説明

めっき部材

【課題】 水濡れ性が良くまた等電点が高い無機粒子のめっき表面への分散量を飛躍的に増加させて水垢付着を抑制する効果を高めためっき部材を提供する。
【解決手段】 水濡れ性の良い無機粒子を分散させためっき皮膜で多層膜を形成し、各層に分散させた無機粒子が最表面に露出するようにして、最表面の無機粒子の分散量を飛躍的に増加させ、水垢付着を抑制する効果を大きく向上させる。
さらに、無機粒子を水濡れ性だけでなく等電点も高い無機粒子とすることで、めっき表面電荷をプラス側に大きくし、水濡れ性を悪化させるプラス電荷汚れのリンス等の付着を抑制するとともに付着しても容易に清掃除去できるようにして、長期間良好な防汚性を維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水垢など水起因の汚れ付着を防止し、また付着しても容易に清掃除去できるめっき皮膜を形成しためっき部材に関する。
【背景技術】
【0002】
めっきは、大面積の膜形成が可能であり、製膜速度も速く、複雑形状にも対応できるなど、工業的に非常に優れた特徴を有しており、また比較的硬質で、金属種によっては優れた耐食性を有し、さらには条件により光沢、半光沢、無光沢、また黒色膜形成や化成処理によるカラー着色ができるなど外観も変えることもできるため、耐磨耗性や耐食性付与、装飾を目的に様々な部材に利用されている。
【0003】
しかし、めっき表面は何も手入れしないと次第に汚れて行き、付着した汚れは時間とともに強固に固着した清掃除去困難な汚れとなる。そのため、装飾目的を兼ねためっきでは、美観を保つために定期的な手入れが必要であった。特にキッチン、洗面、浴室などの水まわりでは、水垢などの汚れ付着が激しく、初期の外観を保つためには頻繁な清掃が必要であり、労力を要していた。
【0004】
ここで言う汚れとは、水中成分起因のシリカやカルシウム化合物、またタンパク質や皮脂、カビ、微生物、石鹸カス(金属石鹸)である。中でもシリカやカルシウム化合物は洗剤で除去困難な頑固な汚れ成分であり、水道水だけでなく地下水、河川など、ケイ酸やカルシウムイオンを含む水であれば容易に生成、付着する。
ケイ酸やカルシウムイオンを含む水が水滴としてめっき表面に付着すると、乾燥とともにこれら成分が濃縮され、最終的に水垢となる。このサイクルを繰り返すことで水垢は堆積して行き、また時間とともに付着力も強固となる。
【0005】
上記した水垢を含む種々の汚れを防ぐ一つの方法として、水滴を形成させないことが有効である。水滴を形成させない方法としてはめっき表面を撥水性表面もしくは親水性表面とすることが考えられる。めっき表面を撥水性表面とする方法としては、PTFEなどの撥水性粒子をめっき皮膜中に分散させる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
一方、めっき表面を親水性表面とする方法としては、TiOなどの光触媒親水性粒子をめっき皮膜中に分散させる方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
しかし、従来の防汚性めっきには次のような問題がある。
PTFEなどの撥水性粒子を分散させた撥水めっき表面では、微小な汚れでも容易に撥水性能が低下する。特に浴室や洗髪可能な洗面などでは、撥水性粒子がマイナス電荷を有するため、プラス電荷を持つリンスが付着しやすく、早急に撥水性能が低下する。また、撥水めっき表面は、初期表面でも得られる水接触角は130°程度が限界であるため、傾斜の小さい面や平坦部においては水滴残留が避けられない。さらには撥水性粒子を分散させためっきを行った後は、後工程として熱処理が必要となるため、めっき部材の製造コストが高くなる。
一方、TiOなどの光触媒作用のある親水性粒子を分散させた親水めっき表面は、屋内では光触媒性能を発揮させるための紫外線が乏しいため、汚れの分解力や親水性能の持続性に欠け、防汚性を長期間維持することは困難である。
そこで本発明者は、水濡れ性の良い無機粒子をめっき表面に分散し、かつ無機粒子により表面に微細凹凸形状を形成させて、めっき表面の水濡れ性を向上させ、水垢が付着しにくい防汚性めっき表面を形成するとともに、等電点が高い無機粒子を表面に露出させることで、めっき表面電荷をプラス側に大きくし、水濡れ性を悪化させるプラス電荷汚れのリンス等の付着を抑制するとともに付着しても容易に清掃除去できるようにして、長期間良好な防汚性を維持するめっき皮膜を提案した(特許文献3参照)。
上記めっき皮膜構成により、従来技術では困難であった水垢などの汚れ付着を防止することが可能であるが、平坦部が多く水切れの悪い形状の製品を使用する場合やケイ酸やカルシウムイオンを多く含む水井戸水を使用する場合において、水垢防止効果が不十分となることがあった。水垢を抑制する効果を更に高めるためには、めっき表面に分散させる無機粒子数を増やすことが効果的であるが、めっき浴中に混入させる無機粒子を増したり、また電流密度や撹拌条件など電解条件を適正化しても、めっき皮膜中に分散できる無機粒子の量には限界があった。
【0007】
【特許文献1】特開2002−317298号公報
【特許文献2】特開平11−158694号公報
【特許文献3】特開2006−188758号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、本発明の目的は、水濡れ性が良くまた等電点が高い無機粒子のめっき表面への分散量を飛躍的に増加させて水垢付着を抑制する効果を高めためっき部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記問題を解決すべく、本発明は水濡れ性が良くまた等電点が高い無機粒子を分散させためっき皮膜で多層膜を形成し、最表面に露出する無機粒子の量を飛躍的に増加させて、水垢付着を抑制する効果を大きく向上させためっき部材を提供するものである。
【0010】
すなわち、本願発明は、ベース材の表面に無機粒子が分散した第一層と、さらに第一層上に無機粒子が分散した第二層のめっき皮膜を形成させた多層複合めっき部材において、前記第一層及び第二層の無機粒子はイオン結合性が30%以上、平均粒径0.01〜10μmの粒子であり、前記第一層及び第二層のめっき皮膜の無機粒子が前記第二層めっき皮膜の表面に合計して面積比率で10〜60%均一に分散して露出していることを特徴とする。
【0011】
イオン結合性が高く水濡れ性の良い無機粒子をめっき表面に均一に分散して露出させて微細な無機粒子によりめっき表面に微細な凹凸形状を形成させることで、めっき表面の水濡れ性が向上する。そのため、水滴が形成されにくくなり、水滴による水垢が付着しにくいめっき表面を形成できるようなる。濡れ性に優れた無機粒子を表面に均一に分散させた第一層めっき皮膜の上に、第一層の無機粒子の露出を妨げない厚みで第一層の無機粒子よりもさらに粒径の小さい無機粒子を表面に均一分散させた第二層のめっきを施せば、第二層のめっき表面には第一層及び第二層の無機粒子が共に露出することとなり、単層で無機粒子を表面に均一分散させる場合よりも、無機粒子の分散量を大幅に高めることができる。これにより、無機粒子によるめっき表面の水濡れ性をさらに高めることが可能となり、その結果、非常に高い水垢付着抑制効果が得られる。
【0012】
また、本願発明は、前記無機粒子は、等電点が7以上であり、Al、Zr、Mg、Zn、Cuの酸化物のうち少なくとも一つ以上を含むものであることを特徴とする。
いずれも高い等電点を満足するこれら酸化物粒子をめっき表面に分散させることで、めっき表面電荷をプラス側に大きくすることができるため、水濡れ性を悪化させる度合いの大きいプラス電荷のリンス等の付着をも抑制し、長期間良好な水濡れ性を維持することが可能となる。
【0013】
また、本願発明は、前記第一層の無機粒子は等電点が7以上の平均粒径0.5〜10μmである粒子であり、前記第二層の無機粒子は等電点が4以上7未満の平均粒径0.01〜0.5μmの粒子であることを特徴とする。
また、本願発明は、前記第一層の無機粒子は等電点が4以上7未満の平均粒径0.5〜10μmである粒子であり、前記第二層の無機粒子は等電点が7以上の平均粒径0.01〜0.5μmの粒子であることを特徴とする。
さらに、本願発明は、前記第一層の無機粒子は等電点が7以上の平均粒径0.5〜10μmである粒子と等電点が4以上7未満の平均粒径0.5〜10μmの粒子とで構成され、前記第二層の無機粒子は等電点が7以上の平均粒径0.01〜0.5μmである粒子と等電点が4以上7未満の平均粒径0.01〜0.5μmの粒子とで構成されることを特徴とする。
【0014】
第一層の無機粒子を通常使用される水に対する等電点が正になる無機粒子、第二層の無機粒子を負になる無機粒子、または第一層の無機粒子を通常使用される水に対する等電点が負になる無機粒子、第二層の無機粒子を正になる無機粒子、または第一層、第二層ともに通常使用される水に対する等電点が正負に異なる無機粒子をめっき表面に各々均一に分散させることで、めっき表面にプラス電荷を持つ領域とマイナス電荷を持つ領域を微細に形成することができる。これにより、めっき表面の無機粒子の分散量を大幅に高めて水垢付着抑制効果を高めながら、プラス電荷をもつ汚れやマイナス電荷を持つ汚れの両方に対する防汚性を持つめっき皮膜を形成できる。
【0015】
また、本願発明は、前記第一層の無機粒子は等電点が7以上の平均粒径0.5〜10μmである粒子と等電点が4以上7未満の平均粒径0.5〜10μmの粒子とで構成され、前記第二層の無機粒子は等電点が7以上の平均粒径0.01〜0.5μmの粒子もしくは等電点が4以上7未満の平均粒径0.01〜0.5μmの粒子のどちらか一方で構成されることを特徴とする。
また、本願発明は、前記第一層の無機粒子は等電点が7以上の平均粒径0.5〜10μmの粒子もしくは等電点が4以上7未満の平均粒径0.5〜10μmの粒子のどちらか一方で構成され、前記第二層の無機粒子は等電点が7以上の平均粒径0.01〜0.5μmである粒子と等電点が4以上7未満の平均粒径0.01〜0.5μmの粒子とで構成されることを特徴とする。
【0016】
第一層及び第二層のうち、一方を通常使用される水に対する等電点が正負に異なる無機粒子を各々均一に分散させ、もう一方を正になる無機粒子もしくは負になる無機粒子を均一に分散させることで、めっき表面にプラス電荷を持つ領域とマイナス電荷を持つ領域を形成しながらプラス領域の比率を大きくしたり、マイナス領域の比率を大きくすることが可能となる。これにより、めっき表面の無機粒子の分散量を大幅に高めて水垢付着抑制効果を高めながら、プラス電荷をもつ汚れやマイナス電荷を持つ汚れの両方に対する防汚性を併せ持つ特性を、プラス電荷をもつ汚れが多い環境やマイナス電荷をもつ汚れが多い環境でも効果的に得ることができる。
【0017】
前記等電点が7以上の無機粒子としては、Al、Zr、Mg、Zn、Cuの酸化物のうちの少なくとも一つ以上を含み、前記等電点が4以上7未満の無機粒子としては、Ti、Sn、Siの酸化物のうちの少なくとも一つ以上を含むものであることを特徴とする。
これらの無機粒子の中から使用されるめっき浴や要求されるめっき部材の品質に応じて適宜な組み合わせを選択することが出来る。
【0018】
また、本願発明は、第一層または第二層の無機粒子の少なくとも一部を顔料粒子とすることを特徴とする。
第一層または第二層の無機粒子の一部を顔料粒子とすることで、第二層のめっき表面には顔料粒子と無機粒子が共に露出することとなる。その結果、無機粒子による水垢の付着抑制効果と顔料のカラー色調を合わせ持つ防汚性、意匠性に優れためっき皮膜形成が可能となる。
【0019】
また、前記第一層または第二層に顔料粒子が更に分散することを特徴とする。この場合の顔料粒子としては、防汚性を確保する無機粒子が十分に分散露出しているため、有機系の原料を用いて、例えば、蛍光色や種々の色調の変化のある被膜を形成できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、水濡れ性が良い無機粒子のめっき表面への分散量を飛躍的に増加させてめっき表面の濡れ性を大幅に向上させるとともに、めっき表面の表面電荷も制御することにより、従来技術では困難であった水垢などの汚れ付着抑制効果の高いめっき皮膜を形成することができる。そのため、装飾めっき物品の美観を保つための清掃負荷を大きく低減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明は、水濡れ性が良くまた等電点が高い無機粒子を分散させためっき皮膜で多層膜を形成し、最表面に露出する無機粒子の量を飛躍的に増加させるとともに、めっき表面の表面電荷を制御することで、従来技術では困難であった水垢付着を抑制する効果を大きく向上させためっき部材を提供するものである。
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0022】
水道水や井戸水のようにケイ酸やカルシウムイオンを含む水がめっき表面に水滴として付着した後、乾燥すると、それら成分が乾燥とともに濃縮して最終的にシリカやカルシウム化合物から成る水垢となり、水滴痕として残る。このサイクルを繰り返すことで水垢は堆積して行き、また時間とともに付着力も強固となる。水滴付着と乾燥により生成する水垢(水滴痕)は白色や茶褐色であり、付着するとめっき表面の美観を損ねる。
このような水垢を含む種々の汚れを防ぐ一つの方法として、めっき部材表面に水滴を形成させないことが有効である。水滴を形成させないようにするには、めっき表面の濡れ性を向上させればよい。
【0023】
ただし、水に対する濡れ性を向上させるだけでは、浴室や洗髪可能な洗面などの場合、リンス等が付着して早期にめっき表面の濡れ性が低下し、水滴が容易に形成される状態となるため汚れ付着防止性が損われる。従って、濡れ性を維持し長期間にわたって水垢などの汚れ付着を防止するには、リンスのような濡れ性を低下させる物質の付着も防止する必要がある。
また、このように水垢などの汚れ付着を防止する配慮を施していても、さらに長期間にわたる使用によってはわずかづつではあるが、汚れが付着する場合がある。そのため、汚れた際に汚れを清掃除去しやすいことも重要となる。すなわち、防汚性めっきには汚れが付着しにくい性能と、付着しても除去しやすい性能の両方が求められる。
【0024】
本発明者は、上記課題を低コストで解決するために、無機粒子に着目して様々な無機粒子を混入させためっき浴で行なっためっき皮膜について鋭意研究を進めた結果、無機粒子のイオン結合性、等電点、平均粒径、混入率等がめっき部材表面の汚れ付着状態に寄与し、これらを適切な値に制御することで長期間水垢などの汚れ付着防止性を維持でき、また汚れが付着しても容易に清掃除去可能な防汚性めっき皮膜を形成できることを究明した。
【0025】
無機粒子はイオン結合や共有結合などにより物質が構成されているが、このうちイオン結合性が強いほど、水との親和性が強く、親水性を示すと言われている。本願発明は、めっき表面に親水性の無機粒子を分散させることでその無機粒子を核としてめっき表面の水濡れ性を向上するものであり、その場合、イオン結合性が結合の30%以上の無機粒子を使用すると、めっき表面に水滴が形成されにくくなり、外観を損ねる水滴痕の水垢を防止できるようになることが判った。無機粒子のイオン結合性がより高い程、まためっき表面により多くの無機粒子を分散させる程、めっき表面の水濡れ性は向上する。
【0026】
また、無機粒子をめっき表面に分散させると、分散された無機粒子の一部の粒子はめっき表面からその一部分が露出するため、めっき表面に微細凹凸形状が形成される。濡れ性に及ぼす表面形状の効果は、一般的にWenzelの式で表され、表面形状を凹凸にすると、撥水表面はより撥水になり、親水表面はより親水になる。本願発明は、めっき表面形状が水濡れ性に大きく影響することに着目し、平滑なめっき表面に濡れ性の良い無機粒子を分散させて微細かつ均一な凹凸形状を形成することで、めっき表面の水濡れ性をさらに高めることができることが判った。
【0027】
めっき表面の水濡れ性を大きく高めるには、イオン結合性がより高い無機粒子をめっき表面により多く分散させて微細かつ均一な凹凸形状を形成することが重要であり、そのような表面を形成することでめっき表面の水垢付着抑制効果を大幅に高めることができる。
これらの最良の形態としては、無機粒子を混入させためっき浴でベース材の表面に前記無機粒子を含んだ第一層のめっき皮膜を形成し、さらに第一層の上に無機粒子を混入させためっき浴で前記無機粒子を含んだ第二層のめっき皮膜を形成させて多層複合めっき皮膜とし、前記第一層及び第二層はイオン結合性が30%以上、平均粒径0.01〜10μmの無機粒子粒子として、第一層及び第二層のめっき皮膜の無機粒子が前記第二層めっき皮膜の表面に合計して面積比率で10〜60%均一に分散露出させる構成としたものである。
無機粒子を分散させた第一層のめっき皮膜の上に、第一層の無機粒子の露出を妨げない厚みで無機粒子を分散させた第二層のめっき皮膜を施せば、図1にようにめっきの最表層には第一層の無機粒子と第二層の無機粒子の両方が露出することとなり、単一層の場合に比べて、大幅にめっき表面への無機粒子の分散量を増加させることができる。これにより、めっき表面の水濡れ性が大きく向上するとともに、高い水垢付着抑制効果を得ることが可能となる。
図1において、参照符合1は、ベース材、2aは、第一層のめっき皮膜、2bは、第二層のめっき皮膜、3aは、第一層の無機粒子または顔料粒子、3bは、第二層の無機粒子または顔料粒子を表す。
第一層の無機粒子の露出を妨げない範囲であれば、第三層、第四層とさらに多層化してもよい。
【0028】
ここで、めっき表面に無限に無機粒子を分散できるならば、無機粒子の平均粒径がより小さい方がめっき表面の表面積を大きくすることができるため、より濡れ性向上に寄与できる。しかし、めっき表面に分散できる無機粒子の量には限界があるため、無機粒子の平均粒径を極端に小さくすると逆効果になることがある。すなわち、平均粒径0.01μm未満であると、めっき表面を占める凹凸部分領域が小さくなり、また凹凸形状(凹凸高さ)も小さくなるため、形状効果が得られにくくなり、濡れ性向上は期待できない。
一方、10μm以上では、凹凸形状(凹凸高さ)が大きくなるため、濡れ性は向上するが、その反面、凹凸形状の谷部の汚れが除去し難くなり、汚れの清掃除去性が低下する。
従って、無機粒子の平均粒径は0.01〜10μmの範囲が好適である。
【0029】
この時、第一層に分散させる無機粒子の平均粒径を0.5〜10μmとし、第二層のめっき厚みは第一層に分散させた無機粒子の平均粒径の1/2以下とし、さらに第二層に分散させる無機粒子の平均粒径を0.01〜0.5μmとすれば、第一層及び第二層に分散させた無機粒子の両方を第二層のめっき表面に十分露出させることができる。
【0030】
めっき最表面に分散させる無機粒子の量としては、10〜60vol%とするとよい。10vol%未満であると、十分な防汚性が得られない。一方、60vol%を越えると、汚れ付着防止性が向上する反面、めっき表面を粒子が占める割合が大きくなりすぎて、美観を損い、装飾用途に不向きとなる。また、表面の凹凸部が多くなりすぎることにより、汚れの清掃除去性に悪影響を及ぼす場合もある。さらに、60%越える無機粒子をめっき皮膜に取り込むには、めっき条件や粒子の粒径、形状、粒度分布などを厳密に管理する必要があり、コスト上昇にもつながる。
汚れの付着防止性及び汚れの清掃除去性の両方を効果的に高めるには、無機粒子の分散量は10〜60vol%が最も好適である。
【0031】
さらに、無機粒子は等電点が7以上のものを使用することで、汚れ付着防止性ならびに汚れの清掃除去性を飛躍的に高めることができる。
無機粒子は水中において表面電荷が変化するが、等電点が7以上の無機粒子の場合は水道水や井戸水などのpHが7の中性水中においては、表面電荷がプラスとなる。すなわち、等電点が7以上の無機粒子をめっき表面に分散させると、めっき表面の電荷をプラス側に大きくすることができ、同じプラス電荷のリンスを付着し難くする。これより、表面の濡れ性を低下させるリンス付着を防止できるため、長期間めっき表面の濡れ性を維持でき、長期間汚れの付着を防止できる。
また、もしリンスなどがめっき表面に付着した場合においても、表面と付着物がプラス同士であるため、表面への付着力が非常に弱く、簡単な清掃で容易に除去することができる。
無機粒子の表面電荷を利用し、対象とする汚れに応じてめっき表面の電荷を制御することにより、長期間汚れの付着防止性を維持でき、また優れた汚れ清掃除去性も付与することが可能である。
【0032】
これらの無機粒子の種類としては、図2に示すようにAl、Zr、Mg、Zn、Cuの酸化物が利用できる。特に、Al、Zr、Mgは粉末も安価であるため、防汚性めっきを低コストで形成することが可能となる。
【0033】
また、めっき表面に分散させる無機粒子は2種類以上であってもよく、特に等電点が通常の水に対して正負に異なる2種類の無機粒子を組み合わせることで、さらに防汚性を向上させることも可能である。すなわち、等電点が4以上〜7未満の無機粒子と7以上の無機粒子をめっき表面に分散させればよい。
等電点が4以上〜7未満の無機粒子は、水道水や井戸水のような中性水中において、表面電荷はマイナスとなり、一方、等電点7以上の無機粒子はプラスとなる。これら、両無機粒子をめっき表面に均一に分散させると、めっき表面にプラス電荷を持つ領域とマイナス電荷を持つ領域を微細に形成することができる。これにより、プラス電荷をもつ汚れとマイナス電荷を持つ汚れとの両方の汚れに対する防汚性を持つめっき皮膜を形成することができる。
【0034】
したがって、第一層と第二層のどちらか一方の無機粒子を等電点が4以上〜7未満の無機粒子、もう一方を等電点7以上の無機粒子とすれば、めっき表面にプラス電荷を持つ領域とマイナス電荷を持つ領域を形成できるだけでなく、単一層で形成するよりも大幅にめっき表面への無機粒子の分散量も増加させることもできるため、プラス電荷をもつ汚れとマイナス電荷を持つ汚れとの両方の汚れに対して高い防汚性を得ることができる。
また、第一層及び第二層ともに、等電点が4以上〜7未満の無機粒子、7以上の無機粒子を同時に分散させれば、めっき表面により微細にプラス電荷を持つ領域とマイナス電荷を持つ領域を形成することができ、めっき表面の防汚性の品質安定化が図れる。
【0035】
さらに、第一層及び第二層のうち、一方を、等電点が4以上〜7未満の無機粒子、7以上の無機粒子を同時に分散させ、もう一方を正になる無機粒子もしくは負になる無機粒子を均一に分散させれば、めっき表面にプラス電荷を持つ領域とマイナス電荷を持つ領域を形成しながらプラス領域の比率を大きくしたり、マイナス領域の比率を大きくすることが可能となる。
すなわち、リンスなどのプラス電荷の汚れがより多い浴室空間ではプラス電荷を持つ領域を多くし、泥や化粧品汚れ(ファンデーションなどに含まれる微粒子)などマイナス電荷の汚れがより多い洗面空間では、マイナス電荷を持つ領域を多くすることで、めっき表面の水濡れ性の阻害要因となるプラス電荷をもつ汚れやマイナス電荷を持つ汚れ付着を効果的に防止でき、めっき表面の水濡れ性の持続性を高め、長期間水垢付着抑制効果を得ることが可能となる。
等電点が7以上の無機粒子としては、Al、Zr、Mg、Zn、Cuの酸化物、等電点が4以上7未満の無機粒子としては、Ti、Sn、Siの酸化物が利用できる。
【0036】
無機粒子を分散させた第一層のめっき皮膜の上に、さらに無機粒子を混入させた第二層のめっき皮膜を形成させて多層複合めっき皮膜とする際、第一層あるいは第二層の無機粒子の一部を顔料粒子とすることで、第二層のめっき表面に顔料粒子と無機粒子ともに露出させることができる。これにより、めっき皮膜に水垢付着抑制効果に加えて顔料のカラー色調も付与することが可能である。
この時、顔料粒子に水となじみがよい無機顔料や有機顔料を利用すれば、めっき表面の水濡れ性を損なうことなく、高い水垢の付着抑制効果と顔料によるカラー色調を両立することができる。すなわち、意匠性が高いだけでなく、その美観を長期間維持できるめっき皮膜を形成することができる。
【0037】
本願発明の防汚性めっきに使用するめっき浴は特に限定されるものではないが、NiもしくはNi合金めっき浴、Crめっき浴を用いれば、容易に防汚性を持っためっき皮膜を形成できる。
無機粒子をめっき皮膜に取り込むめっき方法においては、無機粒子の表面電荷がめっき皮膜への無機粒子分散量に大きく影響する。すなわち、めっきは陰極に形成されるが、このとき、無機粒子の表面電荷がプラスであれば、陰極に無機粒子が吸着してめっき皮膜の形成と同時にめっき皮膜中へ取り込まれていく。このとき、表面電荷がよりプラス側に大きい程、陰極に引き付けられる粒子の数は多くなり、結果的にめっき表面に分散させることができる無機粒子の量も多くなる。このことより、無機粒子の等電点に応じて、めっき浴のpHを選べば、めっき浴中での無機粒子の表面電荷を変化させることができるため、めっき皮膜への無機粒子分散量を制御することが可能である。さらに、無機粒子を2種類以上分散させる場合においては、めっき浴への無機粒子の添加量及びめっき浴のpHをコントロールすることによって、各無機粒子の分散量の比率を変化させることも可能である。
【0038】
Crめっき浴にはサージェント浴、フッ化物浴、3価クロムめっき浴、Niめっき浴には、無光沢Ni浴、ワット浴、スルファミン酸Ni浴、硫酸Ni浴、塩化Ni浴、無電解Niめっき浴などがあり、さらにこれらを基本浴としたNi合金めっき浴があり多種多様である。これらめっき浴の種類によって、めっき浴のpHを多様に変えることができる。
使用する無機粒子の等電点にあわせたpHのめっき浴を選定すれば、無機粒子の分散共析量を制御することができ、目標とする無機粒子の量を分散させためっき皮膜を容易に形成することが可能である。
【0039】
上記防汚性めっきを形成させる場合は、めっき浴に無機粒子を5〜500g/l混入させためっき浴とすることで、無機粒子を分散させためっき皮膜を容易に形成することができる。
めっき浴への無機粒子の添加量は、5g/l未満でも、めっき表面に1vol%以上無機粒子が分散しためっき皮膜を形成させることは可能であるが、めっきの電析速度を極端に遅くする必要があるめ、生産性が低下する。そのため、めっき浴への無機粒子の添加量は、5g/l以上とすることが望ましい。また、500g/l以上ではめっき皮膜中に取り込まれる無機粒子の量は飽和状態に達するため、それ以上混入させてもめっき皮膜に取り込まれる無機粒子の分散量は向上しない。
なお、めっきする際の、電流密度はより低い方が多くの無機粒子を取り込むことが可能である。
【0040】
また、本願発明の親水性の無機粒子を表面に分散させためっき皮膜の上に、さらに無機粒子の表面露出を妨げない厚みで疎水性の高いめっき皮膜を施すと、さらに防汚性を高めることができる。
すなわち、疎水性の高いめっき皮膜を最上面に施せば、めっき表面は微視的に疎水性部分と無機粒子の親水性部分から構成されることとなる。このような構造では親水性付着物も疎水性付着物もめっき表面の各々疎水性部分と親水性部分に固着できなくなるため、高い防汚性を有するめっき皮膜を形成することができる。
最上面に施すめっきとしては、サージェント浴を使ったCrめっきが効果的である。サージェント浴で得られるCrめっきは耐食性及び皮膜硬度に優れ、機械部品や装飾品などに広く使われるめっきであるとともに、水濡れ性が悪く、撥水傾向を示すため、上記最上面めっきとして好適である。
【実施例】
【0041】
以下種々の実験例を示し、本願発明のめっき皮膜の形成方法及び評価試験結果を具体的に説明する。
めっき浴組成を硫酸Ni0.3〜2.2mol/l、塩化Ni0〜0.5mol/l、ホウ酸0.3〜1mol/lとし、炭酸Niと10%硫酸水溶液でpH4.0から4.5に調整して、浴温度を50℃とした電気Niめっき浴、及び無水クロム酸200g/l、硫酸2g/l、3価クロム3g/lでpH1未満、浴温50℃とした電気Crめっき浴を基本浴とした。なお電気Niめっき浴においては、めっき浴中のNiイオン総和が0.5〜2.2mol/lとなるように硫酸Niと塩化Niの量を調整した。
これら基本浴に図2に示した各無機粒子を5〜500g/l混入させて、めっき浴とした。めっき皮膜を形成させる電極材には金属Cu板を用い、電極は垂直または45°傾斜させてめっき浴内に設置した。なお、電気Niめっき浴の場合は対極にNi板を用い、電気Crめっき浴の場合は対極に鉛板を用いた。めっき浴の撹拌には、スターラーを使用した。
【0042】
上記条件のめっき浴でベース部材に形成しためっき皮膜は、表面の観察を行った。観察で得ためっき表面の写真画像は画像処理を行い、めっき部分と露出している無機粒子部分それぞれの面積比率を求めた。
【0043】
また、得られためっき皮膜は、汚れ付着防止性を評価するため、実使用の浴室及び洗面の水栓金具の位置に、清掃無しの条件で2週間設置し、汚れ付着具合を評価した。評価において、汚れが殆ど目立たない場合を◎、汚れが多少付着している場合を○、汚れは付着しているが、通常のめっきに比べると明らかに少ない場合を△、汚れが付着し、通常のめっきと大差が無い場合を×とした。また、汚れ付着性の評価の後に、ラビングテスターを用いて、汚れの清掃除去性も評価した。摺動子には、蒸留水で濡らした後、中性洗剤を1ml含ませた軟質の食器洗い用スポンジを用い、押し付け荷重を人が清掃する際の力の入れ具合に相当する200g/cm、摺動回数を20往復として評価を行った。なお、清掃除去試験後、汚れが除去でき、初期表面に回復した場合を◎とし、若干汚れはあるが、ほぼ初期に近い状態まで回復した場合を○とし、水垢は残っているが、明らかに通常のめっきよりも汚れを除去できている場合を△、水垢があまり除去できず、通常めっきと大差が無い場合を×とした。
【0044】
図3及び図4は上記方法により得られた種々のめっき部材のめっき皮膜の実験結果を示す。
実験例1から4は同じ種類の無機粒子であるが、めっき表面への無機粒子分散量が異なる場合の結果を示す。
ここで、実験例1は単一層でめっき皮膜を形成したもの、実験例2から4は第一層と第二層を形成して多層膜とし、第一層及び第二層それぞれの無機粒子が表面に露出するようにしたものである。
それぞれの比較より、無機粒子を分散させる皮膜を多層化することで、めっき表面の無機粒子分散量を大きく高めることが可能であることが分かる。
また、実験例2から4において、めっき皮膜への無機粒子分散量が少ない実験例2は実験例3に比べると、汚れ付着防止性、汚れの清掃除去性ともに低下傾向にある。逆に、実験例4のように無機粒子の分散量を増やした場合でも、汚れの清掃除去性については低下傾向となった。分散量が少ない場合は、無機粒子の効果があまり得られないため、防汚性が低下したと考えられるが、逆に分散量を増やした場合に汚れの清掃除去性が低下した原因は、粒子により形成される表面凹凸が多く、凹凸の隙間に付着した汚れが除去し難くなったことが考えられる。以上のことより、めっき最表面に分散させる無機粒子の量としては、面積比率で10〜60%が適当であることがわかる。
【0045】
実験例3、及び実験例5から9は、無機粒子の粒径やめっき表面の無機粒子面積比はほぼ同じであるが、無機粒子の種類が異なる場合の結果を示している。
それぞれの比較より、無機粒子の粒径や分散量は同じでも、汚れ付着防止性及び汚れの清掃除去性には大きな差が見られ、無機粒子のイオン結合性が高く水濡れ性が良い程、また等電点が高い程、汚れ付着防止性や汚れの清掃除去性に優れる結果となった。
【0046】
実験例3,5では、水濡れ性が良い無機粒子がめっき表面に分散されているため、めっき表面に水滴が形成されにくくなり、水滴痕のような水垢が殆ど見られなくなった。ただし、水濡れ性が比較的良いはずの実験例6,7,8においては、評価途中に表面に撥水化部分が生じて、水滴が形成されやすくなり、水垢が多少付着した。これは、中性の水道水中では無機粒子の表面電荷がマイナスとなっているため、プラス電荷のリンスなどが付着しやすく、リンス付着によって濡れ性が失われ、汚れが付着しやすくなったと考えられる。比較のために行なった実験例9では防汚性の効果は認められず、通常のめっきと同レベルであった。これは実験例9の無機粒子が特に等電点が低く、無機粒子の表面電荷が大きくマイナスになっていることによると考えられる。
【0047】
また、イオン結合性が小さくて水濡れ性が特に優れているわけではない実験例8が良好な汚れ付着防止性を示したのは、CuOの等電点が非常に高く、粒子表面が強いプラスとなっているため、撥水化原因物質の付着を防止でき、長期間濡れ性を維持できたものと考えられる。
【0048】
汚れの清掃除去性においても、無機粒子のイオン結合性が高く水濡れ性が良い程、また等電点が高い程、良好な結果が得られた。
これは、プラスの表面電荷を持つ無機粒子が表面に存在すると、同じプラス電荷を持つリンスが付着したとしても付着力が弱く、容易に除去できるためと考えられる。また、一般に撥水表面は洗浄の際、水がはじかれるため洗浄しにくく、一方、親水性表面は水濡れ性が良く洗浄しやすいと言われていることも裏付けている。
【0049】
以上のことより、実験例6,7,8も防汚性めっきとして十分適用できるが、汚れの付着防止性と汚れの清掃除去性を同時に満足する高いレベルの防汚性が求められる場合には、水濡れ性、表面電荷のどちらか一方が良いだけでなく、実験例3,5のように両者を同時に満足する必要があることが分かる。
【0050】
実験例10及び11はめっき皮膜への無機粒子分散量はほぼ同じであるが、無機粒子の粒径が異なる場合の結果を示す。実験例10は、粒子径を小さくしたものであるが、汚れの清掃除去性に優れる半面、汚れの付着防止性は低下傾向となった。実験例11は、汚れ付着防止性を高めるために、粒子径を大きくしたものであるが、汚れの清掃除去性については逆に低下傾向となった。
【0051】
以上のことより、汚れ付着防止性ならびに汚れの清掃除去性をともに満足する防汚性めっき膜を得るためには、汚れの環境に応じて適切な粒子径の無機粒子を選択する必要があり、平均粒径0.01〜10μmの無機粒子を使用することが望ましいことが分かる。
【0052】
実験例12から15は2種類の無機粒子を分散させた場合の結果を示すが、TiO(天然ルチル)とAlの2種類の無機粒子を分散させた実験例13から15は、TiO(天然ルチル)だけを分散させた実験例12よりも高い防汚性を示した。
Al粒子は中性領域では表面電荷はプラスとなる。一方、実験例3のTiO(天然ルチル)はマイナスとなる。従って、中性の水道水にさらされる状況においては、めっき表面にプラスの部分とマイナスの部分の両方が微細に構成された表面構造となる。そのため、プラス電荷の汚れ、マイナス電荷の汚れのどちらの汚れも表面に固着し難くなり、汚れが付着しにくくなったと考えられる。
また、実験例13及び14と実験例15の比較より、第一層と第二層で水道水中でプラスまたはマイナスになる無機粒子を使い分けるよりも、第一層と第二層の両方に水道水中でプラスまたはマイナスになる無機粒子を分散させる方が更に防汚性が向上する傾向が見られた。無機粒子の表面電荷の違いを上手く利用してめっき表面により微細に正領域、負の領域を形成することがめっき表面の防汚性を効果的にさらに高めることに効果的であることがわかる。
【0053】
実験例16から19は、2種類の無機粒子を分散させるが、どちらか一方の無機粒子ををより多く分散させた場合の結果を示す。
TiO(天然ルチル)とAlの2種類の無機粒子のうちAlをより多く分散させた実験例16と17は、中性の水道水にさらされる状況においてはめっき表面にプラスの部分とマイナスの部分の両方が微細に構成されながら、よりプラスの部分の方が多い表面構造となる。これらめっき皮膜は、洗面空間よりも浴室空間でより高い防汚性を示した。すなわち、リンスなどのプラス汚れが多い空間では、プラスの部分とマイナスの部分の両方が微細に構成された表面構造として、プラス電荷の汚れ、マイナス電荷の汚れのどちらの汚れも抑制しながらも、めっき表面のプラス領域の方を多くしておいた方がより高い防汚性能が得られることが分かる。実験例16よりも実験例17の方が防汚性能が高いのは、実験例16はより平均粒径の大きい無機粒子を利用する第一層をプラス領域となるAl粒子のみで形成しており、実験例17よりもプラス領域の占める割合が高いためと考えられる。
一方、TiO(天然ルチル)とAlの2種類の無機粒子のうちTiO(天然ルチル)をより多く分散させた実験例18と19は、浴室空間よりも洗面空間でより高い防汚性を示した。上記と反対で、よりマイナス領域が多いため、泥や化粧品汚れ(ファンデーションなどに含まれる微粒子)などマイナス電荷の汚れがより多い洗面空間で高い防汚性を示したと考えられる。
これより、めっき表面の無機粒子の分散量を大幅に増やすことで得た高い水垢付着抑制効果を、更にめっき表面電荷を制御することでプラス電荷をもつ汚れが多い環境やマイナス電荷をもつ汚れが多い環境のどちらにおいても効果的に得ることが可能となる。
【0054】
図5の実験例20及び21は、第一層及び第二層の無機粒子の一部を顔料粒子にした場合の結果を示す。
無機粒子の一部を顔料粒子にして、めっき表面に顔料粒子を分散させることで顔料が持つ色調を帯びためっき皮膜の形成が可能であり、様々なカラー色調をめっき皮膜に付与することで、めっき外観の意匠向上が可能である。
顔料粒子には、めっき液と反応しないことや適度な分散性が求められるが、無機顔料粒子や有機顔料粒子など様々なものが使用できる。
例えば、無機顔料粒子としては、ライトレッド、コバルトブルーディープ、ビリジャン、ピュアレッド、バーントアンバー、マルスバイオレット、テールベルトなどの絵画でも使用される金属酸化物が使用できる。また有機顔料粒子としては、シンロイヒ社製FA41レッドオレンジ、FA48ブルー、FA43レッド、FA47ピンク、FA202グリーン、FA257バイオレットなどの有機蛍光顔料が使用できる。
これら顔料粒子は比較的水とのなじみが高いため、無機粒子の一部を顔料粒子としてもめっき表面の水濡れ性の低下は少なく、防汚性能に及ぼす影響は僅かである。
従って、水濡れ性の良い無機粒子と顔料粒子をともに分散させた実験例20及び21はともに、高い水垢の付着抑制効果を示した。
すなわち、高い水垢の付着抑制効果と顔料によるカラー色調を両立することができるため、意匠性が高い初期の美観を長期間維持できるめっき皮膜の形成が可能であることが分かる。
【0055】
以上述べたように本発明は濡れ性の良い無機粒子分散させためっき皮膜を多層化し、各層で分散させた無機粒子をめっき最表層から露出するようにすることで、単一層では成しえない高い無機粒子分散量を実現して大幅にめっき表面の濡れ性を向上させるとともに、めっき表面の表面電荷も制御し、水垢などの汚れ付着を長期間防止する性能を大幅に高めた防汚性めっき皮膜を形成することができた。
上記実験例に挙げた防汚性めっき皮膜の例は、あくまで一例に過ぎず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本願発明の1実施形態であるめっき部材の構造を示す断面模式図
【図2】各無機粒子のイオン結合性と等電点の一覧。
【図3】各実験例の無機粒子の種類、めっき条件、及び得られためっき皮膜の無機粒子分散量と防汚特性試験結果の一覧。
【図4】2種類の無機粒子を分散させた多層めっき皮膜のめっき条件、及び得られためっき皮膜の無機粒子分散量と防汚特性試験結果の一覧。
【図5】無機粒子の一部を顔料粒子とした多層めっき皮膜のめっき条件、及び得られためっき皮膜の無機粒子分散量と防汚特性試験結果の一覧。
【符号の説明】
【0057】
1 ベース材
2a 第一層のめっき皮膜
2b 第二層のめっき皮膜
3a 第一層の無機粒子または顔料粒子
3b 第二層の無機粒子または顔料粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース材の表面に無機粒子が分散した第一層と、さらに第一層上に無機粒子が分散した第二層のめっき皮膜を形成させた多層複合めっき部材において、前記第一層及び第二層の無機粒子はイオン結合性が30%以上、平均粒径0.01〜10μmの粒子であり、前記第一層及び第二層のめっき皮膜の無機粒子が前記第二層めっき皮膜の表面に合計して面積比率で10〜60%均一に分散して露出していることを特徴とするめっき部材。
【請求項2】
前記無機粒子は、等電点が7以上であり、Al、Zr、Mg、Zn、Cuの酸化物のうち少なくとも一つ以上を含むものであることを特徴とする請求項1記載のめっき部材。
【請求項3】
前記第一層の無機粒子は等電点が7以上の平均粒径0.5〜10μmである粒子であり、前記第二層の無機粒子は等電点が4以上7未満の平均粒径0.01〜0.5μmの粒子であることを特徴とする請求項1記載のめっき部材。
【請求項4】
前記第一層の無機粒子は等電点が4以上7未満の平均粒径0.5〜10μmである粒子であり、前記第二層の無機粒子は等電点が7以上の平均粒径0.01〜0.5μmの粒子であることを特徴とする請求項1記載のめっき部材。
【請求項5】
前記第一層の無機粒子は等電点が7以上の平均粒径0.5〜10μmである粒子と等電点が4以上7未満の平均粒径0.5〜10μmの粒子とで構成され、前記第二層の無機粒子は等電点が7以上の平均粒径0.01〜0.5μmである粒子と等電点が4以上7未満の平均粒径0.01〜0.5μmの粒子とで構成されることを特徴とする請求項1記載のめっき部材。
【請求項6】
前記第一層の無機粒子は等電点が7以上の平均粒径0.5〜10μmである粒子と等電点が4以上7未満の平均粒径0.5〜10μmの粒子とで構成され、前記第二層の無機粒子は等電点が7以上の平均粒径0.01〜0.5μmの粒子もしくは等電点が4以上7未満の平均粒径0.01〜0.5μmの粒子のどちらか一方で構成されることを特徴とする請求項1記載のめっき部材。
【請求項7】
前記第一層の無機粒子は等電点が7以上の平均粒径0.5〜10μmの粒子もしくは等電点が4以上7未満の平均粒径0.5〜10μmの粒子のどちらか一方で構成され、前記第二層の無機粒子は等電点が7以上の平均粒径0.01〜0.5μmである粒子と等電点が4以上7未満の平均粒径0.01〜0.5μmの粒子とで構成されることを特徴とする請求項1記載のめっき部材。
【請求項8】
前記等電点が7以上の無機粒子として、Al、Zr、Mg、Zn、Cuの酸化物のうちの少なくとも一つ以上を含み、前記等電点が4以上7未満の無機粒子として、Ti、Sn、Siの酸化物のうちの少なくとも一つ以上を含むものであることを特徴とする請求項3から7のいずれかに記載のめっき部材。
【請求項9】
第一層または第二層の無機粒子の少なくとも一部を顔料粒子とすることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載のめっき部材。
【請求項10】
前記第一層または第二層に顔料粒子が更に分散していることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載のめっき部材。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【公開番号】特開2009−30132(P2009−30132A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−197079(P2007−197079)
【出願日】平成19年7月30日(2007.7.30)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】