説明

ころ軸受の保持器

【課題】軸受の長寿命化を図ることができるころ軸受の保持器を提供する。
【解決手段】保持器に備えられる柱部15aは、保持器の回転軸線方向に対して傾斜して延びる一対の傾斜部26a、26bを含む。一対の傾斜部26a、26bにおけるポケットの側壁面は、保持器の回転軸線方向に沿って延びる領域であって、ころを案内するころ案内部35a、35bを有する。傾斜部26a、26bの外径面46a、46bは、延出部27a、27bの外径面42a、42bよりも内径側に凹んだ凹部43a、43bを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ころ軸受の保持器(以下、単に「保持器」という場合がある)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のトランスミッションのアイドラーや、オートバイのエンジンのコンロッド(コネクティングロッド)の大端部等に使用されるころ軸受の保持器として、断面が略M字形状であるM型保持器がある。M型保持器は、いわゆる鍔部を有し、ころを収容するポケット間に位置する柱部において、保持器の回転軸線の方向における中央部が、保持器の回転軸線の方向における両端部よりも内径側に凹んだ形状である。
【0003】
ここで、このような形状の保持器に関する技術が、特開平11−101242号公報(特許文献1)、特開平11−101243号公報(特許文献2)、特開平11−101244号公報(特許文献3)、および特開2004−353809号公報(特許文献4)に開示されている。
【0004】
特許文献1によると、保持器の耐久性向上および強度向上のために、保持器のポケット壁面の内径側部分と環状部の内側面との繋ぎアールRについて、針状ころの直径Drに対して所定の関係を有する針状ころ軸受が開示されている。特許文献2によると、潤滑油の流通性およびコンタミの排出性の向上の観点から、保持器の環状部の内径(直径)D1が、針状ころの内接円直径D0、針状ころの直径Drに対して、所定の関係を有する値に設定された針状ころ軸受が開示されている。特許文献3によると、保持器の環状部の内径側に突出した部分の内側面が、外径側に向かって軸受内方へ傾斜していることを特徴とする針状ころ軸受が開示されている。特許文献4によると、針状ころ軸受の保持器の軽量化の観点から、保持器の縮径部の肉厚を案内面の肉厚および環状部のフランジ部肉厚未満として、大きな荷重の加わる部位の肉厚を確保し、高強度と高速性とを両立させた針状ころ軸受が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−101242号公報
【特許文献2】特開平11−101243号公報
【特許文献3】特開平11−101244号公報
【特許文献4】特開2004−353809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
昨今、軸受の使用環境として、潤滑油が少ない希薄潤滑環境等、過酷な環境下で用いられる場合も多い。そして、このような過酷な環境下においても、軸受の長寿命化が求められている。ここで、上記した特許文献1〜特許文献4に開示の軸受を用いた場合においても、ポケットの側壁面ところとの間の領域における油膜切れに起因する潤滑性の低下の影響等で、軸受の長寿命化の要求に応えられない場合がある。
【0007】
この発明の目的は、軸受の長寿命化を図ることができるころ軸受の保持器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係るころ軸受の保持器は、一対の環状部と、ころを収容するポケットを形成するように一対の環状部を連結する複数の柱部とを備える。保持器の回転軸線と平行であって回転軸線を含む平面で切断した断面において、柱部は、保持器の回転軸線方向に対して傾斜して延びる一対の傾斜部と、保持器の回転軸線に沿って一対の環状部からそれぞれ内方側へ延び、内方側の端部で一対の傾斜部とそれぞれ連なる一対の延出部とを含む。一対の傾斜部は、一対の延出部よりも内径側に向かって延びている。一対の傾斜部におけるポケットの側壁面は、保持器の回転軸線方向に沿って延びる領域であって、ころを案内するころ案内部を有する。ここで、傾斜部の外径面には、延出部の外径面よりも内径側に凹んだ凹部が設けられている。
【0009】
このように構成することにより、傾斜部の外径面に設けられた凹部は、延出部の外径面よりも凹んだ形状であるため、この凹部における潤滑油の通油性が向上する。そうすると、ポケットの側壁面ところとの間の領域において、潤滑油を円滑に供給し、油膜を適切に形成することができる。したがって、ポケットの側壁面ところとの接触部における潤滑性が向上し、ころを円滑に転動させることができると共に、保持器のころ案内部およびころの摩耗を低減することができる。その結果、軸受の長寿命化を図ることができる。ここで、ころ案内部とは、一対の傾斜部における側壁面において、ころPCDが位置する部分に相当する領域である。
【0010】
ここで、凹部は、傾斜部のうち、最も外径側に位置する領域を内径側に凹ませるようにして設けられているようにしてもよい。このように構成することにより、傾斜部が設けられた位置において、外径側からの潤滑油の通油性を向上することができる。
【0011】
また、保持器の回転軸線と平行であって回転軸線を含む平面で切断した断面において、凹部は、保持器の回転軸線と平行な線で構成されているようにしてもよい。このように構成することにより、比較的広い領域で凹部を設けることができ、より潤滑油の通油性を向上することができる。
【0012】
また、保持器の回転軸線と平行であって回転軸線を含む平面で切断した断面において、延出部と凹部との間には、保持器の回転軸線と垂直な方向に延びる面が設けられていてもよい。このように構成することにより、延出部が設けられた側から供給される潤滑油の通油性が向上することができる。
【0013】
また、ころ案内部のうち、保持器の回転軸線方向における端部の角部には、面取りがなされている。このように構成することにより、ころ案内部の端部側からの潤滑油の通油性を向上することができると共に、保持器のころ案内部およびころの摩耗をより低減することができる。また、面取りは、R面取りであってもよい。こうすることにより、さらに確実に、ころ案内部の端部側からの潤滑油の通油性を向上することができると共に、保持器のころ案内部およびころの摩耗をより低減することができる。
【0014】
なお、好ましい一実施形態として、保持器の回転軸線と平行であって回転軸線を含む平面で切断した断面において、柱部は、一対の傾斜部の内方側の端部同士を連結するように、保持器の回転軸線に沿って延びる連結部を含む。このような保持器は、いわゆるM型保持器であり、保持器の強度向上等を図ることができる。
【0015】
また、保持器の回転軸線と平行であって回転軸線を含む平面で切断した断面において、傾斜部におけるころ案内部を含む領域の肉厚は、延出部および連結部のうちの少なくともいずれか一方の肉厚よりも厚くしてもよい。
【0016】
このように傾斜部におけるころ案内部を含む領域の肉厚を厚くすることにより、保持器の回転軸線方向に延びるころ案内部の領域を長くして、ポケット内に収容されたころのスキューの角度を小さくすることができる。また、ころが接触する部分の剛性を高くすることができる。したがって、軸受のさらなる長寿命化を図ることができる。
【0017】
また、保持器の回転軸線と平行であって回転軸線を含む平面で切断した断面において、傾斜部におけるころ案内部を含む領域の肉厚は、延出部および連結部の双方の肉厚よりも厚くしてもよい。
【0018】
このような構成によっても、軸受のさらなる長寿命化を図ることができる。
【発明の効果】
【0019】
このように構成することにより、傾斜部の外径面に設けられた凹部は、延出部の外径面よりも凹んだ形状であるため、この凹部における潤滑油の通油性が向上する。そうすると、ポケットの側壁面ところとの間の領域において、潤滑油を円滑に供給し、油膜を適切に形成することができる。したがって、ポケットの側壁面ところとの接触部における潤滑性が向上し、ころを円滑に転動させることができると共に、保持器のころ案内部およびころの摩耗を低減することができる。その結果、軸受の長寿命化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明の一実施形態に係るころ軸受の保持器を示す斜視図である。
【図2】この発明の一実施形態に係るころ軸受の保持器の一部を、内径側から見た図である。
【図3】この発明の一実施形態に係るころ軸受の保持器の一部を示す概略断面図であり、保持器の回転軸線と平行であって保持器の回転軸線を含む平面で切断した断面に相当する。
【図4】この発明の一実施形態に係るころ軸受の保持器の一部を示す概略断面図であり、保持器の回転軸線と平行であって保持器の回転軸線を含む平面で切断した断面に相当する。
【図5】この発明の一実施形態に係るころ軸受の保持器の一部を示す概略断面図であり、保持器の回転軸線方向から見た場合に相当する。
【図6】この発明の一実施形態に係る針状ころ軸受の保持器の一部を示す概略断面図であり、図3中の三点鎖線で図示したVIで示す領域の拡大図である。
【図7】この発明の一実施形態に係る針状ころ軸受の保持器の一部を拡大して示す図であり、図6中の矢印VIIで示す方向から見た図に相当する。
【図8】この発明の他の実施形態に係るころ軸受の保持器の一部を示す概略断面図である。
【図9】この発明のさらに他の実施形態に係るころ軸受の保持器の一部を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、この発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。図1は、この発明の一実施形態に係る針状ころ軸受の保持器を示す斜視図である。図2は、この発明の一実施形態に係る針状ころ軸受の保持器の一部を、内径側から見た図である。図3および図4は、この発明の一実施形態に係る針状ころ軸受の保持器の一部を示す概略断面図であり、保持器の回転軸線と平行であって保持器の回転軸線を含む平面で切断した断面に相当する。なお、図3は、図2に示すIII−III断面で切断した場合あって、ポケットが設けられた領域における断面図であり、図4は、図2に示すIV−IV断面で切断した場合であって、柱部が設けられた領域における断面図である。図5は、この発明の一実施形態に係る針状ころ軸受の保持器の一部を示す概略断面図であり、保持器の回転軸線方向から見た場合に相当する。図5は、図2に示すV−V断面で切断した場合である。なお、理解の容易の観点から、図3においては、任意のポケット14dを1つ図示している。また、理解の容易の観点から、図3および図4において、針状ころのピッチ円の直径であるころPCD(Pitch Circle Diameter)を、一点鎖線で示し、図1〜図3において、保持器の回転軸線を、二点鎖線で示している。また、理解の容易の観点から、図4において、ポケットに収容される針状ころを、点線で示している。
【0022】
図1〜図5を参照して、この発明の一実施形態に係る針状ころ軸受の保持器11は、自動車のトランスミッションのアイドラーや、オートバイのエンジンのコンロッド(コネクティングロッド)の大端部等に用いられる。保持器11は、複数の針状ころ13を保持する。針状ころ13を保持した保持器11は、保持器付きころとして、ラジアル方向の荷重を受ける。なお、軸受として用いられる場合には、潤滑油が適宜供給される。
【0023】
保持器11は、一対の環状部12a、12bと、針状ころ13を収容する複数のポケット14a、14b、14cを形成するように、一対の環状部12a、12bを連結する複数の柱部15a、15b、15cとを備える。ポケット14a、14b、14cは、図2等に示すように、図2における紙面上下方向である周方向に間隔を開けて、複数設けられている。すなわち、周方向に所定の間隔を開けて設けられるポケット14aとポケット14bとの間に、柱部15aが配置される構成である。保持器11は、複数のポケット14a、14b、14cのそれぞれに、1つずつ針状ころ13を収容して保持する。
【0024】
一方の環状部12aは、二点鎖線で示す保持器11の回転軸線16の一方方向の端部側から内径側に延びる円筒状の鍔部21aと、保持器11の回転軸線16の一方方向の端部側から対向する他方の環状部12b側に延びる円筒状の円環部22aとを備える構成である。鍔部21aのうち、内径側の端部における軸受外方側の角部には、面取り23aが施されている。また、鍔部21aのうち、内径側の端部における軸受内方側の角部には、面取り24aが施されている。これらの面取り23a、24aは共に、いわゆるC面取りである。他方の環状部12bについても同様に、円筒状の鍔部21bと、円筒状の円環部22bとを備える。そして、鍔部21bにおいても、鍔部21aと同様に、面取り23b、24bが施されている。保持器11の回転軸線16の方向における円環部22aと円環部22bとの間の領域が、柱部15aとなる。
【0025】
次に、柱部15aの構成について説明する。なお、保持器11に備えられる複数の柱部15a、15b、15cについては、いずれも同じ形状であり、基本的に、ポケット14aとポケット14bの間に設けられる柱部15aを基に説明する。
【0026】
柱部15aは、図3に示すように、保持器11の回転軸線16と平行であって回転軸線16を含む平面で切断した断面において、保持器11の回転軸線16の方向に対して傾斜して延びる一対の傾斜部26a、26bと、保持器11の回転軸線16に沿って一対の環状部12a、12bからそれぞれ内方側へ延び、内方側の端部で一対の傾斜部26a、26bとそれぞれ連なる一対の延出部27a、27bと、一対の傾斜部26a、26bの内方側の端部同士を連結するように、保持器11の回転軸線16に沿って延びる連結部28aとを含む。具体的には、円環部22aの内方側と延出部27aの外方側とが連なっており、円環部22bの内方側と延出部27bの外方側とが連なっている。そして、一対の傾斜部26a、26bは、一対の延出部27a、27bの内径側に向かって延びている形状である。すなわち、保持器11は、いわゆるM型保持器である。このようなM型保持器は、保持器の剛性が高いものである。なお、ここで、内方側とは、いわゆる保持器の内部側をいうものである。
【0027】
図3等における二点鎖線で示すころPCD17は、径方向において、一対の傾斜部26a、26bが設けられる領域に位置し、図3における紙面左右方向である保持器11の回転軸線16の方向に延びている。この一対の傾斜部26a、26bにおいてころPCD17が位置する部分が、ポケット14bに収容された針状ころ13とポケット14bの側壁面31aとの接触部となるころ案内部35a、35bとなる。
【0028】
針状ころ13を収容するポケット14bにおいて、ポケット14bを挟んで隣り合う柱部15a、15bの連結部28a、28b同士の周方向の間隔は、隣り合う柱部15a、15bにおける傾斜部26a、26c同士の周方向の間隔、および傾斜部26b、26d同士の周方向の間隔よりも狭くなっている。具体的には、柱部15aの連結部28aにおける側壁面34aと柱部15bの連結部28bにおける側壁面34bとの周方向の間隔は、柱部15aの傾斜部26aにおける側壁面32aと柱部15bの傾斜部26aにおける側壁面32cとの周方向の間隔、および柱部15aの傾斜部26bにおける側壁面32bと柱部15bの傾斜部26bにおける側壁面32dとの周方向の間隔よりも狭くなっている。そして、この柱部15a、15bのうちの最も内径側に位置する連結部28a、28bが、ポケット14bに収容された針状ころ13の内径側への脱落を防止する内径側ころ止め部29a、29bとなる。
【0029】
また、外径側においては、ポケット14bを挟んで隣り合う柱部15a、15bの延出部27a、27c同士の周方向の間隔、および延出部27b、27d同士の周方向の間隔は、隣り合う柱部15a、15bにおける傾斜部26a、26c同士の周方向の間隔および傾斜部26b、26d同士の周方向の間隔よりも狭くなっている。具体的には、柱部15aの延出部27aにおける側壁面33aと柱部15bの延出部27cにおける側壁面33cとの周方向の間隔、および柱部15aの延出部27bにおける側壁面33bと柱部15bの延出部27dにおける側壁面33dとの周方向の間隔は共に、柱部15aの傾斜部26aにおける側壁面32aと柱部15bの傾斜部26aにおける側壁面32cとの周方向の間隔、および柱部15aの傾斜部26bにおける側壁面32bと柱部15bの傾斜部26bにおける側壁面32dとの周方向の間隔よりも狭くなっている。そして、この柱部15a、15bのうちの最も外径側に位置する延出部27a、27b、27c、27dが、ポケット14bに収容された針状ころ13の外径側への脱落を防止する外径側ころ止め部30a、30bとなる。なお、ここでは、側壁面32a、32b、33a、33b、34aを総称して、ポケット14bの柱部15a側の側壁面31aという。
【0030】
図2等に示すように、一方の傾斜部26aにおける側壁面32aについては、保持器11の回転軸線16の方向において、平らである。すなわち、保持器11を径方向から見た場合に、傾斜部26aにおける側壁面32aは、保持器11の回転軸線16の方向に沿った直線で表される。なお、他方の傾斜部26bにおける側壁面32bについても、同様の形状である。すなわち、保持器11を径方向から見た場合に、傾斜部26bにおける側壁面32bは、平らである。
【0031】
次に、柱部15aの詳細な構成について説明する。図6は、この発明の一実施形態に係る針状ころ軸受の保持器11の一部を示す概略断面図であり、図3中の三点鎖線で示したVIで示す領域の拡大図である。図7は、この発明の一実施形態に係る針状ころ軸受の保持器11の一部を拡大して示す図であり、図6中の矢印VIIで示す方向から見た図に相当する。図7においては、紙面上下方向が周方向となる。具体的には、紙面上側が、ポケット14bが位置する側となり、紙面下側が、柱部15aが位置する側となる。
【0032】
図1〜図7を参照して、傾斜部26aの傾斜方向は、図6中の矢印Dで示す方向またはその逆の方向であり、保持器11の回転軸線16に対して、角度θだけ傾斜している。一方の傾斜部26aにおけるころ案内部35aは、傾斜部26aにおいて、外径面41aから内径面47aに至る領域であり、図6においては、点36aから点36bに至る領域で示される部分である。ころ案内部35aにおける母線形状は、図7に示す形状となる。また、他方の傾斜部26bにおけるころ案内部35bは、傾斜部26bにおいて、外径面41bから内径面47bに至る領域であり、図6においては、点36cから点36dに至る領域で示される部分である。
【0033】
ころ案内部35aのうち、保持器11の回転軸線16の方向における両端部の角部37a、37bには、面取りがなされている。この面取りは、R面取りである。ころ案内部35bにも、同様に、保持器11の回転軸線16の方向における両端部の角部には、面取りがなされている。この面取りについても、R面取りである。
【0034】
ここで、一方の傾斜部26aの外径面41aの一部、具体的には、ここでは、最も外径側に位置する領域には、一方の延出部27aの外径面42aよりも内径側に凹んだ凹部43aが設けられている。また、他方の傾斜部26bの外径面41bの一部、具体的には、ここでは、最も外径側に位置する領域にも、他方の延出部27bの外径面42bよりも内径側に凹んだ凹部43bが設けられている。他方の傾斜部27bの外径面41bの一部に設けられた凹部43bの構成は、一方の傾斜部26aの外径面41aの一部に設けられた凹部43bの構成と基本的に同じ構成であるため、以下、他方の傾斜部26bの外径面41bの一部に設けられた凹部43bの構成の説明を省略する。
【0035】
凹部43aは、傾斜部26aのうち、最も外径側に位置する領域を延出部27aの外径面42aよりも内径側に凹ませるようにして設けられている。ここでは、最も外径側に位置する領域の全面を、内径側に凹ませるように構成している。
【0036】
具体的な形状としては、以下の通りである。すなわち、延出部27aの外径面42aは、保持器11の回転軸線16と平行に延びている。そして、延出部27aの軸受内方側の端部において、保持器11の回転軸線16に対して垂直な方向、ここでは、保持器11の径方向の所定の箇所45aまで延びる面44aが連なっている。そして、保持器11の回転軸線16の方向において、所定の箇所45aから保持器11の回転軸線16と平行であって軸受内方側に延び、傾斜部26aの外径面41aの一部を構成する外径面46aが形成されている。この外径面46aが、延出部27aの外径面42aよりも内径側に凹んだ凹部43aを構成するものである。すなわち、凹部43aは、延出部27aが設けられた位置、具体的には、延出部27aの内方側端部である面44aから軸受内方側、ここでは、図6中の矢印Dで示す図6における紙面右側に連なって設けられている構成である。また、延出部27aと凹部43aとの間には、保持器11の回転軸線と垂直な方向に延びる面44aが設けられている構成である。なお、延出部27aの外径面42aと傾斜部26aの外径面46aとは、径方向におけるいわゆる段差を有する形状となる。
【0037】
すなわち、この凹部43aを構成する外径面46aについては、延出部27aの外径面42aをそのまま保持器11の回転軸線16に沿って内方側に延ばした延長領域とするのではなく、延出部27aと傾斜部26aとの連結部分において内径側に凹ませて形成される領域とするものである。なお、凹部43bについては、保持器11の回転軸線16の方向において、所定の箇所45bから保持器11の回転軸線16と平行であって軸受内方側に延び、傾斜部26bの外径面41bの一部を構成する外径面46bが、延出部27bの外径面42bよりも内径側に凹んだ凹部43bを構成するものである。
【0038】
図6に示す断面においては、凹部43aは、保持器11の回転軸線16と平行な線で表される。ここで、凹部43aを構成する外径面46aから、内径面47aの一部であって保持器11の回転軸線16に沿う方向に延びる内径面48aまでの長さLは、延出部27aにおける外径面42aから内径面49aまでの長さLよりも短いものである。なお、延出部27aの内径面49aと傾斜部26aの内径面48aとは、保持器11の回転軸線16の方向に真直ぐ連なる構成である。なお、例えば、一枚の板材から保持器11が製造される場合、この凹部43aを構成する外径面46aに相当する部分は、外径側の部分が凹むように板厚が減ぜられた構成となる。ここで、この実施形態においては、長さLは、長さLの約4/5である。すなわち、所定の箇所45aの径方向の位置は、延出部27aの外径面42aから内径側に向かって、長さLの約1/5の長さ分離れた位置に相当する。
【0039】
また、この実施形態においては、ころ案内部35aを含む領域における傾斜部26aの肉厚、具体的には、傾斜部26aにおける外径面41aから内径面47aまでの最短の長さL、および連結部28aの肉厚、具体的には、連結部28aにおける外径面38aから内径面38bまでの最短の長さLは共に、長さLと等しく構成されている。なお、所定の箇所45aの位置や範囲については、傾斜部26aの強度や潤滑油の通油性等に応じて、任意に定められる。
【0040】
このように構成することにより、傾斜部26a、26bの外径面41a、41bの一部に設けられた凹部43a、43bは、延出部27a、27bの外径面42a、42bよりも凹んだ形状であるため、この凹部43a、43bにおける潤滑油の通油性が向上する。そうすると、ポケット14bの側壁面31aと針状ころ13との間の領域において、潤滑油を円滑に供給し、油膜を適切に形成することができる。したがって、ポケット14bの側壁面31aと針状ころ13との接触部における潤滑性が向上し、針状ころ13を円滑に転動させることができると共に、保持器11のころ案内部35a、35bおよび針状ころ13の摩耗を低減することができる。その結果、軸受の長寿命化を図ることができる。
【0041】
この場合、凹部43a、43bは、傾斜部26a、26bのうち、最も外径側に位置する領域を内径側に凹ませるようにして設けられているため、傾斜部26a、26bが設けられた位置において、外径側からの潤滑油の通油性を向上することができる。
【0042】
また、保持器11の回転軸線16と平行であって回転軸線16を含む平面で切断した断面、すなわち、図6に示す断面において、凹部43a、43bは、保持器11の回転軸線16と平行な線で構成されているため、比較的広い領域で凹部43a、43bを設けることができ、より潤滑油の通油性を向上することができる。
【0043】
また、上記した図6に示す断面において、延出部27aと凹部43aとの間、および延出部27bと凹部43bとの間にはそれぞれ、保持器11の回転軸線16と垂直な方向に延びる面44a、44bが設けられているため、延出部27a、27bが設けられた側から供給される潤滑油の通油性が向上することができる。
【0044】
この場合、凹部43a、43bは、延出部27a、27bが設けられた位置、具体的には、延出部27a、27bの内方側端部である面44a、44bから軸受内方側に連なって設けられているため、軸受外方側、すなわち、延出部27a、27bが設けられた側から供給される潤滑油の通油性が向上することができる。
【0045】
また、この場合、ころ案内部35a、35bのうち、保持器11の回転軸線16の方向における両端部の角部37a、37bには、面取りがなされているため、ころ案内部35a、35bの両端部側からの潤滑油の通油性を向上することができると共に、保持器11のころ案内部35a、35bおよび針状ころ13の摩耗をより低減することができる。また、面取りは、R面取りであるため、さらに確実に、ころ案内部35a、35bの両端部側からの潤滑油の通油性を向上することができると共に、保持器11のころ案内部35a、35bおよび針状ころ13の摩耗をより低減することができる。
【0046】
ここで、傾斜部におけるころ案内部を含む領域の肉厚は、延出部および連結部の双方の肉厚よりも厚くしてもよい。図8は、この場合における針状ころ軸受の一部を示す断面図であり、図3に示す断面に相当する。
【0047】
図8を参照して、針状ころ軸受の保持器51は、一対の環状部52a、52bと、針状ころ13を収容するポケットを形成するように一対の環状部52a、52bを連結する複数の柱部53とを備える。保持器51の回転軸線と平行であって回転軸線を含む平面で切断した断面において、柱部53は、保持器51の回転軸線の方向に対して傾斜して延びる一対の傾斜部54a、54bと、保持器51の回転軸線に沿って一対の環状部52a、52bからそれぞれ内方側へ延び、内方側の端部で一対の傾斜部54a、54bとそれぞれ連なる一対の延出部55a、55bと、一対の傾斜部54a、54bの内方側の端部同士を連結するように、保持器51の回転軸線に沿って延びる連結部56aとを含む。一対の傾斜部54a、54bは、一対の延出部55a、55bよりも内径側に向かって延びている。一対の傾斜部54a、54bにおけるポケットの側壁面は、保持器51の回転軸線方向に沿って延びる領域であって、針状ころを案内するころ案内部57a、57bを有する。そして、傾斜部54a、54bの外径面58a、58bは、延出部55a、55bの外径面59a、59bよりも内径側に凹んだ凹部60a、60bを構成する。
【0048】
ここで、図8中のハッチングで示される領域であって、傾斜部54a、54bにおけるころ案内部57a、57bを含む領域61a、61bの肉厚は、延出部55a、55bおよび連結部56aの双方の肉厚よりも厚い。具体的には、一方の傾斜部54aにおけるころ案内部57aを含む領域61aのそれぞれの外径面62aから内径面62bまでの最短の長さLは、延出部55aの外径面59aから内径面63aまでの最短の長さL、および連結部56aの外径面64aから内径面64bまでの最短の長さLよりも長く構成されている。なお、領域61aは、図8に示す断面において、ころ案内部57aのうちの最も外方側に位置する点65aを含み、傾斜部54aの傾斜方向に対して垂直な方向に延びる線66a、ころ案内部57aのうちの最も内方側に位置する点65bを含み、傾斜部54aの傾斜方向に対して垂直な方向に延びる線66b、そして、外径面62aを示す線および内径面62bを示す線で囲まれる領域である。他方の傾斜部54bにおけるころ案内部57bを含む領域61bについても同様に、ころ案内部57bのうちの最も外方側に位置する点65cを含み、傾斜部54bの傾斜方向に対して垂直な方向に延びる線66c、ころ案内部57bのうちの最も内方側に位置する点65bを含み、傾斜部54bの傾斜方向に対して垂直な方向に延びる線66d、そして、外径面62cを示す線および内径面62dを示す線で囲まれる領域である。図8に示す保持器51と図1等に示す保持器11とは、一対の傾斜部54a、54bにおけるころ案内部57a、57bを含む領域61a、61bの肉厚が異なるだけで、保持器51における他の基本的構成は、図1等に示す保持器11と同じである。
【0049】
このように傾斜部54a、54bにおけるころ案内部57a、57bを含む領域61a、61bの肉厚を厚くすることにより、保持器51の回転軸線方向に延びるころ案内部57a、57bの領域を長くして、ポケット内に収容された針状ころのスキューの角度を小さくすることができる。また、針状ころが接触する部分の剛性を高くすることができる。したがって、軸受のさらなる長寿命化を図ることができる。
【0050】
なお、図8に示す実施形態において、一対の傾斜部におけるころ案内部を含む領域の肉厚を、一対の延出部および連結部の双方の肉厚よりも厚くするよう構成したが、これに限らず、延出部および連結部のうちの少なくともいずれか一方の肉厚よりも厚く構成してもよい。
【0051】
また、上記の実施の形態において、長さL〜長さL等の寸法については、保持器に要求される特性や製造工程等に応じて、任意に定められるものである。なお、一対の傾斜部のうち、一方側のみに凹部を形成する構成であってもよい。
【0052】
また、上記の実施の形態においては、凹部は、傾斜部のうち、最も外径側に位置する領域の全面を延出部の外径面よりも内径側に凹ませるようにして設けることとしたが。これに限らず、傾斜部の外径面の全面、すなわち、傾斜方向に沿って延びる部分を含めて、内径側に凹ませるように構成してもよい。具体的には、例えば、傾斜部に相当する部分の板厚を全て、延出部に相当する部分の板厚よりも短く構成してもよい。こうすることにより、傾斜部の全面に亘って、潤滑油の通油性が向上し、針状ころの円滑な転動を図ることができる。
【0053】
さらには、図9に示すような構成であってもよい。図9は、この発明のさらに他の実施形態に係る針状ころ軸受の保持器のうち、柱部の一部を拡大して示す拡大断面図であり、図7に示す断面の一部に相当する。図9を参照して、この発明のさらに他の実施形態に係る保持器71に含まれる柱部72は、保持器71の回転軸線方向に対して傾斜して延びる傾斜部73と、保持器71の回転軸線に沿って環状部から内方側へ延び、内方側の端部で傾斜部73と連なる延出部74とを含む。傾斜部73におけるポケットの側壁面は、保持器71の回転軸線方向に沿って延びる領域であって、ころを案内するころ案内部75を有する。傾斜部73の外径面76には、延出部74の外径面77よりも内径側に凹んだ凹部78が設けられている。この凹部78は、延出部74が設けられた位置から軸受内方側に連なって設けられている。ここで、凹部78が設けられた位置からさらに軸受内方側に連なって、凹部78に対して相対的に突出する凸部79が設けられている。凸部79の外径面80の径方向の位置は、延出部74の外径面77の径方向の位置と等しく構成されている。すなわち、傾斜部73においては、最も外径側に位置する領域の全面ではなく、一部の面である凹部78が設けられた位置についてのみ、肉厚が減ぜられている構成である。このように構成してもよい。
【0054】
また、図9に示す実施の形態においては、凹部は、延出部が設けられた位置から軸受内方側に連なって設けられることとしたが、これに限らず、延出部が設けられた位置から軸受内方側に連ならなくともよい。すなわち、上記した凹部と凸部との位置関係を保持器の回転軸線方向において逆転させたような形状として、延出部から軸受内方側に向かって、所定の領域で、いわゆる傾斜部の肉厚と延出部の肉厚とを等しく構成し、さらに軸受内方側に向かう領域において、凹部を形成するようにしてもよい。
【0055】
なお、上記の実施の形態においては、保持器の回転軸線と垂直な方向に延びる面について、斜め方向に延びていてもよく、曲面であってもよい。すなわち、例えば、凹部は、円弧状に凹んだ形状であってもよい。
【0056】
なお、上記の実施の形態においては、柱部において、保持器の回転軸線の方向の中央部に、保持器の回転軸線の方向に延びる連結部を備える構成であるが、これに限らず、保持器の回転軸線の方向に延びる連結部を備えない構成、すなわち、一対の傾斜部の軸受内方側の端部同士がそのまま連結され、柱部の中央領域において、略V字状となっているものであってもよい。
【0057】
また、上記の実施の形態においては、ころPCDで、ポケット内に収容された針状ころとポケットの側壁面、具体的には、傾斜部に設けられるころ案内部で接触することとしたが、これに限らず、ころPCDから外れた位置において針状ころところ案内部とが接触する場合にも適用される。
【0058】
また、上記の実施の形態においては、保持器は、一対の環状部がそれぞれ鍔部を有するいわゆるM型保持器であったが、これに限らず、鍔部を有しないいわゆるV型保持器であってもよい。
【0059】
なお、上記の実施の形態においては、ポケットに収容されるころとして針状ころを用いることとしたが、これに限らず、円筒ころや棒状ころを用いてもよい。
【0060】
また、上記の実施の形態においては、軸受として保持器付きころ、すなわち、軸受として複数の針状ころと、複数の針状ころを収容する保持器とから構成されることとしたが、これに限らず、外輪や内輪を備える構成としてもよい。
【0061】
以上、図面を参照してこの発明の実施の形態を説明したが、この発明は、図示した実施の形態のものに限定されない。図示した実施の形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0062】
この発明に係るころ軸受の保持器は、長寿命が要求される場合に、有効に利用される。
【符号の説明】
【0063】
11,51,71 保持器、12a,12b,52a,52b 環状部、13 針状ころ、14a,14b,14c,14dポケット、15a,15b,15c,53,72 柱部、16 回転軸線、17 ころPCD、21a,21b 鍔部、22a,22b 円環部、23a,23b,24a,24b 面取り、26a,26b,26c,26d,54a,54b,73 傾斜部、27a,27b,27c,27d,55a,55b,74 延出部、28a,28b,56a 連結部、29a,29b 内径側ころ止め部、30a,30b 外径側ころ止め部、31a,32a,32b,32c,32d,33a,33b,33c,33d,34a,34b 側壁面、35a,35b,57a,57b,75 ころ案内部、36a,36b,36c,36d,65a,65b,65c,65d 点、37a,37b 角部、38a,41a,41b,42a,42b,46a,46b,58a,58b,59a,59b,62a,62c,64a,76,77,80 外径面、38b,47a,47b,48a,49a,62b,62d,63a,64b 内径面、43a,43b,60a,60b,78 凹部、44a,44b 面、45a,45 箇所、61a,61b 領域、66a,66b,66c,66d 線、79 凸部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の環状部と、ころを収容するポケットを形成するように一対の前記環状部を連結する複数の柱部とを備えるころ軸受の保持器であって、
前記保持器の回転軸線と平行であって前記回転軸線を含む平面で切断した断面において、前記柱部は、前記保持器の回転軸線方向に対して傾斜して延びる一対の傾斜部と、前記保持器の回転軸線に沿って一対の前記環状部からそれぞれ内方側へ延び、内方側の端部で一対の前記傾斜部とそれぞれ連なる一対の延出部とを含み、
一対の前記傾斜部は、一対の前記延出部よりも内径側に向かって延びており、
一対の前記傾斜部における前記ポケットの側壁面は、前記保持器の回転軸線方向に沿って延びる領域であって、前記ころを案内するころ案内部を有し、
前記傾斜部の外径面には、前記延出部の外径面よりも内径側に凹んだ凹部が設けられている、ころ軸受の保持器。
【請求項2】
前記凹部は、前記傾斜部のうち、最も外径側に位置する領域を前記延出部の外径面よりも内径側に凹ませるようにして設けられている、請求項1に記載のころ軸受の保持器。
【請求項3】
前記保持器の回転軸線と平行であって前記回転軸線を含む平面で切断した断面において、前記凹部は、前記保持器の回転軸線と平行な線で構成されている、請求項1または2に記載のころ軸受の保持器。
【請求項4】
前記保持器の回転軸線と平行であって前記回転軸線を含む平面で切断した断面において、前記延出部と前記凹部との間には、前記保持器の回転軸線と垂直な方向に延びる面が設けられている、請求項1〜3のいずれかに記載のころ軸受の保持器。
【請求項5】
前記ころ案内部のうち、前記保持器の回転軸線方向における端部の角部には、面取りがなされている、請求項1〜4のいずれかに記載のころ軸受の保持器。
【請求項6】
前記面取りは、R面取りである、請求項5に記載のころ軸受の保持器。
【請求項7】
前記保持器の回転軸線と平行であって前記回転軸線を含む平面で切断した断面において、前記柱部は、一対の前記傾斜部の内方側の端部同士を連結するように、前記保持器の回転軸線に沿って延びる連結部を含む、請求項1〜6のいずれかに記載のころ軸受の保持器。
【請求項8】
前記保持器の回転軸線と平行であって前記回転軸線を含む平面で切断した断面において、前記傾斜部における前記ころ案内部を含む領域の肉厚は、前記延出部および前記連結部のうちの少なくともいずれか一方の肉厚よりも厚い、請求項7に記載のころ軸受の保持器。
【請求項9】
前記保持器の回転軸線と平行であって前記回転軸線を含む平面で切断した断面において、前記傾斜部における前記ころ案内部を含む領域の肉厚は、前記延出部および前記連結部の双方の肉厚よりも厚い、請求項7または8に記載のころ軸受の保持器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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