説明

アウトガスの除去方法、および樹脂の製造方法

【課題】樹脂から、短時間で大量のアウトガスを除去することができるアウトガスの除去方法と、該除去方法により樹脂からアウトガスを除去する工程を有する樹脂の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係るアウトガスの除去方法は、樹脂に対して、マイクロ波を照射することによって、樹脂からアウトガスを除去することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アウトガスの除去方法、および樹脂の製造方法に係り、さらに詳しくは、短時間で効率的に樹脂からアウトガスを除去することができるアウトガスの除去方法と、該除去方法によりアウトガスを除去する工程を有する樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
浮遊粒子状物質や光化学オキシダントに係る大気汚染の状況はいまだ深刻である。現在でも、浮遊粒子状物質による人の健康への影響が懸念されて、光化学オキシダントによる健康被害が数多く届出されており、これに緊急に対処することが産業に対して要求されている。
【0003】
浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの原因には様々なものがあるが、その一つとして、揮発性有機化合物(VOC(volatile organic compounds))が挙げられる。VOCとは、揮発性を有し、大気中で気体状となる有機化合物の総称であり、トルエン、キシレン、酢酸エチルなど多種多様な物質が含まれる。
【0004】
このVOCの排出を抑制するため、環境省においては、自動車からの炭化水素の排出規制に加え、工場等の固定発生源からのVOCの排出及び飛散に関し、排出規制、自主的取組の促進、各種検討調査などの施策を講じている。
【0005】
上記のような事情を背景として、樹脂産業においても、VOCの排出削減が試みられている。一般的に、樹脂の生産においては、樹脂中に含まれる残留有機溶剤、あるいは未反応残留モノマー等(アウトガス)が、VOCに該当する可能性がある。アウトガスを充分に除去することなく、樹脂を製品化すると、製品化後の樹脂からアウトガスが発生し、大気中に放出される可能性がある。従って、樹脂製品の製造工程の段階で、アウトガスを除去することが、樹脂産業において求められている。
【0006】
特許文献1においては、樹脂を加熱することによって、低アウトガス樹脂を製造する方法が提案されている。しかしながら、アウトガスの排出削減を更に推進するためには、より短時間で、より大量のアウトガスを樹脂から除去する方法が要求されている。
【特許文献1】特開2005−314685号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、樹脂から、短時間で大量のアウトガスを除去することができるアウトガスの除去方法と、該除去方法により樹脂からアウトガスを除去する工程を有する樹脂の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係るアウトガスの除去方法は、
樹脂に対して、マイクロ波を照射することによって、前記樹脂からアウトガスを除去することを特徴とする。
【0009】
樹脂にマイクロ波を照射することによって、樹脂分子、あるいは樹脂中に残留するアウトガス分子(残留有機溶媒、未反応のモノマー等)における極性基等が分子振動し、発熱する。その結果、樹脂全体が均一かつ速やかに加熱され、樹脂全体からアウトガスが揮発する。このように、本願発明においては、樹脂全体から、アウトガスを短時間で効率的(大量)に除去することができる。すなわち、樹脂へのマイクロ波照射によって、単位時間当たりに樹脂から除去されるアウトガス量を増加させることができる。従来のオーブン加熱等のように、熱伝導によって樹脂を加熱し、アウトガスを除去する方法においては、樹脂外部に比べて、樹脂内部が充分に加熱され難い。よって、樹脂内部からアウトガスを充分に除去することができない恐れがあった。一方、本願発明においては、樹脂の内部にまでマイクロ波が照射され、樹脂内部を発熱させることが可能であるため、樹脂の内部からも容易にアウトガスを除去することができる。
【0010】
好ましくは、前記樹脂が、スチレン系モノマーまたはアクリル系モノマーの少なくともいずれかを有する原料から製造される高分子化合物である。
【0011】
本願発明に係るアウトガスの除去方法は、樹脂一般に対して適用可能であるが、特に、分子内にスチレン系モノマーまたはアクリル系モノマーの少なくともいずれかを有する高分子化合物に対して有効である。
【0012】
前記マイクロ波の照射電力は、好ましくは、前記樹脂1g当たり1〜1000W、より好ましくは、樹脂1g当たり10〜500Wである。
【0013】
マイクロ波の照射電力が小さ過ぎると、樹脂の充分な加熱が行われ難いため、アウトガスの除去に時間がかかり過ぎる恐れがある。また、マイクロ波の照射電力が大き過ぎると、ごく短時間でペレット状の樹脂が溶解し、互いに融着してしまう。その結果、アウトガスの除去後、樹脂の粉砕、あるいは再ペレット化の工程が必要となってしまう。そこで、本願発明においては、マイクロ波の照射電力を上記範囲内とすることによって、これらの不具合を防止することができる。
【0014】
前記樹脂に対して前記マイクロ波を照射する時間は、好ましくは、0.1分以上、より好ましくは、5分以上、さらに好ましくは、5〜50分である。なお、水の不存在下においては、樹脂の固着を防止する観点から、マイクロ波を照射する時間を5〜14分にすることが特に好ましい。
【0015】
樹脂に対するマイクロ波の照射時間が短過ぎると、樹脂からアウトガスを充分に除去することができない。また、樹脂に対するマイクロの照射時間が長過ぎると、不経済である。
【0016】
好ましくは、前記マイクロ波の周波数が、2〜3GHzである。
【0017】
マイクロ波の周波数の上記範囲内とすることによって、樹脂から、アウトガスを効率的に除去することができる。
【0018】
好ましくは、前記樹脂を、該樹脂1g当たり0.1〜500gの水、より好ましくは、樹脂1g当たり10〜500gの水に浸漬させた状態で、前記樹脂に対して、前記マイクロ波を照射する。
【0019】
樹脂を水に浸漬させた状態で、樹脂にマイクロ波を照射することによって、水に浸漬させない場合に比べて、より効率的に樹脂を加熱し、アウトガスを除去することができる。水の量が少な過ぎると、樹脂を水に浸漬させる効果が得にくく、また、水の量が多過ぎると、経済面で非効率である。そこで、樹脂を浸漬させる水の量を上記範囲内とすることによって、これらの不具合を防止することができる。
【0020】
前記樹脂を、該樹脂1g当たり0.1〜500gの水と、該水100g当たり、好ましくは、0.1〜200g、より好ましくは、50〜200gの水溶性有機溶媒との混合液に浸漬させた状態で、前記樹脂に対して、前記マイクロ波を照射する。
【0021】
水と、水溶性有機溶媒との混合液に浸漬させた樹脂にマイクロ波を照射することによって、水溶性有機溶媒を用いない場合に比べて、樹脂から、より多くのアウトガスを除去することができる。水溶性有機溶媒の量が少な過ぎると、水溶性有機溶媒を用いる効果が得にくく、また、水溶性有機溶媒の量が多過ぎると、経済面で非効率である。そこで、水溶性有機溶媒の量を上記範囲内とすることによって、これらの不具合を防止することができる。
【0022】
好ましくは、前記水溶性有機溶媒がエタノールである。
【0023】
水溶性有機溶媒としては、エタノールのように、沸点および水との共沸点が共に50℃以上であり、樹脂(スチレン系ポリマーあるいはアクリル樹脂等)を溶解させないものが好ましい。
【0024】
本願発明に係る樹脂の製造方法は、上述したアウトガスの除去方法によって、樹脂からアウトガスを除去する工程を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明に係るアウトガスの除去方法、および樹脂の製造方法を、図面に示す実施形態に基づき、説明する。
図1は、本願発明の一実施形態に係るアウトガスの除去方法を示す図であって、樹脂、混合液、ガラスシャーレー、およびマイクロ波照射装置(電子レンジ)の位置関係を示す概略図である。
【0026】
樹脂
まず、本実施形態に係るアウトガス除去方法が適用される樹脂について説明する。本実施形態に係るアウトガスの除去方法の対象となる樹脂としては、特に限定されず、ポリ塩化ビニル樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂(ABS)、ポリアクリロニトリル樹脂、アクリル樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、スチレン−(メタ)アクリレート共重合体樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、脂環式構造を有する樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリスルホン樹脂、水添スチレン系熱可塑性エラストマー(SEBS)、及びフッ素樹脂等が挙げられる。これらの樹脂にマイクロ波を照射することによって、各樹脂からアウトガスを除去することができる。
【0027】
好ましくは、分子内に、スチレン系モノマーまたはアクリル系モノマーの少なくともいずれかを有する原料から製造される高分子化合物、例えば、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂(ABS)、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、および水添スチレン系熱可塑性エラストマー(SEBS)、スチレン−(メタ)アクリレート共重合体樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂等に対して、マイクロ波を照射する。より好ましくは、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂(ABS)に対して、マイクロ波を照射する。すなわち、本実施形態に係るアウトガス除去方法は、分子内に、スチレン系モノマーまたはアクリル系モノマーの少なくともいずれかを有する原料から製造される高分子化合物中に残存するスチレン系モノマーあるいはアクリル系モノマーの除去に特に適している。
【0028】
上述した各樹脂の作製方法(重合法)は、特に限定されず、通常の方法を用いればよい。
【0029】
アウトガスの除去方法
次に、アウトガスの除去方法について具体的に説明する。
【0030】
本実施形態においては、樹脂に対して、マイクロ波を照射することによって、樹脂からアウトガスを除去する。
【0031】
樹脂にマイクロ波を照射することによって、樹脂分子、あるいは樹脂中に残留するアウトガス分子(残留有機溶媒、未反応のモノマー等)における極性基等が分子振動し、発熱する。その結果、樹脂全体が均一かつ速やかに加熱され、樹脂全体からアウトガスが揮発し、樹脂全体からアウトガスを除去することができる。
【0032】
樹脂に対するマイクロ波の照射方法としては、特に限定されない。以下では、マイクロ波の照射方法の一例として、市販の家庭用電子レンジ(以下、マイクロ波照射装置、あるいはアウトガス除去装置と記す)を用いて、樹脂にマイクロ波を照射する方法を説明する。
【0033】
まず、図1に示すように、アウトガスを除去する前の樹脂2を準備する。
【0034】
樹脂2の形状は、特に限定されないが、好ましくは、樹脂がペレット状(円柱状)に成形されている。ペレット状(円柱状)の樹脂の寸法としては、特に限定されないが、通常、円柱の直径が0.5〜5mm、長さが0.5〜10mm程度である。
【0035】
次に、水と水溶性有機溶媒とを混合した混合液4を作製する。
【0036】
次に、ガラスシャーレー6の中に満たされた混合液4に対して、樹脂2を浸漬させる。
【0037】
次に、樹脂2および混合液4で満たされたガラスシャーレー6を、マイクロ波照射装置8(電子レンジ)の庫内に設置する。次に、マイクロ波照射装置8を作動させ、樹脂2、混合液4、およびガラスシャーレー6の全体に対して、マイクロ波を照射する。その結果、樹脂2中に存在するアウトガスが、樹脂2の外部へと除去される。
【0038】
好ましくは、樹脂1g当たり0.1〜500gの水、より好ましくは、樹脂1g当たり10〜500gの水に樹脂2を浸漬させた状態で、樹脂2に対してマイクロ波を照射する。
【0039】
樹脂2を水に浸漬させた状態で、樹脂2にマイクロ波を照射することによって、水に浸漬させない場合に比べて、より効率的に樹脂2を加熱し、アウトガスを除去することができる。水の量が少な過ぎると、樹脂2を水に浸漬させる効果が得にくい。また、水の量が多過ぎると、経済面で非効率である。そこで、樹脂2を浸漬させる水の量を上記範囲内とすることによって、これらの不具合を防止することができる。
【0040】
水と、水100g当たり、好ましくは、0.1〜200g、より好ましくは、50〜200gの水溶性有機溶媒との混合液4に樹脂2を浸漬させた状態で、樹脂2に対してマイクロ波を照射する。
【0041】
水と水溶性有機溶媒との混合液4に浸漬させた樹脂2にマイクロ波を照射することによって、水溶性有機溶媒を用いない場合に比べて、より効率的に樹脂2からアウトガスを除去することができる。水溶性有機溶媒の量が少な過ぎると、水溶性有機溶媒を用いる効果が得にくく、また、水溶性有機溶媒の量が多過ぎると、経済面で非効率である。そこで、水溶性有機溶媒の量を上記範囲内とすることによって、これらの不具合を防止することができる。
【0042】
好ましくは、水溶性有機溶媒として、エタノールを用いる。
【0043】
水溶性有機溶媒としては、エタノールのように、沸点および水との共沸点が共に50℃以上であり、ABS等の樹脂を溶解させないものが好ましい。具体的には、エタノールの他、メタノール、イソプロパノール、1,4−ブタンジオール、エチレングリコール等のアルコール系有機溶媒を用いることが好ましい。
【0044】
樹脂2に照射するマイクロ波の照射電力は、好ましくは、樹脂1g当たり1〜1000W、より好ましくは、樹脂1g当たり10〜500Wである。
【0045】
マイクロ波の照射電力が小さ過ぎると、樹脂2の充分な加熱が行われ難いため、アウトガスの除去に時間がかかり過ぎる恐れがある。また、マイクロ波の照射電力が大き過ぎると、ごく短時間で樹脂2が溶解し、互いに融着してしまう。その結果、アウトガスの除去後、樹脂の粉砕、あるいは再ペレット化の工程が必要となってしまう。そこで、マイクロ波の照射電力を上記範囲内とすることによって、これらの不具合を防止することができる。
【0046】
樹脂2に対してマイクロ波を照射する時間は、好ましくは、0.1分以上、より好ましくは、5分以上、さらに好ましくは、5〜14分である。
【0047】
樹脂に対するマイクロの照射時間が短過ぎると、樹脂2からアウトガスを充分に除去することができない。そこで、マイクロ波の照射時間を上記範囲内とすることによって、これらの不具合を防止することができる。
【0048】
好ましくは、マイクロ波の周波数が、2〜3GHzである。
【0049】
マイクロ波の周波数の上記範囲内とすることによって、樹脂2から、アウトガス(スチレン系モノマーおよびアクリル系モノマー等)を効率的に除去することができる。
【0050】
好ましくは、常圧下に置かれた樹脂に対して、マイクロ波を照射する。樹脂周辺の減圧度は低い方がよい。
【0051】
ペレット状の樹脂2は、上述したアウトガスの除去方法によって、アウトガスを除去された後に、例えば、射出成型機、押出成型機等の成形装置に入れられて、樹脂成形品となる。
【0052】
ペレット状の樹脂2は、様々の用途に用いられる。例えば、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂(ABS)は、自動車外装用部材(ラジエーターグリル、 カウルベント、ランプベースハウジング、ランプベゼル、フロントターンハウジング、 ドアミラーハウジング、外装ピラー、センターピラー、ライセンスフレーム、ライセンスガーニッシュ、リアガーニッシュ、 外エンブレム、サイドモール、モール、シルスポイラー、 リアスポイラー、センターキャップ、ホイルキャップ、ホイルカバー、ルーフレールレッグカバー、ルーフガーニッシュ、エアインテーク、バンパーモール、サイドステップ)等に成形加工される。本実施形態に係るアウトガスの除去方法により、製造工程の段階でアウトガスが除去されたABS樹脂等を、自動車外装用部材として用いることによって、自動車の外装部からアウトガスが大気中へ排出されることを防止できる。
【0053】
本実施形態においては、樹脂2にマイクロ波を照射することによって、樹脂分子、あるいは樹脂中に残留するアウトガス分子(残留有機溶媒、未反応のモノマー等)における極性基等が分子振動し、発熱する。その結果、樹脂2全体が均一かつ速やかに加熱され、樹脂全体からアウトガスが揮発する。このように、本実施形態に係るアウトガスの除去方法においては、樹脂全体から、アウトガスを短時間で効率的に除去することができる。すなわち、樹脂2へのマイクロ波照射によって、単位時間当たりに樹脂2から除去されるアウトガス量を増加させることができる。その結果、アウトガスの除去処理を施した後の樹脂からアウトガスが発生することを防止できる。従来のオーブン加熱等のように、熱伝導によって樹脂2を加熱し、アウトガスを除去する方法においては、樹脂外部に比べて、樹脂内部が充分に加熱され難い。よって、樹脂内部からアウトガスを充分に除去することができない恐れがあった。一方、本実施形態においては、樹脂2の内部にまでマイクロ波が照射され、樹脂2の内部を発熱させることが可能であるため、樹脂2の内部からも容易にアウトガスを除去することができる。
【0054】
本実施形態に係る樹脂の製造方法は、少なくとも、上述したアウトガスの除去方法によって、樹脂からアウトガスを除去する工程を有する。
【0055】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【0056】
例えば、上述した実施形態では、ペレット状の樹脂にマイクロ波を照射したが、樹脂粉体、あるいは砕かれた状態の樹脂等にマイクロ波を照射してもよい。この場合も上述の実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0057】
上述した実施形態においては、水と水溶性有機溶媒との混合液中に浸漬させた樹脂に対してマイクロ波を照射したが、水単独に浸漬させた樹脂に対してマイクロ波を照射してもよい。あるいは、樹脂に水蒸気を吹き付けながら、樹脂に対してマイクロ波を照射してもよい。または、樹脂を、水または混合液に浸漬させることなく、樹脂単独に対してマイクロ波を照射してもよい。これらの場合においても、上述の実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0058】
上述した実施形態においては、樹脂に対するマイクロ波の照射回数が1回であったが、樹脂に対するマイクロ波の照射を繰り返しても良い。例えば、マイクロ波の照射回数が1回である場合に比べて、照射1回あたりの照射時間をより短くした上で、数回にわたり、樹脂にマイクロ波を照射してもよい。この場合においても、上述の実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0059】
樹脂に加熱されたガスを吹き付けながらマイクロ波の照射を行ってもよい。この場合も上述の実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【実施例】
【0060】
以下に実施例、比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。
【0061】
実施例1
(樹脂に対するマイクロ波の照射)
まず、従来の製造方法を用いて、アウトガス除去前のABS樹脂(「ABS EX−111」:ユーエムジー・エービーエス(株)社製)から成る樹脂ペレットを作製した。なお、得られたABS樹脂の比重は、温度補正をしない場合において、1.074であった。
【0062】
次に、樹脂ペレット50gを、ガラス製のガラスシャーレー内に敷き詰めた後、ガラスシャーレーを電子レンジ(松下電工(株)製、National NE-S12-5)の庫内に設置し、ガラスシャーレー内の樹脂ペレットに、マイクロ波を照射した。マイクロ波照射後、樹脂ペレットは、ガラスシャーレーへ固着していなかったことが確認された。
【0063】
なお、樹脂ペレットに照射したマイクロ波の周波数は、2.45GHzであった。
【0064】
また、マイクロ波(電子レンジ)の照射電力は、500Wであった。つまり、樹脂ペレット1g当たり照射電力10Wのマイクロ波を照射した。
【0065】
また、樹脂ペレットに対するマイクロ波の照射時間(処理時間)は、14分であった。
【0066】
(樹脂からのアウトガスの発生量の測定)
次に、マイクロ波を照射した後の樹脂ペレットから発生するアウトガスの量を測定した。具体的には、マイクロ波を照射した後の樹脂ペレットから発生するアウトガスに含まれるアクリロニトリル、およびスチレンモノマーの各濃度(単位:ppm)を測定した。また、アクリロニトリル、およびスチレンモノマーの各濃度の合計値を求めた。測定されたアクリロニトリル、およびスチレンモノマーの各濃度の合計値が小さいほど、マイクロ波の照射によって樹脂から除去されたアウトガスの量が大きいことを意味する。
【0067】
測定においては、まず、マイクロ波を照射した後の樹脂ペレットを、測定用バッグにいれ、バック内のガス置換を行った後に、65℃で2時間加熱した。
【0068】
次に、樹脂ペレットから発生するアウトガス中に含まれるアクリロニトリル、およびスチレンモノマーの各濃度をGC−MS法(ガスクロマトグラフィー質量分析法)により測定した。測定結果を表1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
実施例2
実施例2においては、ガラスシャーレー内に満たされた水に樹脂ペレットを浸漬させた状態で、樹脂ペレットにマイクロ波を照射した。水の量は、100g(樹脂ペレット1g当たり水2g)であった。これ以外は、実施例1と同様の方法を用いて、実施例2の樹脂ペレットにマイクロ波を照射した。次に、樹脂ペレットからのアウトガス発生量を測定した。結果を表1に示す。
【0071】
実施例3
実施例3においては、ガラスシャーレー内を、水とエタノール(有機性溶媒)との混合液で満した。この混合液中に樹脂ペレットを浸漬させた状態で、樹脂ペレットにマイクロ波を照射した。水の量は、80g(樹脂ペレット1g当たり水1.6g)であった。また、エタノールの量は、20g(水100g当たりエタノール25g)であった。このように樹脂を混合液に浸漬させた以外は、実施例1と同様の方法を用いて、実施例2の樹脂ペレットにマイクロ波を照射した。次に、樹脂ペレットからのアウトガス発生量を測定した。結果を表1に示す。
【0072】
実施例4
実施例4においては、マイクロ波(電子レンジ)の照射電力が、750Wであった。つまり、樹脂ペレット1g当たり照射電力15Wのマイクロ波を照射した。また、樹脂ペレットに対するマイクロ波の照射時間は、8分でった。マイクロ波の照射電力、および照射時間以外は、実施例1と同様の方法を用いて、実施例4の樹脂ペレットにマイクロ波を照射した。次に、樹脂ペレットからのアウトガス発生量を測定した。結果を表1に示す。
【0073】
実施例5
実施例5においては、マイクロ波(電子レンジ)の照射電力が、750Wであった。つまり、樹脂ペレット1g当たり照射電力15Wのマイクロ波を照射した。また、樹脂ペレットに対するマイクロ波の照射時間は、8分でった。マイクロ波の照射電力、および照射時間以外は、実施例2と同様の方法を用いて、実施例5の樹脂ペレットにマイクロ波を照射した。次に、樹脂ペレットからのアウトガス発生量を測定した。結果を表1に示す。
【0074】
実施例6
実施例6においては、マイクロ波(電子レンジ)の照射電力が、750Wであった。つまり、樹脂ペレット1g当たり照射電力15Wのマイクロ波を照射した。また、樹脂ペレットに対するマイクロ波の照射時間は、8分でった。マイクロ波の照射電力、および照射時間以外は、実施例3と同様の方法を用いて、実施例6の樹脂ペレットにマイクロ波を照射した。次に、樹脂ペレットからのアウトガス発生量を測定した。結果を表1に示す。
【0075】
比較例1
比較例1においては、実施例1〜6と同様の樹脂ペレットに対して、マイクロ波を照射することなく、樹脂ペレットからのアウトガスの発生量を測定した。比較例1におけるアウトガス発生量の測定は、実施例1と同様の方法で行った。結果を表1に示す。
【0076】
比較例2
比較例2においては、実施例1〜6と同様の樹脂ペレットを、オーブンを用いて加熱した。加熱時における樹脂ペレットの雰囲気温度は130℃であった。また、樹脂ペレットの加熱時間(処理時間)は180分でった。オーブンによる加熱後、樹脂ペレットからのアウトガスの発生量を測定した。比較例2におけるアウトガス発生量の測定は、実施例1と同様の方法で行った。結果を表1に示す。
【0077】
評価
樹脂ペレットに対してマイクロ波照射を行った実施例1〜6においては、樹脂ペレットへのマイクロ波照射を行わなかった比較例1に比べて、アクリロニトリル、およびスチレンモノマーの各濃度の合計値が少ないことが確認された。すなわち、樹脂ペレットに対してマイクロ波照射を行うことによって、樹脂ペレットからアウトガスが除去されたことが確認された。
【0078】
また、樹脂ペレットに対してマイクロ波照射を行った実施例1〜6においては、樹脂ペレットをオーブンによって加熱した比較例2に比べて、アクリロニトリル、およびスチレンモノマーの各濃度の合計値が少ないことが確認された。また、実施例1〜6のマイクロ波照射時間は、比較例2の樹脂ペレットの加熱に要する時間の十分の一未満であるにもかかわらず、実施例1〜6の樹脂ペレットから除去されたアウトガス量が、比較例2に比べて、多いことが確認された。
【0079】
また、実施例1と実施例2、3との比較、あるいは実施例4と実施例5、6との比較によって、水、あるいは水と水溶性有機溶媒との混合液中に浸漬させた樹脂ペレットにマイクロ波を照射することによって、樹脂ペレット単独にマイクロ波を照射する場合に比べて、樹脂ペレットから、より多くのアウトガスが除去されたことが確認された。
【0080】
また、実施例5と実施例6との比較によって、水と水溶性有機溶媒との混合液中に浸漬させた樹脂ペレットにマイクロ波を照射することによって、水のみに浸漬させた樹脂ペレットにマイクロ波を照射する場合に比べて、樹脂ペレットから、より多くのアウトガスが除去されたことが確認された。
【0081】
実施例7〜13
マイクロ波(電子レンジ)の照射電力、および樹脂ペレットに対するマイクロ波の照射時間(処理時間)を表2に示す値としたこと以外は、実施例1と同様の方法を用いて、実施例7〜13の各樹脂ペレットにマイクロ波を照射した。次に、各樹脂ペレットからのアウトガス発生量をそれぞれ測定した。結果を表2に示す。
【0082】
【表2】

【0083】
樹脂ペレットに対してマイクロ波を照射する時間が5分以上である実施例1、7〜13においては、樹脂ペレットから除去されたアウトガス量が多いことが確認された。
【0084】
また、樹脂に対するマイクロ波の照射時間が長過ぎる実施例12および13においては、特に、樹脂が溶解し、互いに融着し易くなってしまうことが確認された。
【0085】
つまり、実施例12および13においては、マイクロ波照射後、樹脂ペレットがガラスシャーレーに固着していることが確認された。その他の実施例においては、樹脂ペレットのガラスシャーレーへの固着は確認されなかった。以上のことから、樹脂ペレットに対するマイクロ波の照射時間は、5分以上が好ましく、5〜14分がより好ましいことがわかる。
【0086】
実施例14〜20
マイクロ波照射時に、樹脂ペレットを浸漬させるための水の量を表3に示す値としたこと以外は、実施例1と同様の方法を用いて、実施例14〜20の各樹脂ペレットにマイクロ波を照射した。次に、各樹脂ペレットからのアウトガス発生量をそれぞれ測定した。結果を表3に示す。
【0087】
【表3】

【0088】
樹脂1g当たり0.1〜500gの水を用いた実施例14〜20においては、樹脂ペレットから除去されるアウトガスの量が多いことが確認された。特に、樹脂1g当たり10〜500gの水を用いた実施例17〜20においては、樹脂ペレットから除去されたアウトガス量が特に多いことが確認された。
【0089】
実施例21〜24
マイクロ波照射時に、樹脂ペレットを浸漬させるための混合液に含まれるエタノール(水溶性有機溶媒)の量を表4に示す値としたこと以外は、実施例2と同様の方法を用いて、実施例21〜24の各樹脂ペレットにマイクロ波を照射した。次に、各樹脂ペレットからのアウトガス発生量をそれぞれ測定した。結果を表4に示す。
【0090】
【表4】

【0091】
混合液に含まれる水100g当たり0.1〜200gのエタノールを用いた実施例21〜24においては、除去されたアウトガス量が多いことが確認された。特に、エタノールを水100g当り50〜200g用いた実施例22〜24においては、除去されたアウトガス量が特に多いことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】図1は、本願発明の一実施形態に係るアウトガスの除去方法を示す図であって、樹脂、混合液、ガラスシャーレー、およびマイクロ波照射装置(電子レンジ)の位置関係を示す概略図である。
【符号の説明】
【0093】
2… 樹脂
4… 混合液
6… ガラスシャーレー
8… マイクロ波照射装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂に対して、マイクロ波を照射することによって、前記樹脂からアウトガスを除去することを特徴とするアウトガスの除去方法。
【請求項2】
前記樹脂が、スチレン系モノマーまたはアクリル系モノマーの少なくともいずれかを有する原料から製造される高分子化合物であることを特徴とする請求項1に記載のアウトガスの除去方法。
【請求項3】
前記マイクロ波の照射電力が、前記樹脂1g当たり1〜1000Wであることを特徴とする請求項1または2に記載のアウトガスの除去方法。
【請求項4】
前記樹脂に対して前記マイクロ波を照射する時間が、0.1分以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアウトガスの除去方法。
【請求項5】
前記マイクロ波の周波数が、2〜3GHzであることを特徴する請求項1〜4のいずれかに記載のアウトガスの除去方法。
【請求項6】
前記樹脂を、該樹脂1g当たり0.1〜500gの水に浸漬させた状態で、前記樹脂に対して、前記マイクロ波を照射することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のアウトガスの除去方法。
【請求項7】
前記樹脂を、該樹脂1g当たり0.1〜500gの前記水と、該水100g当たり0.1〜200gの水溶性有機溶媒との混合液に浸漬させた状態で、前記樹脂に対して、前記マイクロ波を照射することを特徴とする請求項6に記載のアウトガスの除去方法。
【請求項8】
前記水溶性有機溶媒がエタノールであることを特徴とする請求項7に記載のアウトガスの除去方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のアウトガスの除去方法によって、樹脂からアウトガスを除去する工程を有する樹脂の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−81520(P2008−81520A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−259799(P2006−259799)
【出願日】平成18年9月25日(2006.9.25)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】