説明

アイソレータ

【課題】アイソレータにおける滅菌作業のなかで従来、長時間を要していたエアレーションにかかる時間を短縮する。
【解決手段】前面に開口部を有する細胞を対象とする作業を行うための作業室と、前記開口部を閉塞するように前記作業室に装着され、前記作業室内を視認可能な樹脂製の透明な板部材と、前記作業室内に過酸化水素ガスを供給して前記作業室内を滅菌した後、前記作業室内の過酸化水素ガスを排出する作業室滅菌装置と、を備え、前記板部材の少なくとも前記作業室に向かう側の面は、過酸化水素の吸収性が所定値以下となるように形成されることを特徴とするアイソレータ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイソレータに関する。
【背景技術】
【0002】
微生物や細菌等を殺滅して無菌に近づけた密閉された作業室内で、細胞の培養や検査などの作業を行うことができるアイソレータが開発されている。
【0003】
アイソレータを用いて細胞等に対する作業を行う場合には、事前に作業室の滅菌が行われる。作業室内の滅菌は、まず作業室内に過酸化水素ガスなどの滅菌ガスを供給し、その後、作業室内の滅菌ガスを含む空気を外部の空気と入れ替えるエアレーションを行うことにより行われる。このような過酸化水素ガスを用いた殺菌処理に関する技術は、様々に開発されている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
尚本明細書では、微生物や細菌等を殺滅して無菌に近づけることを滅菌と記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−338719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アイソレータは内部を気密空間にし得る箱体であり、その内部を視認可能な窓と作業用グローブを備えている。この窓は通常、アクリルやポリカーボネイト(PC)、ポリアミド(PA)、あるいはポリエチレンテレフタレート(PET)等の樹脂により構成されている。これらの樹脂は過酸化水素に対する吸収性を持つ。従って、内部空間を滅菌するために過酸化水素ガスを供給すると前述した窓部材に過酸化水素が一部吸収されてしまう。このため、エアレーションを行ってもこの吸収された過酸化水素がなかなか排出されず、エアレーションの時間が長くなる原因となっていた。
【0007】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、エアレーションの時間を短縮することが可能なアイソレータを提供することを一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の一つの側面に係るアイソレータは、前面に開口部を有する細胞を対象とする作業を行うための作業室と、前記開口部を閉塞するように前記作業室に装着され、前記作業室内を視認可能な樹脂製の透明な板部材と、前記作業室内に過酸化水素ガスを供給して前記作業室内を滅菌した後、前記作業室内の過酸化水素ガスを排出する作業室滅菌装置と、を備え、前記板部材の少なくとも前記作業室に向かう側の面は、過酸化水素の吸収性が所定値以下となるように形成される。
【発明の効果】
【0009】
アイソレータにおける滅菌作業のなかで従来、長時間を要していたエアレーションにかかる時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】アイソレータの全体構成図である。
【図2】アイソレータの作業室を示す図である。
【図3A】視認窓の断面図である。
【図3B】視認窓の断面図である。
【図3C】視認窓の断面図である。
【図3D】視認窓の断面図である。
【図3E】視認窓の断面図である。
【図4】各素材の過酸化水素残留量を示す図である。
【図5】各素材の吸水率を示す図である。
【図6】各素材の過酸化水素残留量と吸水率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書および添付図面の記載により、少なくとも以下の事項が明らかとなる。
【0012】
==アイソレータの構成==
本発明の一実施形態であるアイソレータ10の構成を図1及び図2を参照しながら説明する。アイソレータ10は、滅菌された環境で細胞に対する作業等を行う装置であり、滅菌ガス発生ユニット20、供給装置21、作業室22、排出装置23、操作部24、及び制御装置25を含んで構成される。
【0013】
なお、滅菌ガス発生ユニット20、供給装置21、排出装置23及び制御装置25は、作業室滅菌装置に相当する。
【0014】
滅菌ガス発生ユニット20は、滅菌ガスを発生させる装置ユニットであり、タンク30、電磁バルブ32、ポンプ33、パイプ34、及び滅菌ガス発生装置35を含んで構成される。なお、電磁バルブ32、ポンプ33、滅菌ガス発生装置35の動作は、制御装置25により制御される。
【0015】
タンク30は、過酸化水素水(過酸化水素(H2O2)が溶解した水溶液)を貯蔵する。
電磁バルブ32は、制御装置25からの制御に基づいて、タンク30をポンプ33に接続するための電磁弁である。
【0016】
ポンプ33は、タンク30から過酸化水素水を汲み上げ、パイプ34を介して滅菌ガス発生装置35に供給する。
【0017】
滅菌ガス発生装置35は、ポンプ33から供給される過酸化水素水に基づいて、滅菌ガスである過酸化水素ガスを発生し、キャリアガスである空気とともに供給装置21へと供給する。
【0018】
供給装置21は、供給される過酸化水素ガス、またはアイソレータ10の外部の空気を作業室22へと供給する装置であり、電磁バルブ40、及びファン41を含んで構成される。
【0019】
電磁バルブ40は、制御装置25の制御に基づいて、過酸化水素ガス、または外部の空気をファン41に供給する。ファン41は、電磁バルブ40から供給される過酸化水素ガス、または空気を作業室22へと供給する。
【0020】
作業室22は、細胞に対する作業を行う空間を内部に有する略直方形の金属製の箱体である。例えば作業室22はステンレス(SUS)製である。作業室22には、エアフィルタ50,51、視認窓52、及び作業用グローブ53が設けられている。
【0021】
図2に示すように、作業室22は、細胞等を内部に搬入するための開口部90を前面に有している。そしてこの開口部90には、作業室22の内部を視認することが可能な透明の視認窓52が開閉可能に装着されている。
【0022】
視認窓52は、透明で割れにくく軽量な、例えばアクリルやポリカーボネイト(PC)、ポリアミド(PA)、またはポリエチレンテレフタレート(PET)等の樹脂製の板部材を用いて作られている。
【0023】
図1に戻って、エアフィルタ50は、ファン41から供給される過酸化水素ガス、または空気に含まれる塵等を除去するためのフィルタである。エアフィルタ51は、作業室22から排出されるガス等に含まれる塵等を除去するためのフィルタである。なお、エアフィルタ50,51には、例えば、HEPA(High Efficiency Particulate Air)フィルタが用いられる。
【0024】
作業用グローブ53は、視認窓52が閉じられた状態で作業者が作業室22内の細胞等に対して作業を行うことができるよう、視認窓52に設けられた開口部(不図示)に取付けられている。なお、視認窓52が閉じられた状態では、作業室22は密閉される。
【0025】
排出装置23は、作業室22から過酸化水素ガスや空気等のガスを排出するための装置であり、電磁バルブ60、及び滅菌処理装置61を含んで構成される。
【0026】
電磁バルブ60は、制御装置25からの制御に基づいて、エアフィルタ51から出力されるガスを、滅菌処理装置61、または滅菌ガス発生装置35の何れかに供給する。なお、電磁バルブ60からの出力が滅菌ガス発生装置35へと供給される場合、作業室22のガスは循環されることになる。
【0027】
滅菌処理装置61は例えば触媒を備え、電磁バルブ60から出力されるガスを無害化および滅菌処理をしてアイソレータ10の外部へと出力する。
【0028】
操作部24は、利用者がアイソレータ10の動作を設定するための操作パネル等である。操作部24の操作結果は制御装置25へと送信され、制御装置25は、操作結果に基づいて、アイソレータ10の各ブロックを制御する。
【0029】
制御装置25は、アイソレータ10を統括制御する装置であり、記憶装置70、及びマイコン71を含んで構成される。
【0030】
記憶装置70は、マイコン71が実行するプログラムデータや、各種データを記憶する。マイコン71は、記憶装置70に記憶されたプログラムデータを実行することにより、各種機能を実現する。
【0031】
==作業室の滅菌処理==
作業室22内の滅菌処理は、例えば、作業室22内を滅菌する指示が操作部24から制御装置25に対して出力されることにより行われる。
【0032】
作業室22内を滅菌する指示が操作部24から出力されると、マイコン71は所定のプログラムを実行し、滅菌ガス発生ユニット20に過酸化水素ガスを発生させる。そしてマイコン71は、電磁バルブ40、ファン41、電磁バルブ60を制御して、過酸化水素ガスを、滅菌ガス発生装置35、供給装置21、作業室22、排出装置23の間で循環させる。このようにして作業室22内に過酸化水素ガスが供給され、作業室22内の微生物や細菌などが殺滅される。
【0033】
そして過酸化水素ガスの供給を所定時間行った後、マイコン71は、滅菌ガス発生ユニット20を停止させる。そしてマイコン71は、電磁バルブ40、ファン41、電磁バルブ60を制御して、アイソレータ10の外部の空気を供給装置21から作業室22内に送り込むと共に、過酸化水素ガスを含んだ作業室22内の空気を排出装置213から排出するエアレーションを行う。
【0034】
その後、作業室22の内部から過酸化水素ガスが十分に排出されると、マイコン71は、電磁バルブ40、ファン41、電磁バルブ60を停止し、作業室22内を密閉状態にする。以上のようにして、作業室22内の滅菌処理が完了する。
【0035】
ここで、上述したように、視認窓52はアクリルやポリカーボネイト(PC)、ポリアミド(PA)、またはポリエチレンテレフタレート(PET)等の樹脂により構成されている。詳細は後述するが、これらの樹脂は過酸化水素に対する吸収性を有している。
【0036】
従って、作業室22の内部に過酸化水素ガスを供給した際に視認窓52の内部に過酸化水素が吸収されると、視認窓52の内部に吸収された過酸化水素が視認窓52の外部に排出されるまで長時間に亘ってエアレーションを行う必要がある。
【0037】
この点、本実施形態に係る視認窓52は、以下に詳述するように過酸化水素の吸収性を示す指標値が所定値以下となるように形成されている。
【0038】
従って、本実施形態に係る視認窓52を用いたアイソレータ10は、エアレーションに要する時間を短縮することができる。
【0039】
==視認窓52の構成==
本実施形態に係る視認窓52の構成として、少なくとも第1態様乃至第5態様が可能である。各態様の視認窓52の構成を図3A〜図3E及び図4を参照しながら説明する。
【0040】
図3A〜図3Eは、それぞれ第1態様から第5態様における視認窓52の断面図を示す。また図4は、過酸化水素の吸収性を示す指標値を様々な素材に対して測定した結果を示す。
【0041】
==過酸化水素の吸収性==
図4に示す過酸化水素の吸収性を示す指標値は、以下の手順で実測することにより得られたものである。
【0042】
まず過酸化水素に対する吸収性の測定対象とするサンプルを一つ選び、密閉したアイソレータ10内に収納する。そしてそのサンプルを所定時間所定濃度の過酸化水素ガス中に暴露する。その後エアレーションを所定時間行う。エアレーションの際に、サンプルから蒸発する過酸化水素ガスの最大濃度を測定する。
【0043】
以上の測定を、図4に列挙した各素材について、それぞれ所定数(図4中「n」で示される数)のサンプルに対して行った。そして素材毎に最大濃度の平均値を求め、過酸化水素残留濃度(ppm)とした。
【0044】
従って、図4に記載される過酸化水素残留量の数値が大きな素材ほど、即ち、過酸化水素の吸収性を示す指標値が大きいほど、過酸化水素に対する吸収性が高い素材であることになる。
【0045】
<第1態様>
本実施形態に係る視認窓52の第1態様は、図3Aに示すように、透明な第1板材80に透明なフィルム81を貼付して形成される。
【0046】
視認窓52は、フィルム81の表面が作業室22の内側に露出する向きに作業室52の開口部90に装着される。
【0047】
第1板材80は、透明な樹脂製の板材であり、例えばアクリル、ポリカーボネイト(PC)、ポリアミド(PA)、またはポリエチレンテレフタレート(PET)により形成される。
【0048】
本実施形態に係る視認窓52を構成する第1板材80として上記樹脂製の板材を用いることにより、ガラスを用いた場合と比べて、視認窓52を軽量で割れにくくすることができ、操作性と安全性が向上する。
【0049】
フィルム81は、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、テトラフルオロエチレン(PTFE)、または、環状オレフィンコポリマー(COC)により形成される透明なフィルムである。
【0050】
図4に示すように、これらポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、テトラフルオロエチレン(PTFE)、環状オレフィンコポリマー(COC)の過酸化水素残留量はいずれも5.0ppm以下であり、アクリル、ポリカーボネイト(PC)、ポリアミド(PA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)の過酸化水素残留量よりも小さい。即ち、過酸化水素の吸収がとても少ない。
【0051】
そのため、本実施形態に係る視認窓52として、上記第1板材80に上記フィルム81を貼付し、フィルム81の表面が作業室22の内側に露出するように視認窓52を開口部90に装着することにより、作業室52の内部を滅菌する際に、視認窓52により過酸化水素が吸収される量を低く抑えることができる。
【0052】
<第2態様>
本実施形態に係る視認窓52の第2態様は、図3Bに示すように、透明な第1板材80に透明な第2板材82を貼付して形成される。
【0053】
視認窓52は、第2板材82の表面が作業室22内に露出する向きに作業室52の開口部90に装着される。
【0054】
第1板材80は、第1態様と同様に透明な樹脂製の板材であり、例えばアクリル、ポリカーボネイト(PC)、ポリアミド(PA)、またはポリエチレンテレフタレート(PET)により形成される。
【0055】
本実施形態に係る視認窓52を構成する第1板材80として上記樹脂製の板材を用いることにより、ガラスを用いた場合と比べて、視認窓52を軽量で割れにくくすることができ、操作性と安全性が向上する。
【0056】
第2板材82は、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、テトラフルオロエチレン(PTFE)、または、環状オレフィンコポリマー(COC)により形成される透明な板材である。
【0057】
第1態様と同様であるが、図4に示すように、これらポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、テトラフルオロエチレン(PTFE)、環状オレフィンコポリマー(COC)の過酸化水素残留量はいずれも5.0ppm以下であり、アクリル、ポリカーボネイト(PC)、ポリアミド(PA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)の過酸化水素残留量よりも小さい。
【0058】
そのため、本実施形態に係る視認窓52として、上記第1板材80に上記第2板材82を貼付し、第2板材82の表面が作業室22の内側に露出するように視認窓52を開口部90に装着することにより、作業室52の内部を滅菌する際に、視認窓52により過酸化水素が吸収される量を低く抑えることができる。
【0059】
<第3態様>
本実施形態に係る視認窓52の第3態様は、図3Cに示すように、透明な第1板材80に透明なコーティング膜83が形成されたものである。
【0060】
視認窓52は、コーティング膜83の表面が作業室22内に露出する向きに作業室52の開口部90に装着される。
【0061】
第1板材80は、第1態様と同様に透明な樹脂製の板材であり、例えばアクリル、ポリカーボネイト(PC)、ポリアミド(PA)、またはポリエチレンテレフタレート(PET)により形成される。
【0062】
本実施形態に係る視認窓52を構成する第1板材80として上記樹脂製の板材を用いることにより、ガラスを用いた場合と比べて、視認窓52を軽量で割れにくくすることができ、操作性と安全性が向上する。
【0063】
コーティング膜83は、遷移元素及び遷移元素化合物の少なくともいずれかを含有する塗料より形成される透明な膜である。
【0064】
遷移元素は、周期表の第3族から第11族に属する元素であり、例えば鉄や銅、マンガン、チタンなどである。遷移元素化合物は、例えば塩化鉄、塩化銅、二酸化マンガン、二酸化チタンなどである。
【0065】
遷移元素や遷移元素化合物は、過酸化水素を水と酸素に分解することが知られている。従って、遷移元素や遷移元素化合物を含有する塗料を第1板材80の表面にコーティングし、コーティング膜83を作業室22の内側に露出しておくことにより、視認窓52に接触した作業室22内の過酸化水素ガスを水と酸素に分解する。従って、遷移元素や遷移元素化合物を含有するコーティング膜83の過酸化水素残留量は非常に少なくなる。
【0066】
そのため、本実施形態に係る視認窓52として、上記第1板材80に上記コーティング膜83を形成し、コーティング膜83の表面が作業室22の内側に露出するように視認窓52を開口部90に装着することにより、作業室52の内部を滅菌する際に、過酸化水素が視認窓52に吸収されにくくすることが可能となる。
【0067】
なおコーティング膜83に含有させる遷移元素や遷移元素化合物としては、上述した鉄や銅、マンガン、チタン、塩化鉄、塩化銅、二酸化マンガン、二酸化チタンが、コストや入手容易性などの点で特に優れている。
【0068】
また、コーティング膜83としてガラスを用いることもできる。ガラスには過酸化水素を分解する機能はないが、過酸化水素の吸収性はない。従って、作業室52の内部を滅菌する際にも、視認窓52による過酸化水素の吸収量をほぼゼロに抑えることが可能となる。
【0069】
<第4態様>
本実施形態に係る視認窓52の第4態様は、図3Dに示すように、透明な第2板材82により形成されるものである。
【0070】
第2板材82は、第2態様で説明したように、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、テトラフルオロエチレン(PTFE)、または、環状オレフィンコポリマー(COC)の透明な板材により形成される。
【0071】
第4態様の視認窓52が作業室52の開口部90に装着されることにより、作業室22の内側には、上記第2板材82の表面が露出する。
【0072】
本実施形態に係る視認窓52を構成する第2板材82として上記樹脂製の板材を用いることにより、ガラスを用いた場合と比べて、視認窓52を軽量で割れにくくすることができ、操作性と安全性が向上する。
【0073】
また図4に示すように、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、テトラフルオロエチレン(PTFE)、環状オレフィンコポリマー(COC)の過酸化水素残留量はいずれも5.0ppm以下である。
【0074】
そのため、本実施形態に係る視認窓52を上記第2板材82により構成し、この第2板材82の表面が作業室22の内側に露出するように視認窓52を開口部90に装着することにより、作業室52の内部を滅菌する際に、視認窓52により過酸化水素が吸収される量を低く抑えることができる。
【0075】
また、視認窓52を製造する際のフィルム貼付作業やコーティング作業、板材張り合わせ作業などを省略することができると共に、フィルムやコーティング膜、板材が剥がれることもない。
【0076】
<第5態様>
本実施形態に係る視認窓52の第5態様は、図3Eに示すように、透明な第3板材84により形成されるものである。
【0077】
第3板材84は、アクリル、ポリカーボネイト(PC)、ポリアミド(PA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、テトラフルオロエチレン(PTFE)、または、環状オレフィンコポリマー(COC)により形成される透明な板材の中に、遷移元素及び遷移元素化合物の少なくともいずれかを混入させたものである。
【0078】
第5態様の視認窓52が作業室52の開口部90に装着されることにより、作業室22の内側には、上記第3板材84の表面が露出する。
【0079】
本実施形態に係る視認窓52を構成する第3板材84として上記樹脂製の板材を用いることにより、ガラスを用いた場合と比べて、視認窓52を軽量で割れにくくすることができ、操作性と安全性が向上する。
【0080】
第3態様において記載したように、遷移元素や遷移元素化合物は、過酸化水素を水と酸素に分解することが知られている。従って、遷移元素や遷移元素化合物を含有する第3板材84の表面を作業室22の内側に露出しておくことにより、視認窓52に接触した作業室22内の過酸化水素ガスを水と酸素に分解する。従って、遷移元素や遷移元素化合物を含有するコーティング膜83の過酸化水素残留量は非常に少なくなる。
【0081】
そのため、本実施形態に係る視認窓52を上記第3板材84により構成し、この第3板材84の表面が作業室22の内側に露出するように視認窓52を開口部90に装着することにより、作業室52の内部を滅菌する際に、過酸化水素が視認窓52に吸収されにくくすることが可能となる。
【0082】
また、視認窓52を製造する際のフィルム貼付作業やコーティング作業、板材張り合わせ作業などを省略することができると共に、フィルムやコーティング膜、板材が剥がれることもない。
【0083】
==吸水性との関係==
なお、図5に各素材の吸水率を示す。また図6に、図5に示した各素材の吸水率と、図4に示した各素材の過酸化水素水の残留量と、の関係を示す。
【0084】
図6中に破線で示したように、吸水率と過酸化水素の残留量との間には相関が認められる。そして、過酸化水素の残留量が20ppm以下(吸水率が0.1%以下)の素材を用いて、フィルム81や第2板材82、コーティング膜83、第3板材84を生成することで良好な結果を得られる。さらに、残留量が5ppm以下(吸水率が0.01%以下)の素材を用いることが好適である。
【0085】
以上、本実施形態のアイソレータ10について説明したが、本実施形態のアイソレータ10によれば、作業室22の内部に過酸化水素ガスを供給して作業室22内を滅菌する際に、視認窓52に過酸化水素が吸収される量を低く抑えることができるので、作業室22から過酸化水素ガスを排出するエアレーションに要する時間を短縮することが可能となる。これにより、より大量の細胞に対する作業をより効率的に行うことも可能となる。
【0086】
なお、上記実施形態は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物も含まれる。
【符号の説明】
【0087】
10 アイソレータ
20 滅菌ガス発生ユニット
21 供給装置
22 作業室
23 排出装置
24 操作部
25 制御装置
30 タンク
32,40,60 電磁バルブ
33 ポンプ
34 パイプ
35 滅菌ガス発生装置
41 ファン
50,51 エアフィルタ
52 視認窓
53 グローブ
61 滅菌処理装置
70 記憶装置
71 マイコン
80 第1板材
81 フィルム
82 第2板材
83 コーティング膜
84 第3板材
90 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前面に開口部を有する細胞を対象とする作業を行うための作業室と、
前記開口部を閉塞するように前記作業室に装着され、前記作業室内を視認可能な樹脂製の透明な板部材と、
前記作業室内に過酸化水素ガスを供給して前記作業室内を滅菌した後、前記作業室内の過酸化水素ガスを排出する作業室滅菌装置と、
を備え、
前記板部材の少なくとも前記作業室に向かう側の面は、吸水率が所定値以下となるように形成される
ことを特徴とするアイソレータ。
【請求項2】
請求項1に記載のアイソレータであって、
前記板部材は、少なくとも前記作業室に向かう側の面に、吸水率が所定値以下となるように形成された透明なフィルム又は透明な板材を貼付して形成される
ことを特徴とするアイソレータ。
【請求項3】
請求項2に記載のアイソレータであって、
前記フィルム又は前記板材は、ポリプロピレン、ポリエチレン、テトラフルオロエチレン、または、環状オレフィンコポリマーを材料として形成される
ことを特徴とするアイソレータ。
【請求項4】
請求項1に記載のアイソレータであって、
前記板部材は、ポリプロピレン、ポリエチレン、テトラフルオロエチレン、または、環状オレフィンコポリマーを材料として形成される
ことを特徴とするアイソレータ。
【請求項5】
請求項1に記載のアイソレータであって、
前記板部材は、少なくとも前記作業室に向かう側の面に、吸水率が所定値以下となるように生成された塗料をコーティングして形成される
ことを特徴とするアイソレータ。
【請求項6】
請求項5に記載のアイソレータであって、
前記塗料は、遷移元素及び遷移元素化合物の少なくともいずれかを含有して生成される
ことを特徴とするアイソレータ。
【請求項7】
請求項1に記載のアイソレータであって、
前記板部材は、遷移元素及び遷移元素化合物の少なくともいずれかを含有して形成される
ことを特徴とするアイソレータ。
【請求項8】
請求項6又は7に記載のアイソレータであって、
前記遷移元素は鉄、銅、マンガン、及びチタンの少なくともいずれかであり、前記遷移元素化合物は、塩化鉄、塩化銅、二酸化マンガン、及び二酸化チタンの少なくともいずれかである
ことを特徴とするアイソレータ。
【請求項9】
請求項1、2又は5に記載のアイソレータであって、
前記吸水率が0.01以下であることを特徴とするアイソレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−74862(P2013−74862A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218150(P2011−218150)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(592031097)パナソニックヘルスケア株式会社 (28)
【Fターム(参考)】