説明

アクチュエータ及びアクチュエータを備えるマニピュレータ及びアクチュエータを用いた細胞の操作方法

【課題】操作対象となる細胞の周囲の培養細胞を損傷せず、前記細胞のみをシャーレから除去、または回収することが可能なアクチュエータを提供する。
【解決手段】対向配置した2つの転がり軸受と、2つの転がり軸受の各内輪の内周面と嵌合する回転軸と、2つの転がり軸受の各内輪の間に設けられた内輪間座と、回転軸と連結されるボールねじナットと、ボールねじナットと螺合するねじ軸と、2つの転がり軸受のうち一方の外輪に隣接配置される圧電素子と、2つの転がり軸受と圧電素子に予圧を付与するスペーサと、ねじ軸の軸方向に接続されたガラス針とを有するアクチュエータであって、ガラス針の先端部と操作対象となる細胞とを接触させ、圧電素子を超音波振動よりも低い周波数で微細伸縮させることによりガラス針を微小振動させ、細胞の貼りつきを解除し、細胞を入れたシャーレの底面から細胞を剥離または除去することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マニピュレータに係り、特に、駆動対象を動作させて、試料に所定の操作を施すためのマニピュレータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
バイオテクノロジーの分野において、顕微鏡の観察下で細胞に針を挿入し、細胞の核などを操作するマイクロマニピュレータとして、レーザーや電極の周囲に発生させる乱流波によって、細胞を操作するものが知られている。また、超音波振動子を用いたものも提案されており、これは、超音波振動子を用いてマニピュレータの操作針を微細振動させることよって、卵細胞の透明体に穿孔したり、ある領域内にある細胞の分離、掻き出したりするものである。
【0003】
特許文献1では、マニピュレータの針先端で細胞に穿孔するために、また特許文献2には、ある領域にある細胞の分離、掻き出しを行うために、同様に超音波振動子で針状体を微動させる手法が開示されている。しかしながら、超音波振動を発生させることは難しく、超音波振動は操作対象の細胞の周辺細胞にまで影響を与える可能性がある。このため、例えば培養細胞中の異常細胞などの特定の細胞のみを除去する場合、細胞の入れられた容器の底面に比較的強固に貼りついた細胞を剥離することは可能となるが、同時に周辺細胞を傷つけてしまう虞があり、周辺細胞を継続培養することが困難となる。また、超音波振動を用いたもので、前述のような特定の細胞単体を周辺細胞を損傷することなく剥離する用途のものは知られていない。
【0004】
また、特許文献2では針状体で掻き出しをした後、掻き出された細胞を針状体とは別体に設けられた毛管により吸引することが記載されている。しかしながら、掻き出しと吸引の操作を別々に行うことにより、マニピュレータの操作が複雑化し、作業効率が低下するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−159698号公報
【特許文献2】特開2001−41864号公報
【特許文献3】特開2008−229776号公報
【特許文献4】特開2009−211024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の問題に鑑み、本発明は、操作対象となる細胞の周辺細胞に影響を与えることなしに対象細胞を採取でき、周辺細胞の継続培養が可能なアクチュエータ及びそれを搭載したマニピュレータ及びその操作方法を提供することを第1の目的とする。また、本発明は、作業効率を向上させることができるアクチュエータ及びそれを搭載したマニピュレータ及びその操作方法を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1)対向配置した2つの転がり軸受と、前記2つの転がり軸受の各内輪の内周面と嵌合する回転軸と、前記2つの転がり軸受の各内輪の間に設けられた内輪間座と、前記回転軸と連結されるボールねじナットと、前記ボールねじナットと螺合するねじ軸と、前記2つの転がり軸受のうち一方の外輪に隣接配置される圧電素子と、前記2つの転がり軸受と圧電素子に予圧を付与するスペーサと、前記ねじ軸の軸方向に接続されたガラス針と、を有するアクチュエータであって、
前記ガラス針の先端部と操作対象となる細胞とを接触させ、前記圧電素子を超音波振動よりも低い周波数で微細伸縮させることにより前記ガラス針を微小振動させ、前記細胞の貼りつきを解除し、前記細胞を入れた容器から前記細胞を剥離または除去することを特徴とするアクチュエータ。
(2)前記操作対象となる細胞が培養細胞の中の少なくとも一つの細胞であることを特徴とする(1)に記載のアクチュエータ。
(3)(1)または(2)に記載のアクチュエータを備えるマニピュレータと、前記容器を載置するベースと、を備えるマニピュレータシステムであって、前記ガラス針を微小振動させながら、前記ガラス針の先端を前記細胞に対して、前記細胞の外郭に倣って相対移動させ、1個単位で細胞全体を剥離または除去することを特徴とするマニピュレータシステム。
(4)前記ガラス針を中空とし、前記ガラス針に吸引機構を接続し、前記剥離した細胞を吸引または回収することを特徴とする(3)のマニピュレータシステム。
(5)対向配置した2つの転がり軸受と、前記2つの転がり軸受の各内輪の内周面と嵌合する回転軸と、前記2つの転がり軸受の各内輪の間に設けられた内輪間座と、前記回転軸と連結されるボールねじナットと、前記ボールねじナットと螺合するねじ軸と、前記2つの転がり軸受のうち一方の外輪に隣接配置される圧電素子と、前記2つの転がり軸受と圧電素子に予圧を付与するスペーサと、前記ねじ軸の軸方向に接続されたガラス針とを有するアクチュエータを用いた細胞の操作方法であって、前記圧電素子を超音波振動よりも低い周波数で微細伸縮させることにより前記ガラス針を微小振動させ、前記細胞の貼りつきを解除し、前記細胞を入れた容器から前記細胞を剥離または除去することを特徴とする細胞の操作方法。
(6)前記ガラス針を微小振動させながら、前記ガラス針の先端を前記細胞に対して、前記細胞の外郭に倣って相対移動させ、前記細胞を入れた容器底面から前記細胞を剥離または除去することを特徴とする(5)に記載の細胞の操作方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、操作対象となる細胞の周辺細胞を損傷せず、前記細胞のみをシャーレ等の容器から除去、または回収することが可能となる。また、操作対象となる細胞がシャーレの底面に固着した場合でも、細胞を1個単位で剥離、回収することが容易となる。さらに、本発明のマニピュレータシステムを用いることで、熟練した作業者でなくても作業が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態を示すマニピュレータシステムのブロック図である。
【図2】圧電アクチュエータの正面図である。
【図3】図2のA−A線に沿う断面図である。
【図4】圧電アクチュエータの斜視図である。
【図5】(A)はベース22の平面図、(B)はベース22の正面図である。
【図6】剥離作業の一例を示す模式図である。
【図7】吸引作業の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
(マニピュレータシステムの構成)
図1は、本発明の一実施形態を示すマニピュレータシステムの構成図である。図1において、マニピュレータシステム10は、顕微鏡観察下で試料に人工操作を実施するためのシステムとして、顕微鏡ユニット12と、マニピュレータ16とを備えており、顕微鏡ユニット12の傍にマニピュレータ16が配置されている。
【0011】
顕微鏡ユニット12は、撮像素子としてのカメラ18、顕微鏡20、試料台としてのベース22を備えている。このベース22の直上に顕微鏡20が配置される構造となっている。なお、顕微鏡20とカメラ18とは一体構造となっており、ベース22に向けて光を照射する光源(図示せず)を備えている。
【0012】
ベース22上にはシャーレ等に入れられた培養細胞等の試料(図示せず)が乗せられるようになっている。この状態で、ベース22上の細胞で反射した光が顕微鏡20に入射する。試料に関する光学像は、顕微鏡20で拡大されたあとカメラ18により撮像された画像を基に試料を観察することができる。
【0013】
マニピュレータ16は、直交3軸構成のマニピュレータとして、ピペット(インジェクションピペット)34と、X−Y軸テーブル36と、Z軸テーブル38と、X−Y軸テーブル36を駆動する駆動装置40と、Z軸テーブル38を駆動する駆動装置42を備える。ピペット34は、Z軸テーブル38に連結され、Z軸テーブル38は、X−Y軸テーブル36上に上下動自在に配置され、駆動装置40、42はコントローラ43に接続されている。ピペット34の先端にはガラス針34Aが取り付けられている。
【0014】
X−Y軸テーブル36は、駆動装置40の駆動により、X軸またはY軸に沿って移動するように構成され、Z軸テーブル38は、駆動装置42の駆動により、Z軸に沿って(鉛直軸方向に沿って)移動するように構成されている。Z軸テーブル38に連結されたピペット34は、X−Y軸テーブル36とZ軸テーブル38の移動にしたがって、3次元空間を移動領域として移動し、ベース22上の試料に人工操作を行うように構成されている。
【0015】
X−Y軸テーブル36は、駆動装置40の駆動(モータ)により、X軸またはY軸に沿って移動するように構成され、Z軸テーブル38は、駆動装置42の駆動(モータ)により、Z軸に沿って(鉛直軸方向に沿って)移動するように構成されているとともに、ベース22上の細胞などに、針を挿入するための挿入対象とするピペット34を連結している。すなわち、X−Y軸テーブル36とZ軸テーブル38は、駆動装置40、42の駆動により、ベース22上の細胞などを含む3次元空間を移動領域として移動し、ピペット34を、例えばピペット34の先端側からベース22上の細胞(試料)に対して、ガラス針34Aを挿入するための挿入位置まで粗動駆動する粗動機構(3次元軸移動テーブル)として構成されている。
【0016】
また、Z軸テーブル38は、いわゆるナノポジショナとしての機能を備えている。ナノポジショナは、ピペット34をX軸−Y軸−Z軸方向へ自在に移動可能に支持する。さらに、Z軸テーブル38はピペット34をその長手方向(軸線方向)に沿って微動駆動する微動機構44を備えている。
【0017】
(微動機構の構成)
微動機構44は、図2乃至図4に示すように、圧電アクチュエータの本体を構成するハウジング48を備えており、ほぼ筒状に形成されたハウジング48内には、ピペット34を駆動対象として、外周側にねじ部を有するねじ軸52と、ねじ軸52を囲む中空状の回転軸54が挿通されている。ハウジング48はその底部がベース56に固定されている。
【0018】
ねじ軸52の先端側には、治具58を介してピペット34の根元側が連結されており、ねじ軸52の中程には、ねじ軸52外周のねじ部とねじ結合されるねじ要素としてのボールねじナット60が装着され、治具58とねじ軸52との間にはスライダ62が連結されている。スライダ62はベース56とほぼ直交する方向に配置され、切り欠き64を間にしてリニアガイド66に連結されている。リニアガイド66はベース56底部側に配置され、ベアリング68を介して、ねじ軸52の軸方向に沿って移動自在にベース56に連結されている。
【0019】
すなわち、リニアガイド66は、ねじ軸52の軸方向の移動に合わせて、ねじ軸52の先端側を支持したスライダ62を、ベース56に沿って往復動させるようになっている。この際、ねじ軸52のうちボールねじナット60よりもピペット34側の部位が、スライダ62を介してリニアガイド66でスライド自在に支持されるので、ねじ軸52の直線運動をピペット34へ伝達することができる。
【0020】
ボールねじナット60は、回転軸54の軸方向一端側(先端側)の段部54aに固定されているとともに、ねじ軸52外周のねじ部とねじ結合され、ねじ軸52がその軸方向に沿って往復運動(直線運動)するのを自在に支持するようになっている。すなわち、ボールねじナット60は、回転軸54の回転運動をねじ軸52の直線運動に変換するための要素として構成されている。
【0021】
回転軸54の軸方向他端側は、中空モータ70内の回転部に連結されている。中空モータ70のハウジング74には、その底部側がベース56に弾性体としてのゴムワッシャ76を介してボルト78が固定されている。中空モータ70が駆動されると回転軸54が回転し、回転軸54の回転運動がボールねじナット60を介してねじ軸52に伝達され、ねじ軸52がその軸方向に沿って直線運動するようになっている。
【0022】
一方、回転軸54の段部54aに隣接して、転がり軸受80、82が内輪間座84を間にして収納されている。転がり軸受80、82は、それぞれ内輪80a、82aと、外輪80b、82bと、内輪と外輪間に挿入されたボール80c、82cを備え、各内輪80a、82aが回転軸54の外周面に嵌合され、各外輪80b、82bがハウジング48の内周面に嵌合され、回転軸54を回転自在に支持するようになっている。転がり軸受80、82は、内輪間座84を間にし、回転軸54にロックナット86により固定されている。転がり軸受80は、ハウジング48内の段部54aと円環状のスペーサ92と当接することにより、回転軸54の軸方向への移動が規制されるようになっている。転がり軸受82の外輪82bとハウジング48の蓋88との間に、円環状の圧電素子90と円環状のスペーサ92が圧入されている。
【0023】
また、各転がり軸受80、82、圧電素子90は、スペーサ92の長さを調節し、蓋88を閉めることにより、予圧が付与される。具体的には、スペーサ92の長さを調整し、蓋88を閉めると、その位置に応じた締結力が転がり軸受82と転がり軸受80の外輪82b、80bに、軸方向に沿った押圧力として予圧が付与されるとともに、同時に圧電素子90にも予圧が付与される。これにより、転がり軸受80、82および圧電素子90に所定の予圧が付与され、転がり軸受80、82の外輪間に軸方向間の距離としての間隙94が形成される。
【0024】
圧電素子90は、リード線(図示せず)を介して制御回路としてのコントローラ43に接続されており、コントローラ43からの電圧に応じて回転軸54の長手方向(軸方向)に沿って伸縮する圧電アクチュエータの一要素として構成されている。すなわち、圧電素子90は、コントローラ43からの印加電圧に応答して、回転軸54の軸方向に沿って伸縮し、回転軸54をその軸方向に沿って微動させるようになっている。回転軸54が軸方向に沿って微動すると、この微動がねじ軸52を介してピペット34に伝達され、ピペット34の位置が微調整されることになる。
【0025】
上記構成において、マニピュレータ16を駆動するに際しては、XY軸テーブル36とZ軸テーブル38を粗動駆動して、ピペット34をベース22の細胞に近づけて位置決めしたあと、微動機構44を用いてピペット34を微動駆動する。
【0026】
コントローラ43には、入力手段としてジョイスティック43Aが設けられており、このジョイスティック43Aの操作に基づいて、圧電素子に所定の電圧(例えば矩形波或いは台形波)が印加され、これに応じてピペット34が移動する(指示操作モード)。
【0027】
ところで、ベース22に試料(培養細胞等)を入れたシャーレSを載せた後、ガラス針34Aによって当該試料を採取する場合、試料がシャーレSに貼り付いていると採取がうまくできない場合がある。そこで、本発明に係るマニピュレータシステム10では、ジョイスティック43Aに振動指示ボタン43Bを設け、この振動指示ボタン43Bが操作された場合には、コントローラ43では、指示操作モードに変わり振動モードが実行されるようになっている。
【0028】
振動モードは微動機構44の圧電素子90に振動波形(例えば、通常よりも高周波の周波数を持つ正弦波、矩形波、三角波等の波形)の電圧を印加するようになっている。この結果、ガラス針34Aが振動することになり、この振動が試料に伝わることで、試料はシャーレSから剥がれ易くなる。
【0029】
図5(A)は振動モード時のベース22に載置されたシャーレSを平面視した状態であり、図5(B)はシャーレSの正面視した状態を示している。圧電素子90に電圧を印加してピペット34の長手方向に伸縮させることにより、ガラス針34Aは慣性の法則(振動に対する動きの鈍さ)を伴って振動し、試料をシャーレSから剥ぎ取ることができる。
【0030】
(操作方法)
以下に、本発明に係るマニピュレータシステム10を用いて、培養細胞中において異常細胞などの特定の細胞のみを除去する方法を説明する。
【0031】
まず、本発明に係るマニピュレータシステム10を使用する場合、マニピュレータ16のピペット34の先端にガラス針34Aを装着する。このガラス針34Aは、ベース22側が縮径した先細り形状となっていることが好ましい。これにより、隣接する細胞に影響を及ぼすことなく、除去対象の細胞にのみ操作が可能となる。
【0032】
次に、試料となる細胞が培養されたシャーレSをベース22に載置する。その後、マニピュレータ16を操作することにより、ガラス針34Aの先端部34AaがシャーレS内の操作対象の細胞Xと接触するように位置決めをする(図6(A))。
【0033】
具体的には、1回目(初めて)の操作の場合、顕微鏡倍率を低倍率にし、駆動装置40、42及び/または微動機構44を駆動することで、顕微鏡20の視野内にガラス針34Aが確認でき次第、駆動装置40、42及び/または微動機構44の駆動を停止する。
【0034】
このあと、コントローラ43の画像処理を利用し、微動機構44を駆動することで顕微鏡20の視野内に、ガラス針34Aを最適位置へ移動し、微動機構44の駆動を停止する。このとき必要であれば、XYZの駆動系も駆動して良い。またこのとき、1回目の操作の際に駆動した微動機構44の移動量をコントローラ43に記憶する。これにより、シャーレSの交換やガラス針34Aの交換のためにガラス針34Aを退避させた後も、1回目にセッティングした際の位置をコントローラ43が記憶しているため、マニピュレータ16でガラス針34Aの位置を調整することが容易になる。
【0035】
(剥離作業)
以上のように、ガラス針34Aの先端が操作対象の細胞Xと接触するように位置決めされた後、圧電素子90を駆動しガラス針34Aの先端部34Aaに微細な振動を与える。圧電素子90は、超音波振動(25〜50kHz)よりも低い周波数で駆動される。この周波数はおよそ5kHz程度であることが好ましい。これにより圧電素子90は回転軸54の軸方向に沿って伸縮し、回転軸54が軸方向に微細振動をする。この振動がピペット34を介してガラス針34Aに伝わり、ガラス針34Aを振動させる。このとき、ピペット34の撓み等によりガラス針34Aは、その先端が円、楕円、または直線をを描くように微細振動をする。
【0036】
振動するガラス針34Aにより、操作対象の細胞Xはガラス針34Aと接触している箇所でシャーレS底面への貼りつきが解除され、細胞Xのガラス針34Aとの接触部分Xaが固着していたシャーレS底面から剥ぎ取られる。図6(B)に示されるこの状態から、マニピュレータ16を駆動させてガラス針34Aの先端34Aaを細胞Xの外郭Xbに倣うように移動させる(図6(C))。これにより、対象とする細胞X全体を容易に剥ぎ取ることができる。
【0037】
以上説明した細胞Xの剥離作業によれば、ガラス針34Aに付与される微小振動が、超音波振動よりも低い周波数となっているので、細胞Xの周辺の培養細胞を損傷する可能性を低くすることができる。このため、細胞XのみをシャーレSから除去することができ、周辺の培養細胞を継続して培養することが可能となる。またガラス針34Aをベース22側が縮径した先細り形状とすることにより、隣接する細胞に影響を及ぼすことなく、除去対象の細胞にのみ操作が可能となる。
【0038】
(吸引作業)
剥離作業で用いたガラス針34Aの代わりに、中空のキャピラリ34Bを用い、さらにピペット34の微動機構側端部を、インジェクタやシリンジポンプ等の吸引機構と接続することで、剥離作業に引き続き吸引作業を行うことができる。すなわち、操作対象となる細胞X全体または一部を剥ぎ取った(図6(C))後に、細胞Xをキャピラリ34Bにより吸引する。
【0039】
具体的には、図7(A)のように、まずキャピラリ34Bの先端部34Baの吸入口を、細胞XのシャーレSの底部から剥離させられた部分Xcに近づける。次に、図7(B)のように、前記吸引機構を駆動し、前記剥離させられた部分Xcを吸引し始める。この吸引機構の駆動はコントローラ43で行っても良く、他の制御機構で行っても良い。この後、図7(C)のように、細胞Xの剥離させられた部分Xcは、吸引機構によりキャピラリ34B内に回収され、別の容器に吐出される。
【0040】
この結果、図7(D)のように、対象細胞XはシャーレS内から完全に除去される。このとき、細胞Xの剥離作業は、図6の場合と同様に、キャピラリ34Bに付与される微小振動が、超音波振動よりも低い周波数となっているので、細胞Xの周辺の培養細胞を損傷する可能性を低くすることができる。このため、細胞XのみをシャーレSから除去、回収することができ、周辺の培養細胞を継続して培養することが可能となる。またキャピラリ34Bをベース22側が縮径した先細り形状とすることにより、隣接する細胞に影響を及ぼすことなく、除去対象の細胞にのみ操作が可能となる。なお、上記の例では剥離作業と吸引作業とを別段階として行っているが、中空のガラス針を用いることで、ひとつのマニピュレータで剥離作業と吸引作業を連続的に行うことが可能となる。これにより、作業効率を向上することができる。
【0041】
また、以上の操作のうちガラス針34Aまたはキャピラリ34Bと細胞Xとの相対移動はマニピュレータ16を駆動させることにより行うとしたが、前述の駆動装置42、40と同様の装置を用いて、ベース22を移動することにより行っても良い。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明によれば、操作対象となる細胞の周囲の培養細胞を損傷せず、前記細胞のみをシャーレから除去、または回収することが可能となる。また、操作対象となる細胞がシャーレの底面に固着した場合でも、細胞を1個単位で剥離、回収することが容易となる。さらに、上述のマニピュレータシステムを用いることで、熟練した作業者でなくても作業が容易になる。このため、本発明の方法及びマニピュレータシステムは、移植用細胞の培養で異常細胞の除去作業に好適である。本発明を適用することで、作業品質を保証し、例えば癌化した細胞を移植する危険性をなくし、移植までの作業効率を向上することが可能となる。
【符号の説明】
【0043】
10 マニピュレータシステム
12 顕微鏡ユニット
16 マニピュレータ
18 カメラ(撮像素子)
20 顕微鏡
22 ベース(試料台)
34 ピペット(インジェクションピペット)
34A ガラス針
34Aa 先端部
36 X−Y軸テーブル
38 Z軸テーブル
40 駆動装置
42 駆動装置
43 コントローラ
43A ジョイスティック
43B 振動指示ボタン
44 微動機構
48 ハウジング
52 ねじ軸
54 回転軸
54a 段部
56 ベース
58 治具
60 ナット
62 スライダ
64 切り欠き
66 リニアガイド
68 ベアリング
70 中空モータ
74 ハウジング
76 ゴムワッシャ
78 ボルト
80、82 転がり軸受
84 内輪間座
80a、82a 内輪
80b、82b 外輪
80c、82c ボール
86 ロックナット
88 蓋
90 圧電素子
92 スペーサ
94 間隙
X 操作対象の細胞
S シャーレ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向配置した2つの転がり軸受と、
前記2つの転がり軸受の各内輪の内周面と嵌合する回転軸と、
前記2つの転がり軸受の各内輪の間に設けられた内輪間座と、
前記回転軸と連結されるボールねじナットと、
前記ボールねじナットと螺合するねじ軸と、
前記2つの転がり軸受のうち一方の外輪に隣接配置される圧電素子と、
前記2つの転がり軸受と圧電素子に予圧を付与するスペーサと、
前記ねじ軸の軸方向に接続されたガラス針と、
を有するアクチュエータであって、
前記ガラス針の先端部と操作対象となる細胞とを接触させ、
前記圧電素子を超音波振動よりも低い周波数で微細伸縮させることにより前記ガラス針を微小振動させ、
前記細胞の貼りつきを解除し、
前記細胞を入れた容器から前記細胞を剥離または除去することを特徴とするアクチュエータ。
【請求項2】
前記操作対象となる細胞が培養細胞の中の少なくとも一つの細胞であることを特徴とする請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のアクチュエータを備えるマニピュレータと、
前記容器を載置するベースと、を備えるマニピュレータシステムであって、
前記ガラス針を微小振動させながら、
前記ガラス針の先端を前記細胞に対して、前記細胞の外郭に倣って相対移動させ、
1個単位で細胞全体を剥離または除去することを特徴とするマニピュレータシステム。
【請求項4】
前記ガラス針を中空とし、
前記ガラス針に吸引機構を接続し、
前記剥離した細胞を吸引または回収することを特徴とする請求項3に記載のマニピュレータシステム。
【請求項5】
対向配置した2つの転がり軸受と、
前記2つの転がり軸受の各内輪の内周面と嵌合する回転軸と、
前記2つの転がり軸受の各内輪の間に設けられた内輪間座と、
前記回転軸と連結されるボールねじナットと、
前記ボールねじナットと螺合するねじ軸と、
前記2つの転がり軸受のうち一方の外輪に隣接配置される圧電素子と、
前記2つの転がり軸受と圧電素子に予圧を付与するスペーサと、
前記ねじ軸の軸方向に接続されたガラス針と
を有するアクチュエータを用いた細胞の操作方法であって、
前記圧電素子を超音波振動よりも低い周波数で微細伸縮させることにより前記ガラス針を微小振動させ、
前記細胞の貼りつきを解除し、
前記細胞を入れた容器から前記細胞を剥離または除去することを特徴とする細胞の操作方法。
【請求項6】
前記ガラス針を微小振動させながら、
前記ガラス針の先端を前記細胞に対して、前記細胞の外郭に倣って相対移動させ、前記細胞を入れた容器から前記細胞を剥離または除去することを特徴とする請求項5に記載の細胞の操作方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate