説明

ろ紙を不要とした転写装置

【課題】ろ紙を不要とした転写装置を実現する。
【解決手段】本発明の転写装置100は、試料を含むゲル102に電解液を介して電圧を印加して、該試料をゲル102に接して配置された転写膜103へと転写する転写装置であって、一対の電極であるアノード電極104およびカソード電極101のうち、アノード電極104は鉄を含んでいる。転写時、アノード電極104の含む鉄は犠牲酸化剤として働くため、電解液の電気分解による気泡の発生を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、ろ紙を不要とした転写装置に関するものであり、詳しくは、分離媒体に緩衝液を介して電流を流すことによって上記分離媒体中の被転写物質を上記転写膜上へ転写する、ろ紙を不要とした転写装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タンパク質、核酸等の生体分子の解析または検査を行うため、ウェスタンブロッティング等のブロッティングと称される技術が用いられることがある。ブロッティングを行うためには、まず、生体分子を電気泳動によってゲル等の分離媒体中において分離し、分離した生体分子を上記分離媒体から転写膜上へ転写することが行われる。これにより、解析対象の生体分子を、分離した状態で転写膜上に配置することができるため、さらなる解析を首尾よく行うことができる。
【0003】
このとき、上記分離媒体から上記転写膜への生体分子の転写のために、転写装置が用いられる。転写装置が行う転写の方法としては、毛細管現象を利用した方法、電圧を印加する方法、真空引きする方法が知られている(非特許文献1参照)。
【0004】
上記のうち電圧を印加する方法は、転写効率がよいことが知られている。電圧を印加する方法を実施する転写装置としては、タンク式およびセミドライ式の二種類がある(非特許文献2参照)。タンク式の転写装置では、緩衝液によって満たされたタンク内に、分離媒体および転写膜を保持し、タンクに備えられた電極を用いて分離媒体および転写膜に電圧を印加する。セミドライ式の転写装置では、緩衝液に浸漬させておいたろ紙を用い、電極、ろ紙、分離媒体、転写膜、ろ紙および電極をこの順に重ねて、両電極間に電圧を印加する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−298644(平成20年12月11日公開)
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Sambrook et al., Molecular Cloning, A laboratory manual, 3rd ed., Cold Spring Harbor Laboratory(2001), 6.33-6.38
【非特許文献2】大藤道衛「電気泳動なるほどQ&A」161〜163頁、羊土社、2005年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した転写方法は、いずれも電極と分離媒体または転写膜との間にろ紙を挟むものである(非特許文献1のFigure6−1、6−2および6−3、非特許文献2の図1および図2等参照)。タンク式の転写装置においても、分離媒体および転写膜をろ紙で挟んだ状態でタンク内に保持する(非特許文献2の図1参照)。このろ紙は、伝統的に用いられているものであり、一般的なプロトコル集には必ず記載されている。それゆえか、ろ紙を不要とした転写装置について検討した報告はない。
【0008】
ところが、本発明者らは、自らが以前発明した電気泳動および転写の両方を実施するための装置(特許文献1参照)について検討を進めていく過程において、独自の観点に基づき、ろ紙を不要とした転写装置が有用であることに想到した。
【0009】
すなわち、特許文献1に記載の装置は、分離媒体を搬送せずに、同じ位置で、電気泳動および転写の両方を行うものであるが、本発明者らが検討したところ、上記転写のために分離媒体をろ紙で挟んだ場合、当該ろ紙によって上記電気泳動が阻害されることが見出された。この知見に基づき、本発明者らは、特許文献1に記載の装置の場合、ろ紙を不要とした転写装置を組み込むことが好ましいことに想到し、さらに検討を重ね、ろ紙を不要とした転写装置は、特許文献1に記載の装置に組み込む場合のみに限らず、装置を構成する際にろ紙を挟む工程が不要となり、ろ紙のコストも省くことができる点において、従来の転写装置に対して有利であることに想到した。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、これまで検討されていなかった、ろ紙を不要とした転写装置を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明に係る転写装置は、分離媒体および転写膜を格納し、上記分離媒体に緩衝液を介して電流を流すことによって上記分離媒体中の被転写物質を上記転写膜上へ転写する、ろ紙を不要とした転写装置であって、上記電流を流すための一対の電極であるアノード電極およびカソード電極を備えており、上記アノード電極は、少なくとも一部が鉄を含有していることを特徴としている。
【0012】
上記構成によれば、アノード電極は、少なくとも一部が鉄から構成されている。鉄は、電解液に溶解せず、酸化反応に伴い気体をしない物質であり、酸化反応に伴い不動態を形成しない。さらに鉄は、標準電位が0よりも低く、アノード反応(酸化反応)の起こる電位が水の電気分解時のアノード電位よりも低い物質である。物質であるよって、電圧印加時、アノード電極を構成する鉄は犠牲酸化剤として電子を放出することで、アノード電極側における緩衝液(水)の電気分解を抑制する。これによって、転写時、アノード電極から気泡が発生することが抑制される。
【0013】
また、本発明に係る転写装置では、カソード電極とアノード電極との間に分離媒体および転写膜が格納されて転写が行われる。ここで、分離媒体はカソード電極側に配置され、転写膜はアノード電極側に配置される。よって、気泡の発生が抑制されるのは転写膜が存在する側のアノード電極であるため、転写膜付近に発生する気泡が抑制される。
【0014】
したがって、本発明に係る転写装置によれば、ろ紙等の気泡を吸収する手段を用いずとも、気泡に転写を阻害されることなく、良好な転写結果を簡便に得ることができる。
【0015】
また、本発明に係る転写装置は、上記アノード電極における上記転写膜に接する面が、鉄から構成されていることが好ましい。
【0016】
上記構成によれば、転写時、アノード電極から気泡が発生することを効果的に抑制することができる。
【0017】
また、本発明に係る転写装置は、上記アノード電極は、鉄から構成されていることが好ましい。
【0018】
上記構成によれば、より簡便にアノード電極を構成することができる。
【0019】
また、本発明に係る転写装置は、上記アノード電極および上記カソード電極の少なくともいずれか一方が、板状に形成されていてもよい。
【0020】
上記構成によれば、上記電極間に分離媒体および転写膜を挟んで好適に転写を行うことができる。
【0021】
また、本発明に係る転写装置は、上記アノード電極および上記カソード電極の少なくともいずれか一方が、互いに平行な複数の帯状に形成されていることが好ましい。
【0022】
上記構成によれば、分離媒体を搬送せずに同じ位置で電気泳動および転写の両方を行う装置に本発明に係る転写装置を適用した際、ろ紙に電気泳動を阻害されることなく、電気泳動および転写の両方を好適に行うことができる。
【0023】
また、本発明に係る転写方法は、分離媒体および転写膜を格納し、上記分離媒体に緩衝液を介して電流を流すことによって上記分離媒体中の被転写物質を上記転写膜上へ転写する、ろ紙を不要とした転写方法であって、上記電流を流すための一対の電極のうち、一方の電極であるアノード電極は、少なくとも一部が鉄から構成されていることを特徴としている。
【0024】
上記方法によれば、本発明に係る転写装置と同様の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る転写装置は、電圧を印加する一対の電極であるアノード電極およびカソード電極を備えており、上記アノード電極は鉄を含有しているので、当該アノード電極において気泡が発生することを抑制することができ、ろ紙等の気泡を吸収する手段を用いずとも、良好な転写結果を簡便に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態である転写装置を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態である転写装置を示す模式図である。
【図3】実施例1に係る転写装置を示す模式図である。
【図4】比較例1に係る転写装置を示す模式図である。
【図5】比較例2に係る転写装置を示す模式図である。
【図6】実施例1に係る転写装置による転写結果を示す図である。
【図7】比較例1に係る転写装置による転写結果を示す図である。
【図8】比較例2に係る転写装置による転写結果を示す図である。
【図9】実施例2に係る転写装置を示す模式図である。
【図10】比較例3に係る転写装置を示す模式図である。
【図11】比較例4に係る転写装置を示す模式図である。
【図12】実施例2に係る転写装置による転写結果を示す図である。
【図13】比較例3に係る転写装置による転写結果を示す図である。
【図14】比較例4に係る転写装置による転写結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0028】
本発明は、試料を含む分離媒体に電解液を介して電圧を印加して、該試料を分離媒体に接して配置された転写膜へと転写する転写装置であって、上記電圧を印加する一対の電極のうち、アノード電極は鉄を含有している転写装置を提供する。
【0029】
なお、本明細書において、用語「転写」は、特定の媒体に含まれる試料を、該媒体から他の媒体へと移動させることが意図される。
【0030】
図1は、本発明の一実施形態に係る転写装置100の概略を示す模式図である。図1に示すように、本発明に係る転写装置100は、カソード電極101と、アノード電極104とを備えており、転写装置100による転写時には、カソード電極101とアノード電極104との間にゲル(分離媒体)102と転写膜103とが重ねて配置される。
【0031】
ゲル102は、試料を含んでいる媒体であれば特に限られないが、例えば、アガロースゲル、ポリアクリルアミドゲル等、一般に電気泳動に用いられるゲルであって、試料を含み得るものを好適に用いることができる。
【0032】
試料としては、特に限られないが、生物材料(例えば、生物個体、体液、細胞株、組織培養物、または組織断片)からの調製物等を用いることができ、さらに好ましくはポリペプチドまたポリヌクレオチドを用いることができる。
【0033】
転写膜103としては、上記試料を固定し得る物質からなるものであればよく、形状も特に限られないが、薄膜状のものがよい。具体的には、転写膜103としては、周知のウェスタンブロッティング法等の生体高分子解析技術に用いる、ニトロセルロースメンブレン、PVDFメンブレン、ナイロンメンブレン等を好適に用いることができる。そして、転写膜103は、ゲル102に接するように保持されている。
【0034】
また、カソード電極101とアノード電極104との間には、緩衝液が供給される。これにより、カソード電極101とアノード電極104との間に電流を流し、ゲル102中の試料を電気泳動して転写膜103へと転写することができる。緩衝液の供給の方法としては、転写装置100全体または一部を緩衝液中に浸してもよいし、ゲル102および転写膜103を緩衝液に予め浸しておくことにより、これらに緩衝液を含ませていてもよい。
【0035】
上記緩衝液は、用途に応じて適宜選択すればよいが、例えば、トリス、CAPS、炭酸塩等の伝導性の強い緩衝効果のある試薬が含まれていることが好ましい。上記電解液にはまた、pH調整剤、変性剤、界面活性剤、アルコール等が含まれていてもよい。例えば、ポリペプチドの転写を行う場合、ポリペプチドと被転写媒体との結合を促進するためにアルコールが含まれていることが好ましく、ポリペプチドを変性させるためにSDSが含まれていることが好ましい。また、ポリヌクレオチドの転写を行う場合、変性剤としてはNaOH等のアルカリ塩を用いることができる。具体的には、これに限定されるものではないが、例えば、Tris/グリシン系緩衝液、酢酸緩衝溶液、炭酸ナトリウム系緩衝液、CAPS緩衝液、Tris/ホウ酸/EDTA緩衝液、Tris/酢酸/EDTA緩衝液、MOPS、リン酸緩衝液、Tris/トリシン系緩衝液等の緩衝液を用いることができる。
【0036】
カソード電極101は、導電性を有する素材で形成されていればよく、用いられる電解液に接触させても劣化しない素材が好ましく、具体的には、これらに限られるものではないが、白金、銅、亜鉛等から形成することができる。
【0037】
一方、アノード電極104は、鉄から形成されている。なお、アノード電極104の全部が鉄であってもよいが、これに限られず、少なくとも鉄が緩衝液と接触するように当該鉄を含んで形成されればよい。例えばアノード電極104は、その表面部分のみが鉄であってもよいし、鉄が絶縁体上にストライプ状を形成するように構成されてもよい。また例えばアノード電極104の材質は、鉄を含む合金であってもよい。
【0038】
鉄は、緩衝液に溶解せず、酸化反応に伴い気体を生成することがない物質であり、酸化反応に伴い不動体を形成することはなく、水の電気分解時のアノード電位よりも低い電位でアノード反応が起こるものである。
【0039】
アノード電極104およびカソード電極の形状は例えば板状に形成されていればよい。
【0040】
転写装置100を用いて転写を行う際には、カソード電極101とアノード電極104との間に、試料を含んだゲル102と転写膜103とを重ねて配置する。この際、ゲル102をカソード電極101側に配置し、転写膜103をアノード電極104側に配置することが好ましい。次いで、カソード電極101とアノード電極104との間に緩衝液を供給して、上記電極間に電圧を印加する。印加する電圧は、転写すべき試料に応じて適宜設定すればよい。電極間に電圧が印加されると、ゲル102中の試料は電気泳動されて、転写膜103へと移動し、転写が行われる。
【0041】
転写時、アノード電極104は犠牲酸化剤として働き、アノード電極104において緩衝液が電気分解されることを抑制する。これによって、アノード電極104において、緩衝液の電気分解に起因する酸素の発生を抑制することができる。ひいては、アノード電極104と転写膜との間に存在する気泡が絶縁体の役割を果たして電位分布が乱れることを抑制することができる。
【0042】
なお、従来技術による転写装置では、カソード電極とゲルとの間およびアノード電極と転写膜との間にろ紙を挟んでおり、ろ紙によって電極に発生する気泡を吸収している。
【0043】
これに対して、本発明に係る転写装置100では、ろ紙等の気泡を吸収する手段を用いずとも、十分に転写効率を向上させることが可能である。よって、転写装置100によれば、ろ紙を転写装置に配置するという手間が省略されるため、良好な転写結果を簡便に得ることができる。
【0044】
また、電極間にゲルや転写膜を重ね合わせて転写のための配置を組み立てる際、ろ紙を挟む場合に比べて、上記組み立てによって電極間に含まれてしまう気泡の量を減少させることができる。
【0045】
転写後、アノード電極104は酸化された状態となるため、次回分の転写時には、転写装置100におけるアノード電極104のみを交換してもよい。
【0046】
(電気泳動兼転写装置)
一実施形態において、本発明に係る転写装置100は、電気泳動兼転写装置に用いることができる。
【0047】
図2は、本実施形態に係る転写装置120の概略構成を示す図である。転写装置120は、分離媒体を搬送せずに、同じ位置で、電気泳動および転写の両方を行うものである。
【0048】
図2に示すように、転写装置120は、本発明に係る転写装置100の構成、すなわちカソード電極101およびアノード電極104を備えている。また、転写装置120は、電極106を備えた緩衝液槽108、および電極107を備えた緩衝液槽109を備えている。
【0049】
ここで、電極106および107は第1電圧印加手段を構成しており、カソード電極101およびアノード電極104は第2電圧印加手段を構成している。図2に示すように、第1電圧印加手段の電圧を印加する方向(第1方向)は、第2電圧印加手段の電圧を印加する方向(第2方向)と直交している。
【0050】
また、カソード電極101およびアノード電極104は、分離部111と、結線部112との領域に分割されている。分離部111では、カソード電極101およびアノード電極104が、ゲル102および転写膜103を保持している。また、結線部112では、結線器具110が、カソード電極101およびアノード電極104の電源へ接続および非接続を切り替えている。
【0051】
転写装置120では、第1電圧手段および第2電圧手段のそれぞれの電源への接続を制御し、まず、第1電圧印加手段のみを用いてゲル102中の試料を第1方向へ分離した後、第2電圧印加手段のみを用いてゲル102中の分離された試料を転写膜103へと転写することができる。
【0052】
転写装置120において、カソード電極101およびアノード電極104は、互いに絶縁され、第1方向に沿って平行に並べられた複数の帯状に形成されること、すなわちストライプ状に形成されることが好ましい。これによって、第1電圧印加手段が電極106および107の間に電圧を印加した場合であっても、上記複数の電極領域は、互いに絶縁されているので、それぞれ異なる電位を有することができ、第1方向に沿って並べられているので、第1方向へ電位勾配を形成することができる。このように、電極106および107は、第2方向への電気泳動を妨害しない。
【0053】
また、転写の際には、上記複数の電極領域が適当な結線器具110によって接続されることによって、第2電圧印加手段がカソード電極101およびアノード電極104の間に電圧を印加することができる。
【0054】
本実施形態に係る転写装置120では、転写のためにゲル102および転写膜103をろ紙で挟む必要がないため、当該ろ紙によって第1電圧手段による電気泳動が阻害されることながない。したがって、転写装置120によれば、電気泳動および転写の両方を好適に行うことができる。
【0055】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0056】
また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【実施例】
【0057】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0058】
〔実施例1〕
実施例1として、カソード電極101にはPMMA板を基盤としたPtスパッタ電極(Ptスパッタ電極)を用い、アノード電極104には0.5mm厚の鉄板電極を用いて、転写装置100を製造した。実施例1の構造を図2に示している。
【0059】
比較例1として、カソード電極201およびアノード電極204にPtスパッタ電極を用いて転写装置200を製造した。比較例1の構造を図3に示している。比較例1では、ゲル202とカソード電極201との間、および転写膜203とアノード電極204との間にろ紙206を配置した。ろ紙206はゲル202と同じサイズであり、1×TGSに浸したものを用いた。
【0060】
比較例2として、カソード電極301およびアノード電極304にPtスパッタ電極を用いて転写装置300を製造した。比較例1の構造を図3に示している。比較例2は、転写装置300にろ紙を配置しない以外は、比較例1と同様の構成である。
【0061】
上述の実施例1、比較例1、および比較例2の転写装置をそれぞれ用いて、以下に説明する転写を行った。
【0062】
(試料)
転写のための試料としてSeeBlue(登録商標)Pre−Stained Standard(invitrogen)を用いた。
【0063】
(電気泳動:転写前のゲルの調整)
超音波圧溶着機で溶着した全自動二次元電気泳動装置用溶着チップに、調整した分離ゲル溶液(13%アクリルアミドミックス(アクリルアミド:ビスアクリルアミド=29.2:0.8)、375mM Tris−HCl(pH8.8)、0.05%APS、0.1%TEMED)を添加し、7ウェルコームで蓋をした。
【0064】
ゲルが重合した後、試料と0.25%アガロース(ReadyPrep Overlay Agarose、BIO−RAD)を1:1で混合し、1ウェルあたり15μlを添加して垂直状態のまま約15分間4℃で冷した。試料がゲル化した後、POWER PAC 3000(BIO−RAD)を電源として、定電流20mA設定で約30分間泳動した。
【0065】
また、電気泳動緩衝液組成には25mM Tris、192mM グリシンおよび0.1%SDSを用いた。
【0066】
(転写)
電気泳動が終了した全自動二次元電気泳動装置用溶着チップからゲルを取り出し、48mm×48mmに切り出した。同サイズの1×TGSに浸した孔径0.45μmセルロースメンブレン(Membranfilter porafil(商標登録) membrane filters、MACHEREY−NAGEL)と重ね、ゲルが潰れないように1mmのスペーサーを左右に置き、両面を電極で挟みさらにガラス板で挟み大型クリップで固定した。
【0067】
電源には、KX−100L(Regulated DC Power Supply、TAKASAGO)を用いて、Step1:1V、600sec、Step2:2V、600sec、およびStep3:5V、2400secを設定した。電流電圧値をKEITHLEY 2000 MULTIMETERでモニタリングしながら転写を行なった。
【0068】
(検出)
転写終了後のゲルを撮影した。実施例1、比較例1、および比較例2の転写装置による転写結果をそれぞれ図5〜図7に示す。
【0069】
図5は、実施例1による転写結果を示す図である。図6は、比較例1による転写結果を示す図である。比較例2による転写結果を示す図である。
【0070】
図5〜図7を比較すると、実施例1によれば、ろ紙を用いずとも良好に転写が行われていることが分かった。なお、図5に示すように、実施例1の結果では、アノード電極の鉄に起因するさびが外周部分の狭い領域に付着していたが、中央部には、さびは付着していない。
【0071】
〔実施例2〕
次に、電極としてストライプ電極(互いに平行な複数の帯状導電体を備えた電極)を用いた場合について実施した。ストライプ電極は、以下の手順および条件で作製した。
【0072】
(ストライプ電極の作製)
スパッタ装置(CFS−4EP−LL、芝浦メカトロニクス)を用いて、48mm×66mmのPMMA板(厚さ3mm)上に電極を成膜した。続いて、CO2レーザー彫刻機(Trotec 8010 Speedy 100 C25、Trotec Co.)を用いて、成膜した上記電極を加工して、導電体の幅が約300μm、導電体同士の間隔が約100μmである互いに平行な複数の帯状の導電体を形成することにより、ストライプ電極を作製した。切断(加工)条件は、レーザーパワーを5.5%、加工スピードを20.0%、1000PPIとした。
【0073】
実施例2として、カソード電極401にはPMMA板上に互いに平行な複数の白金の帯状導電体を形成した電極(Ptストライプ電極)を用い、アノード電極104にはPMMA板上に互いに平行な複数の鉄の帯状導電体を形成した電極(Feストライプ電極)を用いて、転写装置400を製造した。実施例2の構造を図9に示している。
【0074】
比較例3として、カソード電極501およびアノード電極504にPtストライプ電極を用いて転写装置500を製造した。比較例3の構造を図10に示している。比較例3では、ゲル502とカソード電極501との間、および転写膜503とアノード電極504との間にろ紙506を配置した。ろ紙506はゲル502と同じサイズであり、1×TGSに浸したものを用いた。
【0075】
比較例4として、カソード電極601およびアノード電極604にPtスパッタ電極を用いて転写装置600を製造した。比較例4の構造を図11に示している。比較例4は、転写装置600にろ紙を配置しない以外は、比較例3と同様の構成である。
【0076】
上述の実施例2、比較例3、および比較例4の転写装置をそれぞれ用いて、実施例1、比較例1、および比較例2と同様の手順および条件で転写を行った。ただし、電圧の設定は、Step1:2V、600sec、Step2:4V、600sec、およびStep3:10V、2400secとした。
【0077】
図12は、実施例2による転写結果を示す図である。図13は、比較例3による転写結果を示す図である。図14は、比較例4による転写結果を示す図である。
【0078】
図12〜図14を比較すると、実施例2における試料の転写量は、比較例3ほどではないにしても、比較例4に比べれば、特に、低分子タンパク質(ゲル下部)において、転写量が多くなっていた。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、例えば、生命科学の研究のための器具等の製造分野において利用可能である。
【符号の説明】
【0080】
100 転写装置
101 カソード電極
102 ゲル
103 転写膜
104 アノード電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分離媒体および転写膜を格納し、上記分離媒体に緩衝液を介して電流を流すことによって上記分離媒体中の被転写物質を上記転写膜上へ転写する、ろ紙を不要とした転写装置であって、
上記電流を流すための一対の電極であるアノード電極およびカソード電極を備えており、
上記アノード電極は、少なくとも一部が鉄を含有していることを特徴とする転写装置。
【請求項2】
上記アノード電極における上記転写膜に接する面が、鉄から構成されていることを特徴とする請求項1に記載の転写装置。
【請求項3】
上記アノード電極は、鉄から構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の転写装置。
【請求項4】
上記アノード電極および上記カソード電極の少なくともいずれか一方が、板状に形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の転写装置。
【請求項5】
上記アノード電極および上記カソード電極の少なくともいずれか一方が、互いに平行な複数の帯状に形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の転写装置。
【請求項6】
分離媒体および転写膜を格納し、上記分離媒体に緩衝液を介して電流を流すことによって上記分離媒体中の被転写物質を上記転写膜上へ転写する、ろ紙を不要とした転写方法であって、
上記電流を流すための一対の電極のうち、一方の電極であるアノード電極は、少なくとも一部が鉄から構成されていることを特徴とする転写方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−216862(P2010−216862A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61412(P2009−61412)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】