説明

アクリルアミド水溶液の精製方法

【課題】
粗アクリルアミド水溶液を陽イオン交換樹脂により精製するにおいて、高架橋度マクロポーラス型強酸性陽イオン交換樹脂、とりわけ遊離酸型のものをアクリルアミドの重合トラブル等を起こすことなく安定に使用し、良好な品質のアクリルアミド製品を効率よく製造する。
【解決手段】
粗アクリルアミド水溶液を精製するにあたり、イオン交換樹脂にアルカリ処理を含む前処理を施すとともに、樹脂塔洗浄前、塔内部に残存するアクリルアミド水溶液の排出を酸素含有水による置換水洗および/または酸素含有ガスによる押し出しで行う。これによりアクリルアミドの重合を防止し、高架橋度のマクロポーラス型強酸性陽イオン交換樹脂、とりわけ遊離酸型のものを重合等のトラブルなく安定に使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリロニトリルの接触水和によって得られる粗アクリルアミド水溶液(以下、粗AAMと略する)の精製方法に関する。さらに詳しくは、分子量が十分に高く水溶性も良好なポリマーの原料となりうる、高品位なアクリルアミドまたはアクリルアミド水溶液を効率的に製造するための、粗AAMの精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粗AAMは、通常、重金属イオンやアミン性物質などのカチオン性不純物を含有している。このため、粗AAMは陽イオン交換樹脂やキレート樹脂への通液により、また必要に応じてさらに陰イオン交換樹脂に通液することにより精製される。特公昭57−32048にはキレート樹脂への通液による粗AAMの精製により、重金属イオンを重合トラブルなく除去できる旨記載されているが、この方法ではアミン性物質など金属イオン以外の不純物の除去が困難であるため、製品として得られるアクリルアミドまたはアクリルアミド水溶液(以下、AAM製品と略する)を重合体とした場合の水溶性や分子量などで評価される品質(以下、重合品質と略する)は良好とは言いがたい。
【0003】
また特公昭56−39303、特開昭52−93712、および特開平4−270253には、粗AAM精製用の強酸性陽イオン交換樹脂はアルカリ塩型での使用が望ましいことが記載されている。しかしながら、この他に特公昭55−35376や特開昭50−83323の記載によれば、アミン性物質など金属塩以外のカチオン性物質を十分に吸着除去でき、しかも金属塩の吸着効率も高く、イオン交換樹脂量を少なくすることができるという点で遊離酸型での使用のほうが優れており、AAM製品の重合品質も遊離酸型の樹脂で処理したもののほうが良好である。ところが、遊離酸型で使用する場合には処理液のpHの低下等により、アルカリ塩型での使用に比べて格段にアクリルアミド(以下、AAMと記す)の重合トラブルが起こりやすい。したがって、前者の出願でアルカリ塩型が望ましいとしている記述は主に精製時の重合トラブル防止の観点からなされたものと考えられる。
【0004】
また、強酸性陽イオン交換樹脂を用いる粗AAMの精製においては、一般にゲル型樹脂を使用するほうがAAM重合のトラブルが発生しにくい。しかしながら、「ダイヤイオン」第7版(平成6年、三菱化成社刊)などに記載されている如く、ゲル型樹脂は使用時の破砕劣化が起こりやすく長期間の使用が困難であるという問題があり、マクロポーラス型(以下、MP型と記す)樹脂のほうが有利である。
【0005】
前述の特公昭55−35376では、強酸性陽イオン交換樹脂として、架橋度1ないし4%の低架橋度のMP型樹脂の使用が、樹脂の破砕劣化が少ない点で望ましいとされている。しかしながら、本発明者らの実験によれば、実施例2および比較例3に示す如く、MP型樹脂による粗AAMの精製において架橋度が大きい樹脂を用いるほうが破砕劣化が起こりにくかった。一方、遊離酸型で使用する場合には架橋度が大きい樹脂のほうがAAMの重合を生起しやすいという結果が得られた。これらの結果から、MP型強酸性陽イオン交換樹脂を用いる粗AAMの精製で低架橋度の樹脂を使用することは、イオン交換樹脂の破砕を減少させ長期間使用するというよりも、むしろ重合トラブルを抑制するという点で効果があると考えるべきである。したがって、他の方法で重合トラブルを抑制できる場合には、高架橋度のイオン交換樹脂を用いるほうが長期間使用できるという点で有利である。
【0006】
特開平4−312562には、陽イオン交換樹脂による粗AAMの精製に際して、精製
処理前の粗AAMに空気と酸素ガスとの混合ガスを導入することなどで樹脂塔出口液の溶存酸素濃度を2ppm以上に保持することにより、粗AAMの精製処理中のAAMの重合トラブルを抑制できることが記載されている。この方法においても、陽イオン交換樹脂をアルカリ塩型で用いる場合にはAAMの重合をある程度まで抑制することができるが、遊離酸型で用いる場合、とりわけMP型陽イオン交換樹脂を遊離酸型で用いる場合には重合防止効果が不十分である。また、粗AAM通液終了後に塔内に残存するAAM水溶液を排出する際の重合トラブルに対しても十分な対策とはなり得ない。さらに、粗AAMに酸素濃度の高いガスを導入することは、過酸化物の生成等によりAAM製品の重合品質に影響を与える可能性がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、従来困難であった高架橋度MP型強酸性陽イオン交換樹脂、とりわけ遊離酸型のものの安定な使用を可能とし、粗AAMの効果的な精製を可能とすることで不純物が少なく重合品質が良好なAAM製品を効率よく製造することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
高架橋度MP型強酸性陽イオン交換樹脂、とりわけ遊離酸型のものの粗AAM精製における安定な使用を可能とし、重合品質が良好なAAM製品を効率よく製造するため、本発明者らは、該イオン交換樹脂使用の際のAAM重合トラブルの防止方法について鋭意検討を重ねた結果、重合トラブルの発生頻度を大幅に低減する方法を見いだした。
【0009】
粗AAM精製のための陽イオン交換樹脂塔におけるAAM重合トラブルは、粗AAM通液中のものと粗AAM通液終了後、置換水洗などにより塔内のAAM水溶液を排出する際のものとに大別される。粗AAM通液中の重合トラブルについては、溶存酸素濃度の低下、微小な吸着熱の蓄積、液の偏流など様々な原因が考えられるが、意外にもイオン交換樹脂から溶出する不純物が重合の主原因となっていることが判明した。また、置換水洗時のAAM重合トラブルについて検討したところ、驚くべきことに置換水洗時、塔出口液のAAM濃度低下と前後して同液の溶存酸素濃度が急激に低下し、これがイオン交換樹脂からの溶出不純物とともに重合発生の主原因となることが判明した。
【0010】
これらの結果をもとに、本発明者らは架橋度8%以上のMP型強酸性陽イオン交換樹脂にアルカリ通液及び酸通液による交互処理を施しイオン交換樹脂由来の溶出不純物の量を低減し、また粗AAM精製処理後の樹脂塔からのAAM水溶液の排出を酸素含有水による置換水洗または酸素含有ガスによる押し出しにより行い、AAM水溶液排出時の塔内液の溶存酸素濃度を十分な値に保つことによって、AAM製品の重合品質に全く影響を与えることなく重合トラブルを防止できることを見いだし本発明を完成した。
【0011】
すなわち本発明のアクリルアミド水溶液の精製方法は、アクリロニトリルの接触水和により得られる粗アクリルアミド水溶液を陽イオン交換樹脂を用いて精製するにあたり、架橋度8%以上のマクロポーラス型強酸性陽イオン交換樹脂を、アルカリ及び酸の交互通液による前処理を施した後に使用するとともに、精製終了後、イオン交換樹脂塔内部に残留したアクリルアミド水溶液を酸素含有水による置換水洗および/または酸素含有ガスによる押し出しにより排出することを特徴とするものである。
【0012】
すなわち本発明は以下のとおりである。
〔1〕アクリロニトリルの接触水和により得られる粗アクリルアミド水溶液を陽イオン交換樹脂を用いて精製するにあたり、架橋度8%以上のマクロポーラス型強酸性陽イオン交換樹脂を、アルカリ及び酸の交互通液による前処理を施した後に使用するとともに、精製終了後、イオン交換樹脂塔内部に残留したアクリルアミド水溶液を酸素含有水による置換
水洗および/または酸素含有ガスによる押し出しにより排出することを特徴とする、アクリルアミド水溶液の精製方法。
〔2〕アルカリ通液における処理温度が40℃〜130℃である〔1〕記載のアクリルアミド水溶液の精製方法。
〔3〕架橋度8%以上のマクロポーラス型強酸性陽イオン交換樹脂を遊離酸型として使用する〔1〕のアクリルアミド水溶液の精製方法。
〔4〕酸素含有水の溶存酸素濃度が10重量ppm以上である〔1〕のアクリルアミド水溶液の精製方法。
〔5〕酸素含有ガス中の酸素濃度が10容量%以上である、〔1〕記載のアクリルアミド水溶液の精製方法。
【0013】
〔6〕アクリロニトリルの接触水和により得られる粗アクリルアミド水溶液を陽イオン交換樹脂を用いて精製するにあたり、架橋度8%以上のマクロポーラス型強酸性陽イオン交換樹脂を、アルカリ及び酸の交互通液を反復する前処理を施した後に使用するとともに、精製終了後、イオン交換樹脂塔内部に残留したアクリルアミド水溶液を酸素含有水による置換水洗および/または酸素含有ガスによる押し出しにより排出することを特徴とする、アクリルアミド水溶液の精製方法。
〔7〕アクリロニトリルの接触水和により得られる粗アクリルアミド水溶液を陽イオン交換樹脂を用いて精製するにあたり、架橋度8%以上のマクロポーラス型強酸性陽イオン交換樹脂を、アルカリ及び酸の交互通液による前処理を2〜5回施した後に使用するとともに、精製終了後、イオン交換樹脂塔内部に残留したアクリルアミド水溶液を酸素含有水による置換水洗および/または酸素含有ガスによる押し出しにより排出することを特徴とする、アクリルアミド水溶液の精製方法。
〔8〕アルカリ通液における処理温度が40℃〜130℃である〔6〕又は〔7〕に記載のアクリルアミド水溶液の精製方法。
〔9〕架橋度8%以上のマクロポーラス型強酸性陽イオン交換樹脂を遊離酸型として使用する〔6〕又は〔7〕記載のアクリルアミド水溶液の精製方法。
〔10〕酸素含有水の溶存酸素濃度が10重量ppm以上である〔6〕又は〔7〕記載のアクリルアミド水溶液の精製方法。
〔11〕酸素含有ガス中の酸素濃度が10容量%以上である、〔6〕又は〔7〕記載のアクリルアミド水溶液の精製方法。
【発明の効果】
【0014】
粗AAM中のカチオン性不純物を、重合などのトラブルなく効率的かつ効果的に除去することができ、分子量が十分大きく水溶性が良好な高分子凝集剤の製造原料として有用なアクリルアミドが効率よく製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明における粗AAMは、銅系の触媒を用いるアクリロニトリルの接触水和により得られる反応液に濃縮操作を施すことにより、未反応のアクリロニトリルを除去するとともにAAM濃度を希望する値としたもので、通常、AAM濃度は10〜55重量%、銅イオン濃度は10〜100重量ppmである。
【0016】
本発明において使用する強酸性陽イオン交換樹脂はスチレンとジビニルベンゼンとの共重合体にスルホン基を付加したものである。このようなイオン交換樹脂には、透明でゲル構造を有するゲル型樹脂と多孔性のMP型樹脂とがあるが、ゲル型樹脂はMP型樹脂に比べて破砕劣化が著しく、長期間使用するには不適当である。MP型イオン交換樹脂の架橋度は原料モノマーの全量に対するジビニルベンゼンモノマー量の重量比によって定義されるが、イオン交換樹脂を長期間安定に使用するためには、耐酸化性および耐破砕性などの点で優れた、架橋度8%以上の高架橋度品の使用が必要である。
【0017】
このような高架橋度MP型強酸性イオン交換樹脂は市販品として入手可能であり、たとえばレバチットSP112やレバチットSP120(共にバイエル社製)、アンバーライト200C(東京有機化学社製)、ダイヤイオンPK−228(三菱化学社製)等がある。なお、強酸性陽イオン交換樹脂はその末端スルホン基の状態により遊離酸型とナトリウム塩型(以下、Na型と記す)等のアルカリ塩型とに分類できるが、市販品は通常Na型で供給されるので、これを遊離酸酸型で使用するためには事前に塩酸等の酸で処理し酸型に変換する必要がある。
【0018】
本発明のイオン交換樹脂の前処理は、イオン交換樹脂を充填した樹脂塔にアルカリ水溶液の通液と塩酸や硫酸などの酸の通液とを交互に繰り返し行う。ここで、アルカリ水溶液および酸は通常、規定濃度で0.5〜10、好ましくは1〜3のものを、空塔速度毎時1〜10で下降流で通液する。通液量は通常、樹脂交換容量の1.5〜10倍当量で、2〜4倍当量がより好ましい。アルカリ水溶液の通液は加温下で行うほうが効果的であり、通液温度は樹脂中不純物の除去効果と樹脂の耐熱性との両面から40℃以上130℃以下が好ましく、50℃以上100℃以下がさらに好ましい。酸の通液温度は常温でよい。酸とアルカリの交互通液の反復回数はコストが許容する範囲で多いほどよいが、通常は2〜5回程度である。酸およびアルカリ水溶液を通液した後は、酸およびアルカリ通液の1〜5倍程度の流速で塔出口液のpHが5.5〜8になるまで十分に水洗を行う。
【0019】
これらのイオン交換樹脂の前処理は樹脂塔の代わりに樹脂槽を用いてバッチ方式にて行うこともできるが、一般には樹脂塔による通液で行うほうが効率がよい。本発明における重合防止方法は強酸性陽イオン交換樹脂を遊離酸型、アルカリ塩型のいずれで用いる場合にも効果があるが、遊離酸型で使用するほうがアミン性物質を十分に除去し、かつ処理効率を上げることが出来る。
【0020】
本発明において、イオン交換樹脂による粗AAMの精製は樹脂槽を用いて行うこともできるが、一般的には、イオン交換樹脂を充填した樹脂塔に粗AAMを下降流で通液することにより行われる。粗AAMの通液速度には特に制限はないが処理効率と不純物の十分な除去とを両立させるためには空塔速度は毎時0.5〜10が望ましい。
【0021】
本発明の精製終了後のイオン交換樹脂塔からのAAM水溶液の排出とは、粗AAMの通液により樹脂の交換容量または運転操作上の必要から樹脂塔の切り替えが必要となった際に、塔内に残存しているAAM水溶液を排出するために行なうものである。イオン交換樹脂塔からのAAM水溶液の排出は、通常、置換水洗、すなわち水を粗AAM通液の1〜4倍程度の空塔速度で下降流にて通液することにより行われる。また置換水洗のほかに、ガスを樹脂塔上部から導入して加圧により、あるいは自然流下によりAAM水溶液を排出する。
【0022】
本発明においては、置換水洗によるイオン交換樹脂塔からのAAM水溶液の排出に使用する酸素含有水の溶存酸素濃度は10重量ppm以上とするのがよく、10ppmより酸素濃度が低すぎると重合トラブルが発生し易い。また、ガスによる押し出しによりイオン交換樹脂塔からAAM水溶液を排出する際に使用する酸素含有ガスは、酸素濃度が10容量%以上のものがよく、ガスの導入量は樹脂塔出口液の流量が目標値通りになるように調節すればよい。
【実施例】
【0023】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、AAMおよびアミン性物質の分析は液体クロマトグラフィーにより、ポリアクリルアミドの分析はゲル浸透クロマトグラフィーにより行った。また、AAM水溶液中の銅の定量は、過剰のEDTAによるキレート化
物を四塩化炭素により抽出した後、これを原子吸光法により分析することで行った。さらに、AAM水溶液および水中の溶存酸素濃度の測定においては、市販のガルバニ電池式溶存酸素計を脱気水および空気飽和水で衡正して用いた。
【0024】
実施例1
以下の処理条件で、強酸性陽イオン交換樹脂による粗AAMの精製テストを行った。
[粗AAM]ラネー銅を触媒として接触水和法により製造したAAM濃度約49重量%、銅含有量約60重量ppmの粗AAM水溶液を用いた。
[イオン交換樹脂]東京有機化学社製のMP型強酸性陽イオン交換樹脂、アンバーライト200CT(架橋度20%)を用いた。
[樹脂塔]内径52mm、高さ750mm(内容積約1600ml)のポリ塩化ビニル製の樹脂塔に、湿潤状態で800ml(充填層高約380mm)のイオン交換樹脂を充填した。
[樹脂の前処理]Na型のアンバーライト200CTに対し、塩酸およびNaOH水溶液の通薬を交互にそれぞれ2回ずつ施した後、さらに塩酸の通薬により遊離酸型とした。ここで、塩酸ないしNaOH水溶液は規定濃度2.0のものを用いた。通薬は下降流、流量は毎時2400mlで、一回あたり60分間行った。各通薬の間には塔出口液のpHが5.5〜8の範囲内となるまで十分な水洗を行った。なお、通薬温度は塩酸が常温、NaOH水溶液が70℃である。
[精製]樹脂塔に粗AAMを下降流で流量毎時2400ml(空塔速度毎時3.0)にて48時間通液し精製を行った後、溶存酸素濃度約80ppmの蒸留水を用いて、温度17℃、流量毎時2400mlの下降流で約120分間置換水洗を行なった。樹脂塔出口液の溶存酸素濃度は1.4〜2.0ppmでほぼ一定に保たれた。塔内AAMの低下を確認して水洗を終了したのち、樹脂塔を解体して塔内樹脂の目視点検を行った。同様のテストを10系列の樹脂塔で並行して行ったが、粗AAM通液中の重合は1例も見られなく、置換水洗中の樹脂塔出口液のポリアクリルアミド濃度は10ppm程度で安定しており、塔内樹脂の目視点検においてもポリマーは全く認められなかった。尚、置換水洗水は水1m3 当たり標準状態換算で56リットルの酸素ガスを17℃で導入した蒸留水(水圧3.2気圧)を用いた。
【0025】
比較例1
塩酸およびNaOH水溶液の交互通液による前処理を行わずに、単に塩酸通液によりNa型から遊離酸型に変換したアンバーライト200CTを用いた以外は実施例1と同様にして、粗AAMの精製を10系列の樹脂塔による並行テストを行った。結果は10系列の樹脂塔のすべてにおいて粗AAM通液中に重合物が生成した。
【0026】
比較例2
置換水洗用に酸素ガス導入を行わない蒸留水(溶存酸素5〜6ppm)を使用して置換水洗を実施した以外は実施例1と同様にして粗AAMの精製を行った。テストは5系列の樹脂塔による並行テストを行ったが、このいずれにおいても置換水洗開始の約35分後、樹脂塔内のAAM濃度が低下する直前に樹脂塔出口液の溶存酸素濃度が急激に0となり、溶存酸素濃度の低下と同じタイミングで樹脂塔出口液のポリアクリルアミド濃度が80〜300ppmまで増大した。また、五系列の並行テスト中2系列では、これと同じタイミングで樹脂塔下部でのゲル状重合物の生成により塔の差圧が上昇し、通液継続が不可能となった。
【0027】
実施例2
実施例1と同様の前処理を施したアンバーライト200CT(架橋度20%)およびダイヤイオンPK−216(架橋度8%)を用いて、それぞれについて粗AAM精製、置換水洗、イオン交換樹脂再生の反復テストを実施し、樹脂の破砕による樹脂塔差圧の上昇を調
べた。
[粗AAMの精製]イオン交換樹脂塔、粗AAM、通液条件とも、実施例1と同様に行った。
[置換水洗]粗AAMの精製終了後、実施例1と同様の条件で8時間以上置換水洗を実施し、樹脂塔出口液のAAM濃度が0.01重量%以下であることを確認して終了とした。[再生]規定濃度2.0の塩酸を用いて実施例1における塩酸通液と同じ条件で再生を行い、その後、樹脂塔出口液のpHが5.5以上となるまで水洗した。
[結果]精製、置換水洗、再生を反復して5回行い、粗AAM精製前と5回目の置換水洗が終了した後との樹脂塔の差圧を比較した結果、差圧上昇はアンバーライト200CTで約5kPa、ダイヤイオンPK−216で約7kPaであった。なお、実験終了後、樹脂塔を解体して塔内部を点検したが、重合物生成などの異常は見られなく、差圧上昇は破砕等の樹脂形態変化による影響と考えられるが軽微である。
【0028】
比較例3
実施例1と同様の前処理を施したダイヤイオンPK−208(架橋度4%、三菱化学社製)を用いて、実施例2と同様のテストを行ったところ、差圧上昇は約17kPaあった。なお、実験終了後、樹脂塔を解体点検したが、重合物生成やその他の異常は無く、差圧上昇は樹脂の破砕による影響と考えられる。
【0029】
実施例3
実施例1と同様の前処理を施し遊離酸型に変換したイオン交換樹脂アンバーライト200CTを用いて、実施例1と同様の条件で粗AAM精製開始の12時間後の樹脂塔出口液(AAM製品)を約200mL採取して不純物の分析を行い、表1の結果が得られた。AAM中の不純物は極めて少なかった。
【0030】
実施例4
Na型のアンバーライト200CTに塩酸およびNaOH水溶液を交互にそれぞれ2回通薬前処理し、Na型で用いた以外は実施例3と同様にして、粗AAM精製開始の12時間後の樹脂塔出口液(AAM製品)を約200mL採取し、不純物の分析を行った。結果は表1に示す。AAM製品中の不純物は実施例3に比しては多いが、しかし許容レベルであった。
【0031】
実施例5
実施例1と同条件で粗AAMの精製を樹脂塔5系列の並行テストで行い、精製終了後、塔内に残存するAAM水溶液の排出を空気(酸素濃度約21容量%)による加圧、押し出しで行うとともに、樹脂塔出口液の溶存酸素濃度を測定した。ここで、樹脂塔への空気の導入量は、塔出口液の流量が毎時2400mLとなるように調整した。塔内液排出中、出口液の溶存酸素濃度は1.7〜3.0ppmで安定しており、重合トラブルは5系列の樹脂塔の何れにおいても全く発生しなかった。
【0032】
【表1】

【0033】
粗AAM中のカチオン性不純物を、重合などのトラブルなく効率的かつ効果的に除去することができ、分子量が十分大きく水溶性が良好な高分子凝集剤の製造原料として有用なアクリルアミドが効率よく製造できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリロニトリルの接触水和により得られる粗アクリルアミド水溶液を陽イオン交換樹脂を用いて精製するにあたり、架橋度8%以上のマクロポーラス型強酸性陽イオン交換樹脂を、アルカリ及び酸の交互通液を反復する前処理を施した後に使用するとともに、精製終了後、イオン交換樹脂塔内部に残留したアクリルアミド水溶液を酸素含有水による置換水洗および/または酸素含有ガスによる押し出しにより排出することを特徴とする、アクリルアミド水溶液の精製方法。
【請求項2】
アクリロニトリルの接触水和により得られる粗アクリルアミド水溶液を陽イオン交換樹脂を用いて精製するにあたり、架橋度8%以上のマクロポーラス型強酸性陽イオン交換樹脂を、アルカリ及び酸の交互通液による前処理を2〜5回施した後に使用するとともに、精製終了後、イオン交換樹脂塔内部に残留したアクリルアミド水溶液を酸素含有水による置換水洗および/または酸素含有ガスによる押し出しにより排出することを特徴とする、アクリルアミド水溶液の精製方法。
【請求項3】
アルカリ通液における処理温度が40℃〜130℃である請求項1又は請求項2に記載のアクリルアミド水溶液の精製方法。
【請求項4】
架橋度8%以上のマクロポーラス型強酸性陽イオン交換樹脂を遊離酸型として使用する請求項1又は請求項2に記載のアクリルアミド水溶液の精製方法。
【請求項5】
酸素含有水の溶存酸素濃度が10重量ppm以上である請求項1又は請求項2記載のアクリルアミド水溶液の精製方法。
【請求項6】
酸素含有ガス中の酸素濃度が10容量%以上である、請求項1又は請求項2に記載のアクリルアミド水溶液の精製方法。

【公開番号】特開2007−99783(P2007−99783A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−11994(P2007−11994)
【出願日】平成19年1月22日(2007.1.22)
【分割の表示】特願平8−269814の分割
【原出願日】平成8年10月11日(1996.10.11)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】