説明

アイソレーター装置

【課題】簡単な構造を有して高い安全性を確保することのできるアイソレーター装置であって、無菌アイソレーターとして高度な無菌・無塵状態を維持できると共に、封じ込めアイソレーターとして化学物質や微生物等の外部環境への漏洩を高度に防止することのできるアイソレーター装置を提供する。
【解決手段】作業室と、作業室の内部に上方から下方に向かう一方向流の空気を給気する給気手段と、作業室の下方から一方向流の空気を排気する排気手段とを備えており、更に、上記一方向流の空気に沿って作業室の周壁部に並行に設けられる隔壁と、作業室の底壁部に形成されて隔壁の下端部の下方に当該下端部の幅方向に沿って開口する長手状の排気口とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイソレーター装置に関するものであり、更に詳しくは、内部を無菌状態に保つ作業にも、また、内部で人体に影響を及ぼす物質を取り扱う作業にも使用できるアイソレーター装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
清浄な雰囲気で行われる作業、例えば、半導体や電子部品の製造段階の作業、或いは、医薬品の製造段階の作業においては、外部環境から汚染物質が入り込まないように内部を無菌・無塵状態に保った清浄な作業環境で作業が行われる。かかる作業を行う作業環境が小規模な場合には、外部環境から密閉されたチャンバーなどを使用し、作業者がこのチャンバーの外部からグローブやハーフスーツを介して作業をすることのできるアイソレーター装置が利用される。このようなアイソレーター装置は、特に無菌アイソレーターと呼ばれている。
【0003】
一方、人体に影響を及ぼす物質を取り扱う作業、例えば、医薬品の製造段階の作業、医学や生物学の分野において毒性の強い微生物を取り扱う作業、或いは、放射性物質を取り扱う作業などにおいては、人体に影響を及ぼす化学物質や微生物等の汚染から作業者を保護し、また、これらの人体に影響を及ぼす化学物質や微生物等が作業環境から外部環境に漏洩することを防止する必要がある。かかる作業においても、外部環境から密閉されたチャンバーの外部からグローブやハーフスーツを介して作業をすることのできるアイソレーター装置が利用される。このようなアイソレーター装置は、特に封じ込めアイソレーターと呼ばれている。
【0004】
アイソレーター装置は、作業者が作業を行う外部環境とは気密的に遮蔽されており、また、外部の空気をフィルタで清浄化してチャンバー内に供給すると共にチャンバー内の空気をフィルタで清浄化して外部に排気する。従って、このようなアイソレーター装置は、基本的には無菌アイソレーターとしても封じ込めアイソレーターとしても使用できる。
【0005】
また、アイソレーター装置を使用する場合には、目的に応じてチャンバー内の空気圧を調整することにより更に安全性を向上することができる。すなわち、無菌アイソレーターとして使用するときには、チャンバー内を外部の空気圧より高圧(以下、陽圧という)として、仮にチャンバーからの漏洩が生じた場合にも空気はチャンバー側から外部へ流れるため、外部から浮遊菌等がチャンバー内に侵入しないようにしている。
【0006】
一方、封じ込めアイソレーターとして使用するときには、チャンバー内を外部の空気圧より低圧(以下、陰圧という)として使用することにより、仮にチャンバーからの漏洩が生じた場合にも空気は外部からチャンバー内へ流れるため、チャンバー内の化学物質等が外部環境を汚染することがないようにしている。
【0007】
しかし、アイソレーター装置には、外部からチャンバー内を視認できるガラス窓、作業者が作業を行うグローブ、及び、チャンバー内への機器の搬入やメンテナンスを行うための開閉扉などが設けられている。従って、アイソレーター装置のチャンバーを気密的に完璧に遮蔽することは困難であり、アイソレーター装置の作動中に遮蔽性が破壊されることも考えられる。更に、チャンバー内の空気圧を調整しても、外部の空気圧の変動など様々な要因により常に圧力差を設けることにも限界がある。
【0008】
このようにして、アイソレーター装置に何らかの漏洩が生じると、無菌アイソレーターにおいては、チャンバー内の無菌・無塵状態が維持できず、また、封じ込めアイソレーターにおいては、チャンバー内で取り扱われている化学物質や微生物等が外部環境へ漏洩することとなる。
【0009】
このような危険性を回避する方法として、下記特許文献1においては、チャンバーに設けられた接合部の内周縁にチャンバー内及び外部に対して共に陰圧となる陰圧空気吸入路を設置して、接合部の内周縁を通過する空気を陰圧空気吸入路で吸引するようにしたアイソレーター装置の清浄維持装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−346418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、上記特許文献1に提案されているアイソレーター装置の清浄維持装置は、高度な無菌・無塵状態を維持することを目的とした無菌アイソレーターを提供するものであり、封じ込めアイソレーターを提供することを目的としていない。また、この清浄維持装置において高度な安全性を維持するためには、アイソレーター装置の全ての接合部にそれぞれ陰圧空気吸入路を設ける必要があり、装置の構造が複雑となると共に装置のメンテナンスコストが高くなるという問題があった。
【0012】
また、上記特許文献1の明細書中には、上記清浄維持装置を具備したダブルウォール型のアイソレーター装置が提案されており、このアイソレーター装置は、装置筐体との間に間隙を形成する内壁を設けて空気の周回路とし、この周回路に上昇気流を形成して、外部から汚染空気が侵入しても周回路により遮断され、シールド性が更に向上するとしている(同文献明細書段落番号0030〜0031)。
【0013】
このダブルウォール型のアイソレーター装置は、無菌アイソレーターに適用されるものであって、周回路に流れる空気は装置内から吸引されたものであって、装置内の空気中に化学物質等が含まれている封じ込めアイソレーターに適用することはできない。
【0014】
そこで、本発明は、上記の諸問題に対処して、簡単な構造を有して高い安全性を確保することのできるアイソレーター装置であって、無菌アイソレーターとして高度な無菌・無塵状態を維持できると共に、封じ込めアイソレーターとして化学物質や微生物等の外部環境への漏洩を高度に防止することのできるアイソレーター装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題の解決にあたり、本発明者らは、鋭意研究の結果、ダブルウォール型アイソレーター装置において、チャンバー内に設ける隔壁と、チャンバー内を流れる空気の流れと、チャンバーに設ける排気口の位置との関係を検討することにより、本発明の目的を達成できることを見出して本発明の完成に至った。
【0016】
即ち、本発明に係るアイソレーター装置は、請求項1の記載によれば、
作業室(10)と、
上記作業室の内部に上方から下方に向かう一方向流の空気を給気する給気手段(20)と、
上記作業室の下方から上記一方向流の空気を排気する排気手段(30)とを備えるアイソレーター装置において、
上記一方向流の空気に沿って上記作業室の周壁部(10a)に並行に設けられる隔壁(11a)と、
上記作業室の底壁部(10e)に形成されて上記隔壁の下端部の下方に当該下端部の幅方向に沿って開口する長手状の排気口(18a、18b)とを備えていることを特徴とする。
【0017】
上記構成によれば、作業室の内部には、給気手段によって上方から下方に向かう一方向流(いわゆる層流)の空気が給気されている。この作業室の内部には、上記一方向流の空気の流れに沿う方向に隔壁が設けられている。この隔壁は、作業室の周壁部に並行に形成されて、作業室の内部空間を隔壁から中央の空間(以下、中央空間という)と、隔壁と周壁部との間の空間(以下、周辺空間という)とに区分けしている。従って、作業室内を上方から下方に向かう一方向流の空気は、中央空間を上方から下方に向かう一方向流の空気と、周辺空間を上方から下方に向かう一方向流の空気とに分かれて流れることとなる。
【0018】
また、作業室の底壁部に設けられる排気口は、隔壁の下端部の下方、すなわち、上記各一方向流の空気の下流側にあって、当該下端部の幅方向に沿って長手状に開口している。このことにより、中央空間及び周辺空間を上方から下方に流れる各一方向流の空気は、流れる方向が変化することがないので、その層流状態を乱すことなく上記排気口から排気される。
【0019】
上記構成によるアイソレーター装置で行われる作業は、中央空間で行われ、この中央空間と外部環境の間に周辺空間が形成されている。この状態において、中央空間及び周辺空間には、給気手段から供給された清浄な空気がそれぞれ独立して流れ、これらの空気は、それぞれ排気口から排気されている。
【0020】
従って、アイソレーター装置が無菌アイソレーターとして使用される場合には、外部環境から周辺空間に進入した浮遊菌等は、周辺空間を流れる清浄な一方向流の空気に沿って、排気口から排気される。このことにより、中央空間の無菌・無塵状態が汚染されることがなく、無菌アイソレーターの高度な安全性が維持できる。
【0021】
一方、アイソレーター装置が封じ込めアイソレーターとして使用される場合には、中央空間から周辺空間に漏洩した化学物質等は、周辺空間を流れる清浄な一方向流の空気に沿って、排気口から排気される。このことにより、化学物質等が外部環境に漏洩することがなく、封じ込めアイソレーターの高度な安全性が維持できる。
【0022】
よって、本発明は、簡単な構造を有して高い安全性を確保することのできるアイソレーター装置であって、無菌アイソレーターとして高度な無菌・無塵状態を維持できると共に、封じ込めアイソレーターとして化学物質や微生物等の外部環境への漏洩を高度に防止することのできるアイソレーター装置を提供することができる。
【0023】
また、本発明は、請求項2の記載によれば、請求項1に記載のアイソレーター装置であって、
上記周壁部に対向する他の周壁部(10b)に並行に設けられる他の隔壁(11b)と、
上記作業室の上記底壁部に形成されて上記他の隔壁の下端部の下方に当該下端部の幅方向に沿って開口する長手状の他の排気口(18c、18d)とを備えていることを特徴とする。
【0024】
上記構成によれば、アイソレーター装置の対向する2つの周壁部にそれぞれ並行に隔壁が設けられ、各隔壁の下端部の下方にそれぞれ排気口が開口している。このことにより、中央空間を上方から下方に向かう一方向流の空気は、対向する方向に開口する2つの排気口にそれぞれ分かれて排気されることとなり、作業室内の空気がより安定して流れ排気口から排出される。
【0025】
よって、請求項2に記載の発明においても、請求項1に記載の発明と同様の作用効果をより一層達成することができる。
【0026】
また、本発明は、請求項3の記載によれば、請求項1又は2に記載のアイソレーター装置であって、
上記排気口は、上記下端部の直下或いは直下より上記作業室の中央寄りに開口していることを特徴とする。
【0027】
上記構成によれば、排気口は、隔壁の下端部の直下或いは直下より中央空間寄りに開口している。上述のように、中央空間は、作業が行われる空間であり、当然、周辺空間より大きな容積を占めている。従って、中央空間を流れる空気の流量は、周辺空間を流れる空気の流量より多く、排気口が隔壁の下端部の直下或いは直下より中央空間寄りに開口することにより、作業室内の空気がより安定して流れ排気口から排出される。
【0028】
よって、請求項3に記載の発明においても、請求項1又は2に記載の発明と同様の作用効果をより一層達成することができる。
【0029】
また、本発明は、請求項4の記載によれば、請求項1〜3のいずれか1つに記載のアイソレーター装置であって、
上記排気口は、上記隔壁に対して、それぞれ、1つ又は2つ以上の開口部から構成されており、
上記1つ又は2つ以上の開口部の長手方向の開口長さの総和は、上記下端部の幅方向の長さに対して、50%〜100%の割合にあることを特徴とする。
【0030】
上記構成によれば、各隔壁に設けられる排気口は、1つの開口部から構成されてもよく、また、2つ以上の開口部に分かれて構成されてもよい。更に、これらの開口部の長手方向の開口長さの総和が、所定の長さ以上あることがよい。このことにより、隔壁に沿って流れてきた空気は、その方向を大きく変えることなくより安定して流れ排気口から排出される。
【0031】
よって、請求項4に記載の発明においては、請求項1〜3のいずれか1つに記載の発明と同様の作用効果をより一層達成することができる。
【0032】
また、本発明は、請求項5の記載によれば、請求項1〜4のいずれか1つに記載のアイソレーター装置であって、
上記給気手段は、上記一方向流の空気を形成する整流部材(23)を有して、
上記整流部材は、複数本の枠材(24a)からなる枠体(24)と、この枠体の上面及び底面を被覆するように上記枠材に固着される多孔性シート(25a、25b)とを備えており、
上記枠材は、その上面から底面にかけて貫通する複数の貫通口(24b)を具備し、
上記多孔性シートは、上記枠材に当接して当該枠材に固着される部分において、上記貫通口の開口部であって上記枠材の上面開口部或いは底面開口部のうち、いずれか一方の開口部のみを被覆することを特徴とする。
【0033】
上記構成によれば、給気手段は、枠体とこの枠体の上面及び底面を被覆する多孔性シートとからなる整流部材を有している。給気手段により作業室の内部に供給される空気は、この整流部材のうち多孔性シートの部分(整流部材の中央部分)を通過することができるので、その流れが整えられ作業室の内部を上方から下方に向かう一方向流の空気を形成する。
【0034】
一方、整流部材のうち枠体の部分(整流部材の周縁部分)は、空気を通過させることができない。これでは、作業室の内部空間全体に均一な一方向流の空気を供給することが難しくなることが考えられる。そこで、枠体を構成する枠材には、その上面から底面にかけて貫通する複数の貫通口を設けるようにする。このことにより、枠材を貫通した貫通口の部分からも空気を供給することができる。
【0035】
しかし、枠材に複数の貫通口を設けても、枠材の貫通口が開口しない部分からは空気は通過しない。そこで、枠材全体からの空気の流量(みかけの流量)は、貫通口の部分からの空気の流量と等しくなる。そこで、整流部材の中央部分と周縁部分(貫通口の部分)との多孔性シートの被覆枚数に差を与えるようにする。すなわち、整流部材の中央部分には、上面及び底面の二か所に多孔性シートを被覆し、一方、周縁部分(貫通口の部分)には、上面開口部或いは底面開口部のいずれか一方にのみ多孔性シートを被覆するようにする。
【0036】
このことにより、貫通口の部分の空気の通過抵抗は、整流部材の中央部分の空気の通過抵抗より小さくなり、貫通口の部分の空気の流速が中央部分の空気の流速より大きくなる。その結果、貫通口の部分の空気の流量が中央部分の空気の流量より多くなる。従って、整流部材の中央部分の空気の流量と周縁部分の空気の流量(みかけの流量)の差が小さくなり、整流部材を通過する空気は、整流部材全体から作業室の内部を上方から下方に向かう一方向流の空気となって更に安定して流れることとなる。
【0037】
よって、請求項5に記載の発明においては、請求項1〜4のいずれか1つに記載の発明と同様の作用効果をより一層達成することができる。
【0038】
また、本発明は、請求項6の記載によれば、請求項5に記載のアイソレーター装置であって、
上記多孔性シートは、表裏を連通する無数の細孔を有するスクリーン紗であることを特徴とする。
【0039】
上記構成によれば、多孔性シートは、その表裏を連通する無数の細孔を有している。このことにより、整流部材を通過する空気は、これらの細孔によってその流れを整えられて、安定した一方向流の空気を形成する。
【0040】
よって、請求項6に記載の発明においては、請求項5に記載の発明と同様の作用効果をより一層達成することができる。
【0041】
また、本発明は、請求項7の記載によれば、請求項5又は6に記載のアイソレーター装置であって、
上記整流部材に所定量の空気を供給したときに、当該整流部材を通過して流れる空気において、
上記上面開口部或いは上記底面開口部のうち上記多孔性シートが被覆して当該多孔性シートが一重となっている部分を通過する空気の流速をV1とし、
上記多孔性シートが上記枠材に当接することなく当該多孔性シートが二重となっている部分を通過する空気の流速をV2としたときに、
上記枠材の上面或いは底面の面積に対する上記多孔性シートが被覆する上記開口部の開口率X(%)が下記の式、
X=(V2/V1)×100
で示されるように、上記枠材に上記貫通口を開口してなることを特徴とする。
【0042】
上記構成によれば、枠材に設ける貫通口の開口率X(%)が上記の式で求められる。このことにより、整流部材を設計する際に、多孔性シートが一重の部分の空気の流速と多孔性シートが二重の部分の空気の流速とを測定することにより、整流部材の中央部分の空気の流量と周縁部分の空気の流量(みかけの流量)とをより正確に調整することができる。その結果、整流部材を通過する空気は、整流部材全体から作業室の内部を上方から下方に向かう一方向流の空気となって更に安定して流れることとなる。
【0043】
よって、請求項7に記載の発明においては、請求項5又は6に記載の発明と同様の作用効果をより一層達成することができる。
【0044】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係るアイソレーター装置の一実施形態の内部を側面から見た概要図である。
【図2】図1に示すアイソレーター装置の内部を上面から見た概要図である。
【図3】従来のダブルウォール型アイソレーター装置の内部を側面から見た概要図である。
【図4】図1に示すアイソレーター装置の排気口に空気が吸引される様子を示す概要図である。
【図5】排気口に空気が吸引される様子を側面から見た概要図であって、(A)は排気口が隔壁の真下よりチャンバーの中央寄りに開口する場合を示し、(B)は排気口が隔壁の真下に開口する場合を示す。
【図6】排気口がチャンバーの側壁に開口する場合に空気が吸引される様子を側面から見た概要図である。
【図7】図1に示すアイソレーター装置の整流板の構造を示す分解斜視図である。
【図8】図1の円形部分Eで示す整流板の取付け部を拡大した部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明に係るアイソレーター装置の一実施形態を図面に従って説明する。図1は、本発明に係るアイソレーター装置の内部を側面から見た概要図であって、アイソレーター装置Aは、床面上に載置される架台Bと、この架台Bの上に乗載されるアイソレーター本体Cとにより構成されている。
【0047】
架台Bは、周囲をステンレス製金属板からなる壁材で覆われ、その内部には、4つ(2つのみ図示)の排気用一次フィルタユニット31(後述する)と、電装及び機械室(図示せず)が収納されている。
【0048】
アイソレーター本体Cは、チャンバー10と、給気機構20と、排気機構30とを備えている。
【0049】
チャンバー10は、ステンレス製金属板で構成された箱体からなり、制限された吸気口及び排気口を除き作業者Dが作業を行う外部環境とは気密的に遮蔽されている。このチャンバー10は、内部を洗浄する洗浄液用スプレーノズル及び排水溝(いずれも図示せず)を備えている。
【0050】
図2は、アイソレーター装置Aの内部を上面から見た概要図であって、チャンバー10の内部には、チャンバー10の前壁部10a及び背壁部10bのそれぞれ内側に両壁部10a、10bに並行にそれぞれ前隔壁11a及び背隔壁11bが配設されている。両隔壁11a、11bは、左右両端部をそれぞれ対向するチャンバー10の左右両側壁部10c、10dに当接するようにして当該両側壁部10c、10dにより支持されている。
【0051】
また、両隔壁11a、11bは、下方端部をそれぞれ対向するチャンバー10の底壁部10eと当接することなく一定の空間を設けている。更に、両隔壁11a、11bは、上方端部をそれぞれ対向するチャンバー10の上壁部10fの下方に設けられた整流板23(後述する)と当接することなく一定の空間を設けている(図1参照)。
【0052】
このように、チャンバー10の内部に設けられた両隔壁11a、11bによって、チャンバー10の内部空間12は、両隔壁11a、11bの間の空間(以下、中央空間12aという)と、両隔壁11a、11bと前後両壁部10a、10bとの間の2つの空間(以下、周辺空間12b、12cという)とに区分けされている。
【0053】
チャンバー10の前壁部10aには、透明なガラス窓13が設けられ、また、前壁部10aに並行に設けられた前隔壁11aにも、透明なガラス窓14が設けられている。このことにより、チャンバー10の前面に立った作業者Dは、ガラス窓13及びガラス窓14を介してチャンバー10の内部を視認することができる(図1参照)。
【0054】
前壁部10aに設けられたガラス窓13は、外部とチャンバー10の内部空間12とを連通させる2つの作業用開口部13aを有している。また、前隔壁11aに設けられたガラス窓14は、作業用開口部13aと対向する位置に中央空間12aと周辺空間12bとを連通させる2つの補助開口部14aを有している。各作業用開口部13aには、それぞれ樹脂製のグローブ15の基端部が取付枠13bにより気密的に取り付けられ、更に、これらのグローブ15は、補助枠14bにより各補助開口部14aにも取付けられて先端部を中央空間12aに挿入されている(図2参照)。
【0055】
チャンバー10の左側壁部10cの外側には、架台Bに収納された4つの排気用一次フィルタユニット31と連通するダクト16がチャンバー10の左側面に沿って上方に向けて設けられている(図2参照)。
【0056】
また、チャンバー10の底壁部10eには、各隔壁11a、11bの下端部の下方にそれぞれ2つずつの排気口18a〜18dが開口している(図2参照)。これらの排気口18a〜18dは、各隔壁11a、11bの下端部の幅方向に沿って長手状に設けられ、各隔壁11a、11bの下端部の直下より中央寄りの位置、すなわち、中央空間12a寄りに形成されている。
【0057】
給気機構20は、外気をチャンバー10内に供給するための給気用ブロワー21と、この給気用ブロワー21から供給された空気を濾過するための給気用フィルタユニット22と、チャンバー10の内部にあって給気用フィルタユニット22で濾過された空気を整流してチャンバー10内に給気するための整流板23とを備えている(図1参照)。
【0058】
給気用ブロワー21は、給気用フィルタユニット22の上壁部に開口する一次吸気口22a(図示せず)を介して給気用フィルタユニット22の外部側に接続している。この給気用ブロワー21から排出された空気は、給気用フィルタユニット22の内部空間に供給される。
【0059】
給気用フィルタユニット22は、チャンバー10の上壁部10fに開口する二次吸気口17を介してチャンバー10の上部に設けられている。この給気用フィルタユニット22は、給気用ブロワー21から供給された空気を濾過するためのHEPAフィルタ22bを二次吸気口17に面して備えている。このHEPAフィルタ22bで清浄化された空気は、HEPAフィルタ22bの下部にあってチャンバー10の内部空間12の上部に全面に亘って設けられた整流板23を介してチャンバー10の内部空間12に給気される(図1参照)。
【0060】
整流板23は、その表面に表裏を連通する無数の細孔を具備しており、チャンバー10に供給される空気の流れを均一化する。このことにより、HEPAフィルタ22bから給気される空気は、整流板23を介してチャンバー10の内部空間12を上方から下方に向かう一方向流(いわゆる層流)の空気を形成する。
【0061】
排気機構30は、チャンバー10の内部空間12の空気を清浄化するための排気用一次フィルタユニット31と排気用二次フィルタユニット32と清浄化された空気をチャンバー10の外部に排気するための排気用ブロワー33とを備えている。
【0062】
排気用一次フィルタユニット31は、上述のように、架台Bに4つ収納されて、チャンバー10の底壁部10eに開口する4つの排気口18a〜18d(図2参照)を介してそれぞれチャンバー10と連通している。この排気用一次フィルタユニット31は、排気口18a〜18dから排気された空気を濾過するためのHEPAフィルタ31aを備えている。また、この排気用一次フィルタユニット31には、架台Bの前面及び背面に内部のHEPAフィルタ31aを交換するための開閉扉31bが密封的かつ開閉可能に設けられている(図1参照)。
【0063】
排気用二次フィルタユニット32は、チャンバー10の上部にあって給気用フィルタユニット22の前部に設けられて、ダクト16を介して排気用一次フィルタユニット31と連通している。この排気用二次フィルタユニット32は、排気用一次フィルタユニット31で濾過された空気を更に濾過するためのHEPAフィルタ32aを備えている。また、この排気用二次フィルタユニット32は、内部のHEPAフィルタ32aを交換するための開閉扉32bを密封的かつ開閉可能に設けている(図1参照)。
【0064】
排気用ブロワー33は、排気用二次フィルタユニット32の上部開口部に連通して排気用二次フィルタユニット32の上壁部に設けられている。この排気用ブロワー33は、排気用一次フィルタユニット31及び排気用二次フィルタユニット32で濾過された清浄な空気をチャンバー10の外部に排気する。
【0065】
ここで、上述のように構成した本実施形態に係るアイソレーター装置Aにおいて、作動中における空気の流れを説明する。
【0066】
まず、給気用ブロワー21及び排気用ブロワー31が作動すると、上述のように、給気用ブロワー21から排出された空気は、給気用フィルタユニット22の内部空間で圧力が均一化されHEPAフィルタ22bに供給される。このHEPAフィルタ22bで清浄化された空気は、整流板23を介してチャンバー10の内部空間12を上方から下方に向かう一方向流の空気を形成する。この整流板23の構造及び作用については後述する。
【0067】
図1にチャンバー10内の空気の流れを矢印にて記述する。図1において、整流板23を介して下方に供給される清浄化された空気のうち大部分の空気は、チャンバー10の内部空間12のうち中央空間12aを通り、上方から下方に向かう一方向流の空気を形成する。このことにより、作業者Dがグローブ15を介して作業を行う中央空間12aの空気は、上方から下方に向かう一方向流に沿ってチャンバー10の底壁部10eに開口する排気口18a〜18dから排出される。
【0068】
従って、アイソレーター装置Aが無菌アイソレーターとして使用される場合には、中央空間45aの無菌・無塵の空気が排気口18a〜18dから排出される。一方、アイソレーター装置Aが封じ込めアイソレーターとして使用される場合には、中央空間12a内での作業で使用される化学薬品等を含有した空気が排気口18a〜18dから排出される。
【0069】
また、整流板23を介して下方に供給される清浄化された空気のうち他の空気は、チャンバー10の内部空間12のうち周辺空間12b、12cを通り、上方から下方に向かう一方向流の空気を形成する。この周辺空間12b、12cは、隔壁11a、11bにより中央空間12aと区分けされており、作業者Dによる作業が行われることがない。
【0070】
従って、アイソレーター装置Aが無菌アイソレーターとして使用される場合だけでなく、封じ込めアイソレーターとして使用される場合にも、この周辺空間12b、12cには常に清浄な空気が流れている。この周辺空間12b、12cを流れる清浄な空気は、上方から下方に向かう一方向流に沿ってチャンバー10の底壁部10eに開口する排気口18a〜18dから排出される。このような状態において、チャンバー10内の中央空間12a及び周辺空間12b、12cは、外部に対して常に陽圧を維持している。
【0071】
このように構成された本実施形態に係るアイソレーター装置において、隔壁及び排気口の作用効果について説明する。
(隔壁の作用効果)
まず、アイソレーター装置Aを無菌アイソレーターとして使用する場合を考える。チャンバー10の前壁部10aに設けられた接合部、例えば、作業用開口部13aに設けられた取付枠13bから漏れが生じて外部からチャンバー10内に浮遊菌等が侵入した場合、この浮遊菌等は、周辺空間12bを上方から下方に向かう清浄な空気に沿ってチャンバー10の底壁部10eに開口する排気口18a、18bから排出される。このとき、周辺空間12bは、隔壁11aによって中央空間12aと区分けされており、取付枠13bの漏れから侵入した浮遊菌等は、無菌・無塵状態で作業が行われる中央空間12aに侵入することはない。
【0072】
また、同様にアイソレーター装置Aを無菌アイソレーターとして使用する場合において、隔壁11aに設けられた接合部、例えば、補助開口部14aに設けられた補助枠14bから漏れが生じた場合、周辺空間12bを上方から下方に向かう一方向流の空気は、常に清浄な空気であり、補助枠14bの漏れから中央空間12aに空気が漏洩したとしても無菌・無塵状態が汚染されることはない。
【0073】
一方、アイソレーター装置Aを封じ込めアイソレーターとして使用する場合を考える。隔壁11aに設けられた接合部、例えば、補助開口部14aに設けられた補助枠14bから漏れが生じて中央空間12aで使用される化学薬品等が周辺空間12bに漏洩した場合、この化学薬品等は、周辺空間12bを上方から下方に向かう清浄な空気に沿ってチャンバー10の底壁部10eに開口する排気口18a、18bから排出される。このとき、周辺空間12bは、チャンバー10の前壁部10aによって外部環境から気密的に遮蔽されており、補助枠14bから漏洩した化学薬品等は、外部環境を汚染することはない。
【0074】
また、同様にアイソレーター装置Aを封じ込めアイソレーターとして使用する場合において、チャンバー10の前壁部10aに設けられた接合部、例えば、作業用開口部13aに設けられた取付枠13bから漏れが生じた場合、周辺空間12bを上方から下方に向かう一方向流の空気は、常に清浄な空気であり、取付枠13bの漏れから外部環境に空気が漏洩したとしても外部環境が汚染されることはない。
【0075】
このように、本実施形態に係るアイソレーター装置Aは、無菌アイソレーターとしても封じ込めアイソレーターとしても、いずれの場合にも高度な安全性を確保することができる。
【0076】
ここで、本実施形態に係るアイソレーター装置Aの作用効果を明確にするために、従来のダブルウォール型アイソレーター装置の空気の流れについて説明する。図3は、従来型アイソレーター装置Fの内部を側面から見た概要図である。図3にチャンバー110内の空気の流れを矢印にて記述する。図3を図1と比較すると、両隔壁111a、111bの上端部をチャンバー110の上壁部110fに当接している。また、チャンバー110の底壁部110eには、排気口が設けられていない。
【0077】
このことにより、整流板123を介してチャンバー110内に供給される空気は、中央空間112aのみを上方から下方に向かう一方向流の空気を形成する。この中央空間112aのみを上方から下方に向かう一方向流の空気は、隔壁111a、111bの下端部で流れる方向を反転し、周辺空間112b、112cを下方から上方に流れ、排気用フィルタユニット131、132を介して排気用ブロワー133によって外部に排気される。
【0078】
この従来型アイソレーター装置Fを無菌アイソレーターとして使用する場合を考える。チャンバー110の前壁部110aに設けられた接合部、例えば、作業用開口部113aに設けられた取付枠113bから漏れが生じて外部からチャンバー110内に浮遊菌等が侵入した場合、この浮遊菌等は、中央空間112aから供給されて周辺空間112bを下方から上方に向かう清浄な空気に沿ってチャンバー110の上部前方に設けられた排気用フィルタユニット131、132へ排出される。このとき、周辺空間112bは、隔壁111aによって中央空間112aと区分けされており、取付枠113bの漏れから侵入した浮遊菌等は、無菌・無塵状態で作業が行われる中央空間112aに侵入することはない。このことが従来のダブルウォール型アイソレーター装置の作用効果である。
【0079】
また、同様に従来型アイソレーター装置Fを無菌アイソレーターとして使用する場合において、隔壁111aに設けられた接合部、例えば、補助開口部114aに設けられた補助枠114bから漏れが生じた場合、周辺空間112bを下方から上方に向かう一方向流の空気は、中央空間112aから供給された清浄な空気であり、補助枠114bの漏れから中央空間112aに空気が漏洩したとしても無菌・無塵状態が汚染されることはない。このことも従来のダブルウォール型アイソレーター装置の作用効果である。
【0080】
一方、従来型アイソレーター装置Fを封じ込めアイソレーターとして使用する場合を考える。チャンバー110の前壁部110aに設けられた接合部、例えば、作業用開口部113aに設けられた取付枠113bから漏れが生じた場合、周辺空間112bを下方から上方に向かう空気は、化学物質等を取り扱う中央空間112aから供給されている。すなわち、周辺空間112bを下方から上方に向かう空気は、常に化学物質等を含んでいる。このことにより、取付枠113bから漏れが生じた場合には、人体に有害な化学物質等が外部環境を汚染することとなる。従って、ダブルウォールの効果はなく、通常のシングルウォール型アイソレーター装置と変わることがないので、高度な安全性を確保することができない。
【0081】
このように、従来型アイソレーター装置Fは、無菌アイソレーターとして高度な安全性を確保できても、封じ込めアイソレーターとして高度な安全性を確保することができない。
(排気口の作用効果)
次に、チャンバー10の底壁部10eに開口する排気口18a〜18dの作用効果について説明する。本実施形態においては、上述のように、排気口18a〜18dは、チャンバー10の底壁部10eにあって、各隔壁11a、11bの下端部の直下より中央空間12a寄りに当該下端部の長さ方向に沿って設けられている。
【0082】
ここで、チャンバー10内から排気口18a〜18dに吸入される空気の流れを図4において説明する。隔壁11aの図示背面側(中央空間12a)を上方から下方に流れる空気a1、a2は、隔壁11aの図示背面側から排気口18aに吸引され、隔壁11aの図示手前側(周辺空間12b)を上方から下方に流れる空気b1、b2は、隔壁11aの図示手前側から排気口18aに吸引される。
【0083】
同様に、隔壁11aの図示背面側(中央空間12a)を上方から下方に流れる空気a3、a4は、隔壁11aの図示背面側から排気口18bに吸引され、隔壁11aの図示手前側(周辺空間12b)を上方から下方に流れる空気b3、b4は、隔壁11aの図示手前側から排気口18bに吸引される。
【0084】
このように、各排気口18a〜18dが各隔壁11a、11bの下端部の下方、すなわち、上方から下方に流れる一方向流の空気の下流側にあって、当該下端部の幅方向に沿って長手状に設けられていることにより、中央空間12a及び周辺空間12b、12cを上方から下方に向かう一方向流の空気は、流れる方向が変化することがないので、その層流状態を乱すことなく各排気口18a〜18dに吸引される。
【0085】
次に、チャンバー10の底壁部10eにおける排気口18a〜18dの位置について説明する。図5は、排気口18aにチャンバー10内の空気が吸引される様子を側面から見た概要図である。図5(A)では、排気口18aが隔壁11aの下端部の直下より中央空間12a寄りに開口している。この状態において、周辺空間12bを上方から下方に流れてきた空気c1は、その層流状態を乱すことなく排気口18aに吸引される。同様に、中央空間12aを上方から下方に流れてきた空気c2、c3は、その層流状態を乱すことなく排気口18aに吸引される。
【0086】
ここで、中央空間12aは、上述のように作業が行われる空間であり、当然、周辺空間12bより大きな容積を占め、中央空間12aを流れる空気の流量は、周辺空間12bを流れる空気の流量より多くなる。よって、排気口18aが隔壁11aの下端部の直下より中央空間12a寄りに開口している場合には、排気口18a付近の空気の流れがその層流状態を乱すことなく非常に安定する。
【0087】
また、図5(B)では、排気口18aが隔壁11aの下端部の直下に開口している。この状態において、周辺空間12bを上方から下方に流れてきた空気d1は、その層流状態を乱すことなく排気口18aに吸引される。同様に、中央空間12aを上方から下方に流れてきた空気d2、d3は、その層流状態を乱すことなく排気口18aに吸引される。このように、排気口18aが隔壁11aの下端部の直下に開口している場合にも、排気口18a付近の空気の流れがその層流状態を乱すことなく安定する。
【0088】
これらに対して、図6では、排気口19aがチャンバー10の前壁部10aの下端部に開口している。この状態において、周辺空間12bを上方から下方に流れてきた空気e1及び中央空間12aを上方から下方に流れてきた空気e2、e3は、排気口19aに吸引されるが、中央空間12aを流れる多くの空気が隔壁11aの下端部を通過するので、この下端部付近に乱流e4が発生する。
【0089】
このことにより、中央空間12a及び周辺空間12bを上方から下方に流れる空気の流れが乱れて、封じ込めアイソレーターとして使用した場合には、中央空間12aから流れる空気に含まれている化学物質等がチャンバー10の前壁部10a付近に流入し周辺空間12bを汚染することとなる。また、無菌アイソレーターとして使用した場合にも、外部から周辺空間12bに侵入した浮遊菌等が中央空間12a内に流入し中央空間12aを汚染することとなる。
【0090】
また、本実施形態の構成によれば、アイソレーター装置Aの前壁部10a及び背壁部10bにそれぞれ隔壁11a、11bが設けられ、各隔壁11a、11bの下端部の下方にそれぞれ排気口18a〜18dが開口している。このことにより、中央空間12aを上方から下方に向かう一方向流の空気は、対向する2方向の排気口(18aと18b及び18cと18d)にそれぞれ分かれて排気される。よって、中央空間12aの空気は、その層流状態を乱すことなくより安定して流れることができる。
【0091】
また、本実施形態の構成によれば、各隔壁11a、11bの下端部の下方に設けられる各排気口は、それぞれ2つずつの開口部(18aと18b及び18cと18d)から構成されている。但し、各排気口は、1つの隔壁に対して2つの開口部に限定されるものではなく、1つの開口部から構成されてもよく、或いは、3つ以上の開口部に分かれて構成されてもよい。このとき、これらの開口部の長手方向の開口長さの総計が、所定の長さ以上あることが好ましい。
【0092】
本実施形態においては、図2に示すように、隔壁11aの下端部の下方に設けられる2つの排気口において、排気口18aの開口長さ(Y1)と排気口18bの開口長さ(Y2)との総和(Y1+Y2)は、隔壁11aの下端部の幅方向の長さ(Z)に対して、60%となっている。
【0093】
一方、隔壁11bの下端部の下方に設けられる2つの排気口において、排気口18cの開口長さ(Y3)と排気口18dの開口長さ(Y4)との和(Y3+Y4)は、隔壁11bの下端部の幅方向の長さ(Z)に対して、60%となっている。
【0094】
ここで、各隔壁に対して、その下端部に設けられる各排気口の開口長さの総和は、隔壁の下端部の幅方向の長さに対して、50%〜100%の割合にあることが好ましく、また、60%〜100%の割合にあることがより好ましい。このことにより、隔壁に沿って流れてきた空気は、その方向を大きく変えることなく排気口から排気され、チャンバー10内の空気は、その層流状態を乱すことなくより安定して流れることができる。
【0095】
以上のことにより、本実施形態においては、簡単な構造を有して高い安全性を確保することのできるアイソレーター装置であって、無菌アイソレーターとして高度な無菌・無塵状態を維持できると共に、封じ込めアイソレーターとして化学物質や微生物等の外部環境への漏洩を高度に防止することのできるアイソレーター装置を提供することができる。
(整流板の構造及び作用効果)
次に、本実施形態に係るアイソレーター装置Aにおいて中央空間12a及び周辺空間12b、12cを上方から下方に向かう一方向流の空気を更に安定したものとして供給する整流板23の構造及び作用について図7及び図8に従って説明する。
【0096】
上述のように、整流板23は、HEPAフィルタ22bの下部にあってチャンバー10の内部空間12の上部に全面に亘って設けられている(図1参照)。この整流板23は、ステンレス製金属からなる矩形状の枠体24と、この枠体24の上面及び底面を覆うように枠体24に貼付されたスクリーン紗25a、25bとから構成されている(図8参照)。
【0097】
枠体24は、4本の矩形パイプ24aをチャンバー10の内部の横断面形状(図2参照)の周縁部を覆うように矩形状に組み立てられている。この枠体を構成する矩形パイプ24aは、その上面から底面に貫通する複数の貫通口24bを具備している。また、枠体24の底面を受承してチャンバー10の側壁部10a〜10dに架設するための受承部材26は、断面L字状のステンレス製金属板からなり、その底片26aにおいて貫通口24bに対向する位置に同様の貫通口26bを具備している。(図7参照)。これらの貫通口24b及び貫通口26bの作用については後述する。
【0098】
スクリーン紗25a、25bは、一般に合成繊維長繊維からなる織物であって、この織物の経糸と緯糸の間隙によって表裏を連通する無数の細孔が形成されている。このことにより、整流板23を通過する空気は、これらの無数の細孔によってその流れを整えられ、チャンバー10の内部空間12を上方から下方に向かう安定した一方向流の空気を形成する。
【0099】
このスクリーン紗25a、25bを形成する合成繊維長繊維は、線径が30〜200μmであることが好ましく、目開きが30〜200μmであることが好ましい。また、スクリーン紗25a、25bの素材は、どのようなものであってもよいが、本実施形態においては、ポリエチレン紗を使用した。
【0100】
このように構成された整流板23は、枠体24をその底面から受承する受承部材26と共にチャンバー10の上部に架設される。まず、受承部材26は、チャンバー10の周壁部10a〜10dの上部に部分的に設けられた小型梁10g(図2参照)に上載されて、その鉛直片26cをチャンバー10の周壁部10a〜10dに留具26dで気密的に固定されている。この受承部材26のL字部に上方から整流板23が気密的に乗載される。このとき、整流板23と受承部材26とは、互いの貫通口24b、26bを連通させるようにして固定される。このような構造により、整流板23の洗浄及び交換が容易となる。
【0101】
このように、チャンバー10の内部空間12の上方に整流板23が架設され、この整流板23を通過して清浄な空気が内部空間12に供給される場合を考える。図8に示すように、矩形パイプ24aが存在しない部分(以下、整流板23の中央部分という)と、矩形パイプ24aが存在する部分(以下、整流板23の周縁部分という)では、空気の通過状態が異なっている。
【0102】
整流板23の周縁部分において、矩形パイプ24aに貫通口24bが開口していなければ、この部分では空気が通過しない。また、この整流板23の周縁部分の下方には、隔壁11aにより区分けされた周辺空間12bが存在する。このことにより、チャンバー10内の中央空間12aと周辺空間12bとの間で空気の流量が異なることとなる。この場合、中央空間12aと周辺空間12bとを流れる空気の状態に差異が生じる可能性があり、チャンバー10の下方で空気の層流状態が乱れれば、アイソレーター装置Aの高い安全性を確保することが難しくなる。
【0103】
そこで、本実施形態においては、上述のように、枠体24の矩形パイプ24a及び受承部材26に上面から底面に貫通する貫通口24b、26bを設けるようにした(図8参照)。このことにより、矩形パイプ24aと受承部材26とを貫通した貫通口24b、26bの部分にも空気が通過するので、整流板23の周縁部分の下方にも空気を供給することができる。
【0104】
しかし、枠体24の強度を維持するために、矩形パイプ24aに開口できる貫通口24bの開口率には限界がある。そこで、貫通口24b、26bの部分からの空気の流量を多くして、整流板23の周縁部分全体からの空気の流量(みかけの流量)を整流板23の中央部分からの空気の流量に近づけるようにした。そのために、整流板23の中央部分と周縁部分(貫通口の部分)とのスクリーン紗の被覆枚数に差を与えている。すなわち、整流板23の中央部分には、上面及び底面に2枚のスクリーン紗25a、25bを被覆し、一方、周縁部分(貫通口の部分)には、底面開口部にのみ1枚のスクリーン紗25aを被覆している(図8参照)。
【0105】
このことにより、整流板23の貫通口の部分の空気の通過抵抗は、整流板23の中央部分の空気の通過抵抗より小さくなり、貫通口24bの部分の空気の流速が中央部分の空気の流速より大きくなる。その結果、貫通口24bの部分の空気の流量が中央部分の空気の流量より多くなる。従って、整流板23の中央部分の空気の流量と周縁部分の空気の流量(みかけの流量)の差が小さくなる。このことにより、整流板23を通過する空気は、整流板23全体からチャンバー10の内部空間12を上方から下方に向かう一方向流の空気となって安定して流れ、チャンバー内の層流状態が更に安定し高い安全性が維持できる。
【0106】
更に、矩形パイプ24aの底面の面積に対する貫通口24bの開口率を調整することにより、更に高い安全性を確保することができる。この方法では、スクリーン紗25aのみを被覆した貫通口24bの底面部(スクリーン紗が一重の部分)を通過する空気の流速をV1とし、スクリーン紗25a及びスクリーン紗25bが被覆された部分(スクリーン紗が二重の部分)を通過する空気の流速をV2としたときに、貫通口24bの開口率X(%)が下記の式、
X=(V2/V1)×100
で求められる。
【0107】
このことにより、整流板23を設計する際に、スクリーン紗が一重の部分の空気の流速とスクリーン紗が二重の部分の空気の流速とを測定することにより、整流板23の中央部分の空気の流量と周縁部分の空気の流量(みかけの流量)とをより正確に調整することができる。その結果、整流板23を通過する空気は、整流板23全体からチャンバー10の内部空間12を上方から下方に向かう一方向流の空気となって更に安定して流れることとなる。
【0108】
なお、本発明の実施にあたり、上記各実施形態に限らず、次のような種々の変形例が挙げられる。
(1)上記実施形態においては、チャンバーの前面及び背面に2つの隔壁が設けられているが、チャンバーに設ける隔壁の数は、これに限るものではなく、1面のみ設けてもよく、或いは、3面、4面に設けるようにしてもよい。
(2)上記実施形態においては、長手状の排気口の形状を長円としたが、これに限るものではなく、長手状に開口するものであれば矩形状などどのような形状であってもよい。
(3)上記実施形態においては、整流板の枠体を構成する枠材に中空の矩形パイプを使用するが、これに限るものではなく、矩形パイプに代えて矩形金属棒などを使用するようにしてもよい。また、断面形状は矩形でなくてもよい。
(4)上記実施形態においては、整流板の枠体を構成する矩形パイプに開口する貫通口の形状を長円としたが、これに限るものではなく、丸形或いは矩形状などどのような形状であってもよい。
(5)上記実施形態においては、整流板の枠体を構成する矩形パイプに貫通口を形成するようにしたが、これに限るものではなく、上面及び底面が全パンチング板からなる矩形パイプを使用するようにしてもよい。
(6)上記実施形態においては、整流板の多孔性シートとして上面及び底面に同一線径、同一目開きのスクリーン紗を使用するが、これに限るものではなく、上面と底面に使用するスクリーン紗の線径或いは目開きを異なるものとしてもよい。この場合、例えば、底面側(枠材に貼付する方)のスクリーン紗の目開きを荒くすることにより、一重の部分と二重の部分の空気の通過抵抗の差をより大きなものとすることができる。また、多孔性シートには、スクリーン紗に代えて連通孔を有する多孔性セラミック板などを使用するようにしてもよい。
(7)上記実施形態においては、整流板にスクリーン紗が一重の部分と二重の部分との組み合わせを採用したが、これに限るものではなく、二重の部分と三重の部分との組み合わせ、或いは、一重の部分と三重の部分との組み合わせなど、どのような組み合わせを採用するようにしてもよい。
(8)上記実施形態においては、排気用一次フィルタユニットをチャンバーの下方に配設するようにしたが、これに限るものではなく、例えば、排気口からダクトを経由してチャンバーの上部に配設するようにしてもよい。
(9)上記実施形態においては、チャンバーには2つのグローブが装着されているが、チャンバーに装着するグローブの数は、これらに限るものではない。また、グローブに代えて、ハーフスーツ等を装着するようにしてもよい。
(10)上記実施形態においては、給気用及び排気用のフィルタには、HEPAフィルタを使用するものであるが、HEPAフィルタに限るものではなく、ULPAフィルタその他の高性能フィルタをチャンバー内での作業の使用目的に合わせて、適宜選定すればよい。
【符号の説明】
【0109】
A…アイソレーター装置、B…架台、C…アイソレーター本体、D…作業者、10…チャンバー、11a、11b…隔壁、12…内部空間、12a…中央空間、12b…周辺空間、13、14…ガラス窓、15…グローブ、18a〜18d…排気口、20…給気機構、21…給気用ブロワー、22…給気用フィルタユニット、22b、31a、32a…HEPAフィルタ、23…整流板、24…枠体、24a…枠材、24b、26b…貫通口、25a、25b…スクリーン紗、26…受承部材、30…排気機構、31…排気用一次フィルタユニット、32…排気用二次フィルタユニット、33…排気用ブロワー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業室と、
前記作業室の内部に上方から下方に向かう一方向流の空気を給気する給気手段と、
前記作業室の下方から前記一方向流の空気を排気する排気手段とを備えるアイソレーター装置において、
前記一方向流の空気に沿って前記作業室の周壁部に並行に設けられる隔壁と、
前記作業室の底壁部に形成されて前記隔壁の下端部の下方に当該下端部の幅方向に沿って開口する長手状の排気口とを備えていることを特徴とするアイソレーター装置。
【請求項2】
前記周壁部に対向する他の周壁部に並行に設けられる他の隔壁と、
前記作業室の前記底壁部に形成されて前記他の隔壁の下端部の下方に当該下端部の幅方向に沿って開口する長手状の他の排気口とを備えていることを特徴とする請求項1に記載のアイソレーター装置。
【請求項3】
前記排気口は、前記下端部の直下或いは直下より前記作業室の中央寄りに開口していることを特徴とする請求項1又は2に記載のアイソレーター装置。
【請求項4】
前記排気口は、前記隔壁に対して、それぞれ、1つ又は2つ以上の開口部から構成されており、
前記1つ又は2つ以上の開口部の長手方向の開口長さの総和は、前記下端部の幅方向の長さに対して、50%〜100%の割合にあることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のアイソレーター装置。
【請求項5】
前記給気手段は、前記一方向流の空気を形成する整流部材を有して、
前記整流部材は、複数本の枠材からなる枠体と、この枠体の上面及び底面を被覆するように前記枠材に固着される多孔性シートとを備えており、
前記枠材は、その上面から底面にかけて貫通する複数の貫通口を具備し、
前記多孔性シートは、前記枠材に当接して当該枠材に固着される部分において、前記貫通口の開口部であって前記枠材の上面開口部或いは底面開口部のうち、いずれか一方の開口部のみを被覆することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載のアイソレーター装置。
【請求項6】
前記多孔性シートは、表裏を連通する無数の細孔を有するスクリーン紗であることを特徴とする請求項5に記載のアイソレーター装置。
【請求項7】
前記整流部材に所定量の空気を供給したときに、当該整流部材を通過して流れる空気において、
前記上面開口部或いは前記底面開口部のうち前記多孔性シートが被覆して当該多孔性シートが一重となっている部分を通過する空気の流速をV1とし、
前記多孔性シートが前記枠材に当接することなく当該多孔性シートが二重となっている部分を通過する空気の流速をV2としたときに、
前記枠材の上面或いは底面の面積に対する前記多孔性シートが被覆する前記開口部の開口率X(%)が下記の式、
X=(V2/V1)×100
で示されるように、前記枠材に前記貫通口を開口してなることを特徴とする請求項5又は6に記載のアイソレーター装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−7768(P2012−7768A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−142274(P2010−142274)
【出願日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【出願人】(599053643)株式会社エアレックス (29)
【Fターム(参考)】