説明

がん細胞の検出方法及び装置

【課題】精度が良く信頼性の高い、がん細胞の判定方法を提供する。
【解決手段】リンパ節組織等の生体試料を緩衝液で処理し、組織中のRNAとペプチドを液中に移行させた後、サイトケラチン等の腫瘍マーカー遺伝子から転写されたmRNAを定量する工程、前記生体試料中の前記腫瘍マーカー遺伝子から翻訳されたポリペプチドを定量する工程、及び前記mRNAの定量結果及び前記ポリペプチドの定量結果に基づいて前記生体試料中のがん細胞を検出する工程、を含むがん細胞の検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体試料に含まれるがん細胞を検出する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生体から採取した試料(生体試料)中のがん細胞を検出するために、生体試料中の腫瘍マーカー遺伝子の発現量を測定することが行われている。腫瘍マーカー遺伝子の発現量が正常細胞の発現量よりも大きい(又は小さい)場合は、前記生体試料中にがん細胞が含まれていることが疑われる。
【0003】
上記のようにして生体試料中のがん細胞を検出することにより、その生体試料におけるがんの発見やその生体試料へのがん転移の有無の判定を行うことができる。例えば特許文献1には、組織又は体液(body tissue or fluid)などの生体試料からRNA試料を抽出・精製し、このRNA試料にがん関連配列(腫瘍マーカー遺伝子のmRNA)が含まれているか否かを判定することによってがんの転移を判定する方法が開示されている。
【0004】
【特許文献1】米国特許5766888号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記のような従来のmRNA発現量に基づくがん細胞の検出方法よりも精度が良く信頼性の高い検出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0006】
本発明は、生体試料に含まれる腫瘍マーカー遺伝子から転写されたmRNAを定量する工程、前記生体試料中の前記腫瘍マーカー遺伝子から翻訳されたポリペプチドを定量する工程、及び前記mRNAの定量結果及び前記ポリペプチドの定量結果に基づいて前記生体試料中のがん細胞を検出する工程、を含むがん細胞の検出方法を提供する。
【0007】
これにより、精度良く信頼性の高いがん細胞の検出方法を提供することができる。
【0008】
上記検出方法において、前記生体試料がリンパ節組織であり、前記mRNAの定量及び前記ポリペプチドの定量が、前記生体試料から調製された検出用試料を用いて行われることが好ましい。
【0009】
これにより、がん細胞がリンパ節に転移しているか否かを判定することができる。
【0010】
上記検出方法において、前記mRNAの定量及び前記ポリペプチドの定量が、同じ検出用試料を用いて行われることが好ましい。
【0011】
これにより、mRNAの定量用試料とポリペプチドの定量用試料とを別々に調製する必要がなく、より簡便にがん細胞の検出を行うことができる。
【0012】
また、本発明は、生体試料と緩衝液とを混合することにより調製された検出用試料に含まれる、腫瘍マーカー遺伝子から転写されたmRNAを検出する工程、前記検出用試料に含まれる、腫瘍マーカー遺伝子から翻訳されたポリペプチドを検出する工程、及び前記mRNAの検出結果及び前記ポリペプチドの検出結果に基づいて前記生体試料中のがん細胞を検出する工程、を含むがん細胞の検出方法を提供する。
【0013】
本明細書において、検出とは、検出用試料中に測定対象となる分子(mRNAやポリペプチド)が含まれているか否かを定性的に判定すること、及びこの分子を定量することを含む。
【0014】
これにより、mRNAの測定用試料とポリペプチドの定量用試料とを別々に調製する必要がなく、より簡便にがん細胞の検出を行うことができる。
【0015】
また、本発明は、核酸及びポリペプチドを検出するための検出用試料を調製する方法であって、ジメチルスルホキシド及び界面活性剤を含み、pHが2.5〜5.0である緩衝液を用いて生体試料を処理することにより、前記生体試料に含まれる核酸及びポリペプチドを溶液中に移行させて検出用試料を調製することを特徴とする、検出用試料調製方法を提供する。
【0016】
この方法を用いることにより、核酸及びポリペプチドを含む検出用試料を調製することができ、核酸の測定及びポリペプチドの測定を同一の検出用試料から行うことができる。従って、核酸の測定用試料とポリペプチドの測定用試料とを別々に調製する必要がなく、より簡便に核酸及びポリペプチドの測定を行うことができる。
【0017】
また、本発明は、生体試料に含まれる腫瘍マーカー遺伝子から転写されたmRNAを定量する第1定量手段、前記生体試料に含まれる腫瘍マーカー遺伝子から翻訳されたポリペプチドを定量する第2定量手段、及び前記mRNAの定量結果及び前記ポリペプチドの定量結果に基づいて前記生体試料中のがん細胞を検出する判定手段、を備えたがん細胞の検出装置を提供する。
【0018】
これにより、高い信頼性で精度良くがん細胞を検出できる装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の一実施形態であるがん細胞の検出方法は、複数の細胞を含む生体試料中のがん細胞を検出する方法であり、
所定の腫瘍マーカー遺伝子から転写されたmRNAを定量する第1定量工程、
この遺伝子から翻訳されたポリペプチドを定量する第2定量工程、及び
mRNAの定量結果とポリペプチドの定量結果とに基づいて生体試料中のがん細胞を検出する検出工程、を含む。
【0020】
本明細書におけるがんとは、悪性化した腫瘍のことであり、悪性腫瘍と同義である。がんには、癌腫、肉腫、造血器由来のがんなどが含まれる。癌腫としては、乳がん、胃がん、大腸がん、前立腺がん、子宮頸部がん、子宮体部がんなどの上皮細胞由来のがんが例示される。肉腫としては、骨肉腫、軟部肉腫などが例示される。造血器由来のがんとしては、白血病や悪性リンパ腫などが例示される。
【0021】
生体試料としては、ヒト等の動物から採取された複数の細胞を含む試料であれば特に限定されない。例えば、尿や糞便等の排泄物、血液、生検や摘出手術等の外科的手法により採取した組織等が挙げられ、特に生検により採取された組織であることが好ましい。組織を用いて上記方法を実施した場合は、この組織ががん化しているか否か、他の組織に原発巣が認められる場合は原発巣からこの組織にがん細胞が転移しているか否か、等を判定することができる。この判定結果は、治療方針や組織郭清領域を決定する際の指標の1つとして用いることができる。例えば、乳がん患者から腫瘍の近傍のリンパ節組織を生検により採取し、上記方法によってがんのリンパ節転移の有無を判定することは、リンパ節を摘出すべきか、或いはどの程度郭清すべきか等を決定する一助となる。
【0022】
第1定量工程においては、上記の生体試料に含まれる腫瘍マーカー遺伝子から転写されたmRNAが定量される。腫瘍マーカー遺伝子とは、上述したようにがん細胞における発現量と正常細胞における発現量が有意に異なる遺伝子であり、用いる生体試料やがんの種類によって異なる。腫瘍マーカー遺伝子の例としては、CK18、CK19、CK20などのCK (サイトケラチン)、CEA(癌胎児性抗原)、MUC1、MMG (マンマグロビン)、PSA(前立腺特異抗原:Prostate specific antigen)、CA15−3、EpCAM(Epithelial cellular adhesion molecule)等をコードする遺伝子が挙げられる。
【0023】
mRNAの定量に際しては、上記の生体試料から検出用試料を調製し、この検出用試料に含まれるmRNAを定量することが好ましい。例えば生体試料と緩衝液とを混合し、緩衝液中の細胞に対して化学的及び/又は物理的処理を行うことによって細胞中のRNAを液中に移行させ、このRNAを含む溶液を検出用試料とすることができる。
【0024】
RNAの分解を抑制するために緩衝液は強酸性であることが好ましい。pHの好ましい範囲は2.5〜5.0であり、より好ましくは3.0〜4.0である。pHをこの範囲に保つために、公知の緩衝液を用いることができる。
【0025】
また、緩衝液には界面活性剤を含有させることが好ましい。界面活性剤によって細胞膜や核膜が損傷するため、この損傷を通して細胞中の核酸が溶液中に移行しやすくなる。このような作用を有するものであれば界面活性剤の種類は特に限定されないが、非イオン性界面活性剤が好ましく、ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤がよりこのましい。特に、次のような一般式:
R1−R2−(CHCHO)−H
(ここで、R1は炭素数10〜22のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、イソオクチル基;R2は−O−又は−(C)−O−;nは8〜120の整数)
で表されるポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤が好適であり、例えばポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンミリスチリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンイソオクチルフェニルエーテルなどが挙げられる。具体的には、Brij35(ポリオキシエチレン(35)ラウリルエーテル)などが好適である。緩衝液中の界面活性剤の濃度は0.1〜6%(v/v)が好ましく、より好ましくは1〜5%(v/v)である。
【0026】
また、mRNAの定量を後述の核酸増幅により行う場合は、緩衝液にさらにジメチルスルホキシド(DMSO)を含有させることが好ましい。生体試料には、核酸増幅における酵素反応を阻害する物質(阻害物質)が含まれていることがあるが、DMSOの作用によってこの阻害物質の影響を効果的に低減することができる。また、DMSOには核酸増幅酵素の活性の低下を抑制する効果もある。緩衝液中のDMSOの濃度としては、1〜50%(v/v)が好ましく、5〜30%(v/v)がより好ましく、10〜25%(v/v)が最も好ましい。
【0027】
検出用試料調製の際には、生体試料に対してホモジナイズ等の物理的処理を施すことが好ましい。これにより、生体試料中の細胞の細胞膜や核膜が物理的に破砕され、細胞内の核酸が溶液中に移行しやすくなる。ホモジナイズは、ペッスルなどによって手動で行ってもよいし、市販の電動ホモジナイザを用いて行ってもよい。得られたホモジネートを数秒〜数分間遠心分離することによってホモジネート中に浮遊していた細胞の破片等を沈殿させることができる。これにより、RNA等を含む上清を検出用試料とすることができる。
【0028】
mRNAの定量は、核酸増幅やDNAチップ等を用いて公知の方法により行うことができる。核酸増幅法を用いる場合は、核酸増幅反応の前に逆転写反応を含むRTPCR(Reverse Transcription PCR)法やRTLAMP(Reverse Transcription LAMP:LAMP法については米国特許6410278号公報参照)法などが好適に用いられる。特に、定量的核酸増幅法としては、SYBR Green法やTaqMan(ロシュダイアグノスティクス社の登録商標)法(Linda G. Lee, 1993, Nucleic Acids Research, vol.21, p3761-3766等参照)などの公知の方法を用いることができる。
【0029】
mRNAの定量に用いることのできるDNAチップとしては、上記の腫瘍マーカー遺伝子のcDNAとハイブリダイズ可能なDNAのポリヌクレオチド及び/又はその断片を固定化した基盤を用いることができる。DNAチップを用いたRNAの検出は、一般的に用いられる公知の方法により行うことができる。例えば、以下のようにして行うことができる。先ず、検出用試料中のmRNAの3’末端に存在するポリA配列を利用して逆転写反応を行う。逆転写反応の際に例えばCy3やCy5などの蛍光物質で標識されたヌクレオチドを用いることにより、蛍光標識されたcDNAが合成される。これを上記のポリヌクレオチドを固定化した基盤と接触させると、このポリヌクレオチドと標識されたcDNAとが二本鎖を形成する。二本鎖を形成させた後、cDNAの蛍光を測定することにより、mRNAを定量することができる。
【0030】
上述の方法によって測定されたmRNAの定量値は、単位体積当たりのmRNAの物質量、mRNA重量、コピー数などであってもよいし、反応液の蛍光強度や濁度が所定の値に達するまでの時間、サイクル数(PCRを用いた場合)などであってもよい。
【0031】
第2定量工程においては、上述の腫瘍マーカー遺伝子から翻訳されたポリペプチドが定量される。ポリペプチドとしては、腫瘍マーカー遺伝子から翻訳されるタンパク質であってもよいし、その断片であってもよい。
【0032】
ポリペプチドの定量に際しては、上記の生体試料から検出用試料を調製し、この検出用試料に含まれるポリペプチドを定量することが好ましい。この検出用試料は、mRNAを定量する際に用いる検出用試料とは異なるポリペプチド検出用試料であっても良いが、好ましくは、mRNA定量の際に調製された検出用試料と同一ものが用いられる。これによって、mRNA定量用試料とポリペプチド定量用試料の2種類の試料を調製する手間を省くことができ、より簡便・短時間で試料調製を行うことができる。
【0033】
従来は、mRNAを定量する際は、RNA抽出用キットなどを用いて生体試料に抽出・精製などの処理を繰り返すことにより、実質的にRNAのみを含む試料を調製し、これを検出用試料としていた。この処理を行うと、生体試料中のポリペプチドや破砕された細胞の破片等は廃棄されるため、同一の生体試料からポリペプチドを定量するためには、ポリペプチド定量用の検出用試料を再び調製する必要があった。しかしながら、上記のpHであり上記の様な界面活性剤を含む緩衝液を用いて調製されたmRNAの検出用試料は、腫瘍マーカー遺伝子のポリペプチドを含んでいるため、同一の試料を用いてmRNAの定量及びポリペプチドの定量を行うことができる。
【0034】
ポリペプチドの定量は、公知の方法により行うことができ、特に限定されない。例えば、プロテインチップ等を用いた解析法、ドットブロット法やウェスタンブロット法などのイムノブロット法、放射免疫測定法(RIA)、酵素免疫測定法(EIA)、蛍光免疫測定法(FIA)、化学発光免疫測定法(CLIA)、カウンティングイムノアッセイ法(CIA: Sysmex Journal Vol.20 No.1, 77-86(1997)参照)などを用いることができる。これらのうち、ウェスタンブロット法を用いると、検出用試料に含まれるポリペプチドの種類を分子量に基づいて分離することができるため、より特異的に目的とするポリペプチドを定量することができる。
【0035】
ポリペプチドの定量値は、予め作製された検量線に基づいて算出されることが好ましい。検量線は、既知量のタンパク質を含む試料を用いて検出用試料のポリペプチド測定と同様の条件で測定することにより作成することができる。
【0036】
上記の様にして測定されたmRNAの定量結果及びポリペプチドの定量結果に基づいて生体試料中のがん細胞が検出される。この工程では生体試料にがん細胞が含まれるか否かが予測される。これら両方の定量結果の組み合わせに基づいてがん細胞を検出してもよいし、mRNA及びポリペプチドの一方の定量結果に基づいて先ず判定を行い、他方の定量結果を用いて前記判定の結果を確認してもよい。mRNA及びポリペプチドの両方の定量結果に基づいて得られる判定結果は、いずれか一方の定量結果のみを用いた判定結果よりも精度がよく、より信頼性も高い。
【0037】
生体試料中のがん細胞は、mRNAの定量値を対応する第1の閾値と比較した比較結果と、ポリペプチドの定量値を対応する第2の閾値と比較した比較結果とに基づいて検出してもよい。例えば、正常細胞よりもがん細胞において発現量が大きい腫瘍マーカー遺伝子の場合、mRNAの定量値が第1の閾値以上であり、ポリペプチドの定量値が第2の閾値以上である場合は、生体試料中にがん細胞が含まれる、と予測することができる。また、mRNAの定量値が第1の閾値以上であるか、又はポリペプチドの定量値が第2の閾値以上である場合に、生体試料中にがん細胞が含まれる、と予測してもよい。
【0038】
第1の閾値及び第2の閾値は、がんや腫瘍マーカーの種類に応じて適宜設定される値である。これらの閾値は、がん細胞の存在が確認された生体試料(陽性検体)に含まれる腫瘍マーカー量以下であって、がん細胞が存在しないことが確認された生体試料(陰性検体)に含まれる腫瘍マーカー量よりも高い値に設定することができる。特に、複数の陽性検体の腫瘍マーカー量と複数の陰性検体の腫瘍マーカー量とを予め測定し、最も高確率に陽性検体と陰性検体とを区別できる値を閾値として設定することが好ましい。
【0039】
また、上記の緩衝液で調製された検出用試料に含まれる、腫瘍マーカー遺伝子から転写されたmRNAを定性的に検出し、この検出用試料に含まれる腫瘍マーカー遺伝子から翻訳されたポリペプチドを定性的に検出し、これらの検出結果に基づいて生体試料中のがん細胞を検出してもよい。この場合、例えば検出用試料中にmRNAが存在すると判定され、且つポリペプチドが存在すると判定された場合は、生体試料中にがん細胞が含まれていると判定される。
【0040】
mRNAの定性的検出方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができ、例えば、上述したRTPCRやRTLAMPで核酸増幅を行った反応液を用いてアガロースゲル電気泳動等を行うことにより検出を行うことができる。また、ポリペプチドの定性的検出方法も特に限定されず、上述した公知のイムノアッセイ等を用いることができる。
【0041】
本発明の別の実施形態は、上述の方法を実施するためのがん細胞の検出装置である。以下、図面に基づき、この装置について説明する。
【0042】
図1は、本発明の一実施形態によるがん細胞検出装置1の全体構成を示した斜視図である。この装置1は、核酸定量部100と、タンパク質定量部101と、これらと有線又は無線による通信ができるように接続されたパーソナルコンピュータ(PC)102とにより構成される。パーソナルコンピュータ102は、図1に示すように、モニタからなる表示部102cと、試料の測定結果を分析するCPU102dとを含む。
【0043】
以下、図2及び図3を用いて、装置1の核酸定量部100について説明する。図2は、核酸定量部100の全体構成を示した斜視図である。図3は、図2の核酸定量部の概略平面図である。
【0044】
核酸定量部100は、図2に示すように分注機構部10と、試料セット部20と、チップセット部30と、チップ廃棄部40と、5つの反応検出ブロック50aからなる反応検出部50と、分注機構部10をX軸方向及びY軸方向に移送するための移送部60とを含んでいる。
【0045】
また、分注機構部10は、図2に示すように、移送部60によりX軸方向及びY軸方向(水平方向)に移動されるアーム部11と、アーム部11に対してそれぞれ独立してZ軸方向(垂直方向)に移動可能な2連(2本)のシリンジ部12とを含んでいる。
【0046】
また、図2及び図3に示すように、試料セット部20には、装置の手前から順番に、10個の試料容器セット孔21a〜21jと、1つの酵素試薬容器セット孔21k及び1つのプライマ試薬容器セット孔21lとが設けられている。また、10個の試料容器セット孔21a〜21jは、5行2列に配列するように設けられている。そして、試料容器セット孔21c及び21dと、試料容器セット孔21e及び21fと、試料容器セット孔21g及び21hと、試料容器セット孔21i及び21jとは、それぞれ、装置の奥側から順に、試料セット位置1、試料セット位置2、試料セット位置3及び試料セット位置4に設けられている。
【0047】
また、本実施形態では、正面左側の試料容器セット孔21c、21e、21g及び21iには、予め切除生体組織を上述の処理(ホモジナイズ、ろ過など)を施して調製された可溶化抽出液(検出用試料)が収容された試料容器22がセットされるとともに、正面右側の試料容器セット孔21d、21f、21h及び21jには、上記した試料を10倍に希釈した希釈試料が収容された試料容器23がセットされる。
【0048】
また、試料容器セット孔21aには、増幅するべき核酸が正常に増幅することを確認するための陽性コントロールが収容された容器24が載置されるとともに、試料容器セット孔21bには、増幅するべきでない核酸が正常に増幅しないことを確認するための陰性コントロールを収容した容器25がセットされる。
【0049】
また、酵素試薬容器セット孔21k及びプライマ試薬容器セット孔21lには、それぞれ、CK19のmRNA(以下、CK19mRNAともいう)に対応するcDNA(以下、CK19cDNAともいう)を増幅するための核酸増幅酵素試薬が収容された酵素試薬容器26と、CK19cDNAにハイブリダイズ可能なプライマを含む試薬(以下、プライマ試薬とする)が収容されたプライマ試薬容器27とがセットされている。
【0050】
また、反応検出部50の各反応検出ブロック50aは、図2及び図3に示すように、反応部51と、2つの濁度検出部52と、蓋閉機構部53(図3参照)とから構成されている。各反応検出ブロック50aに設けられる反応部51には、図3に示すように、検出セル54をセットするための2つの検出セルセット孔51aが設けられている。各反応検出ブロック50aは、装置の奥側から順に、セルセット位置1、セルセット位置2、セルセット位置3、セルセット位置4及びセルセット位置5に配置されている。
【0051】
また、濁度検出部52は、反応部51の一方の側面側に配置された基板55aに取り付けられた465nmの波長を有する青色LEDからなるLED光源部52aと、反応部51の他方の側面側に配置された基板55bに取り付けられたフォトダイオード受光部52bとによって構成されている。各反応検出ブロック50aには、1つのLED光源部52aと1つのフォトダイオード受光部52bとからなる1組の濁度検出部52が2組ずつ配置されている。
【0052】
また、検出セル54は、試料を収容するため2つのセル部54aと、2つのセル部54aを塞ぐ2つの蓋部54bとを有している。
【0053】
また、移送部60は、図2に示すように、分注機構部10をY軸方向に移送するための直動ガイド61及びボールネジ62と、ボールネジ62を駆動するためのステッピングモータ63と、分注機構部10をX軸方向に移送するための直動ガイド64及びボールネジ65と、ボールネジ65を駆動するためのステッピングモータ66とを含んでいる。なお、分注機構部10のX軸方向及びY軸方向への移送は、ステッピングモータ63及び66により、それぞれ、ボールネジ62及び65を回転させることにより行う。
【0054】
次に、図1〜図3を参照して、本実施形態による核酸定量部100の動作について説明する。この実施形態では、上記したように、手術によって切除された組織中のCK19mRNA(腫瘍マーカー)に対応するcDNAをRT−LAMP法を用いて増幅させ、増幅に伴い発生するピロリン酸マグネシウムの白濁による濁度の変化を測定することによりCK19mRNAの量(コピー数/μL)を測定し、これを閾値と比較する。
【0055】
まず、図2及び図3に示すように、予め切除組織を処理(ホモジナイズ、ろ過など)して作製された検出用試料(以下、試料ともいう)が収容された試料容器22を試料容器セット孔21c〜21jにセットする。また、陽性コントロールが収容された容器24及び陰性コントロールが収容された容器25を、それぞれ、試料容器セット孔21a及び21b(図3参照)にセットする。また、酵素試薬容器セット孔21k(図3参照)及びプライマ試薬容器セット孔21lに、それぞれ、CK19cDNAの増幅のための核酸増幅酵素試薬が収容された酵素試薬容器26と、CK19cDNAの増幅のためのプライマ試薬が収容されたプライマ試薬容器27とをセットする。また、チップセット部30に、それぞれ36本の使い捨て用のピペットチップ31が収納された2つのラック32を設置する。
【0056】
核酸定量部100の動作がスタートすると、まず、図2に示した移送部60により分注機構部10のアーム部11が初期位置からチップセット部30に移動された後、チップセット部30において、分注機構部10の2つのシリンジ部12が下方向に移動される。これにより、2つのシリンジ部12のノズル部の先端が2つのピペットチップ31の上部開口部内に圧入されるので、2つのシリンジ部12のノズル部の先端にピペットチップ31が自動的に装着される。そして、2つのシリンジ部12が上方に移動された後、分注機構部10のアーム部11は、プライマ試薬が収容されたプライマ試薬容器27の上方に向かってX軸方向に移動される。そして、プライマ試薬容器27の上方に位置する一方のシリンジ部12が下方向に移動されてプライマ試薬が吸引された後、その一方のシリンジ部12が上方向に移動される。その後、他方のシリンジ部12が同じプライマ試薬容器27の上方に位置するように、移送部60により分注機構部10のアーム部11がY軸方向に移動される。そして、他方のシリンジ部12が下方向に移動されて同じプライマ試薬容器27からプライマ試薬が吸引された後、その他方のシリンジ部12が上方向に移動される。このようにして、シリンジ部12に装着される2つのピペットチップ31によりプライマ試薬容器27内のプライマ試薬が吸引される。
【0057】
プライマ試薬の吸引後、2つのシリンジ部12が上方に移動された後、分注機構部10のアーム部11は、移送部60により最も奥側(装置正面奥側)であるセルセット位置1に位置する反応検出ブロック50aの上方に移動される。そして、最も奥側の反応検出ブロック50aにおいて、2つのシリンジ部12が下方向に移動されることにより、2つのシリンジ部12に装着された2つのピペットチップ31が、それぞれ、検出セル54の2つのセル部54a内に挿入される。そして、シリンジ部12を用いて、プライマ試薬がそれぞれ2つのセル部54aに吐出される。
【0058】
プライマ試薬の吐出後、2つのシリンジ部12が上方に移動された後、分注機構部10のアーム部11は、移送部60によりチップ廃棄部40の上方に向かってX軸方向に移動される。そして、チップ廃棄部40において、ピペットチップ31の廃棄が行われる。具体的には、2つのシリンジ部12が下方向に移動されることにより、チップ廃棄部40の2つのチップ廃棄孔40a(図3参照)内にピペットチップ31が挿入される。この状態で、分注機構部10のアーム部11が移送部60によりY軸方向に移動されることにより、ピペットチップ31が溝部40bの下に移動される。そして、2つのシリンジ部12が上方向に移動されることにより、ピペットチップ31の上面のつば部は、溝部40bの両側の下面に当接してその下面から下方向の力を受けるので、ピペットチップ31が2つのシリンジ部12のノズル部から自動的に脱離される。これにより、ピペットチップ31がチップ廃棄部40に廃棄される。
【0059】
次に、同様の動作により、酵素試薬容器26から酵素試薬が上記のセル部54aに吐出され、さらに同様の動作により、試料容器22及び試料容器23から試料が上記のセル部54aに吐出される。
【0060】
そして、上記のセル部54a内へのプライマ試薬、酵素試薬、試料の吐出が行われた後、検出セル54の蓋部54bの蓋閉め動作が行われる。この蓋閉め動作が完了した後、検出セル54内の液温を約20℃から約65℃に加温することにより、RT−LAMP反応によりCK19mRNAに対応するcDNAを増幅する。そして、増幅に伴い生成されるピロリン酸マグネシウムによる白濁を比濁法により検出する。具体的には、図3に示したLED光源部52a及びフォトダイオード受光部52bを用いて、増幅反応時の検出セル54内の濁度を検出(モニタリング)することによって、濁度の検出を行う。
【0061】
試料の濁度データは、核酸定量部100からパーソナルコンピュータ102へリアルタイムに送信される。パーソナルコンピュータ102のCPU102dは、試料の濁度データから単位体積当たりのmRNAコピー数を算出し、これを予め決められた閾値と比較する。
【0062】
次に、図4〜6に基づき、タンパク質定量部101について説明する。タンパク質定量部101では、核酸定量部100で測定に供された試料に含まれるCK19タンパク質の量を測定することができる。
図4は、タンパク質定量部101の全体構成を示した斜視図であり、図5及び6は、タンパク質定量部101によるタンパク質定量の原理を説明するための図である。
【0063】
タンパク質定量部101は、図4に示すように、分注部210と、試薬設置部220と、反応部240と、測定希釈分注部250と、試料受け部260と、光学検出部270と、未使用の反応プレート201を収容する反応プレートトレイ280と、洗浄部300aおよび300bと、制御部310とを含んでいる。
【0064】
分注部210は、図4に示すように、水平方向に直交するX2軸方向およびY2軸方向に移動可能な水平方向移動機構部(図示せず)と、水平方向移動機構部に対して垂直方向(Z2軸方向)に移動可能な検体・ラテックスピペット部211と、プレートキャッチャ部212とを含んでいる。また、検体・ラテックスピペット部211は、試料を分注および吐出する機能を有している。また、検体・ラテックスピペット部211は、試薬ビン203内のラテックス試薬、緩衝液および検体希釈液を分注および吐出する機能も有している。また、プレートキャッチャ部212は、反応プレートトレイ280から未使用の反応プレート201を反応部240に搬送するとともに、使用済みの反応プレート201を反応プレート廃棄箱(図示せず)に搬送するために設けられている。なお、反応プレート201には、試料や各種試薬を収容可能な25個のキュベット201aが設けられている。
【0065】
試薬設置部220は、緩衝液、ラテックス試薬および検体希釈液を収容した試薬ビン203を載置するために設けられている。この際、試薬ビン203内の試薬(緩衝液、ラテックス試薬、検体希釈液)は、所定の温度(15℃以下)に保たれている。そして、試薬設置部220には、装置の奥側から順番に、緩衝液容器セット部221、ラテックス試薬容器セット部222および検体希釈液容器セット部223が設けられている。
【0066】
反応部240は、2枚の反応プレート201のキュベット201a内に収容される試料と、各種試薬(緩衝液、抗CK19抗体を感作したラテックス粒子を含むラテックス試薬、検体希釈液)とを反応させるために設けられている。具体的には、上記した分注部210により分注された試料および試料と各種試薬(緩衝液、ラテックス試薬、検体希釈液)とを攪拌して混合するとともに、その攪拌して混合された試料と各種試薬とを所定の温度に維持することにより、ラテックス試薬の凝集反応を促進させている。つまり、この反応部240では、図5に示すように、抗体が結合したラテックス試薬中のラテックス粒子が、試料中の抗原(CK19タンパク質)を媒介として凝集する凝集反応が行われる。
【0067】
試料中にCK19タンパク質が存在すると、図5右図のように、抗原抗体反応によりCK19タンパク質に抗CK19抗体を感作したラテックス粒子が複数個結合し、粒子凝集が起こる。CK19タンパク質の量が多いほど粒子は凝集するため、試料の凝集度を上記のCIAにより測定することで、CK19タンパク質が定量される。
【0068】
測定希釈分注部250は、図4に示すように、分注部210の後方に配置されており、反応部240の反応プレート201のキュベット201a内の調製試料を吸引および吐出する機能を有している。この測定希釈分注部250は、水平方向に直交するX2軸方向およびY2軸方向に移動可能な水平方向移動機構部(図示せず)と、水平方向移動機構部に対して垂直方向(Z2軸方向)に移動可能な測定希釈ピペット部251とを含んでいる。そして、測定希釈分注部250は、吸引した反応プレート201のキュベット201a内の調製試料を、免疫凝集測定装置200の下部に設置されたタンク(図示せず)に収容される測定希釈液とともに試料受け部260に吐出する。
【0069】
試料受け部260は、上記した反応部240の反応プレート201のキュベット201a内の調製試料および測定希釈液を受け入れるために設けられている。そして、試料受け部260に受け入れられた粒子懸濁液(調製試料および測定希釈液)は、後述する光学検出部270のシースフローセル274(図6参照)に導かれる。
【0070】
光学検出部270は、図6に示すように、光源としてのレーザダイオード271と、コンデンサレンズ272およびコレクタレンズ273と、シースフローセル274と、受光素子としてのフォトダイオード275とから構成されている。シースフローセル274は、粒子懸濁液(調製試料および測定希釈液)の流れを、粒子懸濁液の両側を流れるシース液の流れで挟み込むことにより、扁平な流れに変換する機能を有している。そして、レーザダイオード271からシースフローセル274を流れる粒子懸濁液に照射された光は、粒子懸濁液中のラテックス粒子の凝集塊(図5参照)に散乱されて、フォトダイオード275により受光されるように構成されている。フォトダイオード275により受講された散乱光情報はパーソナルコンピュータ102に送信される。
【0071】
反応プレートトレイ280は、最大4つの未使用の反応プレート201(図4参照)を収容することが可能である。そして、反応プレートトレイ280に収容される反応プレート201は、分注部210のプレートキャッチャ部212(図4参照)により反応部240に搬送される。また、反応プレート廃棄箱は、使用済みの反応プレート201を貯留することが可能であり、分注部210のプレートキャッチャにより反応部240から搬送される。
【0072】
洗浄部300aは、分注部210の検体・ラテックスピペット部211を洗浄するために設けられている。また、洗浄部300bは、測定希釈分注部250の測定希釈ピペット部251を洗浄するために設けられている。
【0073】
パーソナルコンピュータ102のCPU102dは、フォトダイオード275から送信された散乱光情報を取得し、これに基づいて試料中のCK19タンパク質の量を算出する。CPU102dは算出されたCK19タンパク質定量値を予め設定された対応する閾値と比較する。
【0074】
CPU102dの処理フローについて、図7に基づき、説明する。上述のように、CPU102dは核酸定量部100から濁度データを受信し、タンパク質定量部101から散乱光情報を受信する(ステップS1)。濁度データを基にmRNAの発現量を算出し、散乱光情報を基にタンパク質の発現量を算出する(ステップS2)。次に、CPU102dは、CK19mRNA定量値と予め設定された閾値との比較、及びCK19タンパク質定量値と予め設定された閾値との比較を行うことにより、試料中のがん細胞の存否を判定する(ステップS3)。CPU102dは、判定結果をパーソナルコンピュータ102の表示部102cに出力し、表示させる。
【0075】
なお、核酸定量部100及びタンパク質定量部101は別々の装置(即ち、核酸定量装置及びタンパク質定量装置)であってもよい。
また、核酸定量部100及びタンパク質定量部101は同一の試料を用いるため、この試料を各定量部に搬送する搬送装置を備えていてもよい。
【0076】
<実施例1>
1.測定用試料の調製
乳がん患者から切除したリンパ節31個を用いて測定用試料を調製した。これらのうち、ヘマトキシリンエオジン染色した組織切片の検鏡により22個のリンパ節にがん細胞の転移が認められ、9個のリンパ節にがん細胞の転移が認められなかった。
がん細胞の転移が組織学的に認められたリンパ節(陽性リンパ節)22個及びがん細胞の転移が組織学的に認められなかったリンパ節(陰性リンパ節)9個を用いて、下記のようにして測定用試料を調製した。
まず、各リンパ節(約50〜600mg/個)に、pH3.4の緩衝液(200mMグリシン−HCl、5% Brij35(ポリオキシエチレン(35)ラウリルエーテル、SIGMA社製)及び20% DMSO(和光純薬)を含む)200μLを添加し、ブレンダーでホモジナイズした。得られたホモジネートを10,000×g、室温で1分間遠心分離し、上清を50〜200μL採取してこれを検出用試料とした。
【0077】
2.CK19mRNAの定量
上記のようにして得られた陽性リンパ節及び陰性リンパ節からの検出用試料を核酸増幅装置(GD−100、シスメックス製)にセットし、RT−LAMP反応によってCK19cDNAを増幅させた(測定用試薬として、GD−100には核酸増幅用試薬サイトケラチン試薬(シスメックス製)がセットされた)。反応液の濁度をリアルタイムに測定することによってCK19のmRNA(コピー数)を定量した。
【0078】
3.CK19タンパク質の定量
CK19mRNAの定量に用いた検出用試料20μLに3×SDS処理バッファ(150mM Tris HCl(pH6.8)、300mM ジチオスレイトール、6% ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、0.3% ブロモフェノールブルー、及び30% グリセロールを含む)10μLを添加して95℃5分間加温し、泳動用試料を調製した。この泳動用試料15μLを用いてSDS−PAGEを行った。泳動後のゲルをPVDFメンブレンにトランスファーし、これをブロッキングバッファ(20mM Tris(pH7.6)、137mM NaCl、0.1% Tween20、及び5% スキムミルクを含む)に浸漬して1時間室温で振蕩することによりメンブレンのブロッキング処理を行った。ブロッキング処理後、メンブレンをTBS−T(20mM Tris(pH7.6)、137mM NaCl、及び0.1% Tween20を含む)で2分間洗浄した。次に、メンブレンを一次抗体溶液(一次抗体:Cytokeratin 19 (A53-B/A2):sc-6278(サンタクルズ社製、Lot:#L2403)をTBS−Tで500分の1に希釈した溶液)に浸漬し、4℃で一晩静置して抗体反応を行った。反応後、このメンブレンをTBS−Tで5分間、4回洗浄した後、一次抗体に結合可能であり且つ標識酵素として西洋ワサビペルオキシダーゼを結合させた二次抗体の溶液(二次抗体:ECL anti-mouse IgG HRP linked F(ab')2 fragment(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)をTBS−Tで2000分の1に希釈した溶液)にメンブレンを浸漬し、30分間室温で静置して抗体反応を行った。反応後、メンブレンをTBS−Tで5分間、4回洗浄した後、ECL-Advance Western Blotting Detection Kit(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)により酵素反応を行った。LumiAnalyst(ロシュ社製)で酵素反応後のメンブレン画像を取り込み、QuantityOne(バイオラッド社製)によってメンブレン画像の蛍光強度を算出した。上述のようにして測定された蛍光強度を、検量線にあてはめ、CK19タンパク質の量を算出した。検量線は、上記と同じゲルで測定用試料を収容したウェルとは別のウェルに濃度既知のCK19タンパク質を含む試料を収容し、上述の蛍光強度測定を行うことにより作成された。
【0079】
4.結果
測定されたmRNA定量値(コピー/μL)及びタンパク質定量値(ng/μL)を対数軸に展開し、グラフを作成した。このグラフを図8に示す。グラフ中、▲は陽性検体であり、■は陰性検体である。図8に示されるように、mRNAの定量結果とタンパク質の定量結果は良好な相関関係を示した。従って、これらの定量結果を用いることにより、測定に供される生体試料が陰性検体であるか、陽性検体であるかを判定することが可能である。
【0080】
また、mRNA定量値に対応する第1の閾値を5000コピー/μLとし、タンパク質定量値に対応する第2の閾値を0.5ng/μLとすることも可能である。mRNA定量値及びタンパク質定量値をこれらの閾値と比較することによって、がん転移の有無を判定してもよい。
【0081】
<実施例2>
1.測定用試料の調製
大腸がん患者から切除したリンパ節63個を用いて測定用試料を調製した。これらのうち、ヘマトキシリンエオジン染色した組織切片の検鏡により35個のリンパ節にがん細胞の転移が認められ、28個のリンパ節にがん細胞の転移が認められなかった。
がん細胞の転移が組織学的に認められたリンパ節(陽性リンパ節)35個及びがん細胞の転移が組織学的に認められなかったリンパ節(陰性リンパ節)28個を用いて、実施例1と同様に測定用試料を調製した。
【0082】
2.CK19mRNA及びCK19タンパク質の定量
上記検出用試料を用い、実施例1と同様にしてCK19mRNA及びCK19タンパク質を定量した。
【0083】
3.結果
測定されたmRNA定量値(コピー/μL)及びタンパク質定量値(ng/μL)を対数軸に展開し、グラフを作成した。このグラフを図9に示す。グラフ中、▲は陽性検体であり、■は陰性検体である。図9に示されるように、大腸がんにおいても、mRNAの定量結果とタンパク質の定量結果は良好な相関関係を示した。
【0084】
<実施例3>
1.測定用試料の調製
胃がん患者から切除したリンパ節30個を用いて測定用試料を調製した。これらのうち、ヘマトキシリンエオジン染色した組織切片の検鏡により24個のリンパ節にがん細胞の転移が認められ、6個のリンパ節にがん細胞の転移が認められなかった。
がん細胞の転移が組織学的に認められたリンパ節(陽性リンパ節)24個及びがん細胞の転移が組織学的に認められなかったリンパ節(陰性リンパ節)6個を用いて、実施例1と同様に測定用試料を調製した。
【0085】
2.CK19mRNA及びCK19タンパク質の定量
上記検出用試料を用い、実施例1と同様にしてCK19mRNA及びCK19タンパク質を定量した。
【0086】
3.結果
測定されたmRNA定量値(コピー/μL)及びタンパク質定量値(ng/μL)を対数軸に展開し、グラフを作成した。このグラフを図10に示す。グラフ中、▲は陽性検体であり、■は陰性検体である。図10に示されるように、胃がんにおいても、mRNAの定量結果とタンパク質の定量結果は良好な相関関係を示した。
【0087】
本実施例は、mRNA定量結果及びタンパク質定量結果に基づいた検出方法であるため、単独の方法による検出結果よりも精度がよく信頼性の高い検出結果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の一実施形態によるがん細胞検出装置1の全体構成を示した斜視図である。
【図2】核酸定量部100の全体構成を示した斜視図である。
【図3】図2の核酸定量部の概略平面図である。
【図4】タンパク質定量部101の全体構成を示した斜視図である。
【図5】タンパク質定量部101によるタンパク質定量の原理を説明するための図である。
【図6】タンパク質定量部101によるタンパク質定量の原理を説明するための図である。
【図7】CPU102dによる処理フローである。
【図8】実施例1の結果を示すグラフである。
【図9】実施例2の結果を示すグラフである。
【図10】実施例3の結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料に含まれる腫瘍マーカー遺伝子から転写されたmRNAを定量する工程、
前記生体試料中の前記腫瘍マーカー遺伝子から翻訳されたポリペプチドを定量する工程、及び
前記mRNAの定量結果及び前記ポリペプチドの定量結果に基づいて前記生体試料中のがん細胞を検出する工程、
を含むがん細胞の検出方法。
【請求項2】
前記生体試料がリンパ節組織であり、
前記mRNAの定量及び前記ポリペプチドの定量が、前記生体試料から調製された検出用試料を用いて行われる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記mRNAの定量及び前記ポリペプチドの定量が、同じ検出用試料を用いて行われる請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記検出用試料が、前記リンパ節組織を緩衝液中で処理し前記組織中のRNA及びポリペプチドを液中に移行させることによって得られる溶液である、請求項2又は3記載の方法。
【請求項5】
前記緩衝液が、pH2.5〜5.0である請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記緩衝液が、ジメチルスルホキシド及び界面活性剤をさらに含む、請求項4又は5記載の方法。
【請求項7】
前記腫瘍マーカーがサイトケラチンである、請求項1〜6の何れかに記載の方法。
【請求項8】
前記がんが乳がん、大腸がん、又は胃がんである、請求項1〜7の何れかに記載の方法。
【請求項9】
生体試料と緩衝液とを混合することにより調製された検出用試料に含まれる、腫瘍マーカー遺伝子から転写されたmRNAを検出する工程、
前記検出用試料に含まれる、腫瘍マーカー遺伝子から翻訳されたポリペプチドを検出する工程、及び
前記mRNAの検出結果及び前記ポリペプチドの検出結果に基づいて前記生体試料中のがん細胞を検出する工程、
を含むがん細胞の検出方法。
【請求項10】
核酸及びポリペプチドを検出するための検出用試料を調製する方法であって、
ジメチルスルホキシド及び界面活性剤を含み、pHが2.5〜5.0である緩衝液を用いて生体試料を処理することにより、前記生体試料に含まれる核酸及びポリペプチドを溶液中に移行させて検出用試料を調製することを特徴とする、検出用試料調製方法。
【請求項11】
生体試料に含まれる腫瘍マーカー遺伝子から転写されたmRNAを定量する第1定量手段、
前記生体試料に含まれる腫瘍マーカー遺伝子から翻訳されたポリペプチドを定量する第2定量手段、及び
前記mRNAの定量結果及び前記ポリペプチドの定量結果に基づいて前記生体試料中のがん細胞を検出する判定手段、
を備えたがん細胞の検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−289456(P2008−289456A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−153536(P2007−153536)
【出願日】平成19年6月11日(2007.6.11)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】