説明

アクチュエータ

【課題】 小型化、および軽量化が可能であり、且つ耐久性の高い螺旋形状の伸縮アクチュエータを提供する。
【解決手段】 互いに対向しあう第1の長尺状アクチュエータ部と第2の長尺状アクチュエータ部と、第1の長尺状アクチュエータ部と第2の長尺状アクチュエータ部のそれぞれの長辺を互いに接続する接続部材と、を有しており、第1の長尺状アクチュエータ部の一部と、第2の長尺状アクチュエータ部の一部とが、互いに離れることで中空構造になることができ、第1の長尺状アクチュエータ部も第2の長尺状アクチュエータ部も何れも一対の長尺状電極と、電解質を有する長尺状電解質層と、を有して構成され、それぞれの内側長尺状電極を同じカソードまたはアノード電極とし、それぞれの外側長尺状電極をその反対電極として電圧を印加し、螺旋軸の方向に伸縮させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータに関し、具体的には伸縮動作する、螺旋構造を有する高分子アクチュエータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療、福祉、ロボット、電子など各種産業領域において、小型軽量で、人間との親和性の良く、生物のように柔軟な運動特性を有する、ソフトアクチュエータが求められている。
【0003】
このような技術として、高分子アクチュエータは有望な選択肢の一つとなっている。高分子アクチュエータには、ゲルアクチュエータ、イオン交換樹脂膜−金属複合体(IPMC)アクチュエータ、ポリマーとCNT(カーボンナノチューブ)の複合アクチュエータなどが知られ、電気的エネルギーを機械的エネルギーに変換することで膨張や収縮を示す。
【0004】
特許文献1において、無終端管状のチューブを螺旋状に巻いた構造の伸縮アクチュエータが記載されている。これはチューブ内に導入された流体の圧力を変化することによりチューブ径を変化させて、螺旋軸の方向に沿って全体として伸縮を示すものである。柔軟な動作性のため、医療用途への適用が想定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−303303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のような流体の圧力を利用したアクチュエータは、管状のゴム材を使用した、両端以外が密閉された構造である。すなわち流体を使用する限りは、流体の漏れを防ぐための堅牢な構造が必須となる。また、管内への流体の導入には、コンプレッサーやバルブ等の周辺機器を必要とするため、サイズや重量が大きくなり、可搬性に劣る。
【0007】
また、流体の流れる方向に沿ってチューブ径が変化するため、流体の上流と下流とで動作の不均一性が生じる。更に構成上、チューブ内の圧力損失の大きな箇所により大きな負荷がかかりやすく、駆動時に局所的に負荷がかかり易い場所が発生し、耐久性の上で課題を有していた。
【0008】
本発明は小型化、および軽量化が可能であり、且つ耐久性の高い螺旋形状の伸縮アクチュエータの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るアクチュエータは、長尺状且つ螺旋状の複合アクチュエータであって、前記複合アクチュエータは、互いに対向しあう第1の長尺状アクチュエータ部と第2の長尺状アクチュエータ部と、前記第1の長尺状アクチュエータ部と前記第2の長尺状アクチュエータ部のそれぞれの長辺を互いに接続する接続部材と、を有しており、前記第1の長尺状アクチュエータ部の一部と、前記第2の長尺状アクチュエータ部の一部とが、互いに離れることで中空構造になることができ、前記第1の長尺状アクチュエータ部も前記第2の長尺状アクチュエータ部も何れも一対の長尺状電極と、電解質を有する長尺状電解質層と、を有して構成され、前記第1の長尺状アクチュエータ部の内側長尺状電極と、前記第2の長尺状アクチュエータ部の内側長尺状電極とを同じカソードまたはアノード電極とし、前記第1の長尺状アクチュエータ部の外側長尺状電極と、前記第2の長尺状アクチュエータ部の外側長尺状電極とを前記カソードまたはアノード電極の反対電極として、それぞれの前記電極間に電圧が印加されることで、螺旋軸の方向に伸縮することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、流体を使用しないので密閉構造が不要であり、また周辺機器を大幅に簡略化できる小型且つ軽量の伸縮アクチュエータを提供することができる。
【0011】
また、螺旋体の径の変化が全体で同期して起こるため、伸縮によって生じる力が螺旋軸方向に向かって全体的に且つ同時に発生する。このため、駆動によって負荷がかかる局所部分が存在せず、局所的な材質の疲弊がないアクチュエータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態のアクチュエータの構成を説明するための概観図。
【図2】図1の領域Aを説明するための概観図。
【図3】イオン移動型高分子アクチュエータの動作を説明するための模式図。
【図4】本発明の実施の形態における接続部材の構成を説明するための領域Aを示す概観図。
【図5】本発明の第2の実施の形態のアクチュエータの構成を説明するための概観図。
【図6】本発明の第3の実施の形態のアクチュエータの構成を説明するための領域Aおよびそこから長尺方向に連なる一部を示す概観図。
【図7】本発明の第4の実施の形態における長尺状アクチュエータ部の構成を説明するための概観図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のアクチュエータにおける実施の形態について図を用いて詳細に説明する。
【0014】
本発明の螺旋状の複合アクチュエータ1は少なくとも2つの高分子アクチュエータが複合した複合アクチュエータとして構成されている。図1(a)は螺旋状の複合アクチュエータ1の外観図であり、図1(b)は図1(a)を螺旋軸Zを含む平面で切断した断面図のうち、螺旋の巻数の3つ分を示すものである。また、図2は図1(b)の領域Aを説明するための図である。また、図3は高分子アクチュエータの動作原理を説明するための模式図である。また、図4は螺旋状の複合アクチュエータの構成要素である接続部材の構造を説明するための概観図である。
【0015】
また、以後、図1(b)で表わす螺旋状の複合アクチュエータの第1の長尺状アクチュエータ部2および第2の長尺状アクチュエータ部3で形成される中空構造の最も離れた距離の幅(最大離間距離)のことをチューブ径と表わす。
【0016】
以下に、本発明を各実施形態に基づいて、詳細に説明する。
【0017】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係る螺旋状の複合アクチュエータ1は、図1に示すように、2つの長尺状アクチュエータ部2、3のそれぞれの長辺が、接続部材4を介してそれぞれ接続した構成を有する。さらにこれらが、螺旋軸Zに沿って巻かれた構造となっている。互いに長辺の両端で接続された長尺状アクチュエータ部2、3は、この接続部材以外が互いに接続されていないため、チューブのように中空構造を形成することができる。
【0018】
この長尺状アクチュエータ部2、3に、互いに逆方向に屈曲するように電気エネルギーを印加することで、中空の径を変化させる方向、即ち互いの最大離間距離を変化させるように互いが屈曲動作する。この屈曲動作が、アクチュエータ全体として作用することで、螺旋軸Zに沿った方向に伸縮する。
【0019】
長尺状アクチュエータ部2、3の構成および材料は同一であっても良く、異なっていても良いが、本実施形態においては、同一の構成および材料からなるものとして説明する。
【0020】
高分子アクチュエータとしては、エラストマー材料、イオン伝導性材料、導電性高分子材料、カーボンナノチューブ(CNT)材料など一般的に知られた各種材料を使用することが可能である。これら高分子アクチュエータの基本構造は、イオン性物質が電子導電体(電極)に挟持されたものである。電極間への電圧印加に対して、電極間の引力や、イオンの移動に伴う体積変化、静電反発などに起因して、デバイスとして屈曲運動や伸縮運動を行うことが知られている。
【0021】
これらイオン移動型の高分子アクチュエータとして、デバイスの柔軟性のためにポリマーゲルを用いることが好ましく、CNTとイオン液体からなるCNTゲルアクチュエータを用いることがより好ましい。これは、CNTが高いヤング率を持ち、大きな内部応力を有すること、また、イオン液体の不揮発性により、空気中で安定的な動作が可能なこと、による。
【0022】
図3はイオン移動型高分子アクチュエータの動作を示すための模式図であり、膜厚方向の断面を示し、一方の端部を固定部かつ通電部とするものである。
【0023】
図3(a)において、高分子アクチュエータは、一対の電極層5、7と、一対の電極層の間に配置されている電解質を有する長尺状電解質層6とを有しており、一方の端部が取り出し電極部10で固定されている。取り出し電極部10は、配線11により外部電源と接続する。図3(b)のように、一対の電極層に電圧を印加すると、電解質中の電解質(カチオン8又は/及びアニオン9)が電極層中に移動し、電極層の体積変化が生じる。カチオン8とアニオン9の嵩高さの違いにより電極層間で体積差が生じると、全体として屈曲するような動作を示す。
【0024】
これらの原理を応用して本実施形態のアクチュエータは、図2で示すように2つの長尺状高分子アクチュエータを対向するように重ねて使用している。図2は、長尺方向に垂直な面の断面図である。該構成によって、電気エネルギーの入力で互いの最大離間距離を変化させることが可能であり、螺旋のチューブ径を変化させることができる。
【0025】
長尺状アクチュエータ部2および3はそれぞれ長尺状電解質層(2b、3b)が長尺状電極に挟持された構造であり、対向し合う内側長尺状電極(2a、3a)および対向し合わない外側長尺状電極(2c、3c)を有する。
【0026】
長尺状アクチュエータ部2および3の対向し合う内側長尺状電極(2c、3c)と、対向し合わない外側長尺状電極(2a、3a)と、がそれぞれ同一の極性(カソードまたはアノード電極)になるように電圧を印加すると、図3で示したような屈曲の運動により互いの最大離間距離を変化させる。ここで言うアノード、カソードとはアクチュエータに流れる電流の方向を定義するものであり、電流はアノードからカソードへ流れるものとする。また、電流の流れる方向の変化はアノードとカソードの切り替えで行われるものとする。
【0027】
すなわち、第1の長尺状アクチュエータ部の内側長尺状電極2cと、第2の長尺状アクチュエータ部の内側長尺状電極3cとを同じカソードまたはアノード電極とする。これに対し、第1の長尺状アクチュエータ部の外側長尺状電極2aと第2の長尺状アクチュエータ部の外側長尺状電極3aとをその反対電極として、それぞれの電極間に電圧が印加されるようにする。反対電極とは、内側電極がカソード電極である場合のアノード電極であり、または内側電極がアノード電極である場合のカソード電極のことである。カソード電極とアノード電極にそれぞれ印加する電位は、互いに逆極性の電位の関係であってもよく、いずれかがアース電極として作用する関係でもよい。あるいは同極性であって、且つ電位差が生じる関係であってもよい。
【0028】
これらの電極間で、カソード―アノードの関係で電圧が印加されることで、複合アクチュエータ1が螺旋軸Zの方向に伸縮する。
【0029】
各電極層にはそれぞれ任意の電位が印加されても良いが、内側長尺状電極(2c、3c)と、外側長尺状電極(2a、3a)とがそれぞれ等電位であることが制御上、簡便であり好ましい。
【0030】
長尺状アクチュエータ部2および3は、一本の連続した構造であっても良いし、それぞれ任意の位置で分割された構造であっても良い。この場合、分割された個々のアクチュエータは、接続部材4によってそれぞれが電気的に接続している必要があり、この連なり、即ち配列全体を長尺状アクチュエータ部2および3と見なす。
【0031】
最大離間距離は図2(a)で示したB−B’に垂直な方向で大きくなるため、B−B’に水平な方向では縮むことになる。
【0032】
長尺状アクチュエータ部2と3とが対向するB−B’面を、対向面と呼ぶ。通常、対向面内に接続部材4が存在し、最大離間距離の長尺アクチュエータ部は、この対向面から最も離間した位置となる。
【0033】
図3における取り出し電極にあたるのが、接続部材4である。
【0034】
長尺状アクチュエータ部2および3の接続および固定は接続部材4を介して行なわれる。2つの接続部材4により、長尺状アクチュエータ部2および3のそれぞれの長辺同士を接続する。
【0035】
また、接続部材4は一本の連なった構成であっても良いし、任意の箇所で分割された構成であっても良い。
【0036】
接続部材4による接続は、圧着やかしめなど機械的な接続であっても良いし、接着剤等による化学的な接続であっても良い。
【0037】
接続部材4は長尺状アクチュエータ部同士を機械的に固定するだけの機能であっても良いし、電気的な接点を有して長尺状アクチュエータ部の各電極層に電圧を印加する機能を有していても良い。好ましくは、図4に示したように接続および通電の機能を有することである。この場合、接続部材4は絶縁部材と導電体がパターニングされた構造を取ることが更に好ましい。
【0038】
図4で示したように、外側長尺状電極(2a、3a)に接する外側導電部材13と、内側長尺状電極(2c、3c)に接する内側導電部材14とが、絶縁部材12によって電気的に絶縁された構成の接続部材4を用いれば、長尺状アクチュエータ部2および3の接続に際し、機械的な接続の他、電気的な接続も可能となる。
【0039】
また、該構成の接続部材4により、長尺状アクチュエータ部2および3の外側長尺状電極(2a、3a)、内側長尺状電極(2c、3c)は各々等電位に保つことが可能である。
【0040】
さらに、該構成の接続部材4が長尺方向に連続的に形成されていれば、長尺状アクチュエータ部と外部電源との接点を接続部材4に集約することが可能となる。
【0041】
また接続部材4は、長尺状アクチュエータ部2および3の最大離間距離の変化、および螺旋状の複合アクチュエータ1の螺旋軸Zに沿った方向への伸縮運動、に追従できるように柔軟な素材から成ることがより好ましい。あるいは、スプリングのように構造的に伸縮運動に追従できる形態が好ましい。
【0042】
長尺状アクチュエータ部2および3の対向し合う内側長尺状電極(2c、3c)を等電位としてある極性を印加し、対向し合わない外側長尺状電極(2a、3a)を等電位として反対の極性を印加する。これにより、長尺状アクチュエータ部2と3との最大離間距離が変化し、両者で形成された中空構造、即ち、螺旋のチューブ径を変化させる。螺旋状の複合アクチュエータ1は該変化を受けて螺旋軸の方向に伸縮運動することが可能となる。
【0043】
螺旋の一巻きを、部分的にみて一つの単位(ユニット)と見なすことができる。即ち、図1(b)で見る隣接し合う長尺状アクチュエータ部のユニット同士(N−1巻き目ユニット、N巻き目ユニット、N+1巻き目ユニット)の連結体によってアクチュエータが構成されていると言える。
【0044】
各ユニット同士の連結については、螺旋のチューブ径の変化を伝達し合う構成であれば、接続されていても良いし、接続されず接触しているのみでも良い。
【0045】
また、長尺状アクチュエータ部2および3の各ユニットの対向面は、任意の方向に向いていて構わない。
【0046】
各ユニットの対向面は螺旋軸Zと平行な方向であっても良いし、略垂直な方向であっても良いし、任意の角度を持っていても良いし、また、任意の箇所で捻じれても良い。
【0047】
特に、図1(b)のように長尺状アクチュエータ部の各ユニットの対向面が、螺旋軸Zに対して垂直(すなわち、対向面の法線方向とZ軸方向が同じ)であると、電圧印加前後でフラットな状態からチューブ径を大きくする状態を取ることで、伸張方向に駆動させる螺旋状の複合アクチュエータ1を形成することが可能である。
【0048】
勿論、電圧印加前の状態が屈曲による巻径を大きくした状態で、電圧印加によりフラットな状態に戻るように構造を設計することもできる。この場合、螺旋軸Zに沿って収縮駆動する螺旋状の複合アクチュエータ1を形成することが可能となる。
【0049】
本実施形態により、流体アクチュエータで見たような堅牢な密閉構造や周辺機器等を大幅に省略した小型軽量の伸縮アクチュエータを提供することが可能である。
【0050】
また、螺旋体のチューブ径の変化は積層方向に関わらず同期して起こるため、動作がより均一となる。このため、駆動時に負荷がかかり易い部分が解消され、局所的な材質の疲弊を低減することが可能である。
【0051】
また、長尺状アクチュエータ部2および3の対向し合う内側長尺状電極(2c、3c)は等電位であるため、お互いが接していても構わない。同様に、長尺状アクチュエータ部2および3の対向し合わない外側長尺状電極(2a、3a)は等電位であるため、長尺状アクチュエータ部のユニット同士の重なりに対して、N巻目のユニットの長尺状アクチュエータ部2の外側長尺状電極2aとN+1巻目のユニットの長尺状アクチュエータ部3の外側長尺状電極3aとが接していても構わない。このように本発明の実施の形態により、高分子アクチュエータの集積化に対する電気的接点の構成を大幅に簡略化することも可能であり、生産性においても優れている。
【0052】
以下、螺旋状の複合アクチュエータ1および長尺状アクチュエータ部2および3に関し、各材料および構成について詳しく述べていく。
【0053】
(高分子アクチュエータの構成)
高分子アクチュエータは電解質を含有し、電解質中のイオンの移動によって変形動作するアクチュエータである。電解質とポリマーを含有する電解質層の両側表面に、導電材と電解質とポリマーを含有する電極層が形成される。各層は柔軟性を有し、矩形状に構成される。各層はバルクとしてのフィルム体、ファイバー構造の集積によるフィルム体等、任意に形成可能である。また、電極層は両側とも同一の材料、構成であっても良いし、異なっていても良い。
【0054】
(高分子アクチュエータの構成材料)
高分子アクチュエータを構成する部材について、代表的な材料を説明する。
【0055】
<電解質層>
長尺状電解質層は電解質(即ち、溶融状態でイオン性を示す物質)とポリマーとを含む柔軟材料であり、イオン性物質を含有する非イオン性高分子化合物、あるいはイオン伝導性高分子化合物である。これら材料では電場下で電荷が移動して電流が流れるときに、イオンが電荷の担い手となる。
【0056】
ポリマーとしては、例えば、テトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなどの含フッ素系ポリマー;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系ポリマー;ポリブダジエン系化合物;エラストマーやゲルなどのポリウレタン系化合物;シリコーン系化合物;熱可塑性のポリスチレン;ポリ塩化ビニル;ポリエチレンテレフタレート等を挙げることができる。
【0057】
これらは単独あるいは複数を組み合わせて用いてもよく、また官能基化してもよく、他のポリマーとの共重合体としてもよい。
【0058】
これらポリマーに含有されるイオン性物質としては、例えば、フッ化リチウム、臭化リチウム、臭化ナトリウム、塩化マグネシウム、硫酸銅、酢酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム等を挙げることができる。
【0059】
また、イオン性物質としてイオン液体を用いれば空気中での駆動における耐久性が向上するためより好ましい。
【0060】
ここでイオン液体とは、常温溶融塩または単に溶融塩などとも称されるものであり、常温(室温)を含む幅広い温度域で溶融状態を呈する塩であり、例えば0℃、好ましくは−20℃、さらに好ましくは−40℃で溶融状態を呈する塩である。また、イオン液体はイオン伝導性が高いものが好ましい。
【0061】
イオン液体には各種公知のものを使用することができるが、実使用温度域において液体状態を呈する安定なものが好ましい。好適なイオン液体としては、イミダゾリウム塩、ピリジニウム塩、アンモニウム塩、ホスホニウム塩などが挙げられ、単独あるいは複合して用いてもよい。
【0062】
本発明の電解質層としては、電解質にイオン液体を、ポリマーとしてポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体[PVDF(HFP)]やポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いたものが好適に挙げられる。
<電極>
電極は、導電材料とポリマーの複合体からなる柔軟電極、あるいは導電材料からなる柔軟な薄層電極から成る。
【0063】
導電材料としては、アクチュエータ性能に悪影響を及ぼさないものならば特に問わない。黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウイスカー、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、カーボンマイクロコイルなどの各種炭素材料や、金属(白金、パラジウム、ルテニウム、銀、鉄、コバルト、ニッケル、銅、インジウム、イリジウム、チタン、アルミニウム等)粉(微粒子)、金属化合物(酸化スズ、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化第二スズ、ITO等)、金属繊維、導電性セラミックス材料、導電性高分子材料、等が挙げられる。電極はこれら導電材料を1種またはそれらの混合物として含有する。
【0064】
本発明の導電材料としては、導電性及び比表面積の観点より、ナノ構造を有する炭素材料が好ましく、特に好ましくは、カーボンナノチューブ(CNT)である。また、カーボンナノチューブとイオン液体とのCNTゲルはCNTのバンドルがイオン液体との自己組織化によりゲル化してCNTが効果的に分散しているなどの利点があり、電極材料として極めて好適である。
【0065】
電極に含まれるポリマーとしては、アクチュエータの動作に追従できる柔軟性を有するものであれば特に限定されるものではないが、加水分解性が少なく、大気中で安定であることが好ましい。
【0066】
このようなポリマーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系ポリマー;ポリスチレン;ポリイミド;ポリパラフェニレンオキサイド、ポリ(2,6−ジメチルフェニレンオキサイド)、ポリパラフェニレンスルフィド等のポリアリーレン類(芳香族系ポリマー);ポリオレフィン系ポリマー、ポリスチレン、ポリイミド、ポリアリーレン類(芳香族系ポリマー)等に、スルホン酸基(−SOH)、カルボキシル基(−COOH)、リン酸基、スルホニウム基、アンモニウム基、ピリジニウム基等を導入したもの;ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等の含フッ素系のポリマー;含フッ素系のポリマーの骨格にスルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基、スルホニウム基、アンモニウム基、ピリジニウム基等を導入したパーフルオロスルホン酸ポリマー、パーフルオロカルボン酸ポリマー、パーフルオロリン酸ポリマー等;ポリブダジエン系化合物;エラストマーやゲルなどのポリウレタン系化合物;シリコーン系化合物;ポリ塩化ビニル;ポリエチレンテレフタレート;ナイロン;ポリアリレート等を挙げることができる。
【0067】
また、導電性を有する高分子を用いることもでき、かかる高分子としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリフェニレン等を挙げることができる。
【0068】
尚これらは単独あるいは複数を組み合わせて用いてもよく、また官能基化してもよく、他のポリマーとの共重合体としてもよい。
【0069】
また、上記ポリマーは、電解質層と相溶性の高いポリマーであることが好ましい。電解質層との相溶性および接合性が高いことで、強固に密着した電極を構成することが可能となる。このためポリマーは、電解質層を構成する高分子化合物と、同種、類似または同一のポリマー構造を有するポリマー、または、同種、類似または同一の官能基を有するポリマーであることが好ましい。
【0070】
また、電極をめっきや蒸着、スパッタなどで薄い金属層として形成してもよい。このような電極を電解質層に直接形成する場合には、電極は導電材のみから形成されると見なしてもよい。
【0071】
本発明の電極としては、導電材であるCNTと、イオン液体と、PVDFを混練したゲル状電極が好適に挙げられる。
【0072】
(電解質層と電極の接合)
長尺状電解質層と電極の接合により長尺状アクチュエータ部2および3が形成される。
【0073】
電解質層および電極は任意の形状・サイズに切り揃えられる。高分子アクチュエータ1を形成する方法としては、特に限定されるものではないが、電解質層の両面に電極を挟持するよう配置し、加熱プレスする方法を好適に用いることができる。
【0074】
加熱プレスの温度やプレス圧、時間は、高分子バインダの分解温度以下であれば特に限定されるものではなく、用いる高分子バインダ、アクチュエータを構成する高分子化合物、移動するイオン種等に応じて適宜選択すればよい。例えば、加熱プレスの温度は、30℃以上150℃以下であることが好ましい。また、プレス圧は1kg/cm以上100kg/cm以下であることが好ましく、10kg/cm以上50kg/cm以下であることがより好ましい。
【0075】
また、電解質層の表面にめっきや蒸着、スパッタなどで薄く金属層を形成する方法であっても構わない。
【0076】
高分子アクチュエータに、水、イオン性物質、イオン液体、またはこれらの混合物を素子作製後に含ませる場合には、これらの溶液に高分子アクチュエータを含浸させればよい。ここで、含浸させる溶液の濃度、含浸させる時間は、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いればよい。
【0077】
(長尺状アクチュエータ部の接続)
長尺状アクチュエータ部2および3は接続部材4を介して長辺同士を接続される。接続部材4の好ましい構成は図4で示すように外側導電部材13および内側導電部材14が絶縁部材12によってパターニングされた構成である。
【0078】
長尺状アクチュエータ部2および3の外側長尺状電極(2a、3a)は外側導電部材13に接触し、内側長尺状電極(2c、3c)は内側導電部材14に接触する。これにより、長尺状アクチュエータ部2および3の外側長尺状電極(2a、3a)、内側長尺状電極(2c、3c)は各々等電位に保つことが可能である。
【0079】
接続部材4の外側導電部材13および内側導電部材14の材料としては、金属、カーボンなどの各種導電材料が適用可能である。また、絶縁部材12の材料としては、ゴム、樹脂、セラミック、ガラスなどの各種絶縁材料が適用可能である。
【0080】
また、接続部材4は長尺状アクチュエータ部2および3の離間距離の変化および螺旋状の複合アクチュエータ1の螺旋軸Zに沿った方向への伸縮運動に追従できるように柔軟な素材から成ることがより好ましい。このため、外側導電部材13および内側導電部材14の材料としては、高分子アクチュエータの電極層と同様に、柔軟なポリマー骨格に導電粒子を分散させた構造、あるいは、フレキシブルな金属薄層が好ましい。絶縁部材12も同様にゴムのような柔軟な絶縁性ポリマーからなる材料を用いることが好ましい。
【0081】
また、外側導電部材13および内側導電部材14のパターニングは、絶縁部材12上への配置で行なわれる。めっきやスパッタ、スプレーなど各種の技術を用いることも可能である。確実な電気的なパターニングのために、絶縁部材12の抵抗は10Ωm以上1018Ωm以下が好ましく、あるいは、外側導電部材13と内側導電部材14の間の電気抵抗が1kΩ以上であることが好ましい。
【0082】
接続部材4は、絶縁部材12と外側導電部材13と内側導電部材14から成り、例えば断面形状でT字型に形成される。T字の横棒に外側導電部材13が、縦棒に内側導電部材14がパターニングされる。内側導電部材14を挟み込むように長尺状アクチュエータ部2および3を配置し、外側導電部材13を長尺状アクチュエータ部側に折り返すことで、機械的な接続と電気的な接続が同時に行なわれる。同様な構成を取ることができれば、接続部材4の構成は限定されるものではない。
【0083】
(螺旋構造の作製)
接続部材4によってユニット化された長尺状アクチュエータ部2および3は螺旋軸Zに沿うように巻かれ螺旋状の複合アクチュエータ1を形成する。ガイドが設けられた回転体を中心に長尺状アクチュエータ部のユニットを巻いていけば、各ユニットの対向面を螺旋軸に対して垂直に形成することは比較的容易である。また、このとき、ポリマー材料のガラス転移温度付近にまで加熱することで、外圧により形状をより容易に変えることができる。
【0084】
長尺状アクチュエータ部のユニットは隣接する電極層(2a、3a)同士で接続されても良い。また、隣接する接続部材4同士で接続しても構わない。また、螺旋体のチューブ径の変化を隣接するユニットに伝達することができれば、必ずしも接続する必要はない。
【0085】
本発明の螺旋状の複合アクチュエータ1の大きさは、用いる用途に応じて適宜選択できる。例えば、螺旋体の直径が1mm以上10cm以下の断面を有し、螺旋体のZ軸方向の長さが1mm以上10cm以下の螺旋状の複合アクチュエータを作成できる。
【0086】
(螺旋状の複合アクチュエータの駆動)
図2(b)に示すように、螺旋状の複合アクチュエータ1に対して、接続部材4を介して外部電源21と接続し、第1および第2の長尺状アクチュエータ部(2、3)の外側長尺状電極(2a、3a)と、内側長尺状電極(2c、3c)の間に電圧を印加する。
【0087】
長尺状アクチュエータ部2および3は、電圧印加に対する電解質の移動を受けて、屈曲動作を示す。
【0088】
該動作によって長尺状アクチュエータ部2および3は互いの最大離間距離を変化させ、螺旋のチューブ径を変化させる。
【0089】
該変化が長尺方向に沿って生じることで、螺旋のチューブ径が全体として均一に変化し、隣り合うユニット同士に変化を伝達し合うため、螺旋状の複合アクチュエータ1は螺旋軸に沿って伸縮運動を示す。
【0090】
本実施形態のように、長尺状アクチュエータ部の各ユニットの対向面が、螺旋軸に対して垂直であると、電圧印加前後でフラットな状態からチューブ径を大きくする状態を取ることで、伸張方向に駆動させる螺旋状の複合アクチュエータ1を形成することが可能である。該螺旋状の複合アクチュエータ1の構成により、螺旋軸に沿った大きな伸張方向への変位と伸張方向へ押す力の取り出しが可能となる。
【0091】
勿論、電圧印加前の状態が屈曲によるチューブ径を大きくした状態で、電圧印加によりフラットな状態に戻るように構造を設計することもできる。この場合、螺旋軸Zに沿って収縮駆動する螺旋状の複合アクチュエータ1となる。
【0092】
また、電圧印加前の状態が前記2つの構成の中間(屈曲によりややチューブ径を大きくした状態)にあたり、一方の極性の電圧印加でフラットな状態になり、反対の極性の電圧印加でより屈曲した状態になる、伸張動作と収縮動作を任意に行うことのできる伸縮アクチュエータを形成することも可能である。
【0093】
(第2の実施形態)
第1の実施形態の変形例として、各ユニットの対向面を螺旋軸Zに沿う方向、すなわち螺旋軸に平行な方向に巻いて螺旋状の複合アクチュエータ1を形成することも可能である。
【0094】
図5は螺旋状の複合アクチュエータ1を螺旋軸Zを含む平面で切断した断面図のうち、螺旋の巻数の2つ分を示すものであり、各ユニットの対向面を螺旋軸に沿うように巻いた場合の(a)駆動前、(b)電圧印加時の様子を示すものである。すなわち、各ユニットの対向面は、常に螺旋軸に平行な方向に広がる領域を有している。
【0095】
図5に示すように、螺旋状の複合アクチュエータ1は、電圧印加に対する長尺状アクチュエータ部2および3の離間距離の変化により、螺旋のチューブ径を変化させる。該変化が長尺方向に沿って生じることで、螺旋のチューブ径が全体として均一に変化し、隣り合うユニット同士に変化を伝達し合うため、螺旋状の複合アクチュエータ1は螺旋軸に沿って伸縮運動を示す。
【0096】
長尺状アクチュエータ部2および3は電圧印加前では屈曲を示さず、ユニットとしてフラットな状態であり、電圧印加により屈曲して最大離間距離を大きくする。最大離間距離は図2(a)で示したB−B’に垂直な方向で大きくなるため、B−B’に水平な方向では縮むことになる。
【0097】
このため、本実施の形態のように、長尺状アクチュエータ部の各ユニットの対向面が、螺旋軸に沿った方向を向いていると、電圧印加前後で螺旋軸に沿って収縮方向に駆動させる螺旋状の複合アクチュエータ1を形成することが可能である。該螺旋状の複合アクチュエータ1の構成により、螺旋軸に沿った収縮方向への変位と収縮方向へ引く力の発生が可能である。
【0098】
勿論、電圧印加前の状態が屈曲によるチューブ径を大きくした状態で、電圧印加によりフラットな状態に戻るように構造を設計することもできる。この場合、螺旋軸Zに沿って伸張駆動する螺旋状の複合アクチュエータ1を形成することができる。
【0099】
また、電圧印加前の状態が前記2つの構成の中間(屈曲によりややチューブ径を大きくした状態)にあたり、一方の極性の電圧印加でフラットな状態になり、反対の極性の電圧印加でより屈曲した状態になる、伸張と収縮を任意に行なえる伸縮アクチュエータを形成することも可能である。
【0100】
また、各ユニットの対向面を螺旋軸に対して垂直に巻く場合よりも、プロセス的に容易となる。本実施の形態のように各ユニットの対向面を螺旋軸に沿って巻くと、接続部材4同士が隣り合う構成となる。接続部材4が図4で示すように外側導電部材13が外側表面に来るよう形成されていれば、接続部材同士が接触しても大丈夫である。長尺状アクチュエータ部のユニットは隣接する接続部材4同士で接続しても構わないし、また、螺旋のチューブ径の変化を隣接するユニットに伝達することができれば、必ずしも接続する必要はない。
【0101】
また、螺旋軸に沿って巻いた場合に、各ユニットの対向面同士で接続する構成であってもかまわない。
【0102】
本実施の形態により、流体アクチュエータで見たような堅牢な密閉構造や周辺機器等を大幅に省略した小型軽量の伸縮アクチュエータを提供することが可能である。
【0103】
また、螺旋体のチューブ径の変化は積層方向に関わらず同期して起こるため、動作がより均一となる。このため、駆動時に負荷がかかり易い部分が解消され、局所的な材質の疲弊を低減することが可能である。
【0104】
また、高分子アクチュエータの集積化に対する電気的接点の構成を大幅に簡略化することも可能であり、生産性においても優れている。
【0105】
(第3の実施形態)
本実施形態は、第1の実施形態の変形例であり、長尺状アクチュエータ部2および3が任意の位置で分割された構造である。
【0106】
図6は長尺状アクチュエータ部のユニットであり、図1(b)で示した断面領域Aおよび、そこから長尺方向に連なる一部を示す図である。
【0107】
長尺状アクチュエータ部2および3にはそれぞれ対向する位置に一以上のスリット15が形成され、分割されている。ここで、スリット15は、長尺状アクチュエータ部を構成する電極層および長尺状電解質層に入る切れ目のことであり、三層をまとめて切断しても良く、電極層のみに切れ目を入れても良い。フィルムの曲がりやすさは断面形状に依存し、長さや膜厚が等しければ、幅が小さなものほど曲がりやすくなるため、三層をまとめて切断することが好ましい。スリットの幅は任意であるが、螺旋状の複合アクチュエータのデッドスペースになるので、なるべく小さい方が好ましい。
【0108】
スリット15は、長尺状アクチュエータ部2および3の長尺方向に対し、垂直な方向に形成されても良く、任意の角度を持った方向に形成されても良い。
【0109】
また、少なくとも一方の端部が接続部材4で接続・固定されていれば、スリットの位置は長尺方向に沿った方向でも良い。
【0110】
また、分割された個々のアクチュエータの配列全体を長尺状アクチュエータ部2および3と見なす。
【0111】
スリット15は、長尺状アクチュエータ部2および3の一方、あるいは両方の任意の一以上の箇所に形成され、スリット位置は揃っていても良く、揃っていなくても良い。螺旋状の複合アクチュエータ1の均一動作のために、スリット15は規則性を持つことがより好ましい。
【0112】
長尺状アクチュエータ部2および3にスリットが入っている場合は、電極層(2a、2c、3a、3c)の導電パスが断続的に切断されるため、接続部材4は図5で示すように導電パスを有した一本の連なった構造が好ましい。
【0113】
一般に、フィルムの曲がりやすさは断面形状に依存し、長さや膜厚が等しければ、幅が小さなものほど曲がりやすくなる。そのため、本実施形態のように長尺状アクチュエータ部2および3にスリット15を設けて分割することで、長尺状アクチュエータ部はチューブ径の変化をより大きくするように動作しやすくなる。そのため、螺旋状の複合アクチュエータ1は螺旋軸に沿ってより大きな伸縮動作を示すようになる。
【0114】
(第4の実施形態)
本実施形態は、第1の実施形態の変形例であり、長尺状アクチュエータ部2および3を成す電極層および電解質層の少なくとも一部をポリマー繊維から成るフィルム体で形成したものである。
【0115】
図7(a)は長尺状アクチュエータ部のユニットであり、図1(b)で示した断面領域Aおよび、そこから長尺方向に連なる一部を示す図であり、図7(b)は図7(a)の領域Cの構成を示す図である。
【0116】
図7では、ポリマー繊維電解質層18は電解質層ポリマー繊維16を集積して形成されたフィルム体であり、同様にポリマー繊維電極層19は電極層ポリマー繊維17を集積して形成されたフィルム体である。また、各層のポリマー繊維は長尺方向に垂直な方向に配向した形で表されている。
【0117】
電解質ポリマー繊維16および電極層ポリマー繊維17は、それぞれ既述の材料を用いて繊維状に形成されたものである。電解質ポリマー繊維は繊維内に電解質を含んでも良く、フィルム形成後に電解質をフィルム体に浸潤させても良い。電極層ポリマー繊維17は繊維内に導電材料を含んでいても良く、繊維の外側表面に導電材料が配置されていても良い。また、同様に繊維内に電解質を含んでも良く、フィルム形成後に電解質を浸潤させても良い。
【0118】
ポリマー繊維の作製法としては、特に限定されないが、例えば、エレクトロスピニング法、複合紡糸法、ポリマーブレンド紡糸法、メルトブロー紡糸法、フラッシュ紡糸法等があげられる。このなかで様々なポリマーに対して繊維形状に紡糸できること、また繊維形状のコントロールが比較的簡便であり、ナノサイズの繊維を得ることができることから、エレクトロスピニング法が好ましく用いられる。
【0119】
エレクトロスピニング法によるポリマー繊維の製造方法は、高圧電源、ポリマー溶液・貯蔵タンク、紡糸口、およびアースされたコレクターを用いて行う。ポリマー溶液はタンクから紡糸口まで一定の速度で押し出される。紡糸口では、1から50kVの電圧が印加されており、電気引力がポリマー溶液の表面張力を越える時、ポリマー溶液のジェットがコレクターに向けて噴射される。この時、ジェット中の溶媒は徐々に揮発し、コレクターに到達する際には、ジェットサイズがナノレベルまで減少する。そしてコレクターにおいてポリマー繊維層を形成する。
【0120】
ポリマー繊維の配向方法に関しては、特に限定されるものではなく、公知の技術を適宜、また場合によっては組み合わせて用いることができる。例えば、上述したエレクトロスピニング法では、繊維巻き取り可能な回転ドラムをコレクターとして用い、巻き取りつつ連続的に紡糸することで、面内で同一方向に配向したポリマー繊維を作製することが出来る。
【0121】
電解質層および電極層に用いられるポリマー繊維は同一な方向を向くように配向されても良く、また、ランダムに堆積させた構成であっても良い。
【0122】
ポリマー繊維層は多層であっても良い。この場合、異なる層間の配向の向きは同じであっても良く、異なっていても良い。例えば、少なくとも一層が長尺方向に配向し、他層の少なくとも一層が長尺方向に垂直な方向に配向するような網目状構造を取ることで、高分子アクチュエータの機械的強度をより高めることも可能である。
【0123】
ポリマー繊維は径に対して長さが十分に長いものであり、エレクトロスピニング法で形成する場合、径として0.01μm以上50μm以下が製作可能である。繊維径が小さい程、体積あたりの充填量を柔軟に調整することができるため、0.05μm以上1μm以下がより好ましい。
【0124】
特に図7で示すように、ポリマー繊維長尺状電解質層18およびポリマー繊維電極層19が長尺方向に対して垂直な方向に配向すると、長尺状アクチュエータ部2および3が屈曲動作する方向、即ち配向方向の曲げに対する機械的強度が大きくなるため、フィルムとして力を引き出し易い構造となる。このため、螺旋状の複合アクチュエータ1の発生力が大きくなる。
【0125】
また、相対的にポリマー繊維長尺状電解質層18およびポリマー繊維電極層19が長尺方向に沿った方向に配向すると、長尺状アクチュエータ部2および3が屈曲動作する方向、即ち配向方向の曲げに対する機械的強度が小さくなるため、フィルムとして変位し易い構造となる。このため、螺旋状の複合アクチュエータ1の変位量が大きくなる。
【0126】
このため、本実施の形態により、曲げに対する機械的強度を配向の方向によって任意に調整することができるため、アクチュエータとしての変位量、或いは発生力をある程度調整することが可能となる。
【0127】
加えて、本実施の形態のように、長尺状電解質層や電極層をポリマー繊維で形成することで、フィルム内に占める空隙の存在率を、キャスト法で形成したバルク状のフィルム体よりも大きくすることができる。
【0128】
空隙が大きく多いほど、電解質の移動が容易となるため、高分子アクチュエータの特性を向上させることが可能となる。
【0129】
このため、本実施の形態により、バルク状のフィルム体からなる高分子アクチュエータを使用したものに比して、螺旋状の複合アクチュエータ1の伸縮量や発生力を向上させることが可能である。
【符号の説明】
【0130】
1 螺旋状の複合アクチュエータ
2 第1の長尺状アクチュエータ部
2a 第1の長尺状アクチュエータ部の外側長尺状電極
2b 第1の長尺状アクチュエータ部の長尺状電解質層
2c 第1の長尺状アクチュエータ部の内側長尺状電極
3 第2の長尺状アクチュエータ部
3a 第2の長尺状アクチュエータ部の外側長尺状電極
3b 第2の長尺状アクチュエータ部の長尺状電解質層
3c 第2の長尺状アクチュエータ部の内側長尺状電極
4 接続部材
5 イオン移動型高分子アクチュエータの第1の電極層
6 イオン移動型高分子アクチュエータの電解質層
7 イオン移動型高分子アクチュエータの第2の電極層
8 カチオン
9 アニオン
10 取り出し電極部
11 配線
12 絶縁部材
13 外側導電部材
14 内側導電部材
15 スリット
16 電解質層ポリマー繊維
17 電極層ポリマー繊維
18 ポリマー繊維電解質層
19 ポリマー繊維電極層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状且つ螺旋状の複合アクチュエータであって、前記複合アクチュエータは、互いに対向しあう第1の長尺状アクチュエータ部と第2の長尺状アクチュエータ部と、前記第1の長尺状アクチュエータ部と前記第2の長尺状アクチュエータ部のそれぞれの長辺を互いに接続する接続部材と、を有しており、前記第1の長尺状アクチュエータ部の一部と、前記第2の長尺状アクチュエータ部の一部とが、互いに離れることで中空構造になることができ、前記第1の長尺状アクチュエータ部も前記第2の長尺状アクチュエータ部も何れも一対の長尺状電極と、電解質を有する長尺状電解質層と、を有して構成され、
前記第1の長尺状アクチュエータ部の内側長尺状電極と、前記第2の長尺状アクチュエータ部の内側長尺状電極とを同じカソードまたはアノード電極とし、
前記第1の長尺状アクチュエータ部の外側長尺状電極と、前記第2の長尺状アクチュエータ部の外側長尺状電極とを前記カソードまたはアノード電極の反対電極として、
それぞれの前記電極間に電圧が印加されることで、螺旋軸の方向に伸縮することを特徴とする複合アクチュエータ。
【請求項2】
前記第1の長尺状アクチュエータ部と、前記第2の長尺状アクチュエータ部とが対向する対向面が螺旋軸に対して垂直である請求項1に記載の複合アクチュエータ。
【請求項3】
前記第1の長尺状アクチュエータ部と、前記第2の長尺状アクチュエータ部とが対向する対向面が螺旋軸に対して平行である請求項1に記載の複合アクチュエータ。
【請求項4】
前記第1の長尺状アクチュエータ部および前記第2の長尺状アクチュエータ部の少なくとも一方に、一以上のスリットが形成されている請求項1から3のいずれかに記載の複合アクチュエータ。
【請求項5】
前記接続部材は、前記外側長尺状電極、および/または、前記内側長尺状電極に通電するための導電パスが形成されている請求項1から4のいずれかに記載の複合アクチュエータ。
【請求項6】
前記複合アクチュエータは、カーボンナノチューブとイオン液体を少なくとも含む高分子アクチュエータで形成されていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の複合アクチュエータ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−39741(P2012−39741A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177315(P2010−177315)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】