説明

ねじ及びねじの取付方法

【課題】取り付けた際の外観に優れたものとしつつ、作業性の向上を図ることができるねじ及びねじの取付方法を提供する。
【解決手段】ねじ1は、ねじ山11が形成された軸部3と、軸部3の基端側に形成された頭部5と、頭部5に枢動可能に設けられた笠部7とを備えており、笠部7が頭部5を中心に枢動し、笠部7が軸部3の軸方向に対して傾斜する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ねじ及びこのねじの取付方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ねじは、一般的に、螺旋状のねじ山が形成された軸部と、軸部の基端側に形成された頭部とから構成されている(例えば、非特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】田村修著「ねじの知識」養賢館出版、2008年1月25日
【非特許文献2】門田和雄著「ねじ 基礎のきそ」日刊工業新聞社、2007年2月28日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来のねじでは、傾斜面を有する部材に螺着させる際に、傾斜面に対して鉛直方向に螺入すると、傾斜面と頭部の下面との間に隙間が生じてしまい、外観が悪いといった問題があった。また、この隙間を解消するためには、部材に座グリ加工を施す工程が必要となり、作業性が悪いといった問題があった。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、取り付けた際の外観に優れたものとしつつ、作業性の向上を図ることができるねじ及びねじの取付方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係るねじは、ねじ山が形成された軸部と、軸部の基端側に形成された頭部と、頭部を包囲するように配置され、頭部に枢動可能に設けられた笠部とを備えることを特徴とする。
【0007】
このねじでは、笠部が頭部に枢動可能に設けられている。これにより、傾斜面にねじを取り付ける際、笠部が傾斜面に応じて枢動するため、傾斜面と笠部との間に隙間が形成されない。そのため、取り付けた際の外観を優れたものとすることができる。これにより、傾斜面との間の隙間を解消するための座グリ加工を必要としないため、作業性の向上を図ることができる。
【0008】
また、頭部は球状をなしており、頭部の球面には、軸部の軸方向に沿って溝が形成されており、笠部の内面には、溝に係合する係合部が形成されており、笠部は、頭部の溝に沿って摺動すると共に、軸方向に直交する方向への移動が規制されている。このような構成によれば、軸方向に直交する方向、すなわちねじを締め付ける方向への笠部の移動が規制されるため、笠部によってねじを締めることが可能となる。
【0009】
また、本発明に係るねじの取付方法は、ねじ山が形成された軸部と、軸部の基端側に形成された頭部と、頭部を包囲するように配置され、頭部に枢動可能に設けられた笠部とを備えるねじを部材に取り付ける方法であって、部材に螺着させるときに、部材の表面と笠部における上記表面に対向する面とが当接するように、笠部を枢動させることを特徴とする。
【0010】
このねじの取付方法では、部材に螺着させるときに、部材の表面と笠部における部材の表面に対向する面とが当接するように、笠部を枢動させる。これにより、部材の表面が傾斜面であっても、その傾斜面と笠部との間に隙間が形成されない。そのため、取り付けた際の外観を優れたものとすることができる。これにより、傾斜面との間の隙間を解消するための座グリ加工を必要としないため、作業性の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、取り付けた際の外観に優れたものとしつつ、作業性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係るねじを示す図である。
【図2】図1に示すねじの軸部及び頭部を示す図である。
【図3】図1に示すねじの笠部を示す図である。
【図4】笠部の動きを説明するための図である。
【図5】ねじを上から見た図である。
【図6】笠部の側面図である。
【図7】頭部の横断面図である。
【図8】笠部の横断面図である。
【図9】従来のねじが取り付けられた状態を示す図である。
【図10】本実施形態のねじが取り付けられた状態を示す図である。
【図11】変形例に係るねじを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態に係るねじを示す図である。図2は、図1に示すねじの軸部及び頭部を示す図であり、図3は、図1に示すねじの笠部を示す図である。
【0015】
各図に示すように、ねじ1は、軸部3と、軸部3の一方の端部(基端)側に設けられた頭部5と、頭部5に枢動可能に連結された笠部7とを有して構成されている。ねじ1は、例えば金属材料から形成されている。ねじ1の表面には、電気メッキ、無電解メッキ、アルマイト処理、黒染め等を施すことができる。
【0016】
ねじ1は、例えばメートル並目ねじ、メートル細目ねじ、インチ並目ねじ、インチ細目ねじ、ユニファイ並目ねじ、ユニファイ細目ねじ、メートル台形ねじ、ミニチュアねじ、管用テーパーねじ、管用並行ねじ、SIねじ、ウィットウォースねじ、又はセラースねじであり、本実施形態では、笠部7が六角の形状を有すると共に軸部3がメートル並目ねじであるねじを一例に説明する。
【0017】
続いて、ねじ1の各構成について、詳細に説明する。なお、以下の説明においては、笠部7によってねじ1を締め付ける様態について説明する。
【0018】
軸部3は、ねじ山11が形成された円柱状部材である。軸部3において、ねじ山11が形成されたねじ部13の寸法は、螺着される部材の寸法などによって適宜設定される。ねじ部13には、所定のピッチでねじ山11が螺旋状に形成されている。軸部3の長ささは、例えば3mm〜150mm程度であり、軸部3の直径は、2mm〜20mm程度である。
【0019】
ねじ山11の切刃形状は、例えば基本山型ねじ、三角ねじ、台形ねじ、角ねじ、電球ねじ、鋸刃ねじ、管用テーパーねじ、管用並行ねじなど、ねじ1の種類に応じて形成される。また、ねじ山11の先端(ねじ先)の形状は、例えばあら先、面取り先、平先、丸先、とがり先、全とがり先、棒先、半棒先、くぼみ先、切り刃先、タッピンねじ先F、タッピンねじ先C、木ねじ、ドリルねじ、又はコーススレッドなどであり、ねじ1の種類に応じて形成されている。本実施形態のねじ1では、ねじ山11の切刃形状は基本山型ねじあり、先端形状は、平先となっている。
【0020】
頭部5は、球状を呈しており、軸部3と一体成型されている。頭部5の上端部は、平坦面5aとなっている。頭部5の球面には、軸部3の軸方向に沿って溝15が形成されている。溝15は、頭部5の周方向に所定のピッチで複数形成されている。図2(b)に示すように、溝15は、略V字状を呈している。頭部5の外接円の径は、例えば2mm〜30mm程度である。なお、軸部3と頭部5とを一体成型する方法としては、プレス加工や削り出し等が挙げられる。また、頭部5は軸部3に連結されていればよく、頭部5と軸部3とをそれぞれ成型した後に、頭部5を軸部3に溶接、接着、ねじ止め、ピン止めなどによって連結してもよい。また、頭部5は、テフロン(登録商標)などの樹脂によってコーティングされていてもよい。これにより、後述する笠部7の摺動(枢動)性の向上を図ることができる。
【0021】
笠部7は、円筒状の部材であり、頭部5を包囲するように配置されて頭部5に取り付けられている。図3(b)に示すように、笠部7は、外形が六角形を呈している。笠部7にはその中心部分に貫通孔Hが形成されており、この貫通孔Hに頭部5が挿入されている。笠部7の内周面(内面)7aは、頭部5の球面に沿った形状を呈しており、この内周面7aには、内側に突出する凸部(係合部)17が形成されている。言い換えれば、内周面7aには、凹部形成されている。凸部17は、頭部5の溝15に対応する(相対する)形状を呈しており、笠部7の貫通孔Hの軸方向に沿って溝15に対応して形成されている。すなわち、凸部17は、溝15と同じ数だけ形成されている。
【0022】
笠部7は、頭部5の上方側から頭部5に圧入されている。具体的には、笠部7のクリアランスをマイナス公差(−5mm〜0mm)とし、頭部5のクリアランスをプラス公差(0mm〜5mm)とし、笠部7を頭部5に圧入している。このとき、笠部7の凸部17が頭部5の溝15に係合する。これにより、笠部7は、軸部3の軸方向に直交する方向への移動が規制されると共に、溝15に沿って摺動可能に設けられている。笠部7の外径は、例えば4mm〜40mm程度であり、笠部7の内径は、頭部5の外接円の径に対して5%〜25%大きく形成されていることが好ましく、5%〜20%であることがより好ましい。これにより、笠部7の動きがスムーズとなる。
【0023】
なお、笠部7の外径が15mm〜40mm程度である場合には、頭部5の溝15と笠部7の凸部17との間にボール(図示しない)を組み込むことが好ましい。これにより、笠部7の動きを滑らかにすることができる。また、笠部7の外径が4mm〜15mm程度である場合には、溝15と凸部17との摩擦負荷が小さいため、ボールを組み込まなくとも滑らかな動きを得ることができる。この場合には、加工を容易に行うことができると共に、コストの低減を図れる。
【0024】
続いて、笠部7の動きについて、図4を参照しながら説明する。図4は、笠部7の動きを説明するための図であり、(a)は笠部が通常状態(摺動していない状態)を示す図であり、(b)は笠部が摺動した状態を示す図である。図4に示すように、ねじ1の笠部7は、その内周面7aに設けられた凸部17が頭部5の溝15に沿って摺動することにより、笠部7が軸部3(頭部5)に対して傾斜する。このとき、笠部7は、軸部3の軸方向に対して0°〜30°の範囲で傾斜する。また、頭部5の溝15に笠部7の凸部17が係合することにより、頭部5の周方向への笠部7の移動が規制される。これにより、笠部7によってねじ1を締め付けることができる。
【0025】
続いて、ねじ1の形状について説明する。図5は、ねじを上から見た図である。
【0026】
図5に示すように、ねじ1は、様々な様態とすることができる。例えば、図5(a)〜(d)などに示すように、ねじ1は、頭部5の平坦面5aに、すりわり、十字穴、フィリップス型、S型、プラスマイナス、六角穴、四角穴、ヘクスローブ穴、三角穴、複数の穴、T溝、又はY溝などを形成し、この頭部5によって締め付けを行う様態であってもよい。このとき、頭部5及び笠部7には、溝15及び凸部17をそれぞれ設けなくてもよい。また、図5(e)〜(h)に示すように、笠部7によってねじ1の締め付けを行う場合には、ねじ1は、笠部7の外形を六角状に形成したり、笠部7の外周面に凹凸を形成してもよいし、笠部7を摘める形状としてもよい。笠部7の外形は、その他に、球、四角形、三角形、円形等であってもよい。
【0027】
図6は、笠部の側面図である。図6に示すように、笠部7は、ねじ1の種類(用途)に応じた形状とすることができ、頭部5を囲う形状や、頭部5を覆う形状とすることができる。笠部7は、例えば、なべ、皿、丸皿、トラス、バインド、低頭、超低頭、チーズ、丸、平丸、プレジャ、六角、四角、ヘキサビューラ、楕円、ワッシャーヘッド、アイレット、フック、U字、又は蝶形状とすることができる。
【0028】
また、図7は、頭部の横断面図であり、図8は、笠部の横断面図である。図7及び図8に示すように、頭部5及び笠部7は、それぞれに対応する形状を呈していればよい。すなわち、頭部5によってねじ1を締め付ける構成の場合には、図7(a)及び図8(a)に示すように、頭部5と笠部7とが係合する形状とする必要はない。一方、頭部5又は笠部7によってねじ1を締め付ける構成の場合には、図7(b)〜(h)及び図8(b)〜8h)に示すように、頭部5と笠部7とが少なくとも係合する(噛み合わさる)形状とする。
【0029】
続いて、本実施形態に係るねじ1の作用・効果について説明する。図9は、従来のねじを取り付けた状態を示す図であり、図10は、本実施形態に係るねじを取り付けた状態を示す図である。
【0030】
図9(a)に示すように、従来のねじ1Aを部材Bの傾斜面Sにおいて鉛直方向に螺入させて取り付ける場合には、傾斜面Sとねじ1Aの頭部5Aの下面との間に隙間Gが形成される。この隙間Gを解消させるためには、図9(b)に示すように、螺着する部材に座グリ加工を施して座グリ穴Aを形成する必要があった。
【0031】
これに対して、本実施形態のねじ1では、図10(a)に示すように、笠部7が頭部5に対して枢動可能に設けられているため、笠部7が頭部5を中心に枢動(本実施形態では頭部5の溝15に沿って笠部7の凸部17が摺動)し、笠部7が軸部3の軸方向に対して傾斜する。すなわち、ねじ1を取り付ける際には、このねじ1の軸部3を部材Bに螺着させるときに、部材Bの傾斜面S(表面)と笠部7の下面(傾斜面Sに対向する面)とが平行に当接するように、笠部7を枢動させせる。これより、笠部7の下面と傾斜面Sとの間の隙間Gを解消することができる。
【0032】
したがって、外観を良好なものとすることができると共に、隙間Gを解消するための座グリ穴Aを形成する必要がなく、作業性の向上を図ることができる。また、図10(b)に示すように、座グリ穴Aが予め形成されている場合であっても、笠部7が同様に枢動して傾斜することにより、傾斜面Sとねじ1の上面、すなわち笠部7の上面と略平行とすることができる。これにより、ねじ1を取り付けた際の外観をより良好なものとすることができる。
【0033】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、ねじ1の外観の観点から、笠部7を頭部5の上方側から圧入しているが、図11に示すように、笠部7を頭部5の下方側から圧入してもよい。この場合には、締結力を高めることができる。
【0034】
また、上記実施形態では、笠部7に頭部5を圧入しているが、笠部7と頭部5とは、他の方法によって連結されてもよい。例えば、笠部7を2個以上の部品に分けて成型し、頭部5を挟むように組んで溶接、接着、ネジ止め、ピン止めのいずれかの方法により接合し、笠部7と頭部5とを連結してもよい。また、笠部7を上下2個以上の部品に分けて、その2個以上の部品自体をネジ構造として締め込む方法であってもよい。
【0035】
また、上記実施形態では、金属材料にて形成されたねじ1を例示したが、ねじ1の材料は、樹脂、セラミック、木、ゴム等であってもよい。このように、材料を変えることによって、工業製品製造や食品製造など、様々な用途へ展開・使用することができる。また、耐熱や強度、耐候性等が必要な場合には、金属材料に各種処理を施したものやステンレス鋼を材料として用いることが好ましい。また、樹脂材料を用いる場合には、用途や好みに応じた着色をすることも可能であるため、外観重視の部分に使用する場合に好ましい。
【0036】
また、上記実施形態では、頭部5の球面に溝15を形成すると共に、笠部7の内周面7aに凸部17を形成し、溝15と凸部17とが係合する形状としているが、溝15及び凸部17は形成されなくてもよい。つまり、笠部7によってねじ1の締め付けを行う場合には、溝15及び凸部17を形成する必要があるが、頭部5のみによってねじ1の締め付けを行う場合には、溝15及び凸部17を必ずしも形成しなくてよい。この場合には、頭部5に笠部7を枢着、すなわち枢動可能な状態で取り付ける。枢動可能な状態とは、球面運動する状態のことである。このような構成により、笠部7は、頭部5の中心点を中心に、周方向に0°〜360°の範囲で枢動する。
【0037】
また、上記実施形態では、笠部7は、頭部5を囲う形状、すなわち頭部5の平坦面5aが露出する貫通孔Hが形成された形状となっているが、頭部5を完全に覆う形状であってもよい(図6(b),(d)参照)。
【符号の説明】
【0038】
1…ねじ、3…軸部、5…頭部、7…笠部、7a…内周面(内面)、11…ねじ山、15…溝、17…凸部(係合部)、B…部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねじ山が形成された軸部と、
前記軸部の基端側に形成された頭部と、
前記頭部を包囲するように配置され、前記頭部に枢動可能に設けられた笠部とを備えることを特徴とするねじ。
【請求項2】
前記頭部は球状をなしており、
前記頭部の球面には、前記軸部の軸方向に沿って溝が形成されており、
前記笠部の内面には、前記溝に係合する係合部が形成されており、
前記笠部は、前記頭部の前記溝に沿って摺動すると共に、前記軸方向に直交する方向への移動が規制されていることを特徴とする請求項1記載のねじ。
【請求項3】
ねじ山が形成された軸部と、前記軸部の基端側に形成された頭部と、前記頭部を包囲するように配置され、前記頭部に枢動可能に設けられた笠部とを備えるねじを部材に取り付ける方法であって、
前記部材に螺着させるときに、前記部材の表面と前記笠部における前記表面に対向する面とが当接するように、前記笠部を枢動させることを特徴とするねじの取付方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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