説明

アイロニング装置

【課題】アイロニングロールが金属箔体に接触する位置の調節可能範囲を広げることで、コイルが大径化しても、金属箔体を安定して巻き取ることができるアイロニング装置を提供する。
【解決手段】圧延された金属箔体1を巻取ロール3に巻き取る時に、巻き取り中の金属箔体1を巻取ロール3に押し付けるアイロニング装置10。巻き取り中の金属箔体1を巻取ロール3に押し付けるアイロニングロール5と、アイロニングロール5が一端側に取り付けられた揺動体7と、揺動体7の他端部が揺動可能に取り付けられた往復動体9と、巻取ロール3に対して往復動体9を前後に移動させる駆動装置11と、金属箔体1を巻取ロール3に押し付ける力を発生する押圧装置13と、を備える。押圧装置13は、巻取ロール側に揺動体7が揺動するように揺動体7に力を作用させ、これにより、揺動体7に取り付けたアイロニングロール5を介して金属箔体1を巻取ロール3に押し付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧延された金属箔体を巻取ロールに巻き取る時に、巻取ロールに金属箔体を押し付けるアイロニング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アイロニング装置は、巻取ロールに巻き取られた金属箔体の品質を良好に維持するために設けられる。金属箔体を巻取ロールに巻き取る時に、巻取ロールに金属箔体を押し付けないと、金属箔体は、巻取ロールとの間に空気を引き込んだ状態で巻き取られる傾向がある。この空気引き込みによって、金属箔体はその幅方向にずれる可能性がある。そのため、アイロニング装置により金属箔体を巻取ロールに押し付けることで、巻取ロールとの間に空気を引き込むことなく金属箔体を安定して巻き取ることができる。その結果、巻き取った金属箔体の品質を良好に維持することができる。
【0003】
アイロニング装置の構成例を図1に基づいて説明する。図1(A)において、アイロニング装置は、シリンダ装置31、揺動アーム33、およびアイロニングロール35を備える。シリンダ装置31の伸縮動作により、図1の矢印の向きに揺動アーム33を揺動させる。揺動アーム33には、アイロニングロール35が取り付けられている。アイロニングロール35は、その中心軸が、巻取ロール37の中心軸と平行になるように配置されている。揺動アーム33の揺動により、アイロニングロール35が、金属箔1を巻取ロール37に押し付ける。
【0004】
上述のようなアイロニング装置は、例えば下記の特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−136302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
巻き取られた金属箔体の品質を、コイル1aが大径化しても、良好に維持することが要望される。
【0007】
例えば、巻き取られた金属箔体1が形成するコイル1aの寸法(コイル外径)が、図1(A)の状態から図1(B)の状態のように大きくなると、アイロニングロール35が金属箔体1に接触する位置a(図1を参照)と巻取位置b(図1を参照)との周方向距離(即ち、巻取ロール37の中心軸周りの距離)が、上述の空気引き込みの防止に望ましい位置(例えば、20mm)からずれてしまう。その結果、巻き取った金属箔体1により形成されるコイル1aの形状が不安定になる可能性がある。
このようなことから、コイル1aが大径化しても、前記周方向距離の変化を抑えることで、コイル形状が不安定になることがなく、金属箔体を安定して巻き取り、これにより、コイル1aの品質を良好に維持することが要望される。
【0008】
また、別の例では、コイル1aの巻き取り量が多いと、巻き取り開始時と巻き取り終了時との間で、シリンダ装置31の向きが大きく異なる。その結果、シリンダ装置31による押し付け力の向きが大きく変動し、巻取ロール37への金属箔体1の押し付けが不安定になる可能性がある。
このようなことから、コイル1aが大径化しても、シリンダ装置31による押し付け力の向きの変動を小さくすることで、コイル形状が不安定になることがなく、これにより、コイル1aの品質を良好に維持することが要望される。
【0009】
すなわち、コイル1aが大径化した場合にも対応して、図1の構成を持つアイロニング装置よりも安定して金属箔体を巻き取ることができる装置が要望される。
【0010】
そこで、本発明の目的は、コイルが大径化しても、金属箔体を安定して巻き取ることができるアイロニング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明によると、圧延された金属箔体を巻取ロールに巻き取る時に、巻き取り中の金属箔体を巻取ロールに押し付けるアイロニング装置であって、
巻き取り中の金属箔体を巻取ロールに押し付けるアイロニングロールと、
アイロニングロールが一端側に取り付けられた揺動体と、
前記揺動体の他端部が揺動可能に取り付けられた往復動体と、
前記巻取ロールに対して前記往復動体を前後に移動させる駆動装置と、
金属箔体を巻取ロールに押し付ける力を発生する押圧装置と、を備え、
該押圧装置は、巻取ロール側に揺動体が揺動するように揺動体に力を作用させ、これにより、揺動体に取り付けたアイロニングロールを介して金属箔体を巻取ロールに押し付ける、ことを特徴とするアイロニング装置が提供される。
【0012】
本発明の好ましい実施形態によると、巻取ロールに巻き取られた金属箔体が形成するコイルの寸法を検出する寸法センサと、
往復動体の位置を検出する位置センサと、
前記寸法センサの検出値と、前記位置センサの検出値と、予め設定された動作パターンとに基づいて、前記駆動装置を制御する制御装置と、を備え、
前記動作パターンは、コイルの各寸法に対して往復動体の位置を定めたものである。
【0013】
本発明の好ましい実施形態によると、前記押圧装置は、シリンダとピストンを有し、該ピストンの往復動により伸張および縮退可能なシリンダ装置であり、
該シリンダと該ピストンの先端部との一方が、前記揺動体の一端側に回転可能に結合され、該シリンダと該ピストンの先端部との他方が、前記往復動体に回転可能に結合され、これにより、該シリンダのロッド側シリンダ室およびヘッド側シリンダ室の少なくとも一方に供給される流体圧により、前記揺動体が巻取ロール側に揺動する方向に、揺動体が押圧され、
前記動作パターンは、前記シリンダ装置が、伸張することなく、縮退し続けるように設定されている。
【0014】
本発明の好ましい別の実施形態によると、前記動作パターンは、アイロニングロールが金属箔体に接触する位置と巻取位置との距離の変動を抑えるように設定されており、
該巻取位置は、アイロニングロールに既に巻き取られた金属箔体と、これから巻き取られる金属箔体との境界位置である。
【0015】
本発明の好ましい実施形態によると、前記押圧装置が発生する力を検出する力センサをさらに備え、
前記制御装置は、該力センサの検出値と、前記寸法センサの検出値と、予め設定した押圧力パターンとに基づいて、前記押圧装置を制御し、
アイロニングロールが金属箔体に押圧力を与える位置から巻取ロールの中心軸へ向かう方向における当該押圧力の成分を、中心方向成分とし、
前記押圧力パターンは、前記中心方向成分がコイルの寸法に関わらず一定になるように、前記押圧装置が発生する力を、コイルの各寸法に対して定めたものである。
【発明の効果】
【0016】
上述した本発明によると、往復動体に揺動体を揺動可能に取り付け、押圧装置により、揺動体を巻取ロール側に揺動させてアイロニングロールを巻取ロールに押し付けるので、往復動体の往復動により、アイロニングロールの位置または揺動体の揺動を調整でき、これにより、コイルが大径化しても、金属箔体を安定して巻き取ることができる。
【0017】
例えば、押圧装置が、巻取ロール側に揺動体が揺動するように揺動体に力を作用させることで、アイロニングロールを金属箔体に押し付ける。この時、往復動体の位置に応じた量だけ、揺動体が揺動するので、往復動体の位置が変われば、アイロニングロールが金属箔体に接触する接触位置(金属箔体への押圧位置)も変わる。従って、当該接触位置の調節可能範囲が広がる。その結果、コイルが大径化しても、金属箔体を安定して巻き取ることが可能となる。
【0018】
また、別の例では、往復動体の位置を調整して揺動体の揺動角を調整することで、押圧装置が発生する押し付け力の向きの変動を抑えることが可能となる。その結果、コイルが大径化しても、金属箔体を安定して巻き取ることが可能となる。
【0019】
本発明の実施形態による効果は、以下で明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】従来のアイロニング装置の構成例を示す。
【図2】本発明の実施形態によるアイロニング装置の構成例を示す。
【図3】本発明の実施形態によるアイロニング装置の構成例を示すが、巻取ロールが金属箔体をある程度巻き取った状態を示す。
【図4】図1のアイロニング装置の各構成部材の位置関係を示す。
【図5】図2のV−V矢視図である。
【図6】第1の動作パターンによる制御を示すグラフである。
【図7】第1の動作パターンを求める時に使用する複数の縮退速度パターンを示す。
【図8】第2の動作パターンによる制御を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0022】
図2は、本発明の実施形態によるアイロニング装置10の構成例である。アイロニング装置10は、圧延されたアルミニウムなどの金属箔体1を巻取ロール3に巻き取る時に、巻き取り中の金属箔体1を巻取ロール3に押し付ける装置である。図3も、本発明の実施形態によるアイロニング装置10の構成図である。図2は、巻取ロール3への金属箔体1の巻き取り開始時を示し、図3は、巻取ロール3に金属箔体1をある程度巻き取った状態を示す。巻取ロール3に巻き取られる金属箔体1は、粗圧延機により圧延された金属箔体(例えば、厚み0.01mm〜0.5mm)や、仕上げ圧延機により圧延された金属箔体(例えば、厚み0.01mm〜0.03mm)などであってよい。なお、図2、図3において、符号6は、金属箔体1を支持して案内する案内ロールである。
【0023】
アイロニング装置10は、アイロニングロール5、揺動体7、往復動体9、駆動装置11、押圧装置13、寸法センサ15、位置センサ17、制御装置19、および力センサ21を備える。
【0024】
アイロニングロール5は、巻取ロール3に巻き取り中の金属箔体1を巻取ロール3に押し付ける。アイロニングロール5は、その中心軸Cが、巻取ロール3の中心軸Cと平行に配置される。アイロニングロール5は、巻取ロール3に巻き取られている金属箔体1を巻取ロール3に押しつけることで、金属箔体1の空気巻き込みを防止して、金属箔体1の巻き取りを安定させる。なお、図2において、各軸C、C、C、C、Cは、紙面に垂直な方向に延びている。
【0025】
揺動体7には、アイロニングロール5が一端側に取り付けられている。アイロニングロール5は、揺動体7に取り付けられた状態で、その中心軸C周りに回転自在となっている。
【0026】
往復動体9には、揺動体7の他端部が揺動軸C周りに揺動可能に取り付けられている。好ましくは、往復動体9は、ガイドレール12に往復動可能に支持されるとともに、当該往復動がガイドレール12に案内される。
【0027】
駆動装置11は、巻取ロール3に対して往復動体9を前後に移動させる。この前後の移動は、図2の例では、ガイドレール12に沿った方向である。駆動装置11は、シリンダとピストン(ロッド)を有し、該ピストンの往復動により伸張および縮退可能なシリンダ装置であってよい。この場合、該シリンダおよび該ピストンの先端部の一方(図2の例では、後述のピストン11dの先端部)が往復動体9に結合され、該シリンダおよび該ピストンの先端部の他方(図2の例では、後述のシリンダ11a)が基準体23に固定されている。基準体23は、静止した支持構造体である。この構成において、該シリンダのロッド側シリンダ室およびヘッド側シリンダ室の少なくとも一方に供給される流体圧(油圧などの液圧または空圧。以下同様)により、該シリンダ装置を伸縮させ、巻取ロール3に対して往復動体9を前後に移動させる。駆動装置11は、好ましくは、図2の例や後述の実施例のように、油圧シリンダ装置である。油圧シリンダ装置については、後述の実施例で詳しく説明する。
【0028】
押圧装置13は、金属箔体1を巻取ロール3に押し付ける力を発生する。押圧装置13は、揺動体7が巻取ロール3側に揺動する方向に揺動体7に力を作用させ、これにより、揺動体7に取り付けたアイロニングロール5を介して金属箔体1を巻取ロール3に押し付ける。
押圧装置13は、シリンダとピストン(ロッド)を有し、該ピストンの往復動により伸張および縮退可能なシリンダ装置であってよい。この場合、該シリンダおよび該ピストンの先端部の一方(図2の例では、後述のピストン13gの先端部)が揺動体7の他端側に回転軸C周りに回転可能に結合され、シリンダおよびピストンの先端部の他方(図2の例では、後述のシリンダ13a)が往復動体9に回転軸C周りに回転可能に結合されている。この構成において、該シリンダのロッド側シリンダ室およびヘッド側シリンダ室の少なくとも一方に供給される流体圧(油圧などの液圧または空圧。以下同様)により、揺動体7が巻取ロール3側に揺動する方向に、揺動体7が押圧される。
押圧装置13は、好ましくは、図2の例や後述の実施例のように、油空圧シリンダ装置である。油空圧シリンダ装置については、後述の実施例で詳しく説明する。
【0029】
寸法センサ15は、巻取ロール3に巻き取られた金属箔体1が形成するコイル1aの寸法を検出する。
例えば、寸法センサ15は、コイル1aの外表面の位置(以下、外表面位置という)を検出する公知のセンサ(例えば、当該外表面に非接触で当該位置を光学的に検出するセンサ)であってよい。この場合、検出した外表面位置をコイル1aの寸法検出値として制御装置19へ出力してもよいし、または、検出した外表面位置をコイル1aの中心(即ち、巻取ロール3の中心軸C)からコイル1aの外表面までの距離(以下、径寸法という)に変換し、当該径寸法を、コイル1aの寸法検出値として制御装置19へ出力してもよい。
他の例として、寸法センサ15は、巻取ロール3による金属箔体1の巻き取り開始時から、巻取ロール3の回転数を計測してもよい。この場合、寸法センサ15は、当該回転数と、金属箔体1の既知の厚みと、巻取ロール3の既知の寸法とに基づいて、外表面位置または径寸法を算出し、この算出値を、コイル1aの寸法検出値として制御装置19へ出力してもよい。
【0030】
位置センサ17は、往復動体9の位置を検出する。位置センサ17は、図2の例では、光学式のリニアスケールであるが、他の適宜の手段であってもよい。
【0031】
制御装置19は、寸法センサ15の検出値(即ち、寸法検出値)と、位置センサ17の検出値(即ち、往復動体9の位置)と、予め設定された動作パターンとに基づいて、駆動装置11を制御する。前記動作パターンは、コイル1aの各寸法に対して往復動体9の位置を定めたものである。これにより、制御装置19は、往復動体9の動作が前記動作パターンに従うように駆動装置11を制御する。
【0032】
前記動作パターンとして、第1または第2の動作パターンを使用するのがよい。
【0033】
第1の動作パターンは、往復動体9が、巻取ロール3による金属箔体1の巻き取り開始時から巻き取り終了時まで、押圧装置13(即ち、前記シリンダ装置)が、伸張することなく、縮退し続けるように設定されている。第1の動作パターンに基づいて、制御装置19が駆動装置11を制御することで、押圧装置13は、巻き取り開始時から巻き取り終了時まで、常に縮退し続ける。
これにより、次のように、アイロニングロール5による金属箔体1への押圧力の変動を抑制できる。コイル寸法の増加に伴って押圧装置13が常に縮退し続けるようにできる。従って、押圧装置13(前記シリンダ装置のピストン)の動作方向が一時的に逆転することがなくなる。その結果、押圧装置13が発生する押圧力や、押圧装置13の機械的摩擦力の方向が逆転して変動することもなくなる。従って、このような押圧力や摩擦力の変動によって、アイロニングロール5の金属箔体1に対する押付力が変動することを抑制できる。
【0034】
第2の動作パターンは、アイロニングロール5が金属箔体1に接触する位置a(図3を参照)と巻取位置b(図3を参照)との、コイル1a外表面に沿った周方向距離(即ち、巻取ロール3の中心軸C周りの距離)が、巻き取り開始時から巻き取り終了時までにおいて、変動することを抑えるように設定されている。好ましくは、巻取ロール3による巻き取り開始時から巻き取り終了時まで、前記周方向距離が一定となるように、または、前記周方向距離ができる限り一定となるように第2の動作パターンを設定する。例えば、巻き取り開始時から巻き取り終了時まで、前記周方向距離が0〜20mmの範囲内となるように第2の動作パターンを設定する。
なお、巻取位置bは、図3に示すように、アイロニングロール5に既に巻き取られた金属箔体1と、これから巻き取られる金属箔体1との境界位置である。
第2の動作パターンに基づいて、制御装置19が駆動装置11を制御することで、前記周方向距離は、巻き取り開始時から巻き取り終了時まで、変動が抑制される。好ましくは、前記周方向距離は、巻き取り開始時から巻き取り終了時まで、ほぼ一定に維持されるか、または、最小限の変動範囲内で変化する。
これにより、金属箔体1に対するアイロニングロール5の押付位置(即ち、図3の位置a)を、望ましい範囲(例えば、前記周方向距離が0〜20mmとなる範囲)に維持することができる。仮に、この押付位置が、巻取位置bから大きく外れると、金属箔体1の空気引き込みを防止できなくなる。そのため、巻き取り開始時から巻き取り終了時にわたってコイル1a寸法が大きく増加する場合であっても、アイロニングロール5の押付位置を、第2の動作パターンにより、空気引き込みの防止に望ましい範囲に維持できるようになり、金属箔体1の空気引き込みを防止して安定した巻き取りを実現できる。
【0035】
なお、第1および第2の動作パターンを両立させることができない。前記周方向距離が一定になるように制御すると、巻き取り途中で、押圧装置13の動作方向を逆転させることになる。そのため、第1および第2の動作パターンを両立させることができないので、これらのいずれか一方を選択する。
また、第1および第2の動作パターンのいずれにおいても、押圧装置13が発生する押し付け力(後述する力F)の向きの変動を図1の場合よりも抑えることができる。
【0036】
力センサ21は、押圧装置13が発生する力(この例では、押圧装置13が揺動体7を押圧する力F(図4を参照))を検出する。この場合、制御装置19は、好ましくは、力センサ21の検出値(例えばF)と、寸法センサ15の検出値と、予め設定した押圧力パターンとに基づいて、押圧装置13を制御する。押圧力パターンは、図4に示す中心方向成分Fに基づいて定められる。この中心方向成分Fは、アイロニングロール5が金属箔体1に押圧力Fを与える位置から巻取ロール3の中心軸Cへ向かう方向における当該押圧力Fの成分である。押圧力パターンは、前記中心方向成分Fがコイル1aの寸法に関わらず一定になるように、押圧装置13が発生する力(この例では、押圧装置13が揺動体7を押圧する力F)を、コイル1aの各寸法に対して定めたものである。
すなわち、各時点におけるコイル1aの寸法および前記動作パターンから、揺動軸Cの位置、および、アイロニングロール5とコイル1aとの接線の位置a(図3、図4を参照)が定まり、これら位置から、FとFとの関係が、下記[数1]の式(1)により定まる。従って、Fの大きさを所定値に設定して、該所定値が、コイル1aの寸法に関わらず一定となるように、コイル1aの各寸法毎に、動作パターンと式(1)とにより、Fの大きさを計算しておく。このように、コイル1aの各寸法毎に計算されたFの大きさを、押圧力パターンとすることができる。
これにより、制御装置19は、押圧装置13による押圧力Fが押圧力パターンに従うように押圧装置13を制御する。
【0037】
【数1】

【0038】
式(1)における各記号を、図4に基づいて次のように定義する。図4において、各部材を細い破線で示している。
は、押圧装置13が揺動体7に作用させる力である。Fは、図4において、ベクトルで示され、その始点は回転軸Cである。
は、アイロニングロール5が金属箔体1に押圧力Fを与える位置から巻取ロール3の中心軸Cへ向かう方向における当該押圧力Fの成分である。Fは、図4において、ベクトルで示され、その始点は位置aである。Fは、図4において、ベクトルで示され、その始点は位置aである。
は、平面Pと平面Pの距離である。平面Pは、図4において太いほうの破線で示されており、押圧装置13が揺動体7に作用させる力のベクトルFを含み、かつ、巻取ロール3の中心軸Cと平行な平面である。平面Pは、図4において太いほうの破線で示されており、平面Pと平行であり、かつ、揺動軸Cを含む平面である。
は、平面Pと平面Pとの距離である。平面Pは、平面Pと平行であり、かつ、アイロニングロール5と金属箔体1との接線a(即ち、図2、図4の位置a)を含む平面である。接線aは、図4の紙面と垂直な方向に延びており、上述のように、アイロニングロール5が金属箔体1に力Fを作用させる位置に相当する。
Wは、アイロニングロール5および揺動体7を合わせた物体の重心Gを始点とする、アイロニングロール5および揺動体7の重量のベクトルの、平面Pと平行な方向における成分である。Wは、図4において、ベクトルで示され、その始点は重心Gである。
は、平面Pと平面Pとの距離である。平面Pは、ベクトルWを含み、かつ、平面Pと平行である。
αは、ベクトルFとベクトルFのなす角度であり、巻取ロール3の中心軸Cと接線aとを含む平面と上述の平面Pとのなす角度でもある。
【0039】
図5は、図2のV−V矢視図である。図5に示すように、上述の揺動体7および押圧装置13は、アイロニングロール5の軸方向両側に設けられる。従って、制御装置19は、1対の押圧装置13を、互いに同期させて上述のように制御する。
【0040】
上述したアイロニング装置10によると、次のように、アイロニングロール5が金属箔体1に接触する位置aの調節可能範囲を広げることで、コイル1aが大径化しても、金属箔体1を安定して巻き取ることができる。押圧装置13が、巻取ロール3側に揺動体7が揺動するように揺動体7に力を作用させることで、アイロニングロール5を金属箔体1に押し付ける。この時、往復動体9の位置に応じた量だけ、揺動体が揺動するので、往復動体9の位置が変われば、アイロニングロール5が金属箔体1に接触する接触位置a(金属箔体1への押圧位置)も変わる。従って、当該接触位置aの調節可能範囲が広がる。その結果、コイル1aが大径化しても、金属箔体1を安定して巻き取ることが可能となる。
【実施例】
【0041】
本発明の実施例について説明するが、以下で述べない点は、上述の実施形態と同じであってよい。
【0042】
実施例において、駆動装置11は、油圧シリンダ装置である。この場合、油圧シリンダ装置11は、以下の構成を有し、以下のように制御装置19に制御される。
【0043】
油圧シリンダ装置11は、図2のように、シリンダ11a、油圧源11b、サーボ弁11c、およびロッド(ピストン)11dを有する。シリンダ11aの内部には、ヘッド側シリンダ室11a−1およびロッド側シリンダ室11a−2が形成されている。油圧源11bは、図2のように、油圧供給管11eによりヘッド側シリンダ室11a−1およびロッド側シリンダ室11a−2に接続されている。サーボ弁11cは、油圧供給管11eに設けられ、ヘッド側シリンダ室11a−1およびロッド側シリンダ室11a−2に対して油圧源11bから供給する油圧を調整する。ロッド11dは、ヘッド側シリンダ室11a−1およびロッド側シリンダ室11a−2への供給油圧により、巻取ロール3に対して前後に往復動する。ロッド11dの先端は、往復動体9に結合されており、これにより、往復動体9は、ロッド11dと一体的に往復動する。
【0044】
制御装置19は、寸法センサ15の検出値と、位置センサ17の検出値と、予め設定された動作パターン(好ましくは前記第1または第2の動作パターン)とに基づいて、油圧シリンダ装置11を制御する。具体的には、制御装置19は、サーボ弁11cを制御することで、寸法センサ15の各検出値毎に、動作パターンにおいて該検出値に対して定められている往復動体9の位置に往復動体9が位置するように制御される。
【0045】
押圧装置13は、油空圧シリンダ装置である。この場合、油空圧シリンダ装置13は、以下の構成を有し、以下のように制御装置19に制御される。
【0046】
油空圧シリンダ装置13は、シリンダ13a、空圧源13b、サーボ弁13c、13d、第1のエアハイドロコンバータ13e、第2のエアハイドロコンバータ13f、ロッド(ピストン)13gを有する。シリンダ13aは、往復動体9に、回転軸C周りに回転可能に取り付けられている。空圧源13bは、例えば、コンプレッサであり、図2のように、空圧供給管13hにより第1および第2のエアハイドロコンバータ13e、13fの空気室13e−1、13f−1に接続される。サーボ弁13cは、第1および第2のエアハイドロコンバータ13e、13fに対して空圧源13bから供給する空圧を調整する。サーボ弁13dは、第1のエアハイドロコンバータ13eに対して空圧源13bから供給する空圧を調整する。第1のエアハイドロコンバータ13eの油室13e−2は、シリンダ13aのロッド側シリンダ室13a−2に接続され、第2のエアハイドロコンバータ13fの油室13f−2は、シリンダ13aのヘッド側シリンダ室13a−1に接続される。サーボ弁13c,13dにより、第1および第2のエアハイドロコンバータ13e、13f内の空気室13e−1、13f−1への供給空圧を調整することで、シリンダ13aのヘッド側シリンダ室13a−1およびロッド側シリンダ室13a−2への供給油圧を調整する。これにより、揺動体7に回転軸C周りに回転可能に取り付けられたロッド13gは、揺動体7が巻取ロール3側に揺動する方向に揺動体7に力を作用させ、その結果、揺動体7に取り付けたアイロニングロール5を介して金属箔体1を巻取ロール3に押し付ける。また、油空圧シリンダ装置13は、エアハイドロコンバータ13e、13fを有しているので、アイロニングロール5および揺動体7を介して金属箔体1から衝撃を受けても、この衝撃をエアハイドロコンバータ13e、13fの空圧により吸収できる。従って、巻取ロール3の巻取速度の高速化により振動が発生して、アイロニングロール5が衝撃を受けても、これを吸収することができる。なお、図2において、符号13e−3、13f−3は、それぞれエアハイドロコンバータ13e、13fのピストンを示す。
【0047】
制御装置19は、力センサ21の検出値と、寸法センサ15の検出値と、予め設定した押圧力パターンとに基づいて、油空圧シリンダ装置13を制御する。具体的には、寸法センサ15の各検出値毎に、押圧力パターンにおいて該検出値に対して定められている、ロッド13gが揺動体7を押圧する力Fで、ロッド13gが揺動体7を押すように、制御装置19はサーボ弁13e、13fを制御する。
【0048】
図2の例では、力センサ21は、ヘッド側シリンダ室13a−1内の圧力を検出する圧力センサ21aと、ロッド側シリンダ室13a−2内の圧力を検出する圧力センサ21bとからなる。制御装置19は、圧力センサ21a、21bの検出値に基づいて、サーボ弁13c、13dを制御することで、上述の押圧力Fが押圧力パターンに従うようにする。
ここでは、制御装置19は、圧力センサ21bの検出値に基づいて、ロッド側シリンダ室13a−2内の油圧が一定の設定値に維持されるようにサーボ弁13dを制御すると同時に、圧力センサ21aの検出値に基づいて、へッド側シリンダ室13a−1内の油圧が押圧力パターンに従うようにサーボ弁13c制御する。この場合、押圧力パターンは、次の[数2]の式(2)で表され、制御装置19は、圧力センサ21bの検出値に基づいて、サーボ弁13cを制御することで、ヘッド側シリンダ室13a−1内の油圧が、式(2)を変形させた[数3]の式(3)のPとなるように制御する。
【0049】
【数2】

【0050】
【数3】

【0051】
式(2)、(3)において、式(1)と同じ記号の定義は、式(1)の場合と同じである。式(2)、(3)における新たな記号の定義は、次の通りである。
は、シリンダ13aのヘッド側シリンダ室13a−1内における圧力である。
は、シリンダ13aのロッド側シリンダ室13a−2内における圧力であり、上述のように一定の設定値である。
は、ピストン13gが、ヘッド側シリンダ室13a−1内の油からその伸張方向に圧力を受ける面積である。
は、ピストン13gが、ロッド側シリンダ室13a−2内の油からその縮退方向に圧力を受ける面積である。
なお、式(2)、(3)において、数字の「2」は、図5のように、油空圧シリンダ装置13が2つ設けられていることを考慮したものである。
【0052】
図6は、第1の動作パターンによる制御を示すグラフである。図6(A)は、第1の動作パターンを示し、図6(B)、図6(C)は、図6(A)の第1の動作パターンに従った場合の結果を示す。図6(A)において、横軸は、コイルの寸法を示し、縦軸は、往復動体9の位置としての油圧シリンダ装置11の伸張量(ロッド11dのストローク位置)を示す。図6(B)において、Qは、油空圧シリンダ装置13の伸張量(ロッド13gのストローク位置)を示し、Rは、油空圧シリンダ装置13の最大伸張量(ロッド13gの最大ストローク位置)を示す。図6(B)において、横軸は、コイルの寸法を示し、縦軸は、油空圧シリンダ装置13の伸張量を示す。図6(C)は、押圧位置aと巻取位置bとの上述した周方向距離を示す。図6(C)において、横軸は、コイルの寸法を示し、縦軸は、前記周方向距離を示す。
【0053】
第1の動作パターンは、例えば、次の(1)〜(5)の手順により予め求めることができる。
【0054】
(1)油圧シリンダ装置11の縮退速度パターンを複数設定する。図7に示す縮退速度パターンA1、A2、A3を設定する。
図7において、曲線B1は、予め分かっているコイル寸法の増加速度パターンを示す。コイル寸法の増加速度は、コイル寸法が大きいほど小さくなる。
縮退速度パターンA1、A2、A3を、図7においてパターンB1からあまり離れないように設定する。縮退速度パターンA1、A2、A3を、図7において、折れ線グラフとして設定しているのは、設定を簡単にするためである。
図7では、3つの縮退速度パターンを設定しているが、実際には、多数の縮退速度パターンを設定することができる。
【0055】
(2)各縮退速度パターンA1、A2、A3について、当該縮退速度パターンで油圧シリンダ装置11を縮退させた場合に、油圧シリンダ装置13の伸張量とコイルの寸法との関係(以下、油圧シリンダ装置13の伸縮パターンという)を、シミュレーションにより求める。このシミュレーションは、縮退速度パターン、予め分かっている各時点のコイル寸法、および、アイロニング装置10の幾何学的な形状と寸法に基づいて行われる。
【0056】
(3)前記(2)で各縮退速度パターン毎に求めた油圧シリンダ装置13の伸縮パターンの中から、コイルの寸法の増加に伴い油圧シリンダ装置13が常に縮退し続ける伸縮パターンを選択する。
【0057】
(4)選択した伸縮パターンに対応する図7の折れ線グラフ(縮退速度パターン)を曲線で近似する。これにより、縮退速度パターンによる油圧シリンダ11の動作を滑らかにする。
【0058】
(5)前記(4)で近似した曲線による縮退速度パターンと、アイロニング装置10の幾何学的な形状と寸法とに基づいて、図6(A)に示す第1の動作パターンを求める。
【0059】
図8は、第2の動作パターンによる制御を示すグラフである。図8(A)は、第2の動作パターンを示し、図8(B)、図8(C)は、それぞれ、図8(A)の第2の動作パターンに従った場合の結果を示す。図8(A)において、横軸は、コイルの寸法を示し、縦軸は、往復動体9の位置としての油圧シリンダ装置11の伸張量(ロッド11dのストローク位置)を示す。図8(B)において、Qは、油空圧シリンダ装置13の伸張量(ロッド13gのストローク位置)を示し、Rは、油空圧シリンダ装置13の最大伸張量(ロッド13gの最大ストローク位置)を示す。図8(B)において、横軸は、コイルの寸法を示し、縦軸は、油空圧シリンダ装置13の伸張量を示す。図8(C)は、押圧位置aと巻取位置bとの上述した周方向距離を示す。図8(C)において、横軸は、コイルの寸法を示し、縦軸は、前記周方向距離を示す。
【0060】
第2の動作パターンは、例えば、次の(1)〜(3)の手順により予め求めることができる。
(1)押圧位置aと巻取位置bとの上述した一定の周方向距離を設定する。
(2)設定した周方向距離に基づいて、コイルの各寸法毎にアイロニングロール5の位置を求める。
(3)コイルの各寸法に関して、アイロニングロール5の位置が求まると、この位置と、アイロニング装置10の幾何学的な形状および寸法とから、油圧シリンダ装置11の伸縮量が求まる。すなわち、第2の動作パターンが求まる。
なお、図8(A)は、このように求めた第2の動作パターンを多項式で近似したものであるので、図8(C)では、前記周方向距離が一定値から若干変動している。ただし、前記周方向距離を一定値にするために、第2の動作パターンを多項式で近似しなくてもよい。
【0061】
本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0062】
1 金属箔体、1a コイル、3 巻取ロール、5 アイロニングロール、7 揺動体、9 往復動体、10 アイロニング装置、11 駆動装置(油圧シリンダ装置)、11a シリンダ、11b 油圧源、11c サーボ弁、11d ロッド、11e 油圧供給管、12 ガイドレール、13 押圧装置(油空圧シリンダ装置)、13a シリンダ、13b 空圧源、13c、13d サーボ弁、13e 第1のエアハイドロコンバータ,13f 第2のエアハイドロコンバータ、13g ロッド(ピストン)、15 寸法センサ、17 位置センサ、19 制御装置、21 力センサ、23 基準体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延された金属箔体を巻取ロールに巻き取る時に、巻き取り中の金属箔体を巻取ロールに押し付けるアイロニング装置であって、
巻き取り中の金属箔体を巻取ロールに押し付けるアイロニングロールと、
アイロニングロールが一端側に取り付けられた揺動体と、
前記揺動体の他端部が揺動可能に取り付けられた往復動体と、
前記巻取ロールに対して前記往復動体を前後に移動させる駆動装置と、
金属箔体を巻取ロールに押し付ける力を発生する押圧装置と、を備え、
該押圧装置は、巻取ロール側に揺動体が揺動するように揺動体に力を作用させ、これにより、揺動体に取り付けたアイロニングロールを介して金属箔体を巻取ロールに押し付ける、ことを特徴とするアイロニング装置。
【請求項2】
巻取ロールに巻き取られた金属箔体が形成するコイルの寸法を検出する寸法センサと、
往復動体の位置を検出する位置センサと、
前記寸法センサの検出値と、前記位置センサの検出値と、予め設定された動作パターンとに基づいて、前記駆動装置を制御する制御装置と、を備え、
前記動作パターンは、コイルの各寸法に対して往復動体の位置を定めたものである、ことを特徴とする請求項1に記載のアイロニング装置。
【請求項3】
前記押圧装置は、シリンダとピストンを有し、該ピストンの往復動により伸張および縮退可能なシリンダ装置であり、
該シリンダと該ピストンの先端部との一方が、前記揺動体の一端側に回転可能に結合され、該シリンダと該ピストンの先端部との他方が、前記往復動体に回転可能に結合され、これにより、該シリンダのロッド側シリンダ室およびヘッド側シリンダ室の少なくとも一方に供給される流体圧により、前記揺動体が巻取ロール側に揺動する方向に、揺動体が押圧され、
前記動作パターンは、前記シリンダ装置が、伸張することなく、縮退し続けるように設定されている、ことを特徴とする請求項2に記載のアイロニング装置。
【請求項4】
前記動作パターンは、アイロニングロールが金属箔体に接触する位置と巻取位置との距離の変動を抑えるように設定されており、
該巻取位置は、アイロニングロールに既に巻き取られた金属箔体と、これから巻き取られる金属箔体との境界位置である、ことを特徴とする請求項2に記載のアイロニング装置。
【請求項5】
前記押圧装置が発生する力を検出する力センサをさらに備え、
前記制御装置は、該力センサの検出値と、前記寸法センサの検出値と、予め設定した押圧力パターンとに基づいて、前記押圧装置を制御し、
アイロニングロールが金属箔体に押圧力を与える位置から巻取ロールの中心軸へ向かう方向における当該押圧力の成分を、中心方向成分とし、
前記押圧力パターンは、前記中心方向成分がコイルの寸法に関わらず一定になるように、前記押圧装置が発生する力を、コイルの各寸法に対して定めたものである、ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のアイロニング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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