説明

アクチュエータ、位置決め装置

【課題】 移動ストロークが大きく、かつ、簡単な構造で装置の低背化が可能な、X−Y方向の2次元に移動可能なアクチュエータを提供する。
【解決手段】 略直方体の磁石と該磁石の直交する2面の各々に電気機械変換素子の変位方向の一端が固定されてなる駆動体と、該電気機械変換素子の変位方向の他端が固定されている被駆動部材と、該磁石に対して磁力によって吸着可能な固定部材とから構成され、前記電気機械変換素子の伸びと縮みの速度を異ならせて振動させることにより、前記被駆動体と前記駆動体とを固定部材に対して移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機械変換素子の伸びと縮みの速度を異ならせて振動させることで移動部材を移動させるインパクト式アクチュエータおよび当該アクチュエータを用いた位置決め装置に係り、平面上をX−Y方向に移動可能で自走可能な駆動機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、X−Yテーブルなどの平面上の位置決め装置としては、ステッピングモータやボイスコイルモータなどの電磁方式による駆動が一般的に用いられていた。
【0003】
ところが、近年の電子機器の小型化に伴い、アクチュエータとして圧電素子などの電気機械変換素子を駆動方式に用いることで、位置決め装置そのものを小型化しようとする開発が活発に行われている。
【0004】
たとえば、特許文献1および特許文献2に開示されているように、圧電素子を伸びと縮みの速度を異ならせて振動させることで、被駆動部材を移動させるインパクト駆動と呼ばれる方式を用いた構造が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特許第3842093号
【特許文献2】特開2006−81348号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1および2に開示されている方法においては、駆動部材の長さに被駆動部材の可動範囲が限定され、動作ストロークを大きくできないという問題があった。また、駆動部材と被駆動部材を摩擦係合するために板ばねなどの弾性部材が必要なため構造が複雑となり、小型化することが困難であった。また、X−Yの2次元に移動可能とするために、固定部材に対して2つの駆動部材と被駆動部材が必要であり(特許文献2の図9参照)、駆動装置の厚さを薄くすることが困難であった。
【0007】
本発明は、上記の従来技術の問題点を解決するためになされたもので、具体的には、移動ストロークを大きくでき、かつ、簡単な構造で装置の低背化が可能な、X−Y方向の2次元に移動可能なアクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、少なくとも2つの電気機械変換素子の、各々の変位方向の一端が磁石に固定されてなる駆動体と、該電気機械変換素子の変位方向の他端が固定されている被駆動部材と、該磁石に対して磁力によって吸着可能な固定部材とから構成され、前記電気機械変換素子の伸びと縮みの速度を異ならせて振動させることにより、前記被駆動部材と前記駆動体とが前記固定部材に対して移動することを特徴とするアクチュエータが得られる。
【0009】
また、本発明によれば、少なくとも2つの電気機械変換素子の、各々の変位方向の一端が磁石に固定されてなる駆動体と、該電気機械変換素子の変位方向の他端が固定されている固定部材と、該磁石に対して磁力により吸着可能な被駆動部材とから構成され、前記電気機械変換素子の伸びと縮みの速度を異ならせて振動させることにより、前記被駆動部材が前記駆動体と前記固定部材に対して移動することを特徴とするアクチュエータが得られる。
【0010】
また、前記アクチュエータにおいて、前記駆動体が、略直方体の磁石と、該磁石の直交する2面の各々に変位方向の一端が固定された電気機械変換素子と、からなることを特徴とするアクチュエータが得られる。
【0011】
また、上記アクチュエータにおいて、前記駆動体を複数とすることで、より安定な動作が可能なアクチュエータが得られる。
【0012】
この場合、電気機械変換素子の変位方向の他端が固定されている前記被駆動部材または前記固定部材は、平板から、駆動体を配置する部分として対角上の2つの部分を矩形に切り取った形状を有し、切り取った2つの前記部分の各々には、直交する2面に電気機械変換素子の変位方向の一端が各々固定されていてもよい。
【0013】
また、上記アクチュエータにおいて、前記磁石は、断面形状が三角形であり、該磁石の前記三角形を構成する3面に電気機械変換素子の変位方向の一端が固定されていてもよい。
【0014】
さらに、本発明によれば、上記の各アクチュエータにおいて、前記被駆動部材が弾性部材を介して前記固定部材に支持されていることを特徴とするアクチュエータが得られる。
【0015】
さらに、本発明によれば、上記の各アクチュエータのいずれかを有することを特徴とする位置決め装置が得られる。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係るアクチュエータにおいては、少なくとも2つの電気機械変換素子の、各々の変位方向の一端が磁石に固定されてなる駆動体と、該電気機械変換素子の変位方向の他端が固定されている被駆動部材と、該磁石に対して磁力によって吸着可能な固定部材とから構成され、前記電気機械変換素子の伸びと縮みの速度を異ならせて振動させることにより、前記被駆動部材と前記駆動体とが前記固定部材に対して移動させているため、1つの駆動体でX−Y平面上を2次元で移動させることが可能となり、従来方式に対して装置の小型化が実現できる。また、1つの移動体で2次元に移動可能であるため、装置の低背化を実現できる。さらに、磁石と固定部材の間の吸着力を用いてインパクト駆動させているため、板ばねのような摩擦付与部材が不要になるため、構造が簡略化され、小型化および低コスト化の効果が得られる。
【0017】
請求項1のアクチュエータにおいては、磁石に吸着可能な固定部材に対して被駆動部材と駆動体とが移動するが、本発明においては、被駆動部材と駆動体に対して、磁石に吸着可能な部材が移動する構造も可能である。
【0018】
即ち、請求項2のアクチュエータにおいては、少なくとも2つの電気機械変換素子の、各々の変位方向の一端が磁石に固定されてなる駆動部材と、該電気機械変換素子の変位方向の他端が固定されている固定部材と、該磁石に対して磁力により吸着可能な被駆動部材とから構成され、前記電気機械変換素子の伸びと縮みの速度を異ならせて振動させることにより、前記被駆動部材と前記駆動体とが前記固定部材に対して移動させている。そのため、1つの駆動体でX−Y平面上を2次元で移動させることが可能となる。
【0019】
請求項3に係るアクチュエータにおいては、前記磁石の形状を略直方体とし、該磁石の直交する2面の各々に電気機械変換素子の変位方向の一端が固定されてなる駆動体と、該電気機械変換素子の変位方向の他端が固定されている被駆動部材と、該磁石に対して磁力によって吸着可能な固定部材とから構成されているため、さらに構造を簡略化できる。
【0020】
請求項4または請求項5に係るアクチュエータにおいては、駆動体を複数としているため、被駆動部材の動きを安定化できるとともに、推力が大きく、位置制御性に優れたアクチュエータが得られる。また、従来技術によれば駆動部材の軸方向にのみ被駆動部材は移動可能であったが、本発明のアクチュエータにおいては、複数の駆動体を独立に制御することで、X−Y平面上において回転動作可能なアクチュエータが得られる。
【0021】
請求項6に係るアクチュエータによれば、前記磁石の断面形状が三角形であり、該磁石の前記三角形を構成する3面の各々に電気機械変換素子の変位方向の一端が固定されてなることを特徴とするアクチュエータが得られるため、1つの駆動体で3方向に被駆動部材を移動させることができる。
【0022】
請求項7に係るアクチュエータにおいては、被駆動部材が弾性部材を介して固定部材に支持されているため、X−Y平面上の並進性に優れたアクチュエータが得られる。
【0023】
請求項8に係る位置決め装置によれば、上記のいずれかのアクチュエータを有することを特徴とする位置決め装置が得られるため、位置決め装置の構造を簡略化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態について説明する。
【0025】
図1は、上記アクチュエータの駆動体101のみを概念的に示す模式図であり、同図(a)は側面図に関するもの、同図(b)は同図(a)の白矢印で示す右側方向からの端面図に関するものである。
【0026】
この駆動体101は、略直方体の磁石3と、該磁石3の直交する2面の各々に、電気機械変換素子としての積層型圧電セラミックによる圧電セラミック素子1および2の変位方向の一端をエポキシ樹脂等を用いて接着してなるものである。
【0027】
磁石3の極性については、図1(a)を参照すれば、圧電セラミック素子1、2の変位発生方向(図1のA1、A2方向)と垂直方向(図1のA3方向)としている。これは、図2を用いて後述するように固定部材5との吸着力を大きくするためであり、必要な吸着力によっては極性を他の形態に変更してもかまわない。
【0028】
磁石3の材質は特に限定されないが、小型化に際して強い吸着力が発生可能なネオジウム系またはサマリウム系とすることが好ましい。
【0029】
圧電セラミック素子1、2については、所定の変位を発生できれば材質や構造を適宜選択できるものであるが、小型で駆動電圧を小さくできることから積層型圧電セラミックを用いるものとする。
【0030】
以下、幾つかの実施例を挙げ、本発明のアクチュエータについて、図面を参照して具体的に説明する。
【実施例1】
【0031】
図2は、本発明の実施例1に係るアクチュエータ201の基本構成を示したもので、同図(a)は上面方向からの外観平面図に関するもの、同図(b)は側面図(A4方向矢視図)に関するものである。
【0032】
圧電セラミック素子1、2としては、断面寸法が縦0.9mm×横0.9mm、高さ1.2mmの圧電積層型セラミックとし、30Vの印加電圧に対して大略0.5μmの変位を発生するものを用いている。また、変位発生方向は、積層方向(図2のA1、A2方向)である。
【0033】
この圧電セラミック素子1、2の変位発生方向の一方の端面側に対して、断面寸法が縦1.2mm×横1.0mm、高さ1.5mmのネオジウム系磁石を熱硬化性エポキシ樹脂で接着して、駆動体101とした。磁石3の磁化方向は、高さ方向(A3方向)とした。
【0034】
この圧電セラミック素子1、2の変位方向の他端が被駆動部材4にエポキシ樹脂等を用いて接着されており、磁石に吸着可能な材質からなる固定部材5に、磁石3の磁力により吸着されている。
【0035】
また、圧電セラミック素子1、2には、駆動電圧を印加するための図示しない電源が接続されている。
【0036】
固定部材5の材質としては、磁石3に吸着可能なものであれば特に限定はされないが、ここでは、SUS430を用いた。また、固定部材5の形状は磁石3が吸着する面が平面であれば他の面の形状は任意に設定できるが、ここでは、縦20mm×横20mm×高さ1mmの平板とした。この場合の磁石3と固定部材5との吸着力は、約0.49Nであった。
【0037】
本発明のアクチュエータ201においては、駆動体101と被駆動部材4とが固定部材5に対して移動するが、実施例1の場合の移動ストロークは、図2におけるX方向、Y方向に対してそれぞれ約15mmとなる。ただし、移動ストロークは実施例1に限定されるものではなく、固定部材5の縦と横の寸法を大きくすることで、さらに大きくすることも可能である。
【0038】
後述するように、本発明のアクチュエータ201は圧電セラミック素子1、2が発生する振動を駆動源としているため、その振動を磁石に伝える必要があるが、被駆動部材4の重量を磁石3の重量より十分大きくすることで、振動を効率よく磁石3に伝えることができる。そのため、被駆動部材4の材質と寸法としては、磁石3の吸着力や圧電セラミック素子1、2の発生変位量などにより適宜設計して決定すればよい。ここでは、被駆動部材4として、縦5.0mm×横5.0mm×幅2mmのL字形状で厚さ1.0mmとし、材質としてアルミニウムを用いた。この場合、重量が磁石3の約3倍であった。
【0039】
ここで、図2においては、被駆動部材4と固定部材5とが接触しているが、磁石3の磁力で被駆動部材4と圧電セラミック素子1、2との重量を支えることができれば接触させる必要はない。磁石3の着磁方向については限定する必要はないが、吸着力を大きくするために図1および図2に示すA3方向とした。
【0040】
このアクチュエータ201において、圧電セラミック素子1または2の伸びと縮みの速度を異ならせて振動させることにより、被駆動部材4と駆動体101とが、固定部材5に対して、圧電セラミック素子1または2の伸縮方向(図2のA1、A2方向)に移動する。
【0041】
以下は、実施例1に係るアクチュエータ201の駆動機構の働きについて、圧電セラミック素子1を駆動した場合について説明する。圧電セラミック素子2を駆動した場合も移動方向が略90度異なるだけで、動作上の原理は同一である。
【0042】
図3は、上述した実施例1における圧電セラミック素子1の時間に対する駆動電圧、圧電セラミック素子1の変位量、被駆動部材4と駆動体101(図3では被駆動部材4と駆動体101をまとめて「移動体」と称す)との移動量の関係を示したタイミングチャートである。
【0043】
実施例1のアクチュエータ201を用いると、圧電セラミック素子1の共振周波数が500kHz程度以上となるので、圧電セラミック素子1への交流印加電圧(駆動電圧)の周波数を50kHz程度以下とすると、高調波成分の影響を殆ど無視できるため、入力電圧波形と出力変位波形とが相似形となる。
【0044】
図3に示されるように三角波状の入力電圧(駆動電圧)波形について、傾きが異なる時間t1、t2をt1>t2なる関係となるように設定すると、圧電セラミック素子1の変位量は時間t1をかけてゆっくりと伸び、時間t2で急速に縮む。ここで、固定部材5と磁石3との間に発生する最大静止摩擦力以上の加速度が得られるように時間t2を設定すれば、時間t1では磁石3は固定部材5に吸着した状態で、圧電セラミック素子1の伸びにより被駆動部材4だけが移動し、時間t2では固定部材5と磁石3との間で滑りが生じる。そのため、1サイクルの駆動電圧により、時間t1の間の伸び量だけ、被駆動部材4と駆動体101とは固定部材5に対して、圧電セラミック素子1の伸び方向(図2のY軸方向)に移動する。これを連続的に繰り返せば、被駆動部材4と駆動体101とは、固定部材5に対して、一方向に連続的に移動する。
【0045】
そこで、時間t1と時間t2とを用いてデューテイ比をデューテイ比=t1/(t1+t2)なる関係式で定義すると、デューテイ比を変化させることで移動の速度や移動方向を制御することができる。
【0046】
ここでは、図3に示されるように三角波状の入力電圧(駆動電圧)の波形を与えた場合について説明したが、各部品形状に応じて周波数を調整した矩形波状の入力電圧(駆動電圧)を印加するようにしても同様に圧電セラミック素子1および2を駆動することができる。
【0047】
以上で説明した駆動電圧を、圧電セラミック素子1と圧電セラミック素子2に印加することで、各々の圧電セラミック素子の伸縮方向に被駆動部材4と駆動体101とを移動させることができる。すなわち、固定部材5の平面上をX−Y方向の2次元に並進移動可能な自走型のアクチュエータとすることができる。
【0048】
また、アクチュエータ201はX−Yテーブルなどの平面上の位置決め装置として利用可能である。
【0049】
ここで、実施例1の変形例の1つを簡単に説明する。
【0050】
図7は、本発明において、実施例1の変形例としてのアクチュエータ303の基本構成を示したものであり、駆動体を固定部材に固定することで、駆動体に対して磁石に吸着可能な被駆動体が移動する場合である。同図(a)は側面図に関するもの、同図(b)は(a)においてA7−A7断面における上面方向からの平面図に関するものである。
【0051】
最初に、アクチュエータ303の製造方法(および構造)について説明する。
【0052】
まず、実施例1の場合と同じ圧電セラミック素子311、312と磁石313を用いて駆動体105を製造した。
【0053】
次に、実施例1の被駆動部材4と同様の形状の固定部材314を用意し、駆動体105を固定部材314にエポキシ樹脂を用いて接着した。
【0054】
さらに、静止部材315に固定部材314を接着した。
【0055】
次に、材質がSUS430で、形状が20mm×20mm×厚さ0.5mmの平板を被駆動部材316として、磁石313に吸着させた。
【0056】
このようにして図7に示すアクチュエータ303を得た。
【0057】
次に、アクチュエータ303の動作について説明する。
【0058】
実施例1と同じ電圧波形を圧電セラミック素子311、312に印加すると、駆動体105は静止部材315に対して移動せず、被駆動部材316が移動する。すなわち、実施例1においては、固定部材5に対して駆動体101が被駆動部材4とともに自走して移動するのに対し、図7におけるアクチュエータの場合は、被駆動部材316のみが移動する。
【0059】
図7のアクチュエータ303においては、固定部材314を静止部材315に接着したが、固定部材314の重量を被駆動部材316に比べて大きくすることで、静止部材315は不要になる。この場合の固定部材314の重量や寸法は、被駆動部材316の重量を勘案して、適宜、設計すればよい。
【0060】
図7のアクチュエータ303においては、駆動体105と被駆動部材316とは、相対的に実施例1(図2)の駆動体101と固定部材5の関係と等価であるが、自走型のアクチュエータではない。ただし、図7においては、セラミック素子311、312が静止部材315に対して固定されているため、実施例1(図2)のアクチュエータと比較して、電圧を印加するためのリード線などの配置が容易になるというメリットがある。
【0061】
以上は、磁石の形状を略直方体として圧電セラミック素子を2個用いて駆動体を構成した場合を説明したが、磁石の形状や圧電セラミック素子の個数は上記に限定されるものではなく、必要に応じて磁石形状を任意に設定し、圧電セラミック素子の個数を少なくとも2個以上用いることでも、本発明の効果が得られる。たとえば、図6の駆動体104のように磁石断面を三角形として圧電セラミック素子を3個用いた場合においても、本発明の効果が得られる。
【0062】
図6の場合においては圧電セラミック素子20、21、22は、当該三角形を構成する3面にそれぞれ設けられ、圧電セラミック素子20、21、22の変位方向に沿って3方向へ移動可能である。
【0063】
また、図6の場合においては、被駆動部材23の中央には、駆動体104を収納するための、断面形状が三角形の切り抜き部23aが設けられている。
【0064】
なお、図6記載のアクチュエータを、図7のように、駆動体を固定部材に固定することで、駆動体に対して磁石に吸着可能な被駆動体が移動する構造としてもよい。
【実施例2】
【0065】
本発明のアクチュエータ202においては、磁石と2個の圧電セラミック素子からなる駆動体を複数個用いることで、さらに高速に移動させると同時に、X−Y平面上で回転移動も可能となる。図4は、本発明において、実施例2に係るアクチュエータ202の基本構成を示したもので、2個の駆動体102、103を用いた場合である。同図(a)は上面方向からの外観平面図に関するもの、同図(b)は(a)の側面図(A5方向矢視図)に関するものである。
【0066】
実施例1の場合と同じ圧電セラミック素子と磁石を用いて駆動体102、103を製造し、図4に示す配置で被駆動部材12にエポキシ樹脂を用いて接着してアクチュエータ202とした。ここで、被駆動部材12は縦10mm×横10mmの×厚さ1.0mmの矩形の平板から、駆動体102、103を配置する部分として対角上の3mm×3mmの部分を矩形に切り取った形状であり、重量は磁石8、11の約16倍であった。また、固定部材13と接触している部材は磁石8、11のみであり、被駆動部材12と固定部材13は接触していない。被駆動部材12と固定部材13を接触するように構成することでも、本発明の効果は得られるが、移動時の摩擦力の増加による速度低下が生じやすくなる。
【0067】
なお、駆動体102、103の圧電セラミック素子6、7、9、10は、切り取った2つの部分の直交する2面に、変位方向の他端を各々固定した。
【0068】
このアクチュエータ202の圧電セラミック素子9に、実施例1と同様の駆動電圧を印加し、同時に、圧電セラミック素子7に伸びと縮みの速度が圧電セラミック素子9とは反転するように駆動電圧を印加すると、被駆動部材12と駆動体102、103とは、一方向(図4のX方向)へと移動する。
【0069】
以下、固定部材13に対して移動する部材(被駆動部材12と駆動体102、103)を、まとめて移動体と称することにする。
【0070】
圧電セラミック素子の伸びと縮みの速度を反転させるためには、駆動電圧のデューテイ比を変化させればよい。たとえば、圧電セラミック素子9にデューテイ比85%の電圧波形を入力した場合、圧電セラミック素子7にはデューテイ比15%の電圧波形を入力する。また、圧電セラミック素子9にデューテイ比15%の電圧波形を入力し、圧電セラミック素子7にはデューテイ比85%の電圧波形を入力すると、移動体は逆方向に移動する。
【0071】
全く同じ方法で、圧電セラミック素子6、10にそれぞれデューテイ比85%、15%の電圧波形を印加すると、移動体は図4のY軸方向に沿って一方向に移動する。
【0072】
駆動電圧のデューテイ比については上述の値に限定されず、必要となる移動体の移動速度などの設計により決定すればよい。
【0073】
本発明のアクチュエータ202においては、X−Y軸に沿った並進移動のほかに、回転移動も可能である。たとえば、圧電セラミック素子6に移動体がY方向に移動するようにデューテイ比を設定した駆動電圧を印加し、同時に、圧電セラミック素子10に移動体が−Y方向に移動するようにデューテイ比を設定した駆動電圧を印加すると、移動体の重心を中心に時計方向に回転する。また、圧電セラミック素子7と9に上記と同様な関係の駆動電圧を印加することでも、移動体は回転する。
【0074】
実施例1と2におけるアクチュエータ201、202の各駆動体に、駆動電圧を印加した場合の移動体の移動方向と移動速度を測定した。レーザー変位計により移動量を測定し、電圧印加時間から移動速度を求めた。測定結果を表1に示す。ただし、回転移動させた場合は、概略の回転速度を測定し、rpmの単位で結果を示している。
【0075】
【表1】

【0076】
表1の結果から、本発明により、X−Y軸方向に沿った並進移動が可能であり、また、回転移動の可能なアクチュエータが得られることが確認できた。
【0077】
なお、実施例2の構造は、実施例1における図7に示す変形例のように、駆動体を固定部材に固定することで、駆動体に対して磁石に吸着可能な被駆動体が移動する構造に適用することも可能である。
【実施例3】
【0078】
以下、本発明の変形例として、アクチュエータの並進性を高めるために、固定部材あるいは固定部材に支持された静止部材と被駆動部材の間に、弾性部材を設置した場合について説明する。移動体の移動ストロークは限定されるが、実施例1および2において、回転動作は行わずにX−Y方向にだけ高精度で並進移動させたい場合に有効である。
【0079】
図5に示すように、アクチュエータ203は、弾性部材としてのコイルばね14、15、16、17を、静止部材18と被駆動部材12の間に設置した。
【0080】
ここで、静止部材18は、固定部材13に接着されている。また、各コイルばねの両端を、それぞれ静止部材18と被駆動部材12に接着により固定している。
【0081】
コイルばね14、15、16、17と静止部材18を除いた部材は、実施例2と同一である。
【0082】
コイルばね14、15、16、17のばね定数は設計により適宜決定すればよいが、ここでは、1mmの変位に対して約0.1Nのばね力が発生するものを選択した。
【0083】
図5のアクチュエータ203に、実施例2の水準cと同様の駆動電圧を印加することで移動体をY方向に300μm移動させた。このとき、図5の(b)に示す、被駆動部材の端面Bの傾き状態をレーザーオートコリメータにより測定した。移動前の状態を基準とし、Y方向に300μm移動した後の変化量の最大値を角度(分)の単位で求めた。端面Bの傾きが小さいほど、アクチュエータ203は高精度に並進移動できるといえる。
【0084】
表2に、測定結果を示す。また、比較として実施例2の場合の結果も併せて示している。
【0085】
表2から、実施例3のように、被駆動部材をコイルばねのような弾性部材を介して固定部材に支持することで、高精度に並進移動が可能であることが確認できた。
【0086】
【表2】

【0087】
なお、実施例3の構造は、実施例1における図7に示す変形例のように、駆動体を固定部材に固定することで、駆動体に対して磁石に吸着可能な被駆動体が移動する構造に適用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0088】
上記した実施形態では、本発明の各アクチュエータはX−Yテーブルなどの平面上の位置決め装置に適用可能である旨説明したが、本発明は、何等、これに限定されることなく、位置決めを行う必要があるすべての構造に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の駆動体の概略構成の一例を示したもので、(a)は側面図に関するもの、(b)は(a)の白矢印で示す右側方向からの端面図に関するものである。
【図2】本発明の実施例1に係るアクチュエータ201の基本構成を示したもので、(a)は上面方向からの外観平面図に関するもの、(b)は(a)の側面図(A4方向矢視図)に関するものである。
【図3】本発明のアクチュエータ201に係る駆動方法を説明するものであり、圧電セラミック素子に印加する、時間に対する駆動電圧、圧電セラミック素子の変位量、移動体の移動量の関係を示したタイミングチャートである。
【図4】本発明の実施例2に係るアクチュエータ202の基本構成を示したもので、(a)は上面方向からの外観平面図に関するもの、(b)は(a)の側面図(A5方向矢視図)に関するものである。
【図5】本発明の実施例3に係るアクチュエータ203の基本構成を示したもので、(a)は上面方向からの外観平面図に関するもの、(b)は(a)のA6−A6線方向における側面断面図に関するものである。
【図6】本発明の変形例を示したもので、駆動体104と被駆動部材23の上面方向からの外観平面図に関するものである。
【図7】本発明の変形例を示したもので、(a)は側面図に関するもの、(b)は(a)のA7−A7断面における上面方向からの平面図に関するものである。
【符号の説明】
【0090】
1、2、6、7、9、10、20、21、22、311、312 圧電セラミック素子
3、8、11、19、313 磁石
4、12、23、316 被駆動部材
5、13、314 固定部材
14、15、16、17 コイルばね
18、315 静止部材
101、102、103、104、105 駆動体
201、202、203、303 アクチュエータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの電気機械変換素子の、各々の変位方向の一端が磁石に固定されてなる駆動体と、該電気機械変換素子の変位方向の他端が固定されている被駆動部材と、該磁石に対して磁力によって吸着可能な固定部材とから構成され、
前記電気機械変換素子の伸びと縮みの速度を異ならせて振動させることにより、前記被駆動部材と前記駆動体とが前記固定部材に対して移動することを特徴とするアクチュエータ。
【請求項2】
少なくとも2つの電気機械変換素子の、各々の変位方向の一端が磁石に固定されてなる駆動体と、該電気機械変換素子の変位方向の他端が固定されている固定部材と、該磁石に対して磁力により吸着可能な被駆動部材とから構成され、
前記電気機械変換素子の伸びと縮みの速度を異ならせて振動させることにより、前記被駆動部材が前記駆動体と前記固定部材に対して移動することを特徴とするアクチュエータ。
【請求項3】
請求項1または2において、前記駆動体が、
直方体の磁石と、
該磁石の直交する2面の各々に変位方向の一端が固定された電気機械変換素子と、
からなることを特徴とするアクチュエータ。
【請求項4】
請求項1〜3において、前記駆動体が複数からなることを特徴とするアクチュエータ。
【請求項5】
請求項4において、前記電気機械変換素子の変位方向の他端が固定されている前記被駆動部材または前記固定部材は、平板から、駆動体を配置する部分として対角上
の2つの部分を矩形に切り取った形状を有し、
切り取った2つの前記部分の各々には、直交する2面に電気機械変換素子の変位方向の他端が各々固定されていることを特徴とするアクチュエータ。
【請求項6】
請求項1または2において、
前記駆動体の前記磁石は、断面形状が三角形であり、
該磁石の前記三角形を構成する3面に電気機械変換素子の変位方向の一端が固定されていることを特徴とするアクチュエータ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかにおいて、前記被駆動部材が弾性部材を介して前記固定部材に支持されていることを特徴とするアクチュエータ。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のアクチュエータを有することを特徴とする位置決め装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−189228(P2009−189228A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−240996(P2008−240996)
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】