アキシアルピストンポンプ
【課題】シリンダブロックの嵌合内周面と固定軸の嵌合外周面との間に沿って流体が洩れるのを抑制する。
【解決手段】シリンダブロック20の嵌合内周面24と固定軸16の嵌合外周面23との間には円筒形状の弁体34が設けられている。円筒形状の弁体34の筒内には固定軸16が嵌合されている。固定軸16の外周面である嵌合外周面23は、円周面であり、嵌合内周面24は、円周面である。吸入行程対応領域Ps側において弁体34には窓38が形成されている。窓38は、吸入通路29に連通しており、吸入口30は、シリンダブロック20の回転角度に応じて窓38に間欠的に連通する。弁体34は、シリンダブロック20の回転角度に応じて吸入口30を間欠的に閉塞する。
【解決手段】シリンダブロック20の嵌合内周面24と固定軸16の嵌合外周面23との間には円筒形状の弁体34が設けられている。円筒形状の弁体34の筒内には固定軸16が嵌合されている。固定軸16の外周面である嵌合外周面23は、円周面であり、嵌合内周面24は、円周面である。吸入行程対応領域Ps側において弁体34には窓38が形成されている。窓38は、吸入通路29に連通しており、吸入口30は、シリンダブロック20の回転角度に応じて窓38に間欠的に連通する。弁体34は、シリンダブロック20の回転角度に応じて吸入口30を間欠的に閉塞する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダブロックが回転してピストンが往復動するアキシアルピストンポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示のアキシアルピストンポンプでは、シリンダブロックがピントル弁(固定軸)に回転可能に嵌合している。シリンダブロック内のシリンダボアの側部に連通する連通ポートがシリンダブロックに形成されており、ピントル弁内に吸入通路及び吐出通路が形成されている。シリンダブロックの回転角度に応じて連通ポートが吸入通路に連通すると、吸入通路内の流体がシリンダボア内に吸入され、連通ポートが吐出通路に連通すると、シリンダボア内の流体が吐出通路へ吐出される。
【0003】
シリンダブロック内のピストンは、斜板(カム体)のカム作用を受けて往復動するが、該カム作用は、ピストンに径方向への荷重も加える。具体的には、カム体の上死点対応部側から下死点対応部側へ向かう径方向の荷重をピストンを介してシリンダブロックの先端側(斜板に近い側)に加える。回転軸から回転駆動力を得るシリンダブロックは、回転軸の内端部にスプライン結合されている。
【0004】
シリンダブロックは、ピントル弁の根元側でピントル弁の外周面とシリンダブロックの内周面との間に介在されたラジアルベアリングを介して支持されている。又、シリンダブロックは、ピントル弁の先端側(斜板に近い側)でハウジング内周面とシリンダブロック外周面との間に介在されたラジアルベアリングを介して支持されている。
【特許文献1】特開昭62−58065号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スプライン結合における半径方向のクリアランスの存在や、ラジアルベアリングにおける半径方向のクリアランスは、シリンダブロックの半径方向への移動を許容する。そのため、前記カム作用は、上死点対応部側から下死点対応部側へシリンダブロックを動かす。シリンダブロックの嵌合内周面とピントル弁の嵌合外周面との間のクリアランスが僅かであるとすると、シリンダブロックの先端側(斜板に近い側)がシリンダブロックの後端側(ピントル弁の根元側)よりも大きく移動し、シリンダブロックが傾く。このようなシリンダブロックの傾きは、シリンダブロックの嵌合内周面とピントル弁の嵌合外周面との平行度を悪化させ、局所的な摩耗やクリアランスが拡大した部分からの流体洩れをもたらす。シリンダブロックが径方向に平行移動するようにすれば、シリンダブロックの傾きを回避することができる。そのためには、シリンダブロックの嵌合内周面とピントル弁の嵌合外周面との間のクリアランスの大きさとして、スプライン結合における半径方向のクリアランス、及びラジアルベアリングにおける半径方向のクリアランスの総和のクリアランス分の移動を許容できるだけの大きさが必要である。
【0006】
しかし、シリンダブロックの嵌合内周面とピントル弁の嵌合外周面との間のクリアランスのこのような大きさは、シリンダブロックの嵌合内周面とピントル弁(固定軸)の嵌合外周面との間のクリアランスからの流体洩れを大きくする。
【0007】
本発明は、シリンダブロックの嵌合内周面と固定軸の嵌合外周面との間に沿って流体が洩れるのを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、固定軸に回転可能に嵌合されたシリンダブロックが前記固定軸を中心にして回転し、前記固定軸は、前記シリンダブロックの端面に対向するベースハウジングから突設されており、前記シリンダブロックに形成されたシリンダボアにピストンが往復動可能に収容されており、前記シリンダブロックの回転によって前記ピストンがカム体からカム作用を受けて往復動し、前記ピストンの復動に伴って前記シリンダボアに流体が吸入され、前記ピストンの往動に伴って前記シリンダボア内の流体が吐出されるアキシアルピストンポンプを対象とし、請求項1の発明では、前記固定軸に形成された流体通路と、前記シリンダボアに連通し、且つ前記シリンダブロックの回転角度に応じて前記流体通路に間欠的に連通するように前記シリンダブロックの嵌合内周面に形成された連通口と、前記固定軸の嵌合外周面と前記シリンダブロックの嵌合内周面との間に介在された窓を有する弁体と、前記固定軸に対する前記弁体の回転を阻止する回転阻止手段とを備え、前記弁体は、前記シリンダブロックの回転軸線に対して垂直な方向であって少なくとも前記カム体の上死点対応部と前記カム体の下死点対応部との一方から他方に向かう方向への移動を許容されている。
【0009】
カム体から受けるカム作用は、上死点対応部から前記カム体の下死点対応部に向かう方向へシリンダブロックを移動しようとする。シリンダブロックが移動した場合には、固定軸の嵌合外周面とシリンダブロックの嵌合内周面との間に介在された弁体も移動し、シリンダブロックの嵌合内周面と固定軸の嵌合外周面との間に沿って流体が洩れるのが抑制される。
【0010】
好適な例では、前記上死点対応部と前記下死点対応部との一方から他方に向かう方向と直交する方向への前記シリンダブロックの移動を規制する移動規制手段が備えられている。
【0011】
吐出行程対応領域にあるシリンダボア内の流体圧力は、上死点対応部から下死点対応部に向かう方向と直交する方向への荷重をシリンダブロックに加える。シリンダブロックの嵌合内周面に形成された連通口から弁体に吐出圧の流体圧力が作用し、シリンダブロックは弁体から離れようとする。移動規制手段は、前記荷重によるシリンダブロックの移動を規制するため、シリンダブロックの嵌合内周面と弁体との間のクリアランスが増すことはなく、カム体から受けるカム作用によってシリンダブロックが傾くこともない。
【0012】
好適な例では、前記移動規制手段は、前記吸入行程対応領域側における前記シリンダブロックの嵌合内周面と、前記固定軸の嵌合外周面との間、又は前記吐出行程対応領域側における前記シリンダブロックの外周面と、該外周面に対向する固定面との間に介在されたプレーン軸受けであり、前記プレーン軸受けは、前記シリンダブロックの回転軸線に対して垂直な方向への前記シリンダブロックの移動を許容する。
【0013】
プレーン軸受けは、移動規制手段として簡便である。
好適な例では、前記回転阻止手段は、前記弁体と前記固定軸の外周面との間に設けられたキー嵌合機構又は凹凸嵌合機構であり、前記キー嵌合機構又は凹凸嵌合機構は、前記シリンダブロックの回転軸線に対して垂直な方向への前記弁体の移動を許容する。
【0014】
キー嵌合機構又は凹凸嵌合機構は、回転軸線に対して垂直な方向への弁体の移動を許容する機構として簡便である。
好適な例では、前記弁体は、前記固定軸を包囲する円筒形状の弁体であり、前記弁体は、前記流体通路に連通し、且つ前記シリンダブロックの回転角度に応じて前記連通口に間欠的に連通する窓を有する。
【0015】
円筒形状の弁体は、吐出行程対応領域のシリンダボア内の流体が連通口から固定軸の嵌合外周面とシリンダブロックの嵌合内周面との間に沿って洩れるのを抑制する上で、好適である。
【0016】
好適な例では、前記流体通路は、吸入通路であり、前記窓は、前記シリンダブロックの回転角度に応じて吸入行程対応領域の前記連通口に間欠的に連通する。
固定軸に吸入通路を設ける構成は、通路断面積を増してキャビテーション発生を防止する上で好適である。
【0017】
好適な例では、前記弁体は、前記シリンダブロックの回転角度に応じて吐出行程対応領域の前記連通口を間欠的に閉塞するように、前記吐出行程対応領域側における前記シリンダブロックの嵌合内周面と前記固定軸の嵌合外周面との間に介在された吐出側弁体である。
【0018】
吐出側弁体は、吐出行程対応領域のシリンダボア内の流体が連通口から固定軸の嵌合外周面とシリンダブロックの嵌合内周面との間に沿って洩れるのを抑制する。
好適な例では、前記ベースハウジングに形成された吐出通路と、前記シリンダボアに連通し、且つ前記シリンダブロックの回転角度に応じて間欠的に前記吐出通路に連通するように前記シリンダブロックの前記端面に形成された吐出口を備え、前記ベースハウジングのベース面と前記シリンダブロックの前記端面との間にはバルブプレートが介在されており、前記吐出通路は、前記シリンダブロックの前記端面に対向する前記ベースハウジングのベース面に沿って、前記固定軸の周方向に延びる弧状の吐出接続口を備えており、前記吐出接続口は、前記バルブプレートを貫通するように前記バルブプレートに形成されている。
【0019】
シリンダブロックの端面とバルブプレートとの間でクリアランスが増すことはなく、シリンダボアの吐出口からシリンダブロックの端面とバルブプレートとの間への流体洩れが抑制される。
【発明の効果】
【0020】
本発明のアキシアルピストンポンプは、シリンダブロックの嵌合内周面と固定軸の嵌合外周面との間に沿って流体が洩れるのを抑制することができるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、固定容量型アキシアルピストンポンプに本発明を具体化した第1の実施形態を図1〜図6に基づいて説明する。
図1に示すように、ベースハウジング11にはフロントハウジング12が連結されており、フロントハウジング12には回転軸13がラジアルベアリング14を介して回転可能に支持されている。ベースハウジング11の内端面であるベース面15には固定軸16が回転軸13の回転軸線131の方向に突設されており、固定軸16の先端面161には支持凹部17が凹設されている。回転軸13の内端部132は、支持凹部17内でラジアル軸受け18を介して固定軸16に回転可能に支持されている。
【0022】
フロントハウジング12内には環状のカム体19が固定して設けられており、回転軸13は、カム体19の環内を通されている。カム体19のカム面191は、ベースハウジング11のベース面15に対向する環状の平面であって回転軸13の回転軸線131に対して傾いている。
【0023】
回転軸13には環状のシリンダブロック20がスプライン結合を介して回転軸13と一体的に回転可能に支持されている。ベース面15に対向するシリンダブロック20の端面201とベース面15との間にはバルブプレート21が介在されている。バルブプレート21は、ベース面15に面接触した状態で固定されており、シリンダブロック20の端面201は、バルブプレート21の端面211に面接触している。
【0024】
シリンダブロック20には嵌合孔22が端面201側から凹設されている。嵌合孔22には円筒形状の弁体34が嵌合されており、円筒形状の弁体34の筒内には固定軸16が嵌合されている。固定軸16の外周面である嵌合外周面23は、円周面であり、嵌合孔22の内周面である嵌合内周面24は、円周面である。弁体34は、嵌合外周面23と嵌合内周面24との間に介在されている。弁体34の円周面形状の外周面341の曲率半径は、シリンダブロック20の嵌合内周面24の曲率半径よりも僅かに小さくしてある。
【0025】
弁体34の内周面342と固定軸16の嵌合外周面23との間の径方向におけるクリアランスC1は、円筒形状の弁体34の外周面341とシリンダブロック20の嵌合内周面24との間の径方向におけるクリアランスC2よりも大きくしてある。クリアランスC1の大きさは、回転軸13とシリンダブロック20との間のスプライン結合における半径方向のクリアランスと、ラジアル軸受け18における半径方向のクリアランスとの和以上に設定されている。
【0026】
図2に示すように、固定軸16の嵌合外周面23には回転軸線131の方向に延びる位置決め溝35が凹み形成されており、弁体34の内周面には回転軸線131の方向に延びる位置決め溝36が位置決め溝35に対向するように凹み形成されている。位置決め溝35にはキー37が嵌合して固定されている。又、キー37は、位置決め溝36に遊嵌されている。位置決め溝36に遊嵌されたキー37は、シリンダブロック20の回転中心(つまり、回転軸線131)に対して垂直な方向への弁体34の移動を許容するが、固定軸16の周りの弁体34の回転を阻止するキー嵌合機構(回転阻止手段)を構成する。シリンダブロック20が回転すると、嵌合内周面24は、嵌合外周面23及び弁体34の周りを周回する。
【0027】
図6(a)は、シリンダブロック20の嵌合内周面24及び円筒形状の弁体34の内周面の展開図を表す。図6(b)は、固定軸16の嵌合外周面23及び円筒形状の弁体34の外周面の展開図を表す。
【0028】
図1に示すように、回転軸13の半径方向において嵌合内周面24より外側のシリンダブロック20には複数のシリンダボア25がカム面191に対向するシリンダブロック20の端面202から回転軸線131の方向に凹設されている。各シリンダボア25にはピストン26が回転軸線131の方向へ往復動可能に嵌入されている。カム面191に対向するピストン26の端部には球面継ぎ手261が一体形成されており、球面継ぎ手261にはシュー27が連結されている。各シュー27は、環状のリテーナ28に係留された状態でカム面191に面接触されている。
【0029】
回転軸13の回転に伴ってシリンダブロック20が回転すると、シュー27がカム面191上を摺接し、ピストン26がシリンダボア25内を往復動する。
ベースハウジング11には吸入通路29が形成されている。流体通路としての吸入通路29の入口291は、ベースハウジング11の外端面111上に開口しており、吸入通路29の出口292は、固定軸16の嵌合外周面23上に開口している。つまり、吸入通路29は、ベースハウジング11の外端面111から固定軸16内を通って嵌合外周面23に至る。
【0030】
図3及び図5に示すように、円筒形状の弁体34の周面には窓38が出口292に対向して連通するように形成されている。
図3に示すように、シリンダブロック20の嵌合内周面24には吸入口30がシリンダボア25と1対1に連通するように形成されている。連通口としての吸入口30は、シリンダブロック20の半径方向においてシリンダボア25よりも内側にあり、窓38は、シリンダブロック20の半径方向において吸入口30よりも内側にある。出口292は、シリンダブロック20の半径方向において窓38よりも内側にある。シリンダブロック20の回転に伴い、吸入口30は、周方向に移動して窓38に間欠的に連通する。
【0031】
図1に示すように、ベースハウジング11及びバルブプレート21には吐出通路31が形成されている。吐出通路31の入口としての吐出接続口311は、バルブプレート21の端面211に開口しており、吐出通路31の出口312は、ベースハウジング11の外端面111上に開口している。つまり、吐出通路31は、バルブプレート21の端面211からバルブプレート21内及びベースハウジング11内を通って外端面111に至る。
【0032】
図4に示すように、吐出接続口311は、回転軸線131を中心とする周方向に延びる円弧形状である。
シリンダブロック20の端面201には吐出口32がシリンダボア25と1対1に連通するように形成されている。シリンダブロック20の回転に伴い、吐出口32は、周方向に移動して吐出接続口311に間欠的に連通する。
【0033】
図2に示すように、回転軸13及びシリンダブロック20は、矢印Rの方向に回転する。回転軸13の回転軸線131の方向に見て、回転軸線131を含む仮想平面Hによって分けられた一方の空間(カム面191の片側半分を回転軸線131の方向へ投影した領域)は、吸入行程対応領域Psであり、他方(カム面191の他方の片側半分を回転軸線131の方向へ投影した領域)は、吐出行程対応領域Pdである。回転軸13の回転軸線131の方向に見て、吸入行程対応領域Psに対応するピストン26は、吸入行程にあり、吐出行程対応領域Pdに対応するピストン26は、吐出行程にある。カム面191において、下死点に位置したピストン26に対応する部位が下死点対応部Hdであり、上死点に位置したピストン26に対応する部位が上死点対応部Htである。カム面191において規定された下死点対応部Hd及び上死点対応部Htは、仮想平面Hと交差する。
【0034】
図3に示すように、出口292は、吸入行程対応領域Psにある。
図4に示すように、円弧形状の吐出接続口311は、吐出行程対応領域Pdにある。
図2〜図4におけるシリンダブロック20の回転角度を0°とする。図2〜図4の状態からシリンダブロック20が半回転すると、シリンダブロック20の回転角度は、180°となり、図2〜図4の状態からシリンダブロック20が1回転すると、シリンダブロック20の回転角度は、360°(0°)となる。
【0035】
シリンダブロック20の回転に伴ってピストン26が復動〔図1において右側から左側への移動〕する状態(吸入行程)では、該ピストン26の嵌入されているシリンダボア25の吸入口30が窓38に連通し、吸入通路29内の流体が窓38及び吸入口30を経由してシリンダボア25に吸入される。シリンダブロック20の回転に伴ってピストン26が往動〔図1において左側から右側への移動〕する状態〔吐出行程〕では、該ピストン26の嵌入されているシリンダボア25の吐出口32が吐出接続口311に連通し、シリンダボア25内の流体が吐出口32を経由して吐出通路31に吐出される。
【0036】
つまり、複数の吸入口30は、シリンダブロック20の回転角度に応じて窓38に間欠的に連通するようにシリンダブロック20の嵌合内周面24に形成されている。又、複数の吐出口32は、シリンダブロック20の回転角度に応じて吐出通路31の吐出接続口311に間欠的に連通するようにシリンダブロック20に形成されている。
【0037】
カム体19のカム面191から受けるカム作用は、カム面191の上死点対応部Htとカム面191の下死点対応部Hdとの一方から他方へ向かう方向〔図2に矢印Qで示す方向〕へシリンダブロック20を移動しようとする。又、弁体34がシリンダブロック20の移動に追随する。シリンダブロック20に嵌合された弁体34は、回転軸線131に対して垂直な方向への移動を許容されているため、上死点対応部Htと下死点対応部Hdとの一方から他方に向かう方向Qへのシリンダブロック20及び弁体34の移動は、径方向へ平行移動となり、シリンダブロック20が傾くことはない。
【0038】
第1の実施形態では以下の効果が得られる。
(1)回転軸線131に対して垂直な方向へ移動可能な弁体34が無い場合には、シリンダブロック20の嵌合内周面24と固定軸16の嵌合外周面23との間の径方向におけるクリアランスの大きさとしては、クリアランスC1程度にする必要がある。
【0039】
固定軸16の嵌合外周面23とシリンダブロック20の嵌合内周面24との間に介在された弁体34は、シリンダブロック20の嵌合内周面24と弁体34の外周面341との間の径方向におけるクリアランスの大きさC2(<C1)を可及的に小さくすることを可能にする。つまり、弁体34は、シリンダブロック20の嵌合内周面24に対向するシール面(弁体34がある場合には外周面341、弁体34が無い場合には固定軸16の嵌合外周面23)と、シリンダブロック20の嵌合内周面24との間のクリアランスの低減に寄与する。その結果、シリンダボア25内の流体が吸入口30(連通口)から固定軸16の嵌合外周面23とシリンダブロック20の嵌合内周面24との間に沿って洩れるのを抑制する。
【0040】
(2)カム体19のカム面191から受けるカム作用は、上死点対応部Htと下死点対応部Hdとの一方から他方へ向かう方向Qへシリンダブロック20を移動しようとする。この移動は、径方向への平行移動であるので、シリンダブロック20が傾くことはない。従って、固定軸16の嵌合外周面23とシリンダブロック20の嵌合内周面24との間の局所的な摩耗やクリアランス拡大による洩れを防止できる。又、シリンダブロック20の端面201とバルブプレート21の端面211との間でクリアランスが増すことはなく、シリンダボア25の吐出口32からシリンダブロック20の端面201とバルブプレート21の端面211との間への流体洩れが抑制される。
【0041】
(3)キー37を用いたキー嵌合機構は、回転軸線131に対して垂直な方向への弁体34の移動を許容し、且つ固定軸16に対する弁体34の回転を阻止する機構として簡便である。
【0042】
(4)円筒形状の弁体34の外周面の径をシリンダブロック20の嵌合内周面24の径に可及的に近づけることによって、クリアランスC2の大きさを可及的に小さくすることができる。このような円筒形状の弁体34は、吐出行程対応領域Pdのシリンダボア25内の流体が吸入口30から固定軸16の嵌合外周面23とシリンダブロック20の嵌合内周面24との間に沿って洩れるのを抑制し、且つ吸入行程対応領域Psのシリンダボア25内の流体が吸入口30から嵌合外周面23と嵌合内周面24との間に沿って洩れるのを抑制する上で、好適である。
【0043】
(5)バルブプレート21の吐出通路31を介して吐出する構成のアキシアルピストンポンプでは、シリンダボア25内の圧力によってシリンダブロック20の端面をバルブプレート21に押し付けて該端面とバルブプレート21との隙間の発生を無くす必要があるため、吐出口32の径は小径とされる。従って、吐出口32からシリンダボア25へ流体を吸入するタイプでは吸入口を兼ねる吐出口32の小径化は、吸入抵抗が高くなり、吸入流体中にキャビテーションを発生させる。キャビテーションの発生は、容積効率の低下や騒音悪化の不具合をもたらす。
【0044】
吸入通路29と吐出通路31とのうちの吸入通路29のみが固定軸16内に形成されるため、吸入通路29の通路断面積を大きくすることができ、キャビテーションの発生を回避することができる。又、吸入口30がシリンダブロック20の半径方向においてシリンダボア25よりも内側にあるため、シリンダブロック20の回転に伴う遠心力が吸入通路29から吸入口30を介してシリンダボア25に至る流体吸入を助勢する。これは、吸入効率の低下の回避に寄与する。
【0045】
(6)吸入流体中のキャビテーションは、吸入口がシリンダブロック20の回転中心(つまり、回転軸13の回転軸線131)からの距離が大きいほど、つまりシリンダブロック20の回転に伴う吸入口の周速が大きいほど、発生し易くなる。嵌合内周面24に形成した吸入口30は、従来のシリンダブロック20の端面201に形成した吸入口に比べて、シリンダブロック20の回転中心からの距離が短くなる。嵌合内周面24に吸入口30を形成した構成は、キャビテーションの発生の抑制に寄与する。
【0046】
次に、図7の第2の実施形態を説明する。第1の実施形態と同じ構成部には同じ符合を用い、その詳細説明は省略する。
吐出行程対応領域Pd側において固定軸16の嵌合外周面23とシリンダブロック20の嵌合内周面24との間には回転軸線131方向から見て断面円弧形状の吐出側弁体39が介在されている。吐出側弁体39の円周面形状の外周面391の曲率半径は、シリンダブロック20の嵌合内周面24の曲率半径よりも僅かに小さくしてある。
【0047】
固定軸16の嵌合外周面23には回転軸線131の方向に延びる位置決め溝40が凹み形成されており、吐出側弁体39の内周面には回転軸線131の方向に延びる位置決め溝41が位置決め溝40に対向するように凹み形成されている。位置決め溝40にはキー42が嵌合して固定されている。又、キー42は、位置決め溝41に遊嵌されている。位置決め溝41に遊嵌されたキー42は、回転軸線131に対して垂直な方向への吐出側弁体39の移動を許容するが、固定軸16の周りの吐出側弁体39の回転を阻止するキー嵌合機構(回転阻止手段)を構成する。シリンダブロック20が回転すると、嵌合内周面24は、嵌合外周面23及び吐出側弁体39の周りを周回する。
【0048】
吸入行程対応領域Ps側において固定軸16の嵌合外周面23には凹部43が凹み形成されており、凹部43にはプレーン軸受け44が嵌合して固定されている。凹部43は、吸入行程対応領域Ps側において下死点対応部Hdと上死点対応部Htとの中間位置に対応するピストン26と対向する位置(仮想平面Hと直交し、回転軸線131を含む平面上)である。固定面としての嵌合外周面23とシリンダブロック20の嵌合内周面24との間に介在されているプレーン軸受け44は、シリンダブロック20に対して上死点対応部Htと下死点対応部Hdとの一方から他方へ向かう方向Qへのシリンダブロック20の移動を許容する。
【0049】
プレーン軸受け44は、回転軸線131に対して垂直且つ矢印Qの方向へのシリンダブロック20の移動を許容するが、他の方向への移動を阻止する移動規制手段を構成する。
第2の実施形態では、第1の実施形態と同様の効果が得られる。又、吸入行程対応領域Ps側において嵌合外周面23と嵌合内周面24との間に介在されたプレーン軸受け44は、方向Qと直交する方向、且つ吐出行程対応領域Pd側から吸入行程対応領域Ps側へシリンダブロック20を押し付けることになる。そのため、吐出行程対応領域Pd側において嵌合内周面24と吐出側弁体39との間のクリアランスが詰められ、シリンダブロック20と吐出側弁体39との間からの流体洩れの抑制効果が更に高くなる。
【0050】
次に、図8の第3の実施形態を説明する。第2の実施形態と同じ構成部には同じ符合を用い、その詳細説明は省略する。
吐出行程対応領域Pd側においてフロントハウジング12の筒部121の内周面122には凹部45が凹み形成されており、凹部45にはプレーン軸受け46が嵌合して固定されている。凹部45は、吐出行程対応領域Pd側において下死点対応部Hdと上死点対応部Htの中間位置に対応するピストン26と対向する位置(仮想平面Hと直交し、回転軸線131を含む平面上)である。筒部121の固定面としての内周面122とシリンダブロック20の外周面203との間に介在されているプレーン軸受け46は、シリンダブロック20に対して上死点対応部Htと下死点対応部Hdとの一方から他方へ向かう方向Qへのシリンダブロック20の移動を許容するが、他の方向への移動を阻止する。
【0051】
プレーン軸受け46は、回転軸線131に対して垂直且つ矢印Qの方向へのシリンダブロック20の移動を許容するが、他の方向への移動を阻止する移動規制手段を構成する。
第3の実施形態では、第2の実施形態と同様の効果が得られる。
【0052】
次に、図9の第4の実施形態を説明する。第1の実施形態と同じ構成部には同じ符合を用い、その詳細説明は省略する。
吐出行程対応領域Pd側において固定軸16の嵌合外周面23とシリンダブロック20の嵌合内周面24との間には回転軸線131方向から見て断面円弧形状の吐出側弁体47が介在されている。吐出側弁体47の円周面形状の外周面471の曲率半径は、シリンダブロック20の嵌合内周面24の曲率半径よりも僅かに小さくしてある。吸入行程対応領域Ps側において固定軸16の嵌合外周面23とシリンダブロック20の嵌合内周面24との間には回転軸線131方向から見て断面円弧形状の吸入側弁体48が介在されている。吸入側弁体48の円周面形状の外周面481の曲率半径は、シリンダブロック20の嵌合内周面24の曲率半径よりも僅かに小さくしてある。
【0053】
吐出行程対応領域Pd側において固定軸16の嵌合外周面23には凹部49が凹み形成されており、凹部49には吐出側弁体47が遊嵌されている。又、吸入行程対応領域Ps側において固定軸16の嵌合外周面23には凹部50が凹み形成されており、凹部50には吸入側弁体48が遊嵌されている。吸入側弁体48には窓38が形成されている。凹部49は、回転軸線131に対して垂直な方向への吐出側弁体47の移動を許容するが、固定軸16の周りの吐出側弁体47の回転を阻止する凹凸嵌合機構(回転阻止手段)を構成する。凹部50は、回転軸線131に対して垂直な方向への吸入側弁体48の移動を許容するが、固定軸16の周りの吸入側弁体48の回転を阻止する凹凸嵌合機構(回転阻止手段)を構成する。シリンダブロック20が回転すると、嵌合内周面24は、嵌合外周面23、吐出側弁体47及び吸入側弁体48の周りを周回する。
【0054】
第4の実施形態では、第1の実施形態と同様の効果が得られる。
次に、図10〜図13の第5の実施形態を説明する。第1の実施形態と同じ構成部には同じ符合を用い、その詳細説明は省略する。
【0055】
図10に示すように、嵌合孔22には円筒形状の吸入側弁体51が嵌合されており、円筒形状の吸入側弁体51の筒内には固定軸16が嵌合されている。
図12に示すように、円筒形状の吸入側弁体51の外周面は、大径外周面511と、大径外周面511よりも小径の小径外周面512と、大径外周面511と小径外周面512とを繋ぐ一対の段差513,514とからなる。大径外周面511は、吸入行程対応領域Ps側にあり、小径外周面512は、吐出行程対応領域Pd側にある。大径外周面511は、円周面であり、円周面形状の大径外周面511の曲率半径は、シリンダブロック20の嵌合外周面23の曲率半径よりも僅かに小さくしてある。
【0056】
吸入側弁体51の大径外周面511には窓38が貫設されている。窓38〔図11(a)にも図示〕は、吸入通路29の出口292に連通している。シリンダブロック20の回転に伴い、吸入口30は、周方向に移動して窓38に間欠的に連通する。
【0057】
図11(b)に示すように、吸入側弁体51の小径外周面512と嵌合内周面24との間には吐出側弁体52が介在されている。吐出側弁体52の外周面521及び内周面522は、円周面形状である。外周面521の曲率半径は、嵌合内周面24の曲率半径よりも僅かに小さくしてあり、内周面522の曲率半径は、吸入側弁体51の小径外周面512の曲率半径よりも大きくしてある。吐出側弁体52の側端面523は、吸入側弁体51の段差513に接触可能であり、吐出側弁体52の側端面524は、吸入側弁体51の段差514に接触可能である。小径外周面512及び段差513,514は、吐出側弁体52を嵌合する凹部を構成している。該凹部は、回転軸線131に対して垂直な方向〔上死点対応部Htと下死点対応部Hdとの一方から他方に向かう矢印Qで示す方向と直交する矢印Tで示す方向〕への吐出側弁体52の移動を許容するが、側端面523,524と段差513,514との接触によって、固定軸16周りの吐出側弁体52の回転を阻止する吐出側凹凸嵌合機構(吐出側回転阻止手段)を構成する。
【0058】
吸入側弁体51の小径外周面512には環状溝53が形成されており、環状溝53にはシールリング54が嵌め込まれている。シールリング54は、リング内、且つ吐出側弁体52の内周面522と吸入側弁体51の小径外周面512との間に背圧室55を形成する。吐出側弁体52には一対の導入路56,57が貫設されている。導入路56,57は、背圧室55に連通している。
【0059】
シリンダブロック20の回転に伴い、吐出行程対応領域Pd側の吸入口30が導入路56,57に間欠的に連通し、背圧室55が導入路56,57及び吸入口30を介して吐出行程対応領域Pd側のシリンダボア25に間欠的に連通する。これにより、背圧室55内が吐出行程対応領域Pd側のシリンダボア25内の圧力(吐出圧)となる。吐出側弁体52に対する背圧室55の背圧面積は、吐出行程対応領域Pd側における全シリンダボア25の吸入口30の通路断面積よりも大きくしてある。従って、背圧室55内の圧力(吐出圧相当の背圧)は、吐出側弁体52の外周面521を吐出行程対応領域Pd側のシリンダブロック20の嵌合内周面24に押接する。又、背圧室55内の圧力(吐出圧相当の背圧)は、吸入側弁体51の大径外周面511を吸入行程対応領域Ps側のシリンダブロック20の嵌合内周面24に押接する。
【0060】
背圧室55は、吐出行程対応領域Pd側において固定軸16の嵌合外周面23側からシリンダブロック20の嵌合内周面24側へ向けて吐出側弁体52を付勢して嵌合内周面24に押接させる吐出側付勢手段である。又、背圧室55は、吸入行程対応領域Ps側において固定軸16の嵌合外周面23側からシリンダブロック20の嵌合内周面24側へ向けて吸入側弁体51を付勢して嵌合内周面24に押接させる吸入側付勢手段である。
【0061】
シリンダブロック20の回転に伴ってピストン26が復動〔図10において右側から左側への移動〕する状態(吸入行程)では、該ピストン26の嵌入されているシリンダボア25の吸入口30が窓38に連通し、吸入通路29内の流体が出口292、窓38及び吸入口30を経由してシリンダボア25に吸入される。
【0062】
つまり、複数の吸入口30は、シリンダブロック20の回転角度に応じて窓38に間欠的に連通するようにシリンダブロック20の嵌合内周面24に形成されている。又、複数の吸入口30は、シリンダブロック20の回転角度に応じて導入路56,57に間欠的に連通する。
【0063】
図11(a)に示すように、吐出行程対応領域Pd側において固定軸16の嵌合外周面23には平面のガイド面58が仮想平面Hと平行に形成されており、吸入行程対応領域Ps側において固定軸16の嵌合外周面23には平面のガイド面59が仮想平面Hと平行に形成されている。ガイド面58とガイド面59とは、互いに平行である。
【0064】
吐出行程対応領域Pd側において吸入側弁体51の内周面515には平面の被ガイド面60がガイド面58と対向するように形成されており、吸入行程対応領域Ps側において吸入側弁体51の内周面515には平面の被ガイド面61がガイド面59と対向するように形成されている。被ガイド面60と被ガイド面61とは、互いに平行である。
【0065】
固定軸16の嵌合外周面23の円周面の曲率半径は、吸入側弁体51の内周面515の円周面の曲率半径よりも小さくしてあり、ガイド面58,59は、被ガイド面60,61を摺動案内する。つまり、吸入側弁体51は、矢印Qの方向へ摺動可能である。ガイド面58,59及び被ガイド面60,61は、回転軸線131に対して垂直且つ矢印Qの方向への吸入側弁体51の移動を許容する。
【0066】
図13(a)は、シリンダブロック20の嵌合内周面24及び吐出側弁体52の内周面522の展開図を表す。図13(b)は、固定軸16の嵌合外周面23及び吸入側弁体51の外周面(大径外周面511及び小径外周面512)の展開図を表す。吐出側弁体52は、吸入口30を閉塞可能な位置に配置されている。吸入口30は、シリンダブロック20の回転角度に応じて吐出側弁体52によって間欠的に閉塞される。
【0067】
回転軸13とシリンダブロック20との間のスプライン結合における半径方向のクリアランス、及びラジアル軸受け18における半径方向のクリアランスがあるため、シリンダブロック20は、半径方向へ移動可能となっている。しかし、背圧室55内の圧力は、吸入行程対応領域Ps側から吐出行程対応領域Pd側へ向かう方向〔方向Qと直交する方向T〕への荷重を吐出側弁体52を介してシリンダブロック20に与え、且つ吐出行程対応領域Pd側から吸入行程対応領域Ps側へ向かう方向への荷重を吸入側弁体51を介してシリンダブロック20に与える。吸入行程対応領域Ps側から吐出行程対応領域Pd側へ向かう方向への荷重と、吐出行程対応領域Pd側から吸入行程対応領域Ps側へ向かう方向への荷重とは、同等であるため、シリンダブロック20が方向Qと直交する方向へ移動することはなく、この移動によるシリンダブロック20の傾きは生じない。
【0068】
第5の実施形態では、第1の実施形態における(5),(6)項と同様の効果が得られる上に、以下の効果が得られる。
(7)カム体19のカム面191から受けるカム作用は、上死点対応部Htと下死点対応部Hdとの一方から他方へ向かう方向Qへシリンダブロック20を移動しようとする。吸入側弁体51及び吐出側弁体52は、背圧室55の背圧によってシリンダブロック20の嵌合内周面24に押し付けられているが、吸入側弁体51は、矢印Qの方向へ摺動可能であるため、シリンダブロック20は、矢印Qの方向へ移動する。この移動は、径方向への平行移動であるので、シリンダブロック20が傾くことはない。従って、流体洩れが抑制される。
【0069】
(8)シリンダブロック20は、吐出行程対応領域Pd側のシリンダボア25内の流体圧力によって吸入行程対応領域Ps側から吐出行程対応領域Pd側へ向かう方向Tへ付勢される。
【0070】
固定軸16の嵌合外周面23とシリンダブロック20の嵌合内周面24との間に介在された吸入側弁体51は、背圧室55内の背圧によって吸入行程対応領域Ps側においてシリンダブロック20に押接される。この背圧は、吸入行程対応領域Ps側から吐出行程対応領域Pd側へシリンダブロック20を移動させようとする流体圧力に対抗する。従って、シリンダブロック20の移動が規制され、吐出行程対応領域Pd側におけるシリンダブロック20の嵌合内周面24と吐出側弁体52との間のクリアランス増が抑制され、吐出行程対応領域Pd側のシリンダボア25内の流体が吸入口30から固定軸16の嵌合外周面23とシリンダブロック20の嵌合内周面24との間へ洩れるのが抑制される。又、シリンダブロック20の端面201とバルブプレート21の端面211との間に隙間が生じることはなく、端面201,211間からの流体洩れが防止される。
【0071】
(9)吐出側弁体52の外周面521が背圧室55内の背圧によって吐出行程対応領域Pd側におけるシリンダブロック20の嵌合外周面23に押接される。そのため、吐出行程対応領域Pd側のシリンダボア25内の流体が吸入口30から固定軸16の嵌合外周面23とシリンダブロック20の嵌合内周面24との間に沿って洩れるのが抑制される。
【0072】
(10)吸入側弁体51の大径外周面511が背圧室55内の背圧によって吸入行程対応領域Ps側におけるシリンダブロック20の嵌合外周面23に押接される。そのため、吸入行程対応領域Ps側のシリンダボア25内の流体が吸入口30から固定軸16の嵌合外周面23とシリンダブロック20の嵌合内周面24との間に沿って洩れるのが抑制される。
【0073】
(11)背圧室55は、吸入側背圧室と吐出側背圧室とを兼ねる単一の共通背圧室である。このような共通構成は、吸入側付勢手段及び吐出側付勢手段の構成の簡素化に寄与する。
【0074】
(12)吸入側背圧室と吐出側背圧室とを兼ねる背圧室55では、吸入側弁体51に対する背圧面積と、吐出側弁体52に対する背圧面積とが同等とされ、その面積は、吐出行程対応領域Pd側における全シリンダボア25の吸入口30の通路断面積よりも大きく設定している。これにより、吐出行程対応領域Pd側のシリンダボア25内の流体圧力によって吸入行程対応領域Ps側から吐出行程対応領域Pd側へシリンダブロック20を移動させようとする荷重の影響を低減し、シリンダブロック20の移動が確実に防止される。
【0075】
(13)吐出側弁体52に導入路56,57を設けた構成は、背圧室55に吐出圧を導入する上で簡素な構成である。
(14)背圧室55内の背圧は、吐出側弁体52の内周面522に均等に作用する。従って、背圧室55内の背圧は、吐出側弁体52の外周面521を嵌合内周面24に均等に押接する上で好適な付勢力であり、吐出圧を導入する背圧室55は、吐出側弁体52を付勢する付勢手段として簡便である。
【0076】
(15)背圧室55は、固定軸16の嵌合外周面23と吐出側弁体52の外周面521との間に環状のシールリング54を設けることによって簡単に形成される。シールリング54は、背圧室55の形成部材として簡便である。
【0077】
(16)ガイド面58,59及び被ガイド面60,61は、シリンダブロック20の回転中心(つまり、回転軸線131)に対して垂直な方向への吸入側弁体51の移動を許容し、且つ固定軸16に対する吸入側弁体51の回転を阻止する機構として簡便である。
【0078】
(17)吸入側弁体51の段差513,514間に吐出側弁体52を嵌合した凹凸嵌合機構は、回転軸線131に対して垂直な方向への吐出側弁体52の移動を許容し、且つ固定軸16に対する吐出側弁体52の回転を阻止する機構として簡便である。
【0079】
本発明では以下のような実施形態も可能である。
○第1の実施形態において、固定軸16の嵌合外周面23に第5の実施形態におけるガイド面58,59を設け、弁体34に第5の実施形態における被ガイド面60,61を設けてもよい。
【0080】
○第5の実施形態において、背圧室55に導入する吐出圧力を吐出通路31から固定軸16内を通って嵌合内周面24から導出するようにしてもよい。
○固定軸16内に吐出通路を設け、連通口である吸入口30が該吐出通路に間欠的に連通するようにしてもよい。この場合、吸入口30は、吐出口も兼ね、吐出口32は不要となる。
【0081】
○固定軸16とベースハウジング11とを別体に形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】第1の実施形態のアキシアルピストンポンプを示す側断面図。
【図2】図1のA−A線断面図。
【図3】図1のB−B線断面図。
【図4】図1のC−C線断面図。
【図5】分解斜視図。
【図6】(a)は、シリンダブロック20の嵌合内周面24及び円筒形状の弁体34の内周面の展開図。(b)は、固定軸16の嵌合外周面23及び円筒形状の弁体34の外周面の展開図。
【図7】第2の実施形態を示す断面図。
【図8】第3の実施形態を示す断面図。
【図9】第4の実施形態を示す断面図。
【図10】第5の実施形態のアキシアルピストンポンプを示す側断面図。
【図11】(a)は、図10のD−D線断面図。(b)は、部分拡大断面図。
【図12】分解斜視図。
【図13】(a)は、シリンダブロック20の嵌合内周面24及び吐出側弁体52の内周面の展開図。(b)は、固定軸16の嵌合外周面23及び吸入側弁体51の外周面の展開図。
【符号の説明】
【0083】
11…ベースハウジング。122…固定面としての内周面。131…回転軸線。15…ベース面。16…固定軸。19…カム体。191…カム面。20…シリンダブロック。201…端面。21…バルブプレート。23…嵌合外周面。24…嵌合内周面。25…シリンダボア。26…ピストン。29…流体通路としての吸入通路。30…連通口としての吸入口。34…弁体。37,42…キー。38…窓。39,52…吐出側弁体。44,46…プレーン軸受け。48,51…吸入側弁体。49,50…凹部。Ht…上死点対応部。Hd…下死点対応部。Pd…吐出行程対応領域。Ps…吸入行程対応領域。
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダブロックが回転してピストンが往復動するアキシアルピストンポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示のアキシアルピストンポンプでは、シリンダブロックがピントル弁(固定軸)に回転可能に嵌合している。シリンダブロック内のシリンダボアの側部に連通する連通ポートがシリンダブロックに形成されており、ピントル弁内に吸入通路及び吐出通路が形成されている。シリンダブロックの回転角度に応じて連通ポートが吸入通路に連通すると、吸入通路内の流体がシリンダボア内に吸入され、連通ポートが吐出通路に連通すると、シリンダボア内の流体が吐出通路へ吐出される。
【0003】
シリンダブロック内のピストンは、斜板(カム体)のカム作用を受けて往復動するが、該カム作用は、ピストンに径方向への荷重も加える。具体的には、カム体の上死点対応部側から下死点対応部側へ向かう径方向の荷重をピストンを介してシリンダブロックの先端側(斜板に近い側)に加える。回転軸から回転駆動力を得るシリンダブロックは、回転軸の内端部にスプライン結合されている。
【0004】
シリンダブロックは、ピントル弁の根元側でピントル弁の外周面とシリンダブロックの内周面との間に介在されたラジアルベアリングを介して支持されている。又、シリンダブロックは、ピントル弁の先端側(斜板に近い側)でハウジング内周面とシリンダブロック外周面との間に介在されたラジアルベアリングを介して支持されている。
【特許文献1】特開昭62−58065号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スプライン結合における半径方向のクリアランスの存在や、ラジアルベアリングにおける半径方向のクリアランスは、シリンダブロックの半径方向への移動を許容する。そのため、前記カム作用は、上死点対応部側から下死点対応部側へシリンダブロックを動かす。シリンダブロックの嵌合内周面とピントル弁の嵌合外周面との間のクリアランスが僅かであるとすると、シリンダブロックの先端側(斜板に近い側)がシリンダブロックの後端側(ピントル弁の根元側)よりも大きく移動し、シリンダブロックが傾く。このようなシリンダブロックの傾きは、シリンダブロックの嵌合内周面とピントル弁の嵌合外周面との平行度を悪化させ、局所的な摩耗やクリアランスが拡大した部分からの流体洩れをもたらす。シリンダブロックが径方向に平行移動するようにすれば、シリンダブロックの傾きを回避することができる。そのためには、シリンダブロックの嵌合内周面とピントル弁の嵌合外周面との間のクリアランスの大きさとして、スプライン結合における半径方向のクリアランス、及びラジアルベアリングにおける半径方向のクリアランスの総和のクリアランス分の移動を許容できるだけの大きさが必要である。
【0006】
しかし、シリンダブロックの嵌合内周面とピントル弁の嵌合外周面との間のクリアランスのこのような大きさは、シリンダブロックの嵌合内周面とピントル弁(固定軸)の嵌合外周面との間のクリアランスからの流体洩れを大きくする。
【0007】
本発明は、シリンダブロックの嵌合内周面と固定軸の嵌合外周面との間に沿って流体が洩れるのを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、固定軸に回転可能に嵌合されたシリンダブロックが前記固定軸を中心にして回転し、前記固定軸は、前記シリンダブロックの端面に対向するベースハウジングから突設されており、前記シリンダブロックに形成されたシリンダボアにピストンが往復動可能に収容されており、前記シリンダブロックの回転によって前記ピストンがカム体からカム作用を受けて往復動し、前記ピストンの復動に伴って前記シリンダボアに流体が吸入され、前記ピストンの往動に伴って前記シリンダボア内の流体が吐出されるアキシアルピストンポンプを対象とし、請求項1の発明では、前記固定軸に形成された流体通路と、前記シリンダボアに連通し、且つ前記シリンダブロックの回転角度に応じて前記流体通路に間欠的に連通するように前記シリンダブロックの嵌合内周面に形成された連通口と、前記固定軸の嵌合外周面と前記シリンダブロックの嵌合内周面との間に介在された窓を有する弁体と、前記固定軸に対する前記弁体の回転を阻止する回転阻止手段とを備え、前記弁体は、前記シリンダブロックの回転軸線に対して垂直な方向であって少なくとも前記カム体の上死点対応部と前記カム体の下死点対応部との一方から他方に向かう方向への移動を許容されている。
【0009】
カム体から受けるカム作用は、上死点対応部から前記カム体の下死点対応部に向かう方向へシリンダブロックを移動しようとする。シリンダブロックが移動した場合には、固定軸の嵌合外周面とシリンダブロックの嵌合内周面との間に介在された弁体も移動し、シリンダブロックの嵌合内周面と固定軸の嵌合外周面との間に沿って流体が洩れるのが抑制される。
【0010】
好適な例では、前記上死点対応部と前記下死点対応部との一方から他方に向かう方向と直交する方向への前記シリンダブロックの移動を規制する移動規制手段が備えられている。
【0011】
吐出行程対応領域にあるシリンダボア内の流体圧力は、上死点対応部から下死点対応部に向かう方向と直交する方向への荷重をシリンダブロックに加える。シリンダブロックの嵌合内周面に形成された連通口から弁体に吐出圧の流体圧力が作用し、シリンダブロックは弁体から離れようとする。移動規制手段は、前記荷重によるシリンダブロックの移動を規制するため、シリンダブロックの嵌合内周面と弁体との間のクリアランスが増すことはなく、カム体から受けるカム作用によってシリンダブロックが傾くこともない。
【0012】
好適な例では、前記移動規制手段は、前記吸入行程対応領域側における前記シリンダブロックの嵌合内周面と、前記固定軸の嵌合外周面との間、又は前記吐出行程対応領域側における前記シリンダブロックの外周面と、該外周面に対向する固定面との間に介在されたプレーン軸受けであり、前記プレーン軸受けは、前記シリンダブロックの回転軸線に対して垂直な方向への前記シリンダブロックの移動を許容する。
【0013】
プレーン軸受けは、移動規制手段として簡便である。
好適な例では、前記回転阻止手段は、前記弁体と前記固定軸の外周面との間に設けられたキー嵌合機構又は凹凸嵌合機構であり、前記キー嵌合機構又は凹凸嵌合機構は、前記シリンダブロックの回転軸線に対して垂直な方向への前記弁体の移動を許容する。
【0014】
キー嵌合機構又は凹凸嵌合機構は、回転軸線に対して垂直な方向への弁体の移動を許容する機構として簡便である。
好適な例では、前記弁体は、前記固定軸を包囲する円筒形状の弁体であり、前記弁体は、前記流体通路に連通し、且つ前記シリンダブロックの回転角度に応じて前記連通口に間欠的に連通する窓を有する。
【0015】
円筒形状の弁体は、吐出行程対応領域のシリンダボア内の流体が連通口から固定軸の嵌合外周面とシリンダブロックの嵌合内周面との間に沿って洩れるのを抑制する上で、好適である。
【0016】
好適な例では、前記流体通路は、吸入通路であり、前記窓は、前記シリンダブロックの回転角度に応じて吸入行程対応領域の前記連通口に間欠的に連通する。
固定軸に吸入通路を設ける構成は、通路断面積を増してキャビテーション発生を防止する上で好適である。
【0017】
好適な例では、前記弁体は、前記シリンダブロックの回転角度に応じて吐出行程対応領域の前記連通口を間欠的に閉塞するように、前記吐出行程対応領域側における前記シリンダブロックの嵌合内周面と前記固定軸の嵌合外周面との間に介在された吐出側弁体である。
【0018】
吐出側弁体は、吐出行程対応領域のシリンダボア内の流体が連通口から固定軸の嵌合外周面とシリンダブロックの嵌合内周面との間に沿って洩れるのを抑制する。
好適な例では、前記ベースハウジングに形成された吐出通路と、前記シリンダボアに連通し、且つ前記シリンダブロックの回転角度に応じて間欠的に前記吐出通路に連通するように前記シリンダブロックの前記端面に形成された吐出口を備え、前記ベースハウジングのベース面と前記シリンダブロックの前記端面との間にはバルブプレートが介在されており、前記吐出通路は、前記シリンダブロックの前記端面に対向する前記ベースハウジングのベース面に沿って、前記固定軸の周方向に延びる弧状の吐出接続口を備えており、前記吐出接続口は、前記バルブプレートを貫通するように前記バルブプレートに形成されている。
【0019】
シリンダブロックの端面とバルブプレートとの間でクリアランスが増すことはなく、シリンダボアの吐出口からシリンダブロックの端面とバルブプレートとの間への流体洩れが抑制される。
【発明の効果】
【0020】
本発明のアキシアルピストンポンプは、シリンダブロックの嵌合内周面と固定軸の嵌合外周面との間に沿って流体が洩れるのを抑制することができるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、固定容量型アキシアルピストンポンプに本発明を具体化した第1の実施形態を図1〜図6に基づいて説明する。
図1に示すように、ベースハウジング11にはフロントハウジング12が連結されており、フロントハウジング12には回転軸13がラジアルベアリング14を介して回転可能に支持されている。ベースハウジング11の内端面であるベース面15には固定軸16が回転軸13の回転軸線131の方向に突設されており、固定軸16の先端面161には支持凹部17が凹設されている。回転軸13の内端部132は、支持凹部17内でラジアル軸受け18を介して固定軸16に回転可能に支持されている。
【0022】
フロントハウジング12内には環状のカム体19が固定して設けられており、回転軸13は、カム体19の環内を通されている。カム体19のカム面191は、ベースハウジング11のベース面15に対向する環状の平面であって回転軸13の回転軸線131に対して傾いている。
【0023】
回転軸13には環状のシリンダブロック20がスプライン結合を介して回転軸13と一体的に回転可能に支持されている。ベース面15に対向するシリンダブロック20の端面201とベース面15との間にはバルブプレート21が介在されている。バルブプレート21は、ベース面15に面接触した状態で固定されており、シリンダブロック20の端面201は、バルブプレート21の端面211に面接触している。
【0024】
シリンダブロック20には嵌合孔22が端面201側から凹設されている。嵌合孔22には円筒形状の弁体34が嵌合されており、円筒形状の弁体34の筒内には固定軸16が嵌合されている。固定軸16の外周面である嵌合外周面23は、円周面であり、嵌合孔22の内周面である嵌合内周面24は、円周面である。弁体34は、嵌合外周面23と嵌合内周面24との間に介在されている。弁体34の円周面形状の外周面341の曲率半径は、シリンダブロック20の嵌合内周面24の曲率半径よりも僅かに小さくしてある。
【0025】
弁体34の内周面342と固定軸16の嵌合外周面23との間の径方向におけるクリアランスC1は、円筒形状の弁体34の外周面341とシリンダブロック20の嵌合内周面24との間の径方向におけるクリアランスC2よりも大きくしてある。クリアランスC1の大きさは、回転軸13とシリンダブロック20との間のスプライン結合における半径方向のクリアランスと、ラジアル軸受け18における半径方向のクリアランスとの和以上に設定されている。
【0026】
図2に示すように、固定軸16の嵌合外周面23には回転軸線131の方向に延びる位置決め溝35が凹み形成されており、弁体34の内周面には回転軸線131の方向に延びる位置決め溝36が位置決め溝35に対向するように凹み形成されている。位置決め溝35にはキー37が嵌合して固定されている。又、キー37は、位置決め溝36に遊嵌されている。位置決め溝36に遊嵌されたキー37は、シリンダブロック20の回転中心(つまり、回転軸線131)に対して垂直な方向への弁体34の移動を許容するが、固定軸16の周りの弁体34の回転を阻止するキー嵌合機構(回転阻止手段)を構成する。シリンダブロック20が回転すると、嵌合内周面24は、嵌合外周面23及び弁体34の周りを周回する。
【0027】
図6(a)は、シリンダブロック20の嵌合内周面24及び円筒形状の弁体34の内周面の展開図を表す。図6(b)は、固定軸16の嵌合外周面23及び円筒形状の弁体34の外周面の展開図を表す。
【0028】
図1に示すように、回転軸13の半径方向において嵌合内周面24より外側のシリンダブロック20には複数のシリンダボア25がカム面191に対向するシリンダブロック20の端面202から回転軸線131の方向に凹設されている。各シリンダボア25にはピストン26が回転軸線131の方向へ往復動可能に嵌入されている。カム面191に対向するピストン26の端部には球面継ぎ手261が一体形成されており、球面継ぎ手261にはシュー27が連結されている。各シュー27は、環状のリテーナ28に係留された状態でカム面191に面接触されている。
【0029】
回転軸13の回転に伴ってシリンダブロック20が回転すると、シュー27がカム面191上を摺接し、ピストン26がシリンダボア25内を往復動する。
ベースハウジング11には吸入通路29が形成されている。流体通路としての吸入通路29の入口291は、ベースハウジング11の外端面111上に開口しており、吸入通路29の出口292は、固定軸16の嵌合外周面23上に開口している。つまり、吸入通路29は、ベースハウジング11の外端面111から固定軸16内を通って嵌合外周面23に至る。
【0030】
図3及び図5に示すように、円筒形状の弁体34の周面には窓38が出口292に対向して連通するように形成されている。
図3に示すように、シリンダブロック20の嵌合内周面24には吸入口30がシリンダボア25と1対1に連通するように形成されている。連通口としての吸入口30は、シリンダブロック20の半径方向においてシリンダボア25よりも内側にあり、窓38は、シリンダブロック20の半径方向において吸入口30よりも内側にある。出口292は、シリンダブロック20の半径方向において窓38よりも内側にある。シリンダブロック20の回転に伴い、吸入口30は、周方向に移動して窓38に間欠的に連通する。
【0031】
図1に示すように、ベースハウジング11及びバルブプレート21には吐出通路31が形成されている。吐出通路31の入口としての吐出接続口311は、バルブプレート21の端面211に開口しており、吐出通路31の出口312は、ベースハウジング11の外端面111上に開口している。つまり、吐出通路31は、バルブプレート21の端面211からバルブプレート21内及びベースハウジング11内を通って外端面111に至る。
【0032】
図4に示すように、吐出接続口311は、回転軸線131を中心とする周方向に延びる円弧形状である。
シリンダブロック20の端面201には吐出口32がシリンダボア25と1対1に連通するように形成されている。シリンダブロック20の回転に伴い、吐出口32は、周方向に移動して吐出接続口311に間欠的に連通する。
【0033】
図2に示すように、回転軸13及びシリンダブロック20は、矢印Rの方向に回転する。回転軸13の回転軸線131の方向に見て、回転軸線131を含む仮想平面Hによって分けられた一方の空間(カム面191の片側半分を回転軸線131の方向へ投影した領域)は、吸入行程対応領域Psであり、他方(カム面191の他方の片側半分を回転軸線131の方向へ投影した領域)は、吐出行程対応領域Pdである。回転軸13の回転軸線131の方向に見て、吸入行程対応領域Psに対応するピストン26は、吸入行程にあり、吐出行程対応領域Pdに対応するピストン26は、吐出行程にある。カム面191において、下死点に位置したピストン26に対応する部位が下死点対応部Hdであり、上死点に位置したピストン26に対応する部位が上死点対応部Htである。カム面191において規定された下死点対応部Hd及び上死点対応部Htは、仮想平面Hと交差する。
【0034】
図3に示すように、出口292は、吸入行程対応領域Psにある。
図4に示すように、円弧形状の吐出接続口311は、吐出行程対応領域Pdにある。
図2〜図4におけるシリンダブロック20の回転角度を0°とする。図2〜図4の状態からシリンダブロック20が半回転すると、シリンダブロック20の回転角度は、180°となり、図2〜図4の状態からシリンダブロック20が1回転すると、シリンダブロック20の回転角度は、360°(0°)となる。
【0035】
シリンダブロック20の回転に伴ってピストン26が復動〔図1において右側から左側への移動〕する状態(吸入行程)では、該ピストン26の嵌入されているシリンダボア25の吸入口30が窓38に連通し、吸入通路29内の流体が窓38及び吸入口30を経由してシリンダボア25に吸入される。シリンダブロック20の回転に伴ってピストン26が往動〔図1において左側から右側への移動〕する状態〔吐出行程〕では、該ピストン26の嵌入されているシリンダボア25の吐出口32が吐出接続口311に連通し、シリンダボア25内の流体が吐出口32を経由して吐出通路31に吐出される。
【0036】
つまり、複数の吸入口30は、シリンダブロック20の回転角度に応じて窓38に間欠的に連通するようにシリンダブロック20の嵌合内周面24に形成されている。又、複数の吐出口32は、シリンダブロック20の回転角度に応じて吐出通路31の吐出接続口311に間欠的に連通するようにシリンダブロック20に形成されている。
【0037】
カム体19のカム面191から受けるカム作用は、カム面191の上死点対応部Htとカム面191の下死点対応部Hdとの一方から他方へ向かう方向〔図2に矢印Qで示す方向〕へシリンダブロック20を移動しようとする。又、弁体34がシリンダブロック20の移動に追随する。シリンダブロック20に嵌合された弁体34は、回転軸線131に対して垂直な方向への移動を許容されているため、上死点対応部Htと下死点対応部Hdとの一方から他方に向かう方向Qへのシリンダブロック20及び弁体34の移動は、径方向へ平行移動となり、シリンダブロック20が傾くことはない。
【0038】
第1の実施形態では以下の効果が得られる。
(1)回転軸線131に対して垂直な方向へ移動可能な弁体34が無い場合には、シリンダブロック20の嵌合内周面24と固定軸16の嵌合外周面23との間の径方向におけるクリアランスの大きさとしては、クリアランスC1程度にする必要がある。
【0039】
固定軸16の嵌合外周面23とシリンダブロック20の嵌合内周面24との間に介在された弁体34は、シリンダブロック20の嵌合内周面24と弁体34の外周面341との間の径方向におけるクリアランスの大きさC2(<C1)を可及的に小さくすることを可能にする。つまり、弁体34は、シリンダブロック20の嵌合内周面24に対向するシール面(弁体34がある場合には外周面341、弁体34が無い場合には固定軸16の嵌合外周面23)と、シリンダブロック20の嵌合内周面24との間のクリアランスの低減に寄与する。その結果、シリンダボア25内の流体が吸入口30(連通口)から固定軸16の嵌合外周面23とシリンダブロック20の嵌合内周面24との間に沿って洩れるのを抑制する。
【0040】
(2)カム体19のカム面191から受けるカム作用は、上死点対応部Htと下死点対応部Hdとの一方から他方へ向かう方向Qへシリンダブロック20を移動しようとする。この移動は、径方向への平行移動であるので、シリンダブロック20が傾くことはない。従って、固定軸16の嵌合外周面23とシリンダブロック20の嵌合内周面24との間の局所的な摩耗やクリアランス拡大による洩れを防止できる。又、シリンダブロック20の端面201とバルブプレート21の端面211との間でクリアランスが増すことはなく、シリンダボア25の吐出口32からシリンダブロック20の端面201とバルブプレート21の端面211との間への流体洩れが抑制される。
【0041】
(3)キー37を用いたキー嵌合機構は、回転軸線131に対して垂直な方向への弁体34の移動を許容し、且つ固定軸16に対する弁体34の回転を阻止する機構として簡便である。
【0042】
(4)円筒形状の弁体34の外周面の径をシリンダブロック20の嵌合内周面24の径に可及的に近づけることによって、クリアランスC2の大きさを可及的に小さくすることができる。このような円筒形状の弁体34は、吐出行程対応領域Pdのシリンダボア25内の流体が吸入口30から固定軸16の嵌合外周面23とシリンダブロック20の嵌合内周面24との間に沿って洩れるのを抑制し、且つ吸入行程対応領域Psのシリンダボア25内の流体が吸入口30から嵌合外周面23と嵌合内周面24との間に沿って洩れるのを抑制する上で、好適である。
【0043】
(5)バルブプレート21の吐出通路31を介して吐出する構成のアキシアルピストンポンプでは、シリンダボア25内の圧力によってシリンダブロック20の端面をバルブプレート21に押し付けて該端面とバルブプレート21との隙間の発生を無くす必要があるため、吐出口32の径は小径とされる。従って、吐出口32からシリンダボア25へ流体を吸入するタイプでは吸入口を兼ねる吐出口32の小径化は、吸入抵抗が高くなり、吸入流体中にキャビテーションを発生させる。キャビテーションの発生は、容積効率の低下や騒音悪化の不具合をもたらす。
【0044】
吸入通路29と吐出通路31とのうちの吸入通路29のみが固定軸16内に形成されるため、吸入通路29の通路断面積を大きくすることができ、キャビテーションの発生を回避することができる。又、吸入口30がシリンダブロック20の半径方向においてシリンダボア25よりも内側にあるため、シリンダブロック20の回転に伴う遠心力が吸入通路29から吸入口30を介してシリンダボア25に至る流体吸入を助勢する。これは、吸入効率の低下の回避に寄与する。
【0045】
(6)吸入流体中のキャビテーションは、吸入口がシリンダブロック20の回転中心(つまり、回転軸13の回転軸線131)からの距離が大きいほど、つまりシリンダブロック20の回転に伴う吸入口の周速が大きいほど、発生し易くなる。嵌合内周面24に形成した吸入口30は、従来のシリンダブロック20の端面201に形成した吸入口に比べて、シリンダブロック20の回転中心からの距離が短くなる。嵌合内周面24に吸入口30を形成した構成は、キャビテーションの発生の抑制に寄与する。
【0046】
次に、図7の第2の実施形態を説明する。第1の実施形態と同じ構成部には同じ符合を用い、その詳細説明は省略する。
吐出行程対応領域Pd側において固定軸16の嵌合外周面23とシリンダブロック20の嵌合内周面24との間には回転軸線131方向から見て断面円弧形状の吐出側弁体39が介在されている。吐出側弁体39の円周面形状の外周面391の曲率半径は、シリンダブロック20の嵌合内周面24の曲率半径よりも僅かに小さくしてある。
【0047】
固定軸16の嵌合外周面23には回転軸線131の方向に延びる位置決め溝40が凹み形成されており、吐出側弁体39の内周面には回転軸線131の方向に延びる位置決め溝41が位置決め溝40に対向するように凹み形成されている。位置決め溝40にはキー42が嵌合して固定されている。又、キー42は、位置決め溝41に遊嵌されている。位置決め溝41に遊嵌されたキー42は、回転軸線131に対して垂直な方向への吐出側弁体39の移動を許容するが、固定軸16の周りの吐出側弁体39の回転を阻止するキー嵌合機構(回転阻止手段)を構成する。シリンダブロック20が回転すると、嵌合内周面24は、嵌合外周面23及び吐出側弁体39の周りを周回する。
【0048】
吸入行程対応領域Ps側において固定軸16の嵌合外周面23には凹部43が凹み形成されており、凹部43にはプレーン軸受け44が嵌合して固定されている。凹部43は、吸入行程対応領域Ps側において下死点対応部Hdと上死点対応部Htとの中間位置に対応するピストン26と対向する位置(仮想平面Hと直交し、回転軸線131を含む平面上)である。固定面としての嵌合外周面23とシリンダブロック20の嵌合内周面24との間に介在されているプレーン軸受け44は、シリンダブロック20に対して上死点対応部Htと下死点対応部Hdとの一方から他方へ向かう方向Qへのシリンダブロック20の移動を許容する。
【0049】
プレーン軸受け44は、回転軸線131に対して垂直且つ矢印Qの方向へのシリンダブロック20の移動を許容するが、他の方向への移動を阻止する移動規制手段を構成する。
第2の実施形態では、第1の実施形態と同様の効果が得られる。又、吸入行程対応領域Ps側において嵌合外周面23と嵌合内周面24との間に介在されたプレーン軸受け44は、方向Qと直交する方向、且つ吐出行程対応領域Pd側から吸入行程対応領域Ps側へシリンダブロック20を押し付けることになる。そのため、吐出行程対応領域Pd側において嵌合内周面24と吐出側弁体39との間のクリアランスが詰められ、シリンダブロック20と吐出側弁体39との間からの流体洩れの抑制効果が更に高くなる。
【0050】
次に、図8の第3の実施形態を説明する。第2の実施形態と同じ構成部には同じ符合を用い、その詳細説明は省略する。
吐出行程対応領域Pd側においてフロントハウジング12の筒部121の内周面122には凹部45が凹み形成されており、凹部45にはプレーン軸受け46が嵌合して固定されている。凹部45は、吐出行程対応領域Pd側において下死点対応部Hdと上死点対応部Htの中間位置に対応するピストン26と対向する位置(仮想平面Hと直交し、回転軸線131を含む平面上)である。筒部121の固定面としての内周面122とシリンダブロック20の外周面203との間に介在されているプレーン軸受け46は、シリンダブロック20に対して上死点対応部Htと下死点対応部Hdとの一方から他方へ向かう方向Qへのシリンダブロック20の移動を許容するが、他の方向への移動を阻止する。
【0051】
プレーン軸受け46は、回転軸線131に対して垂直且つ矢印Qの方向へのシリンダブロック20の移動を許容するが、他の方向への移動を阻止する移動規制手段を構成する。
第3の実施形態では、第2の実施形態と同様の効果が得られる。
【0052】
次に、図9の第4の実施形態を説明する。第1の実施形態と同じ構成部には同じ符合を用い、その詳細説明は省略する。
吐出行程対応領域Pd側において固定軸16の嵌合外周面23とシリンダブロック20の嵌合内周面24との間には回転軸線131方向から見て断面円弧形状の吐出側弁体47が介在されている。吐出側弁体47の円周面形状の外周面471の曲率半径は、シリンダブロック20の嵌合内周面24の曲率半径よりも僅かに小さくしてある。吸入行程対応領域Ps側において固定軸16の嵌合外周面23とシリンダブロック20の嵌合内周面24との間には回転軸線131方向から見て断面円弧形状の吸入側弁体48が介在されている。吸入側弁体48の円周面形状の外周面481の曲率半径は、シリンダブロック20の嵌合内周面24の曲率半径よりも僅かに小さくしてある。
【0053】
吐出行程対応領域Pd側において固定軸16の嵌合外周面23には凹部49が凹み形成されており、凹部49には吐出側弁体47が遊嵌されている。又、吸入行程対応領域Ps側において固定軸16の嵌合外周面23には凹部50が凹み形成されており、凹部50には吸入側弁体48が遊嵌されている。吸入側弁体48には窓38が形成されている。凹部49は、回転軸線131に対して垂直な方向への吐出側弁体47の移動を許容するが、固定軸16の周りの吐出側弁体47の回転を阻止する凹凸嵌合機構(回転阻止手段)を構成する。凹部50は、回転軸線131に対して垂直な方向への吸入側弁体48の移動を許容するが、固定軸16の周りの吸入側弁体48の回転を阻止する凹凸嵌合機構(回転阻止手段)を構成する。シリンダブロック20が回転すると、嵌合内周面24は、嵌合外周面23、吐出側弁体47及び吸入側弁体48の周りを周回する。
【0054】
第4の実施形態では、第1の実施形態と同様の効果が得られる。
次に、図10〜図13の第5の実施形態を説明する。第1の実施形態と同じ構成部には同じ符合を用い、その詳細説明は省略する。
【0055】
図10に示すように、嵌合孔22には円筒形状の吸入側弁体51が嵌合されており、円筒形状の吸入側弁体51の筒内には固定軸16が嵌合されている。
図12に示すように、円筒形状の吸入側弁体51の外周面は、大径外周面511と、大径外周面511よりも小径の小径外周面512と、大径外周面511と小径外周面512とを繋ぐ一対の段差513,514とからなる。大径外周面511は、吸入行程対応領域Ps側にあり、小径外周面512は、吐出行程対応領域Pd側にある。大径外周面511は、円周面であり、円周面形状の大径外周面511の曲率半径は、シリンダブロック20の嵌合外周面23の曲率半径よりも僅かに小さくしてある。
【0056】
吸入側弁体51の大径外周面511には窓38が貫設されている。窓38〔図11(a)にも図示〕は、吸入通路29の出口292に連通している。シリンダブロック20の回転に伴い、吸入口30は、周方向に移動して窓38に間欠的に連通する。
【0057】
図11(b)に示すように、吸入側弁体51の小径外周面512と嵌合内周面24との間には吐出側弁体52が介在されている。吐出側弁体52の外周面521及び内周面522は、円周面形状である。外周面521の曲率半径は、嵌合内周面24の曲率半径よりも僅かに小さくしてあり、内周面522の曲率半径は、吸入側弁体51の小径外周面512の曲率半径よりも大きくしてある。吐出側弁体52の側端面523は、吸入側弁体51の段差513に接触可能であり、吐出側弁体52の側端面524は、吸入側弁体51の段差514に接触可能である。小径外周面512及び段差513,514は、吐出側弁体52を嵌合する凹部を構成している。該凹部は、回転軸線131に対して垂直な方向〔上死点対応部Htと下死点対応部Hdとの一方から他方に向かう矢印Qで示す方向と直交する矢印Tで示す方向〕への吐出側弁体52の移動を許容するが、側端面523,524と段差513,514との接触によって、固定軸16周りの吐出側弁体52の回転を阻止する吐出側凹凸嵌合機構(吐出側回転阻止手段)を構成する。
【0058】
吸入側弁体51の小径外周面512には環状溝53が形成されており、環状溝53にはシールリング54が嵌め込まれている。シールリング54は、リング内、且つ吐出側弁体52の内周面522と吸入側弁体51の小径外周面512との間に背圧室55を形成する。吐出側弁体52には一対の導入路56,57が貫設されている。導入路56,57は、背圧室55に連通している。
【0059】
シリンダブロック20の回転に伴い、吐出行程対応領域Pd側の吸入口30が導入路56,57に間欠的に連通し、背圧室55が導入路56,57及び吸入口30を介して吐出行程対応領域Pd側のシリンダボア25に間欠的に連通する。これにより、背圧室55内が吐出行程対応領域Pd側のシリンダボア25内の圧力(吐出圧)となる。吐出側弁体52に対する背圧室55の背圧面積は、吐出行程対応領域Pd側における全シリンダボア25の吸入口30の通路断面積よりも大きくしてある。従って、背圧室55内の圧力(吐出圧相当の背圧)は、吐出側弁体52の外周面521を吐出行程対応領域Pd側のシリンダブロック20の嵌合内周面24に押接する。又、背圧室55内の圧力(吐出圧相当の背圧)は、吸入側弁体51の大径外周面511を吸入行程対応領域Ps側のシリンダブロック20の嵌合内周面24に押接する。
【0060】
背圧室55は、吐出行程対応領域Pd側において固定軸16の嵌合外周面23側からシリンダブロック20の嵌合内周面24側へ向けて吐出側弁体52を付勢して嵌合内周面24に押接させる吐出側付勢手段である。又、背圧室55は、吸入行程対応領域Ps側において固定軸16の嵌合外周面23側からシリンダブロック20の嵌合内周面24側へ向けて吸入側弁体51を付勢して嵌合内周面24に押接させる吸入側付勢手段である。
【0061】
シリンダブロック20の回転に伴ってピストン26が復動〔図10において右側から左側への移動〕する状態(吸入行程)では、該ピストン26の嵌入されているシリンダボア25の吸入口30が窓38に連通し、吸入通路29内の流体が出口292、窓38及び吸入口30を経由してシリンダボア25に吸入される。
【0062】
つまり、複数の吸入口30は、シリンダブロック20の回転角度に応じて窓38に間欠的に連通するようにシリンダブロック20の嵌合内周面24に形成されている。又、複数の吸入口30は、シリンダブロック20の回転角度に応じて導入路56,57に間欠的に連通する。
【0063】
図11(a)に示すように、吐出行程対応領域Pd側において固定軸16の嵌合外周面23には平面のガイド面58が仮想平面Hと平行に形成されており、吸入行程対応領域Ps側において固定軸16の嵌合外周面23には平面のガイド面59が仮想平面Hと平行に形成されている。ガイド面58とガイド面59とは、互いに平行である。
【0064】
吐出行程対応領域Pd側において吸入側弁体51の内周面515には平面の被ガイド面60がガイド面58と対向するように形成されており、吸入行程対応領域Ps側において吸入側弁体51の内周面515には平面の被ガイド面61がガイド面59と対向するように形成されている。被ガイド面60と被ガイド面61とは、互いに平行である。
【0065】
固定軸16の嵌合外周面23の円周面の曲率半径は、吸入側弁体51の内周面515の円周面の曲率半径よりも小さくしてあり、ガイド面58,59は、被ガイド面60,61を摺動案内する。つまり、吸入側弁体51は、矢印Qの方向へ摺動可能である。ガイド面58,59及び被ガイド面60,61は、回転軸線131に対して垂直且つ矢印Qの方向への吸入側弁体51の移動を許容する。
【0066】
図13(a)は、シリンダブロック20の嵌合内周面24及び吐出側弁体52の内周面522の展開図を表す。図13(b)は、固定軸16の嵌合外周面23及び吸入側弁体51の外周面(大径外周面511及び小径外周面512)の展開図を表す。吐出側弁体52は、吸入口30を閉塞可能な位置に配置されている。吸入口30は、シリンダブロック20の回転角度に応じて吐出側弁体52によって間欠的に閉塞される。
【0067】
回転軸13とシリンダブロック20との間のスプライン結合における半径方向のクリアランス、及びラジアル軸受け18における半径方向のクリアランスがあるため、シリンダブロック20は、半径方向へ移動可能となっている。しかし、背圧室55内の圧力は、吸入行程対応領域Ps側から吐出行程対応領域Pd側へ向かう方向〔方向Qと直交する方向T〕への荷重を吐出側弁体52を介してシリンダブロック20に与え、且つ吐出行程対応領域Pd側から吸入行程対応領域Ps側へ向かう方向への荷重を吸入側弁体51を介してシリンダブロック20に与える。吸入行程対応領域Ps側から吐出行程対応領域Pd側へ向かう方向への荷重と、吐出行程対応領域Pd側から吸入行程対応領域Ps側へ向かう方向への荷重とは、同等であるため、シリンダブロック20が方向Qと直交する方向へ移動することはなく、この移動によるシリンダブロック20の傾きは生じない。
【0068】
第5の実施形態では、第1の実施形態における(5),(6)項と同様の効果が得られる上に、以下の効果が得られる。
(7)カム体19のカム面191から受けるカム作用は、上死点対応部Htと下死点対応部Hdとの一方から他方へ向かう方向Qへシリンダブロック20を移動しようとする。吸入側弁体51及び吐出側弁体52は、背圧室55の背圧によってシリンダブロック20の嵌合内周面24に押し付けられているが、吸入側弁体51は、矢印Qの方向へ摺動可能であるため、シリンダブロック20は、矢印Qの方向へ移動する。この移動は、径方向への平行移動であるので、シリンダブロック20が傾くことはない。従って、流体洩れが抑制される。
【0069】
(8)シリンダブロック20は、吐出行程対応領域Pd側のシリンダボア25内の流体圧力によって吸入行程対応領域Ps側から吐出行程対応領域Pd側へ向かう方向Tへ付勢される。
【0070】
固定軸16の嵌合外周面23とシリンダブロック20の嵌合内周面24との間に介在された吸入側弁体51は、背圧室55内の背圧によって吸入行程対応領域Ps側においてシリンダブロック20に押接される。この背圧は、吸入行程対応領域Ps側から吐出行程対応領域Pd側へシリンダブロック20を移動させようとする流体圧力に対抗する。従って、シリンダブロック20の移動が規制され、吐出行程対応領域Pd側におけるシリンダブロック20の嵌合内周面24と吐出側弁体52との間のクリアランス増が抑制され、吐出行程対応領域Pd側のシリンダボア25内の流体が吸入口30から固定軸16の嵌合外周面23とシリンダブロック20の嵌合内周面24との間へ洩れるのが抑制される。又、シリンダブロック20の端面201とバルブプレート21の端面211との間に隙間が生じることはなく、端面201,211間からの流体洩れが防止される。
【0071】
(9)吐出側弁体52の外周面521が背圧室55内の背圧によって吐出行程対応領域Pd側におけるシリンダブロック20の嵌合外周面23に押接される。そのため、吐出行程対応領域Pd側のシリンダボア25内の流体が吸入口30から固定軸16の嵌合外周面23とシリンダブロック20の嵌合内周面24との間に沿って洩れるのが抑制される。
【0072】
(10)吸入側弁体51の大径外周面511が背圧室55内の背圧によって吸入行程対応領域Ps側におけるシリンダブロック20の嵌合外周面23に押接される。そのため、吸入行程対応領域Ps側のシリンダボア25内の流体が吸入口30から固定軸16の嵌合外周面23とシリンダブロック20の嵌合内周面24との間に沿って洩れるのが抑制される。
【0073】
(11)背圧室55は、吸入側背圧室と吐出側背圧室とを兼ねる単一の共通背圧室である。このような共通構成は、吸入側付勢手段及び吐出側付勢手段の構成の簡素化に寄与する。
【0074】
(12)吸入側背圧室と吐出側背圧室とを兼ねる背圧室55では、吸入側弁体51に対する背圧面積と、吐出側弁体52に対する背圧面積とが同等とされ、その面積は、吐出行程対応領域Pd側における全シリンダボア25の吸入口30の通路断面積よりも大きく設定している。これにより、吐出行程対応領域Pd側のシリンダボア25内の流体圧力によって吸入行程対応領域Ps側から吐出行程対応領域Pd側へシリンダブロック20を移動させようとする荷重の影響を低減し、シリンダブロック20の移動が確実に防止される。
【0075】
(13)吐出側弁体52に導入路56,57を設けた構成は、背圧室55に吐出圧を導入する上で簡素な構成である。
(14)背圧室55内の背圧は、吐出側弁体52の内周面522に均等に作用する。従って、背圧室55内の背圧は、吐出側弁体52の外周面521を嵌合内周面24に均等に押接する上で好適な付勢力であり、吐出圧を導入する背圧室55は、吐出側弁体52を付勢する付勢手段として簡便である。
【0076】
(15)背圧室55は、固定軸16の嵌合外周面23と吐出側弁体52の外周面521との間に環状のシールリング54を設けることによって簡単に形成される。シールリング54は、背圧室55の形成部材として簡便である。
【0077】
(16)ガイド面58,59及び被ガイド面60,61は、シリンダブロック20の回転中心(つまり、回転軸線131)に対して垂直な方向への吸入側弁体51の移動を許容し、且つ固定軸16に対する吸入側弁体51の回転を阻止する機構として簡便である。
【0078】
(17)吸入側弁体51の段差513,514間に吐出側弁体52を嵌合した凹凸嵌合機構は、回転軸線131に対して垂直な方向への吐出側弁体52の移動を許容し、且つ固定軸16に対する吐出側弁体52の回転を阻止する機構として簡便である。
【0079】
本発明では以下のような実施形態も可能である。
○第1の実施形態において、固定軸16の嵌合外周面23に第5の実施形態におけるガイド面58,59を設け、弁体34に第5の実施形態における被ガイド面60,61を設けてもよい。
【0080】
○第5の実施形態において、背圧室55に導入する吐出圧力を吐出通路31から固定軸16内を通って嵌合内周面24から導出するようにしてもよい。
○固定軸16内に吐出通路を設け、連通口である吸入口30が該吐出通路に間欠的に連通するようにしてもよい。この場合、吸入口30は、吐出口も兼ね、吐出口32は不要となる。
【0081】
○固定軸16とベースハウジング11とを別体に形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】第1の実施形態のアキシアルピストンポンプを示す側断面図。
【図2】図1のA−A線断面図。
【図3】図1のB−B線断面図。
【図4】図1のC−C線断面図。
【図5】分解斜視図。
【図6】(a)は、シリンダブロック20の嵌合内周面24及び円筒形状の弁体34の内周面の展開図。(b)は、固定軸16の嵌合外周面23及び円筒形状の弁体34の外周面の展開図。
【図7】第2の実施形態を示す断面図。
【図8】第3の実施形態を示す断面図。
【図9】第4の実施形態を示す断面図。
【図10】第5の実施形態のアキシアルピストンポンプを示す側断面図。
【図11】(a)は、図10のD−D線断面図。(b)は、部分拡大断面図。
【図12】分解斜視図。
【図13】(a)は、シリンダブロック20の嵌合内周面24及び吐出側弁体52の内周面の展開図。(b)は、固定軸16の嵌合外周面23及び吸入側弁体51の外周面の展開図。
【符号の説明】
【0083】
11…ベースハウジング。122…固定面としての内周面。131…回転軸線。15…ベース面。16…固定軸。19…カム体。191…カム面。20…シリンダブロック。201…端面。21…バルブプレート。23…嵌合外周面。24…嵌合内周面。25…シリンダボア。26…ピストン。29…流体通路としての吸入通路。30…連通口としての吸入口。34…弁体。37,42…キー。38…窓。39,52…吐出側弁体。44,46…プレーン軸受け。48,51…吸入側弁体。49,50…凹部。Ht…上死点対応部。Hd…下死点対応部。Pd…吐出行程対応領域。Ps…吸入行程対応領域。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定軸に回転可能に嵌合されたシリンダブロックが前記固定軸を中心にして回転し、前記固定軸は、前記シリンダブロックの端面に対向するベースハウジングから突設されており、前記シリンダブロックに形成されたシリンダボアにピストンが往復動可能に収容されており、前記シリンダブロックの回転によって前記ピストンがカム体からカム作用を受けて往復動し、前記ピストンの復動に伴って前記シリンダボアに流体が吸入され、前記ピストンの往動に伴って前記シリンダボア内の流体が吐出されるアキシアルピストンポンプにおいて、
前記固定軸に形成された流体通路と、
前記シリンダボアに連通し、且つ前記シリンダブロックの回転角度に応じて前記流体通路に間欠的に連通するように前記シリンダブロックの嵌合内周面に形成された連通口と、
前記固定軸の嵌合外周面と前記シリンダブロックの嵌合内周面との間に介在された弁体と、
前記固定軸に対する前記弁体の回転を阻止する回転阻止手段とを備え、
前記弁体は、前記シリンダブロックの回転軸線に対して垂直な方向であって少なくとも前記カム体の上死点対応部と前記カム体の下死点対応部との一方から他方に向かう方向への移動を許容されているアキシアルピストンポンプ。
【請求項2】
前記上死点対応部と前記下死点対応部との一方から他方に向かう方向と直交する方向への前記シリンダブロックの移動を規制する移動規制手段が備えられている請求項1に記載のアキシアルピストンポンプ。
【請求項3】
前記移動規制手段は、吸入行程対応領域側における前記シリンダブロックの嵌合内周面と、前記固定軸の嵌合外周面との間、又は吐出行程対応領域側における前記シリンダブロックの外周面と、該外周面に対向する固定面との間に介在されたプレーン軸受けであり、前記プレーン軸受けは、前記シリンダブロックの回転軸線に対して垂直な方向への前記シリンダブロックの移動を許容する請求項2に記載のアキシアルピストンポンプ。
【請求項4】
前記回転阻止手段は、前記弁体と前記固定軸の嵌合外周面との間に設けられたキー嵌合機構又は凹凸嵌合機構であり、前記キー嵌合機構又は凹凸嵌合機構は、前記シリンダブロックの回転軸線に対して垂直な方向への前記弁体の移動を許容する請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のアキシアルピストンポンプ。
【請求項5】
前記弁体は、前記固定軸を包囲する円筒形状の弁体であり、前記弁体は、前記流体通路に連通し、且つ前記シリンダブロックの回転角度に応じて前記連通口に間欠的に連通する窓を有する請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のアキシアルピストンポンプ。
【請求項6】
前記流体通路は、吸入通路であり、前記窓は、前記シリンダブロックの回転角度に応じて吸入行程対応領域の前記連通口に間欠的に連通する請求項5に記載のアキシアルピストンポンプ。
【請求項7】
前記弁体は、前記シリンダブロックの回転角度に応じて吐出行程対応領域の前記連通口を間欠的に閉塞するように、前記吐出行程対応領域側における前記シリンダブロックの嵌合内周面と前記固定軸の嵌合外周面との間に介在された吐出側弁体である請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のアキシアルピストンポンプ。
【請求項8】
前記ベースハウジングに形成された吐出通路と、前記シリンダボアに連通し、且つ前記シリンダブロックの回転角度に応じて間欠的に前記吐出通路に連通するように前記シリンダブロックの前記端面に形成された吐出口を備え、
前記ベースハウジングのベース面と前記シリンダブロックの前記端面との間にはバルブプレートが介在されており、
前記吐出通路は、前記シリンダブロックの前記端面に対向する前記ベースハウジングのベース面に沿って、前記固定軸の周方向に延びる弧状の吐出接続口を備えており、前記吐出接続口は、前記バルブプレートを貫通するように前記バルブプレートに形成されている請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載のアキシアルピストンポンプ。
【請求項1】
固定軸に回転可能に嵌合されたシリンダブロックが前記固定軸を中心にして回転し、前記固定軸は、前記シリンダブロックの端面に対向するベースハウジングから突設されており、前記シリンダブロックに形成されたシリンダボアにピストンが往復動可能に収容されており、前記シリンダブロックの回転によって前記ピストンがカム体からカム作用を受けて往復動し、前記ピストンの復動に伴って前記シリンダボアに流体が吸入され、前記ピストンの往動に伴って前記シリンダボア内の流体が吐出されるアキシアルピストンポンプにおいて、
前記固定軸に形成された流体通路と、
前記シリンダボアに連通し、且つ前記シリンダブロックの回転角度に応じて前記流体通路に間欠的に連通するように前記シリンダブロックの嵌合内周面に形成された連通口と、
前記固定軸の嵌合外周面と前記シリンダブロックの嵌合内周面との間に介在された弁体と、
前記固定軸に対する前記弁体の回転を阻止する回転阻止手段とを備え、
前記弁体は、前記シリンダブロックの回転軸線に対して垂直な方向であって少なくとも前記カム体の上死点対応部と前記カム体の下死点対応部との一方から他方に向かう方向への移動を許容されているアキシアルピストンポンプ。
【請求項2】
前記上死点対応部と前記下死点対応部との一方から他方に向かう方向と直交する方向への前記シリンダブロックの移動を規制する移動規制手段が備えられている請求項1に記載のアキシアルピストンポンプ。
【請求項3】
前記移動規制手段は、吸入行程対応領域側における前記シリンダブロックの嵌合内周面と、前記固定軸の嵌合外周面との間、又は吐出行程対応領域側における前記シリンダブロックの外周面と、該外周面に対向する固定面との間に介在されたプレーン軸受けであり、前記プレーン軸受けは、前記シリンダブロックの回転軸線に対して垂直な方向への前記シリンダブロックの移動を許容する請求項2に記載のアキシアルピストンポンプ。
【請求項4】
前記回転阻止手段は、前記弁体と前記固定軸の嵌合外周面との間に設けられたキー嵌合機構又は凹凸嵌合機構であり、前記キー嵌合機構又は凹凸嵌合機構は、前記シリンダブロックの回転軸線に対して垂直な方向への前記弁体の移動を許容する請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のアキシアルピストンポンプ。
【請求項5】
前記弁体は、前記固定軸を包囲する円筒形状の弁体であり、前記弁体は、前記流体通路に連通し、且つ前記シリンダブロックの回転角度に応じて前記連通口に間欠的に連通する窓を有する請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のアキシアルピストンポンプ。
【請求項6】
前記流体通路は、吸入通路であり、前記窓は、前記シリンダブロックの回転角度に応じて吸入行程対応領域の前記連通口に間欠的に連通する請求項5に記載のアキシアルピストンポンプ。
【請求項7】
前記弁体は、前記シリンダブロックの回転角度に応じて吐出行程対応領域の前記連通口を間欠的に閉塞するように、前記吐出行程対応領域側における前記シリンダブロックの嵌合内周面と前記固定軸の嵌合外周面との間に介在された吐出側弁体である請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のアキシアルピストンポンプ。
【請求項8】
前記ベースハウジングに形成された吐出通路と、前記シリンダボアに連通し、且つ前記シリンダブロックの回転角度に応じて間欠的に前記吐出通路に連通するように前記シリンダブロックの前記端面に形成された吐出口を備え、
前記ベースハウジングのベース面と前記シリンダブロックの前記端面との間にはバルブプレートが介在されており、
前記吐出通路は、前記シリンダブロックの前記端面に対向する前記ベースハウジングのベース面に沿って、前記固定軸の周方向に延びる弧状の吐出接続口を備えており、前記吐出接続口は、前記バルブプレートを貫通するように前記バルブプレートに形成されている請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載のアキシアルピストンポンプ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−150990(P2010−150990A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−328832(P2008−328832)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]