説明

ひずみゲージ要素を含む精密力変換器

負荷に依存するバネ要素(1)のたわみが、ひずみゲージ要素(10)によって電気信号に変換される前記バネ要素(1)を含む、精密力変換器が開示される。バネ要素(1)は、ニッケル含有量36〜60%およびクロム含有量15〜25%の析出硬化可能なニッケルベースの合金で作られ、一方ひずみゲージ要素は、ポリマー非含有層状フィルム系からなり、こうして、高い精度、低いクリープ量、および湿気に対する低い感度を特徴とする精密力変換器の製造が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負荷に依存するバネ要素のたわみが、ひずみゲージ要素を用いて電気信号に変換される前記バネ要素を有する、精密力変換器に関する。
【背景技術】
【0002】
この種類の精密力変換器は一般に知られており、例えばドイツ国公報DE 195 11 353 C1に記載されている。
この精密力変換器の精度を高めるには、クリープおよび特にヒステリシスが大きな問題となる。改善を実現する1つのアプローチは、特別な熱処理を施した低クリープの鋼種、例えば、一般にマルエージング鋼と呼ばれるものを用いることである。ブロック転位を有するナノ構造のオーステナイト鋼も提唱されている(ドイツ国出願公開DE 198 13 459 A1)。この問題を解決する他のアプローチは、アルミニウム合金を用いることである。この材料のクリープは、従来のひずみゲージの逆クリープにより補正される。従来のひずみゲージのクリープは、ひずみゲージのベース層を形成するポリマーフィルムおよび、ひずみゲージとバネ要素との間に用いられる接着剤のために生じる。これら2つのクリープ効果の温度依存性が異なるため、この補正は、せいぜい低温度範囲のみで有効である。しかし、これらの既知の解決法は全て、精密力変換器の有効な分解能の約50,000インクリメント(increments)のみを許容するものである。したがって、精密力変換器が較正可能な秤に対して用いられる場合、約3×3000の較正可能なインクリメントのみが可能である。
【0003】
従来のひずみゲージにおける他の誤差の影響は、接着層および基板フィルムの湿気感度である。高分解能精密力変換器は、力の入れ換え(shunting)のために、限られた範囲でのみ湿気の影響に対して密閉することができる。したがって、従来のひずみゲージの湿気感度は、精密力変換器を構成する際の、分解能を制限するもう一つの要因である。
【0004】
発明の目的
本発明の目的は、したがって、実質的により高い分解能をもたらす、上記種類の精密力変換器を提供することである。
【発明の開示】
【0005】
発明の概要
本発明によれば、この目的は、ニッケル含有量36〜60%およびクロム含有量15〜25%の析出硬化可能なニッケルベースの合金でバネ要素を形成し、ポリマー非含有層状フィルム系でひずみゲージ要素を形成することにより、実現される。
【0006】
バネ要素に対する析出硬化可能なニッケルベースの合金の使用は、それ自体周知である。例えば、ドイツ国出願公開DE 103 50 085 A1には、ブレーキ用の力センサであって、析出硬化可能な鋼、好ましくは17-4PHまたはインコネル718をバネ要素の材料として用いるものが記載されており、ここでひずみゲージ要素はシリコンで作られた半導体素子であり、これらはホウ酸鉛ガラスはんだを用いてバネ要素に接着される。しかし、半導体ひずみゲージ要素は高い温度係数を有し、したがってこの力センサで広い温度範囲で高い精度を実現することは不可能である。さらに、はんだガラスを用いた力の結合(force coupling)は、シリコンチップに大きな内部ストレスを生じさせ、なぜならばこれらのバネ材料の熱膨張係数が、シリコンのそれと大きく異なるからである。ガラス材料は力の影響下で流動する傾向があるため、ガラスを含有する力伝送システムには大きなクリープ効果が起こりがちであり、精密力変換器の作製を不可能にしている。
【0007】
ひずみゲージ要素として、非常に低いクリープ、広い温度範囲で殆ど一定の弾性係数および高い力を有する析出硬化可能なニッケルベースの合金を、ポリマー非含有層状フィルム系と組み合わせることだけで、精密力変換器の精度の大幅な増加を実現することが可能である。ポリマーベースの層と接着剤を取り除くことにより、この層状フィルム系も、クリープおよび湿気に対して高い抵抗性を有する。これにより、200,000インクリメントを超える有意義な分解能を実現することができる。このクラスの材料の難しい加工は許容される。
析出硬化可能なニッケルベースの合金は、好ましくは、50〜55%のニッケル含有量および17〜21%のクロム含有量を有する。例えば、EN 10027-2に準じた材料番号2.4668として標準化された合金が、このクラスの合金に分類される。
【0008】
ポリマー非含有層状フィルム系は、好ましくは、薄膜処理において、好ましくはPVD(物理的気相成長法)またはCVD(化学気相成長法)プロセスにおいて、バネ要素に適用される。層状フィルム系は、好ましくは、次の層順を有する:SiO、Alまたは絶縁材料の類似の合金で形成された絶縁フィルム、NiおよびCrを主材料とした三元合金で形成された膨張感知フィルム(expansion sensitive film)、および最後にSiO、Alまたは絶縁材料の類似の合金で形成された任意の保護フィルム。第3の合金要素およびプロセス管理の適切な選択を通し、三元NiCr合金の調節により、精密力変換器全体として可能な最小温度係数を得ることができる。
【0009】
ひずみゲージ要素を、例えばスパッタリングなどで適用する場合に、1つのプロセス段階においてできる限り多くのバネ要素を製造可能にするためには、実際のバネ要素は、できる限り小さくするのが好ましい。実際のバネ要素の末端は、好ましくは、終端片(end piece)で完成させて、精密力変換器の良好な結合手段を提供し、力導入要素が特定の用途に適合可能となるようにする。実際のバネ要素はおよび終端片は、例えば溶接または接着により接合することができる。終端片がプラスチックで作られている場合は、これらはまた、バネ要素上に直接、射出成形することができる(インサート成形と呼ばれる方法)。
【0010】
有利なさらなる改良において、バネ要素は平行ガイドとして形成される。精密力変換器はこれで力の導入点の変動に対して感度が低くなる。精密力変換器をロードセルとして用いる場合、計量トレイは、精密力変換器または付随する終端片の力導入領域に直接取り付けることができる。
【0011】
好ましい態様の詳細な説明
図1に描かれた精密力変換器は、バネ要素1を有し、これはハウジングに固定された領域2、上部ガイド3、下部ガイド4、および力導入領域5を有する。バネ要素1の弾性領域は、主に薄点(thin point)6である。残りの領域は、その幾何学的形状のために、大部分は剛性である。バネ要素1全体は、内部空洞7により1つのピースで形成されている。材料は好ましくは、ニッケル含有量50〜55%およびクロム含有量17〜21%の析出硬化可能なニッケルベースの合金である。この材料は加工が難しいため、幾何学的形状は、難加工材料用の製造法、例えばワイヤ放電加工が使用できるように選択される。ひずみゲージ要素10は、薄点6に配置される。これらの構造は、図2を参照してさらに詳細に説明される。バネ要素1はハウジング8に取り付けられ、これは模式的にのみ示されている。測定すべき力は、図1では力の矢印9’で示され、用途特定的力導入部9を介して導入され、これも図1に模式的にのみ示される。図示されたバネ要素1は平行ガイドとして構成されているため、計量トレイ(図示されず)は、精密力変換器をロードセルとして用いる場合、力導入部9に直接取り付け可能である。
【0012】
ポリマー非含有ひずみゲージ要素10の詳細を図2に示す。ひずみゲージ要素10は薄いフィルム構造からなり、これらはPVDまたはCVD法により蒸着されるのが好ましい。絶縁フィルム11はバネ要素に直接適用され、プラズマ蒸着法により蒸着される低間隙率のAl、SiO、またはSiで形成されるのが好ましい。蒸着で正確な組成は変化し、このため最終的に得られる絶縁フィルムは、しばしば正確な化学量論的組成を有していない。1つの絶縁フィルムの代わりに、異なる数層を組み合わせることもできる。目的は、バネ要素と、隣接するひずみ感知フィルムの間の絶縁を、フィルムの厚さを最小化しつつ得ることである。ひずみ感知フィルム12のために、三元NiCr合金が好ましい。これらは、スパッタリング法の好適な制御により、および第3合金要素の組成の適切な選択により変更可能であり、こうして、提唱されたバネ材料のひずみの見かけの温度依存性をゼロにする。前述の絶縁材料による任意の被覆フィルム13はさらに、追加の非反応性フィルムとして蒸着することができる。ポリマー非含有薄フィルム構造は実質的に水を吸収しない材料からなるために、追加の被覆フィルムは、多くの用途において省略してよい。
【0013】
図2に示すフィルムは、原寸に比例していない。ひずみゲージ要素10の個々のフィルムはμm範囲の厚さを有する。対照的に、薄点6の厚さはmm範囲であり、精密力変換器の負荷範囲に依存する。
図2は、ひずみゲージ要素の機能に必須であるフィルムのみを示す。当業者は例えば、接触のために必要な構造を、容易に追加することができる。接触構造用には、スパッタされた金およびニッケルの層状フィルム系が好ましい。ニッケル層はまた、拡散バリアとして機能して、ひずみ感知三元NiCr層の長期の安定性を保証する。電気抵抗の温度係数が大きい材料のセンサ構造も、頻繁に適用される。これにより、精密力変換器全体として存在する可能性のある温度係数を修正することが可能となる。
【0014】
図3は、終端片21および22がバネ要素1に横方向に隣接している精密力変換器を示す。終端片は加工が容易な材料から作られるのが好ましい。その結果、より簡単な取り付け方法および、より複雑な形状が実現できる。終端片21は、例えばネジ穴23を有し、これにより、精密力変換器は容易にハウジング部25にネジ付けることができる(ネジ24)。終端片21の下端はバネ要素1よりわずかに長く、これにより、突起26を形成する。その結果精密力変換器は、例えば平らな底板などの平らなハウジング部25に容易にネジ付けられてギャップ27を形成し、このギャップはバネ要素1の最大たわみを制限する。もう一方の長方形の終端片22の上端は、円錐端29の付いた丸いシャンク28を有し、これに、従来の丸い計量トレイ(図示されず)を取り付けることができる。バネ要素1および終端片21と22は、好ましくは溶接により接合される。しかし接着による接合も可能であり、これは、比較的大きな接着表面と、低い特性負荷(specific loading)のためである。この接着表面の可能なクリープは重要ではなく、その理由は、これが精密力変換器の精度に影響を与えず、またギャップ27の幅がわずかに変わり、その結果過負荷限界がわずかに変化するのみだからである。したがって終端片もプラスチックで作ることでき、これは、バネ要素1に直接射出成形できる。この方法はインサート成形として知られている。異なる材料および/または異なる接合技術を終端片22と終端片21に対して選択することも、当然可能である。もちろん、1つのみの終端片21または22を提供することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】精密力変換器の透視概観図である。
【図2】ひずみゲージ要素の層状フィルム系の部分の図である。
【図3】終端片を有する精密力変換器の側面図である。
【符号の説明】
【0016】
参照番号リスト
1. バネ要素
2. ハウジングに固定される領域
3. 上部ガイド
4. 下部ガイド
5. 力導入領域
6. 薄点
7. 内部空洞
8. ハウジング
9. 力導入部
9’.力の矢印
10.ひずみゲージ要素
11.絶縁フィルム
12.ひずみ感知フィルム
13.被覆フィルム
21,22.終端片
23.ネジ穴
24.ネジ
25.ハウジング部
26.突起
27.ギャップ
28.シャンク
29.円錐端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負荷に依存するバネ要素(1)のたわみが、ひずみゲージ要素(10)によって電気信号に変換されるバネ要素(1)を有する、精密力変換器であって、バネ要素(1)が、ニッケル含有量36〜60%およびクロム含有量15〜25%の析出硬化可能なニッケルベースの合金で形成されること、および、ひずみゲージ要素(10)が、ポリマー非含有層状フィルム系で形成されることを特徴とする、前記精密力変換器。
【請求項2】
析出硬化可能なニッケルベースの合金が、ニッケル含有量50〜55%およびクロム含有量17〜21%の合金であることを特徴とする、請求項1に記載の精密力変換器。
【請求項3】
析出硬化可能なニッケルベースの合金が、EN 10027-2に準じた材料番号2.4668の合金であることを特徴とする、請求項2に記載の精密力変換器。
【請求項4】
ひずみゲージ要素(10)のための層状フィルム系が、スパッタされていることを特徴とする、請求項1に記載の精密力変換器。
【請求項5】
バネ要素上にスパッタされたひずみゲージ要素(10)のための層状フィルム系が、次の層順:SiOまたはAlの絶縁フィルム、三元NiCr合金のひずみ感知フィルム、SiOまたはAlの被覆フィルム、となっていることを特徴とする、請求項4に記載の精密力変換器。
【請求項6】
少なくとも1種の温度に強く依存するフィルムが、追加してスパッタされていることを特徴とする、請求項4または5に記載の精密力変換器。
【請求項7】
バネ要素(1)の少なくとも1端が、異なる材料で形成された終端片(21、22)を有することを特徴とする、請求項1に記載の精密力変換器。
【請求項8】
1つまたは2つの終端片(21、22)が、溶接によりバネ要素(1)に接続されていることを特徴とする、請求項7に記載の精密力変換器。
【請求項9】
1つまたは2つの終端片(21、22)が、接着によりバネ要素(1)に接続されていることを特徴とする、請求項7に記載の精密力変換器。
【請求項10】
1つまたは2つの終端片(21、22)がプラスチックで形成され、バネ要素(1)上に射出成形されていることを特徴とする、請求項7に記載の精密力変換器。
【請求項11】
バネ要素(1)が、平行ガイドとして構成されている、請求項1に記載の精密力変換器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−519444(P2009−519444A)
【公表日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−544790(P2008−544790)
【出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際出願番号】PCT/EP2006/011272
【国際公開番号】WO2007/073812
【国際公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(595142750)ザトーリウス アクチエン ゲゼルシャフト (22)
【Fターム(参考)】