説明

ほとんど撚られていない糸から形成される布

所定の値、好ましくは1.5未満の撚係数を示すステープルファイバ糸を備えた布(20)が示される。糸(10)は、所定の数又は撚数/インチで撚り合わせられたステープルファイバから形成される。布の糸の撚数/インチは番手に関連し、これら2つのバランスを適切にとることで、好ましくは1.5未満の撚係数となる。番手は繊維の直径に間接的に関連する。本発明を具現する布は、従来の布よりも柔らかく、高級感があり、厚みがあり、吸収性が高い。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ほとんど撚られていないステープルファイバを有する糸で製造される布に関する。このような構造の布は、従来の撚り糸で作られる布と比較して、より滑らかな形状を有し、極めて柔らかい布となる。
【背景技術】
【0002】
編組又は製織作業によって製造される布の特徴は、製造プロセスで用いられる糸に依存している。布を形成するために用いられる糸の特性は、布の物理的特徴(例えば、質感(texture)、柔軟性、量感(body)、及び吸収性)に影響を与える。布を作るのに用いられる最も一般的な糸は、強く撚り合わせたステープルファイバから形成される。しかしながら、ステープルファイバを強く撚り合わせることは、布の望ましい特徴に悪影響を与えることとなる。
【0003】
衣料、寝具、及び入浴製品に用いられる布には常に、高度の質感、柔軟性、量感、及び吸収性が望まれる。本発明より前には、非常に細い繊維を用いて糸を形成し、その糸からきめ細かい布を作り出していた。きめ細かい布の品質は、布1平方インチ(0.0006452m)当たりの糸の数(スレッドカウント)で示され、スレッドカウントが多いほど布のきめが細かいことを示す。糸が細いほど、1平方インチ当たりの糸の数が多い。細い繊維から形成される糸はより高価であり、布に仕上げるためにより複雑な機械を必要とする。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
当該技術分野で必要とされているのは、布に所望の特徴を与えるように、ほとんど撚られていない糸で製造される布である。本発明は、以下の説明に記載されているように、この要求及び他の要求を満たす。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、編物が、ステープルファイバから形成される第1の糸を備えている。第1の糸は、2本の糸から形成されるループをつなぐことによって、第2の糸と交絡する。少なくとも第1の糸の繊維は、撚係数(twist multiplier)が1.5未満となるように平行に配列される。撚係数は、糸を形成する繊維の撚数/インチ及び繊維の直径に関連している。
【0006】
本発明のさらに別の態様によれば、織物が、ステープルファイバから形成される第1の糸を備えている。第1の糸は、第2の糸と垂直に交絡してマトリックスを形成し、第1の糸は緯糸及び経糸のいずれであってもよい。少なくとも第1の糸の繊維は、撚係数が1.5未満となるように平行に配列される。
【0007】
これら及び他の態様、特徴、ステップ、及び利点は、いくつかの例示的な実施形態の添付図面及び説明からさらに理解することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
概括的に、糸が、ほとんど撚られていない、すなわち所定の値、好ましくは1.5未満の撚係数を示すステープルファイバからなる布構造が提供される。この布は、ほとんど撚られておらず、ほぼ平行に互いに組み合わせられる従来のステープルファイバである糸繊維を有している。繊維をほぼ平行な配列に維持することにより、質感、柔軟性、量感、及び吸収性の好ましい特徴を布に与えることが可能である。したがって、糸繊維の自然の特性を活用すると、非常に柔らかく滑らかであり、且つ吸収性のある高光沢の布が得られる。
【0009】
糸は、一般に製織又は編組といったプロセスによって布にされるが、これらのプロセスでは、糸が製造プロセスに伴う応力及び歪みに耐えるのに十分な強度を有することが必要である。従来、ステープルファイバ製の糸は、繊維が互いに絡んで糸に強度を与えるのを助けるように強い撚りを必要としていた。繊維を撚らずに形成された糸は、布を作るのに有用な強度を有さない。従来の布は、最低レベルの撚り、例えば約3以上の撚係数を有する糸を備えていた。
【0010】
紡織繊維は、線形構造を特徴としている。繊維が撚られると、光沢、柔軟性、吸収性等のようなより望ましい特性のいくつかとともに、その表面の均一性が失われる。これらの好ましい特性を保つことができるようにするには、繊維はほぼ無撚りでなければならない。このような無撚りの繊維束は、布作製のプロセスに耐えるのに十分な強度を有さない。
【0011】
本発明を具現する布は、細い繊維を有する従来の布を改良して、布に所望の特性を与えたものである。本発明を具現する布は、ほとんど撚られておらず互いにほぼ平行な糸によって、質感、柔軟性、量感、及び吸収性の望ましい特性を大いに与える。繊維はほぼ平行な配列になっているため、その自然の特性を最大限に活用して、非常に柔らかく滑らかであり且つ吸収性のある高光沢の布を得ることができる。
【0012】
1.5未満の撚係数を有するステープルファイバが、本発明を具現する布を構成していする。撚係数は、以下の式、
撚係数=[撚数/インチ]/[番手(英式)]1/2 [式1]
により定義される。
【0013】
撚数/インチは、糸の繊維に与えられる実際の撚り量である。通常、糸が製造される場合、その番手に応じて繊維に所定量の撚りが与えられる。番手(英式)は、一般に番手(Ne)として表され、重さ1ポンド(453.6g)で840ヤード(768.1m)の糸を基準とする番号である。番手は、糸の直径を表している。したがって、異なる番手の糸間の撚りレベルを比較するには、実際の撚数/インチ(TPI)よりもむしろ撚係数(TM)が考慮される。
【0014】
番手を測定する基準はいくつかある(例えば、英式番手(Ne)、仏式、メートル、ウーステッド、デニール等)。番手の測定方式を変えることは可能であるが、式1を用いて撚係数を計算するには、番手は英式(Ne)とされる。英式番手は糸の直径に間接的に関連し、Neの値が大きいほど糸の直径は小さい。
【0015】
例として、Neで40番手の糸では、1ポンドで40×840=33600ヤード(30720m)の糸となる。同様に、60Ne番手の糸は、1ポンドで60×840=50400ヤード(46090m)を有することになる。この例は、同じ材料の場合、60Neの糸の方が40Neの糸よりも単位長さ当たりの重量が軽いことを示し、これは、60Neの糸の直径が40Neの糸の直径よりも小さいことを意味する。
【0016】
主なタイプの布(織物、編物等)は全て、撚係数1.5以下の糸を有するように作ることができる。このような布は、染色、漂白、プリント及び仕上げを含むがこれらに限定されない、任意の従来の方法によってさらに処理することができる。本発明を具現する布は、より滑らかな形状を呈することができ、3よりも大きい通常の撚係数を有する従来の糸で作られる布と比較して極めて柔らかい布となる。
【0017】
図1は、繊維のストランドから形成される糸10を示す。繊維は、例えば矢印Aの方向に撚り合わせられて、所定数の撚数/インチ(TPI)を有する糸を形成している。一例として、40Ne番手の場合、1.5の撚係数から約9.5TPIの撚りが得られることになる。糸の構造及びその撚り繊維は、図1に拡大して示されており、個々の繊維が見えている。
【0018】
糸10は綿糸とすることができる。本明細書で用いられる用語「糸」は、その従来の意味を有し、単繊維又は代替的に一続きのストランドに形成され紡織繊維のような特徴を有する繊維の直線状の集まりを指している。糸は、ステープルファイバと呼ばれる多くの不連続で比較的短い繊維から成る。繊維の滑りを克服し、且つ機能糸を画定するために、通常はステープルファイバを強く撚るか又は絡ませる。
【0019】
糸作製のプロセスは、繊維のストックを、組成、色、番手、及び撚数が指定されている糸にすることから成っている。種々の繊維に用いられる機械の違いに関係なく、以下の説明は、糸を作製するプロセスの基本となる従来の作業を示す。
【0020】
必要であれば、繊維を準備するために従来の開繊機及び洗浄機で開繊、洗浄、及び混合が行われる。準備の後、繊維は続いてカード機においてスライバー(sliver:篠)に形成される。スライバーを形成するためには、繊維が並列の向きで再び集まることができるように、入力供給される繊維は細かく分離される(カード上でほぼ単繊維形態まで)。繊維は、細かいウェブとしてカード機から出る。このウェブは、互いに集まってファンネルを通り、ファンネルからロープ状の形態でスライバーとして出る。この段階で、スライバーは、特定の糸に必要な所望の厚さをもたらすために後続のプロセスで細く伸ばされ(reduce)なければならない。
【0021】
スライバーは、スライバーを細くするドラフトプロセスによって細く伸ばされる。カードスライバーは、その断面に何千本もの繊維を有するが、ほとんどの単糸は、断面に約100本以下の繊維しか有さないことが望ましい。したがって、スライバーは、細くする、すなわちより細く練条しなければならず、これは、スライバーをドラフトローラに通すことによって行われる。最も単純な構成は、スライバーを通す2つのローラ対から成る。ドラフティングにより、スライバーが細くなり、スライバーをより小さな断面に練条する結果として繊維が平行になる。
【0022】
粗糸及び糸の繊維滑りを防止するために、製造中、糸に所定の方向(時計方向又は反時計方向)に撚りがかけられる。繊維のストランドは、例えば所定の線密度まで細く伸ばされると、ある種の布地に加工することができるのに十分な強度を与えなければならない。これは従来、糸を撚ることによって達成されていた。
【0023】
特定の繊維のTPIは、番手、繊維の特性(特に長さ及び直径)、及び糸の使用目的によって決定される。糸には時計方向又は反時計方向の撚りをかけることができる。製造された糸は通常、何らかの形態のパッケージに巻き付けられることで、整然とした便利な方法で収納及び搬送することが可能になる。このようなパッケージングは、糸の構造にいかなる影響も与えない。
【0024】
糸10の繊維は、従来の糸が示す撚りよりも実質的に少ない撚りを示す。繊維は、より平行に配列され、緩い渦巻状にされる、すなわちあまりきつく巻き付けられない。
【0025】
編物又は織物は、糸10と同様の糸構造を有するように作ることができる。編組は、針を用いて形成されたループを交絡させることによって糸を布にする方法である。編組技術には、緯編み及び経編みという2つの基本形態がある。緯編み布は、幅方向に編み目(work)が進む平坦又は管状の形態で製造することができる。経編み布では、編み目は長さ方向に進む。
【0026】
製織は、経糸及び緯糸と呼ばれる2組の糸を交絡させる工法である。経糸及び緯糸は互いに垂直である。縦方向の糸を「経糸」と呼び、布の耳から他方の耳へ延びる横方向の糸を「緯糸」と呼ぶ。
【0027】
図2の編物又は織物20は、この時点で、裁断及び縫製に備えるための処理及び仕上げの準備ができている。種々の処理プロセスとしては、シルケット加工、漂白、染色、プリント、仕上げ等が挙げられる。染色は、色を与える分子を繊維に化学結合させる工法である。染色プロセスでは、加工された(engineered)布に染料を含浸させる。プリントプロセスでは、パターン又はデザインが一般的にペースト形態又は他の何らかの形態の染料を用いることによって1つ又は複数の色で布にプリントされる。染色した布にカラーデザインをプリントすることで、完成した布地は美しさ及び魅力がさらに増すようにさらに引き立てられる。
【0028】
仕上げプロセスは、布の製造の最終ステップであり、通常は種々の布用途に必要な美的特性及び物理的特性を与える。化学的プロセスと機械的プロセスとの組み合わせによって得られるこれらの特性としては、収縮抑制、防汚性、撥水性、及び柔軟性が挙げられる。染色又はプリントされた布は、仕上げプロセスに移され、ここで種々のプロセスを受ける。一部の仕上げは湿式で、一部は乾式で施され、一部は低温処理であり、一部は加熱処理である。多くの場合、複数の方法の組み合わせを用いて仕上げプロセスが完成される。
【0029】
図2は、糸10をより明確に示すように組織を拡大した布20を示す。糸の繊維は、より平行に配列されており、1.5未満の撚係数を有している。
【0030】
糸10から成る布20は、従来の方法で処理される。加工及び仕上げとして知られるこれらのプロセスにより、布の裁断及び縫製の準備が整えられる。加工により、編組又は製織加工された布を漂白する。加工された布に染料を含浸させ、表面にプリントして布の視覚的魅力を高める。仕上げは布製造の最終ステップであり、化学的プロセスと機械的プロセスとの組み合わせによって布に美的特性及び物理的特性を与える。これらの特性としては、収縮抑制、防汚性、撥水性、及び柔軟性が挙げられる。
【0031】
このように、本発明の基本的な新規特徴を図示、説明、及び指摘したが、本発明の精神及び範囲から逸脱せずに、説明した装置の形態及び細部、並びにそれらの動作に種々の省略、置換、及び変更を当業者が加えることができることが、理解されるであろう。記載されている実施形態の要素から別の実施形態の要素に置き換えることも、十分に意図及び考慮されている。図面は必ずしも一定の縮尺で描かれておらず、事実上概念的でしかないことも理解されたい。本発明は、添付の特許請求の範囲及びそこに列挙されているものの均等物に関してのみ定義される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明を具現する糸の斜視図である。
【図2】図1に示す糸から成る組織を拡大した、織物の斜視図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステープルファイバからなる第1の糸を少なくとも備え、
前記第1の糸と第2の糸が交絡してマトリックスを形成し、
前記マトリックスは、前記第1の糸及び前記第2の糸から形成され且つ互いにつながれる複数のループを有し、
少なくとも前記第1の糸は約1.5未満の撚係数を有する糸であることを特徴とする編物。
【請求項2】
経編み布及び緯編み布のいずれかである、請求項1に記載の編物。
【請求項3】
シルケット加工プロセス、染色プロセス、漂白プロセス、及びプリントプロセスの少なくとも1つが施された加工布である、請求項1に記載の編物。
【請求項4】
前記加工布は、前記布に物理的特性を与える仕上げ効果を含む、請求項3に記載の編物。
【請求項5】
少なくとも前記第1の糸は、綿及び任意の他のステープルファイバの1つを含む、請求項1に記載の編物。
【請求項6】
ステープルファイバからなる第1の糸を少なくとも備え、
前記第1の糸と第2の糸が交絡して、互いにほぼ垂直な経糸及び緯糸からなるマトリックスを形成し、
少なくとも前記第1の糸は約1.5未満の撚係数を有する糸であり、
前記第1の糸は、前記経糸及び前記緯糸のいずれかであることを特徴とする織物。
【請求項7】
シルケット加工プロセス、染色プロセス、漂白プロセス、及びプリントプロセスの少なくとも1つが施された加工布である、請求項6に記載の織物。
【請求項8】
前記加工布は、前記布に物理的特性を与える仕上げ効果を含む、請求項7に記載の織物。
【請求項9】
少なくとも前記第1の糸は、綿及び任意の他のステープルファイバの1つを含む、請求項6に記載の織物。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−517144(P2007−517144A)
【公表日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−546484(P2006−546484)
【出願日】平成16年12月29日(2004.12.29)
【国際出願番号】PCT/IN2004/000429
【国際公開番号】WO2005/064056
【国際公開日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【出願人】(506225880)
【氏名又は名称原語表記】KANNAPPAN,Govindaswamy
【住所又は居所原語表記】186, Race Course, Coimbatore 641018, Tamil Nadu, India
【Fターム(参考)】