説明

めっき装置および液中ローラー

【課題】低張力でフィルムを搬送させても、特別な外部動力を用いずに、フィルムが液中ローラーの外周面上でスリップして表面に擦り傷が発生すること防止しながらフィルム表面に連続的にめっき処理することができるめっき装置を提供する。
【解決手段】少なくとも1つのめっき槽と、少なくとも1つの水洗槽とを有し、該めっき槽及び該水洗槽内にフィルムの搬送方向を変える液中ローラーを設け、フィルムの表面にめっき処理するめっき装置であって、少なくともめっき槽の一つに設けられた液中ローラー1の表面22に該液中ローラーとフィルムとの間に発生する液膜を該間から外部に排出可能な溝21a、21bを設けたことを特徴とするめっき装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム表面に連続的にめっき処理するめっき装置に関するものであり、より詳細にはフィルムの搬送方向を変えるために設けられた液中ローラーを改良し、スリップを防止するめっき装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、細線状の導電性金属部を持つ光透過性導電性材料には、代表的なものとして光透過性電磁波遮蔽材料などが挙げられる。光透過性を有する電磁波遮蔽材料の製造方法として、例えば、特許文献1には、フィルムなどの支持体上に銀塩含有層が設けられた感光材料を用いて、これに露光・現像処理して金属銀部を形成し、当該金属銀部上にめっきして導電性金属部を形成する方法が開示されている。特許文献1に記載されている方法は、高い電磁波遮蔽性と高い透明性とを同時に有する光透過性電磁波遮蔽材料を製造可能なものである。
【0003】
ところで、上記のようなフィルムにめっきする場合、めっき槽と水洗槽とが多数設けられた連続めっき装置にてめっき処理することが広く行われている。当該めっき槽と水洗槽には、液中でフィルムの搬送方向を変えるための液中ローラーが設けられている。この液中ローラーは非駆動方式のフリーローラーであって、軸受を介して液槽に取付けられ、搬送される樹脂フィルムとの間の摩擦により回転させられるものである。
【0004】
しかし、フィルム上に連続的にめっきを施してフィルム状導電材料を製造する際は、製品仕様の最重要事項である寸法安定性(めっき前後の樹脂フィルムの伸縮度)を満足させる必要があり、そのために低張力で樹脂フィルムを搬送させる必要がある。一方、寸法安定性を確保するために樹脂フィルムの張力を低下させると、フリーローラーによる液中ローラーとフィルムとの接触面に所々液膜が発生し、摩擦力が低下するために該液中ローラーへ伝達される回転力が低下してしまうことがあり、その結果液中ローラーの回転速度が樹脂フィルムの搬送速度と同期しなくなり該フィルムが液中ローラーの外周面上でスリップし、樹脂フィルム表面に擦り傷が発生するという問題があった。
【0005】
これに対して、例えば、特許文献2には、液中ローラーに駆動手段の動力により回転する従動手段を固着し、さらに駆動手段の動力を従動手段に伝えるための動力伝達手段を介在せしめて、駆動ローラーにより液中ローラーをフィルムの搬送速度と同一の速度で回転させるよう構成した竪型めっき装置が記載されている。しかし、この装置では外部からのエネルギーを必要とするものであった。このような外部エネルギーの供給の必要のないスリップ防止手段が求められていた。
【特許文献1】特開2004−221564公報
【特許文献2】特開2000−64089号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、低張力でフィルムを搬送させても、特別な外部動力を用いずに、フィルムが液中ローラーの外周面上でスリップしてフィルム表面に擦り傷が発生すること防止しながらフィルム表面に連続的にめっきを実施することができる、液中ローラーおよびめっき装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、
(1)少なくとも1つのめっき槽と、少なくとも1つの水洗槽とを有し、該めっき槽内及び該水洗槽内にはそれぞれフィルムの搬送方向を変える液中ローラーを設け、フィルムの表面に連続的にめっき処理するめっき装置であって、少なくともめっき槽の一つに設けられた液中ローラーの表面に該液中ローラーとフィルムとの間に発生する液膜を該間から外部に排出可能な溝を設けたことを特徴とするめっき装置、
(2)前記溝が液中ローラー表面に、ねじ溝形状、リング溝形状、または横溝形状で設けられたことを特徴とする(1)項に記載のめっき装置、および
(3)表面に溝が設けられたことを特徴とするフィルム搬送用液中ローラー
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、フィルムのめっき処理において、ローラー表面とフィルム間に発生する液膜を排除してスリップを起こさせず、それに基づくスリキズを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明を図面を参照して説明する。図1は本発明のめっき装置の一実施態様の概略正面図である。図1において1a、1b、1c、1dは液中ローラー、2は搬送されるフィルム、3および5は水洗槽、4および6はめっき槽、7および9は水洗液、8および10はめっき浴液、11a、11b、11c、11d、11e、11f、11gは液外フリーローラー、12および13は電極である。図1の装置は、水洗槽3、5とめっき槽4、6が交互に2組配置されているが、本発明においては、水洗槽とめっき槽の数は、少なくとも1つのめっき槽と、少なくとも1つの水洗槽を有すればよく、例えば水洗槽とめっき槽をそれぞれ10槽以上有するものであっても良い。
【0010】
本実施態様において、被めっきフィルム2は、矢印で示す方向に搬送され、めっき槽4及び6でめっきが施される。フィルム2は水洗槽3、5とめっき槽4、6の液内においてその搬送方向を液中ローラー1a、1b、1c、1dにより変えられる。このうち、めっき槽4、6に設けられた液中ローラー1b、1dは表面に溝が設けられている。
【0011】
図2は、表面に溝21を設けた液中ローラー1の1例を示す拡大断面図である。図中には溝21として2つの溝21a、21bを示している。液中で液中ローラー1にフィルム2が巻きつく際に、液中ローラー1の表面とフィルム2との間に発生する液膜を、フィルム2の搬送テンションを利用し、溝21内および外部に排出し、上記液膜を排除する。溝21の断面の形状は、断面が直線的な凹状の形状のものでも良いが、図2に示すように液がスムーズに溝21に流れ込むように、断面がなだらか曲線形状を有するものが好ましい。溝21の中心部のローラー1の表面22からの深さは、好ましくは0.10〜0.5mm、さらに好ましくは0.15〜0.25mmである。また、溝21の中心部の曲線の半径Rは、好ましくは1〜3mm、さらに好ましくは1.0〜1.5mmである。溝の外延部(前記中心部を除いた溝21の領域)の曲線の半径Rは、好ましくは0.2〜1mm、さらに好ましくは0.25〜0.40mmである。また、溝21aの中心と隣の溝21bの中心との間の距離(ピッチ間隔)は、好ましくは2.0〜10mm、さらに好ましくは2.5〜4.0mmである。溝21の幅は0.8〜1.5mmが好ましい。
【0012】
本発明においては、少なくとも一つのめっき槽に上記の溝21が設けられた液中ローラー1を用いるものであり、全てのめっき槽に設けられた液中ローラーが上記の溝を有するものであることが好ましい。本実施態様のようなめっき処理においては、通常、搬送速度が1〜2m/min程度であり、この速度においては従来のローラーではめっき槽ではスリップが発生していたが、通常、水洗槽ではスリップは発生しないものであった。よって、通常用いられる1〜2m/min搬送速度であれば、めっき槽のローラーを上記の溝付のローラーとすれば、水洗槽のローラーは従来のローラーであっても、スリップは防ぐことができる。この詳細な理由はまだ定かではないが、めっき浴液の比重は1〜8であることから、同じ速度では比重の大きい液体がスリップの原因となり、めっき浴液でローラー−フィルム間の液膜を排除することで、スリップを防止することができるためと考えられる。また、2m/minを超える搬送以上では、スリップが起こりやすくなるため、水洗槽の液中ローラーも溝付のローラーとすることが好ましい。
【0013】
本発明の別の実施態様は、表面に溝が設けられたフィルム搬送用液中ローラーである。典型的には上記のめっき装置で用いられる溝21を有する液中ローラー1である。液中ローラー1において、溝21が形成する形状は、効率的に液中ローラー1の表面とフィルム2の間に発生する液膜を効率的に溝21内または外部に排除できるものであれば特に限定されないが、例えば、図3〜5に模式的な概略斜視図で示す、ねじ溝(図3)、リング溝(図4)、または横溝(図5)などの形状であると、作成上容易であり、また、溝21にめっき浴液が沈着した場合に成分を除去できるので好ましい。
本発明の液中ローラーの素材は特に限定されるものではなく、従来の液中ローラーで用いられている塩化ビニルなどの樹脂を用いることができる。溝は任意の切削手段により形成することができる。
【0014】
本発明において、めっき処理は、無電解めっき(化学還元めっきや置換めっき)、電解めっき、又は無電解めっきと電解めっきの両方を用いることができる。本発明における無電解めっきは、公知の無電解めっき技術を用いることができ、例えば、プリント配線板などで用いられている無電解めっき技術を用いることができ、電解銅めっきは無電解銅めっきであることが好ましい。電解銅めっき浴液としては、硫酸銅浴やピロリン酸銅浴が挙げられる。無電解銅めっき浴液に含まれる化学種としては、硫酸銅や塩化銅、還元剤としてホルマリンやグリオキシル酸、銅の配位子としてEDTAやトリエタノールアミン等、その他、浴の安定化やめっき皮膜の平滑性を向上させるための添加剤としてポリエチレングリコール、黄血塩、ビピリジン等が挙げられる。また、めっき浴液には、めっき浴液の安定性を高める観点からは、例えば、EDTAなどの配位子など種々の添加剤を用いることもできる。
【0015】
めっき処理を施されたフィルム2は、例えば、めっき浴液10への入浴後に付着しためっき浴液10をエアーナイフにより除去され、図示しない水洗槽に搬入され洗浄後防錆処理等が施され乾燥して巻取られる。
【0016】
本発明においては、フィルム2として、例えば、光透過性支持体上に銀塩(例えばハロゲン化銀)が含有した銀塩含有層を設けた、感光材料からなる長尺幅広フレキシブル基材を好ましい用いることができる。また、銀塩含有層上には保護層が設けられていてもよく、この保護層とは例えばゼラチンや高分子ポリマーといったバインダーからなる層を意味し、擦り傷防止や力学特性を改良する効果を発現するために銀塩含有層上に形成される。これらの銀塩含有層や保護層の組成などは、銀塩写真フィルム、印画紙、印刷製版用フィルム、フォトマスク用エマルジョンマスク等に適用される銀塩含有層や保護層が適宜適用することができる。
【0017】
上記感光材料としては、銀塩写真フィルム(銀塩感光材料)が好ましく、白黒銀塩写真フィルム(白黒銀塩感光材料)が最もよい。また、銀塩含有層に適用する銀塩としては、特にハロゲン化銀が最も好適である。
【0018】
なお、保護層の厚みは0.02〜10μmであることが好ましく、より好ましくは0.05〜5μmであり、さらに好ましくは0.1〜1μmである。
【0019】
また上記光透過性支持体としては、プラスチックフィルムや、これを2層以上を組み合わせた多層フィルムを適用することができ、その原料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、及びポリエチレンナフタレートなどのポリエステル類;ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン、EVA
などのポリオレフィン類;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどのビニル系樹脂;その他、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリサルホン(PSF)、ポリエーテルサルホン(PES)、ポリカーボネート(PC)、ポリアミド、ポリイミド、アクリル樹脂、トリアセチルセルロース(TAC)などを用いることができる。
【0020】
これらの中でも、透明性、耐熱性、取り扱いやすさ及び価格の点から、支持体としてのプラスチックフィルムは、銀塩写真フィルム(銀塩感光材料)に通常適用されるポリエチレンテレフタレートフィルムやセルロールトリアセテートフィルム、また、その他、ポリイミドフィルムやポリエステルフィルムであることが好ましい。特に、ポリエステルフィルムであることが最も好ましい。
【0021】
以上説明しためっき装置では、銀塩含有層が設けられた光透過性感光ウエブを用い、これの銀塩含有層に露光・現像を行って被めっき部として所望の細線状金属銀部を形成させた光透過性感光ウエブに対し、めっき処理を施すと、細線状金属銀部上に導電性粒子が担持され、これが導電性金属部となり、非常に細い細線でパターン化された細線状金属部と大面積の光透過部とを有する磁波遮蔽材料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明のめっき装置の一実施態様の概略正面図である。
【図2】本発明の液中ローラーの一例の拡大断面図である。
【図3】本発明の液中ローラーの一例を模式的に示す概略斜視図である。
【図4】本発明の液中ローラーの一例を模式的に示す概略斜視図である。
【図5】本発明の液中ローラーの一例を模式的に示す概略斜視図である。
【符号の説明】
【0023】
1、1a、1b、1c、1d 液中ローラー
2 フィルム
3、5 水洗槽
4、6 めっき槽
7、9 水洗液
8、10 めっき浴液
11a、11b、11c、11d、11e、11f、11g 液外フリーローラー
12、13 電極
21、21a、21b 溝
22 ローラー表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのめっき槽と、少なくとも1つの水洗槽とを有し、該めっき槽内及び該水洗槽内にはそれぞれフィルムの搬送方向を変える液中ローラーを設け、フィルムの表面に連続的にめっき処理するめっき装置であって、少なくともめっき槽の一つに設けられた液中ローラーの表面に該液中ローラーとフィルムとの間に発生する液膜を該間から外部に排出可能な溝を設けたことを特徴とするめっき装置。
【請求項2】
前記溝が液中ローラー表面に、ねじ溝形状、リング溝形状、または横溝形状で設けられたことを特徴とする請求項1に記載のめっき装置。
【請求項3】
表面に溝が設けられたことを特徴とするフィルム搬送用液中ローラー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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