ばね端子、ばね端子の検査方法及びばね端子の検査装置
【課題】弾性変形する際の支点となる部分での弾性接触片の接触状態を判別できるばね端子を提供する。
【解決手段】本発明のばね端子は、筒状の筒部11と、筒部11の内部に設けられた、相手側端子との接触導通を図る弾性接触片12と、筒部11の内壁に該弾性接触片12に向かって突設された、該弾性接触片12が弾性的に接触する膨出部13と、筒部11の側壁において弾性接触片12と膨出部13との接触箇所に臨む位置に形成された検査孔15を備える。
【解決手段】本発明のばね端子は、筒状の筒部11と、筒部11の内部に設けられた、相手側端子との接触導通を図る弾性接触片12と、筒部11の内壁に該弾性接触片12に向かって突設された、該弾性接触片12が弾性的に接触する膨出部13と、筒部11の側壁において弾性接触片12と膨出部13との接触箇所に臨む位置に形成された検査孔15を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性接触片を備えたばね端子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、雌端子としては、例えば特許文献1のものが知られている。
図12に示すように、この雌端子100には、接続相手となる図示外の雄端子が挿入される筒部101内に、該雄端子と接触導通させるための弾性接触片102が配される。雄端子を雌端子100に挿入すると、雄端子が、弾性接触片102に接触し、弾性接触片102を押圧して下方に弾性的に変位する。すると、弾性接触片102の弾性力により、雄端子が接点部103と受圧部104との間に挟持され、雄端子と雌端子100との電気的接続が図られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−156285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
雌端子100の弾性接触片102には、支点の近傍を打ち出し加工することによって膨出部106が形成されている。雌端子100は、膨出部106が筒部101の底壁107に接触していないと、雄端子との接触状態が不安定となる。しかも、雄端子の挿入動作も不確実となり、最奥部まで確実に挿入する動作が得られ難い。例えば、挿入時の押込み力が挿入途中の段階で大きく増大する変化があると、挿入先端が最終位置に達したと錯誤し、途中の段階であるにも拘らず止めてしまう虞がある。
【0005】
そこで、雌端子100製造後、支点となる膨出部106が筒部101の底壁107に正常に接触しているか否かを検査することが必要である。ところが、弾性接触片102は、筒部101に覆われているので、膨出部106の接触状態を外部から目視で確認できない。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、弾性変形時の支点となる部分での弾性接触片の接触状態を判別することができるばね端子、ばね端子の検査方法及びばね端子の検査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した目的を達成するために、本発明に係るばね端子は、下記(1)を特徴とする。
(1) 筒状の筒部と、
前記筒部の内部に設けられた、相手側端子との接触導通を図る弾性接触片と、
前記筒部の内壁に該弾性接触片に向かって突設された、該弾性接触片が弾性的に接触する膨出部と、
前記筒部の側壁において前記弾性接触片と前記膨出部との接触箇所に臨む位置に形成された検査孔と、
を備えること。
【0008】
上記(1)の構成のばね端子によれば、弾性変形時の支点となる膨出部に対する弾性接触片の接触状態を検査装置のゲージによって判別することができる。
【0009】
前述した目的を達成するために、本発明に係るばね端子の検査方法は、下記(2)を特徴とする。
(2) 筒状の筒部の内部に設けられた、相手側端子との接触導通を図る弾性接触片と、前記筒部の内壁に該弾性接触片に向かって突設された、該弾性接触片が弾性的に接触する膨出部と、前記筒部の側壁において前記弾性接触片と前記膨出部との接触箇所に臨む位置に形成された検査孔とを備えた、ばね端子において、前記弾性接触片と前記膨出部との接触状態の良否を検査するばね端子の検査方法であって、
前記検査孔に、前記弾性接触片と前記膨出部との間に挿入されるように検査装置のゲージを差し込み、
前記筒部に対する前記ゲージの挿入深さに対応する挿入荷重に基づいて、前記弾性接触片の前記膨出部への接触状態の良否を判断する、
こと。
【0010】
上記(2)の構成のばね端子の検査方法によれば、弾性変形時の支点となる膨出部に対する弾性接触片の接触状態を機械的に検出でき、迅速な検出作業が可能になるとともに、検査の自動化も実現可能となる。
【0011】
前述した目的を達成するために、本発明に係るばね端子の検査装置は、下記(3)を特徴とする。
(3) 筒状の筒部の内部に設けられた、相手側端子との接触導通を図る弾性接触片と、前記筒部の内壁に該弾性接触片に向かって突設された、該弾性接触片が弾性的に接触する膨出部と、前記筒部の側壁において前記弾性接触片と前記膨出部との接触箇所に臨む位置に形成された検査孔とを備えた、ばね端子において、前記弾性接触片と前記膨出部との接触状態の良否を検査する検査装置であって、
前記検査孔から前記筒部の内部に差し込まれ、前記弾性接触片と前記膨出部との間に挿入可能なゲージと、
前記ゲージを前記検査孔から前記弾性接触片と前記膨出部との間に挿入させる挿脱手段と、
前記筒部に対する前記ゲージの挿入深さに対する挿入荷重を検出する検出手段と、
前記挿入荷重に基づいて、前記弾性接触片の前記膨出部への接触状態の良否を判断する判定部と、
を備えたこと。
【0012】
上記(3)の構成のばね端子の検査装置によれば、弾性変形時の支点となる膨出部に対する弾性接触片の接触状態を機械的に検出でき、迅速な検出作業が可能になるとともに、検査の自動化も実現可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のばね端子の検査方法によれば、弾性変形時の支点となる部分での弾性接触片の接触状態を検査装置のゲージによって判別することができる。
【0014】
また、本発明のばね端子の検査方法及びばね端子の検査装置によれば、弾性変形時の支点となる膨出部での弾性接触片の状態を、挿入荷重の変化に基づき正確に判断できる。換言すれば、弾性接触片の膨出部への接触状態の良否を機械的に、かつ、迅速に検出できる。これにより、検査作業の自動化が実現可能となる。また、弾性接触片と膨出部が異常な接触状態にあるばね端子を除去できるので、嵌合作業が完了したと錯誤して、嵌合作業途中の段階で止めてしまうといったトラブルを回避できるようになる。
【0015】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係るばね端子の形状を説明する図であって、図1(A)はばね端子の上面図、図1(B)はその展開図である。
【図2】本発明の実施形態に係るばね端子の形状を説明する図であって、図1(A)のII−II線の矢視断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係るばね端子の形状を説明する図であって、図3(A)はばね端子の側面図、図3(B)はその正面図である。
【図4】図3(A)における要部αの拡大図である。
【図5】本発明の実施形態に係る検査装置を用いてばね端子の弾性接触片の接触状態の良否を検出する状態を示す説明図である。
【図6】本発明の実施形態に係る検査装置のゲージの形状を説明する図であって、図6(A)はゲージの平面図、図6(B)はその側面図である。
【図7】本発明の実施形態に係る検査装置の構成を示す機能ブロック図である。
【図8】本発明の実施形態に係る検査装置を用いてばね端子の弾性接触片の接触状態の良否を検出する状態を示す説明図であって、図8(A)はばね端子及びゲージの正面図、図8(B)は図5のVIIIB−VIIIB線の矢視断面図である。
【図9】図8(B)の要部βの拡大断面図である。
【図10】本発明の実施形態に係る検査装置のゲージの挿入深さと電圧値の関係を示す関数であって、図10(A)は正常な接触状態の場合のグラフ、図10(B)は異常な接触状態の場合のグラフである。
【図11】異常な接触状態の場合の弾性接触片を有するばね端子にゲージを挿入する状態を示す説明図である。
【図12】従来のばね端子の構成を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
図1〜図4は、本発明に係るばね端子の構造を示す。
【0018】
図1〜図4に示すばね端子10は、接続相手側となる図示外の雄端子との接触導通を図る雌端子を構成する。ばね端子10は、筒部11と、弾性接触片12と、膨出部13と、を含んで構成される。筒状の筒部11の内部に、図2及び図4に示すように、雄端子との接触導通を図る導電性の弾性接触片12が設けられている。また、筒部11の内壁である天井面には、弾性接触片12に向って突設された膨出部13が形成されている。図1(B)に示すように、膨出部13を含む天井面を底面に対して折り曲げるとともに、その天井面の内側に位置するように弾性接触片12を折り曲げることによって、弾性接触片12は、図2及び図4に示すように、その一部が、筒部11の天井面側の内壁に設けた膨出部13に弾性的に接触する。膨出部13は、筒部の天井面側の側壁を内部に向けて打ち出すことによって形成されている。膨出部13は、弾性接触片12のばね動作を行う際の支点となるものであり、弾性接触片12の上面が当接することで、接触荷重を常時安定して保持する。
【0019】
また、ばね端子10は、筒部11の一方の端面側に、接続相手である図示外の雄端子が入り込む挿入孔14が形成されている。また、筒部11の一方側の側壁には、弾性接触片12と膨出部13との接触箇所に臨む位置に該側壁を開口させた検査孔15が形成されている。検査孔15は、図4に示すように、弾性接触片12と膨出部13との接触箇所を筒部11の外部から視認することができる程度に開口した孔である。尚、図1〜図3に示す符号16は電線の被覆部を加締める被覆部加締部、符号17は電線の芯線を加締める芯線加締部である。
【0020】
以上のように、筒部11の側壁に検査孔15が形成されたばね端子によれば、検査孔15を覗くことで、弾性接触片12と膨出部13と接触状態を確認することができる。したがって、弾性変形時の支点となる部分での弾性接触片の接触状態を目視によって判別することができる。或いは、作業者が、検査孔15に検査治具であるゲージ(ゲージの詳細は後述する。)を、弾性接触片12と膨出部13の間に位置するように挿入し、その挿入の際にゲージに作用する、ゲージの挿入力に対する反力を感じ取ることで、弾性変形時の支点となる部分での弾性接触片の接触状態を作業者が判別することができる。この結果、本実施形態のばね端子によれば、弾性接触片12の異常な接触状態の不良品を除去することができる。
【0021】
ここまでは、本発明に係るばね端子の構造と、そのばね端子の弾性接触片12と膨出部13との接触状態を目視、或いは弾性接触片12と膨出部13の間に挿入されるゲージに作用する反力により判別する手法を説明した。以降では、ばね端子10の弾性接触片の接触状態の良否を検査装置20によって検査する手法の一例を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。図5は、本発明に係るばね端子の検査方法を用いて、ばね端子10の弾性接触片の接触状態の良否を検出するときの検査装置20を示す。
【0022】
検査装置20によってその接触状態を検査する場合、例えば、検査装置20に備わるゲージ21によってその接触状態を検査する場合、検査孔15は、ゲージ21が筒部11の内部に向けて入り込むための孔として機能する。
【0023】
検査装置20は、ゲージ21と、挿脱手段22と、演算部23と、判定部24と、ピエゾ素子25と、を含んで構成される。
【0024】
ゲージ21は、図5、図8及び図9に示すように、ばね端子10の検査孔15から筒部11の内部に差し込まれ、弾性接触片12と膨出部13との間(以下、これを「検査部20A」とよぶ)に挿入される部材である。ゲージ21は、金属製の剛体であり、図6、図9及び図11に示すように、挿入方向の先端側の部分に、先端に向けて薄肉略舌状のテーパ部21Aと、テーパ部21Aから延設した薄肉で幅が一定の本体部21Bとを備える。本実施形態の検査装置20に備わるゲージ21は、ばね端子10の検査孔15の開口下縁と略同一高さに配設される。そして、ゲージ21は、移動水準面L(図4、図9参照)に沿って筒部11の内部に挿入される。最終的に、本体部21Bの半分程度の部分まで検査部20Aに挿入される。挿入深さは、テーパ部21Aの先端部分から距離D2までである。距離D2は、ゲージ21を筒部11の最奥部まで挿入したときの深さである(D2を最奥部の挿入深さと称することがある。)。
【0025】
テーパ部21Aは、図9及び図11に示すように、先端部分が、下面から上面に向けて斜め上向きに突出したくさび形の斜面21Cを有する。斜面21Cは、図4に示すように膨出部13の下面と弾性接触片12上面との間に隙間のない正常な接触状態の場合、斜面21Cが弾性接触片12上面に摺動し、その間にスムースに侵入できる。また、図11に示すように、前述の移動水準面Lより弾性接触片12上面の高さの方が一部上へ突出している接触異常の場合でも、斜面21Cが上面を押下して侵入できる。
【0026】
挿脱手段22は、ゲージ21を検査孔15から弾性接触片12と膨出部13との間に挿入させ、抜引させる適宜の公知の装置によって構成される。
【0027】
演算部23は、ゲージ21を挿入する際に、筒部11への挿入深さDと、任意の挿入深さDのときのピエゾ素子25が生成する電圧値Vとのデータに基づき、挿入深さに対する電圧値の変化を示す検出関数を算出する。
【0028】
判定部24は、検査部20Aにおける弾性接触片12と膨出部13との正常な接触状態のときに、ゲージ21の挿入深さDに応じてピエゾ素子25が生成する電圧値Vの変化を示す関数を記憶している。また、図11に示すような典型的な異常な接触状態のときに、ピエゾ素子25が生成する電圧値Vの変化を示す関数(これを、「二価関数F」とよぶ)も記憶される。この二価関数Fの詳細は後述する。
【0029】
正常な接触状態を描像する関数は、以下のパラメータ、に大きく依存する。主にこれらのパラメータによって一意に決定される。すなわち、
(a)弾性接触片12に関しては、幅(Y)方向、つまり挿入深さ方向での、ゲージ21と接触する上面の形状、特にゲージ21との接触面積の変化、
(b)膨出部13に関しては、幅(Y)方向でのゲージ21と接触する下面の形状、特にゲージ21との接触面積の変化、
(c)ゲージ21に関しては、挿入深さ(Y)方向での形状、例えば弾性接触片12上面及び膨出部13下面との接触面積の変化、
である。
【0030】
但し、本実施形態の正常な接触状態を描像する関数は、できるだけ単純化させて理解し易いようにするため、以下の3条件を前提として、図10(A)に示す全体略線形一次の関数(これを、「一価関数F0」とよぶ)とする。
(a)については、弾性接触片12上面のゲージ21との接触が、Y方向については挿入深さ0の原点位置より手前位置から開始する。X方向については検査孔15の幅W(図4参照)全体に亘って同じ幅で接する。
(b)については、膨出部13下面のゲージ21との接触領域が、X−Y面全体に亘り同じである。
(c)については、ゲージ21の上下両面での、膨出部13の下面及び弾性接触片12上面に対する接触面積の大きさが、先端のテーパ部21Aでは拡開形状であるので徐々に面積が拡大するが、その拡大変化は近似的に無視できる。本体部21Bでは、常に一定幅形状である。
【0031】
ピエゾ素子25は、圧電素子の一種であって、ゲージ21と挿脱手段22との間に介装されており、挿入荷重に応じて生成する電圧を演算部23へ出力する。
【0032】
ここで、一価関数F0の関数形について説明する。なお、この一価関数F0は、前述したように膨出部13の下面と弾性接触片12上面との間に隙間のない正常な接触状態に対応する。
【0033】
ゲージ21は、テーパ部21Aにおいて、先端から検査部20Aに挿入させる間、膨出部13及び弾性接触片12に対する接触面積が次第に増大する。
【0034】
従って、接触面積の増大に合わせて摩擦力も、近似的にみるとほぼ一次関数的に増大する。但し、弾性接触片12は、少なくとも、ゲージ21に押下される領域では、フックの法則に従うものとする。挿入荷重、延いてはピエゾ素子25が生成する電圧値Vも、同様にほぼ一次関数的に増大する。そのため、図10(A)に示すように、テーパ部21Aを検査部20Aに挿入中は、電圧値Vと挿入深さDとに関する関係が、近似的に線形一次関数となる。
【0035】
具体的に説明すると、膨出部13及び弾性接触片12の双方と接触開始する挿入深さ0から最奥部の挿入深さD2まで、接触面積の増加割合がほぼ一定で変わらない。また、弾性接触片12がゲージ21の下面に作用する弾性力、別言すれば垂直抗力は、フックの法則を満たしている限り、ほぼ一定であるので、ゲージ21が受ける単位面積当たりの摩擦力もほぼ一定で変化ない。挿入荷重の増加割合もほぼ一定である。このため、ピエゾ素子25が生成する電圧値Vも線形一次で増大する。つまり、挿入深さ0の原点位置から最奥部までほぼ同じ傾きで線形一次に変化する。
【0036】
これが、正常な接触状態、つまり膨出部13及び弾性接触片12との間に隙間のない接触状態の関数であって、図10(A)に示す一価関数F0である。
【0037】
次に、本実施形態の検査方法について、図7、図9、及び図11を参照しながら説明する。
(1)図示外のテーブル等に移載されてきた検査対象のばね端子10に対して、挿脱手段22が作動する。ゲージ21が、図示外のホームポジションから移動水準面Lの高さを維持しつつ、等速度で前進移動する。ゲージ21の移動による検査部20Aへの挿入動作を開始する。
(2)ゲージ21の先端が、検査孔15から筒部11内部の検査部20Aへ挿入される。
(3)ピエゾ素子25からは、挿入深さ0の原点位置のところから、挿入荷重に対応し逐次生成する電圧値Vが演算部23へ出力される。
(4)演算部23では、逐次入力するこの電圧値Vのデータに基づき、ゲージ21の挿入深さDに対する電圧値Vを描像する関数が導出されていく。この導出した関数が前述した検出関数である。
(5)検出関数を入力した判定部24では、その検出関数を予め記憶されている一価関数F0及び二価関数Fとマッチングさせ、弾性接触片12の膨出部13への接触状態の良否を判断する。関数形によっては、後述するように異常な接触状態と判断する。
【0038】
図9に示す正常な接触状態のときには、図10(A)に示すように、挿入深さ0の原点位置から最奥部の挿入深さD2に至るまで略同一傾きを有する線形一次の一価関数F0と同じ関数形の検出関数が得られる。この導出した検出関数の関数形を予め記憶した一価関数F0とマッチングすることで、一価関数F0と略同一であれば、隙間のない正常な接触状態であることが判断される。つまり、一価関数であれば、正常な接触状態である。
【0039】
一方、図11に示すように、隙間のある異常な接触状態のときには、以下のようになる。
ゲージ21のテーパ部21A及び本体部21Bが挿入されると、変曲点となる挿入深さD1の位置のところで、テーパ部21Aの先端の斜面21Cが、移動水準面Lの高さより上へ突出している弾性接触片12の上面に接触し、摺動を始める。そこで、ゲージ21の挿入力を高める。ゲージ21のテーパ部21A先端のくさび形の斜面21Cが、弾性接触片12の弾性力に抗して弾性接触片12を押下する。こうして、テーパ部21Aの先端が隙間Gを押し広げ、さらに弾性接触片12の上面を奥部に向け進行する。
【0040】
このとき、ピエゾ素子25が生成する電圧値Vは、変曲点となる挿入深さD1の位置から急に大きく増大する。これをグラフとして示した図10(B)の二価関数Fと同じ関数形の検出関数が得られる。因みに、このグラフを与える二価関数Fは、変曲点となる挿入深さD1を境にして、傾きが小さな第1の一次関数f1と、傾きが大きな第2の一次関数f2との組み合わせで表示される複合的な関数である。この関数形の検出関数が演算部23から導出される。
【0041】
導出された検出関数に関するデータは、判定部24に出力され、予め記憶されている一価関数F0及び二価関数Fと突き合わされ、接触状態の良否が判断される。この場合には、一価関数F0とは関数形が大きく異なり、二価関数Fと同じ関数形であることから、異常な接触状態であると判断される。
【0042】
従って、本実施形態によれば、隙間Gを生じている弾性接触片12の異常な接触状態を、確実に検出できるわけである。このため、各ばね端子に対して、図11に示す態様で隙間Gを生じている不良品を確実に除去できる。こうして不良品を除去した結果、実際の接続作業現場でこのばね端子である雌端子と雄端子との嵌合作業を行う際に、嵌合動作が完了したと錯誤し、嵌合途中の段階で止めてしまうといった事態が回避できる。
【0043】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施し得るものである。
例えば、本実施形態の関数では、ゲージの挿入深さに対してピエゾ素子から発生する電圧を変数として用いたが、電圧の替わりに挿入荷重を変数としてもよい。
また、ゲージを挿入する検査孔については、本実施形態のような専用の検査孔15を設ける代わりに、雄端子を挿入する挿入孔14を利用してもよい。
【0044】
さらに、本実施形態の場合には、異常な接触状態の場合の検出関数が固有の二価関数Fに特定されていたが、この二価関数Fは図11に示す態様での異常な接触状態の場合に適用される。このような異常な接触状態とは別の態様での接触異常の場合には、必ずしもこの二価関数Fが適用されるものではない。異常な接触状態が弾性接触片12の姿勢や隙間Gの大きさなどによって様々考えられるため、検出関数の関数形については、三価関数或いはそれ以上の多価関数などであってもよいし、周知の特殊関数などでもよい。その場合でも、接触正常の場合の検出関数は近似的に一価関数F0と見做すことが可能である限り、これとのマッチングによって異常な接触状態を判断可能である。なお、ここで述べてきた一価関数、二価関数、多価関数などは、便宜的に付けた呼称であり、勿論、リーマン面や多様体等に関連した特定分野での一価関数、二価関数、多価関数などとは同義のものではない。
【0045】
また、上記では、本実施形態の検査方法を説明するにあたって、ばね端子の検査孔にゲージを挿入し、そのゲージに作用する挿入荷重に応じて生成される電圧に基づいて、弾性接触片の膨出部への接触状態の良否を判断する検査装置について説明した。しかし、弾性接触片の膨出部への接触状態の良否を判断する手法は、このゲージを利用したものに限られない。例えば、検査孔に向けてレーザ光を照射し、弾性接触片及び膨出部に反射した反射光の強度に基づいて弾性接触片の膨出部への接触状態の良否を判断する手法でも構わないし、検査孔から覗く弾性接触片及び膨出部を撮像し、その撮像した画像を解析することによって弾性接触片の膨出部への接触状態の良否を判断する手法でも構わない。
【符号の説明】
【0046】
10 ばね端子(雌端子)
11 筒部
12 弾性接触片
13 膨出部
14 挿入孔
15 検査孔
20 検査装置
20A 検査部
21 ゲージ
21A テーパ部
21B 本体部
21C 斜面
22 挿脱手段
23 演算部
24 判定部
25 ピエゾ素子
D 挿入深さ
D1 変曲点となる挿入深さ
D2 最奥部の挿入深さ
F0 一価関数
F 二価関数
G 隙間
L 移動水準面
V ピエゾ素子が生成する電圧
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性接触片を備えたばね端子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、雌端子としては、例えば特許文献1のものが知られている。
図12に示すように、この雌端子100には、接続相手となる図示外の雄端子が挿入される筒部101内に、該雄端子と接触導通させるための弾性接触片102が配される。雄端子を雌端子100に挿入すると、雄端子が、弾性接触片102に接触し、弾性接触片102を押圧して下方に弾性的に変位する。すると、弾性接触片102の弾性力により、雄端子が接点部103と受圧部104との間に挟持され、雄端子と雌端子100との電気的接続が図られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−156285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
雌端子100の弾性接触片102には、支点の近傍を打ち出し加工することによって膨出部106が形成されている。雌端子100は、膨出部106が筒部101の底壁107に接触していないと、雄端子との接触状態が不安定となる。しかも、雄端子の挿入動作も不確実となり、最奥部まで確実に挿入する動作が得られ難い。例えば、挿入時の押込み力が挿入途中の段階で大きく増大する変化があると、挿入先端が最終位置に達したと錯誤し、途中の段階であるにも拘らず止めてしまう虞がある。
【0005】
そこで、雌端子100製造後、支点となる膨出部106が筒部101の底壁107に正常に接触しているか否かを検査することが必要である。ところが、弾性接触片102は、筒部101に覆われているので、膨出部106の接触状態を外部から目視で確認できない。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、弾性変形時の支点となる部分での弾性接触片の接触状態を判別することができるばね端子、ばね端子の検査方法及びばね端子の検査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した目的を達成するために、本発明に係るばね端子は、下記(1)を特徴とする。
(1) 筒状の筒部と、
前記筒部の内部に設けられた、相手側端子との接触導通を図る弾性接触片と、
前記筒部の内壁に該弾性接触片に向かって突設された、該弾性接触片が弾性的に接触する膨出部と、
前記筒部の側壁において前記弾性接触片と前記膨出部との接触箇所に臨む位置に形成された検査孔と、
を備えること。
【0008】
上記(1)の構成のばね端子によれば、弾性変形時の支点となる膨出部に対する弾性接触片の接触状態を検査装置のゲージによって判別することができる。
【0009】
前述した目的を達成するために、本発明に係るばね端子の検査方法は、下記(2)を特徴とする。
(2) 筒状の筒部の内部に設けられた、相手側端子との接触導通を図る弾性接触片と、前記筒部の内壁に該弾性接触片に向かって突設された、該弾性接触片が弾性的に接触する膨出部と、前記筒部の側壁において前記弾性接触片と前記膨出部との接触箇所に臨む位置に形成された検査孔とを備えた、ばね端子において、前記弾性接触片と前記膨出部との接触状態の良否を検査するばね端子の検査方法であって、
前記検査孔に、前記弾性接触片と前記膨出部との間に挿入されるように検査装置のゲージを差し込み、
前記筒部に対する前記ゲージの挿入深さに対応する挿入荷重に基づいて、前記弾性接触片の前記膨出部への接触状態の良否を判断する、
こと。
【0010】
上記(2)の構成のばね端子の検査方法によれば、弾性変形時の支点となる膨出部に対する弾性接触片の接触状態を機械的に検出でき、迅速な検出作業が可能になるとともに、検査の自動化も実現可能となる。
【0011】
前述した目的を達成するために、本発明に係るばね端子の検査装置は、下記(3)を特徴とする。
(3) 筒状の筒部の内部に設けられた、相手側端子との接触導通を図る弾性接触片と、前記筒部の内壁に該弾性接触片に向かって突設された、該弾性接触片が弾性的に接触する膨出部と、前記筒部の側壁において前記弾性接触片と前記膨出部との接触箇所に臨む位置に形成された検査孔とを備えた、ばね端子において、前記弾性接触片と前記膨出部との接触状態の良否を検査する検査装置であって、
前記検査孔から前記筒部の内部に差し込まれ、前記弾性接触片と前記膨出部との間に挿入可能なゲージと、
前記ゲージを前記検査孔から前記弾性接触片と前記膨出部との間に挿入させる挿脱手段と、
前記筒部に対する前記ゲージの挿入深さに対する挿入荷重を検出する検出手段と、
前記挿入荷重に基づいて、前記弾性接触片の前記膨出部への接触状態の良否を判断する判定部と、
を備えたこと。
【0012】
上記(3)の構成のばね端子の検査装置によれば、弾性変形時の支点となる膨出部に対する弾性接触片の接触状態を機械的に検出でき、迅速な検出作業が可能になるとともに、検査の自動化も実現可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のばね端子の検査方法によれば、弾性変形時の支点となる部分での弾性接触片の接触状態を検査装置のゲージによって判別することができる。
【0014】
また、本発明のばね端子の検査方法及びばね端子の検査装置によれば、弾性変形時の支点となる膨出部での弾性接触片の状態を、挿入荷重の変化に基づき正確に判断できる。換言すれば、弾性接触片の膨出部への接触状態の良否を機械的に、かつ、迅速に検出できる。これにより、検査作業の自動化が実現可能となる。また、弾性接触片と膨出部が異常な接触状態にあるばね端子を除去できるので、嵌合作業が完了したと錯誤して、嵌合作業途中の段階で止めてしまうといったトラブルを回避できるようになる。
【0015】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係るばね端子の形状を説明する図であって、図1(A)はばね端子の上面図、図1(B)はその展開図である。
【図2】本発明の実施形態に係るばね端子の形状を説明する図であって、図1(A)のII−II線の矢視断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係るばね端子の形状を説明する図であって、図3(A)はばね端子の側面図、図3(B)はその正面図である。
【図4】図3(A)における要部αの拡大図である。
【図5】本発明の実施形態に係る検査装置を用いてばね端子の弾性接触片の接触状態の良否を検出する状態を示す説明図である。
【図6】本発明の実施形態に係る検査装置のゲージの形状を説明する図であって、図6(A)はゲージの平面図、図6(B)はその側面図である。
【図7】本発明の実施形態に係る検査装置の構成を示す機能ブロック図である。
【図8】本発明の実施形態に係る検査装置を用いてばね端子の弾性接触片の接触状態の良否を検出する状態を示す説明図であって、図8(A)はばね端子及びゲージの正面図、図8(B)は図5のVIIIB−VIIIB線の矢視断面図である。
【図9】図8(B)の要部βの拡大断面図である。
【図10】本発明の実施形態に係る検査装置のゲージの挿入深さと電圧値の関係を示す関数であって、図10(A)は正常な接触状態の場合のグラフ、図10(B)は異常な接触状態の場合のグラフである。
【図11】異常な接触状態の場合の弾性接触片を有するばね端子にゲージを挿入する状態を示す説明図である。
【図12】従来のばね端子の構成を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
図1〜図4は、本発明に係るばね端子の構造を示す。
【0018】
図1〜図4に示すばね端子10は、接続相手側となる図示外の雄端子との接触導通を図る雌端子を構成する。ばね端子10は、筒部11と、弾性接触片12と、膨出部13と、を含んで構成される。筒状の筒部11の内部に、図2及び図4に示すように、雄端子との接触導通を図る導電性の弾性接触片12が設けられている。また、筒部11の内壁である天井面には、弾性接触片12に向って突設された膨出部13が形成されている。図1(B)に示すように、膨出部13を含む天井面を底面に対して折り曲げるとともに、その天井面の内側に位置するように弾性接触片12を折り曲げることによって、弾性接触片12は、図2及び図4に示すように、その一部が、筒部11の天井面側の内壁に設けた膨出部13に弾性的に接触する。膨出部13は、筒部の天井面側の側壁を内部に向けて打ち出すことによって形成されている。膨出部13は、弾性接触片12のばね動作を行う際の支点となるものであり、弾性接触片12の上面が当接することで、接触荷重を常時安定して保持する。
【0019】
また、ばね端子10は、筒部11の一方の端面側に、接続相手である図示外の雄端子が入り込む挿入孔14が形成されている。また、筒部11の一方側の側壁には、弾性接触片12と膨出部13との接触箇所に臨む位置に該側壁を開口させた検査孔15が形成されている。検査孔15は、図4に示すように、弾性接触片12と膨出部13との接触箇所を筒部11の外部から視認することができる程度に開口した孔である。尚、図1〜図3に示す符号16は電線の被覆部を加締める被覆部加締部、符号17は電線の芯線を加締める芯線加締部である。
【0020】
以上のように、筒部11の側壁に検査孔15が形成されたばね端子によれば、検査孔15を覗くことで、弾性接触片12と膨出部13と接触状態を確認することができる。したがって、弾性変形時の支点となる部分での弾性接触片の接触状態を目視によって判別することができる。或いは、作業者が、検査孔15に検査治具であるゲージ(ゲージの詳細は後述する。)を、弾性接触片12と膨出部13の間に位置するように挿入し、その挿入の際にゲージに作用する、ゲージの挿入力に対する反力を感じ取ることで、弾性変形時の支点となる部分での弾性接触片の接触状態を作業者が判別することができる。この結果、本実施形態のばね端子によれば、弾性接触片12の異常な接触状態の不良品を除去することができる。
【0021】
ここまでは、本発明に係るばね端子の構造と、そのばね端子の弾性接触片12と膨出部13との接触状態を目視、或いは弾性接触片12と膨出部13の間に挿入されるゲージに作用する反力により判別する手法を説明した。以降では、ばね端子10の弾性接触片の接触状態の良否を検査装置20によって検査する手法の一例を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。図5は、本発明に係るばね端子の検査方法を用いて、ばね端子10の弾性接触片の接触状態の良否を検出するときの検査装置20を示す。
【0022】
検査装置20によってその接触状態を検査する場合、例えば、検査装置20に備わるゲージ21によってその接触状態を検査する場合、検査孔15は、ゲージ21が筒部11の内部に向けて入り込むための孔として機能する。
【0023】
検査装置20は、ゲージ21と、挿脱手段22と、演算部23と、判定部24と、ピエゾ素子25と、を含んで構成される。
【0024】
ゲージ21は、図5、図8及び図9に示すように、ばね端子10の検査孔15から筒部11の内部に差し込まれ、弾性接触片12と膨出部13との間(以下、これを「検査部20A」とよぶ)に挿入される部材である。ゲージ21は、金属製の剛体であり、図6、図9及び図11に示すように、挿入方向の先端側の部分に、先端に向けて薄肉略舌状のテーパ部21Aと、テーパ部21Aから延設した薄肉で幅が一定の本体部21Bとを備える。本実施形態の検査装置20に備わるゲージ21は、ばね端子10の検査孔15の開口下縁と略同一高さに配設される。そして、ゲージ21は、移動水準面L(図4、図9参照)に沿って筒部11の内部に挿入される。最終的に、本体部21Bの半分程度の部分まで検査部20Aに挿入される。挿入深さは、テーパ部21Aの先端部分から距離D2までである。距離D2は、ゲージ21を筒部11の最奥部まで挿入したときの深さである(D2を最奥部の挿入深さと称することがある。)。
【0025】
テーパ部21Aは、図9及び図11に示すように、先端部分が、下面から上面に向けて斜め上向きに突出したくさび形の斜面21Cを有する。斜面21Cは、図4に示すように膨出部13の下面と弾性接触片12上面との間に隙間のない正常な接触状態の場合、斜面21Cが弾性接触片12上面に摺動し、その間にスムースに侵入できる。また、図11に示すように、前述の移動水準面Lより弾性接触片12上面の高さの方が一部上へ突出している接触異常の場合でも、斜面21Cが上面を押下して侵入できる。
【0026】
挿脱手段22は、ゲージ21を検査孔15から弾性接触片12と膨出部13との間に挿入させ、抜引させる適宜の公知の装置によって構成される。
【0027】
演算部23は、ゲージ21を挿入する際に、筒部11への挿入深さDと、任意の挿入深さDのときのピエゾ素子25が生成する電圧値Vとのデータに基づき、挿入深さに対する電圧値の変化を示す検出関数を算出する。
【0028】
判定部24は、検査部20Aにおける弾性接触片12と膨出部13との正常な接触状態のときに、ゲージ21の挿入深さDに応じてピエゾ素子25が生成する電圧値Vの変化を示す関数を記憶している。また、図11に示すような典型的な異常な接触状態のときに、ピエゾ素子25が生成する電圧値Vの変化を示す関数(これを、「二価関数F」とよぶ)も記憶される。この二価関数Fの詳細は後述する。
【0029】
正常な接触状態を描像する関数は、以下のパラメータ、に大きく依存する。主にこれらのパラメータによって一意に決定される。すなわち、
(a)弾性接触片12に関しては、幅(Y)方向、つまり挿入深さ方向での、ゲージ21と接触する上面の形状、特にゲージ21との接触面積の変化、
(b)膨出部13に関しては、幅(Y)方向でのゲージ21と接触する下面の形状、特にゲージ21との接触面積の変化、
(c)ゲージ21に関しては、挿入深さ(Y)方向での形状、例えば弾性接触片12上面及び膨出部13下面との接触面積の変化、
である。
【0030】
但し、本実施形態の正常な接触状態を描像する関数は、できるだけ単純化させて理解し易いようにするため、以下の3条件を前提として、図10(A)に示す全体略線形一次の関数(これを、「一価関数F0」とよぶ)とする。
(a)については、弾性接触片12上面のゲージ21との接触が、Y方向については挿入深さ0の原点位置より手前位置から開始する。X方向については検査孔15の幅W(図4参照)全体に亘って同じ幅で接する。
(b)については、膨出部13下面のゲージ21との接触領域が、X−Y面全体に亘り同じである。
(c)については、ゲージ21の上下両面での、膨出部13の下面及び弾性接触片12上面に対する接触面積の大きさが、先端のテーパ部21Aでは拡開形状であるので徐々に面積が拡大するが、その拡大変化は近似的に無視できる。本体部21Bでは、常に一定幅形状である。
【0031】
ピエゾ素子25は、圧電素子の一種であって、ゲージ21と挿脱手段22との間に介装されており、挿入荷重に応じて生成する電圧を演算部23へ出力する。
【0032】
ここで、一価関数F0の関数形について説明する。なお、この一価関数F0は、前述したように膨出部13の下面と弾性接触片12上面との間に隙間のない正常な接触状態に対応する。
【0033】
ゲージ21は、テーパ部21Aにおいて、先端から検査部20Aに挿入させる間、膨出部13及び弾性接触片12に対する接触面積が次第に増大する。
【0034】
従って、接触面積の増大に合わせて摩擦力も、近似的にみるとほぼ一次関数的に増大する。但し、弾性接触片12は、少なくとも、ゲージ21に押下される領域では、フックの法則に従うものとする。挿入荷重、延いてはピエゾ素子25が生成する電圧値Vも、同様にほぼ一次関数的に増大する。そのため、図10(A)に示すように、テーパ部21Aを検査部20Aに挿入中は、電圧値Vと挿入深さDとに関する関係が、近似的に線形一次関数となる。
【0035】
具体的に説明すると、膨出部13及び弾性接触片12の双方と接触開始する挿入深さ0から最奥部の挿入深さD2まで、接触面積の増加割合がほぼ一定で変わらない。また、弾性接触片12がゲージ21の下面に作用する弾性力、別言すれば垂直抗力は、フックの法則を満たしている限り、ほぼ一定であるので、ゲージ21が受ける単位面積当たりの摩擦力もほぼ一定で変化ない。挿入荷重の増加割合もほぼ一定である。このため、ピエゾ素子25が生成する電圧値Vも線形一次で増大する。つまり、挿入深さ0の原点位置から最奥部までほぼ同じ傾きで線形一次に変化する。
【0036】
これが、正常な接触状態、つまり膨出部13及び弾性接触片12との間に隙間のない接触状態の関数であって、図10(A)に示す一価関数F0である。
【0037】
次に、本実施形態の検査方法について、図7、図9、及び図11を参照しながら説明する。
(1)図示外のテーブル等に移載されてきた検査対象のばね端子10に対して、挿脱手段22が作動する。ゲージ21が、図示外のホームポジションから移動水準面Lの高さを維持しつつ、等速度で前進移動する。ゲージ21の移動による検査部20Aへの挿入動作を開始する。
(2)ゲージ21の先端が、検査孔15から筒部11内部の検査部20Aへ挿入される。
(3)ピエゾ素子25からは、挿入深さ0の原点位置のところから、挿入荷重に対応し逐次生成する電圧値Vが演算部23へ出力される。
(4)演算部23では、逐次入力するこの電圧値Vのデータに基づき、ゲージ21の挿入深さDに対する電圧値Vを描像する関数が導出されていく。この導出した関数が前述した検出関数である。
(5)検出関数を入力した判定部24では、その検出関数を予め記憶されている一価関数F0及び二価関数Fとマッチングさせ、弾性接触片12の膨出部13への接触状態の良否を判断する。関数形によっては、後述するように異常な接触状態と判断する。
【0038】
図9に示す正常な接触状態のときには、図10(A)に示すように、挿入深さ0の原点位置から最奥部の挿入深さD2に至るまで略同一傾きを有する線形一次の一価関数F0と同じ関数形の検出関数が得られる。この導出した検出関数の関数形を予め記憶した一価関数F0とマッチングすることで、一価関数F0と略同一であれば、隙間のない正常な接触状態であることが判断される。つまり、一価関数であれば、正常な接触状態である。
【0039】
一方、図11に示すように、隙間のある異常な接触状態のときには、以下のようになる。
ゲージ21のテーパ部21A及び本体部21Bが挿入されると、変曲点となる挿入深さD1の位置のところで、テーパ部21Aの先端の斜面21Cが、移動水準面Lの高さより上へ突出している弾性接触片12の上面に接触し、摺動を始める。そこで、ゲージ21の挿入力を高める。ゲージ21のテーパ部21A先端のくさび形の斜面21Cが、弾性接触片12の弾性力に抗して弾性接触片12を押下する。こうして、テーパ部21Aの先端が隙間Gを押し広げ、さらに弾性接触片12の上面を奥部に向け進行する。
【0040】
このとき、ピエゾ素子25が生成する電圧値Vは、変曲点となる挿入深さD1の位置から急に大きく増大する。これをグラフとして示した図10(B)の二価関数Fと同じ関数形の検出関数が得られる。因みに、このグラフを与える二価関数Fは、変曲点となる挿入深さD1を境にして、傾きが小さな第1の一次関数f1と、傾きが大きな第2の一次関数f2との組み合わせで表示される複合的な関数である。この関数形の検出関数が演算部23から導出される。
【0041】
導出された検出関数に関するデータは、判定部24に出力され、予め記憶されている一価関数F0及び二価関数Fと突き合わされ、接触状態の良否が判断される。この場合には、一価関数F0とは関数形が大きく異なり、二価関数Fと同じ関数形であることから、異常な接触状態であると判断される。
【0042】
従って、本実施形態によれば、隙間Gを生じている弾性接触片12の異常な接触状態を、確実に検出できるわけである。このため、各ばね端子に対して、図11に示す態様で隙間Gを生じている不良品を確実に除去できる。こうして不良品を除去した結果、実際の接続作業現場でこのばね端子である雌端子と雄端子との嵌合作業を行う際に、嵌合動作が完了したと錯誤し、嵌合途中の段階で止めてしまうといった事態が回避できる。
【0043】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施し得るものである。
例えば、本実施形態の関数では、ゲージの挿入深さに対してピエゾ素子から発生する電圧を変数として用いたが、電圧の替わりに挿入荷重を変数としてもよい。
また、ゲージを挿入する検査孔については、本実施形態のような専用の検査孔15を設ける代わりに、雄端子を挿入する挿入孔14を利用してもよい。
【0044】
さらに、本実施形態の場合には、異常な接触状態の場合の検出関数が固有の二価関数Fに特定されていたが、この二価関数Fは図11に示す態様での異常な接触状態の場合に適用される。このような異常な接触状態とは別の態様での接触異常の場合には、必ずしもこの二価関数Fが適用されるものではない。異常な接触状態が弾性接触片12の姿勢や隙間Gの大きさなどによって様々考えられるため、検出関数の関数形については、三価関数或いはそれ以上の多価関数などであってもよいし、周知の特殊関数などでもよい。その場合でも、接触正常の場合の検出関数は近似的に一価関数F0と見做すことが可能である限り、これとのマッチングによって異常な接触状態を判断可能である。なお、ここで述べてきた一価関数、二価関数、多価関数などは、便宜的に付けた呼称であり、勿論、リーマン面や多様体等に関連した特定分野での一価関数、二価関数、多価関数などとは同義のものではない。
【0045】
また、上記では、本実施形態の検査方法を説明するにあたって、ばね端子の検査孔にゲージを挿入し、そのゲージに作用する挿入荷重に応じて生成される電圧に基づいて、弾性接触片の膨出部への接触状態の良否を判断する検査装置について説明した。しかし、弾性接触片の膨出部への接触状態の良否を判断する手法は、このゲージを利用したものに限られない。例えば、検査孔に向けてレーザ光を照射し、弾性接触片及び膨出部に反射した反射光の強度に基づいて弾性接触片の膨出部への接触状態の良否を判断する手法でも構わないし、検査孔から覗く弾性接触片及び膨出部を撮像し、その撮像した画像を解析することによって弾性接触片の膨出部への接触状態の良否を判断する手法でも構わない。
【符号の説明】
【0046】
10 ばね端子(雌端子)
11 筒部
12 弾性接触片
13 膨出部
14 挿入孔
15 検査孔
20 検査装置
20A 検査部
21 ゲージ
21A テーパ部
21B 本体部
21C 斜面
22 挿脱手段
23 演算部
24 判定部
25 ピエゾ素子
D 挿入深さ
D1 変曲点となる挿入深さ
D2 最奥部の挿入深さ
F0 一価関数
F 二価関数
G 隙間
L 移動水準面
V ピエゾ素子が生成する電圧
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の筒部と、
前記筒部の内部に設けられた、相手側端子との接触導通を図る弾性接触片と、
前記筒部の内壁に該弾性接触片に向かって突設された、該弾性接触片が弾性的に接触する膨出部と、
前記筒部の側壁において前記弾性接触片と前記膨出部との接触箇所に臨む位置に形成された検査孔と、
を備えることを特徴とするばね端子。
【請求項2】
筒状の筒部の内部に設けられた、相手側端子との接触導通を図る弾性接触片と、前記筒部の内壁に該弾性接触片に向かって突設された、該弾性接触片が弾性的に接触する膨出部と、前記筒部の側壁において前記弾性接触片と前記膨出部との接触箇所に臨む位置に形成された検査孔とを備えた、ばね端子において、前記弾性接触片と前記膨出部との接触状態の良否を検査するばね端子の検査方法であって、
前記検査孔に、前記弾性接触片と前記膨出部との間に挿入されるように検査装置のゲージを差し込み、
前記筒部に対する前記ゲージの挿入深さに対応する挿入荷重に基づいて、前記弾性接触片の前記膨出部への接触状態の良否を判断する、
ことを特徴とするばね端子の検査方法。
【請求項3】
筒状の筒部の内部に設けられた、相手側端子との接触導通を図る弾性接触片と、前記筒部の内壁に該弾性接触片に向かって突設された、該弾性接触片が弾性的に接触する膨出部と、前記筒部の側壁において前記弾性接触片と前記膨出部との接触箇所に臨む位置に形成された検査孔とを備えた、ばね端子において、前記弾性接触片と前記膨出部との接触状態の良否を検査する検査装置であって、
前記検査孔から前記筒部の内部に差し込まれ、前記弾性接触片と前記膨出部との間に挿入可能なゲージと、
前記ゲージを前記検査孔から前記弾性接触片と前記膨出部との間に挿入させる挿脱手段と、
前記筒部に対する前記ゲージの挿入深さに対する挿入荷重を検出する検出手段と、
前記挿入荷重に基づいて、前記弾性接触片の前記膨出部への接触状態の良否を判断する判定部と、
を備えたことを特徴とするばね端子の検査装置。
【請求項1】
筒状の筒部と、
前記筒部の内部に設けられた、相手側端子との接触導通を図る弾性接触片と、
前記筒部の内壁に該弾性接触片に向かって突設された、該弾性接触片が弾性的に接触する膨出部と、
前記筒部の側壁において前記弾性接触片と前記膨出部との接触箇所に臨む位置に形成された検査孔と、
を備えることを特徴とするばね端子。
【請求項2】
筒状の筒部の内部に設けられた、相手側端子との接触導通を図る弾性接触片と、前記筒部の内壁に該弾性接触片に向かって突設された、該弾性接触片が弾性的に接触する膨出部と、前記筒部の側壁において前記弾性接触片と前記膨出部との接触箇所に臨む位置に形成された検査孔とを備えた、ばね端子において、前記弾性接触片と前記膨出部との接触状態の良否を検査するばね端子の検査方法であって、
前記検査孔に、前記弾性接触片と前記膨出部との間に挿入されるように検査装置のゲージを差し込み、
前記筒部に対する前記ゲージの挿入深さに対応する挿入荷重に基づいて、前記弾性接触片の前記膨出部への接触状態の良否を判断する、
ことを特徴とするばね端子の検査方法。
【請求項3】
筒状の筒部の内部に設けられた、相手側端子との接触導通を図る弾性接触片と、前記筒部の内壁に該弾性接触片に向かって突設された、該弾性接触片が弾性的に接触する膨出部と、前記筒部の側壁において前記弾性接触片と前記膨出部との接触箇所に臨む位置に形成された検査孔とを備えた、ばね端子において、前記弾性接触片と前記膨出部との接触状態の良否を検査する検査装置であって、
前記検査孔から前記筒部の内部に差し込まれ、前記弾性接触片と前記膨出部との間に挿入可能なゲージと、
前記ゲージを前記検査孔から前記弾性接触片と前記膨出部との間に挿入させる挿脱手段と、
前記筒部に対する前記ゲージの挿入深さに対する挿入荷重を検出する検出手段と、
前記挿入荷重に基づいて、前記弾性接触片の前記膨出部への接触状態の良否を判断する判定部と、
を備えたことを特徴とするばね端子の検査装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−151007(P2012−151007A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−9131(P2011−9131)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】
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