はんだ接合部の非破壊による劣化診断方法
【課題】 はんだ接合部を含む電子部品の劣化を非破壊で診断する。
【解決手段】 はんだ接合部を含む電子部品を加熱しながら、電子部品の熱分布のデータ画像を経時的に計測する。熱分布のデータ画像から、N(R)・RD=C…(1)(但し、式中、N(R)は被覆に必要な立方体の数、Rは立方体の一辺の長さ、Dはフラクタル次元、及びCは定数(対象立体の体積)を表す)に基づいてフラクタル解析を行い、フラクタル次元を求める。その後、フラクタル次元の経時変化を評価する。
【解決手段】 はんだ接合部を含む電子部品を加熱しながら、電子部品の熱分布のデータ画像を経時的に計測する。熱分布のデータ画像から、N(R)・RD=C…(1)(但し、式中、N(R)は被覆に必要な立方体の数、Rは立方体の一辺の長さ、Dはフラクタル次元、及びCは定数(対象立体の体積)を表す)に基づいてフラクタル解析を行い、フラクタル次元を求める。その後、フラクタル次元の経時変化を評価する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、半導体装置やダイオードの半導体やパワー素子やプリント基板などの種々の電子部品に実装される素子、チップなどのはんだ接合部の劣化及び寿命検出に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、一般に、電車、自動車、エレベータ等のドライブシステムに搭載される半導体装置は、半導体装置基板が樹脂モールドされており、その樹脂モールド内部には、シリコンのポッティング材が充填されている。この様にシリコンで充填されている場合は、樹脂をすべて除去し、部品の接合部を一つ一つ拡大鏡などを用いて観察して判定する方法がある。しかしながら、樹脂を除去するためには、除去液を準備し、浸漬して、数時間〜場合によっては数日間浸漬が必要となる。仮に浸漬して除去できた場合でも、判定に時間が掛かる。
【0003】
また、例えば、CPUなどの接続で用いられるBGAでは、1200ピンという多ピンのものまであり、どの部位が劣化しているかを正確に検出することは非常に難しい。
【0004】
例えばはんだクラックが発生して使用できなくなったはんだ接合部に含浸油を真空含浸させ、真空含浸前及び真空含浸後のはんだ接合部の重量を測定し、各重量の変化量によりはんだクラックの大きさを非破壊の状態で測定するようにしたことを特徴とするはんだクラックの測定方法がある。しかしながら、上述のように、樹脂の除去に時間がかかり、さらに、ポッティング材が完全に除去できなければ、亀裂内部への含浸もできず、重量変化もさらに誤差が広がる。
【0005】
はんだ接合部の劣化を知ることは、製品のトラブルの対策として非常に有効である。
【0006】
また、製品のトラブルを未然に防止するためには、使用中のはんだ接合部の接合部の劣化を調べて、製品の寿命を知ることが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3661718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の実施形態は、はんだ接合部を含む電子部品の劣化の非破壊による診断を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態によれば、
はんだ接合部を含む電子部品を加熱しながら、該電子部品の熱分布のデータ画像を経時的に計測し、
該熱分布のデータ画像から、下記式(1)に基づいてフラクタル次元を求め、
N(R)・RD=C…(1)
(但し、式中、N(R)は被覆に必要な立方体の数、Rは立方体の一辺の長さ、Dはフラクタル次元、及びCは定数(対象立体の体積)を表す。)
該フラクタル次元の経時変化を評価することを含むはんだ接合部の非破壊による劣化診断方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態に係るはんだ接合部の非破壊による劣化診断方法を表すフロー図である。
【図2】半導体パワー素子の構成の一例を正面から見た図である。
【図3】図2のA−A断面を部分的に表す模式図である。
【図4】はんだ接合部表面の劣化の様子を表す電子顕微鏡写真である。
【図5】実施形態に係る方法に用いられるサーモグラフィのデータ画像を表す写真である。
【図6】はんだ接合部の破断面の電子顕微鏡写真である。
【図7】はんだ接合部表面の様子を表す電子顕微鏡写真である。
【図8】実施形態に係る方法に用いられるサーモグラフィのデータ画像を表す写真である。
【図9】加熱時間とフラクタル次元との関係を表すグラフである。
【図10】加熱時間とフラクタル次元との関係を表すグラフである。
【図11】実施形態に係る方法に用いられるサーモグラフィのデータ画像を表す写真である。
【図12】実施形態に係る方法に用いられるサーモグラフィのデータ画像を表す写真である。
【図13】実施形態に係る方法に用いられるサーモグラフィのデータ画像を表す写真である。
【図14】実施形態に係る方法に用いられるサーモグラフィのデータ画像を表す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施形態にかかるはんだ接合部の非破壊による劣化診断方法では、まず、はんだ接合部を含む電子部品を加熱しながら、該電子部品の熱分布のデータ画像を経時的に計測する。
【0012】
該熱分布のデータ画像から、下記式(1)に基づいてフラクタル解析を行い、フラクタル次元を求める。
【0013】
N(R)・RD=C…(1)
(但し、式中、N(R)は被覆に必要な立方体の数、Rは立方体の一辺の長さ、Dはフラクタル次元、及びCは定数(対象立体の体積)を表す。)
その後、フラクタル次元の経時変化を評価する。
【0014】
式(1)は、例えば以下のように書き換えることが出来る。
【0015】
logN(R)=logC−D・logR
ここで用いられるフラクタル次元は、分布形状の複雑さを表わす指標で、温度分布では2〜3次元で表現することができる。
【0016】
フラクタル次元の算出方法は、立法体の大きさRを変化させて擬似表現した時の被覆個数Nとの間が一様な値Cにした時、上記式(1)に示す関係 N(R)・RD=Cの関係があることから得られたDをフラクタル次元としている。
【0017】
以下、図面を参照し、実施形態をより詳細に説明する。
【0018】
図1は、実施形態に係るはんだ接合部の非破壊による劣化診断方法を表すフロー図を示す。
【0019】
実施形態においては、種々の電子部品に実装される素子、チップなどのはんだ接合部について経時的な熱分布測定を行い(Block 1)、熱分布の赤外線画像データを得る。その後、その熱分布の赤外線画像データを基にフラクタル解析を実施し、フラクタル次元を求める(Block 2)。
【0020】
その後、フラクタル次元の経時変化を評価する(Block 3)。
【0021】
フラクタル次元の経時変化の評価として、はんだ接合部毎に、フラクタル次元の経時変化及びその立ち上がりを比較して差を求めることができる。
【0022】
得られたフラクタル次元と時間との関係を、測定部位毎にグラフ化し、それぞれ立ち上がりとフラクタル次元を比較し、最も立ち上がりが緩やかで、次元の低いものを選定する。これにより、劣化診断として、差が最も大きいものを最大亀裂発生部として特定することができる。(Block 4)。また、劣化していない接合部のデータと、劣化が生じている接合部のデータの差から、劣化の進行の度合いを判断することが出来る。これにより、接合部の寿命を診断することも可能である。さらに、この劣化を早期発見することにより、製品の信頼性向上が図れ、トラブルの未然防止が可能となる。
【0023】
熱分布のデータ画像を得ただけでは、発熱状態の画像を監視するだけであるが、実施形態にかかる方法では、さらにフラクタル解析を行うことにより、熱分布のデータ画像を定量的に評価することができる。
【0024】
このように、実施形態に係る接合部の非破壊による劣化・寿命診断方法を用いると、接合部の劣化や寿命の診断に不慣れな人でも、データを見るだけで簡単に、診断することが可能となる。
【0025】
実施形態にかかる方法では、例えば高周波などの誘導加熱により一様に加熱された例えば鉄板等の熱伝導体を上記半導体部品あるいは上記プリント基板実装部品等に接触させて、半導体部品の接合部やプリント基板実装部品の接合部等の加熱を行なうことができる。
【0026】
温度分布データの取得には、例えばサーモピュア等の温度測定機器を使うことができる。
【0027】
以下、実施例を示し、実施形態をより詳細に説明する。
【実施例】
【0028】
図2は、実施形態にかかるはんだ接合部の非破壊による劣化診断方法が適用可能な半導体パワー素子の構成の一例を正面から見た図を示す。
【0029】
図示するように、この絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ素子20は、絶縁基板21と、その上に設けられた、コレクタ端子31,ゲート端子32,エミッタ端子33、及び図示しない接合部を介して形成されたFRDチップ16及びIGBTチップ24を有する。FRDチップ16及びIGBTチップ24は、各々、コレクタ端子31,ゲート端子32,エミッタ端子33と接続されている。
【0030】
図3に、図2のA−A断面を部分的に表す模式図を示す。
【0031】
A−A断面図には、実施形態に係るエミッタ端子33周囲の断面の様子が記載されている。
【0032】
ここでは、AlSiCからなる約4mmの厚さを有する放熱基板15上に、約50μmの厚さを有する例えばSn−37質量%Pbはんだからなる錫−鉛はんだ接合層17により接合された約0.29mmの銅配線層28、銅配線層の上に設けられた約1mmの厚さを有するAlN絶縁基板21、AlN絶縁基板21上に設けられたもう1つの銅配線層22,銅配線層22上に設けられた、例えばSn−37質量%Pbはんだからなる錫−鉛はんだ接合部23、及び厚さ1.2mmのエミッタ端子33が設けられている。
【0033】
エミッタ端子33上には図示しない絶縁性ゲルが充填され、放熱基板15上に設けられたケースにより封止されている。
【0034】
実施例1
図2と同様の構成を有する半導体パワー素子を用意し、各々、熱疲労試験として、Δt 70℃で1万回のON−OFFサイクルを実施した。
【0035】
熱疲労試験後のエミッタ端子表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、はんだ接合部の大きな劣化を確認することができるものをサンプルとして選んだ。
【0036】
図4に、エミッタ端子のはんだ接合部表面の劣化の様子を表すSEM写真を示す。
【0037】
図示するように、このサンプルは、はんだ接合部に亀裂が生じていた。
【0038】
このエミッタ端子に誘導加熱装置による下面からの加熱を実施し、加熱しながら、0.25秒ごとに、サーモグラフィにより測定し、劣化の様子を温度分布データ画像で観察した。
【0039】
図5に、加熱から40秒後のエミッタ端子のサーモグラフィのデータ画像を表す写真を示す。
【0040】
この結果では、熱疲労試験によりはんだ接合部が劣化している場合は、数秒で高温を表す赤い部分と低温を表す青い部分とがみられ、一様に加熱されないことがわかった。
【0041】
続いて、劣化した部分を剥離し、はんだ接合部の破断面をSEMで観察した。
【0042】
図6に、はんだ接合部の破断面のSEM写真を示す。
【0043】
図示するように、図5のサーモグラフィにおける青い部分の形状は、SEM写真において、開口した亀裂に良く一致しており、劣化の形状に相当することを確認することができた。
【0044】
劣化に関しては、この青い部分の面積が広ければ、劣化が進行していることがわかり、寿命診断においては、青い部分の長さを計測し、剥離した部分と残存した部分からき裂進展率を算出して、残像寿命を算出することができる。
【0045】
実施例2
図2と同様の構成を有する半導体パワー素子を用意し、各々、熱疲労試験として、Δt 70℃で1万回のON−OFFサイクルを実施した。
【0046】
このエミッタ端子に誘導加熱装置による下面からの加熱を実施し、加熱しながら、0.25秒ごとに、サーモグラフィにより測定した。
【0047】
サーモグラフィにより劣化の状態を温度分布データ画像によって観察し、劣化が小さいものをサンプルとして使用した。
【0048】
図7に、エミッタ端子の他の例のはんだ接合部表面の様子を表すSEM写真を示す。
【0049】
図示するように、外観上、はんだ接合部に亀裂などは確認できない。
【0050】
続いて、誘導加熱装置による下面からの加熱を実施し、パワー素子部分の端子を取り出してサーモグラフィにより劣化の状態を温度分布データ画像によって観察した。
【0051】
図8に、加熱から40秒後のエミッタ端子のサーモグラフィのデータ画像を表す写真を示す。
【0052】
加熱から数秒で中温を表す橙色部分と低温を表す青い部分とがみられ、図5と比較すると極端に高温となる部分がなく、一様に加熱されていることがわかった。
【0053】
劣化の大きいはんだ接合部と劣化の小さいはんだ接合部について、サーモグラフィの各データ画像から式(1)に基づいてフラクタル次元を求めた。
【0054】
図9に、劣化の大きいはんだ接合部と劣化の小さいはんだ接合部について、加熱時間とフラクタル次元との関係を表すグラフを示す。
【0055】
図中、劣化の小さいはんだ接合部を表すグラフは102、劣化の大きいはんだ接合部を表すグラフは101である。
【0056】
また、図中、図5に示す温度分布データ画像が測定された時点はS1秒(19秒)後、図8に示す温度分布データ画像が測定された時点はS2秒(23秒)後として各々示す。
【0057】
劣化の大きいはんだ接合部と劣化の小さいはんだ接合部とでは、フラクタル次元の立ち上がりが大きく異なっていた。また、劣化の大きいはんだ接合部と劣化の小さいはんだ接合部について、フラクタル次元の差が最も大きいものが最大亀裂発生部として特定できることができることがわかった。
【0058】
これは、はんだ接合部だけではなく、その他の実施形態の例として、パワーデバイスのSiチップ直下の接合部の劣化や今後使用されるSiCチップを用いたものの直下接合部分の劣化などもフラクタル次元を測定し、フラクタル次元の立ち上がりと接合部毎の次元を測定し、その差が最もきいものが最大亀裂発生部として特定できる。
【0059】
このようにして、接合部の非破壊による劣化及び寿命診断方法が得られる。
【0060】
実施例3,4
図2と同様の構成を有する半導体パワー素子を用意し、各々、熱疲労試験として、Δt 70℃で1万回のON−OFFサイクルを実施した。
【0061】
このエミッタ端子に誘導加熱装置による下面からの加熱を実施し、加熱しながら、0.25秒ごとに、サーモグラフィにより測定、実施例1及び2と同様にして、劣化の大きいはんだ接合部を持つ半導体パワー素子と、劣化の小さいはんだ接合部を持つ半導体パワー素子とを得た。
【0062】
図10に、劣化の大きいはんだ接合部と劣化の小さいはんだ接合部について、加熱時間とフラクタル次元との関係を表すグラフを示す。
【0063】
図11ないし図14に、劣化の大きいはんだ接合部と劣化の小さいはんだ接合部について、加熱から各々数秒後のエミッタ端子のサーモグラフィのデータ画像を表す写真を示す。
【0064】
図中、劣化の大きいはんだ接合部のグラフは201,劣化の小さいはんだ接合部のグラフは202に示す。
【0065】
また、図10中、図11に示す温度分布データ画像が測定された時点はT1秒(14秒)後、図12に示す温度分布データ画像が測定された時点はT2秒(25秒)後、図13に示す温度分布データ画像が測定された時点はT3秒(15秒)後、及び図14に示す温度分布データ画像が測定された時点はT4秒(26秒)後として各々示す。
【0066】
図示するように、熱疲労試験によりはんだ接合部が劣化している場合は、早い段階で、中温を表す橙色の部分が現れ、その後部分的に高温を表す赤及び白い部分が現れ、中温を表す橙色の部分は、時間が経過しても高温になりにくく、一様に加熱されないことがわかった。
【0067】
一方、熱疲労試験によるはんだ接合部の劣化が小さい場合は、早い段階では、中低温を表す緑色部分がみられ、時間が経過すると中温を表す橙色となり全体的に一様に加熱される傾向があることがわかった。
【0068】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0069】
15…基板、17…はんだ接合層、20…半導体素子、21…基板、22,28…配線部、23…接合部、24…半導体チップ、30…半導体実装部品、33…エミッタ端子
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、半導体装置やダイオードの半導体やパワー素子やプリント基板などの種々の電子部品に実装される素子、チップなどのはんだ接合部の劣化及び寿命検出に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、一般に、電車、自動車、エレベータ等のドライブシステムに搭載される半導体装置は、半導体装置基板が樹脂モールドされており、その樹脂モールド内部には、シリコンのポッティング材が充填されている。この様にシリコンで充填されている場合は、樹脂をすべて除去し、部品の接合部を一つ一つ拡大鏡などを用いて観察して判定する方法がある。しかしながら、樹脂を除去するためには、除去液を準備し、浸漬して、数時間〜場合によっては数日間浸漬が必要となる。仮に浸漬して除去できた場合でも、判定に時間が掛かる。
【0003】
また、例えば、CPUなどの接続で用いられるBGAでは、1200ピンという多ピンのものまであり、どの部位が劣化しているかを正確に検出することは非常に難しい。
【0004】
例えばはんだクラックが発生して使用できなくなったはんだ接合部に含浸油を真空含浸させ、真空含浸前及び真空含浸後のはんだ接合部の重量を測定し、各重量の変化量によりはんだクラックの大きさを非破壊の状態で測定するようにしたことを特徴とするはんだクラックの測定方法がある。しかしながら、上述のように、樹脂の除去に時間がかかり、さらに、ポッティング材が完全に除去できなければ、亀裂内部への含浸もできず、重量変化もさらに誤差が広がる。
【0005】
はんだ接合部の劣化を知ることは、製品のトラブルの対策として非常に有効である。
【0006】
また、製品のトラブルを未然に防止するためには、使用中のはんだ接合部の接合部の劣化を調べて、製品の寿命を知ることが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3661718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の実施形態は、はんだ接合部を含む電子部品の劣化の非破壊による診断を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態によれば、
はんだ接合部を含む電子部品を加熱しながら、該電子部品の熱分布のデータ画像を経時的に計測し、
該熱分布のデータ画像から、下記式(1)に基づいてフラクタル次元を求め、
N(R)・RD=C…(1)
(但し、式中、N(R)は被覆に必要な立方体の数、Rは立方体の一辺の長さ、Dはフラクタル次元、及びCは定数(対象立体の体積)を表す。)
該フラクタル次元の経時変化を評価することを含むはんだ接合部の非破壊による劣化診断方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態に係るはんだ接合部の非破壊による劣化診断方法を表すフロー図である。
【図2】半導体パワー素子の構成の一例を正面から見た図である。
【図3】図2のA−A断面を部分的に表す模式図である。
【図4】はんだ接合部表面の劣化の様子を表す電子顕微鏡写真である。
【図5】実施形態に係る方法に用いられるサーモグラフィのデータ画像を表す写真である。
【図6】はんだ接合部の破断面の電子顕微鏡写真である。
【図7】はんだ接合部表面の様子を表す電子顕微鏡写真である。
【図8】実施形態に係る方法に用いられるサーモグラフィのデータ画像を表す写真である。
【図9】加熱時間とフラクタル次元との関係を表すグラフである。
【図10】加熱時間とフラクタル次元との関係を表すグラフである。
【図11】実施形態に係る方法に用いられるサーモグラフィのデータ画像を表す写真である。
【図12】実施形態に係る方法に用いられるサーモグラフィのデータ画像を表す写真である。
【図13】実施形態に係る方法に用いられるサーモグラフィのデータ画像を表す写真である。
【図14】実施形態に係る方法に用いられるサーモグラフィのデータ画像を表す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施形態にかかるはんだ接合部の非破壊による劣化診断方法では、まず、はんだ接合部を含む電子部品を加熱しながら、該電子部品の熱分布のデータ画像を経時的に計測する。
【0012】
該熱分布のデータ画像から、下記式(1)に基づいてフラクタル解析を行い、フラクタル次元を求める。
【0013】
N(R)・RD=C…(1)
(但し、式中、N(R)は被覆に必要な立方体の数、Rは立方体の一辺の長さ、Dはフラクタル次元、及びCは定数(対象立体の体積)を表す。)
その後、フラクタル次元の経時変化を評価する。
【0014】
式(1)は、例えば以下のように書き換えることが出来る。
【0015】
logN(R)=logC−D・logR
ここで用いられるフラクタル次元は、分布形状の複雑さを表わす指標で、温度分布では2〜3次元で表現することができる。
【0016】
フラクタル次元の算出方法は、立法体の大きさRを変化させて擬似表現した時の被覆個数Nとの間が一様な値Cにした時、上記式(1)に示す関係 N(R)・RD=Cの関係があることから得られたDをフラクタル次元としている。
【0017】
以下、図面を参照し、実施形態をより詳細に説明する。
【0018】
図1は、実施形態に係るはんだ接合部の非破壊による劣化診断方法を表すフロー図を示す。
【0019】
実施形態においては、種々の電子部品に実装される素子、チップなどのはんだ接合部について経時的な熱分布測定を行い(Block 1)、熱分布の赤外線画像データを得る。その後、その熱分布の赤外線画像データを基にフラクタル解析を実施し、フラクタル次元を求める(Block 2)。
【0020】
その後、フラクタル次元の経時変化を評価する(Block 3)。
【0021】
フラクタル次元の経時変化の評価として、はんだ接合部毎に、フラクタル次元の経時変化及びその立ち上がりを比較して差を求めることができる。
【0022】
得られたフラクタル次元と時間との関係を、測定部位毎にグラフ化し、それぞれ立ち上がりとフラクタル次元を比較し、最も立ち上がりが緩やかで、次元の低いものを選定する。これにより、劣化診断として、差が最も大きいものを最大亀裂発生部として特定することができる。(Block 4)。また、劣化していない接合部のデータと、劣化が生じている接合部のデータの差から、劣化の進行の度合いを判断することが出来る。これにより、接合部の寿命を診断することも可能である。さらに、この劣化を早期発見することにより、製品の信頼性向上が図れ、トラブルの未然防止が可能となる。
【0023】
熱分布のデータ画像を得ただけでは、発熱状態の画像を監視するだけであるが、実施形態にかかる方法では、さらにフラクタル解析を行うことにより、熱分布のデータ画像を定量的に評価することができる。
【0024】
このように、実施形態に係る接合部の非破壊による劣化・寿命診断方法を用いると、接合部の劣化や寿命の診断に不慣れな人でも、データを見るだけで簡単に、診断することが可能となる。
【0025】
実施形態にかかる方法では、例えば高周波などの誘導加熱により一様に加熱された例えば鉄板等の熱伝導体を上記半導体部品あるいは上記プリント基板実装部品等に接触させて、半導体部品の接合部やプリント基板実装部品の接合部等の加熱を行なうことができる。
【0026】
温度分布データの取得には、例えばサーモピュア等の温度測定機器を使うことができる。
【0027】
以下、実施例を示し、実施形態をより詳細に説明する。
【実施例】
【0028】
図2は、実施形態にかかるはんだ接合部の非破壊による劣化診断方法が適用可能な半導体パワー素子の構成の一例を正面から見た図を示す。
【0029】
図示するように、この絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ素子20は、絶縁基板21と、その上に設けられた、コレクタ端子31,ゲート端子32,エミッタ端子33、及び図示しない接合部を介して形成されたFRDチップ16及びIGBTチップ24を有する。FRDチップ16及びIGBTチップ24は、各々、コレクタ端子31,ゲート端子32,エミッタ端子33と接続されている。
【0030】
図3に、図2のA−A断面を部分的に表す模式図を示す。
【0031】
A−A断面図には、実施形態に係るエミッタ端子33周囲の断面の様子が記載されている。
【0032】
ここでは、AlSiCからなる約4mmの厚さを有する放熱基板15上に、約50μmの厚さを有する例えばSn−37質量%Pbはんだからなる錫−鉛はんだ接合層17により接合された約0.29mmの銅配線層28、銅配線層の上に設けられた約1mmの厚さを有するAlN絶縁基板21、AlN絶縁基板21上に設けられたもう1つの銅配線層22,銅配線層22上に設けられた、例えばSn−37質量%Pbはんだからなる錫−鉛はんだ接合部23、及び厚さ1.2mmのエミッタ端子33が設けられている。
【0033】
エミッタ端子33上には図示しない絶縁性ゲルが充填され、放熱基板15上に設けられたケースにより封止されている。
【0034】
実施例1
図2と同様の構成を有する半導体パワー素子を用意し、各々、熱疲労試験として、Δt 70℃で1万回のON−OFFサイクルを実施した。
【0035】
熱疲労試験後のエミッタ端子表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、はんだ接合部の大きな劣化を確認することができるものをサンプルとして選んだ。
【0036】
図4に、エミッタ端子のはんだ接合部表面の劣化の様子を表すSEM写真を示す。
【0037】
図示するように、このサンプルは、はんだ接合部に亀裂が生じていた。
【0038】
このエミッタ端子に誘導加熱装置による下面からの加熱を実施し、加熱しながら、0.25秒ごとに、サーモグラフィにより測定し、劣化の様子を温度分布データ画像で観察した。
【0039】
図5に、加熱から40秒後のエミッタ端子のサーモグラフィのデータ画像を表す写真を示す。
【0040】
この結果では、熱疲労試験によりはんだ接合部が劣化している場合は、数秒で高温を表す赤い部分と低温を表す青い部分とがみられ、一様に加熱されないことがわかった。
【0041】
続いて、劣化した部分を剥離し、はんだ接合部の破断面をSEMで観察した。
【0042】
図6に、はんだ接合部の破断面のSEM写真を示す。
【0043】
図示するように、図5のサーモグラフィにおける青い部分の形状は、SEM写真において、開口した亀裂に良く一致しており、劣化の形状に相当することを確認することができた。
【0044】
劣化に関しては、この青い部分の面積が広ければ、劣化が進行していることがわかり、寿命診断においては、青い部分の長さを計測し、剥離した部分と残存した部分からき裂進展率を算出して、残像寿命を算出することができる。
【0045】
実施例2
図2と同様の構成を有する半導体パワー素子を用意し、各々、熱疲労試験として、Δt 70℃で1万回のON−OFFサイクルを実施した。
【0046】
このエミッタ端子に誘導加熱装置による下面からの加熱を実施し、加熱しながら、0.25秒ごとに、サーモグラフィにより測定した。
【0047】
サーモグラフィにより劣化の状態を温度分布データ画像によって観察し、劣化が小さいものをサンプルとして使用した。
【0048】
図7に、エミッタ端子の他の例のはんだ接合部表面の様子を表すSEM写真を示す。
【0049】
図示するように、外観上、はんだ接合部に亀裂などは確認できない。
【0050】
続いて、誘導加熱装置による下面からの加熱を実施し、パワー素子部分の端子を取り出してサーモグラフィにより劣化の状態を温度分布データ画像によって観察した。
【0051】
図8に、加熱から40秒後のエミッタ端子のサーモグラフィのデータ画像を表す写真を示す。
【0052】
加熱から数秒で中温を表す橙色部分と低温を表す青い部分とがみられ、図5と比較すると極端に高温となる部分がなく、一様に加熱されていることがわかった。
【0053】
劣化の大きいはんだ接合部と劣化の小さいはんだ接合部について、サーモグラフィの各データ画像から式(1)に基づいてフラクタル次元を求めた。
【0054】
図9に、劣化の大きいはんだ接合部と劣化の小さいはんだ接合部について、加熱時間とフラクタル次元との関係を表すグラフを示す。
【0055】
図中、劣化の小さいはんだ接合部を表すグラフは102、劣化の大きいはんだ接合部を表すグラフは101である。
【0056】
また、図中、図5に示す温度分布データ画像が測定された時点はS1秒(19秒)後、図8に示す温度分布データ画像が測定された時点はS2秒(23秒)後として各々示す。
【0057】
劣化の大きいはんだ接合部と劣化の小さいはんだ接合部とでは、フラクタル次元の立ち上がりが大きく異なっていた。また、劣化の大きいはんだ接合部と劣化の小さいはんだ接合部について、フラクタル次元の差が最も大きいものが最大亀裂発生部として特定できることができることがわかった。
【0058】
これは、はんだ接合部だけではなく、その他の実施形態の例として、パワーデバイスのSiチップ直下の接合部の劣化や今後使用されるSiCチップを用いたものの直下接合部分の劣化などもフラクタル次元を測定し、フラクタル次元の立ち上がりと接合部毎の次元を測定し、その差が最もきいものが最大亀裂発生部として特定できる。
【0059】
このようにして、接合部の非破壊による劣化及び寿命診断方法が得られる。
【0060】
実施例3,4
図2と同様の構成を有する半導体パワー素子を用意し、各々、熱疲労試験として、Δt 70℃で1万回のON−OFFサイクルを実施した。
【0061】
このエミッタ端子に誘導加熱装置による下面からの加熱を実施し、加熱しながら、0.25秒ごとに、サーモグラフィにより測定、実施例1及び2と同様にして、劣化の大きいはんだ接合部を持つ半導体パワー素子と、劣化の小さいはんだ接合部を持つ半導体パワー素子とを得た。
【0062】
図10に、劣化の大きいはんだ接合部と劣化の小さいはんだ接合部について、加熱時間とフラクタル次元との関係を表すグラフを示す。
【0063】
図11ないし図14に、劣化の大きいはんだ接合部と劣化の小さいはんだ接合部について、加熱から各々数秒後のエミッタ端子のサーモグラフィのデータ画像を表す写真を示す。
【0064】
図中、劣化の大きいはんだ接合部のグラフは201,劣化の小さいはんだ接合部のグラフは202に示す。
【0065】
また、図10中、図11に示す温度分布データ画像が測定された時点はT1秒(14秒)後、図12に示す温度分布データ画像が測定された時点はT2秒(25秒)後、図13に示す温度分布データ画像が測定された時点はT3秒(15秒)後、及び図14に示す温度分布データ画像が測定された時点はT4秒(26秒)後として各々示す。
【0066】
図示するように、熱疲労試験によりはんだ接合部が劣化している場合は、早い段階で、中温を表す橙色の部分が現れ、その後部分的に高温を表す赤及び白い部分が現れ、中温を表す橙色の部分は、時間が経過しても高温になりにくく、一様に加熱されないことがわかった。
【0067】
一方、熱疲労試験によるはんだ接合部の劣化が小さい場合は、早い段階では、中低温を表す緑色部分がみられ、時間が経過すると中温を表す橙色となり全体的に一様に加熱される傾向があることがわかった。
【0068】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0069】
15…基板、17…はんだ接合層、20…半導体素子、21…基板、22,28…配線部、23…接合部、24…半導体チップ、30…半導体実装部品、33…エミッタ端子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
はんだ接合部を含む電子部品を加熱しながら、該電子部品の熱分布のデータ画像を経時的に計測し、
該熱分布のデータ画像から、下記式(1)に基づいてフラクタル次元を求め、
N(R)・RD=C…(1)
(但し、式中、N(R)は被覆に必要な立方体の数、Rは立方体の一辺の長さ、Dはフラクタル次元、及びCは定数(対象立体の体積)を表す。)
該フラクタル次元の経時変化を評価することを含む、
はんだ接合部の非破壊による劣化診断方法。
【請求項2】
前記フラクタル次元の経時変化の評価は、はんだ接合部毎に、フラクタル次元の経時変化及びその立ち上がりを比較して差を求めることを含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記差が最も大きいものを最大亀裂発生部として特定することを含む請求項1または2に記載の方法。
【請求項1】
はんだ接合部を含む電子部品を加熱しながら、該電子部品の熱分布のデータ画像を経時的に計測し、
該熱分布のデータ画像から、下記式(1)に基づいてフラクタル次元を求め、
N(R)・RD=C…(1)
(但し、式中、N(R)は被覆に必要な立方体の数、Rは立方体の一辺の長さ、Dはフラクタル次元、及びCは定数(対象立体の体積)を表す。)
該フラクタル次元の経時変化を評価することを含む、
はんだ接合部の非破壊による劣化診断方法。
【請求項2】
前記フラクタル次元の経時変化の評価は、はんだ接合部毎に、フラクタル次元の経時変化及びその立ち上がりを比較して差を求めることを含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記差が最も大きいものを最大亀裂発生部として特定することを含む請求項1または2に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−42393(P2012−42393A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185490(P2010−185490)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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