アクチュエータ駆動システムおよびアクチュエータの制御方法
【課題】本発明は、アクチュエータの変位の後戻り現象を抑制し、印加電圧値を変化させることなく屈曲変位量および発生力を滑らかに変化させて過電圧等による電極の破壊や劣化を回避可能なアクチュエータの制御方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のアクチュエータ駆動システムは、第1面と第2面とを有するフィルム、および、該フィルムの第1面、第2面上にそれぞれ形成された第1電極、第2電極とを備えるアクチュエータと、前記アクチュエータに電気的に接続され、前記第1電極から前記第2電極へ正または負の電圧パルスを複数回連続して印加可能であり、少なくとも該電圧パルスの周波数及び/またはPWM値を変化し得る駆動装置と、を含む。
【解決手段】本発明のアクチュエータ駆動システムは、第1面と第2面とを有するフィルム、および、該フィルムの第1面、第2面上にそれぞれ形成された第1電極、第2電極とを備えるアクチュエータと、前記アクチュエータに電気的に接続され、前記第1電極から前記第2電極へ正または負の電圧パルスを複数回連続して印加可能であり、少なくとも該電圧パルスの周波数及び/またはPWM値を変化し得る駆動装置と、を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータの変位量や発生力を滑らかに変化させるアクチュエータ駆動システム、および、当該アクチュエータの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、2足歩行ロボットや、癒し効果を有する動物のロボット等が、メカトロニクスの分野で注目を集めている。しかし、ロボットの動作を、従来のように電磁モータを基本とするアクチュエータで制御しようとすると、その動作は生物の動作と比してどうしてもぎこちないものとなってしまう。そのため、アクチュエータにはエネルギー変換効率のみでなく伸縮,屈曲、ねじれ等の複雑な運動が要求されるようになっている。
【0003】
このような要求に応えるべく、イオン伝導性高分子化合物、電子伝導性高分子化合物、非イオン性高分子化合物などを用いたアクチュエータが提案されている。アクチュエータは、1)伸縮,屈曲、ねじれ等の複雑な運動が可能である、2)スムーズな駆動が可能である、3)超小型・軽量化が可能である、4)駆動時のノイズや音が少ない、5)機械的な故障が少ない、6)大気、水、有媒体中といった広範囲な環境下で駆動可能である、といった優れた特徴を有しており、従来の電磁モータに替わる次世代のアクチュエータとして期待されている。
【0004】
上記アクチュエータは、イオン伝導性高分子化合物を用いるものが主流であり、例えば非特許文献1には、イオン交換樹脂膜の両面に金属電極が形成されたメタル−コンポジットポリマ(IPMC:ionic polymer-metal composites)が開示されている(以下、特に断りのない場合、「アクチュエータ」という。)。
【0005】
アクチュエータの動作原理は、例えば、フィルムがカチオン交換を行うアニオン性イオン交換樹脂膜の場合、次のように説明できる。すなわち、図7aに示すアクチュエータ10は、高分子化合物からなるフィルム12の第1面12a上に形成された第1電極14aおよびフィルム12の第2面12b上に形成された第2電極14bを備え、駆動装置(電源)20と電源電極20a、20bを介して電気的に接続されている。電源電極20aがプラスに、20bがマイナスになるよう直流電圧を印加すると、第1電極14aは陽極に、第2電極14bは陰極として機能し、膜内で自由に移動できるカチオンが第2電極14b(陰極)側に移動する。このカチオンに伴われてフィルム12(イオン交換樹脂膜)に含まれる水分子も第2電極14b(陰極)側に移動するため、第2電極14b側の浸透圧が上昇するが、フィルム12(イオン交換樹脂膜)に固定されているアニオンは第1電極14aに引き寄せられにくいため、第1電極14a(陽極)側の浸透圧は低下する。この結果、第2電極14b(陰極)側は膨張し、一方、第1電極14a(陽極)側は収縮して、アクチュエータ10は図7bのように屈曲変形する。
【0006】
アクチュエータ10の屈曲方向を反転させるためには、直流電圧の極性を反転させればよい。すなわち、電源電極20aがマイナスに、20bがプラスになるよう駆動装置(電源)20をスイッチングすると、直流電圧が第2電極14b(陽極)から第1電極14a(陰極)に電圧が印加され、上記動作原理に従ってアクチュエータ10は反転屈曲する。
【0007】
図8bは、図8aのように±3Vの直流電圧をスイッチング間隔30秒で第1電極14a、第2電極14b間に印加した場合のアクチュエータ10の屈曲変位(以下、単に「変位」ともいう。)を表す。本測定に用いられたアクチュエータ10は、公知のアクチュエータであり、1cm×2cm、厚み約200μmのパーフルオロスルホン酸フィルム12の両面に、白金が無電解メッキされて構成されている。図8bは、温度25℃、相対湿度90%(a)及び30%(b)で、直流電圧±3Vをスイッチング間隔30秒周期で印加した場合のフィルム12の変位を示し、変位は後述する図5に示すように、アクチュエータ10に電位を印加しない場合の平衡位置からの屈曲幅L(mm)に対応する。
【0008】
【非特許文献1】M.Shahinpoor,Electrochemica Acta 48(2003)2343-2353
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、直流電圧を印加してアクチュエータ10の動作を制御する方法では、屈曲方向を反転させるには直流電圧の極性を反転させ、また、屈曲変位量および発生力は印加する電圧値を変化させることで制御していた。
【0010】
しかし、印加電圧値を変化させる制御では、電圧のかけ過ぎや過電圧という不安定要素から、電極14a、14bの破壊や劣化を回避するのは困難である。また、屈曲変位量と電位の関係が複雑であるために、電位の調節によるアクチュエータ10の屈曲変位量および発生力の制御は容易ではない。
【0011】
さらに、図8bの曲線aに見られるように、通常、白金を無電解メッキすることにより得られるアクチュエータ10では、相対湿度(以下、「RH」と略す。)90%の含水量が高い状態では、変位の後戻り現象が生じるという問題もあった。
【0012】
そこで本発明は、印加電圧値を変化させることなく屈曲変位量および発生力を滑らかに変化させ、過電圧等による電極の破壊や劣化を回避可能なアクチュエータの制御方法を提供することを目的とする。
【0013】
また、本発明の別の目的は、特に相対湿度の高い環境において発生しやすいアクチュエータの変位の後戻り現象を抑制し、スムーズな動作を実現するアクチュエータの制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を克服すべく、本発明のアクチュエータ駆動システムは、第1面と第2面とを有するフィルム、および、該フィルムの第1面、第2面上にそれぞれ形成された第1電極、第2電極とを備えるアクチュエータと、前記アクチュエータに電気的に接続され、前記第1電極から前記第2電極へ正または負の電圧パルスを複数回連続して該アクチュエータに印加可能であり、少なくとも該電圧パルスの周波数及び/またはPWM(Pulse Width Modulation)値を変化し得る駆動装置と、を含む。このため上記アクチュエータ駆動システムは、上記電圧パルスを正又は負の一定値として、その周波数またはPWM値又はその両方を変化させるアクチュエータの制御を行うことができる。さらに、電圧パルスの電圧値を変化させる制御を加えることも可能である。なお、本明細書においてPWM(Pulse Width Modulation)値とは、電圧パルスの周期(s)に対するパルス幅(s)の比r
(0<r<1)をいうものとする。
【0015】
本発明のアクチュエータの制御方法は、上記アクチュエータの制御方法であって、前記第1電極から前記第2電極へ、正または負の同一の電圧値、同一の周波数、及び同一のPWM値をもつ電圧パルスを複数回連続して上記アクチュエータに印加する、電圧パルス印加ステップを含み得る。この電圧パルス印加ステップにより、周波数及びPWM値が一定で、正又は負の一定の電圧値を持つ電圧パルスを、一定回数(一定時間)連続して上記アクチュエータに印加して、これを駆動することができる。
【0016】
本発明のアクチュエータの制御方法は、上記電圧パルス印加ステップを、該電圧パルス印加ステップの周波数を変化させて複数回繰り返し得る。したがって、一定の周波数、PWM値および電圧値を持つ電圧パルスを上記一定時間印加する電圧パルス印加ステップを経た後、周波数のみ変化させた他の電圧パルス印加ステップを繰り返しアクチュエータに作用させ、これを駆動することができる。
【0017】
本発明のアクチュエータの制御方法は、上記電圧パルス印加ステップを、該電圧パルス印加ステップのPWM値を変化させて複数回繰り返し得る。したがって、周波数、電圧値を一定にしてPWM値のみ変化させた電圧パルス印加ステップを繰り返し作用させて、アクチュエータを駆動することができる。
【0018】
よって、本発明のアクチュエータの制御方法によれば、電圧値を一定に保ちつつ、上記電圧パルスの周波数またはPWM値のみ変化させた電圧パルス印加ステップを繰り返しアクチュエータに作用させ、あるいは、周波数及びPWM値を同時に変化させた電圧パルス印加ステップを繰り返しこれに作用させて、アクチュエータを制御することが可能である。
【0019】
本発明のアクチュエータの制御方法において、上記電圧パルスの周波数は、閾値の周波数、例えば30Hz以上であることが好ましい。上記電圧パルスの周波数を閾値以上とすることにより、アクチュエータの変位を連続的に安定して変化させることができる。ここで、閾値の周波数は、主としてアクチュエータの構成材料、膜圧などにより決まり、従来のアクチュエータの制御方法による電圧パルスの印加方法では、アクチュエータが追従できなくなる電圧パルスの周波数に略相当する。
【0020】
本発明のアクチュエータの制御方法において、上記電圧パルスのPWM値は、0%より大きく100%未満のすべての領域において好適である。すなわち、電圧パルスが存在することとなる全PWM値において、アクチュエータの変位を滑らかに安定して変化させることができる。
【0021】
本発明のアクチュエータの制御方法は、上記電圧値の絶対値は、0Vより大きく、10V以下とするのが好ましい。上記電圧パルスの印加電圧を±10V以下とすることで、効率的にアクチュエータを駆動することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のアクチュエータ駆動システムは、上記構成を備えるため、アクチュエータに対し、同一の電圧値、同一の周波数、及び同一のPWM値をもつ電圧パルスを複数回連続して印加する、電圧パルス印加ステップを作用させることができる。このため、特に相対湿度の高い環境において発生しやすいアクチュエータの変位の後戻り現象を抑制し、安定したアクチュエータの運動を実現することができる。
【0023】
また、本発明のアクチュエータ駆動システムは、少なくとも電圧パルスの周波数及び/またはPWM値を変化し得る駆動装置を備えるため、電圧値を一定に保ちつつ、上記電圧パルスの周波数またはPWM値のみ変化させた電圧パルス印加ステップを繰り返しアクチュエータに作用させ、あるいは、周波数及びPWM値を同時に変化させた電圧パルス印加ステップを繰り返しこれに作用させて、アクチュエータを制御することが可能である。したがって、上記電圧パルスの周波数及び/又はPWM値を連続的に変化させて電圧パルス印加ステップを繰り返すことにより、スムーズなアクチュエータの駆動を実現することができる。
【0024】
更に、上記電圧パルスの周波数を閾値(例えば30Hz)以上とすることにより、PWM値が0%より大きく100%未満であるすべての値において、より滑らかで迅速なアクチュエータの駆動を得ることができる。
【0025】
さらに、本発明のアクチュエータ駆動システムは、電圧パルスの印加電圧が−10V〜+10Vの範囲でアクチュエータを所望の変位で駆動することができるため、従来の電磁モータ駆動に比べて省エネルギーでアクチュエータの駆動を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明のアクチュエータ駆動システム1は、図7aに示すように、第1面12aと第2面12bとを有するフィルム12、および、フィルム12の第1面12a、第2面12b上にそれぞれ形成された第1電極14a、第2電極14bとを備えるアクチュエータ10と、アクチュエータ10に第1電源電極20a、第2電源電極20bを介して電気的に接続され、第1電極14aから第2電極14bへ正または負の電圧パルスを複数回連続して印加可能であり、少なくとも当該電圧パルスの周波数及び/またはPWM値を変化し得る駆動装置20を含む。
【0027】
アクチュエータ10は、公知のアクチュエータでよく、公知の方法で製造することができる。上記のように、図7aに示すアクチュエータ10として、例えば1cm×2cm、厚み約200μmのパーフルオロスルホン酸フィルム12の両面に、第1電極、第2電極14a、14bとして白金を無電解メッキしたものを記載したが、これに限定されるものではない。
【0028】
フィルム12は、屈曲可能な柔軟性を有し、加水分解性が少なく、大気中で安定な、例えば高分子化合物が好ましく、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系ポリマー;ポリスチレン;ポリイミド;ポリパラフェニレンオキサイド、ポリ(2,6−ジメチルフェニレンオキサイド)、ポリパラフェニレンスルフィド等のポリアリーレン類(芳香族系ポリマー)等に、スルホン酸基(−SO3H)、カルボキシル基(−COOH)、リン酸基、スルホニウム基、アンモニウム基、ピリジニウム基等を導入したもの;ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等の含フッ素系のポリマー;含フッ素系のポリマーの骨格にスルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基、スルホニウム基、アンモニウム基、ピリジニウム基等を導入したパーフルオロスルホン酸ポリマー、パーフルオロカルボン酸ポリマー、パーフルオロリン酸ポリマー、ポリブダジエン系化合物;エラストマーやゲルなどのポリウレタン系化合物;シリコーン系化合物;ポリ塩化ビニル;ポリエチレンテレフタレート;ナイロン;ポリアリレート等、4級窒素カチオンを有するアイオネン類を挙げることができる。
【0029】
上記高分子のフィルム12は含水状態で、上述したような動作原理に従って屈曲変形するが、大気中での動作ではその含水量で屈曲度に影響がでることが知られているため、フィルム12内部の水分子をイオン液体で置換してもよい。この場合でも屈曲の原理は同じであり、内部のイオン液体のイオンが移動することによって、フィルム12は屈曲変形する。
【0030】
また、フィルム12は、上記高分子電解質以外にも、誘電性材料、例えばポリフッ化ビニリデンのような膜であってもよい。ポリフッ化ビニリデン膜からなるフィルム12にイオン液体を含浸させれば、電界下、膜内の物質(イオン液体のイオン)の移動により、フィルム12は屈曲変形を生ずることができる。
【0031】
さらに、フィルム12として導電性高分子を用いてもよい。このような高分子としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリフェニレン等が挙げられる。この場合も、フィルム12内部のドーパント(イオン)の移動で、フィルム12は屈曲することが知られている。
【0032】
さらに、フィルム12として、ゾル・ゲル法などで得られる高分子構造をもつ金属酸化物も用いることができる。このような金属酸化物としては、特に限定されるものではないが、例えば、マンガン、ニッケル、コバルト、五酸化バナジウム系の金属酸化物を用いることができる。
【0033】
さらには、フィルム12として、カーボン粉末をバインダー(好ましくはフィルム12と相溶性高い材料)と混ぜたり、単独使用で接合した導電膜も用いることができる。このようなカーボンとしては、例えば、カーボンブラック、活性炭、カーボンファイバー、カーボンチューブ、グラファイト等を挙げることができる。カーボンブラックとしては、例えば、チャネルブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック等を挙げることができる。中でも、上記カーボン粉末は、カーボンナノチューブ、ファーネスブラックまたはアセチレンブラックであることが特に好ましい。これにより、より好適に電気伝導性を付与することができ、屈曲し、アクチュエータとして応用することができる。
【0034】
以上のような、様々な材料をフィルム12として用いることができるが、本実施形態においては、アクチュエータ10として、Pt-NafionTM117/Li+を従来法により作製した。図6にナフィオンTM(Nafion)の構造式を示す。
【0035】
また、第1電極14a、第2電極14bの構成材料は白金に限定されず、金その他の貴金属さらに卑金属、半導体をフィルムにメッキして使用してもよい。伸縮性のある電極材をフィルムに接合して用いてもよい。伸縮性の電極材としては微粉末をバインダーなどと混ぜることで電極を形成したもの、あるいは、布帛に導電性を付与したもの、メッシュ状の金網、多孔性金属フィルムなどである。たとえば、フィルムを構成する上記高分子化合物と同一の高分子化合物を含む高分子バインダーにカーボン粉末を分散させてペーストとし、フィルムを両面から挟んで加熱プレスし、電極として使用してもよい。
【0036】
駆動装置20は図2に模式的に示すように、波形入力用のパソコン22と、D/A変喚器24と、図示しない電力増幅器、及びアクチュエータ10の第1電極14aと第2電極14bにそれぞれ接続される第1電源電極20a及び第2電源電極20b(図7a参照)とを含んで構成される。
【0037】
駆動装置20の動作であるが、駆動装置20は、波形入力用のパソコン22に入力された波形データをD/A変喚器24でアナログ電位に変換し、これを電力増幅アンプで電流を増幅して、第1電源電極20a及び第2電源電極20bを介してアクチュエータ10に印加する。これにより、所望の印加電圧パルスの波形データを波形入力用パソコン22に入力し、アクチュエータ10に印加することができる。
【0038】
すなわち、パソコン22で波形データをテキストデータで作製(XY形式データでXは時間、Yは電位)し、DA変換ボード(D/A変喚器24)に電位を出力する。その電位を電力増幅アンプ(汎用のポテンシオスタットを利用)で電流値を増加させ、アクチュエータ10を駆動させる。アクチュエータ10の動きはフィルム12の含水量の影響(湿度の影響)を受けるので、チャンバーの中で作動テストをする。
【0039】
次に、上記アクチュエータ駆動システム1における、アクチュエータ10の屈曲変位量、発生力の測定装置及びこれらの測定方法について説明する。
【0040】
アクチュエータ10の屈曲変位量は、例えば図3aに示すような変位測定装置30aにより測定することができる。変位測定装置30aは、測定用パソコン32と、CCDカメラ34とを含み、アクチュエータ10の屈曲変位をCCDカメラ34にて測定する。図5に示すように、CCDカメラ34はアクチュエータ10の変位方向と直角方向に設置され、測定用パソコン32によりアクチュエータ10の動作軌跡を捉えるようにプログラムされている。屈曲変位Lは、アクチュエータ10に電位を印加しない場合の平衡位置を基準線として定義される。例えば屈曲変位Lは、屈曲したアクチュエータ10がその固定位置(原点)から垂直距離Xに位置する単位片と基準線との距離として測定される。なお、測定用パソコン32は、駆動装置20の波形入力用パソコン22を代用してもよい。
【0041】
あるいは、図3bに示すような変位測定装置30bによりアクチュエータ10の屈曲変位量を測定してもよい。変位測定装置30bは、波形入力用パソコン22と兼用可能な測定用パソコン32と、レーザー変位計36とを含み、レーザー変位計36によりアクチュエータ10の屈曲変位Lを測定する。図3b中、垂直距離Yは垂直距離Xと同様に定義され、垂直距離Yの位置のアクチュエータ10の単位片からのレーザー反射光から屈曲変位Lを求めることができる。CCDカメラ34を用いると画像処理が必要なため、10Hz以上の周波数の変位変化には追随できないが、レーザー変位計36は高速な変位変化にも追従することができる。
【0042】
また、アクチュエータ10の発生力は、例えば図4に示すような発生力測定装置40を用いて測定することができる。測定装置40は、例えば0.1mg精度の電子天秤(バランス)42と、アクチュエータ10を挟み込む電極44とを連動させて構成することができる。アクチュエータ10の発生力に対応した垂直方向の力を固定部分44がバランス42に伝播して、発生力を精密に測定することができる。
【0043】
以下、上記アクチュエータ駆動システム1における、アクチュエータ10の制御方法について説明する。
【0044】
本発明に係るアクチュエータ10の制御方法は、上記アクチュエータ駆動システム1の第1電極14aから第2電極14bへ、正または負の同一の電圧値、同一の周波数、及び同一のPWM値をもつ電圧パルスを複数回連続して印加する、電圧パルス印加ステップを含む。この電圧パルス印加ステップにより、周波数及びPWM値が一定で、正又は負の一定の電圧値を持つ電圧パルスを、一定時間連続してアクチュエータ10に印加して、これを駆動することができる。
【0045】
上記本発明に係る電圧パルス印加ステップによる制御法に対する、アクチュエータ10の応答を調べるため、以下のような測定を行った。
【実施例1】
【0046】
図1aは、上記電圧パルス印加ステップを表す概念図であり、v(V)を電圧パルスの入力電位(印加電圧)、τを電圧パルスの周期(s)、r(0<r<1)をPWM(Pulse Width Modulation)値とし、Tを便宜的に大周期(s)としてT/2において電圧パルスの入力電位を+v(V)から−v(V)に反転した場合を表している。
【0047】
図1aの入力電位波形におけるアクチュエータ10の応答性を調べるため、レーザー変位計36により、相対湿度(RH)40%と90%で入力電位:v=±2V、PWM値:r=0.5、大周期:T=64s、電圧パルスの周期τの周波数を1,2,5,10、25,50,100,250Hzとして変位計測を行った。この測定結果を、周波数に対する変位量の絶対値の関係として図9aに示す。
【0048】
一方、図1bは、本発明に係る電圧パルス印加ステップを用いない、従来の直流電圧印加方式の入力電位波形を表す概念図である。上記測定と同様に、図1bの入力電位波形におけるアクチュエータ10の応答性をレーザー変位計36により調べた。入力電位v=±2V、PWM値:r=0.5、大周期:T=64sを上記測定条件と同一とし、相対湿度(RH)90%、電圧パルスの周期τの周波数を5、10、25,50,100,250Hzとして上記アクチュエータ10の変位計測を行った。周波数に対する変位量の絶対値の測定結果を図9bに示す。
【0049】
図9bより、従来の直流電圧印加方式のアクチュエータ10の制御方法では、100〜250の周波数領域においてアクチュエータ10は入力電位vの変化に追従できないことが分かる。
【0050】
一方、図9aより、本発明の電圧パルス印加ステップによるアクチュエータ10の制御方法では、周波数が大きくなるほど変位量は小さくなるが、30Hz以上の周波数になっても変位量は0とならず、高周波の波形変化(入力電位vの変化)にも対応できることが分かった。
【0051】
したがって、本実施例で用いたPt-NafionTM117/Li+のアクチュエータ10の閾値の周波数は、略30Hzであることがわかる。閾値の周波数は、主としてアクチュエータ10の構成材料により決まり、従来のアクチュエータ10の制御方法による電圧パルスの印加方法では、アクチュエータが追従できなくなる電圧パルスの周波数に相当する。
【0052】
また、本発明の電圧パルス印加ステップによる制御方法では、RH90%の条件では、周波数が高くなるほど後戻り現象が緩和されることが確認された。さらに図9aより、周波数が高くなるにつれて変位量は、一定の直流電圧を印加した場合のように、スムーズに安定して変化することがわかった。
【0053】
以上の測定結果より、本発明の電圧パルス印加ステップによる制御方法を用いると、アクチュエータ10は、印加電圧パルスの周期τの周波数が閾値(本実施例において30Hz)以上の周波数領域において滑らかな周波数制御が可能であることが分かった。
【0054】
したがって、本発明のアクチュエータ10の制御方法を用いれば、上記電圧パルス印加ステップを、電圧パルスの周波数を閾値(本実施例において30Hz)以上の高周波数領域において連続的に変化させて繰り返すことによって、後戻り現象を抑制し、滑らかで安定したアクチュエータ10の駆動を行うことができる。換言すると、一定の周波数、PWM値および電圧値を持つ電圧パルスを上記一定時間印加する電圧パルス印加ステップを経た後、周波数のみ変化させた他の電圧パルス印加ステップをアクチュエータに作用させる過程を繰り返し、当該アクチュエータをスムーズに駆動することができる。
【実施例2】
【0055】
次に、電圧パルス印加ステップの周波数が閾値(本実施例において30Hz)におけるアクチュエータ10の変位量のPWM値依存性を調べるため、図1aの入力電位波形を用いて、PWM値20,50、80、100%でアクチュエータ10の変位測定を行った。測定条件は、RH40%と90%で、入力電位:v=±2V、大周期:T=64s、電圧パルスの周期:τ=0.01s(100Hz)とし、CCDカメラ34を用いて測定を行った。
【0056】
図10において、●はRH40%、▽はRH90%のアクチュエータ10の変位量を表す。なお、PWM値0%は電流の流れない状態を、PWM値100%は1周期64sの直流電流を意味する。
【0057】
PWM値が小さくなると、変位量も小さくなっている。また、PWM値が0%より大きく100%より小さい場合、すなわち、電圧パルスが存在するすべてのPWM値において、アクチュエータ10の変位量はスムーズに変化していることがわかる。
【0058】
また、本実験において、アクチュエータ10が最大変位に到達する時間は、PWM値100%未満の方がPWM値100%のときよりも速くなっていることが確認された。例えばRH40%、PWM値50%の場合、PWM値100%の場合に対し、変位は1/3に減少するが、最大変位に到達する時間は1/2に減少していた。
【0059】
したがって、本発明のアクチュエータの制御方法によれば、周波数、電圧値を一定にしてPWM値のみ連続的に変化させる上記電圧パルス印加ステップを繰り返しアクチュエータ10に作用させることにより、迅速かつ滑らかにアクチュエータ10を駆動することができる。また、上記のように図10から、0%より大きく100%より小さいPWM値の全領域で滑らかなアクチュエータの駆動が可能である。
【0060】
よって、実施例1及び2の結果より、本発明のアクチュエータの制御方法によれば、電圧値を一定に保ちつつ、上記電圧パルスの周波数またはPWM値のみ変化させた電圧パルス印加ステップを繰り返しアクチュエータに作用させ、あるいは、周波数及びPWM値を同時に変化させた電圧パルス印加ステップを繰り返しこれに作用させて、アクチュエータ10をスムーズに制御することが可能である。
【実施例3】
【0061】
上記実施例2と同条件下で、発生力測定装置40を用いて、PWM値20、50、80、90、100%の場合のアクチュエータ10の発生力の測定を行った。PWM値と発生力(mN)の関係を図11に示す。
【0062】
変位量と同様に、PWM値が小さくなれば発生力も小さくなることが分かった。
【0063】
以上、本発明のアクチュエータ駆動システムおよびアクチュエータの制御方法について説明したが、本発明は上記実施形態および実施例に限定されるものではない。アクチュエータのフィルムの材料は上記パーフルオロスルホン酸やナフィオンTM(Nafion)に限定されず、その他のイオン伝導性高分子化合物、非イオン性高分子化合物、あるいは、金属酸化物などを用いてもよい。
【0064】
また、第1電極、第2電極の構成材料は白金に限定されず、上記のように、金その他の貴金属さらに卑金属、半導体をフィルムにメッキして使用してもよい。伸縮性のある電極材をフィルムに接合して用いてもよい。伸縮性の電極材として、微粉末をバインダーなどと混ぜることで電極を形成したもの、あるいは、布帛に導電性を付与したもの、メッシュ状の金網、多孔性金属フィルムなどを使用してもよい。
【0065】
また、本発明のアクチュエータの制御方法において、アクチュエータに印加する電圧値も特に限定されないが、−10V以上、10V以下とするのが好ましい。電圧パルスの印加電圧を±10V以下とすることで、効率的にアクチュエータを駆動することができる。
【0066】
さらに、本発明のアクチュエータを複数枚直列に接続して作動させてもよい。直列に接続したアクチュエータの枚数分だけ大きな発生力を得ることが出来る。この場合も、直列に接続した各アクチュエータに印加する電圧パルスの印加電圧を、1枚当たりで±10V以下とすることで、効率的にアクチュエータを駆動することができる。例えば、3枚のアクチュエータを直列に接続し、1枚当たり2V電圧を印加した場合は、全体の3枚のアクチュエータに、計6Vの電圧を印加することになる。
【0067】
また、上記CCDカメラやレーザー変位計を使用した変位測定装置、駆動装置、発生力測定装置の構成機器及び構成も特に限定されず、それぞれの機能を発揮し得る装置を適宜使用することができる。
【0068】
その他、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づき種々の改良、修正、変更を加えた態様で実施できるものである。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明に係るアクチュエータ駆動システムおよびアクチュエータの制御方法は、大気中・水中等広範な環境下で小型・軽量な駆動全般に有用であり、電子・メカトロニクス・機械部品製造や、ロボット・玩具製造、医療・福祉器具関連、触覚等のセンサ開発などの分野での産業上利用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1a】本発明のアクチュエータ制御法における印加電圧パルスのシークエンスを示す模式図である。
【図1b】従来のアクチュエータ制御法における印加電圧のシークエンスを示す模式図である。
【図2】本発明に係るアクチュエータ駆動システムの駆動装置を示す模式図である。
【図3a】本発明に係るアクチュエータ駆動システムの変位測定装置(CCDカメラ)を示す模式図である。
【図3b】本発明に係るアクチュエータ駆動システムの変位測定装置(レーザー変位計)を示す模式図である。
【図4】本発明に係るアクチュエータ駆動システムの発生力測定装置を示す模式図である。
【図5】アクチュエータの屈曲状態を説明する模式図である。
【図6】NafionTMの構造式R;SO3-,COO-を示す構造図である。
【図7a】アクチュエータ駆動システムを示す模式図である。
【図7b】アクチュエータの屈曲状態を説明するアクチュエータ駆動システムの説明図である。
【図8a】アクチュエータに印加する電圧のシークエンスを示す模式図である。
【図8b】RH90%(a)とRH40%(b)におけるアクチュエータの変位変化の測定図である。
【図9a】本発明のアクチュエータ制御法による、周波数に対するRH90%(▽)とRH40%(●)でのアクチュエータの変位変化の測定図である。
【図9b】従来のアクチュエータ制御法による、周波数に対するRH90%でのアクチュエータの変位変化の測定図である。
【図10】本発明のアクチュエータ制御法による、PWM値に対するRH90%(▽)とRH40%(●)でのアクチュエータの変位変化の測定図である。
【図11】本発明のアクチュエータ制御法による、PWM値に対するRH90%(▽)とRH40%(●)でのアクチュエータの発生力変化の測定図である。
【符号の説明】
【0071】
1:アクチュエータ駆動システム
10:アクチュエータ
12:フィルム
12a:第1面
12b:第2面
14a:第1電極
14b:第2電極
20:駆動装置(電源)
20a:第1電源電極
20b:第2電源電極
22:波形入力用パソコン
24:D/A変喚器
30a、30b:変位測定装置
32:計測用パソコン
34:CCDカメラ
36:レーザー変位計
40:発生力測定装置
42:電子天秤(バランス)
44:電極
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータの変位量や発生力を滑らかに変化させるアクチュエータ駆動システム、および、当該アクチュエータの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、2足歩行ロボットや、癒し効果を有する動物のロボット等が、メカトロニクスの分野で注目を集めている。しかし、ロボットの動作を、従来のように電磁モータを基本とするアクチュエータで制御しようとすると、その動作は生物の動作と比してどうしてもぎこちないものとなってしまう。そのため、アクチュエータにはエネルギー変換効率のみでなく伸縮,屈曲、ねじれ等の複雑な運動が要求されるようになっている。
【0003】
このような要求に応えるべく、イオン伝導性高分子化合物、電子伝導性高分子化合物、非イオン性高分子化合物などを用いたアクチュエータが提案されている。アクチュエータは、1)伸縮,屈曲、ねじれ等の複雑な運動が可能である、2)スムーズな駆動が可能である、3)超小型・軽量化が可能である、4)駆動時のノイズや音が少ない、5)機械的な故障が少ない、6)大気、水、有媒体中といった広範囲な環境下で駆動可能である、といった優れた特徴を有しており、従来の電磁モータに替わる次世代のアクチュエータとして期待されている。
【0004】
上記アクチュエータは、イオン伝導性高分子化合物を用いるものが主流であり、例えば非特許文献1には、イオン交換樹脂膜の両面に金属電極が形成されたメタル−コンポジットポリマ(IPMC:ionic polymer-metal composites)が開示されている(以下、特に断りのない場合、「アクチュエータ」という。)。
【0005】
アクチュエータの動作原理は、例えば、フィルムがカチオン交換を行うアニオン性イオン交換樹脂膜の場合、次のように説明できる。すなわち、図7aに示すアクチュエータ10は、高分子化合物からなるフィルム12の第1面12a上に形成された第1電極14aおよびフィルム12の第2面12b上に形成された第2電極14bを備え、駆動装置(電源)20と電源電極20a、20bを介して電気的に接続されている。電源電極20aがプラスに、20bがマイナスになるよう直流電圧を印加すると、第1電極14aは陽極に、第2電極14bは陰極として機能し、膜内で自由に移動できるカチオンが第2電極14b(陰極)側に移動する。このカチオンに伴われてフィルム12(イオン交換樹脂膜)に含まれる水分子も第2電極14b(陰極)側に移動するため、第2電極14b側の浸透圧が上昇するが、フィルム12(イオン交換樹脂膜)に固定されているアニオンは第1電極14aに引き寄せられにくいため、第1電極14a(陽極)側の浸透圧は低下する。この結果、第2電極14b(陰極)側は膨張し、一方、第1電極14a(陽極)側は収縮して、アクチュエータ10は図7bのように屈曲変形する。
【0006】
アクチュエータ10の屈曲方向を反転させるためには、直流電圧の極性を反転させればよい。すなわち、電源電極20aがマイナスに、20bがプラスになるよう駆動装置(電源)20をスイッチングすると、直流電圧が第2電極14b(陽極)から第1電極14a(陰極)に電圧が印加され、上記動作原理に従ってアクチュエータ10は反転屈曲する。
【0007】
図8bは、図8aのように±3Vの直流電圧をスイッチング間隔30秒で第1電極14a、第2電極14b間に印加した場合のアクチュエータ10の屈曲変位(以下、単に「変位」ともいう。)を表す。本測定に用いられたアクチュエータ10は、公知のアクチュエータであり、1cm×2cm、厚み約200μmのパーフルオロスルホン酸フィルム12の両面に、白金が無電解メッキされて構成されている。図8bは、温度25℃、相対湿度90%(a)及び30%(b)で、直流電圧±3Vをスイッチング間隔30秒周期で印加した場合のフィルム12の変位を示し、変位は後述する図5に示すように、アクチュエータ10に電位を印加しない場合の平衡位置からの屈曲幅L(mm)に対応する。
【0008】
【非特許文献1】M.Shahinpoor,Electrochemica Acta 48(2003)2343-2353
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、直流電圧を印加してアクチュエータ10の動作を制御する方法では、屈曲方向を反転させるには直流電圧の極性を反転させ、また、屈曲変位量および発生力は印加する電圧値を変化させることで制御していた。
【0010】
しかし、印加電圧値を変化させる制御では、電圧のかけ過ぎや過電圧という不安定要素から、電極14a、14bの破壊や劣化を回避するのは困難である。また、屈曲変位量と電位の関係が複雑であるために、電位の調節によるアクチュエータ10の屈曲変位量および発生力の制御は容易ではない。
【0011】
さらに、図8bの曲線aに見られるように、通常、白金を無電解メッキすることにより得られるアクチュエータ10では、相対湿度(以下、「RH」と略す。)90%の含水量が高い状態では、変位の後戻り現象が生じるという問題もあった。
【0012】
そこで本発明は、印加電圧値を変化させることなく屈曲変位量および発生力を滑らかに変化させ、過電圧等による電極の破壊や劣化を回避可能なアクチュエータの制御方法を提供することを目的とする。
【0013】
また、本発明の別の目的は、特に相対湿度の高い環境において発生しやすいアクチュエータの変位の後戻り現象を抑制し、スムーズな動作を実現するアクチュエータの制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を克服すべく、本発明のアクチュエータ駆動システムは、第1面と第2面とを有するフィルム、および、該フィルムの第1面、第2面上にそれぞれ形成された第1電極、第2電極とを備えるアクチュエータと、前記アクチュエータに電気的に接続され、前記第1電極から前記第2電極へ正または負の電圧パルスを複数回連続して該アクチュエータに印加可能であり、少なくとも該電圧パルスの周波数及び/またはPWM(Pulse Width Modulation)値を変化し得る駆動装置と、を含む。このため上記アクチュエータ駆動システムは、上記電圧パルスを正又は負の一定値として、その周波数またはPWM値又はその両方を変化させるアクチュエータの制御を行うことができる。さらに、電圧パルスの電圧値を変化させる制御を加えることも可能である。なお、本明細書においてPWM(Pulse Width Modulation)値とは、電圧パルスの周期(s)に対するパルス幅(s)の比r
(0<r<1)をいうものとする。
【0015】
本発明のアクチュエータの制御方法は、上記アクチュエータの制御方法であって、前記第1電極から前記第2電極へ、正または負の同一の電圧値、同一の周波数、及び同一のPWM値をもつ電圧パルスを複数回連続して上記アクチュエータに印加する、電圧パルス印加ステップを含み得る。この電圧パルス印加ステップにより、周波数及びPWM値が一定で、正又は負の一定の電圧値を持つ電圧パルスを、一定回数(一定時間)連続して上記アクチュエータに印加して、これを駆動することができる。
【0016】
本発明のアクチュエータの制御方法は、上記電圧パルス印加ステップを、該電圧パルス印加ステップの周波数を変化させて複数回繰り返し得る。したがって、一定の周波数、PWM値および電圧値を持つ電圧パルスを上記一定時間印加する電圧パルス印加ステップを経た後、周波数のみ変化させた他の電圧パルス印加ステップを繰り返しアクチュエータに作用させ、これを駆動することができる。
【0017】
本発明のアクチュエータの制御方法は、上記電圧パルス印加ステップを、該電圧パルス印加ステップのPWM値を変化させて複数回繰り返し得る。したがって、周波数、電圧値を一定にしてPWM値のみ変化させた電圧パルス印加ステップを繰り返し作用させて、アクチュエータを駆動することができる。
【0018】
よって、本発明のアクチュエータの制御方法によれば、電圧値を一定に保ちつつ、上記電圧パルスの周波数またはPWM値のみ変化させた電圧パルス印加ステップを繰り返しアクチュエータに作用させ、あるいは、周波数及びPWM値を同時に変化させた電圧パルス印加ステップを繰り返しこれに作用させて、アクチュエータを制御することが可能である。
【0019】
本発明のアクチュエータの制御方法において、上記電圧パルスの周波数は、閾値の周波数、例えば30Hz以上であることが好ましい。上記電圧パルスの周波数を閾値以上とすることにより、アクチュエータの変位を連続的に安定して変化させることができる。ここで、閾値の周波数は、主としてアクチュエータの構成材料、膜圧などにより決まり、従来のアクチュエータの制御方法による電圧パルスの印加方法では、アクチュエータが追従できなくなる電圧パルスの周波数に略相当する。
【0020】
本発明のアクチュエータの制御方法において、上記電圧パルスのPWM値は、0%より大きく100%未満のすべての領域において好適である。すなわち、電圧パルスが存在することとなる全PWM値において、アクチュエータの変位を滑らかに安定して変化させることができる。
【0021】
本発明のアクチュエータの制御方法は、上記電圧値の絶対値は、0Vより大きく、10V以下とするのが好ましい。上記電圧パルスの印加電圧を±10V以下とすることで、効率的にアクチュエータを駆動することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のアクチュエータ駆動システムは、上記構成を備えるため、アクチュエータに対し、同一の電圧値、同一の周波数、及び同一のPWM値をもつ電圧パルスを複数回連続して印加する、電圧パルス印加ステップを作用させることができる。このため、特に相対湿度の高い環境において発生しやすいアクチュエータの変位の後戻り現象を抑制し、安定したアクチュエータの運動を実現することができる。
【0023】
また、本発明のアクチュエータ駆動システムは、少なくとも電圧パルスの周波数及び/またはPWM値を変化し得る駆動装置を備えるため、電圧値を一定に保ちつつ、上記電圧パルスの周波数またはPWM値のみ変化させた電圧パルス印加ステップを繰り返しアクチュエータに作用させ、あるいは、周波数及びPWM値を同時に変化させた電圧パルス印加ステップを繰り返しこれに作用させて、アクチュエータを制御することが可能である。したがって、上記電圧パルスの周波数及び/又はPWM値を連続的に変化させて電圧パルス印加ステップを繰り返すことにより、スムーズなアクチュエータの駆動を実現することができる。
【0024】
更に、上記電圧パルスの周波数を閾値(例えば30Hz)以上とすることにより、PWM値が0%より大きく100%未満であるすべての値において、より滑らかで迅速なアクチュエータの駆動を得ることができる。
【0025】
さらに、本発明のアクチュエータ駆動システムは、電圧パルスの印加電圧が−10V〜+10Vの範囲でアクチュエータを所望の変位で駆動することができるため、従来の電磁モータ駆動に比べて省エネルギーでアクチュエータの駆動を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明のアクチュエータ駆動システム1は、図7aに示すように、第1面12aと第2面12bとを有するフィルム12、および、フィルム12の第1面12a、第2面12b上にそれぞれ形成された第1電極14a、第2電極14bとを備えるアクチュエータ10と、アクチュエータ10に第1電源電極20a、第2電源電極20bを介して電気的に接続され、第1電極14aから第2電極14bへ正または負の電圧パルスを複数回連続して印加可能であり、少なくとも当該電圧パルスの周波数及び/またはPWM値を変化し得る駆動装置20を含む。
【0027】
アクチュエータ10は、公知のアクチュエータでよく、公知の方法で製造することができる。上記のように、図7aに示すアクチュエータ10として、例えば1cm×2cm、厚み約200μmのパーフルオロスルホン酸フィルム12の両面に、第1電極、第2電極14a、14bとして白金を無電解メッキしたものを記載したが、これに限定されるものではない。
【0028】
フィルム12は、屈曲可能な柔軟性を有し、加水分解性が少なく、大気中で安定な、例えば高分子化合物が好ましく、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系ポリマー;ポリスチレン;ポリイミド;ポリパラフェニレンオキサイド、ポリ(2,6−ジメチルフェニレンオキサイド)、ポリパラフェニレンスルフィド等のポリアリーレン類(芳香族系ポリマー)等に、スルホン酸基(−SO3H)、カルボキシル基(−COOH)、リン酸基、スルホニウム基、アンモニウム基、ピリジニウム基等を導入したもの;ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等の含フッ素系のポリマー;含フッ素系のポリマーの骨格にスルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基、スルホニウム基、アンモニウム基、ピリジニウム基等を導入したパーフルオロスルホン酸ポリマー、パーフルオロカルボン酸ポリマー、パーフルオロリン酸ポリマー、ポリブダジエン系化合物;エラストマーやゲルなどのポリウレタン系化合物;シリコーン系化合物;ポリ塩化ビニル;ポリエチレンテレフタレート;ナイロン;ポリアリレート等、4級窒素カチオンを有するアイオネン類を挙げることができる。
【0029】
上記高分子のフィルム12は含水状態で、上述したような動作原理に従って屈曲変形するが、大気中での動作ではその含水量で屈曲度に影響がでることが知られているため、フィルム12内部の水分子をイオン液体で置換してもよい。この場合でも屈曲の原理は同じであり、内部のイオン液体のイオンが移動することによって、フィルム12は屈曲変形する。
【0030】
また、フィルム12は、上記高分子電解質以外にも、誘電性材料、例えばポリフッ化ビニリデンのような膜であってもよい。ポリフッ化ビニリデン膜からなるフィルム12にイオン液体を含浸させれば、電界下、膜内の物質(イオン液体のイオン)の移動により、フィルム12は屈曲変形を生ずることができる。
【0031】
さらに、フィルム12として導電性高分子を用いてもよい。このような高分子としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリフェニレン等が挙げられる。この場合も、フィルム12内部のドーパント(イオン)の移動で、フィルム12は屈曲することが知られている。
【0032】
さらに、フィルム12として、ゾル・ゲル法などで得られる高分子構造をもつ金属酸化物も用いることができる。このような金属酸化物としては、特に限定されるものではないが、例えば、マンガン、ニッケル、コバルト、五酸化バナジウム系の金属酸化物を用いることができる。
【0033】
さらには、フィルム12として、カーボン粉末をバインダー(好ましくはフィルム12と相溶性高い材料)と混ぜたり、単独使用で接合した導電膜も用いることができる。このようなカーボンとしては、例えば、カーボンブラック、活性炭、カーボンファイバー、カーボンチューブ、グラファイト等を挙げることができる。カーボンブラックとしては、例えば、チャネルブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック等を挙げることができる。中でも、上記カーボン粉末は、カーボンナノチューブ、ファーネスブラックまたはアセチレンブラックであることが特に好ましい。これにより、より好適に電気伝導性を付与することができ、屈曲し、アクチュエータとして応用することができる。
【0034】
以上のような、様々な材料をフィルム12として用いることができるが、本実施形態においては、アクチュエータ10として、Pt-NafionTM117/Li+を従来法により作製した。図6にナフィオンTM(Nafion)の構造式を示す。
【0035】
また、第1電極14a、第2電極14bの構成材料は白金に限定されず、金その他の貴金属さらに卑金属、半導体をフィルムにメッキして使用してもよい。伸縮性のある電極材をフィルムに接合して用いてもよい。伸縮性の電極材としては微粉末をバインダーなどと混ぜることで電極を形成したもの、あるいは、布帛に導電性を付与したもの、メッシュ状の金網、多孔性金属フィルムなどである。たとえば、フィルムを構成する上記高分子化合物と同一の高分子化合物を含む高分子バインダーにカーボン粉末を分散させてペーストとし、フィルムを両面から挟んで加熱プレスし、電極として使用してもよい。
【0036】
駆動装置20は図2に模式的に示すように、波形入力用のパソコン22と、D/A変喚器24と、図示しない電力増幅器、及びアクチュエータ10の第1電極14aと第2電極14bにそれぞれ接続される第1電源電極20a及び第2電源電極20b(図7a参照)とを含んで構成される。
【0037】
駆動装置20の動作であるが、駆動装置20は、波形入力用のパソコン22に入力された波形データをD/A変喚器24でアナログ電位に変換し、これを電力増幅アンプで電流を増幅して、第1電源電極20a及び第2電源電極20bを介してアクチュエータ10に印加する。これにより、所望の印加電圧パルスの波形データを波形入力用パソコン22に入力し、アクチュエータ10に印加することができる。
【0038】
すなわち、パソコン22で波形データをテキストデータで作製(XY形式データでXは時間、Yは電位)し、DA変換ボード(D/A変喚器24)に電位を出力する。その電位を電力増幅アンプ(汎用のポテンシオスタットを利用)で電流値を増加させ、アクチュエータ10を駆動させる。アクチュエータ10の動きはフィルム12の含水量の影響(湿度の影響)を受けるので、チャンバーの中で作動テストをする。
【0039】
次に、上記アクチュエータ駆動システム1における、アクチュエータ10の屈曲変位量、発生力の測定装置及びこれらの測定方法について説明する。
【0040】
アクチュエータ10の屈曲変位量は、例えば図3aに示すような変位測定装置30aにより測定することができる。変位測定装置30aは、測定用パソコン32と、CCDカメラ34とを含み、アクチュエータ10の屈曲変位をCCDカメラ34にて測定する。図5に示すように、CCDカメラ34はアクチュエータ10の変位方向と直角方向に設置され、測定用パソコン32によりアクチュエータ10の動作軌跡を捉えるようにプログラムされている。屈曲変位Lは、アクチュエータ10に電位を印加しない場合の平衡位置を基準線として定義される。例えば屈曲変位Lは、屈曲したアクチュエータ10がその固定位置(原点)から垂直距離Xに位置する単位片と基準線との距離として測定される。なお、測定用パソコン32は、駆動装置20の波形入力用パソコン22を代用してもよい。
【0041】
あるいは、図3bに示すような変位測定装置30bによりアクチュエータ10の屈曲変位量を測定してもよい。変位測定装置30bは、波形入力用パソコン22と兼用可能な測定用パソコン32と、レーザー変位計36とを含み、レーザー変位計36によりアクチュエータ10の屈曲変位Lを測定する。図3b中、垂直距離Yは垂直距離Xと同様に定義され、垂直距離Yの位置のアクチュエータ10の単位片からのレーザー反射光から屈曲変位Lを求めることができる。CCDカメラ34を用いると画像処理が必要なため、10Hz以上の周波数の変位変化には追随できないが、レーザー変位計36は高速な変位変化にも追従することができる。
【0042】
また、アクチュエータ10の発生力は、例えば図4に示すような発生力測定装置40を用いて測定することができる。測定装置40は、例えば0.1mg精度の電子天秤(バランス)42と、アクチュエータ10を挟み込む電極44とを連動させて構成することができる。アクチュエータ10の発生力に対応した垂直方向の力を固定部分44がバランス42に伝播して、発生力を精密に測定することができる。
【0043】
以下、上記アクチュエータ駆動システム1における、アクチュエータ10の制御方法について説明する。
【0044】
本発明に係るアクチュエータ10の制御方法は、上記アクチュエータ駆動システム1の第1電極14aから第2電極14bへ、正または負の同一の電圧値、同一の周波数、及び同一のPWM値をもつ電圧パルスを複数回連続して印加する、電圧パルス印加ステップを含む。この電圧パルス印加ステップにより、周波数及びPWM値が一定で、正又は負の一定の電圧値を持つ電圧パルスを、一定時間連続してアクチュエータ10に印加して、これを駆動することができる。
【0045】
上記本発明に係る電圧パルス印加ステップによる制御法に対する、アクチュエータ10の応答を調べるため、以下のような測定を行った。
【実施例1】
【0046】
図1aは、上記電圧パルス印加ステップを表す概念図であり、v(V)を電圧パルスの入力電位(印加電圧)、τを電圧パルスの周期(s)、r(0<r<1)をPWM(Pulse Width Modulation)値とし、Tを便宜的に大周期(s)としてT/2において電圧パルスの入力電位を+v(V)から−v(V)に反転した場合を表している。
【0047】
図1aの入力電位波形におけるアクチュエータ10の応答性を調べるため、レーザー変位計36により、相対湿度(RH)40%と90%で入力電位:v=±2V、PWM値:r=0.5、大周期:T=64s、電圧パルスの周期τの周波数を1,2,5,10、25,50,100,250Hzとして変位計測を行った。この測定結果を、周波数に対する変位量の絶対値の関係として図9aに示す。
【0048】
一方、図1bは、本発明に係る電圧パルス印加ステップを用いない、従来の直流電圧印加方式の入力電位波形を表す概念図である。上記測定と同様に、図1bの入力電位波形におけるアクチュエータ10の応答性をレーザー変位計36により調べた。入力電位v=±2V、PWM値:r=0.5、大周期:T=64sを上記測定条件と同一とし、相対湿度(RH)90%、電圧パルスの周期τの周波数を5、10、25,50,100,250Hzとして上記アクチュエータ10の変位計測を行った。周波数に対する変位量の絶対値の測定結果を図9bに示す。
【0049】
図9bより、従来の直流電圧印加方式のアクチュエータ10の制御方法では、100〜250の周波数領域においてアクチュエータ10は入力電位vの変化に追従できないことが分かる。
【0050】
一方、図9aより、本発明の電圧パルス印加ステップによるアクチュエータ10の制御方法では、周波数が大きくなるほど変位量は小さくなるが、30Hz以上の周波数になっても変位量は0とならず、高周波の波形変化(入力電位vの変化)にも対応できることが分かった。
【0051】
したがって、本実施例で用いたPt-NafionTM117/Li+のアクチュエータ10の閾値の周波数は、略30Hzであることがわかる。閾値の周波数は、主としてアクチュエータ10の構成材料により決まり、従来のアクチュエータ10の制御方法による電圧パルスの印加方法では、アクチュエータが追従できなくなる電圧パルスの周波数に相当する。
【0052】
また、本発明の電圧パルス印加ステップによる制御方法では、RH90%の条件では、周波数が高くなるほど後戻り現象が緩和されることが確認された。さらに図9aより、周波数が高くなるにつれて変位量は、一定の直流電圧を印加した場合のように、スムーズに安定して変化することがわかった。
【0053】
以上の測定結果より、本発明の電圧パルス印加ステップによる制御方法を用いると、アクチュエータ10は、印加電圧パルスの周期τの周波数が閾値(本実施例において30Hz)以上の周波数領域において滑らかな周波数制御が可能であることが分かった。
【0054】
したがって、本発明のアクチュエータ10の制御方法を用いれば、上記電圧パルス印加ステップを、電圧パルスの周波数を閾値(本実施例において30Hz)以上の高周波数領域において連続的に変化させて繰り返すことによって、後戻り現象を抑制し、滑らかで安定したアクチュエータ10の駆動を行うことができる。換言すると、一定の周波数、PWM値および電圧値を持つ電圧パルスを上記一定時間印加する電圧パルス印加ステップを経た後、周波数のみ変化させた他の電圧パルス印加ステップをアクチュエータに作用させる過程を繰り返し、当該アクチュエータをスムーズに駆動することができる。
【実施例2】
【0055】
次に、電圧パルス印加ステップの周波数が閾値(本実施例において30Hz)におけるアクチュエータ10の変位量のPWM値依存性を調べるため、図1aの入力電位波形を用いて、PWM値20,50、80、100%でアクチュエータ10の変位測定を行った。測定条件は、RH40%と90%で、入力電位:v=±2V、大周期:T=64s、電圧パルスの周期:τ=0.01s(100Hz)とし、CCDカメラ34を用いて測定を行った。
【0056】
図10において、●はRH40%、▽はRH90%のアクチュエータ10の変位量を表す。なお、PWM値0%は電流の流れない状態を、PWM値100%は1周期64sの直流電流を意味する。
【0057】
PWM値が小さくなると、変位量も小さくなっている。また、PWM値が0%より大きく100%より小さい場合、すなわち、電圧パルスが存在するすべてのPWM値において、アクチュエータ10の変位量はスムーズに変化していることがわかる。
【0058】
また、本実験において、アクチュエータ10が最大変位に到達する時間は、PWM値100%未満の方がPWM値100%のときよりも速くなっていることが確認された。例えばRH40%、PWM値50%の場合、PWM値100%の場合に対し、変位は1/3に減少するが、最大変位に到達する時間は1/2に減少していた。
【0059】
したがって、本発明のアクチュエータの制御方法によれば、周波数、電圧値を一定にしてPWM値のみ連続的に変化させる上記電圧パルス印加ステップを繰り返しアクチュエータ10に作用させることにより、迅速かつ滑らかにアクチュエータ10を駆動することができる。また、上記のように図10から、0%より大きく100%より小さいPWM値の全領域で滑らかなアクチュエータの駆動が可能である。
【0060】
よって、実施例1及び2の結果より、本発明のアクチュエータの制御方法によれば、電圧値を一定に保ちつつ、上記電圧パルスの周波数またはPWM値のみ変化させた電圧パルス印加ステップを繰り返しアクチュエータに作用させ、あるいは、周波数及びPWM値を同時に変化させた電圧パルス印加ステップを繰り返しこれに作用させて、アクチュエータ10をスムーズに制御することが可能である。
【実施例3】
【0061】
上記実施例2と同条件下で、発生力測定装置40を用いて、PWM値20、50、80、90、100%の場合のアクチュエータ10の発生力の測定を行った。PWM値と発生力(mN)の関係を図11に示す。
【0062】
変位量と同様に、PWM値が小さくなれば発生力も小さくなることが分かった。
【0063】
以上、本発明のアクチュエータ駆動システムおよびアクチュエータの制御方法について説明したが、本発明は上記実施形態および実施例に限定されるものではない。アクチュエータのフィルムの材料は上記パーフルオロスルホン酸やナフィオンTM(Nafion)に限定されず、その他のイオン伝導性高分子化合物、非イオン性高分子化合物、あるいは、金属酸化物などを用いてもよい。
【0064】
また、第1電極、第2電極の構成材料は白金に限定されず、上記のように、金その他の貴金属さらに卑金属、半導体をフィルムにメッキして使用してもよい。伸縮性のある電極材をフィルムに接合して用いてもよい。伸縮性の電極材として、微粉末をバインダーなどと混ぜることで電極を形成したもの、あるいは、布帛に導電性を付与したもの、メッシュ状の金網、多孔性金属フィルムなどを使用してもよい。
【0065】
また、本発明のアクチュエータの制御方法において、アクチュエータに印加する電圧値も特に限定されないが、−10V以上、10V以下とするのが好ましい。電圧パルスの印加電圧を±10V以下とすることで、効率的にアクチュエータを駆動することができる。
【0066】
さらに、本発明のアクチュエータを複数枚直列に接続して作動させてもよい。直列に接続したアクチュエータの枚数分だけ大きな発生力を得ることが出来る。この場合も、直列に接続した各アクチュエータに印加する電圧パルスの印加電圧を、1枚当たりで±10V以下とすることで、効率的にアクチュエータを駆動することができる。例えば、3枚のアクチュエータを直列に接続し、1枚当たり2V電圧を印加した場合は、全体の3枚のアクチュエータに、計6Vの電圧を印加することになる。
【0067】
また、上記CCDカメラやレーザー変位計を使用した変位測定装置、駆動装置、発生力測定装置の構成機器及び構成も特に限定されず、それぞれの機能を発揮し得る装置を適宜使用することができる。
【0068】
その他、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づき種々の改良、修正、変更を加えた態様で実施できるものである。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明に係るアクチュエータ駆動システムおよびアクチュエータの制御方法は、大気中・水中等広範な環境下で小型・軽量な駆動全般に有用であり、電子・メカトロニクス・機械部品製造や、ロボット・玩具製造、医療・福祉器具関連、触覚等のセンサ開発などの分野での産業上利用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1a】本発明のアクチュエータ制御法における印加電圧パルスのシークエンスを示す模式図である。
【図1b】従来のアクチュエータ制御法における印加電圧のシークエンスを示す模式図である。
【図2】本発明に係るアクチュエータ駆動システムの駆動装置を示す模式図である。
【図3a】本発明に係るアクチュエータ駆動システムの変位測定装置(CCDカメラ)を示す模式図である。
【図3b】本発明に係るアクチュエータ駆動システムの変位測定装置(レーザー変位計)を示す模式図である。
【図4】本発明に係るアクチュエータ駆動システムの発生力測定装置を示す模式図である。
【図5】アクチュエータの屈曲状態を説明する模式図である。
【図6】NafionTMの構造式R;SO3-,COO-を示す構造図である。
【図7a】アクチュエータ駆動システムを示す模式図である。
【図7b】アクチュエータの屈曲状態を説明するアクチュエータ駆動システムの説明図である。
【図8a】アクチュエータに印加する電圧のシークエンスを示す模式図である。
【図8b】RH90%(a)とRH40%(b)におけるアクチュエータの変位変化の測定図である。
【図9a】本発明のアクチュエータ制御法による、周波数に対するRH90%(▽)とRH40%(●)でのアクチュエータの変位変化の測定図である。
【図9b】従来のアクチュエータ制御法による、周波数に対するRH90%でのアクチュエータの変位変化の測定図である。
【図10】本発明のアクチュエータ制御法による、PWM値に対するRH90%(▽)とRH40%(●)でのアクチュエータの変位変化の測定図である。
【図11】本発明のアクチュエータ制御法による、PWM値に対するRH90%(▽)とRH40%(●)でのアクチュエータの発生力変化の測定図である。
【符号の説明】
【0071】
1:アクチュエータ駆動システム
10:アクチュエータ
12:フィルム
12a:第1面
12b:第2面
14a:第1電極
14b:第2電極
20:駆動装置(電源)
20a:第1電源電極
20b:第2電源電極
22:波形入力用パソコン
24:D/A変喚器
30a、30b:変位測定装置
32:計測用パソコン
34:CCDカメラ
36:レーザー変位計
40:発生力測定装置
42:電子天秤(バランス)
44:電極
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面と第2面とを有するフィルムと、
該フィルムの第1面上に形成された第1電極と、該フィルムの第2面上に形成された第2電極とを備えるアクチュエータの制御方法であって、
前記第1電極から前記第2電極へ、正または負の同一の電圧値、同一の周波数、及び同一のPWM(Pulse Width Modulation)値をもつ電圧パルスを複数回連続して印加する、電圧パルス印加ステップを含むアクチュエータの制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電圧パルス印加ステップを、該電圧パルス印加ステップの周波数を変化させて複数回繰り返す、アクチュエータの制御方法。
【請求項3】
請求項1に記載の電圧パルス印加ステップを、該電圧パルス印加ステップのPWM値を変化させて複数回繰り返す、請求項1に記載のアクチュエータの制御方法。
【請求項4】
前記電圧パルスの周波数は、閾値以上の周波数である請求項1乃至3のいずれか1項に記載のアクチュエータの制御方法。
【請求項5】
前記閾値の周波数は、30Hzである請求項4に記載のアクチュエータの制御方法。
【請求項6】
前記電圧パルスのPWM値は、0%より大きく100%より小さい請求項1乃至5のいずれか1項に記載のアクチュエータの制御方法。
【請求項7】
第1面と第2面とを有するフィルム、および、該フィルムの第1面、第2面上にそれぞれ形成された第1電極、第2電極とを備えるアクチュエータと、
前記アクチュエータに電気的に接続され、前記第1電極から前記第2電極へ正または負の電圧パルスを複数回連続して印加可能であり、少なくとも該電圧パルスの周波数及び/またはPWM値を変化し得る駆動装置と、
を含むアクチュエータ駆動システム。
【請求項8】
前記電圧パルスの電圧値を変化し得る、請求項7に記載のアクチュエータ駆動システム。
【請求項1】
第1面と第2面とを有するフィルムと、
該フィルムの第1面上に形成された第1電極と、該フィルムの第2面上に形成された第2電極とを備えるアクチュエータの制御方法であって、
前記第1電極から前記第2電極へ、正または負の同一の電圧値、同一の周波数、及び同一のPWM(Pulse Width Modulation)値をもつ電圧パルスを複数回連続して印加する、電圧パルス印加ステップを含むアクチュエータの制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電圧パルス印加ステップを、該電圧パルス印加ステップの周波数を変化させて複数回繰り返す、アクチュエータの制御方法。
【請求項3】
請求項1に記載の電圧パルス印加ステップを、該電圧パルス印加ステップのPWM値を変化させて複数回繰り返す、請求項1に記載のアクチュエータの制御方法。
【請求項4】
前記電圧パルスの周波数は、閾値以上の周波数である請求項1乃至3のいずれか1項に記載のアクチュエータの制御方法。
【請求項5】
前記閾値の周波数は、30Hzである請求項4に記載のアクチュエータの制御方法。
【請求項6】
前記電圧パルスのPWM値は、0%より大きく100%より小さい請求項1乃至5のいずれか1項に記載のアクチュエータの制御方法。
【請求項7】
第1面と第2面とを有するフィルム、および、該フィルムの第1面、第2面上にそれぞれ形成された第1電極、第2電極とを備えるアクチュエータと、
前記アクチュエータに電気的に接続され、前記第1電極から前記第2電極へ正または負の電圧パルスを複数回連続して印加可能であり、少なくとも該電圧パルスの周波数及び/またはPWM値を変化し得る駆動装置と、
を含むアクチュエータ駆動システム。
【請求項8】
前記電圧パルスの電圧値を変化し得る、請求項7に記載のアクチュエータ駆動システム。
【図1a】
【図1b】
【図2】
【図3a】
【図3b】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7a】
【図7b】
【図8a】
【図8b】
【図9a】
【図9b】
【図10】
【図11】
【図1b】
【図2】
【図3a】
【図3b】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7a】
【図7b】
【図8a】
【図8b】
【図9a】
【図9b】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−5436(P2009−5436A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−161606(P2007−161606)
【出願日】平成19年6月19日(2007.6.19)
【出願人】(504145320)国立大学法人福井大学 (287)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年6月19日(2007.6.19)
【出願人】(504145320)国立大学法人福井大学 (287)
【Fターム(参考)】
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