説明

めっき部材および水栓金具

【課題】 本発明は、水垢など水起因の汚れ付着を防止し、持続性に優れた防汚性を持っためっき皮膜を形成しためっき部材を提供することにある。
【解決手段】 本発明では、めっき被膜表面に親水性微粒子を共析させためっき部材であって、前記めっき部材表面が算術平均粗さ(Ra)0.1〜0.2μm、十点平均粗さ(Rz)、0.5〜1.2μm、凹凸間平均粗さ(Sm)11〜33μmであり、かつ、前記めっき部材表面には、前記親水性微粒子の集合体が分散形成され、この集合体の表面の算術平均粗さ(Ra)が80〜120nm、二乗平均粗さ(Rq)が100〜150nmであることを特徴とするめっき部材とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水垢など水起因の汚れ付着を防止しためっき部材および水栓金具に関する。
【背景技術】
【0002】
めっきは、大面積の膜形成が可能であり、製膜速度も速く、複雑形状にも対応できるなど、工業的に非常に優れた特徴を有しており、また比較的硬質で、金属種によっては優れた耐食性を有し、さらには条件により光沢、半光沢、無光沢など外観を変えることもできるため、耐磨耗性や耐食性付与、装飾を目的に様々な部材に利用されている。
【0003】
しかし、めっき表面は何も手入れしないと次第に汚れて行き、付着した汚れは時間とともに強固に固着した清掃除去困難な汚れとなる。そのため、装飾目的を兼ねためっきでは、美観を保つために定期的な手入れが必要であった。特にキッチン、洗面、浴室などの水まわりでは、水垢などの汚れ付着が主な汚れの原因となっており、初期の外観を保つためには頻繁な清掃が必要であり、労力を要していた。
【0004】
ここで言う汚れとは、水中成分起因のシリカやカルシウム化合物、またタンパク質や皮脂、カビ、微生物、石鹸カス(金属石鹸)である。中でもシリカやカルシウム化合物は洗剤で除去困難な頑固な汚れ成分であり、水道水だけでなく地下水、河川など、ケイ酸やカルシウムイオンを含む水であれば容易に生成、付着する。
ケイ酸やカルシウムイオンを含む水が水滴としてめっき表面に付着すると、乾燥とともにこれら成分が濃縮され、最終的に水垢となる。このサイクルを繰り返すことで水垢は堆積して行き、また時間とともに付着力も強固となる。
【0005】
上記した水垢を含む種々の汚れを防ぐ一つの方法として、水滴を形成させないことが有効である。水滴を形成させない方法としてはめっき表面を撥水性表面もしくは親水性表面とすることが考えられる。めっき表面を撥水性表面とする方法としては、PTFE(polytetrafluoroethylene)などの撥水性粒子をめっき皮膜中に分散させる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
一方、めっき表面を親水性表面とする方法としては、TiO2などの光触媒親水性粒子をめっき皮膜中に分散させる方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
しかし、従来の以上述べた防汚性めっきには次のような問題がある。
PTFEなどの撥水性粒子を分散させた撥水めっき表面では、微小な汚れでも容易に撥水性能が低下する。特に浴室や洗髪可能な洗面などでは、撥水性粒子がマイナス電荷を有するため、プラス電荷を持つリンスが付着しやすく、早急に撥水性能が低下する。また、撥水めっき表面は、初期表面でも得られる水接触角は130°程度が限界であるため、傾斜の小さい面や平坦部においては水滴残留が避けられない。さらには撥水性粒子を分散させためっきを行った後は、後工程として熱処理が必要となるため、めっき部材の製造コストが高くなる。
一方、TiOなどの光触媒作用のある親水性粒子を分散させた親水めっき表面は、屋内では光触媒性能を発揮させるための紫外線が乏しいため、汚れの分解力や親水性能の持続性に欠け、防汚性を維持するとういう点で改善の余地があった。
【0007】
【特許文献1】特開2002−317298号公報
【特許文献2】特開平11−158694号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、本発明の目的は、水垢など水起因の汚れ付着を防止し、持続性に優れた防汚性を持っためっき皮膜を形成しためっき部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題に基づいてなされたものであり、本発明は、めっき被膜に親水性微粒子が分散され、この親水性微粒子の一部がめっき被膜表面から突出しためっき部材であって、前記親水性微粒子が、集合体を形成し、この親水性微粒子の集合体がめっき被膜表面に分散配置されていることを特徴とするめっき部材とした。
【0010】
本発明によれば、親水性微粒子の集合体の表面は、親水性微粒の親水性付与とともに各微粒子の間で形成される微細な凹凸が存在し、その微細な凹凸が保水性を有することから、近接する集合体の間で付着した水滴を引き伸ばすように寄与し、水滴の接触面積が大きくなるように働き、更に、集合体間に存在する微粒子が形成する微細な凹凸が、前記集合体間に付着した水滴を引き伸ばす作用を促進し、効果的な親水性が付与され、水分の濃縮作用による水垢の付着を防止でき、かつ、親水領域と親水性微粒子の存在しないめっき被膜表面が有する撥水性の撥水領域が形成されることにより、水垢を容易に除去できるものと推測される。
【0011】
また、前記親水性微粒子の集合体の間に親水性微粒子が点在することで、水滴を隣接する集合体への橋渡し的な役割を担うことができ、親水性微粒子集合体間による水滴の引き伸ばしを効果的に行えるものとなる。
【0012】
また、本発明は、めっき被膜表面に親水性微粒子を分散させためっき部材であって、前記めっき部材表面が算術平均粗さ(Ra)0.1〜0.2μm、十点平均粗さ(Rz)、0.5〜1.2μm、凹凸間平均粗さ(Sm)を11〜33μmであり、かつ、前記めっき部材表面には、前記親水性微粒子の集合体が分散形成され、この集合体の表面の算術平均粗さ(Ra)が80〜120nm、二乗平均粗さ(Rq)が100〜150nmであり、加えて、前記めっき部材表面には、前記親水性微粒子の集合体間に親水性微粒子が分散形成され、この親水性微粒子が形成する部材表面の算術平均粗さ(Ra)が70〜130nm、二乗平均粗さ(Rq)が90〜160nmであることを特徴とするめっき部材とした。
【0013】
本発明によれば、めっき被膜表面を算術平均粗さ(Ra)を0.1〜0.2μm、十点平均粗さ(Rz)を、0.5〜1.2μm、凹凸間平均粗さ(Sm)を11〜33μm範囲にし、さらに、親水性微粒子の集合体表面の算術平均粗さ(Ra)を80〜120nm、二乗平均粗さ(Rq)100〜150nmに設定することで、めっき部材表面は、全体視野における比較的大きな凹凸と、微粒子の集合体で構成される特定領域の小さな視野における凹凸とが存在する、いわゆるフラクタル構造が形成される。このフラクタル構造は、保水性を良好にすることから、良好な親水性を発揮することができるようになる。
【0014】
本発明の好ましい形態として、前記親水性微粒子の集合体は、0.02〜10μmの粒度分布を持つ微粒子であり、かつ、前記集合体の径は、4〜35μmであり、各集合体間の隣接距離が10〜90μmとすることで、集合体はナノオーダーの凹凸を有し、微視的に保水性を保つ一方、集合体間に分布している前記微粒子と共に近接する集合体の間で付着した水滴を引き伸ばすように寄与し、水滴の接触面積が大きくなるように働き、効果的な親水性が付与され、水分の凝縮による水垢の付着を防止でき、かつ、親水領域と親水性微粒子の存在しないめっき被膜表面が有する撥水性の撥水領域が形成されることにより、水垢を容易に除去できるものと推測される。
【0015】
本発明の好ましい形態として、本発明に係わるめっき被膜を水栓金具用いることにより、水垢付着性を防止でき。清掃の負荷を軽減できる。水栓金具は、平坦面を有するものもあり、水滴が残りやすい状況を作りやすいが、前記めっき被膜を水栓金具に形成することで、そのような水滴が残りやすい形状においても効果的に水垢の付着を防止できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、水垢など水起因の汚れ付着を防止し、優れた防汚性を持っためっき部材を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明では、めっき被膜中に親水性微粒子を分散させる複合めっきを利用するが、複合めっき被膜の金属マトリックスとなる金属は、めっきが可能な金属であれば特に限定されず、例えば、クロム、ニッケル、銅、亜鉛、鉄や、またそれらの合金などが挙げられる。水栓金具など装飾性を要求されるようなものでは、少なくとも最表面のマトリクスとして、硬度が高く光沢性の良いクロムが頻繁に用いられる。
【0018】
金属マトリックスとなる金属は、めっき液中に溶解し、イオン化して存在可能な塩として提供され、めっき液に添加される。そのような塩としては、無水クロム酸、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、スルファミン酸ニッケル、硫酸銅、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、塩化鉄(II)、硫酸鉄(II)、ほうふっ化鉄(II)、スルファミン酸鉄(II)などが挙げられる。
【0019】
本発明にあって、複合めっき被膜の金属マトリックスに分散される親水性微粒子としては、イオン結合性が強いほど、水との親和性が強く、親水性を示すと言われており、イオン結合性が30%以上の粒子が好適に利用できる。例えば、TiO2、SiO2、ZrO2、Al2O3、MgOなどの金属酸化物が好適に利用できる。粒子は、平均粒子径0.02〜10μm、更に、望ましくは、小径側と大径側の2段階の粒度分布を持たせることで、後述する親水性微粒子の集合体の表面粗さをより微細な凹凸とすることが可能となり、効果的な親水性を付与することができる。特に、数十nm程度の微小径の無機粒子は二次凝集を起こし易くコロニーを形成しやすいので、その範囲の粒径の微粒子の添加は望ましい。
【0020】
さらに、親水性微粒子は等電点が7以上のものを使用することで、汚れ付着防止性ならびに汚れの清掃除去性を飛躍的に高めることができる。親水性微粒子は水中において表面電荷が変化するが、等電点が7以上の微粒子の場合は水道水や井戸水などのpHが7の中性水中においては、表面電荷がプラスとなる。すなわち、等電点が7以上の微粒子をめっき表面に分散させると、めっき表面の電荷をプラス側に大きくすることができ、同じプラス電荷の水垢成分であるシリカやカルシウム化合物、また、リンスを付着し難くする。これより、表面の濡れ性を低下させるリンス付着を防止できるため、長期間めっき表面の濡れ性を維持でき、長期間汚れの付着を防止できる。
【0021】
また、もしリンスなどがめっき表面に付着した場合においても、表面と付着物がプラス同士であるため、表面への付着力が非常に弱く、簡単な清掃で容易に除去することができる。親水性微粒子の表面電荷を利用し、対象とする汚れに応じてめっき表面の電荷を制御することにより、長期間汚れの付着防止性を維持でき、また優れた汚れ清掃除去性も付与することが可能である。
【0022】
また、フラクタル構造を形成するためには、例えば、被めっき部材の予め、つや消し調の下地めっき層を施しておくと良い。つや消しめっきの表面粗さ(Ra)としては、0.05〜0.3μmが望ましい。
このように下地めっき層を施しておくことで、親水性微粒子は、下地めっき層の大きな凹凸部分の凸部の周囲に凝集するように親水性微粒子の集合体を形成しやすくなる。
【0023】
本願発明の防汚性複合めっきに使用するめっき浴は特に限定されるものでないが、NiもしくはNi合金めっき浴を用いれば容易に防汚性を持っためっき皮膜を形成できる。
前記親水性微粒子をめっき皮膜に取り込むめっき方法においては、親水性微粒子の表面電荷がめっき皮膜への親水性微粒子分散量に大きく影響する。すなわち、めっきは陰極に形成されるが、このとき、親水性微粒子の表面電化がプラスであれば、陰極に親水性微粒子が吸着してめっき皮膜の形成と同時にめっき皮膜中に取り込まれていく。このとき、表面電化がよりプラス側に大きい程、陰極に引き付けられる粒子数は多くなり、結果的にめっき表面に分散させることができる親水性微粒子の量も多くなる。このことにより、親水性微粒子の等電点に応じて、めっき浴のpHを選択すれば、めっき浴中における親水性微粒子の表面電化を変化させることができるため、めっき皮膜への親水性微粒子分散量を制御することが可能となる。
【0024】
Niめっき浴には、無光沢Ni浴、ワット浴、スルファミン酸Ni浴、硫酸Ni浴、塩化Ni浴、無電解Ni浴などがあり、更にこれらを基本浴としたNi合金めっき浴があり多種多様である。これらNiめっき及びNi合金めっきを利用すれば、めっき浴の種類によって、めっき浴のpHを酸性からアルカリ性まで変えることができる。
使用する親水性微粒子の等電点にあわせたNiまたはNi合金めっき浴を選定すれば、親水性微粒子の分散共析量を制御することができ、目標とする親水性微粒子の量を分散させためっき皮膜を容易に形成させることが可能である。
【0025】
上記NiまたはNi合金めっき浴を用いて、防汚性めっきを形成させる場合は、主成分であるNiイオンを0.5〜2.2mol/L含み、かつ親水性微粒子を5〜500g/L混入させためっき浴にすることで、目標とする親水性微粒子の分散量のめっき皮膜を得ることが可能である。
めっき浴への親水性微粒子の添加量は、5g/L未満でも、めっき表面に親水性微粒子が分散しためっき皮膜を形成させることは可能であるが、Niめっきの電析速度を極端に遅くする必要性が生じるため、生産性が著しく低下する。そのため、めっき浴への親水性微粒子の添加量は、5g/L以上とすることが好ましい。また、500g/L以上ではめっき皮膜中に取り込まれる親水性微粒子の量は飽和状態に達するため、それ以上混入させてもめっき皮膜に取り込まれる親水性微粒子の分散量は向上しない。
【0026】
電解Niまたは電解Ni合金めっきの場合においては、電流密度はより低い方が多くの親水性微粒子を取り込むことが可能である。
電流密度が2mA/cm未満であると、Ni電析速度が極端に遅くなり製膜に時間を要するため生産性が著しく低下する。従って電流密度は2mA/cm以上にすることが望ましい。一方、電流密度が60mA/cmを超えると、Niの電析速度は速くなり、短時間で厚膜のめっき皮膜を得ることができるが、親水性微粒子がめっき皮膜に取り込まれる時間的余裕なく、目標とする親水性微粒子分散量のめっき皮膜を得ることが難しくなる。
【0027】
Ni及びNi合金めっきは、通常、添加剤を使用して無光沢、半光沢、光沢など目的に応じて様々な外観とすることができる。但し、添加剤を使用すると、添加剤成分がめっき皮膜中に取り込まれ、耐食性が大きく低下する問題が生じる。
本願発明の親水性微粒子を分散させた防汚性めっき皮膜の外観はつや消し調となるが、親水性微粒子の粒径、分散量、めっき浴の種類により無光沢から半光沢まで外観を制御することが可能である。すなわち、防汚性めっきの外観は、添加する親水性微粒子の粒子径をより小さくするほど、または親水性微粒子分散量を少なくするほど半光沢に近づき、添加する親水性微粒子の粒子径を大きくするほど、または親水性微粒子分散量を多くするほど無光沢化する。従って、梨地形成剤といった添加剤の必要性がなく、耐食性を更に高める場合は使用を止めることができる。
【0028】
また、図1に示すようにベース材A上の親水性の無機粒子Cを表面に分散させた第一めっき皮膜B1の上に、更に無機粒子の表面露出を妨げない厚みで撥水性の高い第二めっき皮膜B2を施すと、更に防汚性を向上させることができる。
すなわち、撥水性の高いめっき皮膜を表面に施せば、めっき表面では微視的に撥水性部分と親水性微粒子の親水性部分から構成されることになる。このような構造では親水性付着物も撥水性付着物もめっき表面の各々撥水性部分と親水性部分に固着できなくなるため、高い防汚性を有するめっき皮膜を形成することができる。このとき、最上面に施すめっき厚みは、分散させた親水性微粒子の平均粒径の1/2以下とすれば、最上面のめっき表面に親水性微粒子を十分に露出させることができる。
最上面に施すめっきとしては、Crめっきが効果的である。Crめっきは耐食性及び皮膜硬度に優れ、機械部品や装飾品などに広く使われるめっきであると共に、撥水傾向を示すため、上記最上面めっきとして有効である。
【0029】
上記複合めっき膜の製造法において用いられるめっき液は、上述の金属マトリックスとなる金属の塩と、親水性微粒子とを少なくとも含む以外は、めっき液として通常の組成とされてよい。
【0030】
上記のように形成しためっき被膜表面に効果的に親水性を付与するためには、めっき被膜表面を算術平均粗さ(Ra)を0.1〜0.2μm、十点平均粗さ(Rz)を、0.5〜1.2μm、凹凸間平均粗さ(Sm)を11〜33μm範囲にし、さらに、親水性微粒子の集合体表面の算術平均粗さ(Ra)を80〜120nm、二乗平均粗さ(Rq)100〜150nmにし、加えて、前記めっき部材表面には、前記親水性微粒子の集合体間に親水性微粒子が分散形成され、この親水性微粒子が形成する部材表面の算術平均粗さ(Ra)が70〜130nm、二乗平均粗さ(Rq)が90〜160nmとすることが望ましい。このようにしためっき部材表面は、全体視野における比較的大きな凹凸と、親水性微粒子の集合体で構成される特定領域の小さな視野における凹凸とが存在する、いわゆるフラクタル構造が形成され、このフラクタル構造は、保水性を良好にすることから、良好な親水性を発揮することができるようになる。
上記数値の下限値より小さいと保水性が低下し、親水性が低下し、上限値より大きいと凹凸に水が滞留することで、その部分に水垢が付着し、その水垢の除去がし難くなる。
【0031】
また、上記のように形成しためっき被膜表面に効果的に親水性を付与するためには、前記親水性微粒子の集合体は、0.02〜12μmの粒度分布を持つ親水性微粒子で、前記集合体の径は、4〜35μmとし、各集合体間の隣接距離を10〜90μmとし、集合体はナノオーダーの凹凸を有し、微視的に保水性を保つ一方近接する集合体の間で付着した水滴を引き伸ばすように寄与し、水滴の接触角が大きくなるように働き、効果的な親水性が付与され、水垢の付着を防止できるものものと推測される。加えて、前記集合体間に親水性微粒子が分散形成する表面の算術平均粗さ(Ra)を70〜130nm、二乗平均粗さ(Rq)を90〜160nmとすることで、集合体間に分布している前記親水性微粒子と共に近接する集合体の間で付着した水滴を引き伸ばすように寄与し、水滴の接触角が大きくなるように働き、効果的な親水性が付与され、水分の凝縮による水垢の付着を防止でき、かつ、親水領域と親水性微粒子の存在しないめっき被膜表面が有する撥水性の撥水領域が形成されることにより、水垢を容易に除去できるものと推測される。
ここで、集合体の径(D)は、集合体の長軸(D1)と短軸(D2)とを加えて2で割ったもの(D=(D1+D2)/2)とした。
【実施例】
【0032】
めっき液の調整
めっき浴組成を硫酸Ni0.3〜2.2mol/L、塩化Ni0〜0.5mol/L、ホウ酸0.3〜1mol/Lとし、炭酸Niと10%硫酸水溶液でpH4.0または4.5に調製して、浴温度を50℃とした電気Niめっき浴を準備し、それを基本めっき浴とした。前記電気Niめっき浴においては、めっき浴中のNiイオン総和が0.5〜2.2mol/Lとなるように硫酸Niと塩化Niの量を調整した。この基本めっき浴に親水性微粒子として平均粒子径0.02〜10μmのZrO2微粒子を250g/L混入させて実施例1および2のめっき浴とした。
【0033】
複合めっき膜の形成
(1)下地めっき
複合めっきを行うのにあたり、下地めっきとしてつや消し調ニッケルめっきを行った。ニッケルめっき皮膜を形成させる電極材には金属銅版(50×50×0.3mm)を使用し、ワット浴を用いてめっき厚み7μmのつや消し調ニッケルめっき板(陰極)を作製した。なお、ニッケルめっき皮膜を形成する際は、電流密度40mA/cm2、浴温60℃とし、対極にはニッケル板(50mm×501×1mm)を使用して、スターラーで攪拌しながらめっきを行った。なお、下地めっきの表面粗さ(Ra)は、0.15μmであった。
(2)複合めっき(第一めっき皮膜形成)
上記めっき液とつや消し調ニッケル板を使い、電流密度2〜60mA/cm2、浴温は50℃で複合めっき膜を形成させた。得られためっき被膜は、実施例1および実施例2の何れにも、微粒子の集合体が観察された。なお、複合めっきする際の対極としてはNi板を使用し、スターラーによる攪拌を行った。
(3)後処理(第二めっき皮膜形成)
上記複合めっきを行ったのち、第二めっき皮膜として、無水クロム酸を120〜260g/l、硫酸を無水クロム酸に対して1/100g/l含んでなるサージェント浴にてめっきを形成した光沢のクロムめっきを施した。
【0034】
比較例1
実施例1のめっき液を用いて同じ条件で、光沢ニッケルめっき板(50×50×0.3mm)上に複合めっき被膜を形成したものを比較例1とした。得られためっき被膜は、微粒子が一様に分散しており、微粒子の集合体は、観察されなかった。
比較例2
無水クロム酸を120〜260g/l、硫酸を無水クロム酸に対して1/100g/l含んでなるサージェント浴にてめっきを形成した光沢のクロムめっき板(50×50×0.3mm)を比較例2とした。
比較例3
ベロアニッケルめっき板(界面活性剤を使用状態で曇点以上のものを添加し、乳化した懸濁物を共析させ、ビロード状外観を与えたもの)(50×50×0.3mm)上に無水クロム酸を120〜260g/l、硫酸を無水クロム酸に対して1/100g/l含んでなるサージェント浴にてめっきを形成したつや消し調クロムめっき板(50×50×0.3mm)を比較例3とした。
【0035】
めっき膜の評価
表面状態
(1)全体視野の粗さ(大きな凹凸):図3に示す参照符合1のめっき被膜表面の凹凸
得られためっき被膜について、走査型電子顕微鏡(SEM)によって、観察した写真を図1に示す。また、レーザー顕微鏡によりめっき表面の全体視野の粗さの測定を行った。得られた粗さパラメーターに関して、Ra(算術平均粗さ)、Rz(十点平均粗さ)およびSm(凹凸間の平均粗さ)の 比較を行った。
(2)微粒子が構成する粗さ(小さな凹凸) :図3に示す参照符合2の親水性微粒子の集合体の凹凸
得られためっき膜について、原子間力顕微鏡(AFM)によりめっき表面における親水性微粒子が構成する粗さの測定を行い、Ra(算術平均粗さ)およびRq(二乗平均粗さ)について比較を行った。
(3)表面親水性微粒子の分布状態
得られためっき膜について、走査型電子顕微鏡(SEM)によりめっき表面の親水性微粒子の分布状態を観察し、画像解析ソフトを用いて以下の項目について測定を行った。
なお、各測定寸法については、図2、図3によって説明する。図1のSEM写真において、白い点は、めっき被膜表面に共析した微粒子を示し、それ以外の部分は、めっきのマトリクスを構成する金属めっき表面を示すものであり、図2は、図1の一部分を模式的に表現した上面から見た図であり、図3は、図2のA−A線断面に相当する図を模式的に表現した図である。
図2における丸印、図3における三角印は、めっき表面に共析した微粒子を示すものであり、それ以外の部分は、めっきのマトリクスを構成する金属めっき表面を示すものである。また、図3の参照符合3は、集合体間に単独で分散している親水性微粒子を示すものである。
各測定寸法を以下のように定義する。
(a) 親水性微粒子の集合体を形成している隣接する粒子の平均中心間距離
(b) 親水性微粒子の集合体を形成している粒子の平均粒径
(c) 親水性微粒子の集合体としての平均径
(d) 隣接する微粒子の集合体間の平均中心間距離
(e) 親水性微粒子の集合体を形成していない隣接する粒子の平均中心間距離
(f) 親水性微粒子の集合体を形成していない粒子の平均粒径
(4)親水性微粒子の面積比率
得られためっき膜について、走査型電子顕微鏡(SEM)によりめっき表面の親水性微粒子の分布状態を観察し、画像解析ソフトを用いて、試料表面1.2mm×1.2mm四方内における親水性微粒子の面積比率ついて測定した。
【0036】
性能試験
(1)水垢付着防止性
得られためっき膜について水垢汚れ付着防止性を以下の通り評価した。上記の通り得られた試験片を、実使用の浴室の水栓金具の位置に、清掃無しの条件で1ヶ月間設置し、水あか汚れ付着防止具合を評価した結果を表1に示す。評価基準は以下の通りとした。
評価基準
水垢が全く目立たない。:◎
水垢がほとんど目立たない。:○
水垢が若干目立つ。:△
水垢が目立つ。:×
(2)水垢除去性
得られためっき膜について、水垢汚れ付着防止性評価の後に、ウォッシャビリティーテスターを用いて、汚れの清掃除去性を評価した。摺動子として、蒸留水を十分含ませた軟質の食器洗い用スポンジを用い、押し付け荷重を人が清掃する際の力の入れ具合に相当する100g/cm2、摺動回数を20回として評価を行った結果を表1に示す。評価基準は以下の通りとした。
評価基準
清掃除去後、汚れが除去でき、初期表面に回復した。:◎
若干汚れはあるが、ほぼ初期に近い状態まで回復した。:○
水垢は残っているが、明らかに通常のめっきよりも汚れを除去できている。:△
水垢があまり除去できず、通常めっきと大差がない。:×
【0037】
表1の結果から水垢の汚れ付着防止性、清掃性とも微粒子の集合体の存在が効果的に働いていることが判る。
【0038】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本願発明の実施形態であるめっき部材の構造を示す断面模式図。
【図2】図1の上面からの親水性微粒子の状態を模式的に表現した図である。
【図3】図2のD-D線断面を模式的に表現した図である。
【符号の説明】
【0040】
A…ベース材
B1…第一めっき皮膜
B2…第二めっき皮膜
C…親水性微粒子
1…めっき被膜表面の凹凸
2…親水性微粒子の集合体の凹凸
3…集合体間に存在する親水性微粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき被膜に親水性微粒子が分散され、この親水性微粒子の一部がめっき被膜表面から突出しためっき部材であって、前記親水性微粒子が、集合体を形成し、この親水性微粒子の集合体がめっき被膜表面に分散配置されていることを特徴とするめっき部材。
【請求項2】
前記親水性微粒子の集合体間には、親水性微粒子が点在していることを特徴とする請求項1に記載のめっき部材。
【請求項3】
めっき被膜に親水性微粒子が分散され、この親水性微粒子の一部がめっき被膜表面から突出しためっき部材であって、前記めっき部材表面が算術平均粗さ(Ra)0.1〜0.2μm、十点平均粗さ(Rz)0.5〜1.2μm、凹凸間平均粗さ(Sm)11〜33μmであり、かつ、前記めっき部材表面には、前記親水性微粒子の集合体が分散形成され、この集合体の表面の算術平均粗さ(Ra)が80〜120nm、二乗平均粗さ(Rq)が100〜150nmであり、加えて、前記めっき部材表面には、前記親水性微粒子の集合体間に親水性微粒子が分散形成され、この親水性微粒子が形成する部材表面の算術平均粗さ(Ra)が70〜130nm、二乗平均粗さ(Rq)が90〜160nmであることを特徴とするめっき部材。
【請求項4】
前記親水性微粒子の集合体は、0.02〜10μmの粒度分布を持つ微粒子であり、かつ、前記集合体の径は、4〜35μmであり、各集合体間の隣接距離が10〜90μmであり、更に、前記集合体間の親水性微粒子は0.1〜10μmの粒度分布を持つ微粒子であり、各微粒子間の隣接距離が0.5〜10μmであることを特徴とするめっき請求項1乃至3の何れかに記載のめっき部材。
【請求項5】
前記請求項1乃至4の何れかに記載のめっき被膜を水栓金具表面に用いたことを特徴する水栓金具。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【公開番号】特開2008−163362(P2008−163362A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−350888(P2006−350888)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】