがん組織を分類する(MicroRNA expression profiles classify human cancers), Nature, 2005年, 435巻, p.834-838
【非特許文献3】Volinia S, Calin GA, Liu CG, Ambs Sら, ヒトがん組織におけるマイクロRNAの発現形式はがん関連遺伝子のターゲットを明らかにする(A microRNA expression signature of human solid tumors defines cancer gene targets), Proc Natl Acad Sci USA, 2006年, 103巻, p.2257-2261
【非特許文献4】Calin GA, Croce CM, ヒトがん組織に特徴的なマイクロRNA(MicroRNA signatures in human cancers), Nature Rev Cancer, 2006年, 6巻, p.857-866
【非特許文献5】Esquela-Kerscher A, Slack FJ, がんマイクロRNA遺伝子−がん組織において役割をもったマイクロRNA(Oncomirs−microRNAs with a role in cancer), Nature Rev Cancer, 2006年, 6巻, p.259-269
【非特許文献6】Kent OA, Mendell JT, がんパズルにおける小さなピース:腫瘍抑制的及び発がん促進的microRNAs(A small piece in the cancer puzzle: microRNAs as tumor suppressors and oncogenes), Oncogene, 2006年, 25巻, p.6188-6196
【非特許文献7】Zhang B, Pan X, Cobb GP, Anderson TA, 発がん促進的及び腫瘍抑制的マイクロRNAs(MicroRNAs as oncogenes and tumor suppressors), Dev Biol, 2007年, 302巻, p.1-12
【非特許文献8】Cimmino A, Calin GA, Fabbri M, Iorio MVら, miR-15とmiR-16はBCL2をターゲットとしてアポトーシスを誘導する(miR-15 and miR-16 induce apoptosis by targeting BCL2), Proc Natl Acad Sci USA, 2005年, 102巻, p.13944-13949
【非特許文献9】Johnson SM, Grosshans H, Shingara J, Byrom Mら, RASはlet-7マイクロRNAファミリーによって調節されている(RAS is regulated by the let-7 microRNA family), Cell, 2005年, 120巻, p.635-647
【非特許文献10】Michael MZ, O'Connor SM, van Holst Pellekaan NG, Young GP, James RJ, 大腸がん組織において発現が低下しているマイクロRNA(Reduced accumulation of specific microRNAs in colorectal neoplasia), Mol Cancer Res, 2003年, 1巻, p.882-891
【非特許文献11】He L, Thomson JM, Hemann MT, Hernando-Monge Eら, ヒトがん遺伝子としてのマイクロRNAポリシストロン(A microRNA polycistron as a potential human oncogene), Nature, 2005年, 435巻, p.828-833
【非特許文献12】Chan JA, Krichevsky AM, Kosik KS, microRNA-21はヒトグリオブラストーマ細胞株において抗アポトーシス因子となる(MicroRNA-21 is an antiapoptotic factor in human glioblastoma cells), Cancer Res, 2005年, 65巻, p.6029-6033
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記非特許文献1〜12に記載のように、腫瘍抑制的マイクロRNAの発現低下あるいは発がん促進的マイクロRNAの発現上昇がヒト発がん過程に関与している可能性が強く示唆されているが、実際に腫瘍抑制的マイクロRNAを用いた腫瘍増殖抑制剤は記載されていない。
【0009】
また、特許文献1に記載の発明では、マイクロRNAを直接用いる方法ではなく、マイクロRNAを転写によって作成しえるDNAを用いるものである。また、特許文献1は、マイクロRNAを転写によって作成し得るDNAを用いて、マイクロRNAによる癌治療についてのデータは含んでおらず、実際に腫瘍抑制的マイクロRNAを用いた腫瘍増殖抑制剤は記載されていない。
【0010】
特許文献2には、miR-34aを有効成分として含有する腫瘍増殖抑制剤が記載されている。しかし、マイクロRNAは数百種類存在することが知られているにもかかわらず、有効なマイクロRNAとして明らかにされたのは miR-34aのみである。
【0011】
そこで、本発明の目的は、miR-34a以外の腫瘍増殖抑制剤として有効なマイクロRNAを見出し、新たな腫瘍増殖抑制剤および癌治療用医薬組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、miR-34a以外の腫瘍増殖抑制剤として有効なマイクロRNAを見出すべく、マイクロRNAの機能スクリーニング方法を新たに開発した。この方法により、15種類の大腸がん抑制的マイクロRNAを新たに発見し、さらに5種類の膵がん抑制的マイクロRNAを新たに発見した。この発見に基づいて、マイクロRNAを有効成分として含有する腫瘍増殖抑制剤および癌治療用医薬組成物を完成した。
【0013】
本発明は以下のとおりである。
[1]
配列表の配列番号1〜19で示される塩基配列を有するマイクロRNAの少なくとも1種を有効成分として含有する腫瘍増殖抑制剤。
[2]
配列表の配列番号1〜5で示される塩基配列を有するマイクロRNAの少なくとも1種を有効成分として含有し、腫瘍が膵がんである[1]に記載の腫瘍増殖抑制剤。
[3]
配列表の配列番号5〜19で示される塩基配列を有するマイクロRNAの少なくとも1種を有効成分として含有し、腫瘍が大腸癌である[1]に記載の腫瘍増殖抑制剤。
[4]
配列表の配列番号6で示される塩基配列を有するマイクロRNAmiR-22を有効成分として含有し、腫瘍が大腸癌である[1]に記載の腫瘍増殖抑制剤。
[5]
前記マイクロRNAは、相補的な塩基配列を有するRNAまたはDNAとからなる二本鎖の前駆体である[1]〜[4]のいずれかに記載の腫瘍増殖抑制剤。
[6]
相補的な塩基配列を有するRNAが修飾されたRNAである[5]に記載の腫瘍増殖抑制剤。
[7]
キャリアーとして、アテロコラーゲンをさらに含有する[1]〜[6]のいずれか1項に記載の腫瘍増殖抑制剤。
[8]
マイクロRNAとアテロコラーゲンとの質量混合比が1:99〜99:1の範囲である[7]に記載の腫瘍増殖抑制剤。
[9]
[1]〜[8]のいずれか1項に記載の腫瘍増殖抑制剤を含有する癌治療用医薬組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、膵がんおよび/または大腸癌細胞に対して増殖抑制効果を示す、腫瘍細胞増殖抑制剤および癌治療用医薬組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1で同定された5種類のマイクロRNAを個別にすい臓がん細胞株へ導入し、継時的に細胞数を計測することにより、細胞増殖抑制効果の確認を行った結果を示す。
【図2】実施例2で同定された16種類のマイクロRNAを大腸癌細胞株HCT 116に個別に導入し、5日間培養後の顕微鏡観察像を示す。
【図3】実施例2で同定された16種類のマイクロRNAを大腸癌p53変異型SW480細胞へ個別に導入し、5日間培養後の顕微鏡観察像を示す。
【図4a】実施例2で得られた定量的RT-PCR法の結果(miR-22、miR-101、miR-30c、miR-345)を示す。
【図4b】実施例2で得られた定量的RT-PCR法の結果( miR-193b)を示す。
【図5】実施例2で得られたイッムノブロット解析の結果を示す。
【図6】実施例2で得られた細胞周期の解析の結果を示す。
【図7】実施例3で得られた、miR-22によるp2 13'非翻訳領域(3'UTR)を介した発現抑制結果を示す。
【図8】実施例3で得られた、miR-22によるp53依存的p21発現誘導の抑制結果を示す。
【図9】実施例3で得られた、miR-22によるがん細胞の抗がん剤感受性増大効果を示す結果を示す。
【図10】実施例3で得られた、miR-22のp53依存的発現上昇結果を示す。
【図11】実施例3で得られた、miR-22のストレスに対する活性化様式結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[マイクロRNAの機能スクリーニング方法]
本発明者らは、上記のように、miR-34a以外の腫瘍増殖抑制剤として有効なマイクロRNAを見出すべく、マイクロRNAの機能スクリーニング方法を新たに開発した。マイクロRNAの機能スクリーニング方法は、がん抑制的なマイクロRNAを効率よく同定するだけでなく、がん促進的なマイクロRNAを効率よく同定することができる。この系は、全部で数百種類あるヒトやマウス等のマイクロRNAのそれぞれが、(i)ある注目する形質(例:細胞増殖、転移など)に関して(ii)促進的か抑制的か、に関して比較的短時間で同定することもできる。前者に関しては、知りたい形質について実験者自身が決定し、ふさわしい実験系を構築する。後者に関しては、マイクロRNAが導入された細胞数の増加(がん促進的)、減少(がん抑制的)の変化を、マイクロアレイを用いて検出する。具体的な方法を以下に挙げる。
【0017】
[1]マイクロRNA前駆体発現ウイルスライブラリーの使用:それぞれがマイクロRNAの前駆体(500〜600塩基対程度)を発現するウイルスを混合したもの(ライブラリー)を使用する。マイクロRNAの機能を個別に調べてゆくのではなく、数百種類のマイクロRNA発現ウイルスベクターが混合されたライブラリーを使用することで、比較的短時間で大量のマイクロRNAの機能スクリーニングが可能となる。また、ウイルスライブラリーによる発現系を用いた事で、合成マイクロRNAを用いた場合に比較して、多様な形質に関して評価可能である。なお、今回、系の構築に当っては米国System Biosciences社のLenti-mirTM Virus Libraryを使用したが、「マイクロRNA前駆体の500〜600bpを発現するウイルスライブラリー」であれば原理的に代用可能である。
【0018】
[2]マイクロRNA前駆体を検出するマイクロアレイの設計:500〜600bp程度のマイクロRNA前駆体に特異的にハイブリダイゼーションするプローブの設計。あるマイクロRNAが導入された細胞数の相対量を、ラベル化したマイクロRNA前駆体の蛍光強度として検出する。このために、数百あるマイクロRNA前駆体(ウイルスベクターからの転写産物としてそれぞれ500〜600bp程度)のそれぞれと相補的に結合するオリゴヌクレオチドプローブを設計した。マイクロRNA前駆体の検出は、後述の通り、ゲノムに組み込まれた状態からPCRで増幅するため、相補的な二本鎖としてラベル化される。このため、オリゴヌクレオチドプローブは、各前駆体のsenseならびにantisenseの双方に設計した。今回、系の構築に当っては米国Agilent Technologies社のeArrayソフトウェアを用いて、60bpのオリゴヌクレオチドプローブを設計した。このプローブを、同社のマイクロアレイ上に、複数回のreplicateを設けて搭載した。
【0019】
上記[1]、[2]の組み合わせにより、機能スクリーニングが可能となる。とくに、細胞増殖や転移など、注目する形質を負に制御するマイクロRNAに関しては、この組み合わせによる機能スクリーニングでなければ同定は不可能である。
【0020】
スクリーニングの実際
(1)ウイルスライブラリーを細胞に感染させ、マイクロRNAを導入する。注目する形質に関して、比較したい細胞サンプルから、それぞれゲノムDNAを抽出する。
(2)PCR法により、マイクロRNA前駆体近傍部分のみ増幅する。
(3)増幅されたマイクロRNA前駆体を、蛍光ラベル化する。
(4)マイクロアレイ上にハイブリダイゼーションさせた後、レーザースキャナーならびに数値化ソフトウェアにより、蛍光強度を測定する。
(5)注目する形質の変化を、蛍光強度比として同定する。
【0021】
[すい臓がん細胞株の増殖を抑制するマイクロRNA分子の同定]
実施例において詳細に記載するが、すい臓がん細胞株MIA PaCa-2へ、マイクロRNAライブラリーを導入し、一定期間培養したのち、ドロップアウトクローンの同定を行った。その結果、すい臓がん細胞株の増殖を抑制する5種類のマイクロRNA分子(配列番号1〜5)を同定した。以下にマイクロRNAのリストを示す(表1)。
【0022】
【表1】
【0023】
[大腸癌細胞株の増殖を抑制するマイクロRNA分子の同定]
実施例において詳細に記載するが、大腸癌細胞株HCT 116とSW480へマイクロRNA発現レンチウイルスライブラリーを感染させ、一定期間培養した。感染直後と一定期間培養した細胞のそれぞれからゲノムDNAを回収し、染色体に組み込まれたウイルス断片(マイクロRNAの前駆体配列を含む)をPCR法にて増幅した。これらを鋳型としてラベル化反応をしたのち、カスタムデザインしたマイクロアレイによって、ウイルス由来のマイクロRNA遺伝子のコピー数を定量した。細胞増殖を抑制するマイクロRNAを単離することを目的としているため、感染直後の細胞では存在し、一定期間培養したのちにそのコピー数が減少する、いわゆるドロップアウトクローンの同定を行った。その結果、16種類のマイクロRNAが大腸癌細胞株の増殖を強く抑制することが判明した。以下にそのマイクロRNAのリストを示す(表2)。但し、miR-34aは特許文献2に大腸癌細胞株の増殖を抑制するマイクロRNAとして記載したものである。また、miR-532(配列番号5)は、上記において、すい臓がん細胞株の増殖を抑制するマイクロRNA分子としても同定されたマイクロRNA である。miR-34aおよびmiR-532を除くmiR-22、miR-30cからmiR-601、miR-605の14種類のマイクロRNAを配列番号6〜19とした。
【0024】
【表2】
【0025】
マイクロRNA(miRNA)は、miRNA遺伝子から、まず数百から数千ヌクレオチドの長さの1次転写産物が合成される。核内においてマイクロプロセッサーと呼ばれるタンパク質ー酵素複合体によって切断され、約60〜70ヌクレオチドのヘヤピン型前駆体miRNAとなる。エクスポーチン5により核から細胞質へ移行したのち、Dicerと呼ばれるリボヌクレアーゼIIIによって更に消化され、19〜24ヌクレオチドの成熟したmiRNAとなる。成熟したmiRNAは、RNA干渉(RNAi)の制御因子であるArgonauteタンパク質と共に複合体(RNA-induced silencing complex, RISC)を形成し機能する。
【0026】
本発明における配列表の配列番号1〜19で示される塩基配列を有するマイクロRNAは、以下の配列を有し、いずれも成熟した一本鎖のmiRNAである。
【0027】
miR-22: AAGCUGCCAGUUGAAGAACUGU (配列番号6)
miR-30c: UGUAAACAUCCUACACUCUCAGC (配列番号7)
miR-34a: UGGCAGUGUCUUAGCUGGUUGUU (配列番号2)
miR-101: UACAGUACUGUGAUAACUGAA (配列番号8)
miR-124: UAAGGCACGCGGUGAAUGCC (配列番号9)
miR-145: GUCCAGUUUUCCCAGGAAUCCCU (配列番号10)
miR-146b: UGAGAACUGAAUUCCAUAGGCU (配列番号11)
miR-193b: AACUGGCCCUCAAAGUCCCGCU (配列番号12)
miR-206: UGGAAUGUAAGGAAGUGUGUGG (配列番号13)
miR-218: UUGUGCUUGAUCUAACCAUGU (配列番号14)
miR-345: GCUGACUCCUAGUCCAGGGCUC (配列番号15)
miR-424: CAGCAGCAAUUCAUGUUUUGAA (配列番号16)
miR-532: CAUGCCUUGAGUGUAGGACCGU (配列番号5)
miR-551b: GCGACCCAUACUUGGUUUCAG (配列番号17)
miR-601: UGGUCUAGGAUUGUUGGAGGAG (配列番号18)
miR-605: UAAAUCCCAUGGUGCCUUCUCCU (配列番号19)
miR-29b: UAGCACCAUUUGAAAUCAGUGUU (配列番号1)
miR-222: AGCUACAUCUGGCUACUGGGU (配列番号3)
miR-224: CAAGUCACUAGUGGUUCCGUU (配列番号4)
【0028】
miRNAの作用機序は、miRNAの配列と部分相補的な配列を有するメッセンジャーRNA(標的mRNA)とmiRNAを含むRISCとの複合体形成に始まり、標的mRNA上でのリボソームによるタンパク質合成(翻訳過程)の阻害、さらにはP-bodyと呼ばれる細胞内構造体によるmRNAの分解である。本発明においては、miRNAが、腫瘍細胞の増殖亢進にかかわるmRNAの翻訳を抑制し、細胞内のがん抑制ネットワークを活性化することにより腫瘍細胞の増殖を抑制し、細胞死を誘導していることが分かっている(実施例2参照)。
【0029】
miRNAは、相補的な塩基配列を有するRNAとからなる二本鎖の前駆体であることもできる。二本鎖の前駆体は、細胞内で、熱力学的に不安定な端から二本鎖が解けて、成熟した一本鎖のmiRNAとなり、腫瘍細胞の増殖抑制効果を発揮する。
【0030】
相補的な塩基配列を有するRNAは、相補的な塩基配列を有するRNAであること以外に、相補的な塩基配列を有するRNAの一部の核酸が修飾されたRNAであることもできる。そのような修飾をすることで、二本鎖の前駆体の安定性等を向上させることができる。修飾の例としては、例えば2-O(2-メトキシ)エチル−修飾を挙げることができる。
【0031】
本発明の腫瘍増殖抑制剤は、miRNAを細胞内に移送するためのキャリアーを含むことができる。そのようなキャリアーとしては、siRNAを含む種々のRNA用のキャリアーを挙げることができ、例えば、アテロコラーゲンをキャリアーとして挙げることができる。さらに、キャリアーとしては、アテロコラーゲン以外にリポソームなどの既知のデリバリー担体を用いることができる。
【0032】
アテロコラーゲンは、酵素可溶化コラーゲンであり、コラーゲンをペプシン処理することでテロペプチド部分が分解されて得られるポリペプチドである。コラーゲンは、その種類、由来、型等特に制限はない。アテロコラーゲン に加えて、その修飾物も用いることができる。修飾物としては、側鎖アミノ基、カルボキシル基の化学修飾、あるいは化学的・物理的架橋物を用いることができる。また、由来として、ウシ、ブタ、ウマ、ヒト等の哺乳動物、鳥、魚類を由来とするいずれのコラーゲンも用いることが可能であるが、細胞が培養される温度で変化しない熱安定性を持つことが望ましい。具体的には、哺乳動物、鳥由来のコラーゲンが望ましく、若しくはそれらの遺伝子組み換えにより得られたコラーゲンが望ましい。コラーゲンの型については、特に制限はないが、入手の容易さよりI、II、III型などを使用することができる。
【0033】
miRNAとアテロコラーゲンとの質量混合比は複合体の長径が100nm前後である事等を考慮して適宜決定でき、例えば、1:99〜99:1の範囲であることができる。好ましくは10:90〜90:10、より好ましくは30:70〜70:30の範囲で混合することができる。
【0034】
本発明の腫瘍増殖抑制剤は、配列表の配列番号1〜5で示される塩基配列を有するマイクロRNAの少なくとも1種を有効成分として含有するものは、膵がんの腫瘍増殖抑制剤として有効である。本発明の腫瘍増殖抑制剤は、配列番号1〜5で示される塩基配列を有するマイクロRNAの2種以上を有効成分として含有することもできる。
【0035】
また、本発明の腫瘍増殖抑制剤は、配列表の配列番号5〜19で示される塩基配列を有するマイクロRNAの少なくとも1種を有効成分として含有するものは、大腸癌の腫瘍増殖抑制剤として有効である。本発明の腫瘍増殖抑制剤は、配列番号5〜19で示される塩基配列を有するマイクロRNAの2種以上を有効成分として含有することもできる。
【0036】
miR-22による高効率アポトーシス誘導機構
miR-22(配列番号6)を単独で、大腸がん細胞株へ導入することによりアポトーシスを誘導できる(実施例2参照)が、この作用はがん抑制遺伝子p53が野生型の細胞で特に効率よく誘導される。このメカニズムを明らかにするために、miR-22の標的遺伝子の探索を行った(詳細は実施例3参照)。
【0037】
その結果、miR-22がp21を抑制することが明らかとなった。p21は、p53により誘導され、細胞周期を停止させる機能を有するがん抑制遺伝子と考えられてきたが、この機能の反面、p21の誘導はアポトーシスを抑制することが知られている。近年、p21はがん抑制遺伝子としての機能ばかりではなく、がん遺伝子として機能することも明らかとなってきており、p53の活性化を誘導し、p21の発現を誘導しない小分子化合物のスクリーニングと抗がん剤への応用が精力的に世界中で行われているが、未だ、効果的なものは単離されていない。
【0038】
miR-22は、p21 mRNAの3'非翻訳領域に存在するmiR-22認識配列を介して、p21の翻訳を抑制している(図7)。また、細胞に抗がん剤を添加した後に、p53によって誘導されるp21の発現を強く抑制することが明らかとなった(図8)。また、がん細胞に対して、miR-22を導入することにより、抗がん剤への感受性が亢進し、低い濃度の抗がん剤で効率よくがん細胞をアポトーシスへ導くことが可能であることが判明した(図9)。また、miR-22はがん抑制因子p53により直接発現制御を受けることを見出した(図10)。興味深いことに、miR-22のp53による発現制御は、がん細胞にアポトーシスを誘導する濃度の抗がん剤や細胞傷害性ストレスの時にのみ認められた(図11)。これらの結果から、miR-22は、細胞がアポトーシスにより死を選択する際に発現上昇し、p21の発現抑制を介して効率よく細胞死へと誘導する“分子スウィッチ”の役割を果たしている可能性が強く示唆された。また、70%の大腸がん患者では、染色体のmiR-22遺伝子座が高頻度に片アリル欠損していることも確認した。この結果は、miR-22が大腸がんのがん抑制遺伝子である可能性を強く示すと考えられる。
【0039】
miR-22は、大腸発がんにおいてがん抑制因子として機能し、患者で遺伝子座の欠損及び発現低下を示すことから、miR-22を腫瘍組織へ導入することによる、抗腫瘍剤として理想的な核酸分子である。
【0040】
さらに、miR-22はp53変異型のがん細胞株において、細胞周期停止を強く誘導することが明らかとなっている(実施例2参照)。このことは、抗がん剤に対する感受性の亢進に寄与する可能性を示しており、応用範囲の広い抗腫瘍剤の開発候補として有用である。
【0041】
本発明は、上記本発明の腫瘍増殖抑制剤を含有する癌治療用医薬組成物も包含する。
【0042】
本発明に係る癌治療用医薬組成物においては、miRNAの含量は、例えば、100〜500mg、より好ましくは300〜500mgであることが望ましい。さらに本発明に係るmiRNAを有効成分として含有する癌治療用医薬組成物の投与量は、癌患者の病期、年齢、体重等により適宜調節することができ、例えば、100〜500mg、より好ましくは300〜500mgであることが望ましい。かかる投与量を1〜10回、より好ましくは5〜10回投与することが望ましい。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【0044】
参考例
マイクロRNA前駆体を検出するカスタムマイクロアレイの作成
1)使用するヒトマイクロRNA前駆体発現レンチウイルスライブラリーの配列を、公的データベース(miRBase,Ensembl,PubMed)より入手した。
2)これらの配列に対して、プローブ配列設計ソフトウェア(eArray,Agilent社)を用いて、60bpのオリゴヌクレオチドプローブ候補を設計した。この候補と、ヒトマイクロRNA前駆体の配列全体をBlastにて相同性検索を行い、特異性の低いプローブについては同ソフトウェアにて設計しなおした。
3)このプローブ配列を持つカスタムマイクロアレイを作成する(Agilent社)。同一のプローブは、複数箇所へ配置した。
【0045】
実施例1
膵がん抑制的マイクロRNAのスクリーニング
1)445種類のヒトマイクロRNA前駆体を発現するレンチウイルスライブラリー(Lenti-miR Virus Library, SBI社)を、ヒト膵がん細胞株MIA PaCa-2に感染させ、培地皿で培養した。細胞株へ感染したレンチウイルスのゲノムは、細胞株のゲノムへと組み込まれ、導入したマイクロRNA前駆体を発現した。
【0046】
2)培養皿で細胞が増殖したら、このうちの1/8をとり新しい培養皿で培養した(継代)。継代を9回程度繰り返した。継代の際には、使用しなかった残りの7/8の細胞を液体窒素中に保存した。
【0047】
3)感染直後の細胞サンプル(P0)と、9回継代後の細胞サンプル(P9)からそれぞれDNAを抽出した。このDNAは細胞株ゲノムと、レンチウイルス感染により導入したレンチウイルスゲノムの混合物であった。
【0048】
4)このDNAを鋳型としてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行い、レンチウイルス感染により導入したマイクロRNA前駆体DNAを含む部分を選択的に増幅させた。PCRにより鋳型中のマイクロRNA前駆体比が変化することを最小限にするために、PCRは同一の鋳型DNAを用いて4本のチューブで独立に行い、PCR後にこれを混合した。
・PCRのプライマー配列;
forward primer: 5'-GCC TGG AGA CGC CAT CCA CGC TG-3'(配列番号20); reverse primer: 5'-GAT GTG CGC TCT GCC CAC TGA C-3'(配列番号21)
・PCRのプログラム:{94℃, 3分}→{(94℃, 35秒 → 65℃, 35秒 → 72℃, 1分)×25回}→{72℃, 7分}→ 4℃
【0049】
5)以下5)〜9)は、市販のオリゴヌクレオチドCGHアレイのプロトコール・試薬キットを流用する。PCR産物を鋳型として、市販のラベル化キットを用いて酵素的に蛍光色素で標識した(Genomic DNA Enzymatic Labeling Kit, Agilent社)。すなわち、P0、P9のPCR産物を鋳型として、それぞれCy3 dCTP、Cy5-dCTP にてExo-Klenow酵素を用いて蛍光標識されたDNAを合成した。
【0050】
6)市販のフィルターにて、ラベル化されたDNAを回収した(YM-30フィルター、ミリポア社)。
【0051】
7)Cy3、 Cy5にてラベル化標識されたP0、P9のPCR産物を混合し、1で作成したカスタムアレイ上に乗せ、65℃で24時間ハイブリダイゼーションした。
【0052】
8)Wash Buffer1、Wash Buffer2にてアレイを洗浄した(Agilent社)。レーザースキャナーにてアレイをスキャンし、数値化ソフト(FeatureExtraction Software, Agilent社)を用いて傾向強度比(log2(Cy5/Cy3))を算出した。
【0053】
9)表計算ソフトウェアにて、同一のマイクロRNA前駆体の蛍光強度比の平均を算出した。蛍光強度比の平均の大きいものから小さいものへと並べた。
【0054】
10)ヒト膵がん細胞株MIA PaCa-2へ導入し、蛍光強度比が10-1以下となる、すなわち増殖を強く抑制する5つのマイクロRNAとしてマイクロRNA-222、-224、-29b、-34a、-532(配列番号1〜5)を同定した。
【0055】
【表3】
【0056】
また、これらのマイクロRNAを個別にすい臓がん細胞株へ導入し、継時的に細胞数を計測することにより、細胞増殖抑制効果の確認を行った(図1)。図1に示すように、候補マイクロRNAは、いずれも、すい臓がん細胞株の増殖を強く抑制することが判明した。
【0057】
実施例2
大腸がん抑制的マイクロRNAの同定
1)ヒト大腸がん細胞株HCT 116及びSW480細胞へ、レンチウイルスmiRNA発現ライブラリーを感染させ、一定期間培養した。継代培養を繰り返し、各継代毎に細胞を凍結保存し、DNA調製用とした。感染直後及び9回継代培養後の細胞から、ゲノムDNAを調製し、PCRにより細胞集団に組み込まれたレンチウイルス由来のmiRNA遺伝子領域を増幅した。以後の実験操作は上記実施例1の方法と同じである。蛍光強度比が10-1以下となるクローンを候補として抽出した。
【0058】
以下の表に示す16種類のマイクロRNAが大腸がん細胞株の増殖を有意に抑制する候補として抽出された。
【0059】
【表4】
【0060】
2)候補マイクロRNAの絞り込み
上記の方法により抽出した、候補miRNAの細胞増殖抑制効果を検討するため、HCT116及びSW480細胞へ、22塩基の成熟型合成miRNA(Applied Biosystems社、Pre-miRNA)を導入し、3〜5日間培養した。一定期間培養したのちに、顕微鏡下で細胞増殖抑制効果を評価した(図2)。細胞増殖抑制効果は、negative control miRNAを導入した細胞に対し、候補miRNAを導入した細胞の形態及び細胞数により評価した。特に増殖抑制効果が顕著であるものに対しては、MTS法により細胞増殖に及ぼす影響を定量的に評価した。
【0061】
表4に示すマイクロRNAを大腸癌細胞株HCT 116へ個別に導入し、5日間培養後の顕微鏡観察像である図2の結果から、miR-22, 34a, 101, 124, 193b, 206, 424, 532, 601, 605は強い細胞死誘導活性を有することが分かる。
【0062】
表4に示すマイクロRNAをp53変異型SW480大腸癌細胞へ個別に導入し、5日間培養後の顕微鏡観察像である図3の結果から、上記の増殖抑制効果は、p53野生型のHCT 116細胞のみならず、p53変異型SW480細胞でも認められた。
【0063】
図2と図3を見比べてみると、miR-345はp53変異型の細胞株で強い効果が認められる。また、miR-124も同様の傾向が認められた。一方、miR-22, 101, 601は両細胞株に対して、強い細胞死の誘導効果を有することがわかる。
【0064】
3)ヒト大腸がん検体における候補miRNAの発現
miR-22、miR-101、miR-30c、miR-345、 miR-193bの大腸がん検体における発現を調べるために、24検体のヒト大腸がん組織における発現を定量的RT-PCR法で評価した。24症例の大腸がん手術検体及び同一個体由来の非がん部から、総RNAを調製し、定量的PCR法により、がん組織における当該miRNAの発現量を定量した。定量的RT-PCR法は、Applied Biosystems社のTaqMan miRNA 発現定量システムを用いて行った。結果を図4aおよび4bに示す(発現はがん部/非がん部、での相対定量により表示)。
【0065】
治療薬への応用に際しては、正常組織で発現しており、がん組織で著しい発現低下を示す分子が好ましい。候補miRNAのうち3種類(miR-22、miR-101、miR-30c)の発現が半数以上の大腸癌検体で認められた。また、miR-345およびmiR-193bについても、大腸癌検体で発現低下が認められた。
【0066】
4)治療薬候補miRNAの機能
がん臨床検体を用いた発現解析から、50%以上の大腸癌検体で発現低下を示した、miR-22、miR-101、miR-30cに関して、これらmiRNAを導入することによる細胞内遺伝子発現変化の解析を行った。大腸がん細胞株HCT 116へmiR-22、miR-101、miR-30cの成熟型miRNAを単独で導入し(Apllied Biosystems 社、pre-miR)、3日間培養したのち、遺伝子発現解析をAgilent社の発現解析アレイを用いて行った。同様に各々のmiRNAをHCT 116細胞へ導入し、3日間培養した細胞からタンパク質を調製し、イッムノブロット解析のサンプルとした。さらに、同様の方法で候補miRNAを導入した細胞を用いて細胞周期の解析を行った。
【0067】
マイクロアレイ解析から、miR-22、miR-101、miR-30cを導入することにより、がん抑制因子p53と関連する細胞内シグナル伝達系が活性化することが判明した。図5には、当該miRNAによりp53及びp53関連因子(p21、NOXA、LATS2)の発現が亢進することをイムノブロット法で検出したものを示す。また、図6に示す結果から、miR-22及びmiR-101を導入したがん細胞はアポトーシス誘導により細胞増殖が抑制されていることも判明した。一方、miR-30cは細胞周期の停止を誘導していることが分かった。これらの結果から、これら3つのmiRNAは、腫瘍抑制因子群を活性化することにより細胞増殖を抑制していることが分かった。
【0068】
以上の結果を以下にまとめる。
表4中には、特許文献2に記載したがん抑制的miRNAであるmiR-34aが含まれていた。miR-34aを除く、miR-22〜miR-424、 miR-551b〜miR-605は配列番号6〜19に示す。miR-532(配列番号5)は、前述のようにヒト膵がん細胞株の増殖も抑制する。miR-22、miR-30c、miR-101、miR-345、miR-193bについては、強い細胞増殖抑制効果を示した。また、この効果は代表的ながん抑制因子であるp53の変異した細胞株でも認められた。したがって、miR-22、miR-30c、miR-101、miR-345、miR-193bについては、抗腫瘍薬の成分としては、広範な大腸癌へ応用できると考えられる。
【0069】
また、これらのmiRNAは、ヒト大腸癌検体で発現が低下しているものが多いことが分かった。特にmiR-22、miR-30c、miR-101に関しては、おおよそ半数の検体において共通して発現低下していることが判明した。これらの結果から、この3種類のmiRNAに関しては、治療薬成分としての有用性が特に高いと考えられる。
【0070】
上記で単離したマイクロRNA分子において、大腸がんとすい臓がんで共通する分子はmiR-34aとmiR-532のみであり、その他は共通するものはなかった。実験には、同じライブラリーと検出方法を用いていることから、マイクロRNAの機能は組織(細胞)に特異的であることが強く示唆される。すなわち、miR-532以外は、大腸がんまたはすい臓がん特異的に抗増殖効果を示すマイクロRNAである。この事実は、miR-532以外は、他の細胞への影響が少ない(すなわち副作用の少ない)治療薬を提供できる可能性を示すものである。
【0071】
実施例3
実験方法
miR-22標的遺伝子の同定:大腸がん細胞株HCT 116へ、miRNAの制御因子の一つであるAGO2を恒常的に発現させる細胞株を樹立した。導入したAGO2は、HAタグを付加することにより、HA抗体を用いた解析が可能となる。HCT116-AGO2細胞へ、miR-22及びネガティブコントロールmiRNAを導入し、24時間培養した。細胞抽出液を調製し、抗HA抗体を用いてAGO2を免疫沈降した。免疫沈降物から、RNAを常法に従い調製し、カラムにより精製した後、マイクロアレイ解析を行った。サイクリン依存性キナーゼインヒビターp21を同定した。
【0072】
miR-22によるp21発現抑制の測定
P21の3'非翻訳領域を挿入したルシフェラーゼレポーター遺伝子を構築した。このレポータープラスミドとmiR-22をがん細胞へ、常法により導入し、24時間培養した後、ルシフェラーゼの活性を測定した。内在性コントロールの測定値を基準にし、miR-22によるp21非翻訳領域を介した発現抑制効果を示した。結果を図7に示す。
【0073】
図7は、HCT 116 細胞へp21 mRNAの3'UTR領域を挿入したルシフェラーゼレポータープラスミドとネガティブコントロールmiRNA(NC)またはmiR-22(22)を導入し、ルシフェラーゼ活性を測定した結果である。グラフは相対的活性値を示す。図7では、miR-22が結合する領域に変異を導入したp21 3'UTRを連結したルシフェラーゼレポータープラスミドを用いた場合は、miR-22による抑制活性が減弱していることが分かる。
【0074】
miR-22によるp21発現誘導の抑制効果
miR-22及びネガティブコントロールmiRNAを大腸がん細胞、HCT116へリポフェクション法により導入し、2日間培養した後、細胞を抗がん剤であるアドリアマイシンで処理し、継時的に細胞抽出液を調製した。イッムノブロット法により、p21の発現を確認した。結果を図8に示す。
【0075】
大腸がん細胞株HCT 116細胞へ、miR-22及びネガティブコントロールmiRNA(miR-NC)を導入し、48時間培養した後、抗がん剤であるアドリアマイシン(ADR)を添加した。細胞抽出液を図に示した時間で継時的に調製し、イッムノブロット法でp21の発現誘導を解析した。miR-NCを導入した細胞では、ADR添加後、p53が活性化され、それに伴ってp21の発現が誘導されることが分かる。一方、miR-22を導入した細胞では、p21の発現が強く抑制されていることが分かる。GAPDHは、電気泳動の際、等量のタンパク質が得移動されているか否かを示す内在性コントロールとして用いている。
【0076】
miR-22によるがん細胞の抗がん剤感受性の増大
HCT 116 細胞へ、miR-22及びコントロールmiRNAを上記方法により導入し、一晩培養した。細胞を低濃度のアドリアマイシンで処理し、一晩培養した後、死細胞をフローサイトメトリー(FACS)で検出した。細胞死の判定はPI染色によるDNA検出パターンの変化により判断した。また、アポトーシスに伴って切断される細胞内タンパク質PARP-1の検出も同時に行った。結果を図9に示す。
【0077】
HCT 116細胞を低濃度のアドリアマイシン(ADR)で処理し、24時間培養した後、フローサイトメーターで細胞死を検出した。右上のパネルに示すように、低濃度のADR処理では、細胞死は起こらず、細胞周期の停止が誘導されていることが分かる。一方、miR-22のみを導入した細胞は、弱いアポトーシスが誘導されている(左下パネル)。miR-22と低濃度のADRを両方処理した細胞は、明らかな細胞死を誘導し、細胞周期のパターンが大きく乱れていることが確認された(右下パネル)
【0078】
miR-22のp53依存的発現上昇の解析
HCT 116 細胞をアドリアマイシンで処理し、24時間培養後、細胞内の総RNAを調製した。総RNA16ngを用いて、TaqManリアルタイムPCR法によりmiR-22の発現を定量した。結果を図10に示す。
【0079】
HCT 116大腸がん細胞を、抗がん剤であるアドリアマイシンで処理し、一晩培養した後、総RNAを調製した。miR-22はTaqManリアルタイムPCR法により定量した。miR-22はアドリアマイシン処理後、p53野生型細胞で顕著に発現上昇することが分かる。一方、p53を欠損した細胞では、その発現誘導は認められないことから、miR-22はp53依存的に発現誘導されることが判明した。
【0080】
miR-22の発現調節機構の解析
HCT 116 細胞を低濃度及び高濃度のアドリアマイシンで処理し、継時的にRNAを回収し、リアルタイムPCR法によりmiR-22及びp21 mRNAを定量した。同時に、細胞抽出液を調製し、イムノブロット法によりp53、p21を検出し、アポトーシスのマーカーであるPARP-1の切断を確認した。結果を図11に示す。
【0081】
HCT 116細胞を低濃度のADRで処理すると細胞周期の停止が誘導される。この時、p21のmRNA及びタンパク質レベルの急激な上昇が認められる。一方、高い濃度のADRで処理した細胞では、処理後10時間あたりから細胞死が認められるようになる。この時、miR-22はp21mRNAと同様のキネティックスで発現誘導されることが分かる。興味深いことは、高濃度ADRで36時間培養した細胞では、p21 mRNAの発現量が上昇しているにもかかわらず、タンパク質レベルはほとんど変化しないことが分かった。この時、miR-22の発現は上昇している。これらの結果から、miR-22は、細胞がアポトーシスを選択する際に発現誘導される可能性が考えられる。
【0082】
まとめ
miR-22の抗腫瘍細胞増殖活性について、分子レベルでの新たな知見を記した。miR-22が標的とするp21は、古典的に細胞周期の亢進を抑制するがん抑制遺伝子として考えられてきた。近年、p21はアポトーシスを抑制し、細胞の生存に深く関連することや、がん幹細胞におけるp21の重要性が報告されている。抗がん剤としては、p53の活性化を誘導し、p21の活性化を伴わない小分子化合物が効果的である事が報告されている。即ち、p53活性化とp21の抑制を同時に引き起こすと細胞死を効率よく誘導される。miR-22は、内在性に発現するsmall non-coding RNAであり、内在性因子がp53の活性化に伴ってp21の発現を抑制することができる。これは、抗がん剤の効果を増感するばかりではなく、副作用の低減化に大きく貢献できる分子である事を示している。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、マイクロRNAによる細胞増殖抑制による癌治療の分野に有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列表の配列番号1〜19で示される塩基配列を有するマイクロRNAの少なくとも1種を有効成分として含有する腫瘍増殖抑制剤。
【請求項2】
配列表の配列番号1〜5で示される塩基配列を有するマイクロRNAの少なくとも1種を有効成分として含有し、腫瘍が膵がんである請求項1に記載の腫瘍増殖抑制剤。
【請求項3】
配列表の配列番号5〜19で示される塩基配列を有するマイクロRNAの少なくとも1種を有効成分として含有し、腫瘍が大腸癌である請求項1に記載の腫瘍増殖抑制剤。
【請求項4】
配列表の配列番号6で示される塩基配列を有するマイクロRNAmiR-22を有効成分として含有し、腫瘍が大腸癌である請求項1に記載の腫瘍増殖抑制剤。
【請求項5】
前記マイクロRNAは、相補的な塩基配列を有するRNAまたはDNAとからなる二本鎖の前駆体である請求項1〜4のいずれかに記載の腫瘍増殖抑制剤。
【請求項6】
相補的な塩基配列を有するRNAが修飾されたRNAである請求項5に記載の腫瘍増殖抑制剤。
【請求項7】
キャリアーとして、アテロコラーゲンをさらに含有する請求項1〜6のいずれか1項に記載の腫瘍増殖抑制剤。
【請求項8】
マイクロRNAとアテロコラーゲンとの質量混合比が1:99〜99:1の範囲である請求項7に記載の腫瘍増殖抑制剤。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の腫瘍増殖抑制剤を含有する癌治療用医薬組成物。
【請求項1】
配列表の配列番号1〜19で示される塩基配列を有するマイクロRNAの少なくとも1種を有効成分として含有する腫瘍増殖抑制剤。
【請求項2】
配列表の配列番号1〜5で示される塩基配列を有するマイクロRNAの少なくとも1種を有効成分として含有し、腫瘍が膵がんである請求項1に記載の腫瘍増殖抑制剤。
【請求項3】
配列表の配列番号5〜19で示される塩基配列を有するマイクロRNAの少なくとも1種を有効成分として含有し、腫瘍が大腸癌である請求項1に記載の腫瘍増殖抑制剤。
【請求項4】
配列表の配列番号6で示される塩基配列を有するマイクロRNAmiR-22を有効成分として含有し、腫瘍が大腸癌である請求項1に記載の腫瘍増殖抑制剤。
【請求項5】
前記マイクロRNAは、相補的な塩基配列を有するRNAまたはDNAとからなる二本鎖の前駆体である請求項1〜4のいずれかに記載の腫瘍増殖抑制剤。
【請求項6】
相補的な塩基配列を有するRNAが修飾されたRNAである請求項5に記載の腫瘍増殖抑制剤。
【請求項7】
キャリアーとして、アテロコラーゲンをさらに含有する請求項1〜6のいずれか1項に記載の腫瘍増殖抑制剤。
【請求項8】
マイクロRNAとアテロコラーゲンとの質量混合比が1:99〜99:1の範囲である請求項7に記載の腫瘍増殖抑制剤。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の腫瘍増殖抑制剤を含有する癌治療用医薬組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4a】
【図4b】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4a】
【図4b】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−93892(P2011−93892A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220275(P2010−220275)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【Fターム(参考)】
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