説明

ほつれ防止布バネ材

【課題】経編地からなる布バネ材の切断端部からのほつれの広がりを簡単な縫製方法で防止でき、かつ縫製によって伸び特性や縫目強度等の物性が阻害されることのない布バネ材を提供すること。
【解決手段】地組織のコース数とウエール数の積が100〜600である経編地の切断部周辺の少なくとも一部に縫い糸が縫い込まれている布バネ材であって、地組織の編目の大きさAが0.7〜1.8mmであり、コース列方向の編目ピッチB(mm)と略コース列方向の縫目ピッチC(mm)との比(C/B)が1.0〜4.0であり、かつ、略コース列方向に縫い込まれている縫い糸の縫目数5個当たり少なくとも1箇所で、縫い糸が編目を貫通していることを特徴とする布バネ材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、鉄道車両、航空機、チャイルドシート、ベビーカー、車椅子、家具、事務椅子等の座席シート用クッション材として用いられる布バネ材に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル系エラストマー繊維やポリトリメチレンテレフタレート繊維等の弾性繊維で構成された織編物をフレームに張設することにより、弾性繊維の伸長回復性を活かしてクッション性を発現させることができ、金属バネやウレタンクッション材に比べて、薄型、軽量、高通気性等の特徴を有する座席が得られる。このような弾性繊維からなる織編物は布バネと称され、事務椅子や家具等の多くの座席用途に使用されつつある。
【0003】
特許文献1には、地組織が鎖編と3〜8針振りトリコット編とで構成され、挿入糸が経糸挿入されている編物であって、高い引裂き抵抗力を有し、人体とのフィット性に優れ、伸長回復性が良好な布バネ材が開示されている。しかしながら、特許文献1の布バネ材は、裁断後の端部において地組織の鎖編みがほつれ易いため、切りっぱなしの状態では使えない。端部のほつれを縫製により防止する方法が必要となるが、縫製によって端部の編組織が固定され、布バネ材の性能が低下する問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−97170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、前記問題点を解決し、経編地からなる布バネ材の切断端部からのほつれの広がりを防止でき、かつ縫製によって伸び特性や縫目強度等の物性が阻害されることのない、縫製によって編目ほつれを防止している布バネ材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、地組織の編密度および編目ピッチと縫製の縫目ピッチとの比を特殊範囲にすることで、従来からの問題点が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち本発明は、以下のとおりのものである。
(1)地組織のコース数とウエール数の積が100〜600である経編地の切断部周辺の少なくとも一部に縫い糸が縫い込まれている布バネ材であって、地組織の編目の大きさAが0.7〜1.8mmであり、コース列方向の編目ピッチB(mm)と略コース列方向の縫目ピッチC(mm)との比(C/B)が1.0〜4.0であり、かつ、略コース列方向に縫い込まれている縫い糸の縫目数5個当たりの少なくとも1箇所で、縫い糸が編目を貫通していることを特徴とする布バネ材。
(2)地組織が少なくとも2枚筬以上のニットループ組織からなり、少なくとも1枚の筬が鎖編み又は1針振りトリコット編であることを特徴とする上記(1)項に記載の布バネ材。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、経編地からなる布バネ材の切断端部に複雑な処理を必要とせず、特定の縫製処理により端部からのほつれの広がりを防止でき、かつ、縫製によって伸び特性や縫目強度等の物性が阻害されることのない布バネ材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の布バネ材とは、略4角形および多角形などの各種形状のフレームに布バネ材を縫製、樹脂成型、ボルト止め等の各種方法で張設することにより、面状のクッション材を形成し、布バネ材の伸長特性を利用して人が座った際のクッション性を発現させるものである。
【0009】
フレームと布バネ材のみでクッション材を形成することもでき、必要に応じて布バネ材の上に立体編物、硬綿、不織布等の繊維状クッション性材料やウレタン、および表皮材等を積層したクッション材とすることができる。
本発明の布バネ材は、切断部からのほつれを防止するため、切断部の周辺に縫い糸が縫い込まれることが好ましい。縫い糸を縫い込む方法は、本縫い、千鳥縫い、かがり縫い等任意の方法を用いる事ができるが、より簡単な方法として本縫いが好ましい。布バネ材の切断部は折り返して縫い糸を縫い込んでも良いが、折り返さずに切断部の周辺を本縫いする方法がより簡単で好ましい。
【0010】
布バネ材の切断部の周辺とは、布バネ材が切断された外周の内側や、布バネ材に設けられる切り込みや穴の周囲、布バネ材の端部と布バネ材や他の布帛や樹脂等の部材とを縫製で接合する部位等を示す。切断部から縫い糸までの距離は2.5〜12mmであることが好ましく、より好ましくは3〜12mm、さらに好ましくは4〜10mmである。
特に、布バネ材と布バネ材や他の部材との縫製による接合部においては、本発明の構成にすることにより、接合部分の端部からのほつれを防止できるものとなり、さらには、布バネ材の伸び特性を阻害することなく、縫目強度も向上するものとなり好適である。
【0011】
本発明においては、縫い糸が地組織の編目部分やシンカーループ部分を貫通することにより、地組織の編目が編み終り方向から徐徐に解けてほつれることを防止する。このためには布バネ材の地組織の密度を示すコース数とウエール数の積が100〜600であることが好ましい。コース数とウエール数の積が100未満であると、縫い糸が編目を貫通する比率が極端に低下し、編目が縫い糸により固定されないことから、ほつれを防止することが困難となる。又、コース数とウエール数の積が600を超える場合は、縫製によるほつれ防止性は向上するが、ミシンの針や糸による衝撃や摩擦等によって地組織を形成する地糸が切断する地糸切れが発生しやすくなり布バネ材の強度低下をまねく。布バネ材のほつれを防止するための布バネ材のより好ましいコース数とウエール数の積は150〜450であり、さらに好ましくは170〜400である。尚、ここでいうコース数とは地組織のタテ方向(ウエール列方向)の2.54cmの長さに存在する編目の個数を示し、ウエール数とはヨコ方向(コース列方向)の2.54cmの長さに存在する編目の個数を示す。
【0012】
本発明では特定の割合で縫い糸が地組織の編目を貫通させることで効果的にほつれを防止することができることを見出した。縫い糸が編目を貫通するとは、地組織において少なくとも1つの編目の繊維部分または編目の中央の開口部分を縫い糸が貫通することである。通常、経編地を縫製する場合は、縫い糸は編目部分や編目と編目の間の空間部分、又は、シンカーループ部分を縫い糸が貫通する可能性があるが、その比率はランダムで特定の値をとるような縫製条件をとることは考えられていなかった。本発明では必ず特定の割合で編目部分を貫通させることによりほつれを防止する。
【0013】
本発明の布バネ材は地組織の編目の大きさAが0.7〜1.8mmであることが好ましい。地組織の編目の大きさとは、地組織をニットループ側から見た際の1つの編目のコース列方向(=編幅方向)の長さ(mm)を示す。編目の大きさAが0.7mm未満であると縫い糸が編目を貫通する比率が大幅に低下して、編目が縫い糸により固定されないことから、ほつれを防止することが困難となる。又、編目の大きさAが1.8mmを超えると、縫い糸が編目を貫通する比率が向上してほつれ防止性能は向上するものの、編目が変形しやすく伸長回復性が大きく低下し、布バネ材の性能が不十分なものとなる。編目の大きさAのより好ましい範囲は0.7〜1.5mm、さらに好まし範囲は0.8〜1.2mmである。
【0014】
本発明の布バネ材においては、地組織のコース列方向の編目ピッチB(mm)と略コース列方向の縫目ピッチC(mm)との比(C/B)が1.0〜4.0であることが好ましい。C/Bが4.0を超えると、縫い糸が編目を貫通する比率が低下し、ほつれを防止することが困難となると共に縫目強度が大きく低下する。さらには縫い糸が直線状になる比率が高くなることにより、布バネ材の伸長率に縫い糸の伸長が追随せず、縫製部分の伸び特性が阻害されるものとなる。又、C/Bが1.0未満であると、ほつれ防止性は向上するものの、縫い糸が編目を拘束し過ぎることにより、布バネ材の伸び特性が阻害されてしまう。又、地組織の地糸切れが発生し易くなり、布バネ材自身の強度低下につながる。(C/B)のより好ましい範囲は、1.3〜3.8であり、さらに好ましくは1.6〜3.1である。
【0015】
ここでいう編目ピッチBとはコース列において隣り合う編目の中心間の距離であり、又、縫目ピッチCとは、1ステッチの縫い目長を示し、1ステッチを構成する際に形成された針穴(中心)と次の針穴(中心)までの距離を示す。編目ピッチBの好ましい範囲は1.2〜2.5mmであり、縫目ピッチCの好ましい範囲は2.0〜5.5mmである。
【0016】
布バネ材に縫い糸を縫い込む際の位置、方向、縫込み長さ等は任意に設定できるが、布バネ材の切断部の周辺において、少なくとも地組織の略コース列方向に縫い糸を縫い込むことにより、地組織の編み終り方向から編目が解けることを防止することが出来、効果的なほつれ対策となる。略コース列方向に縫い糸を縫い込む形状は、直線状でも円弧状でも良く、少なくとも縫目の一部分が略コース列方向に向いていれば良い。
【0017】
本発明の布バネ材は、略コース列方向の縫い糸の縫目数5個当たり少なくとも1箇所で縫い糸が編目を貫通することが好ましい。縫い糸が編目を貫通することにより、該貫通した編目はほつれが完全に遮断される。縫い糸が編目を貫通する割合は、縫目数4個のうち少なくとも1箇所で貫通することがより好ましく、更に好ましくは縫目数3個のうち少なくとも1箇所で貫通することである。
【0018】
本発明の布バネ材は、少なくとも2枚筬以上のニットループ組織からなる地組織で構成されることが、布バネ材の破断強度、引裂強度、及び縫目強度を向上させる上で好ましい。ニットループ組織とは、鎖編、トリコット編の様に全コースにおいてニットループを形成する編組織のことをいう。少なくとも2枚筬以上のニットループ組織からなる地組織の少なくとも1枚の筬は、鎖編又は1針振りトリコット編であることが好ましい。鎖編又は1針振りトリコット編を用いることにより、地組織のタテ方向の伸びを抑え、布バネ材の伸長後の残留歪みを低減することができる。伸びを抑える上で特に好ましいのは鎖編である。又、布バネ材のヨコ方向の伸びを適度に抑え、布バネ材の伸長後の残留歪みを低減すると共に布バネ材の引裂強度をより向上させるには、少なくとも1枚筬は多針振りのトリコット編とすることが好ましく、多針振りの振り幅は3針振りから8針振りが好ましい。従って、伸長後の残留歪みを抑えると同時に、引裂強度を向上させるには、地組織の少なくとも1枚の筬は鎖編み又は1針振りトリコット編とし、もう一方の筬を多針振りのトリコット編とすることがより好ましい。
【0019】
本発明の布バネ材の編組織は、伸長後の回復性を向上させると同時に面剛性を上げ、人体の姿勢支持を良好にするため、タテ方向及び/又はヨコ方向に挿入糸を編み込むことが好ましい。タテ方向に挿入糸を編み込む場合、鎖編やトリコット編等の組織で編まれる地糸のニードルループとシンカーループの間に1コース当り3針振り以下の振り幅で挿入された状態、または経編地の長さ方向に連なる地糸のシンカーループの間を上下しながら挿入された状態で、立体編物の全長に渡り挿入糸を直線状か又はジグザグに近い形態で挿入するのが好ましい。ヨコ方向に挿入糸を編み込む場合は、鎖編やトリコット編等の組織で編まれる地糸のニードルループとシンカーループの間に、経編地の全幅に渡るように挿入糸を直線に近い形態で挿入するのが好ましい。
【0020】
挿入糸を編み込む方法は、タテ方向の挿入であれば編組織によって挿入することができ、この際、編目の変形(組織変形)を抑えるために地組織の多針振りトリコット編のアンダーラップ方向に対して異方向に挿入するのが好ましい。振り幅は、1コース当たり3針振り以下とするのが好ましく、3針振りよりも2針振りまたは1針振がより好ましい。またヨコ方向の挿入であれば、緯糸挿入装置を装備したラッセル編機を用いて緯糸挿入することができる。
【0021】
本発明の布バネ材の地組織を構成する繊維には任意の繊維を使用することができるが、布バネ材の強度を高めるためには、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維等の合成繊維を用いることが好ましい。又、地組織の編目の変形(組織変形)を抑えるために用いる挿入糸もポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維等の任意の繊維を使用することができるが、布バネ材の伸長回復性を向上させ、長期間、人が座った後の残留歪みを低減する上で、ポリトリメチレンテレフタレート繊維、またはポリエステル系エラストマー繊維等の弾性繊維を用いることが好ましい。さらに挿入糸は、地組織の剛性を上げて組織変形を抑えるために300〜3000デシテックスのモノフィラメントを使用することが好ましい。尚、モノフィラメントが挿入糸として用いられる場合は、モノフィラメントがスリップして組織変形したり、着座後の塑性変形を防止するために、モノフィラメントが地組織に接着されていても良い。接着の方法は、モノフィラメント表面を低融点のポリマーで覆った鞘芯モノフィラメントを用い、編地を編成した後にヒートセット等で熱融着させる方法や、地組織に低融点の繊維を編み込み、地組織とモノフィラメントとを熱融着させる方法等が好ましい。
【0022】
本発明の布バネ材の地組織に用いる繊維には任意の繊度のものを用いることができるが、150〜1000デシテックスの繊度を用いることが好ましい。より好ましくは160〜700デシテックス、更に好ましくは250〜600デシテックスである。
【0023】
本発明の布バネ材は、生機を精練、染色、ヒートセット等の工程を通して仕上げた後、所望の形状、寸法に裁断後、少なくとも切断部の周辺の一部に縫い糸を縫い込んだり、布バネ材同士や他の部材と縫製により接合することにより得られる。仕上げ工程時には本発明の目的を損なわなければ、通常、繊維加工に用いられている樹脂加工、制電加工、抗菌加工、撥水加工、難燃加工などの仕上げ加工を適用して良い。特に、ポリウレタン、塩化ビニル、アクリル、シリコーン、フッ素、クロロプレン等の樹脂加工により地組織のほつれ防止性をより改善する仕上加工を行うことが好ましい。
【0024】
本発明の布バネ材に用いる経編地はシングルラッセル編機によりシングル編地として編成することもでき、又、ダブルラッセル編機による2層編地として編成しても良い。編機のゲージは12ゲージから22ゲージまでが好ましく用いられる。
布バネ材に用いる経編地の目付は目的に応じて任意に設定できるが、好ましくは200〜1000g/m2、より好ましくは250〜800g/m2である。
【0025】
得られた、布バネ材は、必要に応じて座席シート等のフレームに接合するための加工処理を行い、張設タイプの座席シート等に用いられる。
布バネ材をシートフレームに張設する状態は限定されるものではなく、布バネ材の外周または少なくとも2辺を、背部または座席のフレームに緊張状態または弛ませた状態で張ることにより、布バネ材が座部や背部を形成した座席が得られる。
【0026】
フレームへの布バネ材の固定方法は任意の方法を用いることができる。例えば、特開2002−219985号公報に記載のように、編地の末端部に断面略U字状で溝部を有するプレート部材を固着し、該プレート部材の溝部を適宜のフレーム材に係合する方法、布バネ材の末端部を溶着、縫製、樹脂加工等により処理した後、端部を押さえ部材等で押さえてボルト止め等でフレームに固定する方法、端部を折り返して縫製した空洞の中に金属棒を通し、金属棒をフレームに固定する方法、樹脂フレームと一体成型等、任意の方法を用いることができる。尚、本発明の布バネ材をコイルスプリング、トーションバー等の金属バネを介してフレームに固定する方法等を用いることにより、よりストローク感のあるクッション性が付与できる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。なお、例中の各特性の評価および測定は下記の方法で行った。
(1)伸長追随性、縫目強度、ほつれ防止性
布バネ材用基布から100mm×100mmのサンプルを2枚採取し、2枚のサンプルのシンカーループ面が向き合い、編方向を180度逆向きとなる状態で重ね合わせ、1枚のサンプルの編み終り方向の端部(他方のサンプルの編始め方向の端部)から3mmの間隔を空けて、コース列方向(編幅方向)に#8ポリエステル糸のミシン糸により本縫いを行う。この際、縫目ピッチを1.5mm、2mm、3mm、4mm、5mm、6mmとして本縫いを行う。尚、この際の縫い糸が編目を貫通する個数を数え、縫目数5個当たりの貫通数に換算する。
この際、縫製部分の両端を両手で把持して編幅方向に引張り、基布の伸び特性に対する縫製部分の伸長追随性を官能評価により、◎:伸長追随性が極めて良好、○:伸長追随性がほぼ良好、△:伸長追随性がやや劣る、×:伸長追随性がかなり劣る、の4段階で相対評価する。
【0028】
さらに島津オートグラフAG−B型(島津製作所製)を用い、つかみ間隔10cmで、重ね合わせた2枚のサンプルの両端を開いて、チャックに固定し、引張り速度200mm/minの条件で引張り、縫目が破断する際の縫目強度を測定する。測定は3回行い平均値を算出する。
又、編み終り方向の端部からのほつれがサンプル中央部分に伝播した状態を目視評価により、◎:ほつれが全くない、○:ほつれが殆んどない、△:小さなほつれが若干ある、×:大きなほつれが多数ある、の4段階で相対評価する。
【0029】
(2)張設座席でのほつれ防止性、及び回復性
座部が幅52cm、奥行き47cm、高さ32cmの口型金属パイプ材からなる座席フレーム(背もたれなし)を作製する。仕上げした経編地からウエール列方向(長さ方向)に50cm、コース列方向(編幅方向)に57cmの50cm×57cmの長方形を切り出し、切断端部から4mmの距離で全周を、#8ポリエステル糸のミシン糸により縫目ピッチ3mmで本縫いして、布バネ材を得た。さらに50cmの辺(2箇所)の全幅にポリブチレンテレフタレート樹脂製の略U字状のプレートを縫製で取り付ける。布バネ材の一方の略U字プレートを座席フレーム前縁下に取り付けた金属製略U字プレートとかみ合わせ、布バネ材の50cmの幅全体に10Kgの荷重をかけて張力を付与した状態で座席フレームの前後に布バネ材を張り、座席フレームの後ろ縁下の金属製略U字プレートと布バネ材の樹脂製略U字状のプレートとかみ合わせて布バネ材と張設する。10Kgの張力により金属製略U字プレートと樹脂製略U字プレートの位置がずれる場合は、金属製樹脂略U字プレートのボルト止めした位置をずらせて調節する。布バネ材の57cmの辺の方向と膝の向きを合せて、座席の上に体重65Kgの男性が2分間座った後、1分間退席する動作を5回繰り返す。
【0030】
退席後の布バネ材の端部からのほつれが縫目部分を通り越して身生地部分に伝播した状態を目視評価により、◎:ほつれが全くない、○:ほつれが殆んどない、△:小さなほつれが若干ある、×:大きなほつれが多数ある、の4段階で評価する。又、布バネ材の回復状態を目視評価し、◎:完全に元通りに回復している。○:ほぼ元通りに回復している。△:ややくぼみ(変形)が残る。×:大きくくぼみが残る、の4段階で相対評価する。
【0031】
(3)縫目数5個当たりの編目貫通数
上記(1)で作製した100mm×100mmのサンプルを2枚重ねて端部を縫製した試料において、縫目の個数(S)と縫い糸が編目を貫通している個数(T)を数え、次の式から縫目数5個当たりの編目貫通数を計算する。
縫目数5個当たりの編目貫通数=T×5/S
【0032】
[実施例1]
4枚筬を装備した14ゲージのラッセル編機を用い、地組織を形成する筬(L1、L2)から560デシテックス/96フィラメントのポリエチレンテレフタレート繊維の原糸をオールインの配列で供給し、挿入糸用の筬(L3)から880デシテックスのポリトリメチレンテレフタレート繊維のモノフィラメントをオールインの配列で供給した。
【0033】
以下に示す編組織で、機上コース14.0コース/2.54cmの密度で布バネ材用生機を編成した。得られた生機は有り幅で170℃×3分で乾熱ヒートセットして布バネ材用基布を得た。
(編組織)
L1:20/02/(オールイン)
L2:20/1012/(オールイン)
L3:44/00/(オールイン)
【0034】
得られた布バネ材用基布からウエール列方向に50cm、コース列方向に57cmの50cm×57cmの長方形を切り出し、切断端部から4mmの距離で全周を、#8ポリエステル糸のミシン糸により縫目ピッチ3mmで本縫いして切断端部からのほつれを防止した布バネ材を得て、張設座席を試作した。又、布バネ材用基布から伸長追随性、縫目強度、ほつれ防止性を評価するサンプルを、縫目ピッチ3mmで試作し、評価を行った。得られた結果を布バネ材の諸特性と共に表1に示す。
得られた布バネ材は、縫製部分の伸長追随性、縫目強度、ほつれ防止性が高く、縫製時の地糸切れもないものであった。又、張設座席でのほつれもなく回復性も優れていた。
【0035】
[実施例2]
実施例1において、地組織を形成する筬(L1、L2)に供給する繊維を280デシテックス/48フィラメントのポリエチレンテレフタレート繊維の原糸に変更し、機上コースを18.0コース/2.54cmとした以外は、実施例1と同様にして布バネ材用基布を得た。得られた布バネ材用基布から、実施例1と同様に50cm×57cmのほつれを防止した布バネ材を得て、張設座席を試作した。又、布バネ材用基布から伸長追随性、縫目強度、ほつれ防止性を評価するサンプルを、縫目ピッチ3mmで試作し、評価を行った。得られた結果を布バネ材の諸特性と共に表1に併せて示す。
得られた布バネ材は、縫製部分の伸長追随性、縫目強度、ほつれ防止性が高く、縫製時の地糸切れもないものであった。又、張設座席でのほつれもなく回復性も優れていた。
【0036】
[実施例3〜5および比較例1、2]
実施例1において、50cm×57cmの長方形の周囲を本縫いする際の縫目ピッチ、及び、伸長追随性、縫目強度、ほつれ防止性を評価するサンプルを縫製する縫目ピッチを1.5mm、2mm、4mm、5mm、6mmとした以外は、実施例1と同様にして得た布バネ材の評価を行った。得られた結果を布バネ材の諸特性と共に表1に併せて示す。
縫目ピッチが1.5mmでC/Bが0.9のものは縫製部分の伸長追随性が悪く、若干の地糸切れ(単糸切れ)が見られた。又、縫目ピッチが6mmのものは、縫目5個当たりの編目貫通数が0.8個と低く、ほつれ防止性が悪いと共に、縫目強度が低く、伸長追随性もかなり劣るものであった。
【0037】
[実施例6〜8および比較例3、4]
実施例2において、50cm×57cmの長方形を周囲を本縫いする際の縫目ピッチ、及び、伸長追随性、縫目強度、ほつれ防止性を評価するサンプルを縫製する縫目ピッチを1.5mm、2mm、4mm、5mm、6mmとした以外は、実施例2と同様にして得た布バネ材の評価を行った。得られた結果を布バネ材の諸特性と共に表1に併せて示す。
縫目ピッチが5mm及び6mmのものは、縫目5個当たりの編目貫通数が0.7、0.3個と低く、ほつれ防止性が悪いと共に、縫目強度が低く、伸長追随性も劣るものであった。
【0038】
[比較例5]
4枚筬を装備した24ゲージのラッセル編機を用い、地組織を形成する筬(L1、L2)から167デシテックス/48フィラメントのポリエチレンテレフタレート繊維の原糸をオールインの配列で供給し、挿入糸用の筬(L3)から390デシテックスのポリトリメチレンテレフタレート繊維のモノフィラメントをオールインの配列で供給した。
【0039】
以下に示す編組織で、機上コース24.0コース/2.54cmの密度で布バネ材用生機を編成した。得られた生機は有り幅で170℃×3分で乾熱ヒートセットして布バネ材用基布を得た。
(編組織)
L1:20/02/(オールイン)
L2:20/1012/(オールイン)
L3:44/00/(オールイン)
【0040】
得られた布バネ材用基布からウエール列方向に50cm、コース列方向に57cmの50cm×57cmの長方形を切り出し、切断端部から4mmの距離で全周を、#8ポリエステル糸のミシン糸により縫目ピッチ5mmで本縫いして切断端部からのほつれを防止した布バネ材を得た。又、布バネ材用基布から伸長追随性、縫目強度、ほつれ防止性を評価するサンプルを、縫目ピッチ5mmで試作し、評価を行った。得られた結果を布バネ材の諸特性と共に表1に併せて示す。
得られた布バネ材はほつれ防止性が悪いと共に、縫目強度が低く、伸長追随性もかなり劣るものであった。
【0041】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の布バネ材は、経編地からなる布バネ材の切断端部からのほつれの広がりを簡単な縫製方法で防止でき、かつ縫製によって伸び特性や縫目強度等の物性が阻害されることのない布バネ材である。従って、自動車、鉄道車両、航空機、チャイルドシート、ベビーカー、車椅子、家具、事務用等の座席シート用クッション材に使用する安全性に優れた部材として好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地組織のコース数とウエール数の積が100〜600である経編地の切断部周辺の少なくとも一部に縫い糸が縫い込まれている布バネ材であって、地組織の編目の大きさAが0.7〜1.8mmであり、コース列方向の編目ピッチB(mm)と略コース列方向の縫目ピッチC(mm)との比(C/B)が1.0〜4.0であり、かつ、略コース列方向に縫い込まれている縫い糸の縫目数5個当たり少なくとも1箇所で、縫い糸が編目を貫通していることを特徴とする布バネ材。
【請求項2】
地組織が少なくとも2枚筬以上のニットループ組織からなり、少なくとも1枚の筬が、鎖編み又は1針振りトリコット編であることを特徴とする請求項1に記載の布バネ材。

【公開番号】特開2012−62587(P2012−62587A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−205831(P2010−205831)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】