説明

てんかんおよびその併発症の治療および予防のためのビンポセチンおよびその誘導体の使用

本発明は、ビンポセチンおよびその化合物から誘導され、同じ効果を奏する誘導体をてんかんおよびその併発症の治療に使用することに関する。我々の研究は、てんかんの2種の実験モデルにおいてインビボで発作時および発作後期間に観察されるてんかん性皮質活動に付随するABR波のすべての異常をビンポセチンが阻止すること、ビンポセチンが、作用機構の異なる2種のけいれん誘発剤によって引き起される顕著な聴力損失および特徴的なEEGの変化をも阻止することを示している。これらの知見は、抗てんかん薬としてのビンポセチンの能力が好ましくない二次作用を伴わないことをも示している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、てんかんおよびその併発症、とりわけ聴覚路に関連した併発症の治療のためのビンポセチンならびにその化合物から誘導され、同じ効果を奏する誘導体の使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
てんかんの一つの大問題は、この疾患が引き起す認知および行動上の有害な転帰(非特許文献1〜4)ならびに現行の抗てんかん薬による処置が引き起す認知および行動上の有害な転帰(非特許文献5〜8)である。
【0003】
全身てんかんの病態生理において聴性脳幹核が密接に関係していることは、全身てんかん患者で観察される聴性脳幹反応(ABR)の後期波の潜伏時間および/または振幅の変化によって示される(非特許文献9〜14)。薬物を投与されていない動物において2つの痙攣因子によって引き起される急性てんかんには、ABRの後期波の異常および顕著な聴力低下が伴う(非特許文献15)。
【0004】
ABRは、聴覚刺激後10ms(ミリ秒)以内に生起するいくつかの波からなる遠隔電場誘発電位である。ABRの後期波の変化は、聴性脳幹の特定の核の変性を示すものである(非特許文献16)ので、ABRは、後迷路損傷の臨床診断に際して普通に用いられている。さらに、聴覚感度が低下していくときにはABRを惹起させるのに漸次高い強度(dB単位で)の刺激が必要とされるので、ABR閾値が聴覚感度の臨床診断に用いられている。それゆえ、ABR閾値の上昇は、聴力低下を客観的に定量化するものである。
【0005】
カルバマゼピン、バルプロ酸塩、フェニトイン、フェノバルビタール、クロナゼパムおよびビガバトリンを含めての抗てんかん薬は、ABR波の異常ならびに聴覚欠損をも引き起す(非特許文献17〜22)。
【0006】
1960年代後半に発見されたビンポセチン(エチル・アポビンカミン−22−オエート)は、何十年にもわたり、脳血管起源の中枢神経系障害の治療において成功裏に使用されてきた。低酸素症および虚血の動物モデルにおいて、ビンポセチンは、ニューロン損傷に対して有利な効果を示す(非特許文献23、24)。
【0007】
より最近では、ビンポセチンは、先行する動物およびヒトでの研究に基づいて、記憶改善のためにも使用されている(非特許文献25〜27)。
【0008】
ビンポセチンはNaチャンネル遮断剤である(非特許文献28)。脳の摘出神経終末において、我々は、シナプス前Naチャンネル透過性の上昇によって引き起される神経伝達物質の放出をビンポセチンが選択的に阻害することを示した(非特許文献29〜30)。さらに、我々は、モルモットにおいてインビボ(生体内)で、アミカシン(非特許文献31)および他のアミノグリコシド系抗生物質(未発表成績)によって引き起されるABR波の変化、聴力損失および死亡率をビンポセチンが長期間抑制・阻止することを示した。
【0009】
てんかんの治療には保障のない医療の必要がある。「旧世代および新世代」のいずれの抗てんかん薬を投与しても、発作抑制にはプラスの作用を奏する(てんかん患者の少なくとも約70%において)が、認知機能を低下させ(非特許文献32〜35)、それが該疾患によって引き起こされた認知機能減退を増悪させる可能性がある(非特許文献36〜39)。抗てんかん薬は、また、ABR波の変化をも惹起し(非特許文献40〜45)、その結果、聴力低下がおこりうる(非特許文献46);また、最初の発作ののちに該疾患を予防するについて認めうるほどの影響を生じさせることができない可能性がある(非特許文献47〜)。
【0010】
【非特許文献1】Prevey et al.,1998,Epilepsy Res.30:1
【非特許文献2】Jokeit and Ebner,1999,J.Neurol.Neurosurg.Psychiatry 67:44
【非特許文献3】Theodore et al.,1999,Neurology 52:132
【非特許文献4】Meador,2001,Epilepsy Behav.2:307
【非特許文献5】Gates,2000,Epilepsy Behav.1:153
【非特許文献6】Kwan and Brodie,2001,Lancet 357:216
【非特許文献7】Brunbech and Sabers,2002,Drugs 62:593
【非特許文献8】Schmidt,2002,Epilepsy Res.50:21
【非特許文献9】Rodin et al.,1982,Clin.Electroencephalogr.13:154
【非特許文献10】Mervaala et al.,1986,Epilepsia 27:542
【0011】
【非特許文献11】Phillips et al.,1990,Clin.Electroencephalogr.21:135
【非特許文献12】Soliman et al.,1993,Ear Hear 14:235
【非特許文献13】コウサカ et al.,1999,Brain Res.837:277
【非特許文献14】コウサカ et al.,2001,Brain Res.903:53
【非特許文献15】Nekrassov and Sitges,2003,Epilepsy Res.53:245
【非特許文献16】Hughes,J.R.,Fino,J.J.,1985,J.Clin.Neurophysiol.2:355
【非特許文献17】Mervaala et al.,1987,Electroencephalogr.Clin.Neurophysiol.68:475
【非特許文献18】Armon et al.,1990,Neurology 40:1896
【非特許文献19】ヒロセ et al.,1990,Electroencephalogr.Clin.Neurophysiol.75:543
【非特許文献20】Yuksel et al.,1995,Childs Nerv.Syst.11:474
【0012】
【非特許文献21】De la Cruz and Bance,1999,Arch.Otolaryngol.Head Neck Surg.125:225
【非特許文献22】Zgorzalewicz and Galas-Zgorzalewicz,2000,Clin.Neurophysiol.111:2150
【非特許文献23】King,1987,Arch.Int.Pharmacodyn.Ther.286:299
【非特許文献24】アラキ et al.,1990,Res.Exp.Med.190:19
【非特許文献25】Subhan and Hindmarch,1985,Eur.J.Clin.Pharmacol.28:567
【非特許文献26】Bhatti and Hindmarch,1987,Int,Clin.Psychopharmacol.2:325
【非特許文献27】DeNoble,1987,Pharmacol.Biochem.Behav.26:183
【非特許文献28】Erdo et al.,1996,Europ.J.Pharmacol.314:69
【非特許文献29】Sitges and Nekrassov,1999,Neurochem.Res.24:1587
【非特許文献30】Trejo et al.,2001,Brain Res.909:59
【0013】
【非特許文献31】Nekrassov and Sitges,2000,Brain Res.868:222
【非特許文献32】Vermeulen and Aldenkamp,1995,Epilepsy Res.22:65
【非特許文献33】Gates,2000,Epilepsy Behav.1:153
【非特許文献34】Brunbech and Sabers,2002,Drugs 62:593
【非特許文献35】Schmidt,2002,Epilepsy Res.50:21
【非特許文献36】Prevey et al.,1998,Epilepsy Res.30:1
【非特許文献37】Jokeit and Ebner,1999,J.Neurol.Neurosurg.Psychiatry 67:44
【非特許文献38】Theodore et al.,1999,Neurology 52:132
【非特許文献39】Meador,2001,Epilepsy Behav.2:307
【非特許文献40】Mervaala et al.,1987,Electroencephalogr.Clin.Neurophysiol.68:475
【0014】
【非特許文献41】Armon et al.,1990,Neurology 40:1896
【非特許文献42】ヒロセ et al.,1990,Electroencephalogr.Clin.Neurophysiol.75:543
【非特許文献43】Yuksel et al.,1995,Childs Nerv.Syst.11;474
【非特許文献44】De la Cruz and Bance,1999,Arch.Otolaryngol.Head Neck Surg.125:225
【非特許文献45】Zgorzalewicz and Galas-Zgorzalewicz,2000,Clin.Neurophysiol.111:2150
【非特許文献46】Nekrassov and Sitges,2003,Epilepsy Res.53:245
【非特許文献47】Hernandez,1997,Trends Pharmacol.Sci.18:59
【非特許文献48】Temkin et al.,2001,Drugs 61:1045;Schmidt,2002,Epilepsy Res.50:21
【非特許文献49】Nekrassov and Sitges,2003,Epilepsy Res.53:245
【非特許文献50】Wada and Starr,1983,Electroencephalogr.Clin.Neurophysiol.56:326;56:340;56:352
【非特許文献51】Tollin,2003,Neuroscientist 9:127
【非特許文献52】Hindmarch et al.,1991,Int.Clin.Psychopharmacol.6:31
【非特許文献53】Nekrassov and Sitges,2000,Brain Res.868:222
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
現在入手可能な抗てんかん薬は、多くの場合に、日常生活を限定する重大な変化のゆえに、患者らを処置の中断に導くようないくつかの有害な二次的効果を引き起す。
【0016】
本発明は、てんかんの治療における好ましい薬剤の調製のために、ビンポセチンおよびその化合物から誘導され、同じ効果を奏する誘導体を使用することに関する。本発明は、発作時および発作後の期間の皮質のてんかん性活動を阻止し、該疾患により惹起され、現行の抗てんかん薬によって増悪させられるもっとも重要な諸障害を予防するためのビンポセチンの有益な作用を記述する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
以前の研究で、我々は、ABRの後期波のパラメータ(振幅および潜伏時間)の異常として反映されるところの上オリーブ複合体の外側核および内側核の活動の変化がてんかんによって引き起される聴力低下と関連していることを示した(非特許文献49)。
【0018】
本発明は、てんかんの2種の実験動物モデルにおいてインビボで観察される後期ABR波の振幅および潜伏時間の変化ならびに聴力低下および特徴的なてんかん性皮質活動をビンポセチンが阻止することを実証するものである。
【0019】
てんかんは、実験動物において、インビボで、脳抑制性伝達を低下させるかまたは脳興奮性伝達を増大させることによって誘発できる。これは、それぞれGABA拮抗物質、PTZまたはグルタミン酸放出因子、4−アミノピリジン(4−AP)の注射によって達成できる。モルモットでの我々の結果は、PTZの注射の4時間前または4−AP注射の1時間前にビンポセチンを2mg/kgの濃度で腹腔内投与するとき、これらのけいれん誘発物質のいずれもが、後期ABR波の振幅および潜伏時間の変化を惹起できず、聴力低下を生じさせることもできず、てんかん性皮質活動を引き起すこともできないことを示している。
【0020】
モルモットにおいては、ABRのP3およびP4波が、それぞれ、内側および外側上オリーブ核の活動を表わす(非特許文献50)。上オリーブの核のうち、P4発生器が音源位置確認において決定力がある(非特許文献51)。ABRのこれらの後期波における変化は、後迷路性変調を示すものである。ビンポセチンは、PTZまたは4−APによって誘起される後迷路性異常(P3および/またはP4パラメータの変化により証明される)をすべて消去し、これによって、両けいれん誘発剤によって誘起される聴力低下を阻止する。
【0021】
現在利用可能な抗てんかん薬は、ABR波の諸パラメータの変化および聴覚欠損を引き起すが、これは、当該疾患によって誘発される異常および聴力損失を増悪させる可能性がある。抗てんかん薬の投与は、発作の制御には積極的な効果を奏するが、好ましくない二次作用をも生じ、それらのうちでも、認知能低下および聴力損失が特に重要である。ビンポセチンはよく忍容され、ヒトにおいて60mg/日という高用量でも禁忌がない(非特許文献52)。我々の結果は、ビンポセチンが、妥当な用量(2mg/kg)で、PTZおよび4−APによって誘発される発作時および発作後の皮質活動ならびにそれら2種のけいれん誘発剤によって引き起される聴力損失を完全に無にすることを示している。てんかんおよび古典的抗てんかん薬が及ぼす聴力損失ないしは低下が認知に及ぼす寄与がビンポセチンによって阻止されるが、このことは、ビンポセチンを抗てんかん薬として使用することが古典的抗てんかん治療法よりも有利であることを示している。
【0022】
現行の抗てんかん薬のもう一つの問題は、てんかん誘発または当該疾患の進行に対してそれらが目立った影響を及ぼせないことである。先の研究で、我々は、ビンポセチンが、高用量のアミカシンでの処置により誘発されるABR波の変化、聴力損失および死亡率に対して長期間(半年以上)の保護作用を及ぼすことを示した(非特許文献53)が、このことは、ビンポセチンがてんかんの治療において重要な予防作用をも奏しうることを示唆している。
【0023】
要約すると、我々の知見は、発作時および発作後の期間のてんかん性皮質活動ならびに結果として聴力損失をもたらし、てんかんおよび利用可能な抗てんかん薬の認知に対する好ましくない作用に寄与するABR波の変化をビンポセチンが阻止することを示している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
初期体重が349±38gの雄性着色成熟モルモットで実験を行なった。ABR記録を用いて各動物の聴覚状態を評価し、EEG記録を用いて皮質興奮性の変化を評価した。ABRおよびEEGの記録は、我々が先に報告した方法(非特許文献46)に従って得た。すべての実験操作法が、動物の使用および保護に関する研究施設内委員会によって承認された。
【0025】
麻酔動物において3つのタイプの記録、すなわち高強度(100dB)の刺激によって誘発させたABRの記録、聴覚閾値決定のためのABRの記録およびEEGの記録を行なった。
【0026】
ABR波パラメータの測定。4および8kHzの純音周波数での100dBの刺激によって誘発させたABRの各波成分の潜伏時間および振幅を、それぞれの特定時点で異なる実験条件下で得たすべてのABR記録において測定した。各ABR波の潜伏時間(ms(ミリ秒)単位)とは、聴覚刺激の開始と当該波の正のピークとの間の時間間隔のことである。刺激の開始は、図1の記録の最下部の縦の矢印で示されている。ABRの各波のピーク振幅(μV単位)は、当該波の正のピークと参照基線(図1における刺激と最初のABR波の出現との間の軌跡)との差である。
【0027】
ABR閾値の測定。徐々に強度(dB単位)を低下させながらの刺激によって誘発させたABR記録を用いて、聴覚閾値を求めた。該閾値は、ABRのP3波が3回の連続した試行においてなお記録できた最低刺激強度(dB単位)であると定義する。
【0028】
スチューデントのt検定を用いて、けいれん誘発剤注射前の結果と注射後の特定時点での結果との差を評価した。すべての測定について、統計的有意性判断基準はP≦0.05であった。すべてのデータは平均±平均の標準誤差として表現している。各図および表において、統計的有意差を示すのに、なる記号を用いている。
【実施例1】
【0029】
脳抑制性伝達の低下に由来するてんかんにより誘発されたABRおよびEEG記録の変化に対するビンポセチンの影響を試験するのに用いた実験計画。
この研究には、8匹の雄性モルモットを参加させた。PTZを食塩水に溶解させ、ビンポセチンは、酸性化し(HClで)、pH4に調整した(NaOHで)食塩水に溶解させた。モルモットに担体(ビンポセチンの溶解に用いた酸性化食塩水)を注射してから4時間後に、動物に麻酔をほどこし、けいれん誘発剤PTZの注射(腹腔内)に先立ち、最初の一組のABRおよびEEGの記録をとった。動物にPTZ(100mg/kg)を注射し、PTZ注射の約2分後(発作期間)にEEG記録をとった。つぎに、発作後期間内の特定の諸時点で他の系列のABRおよびEEG記録をとった。2週間後に、同じ系列の記録をとったが、担体に代えて、PTZ注射の4時間前にビンポセチン(2mg/kg)を動物に注射した。
【0030】
つぎの表は、PTZにより誘発されたP4波ピーク振幅の減少をビンポセチンが阻止することを示している。対照動物(担体を予備注射した)では、2つの音響周波数(8および4kHz)での100dBの刺激によって誘発されるABRのP4波の振幅が、PTZによって漸次減少させられる(左欄)が、ビンポセチンを予備注射した動物では、PTZによって引き起されるP4振幅の減少が認められない(右欄)。表に示した値は,けいれん誘発剤(PTZ)注射の前および注射後の指定時点で8動物から得られたμV単位でのP4波振幅の平均±標準誤差である。
【0031】
【表1】

【0032】
ビンポセチンは、また、4および8kHzの音響周波数での100dBの刺激によって誘発されるABRのP2、P3およびP4波の潜伏時間がPTZ注射後に増大するのを阻止する(図2)。
【0033】
つぎの表は、けいれん誘発剤PTZによって引き起される聴力損失をビンポセチンが阻止することを示している。PTZによって引き起される4および8kHz音響周波数での聴覚閾値の顕著な上昇(左欄)が、PTZ投与前にビンポセチンを予備注射した動物では生じない(右欄)。表に示した値は、8動物で得られたdB単位での閾値の平均±標準誤差である。
【0034】
【表2】

【0035】
ビンポセチンは、PTZが引き起すEEG上でのすべての変化を阻止する。PTZを注射した麻酔動物はすべて全身発作を起した。EEG記録における反復性高振幅スパイク(棘波)状鋭波の活動によって特徴付けられる発作活動の発現は、PTZ注射後の最初の2分間以内に突然現われる。けいれんの間に麻酔動物においてPTZにより引き起される皮質活動のこの突然の変化に続いて、高振幅の律動性のスパイク状突発波を特徴とする典型的な皮質活動パターンが現われる。けいれんの伴わない、この典型的な皮質活動パターンの持続時間を、発作後期間と呼ぶ。
【0036】
ビンポセチンは、発作時および発作後期間にわたりPTZによって誘発された皮質活動の変化を完全に阻止する。
【0037】
図3および4の一番上の記録は、対照条件下での(すなわちPTZ注射前の)特徴的なEEG記録を示す。担体を予備注射した動物におけるPTZの注射から約2分後にEEGに引き起される劇的な変化(発作期間)は、ビンポセチンを予備注射した動物にPTZを注射するときには消失する(図3)。同様に、PTZの注射から10、20、30および50分後にPTZによって引き起される変化(図4a)が、ビンポセチンを予備注射した動物では消失する(図4b)。
【実施例2】
【0038】
脳興奮性伝達の増大により誘発されるABRおよびEEG記録の変化に対するビンポセチンの影響を試験するために用いた実験計画。
5匹のモルモットを試験に参加させた。担体(ビンポセチンを溶解させるために用いた酸性化食塩水)をモルモットに注射してから1時間後に、動物を麻酔し、けいれん誘発剤4−APの注射(腹腔内)に先立ち、最初の1組のABRおよびEEG記録を行なった。動物に4−AP(2mg/kg)を注射し、4−APの注射から約20分後(発作期間)にEEGを記録した。つぎに、発作後期間内の特定の諸時点で他の系列のABRおよびEEGを記録した。2週間後に、担体に代えて、4−APの注射の1時間前にビンポセチン(2mg/kg)を動物に注射して、同じ諸系列の記録を反復した。
【0039】
ビンポセチンは、4−APにより誘発されるP3およびP4波の振幅の変化をも阻止する。たとえば、対照動物において4−APにより引き起されるABRのP3波の振幅の漸次の増大(図5a)が、ビンポセチン処置動物では消失され(図5b)、対照動物で4−APにより引き起されるP4振幅の減少(図5c)が、ビンポセチン処置動物では顕著に減少する(図5d)。
【0040】
つぎの表は、対照動物において4−APの注射後の所定の諸時点で観察されるところの4および8kHzの音響周波数での100dBの刺激が誘発するABRのP4波の潜伏時間の延長(左欄)が、ビンポセチン予備処理動物で4−APを注射するときにはなくなる(右欄)ことを示している。
【0041】
【表3】

【0042】
ビンポセチンは、4−APが引き起す聴力損失を阻止する。つぎの表は、対照動物において4−APが誘発する8および4kHzの音響周波数での聴覚閾値の上昇(左欄)が、ビンポセチン処置動物ではなくなる(右欄)ことを示している。
【0043】
【表4】

【0044】
ビンポセチンは、EEGにおいて4−APが誘発するすべての変化を阻止する。4−APを注射したすべての麻酔動物が、4−APの注射から約20分後に現われるEEG記録上の反復性の高振幅スパイク状鋭波活動によって特徴付けられる全身発作を起した。発作期間中に4−APが誘発する皮質活動上のこの変化に続いて、4−APの注射から約1時間後にEEG上に現われる高振幅の孤立性スパイクを特徴とする発作後期間が現われる。ビンポセチンは、発作時および発作後の両期間の4−APが誘発する皮質活動の変化を完全に阻止する。
【0045】
図6のそれぞれの上の方の記録は、担体を予備注射した動物(a)およびビンポセチンを予備注射した動物(b)において4−AP注射前に測定した特徴的なEEG記録を示す。発作期間に4−APが誘発した変化を図6aの二番目の記録に示す。ビンポセチン処置動物では、4−APは発作活動を誘発させることができなかった(図6bの二番目の記録)。図7aは、4−APが惹起した発作後活動を示すが、これが、ビンポセチン予備処理動物にけいれん誘発剤(4−AP)を注射したときには、なくなっている(図7b)。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】図1は、ペンチレンテトラゾール(PTZ)注射前の代表的な動物(a)において、PTZの4時間前に担体を予備注射した動物(b)においてPTZ注射50分後に、ならびにPTZの4時間前にビンポセチンを予備注射した動物(c)においてPTZ注射50分後にそれぞれ作成したABR記録を示す。各動物は、矢印によって示されている高周波数(8kHz)、高強度(100dB)の純音単耳刺激を受けた。
【図2】図2は、PTZによって誘発されたABRのP2、P3およびP4波の潜伏時間の増大をビンポセチンが阻止することを示している。音響周波数8kHz(左側のグラフ)および4kHz(右側のグラフ)での100dBの刺激によって誘発されるそれらの波の潜伏時間は、担体を予備注射された対照動物(黒丸)および2mg/kgのビンポセチンを予備注射された動物(白抜きの丸)において、PTZの注射前(Bef.)および注射10、20、30および50分後に測定した。結果は、動物8個体の平均±SEM(標準偏差)値である。
【図3】図3は、発作期間中にPTZにより引き起される脳電図(EEG;脳波)の変化をビンポセチンが阻止することを示している。図示したEEGは、PTZ注射前の代表的動物において(上方の記録)、PTZより4時間前に担体を予備注射した動物(中央の記録)またはPTZより4時間前にビンポセチンを予備注射した動物(下方の記録)においてPTZ注射の約2分後に記録したものである。
【図4】図4は、PTZにより引き起される発作後の期間のEEGの変化をビンポセチンが阻止することを示している。EEGは、PTZ注射の前に担体を予備注射された(一番上の記録)およびPTZ注射から10、20、30および50分後の代表的動物で記録された。また、PTZ注射の前にビンポセチンを予備注射された(一番上の記録)およびPTZ注射から10、20、30および50分後の代表的動物で記録された。
【図5】図5は、別のけいれん誘発剤4−アミノピリジン(4−AP)によって誘発された後期ABR波の振幅の変化をビンポセチンが阻止することを示している。それらのABRは、8kHzで100dBの刺激によって誘発された。対照動物(a)において4−APの注射後に観測されるABRのP3波の振幅の漸次の振幅増大が、ビンポセチンを予備注射した動物(b)では消去され、対象動物(c)で4−APの注射後に観測されるABRのP4波の振幅の顕著な低減が、ビンポセチン投与動物(d)では顕著に減少することを示している。
【図6】図6は、発作期間に4−APにより誘発されたEEGの変化をビンポセチンが阻止することを示している。(a)に示したEEGは、担体を予備注射した動物において4−APの注射前および注射から約20分後の代表的動物で記録したものである。(b)に示したEEGは、2mg/kgのビンポセチンを予備注射した動物において4−APの注射前および注射から約20分後の代表的動物で記録したものである。
【図7】図7は、4−APによって誘発される発作後の期間のEEGの変化をビンポセチンが阻止することを示している。(a)に示したEEGは、担体を予備注射した代表的動物において、4−APの注射の前(一番上の記録)および注射から30、60および80分後に記録したものである。(b)に示したEEGは、ビンポセチンを予備注射した代表的動物において、4−APの注射の前(一番上の記録)および注射から30、60および80分後に記録したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経疾患、とりわけてんかんの治療および予防に有用であり、該疾患に付随する聴性脳幹反応(ABR)波の変化および聴力損失に拮抗しうる薬物の製造のためのビンポセチンおよびその誘導体の使用。
【請求項2】
発作時および発作後期間のてんかん性皮質活動の阻止を特徴とする抗てんかん薬としての請求項1に従ってのビンポセチンおよびその誘導体の使用。
【請求項3】
ABRの種々の波の振幅および潜伏時間の変化の阻止を特徴とする、後迷路起源の変化を処置するための請求項1に従ってのビンポセチンおよびその誘導体の使用。
【請求項4】
種々の化学薬剤、すなわちペンチレンテトラゾール、4−アミノピリジンおよびいくつかのアミノグリコシド系抗生物質によって引き起される聴覚閾値の上昇の阻害を特徴とする、聴力損失を処置するための請求項1に従ってのビンポセチンおよびその誘導体の使用。
【請求項5】
いくつかのアミノグリコシド系抗生物質によって引き起されるABR波の変化に対する長期の保護作用を特徴とする神経疾患予防における請求項1に従ってのビンポセチンおよびその誘導体の使用。
【請求項6】
医薬として許容される担体中に含有させて経口または非経口的に投与できることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の医薬の使用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公表番号】特表2007−521241(P2007−521241A)
【公表日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−509879(P2005−509879)
【出願日】平成15年10月28日(2003.10.28)
【国際出願番号】PCT/MX2003/000089
【国際公開番号】WO2005/039482
【国際公開日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【出願人】(506145131)ウニヴェルシダ ナシオナル アウトノマ デ メヒコ (1)
【Fターム(参考)】