説明

アキシアルピストンポンプ

【課題】シリンダブロックの嵌合内周面と固定軸の嵌合外周面との間に沿って流体が洩れるのを抑制する。
【解決手段】シリンダブロック20の嵌合内周面24と固定軸16の嵌合外周面23との間には円筒形状の吐出側弁体34及び第1,2吸入側弁体36,38が設けられている。固定軸16の外周面である嵌合外周面23は、円周面であり、嵌合内周面24は、円周面である。吐出行程対応領域Pd側において嵌合外周面23と嵌合内周面24との間には吐出側弁体34が介在されており、吸入行程対応領域Ps側において嵌合外周面23と嵌合内周面24との間には第1,2吸入側弁体36,38が介在されている。吐出側弁体34と固定軸16との間には背圧室41が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダブロックが回転してピストンが往復動するアキシアルピストンポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示のアキシアルピストンポンプでは、シリンダブロックがピントル弁(固定軸)に回転可能に嵌合している。シリンダブロック内のシリンダボアの側部に連通する連通ポートがシリンダブロックに形成されており、ピントル弁内に吸入通路及び吐出通路が形成されている。シリンダブロックの回転に伴って連通ポートが吸入通路に連通すると、吸入通路内の流体がシリンダボア内に吸入され、連通ポートが吐出通路に連通すると、シリンダボア内の流体が吐出通路へ吐出される。
【0003】
シリンダブロック内のピストンは、斜板(カム体)のカム作用を受けて往復動するが、該カム作用は、ピストンに径方向への荷重も加える。具体的には、カム体の上死点対応部側から下死点対応部側へ向かう径方向の荷重をピストンを介してシリンダブロックの先端側(斜板に近い側)に加える。回転軸から回転駆動力を得るシリンダブロックは、回転軸の内端部にスプライン結合されている。
【0004】
シリンダブロックは、ピントル弁の根元側でピントル弁の外周面とシリンダブロックの内周面との間に介在されたラジアルベアリングを介して支持されている。又、シリンダブロックは、ピントル弁の先端側(斜板に近い側)でハウジング内周面とシリンダブロック外周面との間に介在されたラジアルベアリングを介して支持されている。
【0005】
スプライン結合における半径方向のクリアランスの存在や、ラジアルベアリングにおける半径方向のクリアランスは、シリンダブロックの半径方向への移動を許容する。そのため、前記カム作用は、上死点対応部側から下死点対応部側へシリンダブロックを動かす。
【0006】
シリンダブロックの嵌合内周面とピントル弁の嵌合外周面との間のクリアランスが僅かであるとすると、シリンダブロックの先端側(斜板に近い側)がシリンダブロックの後端側(ピントル弁の根元側)よりも大きく移動し、シリンダブロックが傾く。このようなシリンダブロックの傾きは、シリンダブロックの嵌合内周面とピントル弁の嵌合外周面との平行度を悪化させ、局所的な摩耗やクリアランスが拡大した部分からの流体洩れをもたらす。シリンダブロックが径方向に平行移動するようにすれば、シリンダブロックの傾きを回避することができる。そのためには、シリンダブロックの嵌合内周面とピントル弁の嵌合外周面との間のクリアランスの大きさとして、スプライン結合における半径方向のクリアランス、及びラジアルベアリングにおける半径方向のクリアランスの総和のクリアランス分の移動を許容できるだけの大きさが必要である。
【特許文献1】特開昭62−58065号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
シリンダボアの側部に連通する連通ポートを備えたアキシアルピストンポンプでは、シリンダブロックが吐出行程対応領域側のシリンダボア内の流体圧力によって吸入行程対応領域側から吐出行程対応領域側への荷重を受ける。前記した大きさのクリアランスがあると、シリンダブロックが吸入行程対応領域側から吐出行程対応領域側へ移動し、吐出行程対応領域側におけるシリンダブロックの嵌合内周面とピントル弁の嵌合外周面との間のクリアランスが前記した大きさとなる。クリアランスのこのような大きさは、吐出行程対応領域側におけるシリンダブロックの嵌合内周面とピントル弁(固定軸)の嵌合外周面との間のクリアランスからの流体洩れを大きくする。
【0008】
本発明は、シリンダブロックの嵌合内周面と固定軸の嵌合外周面との間に沿って流体が洩れるのを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、固定軸に回転可能に嵌合されたシリンダブロックが前記固定軸を中心にして回転し、前記固定軸は、前記シリンダブロックの端面に対向するベースハウジングから突設されており、前記シリンダブロックに形成されたシリンダボアにピストンが往復動可能に収容されており、前記シリンダブロックの回転によって前記ピストンがカム体からカム作用を受けて往復動し、前記ピストンの復動に伴って前記シリンダボアに流体が吸入され、前記ピストンの往動に伴って前記シリンダボア内の流体が吐出されるアキシアルピストンポンプを対象とし、請求項1の発明では、前記固定軸に形成された流体通路と、前記シリンダボアに連通し、且つ前記シリンダブロックの回転角度に応じて前記流体通路に間欠的に連通するように前記シリンダブロックの嵌合内周面に形成された連通口と、吐出行程対応領域側において前記固定軸の嵌合外周面と前記シリンダブロックの嵌合内周面との間に介在された吐出側弁体と、前記吐出行程対応領域側において前記固定軸の嵌合外周面側から前記シリンダブロックの嵌合内周面側へ向けて前記吐出側弁体を付勢して前記嵌合内周面に押接させる付勢手段と、前記固定軸に対する前記吐出側弁体の回転を阻止する吐出側回転阻止手段とを備え、前記吐出側弁体は、前記シリンダブロックの回転軸線に対して垂直な方向であって、少なくとも前記カム体の上死点対応部から前記カム体の下死点対応部に向かう方向と直交する方向への移動を許容されている。
【0010】
シリンダブロックは、吐出行程対応領域側のシリンダボア内の流体圧力によって吸入行程対応領域側から吐出行程対応領域側へ移動する。固定軸の嵌合外周面とシリンダブロックの嵌合内周面との間に介在された吐出側弁体は、付勢手段の付勢作用によってシリンダブロックの移動に追随し、吐出行程対応領域側のシリンダボア内の流体が連通口から固定軸の嵌合外周面とシリンダブロックの嵌合内周面との間へ洩れるのが抑制される。
【0011】
好適な例では、前記付勢手段は、吐出圧領域の圧力を導入するように前記固定軸の嵌合外周面と前記吐出側弁体との間に設けられた背圧室である。
吐出圧を導入する背圧室は、付勢手段として簡便である。
【0012】
好適な例では、前記吐出側弁体は、前記シリンダブロックの回転角度に応じて吐出行程対応領域側の前記連通口に間欠的に連通する導入路を備え、前記背圧室は、前記導入路に連通している。
【0013】
吐出側弁体に導入路を設けた構成は、背圧室に吐出圧を導入する上で簡素な構成である。
好適な例では、前記背圧室は、環状のシール部材を前記固定軸の嵌合外周面と前記吐出側弁体との間に設けて、前記シール部材の環内に形成されている。
【0014】
好適な例では、前記吐出側回転阻止手段は、前記吐出側弁体と前記固定軸の外周面との間に介在された吐出側キー嵌合機構又は吐出側凹凸嵌合機構であり、前記吐出側キー嵌合機構又は吐出側凹凸嵌合機構は、前記固定軸に対して前記直交する方向への前記吐出側弁体の移動を許容する。
【0015】
キー嵌合機構及び凹凸嵌合機構は、吐出側弁体の回転を阻止し、且つ前記直交する方向への吐出側弁体の移動を許容する機構として簡便である。
好適な例では、吸入行程対応領域側において前記固定軸の嵌合外周面と前記シリンダブロックの嵌合内周面との間に介在された吸入側弁体を備え、前記流体通路は、吸入通路であり、前記吸入側弁体は、前記吸入通路に連通し、且つ前記シリンダブロックの回転に伴って前記連通口に間欠的に連通する前記窓を備えている。
【0016】
固定軸に吸入通路を設ける構成は、通路断面積を増してキャビテーション発生を防止する上で好適である。
好適な例では、前記固定軸に対する前記吸入側弁体の回転を阻止する吸入側回転阻止手段とを備えている。
【0017】
吸入側弁体は、シリンダブロックの移動に対して追従して移動することで、シリンダブロック20から作用する径方向の荷重を適切に支承する。
好適な例では、前記吸入側回転阻止手段は、前記吸入側弁体と前記固定軸の外周面との間に介在された吸入側キー嵌合機構又は吸入側凹凸嵌合機構である。
【0018】
キー嵌合機構及び凹凸嵌合機構は、吸入側弁体の回転を阻止し、且つ前記直交する方向への吸入側弁体の移動を許容する機構として簡便である。
【発明の効果】
【0019】
本発明のアキシアルピストンポンプは、シリンダブロックの嵌合内周面と固定軸の嵌合外周面との間に沿って流体が洩れるのを抑制することができるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、固定容量型アキシアルピストンポンプに本発明を具体化した第1の実施形態を図1〜図6に基づいて説明する。
図1に示すように、ベースハウジング11にはフロントハウジング12が連結されており、フロントハウジング12には回転軸13がラジアルベアリング14を介して回転可能に支持されている。ベースハウジング11の内端面であるベース面15には固定軸16が回転軸13の回転軸線131の方向に突設されており、固定軸16の先端面161には支持凹部17が凹設されている。回転軸13の内端部132は、支持凹部17内でラジアル軸受け18を介して固定軸16に回転可能に支持されている。
【0021】
フロントハウジング12内には環状のカム体19が固定して設けられており、回転軸13は、カム体19の環内を通されている。カム体19のカム面191は、ベースハウジング11のベース面15に対向する環状の平面であって回転軸13の回転軸線131に対して傾いている。
【0022】
回転軸13には環状のシリンダブロック20が回転軸13よりカム体19側においてスプライン結合を介して回転軸13と一体的に回転可能に支持されている。ベース面15に対向するシリンダブロック20の端面201とベース面15との間にはバルブプレート21が介在されている。バルブプレート21は、ベース面15に面接触した状態で固定されており、シリンダブロック20の端面201は、バルブプレート21の端面211に面接触している。
【0023】
シリンダブロック20には嵌合孔22が端面201側から凹設されており、嵌合孔22には固定軸16が嵌合されている。固定軸16の外周面である嵌合外周面23は、円周面であり、嵌合孔22の内周面である嵌合内周面24は、円周面である。シリンダブロック20が回転すると、嵌合内周面24は、嵌合外周面23の周りを周回する。
【0024】
回転軸13の半径方向において嵌合内周面24より外側のシリンダブロック20には複数のシリンダボア25がカム面191に対向するシリンダブロック20の端面202から回転軸線131の方向に凹設されている。各シリンダボア25にはピストン26が回転軸線131の方向へ往復動可能に嵌入されている。カム面191に対向するピストン26の端部には球面継ぎ手261が一体形成されており、球面継ぎ手261にはシュー27が連結されている。各シュー27は、環状のリテーナ28に係留された状態でカム面191に面接触されている。
【0025】
回転軸13の回転に伴ってシリンダブロック20が回転すると、シュー27がカム面191上を摺接し、ピストン26がシリンダボア25内を往復動する。
ベースハウジング11には吸入通路29が形成されている。流体通路である吸入通路29の入口291は、ベースハウジング11の外端面111上に開口しており、吸入通路29の出口としての吸入接続口292は、固定軸16の嵌合外周面23上に開口している。つまり、吸入通路29は、ベースハウジング11の外端面111から固定軸16内を通って嵌合外周面23に至る。
【0026】
図3に示すように、シリンダブロック20の嵌合内周面24には吸入口30がシリンダボア25と1対1に連通するように形成されている。連通口としての吸入口30は、シリンダブロック20の半径方向においてシリンダボア25よりも内側にあり、吸入接続口292は、シリンダブロック20の半径方向において吸入口30よりも内側にある。吸入口30における通路断面積は、吸入通路29における最小通路断面積以上にしてある。シリンダブロック20の回転に伴い、吸入口30は、周方向に移動して吸入接続口292に間欠的に連通する。
【0027】
図1に示すように、ベースハウジング11及びバルブプレート21には吐出通路31が形成されている。吐出通路31の入口としての吐出接続口311は、バルブプレート21の端面211に開口しており、吐出通路31の出口312は、ベースハウジング11の外端面111上に開口している。つまり、吐出通路31は、バルブプレート21の端面211からバルブプレート21内及びベースハウジング11内を通って外端面111に至る。
【0028】
図4に示すように、シリンダブロック20の端面201には吐出口32がシリンダボア25と1対1に連通するように形成されている。シリンダブロック20の回転に伴い、吐出口32は、周方向に移動して吐出接続口311に間欠的に連通する。
【0029】
図2に示すように、回転軸13及びシリンダブロック20は、矢印Rの方向に回転する。回転軸13の回転軸線131の方向に見て、回転軸線131を含む仮想平面Hによって分けられた一方の空間(カム面191の片側半分を回転軸線131の方向へ投影した領域)は、吸入行程対応領域Psであり、他方(カム面191の他方の片側半分を回転軸線131の方向へ投影した領域)は、吐出行程対応領域Pdである。回転軸13の回転軸線131の方向に見て、吸入行程対応領域Psに対応するピストン26は、吸入行程にあり、吐出行程対応領域Pdに対応するピストン26は、吐出行程にある。カム面191において、下死点に位置したピストン26に対応する部位が下死点対応部Hdであり、上死点に位置したピストン26に対応する部位が上死点対応部Htである。カム面191において規定された下死点対応部Hd及び上死点対応部Htは、仮想平面Hと交差する。
【0030】
図3(a)に示すように、吸入接続口292は、吸入行程対応領域Psにあり、回転軸線131を中心とする周方向に延びる円弧形状の吐出接続口311は、吐出行程対応領域Pdにある。
【0031】
シリンダブロック20の回転に伴ってピストン26が復動〔図1において右側から左側への移動〕する状態(吸入行程)では、該ピストン26の嵌入されているシリンダボア25の吸入口30が吸入接続口292に連通し、吸入通路29内の流体が吸入口30を経由してシリンダボア25に吸入される。シリンダブロック20の回転に伴ってピストン26が往動〔図1において左側から右側への移動〕する状態〔吐出行程〕では、該ピストン26の嵌入されているシリンダボア25の吐出口32が吐出接続口311に連通し、シリンダボア25内の流体が吐出口32を経由して吐出通路31に吐出される。
【0032】
図3(a)に示すように、吐出行程対応領域Pd側において固定軸16の嵌合外周面23には凹部33が凹み形成されており、凹部33には回転軸線131方向から見て断面円弧形状の吐出側弁体34が遊嵌されている。つまり、円弧形状の吐出側弁体34は、吐出行程対応領域Pd側において固定軸16の嵌合外周面23とシリンダブロック20の嵌合内周面24との間に介在されている。吐出側弁体34の円周面形状の外周面341の曲率半径は、シリンダブロック20の嵌合内周面24の曲率半径よりも僅かに小さくしてある。凹部33は、シリンダブロック20の回転中心(つまり、回転軸線131)に対して垂直な方向への吐出側弁体34の移動を許容するが、固定軸16の周りの吐出側弁体34の回転を阻止する吐出側凹凸嵌合機構(吐出側回転阻止手段)を構成する。
【0033】
図3(b)及び図5に示すように、凹部33の底には環状溝39が形成されており、環状溝39にはシールリング40が嵌め込まれている。シールリング40は、リング内、且つ吐出側弁体34の内周面と固定軸16の嵌合外周面23との間に背圧室41を形成する。
【0034】
吐出側弁体34には一対の導入路42,43が貫設されている。シリンダブロック20の回転に伴い、吐出行程対応領域Pd側の吸入口30が導入路42,43に間欠的に連通し、背圧室41が導入路42,43及び吸入口30を介して吐出行程対応領域Pd側のシリンダボア25(吐出圧領域)に間欠的に連通する。これにより、背圧室41内が吐出行程対応領域Pd側のシリンダボア25内の圧力(吐出圧)となる。吐出側弁体34に対する背圧室41の背圧面積は、吐出行程対応領域Pd側における全シリンダボア25の吸入口30の通路断面積よりも大きくしてある。従って、背圧室41内の圧力(吐出圧相当の背圧)は、吐出側弁体34を吐出行程対応領域Pd側のシリンダブロック20の嵌合内周面24に押接する。背圧室41は、吐出行程対応領域Pd側において固定軸16の嵌合外周面23側からシリンダブロック20の嵌合内周面24側へ向けて吐出側弁体34を付勢して嵌合内周面24に押接させる付勢手段である。
【0035】
図2に示すように、吸入行程対応領域Ps側において固定軸16の嵌合外周面23には凹部35が凹み形成されており、凹部35には回転軸線131方向から見て断面円弧形状の第1吸入側弁体36が遊嵌されている。つまり、円弧形状の第1吸入側弁体36は、吸入行程対応領域Ps側において固定軸16の嵌合外周面23とシリンダブロック20の嵌合内周面24との間に介在されている。第1吸入側弁体36の円周面形状の外周面361の曲率半径は、シリンダブロック20の嵌合内周面24の曲率半径よりも僅かに小さくしてある。凹部35は、回転軸線131に対して垂直な方向への第1吸入側弁体36の移動を許容するが、固定軸16の周りの第1吸入側弁体36の回転を阻止する吸入側凹凸嵌合機構(吸入側回転阻止手段)を構成する。
【0036】
図4に示すように、吸入行程対応領域Ps側において固定軸16の嵌合外周面23には凹部37が凹み形成されており、凹部37には回転軸線131方向から見て断面円弧形状の第2吸入側弁体38が遊嵌されている。つまり、円弧形状の第2吸入側弁体38は、吸入行程対応領域Ps側において固定軸16の嵌合外周面23とシリンダブロック20の嵌合内周面24との間に介在されている。
【0037】
第2吸入側弁体38の円周面形状の外周面381の曲率半径は、シリンダブロック20の嵌合内周面24の曲率半径よりも僅かに小さくしてある。凹部37は、回転軸線131に対して垂直な方向への第2吸入側弁体38の移動を許容するが、固定軸16の周りの第2吸入側弁体38の回転を阻止する吸入側凹凸嵌合機構(吸入側回転阻止手段)を構成する。
【0038】
シリンダブロック20が回転すると、嵌合内周面24は、嵌合外周面23、吐出側弁体34、第1吸入側弁体36及び第2吸入側弁体38の周りを周回する。
図6(a)は、シリンダブロック20の嵌合内周面24、吐出側弁体34及び第1,2吸入側弁体36,38の内周面の展開図を表す。図6(b)は、固定軸16の嵌合外周面23の展開図を表す。吐出側弁体34は、吸入口30を閉塞可能な位置に配置されており、第1,2吸入側弁体36,38は、回転軸線131の方向おいて吸入口30を間に挟むように配置されている。シリンダブロック20の回転に伴い、吸入口30は、吐出側弁体34によって間欠的に閉塞される。
【0039】
シリンダブロック20は、回転軸線131に対して垂直な方向への平行移動を許容されている。この平行移動の許容量は、回転軸13とシリンダブロック20との間のスプライン結合における半径方向のクリアランスと、ラジアル軸受け18における半径方向のクリアランスとの和以上に設定されている。つまり、固定軸16の嵌合外周面23とシリンダブロック20の嵌合内周面24との間では、吐出側弁体34、第1吸入側弁体36及び第2吸入側弁体38の最大の移動距離は、回転軸13とシリンダブロック20との間のスプライン結合における半径方向のクリアランスと、ラジアル軸受け18における半径方向のクリアランスとの和以上となるように設定されている。
【0040】
図2〜図4におけるシリンダブロック20の回転角度を0°とする。図2〜図4の状態からシリンダブロック20が半回転すると、シリンダブロック20の回転角度は、180°となり、図2〜図4の状態からシリンダブロック20が1回転すると、シリンダブロック20の回転角度は、360°(0°)となる。
【0041】
シリンダブロック20の回転に伴ってピストン26が復動〔図1において右側から左側への移動〕する状態(吸入行程)では、該ピストン26のシリンダボア25の吸入口30が吸入接続口292に連通し、吸入通路29内の流体が吸入口30を経由してシリンダボア25に吸入される。シリンダブロック20の回転に伴ってピストン26が往動〔図1において左側から右側への移動〕する状態〔吐出行程〕では、該ピストン26のシリンダボア25の吐出口32が吐出接続口311に連通し、シリンダボア25内の流体が吐出口32を経由して吐出通路31に吐出される。
【0042】
つまり、複数の吸入口30は、シリンダブロック20の回転角度に応じて吸入接続口292に間欠的に連通するようにシリンダブロック20の嵌合内周面24に形成されている。又、複数の吐出口32は、シリンダブロック20の回転角度に応じて吐出通路31の吐出接続口311に間欠的に連通するようにシリンダブロック20に形成されている。
【0043】
カム体19のカム面191から受けるカム作用は、カム面191の上死点対応部Htからカム面191の下死点対応部Hdへ向かう方向〔図2に矢印Qで示す方向〕へシリンダブロック20を移動しようとする。固定軸16の凹部33に嵌め込まれた吐出側弁体34が回転軸線131に対して垂直な方向への移動を許容されており、且つ固定軸16の凹部35,37に嵌め込まれた第1,2吸入側弁体36,38が回転軸線131に対して垂直な方向への移動を許容されているため、吐出側弁体34及び第1,2吸入側弁体36,38は、シリンダブロック20の移動に追随可能である。従って、方向Q及びこれと逆方向へのシリンダブロック20の移動は、径方向へ平行移動となり、シリンダブロック20が傾くことはない。
【0044】
シリンダボア25の側部に吸入口30が連通しているため、吐出行程対応領域Pdにおけるシリンダボア25内の吐出圧は、吸入行程対応領域Ps側から吐出行程対応領域Pd側へ向かう方向(方向Qと直交する方向)への荷重をシリンダブロック20に与える。そのため、シリンダブロック20は、方向Qと直交する方向に沿って吸入行程対応領域Ps側から吐出行程対応領域Pd側へ移動する。吐出側弁体34及び第1,2吸入側弁体36,38は、シリンダブロック20の移動に追随可能であるため、方向Qと直交する方向へのシリンダブロック20の移動は、径方向へ平行移動となり、シリンダブロック20が傾くことはない。
【0045】
第1の実施形態では以下の効果が得られる。
(1)シリンダブロック20は、吐出行程対応領域Pd側のシリンダボア25内の流体圧力(吐出圧)によって吸入行程対応領域Ps側から吐出行程対応領域Pd側へ移動する。固定軸16の嵌合外周面23とシリンダブロック20の嵌合内周面24との間に介在された吐出側弁体34は、背圧室41内の背圧によってシリンダブロック20の移動に追随して嵌合内周面24に押接される。従って、吐出行程対応領域Pd側のシリンダボア25内の流体が吸入口30から固定軸16の嵌合外周面23とシリンダブロック20の嵌合内周面24との間に沿って洩れるのが抑制される。又、シリンダブロック20が平行移動するので、シリンダブロック20が傾くこともない。
【0046】
(2)吸入行程対応領域Ps側から吐出行程対応領域Pd側へシリンダブロック20が移動する。又、カム面191の上死点対応部Htからカム面191の下死点対応部Hdへ向かう方向〔図2に矢印Qで示す方向〕へシリンダブロック20は移動する。吸入行程対応領域Ps側において回転軸線131の方向において吸入口30を挟むように設けられた第1,2吸入側弁体36,38は、これらのシリンダブロック20の移動に対して追従して移動可能であり、シリンダブロック20から作用する径方向の荷重を広い受圧面積で支承する。
【0047】
(3)背圧室41内の背圧は、吐出側弁体34の内周面に均等に作用する。従って、背圧室41内の背圧は、吐出側弁体34の外周面341を嵌合内周面24に均等に押接する上で好適な付勢力であり、吐出圧を導入する背圧室41は、吐出側弁体34を付勢する付勢手段として簡便である。
【0048】
(4)シリンダボア25内の吐出圧を吐出側弁体34に導入路42,43を介して背圧室41に導入する構成は、背圧室41に吐出圧を導入する上で簡素な構成である。
(5)背圧室41は、固定軸16の嵌合外周面23と吐出側弁体34の外周面341との間に環状のシールリング40を設けることによって簡単に形成される。シールリング40は、背圧室41の形成部材として簡便である。
【0049】
(6)凹部33,35,37を用いた凹凸嵌合機構は、回転軸線131に対して垂直な方向への吐出側弁体34及び第1,2吸入側弁体36,38の移動を許容し、且つ固定軸16に対する吐出側弁体34及び第1,2吸入側弁体36,38の回転を阻止する機構として簡便である。
【0050】
(7)バルブプレート21の吐出通路31を介して吐出する構成のアキシアルピストンポンプでは、シリンダボア25内の圧力によってシリンダブロック20の端面をバルブプレート21に押し付けて該端面とバルブプレート21との隙間の発生を無くす必要があるため、吐出口32の径は小径とされる。従って、吐出口32からシリンダボア25へ流体を吸入するタイプでは、吸入口を兼ねる吐出口32の小径化は、吸入流体中にキャビテーションを発生させる。キャビテーションの発生は、容積効率の低下や騒音悪化の不具合をもたらす。
【0051】
吸入通路29と吐出通路31とのうちの吸入通路29のみが固定軸16に形成されるため、吸入通路29の通路断面積を大きくすることができ、キャビテーションの発生を回避することができる。又、吸入口30がシリンダブロック20の半径方向においてシリンダボア25よりも内側にあるため、シリンダブロック20の回転に伴う遠心力が吸入通路29から吸入口30を介してシリンダボア25に至る流体吸入を助勢する。これは、吸入効率の低下の回避に寄与する。
【0052】
(8)吸入流体中のキャビテーションは、吸入口がシリンダブロック20の回転中心(つまり、回転軸線131)からの距離が大きいほど、つまりシリンダブロック20の回転に伴う吸入口の周速が大きいほど、発生し易くなる。嵌合内周面24に形成した吸入口30は、従来のシリンダブロック20の端面201に形成した吸入口に比べて、シリンダブロック20の回転中心からの距離が短くなる。嵌合内周面24に吸入口30を形成した構成は、キャビテーションの発生の抑制に寄与する。
【0053】
次に、図7〜図9の第2の実施形態を説明する。第1の実施形態と同じ構成部には同じ符合を用い、その詳細説明は省略する。
図7に示すように、嵌合孔22〔図1参照〕には円筒形状の弁体44が嵌合されており、円筒形状の弁体44の筒内には固定軸16が嵌合されている。弁体44は、嵌合外周面23と嵌合内周面24との間に介在されている。弁体44の円周面形状の外周面441の曲率半径は、シリンダブロック20の嵌合外周面23の曲率半径よりも僅かに小さくしてある。シリンダブロック20は、回転軸13とシリンダブロック20との間のスプライン結合における半径方向のクリアランスと、ラジアル軸受け18における半径方向のクリアランスとの和の分だけ回転軸線131と垂直な方向へ移動可能であるが、弁体44の円周面形状の内周面442の曲率半径と、固定軸16の嵌合外周面23の曲率半径との差は、前記和以上に設定されている。
【0054】
吸入行程対応領域Ps側において円筒形状の弁体44の周面には窓45が吸入通路29の出口293に対向して連通するように形成されている。吸入口30は、シリンダブロック20の回転角度に応じて窓45に間欠的に連通する。
【0055】
吐出行程対応領域Pd側において弁体44の内周面442には凹部49が凹み形成されており、凹部49の底と固定軸16の嵌合外周面23との間には環状のシールリング50が介在されている。シールリング50は、凹部49内、且つ弁体44の内周面と固定軸16の嵌合外周面23との間に背圧室51を形成する。
【0056】
吐出行程対応領域Pd側において弁体44には一対の導入路52,53が貫設されている。シリンダブロック20の回転に伴い、吐出行程対応領域Pd側の吸入口30が導入路52,53に間欠的に連通し、背圧室51が導入路52,53及び吸入口30を介して吐出行程対応領域Pd側のシリンダボア25に間欠的に連通する。これにより、背圧室51内が吐出行程対応領域Pd側のシリンダボア25内の圧力(吐出圧)となり、背圧室51内の圧力(吐出圧相当の背圧)が弁体44の外周面441を吐出行程対応領域Pd側のシリンダブロック20の嵌合内周面24に押接する。
【0057】
図8に示すように、固定軸16の嵌合外周面23には回転軸線131の方向に延びる位置決め溝46が凹み形成されており、弁体44の内周面には回転軸線131の方向に延びる位置決め溝47が位置決め溝46に対向するように凹み形成されている。位置決め溝46は、仮想平面H上において上死点対応部Htに対応するピストン26と対向する位置である。位置決め溝46にはキー48が嵌合して固定されている。又、キー48は、位置決め溝47に遊嵌されている。位置決め溝47に遊嵌されたキー48は、回転軸線131に対して垂直な方向への弁体44の移動を許容するが、固定軸16の周りの弁体44の回転を阻止するキー嵌合機構(吐出側キー嵌合機構及び吸入側キー嵌合機構を兼ねる)を構成する。シリンダブロック20が回転すると、嵌合内周面24は、嵌合外周面23及び弁体44の周りを周回する。
【0058】
図9(a)は、シリンダブロック20の嵌合内周面24及び円筒形状の弁体44の内周面442の展開図を表す。図9(b)は、固定軸16の嵌合外周面23及び円筒形状の弁体44の外周面441の展開図を表す。
【0059】
第2の実施形態では、第1の実施形態における(1)〜(5),(7),(8)項と同様の効果が得られる。
本発明では以下のような実施形態も可能である。
【0060】
○第1の実施形態において、背圧室41に導入する吐出圧力を吐出通路31から固定軸16内を通って嵌合内周面24から導出するようにしてもよい。
○付勢手段の付勢力として、弾性部材の弾性力(バネ部材のバネ力を含む)を用いてもよい。
【0061】
○第1の実施形態において、吐出側回転阻止手段として、キー嵌合機構を用いてもよい。
○第1の実施形態において、吸入側回転阻止手段として、キー嵌合機構を用いてもよい。
【0062】
○固定軸16内に吐出通路を設け、連通口である吸入口30が該吐出通路に間欠的に連通するようにしてもよい。この場合、吸入口30は、吐出口も兼ね、吐出口32は不要となる。
【0063】
○固定軸16とベースハウジング11とを別体に形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】第1の実施形態のアキシアルピストンポンプを示す側断面図。
【図2】図1のA−A線断面図。
【図3】(a)は、図1のB−B線断面図。(b)は、部分拡大断面図。
【図4】図1のC−C線断面図。
【図5】分解斜視図。
【図6】(a)は、シリンダブロック20の嵌合内周面24及び吐出側弁体34及び第1,第2吸入側弁体36,38の内周面の展開図。(b)は、固定軸16の嵌合外周面23の内周面の展開図。
【図7】第2の実施形態を示す断面図。
【図8】分解斜視図。
【図9】(a)は、シリンダブロック20の嵌合内周面24及び弁体44の内周面の展開図。(b)は、固定軸16の嵌合外周面23及び弁体44の内周面の展開図。
【符号の説明】
【0065】
11…ベースハウジング。15…ベース面。16…固定軸。19…カム体。191…カム面。20…シリンダブロック。201…端面。21…バルブプレート。24…嵌合内周面。25…シリンダボア。26…ピストン。29…吸入通路。292…吸入接続口。30…吸入口。31…吐出通路。311…吐出接続口。32…吐出口。34…吐出側弁体。36…第1吸入側弁体。38…第2吸入側弁体。39,50…シール部材としてのシールリング。41…付勢手段としての背圧室。42,43,52,53…導入路。45…窓。Ht…上死点対応部。Hd…下死点対応部。Pd…吐出行程対応領域。Ps…吸入行程対応領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定軸に回転可能に嵌合されたシリンダブロックが前記固定軸を中心にして回転し、前記固定軸は、前記シリンダブロックの端面に対向するベースハウジングから突設されており、前記シリンダブロックに形成されたシリンダボアにピストンが往復動可能に収容されており、前記シリンダブロックの回転によって前記ピストンがカム体からカム作用を受けて往復動し、前記ピストンの復動に伴って前記シリンダボアに流体が吸入され、前記ピストンの往動に伴って前記シリンダボア内の流体が吐出されるアキシアルピストンポンプにおいて、
前記固定軸に形成された流体通路と、
前記シリンダボアに連通し、且つ前記シリンダブロックの回転角度に応じて前記流体通路に間欠的に連通するように前記シリンダブロックの嵌合内周面に形成された連通口と、
吐出行程対応領域側において前記固定軸の嵌合外周面と前記シリンダブロックの嵌合内周面との間に介在された吐出側弁体と、
前記吐出行程対応領域側において前記固定軸の嵌合外周面側から前記シリンダブロックの嵌合内周面側へ向けて前記吐出側弁体を付勢して前記嵌合内周面に押接させる付勢手段と、
前記固定軸に対する前記吐出側弁体の回転を阻止する吐出側回転阻止手段とを備え、
前記吐出側弁体は、前記シリンダブロックの回転軸線に対して垂直な方向であって、少なくとも前記カム体の上死点対応部から前記カム体の下死点対応部に向かう方向と直交する方向への移動を許容されているアキシアルピストンポンプ。
【請求項2】
前記付勢手段は、吐出圧領域の圧力を導入するように前記固定軸の嵌合外周面と前記吐出側弁体との間に設けられた背圧室である請求項1に記載のアキシアルピストンポンプ。
【請求項3】
前記吐出側弁体は、前記シリンダブロックの回転角度に応じて吐出行程対応領域側の前記連通口に間欠的に連通する導入路を備え、前記背圧室は、前記導入路に連通している請求項2に記載のアキシアルピストンポンプ。
【請求項4】
前記背圧室は、環状のシール部材を前記固定軸の嵌合外周面と前記吐出側弁体との間に設けて、前記シール部材の環内に形成されている請求項2及び請求項3のいずれか1項に記載のアキシアルピストンポンプ。
【請求項5】
前記吐出側回転阻止手段は、前記吐出側弁体と前記固定軸の外周面との間に介在された吐出側キー嵌合機構又は吐出側凹凸嵌合機構であり、前記吐出側キー嵌合機構又は吐出側凹凸嵌合機構は、前記固定軸に対して前記直交する方向への前記吐出側弁体の移動を許容する請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のアキシアルピストンポンプ。
【請求項6】
吸入行程対応領域側において前記固定軸の嵌合外周面と前記シリンダブロックの嵌合内周面との間に介在された吸入側弁体を備え、前記流体通路は、吸入通路であり、前記吸入側弁体は、前記吸入通路に連通し、且つ前記シリンダブロックの回転に伴って前記連通口に間欠的に連通する窓を備えている請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のアキシアルピストンポンプ。
【請求項7】
前記固定軸に対する前記吸入側弁体の回転を阻止する吸入側回転阻止手段とを備えている請求項6に記載のアキシアルピストンポンプ。
【請求項8】
前記吸入側回転阻止手段は、前記吸入側弁体と前記固定軸の外周面との間に介在された吸入側キー嵌合機構又は吸入側凹凸嵌合機構である請求項7に記載のアキシアルピストンポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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