説明

アキュムレータ

【課題】設置コストを削減可能なアキュムレータを提供することを課題とする。
【解決手段】アキュムレータ1は、液体室23とシェル連通孔24とを有するアキュムレータ本体2と、シェル連通孔24に連通する第一流路30と、第一流路30に連通する内外連通孔31と、を有する筒部材3と、内外連通孔31に連通する第二流路400を有するリング本体40と、第二流路400に連通する第三流路410を有する連結筒部41と、を有するリング部材4と、を備え、さらに、筒部材3の内径側に配置され、第一流路30を内径流路50aと外径流路50bとに仕切る仕切筒部50と、内外連通孔31よりもポンプ9側に配置され外径流路50bを封止する封止フランジ部51と、内外連通孔31よりもアキュムレータ本体2側に配置され外径通路50bと液体室23とを連通する連通路520を有する連通フランジ部52と、を有するインサート部材5を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車や産業機械の作動油の脈動吸収などに用いられるアキュムレータに関する。
【背景技術】
【0002】
図9(a)〜(c)に、三タイプのアキュムレータの模式図を示す。図9(a)のアキュムレータ100は、液体流路101の直線部に分岐接続されている。このタイプを、以下「Aタイプ」と称す。特許文献1には、当該Aタイプのアキュムレータが紹介されている。
【0003】
図9(b)のアキュムレータ100は、液体流路101のエルボ部に分岐接続されている。上流側からの液体の流れは、方向を変えることなく、アキュムレータ100にそのまま流入する。このタイプを、以下「Bタイプ」と称す。特許文献2には、当該Bタイプのアキュムレータが紹介されている。
【0004】
図9(c)のアキュムレータ100は、液体流路101の一部を構成している。このタイプを、以下「Cタイプ」と称す。特許文献3には、当該Cタイプのアキュムレータが紹介されている。
【0005】
図9(a)〜(c)に示すように、アキュムレータ100は、シェル100aと弾性膜100bと気体室100cと液体室100dとを備えている。シェル100aの内部は、弾性膜100bにより気体室100cと液体室100dとに区画されている。気体室100cは、密閉されている。液体室100dは、液体流路101に連通している。
【0006】
気体は圧縮性を有している。一方、液体は非圧縮性を有している。予め気体室100cに圧縮気体を封入しておくことにより、気体の圧縮エネルギを液体の動作エネルギに変換して出力することができる。すなわち、アキュムレータ100は、エネルギ蓄積機能を有している。エネルギ蓄積機能を発揮させたい場合は、一般的にAタイプのアキュムレータ100が用いられている。
【0007】
一方、液体は、常に一定の圧力でポンプから送り出される訳ではない。例えば、ベーンポンプの羽根の動きやピストンポンプのピストンの動きなど、ポンプの機構により、液体の吐出圧力は周期的に変動する。このため、液体流路101には脈動が発生しやすい。アキュムレータ100を用いると、当該脈動を吸収することができる。すなわち、アキュムレータ100は、脈動吸収機能を有している。脈動吸収機能を発揮させたい場合は、一般的にBタイプあるいはCタイプのアキュムレータ100が用いられている。
【0008】
ところで、脈動の周波数は一定ではない。ポンプの動きに応じて、脈動の周波数は変動する。Bタイプのアキュムレータ100とCタイプのアキュムレータ100とを比較すると、Cタイプのアキュムレータ100の方が、低周波数域から高周波数域まで、より広範囲の周波数の脈動を吸収することができる。
【特許文献1】特開平9−324801号公報
【特許文献2】特開平11−13701号公報
【特許文献3】特開平3−9194号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、Cタイプのアキュムレータ100は、液体流路101の一部を構成している。このため、ポンプ側の液体流路101aとアキュムレータ100とを接続する必要がある。並びに、ポンプ側の液体流路101aから独立して、アキュムレータ100と作動機器側の液体流路101bとを接続する必要がある。このように、Cタイプのアキュムレータ100によると、二種類の液体流路101a、101bをアキュムレータ100に対して別個独立に接続する必要があるため、アキュムレータ100と液体流路101a、101bとを接続する連結部材の構造が、複雑にならざるを得なかった。よって、アキュムレータ100の設置コストが高かった。
【0010】
本発明のアキュムレータは、上記課題に鑑みて完成されたものである。したがって、本発明は、幅広い周波数域で脈動を吸収することが可能で、かつ設置コストを削減可能なアキュムレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)上記課題を解決するため、本発明のアキュムレータは、シェルと、該シェルの内部に配置される弾性膜と、該弾性膜により該シェルの内部に区画される気体室および液体室と、該シェルの外部と該液体室とを連通するシェル連通孔と、を有するアキュムレータ本体と、軸方向一端が該アキュムレータ本体に固定され、該シェル連通孔に連通する第一流路と、側壁に内外方向に貫通し該第一流路に連通する内外連通孔と、を有する筒部材と、該内外連通孔を覆うように該筒部材に環装され該内外連通孔に連通するリング状の第二流路を有するリング本体と、該リング本体から外径方向に突設され該第二流路に連通する第三流路を有する連結筒部と、を有するリング部材と、を備えてなり、ポンプと作動機器との間の液体流路に配置されるアキュムレータであって、さらに、前記筒部材の内径側にインサート部材が配置され、該インサート部材は、前記第一流路の少なくとも一部を内径流路と外径流路とに仕切る仕切筒部と、該仕切筒部から外径方向に延設されると共に前記内外連通孔よりも前記ポンプ側に配置され該外径流路を封止する封止フランジ部と、該仕切筒部から外径方向に延設されると共に該内外連通孔よりも前記アキュムレータ本体側に配置され該外径通路と前記液体室とを連通する連通路を有する連通フランジ部と、を有し、該液体室が前記液体流路の一部を構成することを特徴とする(請求項1に対応)。
【0012】
つまり、本発明のアキュムレータは、前出図9(b)あるいは特許文献2に記載のBタイプのアキュムレータを、Cタイプのアキュムレータとして、転用するものである。Bタイプのアキュムレータは、液体流路のエルボ部に分岐接続される。このため、本来、液体流路の一部を構成していない。したがって、連結部材の構造が単純でよく、設置コストが低い。
【0013】
本発明のアキュムレータは、この点に着目して、Bタイプのアキュムレータの筒部材の内径側に、インサート部材を配置したものである。インサート部材を配置することにより、第一流路の少なくとも一部を、内径流路と外径流路とに仕切ることができる。内径流路は液体室に連通している。外径流路は連通路および内外連通孔に連通している。このため、液体流路の一部が、ポンプ側から作動機器側に向かって、内径流路、液体室、連通路、外径流路、内外連通孔、第二流路、第三流路により、構成されることになる。
【0014】
このように、本発明のアキュムレータによると、設置コストの低いBタイプのアキュムレータを、Cタイプのアキュムレータとして、転用することができる。このため、低周波数域から高周波数域まで、より広範囲の周波数の脈動を吸収することができる。並びに、アキュムレータの設置コストを削減することができる。
【0015】
(2)好ましくは、上記(1)の構成において、前記連通路は、前記連通フランジ部の外縁に、周方向に所定間隔ごとに凹設される複数の連通溝である構成とする方がよい(請求項2に対応)。
【0016】
本構成によると、液体室から外径流路への液体の流れを、複数の連通溝により、分流化することができる。このため、同じ流量を単一の連通溝で確保する場合と比較して、連通溝一つあたりの流速を遅くすることができる。
【0017】
(3)好ましくは、上記(1)または(2)の構成において、前記シェル連通孔は、前記シェルの内外方向に縮径する段差部を有しており、前記連通フランジ部の外縁は、該段差部に係止されている構成とする方がよい(請求項3に対応)。本構成によると、インサート部材を、筒部材の内径側に、比較的簡単に配置することができる。また、インサート部材が筒部材の内径側から脱落しにくい。
【0018】
(4)好ましくは、上記(1)ないし(3)のいずれかの構成において、前記インサート部材は、樹脂製である構成とする方がよい(請求項4に対応)。内径流路と外径流路とでは、あまり圧力差は大きくない。このため、例えばシェルに要求されるような耐圧性は不要である。したがって、インサート部材は、樹脂により作製することができる。
【0019】
本構成によると、樹脂を成形してインサート部材を作製することができるので、例えば連通路などの形状の作り込みが容易になる。また、インサート部材の製造コスト延いてはアキュムレータの製造コストを削減することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、幅広い周波数域で脈動を吸収することが可能で、かつ設置コストを削減可能なアキュムレータを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明のアキュムレータを、自動車のパワーステアリングシステムに用いた実施の形態について説明する。
【0022】
[アキュムレータの構成]
まず、本実施形態のアキュムレータの構成について説明する。図1に、本実施形態のアキュムレータの合体斜視断面図を示す。図2に、同アキュムレータの分解斜視断面図を示す。図3に、同アキュムレータのアキュムレータ本体およびインサート部材の分解斜視断面図を示す。図4に、同アキュムレータ本体のダイヤフラムおよびクランプリングの分解斜視断面図を示す。図5に、本実施形態のアキュムレータのアイボルトおよびアイジョイントの分解斜視断面図を示す。
【0023】
図1、図2に示すように、本実施形態のアキュムレータ1は、アキュムレータ本体2とアイボルト3とアイジョイント4とインサート部材5とを備えている。このうち、アイボルト3は、本発明の筒部材に含まれる。また、アイジョイント4は、本発明のリング部材に含まれる。
【0024】
(アキュムレータ本体2の構成)
まず、アキュムレータ本体2の構成について説明する。アキュムレータ本体2は、図3に示すように、シェル20とダイヤフラム21と気体室22と液体室23とシェル連通孔24とクランプリング25とボルトヘッド26とを備えている。ダイヤフラム21は、本発明の弾性膜に含まれる。
【0025】
シェル20は、シェル頭部200とシェル底部201とを備えている。シェル頭部200は、鋼製であって、下方に開口する有底円筒状(カップ状)を呈している。ボルトヘッド26は、鋼製であってシェル頭部200の上底壁上面の略中央に固定されている。ボルトヘッド26には、後述する気体室22に、窒素ガスを封入するためのプラグ(図略)が配置されている。
【0026】
シェル底部201は、鋼製であって、上方に開口する有底円筒状を呈している。シェル底部201の開口縁とシェル頭部200の開口縁とは、溶接されている。シェル連通孔24は、シェル底部201の底壁略中央に穿設されている。シェル連通孔24は、下方に向かって縮径する段差部24aを有している。
【0027】
ダイヤフラム21は、図4に示すように、ダイヤフラム本体210とポペット211とを備えている。ダイヤフラム本体210は、上方に開口する有底円筒状を呈している。ダイヤフラム本体210は、ゴム層部210aと樹脂層部210bとを備えている。樹脂層部210bは、PA(ポリアミド樹脂)層とEVOH(エチレンビニルアルコール共重合樹脂)層とPA層とEVOH層とPA層とからなる、五層の積層構造を呈している。樹脂層部210bは、高いガスバリア性を有している。樹脂層部210bは、ゴム層部210a内部に埋設されている。樹脂層部210bは、ゴム層部210aに加硫接着されている。ダイヤフラム本体210の底壁下面略中央には、上方に盛り上がる突出部210cが形成されている。突出部210cは、下方に開口する有底円筒状を呈している。ポペット211は、ガラス入りのPA製であって、ダンベル状を呈している。ポペット211は、突出部210cの開口内に、圧入されている。
【0028】
クランプリング25は、鋼製であって、リング状を呈している。クランプリング25は、ダイヤフラム21の開口縁を内径側から覆っている。また、クランプリング25は、図2に示すように、シェル底部201の内周面開口縁付近に、ローラーにより加締め固定されている。
【0029】
ダイヤフラム21がシェル底部201に装着されることにより、シェル20内部は、上方の気体室22と下方の液体室23とに区画される。気体室22には、前述したように、窒素ガスが圧入されている。一方、液体室23には、作動油が収容されている。
【0030】
(アイボルト3の構成)
次に、アイボルト3の構成について説明する。アイボルト3は、図5に示すように、鋼製であって、上下方向に延びる円筒状を呈している。アイボルト3は、第一流路30と内外連通孔31と雄ねじ部32と溶接フランジ部33とを備えている。第一流路30は、アイボルト3の内径側に区画されている。内外連通孔31は、アイボルト3の側周壁を、内外方向に貫通している。内外連通孔31は、周方向に略180°離間して、一対配置されている。雄ねじ部32は、アイボルト3の外周面に形成されている。一方、ポンプ9には、ボルト螺着孔90が穿設されている。ボルト螺着孔90の内周面には、雌ねじ部900が形成されている。雄ねじ部32と雌ねじ部900とが螺合することにより、アイボルト3は、ボルト螺着孔90に固定されている。溶接フランジ部33は、アイボルト3の上端に、拡径形成されている。溶接フランジ部33は、図1に示すように、シェル底部201の底壁下面略中央に溶接されている。このため、第一流路30と液体室23とは、シェル連通孔24(図3参照)を介して、連通している。
【0031】
(アイジョイント4の構成)
次に、アイジョイント4の構成について説明する。アイジョイント4は、図5に示すように、鋼製であって、リング本体40と連結筒部41とを備えている。リング本体40は、短軸の中空円柱状を呈している。リング本体40の上下壁には、ボルト挿通孔401が穿設されている。ボルト挿通孔401には、アイボルト3が挿通されている。すなわち、アイボルト3は、ボルト挿通孔401(つまりリング本体40)を貫通して、ポンプ9のボルト螺着孔90に螺着されている。
【0032】
ボルト挿通孔401にアイボルト3が挿通されることにより、図2に示すように、リング本体40内部とアイボルト3外周面との間に、リング状の第二流路400が区画されている。ここで、アイボルト3の内外連通孔31は、ちょうど第二流路400と径方向に連なっている。このため、第一流路30も、内外連通孔31を介して、第二流路400に連通している。
【0033】
図5に戻って、リング本体40上壁は、上側銅パッキン60を介して、溶接フランジ部33の下面に当接している。一方、リング本体40下壁は、下側銅パッキン61を介して、ボルト螺着孔90の口縁に当接している。これら上側銅パッキン60および下側銅パッキン61により、ボルト挿通孔401内周面とアイボルト3外周面との間の隙間が封止されている。
【0034】
連結筒部41は、小径円筒状を呈している。連結筒部41の内部には、第三流路410が区画されている。連結筒部41は、リング本体40の側周壁から、外径方向に突設されている。第三流路410と第二流路400とは連通している。連結筒部41の突出端は、図示しないホースを介して、パワーステアリング装置に接続されている。パワーステアリング装置は、本発明の作動機器に含まれる。
【0035】
(インサート部材5の構成)
次に、インサート部材5の構成について説明する。インサート部材5は、図2に示すように、樹脂製であって、軸方向(上下方向)両端にフランジ部を有する円筒状を呈している。図6(a)に、本実施形態のアキュムレータ1のインサート部材5の上面図を示す。図6(b)に、同インサート部材5の軸方向断面図を示す。図6(c)に、同インサート部材5の下面図を示す。図7に、図1のインサート部材5付近の拡大図を示す。なお、図7においては、インサート部材5を軸方向断面図で示す。図8に、図7の円VIII内の拡大図を示す。なお、図8においては、説明の便宜上、内径流路に点線縦ハッチングを、外径流路に点線横ハッチングを、連通溝に点線斜めハッチングを、それぞれ施して示す。
【0036】
インサート部材5は、図6に示すように、仕切筒部50と封止フランジ部51と連通フランジ部52とを備えている。インサート部材5は、図7に示すように、アイボルト3の内径側に挿入されている。
【0037】
仕切筒部50は、円筒状を呈している。仕切筒部50により、第一流路30は、内径流路50aと、内径流路50aの外径側にリング状に配置された外径流路50bと、に仕切られている。
【0038】
封止フランジ部51は、仕切筒部50の下端から拡径形成されている。封止フランジ部51の外縁は、アイボルト3下端の内周面に圧接している。このため、外径流路50bの下端は、封止されている。
【0039】
連通フランジ部52は、仕切筒部50の上縁から拡径形成されている。連通フランジ部52は、シェル連通孔24の段差部24a(前出図3参照)に係止されている。詳しく説明すると、連通フランジ部52は、シェル連通孔24の段差部24aの上方空間に収容されている。このため、連通フランジ部52の上面とシェル底部201の底壁上面(内面)とは、略面一に滑らかに連続している。
【0040】
連通フランジ部52の外縁には、連通溝520が凹設されている。連通溝520は、図6に示すように、周方向に所定間隔ごとに離間して、合計十六個配置されている。連通溝520の径方向溝深さは、上方から下方に向かって、途中まで一定で、途中から深くなるように形成されている。このため、図8に示すように、連通溝520と段差部24aとの間には、途中まで上下方向に延在し、途中から内径側に折れ込む流路が形成されている。
【0041】
[組付方法]
次に、本実施形態のアキュムレータ1の組付方法について説明する。まず、シェル底部201のシェル連通孔24周囲に、下方からアイボルト3の溶接フランジ部33を溶接する。次いで、シェル連通孔24に、上方からインサート部材5を挿入する。そして、インサート部材5の連通フランジ部52を、段差部24aに係止する。続いて、ダイヤフラム21をシェル底部201内径側に配置する。それから、ダイヤフラム21の内径側から、ローラーを用いて、クランプリング25を加締め固定する。その後、シェル底部201の上方からシェル頭部200を伏設し、シェル底部201の開口縁とシェル頭部200の開口縁とを、溶接する。
【0042】
それから、アイボルト3を、上側銅パッキン60と、アイジョイント4のリング本体40と、下側銅パッキン61と、に挿通する。そして、工具でボルトヘッド26を把持し、アキュムレータ本体2を回転させることにより、アイボルト3の雄ねじ部32を、ポンプ9のボルト螺着孔90の雌ねじ部900に、螺合させる。当該螺合により、溶接フランジ部33とリング本体40上壁との間で、上側銅パッキン60が締め込まれる。並びに、リング本体40下壁とボルト螺着孔90の口縁との間で、下側銅パッキン61が締め込まれる。このようにして、本実施形態のアキュムレータ1は組み付けられる。
【0043】
[作動油の流れ]
次に、本実施形態のアキュムレータ1における作動油の流れについて説明する。作動油は、前出図7に示すように、ポンプ9からアイボルト3下端の内径側に流入しようとする。しかしながら、アイボルト3下端の内径側には、封止フランジ部51が配置されている。このため、作動油は、外径流路50bに流入することはできず、内径流路50aにのみ選択的に流入する。内径流路50aを上昇した作動油は、前出図8に示すように、液体室23に流入する。この際、作動油の脈動は、前出図1に示すように、ダイヤフラム21の上下動により吸収される。脈動吸収後の作動油は、前出図8に示すように、連通フランジ部52の連通溝520を介して、外径流路50bに流下する。前出図7に示すように、外径流路50bの下端は、封止フランジ部51により封止されている。一方、アイボルト3の側周壁には、一対の内外連通孔31が穿設されている。このため、外径流路50b内の作動油は、内外連通孔31を通過して、リング状の第二流路400に流れ込む。第二流路400は、直線状の第三流路410に連なっている。したがって、作動油は、第二流路400から第三流路410に流入する。そして、作動油は、ホースを介して、パワーステアリング装置に供給される。
【0044】
このように、作動油は、ポンプ9から、内径流路50a→液体室23→連通溝520→外径流路50b→内外連通孔31→第二流路400→第三流路410→ホースを介して、パワーステアリング装置に供給される。
【0045】
[作用効果]
次に、本実施形態のアキュムレータ1の作用効果について説明する。本実施形態のアキュムレータ1によると、本来Bタイプであるアキュムレータ1のアイボルト3の内径側に、インサート部材5が挿入されている。インサート部材5を挿入することにより、第一流路30を、内径流路50aと外径流路50bとに仕切ることができる。このため、ポンプ9からパワーステアリング装置に至る作動油流路の一部が、内径流路50a、液体室23、連通溝520、外径流路50b、内外連通孔31、第二流路400、第三流路410により、構成されることになる。このように、本実施形態のアキュムレータ1によると、設置コストの低いBタイプのアキュムレータ1を、Cタイプのアキュムレータ1として、転用することができる。したがって、低周波数域から高周波数域まで、より広範囲の周波数の脈動を吸収することができる。並びに、アキュムレータの設置コストを削減することができる。
【0046】
また、自動車のパワーステアリングシステムにおいては、脈動に起因する振動がステアリング(ハンドル)に発生することが問題となっている。振動は、エンジン回転数が低いとき(例えば車両を車庫入れする際など)に、とりわけ目立つようになる。このため、エンジン回転数が低いときに、高い脈動吸収機能を発揮するアキュムレータ1が望まれる。
【0047】
この点、本実施形態のアキュムレータ1は、Cタイプであり、広範囲の周波数の脈動を吸収することができる。したがって、本実施形態のアキュムレータ1によると、エンジン回転数が低い場合であっても、ステアリングに振動が発生しにくい。
【0048】
また、本実施形態のアキュムレータ1によると、合計十六個の連通溝520が配置されている。このため、液体室23から外径流路50bへの作動油の流れを、複数の連通溝520により、分流化することができる。したがって、同じ流量を単一の連通溝520で確保する場合と比較して、連通溝520一つあたりの流速を遅くすることができる。
【0049】
また、本実施形態のアキュムレータ1によると、上述したように、連通溝520における作動油の流速が遅い。このため、ダイヤフラム21が吸引されゴム層部210aに不具合が発生するおそれが小さい。
【0050】
また、前出図6(a)に示すように、連通溝520の上端は、連通溝520の下端(図6(a)中、点線で示す。)よりも、径方向溝深さが浅い。この点においても、連通溝520にダイヤフラム21が吸引され、ゴム層部210aに不具合が発生するおそれが小さい。並びに、ポペット211が着座する際の、座面を確保しやすい。
【0051】
また、本実施形態のアキュムレータ1によると、シェル連通孔24が段差部24aを有している。並びに、連通フランジ部52が段差部24aに上方から係止されている。このため、インサート部材5を、アイボルト3の内径側に、比較的簡単に配置することができる。また、インサート部材5がアイボルト3から下方に脱落しにくい。
【0052】
また、本実施形態のアキュムレータ1によると、インサート部材5は、樹脂の射出成形品である。このため、複雑な形状であるにもかかわらず、連通溝520の作り込みが容易になる。また、インサート部材5の製造コスト延いてはアキュムレータ1の製造コストを削減することができる。
【0053】
また、本実施形態のアキュムレータ1によると、前出図7に示すように、連通フランジ部52の上面とシェル底部201の底壁上面(内面)とが、略面一に滑らかに連続している。このため、ポペット211が連通フランジ部52に着座する際、ダイヤフラム21とシェル底部201上面および連通フランジ部52上面との間に、隙間が生じにくい。
【0054】
<その他>
以上、本発明のアキュムレータの実施の形態について説明した。しかしながら、実施の形態は上記形態に特に限定されるものではない。当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することも可能である。
【0055】
例えば、上記実施形態においては、連通溝520を合計十六個配置したが、連通溝520の配置数は特に限定しない。好ましくは、連通溝520の配置数は多い方がよい。こうすると、同一の流量を確保する際に、連通溝520一つあたりの流速を、より遅くすることができる。このため、より連通溝520にダイヤフラム21が吸引されにくくなる。
【0056】
また、連通溝520の径方向溝深さも特に限定しない。好ましくは、連通溝520の溝幅は、径方向溝深さよりも、大きい方がよい。すなわち、連通溝520は、浅い方が好ましい。こうすると、より連通溝520にダイヤフラム21が吸引されにくくなる。
【0057】
また、上記実施形態においては、連通フランジ部52をシェル連通孔24に配置したが、アイボルト3内部に配置してもよい。また、上記実施形態においては、連通フランジ部52および封止フランジ部51を仕切筒部50の軸方向両端に配置したが、軸方向途中に配置してもよい。連通フランジ部52と封止フランジ部51との間に、内外連通孔31が配置されていればよい。
【0058】
また、上記実施形態においては、本発明の弾性膜としてダイヤフラム21を配置したが、例えば蛇腹を配置してもよい。また、上記実施形態においては、インサート部材5を樹脂製としたが、材質は特に限定しない。例えば、金属製であってもよい。
【0059】
また、上記実施形態においては、アイボルト3をポンプ9に固定したが、ポンプ9以外の機器や車体などに固定してもよい。また、上記実施形態においては、本発明のアキュムレータをパワーステアリングシステムに用いたが、産業機械などに用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明のアキュムレータの一実施形態となるアキュムレータの合体斜視断面図である。
【図2】同アキュムレータの分解斜視断面図である。
【図3】同アキュムレータのアキュムレータ本体およびインサート部材の分解斜視断面図である。
【図4】同アキュムレータ本体のダイヤフラムおよびクランプリングの分解斜視断面図である。
【図5】同アキュムレータのアイボルトおよびアイジョイントの分解斜視断面図である。
【図6】(a)は同アキュムレータのインサート部材の上面図である。(b)は同インサート部材の軸方向断面図である。(c)は同インサート部材の下面図である。
【図7】図1のインサート部材付近の拡大図である。
【図8】図7の円VIII内の拡大図である。
【図9】(a)はAタイプのアキュムレータの模式図である。(b)はBタイプのアキュムレータの模式図である。(c)はCタイプのアキュムレータの模式図である。
【符号の説明】
【0061】
1:アキュムレータ。
2:アキュムレータ本体、20:シェル、200:シェル頭部、201:シェル底部、21:ダイヤフラム(弾性膜)、210:ダイヤフラム本体、210a:ゴム層部、210b:樹脂層部、210c:突出部、211:ポペット、22:気体室、23:液体室、24:シェル連通孔、24a:段差部、25:クランプリング、26:ボルトヘッド。
3:アイボルト(筒部材)、30:第一流路、31:内外連通孔、32:雄ねじ部、33:溶接フランジ部。
4:アイジョイント(リング部材)、40:リング本体、400:第二流路、401:ボルト挿通孔、41:連結筒部、410:第三流路。
5:インサート部材、50:仕切筒部、50a:内径流路、50b:外径流路、51:封止フランジ部、52:連通フランジ部、520:連通溝。
60:上側銅パッキン、61:下側銅パッキン。
9:ポンプ、90:ボルト螺着孔、900:雌ねじ部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シェルと、該シェルの内部に配置される弾性膜と、該弾性膜により該シェルの内部に区画される気体室および液体室と、該シェルの外部と該液体室とを連通するシェル連通孔と、を有するアキュムレータ本体と、
軸方向一端が該アキュムレータ本体に固定され、該シェル連通孔に連通する第一流路と、側壁に内外方向に貫通し該第一流路に連通する内外連通孔と、を有する筒部材と、
該内外連通孔を覆うように該筒部材に環装され該内外連通孔に連通するリング状の第二流路を有するリング本体と、該リング本体から外径方向に突設され該第二流路に連通する第三流路を有する連結筒部と、を有するリング部材と、
を備えてなり、ポンプと作動機器との間の液体流路に配置されるアキュムレータであって、
さらに、前記筒部材の内径側にインサート部材が配置され、
該インサート部材は、前記第一流路の少なくとも一部を内径流路と外径流路とに仕切る仕切筒部と、該仕切筒部から外径方向に延設されると共に前記内外連通孔よりも前記ポンプ側に配置され該外径流路を封止する封止フランジ部と、該仕切筒部から外径方向に延設されると共に該内外連通孔よりも前記アキュムレータ本体側に配置され該外径通路と前記液体室とを連通する連通路を有する連通フランジ部と、を有し、
該液体室が前記液体流路の一部を構成することを特徴とするアキュムレータ。
【請求項2】
前記連通路は、前記連通フランジ部の外縁に、周方向に所定間隔ごとに凹設される複数の連通溝である請求項1に記載のアキュムレータ。
【請求項3】
前記シェル連通孔は、前記シェルの内外方向に縮径する段差部を有しており、
前記連通フランジ部の外縁は、該段差部に係止されている請求項1または請求項2に記載のアキュムレータ。
【請求項4】
前記インサート部材は、樹脂製である請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のアキュムレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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