説明

アオコの除去方法

【課題】環境に負荷をかけることなく、低コストで且つ効率的にアオコを低減する方法の提供。
【解決手段】殺藻性の根圏微生物を有するウキクサを、アオコ共存下で生育させる。この時、アオコの総数Y(個)に対して、下記式(2)の関係を満たす総数X(個)のウキクサを生育させることが好ましい。また、前記ウキクサにおいて、カルコンシンターゼをコードする遺伝子の発現量を増大させることが好ましい。
≧Y/(3.6×10) ・・・・(2)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウキクサと根圏微生物の共生的相互作用を利用したアオコの除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、夏期の富栄養化した湖沼においては、アオコの大量発生が問題となっている。アオコとは、通常、浮遊性の藍藻等、又はこれらが大量発生して水面を覆いつくすほどになったものを指す。アオコは有毒性物質(アオコ毒)を産生するため、その大量発生は、景観の悪化だけでなく、家畜の死亡や人の健康障害を引き起こしたり、湖沼生態系における機能不全を招くなど、重大な問題を引き起こすことが知られている。そこで、これまでにアオコを低減するための様々な対策が検討されている。
【0003】
例えば、アオコの大量発生を事前に防止する方法として、大量発生の主要な原因の一つである、リン原子や窒素原子を有する化学物質の過剰な流入を抑制する方法が挙げられる。しかし、この方法では、例えば6月から9月までの間といった長期間での装置の可動が必要となり、高コストであるという問題点があった。さらに、この方法には能力に限界があり、アオコの大量発生を完全には防止できないという問題点があった。
これに対して、リン原子や窒素原子を有する化学物質を、ホテイアオイ等の大型の浮遊性植物を使用して、これに吸収させる手法が知られている。しかし、この方法では、使用後の植物の処理が困難であるという問題点があった。
そこで、発生したアオコを除去する方法が種々検討されている。
【0004】
従来、発生したアオコを除去する方法としては、アオコを機械的に吸引し、超音波破壊する方法が知られている。しかし、この方法では、特殊な設備が必要であり、高コストであるという問題点があった。
これに対して、微生物を利用した生物学的手法によるアオコの除去方法(例えば、非特許文献1参照)が検討されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Sigee D. et al., (1999): Biological control of cyanobacteria: principles and possibilities. In The Ecological Bases of Lake and Reservoir Management, (Harper D. et al., Eds), pp.161-172. Kluwer Academic, Dordrecht, The Netherlands.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記生物学的手法では、例えば、水圏に微生物を投入してもすぐに拡散してしまうため、やはりアオコの除去能力に限界があるという問題点があった。
このように従来は、環境に負荷をかけることなく、低コストで且つ効率的にアオコを低減する方法が無いのが現状であった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、環境に負荷をかけることなく、低コストで且つ効率的にアオコを低減する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、
本発明のアオコの除去方法は、殺藻性の根圏微生物を有するウキクサをアオコ共存下で生育させることを特徴とする。
本発明のアオコの除去方法においては、アオコの総数Y(個)に対して、下記式(2)の関係を満たす総数X(個)のウキクサを生育させることが好ましい。
≧Y/(3.6×10) ・・・・(2)
本発明のアオコの除去方法においては、前記ウキクサにおいて、カルコンシンターゼをコードする遺伝子の発現量を増大させることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、環境に負荷をかけることなく、低コストで且つ効率的にアオコを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1〜2及び比較例1〜2におけるアオコの総数を示すグラフである。
【図2】試験例1におけるCHS遺伝子の発現量とアオコの総数を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のアオコの除去方法は、殺藻性の根圏微生物(以下、根圏微生物と略記する)を有するウキクサをアオコ共存下で生育させることを特徴とする。
本発明においては、前記根圏微生物がアオコを除去する活性本体となり、前記ウキクサが該根圏微生物と共生することでその殺藻能を高める担体として機能する。そして、ウキクサ又は水中の微生物を単独で使用した場合よりも、優れたアオコの除去効率を示す。
以下、本発明について、より詳細に説明する。
【0012】
本発明の適用対象であるアオコは特に限定されるものではない。具体的には、ミクロキスティス(Microcystis)属、アナベナ(Anabaena)属、アナベノプシス(Anabaenopsis)属等の藍藻類;クロレラ(Chlorella)属、セネデスムス(Scenedesmus)属、クラミドモナス(Chlamydomonas)属等の緑藻類に属する微生物が例示できる。
【0013】
前記ウキクサは、ウキクサ(Lemnaceae)科に属し、前記根圏微生物を有するものであれば特に限定されず、目的に応じて適宜選択できる。ここで、「ウキクサが根圏微生物を有する」とは、例えば、ウキクサに根圏微生物が付着するか又はウキクサの近傍で根圏微生物が共存して、共生関係にあることを指し、好ましくはウキクサの根部で根圏微生物が生存していることを指す。ウキクサとして具体的には、ウキクサ(Spirodela)属、アオウキクサ(Lenma)属、ミジンコウキクサ(Wolffia)属に属するものが例示でき、葉状体の大きさが5〜10mm程度の小型の在来種が好ましい。
【0014】
前記根圏微生物は、通常、植物の根部又はその近傍で好適に生育するものであり、さらに殺藻性を有するものであれば特に限定されない。具体的には、殺藻性細菌が例示でき、好ましいものとして、バチルス(Bacillus)属、フラボバクテリウム(Flavobacterium)属、サイトファーガ(Cytophaga)属、リソバクター(Rhizobacter)属等に属するものが例示できる。根圏微生物は、ウキクサから糖、アミノ酸、ビタミン類、フラボノイド化合物、酸素等の供給を受けることで、活発に生育すると考えられる。一方、例えば、動物プランクトンは、通常はアオコに対して十分な殺藻性を有さない。
ウキクサが有する根圏微生物は、一種でも良いし、二種以上でも良い。
【0015】
本発明においては、ウキクサと根圏微生物との間で共生関係によって物質の授受が行われているものを使用することが好ましい。この場合には、ウキクサが産生する物質を根圏微生物が利用することで、根圏微生物の生育が一層良好となり、殺藻活性(アオコの除去活性)が向上するのに対し、根圏微生物が産生する物質をウキクサが利用することで、ウキクサの生育も一層良好となる。その結果、アオコの除去効率が一層向上する。
したがって、本発明においては、ウキクサと根圏微生物との間で良好な共生関係が成立するように、根圏微生物が利用する物質のウキクサによる産生及び/又はウキクサが利用する物質の根圏微生物による産生を促進することが好ましい。
【0016】
ウキクサが産生し、根圏微生物が利用する物質としては、フラボノイドが例示できる。ここでフラボノイドとは、フラボン類、イソフラボン類、フラボノール類、フラバノン類、アントシアン類等の、フラバン(2−フェニルクロマン)誘導体を指す。
フラボノイドの多くが色素性を有しており、フラボノイドを介した根圏微生物との共生関係が良好に成立しているウキクサは、根部にフラボノイド由来の着色が見られるので、目視でも容易に認識できる。
【0017】
ウキクサでのフラボノイドの生合成は、アオコとの共存により活性化される。フラボノイドは、フラバノン類の一種であるナリンゲニンが修飾を受けて生成されるが、ナリンゲニンの生合成に必要な酵素の一種であるカルコンシンターゼをコードする遺伝子(以下、CHS遺伝子と略記する)の発現量が、アオコとの共存下で増大する。その理由は定かではないが、アオコの存在により、根圏微生物へのシグナル伝達、アオコ毒に対する防御反応、アオコに対する成長阻害物質の放出等が生じ、これらにフラボノイドが関与していると推測される。このように、フラボノイドが、アオコの除去活性の向上に寄与していると推測され、CHS遺伝子の発現量を増大させることで、アオコの除去活性が一層向上すると考えられる。
【0018】
根圏微生物を有するウキクサは、例えば、天然の閉鎖水系における淡水の共存下で生育している状態のものが好ましい。より具体的には、天然のウキクサを採取して、そのまま直ちに又は所定期間天然の淡水共存下で生育させてから使用しても良いし、天然の淡水非共存下で生育させたウキクサに、天然の淡水を添加してさらに生育させたものを使用しても良い。ここで、「天然の淡水」とは、湖沼、池等、ウキクサの生育に適した自然環境下の水を指す。このようにすることで、特別な作業を行うことなく、所望の数だけ根圏微生物を有するウキクサを使用できる。
ウキクサは、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すれば良い。
【0019】
ウキクサ根部の単位質量あたりの根圏微生物の数は、ウキクサや根圏微生物の生育を妨げない範囲で多い方がアオコの除去効率が向上する。このような観点から、ウキクサ根部の乾燥質量1mgあたりの根圏微生物の数n(個)は、1×10〜1.5×10個であることが好ましく、5×10〜3×10個であることがより好ましく、1×10〜1.5×10個であることが特に好ましい。
ウキクサ根部の単位質量あたりの根圏微生物の数は、ウキクサの生育環境を適宜調節することで、調節できる。
【0020】
使用する根圏微生物の総数Z(個)は、アオコの総数Y(個)に応じて適宜調整すれば良いが、通常は、Y/Zが130以下であることが好ましく、90以下であることがより好ましく、70以下であることが特に好ましい。Y/Zの下限値は特に限定されない。このような範囲とすることで、アオコの除去効率が一層向上する。
【0021】
生育させるウキクサの総数は、アオコの総数に応じて調整することが好ましい。この時、ウキクサが有する根圏微生物の数に基いて、好ましいウキクサの総数を算出できる。具体的には、生育させるウキクサの総数は、下記式(1)を満たすX(個)であることが好ましい。
X≧Y/(n×D×f) ・・・・(1)
式(1)中、Xはウキクサの総数(個)、Yはアオコの総数(個)、nはウキクサ根部の乾燥質量1mgあたりの根圏微生物の数(個/mg)、Dはアオコの総数(Y個)と根圏微生物の総数(Z個)との最適比(Y/Zの最適値、定数)、fはウキクサ根部の乾燥質量から新鮮質量への変換定数(mg/個)をそれぞれ示す。ここでウキクサ根部の「新鮮質量」とは、乾燥等の含水量を変化させる人為的な操作を行っていない状態でのウキクサ根部の質量を指し、通常は良好な生育状態にあるウキクサの根部の質量である。
【0022】
前記式(1)の右辺は、ウキクサ根部の乾燥質量1mgあたりの根圏微生物の数nから、アオコの効率的除去に求められるウキクサの総数の下限値を概算するものであり、前記変換定数fにより、ウキクサの総数が乾燥状態のものから生育状態のものへと正しく反映される。
fは通常、0.01〜0.1であることが好ましく、0.05程度であることがより好ましい。
Dは、上記Y/Zの範囲から設定すれば良いが、通常は60程度であれば良い。
【0023】
上記観点から、生育させるウキクサの総数のより好ましい例としては、下記式(2)の関係を満たす総数X(個)が例示できる。
≧Y/(3.6×10) ・・・・(2)
式(2)は、式(1)において、nが1.2×10(個)、Dが60、fが0.05である場合に相当する式である。
したがって、例えば、Yが1×1010である場合には、Xが概ね280以上であれば、アオコの除去効率が一層向上する。
【0024】
アオコが大量に発生した場合、これを分解する水中微生物が大量に増殖する可能性がある。一方、ウキクサは、水面又はその近傍(水深の浅い領域)で生育するので、日光を遮蔽して水中への日光の入射を低減する効果を有する。この場合、水中微生物の内、植物性のものは、増殖が抑制されるため、これを栄養源とする動物性の微生物も増殖が抑制されることになる。その一方で、ウキクサが有する根圏微生物により、大量のアオコは除去されていく。すなわち、本発明においては、大量のアオコを除去する過程で、水中微生物の異常な増殖も抑制するので、生態系の変化を抑制できる点でも従来法より優れる。
【0025】
ウキクサの生育条件は、良好に生育する限り特に限定されない。
例えば、アオコ除去の対象域である湖沼、池等の中で、アオコ共存下でウキクサを生育させても良いし、ウキクサを生育させている生育槽を通過するように湖沼、池等のアオコを含む淡水を循環させても良い。
また、必要に応じて、ウキクサ及びアオコが含まれる淡水の温度を、ウキクサの生育により適した温度に調節しても良い。
また、ウキクサは、本発明の効果を妨げない範囲内において、根圏微生物及びアオコ以外の生物の共存下、又は根圏微生物由来若しくはアオコ由来の成分以外の成分の共存下で生育させても良い。例えば、自然環境下での淡水中で生育している微生物(水中微生物)の共存下でウキクサを生育させても良い。また、富栄養状態の自然環境に相当するように、リン原子濃度が0.1ppm以上、窒素原子濃度が1ppm以上となるように、リン原子や窒素原子を有する化学物質共存下でウキクサを生育させても良い。
【0026】
本発明においては、ウキクサを担体として根圏微生物が生育し、その過程での根圏微生物の殺藻活性によりアオコが除去される。この時、根圏微生物が水中に拡散することがなく、ウキクサはアオコと同様に水面又はその近傍(水深の浅い領域)で生育するので、アオコを効率的に除去できる。また、ウキクサと根圏微生物との間で物質の授受が行われ、良好な共生関係が成立しているものを使用することで、アオコを一層効率的に除去できる。また、特別な装置が不要で、使用後のウキクサも簡便に処理できるので、低コストでアオコを除去できる。さらに、ウキクサを使用するだけで化学薬品等が不要なので、環境に負荷をかけずにアオコを除去できる。また、ウキクサとして、対象地域又はその周辺部に自生している在来種を使用できるので、外来種の侵入に伴う生態系への悪影響がなく、水中微生物の異常な増殖も抑制するので、生態系の保全効果に優れる。
【実施例】
【0027】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0028】
<アオコの除去>
[実施例1]
(1)ウキクサの培養
横浜国立大学構内の水中微生物を含む池水を採取し、温度を27℃に設定したものを培地とした。ここで、「水中微生物」とは、池水に生息する不特定多数の微生物のことを指す。ガラス製の腰高シャーレ(外径60mm×高さ90mm)に前記培地150mlを加え、さらに、根圏微生物を有するウキクサとして、20個程度のSpirodela polyrhiza(L.) Schleidを入れて培養した。池水の平均窒素原子濃度は1.3ppm、リン原子濃度は0.12ppmであった。培地は週に2回の割合で取り替えた。ウキクサ根部の乾燥質量1mgあたりの根圏微生物の数nは、文献値より1.2×10個/mgと見積もった。また、ウキクサの根部は赤色に着色しており、フラボノイドと考えられる物質の産生が確認された。
【0029】
(2)アオコの培養
アオコとして、ミクロキスチンを産生する有毒シアノバクテリアであるミクロキスティス アエルギノーサ(Microcystis aeruginosa) NIES−298を、独立行政法人国立環境研究所微生物系統保存施設より入手し、表1に示す組成のMA培地(pH8.6)を使用してこれを培養して、月一回の割合で継代を行った。
【0030】
【表1】

【0031】
(3)アオコ共存下でのウキクサの生育
2Lの前記培地にアオコを5×10個/mlとなるように加え、さらに、培養した前記ウキクサを300個加えて、供給水の窒素濃度を5ppm、リン濃度を0.5ppm、供給水と排水の流速を6ml/時間に調節した。すなわち、培地中のアオコの総数Yは1×1010個、ウキクサ根部の総乾燥質量は14mg、根圏微生物の総数Zは1.68×10個であり、fを0.05とした場合、前記式(2)の関係を満たしていた。この条件で2週間、ウキクサを生育させ、アオコの総数の変動を観察した。結果を図1に示す。図1中、グラフの縦軸は対数目盛りである。なお、ここでのアオコの「5×10個/ml」という数は、自然環境下で現実に生じ得る数を大きく越えるものである。
【0032】
[実施例2]
ウキクサを50個使用したこと以外は実施例1と同様の条件で、アオコの除去を行った。結果を図1に示す。
【0033】
[比較例1]
前記培地にウキクサを加えなかったこと以外は実施例1と同様に、アオコの総数の変動を観察した。結果を図1に示す。
【0034】
[比較例2]
前記MA培地中のアオコの数を5×10個/mlに調整した。次いで、これを円沈管に移し、5000rpmで5分間遠心し、上清を除去して、サンプル水を加えて懸濁させ、アオコを純粋培養し、アオコの総数の変動を観察した。結果を図1に示す。
【0035】
図1から明らかなように、実施例1ではウキクサの使用による顕著なアオコの除去効果を確認できた。また、実施例2では比較例2と比較して、明らかなアオコの除去効果を確認できた。また、比較例1と同等の除去効果であったが、本実施例では、例えば、水中微生物の異常な増加等、生態系の変化を抑制できると考えられ、従来法よりも優れた方法であると言える。
【0036】
<CHS遺伝子の発現量の解析>
[試験例1]
(1)RNAの抽出
ウキクサを30個使用したこと以外は実施例1と同様の条件で、アオコ共存下でウキクサを生育させ、生育開始から1、2、3及び4日目のウキクサをそれぞれサンプリングし、その15mgを、液体窒素で冷却することでチューブ状の容器中で凍結させ、平均粒径1mmのジルコニアビーズを使用して、50×100pm、30秒の条件で3回破砕した。次いで、2−メルカプトエタノールを添加したLysis Buffer LRT(商品名、富士フイルム社製QuickGene RNA組織キットの溶解液)を520μl加え、4℃において13000rpmで5分間遠心分離し、上澄みを350μl抜き取り、別のチューブ状の容器中へ移した。ここへ、特級エタノールを350μl加え、ボルテックス撹拌を行い、ライセートとした。
得られたライセートを、QuickGene−Mini80(商品名、富士フイルム社製)のカートリッジに全量添加した。次いで、これを加圧した後、Wash Buffer WRC(商品名、富士フイルム社製QuickGene RNA培養細胞キットの洗浄液)を500μl加え、加圧する操作を三回行った。
次いで、カートリッジホルダを回収位置にセットし、Elution Buffer CRC(商品名、富士フイルム社製QuickGene RNA培養細胞キットの回収液)を100μl加え、室温で2分間インキュベーションした。
次いで、加圧し、total RNAを抽出した。
以上の操作を、いずれの日においても正午に行った。
【0037】
(2)RT−PCR
抽出した前記total RNAを、そのままRT−PCRに供し、CHS遺伝子の発現解析を行った。
PCR溶液としては、表2に示す組成のTaKaRa PrimeScript One Step RT−PCR Kit Ver.2(タカラバイオ社製)を使用した。CHS遺伝子を増幅するプライマーとしては、配列番号1に示す塩基配列のフォワードプライマー、配列番号2に示す塩基配列のリバースプライマーをそれぞれ使用した。そして、前記PCR溶液をTaKaRa Thermal cycler(タカラバイオ社製)にセットして、RT−PCRを行い、目的とするCHS遺伝子を増幅した。RT−PCRの温度条件は以下に示す通りである。
【0038】
【表2】

【0039】
・RT−PCR温度条件:50℃/30分、94℃/2分(逆転写)→[94℃/30秒(変性)→60℃/30秒(アニーリング)→72℃/1分(伸長反応)]×35サイクル→4℃
【0040】
(3)電気泳動
得られた増幅産物を電気泳動に供し、Lane&Spot Analyzer 6.0(アトー社製)を使用して解析した。すなわち、解析するレーンを指定し、バンドを検出して、バックグラウンド補正等を行った後、抽出したtotal RNA量を示すバンドの強度を1として標準化し、CHS遺伝子の発現量を解析した。解析結果を、アオコの総数と共に図2に示す。なお、図2中、「コントロール」は、アオコを共存させずに生育させたウキクサをサンプルとして使用した場合の結果を示す。
【0041】
(4)解析結果
図2から明らかなように、CHS遺伝子の発現量の増大が確認された。CHS遺伝子の発現量は、生育開始から1日目ではコントロールよりも減少していたが、これはアオコ毒の影響の可能性がある。そして2日目には、発現量が大幅に増大した。この時、上記のように、根圏微生物へのシグナル伝達、アオコ毒に対する防御反応、アオコに対する成長阻害物質の放出等にフラボノイドが関与している可能性がある。そして、3日目には発現量が大幅に減少した。これは、前日の発現量増加に対するフィードバック調節の発現を示している可能性がある。さらにこの時、アオコの総数が大幅に減少した。すなわち、CHS遺伝子の発現量が大幅に増大してから、アオコの除去効率が顕著に向上した。そして、4日目にはコントロールとほぼ同等の発現量を示した。これは、アオコの減少による可能性がある。
以上の結果から、アオコの存在がCHS遺伝子の発現、すなわちフラボノイドの産生と密接に関連していること、CHS遺伝子の発現量の増大により、アオコの除去活性が向上することが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、湖沼や池等の環境浄化に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
殺藻性の根圏微生物を有するウキクサをアオコ共存下で生育させることを特徴とするアオコの除去方法。
【請求項2】
アオコの総数Y(個)に対して、下記式(2)の関係を満たす総数X(個)のウキクサを生育させることを特徴とする請求項1に記載のアオコの除去方法。
≧Y/(3.6×10) ・・・・(2)
【請求項3】
前記ウキクサにおいて、カルコンシンターゼをコードする遺伝子の発現量を増大させることを特徴とする請求項1又は2に記載のアオコの除去方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−254605(P2010−254605A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−105196(P2009−105196)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【Fターム(参考)】