説明

アクティブヘッドレスト

【課題】ヘッドレストを構成する固定体と可動体との相互の分割部が突き合わされた状態において、分割部の相対的な位置を安定させるとともに、分割部に隙間が生じることも解消する。
【解決手段】ヘッドレスト10が固定体10Aと可動体10Bとに分割され、可動体が前後方向へ移動するように構成されたアクティブヘッドレストであって、固定体10Aおよび可動体10Bにおける相互の分割部14,16の一方が受入空間34,35を備え、他方が受入空間に進入可能な縁部22を備えている。受入空間はその分割部16の表面と、その内側において分割部に沿った方向へ連続して設けられた立壁32,33との間に構成され、該受入空間34,35の開放面は表皮42によって被われている。可動体と固定体との相互の分割部14,16が突き合わされるとき、受入空間34,35に対して縁部22が表皮42を押しながら進入するように設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッドレストが背面側の固定体と前面側の可動体とに分割され、固定体に対して可動体が前後方向へ移動する形式のアクティブヘッドレストに関する。
【背景技術】
【0002】
この種のアクティブヘッドレストについては、例えば特許文献1に開示された技術が既に知られている。この技術では、ヘッドレストを構成する背面側の固定体と前面側の可動体とがリンクで連結され、このリンクを作動させることで可動体を固定体に対して前後方向へ移動させるようになっている。これにより、シート着座者の頭部とヘッドレストの前面との距離が制御される。なお可動体が最も後方へ移動したヘッドレストの通常状態においては、この可動体と固定体との相互の分割部が突き合わされた状態になる。
【特許文献1】特開2005−161932号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に開示されているヘッドレストでは、固定体と可動体との相互の分割部が突き合わされたとき、可動体側の接触面に固定体側の縁が単に押し当てられるだけであり、相互の相対的な位置が安定しにくい。特にプリクラッシュシステムにおけるアクティブヘッドレストのように、衝突予知および衝突回避によって可動体の前後方向への移動が繰り返されると、固定体と可動体との分割部に位置ずれが生じやすい。また相互の分割部において、例え僅かでも光の透る隙間が生じると、視覚的には隙間が目立って意匠性が損なわれるとともに、ヘッドレストの通常状態における固定体と可動体との一体感が出ない。
【0004】
本発明は、このような課題を解決しようとするもので、その目的は、固定体と可動体との相互の分割部が突き合わされた状態において、分割部の相対的な位置を安定させるとともに、分割部に隙間が生じることも解消することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の目的を達成するためのもので、以下のように構成されている。
第1の発明は、ヘッドレストが背面側の固定体と前面側の可動体とに分割され、固定体に対して可動体が前後方向へ移動するように構成されたアクティブヘッドレストであって、固定体および可動体における相互の分割部の一方が受入空間を備え、他方が受入空間に進入可能な縁部を備えている。受入空間はその分割部の表面と、その内側において分割部に沿った方向へ連続して設けられた立壁との間に構成されているとともに、該受入空間の開放面は分割部の表面側から立壁にかけて張られた表皮によって被われている。そして可動体が最も後方へ移動してその分割部と固定体の分割部とが突き合わされるときに、一方の分割部の受入空間に対して他方の分割部の縁部が表皮を押しながら進入するように設定されている。
【0006】
このように固定体と可動体との相互の分割部とが突き合わされるときに、受入空間の開放面を被っている表皮に縁部を押し当てながら受入空間に進入させることにより、この表皮が縁部の進入を案内する機能を果たす。したがって突き合わされた後の分割部の相対的な位置が互いにずれることなく安定し、かつ、表皮が縁部によって受入空間に押し込まれた状態となることも相まって分割部に隙間が生じるのを解消できる。この結果、分割部が突き合わされたヘッドレストの通常状態における固定体と可動体との一体感を出すことができる。
【0007】
第2の発明は、第1の発明に記載されたアクティブヘッドレストであって、ヘッドレストを構成する固定体および可動体は、個々の骨格をなすボードを備えているとともに、分割部の受入空間を構成するための立壁が、分割部に沿った方向へ連続してボードと一体に成形されている。
【0008】
これにより、一方の分割部の受入空間に進入した他方の分割部の縁部が、ボードと一体の立壁によってしっかりと支えられ、例えばヘッドレストに加わる外力によって分割部に位置ずれが生じるといったことを防止できる。
【0009】
第3の発明は、第1の発明に記載されたアクティブヘッドレストであって、ヘッドレストを構成する固定体および可動体は、個々の骨格をなすボードを備えている。そして分割部の受入空間を構成するための立壁が、分割部に沿った方向へ間隔をもってボードと一体に成形された複数個の支持部と、受入空間の開放面を被う表皮の裏面側に固定されて各支持部で定位置に支持され、かつ、分割部に沿った方向へ連続したプレートとで構成されている。
【0010】
この構成により、例えば受入空間が構成されるボードの成形金型を設計する上で、一体の連続した立壁があると型開きができない場合でも、連続した立壁による受入空間と同等の性能を有する受入空間を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面を用いて説明する。
図1で示す車両用シートのヘッドレスト10は、シートバック(図示省略)の上部に対してステー12を介して装着される。このヘッドレスト10は、ステー12に支持された背面側の固定体10Aと、シート着座者の頭部に対向する前面側の可動体10Bとに分割されている。可動体10Bは固定体10Aに対して図1の実線位置と仮想線位置との間を前後方向へ移動することができる。そして可動体10Bが図1の実線で示すように最も後方へ移動した状態、つまりヘッドレスト10の通常状態においては固定体10Aと可動体10Bとの相互の分割部14,16は突き合わされている。
【0012】
図2はヘッドレスト10の縦断面図である。この図面で示すように固定体10Aおよび可動体10Bは、それぞれの骨格となるボード20,30を備えている。これらのボード20,30は個々に樹脂による一体成形品であり、それぞれの内側には固定体10Aと可動体10Bとの分割部14,16において相互に開放された空間が確保されている。両ボード20,30は、それぞれの内部空間に組み込まれるリンク(図示省略)によって相互に連結され、このリンクを作動させることで可動体10Bが前後方向へ移動するように構成されている。なお固定体10Aの内部空間には、リンクを作動させるための駆動機構(図示省略)が組み込まれる。
【0013】
ヘッドレスト10の背面側を構成する固定体10Aにおけるボード20の表面は表皮28で被われており、この表皮28は固定体10Aの分割部14に相当するボード20の縁部22も被っている。またボード20の下部には、ヘッドレスト10のステー12を挿通させる貫通孔24が開けられている。この貫通孔24にはリング部材26が装着されており、貫通孔24の部分でカットされた表皮28の縁がボード20から剥がれないようにリング部材26によって押さえられている。
【0014】
ヘッドレスト10の前面側を構成する可動体10Bのボード30に対しては、その表面にパッド40が設けられ、かつ、このパッド40を包み込む状態で表皮42が被せ付けられている。このボード30において、可動体10Bの分割部16に相当する箇所の内側には立壁32が一体に成形されている。この立壁32は、図3からも明らかなようにボード30の上部および両側部の範囲において分割部16に沿った方向へ連続している。これにより、分割部16におけるボード30の表面と立壁32との間には溝状の受入空間34が連続して構成されている。
【0015】
受入空間34に対しては、固定体10Aの分割部14におけるボード20の縁部22が進入可能である。また受入空間34と対応する箇所の表皮42は、図4から明らかなように立壁32を経てその内側まで巻き込まれている。これにより、受入空間34の開放面が表皮42の一部で被われている。なお表皮42は、その端部の縁に挿通させたワイヤ44をボード30の内側に留めることで、一定の張力が与えられた状態に保たれる。
【0016】
ボード30の下部には、分割部16の内側において複数個の支持部36が所定の間隔で成形されている(図3)。図5から明らかなように各支持部36の内側まで巻き込まれた表皮42の裏面には、分割部16に沿った方向へ連続したプレート46が縫製などによって固定されている。そして各支持部36の内側まで巻き込まれた表皮42は、その端部の縁に挿通させたワイヤ45を各支持部36と一体の係止爪38に留めることにより、一定の張力が与えられる。これと同時にプレート46が各支持部36に支えられて位置決めされるることで、立壁33が構成される。
【0017】
このようにボード30の下部においては、分割部16におけるボード30の表面と立壁33との間に溝状の受入空間35が連続して構成されている。この受入空間35に対しても、固定体10Aの分割部14におけるボード20の縁部22が進入可能であるとともに、その開放面が表皮42の一部で被われている。なお立壁33を構成しているプレート46をボード30とは別に成形することにより、ボード30の成形金型が、立壁32のような連続した壁があると型開きができない場合でも、連続した立壁32による受入空間34と同等の受入空間35を確保することができる。
【0018】
以上のように構成されたアクティブヘッドレストにおいて、可動体10Bが図1の仮想線で示すように前方へ移動した後、再び後方へ移動して実線で示す通常状態に戻ると、固定体10Aと可動体10Bとの相互の分割部14,16が突き合わされる。このとき、可動体10Bの分割部16側に設けられている受入空間34,35に対して固定体10Aの分割部14の縁部22が、受入空間34,35の開放面を被っている表皮42を押しつつ相対的に進入する。これにより、受入空間34,35の開放面を被っている表皮42は縁部22を案内するように機能しながら受入空間34,35の中に押し込まれる。したがって相互に突き合わされた後の分割部14,16が位置ずれを生じることなく、互いの相対的な位置が安定するとともに、分割部14,16の間に隙間が生じることも解消される。
【0019】
またボード30の受入空間34に進入したボード20の縁部22は、ヘッドレスト10に外力が加わった場合でも、ボード30と一体の立壁32で支持される。このため外力によって固定体10Aと可動体10Bとの分割部14,16に位置ずれが生じることも防止される。なお固定体10Aに対する可動体10Bの前後移動が繰り返され、可動体10Bの分割部16における表皮42に弛みなどが生じたとしても、相互の分割部14,16が突き合わされたときには表皮42が受入空間34に押し込まれて弛みが吸収される。この結果、少なくともヘッドレスト10が通常状態にあるときにはヘッドレスト10の見栄えが確保される。
【0020】
以上は本発明を実施するための最良の形態を図面に関連して説明したが、この実施の形態は本発明の趣旨から逸脱しない範囲で容易に変更または変形できるものである。
例えば可動体10Bの分割部16において、ボード30に構成されている二種類の受入空間34,35の領域は図面で示すものに限定されない。すなわちボード30の下部以外の箇所であっても連続した立壁32を成形できない場合は、支持部36とプレート46とによる受入空間35を構成することとなる。またヘッドレスト10を構成している固定体10Aと可動体10Bとは相対的な関係にあることから、例えば受入空間34,35を固定体10Aのボード20側に設け、そこに可動体10Bのボード30の縁部を進入させるようにすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】車両用シートのヘッドレストを表した側面図
【図2】ヘッドレストの縦断面図
【図3】ヘッドレストの可動体の一部を内側から見た斜視図
【図4】図2の上部を拡大して表した断面図
【図5】図2の下部を拡大して表した断面図
【符号の説明】
【0022】
10 ヘッドレスト
10A 固定体
10B 可動体
14,16 分割部
22 縁部
32,33 立壁
34,35 受入空間


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッドレストが背面側の固定体と前面側の可動体とに分割され、固定体に対して可動体が前後方向へ移動するように構成されたアクティブヘッドレストであって、
固定体および可動体における相互の分割部の一方が受入空間を備え、他方が受入空間に進入可能な縁部を備え、受入空間はその分割部の表面と、その内側において分割部に沿った方向へ連続して設けられた立壁との間に構成されているとともに、該受入空間の開放面は分割部の表面側から立壁にかけて張られた表皮によって被われ、可動体が最も後方へ移動してその分割部と固定体の分割部とが突き合わされるときに、一方の分割部の受入空間に対して他方の分割部の縁部が表皮を押しながら進入するように設定されているアクティブヘッドレスト。
【請求項2】
請求項1に記載されたアクティブヘッドレストであって、
ヘッドレストを構成する固定体および可動体は、個々の骨格をなすボードを備えているとともに、分割部の受入空間を構成するための立壁が、分割部に沿った方向へ連続してボードと一体に成形されているアクティブヘッドレスト。
【請求項3】
請求項1に記載されたアクティブヘッドレストであって、
ヘッドレストを構成する固定体および可動体は、個々の骨格をなすボードを備えているとともに、分割部の受入空間を構成するための立壁が、分割部に沿った方向へ間隔をもってボードと一体に成形された複数個の支持部と、受入空間の開放面を被う表皮の裏面側に固定されて各支持部で定位置に支持され、かつ、分割部に沿った方向へ連続したプレートとで構成されているアクティブヘッドレスト。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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