説明

さび止め油組成物

【課題】溶剤による脱脂が不要で熱処理への悪影響を抑制したさび止め油組成物が開発されてきたが、中性塩水噴霧試験(JIS K2246)の性能が不十分であるため、さび発生のトラブルを招くことがある
【解決手段】基油に式(1)で表されるアミンのアルコール誘導体を組成物全量基準で0.5〜25質量%含有させ、かつ40℃での動粘度が1〜100mm/sであるさび止め油組成物が提供される。


(式(1)中、Rは炭素数8〜24の炭化水素基であり、直鎖又は分岐鎖でもよく、飽和又は不飽和でもよい。R及びRは、それぞれ同一でも異なっていてもよく、炭素数1〜12の炭化水素基であり、直鎖又は分岐鎖でもよく、飽和又は不飽和でもよい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はさび止め油組成物に関し、特に、熱処理に供される金属製部品に対して良好な性能を発揮するさび止め油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属製部品のさび止めに用いられるさび止め油は、さび止め剤としてスルホン酸の金属塩,ワックス類の酸化物のエステル,ワックス類の酸化物の金属塩,ペトロラタム,ワックス類等を単独またはこれらを組み合わせて使用するものであったが、これらのさび止め剤が付着した金属製部品を熱処理すると、焼入れ処理後の金属部品の一部が黒っぽくなる等の外観不良部位の発生,硬度不足部位の発生,窒化焼入れでの窒化されない部位の発生,浸炭焼入れでの浸炭不良部位等の事態を招くことがあった。
このため、さび止め剤が付着した金属製部品を熱処理する場合には、さび止め油を除去するために溶剤等を用いて十分に脱脂する必要があったが、環境保全の観点から大量の炭化水素系溶剤の使用を極力避けることが望まれていた。その結果、有機酸のアミン塩や多価アルコールの部分エステルなどのさび止め剤を配合し金属を含まない無灰系のさび止め油が開発され、溶剤による脱脂が不要で熱処理への悪影響を抑制したさび止め油組成物が開発されてきた(特許文献1を参照)。
【0003】
しかしながら、これら従来のさび止め油は、金属製部品の海外輸送や海岸近郊での使用などにおけるさび止め性能を評価するための中性塩水噴霧試験(JIS K2246)の性能が不十分であることから、さび発生のトラブルを招くことがある。
【特許文献1】特開2000−265189号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、このような実状に鑑みなされたものであり、その目的は、炭化水素等の溶剤による脱脂処理が不用またはその簡略化を可能にし、熱処理への悪影響を最小限に抑え、且つ、中性塩水噴霧試験(JIS K2246)の性能が十分であるさび止め油組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記したような問題の解決を目指して、鋭意研究を重ねた結果、特定の組成を有するさび止め油が、炭化水素等の溶剤による脱脂処理の簡略化を可能にし、且つ金属製部品に対するさび止め性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本願は、(A)鉱油及び/又は合成油の中から選ばれる少なくとも1種を基油とし、(B)式(1)で表されるアミンのアルコール誘導体を組成物全量基準で0.5〜25質量%含有してなり、40℃での動粘度が1〜100mm/sであるさび止め油組成物に関する。
【化2】

(式(1)中、Rは炭素数8〜24の炭化水素基であり、直鎖又は分岐鎖でもよく、飽和又は不飽和でもよい。R及びRは、それぞれ同一でも異なっていてもよく、炭素数1〜12の炭化水素基であり、直鎖又は分岐鎖でもよく、飽和又は不飽和でもよい。)
また、金属元素の総含有量が組成物全量基準で0.1質量%未満である前記のさび止め油組成物に関する。
【発明の効果】
【0007】
以上の通り、本発明によれば、特定のさび止め剤を配合することによって、熱処理に供される金属製部品に対して良好なさび止め性能を有し、熱処理後の金属部品の一部が黒っぽくなる等の外観不良部位の発生、硬度不足部位の発生、窒化焼入れでの窒化されない部位の発生、浸炭焼入れでの浸炭不良部位等が発生しないさび止め油組成物を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のさび止め油組成物には鉱油及び/又は合成油からなる基油が含まれる。
鉱油としては、具体的には、原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分に対して、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理の1種もしくは2種以上の精製手段を適宜組み合わせて適用して得られるパラフィン系又はナフテン系の鉱油等が挙げられる。
【0009】
また、合成油としては、ポリオレフィン、アルキルベンゼン等が好適に使用される。
【0010】
ポリオレフィンとしては、炭素数2〜16、好ましくは炭素数2〜12のオレフィンモノマーを単独重合又は共重合したもの、並びにこれらの重合体の水素化物等が挙げられる。なお、ポリオレフィンが構造の異なるオレフィンモノマーの共重合体である場合、その共重合体におけるモノマー比やモノマー配列には特に制限はなく、ランダム共重合体、交互共重合体及びブロック共重合体のうちのいずれであってもよい。また、前記オレフィンモノマーは、α−オレフィン、内部オレフィン、直鎖状オレフィン、分岐鎖状オレフィンのうちのいずれであってもよい。このようなオレフィンモノマーとしては、具体的には、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブテン、直鎖状又は分岐鎖状のペンテン(α−オレフィン、内部オレフィンを含む)、直鎖状又は分岐鎖状のヘキセン(α−オレフィン、内部オレフィンを含む)、直鎖状又は分岐鎖状のヘプテン(α−オレフィン、内部オレフィンを含む)、直鎖状又は分岐鎖状のオクテン(α−オレフィン、内部オレフィンを含む)、直鎖状又は分岐鎖状のノネン(α−オレフィン、内部オレフィンを含む)、直鎖状又は分岐鎖状のデセン(α−オレフィン、内部オレフィンを含む)、直鎖状又は分岐鎖状のウンデセン(α−オレフィン、内部オレフィンを含む)、直鎖状又は分岐鎖状のドデセン(α−オレフィン、内部オレフィンを含む)、直鎖状又は分岐鎖状のトリデセン(α−オレフィン、内部オレフィンを含む)、直鎖状又は分岐鎖状のテトラデセン(α−オレフィン、内部オレフィンを含む)、直鎖状又は分岐鎖状のペンタデセン(α−オレフィン、内部オレフィンを含む)、直鎖状又は分岐鎖状のヘキサデセン(α−オレフィン、内部オレフィンを含む)及びこれらの混合物等が挙げられるが、これらの中でも、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブテン、炭素数5〜12のα−オレフィン及びこれらの混合物等が好ましく用いられる。さらに、炭素数5〜12のα−オレフィンの中でも、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン及びこれらの混合物等がより好ましい。
【0011】
上記したポリオレフィンは従来公知の方法により製造することができる。従来公知の方法により得られるポリオレフィンは、通常、二重結合を有しているが、本発明においてはこれらのポリオレフィン中の二重結合炭素を水素化した、いわゆるポリオレフィンの水素化物を基油として用いることが好ましい。ポリオレフィンの水素化物を用いると、得られるさび止め油組成物の熱・酸化安定性が向上する傾向にある。なお、ポリオレフィンの水素化物は、例えば、ポリオレフィンを公知の水素化触媒の存在下で水素化し、ポリオレフィン中に存在する二重結合を飽和化することによって得ることができる。また、オレフィンの重合反応を行う際に、使用する触媒を選択することによって、オレフィンの重合と重合体の水素化といった2工程を経ることなく、オレフィンの重合と重合体中に存在する二重結合の水素化を1工程で完遂させることも可能である。
【0012】
本発明において基油として好適に使用されるポリオレフィンの中にあって、エチレン−プロピレン共重合体、ポリブテン(ナフサ熱分解の際に副生するブタン−ブテン留分(1−ブテン、2−ブテン及びイソブテンの混合物)の重合によって得られる共重合体)、1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー、1−ドデセンオリゴマー並びにこれらの水素化物、さらにはこれらの混合物等は熱・酸化安定性、粘度−温度特性、低温流動性に優れている点で好ましく、特にエチレン−プロピレン共重合体水素化物、ポリブテン水素化物、1−オクテンオリゴマー水素化物、1−デセンオリゴマー水素化物、1−ドデセンオリゴマー水素化物並びにこれらの混合物がより好ましい。なお、潤滑油用基油として市販されているエチレン−プロピレン共重合体、ポリブテン及びポリ−α−オレフィン等の合成油は、通常、その二重結合が既に水素化されているものであり、本発明においてはこれらの市販品も基油として用いることができる。
【0013】
また、本発明にかかる基油として好適に使用されるアルキルベンゼンとしては、分子中に炭素数1〜40のアルキル基を1〜4個有するものが好ましい。ここでいう炭素数1〜40のアルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基(すべての異性体を含む)、ブチル基(すべての異性体を含む)、ペンチル基(すべての異性体を含む)、ヘキシル基(すべての異性体を含む)、ヘプチル基(すべての異性体を含む)、オクチル基(すべての異性体を含む)、ノニル基(すべての異性体を含む)、デシル基(すべての異性体を含む)、ウンデシル基(すべての異性体を含む)、ドデシル基(すべての異性体を含む)、トリデシル基(すべての異性体を含む)、テトラデシル基(すべての異性体を含む)、ペンタデシル基(すべての異性体を含む)、ヘキサデシル基(すべての異性体を含む)、ヘプタデシル基(すべての異性体を含む)、オクタデシル基(すべての異性体を含む)、ノナデシル基(すべての異性体を含む)、イコシル基(すべての異性体を含む)、ヘンイコシル基(すべての異性体を含む)、ドコシル基(すべての異性体を含む)、トリコシル基(すべての異性体を含む)、テトラコシル基(すべての異性体を含む)、ペンタコシル基(すべての異性体を含む)、ヘキサコシル基(すべての異性体を含む)、ヘプタコシル基(すべての異性体を含む)、オクタコシル基(すべての異性体を含む)、ノナコシル基(すべての異性体を含む)、トリアコンチル基(すべての異性体を含む)、ヘントリアコンチル基(すべての異性体を含む)、ドトリアコンチル基(すべての異性体を含む)、トリトリアコンチル基(すべての異性体を含む)、テトラトリアコンチル基(すべての異性体を含む)、ペンタトリアコンチル基(すべての異性体を含む)、ヘキサトリアコンチル基( すべての異性体を含む)、ヘプタトリアコンチル基(すべての異性体を含む)、オクタトリアコンチル基(すべての異性体を含む)、ノナトリアコンチル基(すべての異性体を含む)、テトラコンチル基(すべての異性体を含む)等が挙げられる。また、本発明にかかるアルキルベンゼンのアルキル基は直鎖状であっても分岐鎖状であってもよいが、安定性、粘度特性等の点から分岐鎖状のアルキル基が好ましく、特に入手が容易であるという点から、プロピレン、ブテン、イソブチレン等のオレフィンのオリゴマーから誘導される分岐鎖状アルキル基がより好ましい。
【0014】
本発明において使用されるアルキルベンゼン中のアルキル基の個数は1〜4個が好ましいが、安定性、入手可能性の点から1個又は2個のアルキル基を有するアルキルベンゼン、すなわちモノアルキルベンゼン、ジアルキルベンゼン、又はこれらの混合物が最も好ましい。また、アルキルベンゼンとしては、単一の構造のアルキルベンゼンだけでなく、異なる構造を有するアルキルベンゼンの混合物であっても良い。
【0015】
本発明において、上記した各種基油の40℃における動粘度は通常1〜1000mm/s、好ましくは2〜100mm/s、より好ましくは3〜95mm/sの範囲から選ばれ、これらの基油は1種を単独で用いてもよく、2種以上の基油を混合して用いてもよい。なお、本発明のさび止め油組成物において、40℃における動粘度が100mm/s以上の重質基油、例えば100〜1000mm/s、好ましくは200〜500mm/sの重質基油の含有量は特に制限されないが、本発明におけるさび止め油組成物の塗膜の厚膜化と、持ち出し量の増加の抑制並びに脱脂性及び噴霧性とを最適化する観点から、当該重質基油の含有量は、組成物全量規準で、1〜40質量%であることが好ましく、5〜15質量%であることがより好ましい。
【0016】
さらに、本発明におけるさび止め油組成物の基油の含有量は、特に限定されず任意であるが、組成物に対する基油の下限値としては50質量%、好ましくは70質量%、さらに好ましくは80質量%、もっとも望ましくは90質量%である。
【0017】
本発明のさび止め油組成物は、必須の成分(B)として(1)式で表されるアミンのアルコール誘導体を組成物全量基準で0.5〜25質量%含有する。
【化3】

式(1)中、Rは炭素数8〜24の炭化水素基であり、好ましくは炭素数10〜22の炭化水素基であり、より好ましくは炭素数12〜20の炭化水素基であり、さらに、直鎖の炭化水素基又は分岐の炭化水素基であってもよく、又、飽和の炭化水素基でも不飽和の炭化水素基でもよいが、好ましくは分岐鎖の飽和アルキル基である。具体的には、前記アルキルベンゼンの項で記載したアルキル基のうち炭素数8〜24のアルキル基を示す。一般式(1)で表される化合物のなかでも、優れたさび止め性能が得られることから、具体的には、Rは、1,1−ジメチルオクチル基、1,1−ジメチルノニル基、1,1−ジメチルデシル基、1,1−ジメチルウンデシル基、1,1−ジメチルドデシル基、1,1−ジメチルトリデシル基、1,1−ジメチルテトラデシル基、1,1−ジメチルペンタデシル基、1,1−ジメチルヘキサデシル基、1,1−ジメチルヘプタデシル基1,1−ジメチルオクタデシル基、1,1−ジメチルノナデシル基、1,1−ジメチルエイコシル基が好ましく、1,1−ジメチルドデシル基、1,1−ジメチルトリデシル基、1,1−ジメチルテトラデシル基、1,1−ジメチルペンタデシル基、1,1−ジメチルヘキサデシル基、1,1−ジメチルヘプタデシル基1,1−ジメチルオクタデシル基がもっとも好ましい。
【0018】
及びRは、それぞれ同一でも異なっていてもよく、炭素数1〜12の二価の炭化水素基であり、好ましくは1〜8の二価の炭化水素基であり、より好ましくは2〜4の二価の炭化水素基であり、直鎖又は分岐鎖でもよく、飽和又は不飽和でもよいが、好ましくは直鎖又は分岐鎖のアルキレン基である。具体的には、優れたさび止め性能が得られることから、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基などが挙げられる。
【0019】
具体的な成分(B)のさび止め添加剤としては、以下のものが例示される。

B1:下記式(2)で示す、アルキルアミンのアルコール誘導体。
B2:下記式(3)で示す、アルキルアミンのアルコール誘導体。
B3:下記式(4)で示す、アルキルアミンのアルコール誘導体。
B4:下記式(5)で示す、アルキルアミンのアルコール誘導体。
B5:下記式(6)で示す、アルキルアミンのアルコール誘導体。
B6:下記式(7)で示す、アルキルアミンのアルコール誘導体。
【化4】

【0020】
本発明のさび止め油成物における(B)成分の含有量の上限値は、組成物全量基準で、25質量%、好ましくは20質量%、より好ましくは15質量%である。含有量が25質量%を越える場合、費用対効果に対する経済性および貯蔵安定性が悪くなるので好ましくない。
一方、(B)成分の含有量の下限値は、組成物全量基準で、0.05質量%、好ましくは1質量%、より好ましくは2質量%である。(B)成分の含有量が0.05質量%に満たない場合は、さび止め防止効果が不足するので好ましくない。
【0021】
さらに、本発明のさび止め油成物は、組成物全量基準で金属元素の総含有量が0.1質量%未満、好ましくは0.05質量%未満であることが必要であると、より一層熱処理での不具合を防止することが出来る。尚、本発明において金属元素の含有量とは、ASTM D5185-95 “Standard Test Method for Determination of Additive Elements, Wear Metals, and Contaminants in Used Lubricating Oils and Determination of Selected Elements in Base Oils by Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectrometry (ICP-AES)”に準拠して測定される組成物全量基準の金属元素の含有量を意味している。
【0022】
本発明のさび止め油組成物の40℃における動粘度は、1〜100mm/sであることが必要である。防錆性の点から、下限値は、1mm/以上、好ましくは3mm/s以上、さらに好ましくは5mm/s以上とすることが望ましい。また、取り扱い性及び付着量の点から、上限値は、100mm/s以下、好ましくは75mm/s以下、より好ましくは50mm/s以下とすることが望ましい。
【0023】
また、本発明のさび止め油組成物には、その性能をさらに高める目的で他の公知の添加剤を単独で、または数種類組み合わせて添加することができる。これら添加剤としては、具体的には例えば、酸化ワックス塩、カルボン酸、スルホン酸塩、カルボン酸塩、エステル、ザルコシン、アミン、ホウ素化合物、高級脂肪族アルコール等に代表されるアルコール類などの上記(B)成分以外のさび止め添加剤;酸性雰囲気での暴露さび止め性向上効果が著しいパラフィンワックス、マイクロワックス、スラックワックス、ポリオレフィンワックス、ペトロラタム等の造膜剤;プレス成形性向上効果あるいは潤滑性向上効果が著しい硫化油脂、硫化エステル、長鎖アルキル亜鉛ジチオホスフェート、トリクレジルフォスフェート等のリン酸エステル、リン酸モノエステル、リン酸ジエステル、亜リン酸エステル、これらのアミン塩等に代表される(亜)リン酸誘導体類;豚脂等の油脂、脂肪酸、高級アルコール等に代表される潤滑性向上剤;炭酸カルシウム、ホウ酸カリウム;酸化防止性能を向上させるためのフェノール系またはアミン系酸化防止剤;腐食防止性能を向上させるための腐食防止剤(ベンゾトリアゾールまたはその誘導体、チアジアゾール、ベンゾチアゾール等);ジエチレングリコールモノアルキルエーテル等の湿潤剤;アクリルポリマー、;メチルシリコーン、フルオロシリコーン、ポリアクリレート等の消泡剤;水溶性腐敗因子を除去するための水及び界面活性剤、及びこれらの混合物等が挙げられ、これらを単独で使用してもよく、また2種類以上組み合わせて使用してもよい。これら公知の添加剤を併用する場合の含有量は任意であるが、通常、これら公知の添加剤の合計含有量が組成物全量基準で10質量%以下となるような量を添加するのが望ましい。なお、本発明のさび止め油組成物を熱処理に供される金属部品用として用いる場合には、上記添加剤を選定するにあたっては当然のことながら、熱処理に影響を及ぼさないような添加剤を選ばなければならない。
【0024】
酸化ワックス塩としては、ワックスを酸化して得られる酸化ワックスと、アルカリ金属、アルカリ土類金属(但し、バリウムを除く)およびアミンの中から選ばれる少なくとも1種と、を反応させ、酸化ワックスが有する酸性基の一部または全部を中和して塩としたものが好ましい。
【0025】
酸化ワックス塩の原料として使用される酸化ワックスとしては特に制限されないが、具体的には例えば、石油留分の精製の際に得られるパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタムや合成により得られるポリオレフィンワックス等のワックスを酸化することによって製造されるもの等が挙げられる。
【0026】
酸化ワックス塩がアルカリ金属塩である場合、原料として使用されるアルカリ金属としては、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。また、酸化ワックス塩がアルカリ土類金属塩である場合、原料として使用されるアルカリ土類金属としてはマグネシウム、カルシウム、バリウム等が挙げられる。また、酸化ワックス塩が重金属塩である場合、原料として使用される重金属としては、亜鉛、鉛等が挙げられる。なお、人体や生体系に対する安全性の点から、酸化ワックス塩はバリウム塩及び重金属塩でないことが好ましい。
【0027】
また、酸化ワックス塩がアミン塩である場合、アミンとしては、モノアミン、ポリアミン、アルカノールアミン等が挙げられる。
【0028】
モノアミンとしては、アルキルアミン、アルケニルアミン、アルキル基及びアルケニル基を有するモノアミン、芳香族置換アルキルアミン、アルキルシクロアルキルアミン、等が挙げられる。また、ここでいうモノアミンには、油脂から誘導されるモノアミン(牛脂アミン等)も含まれる。
【0029】
また、ポリアミンとしては、アルキレンポリアミン、N−アルキルエチレンジアミン、N−アルケニルエチレンジアミン、N−アルキルまたはN−アルケニルアルキレンポリアミン、等が挙げられる。また、ここでいうポリアミンには油脂から誘導されるポリアミン(牛脂ポリアミン等)も含まれる。
【0030】
上記したアミンの中でも、モノアミンは耐ステイン性が良好であるという点で好ましく、モノアミンの中でもアルキルアミン、アルキル基及びアルケニル基を有するモノアミン、アルキル基及びシクロアルキル基を有するモノアミン、シクロアルキルアミン並びにアルキルシクロアルキルアミンがより好ましい。また、アミン分子中の合計炭素数が3以上のアミンは耐ステイン性が良好であるという点で好ましく、合計炭素数が5以上のアミンがより好ましい。
【0031】
酸化ワックス塩として、上記のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、重金属塩又はアミン塩のうちの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができるが、さび止め性の点から、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、アルカリ土類金属塩であることがより好ましい。更に、アルカリ土類金属塩の中でも、安全性、並びにカルボン酸との併用効果がより高い点から、カルシウム塩であることが特に好ましい。
【0032】
酸化ワックス塩の含有量は特に制限されないが、さび止め性の点から、組成物全量を基準として、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは2質量%以上である。また、酸化ワックス塩の含有量は、脱脂性及び貯蔵安定性の点から、組成物全量を基準として、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4質量%以下、更に好ましくは3質量%以下である。
【0033】
カルボン酸としては、任意のものが可能であるが、好ましくは、脂肪酸、ジカルボン酸、ヒドロキシ脂肪酸、ナフテン酸、樹脂酸、酸化ワックス、ラノリン脂肪酸などが挙げられる。
【0034】
脂肪酸の炭素数は特に制限されないが、好ましくは6〜24、より好ましくは10〜22である。また、脂肪酸は、飽和脂肪酸であっても不飽和脂肪酸であってもよく、また直鎖状脂肪酸であっても分岐鎖状脂肪酸であってもよい。
【0035】
ジカルボン酸としては、好ましくは炭素数2〜40のジカルボン酸、より好ましくは炭素数5〜36のジカルボン酸が用いられる。これらの中でも、炭素数6〜18の不飽和脂肪酸をダイマー化したダイマー酸、アルキル又はアルケニルコハク酸が好ましく用いられる。ダイマー酸としては、具体的には、オレイン酸のダイマー酸等が挙げられる。また、アルキル又はアルケニルコハク酸の中でも、アルケニルコハク酸が好ましく、炭素数8〜18のアルケニル基を有するアルケニルコハク酸がより好ましい。
【0036】
ヒドロキシ脂肪酸としては、好ましくは炭素数6〜24のヒドロキシ脂肪酸が用いられる。また、ヒドロキシ脂肪酸が有するヒドロキシ基の個数は1個でも複数個でもよいが、1〜3個のヒドロキシ基を有するものが好ましく用いられる。このようなヒドロキシ脂肪酸としては、具体的には、リシノール酸等が挙げられる。
【0037】
ナフテン酸とは、石油中のカルボン酸類であって、ナフテン環に−COOH基が結合したものをいう。
【0038】
樹脂酸とは、天然樹脂中に遊離した状態又はエステルとして存在する有機酸をいう。
【0039】
酸化ワックスとは、ワックスを酸化して得られるものである。原料として用いられるワックスは特に制限されないが、具体的には、石油留分の精製の際に得られるパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトラタムや合成により得られるポリオレフィンワックス等が挙げられる。
【0040】
ラノリン脂肪酸とは、羊の毛に付着するろう状物質を精製(加水分解等)して得られるカルボン酸である。
【0041】
これらのカルボン酸の中でも、さび止め性、脱脂性及び貯蔵安定性の点から、ジカルボン酸が好ましく、ダイマー酸がより好ましく、オレイン酸のダイマー酸がより好ましい。
【0042】
カルボン酸の含有量は特に制限されないが、組成物全量を基準として、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.03質量%以上、更に好ましくは0.05質量%以上である。カルボン酸の含有量が前記下限値未満であると、その添加によるさび止め性向上効果が不十分となる傾向にある。また、カルボン酸の含有量は、組成物全量を基準として、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.3質量%以下、更に好ましくは0.2質量%以下である。カルボン酸の含有量が前記上限値を超えると、基油に対する溶解性が不十分となり、貯蔵安定性が低下する傾向にある。
【0043】
また、酸化ワックス塩とカルボン酸との含有割合は特に制限されないが、カルボン酸/酸化ワックス塩の比(質量比)が、1/100〜30/100であることが好ましく、3/100〜7/100であることがより好ましく、4/100〜6/100であることが更に好ましい。カルボン酸/酸化ワックス塩の比が1/100未満の場合又は30/100を超える場合には、両者の併用によるさび止め性、脱脂性及び貯蔵安定性の向上効果が不十分となる傾向にある。
【0044】
スルホン酸塩としては、スルホン酸アルカリ金属塩、スルホン酸アルカリ土類金属塩及びスルホン酸アミン塩が挙げられる。スルホン酸塩はいずれも人体や生態系に対して十分に高い安全性を有するものであり、アルカリ金属、アルカリ土類金属またはアミンとスルホン酸とを反応させることにより得ることができる。
【0045】
スルホン酸塩を構成するアルカリ金属及びアルカリ土類金属としては、それぞれ酸化ワックスのアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩の説明において例示されたアルカリ金属及びアルカリ土類金属が挙げられ、中でもナトリウム、カリウム、カルシウムが好ましい。
【0046】
また、スルホン酸塩を構成するアミンとしては、酸化ワックスのアミン塩の説明において例示されたアミンが挙げられる。中でも、モノアミンは、よりさび止め性に優れる点で好ましく、モノアミンの中でもアルキルアミン、アルキル基及びアルケニル基を有するモノアミン、アルキル基及びシクロアルキル基を有するモノアミン、シクロアルキルアミン並びにアルキルシクロアルキルアミンがより好ましい。また、アミン分子中の合計炭素数が3以上のアミンは、よりさび止め性に優れる点で好ましく、合計炭素数が5以上のアミンがより好ましい。
【0047】
他方、スルホン酸は、常法によって製造された従来公知のものを使用することができる。具体的には、一般に鉱油の潤滑油留分のアルキル芳香族化合物をスルホン化したもの、ホワイトオイル製造時に副生するマホガニー酸等の石油スルホン酸、アルキルベンゼンをスルホン化したもの、ジノニルナフタレン等のアルキルナフタレンをスルホン化したもの等の合成スルホン酸等、が挙げられる。これらのスルホン酸の分子量について特に制限はないが、好ましくは100〜1500、より好ましくは200〜700のものが使用される。
【0048】
上記のスルホン酸の中でも、ジアルキルナフタレンスルホン酸、ジアルキルベンゼンスルホン酸、及びモノアルキルベンゼンスルホン酸、からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0049】
ジアルキルナフタレンスルホン酸は、ナフタレン環に結合する2つのアルキル基の総炭素数が14〜30のものが好ましい。2つのアルキル基の総炭素数が14未満であると抗乳化性が不十分となる傾向にあり、他方30を超えると得られるさび止め油組成物の貯蔵安定性が低下する傾向にある。なお、2つのアルキル基はそれぞれ直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。また、2つのアルキル基の総炭素数が14〜30であれば各アルキル基の炭素数について特に制限はないが、各アルキル基の炭素数はそれぞれ6〜18であることが好ましい。
【0050】
また、ジアルキルベンゼンスルホン酸は、ベンゼン環に結合する2つのアルキル基がそれぞれ直鎖アルキル基又は側鎖メチル基を1個有する分岐鎖状アルキル基であり、且つ2つのアルキル基の総炭素数が14〜30のものである。モノアルキルベンゼンスルホン酸の場合は後述するようにアルキル基の炭素数が15以上であれば好適に使用することができるが、アルキル基の炭素数が15未満のモノアルキルベンゼンスルホン酸を用いるとさび止め油組成物の貯蔵安定性が低下する傾向にある。また、3個以上のアルキル基を有するアルキルベンゼンスルホン酸を用いた場合にもさび止め油組成物の貯蔵安定性が低下する傾向にある。さらに、ジアルキルベンゼンスルホン酸のベンゼン環に結合するアルキル基が側鎖メチル基以外の分岐構造を持つ分岐鎖状アルキル基(例えば、側鎖エチル基を有する分岐鎖状アルキル基、等)や2つ以上の分岐構造を有する分岐鎖状アルキル基(例えば、プロピレンのオリゴマーから誘導される分岐鎖状アルキル基等)であると、人体又は生態系に悪影響を及ぼす恐れがあり、また、さび止め性が不十分となる傾向にある。さらにまた、ジアルキルベンゼンスルホン酸のベンゼン環に結合する2つのアルキル基の総炭素数が14未満であると抗乳化性が低下する傾向にあり、他方、30を超えるとさび止め油組成物の貯蔵安定性が低下する傾向にある。なお、ベンゼン環に結合する2つのアルキル基の総炭素数が14〜30であれば各アルキル基の炭素数については特に限定はないが、各アルキル基の炭素数はそれぞれ6〜18であることが好ましい。
【0051】
さらに、モノアルキルベンゼンスルホン酸は、ベンゼン環に結合する1つのアルキル基の炭素数が15以上のものである。ベンゼン環に結合するアルキル基の炭素数が15未満であると、得られるさび止め油組成物の貯蔵安定性が低下する傾向にある。また、ベンゼン環に結合するアルキル基は、その炭素数が15以上であれば直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。
【0052】
上記の原料を用いて得られるスルホン酸塩としては、具体的には以下のものが挙げられる。すなわち、アルカリ金属の塩基(アルカリ金属の酸化物や水酸化物等)、アルカリ土類金属の塩基(アルカリ土類金属の酸化物や水酸化物等)又はアミン(アンモニア、アルキルアミンやアルカノールアミン等)とスルホン酸とを反応させることにより得られる中性(正塩)スルホネート;上記の中性(正塩)スルホネートと、過剰のアルカリ金属の塩基、アルカリ土類金属の塩基又はアミンを水の存在下で加熱することにより得られる塩基性スルホネート;炭酸ガスの存在下で上記の中性(正塩)スルホネートをアルカリ金属の塩基、アルカリ土類金属の塩基又はアミンと反応させることにより得られる炭酸塩過塩基性(超塩基性)スルホネート;上記の中性(正塩)スルホネートをアルカリ金属の塩基、アルカリ土類金属の塩基又はアミン並びにホウ酸又は無水ホウ酸等のホウ酸化合物との反応、あるいは上記の炭酸塩過塩基性(超塩基性)スルホネートとホウ酸又は無水ホウ酸等のホウ酸化合物との反応によって得られるホウ酸塩過塩基性(超塩基性)スルホネート、及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0053】
なお、スルホン酸塩中の塩素濃度を200質量ppm以下とすることが好ましく、100質量ppm以下とすることがより好ましく、50質量ppm以下とすることが好ましく、25質量ppm以下とすることが特に好ましい。
【0054】
本発明においては、上記のうち、中性、塩基性、過塩基性のアルカリ金属スルホネート及びアルカリ土類金属スルホネートから選ばれる1種又は2種以上を用いることがより好ましく;塩基価が0〜50mgKOH/g、好ましくは10〜30mgKOH/gの中性又は中性に近いアルカリ金属スルホネート若しくはアルカリ土類金属スルホネート及び/又は塩基価が50〜500mgKOH/g、好ましくは200〜400mgKOH/gの(過)塩基性のアルカリ金属スルホネート若しくはアルカリ土類金属スルホネートを用いることが特に好ましい。上記の塩基価が0〜50mgKOH/gのアルカリ金属スルホネート又はアルカリ土類金属スルホネートの含有量は、組成物全量規準で、好ましくは0.1〜15質量%、より好ましくは2〜12質量%である。また、上記の塩基価が0〜50mgKOH/gのアルカリ金属スルホネート又はアルカリ土類金属スルホネートと塩基価が50〜500mgKOH/gのアルカリ金属スルホネート又はアルカリ土類金属スルホネートとの質量比(塩基価が0〜50mgKOH/gのアルカリ金属スルホネート又はアルカリ土類金属スルホネート/塩基価が50〜500mgKOH/gのアルカリ金属スルホネート又はアルカリ土類金属スルホネート)は、好ましくは0.1〜30、より好ましくは1〜20、特に好ましくは1.5〜15である。ここで、アルカリ金属としてはナトリウム、カリウム等が挙げられ、また、アルカリ土類金属としてはバリウム、カルシウム、マグネシウム等が挙げられるが、カルシウム及びマグネシウムが好ましく、カルシウムが特に好ましい。また、ここでいう塩基価とは、通常潤滑油基油等の希釈剤を30〜70質量%含む状態で、JIS K 2501「石油製品及び潤滑油−中和価試験法」の6.に準拠した塩酸法により測定される塩基価を意味する。
【0055】
カルボン酸塩としては、カルボン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アミン塩などが挙げられる。カルボン酸塩を構成するアルカリ金属、アルカリ土類金属及びアミンとしては、それぞれ酸化ワックス塩の説明において例示したアルカリ金属、アルカリ土類金属およびアミンが挙げられる。なお、バリウム塩は人体や生態系に対する安全性が不十分となるおそれがある。
【0056】
また、カルボン酸塩は、その他のさび止め剤と併用可能であるが、酸化ワックス塩及びラノリン脂肪酸塩をスルホン酸ナトリウム塩と併用する場合は、酸化ワックス塩およびラノリン脂肪酸塩としてそれぞれナトリウム塩を用いることが好ましい。
【0057】
エステルとしては、多価アルコールの部分エステル、エステル化酸化ワックス、エステル化ラノリン脂肪酸、アルキル又はアルケニルコハク酸エステルなどが挙げられる。
【0058】
多価アルコールの部分エステルとは、多価アルコール中の水酸基の少なくとも1個以上がエステル化されておらず水酸基のままで残っているエステルであり、その原料である多価アルコールとしては任意のものが使用可能であるが、分子中の水酸基の数が好ましくは2〜10個(より好ましくは3〜6個)であり且つ炭素数が2〜20(より好ましくは3〜10)である多価アルコールが好適に使用される。これらの多価アルコールの中でも、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール及びソルビタンからなる群より選ばれる少なくとも1種の多価アルコールを用いることが好ましく、ペンタエリスリトールを用いることがより好ましい。
【0059】
他方、部分エステルを構成するカルボン酸としては、任意のものが用いられるが、カルボン酸の炭素数は、好ましくは2〜30、より好ましくは6〜24、更に好ましくは10〜22である。また、当該カルボン酸は、飽和カルボン酸であっても不飽和カルボン酸であってもよく、また直鎖状カルボン酸であっても分岐鎖状カルボン酸であってもよく、さらにこれらの混合物であってもよい。
【0060】
また、部分エステルを構成するカルボン酸として、ヒドロキシカルボン酸を用いてもよい。なお、本発明でいう「ヒドロキシカルボン酸」とは、カルボン酸基(−COOH)に含まれる水酸基以外に水酸基を有するカルボン酸を意味する。
【0061】
ヒドロキシカルボン酸は、飽和カルボン酸であっても不飽和カルボン酸であってもよいが、安定性の点から飽和カルボン酸であることが好ましい。また、ヒドロキシカルボン酸は、直鎖カルボン酸又は分岐カルボン酸であってもよいが、直鎖カルボン酸、あるいは炭素数1又は2(より好ましくは炭素数1)の分岐鎖を1〜3個(より好ましくは1〜2個、特に好ましくは1個)有する分岐カルボン酸であることが好ましい。
【0062】
また、ヒドロキシカルボン酸の炭素数は、さび止め性と貯蔵安定性との両立の点から、2〜40であることが好ましく、6〜30であることがより好ましく、8〜24であることがさらに好ましい。
【0063】
ヒドロキシカルボン酸が有するカルボン酸基の個数は特に制限されず、当該ヒドロキシカルボン酸一塩基酸又は多塩基酸のいずれであってもよいが、一塩基酸であることが好ましい。
【0064】
また、ヒドロキシカルボン酸が有する水酸基の個数は特に制限されないが、安定性の点から、1〜4個であることが好ましく、1〜3個であることがより好ましく、1〜2個であることが更に好ましく、1個であることが特に好ましい。
【0065】
また、ヒドロキシカルボン酸における水酸基の結合位置は任意であるが、カルボン酸基の結合炭素原子に水酸基が結合したカルボン酸(αヒドロキシ酸)、及びカルボン酸基の結合炭素原子から見て主鎖の他端の炭素原子に水酸基が結合したカルボン酸(ωヒドロキシ酸)であることが好ましい。
【0066】
ヒドロキシカルボン酸の好ましい例としては、具体的には、下記一般式(1)で表されるαヒドロキシ酸、及び下記一般式(2)で表されるωヒドロキシ酸が挙げられる。
【0067】
【化5】

【0068】
式中、Rは水素原子、炭素数1〜38のアルキル基又は炭素数2〜38のアルケニル基を示す。
【0069】
【化6】

【0070】
式中、Rは水素原子、炭素数1〜38のアルキレン基又は炭素数2〜38のアルケニレン基を示す。
【0071】
このようなヒドロキシカルボン酸を含む原料として、羊の毛に付着するろう状物質を精製(加水分解等)して得られるラノリン脂肪酸を好ましく使用することができる。
【0072】
部分エステルの構成カルボン酸としてヒドロキシカルボン酸を用いる場合、水酸基を有さないカルボン酸を併用してもよい。なお、本発明でいう「水酸基を有さないカルボン酸」とは、カルボン酸基(−COOH)に含まれる水酸基以外に水酸基を有さないカルボン酸を意味する。
【0073】
なお、部分エステルを構成するカルボン酸がヒドロキシカルボン酸及び水酸基を有さないカルボン酸の双方を含む場合、構成カルボン酸の全量に占めるヒドロキシカルボン酸の割合は5〜80質量%であることが好ましい。ヒドロキシカルボン酸の割合が5質量%未満であると防錆性が不十分となる傾向にある。同様の理由から、当該ヒドロキシカルボン酸の割合は、10質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることが更に好ましい。また、当該ヒドロキシカルボン酸の割合が80質量%を超えると、貯蔵安定性及び基油に対する溶解性が不十分となる傾向にある。同様の理由から、当該ヒドロキシカルボン酸の割合は、60質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることが更に好ましく、30質量%以下であることが一層好ましく、20質量%以下であることが特に好ましい。
【0074】
水酸基を有さないカルボン酸としては、飽和カルボン酸であっても不飽和カルボン酸であってもよい。水酸基を有さないカルボン酸のうち、飽和カルボン酸は直鎖カルボン酸又は分岐カルボン酸のいずれであってもよいが、直鎖カルボン酸、あるいは炭素数1又は2(より好ましくは炭素数1)の分岐鎖を1〜3個(より好ましくは1〜2個、更に好ましくは1個)有する分岐カルボン酸であることが好ましい。水酸基を有さない飽和カルボン酸の炭素数は、さび止め性と貯蔵安定性との両立の点から、2〜40であることが好ましく、6〜30であることがより好ましく、8〜24であることが更に好ましい。水酸基を有さない飽和カルボン酸におけるカルボン酸基の個数は特に制限されず、一塩基酸又は多塩基酸のいずれであってもよいが、一塩基酸であることが好ましい。水酸基を有さない飽和カルボン酸の中でも、酸化安定性及び耐ステイン性の点から、ラウリン酸、ステアリン酸などの炭素数10〜16の直鎖飽和カルボン酸が特に好ましい。
【0075】
また、水酸基を有さないカルボン酸のうち、不飽和カルボン酸は直鎖カルボン酸又は分岐のいずれであってもよいが、直鎖カルボン酸、あるいは炭素数1又は2(より好ましくは炭素数1)の分岐鎖を1〜3個(より好ましくは1〜2個、更に好ましくは1個)有する分岐カルボン酸であることが好ましい。また、水酸基を有さないカルボン酸のうち、不飽和カルボン酸の炭素数は、さび止め性と貯蔵安定性との両立の点から、2〜40であることが好ましく、6〜30であることがより好ましく、8〜24であることが更に好ましく、12〜22であることが特に好ましい。水酸基を有さない不飽和カルボン酸におけるカルボン酸基の個数は特に制限されず、一塩基酸又は多塩基酸のいずれであってもよいが、一塩基酸であることが好ましい。
【0076】
水酸基を有さない不飽和カルボン酸が有する不飽和結合の個数は特に制限されないが、安定性の点から、1〜4個であることが好ましく、1〜3個であることがより好ましく、1〜2個であることが更に好ましく、1個であることが特に好ましい。水酸基を有さない不飽和カルボン酸の中でも、さび止め性及び基油に対する溶解性の点からはオレイン酸などの炭素数18〜22の直鎖不飽和カルボン酸が好ましく、また、酸化安定性、基油に対する溶解性及び耐ステイン性の点からは、イソステアリン酸などの炭素数18〜22の分岐不飽和カルボン酸が好ましく、特にオレイン酸が好ましい。
【0077】
多価アルコールとカルボン酸との部分エステルにおいて、構成カルボン酸に占める不飽和カルボン酸の割合は5〜95質量%であることが好ましい。不飽和カルボン酸の割合を5質量%以上とすることで、さび止め性及び貯蔵安定性を更に向上させることができる。同様の理由から、当該不飽和カルボン酸の割合は、10質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることが更に好ましく、30質量%以上であることが一層好ましく、35質量%以上であることが特に好ましい。他方、当該不飽和カルボン酸の割合が95質量%を超えると、大気暴露性及び基油に対する溶解性が不十分となる傾向にある。同様の理由から、当該不飽和カルボン酸の割合は、80質量%以下であることがより好ましく、60質量%以下であることが更に好ましく、50質量%以下であることが特に好ましい。
【0078】
なお、「不飽和カルボン酸」には水酸基を有する不飽和カルボン酸及び水酸基を有さない不飽和カルボン酸の双方が包含されるが、不飽和カルボン酸全量に占める水酸基を有さない不飽和カルボン酸の割合は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることが更に好ましい。
【0079】
また、上記部分エステルが、構成カルボン酸に占める不飽和カルボン酸の割合が5〜95質量%である部分エステルである場合、当該部分エステルのヨウ素価は、5〜75であることが好ましく、10〜60であることがより好ましく、20〜45であることが更に好ましい。部分エステルのヨウ素価が5未満であると、さび止め性及び貯蔵安定性が低下する傾向にある。また、部分エステルのヨウ素価が75を超えると、大気暴露性及び基油に対する溶解性が低下する傾向にある。
【0080】
なお、本発明でいう「ヨウ素価」とは、JIS K 0070「化学製品の酸価、ケン化価、ヨウ素価、水酸基価及び不ケン化物価」の指示薬滴定法により測定したヨウ素価を意味する。
【0081】
本発明において好ましく用いられる部分エステルの製造方法としては、例えば下記製造方法(i)、(ii)、(iii)が挙げられる。
(i)多価アルコールとヒドロキシカルボン酸(またはヒドロキシカルボン酸と水酸基を有さない飽和カルボン酸との混合物)との部分エステルと、多価アルコールと水酸基を有さない不飽和カルボン酸(または水酸基を有さない不飽和カルボン酸と水酸基を有さない飽和カルボン酸との混合物)との部分エステルとを、両者の混合物におけるカルボン酸組成が上記条件を満たすように混合する。
(ii)得られる部分エステルのカルボン酸組成が上記条件を満たすように、水酸基を有するカルボン酸と水酸基を有さない不飽和カルボン酸とを混合し(あるいは、水酸基を有さない飽和カルボン酸を更に混合し)、当該カルボン酸混合物と多価アルコールとの部分エステル化反応を行う。
(iii)ヒドロキシカルボン酸と水酸基を有さない不飽和カルボン酸との混合物(あるいは、これらのカルボン酸と水酸基を有さない飽和カルボン酸との混合物)との部分エステルに、カルボン酸組成が上記条件を満たすように、多価アルコールとヒドロキシカルボン酸(もしくはヒドロキシカルボン酸と水酸基を有さない飽和カルボン酸との混合物)との部分エステル、または多価アルコールと水酸基を有さない不飽和カルボン酸(もしくは水酸基を有さない不飽和カルボン酸と水酸基を有さない飽和カルボン酸との混合物)との部分エステルを混合する。
【0082】
例えば上記製造方法(i)の場合、ヒドロキシカルボン酸と水酸基を有さない飽和カルボン酸との混合物としてラノリン脂肪酸を、水酸基を有さない不飽和カルボン酸としてオレイン酸等の炭素数2〜40の不飽和カルボン酸を、それぞれ好ましく用いることができる。この場合、多価アルコールとヒドロキシカルボン酸と水酸基を有さない飽和カルボン酸との混合物(好ましくはラノリン脂肪酸)とで構成される部分エステル(第1の部分エステル)と、多価アルコールと水酸基を有さない不飽和カルボン酸(好ましくはオレイン酸)とで構成される部分エステル(第2の部分エステル)との含有割合は、両者の混合物におけるカルボン酸組成比が上記条件を満たせば特に制限されないが、第1及び第2の部分エステルの合計量に占める第1の部分エステルの割合は、20〜95質量%であることが好ましく、40〜80質量%であることがより好ましく、55〜65質量%であることが特に好ましい。第1の部分エステルの割合が20質量%未満であるか、あるいは95質量%を超える場合、大気暴露性などの錆止め性が不十分となる傾向にある。また、第1の部分エステルの割合が95質量%を超えると、部分エステル全体の基油に対する溶解性が低下し、貯蔵安定性が不十分となる傾向にある。
【0083】
エステル化酸化ワックスとは、酸化ワックスとアルコール類とを反応させ、酸化ワックスが有する酸性基の一部または全部をエステル化させたものをいう。ここで、前記エステル化酸化ワックスの原料として使用される酸化ワックスとしては、上記酸化ワックス塩の説明において例示された酸化ワックス;アルコール類としては、炭素数1〜20の直鎖状または分岐状の飽和1価アルコール、炭素数1〜20の直鎖状または分岐状の不飽和1価アルコール、上記エステルの説明において例示された多価アルコール、ラノリンの加水分解により得られるアルコール等、がそれぞれ挙げられる。
【0084】
エステル化ラノリン脂肪酸とは、羊の毛に付着するろう状物質を精製(加水分解等)して得られたラノリン脂肪酸とアルコールとを反応させて得られたものを指す。ここで、エステル化ラノリン脂肪酸の原料として使用されるアルコールとしては、上記のエステル化酸化ワックスの説明において例示されたアルコールが挙げられ、中でも多価アルコールが好ましく、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ソルビタン、ペンタエリスリトール、グリセリンがより好ましい。
【0085】
アルキル又はアルケニルコハク酸エステルとしては、前記したアルキル又はアルケニルコハク酸と1価アルコール又は2価以上の多価アルコールとのエステルが挙げられる。これらの中でも1価アルコール及び2価アルコールのエステルが好ましい。
【0086】
ここでいう1価アルコールとしては、直鎖状のものでも分岐鎖状のものでもよく、また、飽和アルコールでも不飽和アルコールでもよい。また、1価アルコールの炭素数は特に制限されないが、炭素数8〜18の脂肪族アルコールが好ましく用いられる。
【0087】
また、2価アルコールとしては、アルキレングリコール、ポリオキシアルキレングリコールが好ましく用いられる。なお、ポリオキシアルキレングリコールにおいて、構造の異なるアルキレンオキサイドが共重合している場合、オキシアルキレン基の重合形式は特に制限されず、ランダム共重合、ブロック共重合のいずれであってもよい。また、ポリオキシアルキレングリコールの重合度は特に制限されないが、2〜10のものが好ましく、2〜8のものがより好ましく、2〜6のものが更に好ましい。
【0088】
また、アルキル又はアルケニルコハク酸エステルとしては、アルキル又はアルケニルコハク酸の2個の−COOH基の双方がエステル化されたジエステル(完全エステル)であってもよく、あるいは−COOH基の一方のみがエステル化されたモノエステル(部分エステル)であってもよいが、よりさび止め性に優れる点から、モノエステルであることが好ましい。
【0089】
ザルコシンとしては、下記一般式(3)〜(5)のいずれかで表される化合物が好ましく用いられる。本発明のさび止め油組成物に一般式(3)〜(5)で表されるザルコシンを含有させることによって、ワックス、ペトロラタム、重質基油などの重質成分を用いずとも、さび止め性を更に向上させることができ、また、そのさび止め性を長期にわたって高水準に維持することができるようになるため、さび止め性及びその長期維持性に優れると共に、持ち出し量の増加の抑制、脱脂性及び噴霧性の点で有利なさび止め油組成物を得ることができる。

−CO−NR−(CH−COOX (3)
(式中、Rは炭素数6〜30のアルキル基又は炭素数6〜30のアルケニル基、Rは炭素数1〜4のアルキル基、Xは水素原子、炭素数1〜30のアルキル基又は炭素数1〜30のアルケニル基、nは1〜4の整数を示す。)

[R−CO−NR−(CH−COO]Y (4)
(式中、Rは炭素数6〜30のアルキル基又は炭素数6〜30のアルケニル基、Rは炭素数1〜4のアルキル基、Yはアルカリ金属又はアルカリ土類金属、nは1〜4の整数、mはYがアルカリ金属の場合は1、アルカリ土類金属の場合は2を示す。)

[R−CO−NR−(CH−COO]−Z−(OH)m’ (5)
(式中、Rは炭素数6〜30のアルキル基又は炭素数6〜30のアルケニル基、Rは炭素数1〜4のアルキル基、Zは2価以上の多価アルコールの水酸基を除いた残基、mは1以上の整数、m’は0以上の整数、m+m’はZの価数、nは1〜4の整数を示す。)
【0090】
一般式(3)〜(5)中、Rは炭素数6〜30のアルキル基又は炭素数6〜30のアルケニル基を表す。基油への溶解性などの点から、炭素数6以上のアルキル基又はアルケニル基であることが必要であり、炭素数7以上であることが好ましく、炭素数8以上であることがより好ましい。また、貯蔵安定性などの点から、炭素数30以下のアルキル基又はアルケニル基であることが必要であり、炭素数24以下であることが好ましく、炭素数20以下であることがより好ましい。アルキル基は、直鎖状でも分枝状でも良く、アルケニル基は、直鎖状でも分枝状でも良く、また二重結合の位置も任意である。
【0091】
一般式(3)〜(5)中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を表す。貯蔵安定性などの点から、炭素数4以下のアルキル基であることが必要であり、炭素数3以下であることが好ましく、炭素数2以下であることがより好ましい。一般式(3)〜(5)中、nは1〜4の整数を表す。貯蔵安定性などの点から、4以下の整数であることが必要であり、3以下であることが好ましく、2以下であることがより好ましい。
【0092】
一般式(3)中、Xは水素原子、炭素数1〜30のアルキル基又は炭素数1〜30のアルケニル基を表す。Xで表されるアルキル基又はアルケニル基としては、貯蔵安定性などの点から炭素数30以下であることが必要であり、炭素数20以下であることが好ましく、炭素数10以下であることがより好ましい。アルキル基は直鎖状でも分枝状でも良く、アルケニル基は直鎖状でも分枝状でも良く、また二重結合の位置も任意である。
また、よりさび止め性に優れるなどの点から、アルキル基であることが好ましい。Xとしては、よりさび止め性に優れるなどの点から、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数1〜20のアルケニル基であることが好ましく、水素原子または炭素数1〜20のアルキル基であることがより好ましく、水素原子または炭素数1〜10のアルキル基であることがさらにより好ましい。
【0093】
一般式(4)中、Yはアルカリ金属またはアルカリ土類金属を表し、具体的には例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム等が挙げられる。これらの中でも、よりさび止め性に優れる点から、アルカリ土類金属が好ましい。なお、バリウムの場合、人体や生態系に対する安全性が不十分となるおそれがある。一般式(3)中、mはYがアルカリ金属の場合は1を示し、Yがアルカリ土類金属の場合は2を示す。
【0094】
一般式(5)中、Zは2価以上の多価アルコールの水酸基を除いた残基を表す。このような多価アルコールとしては、具体的には例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオール、1,8−オクタンジオール、イソプレングリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ソルバイト、カテコール、レゾルシン、ヒドロキノン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールF、ダイマージオール等の2価のアルコール;グリセリン、2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール、1,2,3−ブタントリオール、1,2,3−ペンタントリオール、2−メチル−1,2,3−プロパントリオール、2−メチル−2,3,4−ブタントリオール、2−エチル−1,2,3−ブタントリオール、2,3,4−ペンタントリオール、2,3,4−ヘキサントリオール、4−プロピル−3,4,5−ヘプタントリオール、2,4−ジメチル−2,3,4−ペンタントリオール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,4−ペンタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等の3価アルコール;ペンタエリスリトール、エリスリトール、1,2,3,4−ペンタンテトロール、2,3,4,5−ヘキサンテトロール、1,2,4,5−ペンタンテトロール、1,3,4,5−ヘキサンテトロール、ジグリセリン、ソルビタン等の4価アルコール;アドニトール、アラビトール、キシリトール、トリグリセリン等の5価アルコール;ジペンタエリスリトール、ソルビトール、マンニトール、イジトール、イノシトール、ダルシトール、タロース、アロース等の6価アルコール;ポリグリセリン又はこれらの脱水縮合物等が挙げられる。
【0095】
一般式(5)中、mは1以上の整数、m’は0以上の整数であり、かつm+m’はZの価数と同じである。つまり、Zの多価アルコールの水酸基のうち、全てが置換されていても良く、その一部のみが置換されていても良い。
【0096】
上記一般式(3)〜(5)で表されるザルコシンの中でも、よりさび止め性に優れる点から、一般式(3)および(4)の中から選ばれる少なくとも1種の化合物であることが好ましい。また、一般式(3)〜(5)の中から選ばれる1種の化合物のみを単独で使用しても良く、2種以上の化合物の混合物を使用しても良い。
【0097】
また、アミンとしては、上記酸化ワックス塩の説明において例示されたアミンが挙げられる。
【0098】
また、ホウ素化合物としては、ホウ酸カルシウム等が挙げられる。
【0099】
なお、上記のさび止め添加剤を製造するに際し、脱色を目的として塩素系漂白剤が使用されることがあるが、本発明においては、漂白剤として過酸化水素等の比塩素系化合物を用いるか、あるいは脱色処理を行わないことが好ましい。また、油脂類の加水分解等で塩酸などの塩素系化合物が使用されることがあるが、この場合も、非塩素系の酸又は塩基性化合物を使用することが好ましい。更に、得られる化合物に水洗等の十分な洗浄処理を施すことが好ましい。
【0100】
また、上記さび止め添加剤の塩素濃度は、さび止め油組成物の特性を損なわない限りにおいて特に制限されるものではないが、好ましくは200質量ppm以下であり、より好ましくは100質量ppm以下であり、さらに好ましくは50ppm以下であり、特に好ましくは25質量ppm以下である。
【0101】
また、本発明のさび止め油組成物においては、バリウム、亜鉛、塩素及び鉛の含有量はそれぞれ元素換算で、さび止め油組成物全量を基準として、1000質量ppm以下、より好ましくは500質量ppm以下、更に好ましくは100質量ppm以下、更により好ましくは50質量ppm以下、一層好ましくは10質量ppm以下、特に好ましくは5質量ppm以下、最も好ましくは1質量ppm以下である。これらの元素のうちの1つでもその含有量が1000質量ppmを超える場合には、人体あるいは生態系等の環境に対する安全性が不十分となる可能性がある。
【0102】
また、本発明のさび止め油組成物の塩基価は特に制限されないが、さび止め性の点から、当該塩基価は、好ましくは1mgKOH/g以上、より好ましくは1.5mgKOH/g以上、更に好ましくは2mgKOH/g以上、特に好ましくは3mgKOH/g以上である。また、貯蔵安定性の点から、当該塩基価は、好ましくは20mgKOH/g以下、より好ましくは15mgKOH/g以下、更に好ましくは10mgKOH/g以下であり、特に好ましくは8mgKOH/gである。なお、ここでいう塩基価とは、JIS K 2501「石油製品及び潤滑油−中和価試験方法」の6.に準拠した塩酸法により測定される塩基価[mgKOH/g]をいう。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明はさび止め油組成物として利用され得て、特に、熱処理に供される金属製部品に対して良好な性能を発揮する。
【実施例】
【0104】
以下、本発明の内容を実施例と比較例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
「実施例1〜8及び比較例1〜7」
表1の実施例1〜8に示す組成を有する各種の本発明に係るさび止め油組成物、及び比較例1〜7に示すさび止め油組成物をそれぞれ調製した。各組成物の調製に用いた成分は、以下のとおりである。
【0105】
(A)基油
A1:鉱油(40℃の動粘度が2mm/s)
A2:鉱油(40℃の動粘度が22mm/s)
A3:ハードアルキルベンゼン(40℃の動粘度が22mm/s)
【0106】
(B)さび止め添加剤
B1:下記式(2)で示す、アルキルアミンのアルコール誘導体。
B2:下記式(3)で示す、アルキルアミンのアルコール誘導体。
B3:下記式(4)で示す、アルキルアミンのアルコール誘導体。
B4:下記式(5)で示す、アルキルアミンのアルコール誘導体。
B5:下記式(6)で示す、アルキルアミンのアルコール誘導体。
B6:下記式(7)で示す、アルキルアミンのアルコール誘導体。
【化7】

【0107】
(C)その他成分
C1:ジ−tert−ブチル−p−クレゾール
C2:ベンゾトリアゾール
C3:ソルビタンモノオレート
C4:有機酸アミン塩
C5:アルキルベンゼンスルホン酸のカルシウム塩
C6:酸化ワックスのカルシウム塩
【0108】
次に調製した各実施例1〜8及び比較例1〜7の組成物について、それぞれ下記の性能評価試験を行った。その結果を表1と表1続きに示した。
[さび止め性試験(塩水噴霧)]JIS K2246「さび止め油」に規定された中性塩水噴霧試験で錆が発生するまでの時間を用いて評価した。ただし評価は1時間ごとに行った。
[熱処理試験]下記に示す条件で熱処理を行い、評価は部品の外観を観察して、「激しいしみあり」を1点、「明瞭なしみあり」を2点、「僅かにしみあり」を3点、「ほとんどしみなし」を4点とした。
【0109】
(熱処理条件)
1)窒素雰囲気下 500℃で1時間加熱
2)880℃で30分間加熱
3)焼入油(40℃の動粘度が43mm/s)中で焼入処理(油温90℃,焼入時間10分間)
【0110】
(貯蔵安定性)
試料油を100mlのガラス瓶に80g秤とり、栓をした状態で室温1ヶ月間放置する。その後、曇りや沈殿を生じないものを合格とし、曇りや沈殿が生ずるものを不合格とした。
【0111】
【表1】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)鉱油及び/又は合成油の中から選ばれる少なくとも1種を基油とし、(B)式1で表されるアミンのアルコール誘導体を組成物全量基準で0.5〜25質量%含有してなり、40℃での動粘度が1〜100mm/sであるさび止め油組成物。
【化1】

(式(1)中、Rは炭素数8〜24の炭化水素基であり、直鎖又は分岐鎖でもよく、飽和又は不飽和でもよい。R及びRは、それぞれ同一でも異なっていてもよく、炭素数1〜12の炭化水素基であり、直鎖又は分岐鎖でもよく、飽和又は不飽和でもよい。)
【請求項2】
組成物全量基準で金属元素の総含有量が0.1質量%未満である請求項1に記載のさび止め油組成物。

【公開番号】特開2009−227691(P2009−227691A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−62831(P2008−62831)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】