説明

アクチュエータの制御方法及びアクチュエータの制御装置

【課題】最短時間制御にフィードバック制御の要素を取り入れたアクチュエータの制御方法及びアクチュエータの制御装置を提供する。
【解決手段】最短時間制御を用いると共に、予め、計測されたアクチュエータの制御力の最大出力時の最大加速度αpと最大減速度αmを用いて、制御のための計算を行う計算時刻t0からの経過時間表示で、加速出力から減速出力へ切り替える切替時刻t1と、減速出力の終了時刻t2を算出する算出ステップと、計算時刻t0から切替時刻t1までは、アクチュエータの制御力を最大加速出力とし、切替時刻t1から終了時刻t2まではアクチュエータの制御力を最大減速出力とし、終了時刻t2では制御力の出力を終了する制御出力ステップを備えると共に、前記算出ステップを予め設定した時間毎に繰り返して、切替時刻t1と終了時刻t2を算出して更新する更新ステップを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータの制御方法及びアクチュエータの制御装置に関し、より詳細には、最短時間制御において、予め設定した時間毎に出力パターンを修正する制御則を用いることでフィードバックの要素を取り入れることができるアクチュエータの制御方法及びアクチュエータの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の制御ではPID制御のフィードバック制御が一般的に用いられてきている。このPID制御では、現象に対して必ず遅れて制御出力が決定されるため、制御速度を上げようとして、PIDの各制御ゲインを大きくすると制御が現象に対し間に合わなくなり、制御が不安定となる。特に制御対象の機械的減衰力が著しく低下すると制御が不安定になり易く、制御が発散する場合もある。この制御の不安定を避けるためのPID制御の各制御ゲインを決定する方法として、制御の安定性を保証できるH∞等の制御理論を適用している。しかし、PID制御という制約のもとでは、負荷変動によりオーバーシュートや制御遅れが生じる。
【0003】
PID制御においても、スライディングモード制御を使用すると、制御ゲインを制御状態によって切り替えることで、負荷変動の影響を理論的には排除できる。しかし、制御周期が遅くなると、この制御は振動したまま収束しなくなる。そのため、負荷変動の影響を完全に排除するためには、無限に速く制御ゲインを切り替える必要があり、現象に対し無限に速いと言える程度まで、高速なコントロールが必要になる。更に、PID等の各制御ゲインの調整が必要であり、この制御ゲインの調整の善し悪しが制御の善し悪しを決定してしまうため、この制御ゲインの調整が非常に重要な要素となってしまっている。
【0004】
また、これらの制御理論は、PID制御の欠点を補うもので、「最短の時間で目標位置に制御対象を静止させる」ことを制御の目的とするために構築された手法ではない。そのため、この単純な目的に対してはPID制御よりもむしろ、最短時間制御がより目的に合致した制御方法であるといえる。
【0005】
最も単純な最短時間制御は、目標位置までの行程の半分で制御対象を最大推力で加速し、残り半分の行程を最大減速度で減速して目標位置に制御対象を静止させる制御である。この出力パターンは制御開始前に決定されるので、この最短時間制御は、フィードフォワード制御と言える。
【0006】
言い換えれば、最短時間制御とはアクチュエータの最大駆動力で動かし、最大制動力で停止させる制御方法で、理論的には最短時間で制御対象を目標に静止させることが可能な制御である。つまり、最短時間制御は「最短の時間で目標位置に制御対象を静止させる」という制御の目的に完全に合致する制御方法である。
【0007】
例えば、この最短時間制御を用いた制御装置として、サーボモータを制御するための制御手段と、無負荷時の値を基準とした制御量と負荷重量の関係を記憶しておく対応関係記憶手段と、負荷推定計算手段と、負荷推定計算手段で計算されたワーク情報を基に加減速定数を決定する加減速定数決定手段と、決定された加減速定数を使用してサーボ制御手段に払い出す指令を作成する指令作成手段を備えて、ワークを把持した時は、加速時間が長くなり、ワークを把持していない時は、加速時間を短くするロボットの最短時間制御装置が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0008】
しかしながら、最短時間制御は、理論的に最短の時間で制御可能な理想的な制御である一方、出力パターンが初速や最大加速度、最大減速度を考慮して決定されるオープン制御であり、フィードバック要素が無いため、目標と制御量が合致しないときに、修正の方法がなく、正確に目標と制御量を一致させることが困難であるという問題があるため、実際の制御に採用されることは稀であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−94371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の状況を鑑みてなされたものであり、その目的は、最短時間制御にフィードバック制御の要素を取り入れたアクチュエータの制御方法及びアクチュエータの制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記のような目的を達成するための本発明のアクチュエータの制御方法は、最短時間制御を用いると共に、予め、計測されたアクチュエータの制御力の最大出力時の最大加速度αpと最大減速度αmを用いて、制御のための計算を行う計算時刻t0からの経過時間表示で、加速出力から減速出力へ切り替える切替時刻t1と、減速出力の終了時刻t2を算出する算出ステップと、前記計算時刻t0から前記切替時刻t1までは前記アクチュエータの制御力を最大加速出力とし、前記切替時刻t1から前記終了時刻t2までは前記アクチュエータの制御力を最大減速出力とし、前記終了時刻t2で制御力の出力を終了する制御出力ステップを備えると共に、前記算出ステップを予め設定した時間毎に繰り返し、前記切替時刻t1と前記終了時刻t2を算出して更新することを特徴とする方法である。
【0012】
つまり、計算時刻t0の制御対象物の位置から目標位置までの制御の目標軌跡を予め設定した時間毎である一定周期毎又は不定期毎に偏差、速度を考慮して再計算して、切替時刻t1と終了時刻t2を更新する。この切替時刻t1と終了時刻t2は再計算した計算時刻t0からの経過時間となる。
【0013】
なお、この最大加速度αp、又は、最大減速度αmは、制御値の2階の時間微分値若しくは制御値の2階の差分値であり、制御値が運動を伴わない温度のようなものでも適用できる。
【0014】
この方法によれば、最短時間制御であるために、制御速度が高速となり、最大加速度αpと最大減速度αmは計測によって設定でき、これ以外に調整項が無いため、制御ゲインを調整する必要が無い。また、ON/OFF制御であるため、中間的な出力を出す必要がなく、コントローラ、ドライバーを簡略化できる。
【0015】
その上、予め設定した時間毎に、制御の各時刻における目標量と制御量の偏差Xを入れて計算し直して再計算の計算時刻t0からの経過時間表示である切替時刻t1と終了時刻t2を更新するというフィードバックの要素を取り入れているため、外力が変化しても、また、制御の時間間隔を高速にしなくても、常に安定した制御結果を得ることができる。その結果、従来の制御則では相反する大きな課題であった「制御の速度」と「安定性」を両立させることができる。
【0016】
また、上記のアクチュエータの制御方法において、前記算出ステップにおいて、前記計算時刻t0での位置から前記終了時刻t2の目標位置までの軌道を相接する2つの2次曲線の組み合わせで表して、初速をV0、目標位置と制御量の偏差をXとした場合に、前記切替時刻t1と、前記終了時刻t2を、
【数1】

【数2】

の(1)式と(2)式で算出すると、容易に、切替時刻t1と記終了時刻t2を算出できる。なお、α1は計算時刻t0〜切替時刻t1の最大加速度αp又は最大減速度αmであり、α2は切替時刻t1〜終了時刻t2の最大減速度αm又は最大加速度αpである。
【0017】
そして、上記のような目的を達成するための本発明のアクチュエータの制御装置は、最短時間制御を用いると共に、予め、計測されたアクチュエータの制御力の最大出力時の最大加速度αpと最大減速度αmを用いて、制御のための計算を行う計算時刻t0からの経過時間表示で、加速出力から減速出力へ切り替える切替時刻t1と、減速出力の終了時刻t2を算出する算出手段と、前記計算時刻t0から前記切替時刻t1までは前記アクチュエータの制御力を最大加速出力とし、前記切替時刻t1から前記終了時刻t2までは前記アクチュエータの制御力を最大減速出力とし、前記終了時刻t2で制御力の出力を終了する制御出力手段を備えると共に、予め設定した時間毎に前記算出手段により前記切替時刻t1と前記終了時刻t2を繰り返して算出し、更新する更新手段を備えて構成される。
【0018】
また、上記のアクチュエータの制御装置において、前記算出手段が、前記計算時刻t0での位置から前記終了時刻t2の目標位置までの軌道を相接する2つの2次曲線の組み合わせで表して、初速をV0、目標位置と制御量の偏差をXとした場合に、前記切替時刻t1と、前記終了時刻t2を、
【数1】

【数2】

の(1)式と(2)式で算出するように構成する。なお、α1は計算時刻t0〜切替時刻t1の最大加速度αp又は最大減速度αmであり、α2は切替時刻t1〜終了時刻t2の最大減速度αm又は最大加速度αpである。
【0019】
また、上記のアクチュエータの制御装置において、計算時刻t0から切替時刻t1の間の加速度αpと切替時刻t1から終了時刻t2の間の加速度αmを表1によって決定する。
【0020】
【表1】

【0021】
これらの構成のアクチュエータの制御装置によれば、上記のアクチュエータの制御方法を実施でき、同様の効果を奏することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係るアクチュエータの制御方法及びアクチュエータの制御装置によれば、最短時間制御であるために、制御速度が高速となり、最大加速度と最大減速度は計測によって設定でき、これ以外に調整項はないため、制御ゲインを調整する必要が無い。また、ON/OFF制御であるため、中間的な出力を出す必要がなく、コントローラ、ドライバーを簡略化できる。
【0023】
その上、予め設定した時間毎に、制御の各時刻における目標量と制御量の偏差を入れて切替時刻と終了時刻を更新するというフィードバックの要素を取り入れているため、外力が変化しても、また、制御の時間間隔を高速にしなくても、常に安定した制御結果を得ることができる。その結果、従来の制御則では相反する大きな課題であった「制御の速度」と「安定性」を両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態のアクチュエータの制御方法で用いられる最短時間制御を説明するための最短時間制御モデルを示す図である。
【図2】制御軌跡の計算条件を説明するための図である。
【図3】再計算における制御軌跡の変化を説明するための図である。
【図4】f(t)、g(t)の取り得る目標軌跡を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態のアクチュエータの制御方法の制御フローの一例を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態のアクチュエータの制御方法のフィードバック最短時間制御の機械系の減衰力が無い場合の制御結果を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態のアクチュエータの制御方法のフィードバック最短時間制御の機械系の減衰力が有る場合の制御結果を示す図である。
【図8】実施例のシミュレーション結果を示す図である。
【図9】比較例のシミュレーション結果を示す図である。
【図10】従来技術の最短時間制御の機械系の減衰力が無い場合の制御結果を示す図である。
【図11】従来技術の最短時間制御の機械系の減衰力が有る場合の制御結果を示す図である。
【図12】PID制御を説明するためのPID制御モデルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る実施の形態のアクチュエータの制御方法及びアクチュエータの制御装置について、図面を参照しながら説明する。なお、ここでは、本発明の最短時間制御を明確にするために、PID制御との比較を行いながら説明する。
【0026】
本発明に係る実施の形態のアクチュエータの制御装置は、最短時間制御を用いると共に、算出手段と、制御力出力手段と、更新手段を備えて構成される。
【0027】
この算出手段は、予め計測されたアクチュエータの制御力の最大出力時の最大加速度αpと最大減速度αmを用いて、制御のための計算を行う計算時刻t0からの経過時間表示で、加速出力から減速出力へ切り替える切替時刻t1と、減速出力の終了時刻t2を算出する。
【0028】
また、制御出力手段は、計算時刻t0から切替時刻t1までは、アクチュエータの制御力を最大加速出力とし、切替時刻t1から終了時刻t2まではアクチュエータの制御力を最大減速出力とし、終了時刻t2で制御力の出力を終了する。
【0029】
更に、更新手段は、一定周期又は不定期な予め設定した時間毎に算出手段で切替時刻t1と終了時刻t2を繰り返し算出し、更新するように構成される。この算出手段は、再計算される計算時刻t0の位置から目標位置までの軌道を相接する2つの2次曲線の組み合わせで表すことにして、初速をV0、目標量と制御量の偏差をXとした場合に、切替時刻t1と、終了時刻t2を、
【数1】

【数2】

の(1)式と(2)式で算出する。ここで、α1は計算時刻t0〜切替時刻t1の最大加速度αp又は最大減速度αmであり、α2は切替時刻t1〜終了時刻t2の最大減速度αm又は最大加速度αpである。
【0030】
また、本発明の実施の形態のアクチュエータの制御方法で用いる最短時間制御は、図1に示す錘mが斜面を下って上がるような機械モデルと等価となる。図1のように、斜面に対し錘を持ち上げてから放すと、重力のために一定の加速度で錘は斜面を下り、続いて反対側の斜面を一定の減速度で上がる。摩擦等のエネルギー損失がなければ、錘mは始めと同じ高さまで登った所で速度ゼロとなり、一瞬停止する。この時に重力が無くなれば錘mはその位置に静止し続ける。
【0031】
これをアクチュエータで制御対象を移動させる制御システムに置き換えると、アクチュエータの最大推力で錘を押し、続いてアクチュエータの最大推力で錘を引き戻すと、推す時に入力した仕事量と、引き戻す時に入力した仕事量が釣り合った時に制御対象が静止する。この様にして制御対象が静止した位置が目標位置となっていれば制御終了となる。
【0032】
つまり、最短時間制御ではアクチュエータの最大推力で制御対象を加減速させ、目標位置に制御するため、理論的に最短の時間で制御できる。また、この時の制御出力パターンは、制御開始前に決定されるため、最短時間制御はフィードフォワード制御である。
【0033】
これに対し、従来技術のPID制御は、図12に示すような基本的な質量m、ばね、ダンパ系の減衰振動モデルを基本としたものとなり、ばねがP項、ダッシュポッドがD項の役割を果たす。なお、ゼロ点の補正項がI項となるが、ここではI項には物理的な意味はあまりない。
【0034】
この制御をエネルギー変換で考えると、図12の中段に示すように、目標位置を入力することで、目標変位としてばねを撓ませて、ばねの歪エネルギーを制御系に入力すると、ばね力に引かれて錘(質量m)が動き始める。この時、歪エネルギーから運動エネルギーへの変換が行われる。錘mが運動を始めるとダッシュポッドにより運動エネルギーが熱エネルギーに変換され、系の外へエネルギーが放出される。初めに入力されたばねの歪エネルギーが全て熱エネルギーに変換されると、図12の下段に示すように、制御対象である錘mは目標位置で静止することになる。なお、PID制御では制御対象の運動状態から制御出力が決定されるため、フィードバック制御である。
【0035】
このように最短時間制御とPID制御は根本的に異なる制御であると言えるが、一方で、PID制御のPゲイン、Dゲインを非常に大きくし、アクチュエータの最大出力で出力の上限をカットすると、PID制御の制御出力波形は最短時間制御の制御出力波形に近づいていくため、最短時間制御はPID制御のPDゲインを極限まで大きくした制御であると見ることもできる。しかし、PID制御では、通常は計算や制御の遅れにより、PDゲインをあまり大きくすると制御が発散してしまうことになる。これはPID制御がフィードバック制御であり常に現象に遅れて制御出力が決定されるため、この遅れが大きくなりすぎると制御が発散するからである。
【0036】
これに対し、最短時間制御はフィードフォワード制御であり、動かし始めてから止めるまでを考慮した制御出力が常に現象よりも先に決定されるため、制御が安定であり、最短時間制御で、PDゲインを極限まで大きくしたPID制御と同等の制御出力を出しても制御は発散しない。
【0037】
この最短時間制御の最も単純な例を図10及び図11に示す。図10は、機械系の減衰力が無い場合を、図11は機械系の減衰力がある場合を示す。図10及び図11では、計算時刻t0から最大推力で目標に向かってアクチュエータを作動させ、切替時刻t1で今度は最大減速度でアクチュエータを作動させ、続いて終了時刻t2でアクチュエータ推力をゼロにしている。このように最短時間制御では切替時刻t1と終了時刻t2を決定すれば制御が可能である。切替時刻t1と終了時刻t2は以下の計算条件を元に決定することができる。
【0038】
この計算条件では、制御対象が相接する2つの2次曲線上を通って目標に到達すると仮定する。そして、アクチュエータが発生可能な最大加速度αpと、アクチュエータが発生可能な最大減速度αmと、計算時刻t0での目標量Txと制御量xの偏差X(=目標量−制御量:目標位置と制御時の位置の差)と、計算時刻t0での制御対象の速度V0を既知の値とし、切替時刻t1で2つの2次曲線が接することと、終了時刻t2で制御対象の速度をゼロとすること(V=0)、終了時刻t2で偏差Xをゼロとすること(X=0)を拘束条件として、切替時刻t1と終了時刻t2を求める。
【0039】
制御軌跡は、図2に示すように、2つの2次曲線f(t)、g(t)で構成されるものと仮定し、以下の条件を元に、制御出力を切り替える切替時刻t1と制御出力を終了する終了時刻t2を求める。また加速度α1、α2を表1より決定する。また、V0は制御中に得られた制御量の1階の微分値(または差分値)である。
【0040】
計算条件は、次の(1)から(7)である。
(1)アクチュエータの最大出力時に発生可能な最大加速度αp、最大減速度αmは既知、すなわち、予め測定した加速度より得られる。
(2)計算時刻t0における速度V0は既知、すなわち、測定値の1階の微分(または差分)により得られる。
(3)計算時刻t0で第1の2次曲線f(t0)の値がゼロである。
(4)計算時刻t0で第1の2次曲線f(t0)の1階の微分値が時刻t0での速度(初速)である。
(5)切替時刻t1で第2の2次曲線g(t)が、1つ目の2次曲線f(t)に接する。(6)終了時刻t2で第2の2次曲線g(t2)の値が目標値である。
(7)終了時刻t2で第2の2次曲線g(t)の1階の微分値がゼロである。
【0041】
以上の条件から、下記の(3)式〜(13)式が得られる。これらを連立させて、出力の切替時刻t1と終了時刻t2を求め、加速度α1、α2を求める。ここでα1は計算時刻t0から切替時刻t1の加速度であり、α2は切替時刻t1から終了時刻t2の加速度で、α1=αpのとき、α2=αm、α1=αmのときα2=αpである。
【数3】

(3)式と(5)式より、
【数4】

(3)式と(6)式と(13)式より、
【数5】

(3)式と(7)式より、
【数6】

(4)式と(12)式より、
【数7】

(4)式と(11)式と(16)式より、
【数8】

(4)式と(10)式と(16)式と(17)式より、
【数9】

(18)式を変形して、
【数10】

(3)式と(5)式と(9)式と(15)式と(16)式と(17)式と(19)式より、
【数11】

(3)式と(5)式と(8)式と(15)式と(16)式と(17)式と(19)式と(20)式より、
【数13】

(21)式を変形して、
【数13】

(22)に2次方程式の解の公式を適用して、
【数14】

(23)式を(20)式に代入してt2を得る。
【0042】
ここで、f(t)、g(t)の取り得る軌跡は図4に示すA1〜A6の6通りとなる。この6通りを場合分けする。
【0043】
A1は、X>0,V0>0のとき、アクチュエータ発生最大減速度αmで減速しても目標をオーバーする状態である。最大減速度αmで減速した時に速度がゼロになるまでの時間をt3とすると、t3=V0/αmとなり、時刻t3においてオーバーシュートする条件は、V0×t3/2=V02/2αm>Xである。
【0044】
A2は、X>0,V0>0のとき、アクチュエータ発生最大減速度αmで減速すれば、目標をオーバーしない状態である。A1と同様に計算すると、時刻t3においてオーバーシュートしない条件は、V02/2αm<Xである。
【0045】
A3は、X>0,V0<0の条件であり、A4は、X<0,V0>0の条件である。 また、A5は、X<0,V0<0のとき、アクチュエータ発生最大減速度αpで減速すれば目標をオーバーしない状態である。A1と同様に計算すると、時刻t3においてオーバーシュートしない条件は、V02/2αp>Xである。
【0046】
A6は、X<0,V0<0のとき、アクチュエータ発生最大減速度αpで減速しても目標をオーバーする状態である。A1と同様に計算すると、時刻t3においてオーバーシュートする条件は、V02/2αp<Xである。
【0047】
A1、A2、A3が上凸から下凸への変化であり、α1=αm<0、α2=αp>0であり、A4、A5、A6が下凸から上凸への変化であり、α1=αp>0、α2=αm<0である。これにより、α1とα2を決定する。
【0048】
この場合分けを表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
この様にして求めたα1、α2に仮想質量mを乗じ、アクチュエータ推力を求める。つまり、計算時刻t0〜切替時刻t1の間はアクチュエータ推力1(=α1×仮想質量)で、切替時刻t1〜終了時刻t2の間はアクチュエータ推力2(=α2×仮想質量)となる。
【0051】
この本発明の実施の形態のアクチュエータの制御方法で用いる最短時間制御は、図5に示すような制御フローによって行うことができる。この制御フローがスタートすると、ステップS11で、最大加速度αpと最大減速度αmのデータを読み込む。次のステップS12で、目標量(目標値)Txと制御量(制御値)xのデータを読み込む。それとともに、経過時間tと再計算用経過時間tcのカウントを始める。
【0052】
ステップS13で,軌道再計算の周期になっているか否か、即ち、軌道計算してからの再計算用経過時間tcが軌道再計算の周期tcr以上になったか否かを判定する。ステップS13で,軌道再計算の周期tcrになった場合には(YES)、ステップS14で、軌道計算し直してから、ステップS15に行き、ステップS13で,起動再計算の周期になっていない場合には(NO)、ステップS14の軌道計算を迂回してステップS15に行く。なお、軌道再計算の周期tcrは、制御周期の1/10程度の周期とするのが好ましいが、軌道再計算の周期tcrを制御周期と同じにしても問題は生じない。
【0053】
ステップS14の軌道計算では、初速V0を「V0=(x−x-1)/tcr」(x-1は、計算周期前の制御量)で、運動エネルギーEを「E=V02/2」で算出し、表1からα1とα2を決定し、(23)式と(20)式より、切替時刻t1と終了時刻t2を計算する。また、再計算用経過時間tcをリセットしてゼロにする(Tc=0)。
【0054】
ステップS15では、経過時間tが切替時刻t1より小さいか否かを判定し、小さい場合には(YES)、ステップS16に行き、出力加速度をα1にしてから、ステップS20に行く。ステップS15で、経過時間tが切替時刻t1より小さくない場合には(NO)、ステップS17に行き、経過時間tが終了時刻t2より小さいか否かを判定し、小さい場合には(YES)、ステップS18に行き、出力加速度をα2にしてから、ステップS20に行く。また、ステップS17で、経過時間tが終了時刻t2より小さくない場合には(NO)、ステップS19に行き、出力加速度を「ゼロ」にしてから、ステップS20に行く。
【0055】
ステップS20では、出力加速度に相当するアクチュエータ推力を予め設定された時間(各種の判定のインターバルに関係する時間)の間発生し、制御対象を制御する。また、経過時間tと再計算用経過時間tcをカウントする。その後、ステップS12に戻り、ステップS12〜ステップS20を繰り返す。これにより、再計算用経過時間tcが軌道再計算の周期tcr毎にステップS14の軌道計算を計算し直しながら、アクチュエータの推力を制御することができる。
【0056】
なお、経過時間tが予め設定してある時間を超えたり、制御を終了するスイッチ信号が入力されたりする等の、この図5の制御を終了すべき事情が発生すると、この制御フローのどのステップを実施していても、割り込みが発生し、リターンに行き、上位の制御フローに戻り、上位の制御フローの終了と共に、図5の制御フローも終了する。
【0057】
上記の様にして求めた切替時刻t1と終了時刻t2でアクチュエータの動作を切り替えることで、図10に示すような理想的な制御結果が得られる。しかし、この結果は、摩擦や減衰、誤差などが無い理想的な状況下での結果である。制御対象に機械的な減衰力が存在すると制御結果は図11に示すように目標と一致しなくなってしまう。
【0058】
この問題を解決するために、本発明のアクチュエータの制御方法では、一定周期又は不定期な予め設定した時間毎に目標軌跡を修正する。この一定周期等の修正用のリセットの期間は、許容誤差内の変動周期Tに対して、リセット信号周期はT/2以下とする必要がある。この再計算による制御軌跡の変化の様子を図3に示す。この図3では、最初の計算の制御軌道(点線)ではX1になる予定が実際にはX2であった場合に、再計算により、新たな制御軌道(実線)が計算されて、切替時刻t1と終了時刻t2も新たな値となり、この新たな切替時刻t1と終了時刻t2に基づいて制御力が制御されることになる。
【0059】
図6及び図7に一定周期毎に切替時刻t1と終了時刻t2を計算し直したときの制御結果を示す。信号パルスの立ち上がりのタイミングで再計算を実施している。この最短時間制御方法を、従来技術の最短時間制御方法と区別するために、ここでは、フィードバック(FB)最短時間制御方法ということにする。図6に機械系の減衰力が無い場合を、図7に機械系の減衰力がある場合を示すが、結果として図7に示すような制御対象に機械的な減衰力がある場合でもほぼ理想的な軌跡で制御対象を目標位置に合致させることができることが分かる。
【0060】
図8にフィードバック最短時間制御の実施例のシミュレーション結果を示し、図9にPID制御の比較例のシミュレーション結果を示す。この結果を比較すると、図9に示すPID制御の比較例では制御系の負荷変動に対し、制御結果が大きく変化してしまうのに対し、図8に示すフィードバック最短時間制御の実施例では、制御結果に乱れがなく常に安定した制御結果が得られている。つまり、図9の比較例では、制御系の負荷変動に対し、制御結果が大きく変化してしまうのに対し、図8の実施例では制御結果に乱れが無く、常に安定した制御結果が得られている。
【0061】
従って、上記のアクチュエータの制御方法及びアクチュエータの制御装置によれば、最短時間制御であるために、制御速度が高速となり、最大加速度と最大減速度は計測によって設定でき、これ以外に調整項はないため、制御ゲインを調整する必要が無い。また、ON/OFF制御であるため、中間的な出力を出す必要がなく、コントローラ、ドライバーを簡略化できる。
【0062】
その上、予め設定した時間毎に、制御の各時刻における目標量と制御量の偏差Xを入れて切替時刻t1と終了時刻t2を更新するというフィードバックの要素を取り入れているため、外力が変化しても、また、制御周期を高速にしなくても、常に安定した制御結果を得ることができる。その結果、従来の制御則では相反する大きな課題であった「制御の速度」と「安定性」を両立させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のアクチュエータの制御方法及びアクチュエータの制御装置によれば、制御速度が高速となり、しかも、制御ゲインを調整する必要が無く、ON/OFF制御であるため、中間的な出力を出す必要がなく、コントローラ、ドライバーを簡略化でき、その上、予め設定した時間毎に、制御の各時刻における目標量と制御量の偏差Xを入れて切替時刻t1と終了時刻t2を更新するというフィードバックの要素を取り入れているため、外力が変化しても、また、制御周期を高速にしなくても、常に安定した制御結果を得ることができるので、自動車等に搭載した機器など、例えば、電動、油圧、空圧を用いた位置制御や、その他PID制御が適用されている制御対象などの数多くのアクチュエータの制御方法及びアクチュエータの制御装置として利用できる。
【0064】
また、2自由度の場合には、X方向、Y方向のそれぞれに対して独立して本発明の制御を適用することで2自由度の制御が可能になるので、1自由度の制御のみならず、多自由度の制御に適用できる。
【符号の説明】
【0065】
t0 計算時刻
t1 切替時刻
t2 終了時刻
V0 初速
X 目標量と制御量の偏差
αp最大加速度
αm最大減速度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
最短時間制御を用いると共に、
予め、計測されたアクチュエータの制御力の最大出力時の最大加速度αpと最大減速度αmを用いて、制御のための計算を行う計算時刻t0からの経過時間表示で、加速出力から減速出力へ切り替える切替時刻t1と、減速出力の終了時刻t2を算出する算出ステップと、
前記計算時刻t0から前記切替時刻t1までは前記アクチュエータの制御力を最大加速出力とし、前記切替時刻t1から前記終了時刻t2までは前記アクチュエータの制御力を最大減速出力とし、前記終了時刻t2で制御力の出力を終了する制御出力ステップを備えると共に、
前記算出ステップを予め設定した時間毎に繰り返し、前記切替時刻t1と前記終了時刻t2を算出して更新することを特徴とするアクチュエータの制御方法。
【請求項2】
前記算出ステップにおいて、前記計算時刻t0での位置から前記終了時刻t2の目標位置までの軌道を相接する2つの2次曲線の組み合わせで表して、初速をV0、目標位置と制御量の偏差をXとした場合に、前記切替時刻t1と、前記終了時刻t2を、
【数1】

【数2】

ここで、α1は計算時刻t0〜切替時刻t1の最大加速度αp又は最大減速度αmであり、α2は切替時刻t1〜終了時刻t2の最大減速度αm又は最大加速度αpであり、この(1)式と(2)式で算出することを特徴とする請求項1記載のアクチュエータの制御方法。
【請求項3】
最短時間制御を用いると共に、
予め、計測されたアクチュエータの制御力の最大出力時の最大加速度αpと最大減速度αmを用いて、制御のための計算を行う計算時刻t0からの経過時間表示で、加速出力から減速出力へ切り替える切替時刻t1と、減速出力の終了時刻t2を算出する算出手段と、
前記計算時刻t0から前記切替時刻t1までは前記アクチュエータの制御力を最大加速出力とし、前記切替時刻t1から前記終了時刻t2までは前記アクチュエータの制御力を最大減速出力とし、前記終了時刻t2で制御力の出力を終了する制御出力手段を備えると共に、
予め設定した時間毎に前記算出手段により前記切替時刻t1と前記終了時刻t2を繰り返して算出し、更新する更新手段を備えたことを特徴とするアクチュエータの制御装置。
【請求項4】
前記算出手段が、前記計算時刻t0での位置から前記終了時刻t2の目標位置までの軌道を相接する2つの2次曲線の組み合わせで表して、初速をV0、目標位置と制御量の偏差をXとした場合に、前記切替時刻t1と、前記終了時刻t2を、
【数1】

【数2】

ここで、α1は計算時刻t0〜切替時刻t1の最大加速度αp又は最大減速度αmであり、α2は切替時刻t1〜終了時刻t2の最大減速度αm又は最大加速度αpであり、この(1)式と(2)式で算出することを特徴とする請求項1記載のアクチュエータの制御装置。
【請求項5】
計算時刻t0から切替時刻t1の間の加速度αpと切替時刻t1から終了時刻t2の間の加速度αmを表1によって決定する
【表1】

ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のアクチュエータの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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